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18462 | 家族の写真ACT97 哀しいほどに不器用な優しさ | 十叶 夕海 | 2008/11/21 21:54:31 |
私が私で居るうちに。 《世界樹の翁》に手をかけないうちに。 それを回避する。 至ってはいけない結末を回避する為に。 私は、私を削る。 それが、二十数年前と六十数年前の償い。 もう、取り返しがつかないからこその愚かさ。 ACT97 哀しいほどに不器用な優しさ 梅雨の最中のある日のことだ。 そのある日の真夜中の事だ。 エイレンの店《デザートストーム》の店の片隅で、一人の小柄な女性と長身な風変わりな衣装の青年が居た。 女性は、カウンターから入れる、地下室から、ふらつきながら、出て来た。 そして、奥の方のカウンター席に、水のコップを持って、半ば崩れるように座った。 ほぼ同時に、虚空から、長身の青年が現れたのだ。 2メートル近い長身で、不揃いな黒に近い濃蒼色の髪に、逞しい体躯、pのような朱金の瞳 日に焼けていない白い肌を、黒いハイネックの袖のないタイプの上着と黒色の身体にぴったりとした上下の服で包んでいる。 また、髪に埋もれるように銀冠を付け、瞳を隠すようにバイザーのような黒いサングラスをかけている。 何処か、逞しい体躯の割には、儚い印象が先立つ青年だ。 女性は、エイレン。 男性は、騰蛇。 そして、その青年―騰蛇の言葉を受けるエイレンは、呼吸が目立って荒い、その上、顔色は紙のように白いのだ。 「エイレン、もう、無理だ。 止めろ、死ぬぞ。」 「まだ、死ねはしない。 まだ、終れない。」 「だが、お前の魔力は、千年前に、アヤツらを生み出したことで、千年前に比べても、半分も無いのだぞ。 それで、もう一組の二十二枚を作るのは、自殺行為だ。 俺は、お前が死ぬのを見たくは無い。」 「うん? 全部作るわけじゃない、十五枚を完成させればいい あの子と、あの子は、カモフラージュしても、二枚はオリジナルだしね。 何枚かは、先代以前から、造ってたから、最後の一縫いを入れればいい。 ・・・・・ナナシだけは、もう、手が付けようが無いけれど。」 必死に、言い募る騰蛇。 失いかけたモノをもう一度、踏み止まり、手に入れたのに、もう一度手放したく無いと泣く子どものようだった。 そう、昔、彼は、エイレンを殺しかけた。 自分から、殺しそうとしたわけではない。 では無いが、殺しかけたことに変わりがない。 元々、仲が良く無かった朱雀や、青龍とは、更に疎遠になってしまっている。 正確に言えば、青龍は、千年前の安倍晴明を殺しかけたときのように、「天空小父の中に、封印を」と言っている。 主ではないが、それに準じているエイレンが、それを阻止していると言う状況なのだ。 「だけど、エイレンの今の気は、死にかけの病人のそれ並みに、弱々しい。 なのに、何で止めないんだ。」 「時間が無いから。 本来、一枚造るのにでも、三ヶ月掛かってしまう。 だけど、決戦まで、六ヶ月も無い。」 どうにか、押しとどめようとするが、エイレンは、取り合わない。 終わりを少しでも、良い方向に向けれれば、いいとでもいうように、エイレンは、新しいタロットエレメンタルを作る。 「それでも、だ。 このままでは、決戦までどころか、早晩倒れてしまう。」 「でも、急がないと、間に合わないわ。」 「そっちよりも、エイレンの命の方が大切だ。」 「・・・・・・はいはい、騰蛇。 一応、主的に慕っているからこそ、その言動なのだろうけど、止めようね。 キモチが解らないわけじゃないっしょ?」 「・・・・・・天空小父。」 いきなり、そう言いながら、現れたのは、青年―騰蛇と言うらしいーの知り合いらしい青年。 騰蛇よりも、やや若い印象。 そして、真夏の向日葵畑を思わせるような金髪と緑色の瞳で、蒼空色のニット帽と黒い長袖のTシャツの上に、虹の三倍よりの色数で染めたアロハシャツを羽織った服装をしていた。 若い印象ながらも、老獪な雰囲気が、印象的な青年。 「あ、天苑。 久しぶり、こっちに来るの数ヶ月ぶりよね。 前の飲み会以来だから。」 「そうだね、奇妙な《時神》様が関わったあの飲み会だね。 ・・・思ったより、消耗しているね。 青龍や、太陰は、ともかく、騰蛇が、心配するのは、解るほどだ。 エイレンちゃん、キミ、死ぬつもりかい?」 力無く、挨拶するエイレンに、挨拶を返すと言うよりも、つらつらと、独り言を流す天空。 どうやら、彼は、彼個人の意志と言うよりも、他の同僚に押されて来たようだ。 それでも、エイレンが心配と言う事には変わりないようだ。 最後の問いは、キツいながらも、その現れなのだ。 エイレンは、こう答える。 「ええ、そうよ。 そう言ったら?」 「・・・・・・・・・」 すっぱりと、断言した。 それに対して、騰蛇は、何か言おうとして、天空に押しとどめられる。 しかし、元より、何かを言う言葉を残されては居なかったのだろうけれど。 「私は、エイレンとしての私は、もう死んでいるのかもしれない。 ただ、《影の語り部》としての私が、私の屍を操っているのかもしれないわ。 でもね、エイレンは、完全に死んでいないの。」 「それで?」 「・・・《影の語り部》の本来の役割は・・・《御伽噺を終らせる》。 だけれど、離れて、《御伽噺を廻す》ことにしか考えていない。 それでも、エイレンの部分が、失いたく無いと思う仲間が居る。 確かに、《C.C.》を壊滅させる為の裏稼業の育成は必要だった。」 「エイレンちゃん、アレだけの目にあっても、まだ、人を見捨てる事が出来ないか。 一番初めから・・・・・・異能の力を持ち始めた頃からのオトモダチを失っても。 いや、自らの意思で、封印したとはいえ、 更にはこの稼業で、人を信じきれる方が稀だ。」 「うん、私は、大好きだし、これでも、人間だから。」 エイレンは、もう息を切らしても居なかったし、顔色に血の気が戻っている。 その様子に、騰蛇も、言葉を聞かざるえず、押し黙っている。 天空は、飄々と、時折、間の手を入れている。 なにやかにや言って、天空は、エイレンと最初期の頃から、付き合っている。 だから、過去の事―親を裏稼業に殺された事、相方の事、親交のあった仲間の殺害の事、オリジナルのタロットエレメンタル封印の事・・・数えきれないほどの事を、エイレンの側で、見ていたのだ。 それは、人ではないけれど、人の想いから生み出された十二天将が、人が人を捨てるに値するような筆舌に値する半生だった。 だけど、エイレンは、人の事は好きだし、異能の力を持っていても、自分は人だと断じるのだ。 「確かに、あの子達の中には、《御伽噺の幽霊》もいるわ。 それでも、助けたいの。 ただ、小さな友達を助けたい。」 「・・・・・・何故、エイレンちゃんは、僕らに、助力を求めない?」 「求めれると思うかしら? あんな、罪の証しを封印してしまった私が。 昔のトモダチの貴方達に。」 天空は、珍しく、本当に珍しく、人間に惚れ込んだ。 他の十一人が、誰かに惚れる事はある。 だけど、役割上とは言え、たくさんの人に惚れ込んだ天空が本当に惚れ込んだのは、清明とエイレンだけだ。 進んで失いたい、そう思えない相手なのだ。 役割上、数えきれないほどに、従いはしたけれど、心を動かしたのは、その二人だけなのだ。 天空の言葉に、騰蛇は、耐えきれなくなったかのように、こう聞いて来た。 「エイレン。何故、今なのだ? ルネとやらが、恨んでいるのは、知らんはずも無い。 何故、作り直す? 封印解除じゃダメなのか?」 「・・・そうだね、騰蛇の言う通りだ。 何故、封印を解かずに、作り直すのだ。 《魔術師》と《死神》の二枚が、ほつれと成っているから、封印解除は然程難しく無い」 「ダメ。 あの子達に、これ以上、無駄な殺しはさせたく無いの。」 「しかし・・・・・・」 「でも、エイレンちゃん。 騰蛇もそうだけど、青龍や、朱雀、他の十二神将が、エイレンちゃんに死んで欲しく無いって思っているのを知っていても?」 「正式に、契約を結んでいるわけじゃないのに?」 「結んでいるとか、結んでないとかじゃないよ。」 あまりに珍しいことに、騰蛇は、言葉も無い。 良くも悪くも、独善的で、皇帝黄龍にのみ従う頑固ジジイなのだ。 その、天空が、「天苑」と渾名を貰っているからと言っても、ここまで食い下がるのは、初めてなのだ。 昔、安倍晴明の時ですら、無かった事に、思い切り、硬直する。 さらに、天空は言い募った。 「確かに、契約を結んでいないけど。 それでも、6つの頃からのあの日々は、ウソだったというなら、そのまま、突っ走ればいい。」 「天空小父!!」 「でも、それを捨てれるエイレンちゃんだったら、もう一組作らないよね。 それに、身体を壊せば、誰が、ブライアン=オットーを止めるの?」 騰蛇の制止を振り切って、天空は、更に言葉を続けた。 そう、天空は・・・いや、十二天将は契約こそ、していないが、それでも、エイレンと人外としては、長く居た存在なのだ。 最初は、「監視」の意味合いが強かったのかもしれない。 だけれど、長く居れば、愛着もわくそう言う意味で、そうじゃ無い意味でも、「他人」と言うには、近過ぎる存在達なのだ。 例え、「家族」には、遠すぎるにしても。 それに、天空が、口にした「ブライアン=オットー」は、エイレンの《御伽噺》にも、《タロットエレメンタル》にも、関係ない数少ない縁者なのだ。 だから、エイレンを本当の意味で、阻止できるのは、無意識有意識関係なく、ブライアンのみである。 それを、彼女自身が、否定しようと、動かし様の無い事実な訳であって。 「・・・・・・・・確かにね。 ちょっと、無理し過ぎだったかも。 ブライアンのことは、・・・・・・・だから。」 騰蛇にも、天空にも、その「・・・・・・・」は聞こえなかったが、それでも、エイレンにとって、ブライアンが、重要なのは、間違いないのは解った。 しかし、体力的に、限界だったのか、エイレンは、意識を失ってしまったようだ。 それを、受け止めたのは、騰蛇でも、天空でもなかった。 赤紫の髪に、青い隻眼の新宿二丁目の住人のような出で立ちの青年だった。 『やっぱり、エイレンちゃん、無茶しっぱなしね。 あの子を介してたみたいだし。 ・・・・・・・久しぶりね、騰蛇ちゃんに、天空ちゃん。』 「あ、う、そうだな、久遠。」 「久遠ちゃんも、中々変わらないようで、変わったね。」 『あら、そう? お姉さん的には、変わらないって言ってもらった方が、嬉しいわよ? たぶん、明日、エイレンちゃんは寝たままだろうから。』 「寝たままだろうから?」 『喫茶店手伝ってね。』 エイレンを抱き上げた久遠は、そう言って、にっこりと二人に取ってある意味での、死刑宣告をする。 それでも、従うしか無い二人であった。 戦闘力では、勝っても、強烈ハグ&キスの餌食には成りたく無いのであった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「疲れたねー。」 『お疲れさま。』 その次の日、喫茶店《デザートストーム》が、ハケた後。 一日、店で、ウェイターやレジ打ちとして、やったのだ。 騰蛇は、真っ白に燃え尽きている。 声も出せないほどのようだ。 炎の凶将といえど、体力の使いどころが違うのだろう。 逆に、天空は、「疲れた」と言いつつも、けらけらと、楽しんでいたようだった。 どこか、年相応の余裕と性格が、にじみ出ているような感じである。 久遠は、賄いとして、変わり種トルコライスを作って、二人に出す。 変わり種というのは、本来、カレー風味のピラフを和風ピラフに、ナポリタンをペロンチーノにして、トンカツ+デミグラスソースでなくて、チキン南蛮を載せたものだ。 騰蛇にしても、天空にしても、一応、精神体の範疇だ。 食物は、必要ない。 『一応、キモチってものよ。』 「・・・・・いただきます。」 「ありがと、久遠。」 だけど、刀の九十九神が、用意してくれたのは、本当にキモチだということを知っているから、騰蛇と天空は、それを食べた。 こういうのは、何故か少し嬉しいモノだ。 二人に、ウーロン茶を出した久遠は、こう二人に言う。 『天空ちゃん、騰蛇ちゃん。 エイレンちゃんをお願いね。』 「「?」」 『私は、新規のタロットエレメンタルに組み込まれてるけど、基本は、エイレンちゃんの使鬼なの。 だから、本当の意味で、主の意思を超える事は出来ないの。 超えた・・・超えてしまった使鬼もいたけれど、それでも、私には、超えれないわ。 だけど、貴方達は、貴方達のルールがあるのは、知っている。 それでも、エイレンちゃんを止めれる可能性があるなら、止めて欲しいわ。』 そこまで言った久遠は、『私のワガママだってことは、解ってるけれどね。』と一言付け足した。 しばらく、考えているのか、とりあえず、変わり種トルコライスを片付けたいのか、騰蛇と天空は、沈黙を守る。 そして、顔を見合わせ、異口同句にこう言った。 「・・・・・出来うる限り、力の限り。」 「もちろん。 幼稚園児の頃から、一緒にいるんだ、最後まで守るよ。」 『ありがとう、二人とも。』 まだ、平穏。 でも、少しづつ、65年前のあの時の軍靴の足音のように、騒乱は近づいていた。 そう、確実に。 《タロットエレメンタル》の主で、《使鬼》の主のエイレンですら、届かない場所でも。 それは、《影の語り部》が先代以前に造らせた因縁で・・・・・。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 後書き 半年以上、更新ありませんでしたが、久しぶりの更新です。 以前話していた通り、二話二組にして、四話一組の一連のお話を投稿します。 今回は、その一話目。 何かを作るのは、壊す事より、難しいと言うことなのです。 壊す方が簡単でも、エイレンはそれを選ばないのです。 では、次の後書きは、二話投稿した後に。 |
18463 | 家族の写真ACT98 閉ざされた夜と戸惑う夜 〜蓮を愛憎する二人 前編〜 | 十叶 夕海 | 2008/11/21 22:12:33 |
記事番号18462へのコメント あの子しか、いらないの。 あの人しか、いらない。 だから、あの女を殺すの。 だから、この場所に居る。 矛盾していようと。 相反していようと。 私と 僕は、 鏡なの。 相対だ。 だから、気が合うのよ。 だから、気が合わないんだ。 私の夜は、閉ざされる。 僕の夜は、戸惑っている。 私の夜は、いつ開かれる? 僕の夜は、いつ確定する? ACT98 閉ざされた夜と戸惑う夜 「ちゃお? 生きてる、生活破綻者!!」 「・・・・・・・・生きてる。 そう言うお前は、性格破綻者だろう?」 「まぁまぁ、そう言わないでね。 一応、ベルフィーユ=ルネ・ジャルヴェって名前あるんだから。」 ある日・・・日本では、梅雨のまっただ中の《C.C.》のロンドン本部。 その上級幹部《メフィストフェレス》のブライアン=オットーの研究室のドアが、勢い良く開いた、いや、勢い良く壊れた。 先日の幹部会での追加を要求したプログラマーも未だ来ないようで、スパコンと空調の作動音しかしないところに、その騒音である。 攻撃用プログラムのチェックをしながら、コーヒーを口に運びかけたブライアンは、思い切り、むせかける。 入って来たのは、ブライアンと、ある意味真逆であろう。 夜空に星が輝くような藍銀色の波打つ長い髪をイエローダイヤのメレで飾った銀製の精緻な細工のバレッタで纏め、瞳は、淡い朱金をしている。 肌は、真白に近く、人形めいた色である。 そして、それなりに、起伏のあるボディをシンプルなデザインのほとんど黒に近い深緑のワンピースとロングブーツで覆っている。 黙っていれば、「お嬢様」で、通りそうだ。 あくまで、黙っていればだが。 魔法瓶のポッドと弁当箱等を入れる用の保温ケースを片腕に下げている。 「それで、ルネ。 何のようだ?」 「うん、任務が終わってみれば、先代のメインタロットマスターを含めた会合終ってるって言うじゃない? だから、悔しくて悔しくて、料理作り過ぎちゃった。」 「・・・・《マルコシアス》や、他の戦闘部門の幹部に、置いて来たけど、それでも余ったから、私のところへ、持って来た。 そう言う状況かな、ルネ。」 「うん、正解。 サンドイッチと唐揚げに、フライドポテト。 あと、つけあわせに、ブロッコリーとバターコーン。」 「んで、量を200人前近く作ったと言う事か?」 「そう。 どうせ、あんまし食べてないっしょ?」 いいか、どうかをろくに聞かずに、保温バックの中のモノをブライアンのパソコンの隣、書類を本来置くスペースに、パックを並べていく。 たまたま、書類が無い時だったのだが、あったとしても、並べていっただろう。 しかし、そんな女性の性格は、ブライアンは、まだ好ましく思っていた。 それは、たぶん、「同じ」人を求めている部分があるからだろうとも思う。 例え、それが、愛憎真逆だとしても、だ。 「どったの?」 「お前は、まだ、エイレンちゃんを恨んでる?」 用意を終り、新しいコーヒーを入れ終わった、ルネに、ブライアンは、そう質問する。 すると、ぴたりと、動きを止め、それまでのくるくるとした動きのある表情から、氷のような冷たい表情に切り替わる。 一応、ブライアンは、その表情を向けられる事を覚悟の上で、そう問うたのだった。 彼に、サンドイッチを進めた後、 「恨んでる? そんな感情は、とうの昔に遠くに超え捨てたよ。 私から、ヴィンを奪ったのだもの。 知らなかったなんて言わせない、メインマスターの記憶に無いはずが無いんだもの。 ・・・・・・・だから、最大限のタイミングで、最高のダメージを。」 「今回で、ケリをつけると?」 「うん、付けたいと思うよ。 あ、ブライアン、今から、ここ貸して?」 「は?」 いきなり、話をズラされた、もとい、彼方に吹き飛ばされたブライアンは、彼らしくも無く、気の抜けた声を漏らした。 食べながら、聞くところによると、反《C.C.》の刺客チームに、エイレンこと、《占札の使鬼姫》に、先約がついてしまったらしい。 確かに、ルネが、エイレンを恨んでいる事は、この《C.C.》では、有名な事だ。 「別に、あとの決戦に掛けてもいいんじゃないのかな。」 「最大限のタイミングで、最高のダメージのためには、刺客を送りまくっている時期に、表明した方が、最高にいいのよ。」 「私としては、後にしてもらった方が、いいのだけれどね。」 「んもう、ブライアンは、結局、あの女の方がいいのね。」 「そう言う問題じゃ無いだろう。」 「そう言う問題よ。 で、どうする?」 「・・・・・戦闘は、絶対にするなよ。 したら、叩き出す。 実力的に難しかろうと、組織的には、お前達二人を追い出す方が、私一人を追い出すより、利益の損失が少ないと、考えるだろう?」 「りょーかい。 私は、闘わないわ。 少なくとも、その霧生名知とは、闘いたく無いわ。」 「そうじゃない。」 「・・・・・・解ってるわよぅ。 ここのプログラム達の為にも、戦わないわ。 紫麒と紫麟のあの二人は、私も嫌いじゃないもの。」 ルネの性格を短く無い付き合いで、理解しているのか、そう釘を刺したが、 あまり、そう有効とは言えなかったようだ。 それでも、ルネが、『嫌いじゃない』と称したその存在をむざむざ殺すような行為には走らない・・・と、そう思いたい、ブライアンであった。 しばらくすると、控えめなノックの音が、聞こえて来た。 恐らく、その「霧生名知」だろう。 入って来たのは、純白で腰ほどまである髪を、三つ編みにして前に流した瞳は、黒曜石のような艶やかな漆黒で、長身痩躯の、絶世の美人だ。 服装は、白のYシャツ、黒いベストに、グレイのスラックスにカジュアルな革靴に、黒い十字架のペンダントというものだ。 ここ数十年の仇名を《朧月》という。 「ちゃお、久しぶり、雪凪ちゃん。」 「こんにちは、おひさしぶりです。 ・・・・・・そっちは、イヤだと言いませんでしたか、《死ねずの占姫》?」 「うっふふふ、なら、そっちもその呼び方、イヤって、言わなかったかしら?」 「では、《成り損ないの占札姫》?」 「まだ、そっちの方が、いいわね。 成り損ないには違いないのだから。」 ブライアンが、した忠告もどこ吹く風、少々険悪と言うか、腹の探り合いと言うか、一触即発な雰囲気だ。 下手をしなくても、このまま、戦闘に、移行しそうなぴりぴりとした空気が漂っている。 もう、諦めたと言うか、達観した感じに、コーヒーとサンドイッチを口に運んでいる。 「(あれで、ルネとしては、再会を喜んでいるんだよね。 風聞で聞く限り、《朧月》も一応、そういうのを嫌うというか、無駄な戦闘を嫌うタイプだろうし。)」 「・・・・・・《朧月》、無用な戦闘をするほど、君は阿呆なのかな? 阿呆なのだろう、そう険悪に、殺気を放つのだからね。 ゼオンくんに、連絡中で、下手すれば、同じ対反《C.C.》のメンバーになる。 だから、仲良くしろとは、裏稼業の大馬鹿共に言わん。 せめて、殺気放つな、刃交えるな。 できないなら、仕事断れ。」 口調は、半ばブチキレたモノだが、語調は、うんざりとした黒さを秘めたモノだった。 言葉の主は、黒い長い髪と黒いゴシカルなスーツの男装の麗人だった。 その腰に、ネコミミ付きの黒髪おかっぱの少年がしがみついている。 対反《C.C.》刺客チームのリーダーと言うか、上との連絡役のヴィットである。 調整をして、第一弾を送り出した後に、ゼオンから、「もう一人、入れて欲しい」という人が居ると、連絡が寄越され、指定した時間に、彼女とチレスは、ここに来たようだ。 「ミスタ・メフィストフェレスも、達観しない。 下手しなくても、戦闘すれば、紫麒だの、紫麟だの、君の可愛いプログラムが死ぬのだよ?」 「・・・貴女が、《黒猫》の仇名の情報屋よね?」 「それが、どうしましたか? 《死ねずの真理破り》、裏を知らないで、人を恨む阿呆が、僕の名前を知っているとは、光栄と呼ぶべきなのだろうね。」 「あらあら、そうね。 私も、長く生きてるとは、覚えているのは、そう居ないものね。」 「あはは、知らずに、《御伽噺》に関わっているとは、滑稽滑稽。 終わり無き生を自分から、選んだ阿呆に覚えられても、光栄であっても嬉しく無いけれどね。」 「私より、詳しそうだね。 ぜひ、ご教授願いたいものね。」 「僕は、知っているだけだよ。 語る術は持っていないのだよ、皮肉だけれど。」 止めた本人が、ルネと舌戦を繰り広げる。 それも、門外漢のブライアンでも、わかるほど、濃密な殺気・・・死と血の匂いを連想させるほど、強い殺気だった。 腰にしがみついている、チレスも、思い切り縮み上がる。 それでも、ヴィットが闘うのが良く無いと思ったのか、チレスは、勇気を絞り出す。 「ヴィ、ヴィットママ。 闘うのダメ、ビルが無くなっちゃう。」 「・・・・・・・ねぇ、《黒猫》。 このぷりてぃな、ネコミミ少年は?」 初めて、チレスに気付いたルネは、殺気を霧散させ、子どものように目をキラキラさせ、友好的に、ヴィットに訊ねる。 その雰囲気に、名知も、ブライアンも、ヴィットすらも、置いていかれてしまう。 一種異様な雰囲気に、気圧されるように・・・・正確に言えば、怯えるように、チレスは、縮こまる。 「チレストリーノ=アルコバレーノ。」 「・・・・・《黒猫》の子ども?」 「五年前に、引き取った友人の形見だよ。 幾度、同じ事を聞かれたのだろうね。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「ど、どうしたの、お姉ちゃん。」 「いきゃぁあん、カワイイ。」 「うにぃいいいいい〜」 チレストリーノに、目を合わせ、じりじりとしていたルネは、彼の言葉に、ぷっつんしたかのように、思い切り抱き締める。 ただし、一応、怪我をしないレベルでである。 それに対して、チレストリーノは、思い切り悲鳴を上げる。 「・・・・・・・ミスタ・メフィストフェレス。 もしかしなくても、彼女って、猫好きのショタ好きお姉様かな?」 「ああ、そうだったはず・・・・・・かな。 確か、ジャパンから、「ねこきっく」だの、「月刊ぼくのおねえちゃん」だかを個人輸入していたな。」 「・・・・・・・とすると、《成り損ないの占札姫》は、少々特殊な趣味なようで。」 チレストリーノが、「にぃ、にゃぁ」など、鳴いているのをBGMに三人は、あきれたように、会話をしている。 或る意味で、現実逃避なのだろう。 そして、この集まりの本題は、何処に行ったのだろうと、真面目に考えてしまいそうだ。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 残り一話は、明日に。 |
18464 | 家族の写真ACT99 真実は誰を見つめ誰に告げる 〜蓮を愛憎する二人 後編〜 | 十叶 夕海 | 2008/11/22 23:37:11 |
記事番号18462へのコメント 真実と言うのは、時間と同じく 誰にも等しく降り注ぐという意味では平等だ だけれど、それから目をそらし だけれど、それらを信じないのは いつも、私達の方だ どんなに信じられなくても 真実は真実 知らないでは済まされない それが、悲喜劇に関わった者の唯一の役割。 ACT99 真実は誰を見つめ誰に告げる 〜蓮を愛憎する二人 後編〜 「うにぃあ、やら〜」 「んもぅ、カワイイ可愛いかわいい〜」 「みぃにゃー。」 前回より、約三十分。 まだ、ルネの毒牙と言うか、強烈ハグの餌食になっているチレストリーノ。 それをBGMにしながら、ルネが作ったサンドイッチ等を食べている、ブライアン、名知、ヴィット。 少々、薄情な気もするが、昔、やり合った関係上、ヴィットとしても闘いたくないのだった。 それに、戦闘的な意味でも、戦力アップして欲しいと思うから、ではある。 本当に、一応ではあるが。 「やらなの〜!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あら。」 「うにぃ・・・・・・・・」 今の会話に合った事を簡潔に言うならば、ルネを振りほどこうとしたチレストリーノが、勢い余って、ルネの唇を奪ってしまった。 そして、落ち込むチレスという構図。 更に、強烈に抱き締められるという、追加ダメージ付き。 流石に、気の毒になったのか、ヴィットが、仲裁に入る。 「それで、ルネ・・・・《死ねずの真理破り》。 貴女のいい分は? ・・・チレスを放してあげてね。」 「いや、ぷりてぃ少年成分、補給したいもん。」 「いいから。 ・・・・・・嫌われたいの?」 「お姉さんが、そう言う事をするのイヤ?」 「うに。」 ヴィットの言葉に、ルネが、腕の中のチレスに確認するようにそういうと、彼は、こくりと頷いた。 だから、なのだろう。 ルネは、あっさりと離れる。 それから、一度、仕切り直した。 デスクの椅子に、ブライアン。 余剰の椅子に、ルネとヴィット。 立ったままに、名知がいた。 ヴィットの後ろから腰にぎゅっとしがみついているチレス。 或る意味で、この場の空気は、この部屋が、今の役目を貰ってから、最高に張りつめていた。 それこそ、永久凍土もかくやというほどだ。 「それで、今更ながら、君が、対反《C.C.》の刺客に入りたいと言うのは? しかも、ある程度、割当が決まった時点で。」 「今現在の、反《C.C.》に、エイレンがいるからよ。 私が、《C.C.》に居るのも、その為だもの。」 「それでも、君は組織に、所属しているのだろう。 作戦が、開始される以前なら、まだしも、もう動き出した後に、担当が決まった標的に、まとめ役としては、大変困るのだけど?」 「それが? 私は、ヴィンに誓った事に比べたら、ちっぽけよ。 それに、私とゼオンの契約上では・・・・・・・・・」 「喧しい!! あれに関わっていて、何も知ろうとしないヤツが、ぴーちくぱーちく、さえずるな。 君は、契約だなんだの言っているが、ただ、私情で、やっているだけだろう。 あの女に比べれば、矮小だ。」 交渉ごとは、心は熱く、言葉は冷静にが、原則だ。 しかし、ヴィットは、キレた。 これ以上無く、あっさりキレた。 その様子に、チレスはヴィットの服を掴み怯え、名知は面白がるような笑みを浮かべ、ブライアンは珍しいモノでも見たように驚いた。 構わず、二人の言葉での切り合いは進んでいく。 「なんですって!!!?」 「ベルフィーユ=ルネ・ジャルヴェ。 君は、僕よりも、長く深く、《占札ノ精霊(タロットエレメンタル)》に関わって何故、気付かない?」 「何を?」 「全てを。 部外者の僕が、ほんの少し調べただけでも、色々と解って、気付いたのに。 何故、関わっている君が気付かないんだい?」 「五月蝿い。 アンタに、あの痛みが、解ってたまるか。」 「解ると言ったら? まだ、君は幸せだ。」 「何で? 何で、あのことを知らないのに、解ると言うの?」 「君が、《占札ノ精霊》に《関わる者》ならば。 僕は、《ジョースター》を《見守る者》だから。 君と違って、《戦車》のような存在は、ほとんど居ないよ。 いても、逝ってしまった、一度はソイツが逝った後に気付いたのだけれどね。」 ヴィットは、話をしていく過程で頭を冷やしていった。 しかし、ルネは、冷やす事無く、むしろエキサイトしていく。 下手をしなくても、手が出そうだと、心配するほどに。 「それじゃ、君の今の姿は、《戦車》の望むところかい?」 「・・・・・・・・・・・・・・っっ!!」 ヴィットは、刃を突きつけるように、そう言った。 黙らざる得ないルネ。 彼女とて、理解しているのだ。 今の自分の姿が、《戦車》のヴィンフリードが、望まぬ姿だと言う事が。 −−−−『我が居なくとも、幸せになれ』 17年前に、エイレンが当時の《占い札ノ精霊》を封じた直後、眠りに落ち、消え去る直前に、言われた言葉が、ルネの脳裏に鮮やかすぎるほどに、蘇る。 「そ、それでも、誓ったの。 『お前が、全てを忘れてしまうとしても、私は、全てを忘れないで、お前の為に生きて死ぬ』 今、ヴィンを取り戻しても、記憶が無いのは解ってても、それでも、取り返したい。 その手段が、あのエイレンの殺害しか無いのに、それで、どうして、止めれる。」 「どうしてもだ。 刺客の標的が、コロコロ変わるような前例を作りたく無いんだよ。」 絞り出したルネの呟きを、ヴィットは、溜め息混じりで、そう返す。 リーダー業に向いていないのに、任され、微妙に疲れ気味にも見える。 だから、と言うわけではないだろうが、それまで、傍観気味だったブライアンと名知が、ほぼ同時にこう提案した。 「エイレンちゃんの側に、いる久遠とか言うのも、標的じゃなかった?」 「私の標的の側に、同じ標的で、確定していない《キャットアイ》が、居たと思いますが?」 「・・・・・・・妥協案だ。 《占札ノ使鬼使い》を狙う事は、許可できない。 しかしだ、《キャットアイ》の担当は、宙に浮いている。 それを狙う最中に・・・かなり、裏技だけど、ね、どうかな?」 「・・・・・・・かなり、不本意だけど、あの男に含むところが無いわけじゃないから。」 ヴィットの提案に、渋々と言った様子で、ルネは了承する。 それに、首肯すると、チレスを促し、ヴィットは退室しようとする。 間際、ルネに、忠告するように、こういった。 「そうしてくれ。 あと、第一便で、《深淵の虚無》と《風色の語り姫》が、《ルリイロ》を狙いにいっているから、それが終ってからにして頂戴。」 そう言って、部屋を出た。 廊下にて、チレスは、ヴィットにこう問いかけた。 「ヴィットママ、結果知ってる?」 「まぁね。 だけど、能力の方じゃなくて、情報からかな。 《深淵の虚無》よりも、《風色の語り姫》は、《ルリイロ》を求めているからね。 弟の《深淵の虚無》としては、不本意だろうけど、彼女は、弟よりも、兄を選ぶだろうから。」 「うん?なんで?」 「妹と言うのは、そう言うものなのよ。」 「なの?」 あの後、名知は、ヴィットに証人として呼ばれたようで、とっととブライアンの研究室を退室したようだ。 『一応、合同作戦と言う事になるのでしょうね。 行くときは、連絡しますので。』 などと、言っていたので、ルネとしては未だ会う事もあるだろう。 しかし、今の状況としては、ブライアンは、少々、自分の研究室なのに、妙に逃げ出したい感覚に襲われていた。 むしろ、逃げれるなら、逃げてしまいたい。 それくらいに、沈み込んだルネの様子だった。 「(というか、追加のプログラマー、もうそろそろ来るんだけど、どうすればいいんだろうね、僕は。)」 現実逃避気味に、ブライアンが、そんな事を考えていると、この部屋のノックされた。 そして、入って来たのは、ある種対照的な男女二人。 男の方は、薄い金のボブカットに、赤みの強い橙茶の瞳、気怠そうな表情だった。 着ているのは、黒いドレスシャツに、黒いスラックス、金のブレスとネックレスという、典型的な「THE★ホスト」な印象の服装だった。 印象的なのは、右眼をまたぐように、ケルト風味な黒い蝶々のタトゥーだった。 それを隠すでもなく、晒すでもなくただ、そうあった。 女の方は、藍みを帯びた銀色の髪と栗色の瞳で、ほんわりとした表情だった。 着ているのは、基本黒一色で、灰色の十字ラインの入ったシスター服、踝丈のケープと頭のウィンプルも真黒一色、裾のラインも灰色十字に統一されたモノだった。 印象的と言えば、どこか不釣り合いな銀製の片眼鏡と羽に包まれた天使の像がついた杖を持っていることだろう。 また、シンプルな衣装であるだけに、その胸やお尻のボリュームを強調させているようにも見えるそんな不思議な人であった。 男は18歳前後、女は20代半ばほどの外見をしている。 どのみち、少なくとも、電脳部門の主任直下に配属されるにしては・・・「プログラマー」という呼称に似合わない印象なのは、まず間違いない。 それぞれ、クラブか、境界に居た方が似合うだろう。 「ええと、初めまして、《メフィストフェレス》ブライアン=オットー・ティラー電脳部門主任。 本日付けで、主任研究室に配属されました、トエリアーシャ=アーシェラ=イシュタリアともうしますですよ。」 「ちっす、俺は、レオニール=アリスティド・デュカスと、いうモンっす。 隣のトエルに同じく、今日、そっちの配属になったプログラマーってことになんな。 ま、よろしく。」 「ちょっと、レオ、一応、初めぐらい、猫被れないものなのですか。 被っても、バチは当たりませんですのに?」 中身も、少々、対称的だった。 或る意味で、姉と弟と言う雰囲気だろうか。 そんな感じである。 「・・・僕の指定したレベルか、証明できるモノはある?」 「ええと、私のは、これですのね。 レオのは、そうですね、去年の七月二十九日に、ここに侵入者が一見ありましたですよね?」 「・・・・・・・それが、どうしたというのかな?」 「あ、それ、俺っす。 天に向かって吠える獅子の図柄以外、痕跡残してないけど。」 ブライアンが、確認のため、そういうと、女性―トエリアーシャは、プログラム表を印刷したの束を渡した。 それを見ながら、レオニールのレベル証明を聞いて、呑みかけていたコーヒーを吹き出しかけた。 確かに、昨年の七月二十九日に、この《C.C.》本部のホストコンピュータに侵入者が合ったのは事実だ。 その侵入で、使われたPCウィルスは、ブライアンも感嘆したモノだった。 しかし、その唯一の痕跡の「天に向かって吠える獅子」の図があったことは、ブライアン以外は、首領のゼオンにしか話していない。 それであれば、確かに、かなりのレベルであると言えるだろう。 「わかった。 明日から、勤めてもらう。 今日は、荷物の整理と休息を取れ。 明日、シキとシリンを紹介する。」 「了解しましたですよ。」 「アイアイ、マスター。」 「ルネ、ミス・イシュタリアを女性用居住地区に案内頼む。」 「・・・・・へぇへぇ、了解したわよ。 って、トエルに、レオか、これも、奇遇って言うべきなのかしらね。」 「あらあら、ベルフィーユさんなのですか?」 「へぇ、意外ぇだな、ベル姉、組織につくの嫌がるタイプだったのに。」 「それは、レオニールも同じでしょう?」 「ま、金が良かったんで、期間限定ってトコだね。」 どうやら、ルネとこの二人も友人のようで。 人の縁と言うのも、何処で繋がっているか解らない。 そんな、ある日。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ そういうわけで、或る意味で、対称的でありながら、鏡合わせな二人のお話。 色々と、繋がっているのです。 特に、この前後編と97話と100話は、密接に繋がっています。 知らないが、目を背けているが故の悲喜劇です。 ともあれ、優しい悪夢の一幕です。 |
18465 | 家族の写真ACT100 青いバラの旧き花言葉 | 十叶 夕海 | 2008/11/22 23:46:47 |
記事番号18462へのコメント 恋は、どんなモノでも訪れるの? 例え、作られた無機物にでも? だけれど、想像できることは、起こりえます。 だから、一つの奇跡。 だから、青いバラの花束の祝福を・・・・・ ACT100 青いバラの旧き花言葉 三人三様の少女が、エイレン=マイセリアルのサーバー内でお茶会をしていた。 少女たちは、それぞれ、半精霊か、精霊で、エイレンの使鬼だ。 アカシア蜜色のウェービーな長髪とロゼワインのような紫色の瞳、深い藍色の肩で結んでは居るが、肩と二の腕のほとんどが出ている足元までゆったりと覆う衣装とベレー帽の十代半ばの少女。 衣装とベレー帽には、時計の文字盤や計器のような模様があしらわれている。 彼女は、《節制の電脳少女》エモーション=エレクトリック。 黒いベリーショートで、活発そうな金茶の瞳、黒タンクトップとそろいのショートパンツ、レモンイエローのパーカーとマスタードカラーの安全靴という、ボーイッシュな服装のコケティッシュな二十歳半ばほどの女性。 腰には、デザートイーグルタイプとコンバットナイフタイプの攻撃プログラムがぶら下がっている。 彼女は、《災いの塔の破壊乙女》アニタ=ブラスト。 銀色のふわふわのネコ毛と薄水色の瞳が、眠気を誘い、服はシンプルな淡い緑色のワンピースドレスに、深い緑の固い素材で出来たビスチェを纏った二十歳ほどのほえほえとした女性だ。 その足元に、何故か赤いさびが付いたメイスが立てかけてある。 彼女は、《幻月の撲殺聖女》リュシエル=チャージレス その三人が、お茶の円卓を囲んでいる。 林檎のタルト、ガトーショコラ、ナッツのビスコッティ、クリのポンムドテールなど、さまざまなお菓子と幾種類かの紅茶のポッドが並んでいる。 もう一度言うが、ここは、サーバー内、電脳空間なのだ。 そして,お茶会をしているのは、半精霊のプログラムたちなのだ。 「どうした、エルが、そんなに一人に執着するのは珍しいな。」 「そうですねぇ、マスター・エイレンになら、まだしも、同じプログラムと言えど、殿方で、なおかつ敵な方なんでしょう?」 「肯定、だ。 おかしい、自分も思う。 だけれど、アイツの顔が、リフレインされるんだ。」 「う〜ん、あたしより、早いとは、羨ましいヤツめ。」 「ええ、エモーションさんは、どうしても、ちょっと恋愛に向いていないタイプでしたからぁ。」 「だよな、キングギドラがキュロットスカート履いて、ピエルットするほうが余程ありそうだ。」 「或いは、カレーライスにタケノコってところでしょうかぁ?」 アニタとリュシエルが、それぞれ、男性言葉と間延びした口調で答えていく。 口調こそ違えど、楽しげというか、ほのぼのした雰囲気の掛け合いだ。 先ほど、《C.C.》の《メフィストフェレス》ブライアン=オットー=ティラー氏の所有A.Iのシキという存在について、二人は、エモーションから、相談を受けたのだ。 曰く、『何もしなかったら、シキ氏の記憶映像がリフレインするのだ』と。 それで、急遽、お茶会の場をしつらえ、相談に乗っているのだ。 ノリとしては、女子高生が、友達の相談をファミレスや喫茶店で受けるのによく似ている。 ただし、どこか、馬鹿にした雰囲気と言うか、そう言うのが多少は感じられる。 それでも、根底にあるのは、親愛なのだろうけれど。 「・・・軽憤怒。 アニタ、リュシエル、けなしてるの?」 「それより、どうしたいの,エルは?」 「と、いうより、その感情を何とぉ、思ってますぅ?」 「不理解。 そのリフレインが始まると、動作不良が起こってしまう。 目の前がぐらぐらして、胸がばくばくして、足ががくがく動かなくなる。」 「「重傷(だな)(ねぇ)」」 エモーションの独白と聞いて、普段は、あまり気が合わない二人と言えど、思わずはもってしまう。 完全完璧、徹頭徹尾、それは、恋だろう。と、率直な人物なら言っていただろう。 しかし、エモーションも、もちろん二人も、配分が多少違えど、A.Iだ。 極論を言えば、「0」か「1」かのプログラムが、人らしくあるだけのものなのだ。 このお茶会風景も、ある意味で、人らしくある為の小道具なのだ。 擬人化した道具であるまいし、恋をするのか、そんな疑問が二人にあったからだ。 少しの間、沈黙する。 ややあって、戸惑うように、エモーションは、こう呟く。 それで、リュシエルは、覚悟を決めたのかさらりとこう返す。 「なんなのだ? このノイズは。」 「たぶん、恋ですよぅ」 「無理解。 ・・・・・・・・恋と言うとあれ? 池に居たりする、食用にもなる魚のこと。」 「それは、鯉だよ、エル。」 「では、呼びつける事?」 「それは、来るの命令形ですね。」 「・・・・・紅茶とかを蒸らし過ぎた時の・・・・」 「それは、濃いだ。」 「ベタベタなボケですねぇ。」 「ええと。」 「願う事でも、請け負う事でも、漕ぐ事でもないからな。 L・O・V・E、ラヴの恋だ。」 「無理解?」 「だから、ライトノベルの少女向けによくあるような反応ですしぃ?」 「不理解、私達は、コンピュータプログラムだぞ?」 ベタベタな・・・・・・・認めたくないが故のボケを一通り、アニタとリュシエルは付き合い。 それでも、付き合いきれなくなり、ズバンと言い切る。 『ありえない』というように、エモーションは言う。 しかし、それでも、若しかしたら、とも同時に思う。 「あのな、エル。 リュシーとあたしとお前は、ほぼ同じ時期に作られたんだ。」 「何となく解りますよぅ。」 「不理解、、解析不能。」 「確かに、ロミジュリな関係ですけどぉ、A.I同士ですけどぉ。 それでも、造られしモノでも、恋をするという奇跡あっても良いんじゃないのぉ?」 「・・・・・・それにな、あたし達は、程度の差はあれど、いくらか、精霊だ。」 「だけど、怖い。」 「恋は、そう言うモノですよぅ。」 エモーションが怖いのは、自分自身が、変わる事ではない。 そんな事、主・エイレン次第で、今すぐにでも変わってしまう、虚ろな事だ。 でも、それが怖いわけではない。 もしも、もしもだ。 その想いの相手・・・シキ・ランバーヤードに、拒絶されてしまったら、どうするのだろうと、思ってしまったから、怖いと思ってしまったのだ。 まだ、想いも伝えてないのに、臆病なのかもしれないけれど。 ほぼ同時刻。 現地時間と日本時間は、九時間ほどずれているのだけれど。 その上でも、日本時間に直した同時刻、《C.C.》の《パパライアン》に割り当てられてるサーバーに、二つのプログラムがいた。 色を除けば、二人は、そっくりだった。 エイレンの亡き兄・シキ=ラティナ=マイセリアルにそっくりなA.Iだ。 前者が、カシスのような髪と瞳、真紅の三人吉三のような着物ならば、後者は、ブルーベリーのような髪と瞳で、深青の全身タイツに、水干のような着物姿の対称的で。 髪も、前者は、ストレートで短く、後者は、ウェービーで腰に届くほどに長い。 そんな差異を除けば、顔の造詣はよく似ていた。 前者を紫麒(シキ)=ランバーヤード。 後者を紫麟(シリン)=レイクサイド。 それぞれ、マスターであり、創造主である、《C.C.》では、《メフィストフェレス》と呼びなわされる、ブライアン=オットーの創作物だ。 多少、式神的な手法も混じっているとは言え、九割方、A.Iなのだ。 慣例的に、紫麒は、『兄』、紫麟は、『弟』と、それぞれ呼ばれる。 そして、弟は、兄の様子が、最近おかしい事に気付いていた。 最近・・・・・正確に言えば、五月十五日に、ここを直接、電脳攻撃(サイバー・アタック)を受けた日だ。 その日は、紫麒のコピーが、警備をしていた。 「・・・・・き、・にき、兄貴、兄貴。」 「どうしました?」 「最近よー、兄貴、様子変だぜ?」 「・・・・・どこがです?」 「例えばよー。 マスターさんの問いかけに、返答し遅れたり。 ワームを簡単に、通しちまったり。 今だって、俺が、十回ぐらい話しかけてやっとだぜ。」 「そうですか?」 「ってか、『そうですか?』だけで、済ませる性格じゃねえなのによ。 いつもなら、『そうですか?それが、貴方の気に触ったのなら、謝りますが。そうでないなら、放っておいて下さい。それとも、マスターからのご命令で来られたのなら、別ですが。』ぐらいは、返すだろ?」 何をするでもなく、立ち尽くしていた「兄貴分」に、紫麟は、声をかけた。 紫麟が知る、『兄貴分』らしくなく、十回以上呼びかけて、やっと返答を返した。 いつもの、流暢な皮肉も無く、茫洋としてすら、いる。 今現在も、《パパ・ライアン》のサーバーを攻撃する輩がいるが。 それは、紫麒と紫麟のコピーに任せている。 ちなみに、追加して言うが、そう言う状況であったとしても、紫麟が指摘した程度・・・或いは、もっと流暢な皮肉を返すのに、それすら、還って来ないのは、紫麒にしてみれば、或る意味、「風邪でも引いたのか?」と聞きたくなる状況だ。 もっとも、ロボットプログラムに、風邪を引くも、くそもないのだけれど。 今度の返答も、数秒経ってから来た。 「・・・・おかしい、ですか?」 「おかしいって、兄貴はよ〜、皮肉家だけど、クールビューティでよ。 少なくとも、ぼーっとしている時なんて、ほとんどねぇじゃん。」 「どうにも、五月十五日の記憶を整理しようとすると、とある記憶の期間のみ、エラーを起こしてしまうのです。」 「ってぇと、どういうの?」 紫麒は、紫麟に促され、そのとある記憶を自分たちの前に、再生する。 正確に言えば、コピーが経験して、フィードバックした記憶も混ざっているのだが。 それを一通り、閲覧し終わる。 紫麟は、くぅ〜とでもいうように、顎に手をそえてこう言う。 「あー、とな、兄貴。 皮肉も、何も言わずに、最後まで聞いてくれよ。 要するに、兄貴は、このエモーション=エレクトリックって、女性A.I.に恋をしてんじゃねぇのか?」 「・・・・・・・・・・?」 「いわゆる、アレだ。 『アンドロイドは、電気羊の夢を見るか?』ならぬ、『人工知能は、恋をするか?』ってこたぁないか?」 「はぁ?」 「だってよ〜、エモーション。 プライベードってか、仕事じゃない時に、何度か、茶とか、酒とか付き合ってるけど、イイコだぜ? 俺の好みじゃないけど。」 「それと、これが、どう関係するのですか? というか、そもそも、敵とお酒を飲んでどうするのですか?」 「いいじゃん、プライベートだぜ、プライベート。 それによー、兄貴みてぇな、堅物が、恋をするなんてな。」 羨ましいじゃんよ〜とでもいうような、紫麟の粉かけである。 それに対して、紫麒は、あくまで、無言無愛想な対応である。 しばしの沈黙が、支配する。 『シキ、シリン、いるかな?』 「はい、マスター。」 「おう、マスターさん。 どうした?」 「紹介したい部下が居るんだ。」 シキが、何かを言うよりも先に、《パパ=ライアン》の呼び出しが入ってしまった。 それで、うやむやになってしまった。 さて、この二人のA.Iの恋の行方は、どうなるか? どうなるかは、《機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)》にも、わからない。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 祝☆百話。 といっても、序章が終って『承』に入ったばっかりなのです。 終わりまで、まだまだ掛かりますが、よろしくお願いします。 今回のお話は、人格プログラム同士の両思いな片思いのお話。 遥か未来の一つの悲喜劇への種まきです。 ともあれ、次回もよろしくお願いします |