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1793「忘れられない想い」1おーはし 6/5-09:55


久しぶりにお邪魔させていただきます、数えて三つ目のお話です。
今回はガウリイさんとリナちゃんを、と思って書きました。
ので、いちおう二人が主役です。残りの二人もちゃんと一緒ですが。
初めて書いたお話「あなたとともに」のガウリイ&リナ版
そんな感じの内容です。
時期的には「NEXT」終了後になります。
なんだかんだと書いていたら前のものよりさらに長くなりました。
あっちこっち不安はあるのですけど
どうぞ読んでやってください。

==============================

「うっわーなんっつーか…」
その街に着いた時の、これがリナの最初の台詞。
「はぁぁぁすごいですねぇぇ…」
まわり中カップルだらけ。
ここはとある観光都市、温暖な気候、風光明媚で花のあふれる環境、
それを売りにした、特に恋人達に人気の街だった。
「…って確かにガイドにありましたけど」
それにしても凄い
四人は街の真ん中を通る、所謂メインストリートで
目の前の異常な光景に立ち尽くしていた。
何しろ道行く人の殆どが肩組み腕組みでひっついているのだ。
「なぁリナ」
「なによ」
ガウリイが隣に立つリナに怪訝そうに聞いた。
「この街の奴って、みんなどっか身体悪いのかな?」
「へ?」
「だってよ、みーんな肩貸してもらったり、手引いてもらったりしてさぁ
 一人でちゃんと歩いてるやつがいないじゃないか。ほら寄っかかってるのもいるぞ」
「っちっがああう!あれは一人で歩けないんじゃないのっ!
 カップルよカップル!らぶらぶの!
 肩貸してるんじゃなくて肩組んでる、手引いてるんじゃなくて手繋いでんの!!
 わかった?!!」
「おお、そっかぁぁ!」
髪を逆立て怒鳴るリナに
心底安心したような顔でガウリイが言う。
…ああ、この男は…リナはしみじみと疲れを感じた。
「んでも四人で歩くだけで目立つってのもねー」
「あまり目立ちたくはないんだが…」
いつものゼルガディスの台詞にリナが言う。
「ほー、そんじゃあたしたちも二人ずつカップルになる?んで腕組み、肩組み」
「う・それはちょっと…」
ハズい、素面では。
「でしょ、気にしなさんなよ。結局のとこカップルってのはお互いしか見てないんだし」
「ああ…」
リナ達は特にこの街に用があったわけではない。
通り道だし、観光がてら寄ってみようくらいの気分でやってきたのだ。
観光客相手の店が連なる道を歩きながら、あちらこちらと視線を泳がせる。
「あ、あれなんでしょうね」
アメリアが一際華やかに人寄せをしている場所に眼を止めた。
ほてほてと寄っていく。
人が二人はいれるくらいの箱に暖簾のようなものが下がっている。
どうやらその暖簾のなかに入って何かするものらしいが…
「ゼルガディスさーん。ちょっとちょっと」
暖簾から顔だけ出したアメリアが笑顔で手招きしている。
「まったくあいつは」
ぶつぶつ言いながらも呼ばれるままに近づくゼルガディス。
「なんなんだいったい」
アメリアに引っ張られて暖簾の中に入る。
中には奇妙な鏡が一枚。
「いいですか?はい!」
ぴか
「おわ!」
いきなり光る鏡。
そして下のほうからみょーっと紙のようなものが出てきた。
「きゃあ・かわいいですぅ」
それは、かあいい枠に縁取られた、アメリアとゼルガディスの顔が
ちみちみと印刷されたシールだった。
「…プ・プ○クラ………」
壁にすがりながらズルズルとへたり込むゼルガディス。
「うひゃ面白そ、ねねガウリイ、あたし達もやろっか?」
「そだな。おし、んじゃいくぞ」
ぴか
「うひゃひゃひゃ!へんなかおー」
「あはは、ほんとですね」
「ひでぇなあ」
めいっぱい楽しんでいる三人。
「状況に馴染むな!っつーかそもそも何故この世界にプ○クラがっ?!」
すかさずゼルガディスがつっこむ、が、
「何故っていっても、ね?アメリア」
「そですよ。観光そしてカップルとくればこれはつきものです!」
「なるほどぉ」
こいつらには疑問というものは無いのか…
ガックリと膝をつく。
「ねーねー今度は四人みんなでやんない?」
「あ、それいいですね!」
「ほら、ゼル」
「い?いぃやぁだぁぁぁぁ!!!」
死に物狂いで叫ぶゼルガディスをガウリイが羽交い締めにする。
「いくわよー」
ぴか
「あはははは!さいこー!!」
「いやぁんすごいですこれ!」
―哀れ。
すっかり皆のおもちゃにされたゼルガディスは
しくしくと悲しみの涙に頬を濡らすのだった。

「ほらぁゼルもう泣かないで」
「そうですよゼルガディスさん、元気出してください」
悲しげな顔でよろよろと歩くゼルガディスをリナとアメリアが慰めている。
「誰のせいだと思ってるんだ、おまえら…」
「さ・さぁて!散々遊んで日も暮れてきたし、今日の宿を探さなきゃね!」
もっともらしい意見でゼルガディスの呟きを無視すると
リナは先頭切って歩き出す。
うーん、宿かぁ、考えながらリナが言う。
「やっぱ観光なんだし、泊まるのも街の中心に近いとこよね。うん。」
「空いてるのか部屋?」
ガウリイが聞く。
観光地の宿、しかも街の真ん中ともなれば泊り客も多かろう。
「ま、いってみましょ」
軽く応えると、華やかな広場に面した場所で何軒か当たってみた。
ありがたいことに空き部屋はあった、いくつか。
だが
「なによこれ、ダブルかスイートしかないじゃない!」
「はい。こちらに観光においでのお客様の大半はそれをご希望なさいますので」
「ここまで徹底してると一種の信念を感じるな」
ゼルガディスが妙な感心をしている。
「むー、んじゃあたしとアメリア、ゼルとガウリイってことで、良い?」
「おいリナ、こういう場所でそんなこと言うと…」
「お客様…申し上げにくいのですが、一般的でない趣向をお持ちで?」
「い?」
「…○モかレ○と思われるぞ…」
ぞわわわわわ…やだ…想像しちゃったよう…
全身を駆けあがる寒気に身震いするリナ。
「なー、別に俺はかまわんぞリナといっしょで」
「私もかまいませんよ、ゼルガディスさん」
解ってるのか解ってないのか、
…多分解ってないんだろう。
のんきに大胆な意見を表明するガウリイとアメリア。
『こっちがかまうのよ(かまうんだ)!』
それを聞いて同時に叫ぶ、この件に関しては常識派のリナとゼルガディス。
「なんだよ、昼寝する時いっつも人を枕か布団の変わりにしてるくせに」
「昼寝と夜寝は違うのよ!!」
真っ赤になってリナが叫ぶ。
「私リナさんみたいに寝相悪くないですから」
「そういう問題じゃない!!」
真紫の顔でゼルガディスが怒鳴る。
二人の剣幕に困惑顔を見あわせるガウリイとアメリア。
「じゃあ、俺と…」
「私で部屋を…」
『それだけは絶ぇぇ対!駄目(だ)っっっ!!!!』
こ・怖い。マジに。
さしものほえほえコンビも魔王なみの迫力の前に硬直状態。
―で結局、中心地からは離れたが
普通の宿で普通の部屋をとり普通の組み合わせでそこに泊まったのであった。
「あたりまえよっ!」
やれやれ。

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1794「忘れられない想い」2おーはし 6/5-09:56
記事番号1793へのコメント

翌日―。
一応ここにもあった魔導士協会に顔を出しておこうと、
リナとゼルガディスは一緒に出かけることにした。
残ったガウリイとアメリアは、一足先に街で観光。
「昨日の広場のあたりにいるからな」
「早く来てくださいね」
年の離れた兄妹という雰囲気の二人は仲良く、そしてほえほえと歩いて行った。
「あいつら二人で大丈夫なのか…」
「盗賊のアジトに潜入ってわけじゃないんだからだいじょぶでしょ、多分…」
その後姿を心配げに見送る二人。
「ま、こっちもとっとと行ってさっさと終わらせて、んでぱーっと楽しみましょ」
「昨日のようなのはご免だぞ」
「やーねーゼルちゃんたらまだネに持ってんの、うふ。」
「やめろ気持ちの悪い」
傍から見ると結構お似合いに見えるこちらの二人も歩き出す。
「それにしても何とかならんのか、あの二人は」
昨日のことを思い出しながらゼルガディスが言う。
「それは同感。も、ちょっと男女の意識ってもんを持って欲しいわよね
 まったく、お陰でこっちが苦労するわ」
「そうだな。……まぁでもそこが可愛いといえば可愛いんだが…」
ぼそっと漏らした言葉にリナが飛びつく。
「おおっ!珍しいっ!ゼルがそんなお惚気を言うなんて!
 いやぁ旦那ぞっこんですねぇへっへっへっ」
「やめんか!その怪しげなおっさんみたいな物言いわ」
リナにつっこまれ赤面しながらも反撃するゼルガディス。
「お前らだって日頃からひっつきもっつき状態のくせに!
 二人っきりで旅した時間だってかなりなもんだろう。
 今更ダブルだろうがスイートだろうが騒ぐほどのものでもないんじゃないか実は」
「なっ、何いってんのよっ!なななんにも無いからねっ!まだ」
「まだ?」
真っ赤な顔でうろたえるリナにしてやったりとつっこみ返すゼルガディス。
「うっさいわね!それに、これから先いつまで一緒にいられるかも…
 わかんないんだから…ね…」
一気にまくし立てていたリナがふとになにかに躓いたかのように萎んでいく。
「?どうした」
「な・なんでもないわよっ、さっ早く行きましょ」
何かを払うように頭を一振りするとさっさと歩き出すリナ。
「…」
何だ一体。
引っかかるものを感じながらも、ゼルガディスはその後に続いた。

「リナさんとゼルガディスさん早く来ないかなぁ」
「そだなぁ」
一方こちらは二人を待ちながら広場の露店をひやかすガウリイとアメリア。
珍しいおみやげ物や食べ物、色とりどりの装飾品、
華やかな品々を前にしながらも相方がいないと楽しさも今一つ。
ついついぼやきが出てしまう。
「ほらガウリイさんこのお面へんな顔」
なんとなくそこらへんのお面なんか被ったりして。
「アメリア…そのお面…、すごく怖いぞ…」
溶け崩れたゾンビマスク…なんでこんなもんが…
「誰かぁっ止めてくれぇぇぇっ!!」
いきなり広場に叫び声が響いた、そして走りこんでくる馬車
なにかに驚いたのか、それを引いている馬が暴走したらしい。
乗っている御者が必死に止めようとあがいている。
「アメリア下がってろ!」
言うとガウリイは馬車に向かって駆け出す。そして走りながら剣を抜くと
「はあっ!!」
気合一閃、馬と馬車を繋ぐ留め具を断ち切った。
馬は走り去り、馬車は勢いがついたまま壁にぶつかって止まった。
「大丈夫か!」
馬車に走り寄るガウリイ、乗っていた御者は無事らしい。
御者が降りると、限界だったのか車軸が折れ馬車が傾いだ。
すると中の積荷から壷がこぼれガウリイの頭を直撃。
「だあっ!」
石頭に当たって割れた壷から粉が降る。
めいっぱいそれを吸い込みガウリイは盛大に咳き込んだ。
「げほっ!げほげほ、えほっ、うぇぇ」
「ああっすみません!有難う御座いましたっ助かりましたっ」
馬車を降りた御者が駆け寄ってお礼を言う。
「いや、けほっ、無事なら良かった」
「ガウリイさんっ!大丈夫ですかっ!」
「どひぃぃぃぃ!!!」
駆け寄って来たアメリアを、振り返りざま見た御者が絶叫する
アメリアはさっきの溶け崩れたゾンビマスクを被ったままだった。

「ああっリナさぁん、ゼルガディスさぁん、ここですっ!」
先刻の騒ぎも収まった広場。
やってきた二人を目ざとく見つけたアメリアが
大きく手を振りながら呼びかけた。
「なんだアメリアその手にもってる異様な物体は…」
アメリアの持つゾンビマスクを見て言うゼルガディス。
「これは別にいいんですっ。それより大変だったんですよっ!もう」
あんまりよくは無いと思うが…とりあえず先程の話を聞く二人
「そりゃまた大変だったわね、で、礼金は?」
…さすがリナさん…
「なぁによ、もらいそこねたの?ちっ。しっかりしなさいよね
 ガウリイ!」
言ってガウリイの方を見るリナ。
だが言われたガウリイは呆けたような顔でリナを見るばかり。
「どしたのよ、こら、おーい?」
「あのさ」
「え?」
「だれだっけ?」
「は?」
予想外の言葉に動きが止まる。
「どっかであったけか?あ、もしかして…ゼル、お前の知り合いか?
 それともアメリア?」
ガウリイの頭からはリナのことがすっかり消えていた。

そのまま観光、なんてことできるはずもなく
四人は泊まっている宿に引き返した。
ゼルガディスのことは覚えている、アメリアもわかる
もともとお粗末以下の頭ではあったがここ2・3日のことも大きな事件も
一応だが覚えていた、なのに…
リナの部分だけが抜け落ちている。
「きっとあれです!あの粉ですよっ」
アメリアが勢い込んで言った。
あのとき被った粉に、記憶に関する何かしらの効果があったらしい。
「だろうな。とにかくその馬車の持ち主を探して粉の正体を確かめんことには…」
いってガウリイの方を見る、が、
「…この馬鹿に残った乏しい記憶すら無くなるかもしれん。」
溜め息と共に台詞を吐く。
―こいつ、もう寝てやがる
「リナさん、大丈夫ですよ。すぐにもとのガウリイさんに戻ります!」
ずっと黙って何かを考えているようなリナに、アメリアが元気よく言う
「…うん」
心ここに在らず、そんな返事。
「さ、善は急げさっそく探しに…」
こんこん
控えめに扉が叩かれた。
「すみません、宜しいでしょうか」
開けた扉の前にいたのは教会の神官らしき人物だった。

「あれは私どもの教会の荷物で【忘れ粉】と呼ばれています」
いてもしょうがないガウリイと、何故か自分の部屋に戻ったリナを除いた
二人が神官の話を聞く事にした。
「そのまんまですね」
つっこむアメリア。
「忘れるといっても一部だけのようだが…」
それを無視してゼルガディスが聞く。
「はい。あれは特定の人物を忘れる為の粉なのです。」
「特定って」
「その人にとって一番大事な人、一番好きな人、
 ―平たく言えば【恋人】です。」
なるほどゼルガディスとアメリアは思う。だが、
「なんでそんなものがこの街の教会に入用なんですか?
 見たところ、ここでは一番用の無いものに思えるんですけど」
アメリアが疑問を口にする。
「用無し、そうですね。確かにここは幸せな恋人達の集まる街です。
 ですがその影で行き場の無い想いを抱えた人達も確かに存在するのですよ」
少し悲しげな微笑を浮かべ神官は言った。
「いくら想っても相手に通じない恋がある。また、
 本人達は想いあっていても、状況が許さない、環境が許さない
 そういう恋もあります。そしてそんな想いを忘れる為、この粉があるのです。」
状況が許さない、環境が許さない
その言葉に微かに痛みを感じる。
「で、解毒薬か解除の呪文はないのか」
感じた痛みを振り払うようにゼルガディスが聞く
「あります。ただ届くのが明日か明後日くらいの予定でしたので…
 申し訳ありませんがしばらくこの街で待っていて頂けないでしょうか」
仕方が無い、待つしかないだろう。
着き次第連絡をすることを告げると深々と頭を下げ神官は帰って行った。

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1795「忘れられない想い」3おーはし 6/5-09:57
記事番号1793へのコメント

「―と言う訳だ。明日か明後日にはガウリイは元に戻る。良かったな」
あの後、顔を合わせたくないのか皆の食事が終わってから
降りてきたリナを前に、ゼルガディスは事の次第を話した。
「そ」
いつもよりは少ない食事の山を片付けながらリナは短く答えた。
「…お前何を考えている。朝から変だぞ」
「ごっそさん」
「おい」
「戻さないほうがいいかもしんない」
「は?」
「あたしのことなんか忘れちゃってたほうがガウリイにとってもいいよ
 きっと。」
顔を上げにぱっと笑顔を作るとリナは言った。
「リナ、お前何を言ってるのか解ってるのか」
「解ってる、だから言ってるの」
「理由を聞かせてもらおうか、そんな馬鹿を言う理由をな」
怒りさえ滲ませながらゼルガディスは言った。
「あたしが呼んじゃうから、魔族を、破壊を、死の危険を」
「な」
「覚えてるでしょ、冥王はあたしを利用するためにガウリイを使った
 あんた達もねそして死にかけた。結局は冥王は滅んで皆無事で済んだけど
 これで終わったわけじゃない。
 魔族はまだいるしあたしの存在がその注目をひくのも変わんないのよ。
 ガウリイの奴、忘れでもしないと絶対あたしから離れようなんて
 思わないでしょ、クラゲだから。
『俺はリナの保護者だから』なんつってね。」
リナは笑顔のままだ、が
「状況が許さない、環境が許さない、確かにそうね
 あるんだわ、そういうのが」
「…そんな顔して言うんじゃない」
とうとう溢れた涙がこぼれて落ちた。
「お前がそうしたいと言うのなら止めはしない。ただ納得はしない」
それだけ言うとゼルガディスは席を立つ、リナの答えは無かった。

翌日、リナは一人街の外へと出かけた。
部屋にいると滅入る、街に出ると更に滅入る、皆の顔、
特にガウリイの顔は見たくない。
人気の無い、森の小道を歩きながら考える。
ガウリイはあのままにする、で自分も粉を使う。
互いの存在を忘れて、また一人気ままに旅をする。
ゼルとアメリアは自分の目的や帰るべき場所があるし、
それでおっけー。もう誰かを巻き込む心配はなくなる、なくなるんだ
―なのにこんなに辛い。
「もう…、こんなのあたしじゃない」
また滲んでくる涙を、顔ごとぐしゃぐしゃと手で拭う。
「あの馬鹿クラゲのせいよ!全部!」
誰もいない森の中で大声で叫ぶ。
悶々と考え歩くうちに結構奥まで来てしまったらしい、森が深く暗い。
さてどうしようと立ち止まって考えるリナの前に人相の悪い男達が
わらわらと湧いて出た。
「ひとりでこんなとこに来るなんて危ないねぇ」
「俺達がエスコートしてあげようかぁ、お嬢ちゃん」
下品な笑い、芸の無い台詞、どっからどう見ても盗賊さん。
…こんなとこにもちゃーんと生息してくれてたのね…
うふ。
うふふふふふ………
ちょーどいいとこに気晴らしのおもちゃがきてくれたわ。
何も知らない気の毒な盗賊はリナに向かって近づいてきた。

「なんか変だ」
昨日からゼルガディスとアメリアの雰囲気がおかしくて
なんとなく居心地が悪く、街の外まで散歩に出てきたガウリイはそう口に出す。
昨日からどうも気分がすっきりしない、正確には、頭が。
もともと性能の方はさっぱりだと自覚しているのだが、
何か大事なことを忘れている気がしてしょうがない。
そして、
これは頭でなく心が感じている事、在るべきものが、無い―。
「なんなんだろう、光の剣はちゃんとあるしな。
 人かなぁ、でもゼルじゃないし、アメリアってのも違うしー、うーん
 …んじゃ、なんなんだ一体?」
無い記憶力を振り絞って思い出す過去の事柄、その全てに空白がある。
―ような気がする。
そういえば、昨日から一緒にいる女の子どうしたかな?
珍しく一回で覚えたその姿を思い出す。
栗色の髪、ちっこくて細い体、貧しい胸、利かん気の強そうな瞳。
―どことなく懐かしいような
「ん?」
いつのまにか森の深くまできてしまった、そこで感じる人の気配。
大勢の、これは殺気か?
思うと同時に身体が動く、茂みを越え飛び出したそこには
盗賊の集団、そしてほんの今思い描いた少女の姿があった。

さあって、どうやっていぢめようかなっと。
炸弾陣で吹っ飛ばすかなぁ、あ、破弾撃で躍らせるのも楽しいかも。
物騒な事を考えながら、にこにこと笑うリナを前に不審顔の盗賊たち。
「なんか変な女だな、とにかくやっちまえ!」
それでも気を取り直して襲い掛かってきた。
うっしいくわよぉ、
呪文を唱え身構えたリナの後ろからいきなり声が響く。
「それぐらいにしておくんだな」
え?この声
振り返るとそこには
「ガウリイ!?とと…」口を押さえるリナ。
「こそ泥共、とっととシッポをまいて逃げ帰るがいい。
 そうすれば、命だけは助けてやるぜ」
…初めて会った時とまるっきりおんなじ台詞じゃない、芸が無いわこいつ。
「なんだてめぇいきなり出てきやがって、野郎どもこいつから畳んじまえ!」
リナを置いてガウリイに殺到する盗賊達。
だが、
あっけない
あっという間に畳み返されほうほうの体で逃げてしまった。
「お・おぼえてろっ」
忘れるわよこのクラゲは
盗賊を片付けたガウリイはリナの方へやってくる。
「大丈夫か?」
「えと、どぉも・ありがとおございます」
へどもど答えるリナ。
「君、昨日から一緒のえーと、リナ、だったけか?」
名前を呼ばれて心臓が跳ねる、何よいったい
「は・はぁ」
「一人でこんなとこまで来ちゃ危ないぞ、もしかして君…」
「はい?」
「友達いないんだろう」
ずべ
こ、この男、
「そっかぁうんうん、よし!俺が一緒についてこう、どこ行くんだ?」
「え?」
「俺にはわかる。君には友達が必要なんだ。」
―もう、もうなんでおんなじ台詞言うのよ、この馬鹿…
初めて会った時の言葉、その言葉に
リナが、ガウリイと歩んできた記憶、今までの記憶が巻き戻される。
頭にきた出会い、
魔族と戦いながらの珍道中、
地下道でナメクジにあって泣きついた事、
クレアバイブルの砂漠、焚き火の前での言葉、
―そして―自分より、世界より、目の前のこの男を選んだあの時
やだ
やっぱりやだ
ガウリイを忘れるのは、ガウリイに忘れられるのは
この先、一人で歩いて行くなんて絶対にやだ!

どうしたんだ一体
突然黙り込んで自分を見つめる少女に困惑するガウリイ。
その思いつめたような表情にさっき感じた空白を思う。
やっぱり初めて会った気がしない
やっぱり知ってるような気がする
なんだろ?くそ、すっきりしないぞ!

その時、風が吹いた。
二人を包むように。
風は粉を撒き散らす、記憶の扉を開く魔法の粉を。

「あ―」
閉まっていた扉が開き、目の前の少女の記憶が鮮やかに蘇る。
―なんで忘れてたんだろ
大食らいで、がめつくて、根性悪で、
そのくせ変にお人良しで、
誰よりも強いくせに、誰よりも寂しがり屋なこいつのことを
「…ガ、ガウリイ?」
「…」
「…あたし…わかる?」
恐る恐る問いかけるリナ。
「ああ。リナ=インバース、俺の被保護者。
 ごめんなリナ、一人にしちまって。保護者失格だな」
「…ほんとよ…この…クラゲ頭。」
ガウリイは今にも泣き出しそうなリナの頭に手をやると、
ぐしゃぐしゃとかき回した。

「まったく世話の焼けるやつらだ」
「ガウリイさん戻って良かったですね」
少し離れた茂みに隠れ、並んでしゃがみこむゼルガディスとアメリア。
今朝方早く、教会からの連絡があり
中和剤を受け取ると二人を追ってきたのだった。
魔風の風にのせた中和剤はしっかり効いてくれたらしい。
本当に、良かった。
「まあ、あいつらならこれ無しでも元通りになっていたかも知れんがな」
「はい」
教会で薬を受け取る時、聞いた話を思い出す。
『―ただこんな話があるんです。
 やはりこれを使った二人の話なのですがね。
 自分達を取り巻く状況に、苦しんで、考えて、結果
 互いを忘れて別の道を歩くことを選んだそうなんです。
 それなのに、その筈だったのに、何故か行く先々でまた出会ってしまう
 そして、それと知らぬまにまた、
 お互いを必要とするようになってしまったそうです。
 折角忘れたはずの記憶も戻ってしまったとか。
 ―結局人と人の出会や想いは収まる場所が決まっているのかもしれませんね。
 引き合うものはどうやっても引き合う。
 共に在るべきものは共に在ろうとする。
 状況が、環境が、そして世界がそれを許さずとも―ね。』

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1796「忘れられない想い」4おーはし 6/5-09:58
記事番号1793へのコメント

街に戻ると夜だった。
晴れた夜空に輝く月と星、道行くカップルはまだ宵の口というところ。
「いやぁ心配かけたな、ゼル、アメリア」
「ほんとですよ、もう。リナさんったら沈んじゃってて大変だったんですから」
「ちょ、ちょっと、だぁれが沈んでたですってぇ?!」
「本当のことだろうが」
「ぐ、こにょー…」
もとに戻ったガウリイを前に、このときとばかりに
リナをちくちくとつつくゼルガディスとアメリア。
「んもう、いいわよいいわよ勝手に言ってなさいっ!ふんふんっ」
とうとう拗ねてしまった。
「おまえらもう止めとけよ、後が怖いぞ、リナも機嫌なおして、ほれ」
見かねたガウリイが仲裁する。
「…なによその後が怖いってのわ」
言葉の内容に引っかかるものを感じながらもとりあえず機嫌を直すリナ。
「にしても、考えてみればもうこれが最後の夜かぁ。明日出発だもんね
 なんだかんだあって結局あんまり見て廻れなかったなぁ
 折角の観光地なのにぃ…」
「これからめいっぱい見て廻ればいいじゃないか夜店だってでてるぞ」
四人の立つ広場は華やかな灯りと装飾に彩られ、
それを楽しむ観光客で夜店は盛況、まだまだ夜は終わりそうにない。
「そうね。そだ!最後くらいあたしたちもここの在り様にしたがいましょ」
「へ?」
「はい?」
「なんだ?」
「仲良しカップルで腕組み、肩組み」
「な、そんなハズいことできるか!!」
即座に叫ぶゼルガディス、だが
「うん、いいんじゃないか。ほれリナ」
いとも簡単に腕を差し出すガウリイ、
リナはその腕をとるとゼルガディスに向かって言う。
「ほら、あんたも。待ってるわよアメリア」
「う。」
振り返ると、じーっと上目遣いに自分を見るアメリアの顔。
ああもう、そんな目で見るんじゃない
観念したゼルガディスはアメリアの方へ手を差し出した。

「ゼルも観念したみたいね」
飛びっ切りの笑顔で腕にしがみつくアメリアを連れ、
向かいの店へと歩いていくゼルガディスの後姿。
それを見送りながら、
こちらもしっかりとガウリイの腕を抱えたリナが、にんまりと笑って言う。
「おまえやっぱしさっきのネにもってるな」
「なーんのことっかなーあ」
嬉しそうにとぼけるリナ。
「さ、あたしたちも行こ行こ」
きらびやかな灯りの下歩き出す二人。
「ね、ガウリイ」
「あ?」
「あたしといるとね、厄介事とか、魔族とか、てんこもりでやってくるのよね
 死ぬような目にあうとかさ」
「そいつは、やだなぁ」
「…あたしと離れたら、別々の道を行けば避けられると思う、よ」
「じゃあ仕方ない、厄介事も、魔族も、死に目も我慢するしかないな。
 ま、俺とおまえが一緒なら、大丈夫だろ?」
「…」
リナはガウリイの顔を見上げる。
晴れやかな笑顔で、自分を見下ろすその顔を。
「今までだってそうやってきたんだ。これからだって行けるさ。
二人で、何処までだってさ」
「ん。」

晴れた夜空、輝く月と星。
確かに感じる、互いのぬくもり。
この夜空の下、さまざまな想いを抱え集う恋人達。
幸せ、喜び、不安、絶望、それは他には計り知れないものだけど
いつ離れてしまうかもしれない、儚い繋がりかもしれないけれど
信じたい、明日もあなたと共に在る事を。

end

============================
…なんとか終わりましたです。
最後まで読んで下った方、お疲れ様でした。
いざ、投稿。と思ったら、恥ずかしいやら緊張するやらで
おなか痛くなっちゃいましたが、読んでいただけたら嬉しいです。
私の思うところのリナちゃんとガウリイさん、というものを書いたら
こんな感じになりました。
ありがちものだとは思うんですけど、どんなもんでしょうか。
ちびっとでも気に入っていただけたら良いのですけど。
それでは、読んでくださって有難う御座いました。

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1824感想です丸丸 6/9-00:10
記事番号1796へのコメント

こんにちは。「忘れられない想い」読みました。
今回はガウリナがメインなんですね! すごく嬉しいです♪

四人で撮ったプ○クラ、どんな出来上がりなんだろう。
なんか簡単に想像できちゃうんですけど(笑)
ゼルって、おもちゃにされるのが似合いますよね。そこが可愛いんですが♪

> 「なんだよ、昼寝する時いっつも人を枕か布団の変わりにしてるくせに」
このガウリイの台詞にクラクラです。枕はともかく、布団って……!
(一瞬「敷き布団? 掛け布団?」と考えて一人でニヤケてしまったのは秘密)
私も人の背中に寝転ぶのって大好きなんですよ。暖かいし気持ちいいから。
そっかぁリナちゃんもそーゆーの好きなのかぁ♪

> 引き合うものはどうやっても引き合う。
> 共に在るべきものは共に在ろうとする。
> 状況が、環境が、そして世界がそれを許さずとも―ね。』
この台詞のとおりだと思います。
リナとガウリイは、引き離そうが邪魔しようが記憶をなくそうが、結局出会い
一緒に生きていくでしょう。
それに「たとえ世界が許さなくたって、このあたしが許す!」って、リナなら
言いそうですし。

ではでは。素敵な小説をどうもありがとうございました♪
次も楽しみにしています♪

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1827Re:感想ですおーはし 6/10-21:17
記事番号1824へのコメント

前のお話にもご感想下さった方ですよね(喜)
今回も読んでくださって有難うございます。
喜んでいただけてとっても嬉しいです。

ガウリイさんとリナちゃん、好きなんですけど
あまりにも二人でいるのが自然なので
ほんとは「どう書けばいいかなぁ」と悩みながら書いてました。
ついつい色々書いちゃって長くなっちゃうし…
そういう訳で感想いただくまで
誰か読んでくれるか、読んでも気に入っていただけるかと
不安で不安で…。
感想があるのを見て、もう、とおっても安心しました。

「昼寝するとき…」の布団、私、布団というと「敷くもの」
だったんで、…そっか掛け布団ってありました。あは。
お天気空の草っ原で、おひさまの下ぬくぬくと
寝っころがるガウリイさんとそれを枕におやすみのリナちゃん…
平和の象徴ですよね。
起きたら災害の象徴ですけど。

次…は、今度もやっぱりあてがないのですけど(汗)
何かおもいついたら出させていただきたいと思います。
では、本当に有難うございました。