◆−『a fairy tale』 1−おーはし(8/10-20:30)No.1999
 ┣『a fairy tale』 2−おーはし(8/10-20:32)No.2000
 ┣『a fairy tale』 3−おーはし(8/10-20:34)No.2001
 ┃┣はじめましてです−絹糸(8/13-14:36)No.2029
 ┃┗Re:『a fairy tale』 3−わかば(8/14-11:27)No.2036
 ┣泣けてきました−さいとうぐみ(8/13-15:33)No.2030
 ┗感想下さった方皆さんへ−おーはし(8/15-23:23)No.2041


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1999『a fairy tale』 1おーはし 8/10-20:30


『おとぎばなし』と銘打ったこのお話、内容は『新婚さんいらっしゃい』ゼル&アメリア編です
ものがものだけに短くさらっと!と思ったのですが私の悪い癖でこんなにダラダラと長く伸びてしまいました(涙)
おかげで薄くてまとまりの無いものになったのではとすっごく不安です
初っ端から何ですが、つまんなかったら…すみません(弱気)

========================================

むかしむかし、あるところに合成獣の魔剣士さんと、戦う正義のお姫様がいました
魔剣士さんは自分の体をもとに戻すため、お姫様は修行と正義のため
目指すものは違いましたが、なりゆきでひととき旅路を共にした二人は
別れ際、ひとつの約束をしました
『この身体をもとの人の身体に戻したら、一番に逢いにくる』
『待ってます。その時まで』
数年の時を経て約束は果たされました
そして

******

その日、セイルーンは喜びと祝福の声に溢れた
現国王フィリオネルの次女、第二王女のアメリア姫の婚儀が行われたのである
相手は平民の身分ながら、伝説の聖人『赤法師レゾ』の孫とのこと
白魔術都市、聖王都とよばれるこの国に相応しいと
婚約が発表されてからこちら、一般の人々にはなかなかの評判であった
本人がかなりの美形である、ということもその要因の一つだろう
平民から王族へ、男女は逆だが所謂シンデレラストーリー(笑)
御伽噺の実現は今も昔も人々の夢だ
さて一方、城に住まう人々だが…
「いやぁ華やかな式でした」
「ほんとに。姫様は国王共々民に人気がありますからなぁ
 お祝いに訪れるもの、一目二人の姿を見ようというもので城のまわりが溢れかえりましたわい」
「相手が平民ということで貴族や官吏のものが反対をうったえるのではと危ぶみましたがの」
「あの優秀さでは文句も言えますまい、差し迫った日取りのせいで
 短い期間しか与えられなかったのに…結局、求められた課題を全てこなしてしまった」
「流石に伝説の聖人の血を引くだけはある、あの知識、そして魔力、かなりの拾い物でしたな」
「現国王はお忍びの旅に出て花嫁を連れ帰った
 そして姫様は修行の旅先で相手を見つけ結婚…と、
 案外、グレイシア姫もお相手を連れてもどられるやもしれませんな」
「連綿と続いた王家、澱んだ血脈に新しい血は歓迎せねば」
新しい時代の訪れか、ゼルガディスの努力と実力の結果か、概ねに好意的に受け入れられているらしい
まずは幸先の良い幕開けである

「てへ、うふ、うふふふふふ、へへへへえへっ♪」
気味の悪い笑いを浮かべながら、王族の私邸である離宮への廊下をスキップしているのは
本日の主役の一人、セイルーンの姫にして、幸せいっぱいの花嫁
アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンその人
御歳20才ながら、可愛らしいその容姿は彼女を遥かに幼く見せていた
スキップなぞしていればなおさらである
「嬉しいな嬉しいな、ほんとにゼルガディスさんと結婚しちゃったんだ。えへ。
 もう待たなくてもいいんだ、いつかどっか行っちゃうって心配しなくっていいんだ」
ほんとに可愛い
見た目同様、中身も少女そのものだ
赤の竜神スィーフィードの前で誓いを立てる結婚式
国民の前に姿を見せての挨拶
城での披露宴
その他もろもろ
長い式典で疲れていないわけではないだろうが喜びがそれを凌駕しているのだろう
アメリアの足取りは軽い
夜も更け公式行事は終わり
後は無礼講のお祭り騒ぎというところで、二人はやっとで開放された
公の義務は終えたので主役は退場
後に残された人々は今日の出来事を肴に更けゆく夜を楽しむのだろう
城下の街も明け方まで眠ることはない
「式の準備で10日以上もゼルガディスさんと会えなくて、淋しかったなぁ…
 今日やっとで会えたと思ったら式典の作法のせいでひとっことも話せないし
 部屋で二人になったらいーっぱいお話しよっと!」
アメリアもこれからのことを思って浮き浮き気分らしいが…

―何か大切な事を忘れていないかな?

湯を使って着替えた白い夜着と羽織った上着をひらひらとさせながら
アメリアは一枚の部屋の扉の前に立った、そして
「ぜっるがでぃっすさーん!おひさしぶりでーすっ!」
色気も何もあったもんじゃ無い台詞と共に勢い良く扉を開く
「あれ?」
返事は無し。部屋には誰もいない、どうやらゼルガディスはまだ来てないらしい
「なぁんだ。がっかり」
ちょっと気落ちしたが、すぐに気を取り直すと、今日から二人の私室となるこの部屋を見てまわることにした
離宮の一部屋といえどもそこは王族、中は客間、書斎、寝室、などなど
部屋数も広さも立派なもの、普通の家くらいはすっぽり入る
新たな住人となる二人の為に内装も綺麗に調え直してあり、快適なことこの上ない
「ゼルガディスさん案外貧乏性だから、『たった二人に勿体無い!』とか言いそうだなぁ」
ほてほてと歩きながら扉を開けては覗いていく
「ここが客間、こっちが書斎でー、………あここが寝室だ」
最後の一枚、一番奥のドアを開けて中に入る
「んにゃ?………………」
そして、入ってすぐ目に入ったものにアメリアは硬直する
アメリアを硬直させたもの
落ち着いた装飾のなされた部屋の中、その真ん中にどーんと置かれているものは…
「…だぶるべっと…」
人が四人は寝れそうな広さの、天蓋付きの
「…だぶるべっと…」
アメリアがすーっかり忘れていた大事な事、それは
「ああああそうだったぁぁぁ!!今日って今日って…」
そうです
だから二人は早々に開放されたんですよね

ごーん

浮かれまくっていた頭を現実という岩に直撃されたアメリアは
ふらふらとベッドに近寄るとその中央に座り込み
「ど、どうしよう……あううう、どうしよう」
一人ブツブツとうわごとのように繰り返すのだった


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2000『a fairy tale』 2おーはし 8/10-20:32
記事番号1999へのコメント


「疲れた…」
そのちょっと前、もう一人の主役であるゼルガディスはやはり湯を使って部屋への廊下を歩いていた
合成獣だった身体は元に戻り、今の彼は肌色の肌を持つ普通の、真っ当な人の姿になっている
ただ、戻った時の後遺症か、銀の髪と蒼い瞳はそのまま残った
それともう一つ、
不思議な事に魔力も無くならず大して落ちてもいない
ありとあらゆる魔術を操った赤法師レゾ、その血がここに到って現われたのだろうか
何にしてもありがたいことだ、アメリアをそして自分を守るための力は、あればあるほどいい
今の彼は過去の怨恨にこだわる気はさらさら無かった
前に進むのに役に立つのなら何でも利用する、ただそれだけ
「式典、儀礼、儀式、社交術、詰め込み教育ではかなり辛いものがあるな」
別れ際に約束した言葉通り、もとの姿にもどったその足でこの国に来た
くしゃくしゃの泣き顔で駆け寄る彼女を抱きしめ
もう離れまい、心からそう思った
思ったが、いきなり『結婚!』で王族の一員になろうとは…
「こんなんでいいのか?ほんとに?」
我が事ながらいまいち現実感が無い
「門前払いだったら強奪、そうじゃなかった時はこの城で職でも得て、とっとと出世して
 それから迎えに行こうとか、考えていたんだがな」
かなり強気の発言だが彼ならそれも可能だろう
大きな引けめだった合成獣の身体
それが無くなった、今
恐ろしく広範な知識、明晰な頭脳、並ぶものの無い魔力、見るものを感嘆させる容姿
あらゆるものを彼は持っていた
ただ一つ、欲しくても手に入らなかったもの
いつも傍にいてくれるもの、自分自身を必要としてくれるもの、無償の愛をあたえてくれるもの
それも今日手に入れた
「最後に顔をあわせてから、もう10日以上だっけか…
 結構長かったな、早いとこ顔を見て安心して、今日はさっさと休みたいもんだ
 どうせ明日も予定はぎっしりだろうし、ふあぁ…」
どうやら花婿はお疲れの様子
甘い時間よりも、安らかな睡眠、花嫁のように浮かれて忘れてはいないだろうが…
「…ぁぁ、っと。が、しかし、あのアメリアがこういうイベント事の後で大人しく寝ついてくれるか…
 ………ダメだろうな……夜に弱い体質だということだけが頼みの綱か、かなわんなまったく」
…やっぱ、忘れてるかも
花嫁同様、成人男子がこんなんでいいのだろうか
ひとりぶつぶつ言いながら長い廊下を歩き、用意された私室の扉の前に立つ
この扉の向こうに今日手に入れた大事な花嫁がいる。ゼルガディスはその笑顔を期待して
扉を開いた
「アメリアいるか?…アメリア?」
扉を開けたすぐの部屋には誰もいない
「俺より先にきてる筈だが、いないということは…奥かな?」
アメリアがやったようにゼルガディスも手近な部屋から扉を開け中を見てまわる
「何だこの広さは!たった二人に勿体無い、金の無駄遣いだぞ!」
アメリアの予想そのまんまの言葉だ
続きの部屋を一通り見てまわり、最後に残ったのは一番奥の扉
「どうやらここが寝室か、もしかしてもう寝てるかもしれないな…」
もし寝ていたら起こすのは可哀相だ、そっとノブをまわし扉を開ける
他の部屋同様中は広々、真ん中にはでっかいベッドがあり、その上に座っているのは…
おや
何だ、まだ起きてたのか
ほっとすると声をかけながら歩み寄る
「アメリア、起きて待ってたのか」
だが、聞こえない距離でもないのに返事が無い。何事かぶつぶつと呟きながら振り返りもしない
どうしたんだ一体、なんかあいつの周りだけ異様に空気が重いぞ…(汗)
花嫁の只ならぬ様子に首をひねりながら、ゼルガディスはアメリアの前にまわると顔を覗き込んで
再度、声をかけた
「アメリア、どうしたんだ?」

「っきゃあああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
「どわああああああああああああああああああああああああっっっっ??!!!」
虚ろだった瞳の焦点がゼルガディスの顔に合った瞬間、
アメリアは天地が引っくり返るような叫び声をあげた
そして、予想もしなかった叫び声に驚いたゼルガディスも、つられて一緒に絶叫する

他に誰もいない夜の離宮、そこに突然響き渡る二人分の絶叫
…まるでホラー映画…

ぜーはーぜーはーぜーはー
どきどきどきどき
「あ・あああアメリアっ!おまえわっ!何ってぇっ声を出すんだっ!!」
「ぜ、ぜるがでぃすさんっ、い、いつの間に…」
「何時の間にも何もっ!ちゃんと声をかけて入ってきただろうがっ!」
いまだに全力疾走している心臓をかかえ二人はベッドの上向かい合って座った
「はぁ、寿命が縮むぞ…ったく、声をかけても聞こえないくらい何考えてたんだ?おまえは」
「え、ええっ?!そのっ、えっと」
いっ、言えない、こここんなこと…
ショック状態から回復したら、また思い出してしまった『○夜』の二文字
そ、そりゃ、ゼルガディスさんは本当にほんとーに!大好きだしっ!
結婚したんだから、そうするのが当たり前だしっ!
そう!嫌じゃない!嫌じゃないんだけど……いざとなると………あうううううダメぇ!(血圧上昇)
茹でダコのように真っ赤になっているアメリアは緊張と恥ずかしさで顔も上げられない
そんなアメリアを前にしながらニブチンのゼルガディスは咄嗟に理由が解らず困惑していた
「…?」
なんだこいつは?
何を真っ赤な顔してガチガチになって………悪い病気にでも罹ったか?
―をい(裏拳)
……んー?…………………って、あ。…ああ、なるほどそういうことか
………そういや、今まで一度もまともに手を出したこと………無かったしな…たしか…
―情けない…あんだけ一緒にいてらぶらぶでこの調子、甲斐性無しと言われてもしかたない
ま、それはさておき
現在の状況を整理・考察した結果、乙女心に理解の無いゼルガディスでもアメリアの硬直の原因は解った
が、しかし!このまま膝突き合わせ、お見合い状態で夜を明かすわけにもいくまい
とにかくそのことからアメリアの意識をそらさねば……。待望の安眠を手に入れるためにも
一考後、ゼルガディスはそ知らぬふりで話しかける
「どうした?具合でも悪いのか?」
ぶんぶんぶん
とうとう口を訊くのも恥ずかしくてできなくなったのか、アメリアは思いっきり首を横に振って答えた
「言ってくれないと解らんぞ、準備を含めて今日まで、10日以上も会えないで
 ゆっくりおまえの顔を見られるのを楽しみにしてたのに…」
ぴく
その言葉にアメリアが反応する
ゼルガディスさんが私にあいたかったって、ほんとに?うれしい
どーんと頭にのっかってアメリアを固めていた『○夜』の二文字がぐらぐらと動いている
「やっとで二人になれたと思ったら
 おまえは一人で考え込んでて話はおろか顔さえも見せてくれない」
顔は上げないけど、少しは気がそれてきた様子
もうちょっとかな、思うゼルガディス
ここらでちょっと引いてみせると、大概それまでのことそっちのけで自分を追いかけてくる
そんなところがまた可愛いんだ
「原因は俺か?何か機嫌を損ねる事でもやったかな、言ってくれんと解らんぞ
 とにかくこのままじゃなんだ、俺は隣にでもいるから話す気になったら呼んでくれ
 ……………じゃあな」
びくん
アメリアの身体が震えた
?何か…変だ
無言で俯くアメリアの姿にいつもとは違う不安なものを感じながらも、とりあえずベッドから降りようと向こうをむく
がばっ
いままでじっと動かなかったアメリアがその背中に飛びついた、
手を伸ばし力一杯胴にしがみついて、去ろうとするゼルガディスを必死で引き止める
「やだっ!行かないで下さい、私を…置いてかないで下さいっ!」
意外なほど強い語調と行動にゼルガディスは驚き、首をひねってアメリアを見た
アメリアの体は小さく震えてさえいる
「もう嫌です!待つのも大好きな人をなくすのも!」
言って見上げた瞳は、恐怖に取り乱し自分を失っている者の、それだった
しまった
アメリアの異常に気付いたゼルガディスは自分の行動を瞬時に後悔した
いつも元気で底抜けに明るいアメリア、だが彼女にはその身の上からくる隠れた深い心の傷がある
―人との別れに敏感に反応する。人に背を向けられること、置いていかれることを異常に嫌う
 孤独を、耐える事ができない―
疑惑に満ちた母の死、それが最初の傷だった
幼かった事もあり記憶は埋もれてしまったがついた傷は消える事は無い
そして程なく起こる王位を巡る争い、大事な肉親が次々に失われていく、知らず傷は深まった
あての無い約束を残して姿を消した自分のことも、無関係とは言えないだろう
『大好きな人は皆私の前から消えて行ってしまう、離れて行ってしまう
 嫌、行かないで、私を置いて行かないで』
よっぽどの事が無いと表立って現われることのないそれを、本人は殆ど意識していない
が、それは確かにあるのだ
彼女の心の中に
……………解っていた筈なのに
いつものあっけらかんとした明るさと強さに、つい、忘れてしまっていた
「アメリア」
これ以上痛みを与えてはいけない
ゼルガディスはしがみついたアメリアの腕をそっとほどくと半泣きになった顔を見つめ
恐れで堅くなった身体を優しく抱きかかえた

「すまん、俺が悪かった。ひとりで置いていったりしないから、そんな顔をするな」
「うそ…」
「嘘じゃない、おまえがいいと言うまでずっとこうして抱いててやるから、だから泣くな」
怯える瞳を真っ直ぐ見据えて言う
「置いてっちゃ嫌です…」
「ああ」
「独りにしないでください」
「わかってる、ずっと一緒だ」
「ほんとに…?」
「ああ。帰ってくるという約束を、俺は守っただろう?もうお前の前から消えたりしない
 そう誓おう。だから……もう泣かないでくれ」
「…はい」

やっとで安心したのだろう、緊張のとけた身体が柔らかくもたれかかってくる
落ち着きを取り戻したアメリアに、ゼルガディスはほっと息をついた
これまで散々振りまわしてきたのに、今またこんな目にあわせて、最低だな俺は
もう一度深く反省すると、腕の中の少女の様子を覗き見た
すっぽりと抱きかかえられ胸に顔を埋めたアメリアは満足そうに目を閉じている
頬はほんのり桜色、唇には愛らしい微笑みを浮かべて

…なんか、別の意味で最低の人間になりそうだ
安心すると途端に意識される腕の中の少女の色香

触れると滑々と心地良い感触をかえす、雪のように白い肌
少し熱を帯びた身体から立ち昇る、鼻孔をくすぐる甘い香り
小さく可憐な唇は誘うような果実酒の赤

いかん、その気になってきた

今のアメリアには警戒のけの字もない、幸せ気分で甘い幸福感に浸っている
もしかして、ちゃんす?…いや、あんなことのあった後で、不謹慎だ!
理性と煩悩の狭間で悩むゼルガディス、がやっぱり彼もふつーの男
「………」(思考中)
『今なら………驚かさないように、そーっとことを運べば…………だいじょぶ、かも
ケダモノ扱いはご免だがほんのちょっと、味見程度、一口くらいなら…いい、かな…うん
いちおう、もう夫婦なんだから、正当な権利と義務だよな』
葛藤の末、勝利を得たのはやはり煩悩
意を決したゼルガディスは、そーっとアメリアの首筋に顔を寄せる
そーっと、さりげなーく…
ぱちっ
「そうだ!ゼルガディスさんっ!」
びくううううううっ!!!!!
突然あがったアメリアの大声に、今度こそ心臓が止まったか、というほど驚いたゼルガディス
「な・ななな・なんだ、あめりあ、い・いきなりおおごえだして」
あまりのショックに返事の言葉が棒読みだ
「思い出しましたっ!私、ずーっとゼルガディスさんとお話したかったんですっ!」
「あ?」
…お話?
「ゼルガディスさんが行ってしまってから今まで、ほんとにいろんなことがあったんですよっ
 全部お話したかったのに…今まで忙しくって、なかなか二人っきりになれなかったでしょう?」
「まぁ…そうだな」
それで?
「で、この部屋に来ながら考えてたんです今晩は夜通しお話しようって!」
「…はぁ」
…さいですか…
「へへー、夢だったんです。ゼルガディスさんとー、パジャマで寝転んでお話☆
 旅してる時は出来なかったし…リナさんとはときどきやってたんですけどねっ♪」
「…」
かくん
元気になったのはいい、いつもの明るい笑顔が見られたのはとても嬉しい、本当に
だがっ!何故今なんだ!
「何から話そうかなぁ…。あの日お別れした後ですね、私家に帰って父さんに…」
ゼルガディスの心の叫びなぞ知る由も無いアメリアは、
早速、別れの日の出来事から話し始めている
ちょっとまて
あの日から…ということは、そっから始めて数年分、頭からぜーんぶ話すつもりなんだろうな、やっぱり
その長さと量を想像しゼルガディスはめまいを感じた
「で、そう言ったら父さんったら…って、ゼルガディスさん!聞いてます?」
「きーてる」
「むー、本当ですかぁ?ま、いいや。それで…」
据え膳ならぬ据え酒
とっても美味しそうなそれを前に一口も口に出来ないなんて 

…………………可哀相に

結局、この夜アメリアは本当に夜通し話し続け
その口が動くのを止めたのは、空も白み始めた……………明け方近くだった


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2001『a fairy tale』 3おーはし 8/10-20:34
記事番号1999へのコメント


「…うー…」
眠い
死ぬほど眠い
明けて翌日、うっかりすると閉じそうな瞼をこじ開けて、洗顔と食事と着替えを済ませると
ゼルガディスとアメリアは本宮へと向かった
自分でさえこれだけ眠いのに夜に弱いアメリアは、そう思って隣を見ると
「…………をい、起きろ…」
はっ
「お、起きてますっ!寝てなんていませんよっ!」
―立ったまま寝る―
という器用なことをしていたアメリアは、ゼルガディスの声でびくっと目を開けるとぶんぶんと頭をふって答えた
「うそつけ。…ったく調子にのって明け方までしゃべくるからだ」
「ひーん、すみませぇぇぇん」(涙)
ちくちくとアメリアをつつくゼルガディス、でも、……止められなかったあなたも悪いのでは?
結局最後まで付き合って自分まで睡眠不足になってるあたり、人のことを言えた義理ではないと思う
本宮の中、眠気で朦朧とした顔と意識を引き締めると二人は執務室の扉を開けた
「おはようございます。よくお休みになれましたか?」
仕事の山を抱えた侍従たちがにこやかに朝の挨拶をする
『全然』
という言葉を寸でのところで飲みこんで、二人は居並ぶ人々に挨拶を返した
「さっそくですがゼルガディス殿こちらの資料に目を通して…」
「姫様、公務の前に巫女の神殿の方へお越しを…」
挨拶が終わると待っていたように仕事や指示が降ってくる
「ああ、じゃ後これは…」
「はい、わかりました。では…」
眠気に侵された頭をなんとか働かせて、それを片付けていた二人の動きがひたりと止まる
そして
『ふわあ』
同時に大あくび
……………しーん……………
途端に、騒がしかった部屋が鎮まり返る
しまった
手で口を押さえたお揃いのポーズのまま固まる二人
「まあ…、お二人とも眠そうでいらっしゃいますこと」
「こんな時までお揃いとは、本当に仲の良い」
微笑ましい(?)二人の姿に笑いの輪が広がる
「ですが、それでは外向きの公務に差し障りましょう。こちらのお仕事はもうようございますから
 ……少しでも御休みなさいませ?」
すっごくありがたいお言葉だが
「それと、仲のお宜しいのは結構ですけれど………夜は程々に……」
にこ。
やっぱり誤解されている(涙)俺は無実だ!
意味ありげなにこにこ笑いで退室して行く人々を、真っ赤な顔で見送りながら
ゼルガディスは誰も聞いてくれる者の無い言い訳を心の中で叫んでいた
「うわあぁい、眠れるぅぅ。良かったですねぇぇぇ、ゼルガディスさぁぁぁん」
一方、アメリアは少しでも眠れるのが心底嬉しいらしい、すでに閉まりかけている瞼をなんとか押しとどめながら間延びした声で喜んでいる
昨夜の『○夜ぱにっく』のことなどすっかり頭に無いらしい
「…おまえ少しは恥じろ」
「起きたら恥じます」
この娘、よろよろのくせに口だけは返してきやがる
いいかげん気力の尽きたゼルガディスは手近な長椅子に座り込んだ
その隣にちょこんと座るアメリア、そのまま体を倒すとゼルガディスの膝に頭をのせる
「おい…、何だこれは?」
「膝枕です。知りませんか?」
にっこり。笑顔で答えるアメリア
「それくらい知っとるわっ!」
「こうすれば…、ゼルガディスさんどこにも行けないでしょ?」
無邪気に見上げる瞳、そこに映る自分の顔
この明るい瞳の奥に、彼女自身気付く事の無い、深い傷が隠されている
『私を置いていかないでください』
思い出す、自分に向けられたあの悲しげな顔
「違うだろう…行けないんじゃない、行かないんだ。どこにも」
消す事ができるかは解らない。だけど、自分のでき得る限りを尽して、癒そう。その傷を
「え?」
軽く言った言葉なのに
帰ってきた意外なほどに真剣な返事を、アメリアは不思議に思った
―そういえば私、昨日の夜なんであんなに取り乱しちゃったんだろう、自分でも解らない
話の内容じゃない
向けられたゼルガディスさんの背中、そして『じゃあな』の言葉
ただ、それがわけもなく怖くて悲しくて苦しくて、夢中でゼルガディスさんにしがみついた
何だっけ………昔そんな想いを味わった事があるような気がする、何だっただろう…ずっと昔…
向けられた背中、『さようなら』の言葉、緩やかに崩れ落ちる女の人の…身体…………
……あれは、かあさ…………
「こらアメリア」
びく
自らの想いに沈み込んで行こうとしたアメリアをその声が我に返らせる
「あんなに眠たがっていたくせに何でっかい目見開いてるんだ?時間はそんなに無いんだぞ」
あれ、今私、何を考えてたんだろ?んー……?
「ほら、とっとと寝ろ。すぐ呼び出しがくる、それから後悔しても遅いからな」
「むぅぅぅぅ、解ってますよぅ!ゼルガディスさんのいぢわる」
「意地悪で結構」
…忘れちゃった。ま、いいや眠いし
「じゃ、ちょっとだけ、おやすみなさい」
「ああ」
少しの沈黙、すぐに聞こえる小さな寝息
それを確かめた後、追いかけるようにゼルガディスもまた、ささやかな眠りに落ちた
夢の中でも、彼女がひとりで寂しがることのないように


むかしむかし、あるところにもと合成獣の魔剣士さんと、恋する正義のお姫様がいました
長い別離の時を過ごしたのち、再会の約束を果たした二人は
国中の祝福を受け結ばれました
そして
今度は二度と離れることもなく、幸せに暮らしたのです
いつまでも

end

========================================

お、終わりました。…どーでしたでしょう?(不安)
見飽きるほど見なおしたので自分でよくわかんなくなっちゃたんです
いつもはなるべく一気に書いて、見飽きないうちに踏ん切りをつけてロールアウトさせるのですけど
今回特に時間が取れなくて、ちびちび長々書きつづけることになり、あんまり良くないなぁと思いながらもお話を無用に弄くる事になっちゃっいました…反省
いまいちと思われた方、申し訳無いです(涙)
で、えっと、このお話にはいちおうプロローグのようなものがありまして
こちら以外で始めてお話を載せて頂いたHP『猫本店電脳亭』さんに『おまけ』(笑)の名前ででています。
鈴鳴さんへ、これが本体です、どんなもんでしょうか?(涙)
さらに暴露するとプロローグと本体の間に、も一つお話が入る筈でした
そこまでいくとさすがに冗談じゃなくなると、諦めましたが

ではここまで読んで頂いて本当にありがとうございます

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2029はじめましてです絹糸 8/13-14:36
記事番号2001へのコメント


 はじめまして おーはしさん、わたしは絹糸という者です。

 読ませていただきましたよゼルアメを!
 もうおもしろいのなんのって、アメリアパニクッてるしゼルはおあずけくらってるし。
 ○夜はあえなくおしゃべりになってしまったわけですか。なんか今後も照れまくって苦労しそうな二人(特にゼル)。本当の○夜を迎えられるのはいつの日か?
 鈴鳴さんのところにある話もちゃんと読みましたよ。
 いやあ、良いもの見させていただきました。(ゼロス調)

>プロローグと本体の間に、も一つお話が入る筈でしたそこまでいくとさすがに冗談じゃなくなると、諦めましたが
 なんかすんごく気になるんですけど。読んでみたいでっす!

 それでは 今後もゼルアメな話を作って下さい!

 絹糸でした!

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2036Re:『a fairy tale』 3わかば E-mail 8/14-11:27
記事番号2001へのコメント

おーはし様。
猫本店電脳亭のコメントにつられ、やってきました。
微笑ましいです。魔剣士さんには、酷な夜だったかも・・・(笑)
アメリアの奥にあるものについて考えさせられました。
人の心って難しい・・・。
それでは。拝見させて頂きありがとうございました。
わかば

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2030泣けてきましたさいとうぐみ 8/13-15:33
記事番号1999へのコメント

こんにちわ。
久しぶりに、ゼル×アメを読みました。
何せ今まで、インターネット禁止令が出ていたものですから・・・
a fairy・・・2で泣かせてもらいました。

いつも元気で底抜けに明るいアメリア、だが彼女にはその身の上から来る隠れた深い心の傷がある。

ここで涙しました。(ほんとです)
久しぶりに、アメリアの心の傷を見たせいか、10分は、涙が止まらなくて、キーボードが壊れるかと思いました。
おーはしさんの作品には、いつも泣かされっぱなしの私。
(それほど、人の心をつく何かがあるんですね)
また良いお話書いてくださいね。
さいとうぐみ 

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2041感想下さった方皆さんへおーはし 8/15-23:23
記事番号1999へのコメント

今回は感想は期待できないだろうなぁ、と思いつつも
旅行から帰ってきて3日ぶりにこそっと覗きに来てみたら
なんと三つも書いて頂けてて(!)、驚いたやら嬉しいやら恥ずかしいやら(混乱)
んもう大騒ぎでした
おまけに、皆さん私には分不相応なくらい誉めてて下さってて(恥)
読みながら恥ずかしくて恥ずかしくて、画面の前で一人でテレてました
書きたくて、頑張って書いたのだけど、ほんとに無かったんです、自信(涙)
毎度の事ながら思いきって出してみて良かったです

ということで、

絹糸さんへ、…気になりますか?そ・そんなに大した内容ではないですよ…(汗)
ほいっと思いついた、『おまけ』と『fairy』のインターミッションの様なものなんで…
一応書き始めてはいたのですけど、「やめとこ」と思った時点で放ってあります
でも…そういうご意見があるのなら完成させようかなぁ、うー…(悩)
出来あがるか保証はできないのですけど(涙)、もし出来たら出させて頂きますです

さいとうぐみさんへ、ご感想、大赤面で読ませていただきました
今度は楽しいものと言いながらまた泣かせてしまったみたいで、あうう
長いものを書くとこんな感じになっていくんですよね、ほじくってほじくって考えてしまって
そんでも、悲しいのと苦しいのと怖いのが嫌いな軟弱者なので
最後は『みんなしあわせ』で終わらせたいと思ってますです。
あっ!それとっ、それとっ、お話見つけましたっ!で、読みましたっ!
ほんとに悲しかったです。上に書いたような軟弱者なのでことさら堪えましたです
感想文が苦手で、こんなことしか書けずすみません(涙)

わかばさんへ、猫本店電脳亭さんの掲示板でも書いて頂いててありがとうございます
投稿した時、お話こそっと読ませて頂いてますです(小心者)
ひとさまの書かれるゼルガディスは何であんなにかっこよいのでしょう
ほんとに、うちとことは大違い(涙)です

大変失礼とは思いましたが
ご感想くださった皆さんへのお返事まとめて書かせて頂きました
毎回つたない文ですみませんです

では、本当にどうもありがとうございました(礼)