◆−家族の写真 ACT71 五月十五日ー当日/言葉の真意 1 ー−十叶 夕海 (2007/2/21 05:37:41) No.17987
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17987家族の写真 ACT71 五月十五日ー当日/言葉の真意 1 ー十叶 夕海 2007/2/21 05:37:41





硝子の獣のように、
話せば 自分にダメージが来る。
解っていても、話さなくては行けない。
未来へ繋ぐ為に 話さなくては行けない
二千年近くも 黙っていたのだから。
今 話さなくては行けない。




家族の写真 ACT71 五月十五日―当日/言葉の真意 1 ―



ディスティアの鬱な言葉に、(本人はそういうつもりはないのだろうけど)シヴァは、彼女の腰を抱き寄せ、耳元でこう囁く。
「ああ、我が愛しの君よ。
 君が、心を闇に浸すことは無い。
 僕が君への愛を持って、晴らしてみせよう。
 なぜ?何故かって?僕は、君に常に、極限・愛(ラヴ・マックス)なのだから。」
「え〜、それだったら、俺も姫さんのこと、愛してるよ?」
「なんや、自分も、《風舞姫》はんのこと大好きや。」
「・・・・・・ディスティアさんは、私のお母さんです。」
「私も、好きなんだけどね?」
「いやいや、僕だって、好きだよ?
 少なくとも、暴走族野郎には負けないよーだ。」
「シヴァサン、ディスティアサンに、似合いまセン。」
彼の言葉をキッカケに、口々に、そう言う面々。
順に、クレセント、ラディハルト、イライアス、レンシェルマ、アルト、紫苑である。
ほとんど、抑止に近いだろう。
特に、紫苑は、はっきりと拒絶している。
「・・・・・・・・・・・続き、話していいかな?
 ハニー坊や、達?」
わいわいと話していた面々に凍りきった声で、ジュリは、言う。
嫉妬していた訳ではない。
《歌乙女》としてのディスティアには、そういう感情をー好意を向けられること自体重いことなのだ。
それを思っての言葉なのだ。








「この業界で《お伽噺》・・・・・というと、どういうのを知っている?
 順に言っていけ。」
さっきと打って変わって、教師のようにやんわりと、でも逆らう気を起こせないような声音で、問いかける。
「《道化師》が、《歌乙女》を手に入れようとするお話だな。
 けっきょくは、彼女は彼女が愛した人と逝ってしまう。」
「《片眼王》っていうのが、《戦乙女》を手に入れようとする話でしょ?
 俺なら、もっと強引にするのにな〜」
「・・・・・《歌乙女》が、《片眼王》に焦がれる話でしょう?
 でも、叶わなくて、最後には相打ちになるって。」
「《片眼王》ちゃんと《戦乙女》ちゃんを手に入れれば、不老不死でしょうと、死者を蘇らせるようなマネだって、出来るものでしょう?
 命は、限りと一回性があってこその物よ。」
それぞれの話をまとめるとそんな感じだった。
にぃと人の悪げな笑みを浮かべるジュリ。
それぞれの話が、予想の範疇だったからだろうか?
「・・・・・・《道化師》の《語り部》の工作は、大体成功しているか。
 隠すべきところは、隠しているね。」
「何処まで、話す、ジュリさん?
 《世界樹の翁》は、今は協力できないだろうし。
 《影の語り部》は、こっち側じゃないだろうし。
 《破滅の占師》は、こっちにいるだろうけど、関わりたくないんだけど?」
「おおまかに。
 真実と言うのは、絶対に誰かを傷つけてしまう物だよ。
 だけどね、運命と言う『化け物』に対抗するには、一番の武器。
 少なくとも、彼らのことを知らなければ、お話しにならないからね。」









「《お伽噺》というのは、ある意味での神話だ。
 こっちでいうなら、ある程度対応するのは、北欧とかケルトの方ね。
 今、此処にいるメンバーは、何らかの形で関わっている。
 もちろん、物語には関与しない部分でね。
 中枢にいて、今も関わっているのは、《泉の乙女》《守護する龍》《世界樹の翁》《道化師》《片眼王》《龍殺ノ英雄》《戦乙女》《歌乙女》《妖鳳王》《破滅を呼ぶ占師》《賢き愚者》《運命舞演三姉妹》あと、何人かいたかもしれないな。
 ただし、《破滅を呼ぶ占師》は、拗ねて異世界に閉じこもっているし、《賢き愚者》と《運命舞演三姉妹》は、八百年ほど前から行方不明だ。
 あと、とある数体を除いて、《お伽噺の幽霊》、《欠片ノ継承者(ピース・テラー)》・・・中枢にいて関わっている人物の魂と言うか、欠片だね、それを受け継いでいるのが通常だね。
 魂を次々に乗り移るのが、特徴だ。
 ・・・・・・・・・身体がないだけで、ここにいるんだろう、《破滅を呼ぶ占師》?」
すらすらと、目の前で本が広げられているように、話すジュリ。
突然、それを止めたかと思えば、ディスティアの真横、何もない空間に向かってそう言う。
【そりゃあねぇ、いるよう。
 久しぶりぃ、《泉の乙女》】
「ルキウスに、取り憑いてる!?」
ジュリの言葉と同時に、その空間に一つの存在が現れた。
漆黒の占い師風の衣装に、フード付きの濃い水色のボレロを着て居る。
濃い紫色の髪は、ただ艶やかで、しなやかに真っ直ぐで、彼の過ごした時間そのままに長かった。
瞳は、全てを見透かしているようなアイオライトの淡いブルー。
白く細い指に、やんわりと握られるのは、銀色のキセル。
年齢はよく解らず、また足がルキウスに吸い込まれるように佇んでいた。
ディスティアが、言葉につられて真横を向いた時に、ちょうど顔があったので、彼女は驚いていた。
【おやおやぁ、違うよう。
 厳密に言えば、だけどねぇ。
 それに、忘れたのかなぁ、君がイリヤって名前くれたのになぁ?】
「それは、そうだけど。」
「・・・・・・《破滅を呼ぶ占師》、そう言う話をさせる為に、指摘した訳じゃないんだけど?」
【はいはい。
 久しぶりの再会、喜んでもいいじゃない?】
降参、とでもいうように手を挙げ、空中に座り直す、《破滅を呼ぶ占師》。
それは、どこか、楽しんでいるようであった。
完全に無視して、ジュリは、次の話に移る。
「あと、お伽噺関連の詩歌に、こう言うのがあるな。
 【『【片眼王】と【戦乙女】が、手を取り、【歌乙女】が、それ支える時。
  世界すら手に入れ、死者さえ蘇るだろう。
 【歌乙女】なくとも、手に入るが、其の時【戦乙女】は、冥女王ヘルに囚われる】
 と言うヤツだ。
 結論だけを言うなら、それは真実だ。
 ただし、叶えたヤツが、一番最近でも八百年前と言う本当にお伽噺ノ範疇のね。」
「・・・・・・その時は、《戦乙女》と私の両方が、死亡したけれどね。
 だから、本当の成功なんて、少なくとも、こっちに舞台を移してから、一度しかない。」
そこで、ディスティアは、忌々しげに吐き捨てるようにそう言った。
ジュリは、それを静かに見つめている。
「・・・・・・・・・そこまで、覚えているんだね、《歌乙女》。」
「覚えていますよ、《泉の乙女》?
 ・・・・・・・私が、覚えてなくて、誰が覚えている?」
「今生も、《影》がいるか、なら本物か。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・辛くはないか?」
「自分で、架したこと。
 今生の弟の運命の方が、私には辛い。
 ・・・・・・《泉の乙女》、ジュリ=ローゼンマリアあのことを、真実を語るならば、この計画の同志でも、《妖鳳王》のかつての姉でも、殺します。
 成し遂げたいことがある人を私は、潰したくはない。」
二人は、二人と《守護する龍》《破滅を呼ぶ占い師》《世界樹の翁》にしか解らない会話をする。
他に、十人以上いるのに、その数人しか解らない会話。
同じ《お伽噺の幽霊》でもある、《戦乙女》アリエス、《妖鳳王》アルトは、未だ覚醒に至っていないのだ。
「・・・・・・・・あ〜、《風舞姫》さん、二人だけの会話しないでよ。」
「ごめんなさい、ライラ。
 ・・・・・・・続けてください。」
ライラの指摘に、ディスティアは、その会話を中断する。
そして、先を促した。
しかし、ジュリは、しばらく逡巡する。
(さて、どうしたものかな。
 ・・・・・・・あの《真実》は、語れない。)
「解ったわ、あの《真実》は語らない。
 だけど、君のカラクリと覚えられていないいくつかのことは話させてもらおう。
 ・・・・・二十数年前のあのデキゴトもね。」
「それは、かまわない。
 《歌乙女》として、こんなに早く生まれ変わるとは思ってもいなかった。」
「まぁね。
 歪みが収束して来てるのかもしれないけれどね。」
ディスティアの許可を得て、皮肉げにジュリは笑う。
その歪みの一端を、二千年近く代替わりしないで刻んでいる自分が《泉の乙女》である自分が担っているのだから。
この前の歪みを知っていて、止めなかった、ぶちこわさなかったのも、自分だ。
・・・・・誰かを、片翼を失うのは、何よりも辛いものだから。
だから、見逃してしまった、ゼオンの愚挙を。
「《片眼王》が、夫である《龍殺ノ英雄》を亡くした《戦乙女》を娶りたがり。
 それを断っている最中に、《泉の乙女》の弟でもあった《妖鳳王》が、横から攫い。
 彼女を妹のように想い、《片眼王》に恋慕していた《歌乙女》が、身を持って止め。
 《歌乙女》と《片眼王》が、闘い、相打ちで倒れ、滅ぶ。
 《道化師》が、全ての裏の黒い糸を引き、《語り部》となった。」
歌うようにジュリは語る。
ある意味で、驚きに値するないようだろうに、ただリュートを爪弾く吟遊詩人のように。
「ねぇねぇ、どこに、《泉の乙女》とか、関わるの?」
「よ、四代目?」
そこで口出しをするとは思っていなかったのか、アークの言葉に、思わず、レスも声を漏らしてしまった。
ジュリは、言葉には驚いてはいなかったが、その言葉を発した人間には驚いていた。
アルトかアリエスか、《お伽噺の幽霊》から、来ると思っていたのだろう。
「・・・・・・・ふふふふ、流石、シャアルとサラの義弟だ。
 関わっているさ。
 いるが、それは、あの《真実》に抵触するし、聞いて楽しい話じゃない。
 だから、話さない。
 ・・・・・・・・・・時期になれば、イヤでも解るさ。
 真実、っていうのは、刹なに切なく、辛いものだよ。
 それでは、私は語るよ、情報は武器だから。」
誤摩化すように、でも本心を語るジュリ。
哀しげで、苦しげで、でも「やり遂げねばならない」とでも述懐するように。
それでも、ジュリは、再び話し始めた。
「それから、時代は下る。
 私が、私の間でも、悲喜劇で終わらなかった話の方が多い。
 ・・・・・悲劇の比重の方が、重すぎる人生ばかりだ。
 七十年前、アメリカの禁酒法時代の私と先々代の《世界樹の翁》、《守護する龍》の終わり方だって。
 レーヴェとキリーが、幾らカモッラでも、あんな終わり方するはずはなかったのに。
 ・・・・・・・今の状況の一番の歪みはね、二十数年前。
 エイレンが、先代にあたるはずの《片眼王》アベル=レス=シルベスタと《戦乙女》セシル・リリーベル=ウツギ・アシュハを殺したこと。
 ・・・・・・そこで死んでいれば、終わっていたはずだった。
 ちなみにな、二人は夫婦だった。まぁ、珍しく喜劇の比重が大きかった。
 その二人には、一人息子がいた。
 名前をシヴァ=レス=シルベスタと言う。
 シヴァ=オルコット、お前のことだよ。」
自分が、歩んで来た道なのに、辛いことも哀しいことも、楽しいことも嬉しいこともあたはずなのに、ジュリは、ただ、語る。
それでも、その声に感情は宿らない。
宿らないのに・・・・・宿らないからこそ、『哀しい』と思わせる声音だった。
しかし、それをぶち壊すには、最後の言葉は十分だった。
顕著な反応を見せたのは、二人。
シヴァとルガーだった。
ルガーは、びくっと、怯えるような感じだ。顔も、紙のように真白になる。
それと、真逆だったのは、シヴァだった。
絞め殺す勢いで、ジュリに歩み寄り、首元を掴む。
「俺の親父は、グレン=オルコットだ。」
「・・・・・・・そこの、《人形》に、後は聞け。
 私にしたって、あれのだったから、知っているだけで、事情までは、お前の母親からまだ聞いていない。
 ・・・・・・・・・・シュロ、大丈夫だから、そのまま引っ込んでて。」
シヴァの言葉と剣幕を、暖簾に腕押しよろしく、受け流すジュリ。
しかし、それでも、首が絞まっているのには変わりなかった。
言葉の前半を顔色を真白にしているルガーとつかみかかって来ているシヴァに、後半を自分の影に居る使い魔に向ける。
その言葉で、シヴァはジュリを解放し、ルガーに向き直る。
「・・・・・・・・・・・何か知っているのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
『シヴァ、そういう風に聞いちゃ行けないわ。』
「誰だ、お前?」
『四月に、貴方が接触しようとした情報屋の一人。
 他方からは、《水衣の君》と呼ばれているわ。』
ルガーは、喋らなかった。
更に、問いただそうとするシヴァをとがめる声が、入った。
ディスティアでもない誰かの声。
それは、部屋の片隅にあったプロジェクターとその側のスピーカーが、源だった。
水を通してみるような水色の髪と瞳の女性ーセシルだった。
『初めまして、とう言うべきかしらね。
 シヴァ、私の愛しい坊や。』










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ほんきに、のんきに、緊張気味にある種『五月十五日編』の山場を迎えています。
作者的にも、登場人物的にも、クライマックス&真骨頂です。
というか、胃薬の使用量が、倍になってます。
次回に向けて、一番異の状態がヤバいかもです。

ともあれ、次回も、いろいろとバレます。
それが、何なのか、次回まで待て!!

それでは、また次回でお会いしましょう。

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17992家族の写真 ACT72 五月十五日ー当日/言葉の真意 2 ー十叶 夕海 2007/3/12 15:53:05
記事番号17987へのコメント









『初めまして、とう言うべきかしらね。
 シヴァ、私の愛しい坊や。』
セシルは、にっこり微笑みながら、そう言った。
その瞬間、完全に時間が止まったかと思うような沈黙が落ちる。
『最後に会ったの、死ぬ直前だから、二十一年、二十二年経つかしら?
 大きく育ったわね、アベルよりも、兄さんの方に似たかしら?』
近づけたら・・・・・・・現実にここに肉体があれば、背伸びして頭を撫でていそうなセシル。
その表情は、とても穏やかで、暖かで。
「・・・・・・・誰、なん、だ。」
シヴァは、やっとそれだけは、絞り出した。
ずっと、自分には縁のないと思っていた『お母さん』が、目の前にいるのだ。
『お母さんよ。
 ・・・・・・・・《凍れる樹姫》さん、《過去の人形(パストドール)》のこと話させてください。』
「いいよ、貴女なら話してもいい。」
『ありがとう。
 ・・・・・それと、《占札ノ使鬼姫》さん、《世界》の木蓮ちゃん、貸して。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・直接触りたいか?」
『直接じゃないわよ、どちらかと言えば、疑似よ。』
「はいはい。
 《我は 昏き深淵なる淵を覗き込み
  我は 明き階(きざはし)の頂き仰ぎ見て
  我は咎人 変わらぬ旧き精霊(とも)と
  我は理を破り 生み出せし者を
  両端の精霊を従えし者
  我が生み出せし者 《無貌の世界》夢表 木蓮。
  具現せよ具現せよ《使鬼召喚(ファミリア・サーモニング)》」
シヴァが、ほうけている間にとんとん拍子に話は進んだ。
エイレンに召喚された淡い紫色の髪と瞳の存在が、プロジェクターに、手を伸ばす。
『殻仮面 解除 了承?』
「ええ、承知の上よ。」
殻仮面(@フィルター)のことを木蓮は、忠告する。
それを異に介さず、彼女の手と合わせるように、セシルも手を伸ばす。
徐々に、二人の姿が入れ替わる。
完全に入れ替わると、木蓮は、『二階 エモーション 在中?其処 移動』とだけ、残し、プロジェクターから消える。
セシルは実体化する。
「・・・・・・二十年ぶり・・・・・・・。
 やっぱり、半分動かし方忘れてるわね。」
哀しげに、そう言う女性は先ほどまでの水を通してみたような色彩ではなく、硬い印象の銀髪と緑色の瞳という・・・・・・・シヴァと同じカラーリングと何処か似た容貌の小柄な女性。
二メートル近くある息子とは違い、150あるかないかぐらいなのだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大っきいわね。
 でも、いい顔してるわ、いい人に育ててもらったのね。」
シヴァに、近寄りぎゅっと抱き締める。
優しく優しく、ただ抱き締める。
「・・・・お、か・・あ、さん?」







「で、過去人形(パストドール)って?」
あの後、現実逃避をしたアークこと、《幻影処刑人(イリュージョンパニッシャー)》こと、《シルフィーダンサーズ》連合四代目を副長のレスが、実力行使で止めたり、ごたごたがあったが、ディスティアとアルティアの最強・・・・・もとい、最凶コンビで、半ば(ほとんど?)脅して、なだめた。
夕日が、沈みかけている現在、天窓から入る西日に染まったディスティアは、不機嫌そうに、隣に置いた箱ソファにちょこんと座ったセシルに、そう言った。
「イヤだ、怖いわ、ディスちゃん。」
「・・・・・・過去人形って、なんなんですか?」
「私も、詳しく製造法とか知っている訳じゃないわ。
 でも、幾つか言えることがあるわ。
 ・・・・・・過去人形は、人形(ひとがた)とよばれる術で構成されているの。
 過去に、存在していた人で、でも今は死んでいる人を象って、少しだけ違う存在として、存在する。
 私が、息子を逃がしたのは、兄が、ゼオン兄さんが、私とアベルを維持したり、蘇生させる為なら、甥っ子だろうと犠牲にするだろうから。
 過去人形を使ったのは、仲の良かったマルティナの秘書役をしてたから。
 モデルは、気付いているかもしれないけど、1000年前に、彼女と《凍れる樹姫》で争い、《凍れる樹姫》と結ばれた人です。
 名前は、ルーグ=ドゥシャス。
 人形の名前は、ルガー=ドゥルテン。
 彼に逃がしてもらうように、指示を出した。
 父の弟のグレン=オルコットへ、引き渡してくれるように。」
過ぎ去ってしまった過去を振り返り、懐かしみ惜しむかのように、セシルは話す。
しかし、その言葉には、一欠片足りとも、後悔の色は無かった。
むしろ、我が子を守り通した母親の姿が其処に在った。
「・・・・・・・方法は覚えていないけど、その後に機能停止、8年後に再起動するように、設定したの。
 それからは、シヴァの良き補佐になってくれたようね。
 私が話せるのは、此処まで、これ以上は時間も無いし、話すつもりは無いわ。」
そこで、セシルは、言葉を切り、何故かレスに、視線を向け、懐かしそうでありながら、からかいも含め、こう続けた。
それに対して、『やっぱり。』とでもいうように、会話に乗る。
「・・・・・にしても、懐かしい顔もみれたわね。
 レスちゃんが、こぉんなに、大きくなってるものねぇ。」
「やっぱり、セシル小母はんでありんしたか。」
「お・ね・え・さ・ん。」
「小母はんは小母はんでありんしょ?」
「お姉さん。
 でも、元気そうね。」
「そうでありんすねぇ、かれかこれ、二十三年ぶりかそこらでありんしょ?
 あちしも、小学校に入ったか入ってないかぐらいでありんしたから。」
「朱千代さんとリカルドさんとは、どう?」
「お母はんは、結核で逝きましたん。
 お父はんは、2年前に、お母はんの後追うように逝きましたわ。
 幸せやったと思いやすよ?
 ああ言う稼業やっとったんに、ちゃんと布団で死ねたんやから。
 できるんなら、孫見てから逝って欲しかったですわ。」
「あら、レスちゃん、相手いないの?」
「おるにはおんますよ?
 やけど、ちょいと、ライバル多いですわ。」
「あらあら。
 ・・・・・・・いずれにせよ、解答は《C.C》の本部で、かしら、ね?」
「そうでありんすかね。
 あちしも、お父はんの代わりに見届けなあきまへんですやろ?」
「・・・・・・ま、ともかく、数ヶ月後かしらね。
 それじゃ、これからも、《水衣の君》として、よろしくお願いします。」
レスとの会話に、あっけにとられて、黙っている面々に、そう言ってにっこりと挨拶をする、セシル。
彼女は最後に、抱き寄せた息子に、
「さようなら、また会えると言いわね。」
とだけ言って、離れ、二階に上がっていく。
多分、木蓮と交代して、戻るところへ戻る為だろう。




「悪いんだけど、何がなんだかな状況だし、整理説明してくれないかな?」
「《ギルトマスター》のいうことも、もっとも。
 それじゃ、そろそろ、整理しよっか。
 何人かは、表の家族に、心配されるだろうしね。」
《ギルトマスター》・・・レンシェルマの言葉に、ジュリは、くつくつと楽しげに笑い、足を組み直した。
「ええと、シヴァの親、アベルとセシルは、エイレンに殺された。
 それを、セシルの友人のマルティナ・・・マティの部下だった《人形》に、逃がさせた。
 他人が作ったものを《戦乙女》の・・・・・《失われた魔術》の用法とはいえ、起動再起動を操ってね。
 再起動したのが、今から、14年前、皮肉にも《クラン》が潰れた年ね。
 それで、当時、十一歳かしらね、シヴァと知り合って、チーム継いだりはしたみたい。
 この事情があるから、私は、シヴァとルガーを呼んだ。
 ・・・・・・・・闘って、過去と向き合えるか、シヴァ=オルコット、ルガー=ドゥルテン。
 それが聞きたい。
 ・・・親の始末をするならば、息子達が、居た方がいいだろう?」
耳が痛くなるほどの沈黙が、部屋を満たした。
誰も、喋ろうとしない。
喋ってしまったら、崩れるだろうと自覚しているように。
それでも、口火を切ったのは、ルガーだった。
「・・・・・・・・・私は、人ではないんですね。」
「そうだね、死ねないからね。
 同じ術を知っているし、壊れきるようなことも無い。
 ・・・・・・・・同じ顔を死なせるようなマネを誰がするか。」
はっきりと一切誤摩化さずに、ジュリは事実を告げる。
真実ではなく、事実を告げる。
嘘ではないけれど、本当のことでもない、そういう言葉。
それでも、最後の一言には、血の吐くような悔恨とカタい誓い・・・或いは祈りの響きを持っていた。
ルガーはそれ以上聞けなくなってしまったのだった。
別人だということをわかっていても、壊される・・・死なれることは、絶対にさせないと言っているのだ。
無意味なのが、解っていたとしても。
「・・・・・・・・・・・・・・・・それにしても、何の因果だろうね。
 《お伽噺の幽霊》関連以外で、《戦乙女》と《歌乙女》、《妖鳳王》、《龍殺ノ英雄》が、一緒に居て、《龍殺ノ英雄》がいないのに、《戦乙女》《妖鳳王》が、覚醒してない。
 ・・・・・・・それに、《戦乙女》が、こんなに転生してなきゃ、此処までごたごたしてないか。」
自分で壊す為にか、そんなことをつらつらと呟く。
そこで、アリエスとアルトは、違和感を覚えた。
自分たちが知ってる人物が、《龍殺ノ英雄》であることなのではないかと言う違和感。
「「あの・・・・っっっ」」
「落ち着いてね、そういうカップルモドキなのは、見ていて楽しいけど。」
「《ラビ》から、どうぞ。」
「《オルフェーゼ》から。」
アルトとアリエスが、確認しようとすると言葉が合わさり、少々気まずい。
おまけに、互いに譲り合うものだから、なかなか話が核心に行かないのだった。
でも、なぜか、それをジュリは懐かしそうに、見つめる。
弟夫婦を見つめる姉のような眼差しで。
「あててみせようか?
 ・・・・・レイティス=アイルテが、《竜殺ノ英雄》だってこと。
 そして、《オルフェーゼ》が、《戦乙女》の条件を満たしていること。
 そのふたつだろう?」
「ええ、まあ、そうです。」
「うん、その二つ。
 ぷらす、立場的に、俺が、《妖鳳王》じゃないかなとおもうけど?」
「・・・・・・・《歌乙女》、これは喜ぶべきなんだろうね。
 記憶が無い状況でも、こんなにも素晴らしい洞察力を保っているなんて。」
「師匠が師匠だからね。
 《万象知悉》と《エータ・ミレアム》。
 先の二大情報屋が、師匠だったしね。
 前者が死に、後者が裏切るまでね。
 ・・・・・・・・シツコイかもしれないですが、喋らないでくださいよ?」
「はいはい。」
一連の会話を経ても、ディスティアは、何かをかたくなに、隠そうとする
ある意味で、家族を仲間を守りたいが故の、言葉。
ある意味で、自衛から来るそんな哀しい言葉だった。
「・・・・・・・・・それをふまえて聞こう。
 さっきは聞き損ねた。
 シヴァ=オルコット、君は、過去と向き合えるか?
 向き合って、乗り越えれるか?」
「・・・さっきの人のこともあるし、向き合うさ。」
「なら、いい。」




その会話を、キッカケに、その日の会合は終了する。
さまざまな想いと願いと、困惑をそれぞれの胸の残して。




ほとんどの人が返った後、アルトが、ディスティアに話しかけた。
「《風舞姫》、さっきのは・・・・・・」
「ほんとう。
 嘘じゃないわ。
 でも、その前に、私は貴方の姉よ。
 それが、一番の行動理由だもの。」




そして、それぞれの感情が錯綜するまま、夜になっていくのだった。






@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



色々とごたごたした一回。
これでも、エピソードを幾つか減らしてるんです。
次回から数回は、五月十五日の夜を進めていきます。
幾つかのもやもやが、解消すれば、これ幸い。

それでは、また次回で。

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18067家族の写真 ACT73 五月十五日ー夜 T/ただ守りたい者 @ ー十叶 夕海 2007/4/23 23:41:10
記事番号17987へのコメント








「・・・・・・・・さて、帰るにしても、帰るに帰れない。」
ほとんどが帰ってしまった後、ディスティアは、困っていた。
まだ意識を取り戻さないのが、二人。
後片付けは、終わったとは言え、二人を、詰め込んで帰ると言うのも、二人によく無いだろう。
宵颯には、傷に。ナツメには、心に。
刹だと、家に運び込む時、宙に浮いているように見えるだろうし。
色々と、無理だ。
「エヴァ、呼ぶか。」
そう言うと、ケータイで弟を呼び出す。
十数分後、家に居たのだろうか、ラフな格好にジャケット姿のエヴァンスが、やってきた。
「珍しいね。」
「まぁ、一人じゃ運ぶに運べないもの。」
「紫苑は?
 いつもなら、アイツが運ぶでしょ?」
「帰ったよ。
 ・・・・ああ、そうだ、父さん、今日いないし、夕飯何がいい?」
「この間の番組でやってた、キノコたっぷり牛肉グリルがいいな。」
「OK。
 んじゃ、適当に、客室にでも、寝かせておいて。」
「・・・・・無茶しないでね。」
「解ってるって。」
そんな会話をして、宵颯をエヴァンスに、引き渡した。
弟より、身長あると言え、軽いし家にいけば、もう一人の弟もいる。
そう思って、二人を送り出した。
「ん〜、キノコは、残ってたし。
 牛肉とあとは、里芋とイカで、煮物でもつくればいいし、したら、生姜も居るね。
 あ、頂き物のイチゴそろそろヤバいし、豆乳プリンでも作って、それに入れればいっか。」
などと、夕飯の算段をする。
それは、先ほどの痛いほどの無表情とは違い、優しいものだった。









「ディス姉さん・・・・・・・、髪・・・・。」
「いいの、ナツメに変えられないわ。」
「でも、伸ばしてたのに。
 ・・・・・エリスさんの仇、討つまで切らないって・・・。」
数時間後、やや遅めの夕食が出来たので、自分の部屋に寝かせていたナツメを起こすと、開口一番がそれだった。
膝の裏まであった髪は、昼間、ナツメを助ける為に飛び込んでいった時に、腰ほどの長さまで切られていた。
長さは、誓いだった。
だけれど、それで、家族を失うなんてコトはしたくなかった。

くぅぅぅ.......

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
そこに、ナツメのカワイイお腹の音が、響く。
笑いかけたのをディスティアは、必死で堪え、『夕飯にしようか。』と、ダイニングに連れて行った。
珍しく、兄弟五人は揃っていた。
父は、取材旅行(偽装だけど)、母は、講演でいなかった。
アークは、今日は帰らないと、会合の後に言われたので帰らないのだろう。
そこで、長姉・ファランが、いきなり、こう言った。
「は?来週から、出向?何の?」
「本社の。
 私の今居るとこ、それなりに、業績悪かったみたいなんだけど、私が店長になってから、それなりに、業績上がったしね。
 それで、本社に上がって、アドバイザーになって欲しいんだと。」
「行くの?」
「行くよ。
 動かないでいると、サラとかのこと想い出しちゃいそうだもん。」
「そっか。」
と、自分の会話の影響か、暗くなり始めたのを察したファランは、この台詞で止めようとした。
それはある意味、爆弾投下に等しかったが。
「そういえばさ、今日、エヴァンス、男の子担ぎ込んでたけれど、あれってディスのなんだって?」
「ええ、まあそうだけど
 私の友人だった男からの預かりモノだよ。」
それでも、平穏を装いディスティアは答える。
色々な、想いがよぎる。
もう友人でも・・・・・・仲間ですら無い、いや無くなった男のことだ。
闇霧榮太郎。
ディスティアにとっては、五年前からの付き合いで、三年前からは、大学の同じ演劇サークルにもいた。
《ラビ》にとっては、裏社会での師匠だった。
でも、お伽噺では、《語り部》で、《道化師》だ。
だからこそ、ディスティアも、アルトも、どうすれば良いか解らない。
それに、ディスティアは、今日の会合で一つ引っかかっていることがあった。
ジュリは、『何』を『見て』、ああまで驚いたと言うこと。
流れからして、義弟のルキウスであることは間違いない、はずだ。
「って、ことは、居候増えるの、ディス姉さん。」
「そうだね。」
「・・・・・お父さん、またテンパりそう。」
「だよなぁ、ディス姉、何で拾って来たの?」
「・・・・・・放っておけなかったからかな。」
そして、夕ご飯は続き終わった。









午後九時過ぎー。
風呂に入る間、ナツメに、少し宵颯を見ておいてくれるように頼んだ。
アルトとエヴァンスは、高校の中間テストが近いらしいし、ファランは、酔いつぶれている。
それに、エヴァンスに、ルキウスをお風呂に入れてもらった以上、見ていてもらう訳にも行かない。
・・・・・・というか、笑顔のまま、宵颯を抹殺しかねない。
「敵だったって言ったのがマズかったか。」
ラヴェンダーの香りのする紫乳白色の湯につかりながら、ディスティアはそう呟く。
ぐでーっと、力を抜いて、風呂の縁に顔を載せる。
(だけどなぁ、エヴァンスも、《気殺》を宿せる素地があるんだけどね。
 肉体的にも、精神的にも。)
「それと、これとは、違うんだろうけどね。」
青く輝く、昨日よりも少し短くなった髪を湯に散らしながら、歌うように嘆くように、ディスティアは紡ぐ。
「だけど、宵颯も、ベルさんも、そして、弟のエヴァンスも。
 何を犠牲に・・・・命を捨てても、守りたいと願い祈り、得たいものがある。
 哀しむ人がいようとも、されとて、譲れるものでは無しに。」
『・・・・・・・・・・ディス、恨んでるか?』
「なにを?
 《風舞姫》がいなかったら、もっと早く潰れていたわ。」
『私が、お前の副人格出ないことに気付いていてもか?』
彼女の呟きに、《風舞姫》が、入って来た。
何時もとは違い、どこか、雨に濡れた仔犬のように俯いた感情も伝わってくる。
それでも、とディスティアは想う。
たかだか、14歳のガキが、ほとんど何の後ろ盾も無く、誰か寄る辺なくして、歩んでいけるほど、あの稼業は甘くない。
歩んでいけたとしても、『復讐』か、『狂気』に染まってしまう。
染まらずに、歩んで来れたのは、彼女の存在が大きい。
そう、ディスティアは想うのだ。
「・・・・・・ねぇ、《風舞姫》、私は貴女のことが大好き。
 貴女がいなかったら、どうなっていたか解らないしね。」
そうして、入浴が終わり、着替える前に神を乾かそうと、バスローブに手を伸ばしたときだった。
客室の方から、絹を裂くようなナツメの悲鳴が、客間から聞こえてくる。
(宵颯、起きたのか。)
それを聞いた途端、弓のように、ディスティアは、駆け出す。
バスローブとは言え、服を掴んでいくのは、流石と言うべきか。
客間、の前に来ると、鍔の無い脇差し・・・ドスを鞘から抜いているエヴァンスがいた。
その横には、アルトが、『ぎゃぁ、エヴァ兄、何抜いてんの』とでも言う風に、あわあわしていた。
彼は、隠れ・・・・・てもいないが、シスコンなのだ。
それでも、仮にも、特攻隊長兼親衛隊長、滅多なことでは抜かないのに。
「アルト、エヴァンスを止めろ!!」
そう言いつつ、ディスティアも、客間の入り口から、中をのぞく。
畳敷きの部屋の中央の布団に、宵颯が寝ているのだが、その彼に抱き締められる形で、ナツメも、布団の上にいる。
今も、きゃあきゃあ、ナツメは騒いでいる。
寝ぼけているのだろう。
宵颯のお母さんは、かなり小柄だったと、ディスティアは聞いていた。
(今のナツメは・・・・・・正気じゃないし、うん、気絶させよう。)
ディスティアは、そう結論づけると?、とっと二人に近づき、ナツメの首筋を、首が飛ばない程度に打ち、気絶させる。
その上で、宵颯を起こさないように、指を外し、彼女を抱き上げた。
入り口のまだ、いきり立っているエヴァンスとアルトに、こう言った。
「エヴァは、姉さんにナツメを渡して、着替えさせて、ベッドにいれてあげて。
 アルトは、しばらく、この子を見てて。」
「・・・・・・・・・」
「ディス姉ぇ?」
「・・・・アルトだと、ナツメを抱えれないし。
 エヴァ、頭冷やしな。
《月天女》の三代目として、命じられたい?」
何か言い足そうに、していたエヴァンスに、ディスティアは、そう返す。
それは、高圧的と言うよりは、何処か哀しげだ。
彼女が知っていて、彼が知らない諸々ことが、その表情を作り出しているのだろう。
「・・・・・わかった。
 おやすみ、ディス姉さん。」
渋々・・・・・・というよりは、姉にそう言う顔をされては、あがなえないとでも言うように、エヴァンスは、ナツメを抱えて立ち去る。
彼が去った後、アルトは、心底不思議そうに、姉に・・・・《風舞姫》にこう訊ねた。
「ディス姉ぇ、こいつどうすんの?
 手なづけて、戦力にするつもりなの?」
「・・・・・・・アルト、思考が、ラビと言うか、《エータ・ミレアム》よりになってる。
 実際、どうしたいんだろうね。
 ・・・・・・・・・・たぶん、こいつに、『普通』を体験させてあげたいのだと思う。」
「『普通』?」
「そう、朝飯食べて、弁当もって、学校行って、友達と馬鹿やって、退屈な授業受けて、弁当食べて、部活やって、買い食いしながら、帰る。
 ・・・・・・・・普通って大切よ。
 私は、13くらいから、どっぷりと裏にいるけど、だからこそ大切だと解る。
 ・・・・・私は、両方を持てたけどね・・・・・・・ってこと。」
「確かに、そうだね。
 ・・・・・・・ねぇ、着替えたら?」
「そ、そうね。
 じゃ、三十分ほどよろしく。」
そこまで、話して、やっと裸ではないが、それよりも、或る意味恥ずかしいというか、寒々しい格好だと気付き、やや急ぎ足で、風呂場に戻っていくディスティア。
「・・・・・・・・・・ディス姉ぇは、甘いのかもしれないな。」
(今も、昔も、《歌乙女》であった時から。
だれにも、聞かれることを望んでいない呟きをアルトは洩らす。
ヤバいところは、心の中でのみ呟いた。










五十分後。
約束より、少し遅れたが、ディスティアは、アルトと交代した。
ルキウスをミニベビーベッドに寝かせ、自身は、それを揺らしながら、ハードカバーの本のページを繰るか、紅茶を飲んでいた。
「眠れ、眠れ、ただただ穏やかに ただただ深く深く眠れ。
 身体の傷を癒し ココロの瑕を塞ぎ もう一度立ち上がれるように、眠れ。」
低く低く、ディスティアは歌う。
宵颯になのか、ルキウスになのか、ただ歌う。
そして、一時間ほどが過ぎ、時計が、十一時半を告げてしばらく。
「・・・・・・・ここ、どこ?」
「気がついたか。
 ここは、私の家だよ、宵颯。」
宵颯が、意識を取り戻したのだった。






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こんにちは、一月以上ぶりの本編です。
遅れたのは、色々と迷いまくったからなのですが、そう言う部分はこの話には入ってません。
本来、一話に収める予定でしたが、どう考えても、収めると8000字の大台突破しそうだと、思ってしまったからで。
もう一話、「五月十五日ー夜 U/ただ守りたい者 Aー」として、次回載せます。

どうなるのかな〜(遠い目)
そう思いつつ、次回であいましょう。

それでは失礼します。