◆−NIGHT STORY−ひな(6/6-02:19)No.1798
 ┣スゴイ.....−モラトリアム(6/7-08:03)No.1805
 ┃┗Re:スゴイ.....−ひな(6/8-01:10)No.1815
 ┣うっとり…。−ライム(6/7-22:18)No.1811
 ┃┗おひさしぶりです。−ひな(6/8-01:24)No.1816
 ┗はじめまして−むつみ(6/8-10:13)No.1820
  ┗こんにちは。−ひな(6/8-16:41)No.1821


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1798NIGHT STORYひな 6/6-02:19


ひなです。短編読んでください。


『NIGHT STORY』


生き残る、ということにはいつでも後ろめたさがつきまとう。
20年前、俺は自分が野垂れ死にすることを漠然と予想していた。そこには不思議な確信
があった。しかしふと気がついてみると、俺はひとり生き残っているのだ。
かつてすれ違った仲間たちは散り散りになり、いまでは行方もよくわからない。
ある者は死んだ。ある者はまだ生きている。
そうして俺は、かつて想像もしなかったほど穏やかな暮らしを営んでいる。
小奇麗なベッドのなかで、時折、夜更けにふと目が覚めることがある。そして思う。
俺は生き残ったんだ、と。
そういう夜は、俺は目を閉じて遥か昔の記憶を手繰り寄せる。
すると、鋭いまなざしの、若い男のイメージが目の裏に浮かんでくる。全身白ずくめで、
フードをすっぽり被って、岩で出来た肌を隠している。男はぎろりと周囲を睨む。彼はしょっ
ちゅう苛立ち、ささくれだった心を持て余している。
そいつは闇の奥から俺を睨みつけ、腹だたし気にこう言う。
『おい、おまえどうしちまったんだよ。何をやっているんだ。レゾはどうしたんだ? リナ
はどこへ行っちまったんだよ? もうそんなことはどうだっていいのか』
俺はまだ、俺の過去を置いてきたままにしている。
男には、それが許せない。そいつは悪態をつく。心優しい殺し屋の目で俺を見る。
男の名はゼルガディスという。
若くて、不器用で、脆弱な20年前の俺自身だ。


リナについて話そう。
冷酷で、圧倒的で、ある意味で彼女は戦いそのものだ。
俺はいまでもよく覚えている。微笑んでいるリナの横顔を。彼女はロースト・ピーナッツと
化した無数の敵の残骸と、燃え上がる炎を満足そうに見つめている。瞳は冷酷な悦びに輝き、
ふきつける熱風がその長い髪を逆巻かせている。
夜の闇のなか、激しくゆらめく炎が彼女の姿をあかあかと照らし出す。
リナは胸を張り、恐れるものは何もないとでもいうように、倣岸にその光景を眺めている。
ポーズじゃない、ほんとうに楽しいんだ。だから微笑んでいるんだ。
その光景はグロテスクとも思えるものかもしれない。
しかしそこには、モラルを超えた、有無を言わせぬ美しさがある。強烈な生きていることへ
の喜びがある。人の心を激しく揺さ振る何ものかが存在している。


漆黒の闇のなかで、ただ一つだけ輝いている。だがその輝きは、かえって闇の深さを際立てる
だけで、周囲の暗黒を照らし出すことはない。
リナは、そういう女だった。


あの頃の思い出の大部分は、今では思い出すことが難しくなってしまっている。その上、記憶
している事柄を正確に分析するのは難しい。そこには多くの二重性がひそんでいる。俺たちは
とても若かったけど一方でひどく老成してた、いつも酔っ払ったみたいに大はしゃぎしていたけど
ものすごくクールだった、野蛮だったけど文明的だった、頭は良かったが大バカだった、等々。
そこには絶対的真実というものは存在しない。教訓的なものさえない。
ただ、思い出す事柄のひとつひとつが、ずしりと俺の腹にくる。あの頃の感情、光景、そう
いった懐かしいものたちが俺の心にふたたび蘇る。
とぎれとぎれの短い記憶が、つぎつぎと浮かびあがる。


たとえば、退屈でおだやかな、昼下がりの光景。俺とガウリイは特にすることもなく
戸外でぼーっとしている。
ふいにガウリイがぽつりぽつりと話し出す。
「なあ、いいこと教えてやるよ。ほんとのところ、俺の望みはな、しょうがパンみたいな
可愛い家に、リナとふたりきりで暮らすことなんだ。おい、笑うなよ。想像するくらい
いいだろ? 贅沢な暮らしじゃなくていい。まっとうで、平和で、リナさえいれば他には
何もいらない」
だがな、と俺は口をはさみかける。ガウリイは俺の言葉をさえぎって言う。
「いいじゃないか。リナがある日唐突に改心しないとも限らないんだし。人間、希望を
失っちゃいかんぜ。そうだろ?」


あるいは、リナが昼寝をしている光景。
ふいに唇を動かし、くすくすと笑い、幸せそうにまた眠りの底に落ちていく。
毛布をかけにやってきたガウリイが、いつまでも飽かずにその寝顔を見つめている。
彼は痛々しいくらい臆病に、リナの額に唇を寄せる。指先でそっと髪を撫でる。そして、
どこか困惑したような、傷ついたような表情で、やはりリナの顔を眺めている。


記憶に残っているのは、とりとめもない断片であることが多い。そこには始まりもなく、
終わりもない。


リナがガウリイをスリッパでどつき倒す。ガウリイは怒ってリナを追いかける。リナは
けらけら笑いながら逃げ出す。ガウリイがリナをつかまえるころには、彼も笑い出してい
る。ふたりはきゃあきゃあ騒ぎながら、小犬のようにじゃれあって転げまわる。
夕暮れ間際の優しい陽光が、笑い合うふたりの姿を照らし出す。
その風景はいまも俺の胸を締めつける。
もしもふたりが、ごく普通に育ち、ごく普通に出会っていたら間違いなく辿っていただ
ろう未来を、思い描いてしまうからだ。
ふたりは出会う。そしてほどなく深く愛し合うようになって、結婚する。周囲の者は揃って
彼等を祝福する。ふたりは湖のちかくの小奇麗な家に住み、樫材の家具と黄色い髪の元気な
子供たちに囲まれて暮らす。ふたりはもう間違いなく幸せになり、一緒に年を取り、お互いの腕
に抱かれて息を引き取って、一緒にウォールナットの棺に葬られる。
だが、ここは別の世界だ。
血みどろの戦い、品性に欠ける死、生きとし生けるものの救いがたい愚かさが存在する世界。
スリリングでグロテスクでアナーキーそのものだ。そしてリナはどっぷりとその世界に浸かって
いる。リナの求めているものは全部こちら側の世界にある。
だから、素敵な家やブロンドの子供たちや二人分の棺なんてものは決して実現しないのだ。俺
はそれを知っていたし、ガウリイもそのことは分かっていたのだと思う。
俺はもうすこしで涙ぐみそうになる。
なぜなら俺は知っているからだ。リナが決してまっとうには生きられないことを。それでも
ガウリイがリナを愛していることを知っているからだ。
ガウリイがそっとリナの頭を撫ぜる。何度も何度も。リナは目を閉じてじっとしている。
沈みゆく夕陽を浴びながら、何も言わず寄り添い合うふたりの影。
そこには何か犯しがたいもの、完璧なもの、永遠を思わせるものが存在していた。


俺は幾度も幾度もあの二人を蘇らせる。記憶のなかで、物語のなかで。
記憶のなかで彼らは永遠にあの姿のまま、幸せそうに微笑みあっている。
あれからふたりがどうなったか、俺は知らない。俺が思い出すのは、あの若くて無邪気なリナと
ガウリイだけだ。
いや、それはひょっとしたら記憶ですらないのかもしれないのだ。
だからこれは俺の妄想の産物だといえるかもしれない。
だとしても、真実の話だ。そして永遠のストーリーだ。


かつて、分かちがたく結ばれた二人の人間がいた。
その二人は、遥か昔に俺が愛した仲間だった。



Fin.




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1805スゴイ.....モラトリアム 6/7-08:03
記事番号1798へのコメント

時間がないから、ちょっとしかレスできないけど、書きます。

スゴイ
はっきり言って、ムチャスゴイ。
ひなさん、プロ?

これが読み終わったときの感想です。まじで短い。
もっと長いレスは、また書きます!!ほんますごいわー・・・・

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1815Re:スゴイ.....ひな 6/8-01:10
記事番号1805へのコメント

こんにちは。ひなでございます。

コメントどうもありがとうございました。
ちょっと「スレイヤーズちゃうやんけー」みたいな
短編になってしまったので、反応が不安だったのですが・・・。

お時間があれば、また感想などお願いしますね。
それでは。

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1811うっとり…。ライム E-mail 6/7-22:18
記事番号1798へのコメント

 わあっ!ひなさんだひなさんだ!
 失礼しました。こんにちはライムです。ひなさんのお話、いつも読んで感激しています。
 前に感想を書いたときにも、訳わかんないことを言ったと思うんですが、この感動の表し方をライムは知りません。
 読んでいて、すーっとした感じで、気持ち良いんです。
 きらきらして、爽やかな感じがしました。
 あう…ごめんなさい。上手くいえません。でもひなさんの文章大好きです!

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1816おひさしぶりです。ひな 6/8-01:24
記事番号1811へのコメント

御無沙汰しておりました、ひなです。

こんにちは、ライムさん。
素敵な感想をいただけてとても嬉しいです。

> きらきらして、爽やかな感じがしました。
> あう…ごめんなさい。上手くいえません。でもひなさんの文章大好きです!

ありがとうございます。そう言ってもらえるとモノカキ冥利に尽きます!
最近、自分はやっぱりガウリナ書きだなー、と自覚しはじめたので、
もっとこの二人の小説を書いてみたいですね。
また、時間があったら読んでみてください。

それでは。

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1820はじめましてむつみ E-mail 6/8-10:13
記事番号1798へのコメント

ひなさんはじめまして。(・・・ですよね?鳥頭なので、自信がないんです)

読ませていただきました。
すごくすごくよかったです!!

いままでよんだたくさんのガウリナとは一線を画した二人の性格設定が、すごく良かったです。特に、残酷に無垢なリナが。

そして。それらのストーリーがゼルの口から語られるという構成がまた、素晴らしいです。
え〜〜っと。わたしはこの、ゼルの語り口調にくらくらとまいってしまいました。(惚れたと言っても過言ではない)
緑川さんの語りで、聞いてみたいと心の底から思いました。
(ひなさんは考えませんでしたか?わたしは頭の中にあの声が浮かびましたよ)

 こんな感想で良かったでしょうか?

 本当に、良い作品をありがとうございました。

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1821こんにちは。ひな 6/8-16:41
記事番号1820へのコメント

はじめまして。
素敵な感想ありがとうございます。

>いままでよんだたくさんのガウリナとは一線を画した二人の性格設定が、すごく良かったです。特に、残酷に無垢なリナが。

そうですね。わたしは、リナのクレイジーな部分がとても好きなので、どうしても
彼女とガウリイが結婚してめでたしめでたし、というような感じにはならないんです。
(らぶらぶは好きなんですが……うーん)

>え〜〜っと。わたしはこの、ゼルの語り口調にくらくらとまいってしまいました。(惚れたと言っても過言ではない)
>緑川さんの語りで、聞いてみたいと心の底から思いました。

ゼルはひょっとしたら主要人物のうちで一番ロマンチストではないでしょうか(笑)
語らせるとサマになるひとですね。

> こんな感想で良かったでしょうか?

丁寧な感想をいただけて、嬉しかったです。
また何か書き上がったら読んでみてください。

それでは。