◆−時の旅人 60:哀しみと贖罪の記憶−羅城 朱琉 (2007/2/13 15:50:26) No.17980 ┣哀しい決意、過ぎます。−十叶 夕海 (2007/2/21 02:36:25) No.17986 ┣時の旅人 61:動き出すものたち−羅城 朱琉 (2007/4/23 17:57:34) No.18061 ┣時の旅人 62:最後の真実−羅城 朱琉 (2007/4/23 17:58:52) No.18062 ┗時の旅人 63:取り戻すために−羅城 朱琉 (2007/4/23 17:59:53) No.18063
17980 | 時の旅人 60:哀しみと贖罪の記憶 | 羅城 朱琉 | 2007/2/13 15:50:26 |
こんにちは。とてもとてもお久しぶりです、羅城 朱琉です。 新年初めての本編投稿、なんですよね、実は・・・・。もう2月だというのに・・・・。 では、どうぞ! 時の旅人 60:哀しみと贖罪の記憶 「まずは、注意事項。この『予定表』は、本来全ての歴史が記されている。目的としている部分を見るために、なるべく余計なことは考えず、頭を白紙にしておくこと。そうでないと、考えに引きずられて全然違うものが見える可能性があるからね。・・・・まあ、逆に言えば、強く望めば別のことも見える。ただ、今は必要ないだろう?僕がナビするから、完全に視点が定まるまでは何も考えないように。 もう一つ、見ている間は、僕から離れないように。これから見るものは、ただの記録。何が見えても、それはどうすることも出来ない。・・・・わかったかな?」 そう言って、語り部は一人一人を見る。その瞳が、一瞬レンシェルマで止まった。不思議に思って、レンシェルマはその瞳を見返す。と・・・・唐突に、語り部の声なき声が・・・・思念波(テレパシー)が、聞こえた。 (これは、かつて君に語ったことと同じものだ。ルピナスの死から始まる、世界が終わる物語。君は、既に知っているだろう?だから・・・・もう一度と望むなら、それもいい。他に知りたいことがあるなら・・・・見ておいで。) レンシェルマは、はっと語り部を見返したしかし、語り部の視線は既に逸れていて。 「手を。」 短い指示に、皆が語り部の手に自らの手を重ねる。レンシェルマも、慌ててそれに続いた。 そして、語り部は左手で『予定表』を掲げ、聞き取れないような小声で、呪文を呟いた。 見たいものは・・・・・・・・ある。ずっと、疑問に思っていたことだ。 * * * * * ひゅう、と、風を切るような音がした。目を開くと、レンシェルマはただ一人、一面灰色の世界に立っていた。・・・・と、ゆっくりと灰色が薄れ、別の色が見えてくる。 そこは、よく知った場所だった。既に、失われてしまった場所だった。 そこは、サーヴァリルの隠れ里。ルピナス・・・・いや、シオンとルーティアの生まれ故郷であり、アスターとプリムラに会いに、頻回通った第二の家。 見えてくる。アスターとプリムラの家が。外で遊ぶ子供が3人。8歳になったシオンとルーティア。そして、12歳になる彼らの姉、リーラ。 そして、視点は家の中に移った。 ―― 居間は、重苦しい空気に包まれていた。レンシェルマが届けた、兄・グランの凶行の報によって。 「グラン殿・・・・が。」 呻くアスターに、レンシェルマは頷いて返す。彼自身も、肉体的、精神的疲労によって蒼ざめていた。 「兄は、きっと・・・・ずっと、私たちを『憎んで』いたんでしょう。・・・・・・・・気付かなかった。」 レンシェルマは、そう言って俯いた。そんなレンシェルマに、プリムラが気遣わしげに問う。 「それで・・・・傷は、もういいの?」 それで、レンシェルマははっと気付く。そういえば、言わなければならないことがあった。 「それは、大丈夫です。治してくださった人がいますから。・・・・実は、その人について、言わなければならないのです。 私を治してくれた人は、銀髪に、光で色を変える淡緑色の目をしていて・・・・『アリエス=オルフェーゼ=ラーナ』と、そう名乗っていました。」 銀の髪と、光で色を変える淡緑色の瞳は、『フェラナート』のものの特徴。そして・・・・その隠し名は、『ラーナ』。 絶えたと思われていた、フェラナート家の・・・・しかも『アリエス=オルフェーゼ』といえば、その名を歴史に刻まれている、500年も前に眠りについたとされる、れっきとした『フェラナート』の者だ。 決して、無関係とは言えまい。 と・・・・その名を聞いた瞬間、アスターとプリムラは、どこか納得したような顔になった。 「ああ・・・・アリエス様に、会ったのね。」 「知っているのですか!?」 「ええ・・・・。」 そう言って、二人は曖昧な・・・・しかし、確かな慈しみをを湛えた微笑を浮かべた。 ―― この時から、ずっと疑問に思っていた。なぜ、彼らが『アリエス』の存在を知っていたのか。なぜ、『サーヴァリル』の彼らが、『フェラナート』のアリエスを知っていながら・・・・何の行動も起こさなかったのか。ずっと、不思議だった。 だから、レンシェルマは願う。過去へ、さらに過去へ。その理由を探るために。 ―― 赤みの強い茶色の髪と、空のような青の瞳。周りの大人も大抵はそうで、だから、それが普通だと思っていた。 だから、『その人』に会ったとき、一瞬人間とは思えなかった。 『ぎんいろの、かみさま。』 アスター=ライト=スフィル=サーヴァリルは、『その人』・・・・アリエス=オルフェーゼ=ラーナと初めて会ったとき、そう思ったのだ。 幼い頃のアスターとプリムラは、幼馴染で、婚約者だった。青い瞳の大人たちの中にあって、唯一金茶の瞳を持っていた少女は、『予見』の力を持つ、特殊な存在だった。 しかし、アスターにはそんなことは関係なかった。数少ない同年代で、大切な幼馴染だった。 ある日、アスターの祖父・・・・当時の『サーヴァリル』の長が、アスターとプリムラに一人の人を会わせた。 それが、アリエスだった。 最初に思ったのは、綺麗だ、ということ。髪が銀色に輝いていて、神様とはこんな風なのではないか、とすら思った。 次に思ったのは、何故、この人はこんなに哀しそうなのか、ということ。 そんなことをぐるぐると考えているうちに、その人が口を開いた。 「アスターさんに、プリムラさん・・・・ですね? 私は、アリエス=オルフェーゼ=ラーナ。あなた方とは、浅からぬ因縁を持つ者・・・・らしいです。」 そのおかしな言い方に、少々首を傾げた。どう見てもアリエスのほうが年上なのに敬語な所や、『らしい』という言葉に。しかし、それはアリエスの次の行動により、忘却の彼方へ追いやられた。 アリエスは、二人に歩み寄り・・・・地に膝をついて目線を合わせると、二人を掻き抱いたのである。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ように。」 耳元で、何かを囁かれた。しかし、その声は本当に小さくて、アスターには聞き取れない。 しかし、その時彼女の肩越しに見た、祖父と父の悲しげな顔が、妙に印象的だった。 ―― 聞こえた。アスターが聞き取れなかった言葉はしかし、離れた場所にいたレンシェルマには、なぜか聞こえていた。 『あなた達が幸せにあれますように。私の犠牲となりませんように。』 そう、アリエスは言っていたのだ。 時は、更に過去へと遡る。 しばらくは、同じ様なことが続いた。アスターの父が物心ついたときにも、祖父のときにも、アリエスは現れ、同じ言葉を残していった。何代も・・・・それが、続いていた。 そして・・・・・・・・ついにレンシェルマは、その始まりの時へと行き当たった。 およそ100年ほど前の、ある日のこと。ユヴェルという青年が死んだ直後のことだった。 ―― 村はずれの高台は、少年のお気に入りの場所だった。彼の育った村が一望できるからだ。特に、今日のような晴れた日が一番いい。少年は、今日も高台への道を急いでいた。 少年の名は、ジェム。『ジェム=クラリア=フィリィ=サーヴァリル』というのがフルネームである。 彼自身は知らないことだが、『ユヴェル=ディティス=フィリオ=サーヴァリル』の従弟であり、血の濃さでは異母兄弟に当たる人物だ。 ユヴェルの父とジェムの父は、一卵性双生児だった。サーヴァリルの長となったのはジェムの父であり、ユヴェルの父は旅に出て、村に帰る事無く結婚し・・・・亡くなった。 高台に着いたジェムは、目を見張った。そこに、先客がいたのだ。 見覚えのない女性だった。銀の髪など、この村には一人もいない。それに・・・・・・・・何だろう?この、何ともいえない、腹の底から凍りつくような、奇妙な感覚は。 しかし、それと同時に、奇妙な懐かしさも覚える。 本当に・・・・不思議な感覚だった。 やがて、ジェムの視線に気付いたのか、女性がゆっくりと振り返る。 虚ろな淡緑色の瞳と、空のような青い瞳。二つの視線がぶつかる。 そして・・・・ 女性は、その場に崩れ落ちた。 ―― * * * * * ―― ジェムの出会ったその女性は、アリエスと名乗った。倒れた彼女を介抱するため、彼女を村に運んだ折、目を覚ました彼女が名乗った名である。 あまり体調が良くないのか、頭痛を堪えるように頭を押さえるアリエスを村に運び込む。すると・・・・アリエスの姿を見た父が顔色を変えた。 不思議に思い、ジェムは二人の顔を交互に眺める。と、アリエスが僅かに微笑んで、言った。 「『サーヴァリル』ならば、とは思っていましたが・・・・やはり、伝わっていましたね。 あなたの想像通り、この髪と目は『フェラナート』の証。私の名は・・・・『アリエス=オルフェーゼ=ヴィータ=フェラナート』。」 苦痛を堪えるためか、それとも、他の理由あってか、その微笑みは苦渋を滲ませたものであったけれど。 家の中に通されたアリエスは、父とジェムに話がある、と言ってテーブルに着いた。そして、少し焦ったように早々に口を開く。 「正直に言いますと、私は、現在記憶を封じられています。いえ・・・・今、記憶を再び封じられようとしています。あまり時間はありませんので、単刀直入に申し上げます。 『ユヴェル=ディティス=フィリオ=サーヴァリル』。この名は、ご存知ですか?」 父が、虚をつかれたように息を呑む。そして・・・・しばしの逡巡の後、頷いた。アリエスは、それを見て溜息をつく。悲しそうに、切なそうに。 「・・・・・・・・ユヴェルは、死にました。・・・・私の、責任です。」 そうして、アリエスは語りだす。悲しげな瞳ながらも、淡々と語り続ける。 ユヴェルとの出会い。 共に旅した日々。 告げられた言葉。 そして・・・・その最後を。 そうして、最後に深々と頭を下げた。 「謝って、許されることではない。それは、解っています。そして・・・・本来ならば、ここへ来ないほうが良かったことも。ですが・・・・完全に記憶が封じられる前に、言いたかった。」 伏せた目の縁に、涙はない。しかし、その揺らがぬ声が、号泣するよりも如実に心情を伝える。それは・・・・虚無、だ。喜怒哀楽の全ての感情を通り越した果てにある、完全な虚無。 そのまま、二言三言言葉を交わして、アリエスは旅立った。 そう、思っていた。 ―― いまひとつ釈然としないまま、レンシェルマはアリエスを追う。 アリエスの視線を追って・・・・たどり着いたのは、ジェムと出会った村はずれの高台だった。 そこで・・・・アリエスは、祈るように手を組んでいた。 そこで、唐突に音が途切れる。 過去の音は消え、聞こえてきたのは・・・・固い床を歩くような、こつこつという音。そして・・・・ 『この時・・・・薄れる記憶と意識の中で、私が願ったのは・・・・『サーヴァリルの血筋に、守護を。』』 長くは離れていないはずなのに、懐かしい声が・・・・・・・・ 『その願いだけは、記憶を封じられた私の中にも残ってた。だから、私は、サーヴァリル家に新たな子が生まれるたびに、ここに訪れ、守護を願った。』 ここにいるはずのない、過去の記憶にその姿を見ていたはずの人物の声が・・・・・・・・ 『だから、アスターとプリムラを、私を知っていた。』 会いたいと望んでいた、その声が・・・・・・・・ 『これが、知りたかったの?・・・・レン。私を愚かだと思う? でも・・・・私の望みは、あの時から同じ。私は・・・・私のせいで傷つく人を見たくない。私が背負えるものは、全て、背負うよ。』 アリエスの声が、聞こえた。 レンシェルマは、ゆっくりと振り返る。不安と期待、恐れと歓喜、全て入り混じった複雑な感情が、彼の動作を緩慢なものにした。そして、そこにいたのは・・・・ 「アリエス=オルフェーゼ=ラーナの意思、確かに伝えた。」 黒髪黒瞳黒装束の、見知らぬ男装の麗人。 「っな・・・・!・・・・・・・あなたは・・・・?」 途切れ途切れに、レンシェルマは問う。彼女は、仄かに口を歪めた。 「用件だけを言う。 アリエス=オルフェーゼ=ラーナは、『中枢予定表』に取り込まれた。完全にあれの手駒となりはてるのも時間の問題だろう。それが嫌なら、早く行動することだな。」 言い捨てるようにそれだけ言い、彼女は姿を消す。 そして、いつの間にか暗転していた世界に光が差しこむ。再び、現世に立ち返るために。 * * * * * 闇が蠢く。 輝く色を纏って、闇が蠢く。 ようやく見つけ出した、主の欠片を目指して 闇色の触手を伸ばす。 あとがき、或いは語り部の告げる未来 語:やあ!久しぶりだね、元気だったかな?今回はどうだっただろう? さて・・・・朱琉の時間が無いから、早速次回の欠片を語るよ。 繋がる縁を頼り、導きの言葉に依って、人は集まる。 そこには魔も、神も、また等しく。 響き始めた終焉への序曲の裏側にて、 もう一つの企みも、また動き始める。 次回、『時の旅人』61話、『動き出すものたち』 じゃあ、またね! |
17986 | 哀しい決意、過ぎます。 | 十叶 夕海 | 2007/2/21 02:36:25 |
記事番号17980へのコメント > > こんにちは。とてもとてもお久しぶりです、羅城 朱琉です。 > 新年初めての本編投稿、なんですよね、実は・・・・。もう2月だというのに・・・・。 > では、どうぞ! ユア:こんにちは、夕海です。 久遠;ユアちゃんも、小説1の方は、ぜんぜん投稿してないから。 ユア;言わないで、ぷりいず。 ともあれ、レス行きます。 >「まずは、注意事項。この『予定表』は、本来全ての歴史が記されている。目的としている部分を見るために、なるべく余計なことは考えず、頭を白紙にしておくこと。そうでないと、考えに引きずられて全然違うものが見える可能性があるからね。・・・・まあ、逆に言えば、強く望めば別のことも見える。ただ、今は必要ないだろう?僕がナビするから、完全に視点が定まるまでは何も考えないように。 > もう一つ、見ている間は、僕から離れないように。これから見るものは、ただの記録。何が見えても、それはどうすることも出来ない。・・・・わかったかな?」 > そう言って、語り部は一人一人を見る。その瞳が、一瞬レンシェルマで止まった。不思議に思って、レンシェルマはその瞳を見返す。と・・・・唐突に、語り部の声なき声が・・・・思念波(テレパシー)が、聞こえた。 >(これは、かつて君に語ったことと同じものだ。ルピナスの死から始まる、世界が終わる物語。君は、既に知っているだろう?だから・・・・もう一度と望むなら、それもいい。他に知りたいことがあるなら・・・・見ておいで。) > レンシェルマは、はっと語り部を見返したしかし、語り部の視線は既に逸れていて。 >「手を。」 > 短い指示に、皆が語り部の手に自らの手を重ねる。レンシェルマも、慌ててそれに続いた。 > そして、語り部は左手で『予定表』を掲げ、聞き取れないような小声で、呪文を呟いた。 > > 見たいものは・・・・・・・・ある。ずっと、疑問に思っていたことだ。 > ユア:語り部さんって、ある意味で、いい人なのかもですね。 久遠:・・・・・・ジュリちゃんの意見も、正しいとは思うわ。 だけどね、レンちゃん。 『真実は人を幸せにしない。むしろ、真実は残酷なモノ』と言うことが多いの。 ユア:だけど、情報が無いと、前に進めないこともありますよ? > > > ひゅう、と、風を切るような音がした。目を開くと、レンシェルマはただ一人、一面灰色の世界に立っていた。・・・・と、ゆっくりと灰色が薄れ、別の色が見えてくる。 > そこは、よく知った場所だった。既に、失われてしまった場所だった。 > そこは、サーヴァリルの隠れ里。ルピナス・・・・いや、シオンとルーティアの生まれ故郷であり、アスターとプリムラに会いに、頻回通った第二の家。 > 見えてくる。アスターとプリムラの家が。外で遊ぶ子供が3人。8歳になったシオンとルーティア。そして、12歳になる彼らの姉、リーラ。 > そして、視点は家の中に移った。 久遠:・・・・・・・どうして、思い出って、切ないんでしょうね。 私も、あの時までは、ゼオンちゃんが生きてる間は、彼に使ってもらえると思ってたのに。 ユア:レンさんも、サーヴァリルの隠れ里にいつまでも通えると思っていたと? ・・・・・・・・・・・崩れると、終わると解っていても、願ってしまうのは、人の性かもしれないですね。 > > ―― 居間は、重苦しい空気に包まれていた。レンシェルマが届けた、兄・グランの凶行の報によって。 > 「グラン殿・・・・が。」 > 呻くアスターに、レンシェルマは頷いて返す。彼自身も、肉体的、精神的疲労によって蒼ざめていた。 > 「兄は、きっと・・・・ずっと、私たちを『憎んで』いたんでしょう。・・・・・・・・気付かなかった。」 > レンシェルマは、そう言って俯いた。そんなレンシェルマに、プリムラが気遣わしげに問う。 > 「それで・・・・傷は、もういいの?」 > それで、レンシェルマははっと気付く。そういえば、言わなければならないことがあった。 > 「それは、大丈夫です。治してくださった人がいますから。・・・・実は、その人について、言わなければならないのです。 > 私を治してくれた人は、銀髪に、光で色を変える淡緑色の目をしていて・・・・『アリエス=オルフェーゼ=ラーナ』と、そう名乗っていました。」 > 銀の髪と、光で色を変える淡緑色の瞳は、『フェラナート』のものの特徴。そして・・・・その隠し名は、『ラーナ』。 > 絶えたと思われていた、フェラナート家の・・・・しかも『アリエス=オルフェーゼ』といえば、その名を歴史に刻まれている、500年も前に眠りについたとされる、れっきとした『フェラナート』の者だ。 > 決して、無関係とは言えまい。 > と・・・・その名を聞いた瞬間、アスターとプリムラは、どこか納得したような顔になった。 > 「ああ・・・・アリエス様に、会ったのね。」 > 「知っているのですか!?」 > 「ええ・・・・。」 > そう言って、二人は曖昧な・・・・しかし、確かな慈しみをを湛えた微笑を浮かべた。 ―― 久遠:この間の三連短編ラストの直後かしらね。 ・・・・・レンちゃん、強いわ。 > > 幼い頃のアスターとプリムラは、幼馴染で、婚約者だった。青い瞳の大人たちの中にあって、唯一金茶の瞳を持っていた少女は、『予見』の力を持つ、特殊な存在だった。 > しかし、アスターにはそんなことは関係なかった。数少ない同年代で、大切な幼馴染だった。 ユア:なんか、こういう関係って、好きですね。 久遠:異能の力を嫌わず厭わず、受け入れてるから。 ユア:それも含めて、です。 > アリエスは、二人に歩み寄り・・・・地に膝をついて目線を合わせると、二人を掻き抱いたのである。 > 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ように。」 > 耳元で、何かを囁かれた。しかし、その声は本当に小さくて、アスターには聞き取れない。 > しかし、その時彼女の肩越しに見た、祖父と父の悲しげな顔が、妙に印象的だった。 ―― > > 聞こえた。アスターが聞き取れなかった言葉はしかし、離れた場所にいたレンシェルマには、なぜか聞こえていた。 >『あなた達が幸せにあれますように。私の犠牲となりませんように。』 > そう、アリエスは言っていたのだ。 ユア:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(涙目 久遠:アリエスちゃん、哀しすぎるわよう。 ありえないようなことだけど、『幸せ』って、『皆』でなるものよう。 > ―― 村はずれの高台は、少年のお気に入りの場所だった。彼の育った村が一望できるからだ。特に、今日のような晴れた日が一番いい。少年は、今日も高台への道を急いでいた。 > 少年の名は、ジェム。『ジェム=クラリア=フィリィ=サーヴァリル』というのがフルネームである。 > 彼自身は知らないことだが、『ユヴェル=ディティス=フィリオ=サーヴァリル』の従弟であり、血の濃さでは異母兄弟に当たる人物だ。 > ユヴェルの父とジェムの父は、一卵性双生児だった。サーヴァリルの長となったのはジェムの父であり、ユヴェルの父は旅に出て、村に帰る事無く結婚し・・・・亡くなった。 ユア:『運命(さだめ)の画 一筆違えば 別の悲劇 by詠み人知らず』でしょうか。 久遠:何かが、違えば、ジェムちゃんが、ユヴェルちゃんになったと? ユア:そうかもしれないそうじゃ無いかもしれない。 > 「・・・・・・・・ユヴェルは、死にました。・・・・私の、責任です。」 > そうして、アリエスは語りだす。悲しげな瞳ながらも、淡々と語り続ける。 > ユヴェルとの出会い。 > 共に旅した日々。 > 告げられた言葉。 > そして・・・・その最後を。 > そうして、最後に深々と頭を下げた。 > 「謝って、許されることではない。それは、解っています。そして・・・・本来ならば、ここへ来ないほうが良かったことも。ですが・・・・完全に記憶が封じられる前に、言いたかった。」 > 伏せた目の縁に、涙はない。しかし、その揺らがぬ声が、号泣するよりも如実に心情を伝える。それは・・・・虚無、だ。喜怒哀楽の全ての感情を通り越した果てにある、完全な虚無。 ユア;・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(滝涙&啜り上げ 久遠:言っちゃ行けないのかもしれないけどね、言わしてもらうわ!! アリエスちゃん、貴方、馬鹿!? 喜怒哀楽なんかを超越しちゃった完全な虚無なんてね。 本当に、心の底から、魂の一雫から愛していた人を無くさないと出てこないわ。 なのに、『運命の一対』なんて言葉で逃げるな。 キッカケはそうでも、愛には違いないでしょうが!! ユア:久遠、言い過ぎです。ですが、私の本心にも近いです。 それだけ、『心』を締めていたからこそ、訪れたのではないですか? > >『この時・・・・薄れる記憶と意識の中で、私が願ったのは・・・・『サーヴァリルの血筋に、守護を。』』 > > 長くは離れていないはずなのに、懐かしい声が・・・・・・・・ > >『その願いだけは、記憶を封じられた私の中にも残ってた。だから、私は、サーヴァリル家に新たな子が生まれるたびに、ここに訪れ、守護を願った。』 > > ここにいるはずのない、過去の記憶にその姿を見ていたはずの人物の声が・・・・・・・・ > >『だから、アスターとプリムラを、私を知っていた。』 > > 会いたいと望んでいた、その声が・・・・・・・・ > >『これが、知りたかったの?・・・・レン。私を愚かだと思う? > でも・・・・私の望みは、あの時から同じ。私は・・・・私のせいで傷つく人を見たくない。私が背負えるものは、全て、背負うよ。』 > > アリエスの声が、聞こえた。 ユア:みゅ・・・・・・・・・・・(涙で言葉でず) 久遠:ある意味で、《破滅を呼ぶ占い師》ちゃんに、近いわね。 自分(の予言)のせいで、傷つく人が居て欲しくない。だから、背負える苦痛は自分で背負う。 ・・・・・・アリエスちゃん、幸せ?・・・・かも知れないけど。 ユア:貴方の選んだ道で、貴方が背負えるものを背負った道の中で、傷つき泣き伏せる人が必ず居るよ?(涙を拭いつつ > > > あとがき、或いは語り部の告げる未来 >語:やあ!久しぶりだね、元気だったかな?今回はどうだっただろう? > さて・・・・朱琉の時間が無いから、早速次回の欠片を語るよ。 > 繋がる縁を頼り、導きの言葉に依って、人は集まる。 > そこには魔も、神も、また等しく。 > 響き始めた終焉への序曲の裏側にて、 > もう一つの企みも、また動き始める。 > 次回、『時の旅人』61話、『動き出すものたち』 > じゃあ、またね! ユア:楽しく詠ませてもらい、涙涙させていただきました。 久遠:本気に泣いていたものね。 ユア:・・・・・・一つ、質問です。 『アリエス嬢は、大切な人が傷つかずに済むならば、自分を犠牲に・・・生け贄?にしますか?』 久遠:解りきってる質問じゃない? ユア:一応です、九月ぐらいですかね、作中時間の。 二人:・・・・・・・・・・・なにはともあれ、これからもよろしくです。 > > |
18061 | 時の旅人 61:動き出すものたち | 羅城 朱琉 | 2007/4/23 17:57:34 |
記事番号17980へのコメント こんにちは、お久しぶりです、羅城 朱琉です。 長らくお待たせしてすみません。時の旅人61話、ついに更新です! では、早速どうぞ! 時の旅人 61:動き出すものたち ルピナスたちにナビをしながら、レンシェルマが望むものを見ているとき。その全てに平行して、語り部は自らもまた灰色の世界に独り佇んでいた。 その身に纏うのは、体にフィットする、裾に『8』の字に似た銀糸の刺繍が入った上着に、着物によく似たものを二枚重ねたものを羽織り、煌めく領巾を腕に絡ませ、闇を吸い込んだような漆黒のズボンとブーツ以外全てを白で統一したもの・・・・語り部の、本来の姿。それに伴って、銀の髪は一層輝きを増し、眩い白銀に。瞳もまた、純粋な銀色に染め替えられていた。 これこそが、語り部の本来の姿。『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』の役割を持つ者。``螺旋の預言者’’レイノリス=フォーティア=プレカーリ=アレイジア=ラウリス=レイズファータ。 今、その手にあの『本』は無い。何も持たぬ右手を虚空に差し出し、何の感情も見出せぬ表情で、語り部は告げた。 「我は、時の主。``螺旋の預言者’’。全ての時に等しく在りて、流れゆく時を見定めるもの。」 それは、呪文ですらない、ただの呼びかけ。しかし、時の主であり、『時』そのものである語り部にとっては、それで十分すぎるほどに効果を発揮する。 「我が声に答えよ。我が元へ集え。変革の鐘を打ち鳴らせ。望むならば、意志持つものよ。力は、その手の内に有り。」 詩歌を詠ずるように、語り部は呼びかける。『時』を感知し、『運命』を破壊する意志をもつ、すべての存在に。そして・・・・その存在に、連なるものに。 「志あらば来たれ。深き森、名も無き地。我は導かん。」 そして、その手から伸びる、糸のような光。言葉を伝え、そして、この場へと導くための便(よすが)。 語り部は、唱えながらも気付いていた。 灰色の世界の一部を黒く染め替える『闇』の存在に。 それは、触手だ。 『時』の欠片を、捉えるために放たれた、触手なのだ、と・・・・・・・・ 語り部は、理解していた。 * * * * * 『始まったわ。』 『・・・・そうだな。』 銀と黒、それぞれを纏う二人の女性は、互いに複雑な顔をして闇の中をたゆたっていた。 『これが、本当に救いに至る道なのか・・・・それは、我にもわからぬ。』 『信じてみたらどう?仮にも・・・・・・・・なのよ?』 ‘’華散夜の滅消者”アミリータと、”夢繰る創世者”ファラライナ。異界の『時空の王』たる二人だ。 『信じる・・・・か。我には縁のない言葉だ。全てはあるがまま、なすがままにしかならない。全ては不変、それが『我』の真理。』 『私は信じてる。それが全てだもの。定めを覆し、決められた道を拒む。全ては変化する。それが『私』の真理。』 鏡に映したように左右対称に二人は笑う。 それは、何かを暗示するように・・・・。 * * * * * ―― 夜霧が満ちて 道を隠し 探る手に絡む 茨の棘 迷い人は 救いを求め 縋るように 天を仰ぐ ―― 嫋々と、声は闇に響く。低めではあるが響きのよい女声だ。 ―― 氷鏡に映る 残酷な真実 水鏡に映る 優しい偽り 錆びた泉に 映り込んでは 彷徨う心を 迷宮に誘う ―― 朗々と、声は闇に広がる。黒を纏う女性から発せられる声だ。 ―― 天地を映す 合わせ鏡 惑いの心は 月影に溶けて 暖かな闇に 包まれ眠る 全てを忘れ 安らぎの内に ―― 歌う女性は、ルートレス。知る真実を歌に込めて、世界に対して歌い聞かせる。 ―― 合わせ鏡は もとは一つ 欠けた鏡を 重ねては 紡ぐ無限の 迷宮迷夢 誰も知らない 鏡歌 眠る心は もとは足掻く 歪んだ心を 砕いては 忘れ捨て去り 縺れた絆 誰も知らない 恋情歌 ―― 世界に挑むように、歌い続ける。 さあ、この歌に込められた『真実』を読み解いて見せろ、と。 あとがき、或いは語り部の告げる未来 語:やあ、ものすごく間が空いてしまったけど、元気にしていたかな?今回はどうだっただろう? さて、第5部も残すところあと2話!連続で投稿するから、楽しみに読んで欲しい。 じゃあ、未来の欠片を語るよ。 歌われたのは、真実を告げる歌。 まどろむ乙女の下にも、歌は届く。 それは眠りへ誘う子守唄か、眠りを砕く哀歌か・・・・? 今、乙女は最後の秘密を解き明かす。 次回、『時の旅人』62話、『最後の真実』 じゃあ、また次回でね! |
18062 | 時の旅人 62:最後の真実 | 羅城 朱琉 | 2007/4/23 17:58:52 |
記事番号17980へのコメント こんにちは、羅城 朱琉です。 第5部もあと2話!そこまでは、連続して投稿します。 では、早速どうぞ! 時の旅人 62:最後の真実 暖かな闇の中で、アリエスはまどろんでいた。 疲れ果てた身体と心を癒すように、闇は優しくアリエスを包み込む。・・・・例え、それが罠だと解っていても、身を委ねたくなるほどに。 と、眠りを覚ますものがあった。 それは、歌だ。女性の声で歌われる、歌。 妙に興味をそそられて、アリエスは半ば以上まどろみの内にいながら、意識の一部をその歌に向けた。 何かの意志を感じさせる歌である。それは、不思議なほどに。 何を求めて、歌を歌っているのだろうか・・・・? 「謎掛けだよ、アリエス=オルフェーゼ。」 突然響いた声に、ぼんやりとしていた意識が覚醒させられた。 「眠りこけている暇が、あるとは思えないのだがな。」 歌と同じ声を持つ女性だ。上も下もわからぬ暗闇に溶ける、漆黒の男子の礼装と黒髪黒瞳。見知らぬ女性だ。 「誰です!?」 「『不動の放浪者』ルートレス。最近は、到底『不動の』とはいえぬほどに動いているがね。」 「・・・・・・・・。」 「不審、か?当然だな。『中枢予定表』の中に侵入できる私を、あっさり信用するほどにお人好しならば、そもそもこんな所に居まいよ。」 ルートレスは皮肉げに笑い、アリエスの顎をくい、と持ち上げた。その手を払いのけ、アリエスは飛びずさる。それを見て、ルートレスはまた笑った。 「どうやら、『中枢予定表』の精神支配は、完全に解けたようだな。今も、自殺まがいの真似を望んでいるか?」 「・・・・・・・・・・・・あなたは、何を知っていると?」 「おおよそ、知らないことはないだろうな。あの『語り部』の知らぬ・・・・いや、忘れていることですら、私は知っている。 アリエス=オルフェーゼにかけられていた精神支配は、実は遥か昔・・・・そもそも貴殿の時が止まった、あの500年前にかけられていたことも。それに・・・・そう、『放浪の語り部』こと『螺旋の預言者』と『中枢予定表』、『夢繰る創世者』と『華散夜の滅消者』。全ての『時空の王』にまつわる、情けなくも馬鹿馬鹿しい真実も・・・・な。」 くつくつと笑って、ルートレスは一方的に言う。 「あの歌は、時の真実を歌ったもの。真実を見つけるといい、アリエス=オルフェーゼ。全ての枷が外れた今、貴殿が再び戦う意志を持てるのであれば。 この場は、謎解きをするには実に都合のいい場所だ。望んで得られぬ答えはない。『時』と同調するのも、ここならば容易であろうよ。」 声を響かせ、ルートレスは消える。 「・・・・・・・・一体、何をしにきたのでしょうか・・・・?」 呆れたように呟いて、アリエスは再び目を閉じる。しかし、心地よい眠りは訪れなかった。 そして、また歌が響き始める。あの『ルートレス』が歌っているのだろうか? (別に、興味があるわけではないんですけれども・・・・暇つぶしには、なるでしょうか?) 眠ることを諦め、アリエスは歌の意味を考え始めた。 ―― 夜霧が満ちて 道を隠し 探る手に絡む 茨の棘 迷い人は 救いを求め 縋るように 天を仰ぐ ―― 迷う人がいるのだろう。傷ついても、解らないほどに。 天に、救いなどないというのに。 ―― 氷鏡に映る 残酷な真実 水鏡に映る 優しい偽り 錆びた泉に 映り込んでは 彷徨う心を 迷宮に誘う ―― 氷鏡も水鏡も、共に意味するところは『月』。真実は残酷。偽りは優しい。それは、解りきったこと。 『錆びた泉』は、何かの比喩だろうか?二つの月が、迷い人を迷宮に誘う。 ―― 天地を映す 合わせ鏡 惑いの心は 月影に溶けて 暖かな闇に 包まれ眠る 全てを忘れ 安らぎの内に ―― 月は、鏡に例えられる。二つの月は、二つの鏡。大きな合わせ鏡。 暖かな闇、それは、ここのこと?ならば、迷い人は・・・・私(アリエス)? ―― 合わせ鏡は もとは一つ 欠けた鏡を 重ねては 紡ぐ無限の 迷宮迷夢 誰も知らない 鏡歌 眠る心は もとは足掻く 歪んだ心を 砕いては 忘れ捨て去り 縺れた絆 誰も知らない 恋情歌 ―― 合わせ鏡、鏡は月。鏡は、写し取るもの。何を写し取った? 欠けた鏡、壊れた鏡。欠けた月の、それは例え。割れた鏡は戻らない。元は一つであったのに。 欠けた鏡が紡ぐ迷宮。それは、何を意味している? 眠る心、歪んだ心。それが私(アリエス)の事ならば、確かに、私は足掻いていた。それをしなくなったのは、どうして? 心を砕き、想っていたのは、大切な人のこと。その絆を捨てるほどに、私は『四大家』を重んじていただろうか? 私(アリエス)は、どこから狂っていった? その答えは。全ての答えは。どこにある? 伝えられる意思がある。 (いくつかヒントをあげよう。 一つ目は、『時空の王』たちについて。『夢繰る創世者』は創世と過去を、『華散夜の滅消者』は破壊と未来を司る。そして、『螺旋の預言者』と『中枢予定表』は、現在を司る『時空の王』。3つは一つのはずなのに、なぜ『時空の王』の管理区域は2つに分かれているんだろうね? 二つ目は、『月』。確かに『月』は『鏡』だ。日の光を受けて、月は輝く。でも、何も知らぬものが月を見て、どうしてそれを『鏡』とわかるだろう?それ自体輝いていると、思うのではないかな? 三つ目は・・・・全ての答えについて。 全ては、『運命』の一言に集束する。) 全てを合わせて、アリエスは考える。 迷い人。 月と鏡。 過去、未来、現在。 運命。 そして、私(アリエス)。 そして・・・・・・・・ 「まさか・・・・・・・・!? いえ、そんなはずは・・・・ッ!!」 アリエスは、唐突に浮かんだ自分の考えを必死で打ち消した。しかし・・・・それ以上に、全てが奇妙なほどに合致するその説を、納得してしまう自分が居る。 そして、止めとばかりに、その一言は発せられた。 「そう、それが真実。 『現在』は、二つある。『現在』を司る『時空の王』もまた、二人いる。」 ルートレスは告げる。その『真実』を。 「『中枢予定表』は、『螺旋の預言者』が作り出したものではない。 あの二人は対等、根本は同一にして対となる存在だ。」 あとがき、或いは語り部(代理)の告げる未来 アミイ:さて、こんにちは!今回は内容が内容、レイちゃんも知らないようなことまで出てきたから、私が代わりにあとがきを務めるわね。 さて、今回はどうだったかしら?次回で第5部もラスト!いろいろと急転直下の展開が続く中だけど、ついてきてくれると嬉しいわ。 じゃあ、次回予告、行くわね。 見せつけられた『正しい未来』。それは、到底許容できるものではなく。 怒りの咆哮は、虚しさを掻き立てるだけ。 もたらされる報せは吉報か、凶報か・・・・? 指し示される道へ向けて、今、旅立つ。 次回、『時の旅人』63話、『取り戻すために』 じゃあ、次回でね! |
18063 | 時の旅人 63:取り戻すために | 羅城 朱琉 | 2007/4/23 17:59:53 |
記事番号17980へのコメント こんにちは、羅城 朱琉です。 前回、「何だそれは!?」なことが明かされたばかりですが、今回も叫ばれるだろう内容になっておりますので、気をつけてください。 では、第5部ラストを、どうぞ! 時の旅人 63:取り戻すために 語り部は、自らの意識を現世へと引き戻す。少しずつ視界がはっきりしてくると、皆の表情も窺えた。皆一同に夢から覚めたような顔をして、呆然とこちらを眺めていた。 「さて、見えたかな?」 語り部は、虚ろに微笑んで言った。 * * * * * 輝く闇が、胎動する。 * * * * * 「どういうことだよ、あれは・・・・ッ!」 ルピナスの声が、震えている。怒りか、困惑か、或いは両方か。それは、語り部には解らなかったけれど。 「見たものそのままさ。あれが、『正しい未来』。本当ならあるはずだった、一番被害が少ない未来さ。」 言い捨てるように言った言葉には、僅かに怒りが含まれているようにも思えた。 * * * * * 標的を目指して、輝く闇は触手を伸ばす。 * * * * * 何かを言いかけて口を閉ざしたレンシェルマに、語り部は曖昧な微笑を浮かべた。 「真実は、重いだろう?」 言う言葉は、レンシェルマに対してのもの。そして同時に、この場にいる全ての者たちへのもの。 「重過ぎるくらいに、重いだろう? でもね・・・・・・・・アリエスは、今までずっと、それを背負ってきたんだよ。たった一人で、ね。このことも全部知ってたんだ。」 一体、どれだけのものを、アリエスは背負っていたのか・・・・?それは、彼女を知るものに共通して沸き起こった疑問だった。 * * * * * 己の力へ、力となるものへ。輝く闇は、既に『それ』を見出している。 * * * * * 「・・・・・・・・ああ、もう一人、来たね。」 「解ってるナラ、迎えくらい出してよネ。ボクはアナタ達とは違って、空間移動なんて器用なマネは出来ないんだからサ。」 外ハネ気味の黒褐色のショートヘアに、右が琥珀色、左が緑がかったレモンイエローという、変わった取り合わせの、どこか猫を思わせる瞳の少女が、窓の外から顔を出した。せいぜい12歳程度であろうに、その口調はどこか偉そうで、その場の皆は呆気に取られる。しかし、語り部はその少女を知っていた。 「エリカ=レイラーズ。君が来るなんて思いもよらなかったよ。」 「ウソもいい加減にしてヨネ。ちゃんとボクを数に入れてたじゃないカ! ・・・・まあイイヨ。どうせ、ボクは連絡に来たダケだからネ。」 少女は家にも上がらず、その場で言葉を紡ぐ。 「一回しか言わないカラ、よく聞いてヨネ。 『不動の放浪者』のお姉サンが、アリエスって子を見つけたヨ。精神支配は解けてるケド、『中枢予定表』に取り込まれてるカラ、自力での脱出は期待しない方がイイってサ。 じゃあ、ボクはこれで・・・・」 「アリエスの居場所はどこなんだ!?」 エリカが言うだけ言って帰ろうとしたときには、既にルピナスはエリカを捕まえていた。力は決して強くないが、その瞳には有無を言わさない決意の光がある。エリカは小さく溜息をついて、ルピナスの瞳をまっすぐ見上げた。 「必死だネ、お兄サン。お兄サンが、『ルピナス』だろウ?アリエスの想い人。間違ってるかイ?」 子供の外見をしたエリカの瞳は、しかし理知的で。ルピナスは、驚きに身体を硬直させた。 * * * * * その触手が、標的に絡みつく。輝く闇は、歓喜に身を震わせた。 * * * * * 「キミがたどり着ける場所じゃナイ。機を測るんだネ。まだるっこしいと思うかもしれないケド、それが一番近道ダ。」 「そんな、悠長な・・・・」 ルピナスが怒鳴りかけた瞬間、それまで黙っていた語り部が口を開いた。 「悠長なことを言っている時間が、あるとは思えない。そろそろ、本格的に動いているよ、『あっち』も。」 「『中枢予定表』が動いていることくらい、知ってイル。ケド・・・・」 「『不動の放浪者』ルートレスか、『死と滅びの精霊』リコリス・・・・無理なら『矯正の鈴音』ファリウに、つなぎを取るといい。 ルートレスとは接点がないかもしれないが・・・・リコリスは、異界の神族エイレン=マイセリアルの元にいる。ファリウは、フィッツ=シュトラールに会えば呼び出せるはずだ。」 エリカの言葉をまるきり無視して、早口で語り部は続けた。 「?どうして、ここでフィッツの名前が出てくるんだ?」 「・・・・・・・・本人に聞いたほうがいい。」 語り部は、僅かに視線をずらして呟くように言う。その様子を見て、エリカが小さな声で言った。 「・・・・・・・・何か、今日のアナタは変ダヨ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」 それには答えず、語り部はうっすらと微笑んだ。 「さあ、そろそろ行くといい。僕は、もう少ししてから行くよ。あと一つだけ、やるべきことが残っているんだ。」 * * * * * 標的を引きずり込むことは出来ない。ならば・・・・と、触手をたどり、光る闇本体が近づく。 標的は、すぐそこにいる。 * * * * * そして、皆が慌しく旅立った後で。語り部は、皆を見送ったそのままで、彼らが立ち去った方を見つめたまま立っていた。 その口元にあるのは、うっすらとした笑顔。語り部にとってのポーカーフェイス。しかし、今日のそれは少し違っていた。 その微笑みは、どこか満足そうで・・・・やり遂げたような、笑みだった。 標的に絡みついた触手をたどり、光る闇が現世に現れる。 標的の名は・・・・『放浪の語り部』。いや、『螺旋の預言者』レイノリス=フォーティア=プレカーリ=アレイジア=ラウリス=レイズファータ。 光る闇の名は・・・・『中枢予定表』アルカディア。 闇が大きく顎を広げ、語り部を喰らいつくさんと襲い掛かる。 そして、語り部は・・・・・・・・ 「・・・・託したよ。」 笑って、言った。 完全に飲み込まれるその刹那まで、皆の背を見送って。 ずっと、静かに笑っていた。 輝く闇が消えて。語り部もまた、消えた。 多くの知識と、謎を抱いたまま、微笑だけを残して。 あとがき 或いは語り部(代理)が告げる未来 アミイ:こんにちは!さて、とんでもない終わり方をしてしまった第5部だけれども・・・・どうだったかしら?反応がかなり気になるわね・・・・。 さて、これまでのパターン通り次は徒然編・・・・なんだけれど、今回は徒然編は無し。代わりに、何話か外伝が続くことになるわ。だから、次回予告はその外伝の最後でするわね。 じゃあ、今度は外伝で会いましょう! |