◆−「花嫁のベール」 上−おーはし(8/18-14:29)No.2065
 ┗「花嫁のベール」 下−おーはし(8/18-14:31)No.2066
  ┣Re:「花嫁のベール」 下−鈴鳴 彩菜(8/19-01:43)No.2069
  ┃┗鈴鳴さんへ−おーはし(8/20-23:09)No.2082
  ┣Re:「花嫁のベール」 下−なゆた(8/19-02:23)No.2071
  ┃┗なゆたさんへ−おーはし(8/20-23:11)No.2083
  ┣Re:多謝!−絹糸(8/19-14:37)No.2076
  ┃┗絹糸さんへ−おーはし(8/20-23:15)No.2084
  ┣うっとり。−わかば(8/20-01:43)No.2081
  ┃┗わかばさんへ−おーはし(8/20-23:17)No.2085
  ┗おーはしさんの話には、いつも胸を突かれます。−さいとうぐみ(8/23-22:29)No.2099
   ┗さいとうぐみさんへ−おーはし(8/25-21:50)No.2105


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2065「花嫁のベール」 上おーはし 8/18-14:29


 これは前書いた『a fairy tale』と『おまけ』の間に入れよっかなーと思ったお話です
同じ所に繋げるべきなのでしょうけど随分下に下がっちゃったし、見つけてもらえるか不安だったので
新規投稿しちゃいました。『おまけ』は別のHPだし…節操無くてすみません(汗)
 再会のあとすぐ○夜では身も蓋も無いなぁ(笑)と、考えたものだったのですけど、いかんせん
一つの話にこんなに長く、集中力が続くだろうかと不安になり(根性無し)書きかけで止めたものです
でも、期待してくださった絹糸さんの感想でころっと考えを変え、まとまった時間が取れたこともあって
結局、仕上げちゃいました 
 期待に添えるようなものになったか解りませんが、どうぞ良かったら読んでみてくださいませ

===========================================

「はい、真っ直ぐ立って腕を伸ばして…ああ、ほら動かないで下さい」
「…ふぅ」
白魔法都市セイルーン。その王城の一室で仕立て屋に身体をあっちこっち曲げ伸ばしされているのは
『もと』合成獣にして残酷な(笑)魔剣士、
そして現在は式を控えた花婿である、ゼルガディス=グレイワーズ
数日後に迫った結婚式、その衣装の仮縫いの為この部屋に押し込められ仕立て屋とその助手に
体中いじくりまわされているのである
ただでさえ人に触れられるのが好きでない猫のような性格の彼、そのストレスは限界に達していた
「…どーせ一回しか着ないんだし、多少手を抜いても…」
耐えかねてぼそっと提案してみるが
「いいえっ!我らが姫様のお相手の御衣装!かんっっぺきに仕上げさせていただきますっ!」
あえなく一蹴された
どうやらこの城の住人は国王、姫に限らず熱血漢の集まりらしい
「はぁ…」
―まったく、式やら準備やらその他もろもろ何日も何日もめんどくさい
こんな大層な式典なぞ省略して、あいつだけ身ひとつでぽんとくれればそれで良いものを…
根が一般庶民のゼルガディスは、今まで何回頭の中で思ったか判らないその言葉を
またぞろ繰り返していた
とはいえ、何しろセイルーンは大国、その姫の結婚なのだから大掛かりなのは仕方の無い事
今回は恐ろしく急いでいるのでこれでも簡略化されているのだ
貰えるだけでも奇跡のようなもの、文句を言ったらバチがあたる。だから思うだけ
「ここはもう少し長めにとりましょう、そっち!ちゃんととめて」
更に続く仮縫い作業、『式が終わるまで、終わるまで』そう呪文のように唱えながら
ゼルガディスはただただ耐えていた
と、そのとき
どたばたがたぐしゃ
『おまちくださぃぃぃぃぃ!!!!』
『どわぁぁぁ!何だっ!何者っ!!』
『どうるさいっ!!あたしを知らないなんてあんた達新入りね!おどきっっ!!魔風っ!!!』
『うひあああぁぁぁぁぁ!!!!!』
廊下の方から突然聞こえる不穏な物音と悲鳴
何事?!部屋の中にいるものは全員扉に注目した
どすどすどす
近づく迫力のある足音
「今の声…………すっごく…聞き覚えがある気がするんだが…まさか」
ばんっ!!!
勢い良く扉を開き現われたのはゼルガディスの予想通りの人物
「リナっ!」
自称天才美少女魔道士、その実ドラゴンも跨いで通るドラまた娘、リナ=インバースその人
「ゼル」
「んあ?」
「ひっさしぃぶりぃぃぃぃ!!あーんど、おっめっでとぉぉぉぉっ!!!」
ダッシュをかけてジャンプ、そのまま勢い良くゼルガディスに飛びつく
「のわっ!」
再会時のアメリアと同じ攻撃を、また正面から食らったゼルガディス、再び真後ろに転倒!
ごん
そしてやっぱり素直に後頭部を強打する、避けるとか受けるとかすればいいのに…
「おし!決まったっ!」
…何か変だ。言葉は祝っているのだけど、いまいち態度が攻撃的なのは何故?
痛む頭を押さえ訝しむゼルガディス
そんなことなどお構い無しのリナは、飛びついた時の乗っかかり状態のまますぅーっと息を吸い込むと
一気にまくし立てた
「こぉんの薄情モンっ!!
 何よっ今の今までひとっことも連絡よこしてこないでおいて!!やっとで言ってきたと思ったら
 『結婚します―ゼルガディス&アメリア』ですってぇ?!
 そりゃね、とぉってもおめでたいし、嬉しいわよすっごく。二人ともあたしの大事な友達だもん」
 ここでちょっと息継ぎ
「でもっ!!でもねっ!あんたもとの身体に戻れたんなら、あたしたちんとこに
 先にそのこと言いにきてくれたっていいじゃないっ!あたしだってっ!ガウリイだってっ!
 ずぅぅぅっと待ってたんだからっねっ!!あんたが元に戻って帰ってくるのっ!」
ぷんっ!
どうやら、自分達に『戻った』の一言も無しに事が進んでしまっていたのが心外だったらしい
本当はここに来てから幾日もたっていないのだが、事情を知らないリナにそれが解る筈も無い
「…すまない」
怒涛の連続攻撃に呆然としていたゼルガディスはやっとで一言答えた
アメリアだけじゃない、ここにも、自分を待っていてくれたものがあった
合成獣の身体にされたあの時、この姿を戻さぬ限りもう人とまともに交わる事など出来ないと思った
が、今まで生きてきた中で最高の友人達は、そのさ中で出会ったのだ
全てが終わった今だから思える
異形のあの姿は絶望と悲嘆だけをもたらしたのではないと
「本当にすまなかった」
「……もーいいわよ、ちょっと拗ねてみたかっただけ。そんなマジな顔しないでちょーだい」
神妙に謝罪するゼルガディスに、リナは少しだけ機嫌を直した
「ただ、言い訳みたいになるが、アメリアに逢ったらすぐお前らのとこにも行くつもりだったんだ
 この事については関係者でもあるし、何より、その、友……人、…でも、………あるしな」
「ぷ・うぷぷぷっ、なぁーにテレてんだか、すっと言いなさいよっ、『友達』くらい」
言い慣れない『友人』という言葉に、すこーし赤面&どもり気味のゼルガディス
その不器用さは相変わらずで、微笑ましさに思わず笑みこぼれてしまう
らしくない言葉で一生懸命想いを伝えようとする友の姿に、リナはすっかり機嫌を直したらしい
「…う。(汗)で・でだなっ!!
 約束通り、アメリアに逢いにここまで来たら、有無を言わさず城に連れこまれて
 フィルさんにいきなり『貰ってくれるか?』と迫られた、それに頷いたら即・結婚決定。
 速攻で拘束された後、礼法だ、作法だ、王族の人間の把握だ、とあれやらこれやら詰め込まれて
 『ちょっとそこまで』なんて言って出て行く暇なんぞありゃしない。
 そんなこんなで日は過ぎて、今は、衣装の仮縫いの真っ最中、という訳だ」
はぁぁぁぁぁ
一息に言うと、げっそりとうなだれる
「そ、そりゃ大変……だったわね、ごくろーさん…」
ゼルガディスの性格を知るリナはそれしか言う言葉が無かった
「…で、リナ、お前は今どうしてるんだ?まさかまだ旅をしているわけじゃあるまい」
うなだれた顔を思い出したようにひょっと上げると、ゼルガディスが聞いた
途端に視線を落ちつき無くさ迷わせ始めるリナ
「え?あ・あたしっ?えーとうーんと、その、アメリアから聞いてないの?」
「聞いてない」
「………うに(汗)。あーと、そのね、けっ…」ごにょごにょ
きっぱり答えたゼルガディスを前に、赤い顔したドラまた娘はいまいち歯切れが悪い
「あ?聞こえんぞ」
「け、結婚、したのっ!が、ガウリイとっ!!」
真っ赤な顔で一叫び
「ほお…やっと決めたのか」
自分より前から一緒に旅をしていた割れ鍋閉じ蓋の二人、いつかは絶対くっつくとは思っていたが
やっとで収まるところに収まったらしい
きっと彼らなりに仲睦まじく騒がしく、自然体で暮らしているのだろう
いまいち非現実的で身に合わない世界で振り回されている自分を思うと、何となく羨ましかった
「で、今はとーちゃんとかーちゃん手伝って、いつかはやろうと思ってた商売やってんのよ
 あ、でもっ!魔術の研究だってやめてないわよっ、腕は落ちちゃいないかんねっ!」
言いながら自慢げに反っくり返る
「わかったわかった、で、旦那は?」
「え?ガウリイ?置いてきちゃった、てへ」
「『てへ』、じゃなかろうがっ!!」
「だあってぇ、もちょっと仕事残ってたしー、子供の世話もあるしー……
 式の当日にはちゃーんと一緒に来るから」
「子供?!もう子供までいるのか?」
リナとガウリイの子供!!一体、どんな化け物に育つやら…(恐)
とりあえず、母親の性格だけは受け継がない方がいいだろうな、世界の平和の為にも
リナに聞かれたら即、『竜破斬!』なことを思うゼルガディス
「そりゃぁいるわよ、結婚して3年もたちゃあ…って、あ、そか聞いてないんだったわね
 にしても、アメリアもあんたに逢えて嬉しいのは解るけど、あたしたちのことくらい話したって
 いいでしょうに、嬉しすぎて忘れちゃってる、ってんじゃないでしょうねぇぇぇ」
「それは誤解だ、話さなかったんじゃなくて話せなかった、が正解だ」
誤解されたままではアメリアが危ない(笑)ジト目で言うリナに即座に答える
「拘束されたって言っただろう、アメリアもそれは同じで
 結局再会したあの日から俺たちは殆ど顔もあわせてないんだ。話なんかとんでもない」
その言葉にリナは最大級の驚きをしめした
「えええええ!!!何よそれっ信じらんない!!」
「巫女のしきたりだと。当日まで神殿で潔斎せにゃいかんのだそうだ」
「だそうだ…って!あんた良いのそんなんで!!しきたりなんて無視してっ、夜這いでもなんでも
 すりゃいいじゃないっ!!」
ゼルガディスの代わりにリナが憤慨している。憤慨ついでに、かなり危ないことも言ってたりして…
「良かないが、俺を信頼してあいつをくれると言ったフィルさんを裏切るようなことはしたくない」
当事者は到って冷静、淡々とそう告げる
「それに、数週間後には絶対に逢えるんだ、そう思えば待ち遠しいこんな気分も、悪くない」
ほんのしばらく前までは、再会の宛も無い毎日を過ごしてきた。それを思えば…
「あーあ…ったく、幸せそうな顔しちゃってまあ…………ごちそうさん」
「お前らと違って俺たちは離れている時間が殆どだったんだ、これくらい言わせろ」
珍しくおもいっきり惚気るゼルガディス、とうとう開き直ったか?
いや、多分、話す相手がリナだからだろう
リナは彼が認める数少ない『友人』だから、何度となく生き死にを共にした『戦友』だから
甘えも惚気も、遠慮無くすることが出来る
「っつーことは、アメリアは神殿の方?そういうことならさ」
「いや、予定でいけば今日はあっちも仮縫いだろうから、神殿からは出てるだろう」
「そ。んじゃ顔見にいってあげなくちゃね」
そんな状況ならさぞかし寂しがってるだろう
…いや…思いついたら即・行動、のあの娘なら今日あたり、夜這いの準備をしているかも…
「そうしてくれ。…でリナ」
「なによ」
「いいかげん降りてくれないか」
………………………………しーん……。
「…あり?」
そう言われたリナは、
ようやく自分が、飛びついた時の乗っかかり状態のまま、ゼルガディスと話していた事に
気がついたのだった
そして…
「あの…お話がお済なら…仕事の続きをさせて頂きたいのですが…」
部屋の隅には、突然やってきて仮縫いを台無しにしたドラまた娘に対抗する事も出来ず
ずーぅぅぅぅっと無視され続けた哀れな仕立て屋の姿があった


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2066「花嫁のベール」 下おーはし 8/18-14:31
記事番号2065へのコメント

「やっほぅ、アメリア、元気してる?」
顔見知りの女官に聞いてやってきた部屋の中、アメリアは純白の花嫁衣裳にその身を包まれていた
この国の民族衣装の流れを汲んでいるのだろう
飾り気の無いシンプルな形のドレスは素材の上質さがすぐ見てとれる
艶やかな黒髪を覆い床まで広がるのは、蜘蛛の糸で編んだような繊細なレースのベール
どれもアメリアの持つ清浄な美しさと愛らしさを際立たせる見事な出来だ
どうやらこちらの仮縫いは終わったところらしい、このまま式に出られそうだ
「ああっ!リナさんっ、お久しぶりです来てくれたんですかっ!」
姉とも慕う友人の訪問に、アメリアは両手を広げてかけ寄ろうとする
が、
「ちょっとっ!アメリア止まんなさいっ!!」
「ほえ?あわっ、うきゃ!!」
べちょ
衣装の裾は引き摺るほどに長い、案の定裾を踏んで転び、顔面を強打するアメリア
花婿は後頭部、花嫁は顔面、まったく仲の良い事で…
「ちょっと、大丈夫?」
「平気ですっ!!こんなことで私の正義はくじけませんっ!」
心配げに様子を覗うリナに、がばっと起き上がり握りこぶしで宣言!
二十歳になったアメリアは、少しだけ背が伸びて、少しだけ髪も伸ばして、少しだけ大人びた
けれど中身は変わらない、二十歳になろうが花嫁になろうが、一緒に旅してたあのときのまんま
リナにはそれが心配でもあり嬉しくもある。ゼルガディスも、きっとそうだろう
「とりあえず、おめでと。良かったわね、ゼル、無事に帰ってきて」
「はいっ!ありがとうございますっ!
 …ほんとはすぐリナさんたちのとこへお知らせに行きたかったんですけど…」
「わぁってるわよ、そのことはゼルに聞いたわ」
「え?!ゼルガディスさんに会ってきたんですか?」
「ん。合成獣でない姿ははじめて見たけどすぐわかったわ、なかなかなもんじゃない」
「えへへへーでしょー」
にひゃっと笑み崩れるアメリア、けれどすぐにその顔が曇る
「でも…、ずぅぅぅぅぅっと、顔もまともに見てないんです、式が決まってすぐ隔離されて
 お話だってろくにしてないのに……………うっく…」
おっきな目に徐々にたまる涙
「しきたりだからって神殿に入れられて、ひく、仕方ないんだけど、えぐ…
 でも……………逢いたいですぅぅぅぅぅぅぅ、ふえぇぇぇぇぇ」
とうとうべそをかきはじめてしまった
「ああああ、もう泣かないのっ!!あんたもう二十歳でしょ、大人になったんでしょ!」
突然泣かれて困ったリナが怒鳴る、と
……くす
「…あは、リナさん、それゼルガディスさんが私に逢って最初に言ったのと同じ台詞だぁ」
涙で顔をくしゃくしゃにしながらもアメリアは嬉しそうに笑った
「ほら顔拭いて、もうすぐしたら嫌って程一緒にいられるわよ」
「はい」
この子は、泣いたり笑ったり忙しいこと
苦笑しながらも泣き止んだアメリアの顔をごしごしと拭いてやる
「それにしてもこのベールすんごい上物よねぇ…商人の血が騒ぐわぁ」
「…盗んで売り飛ばそうなんて思ってませんよね………リナさん」
ジト目で睨むアメリア
「へ?…や・やあねぇ、アメリアったら、そんなこと…するわけないじゃぁん、へへへへ」
「怪しい……これは死んだ母さんの使った大事なものなんですからねっ!あげませんよっ!!」
確かにそのベールは少し古いものだった
顔も覚えていない母の形見、それを身に纏い娘は嫁ぐ
その手で育てる事のかなわなかった彼女にとって、それは何よりの手向けになるだろう
「ふーん…そっかぁ……………そだ、アメリアちょっとこれ貸して」
「は?良いですけど、何するんですリナさん?」
「ないしょ、すぐ戻るわ」
アメリアの頭からベールを取り、手早くまとめるとリナは部屋を飛び出した

******

「ゼル!まだいる?」
部屋を出たリナが向かったのは、ゼルガディスが仮縫いをしていた部屋
外にいた衛兵と仕事をやりなおしていた仕立て屋が、その姿に少しびびっている
殆ど猛獣扱い。間違ってはいないけど
「何だリナもう戻ってきたのか?」
リナの闖入で多少遅れはしたがこちらの方も終わりらしい
セルガディスが見るからにほっとしている
「ん、ちょっと。ね、ゼルこっち来てすこーし屈んでみて」
「あ?……これでいいのか?」
訝しがりながらも言われるままリナの前に立つゼルガディス、その頭にばさっとベールが被せられた
「んぷっ!何すんだ、こらっ!」
「じっとしなさいよ、おー憎たらしいほど良く似合うわね、やっぱ」
銀の髪に純白のレース、細身の身体に整った顔立ちも手伝って、それは意外なほど彼によく似合った
性別のない月の様な美しさ
遠巻きに見ていた者から溜め息が漏れる
「何のつもりだこれは」
女装にトラウマ(笑)のあるゼルガディスが不機嫌に問いかけるが
リナはそんな抗議など聞こえてないかのように語りだした
「あのねーゼル、あの子ああ見えて結構泣き虫で寂しがりやなのよ」
「知ってる」
「あんたのいない間、あたしが尋ねて行くとなかなか帰してくれなくってね」
「そうか」
「夜、一緒の部屋で寝てると、聞こえんのよ『ゼルガディスさん』って、寝言なんだけどね」
「………」
「んで、枕元に行くじゃない、したら大抵泣いてるのよね、寝ながら、本人は覚えてないらしいけど」
「………」
「…もう、勝手に出てくんじゃないわよ、泣かしたら承知しないからね」
ひたりと視線を合わせ真っ直ぐに言う
「ああ」
返された言葉は短く、けれど力強いものだった
「あの子が大事なのはあんただけじゃないんだからね」
「解ってる。すまなかったな今まで」
するりとベールを下ろすとゼルガディスはリナにそれを手渡した
「幸せになんのよ、あたし達に負けないくらい」
「あたりまえだ」

******

「おっまたせー」
「リナさんどこ行ってたんですか?」
戻るのをきちんと待っていたらしい、部屋に入ってきたリナにほてほてと駆け寄るアメリア
今の彼女は仮縫いの終わった衣装を脱ぎ、いつもの動きやすい普段着に戻っている
「あのまま持って逃げるんじゃないかと心配しました」
「……そういうこと言うのはこの口かなぁぁー?んんーほりほり」
「ふみまふぇぇん」
怒筋を貼りつかせたリナに口の両端をうにーっと伸ばされ、不明瞭な発音で謝るアメリア
ふにふにと柔らかいほっぺは、本当に良く伸びる
「ったく、ほら」
ふわ
リナが持っていたベールをアメリアに被せた
「え?何ですか……?……………………あ…」
「ゼルを連れてきてやったわよ」
被せられたベールから仄かに漂うのは、大好きな人の胸でしがみついて泣いた時と同じ香り
再会したあの日確かに嗅いだ、父さんとは違う男の人の、胸震えるほどに恋しい香り
「ゼルガディスさんの、匂いだぁ……」
ゼルガディスさんに抱きかかえられてるみたい
被せられたベールに身体を包みながらアメリアは幸せそうに微笑んだ
「今はこれで我慢なさい、抜け出して逢いに行こうなんて思うんじゃないわよ」
ぎく
「や・嫌ですね、リナさんっ!そんなこと、す・するわけ無いじゃないですかっ」
やるつもりだったな…この娘
バレバレな台詞で動揺を示すおてんば姫に、リナはこめかみを押さえた
「黙ってあんたをくれたフィルさんの信頼に応えたいって、ゼルも我慢してんだかんね」
「…はい」
わがままを黙って許してくれた父親の名前をだされ、アメリアは神妙な顔になる
全ては私の為に、沢山の人が沢山の愛情で、まるでこのベールのように私を包んでくれている
ゼルガディスさん、父さん、リナさん、ガウリイさん、城の人達、みんなみんな
大好き
「…リナさん、花嫁のベールに意味があるって、私最近、本で知ったんです」
「ああ、『花嫁のベールは二人の間の障害をあらわしている』って、あれでしょ」
ふと思い出したように言うアメリアに答えて、リナは頭の中の記憶を掘り返す
確か、自分の式の時に教えてもらったんだっけか
「はい。でも私、このベールを障害だなんて思えないです。
 こんなに薄くて繊細で綺麗で想いのこもった障害なんて、この世にありませんよね」
「…そーね」
「で、で思うんです。これって二人を祝福してくれる皆の想いっていう方がぴったりなんじゃないかって
 皆の想いに包まれて、大好きな人と誓いを立てるんです。絶対幸せになりますって」
宝物を見つけた子供の様に嬉しそうなアメリアを、リナはベールごと抱きしめた
そのままぐしぐしと頭を撫でる
「ったくもう、あんたって子は…」
血は繋がってはいないけど、大事な私の妹
出来る事なら、この子の行く道が光に満ちた穏やかなものでありますように

******

「さあさ姫様、準備は宜しいですか?式次第は御覚えですね?」
「大丈夫です。女官長、あなたがそんなにうろたえてどうするのです」
「…姫様、飾り帯が後ろ前です…」
「はにゃ?」
セイルーン第二王女アメリア姫の結婚式当日
その日はお日様のような彼女に相応しい、雲一つ無い青空が広がる晴天だった
この世界の神、赤の竜神スィーフィード、
その神殿の扉の前に純白の衣装とベールに身を包んだ花嫁が降り立つ
途端にあがる祝福の歓声、この歓声さえもベールにして花嫁は身に纏う
隣にはこれからの人生をともに歩む伴侶の姿、あの日から数十日ぶりの再会である
「さて、とっとといって、適当に誓いなんぞして、手早く終わらせるか」
同じ白い衣装の花婿は花嫁にだけ聞こえる小さな声でかなり不謹慎な発言をする
「そうですね、面倒なことは早く終わらせちゃいましょう」
花婿が不謹慎なら花嫁も不謹慎、神に聞こえたら天罰ものの返事を返す
「ではお二方とも、参りますよ」
「ああ、行くぞアメリア」
「はい」

リーンゴーン…リーン…ゴーン…

国中に響き渡る鐘の音、それに合わせるように二人は揃って歩み始めた

end

===========================================

 終わり、いやこの後に本体があるから『続く』になるのでしょうか
いかがでしたでしょう、お笑いが少なくて少し濃ゆかったかなぁと思うのですけど(汗)
まさかゼル&アメリアが結婚するというそれだけでこんなに長い話になるとは思いもしませんでした
しかも結婚式本体は全然書かず前と後ろだけ(笑)
 書き終わってみて思ったんですけど、今回ガウリイさん全然出ませんでしたね、あは
『眠り姫』でも出なかったし、自分で書いておいて何ですが……可哀相
では、ここまで読んでくださった方、お付き合いありがとうございますです

最近久々に人様のお話を覗かせて頂いてちびっと落ちこんだりしてます
短くて綺麗にまとまったお話、長いのにしっかり組み上げられた波乱万丈なお話、上手な方の間で
こんな趣味に走ったの出して恥ずかしいなー…とか
すみません、単なる愚痴でした。こんなこと言ったら誉めてくださってる方に失礼ですね、うに。


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2069Re:「花嫁のベール」 下鈴鳴 彩菜 E-mail URL8/19-01:43
記事番号2066へのコメント

ゼルのにおい。
スゲ最高に良かったです。(口悪し)

どーしても、人様のものってイイとこばっか見えるのに、
自分のは悪いとこしか見えないんですよね。

だから第三者の私が言いましょう。


おーはしさんのおはなしは心があつくなるものばっかりです。
羨ましいですよぉ。ほんと。

これからもゼルアメ信者として、見守ります&期待してますので、
書きたい物を書きたいように、書いて下さいね。

でわでわ♪

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2082鈴鳴さんへおーはし 8/20-23:09
記事番号2069へのコメント

毎度ご感想ありがとうございます
ついぽろっとしけったおせんべいのようなこと書いてしまいました
余計な気を使わせてしまって赤面ものです、すみませんです(へこり)

で、気を取りなおしたところでお願いが(すりすり)
貰って頂いた『おまけ』なのですが
本編が「a fairy tale」、幕間が「花嫁のベール」、でプロローグが
『おまけ』(笑)…ってのはあんまりかなぁと…
で、出来たらそのぉ、何か適当な題名つけて頂けないでしょうか?
ほんとに、出来たら、でいいですから(ぐにぐに)

それでは…

あ!それとこんなところで何ですが…
掲示板に粗相をしてしまってすみませんでした(涙)

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2071Re:「花嫁のベール」 下なゆた E-mail 8/19-02:23
記事番号2066へのコメント

お邪魔します、なゆたです。
 早速ですが……、っ転がさせて頂きましたぁぁぁ!!!
 前回に引き続き、ゼルアメの結婚式もの!!
 ゼルアメを愛するものとして、これ以上は無いというほどの幸せでした。
 それにしても、今回私的つぼ!!
 その一・ベールの似合う男ゼル!!
 その二・またもや女性に押し倒される奴!
 その三・夜ばいを計画していた巫女姫アメリア!!!

 嬉しすぎて大笑いしてしまいました。

 結婚して、照れまくっているリナもなんだかかわいいし。
 実は子供までいるということに、もんのすごく驚いたり。

 かなり楽しませていただきました。
 
 それでは、かなり短い&乱文ですが、お邪魔さまでした

        なゆた

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2083なゆたさんへおーはし 8/20-23:11
記事番号2071へのコメント

嵐のように激しい感想ありがとうございます(汗)
箇条書きにまでして表現してくださるとは…
迫り来る『!』に思わず後じさってしまいました(笑)

力一杯笑っていただいてとっても嬉しいです
周囲からは「絶対零度のギャグを言う女」の地位を頂いていますので
喜びもひとしおです

短文ではありますが、ほんとにありがとうございました

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2076Re:多謝!絹糸 8/19-14:37
記事番号2066へのコメント


 おーはしさん、どーも。絹糸です。
 まず、お礼をば。ありがとうございます!
 わたしのたった一言で本当にこの話を書き上げて下さるなんて!
 ああ!感想してよかった!
 今回のも楽しめました!やっぱりおーはしさんのゼルアメはいいですねえ。


>「それにしてもこのベールすんごい上物よねぇ…商人の血が騒ぐわぁ」
>「…そだ、アメリアちょっとこれ貸して」
>「は?良いですけど、何するんですリナさん?」
>「ないしょ、すぐ戻るわ」
>アメリアの頭からベールを取り、手早くまとめるとリナは部屋を飛び出した
 この会話でわたしは本当にリナが売り飛ばしやしないかと不安になりました。

>女装にトラウマ(笑)のあるゼルガディスが不機嫌に問いかける
 某人の小説では完璧な女装が施されていましたが・・・

>「さて、とっとといって、適当に誓いなんぞして、手早く終わらせるか」
>「そうですね、面倒なことは早く終わらせちゃいましょう」
 ええんかい!一生の誓いが適当で!
 ・・とつっこみたくなるのはわたしだけでしょうか?


>いかがでしたでしょう、お笑いが少なくて少し濃ゆかったかなぁと思うのですけど(汗)
 そんなことはございません。お笑いなら要所要所にポンポンと。
 リナがゼルを恥ずかしがることなく押し倒したときは驚きました。

>しかも結婚式本体は全然書かず前と後ろだけ(笑)
 二人の後ろでフィルさんの大泣きする声が響き渡ってそう。(笑)

> 書き終わってみて思ったんですけど、今回ガウリイさん全然出ませんでしたね、あは
 そういえば。
 ゼルが前にでる話だとガウリィって急に影が薄くなる気がします。

>では、ここまで読んでくださった方、お付き合いありがとうございますです
 こちらこそ、望みを叶えて下さってありがとうございましたですます。(日本語変)


>最近久々に人様のお話を覗かせて頂いてちびっと落ちこんだりしてます
 ほえ?どうしてですか?

>長いのにしっかり組み上げられた波乱万丈なお話
 な○たさんでしょうか?

>上手な方の間でこんな趣味に走ったの出して恥ずかしいなー…とか
 そんなあ。そんなこと言われたらわたしはどうすればいいんですか?わたしのなんて駄文としか言いようがないのに。
 おーはしさんの話を私も他の人も喜んで読ませていただいてるんですよ?

>すみません、単なる愚痴でした。
 いい作品を読むと自分の作品が下に見えてくるものです。愚痴の一つも言いたくなります。
 それが嫌でもっといい作品を作ろう、と努力するか、自分には才能が無いんだ、とあきらめるかはその人次第。
 おーはしさんの作品、好きですよ?これからも書いて、私達に読ませて下さい。

>こんなこと言ったら誉めてくださってる方に失礼ですね、うに。
 そうそう。全くその通りです。うに。(←なんだか気に入りました)

 なんか偉そうなこと言ってしまいましたね、わたし。
 好きなものは好き!それでいいんです。よーっし!わたしも懲りずにゼルアメ書くぞー!

 それでは、本当にありがとうございました。 絹糸でした。

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2084絹糸さんへおーはし 8/20-23:15
記事番号2076へのコメント

このお話、喜んで頂けてとっても安心しました
途中で書くのを止めたとはいえすこーし未練もあったので全部書くことが出来て
すっきりしました
とか言って、書き始めたら一回詰まって、やっぱダメかなぁとか思ったりしたん
ですけどね。てへ。(根性無し)

ゼルの女装のトラウマとは、TV版のミワンのことを想定してます
いいなーと思った女の子が女装の男ってのは結構後を引きそうだなぁと
ふと書きながら思いまして、ひょっと書いちゃったんです
でも、ラジオドラマでは喜んでしてましたよね彼、否定してたけど(笑)

リナちゃんがゼルに対して恥じないのはやっぱ結婚して免疫が出来たかな
というのと、もう彼が家族みたいな感じになってるんじゃないかというの
二つを思ってです。私的妄想ですがTVのこの二人って、歳の近い姉弟or兄妹
って感じがしたんですよね、で、自分で書く時それが出ちゃうんです

フィルさんについては「あ、気付かれた」って感じです
実はフィルさんについても色々想像してたんですよね、お話には入らなかったけど
アメリアとフィルさんって普通よりずっと繋がりが強そうだから
それだけでお話になりそうですもん
ご存知かどうか…多分知ってらっしゃると思うのですけど
結構有名な「観葉少女」という漫画の3巻収録「蜜月」、これのお父さんに
近いものがあると私は思いますです(すんごく少女漫画!です)

最後の二人の台詞、降りてきたままにするっと書いちゃったんですけど
やっぱ、結婚の誓いって神様にじゃなく互いに向かってするものだな、と
だから、それを済ませてる二人なら結婚式なんて形式でしかないかな、と
そんで『てきとーに手早く終わらせちゃえ』なんですね、うに。
やっぱり…不謹慎ですか(笑)天罰てきめん(再笑)

以上、わやくちゃながらお答えさせていただきました(汗)

…で、その、最後に、梅雨時の洗濯物のような独り言にまで
お返事書いていただいて、ありがとうございました(恥)

では、長いご感想ありがとうございました

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2081うっとり。わかば E-mail 8/20-01:43
記事番号2066へのコメント

おーはしさま。
素敵なお話しを読ませて頂き、ありがとうございました。
結婚式・・・本人達より周りが大騒ぎという環境って、良くあるようですね。
(私はないですが・・・)
でも、色々な人が二人を祝福してるんでしょうね。
そして、さすがリナ!アメリアが一番喜ぶ事をさらりとしてあげられる。
いいなあ。
また、素敵なお話しを読ませて下さい。
それでは。


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2085わかばさんへおーはし 8/20-23:17
記事番号2081へのコメント

私も結婚式の舞台裏を体験したことはないのですが
むかーしTVにもなった新井素子・原作の「結婚物語」
あれが好きだったんですよね(笑)
今回の話、そのあたりが潜在的に下敷きになってる、と思います
(結婚というロマンチシズムに潜む現実の喜劇ってとことか…)
リナちゃんに注目して頂けたのは嬉しかったです
今回、色々段取りしてもらっちゃいましたから
この二人もTVから受けた印象で、友達というより仲のよい姉妹という関係
で書いちゃうんですよね、つい

では、今回も感想いただきありがとうございました

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2099おーはしさんの話には、いつも胸を突かれます。さいとうぐみ 8/23-22:29
記事番号2066へのコメント

こんにちわ。さいとうぐみです。

またもや泣いてしまいました。
(妹いわく、コンピューターのやり過ぎだ)
絶対違います。
アメリアが寂しいのがひしひしと伝わってきて・・・

初○パニックについてなんですけど・・・
アメリアは、今のところ、二つあるんです。
何かというと、二十歳にもなれば、もう大人、そんな事でおろおろしたりはしない。
・………どうおもいます??
もう一つは、おーはしさんの小説のようにぱにくって、結局は、進展無し。
私は、15歳ですが、どっちもオッケイなんですよね・・・

最後に一つ。
私は、悲恋ものが好きらしいので、なるべくなら、思いっきり悲しくした後に、
はっぴーえんどがいいですね。
では、駄文ながら…失礼させていただきます。
乱筆乱文お許し下さい。

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2105さいとうぐみさんへおーはし 8/25-21:50
記事番号2099へのコメント

し、○夜ですか?!真っ向から聞かれますと、その、あの(混乱)あうあう
えーと、そ、そうですね(赤面)
私もいちおうどっちもありだと思いますです。はい(汗)
そんで前者は本編小説のアメリア、後者はTVアメリアって感じだなーなんて
私的にはTVアメリアの、幼さ、可愛さ、真面目さ、ぼけぼけさ
ついでにゼルガディスへのらぶらぶさ、が好きなんですけどね
(先に見たのがTV版でそれで惚れてしまいましたし)
おかげで自分で書くのはあんなのばっかり…(笑)

次に何が出来るかはお天道様まかせの頼りなさですが(涙)
お好みの話に仕上がってたら、どうぞ読んでやってくださいませ

では、ありがとうございました