◆−或いは優美なる冷徹1−CANARU(8/28-22:46)No.2114
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 ┗或いは優美なる冷徹5−CANARU(8/28-22:54)No.2118
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  ┃┗Re:或いは優美なる冷徹5−CANARU(8/29-14:35)No.2125
  ┗兄上かっこいいです。−P.I(8/29-02:38)No.2122
   ┗Re:兄上かっこいいです。−CANARU(8/29-14:38)No.2126


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2114或いは優美なる冷徹1CANARU 8/28-22:46


ども。

お久しぶり&前回よりLINA改めCANARUです。

今回のお話はガウリナ、西ローマ帝国編です。



彼女は何時も自らが「皇帝」であるかのように振る舞わなければならなかった。
深紅の大マント、黄金の装飾品は誰が何と言おうと「皇帝」のそれであった・・。


「こんな辺鄙なところに赴任か。」
不満そうにガウリイが呟く。
「壮麗さは欠けるけれども・・・。良い所じゃない。」
ガレー船から降りるのをガウリイに助けられれつつリナは満足そうに言う。
まあ・・。
確かにここロードス島は悪いところではない。
古の「薔薇の咲く島」の異名を持つこのロードス島。
ただし、その名のごとく薔薇の咲き乱れていたかつての面影はない。
今はむしろ地中海の「ドルチェ」(甘い)雰囲気の漂うハイビスカス、ブーゲンビレアといった花々の方が遙かにも目立つし色彩も印象的だった。
「もうそでにゼルとアメリアも来ているしね。」
ご機嫌に言ってリナは紅の大マントを翻す。
ビザンチン(ビザンツ帝国・東ローマ)帝国皇帝嫡子の娘にしてコンスタンチヌス帝 代行の意味を示す紅のマントは父皇帝そのもののような印象をリナに与えている。
「まったく・・・。シェーザレの奴め・・・。」
遠征だか何だか知らないが・・・・・・・。
厄介ごとを異母妹のリナと側近のガウリイに押しつけて逃走した黒髪の美しい美青年 の名前を恨みがましくガウリイは呟く。
今回の任務はこのロードス島の城塞の防備という非常に地味なモノなのだった・・・。


「リナさーん!!ガウリイさーん!!」
二人の姿を認めたアメリアが颯爽と走り寄ってくる・・・。
「アメリア!!元気にしてた!!?」
「はい!!このとーり!!これなら何時でも敵が攻めてきても大丈夫ですよ!!」
「まあね・・・。」
言ってリナは苦笑する・・・・。
生まれ故郷にして父皇帝コンスタンチヌスがおさめるビザンツ帝国・・・。
それが大国オスマントルコに包囲されるのは時間の問題である。
もうすぐコンスタンティノープルで凄まじい籠城と攻防戦が行われることは疑いがなかった・・・・。



つい数ヶ月前のことである・・・。
「久しぶりだな!!ガウリイ!!」
唐突に訪ねてきた黒髪の男、シェーザレにガウリイは驚きにも似た思いで迎えた。
「シェ・・シェーザレ・・・・?」
北イタリアの中堅国家フェラーラ出身で現在ここヴェネツィアで海軍の修行に留学していたガウリイは、かつて共にピサの大学で学んだ学友の突然の来訪に驚いた。
「ましてや・・・・。」
庶子とは言えかのコンスタンチヌス帝の子息ともあろうモノが・・・。
「来たいときに来るさ。」
気楽に答えるシェーザレ。
多少顔かたちに美しい気品と共に鋭く射抜くような青灰色の瞳に威厳を17歳当時よりも増したかのように思われる。
まあ、七年もたてば当然かもしれないが・・・・。
「オマエも変わったな。髪を伸ばしたのか。」
からかうようにシェーザレはガウリイの股の辺りまで伸ばした金髪を見て言う。
「おいおい・・・。俺達一応陸軍の士官学校生だったんだぜ?髪は肩のあたりで切りそろえなけりゃ鎧兜からはみ出しちまうだろ?」
未だに肩のあたりで切りそろえられているシェーザレの美しい黒髪を長めながらガウリイ。
ただし、やはり歳月は感じる。
昔は単なるストレート・ヘアを無造作に切りそろえていただけの彼の髪型も今では軽いがよく目立つウェーブがかかっている。
かえってそれが彼の浅黒い肌を引き立てる。
「介入の余地、ナシかしらね。」
不意に聞こえる、少し低めの音楽のような声。
「すまなかったな。リナ。」
シェーザレが後ろを振り返り異母妹に向かって軽く微笑む。
「リナ・・・・・・?」
七年前・・・・。
シェーザレの足下に張り付いて動こうとしなかったあの小さな妹か・・・・。
「ま・・。良いけど・・・。」
文句ともからかいともつかない口調でリナが姿を現す。
緩く一束だけが束ねられた波打つようなストロベリー・ブロンドに近い髪。
緩やかな袖口と腰の辺りで黄金の帯で縛るのが印象的な純白の衣装。
明らかに異国の皇帝と言っても過言ではない装飾品と腰の剣。
ただし、忍びの旅ででもあるのだろう。
ビザンツ帝国皇帝を意味する紅の大マントは着用しては居ない。
「リナ、覚えてるか?級友のガウリイだ。」
小柄な妹を楽々とエスコートしながらシェーザレがリナに言う。
「ええ・・。覚えているわ、兄上。あの『クラゲ』って呼ばれてた変わった人でしょ?」「おい・・・・・・・・・・・・。」
屈託のない笑顔で人の過去の汚点(?)をあげないで欲しいガウリイだった・・・。
無論、そんなことにリナは気が付いてすらいない。
「へーえ・・。髪伸ばしたんだ・・・・。」 誉められて悪い気はしない・・。
「まるでクラゲの王子様!!」
やっぱり・・・。
誉められてるのか貶されてるのか分からない・・・・・・・。
「オマエこそ・・・。かわったなあ・・・・・。」
身なりはもとよりも物腰まで変わったリナにガウリイは言う。
「まあね・・・。『皇帝代行』なんて任務に就いてれば当然よ・・・。」
言ってリナは苦笑する。
「俺は庶子だからな・・。その権利は無いんだ。」
ガウリイの質問を察してだろう。シェーザレが先に言う。
「皇帝に・・・。何かあったのか・・・・?」
代行を立てるなんて事態はそうとしか思えない。
「うんう・・・。父上はお元気よ・・・・。でも・・・・・・・。アタシも駆り出されなければならないほど・・・・・・。」
ここまで言ってリナは言葉を切った。
「どういうことだ・・・・?」
急に暗い表情になったリナにガウリイは慌てて声をかける・・・。
「何でもない・・・。」
消え入りそうな声・・・・。
「何でもないわけないだろ!!」
そんな様子のリナを放っておく訳にはいかない・・・。
「何でもないんだって!!」
努めて威勢を張るリナ。
「言って見ろ!!心配じゃないか!!」
ガウリイのしつこさに根負けしてリナはぼつぼつと話し始める・・・。
「アタシ達の帝国・・・。コンスタンチノープル(現在のトルコ首都、イスタンブール)に先日・・・。トルコのスルタン(皇帝)から宣戦布告がきたのよ・・・。無論・・・。フランス、イギリス、スペイン、ローマ、ヴェネツィア 、ジェノバなんて各国列強に援護を求めたんだけれども・・・・・。」
「ヴェネツィアの一部艦隊とジェノバの志願部隊、更に言えば自国の艦隊しか援護が得られない状態だ・・・。」
早い話が・・・。
大国、オスマントルコ と寄せ集めの弱小連合艦隊との戦いという事になる・・。
すなわち・・。
リナの住む帝国、コンスタンチノープルは絶望的、と言う結末に否が応でも戦う前から達した訳なのである・・・・。
そんな国の状態であるが故に、リナが「皇帝代行」の任務についてもいささかの不思議もなかった・・・・。
ただ単にリナが心配だった・・・。
そんな理由でガウリイがコンスタンチノープル防衛軍の志願に出たのはそれから一週間後の事だった・・・。



「すぐに戻る。」
言ってガウリイとゼルは馬を駆る。
「任せたわよ。」
日課通り軍団を率いて島内の視察に行くガウリイとゼルにリナは声をかける。
「さてと・・。」
リナにとってようやっと落ち着ける時が来た。
幼い弟、ラアレとアメリアと部屋内でくつろいでいても誰にも文句が言われない時間帯だからである。


ラアレとアメリアとリナが部屋で休んでいる時だった・・・。
「変ね・・・。」
どことなく様子がおかしい・・・。
危険・・・・。リナがそう気が付いたときには一瞬 遅かった・・・。
「ラアレ!!アメリア!!」
「リナさん!!?」
訳が分からないと言った様子のアメリアと不思議そうな顔で姉を見やるラアレをリナは慌てて抱き寄せ部屋の隅の一角に導く。
「お姉ちゃん!!」
「静かに!!」
唐突にした壁を破壊するような騒音に泣き出すラアレをリナは慌てて静かにするように言う。
大急ぎでドアにバリケードのつもりでテーブルや何かを置いて敵が突き破ろうとするのを防ぐ・・・。
が、たかだかそんな程度の対処は何の役にも立たなかった・・・・。



隣の部屋からのラアレのけたたましい泣き叫び声が頭に響く・・・。
「リナさん・・・・・。」
アメリアが『何で捕まらなきゃならないんですか?』とでも言いたげな口調で問いかけてくる。
「多分・・・。トルコとの開戦に反対する連中の仕業でしょうね・・・・。」
一応トルコのスルタンからは「無血会場」を勧める勧告がきているのだが。
父帝はアッサリとそれに背いたのである。
無論、リナとてそんな屈辱的は敗北は御免被りたいのでその考えには賛同である。
どーやら・・・。
ここはその考えに反対する連中の巣窟らしい。
「私たち・・・。どうなっちゃうんですか・・・?」
「それは・・・。」
言ってリナは目線だけでソレを示す。
「コイツに聞いた方が早いわね・・・・・。」


反乱分子の一人に連れ出されたリナとアメリアは一室に通された。
「ラアレは何処?」
幼い弟のことは気になってはいるが此処には居ないらしい。
「彼は大切な人質だからね・・・。」
「なるほど・・・。」
どーやら・・・。弟の命をダシにリナとアメリアに何かをやらせたいらしい。
「対トルコ戦反対派のみなさん。アタシに何をやらせたいの?」
皮肉たらたらにリナは言う。
ラアレが人質とされていれば迂闊にガウリイ達兵団も自分たちを成敗できないと計算しての行動であることは疑いがない・・・。だが・・・。
コイツ等は知らないだろう・・・。
もう少しで此処にはシェーザレが来る。
それまでに時間を稼げば あるいは道が切り開かれるかもしれない。
「まずは・・・。この島の城塞を引き渡してもらいましょうか・・・。」
嫌みたらしく反乱者の一人がリナに言った・・・。
どーやら・・・。そこに駐屯するガウリイ達に引き上げてくれとリナ自身の口から懇願させようと考えているらしい・・・・。
「わかりました・・・。」
有る意味・・・。これは時間稼ぎには好都合かもしれない・・・。



「お願い!!引き上げて!!アタシのためにもラアレのタメにも!!」
城塞に向かってリナは懇願する。
無論、お芝居ではあるが。
「アンタの頼みとは言え・・・。そればかりは無理だな・・。」
ゼルもなかなかの役者である。
「ゼルガディスさんの馬鹿!!今にバチがあたりますよ!!」
「望むところだ。」
何とも言えないアメリアとの掛け合い・・・・。
吹き出しそうになるのをリナは辛うじてこらえた。
「ガウリイ・・・。責任者を出して!!」
「だから・・。駄目だって言ってるだろ・・。」
さらにリナとゼルのお芝居は続く。
「お願いがあるの。アタシとアメリアをあの城塞に入れてもらえないかしら?」
監視の反乱兵にリナは言う。
「なんだと・・・・?」
流石に眉に皺をよせその兵士が言う。
「責任者のガウリイ=ガブリエフ殿に事情を説明して明け渡すように説得したいの・・。」なかなかの役者ぶりでリナ・・。
「まあ・・・。良かろう・・・・。」
反乱兵の隊長らしき男から許可が下りたらしい。
無論、監視付きでと言う条件なのだが・・・・・。


城塞から架け橋が落とされる・・・。
その上を監視兵に背後を固められ、何時になくしずしずと歩むリナとアメリア・・・・。
二人が橋を渡り終えたその時だった!!
監視兵の全員が渡りきっていないのに途端にあげられる架け橋・・・。
ド派手な水音を立てて堀に落とされていく敵兵に城塞の監視塔からそれを眺め リナとアメリアは大笑いする!!
「ばーか!!」
そう言って冷やかしてやるところもまたミソである・・・・・。


「ガウリイ!!」
城塞を護っていたガウリイの所にリナは真っ先に行く。
「ああ・・・。分かってる・・・。」
時間を稼ぐことが必要だ。
「ねえ・・・。城塞の監視塔まで着いてきてくれる?」
外ではリナとアメリアに出てくるように命じる敵兵団と人質にされていた小さな弟ラアレのけたたましい泣き叫びが聞こえる。
「良いけど・・・。何か考えがあるのか・・・・?」
ガウリイの質問にリナはニッコリと頷く。


「出てこい!!さも無ければ弟を殺すぞ!!」
つきなみな脅し文句がリナとガウリイの耳に入る。
堀から僅かに離れた地点・・・・・。
敵兵に剣を首筋に突きつけられ泣き叫ぶ一人の金髪の少年が居る。
無論、それが弟のラアレであることは疑いない。
「どうした!!弟が可愛くないのか!!降伏しろ!!」
またまた月並みな脅し文句が耳に入る。
が・・・。リナはハッキリと言ってやる。
「馬鹿者どもが!!!コンスタンチノープルがある限り、弟や妹なんぞはいくらでも生まれらあ!!!!!」
予想だにもしなかったリナの冷酷かつ品のない言葉遣い・・・・。
その見当違いにはガウリイすら茫然自失とせざる得ないことだった・・・・。
「リナ・・・・・。」
しかも半ば啖呵を切ったような言い方・・・。
さらにはドレスから片足だけだし、さらには一段高くなった段に無造作にソレを乗せているという傲然とした態度もムソである・・・。
見事にそれが功を奏した。
しばらくの間対応策も見いだせず、ただただ呆然とするだけしか能の無かった反乱者一団を駆けつけたシェーザレの一団がいとも簡単に駆逐した事は言うまでもない。


「リナ・・・。アレ・・・。本気だったのか・・・?」
弟や妹なんぞはいくらでも生まれらあ!!!
いつものリナなら絶対に言わないであろう台詞とはいえ・・・。
妙にラアレが釈放されたとはいえ哀れに感じられて聞いてみるガウリイ。
「まさか。あいつらにラアレをどうこうする勇気なんて持ち合わせていない。そう判断しただけよ。」
・・・・・ずいぶんと危険な判断を下したモンである・・・・・。
「それにね・・・。」
急にまじめな口調でリナは言う。
「ラアレには・・・。こんな逆境にも負けない強い子になって欲しかった・・・。それだけよ!!」
言ってリナは紅の大マントをなびかせて颯爽と歩み出す。
「いーや・・・。そりゃあ、まず・・・。無理だろう・・・。」
オマエみたいな「最高の女」を姉に持ったらどんな男の子でも霞んだ 存在になることは必然である・・・。
「そーお???」
その事実に気付こうとしないリナ・・・。
皇帝代行の紅のマントがよく似合う・・・。
彼女になら・・・。「忠誠」を誓うのも悪くないかもしれない。
「おやすみ。ガウリイ。明日はもうコンスタンチノープルよ。」
これから始まるであろう攻防戦・・・。
ガウリイはリナのために戦う決意を改めてするのだった・・・。

(続きます)


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2115或いは優美なる冷徹2CANARU 8/28-22:48
記事番号2114へのコメント

金角湾が見える・・・。
此処まで来ればコンスタンチノープルに帰ってきたことを否が応でも実感せねばならない・・。
「嬉しそう・・・いいえ・・・。『楽しそう』ね。シェーザレ兄上。」
ロードス島からの帰りの船上。
終始にこやか・・・と言うよりも不敵な微笑みを浮かべたままの兄にリナは言う。
「まあな。」
彼を知らないモノにはこの上なく皮肉っぽい冷徹な笑み。
しかし、彼を良く知っているモノにしてみればこの上なく優しく優美な笑い方。
なるほど・・・。
「あの人」にガウリイを引き合わせるのは本日が始めてのことである。
それを面白がらずにいろというほうが無茶な話である・・・・。



「へえ・・・・。」
コンスタンチノープルに上陸して直ちにガウリイがあげた感嘆の一言・・・。
三重に巡らされた強大な城壁。
壮麗な宮殿に整備の整った港。
ヴェネツィア人やジェノヴァ人と言った通商のための商人達が居着く「ラテン地区」・・。これらがこれから戦争が始まるとは思えない活気に満ちていた。
「戦争が始まるとは思えないな・・・。」
夏でも肌寒い気候の中、ガウリイは思った通りのことを口にする。
「戦争が始まるからこそ活気に満ちてるのよ。各国の傭兵、派遣の兵士、そのた諸々がまともに町に集まってきてるんですからね。」
こういった煩雑な騒々しさになれっきたとでも言うような口調でリナ。
「いくぞ。リナ。」
「はい。シェーザレ兄上。」
兄と妹の意味深な会話。
アメリア、ゼル、ガウリイは大人しく二人の行く方向に続いた。



宮殿の一角にある金角湾を見渡せる城壁の上・・・。
その男は居た。
思わずガウリイは目を見張る・・・。
リナ、シェーザレの不敵な微笑みにゼルはマトモに顔をしかめる。
一目で騎士の身分だと分かるその銀色の甲冑はイタリアの名門、オルシーニの紋章が刻み込まれているらしい・・・。
此方を真っ正面から見つめるその騎士を見てガウリイはそう思った。
何故「真っ正面」から此方を見ている相手に対して「らしい」なんて言葉をつかうかだって?
確かにガウリイが「近視」か何かだったらその表現も十分に通用しただろう。
しかし、生憎と彼の視力はズバ抜けてよろしいのだった。
それなのにこういった表現をしたことの答えは単純。
「警備兵」の規則に反し騎士は白昼堂々と白銀の鎧を身につけることもなく、無造作に自身の立っている見張り台の石畳に脱ぎ捨てているのだった・・・。
「ジャンバッティスタ=オルシーニ。」
シェーザレが騎士の名前を呼ぶ。
「これはこれは。『皇帝代行』の兄上。」
騎士・・・「オルシーニ」と呼ばれるこのジャンバティスタと言う青年はわざとらしく、かつ優雅・・・あるいは慇懃無礼にシェーザレにお辞儀をする。
「おいおい・・・。」
苦笑するシェーザレ・・・。
いつもの彼なら激怒してこういった人物に無言で斬り掛かって行くであろうに・・。
「よくもまあ許すな・・・。」
ゼルが呆れたようにシェーザレに言う。
「ああ言う男だ。それに・・。ここまで丁重にされては怒る気にもならん。」
言ってシェーザレは軽く微笑む。
「アタシ達の新しい仲間。ガウリイよ。」
こんどはリナが挑むようにオルシーニに言う。
亜麻色の肩のあたりに切りそろえられた髪。
シェーザレのその色よりも多少灰色の濃い青灰色の瞳。
なるほど・・・・。
リナとシェーザレの笑いの原因が分かったような気がする。
この並々なら無い力量の男とガウリイとの邂逅を「見物」にしようと企んでいたわけである・・・・。
「オマエ・・・。鎧も付けないで見張りとはいい度胸をしてるな。」
皮肉をゼルがオルシーニに言う。
「ゼルは型破りなオルシーニのことを好いてないらしいのよ。」
リナがそっとガウリイに耳打ちする。
「別に構わないさ。」
言ってオルシーニは壁によりかかり礼儀正しい騎士であればそんなポーズは人前でとらないであろうほどに姿勢を崩す。
腕を組み、長い足も無造作に組み片方だけ投げ出す。
それが妙に決まっているから何も 言う気にすらなれない。
「だからと言って・・・。」
なおも何か言いかけるゼル。
が・・・
「アメリア。」
アッサリと遮ってアメリアの名前を呼ぶオルシーニ。
「はい?」
「ゼルガディスがオマエの後ろ回し蹴りが見たいそうだ。」
表情一つ変えずに勝手なことを言い出すオルシーニ。
「はい!!」
元気に返事をし体制を整えるアメリア・・・。
足を振り上げて加速を付けて・・・・・・。
「ぐえええ!!???」
彼女の斜め後ろに陣取ったゼルガディスの鳩尾にソレがマトモに食い込んだのはそれから十五秒後の事だった・・・・・・。



「だから・・・。俺はアイツが嫌いなんだ・・・。」
なおもブツクサ言うゼルガディス。
「まーな・・・。ただ者じゃあないことはたしかだな・・・。」
ガウリイも(オルシーニのことを非難しこそはしないが)一応ゼルガディスに同調する。 まったく不思議な男である。
騎士の鎧も身につけもせず。
腰にこそ立派な剣を帯刀してはいたが服装は漆黒のマント、灰色のタイツに胸元をかなりはだけた純白の上着のみで遠い海峡を眺めた居た・・・。
その瞳の意図はまったくと言って良いほど読めなかった。
「見ろ。」
物思いに耽ったガウリイにゼルが外の方向を示す。
「あーあ・・・。こりゃあ・・・また・・・・。」
思わずガウリイの顔の筋肉がゆるむ。
オルシーニが居たのである。
しかも・・・。
妻帯、恋人を持つ事を禁じられている騎士階級の彼が・・・・。
「ずいぶんな美人だな・・・・・。」
「ああ。ヤツよりも二つくらい年上だそうだ。」
ぶっきらぼうにゼルが答える。
黒髪のギリシャ人であろう美女が庭を散策するオルシーニに付き従っている。
何となく・・・。
微笑ましい。
彼についてリナやシェーザレはどんな感想を持ってるのだろう・・・。
一言も喋ったことはないがガウリイとしては何かを感じる面白いヤツという感想に至っているのだった。


トルコ軍がコンスタンチノープルへと兵を進めてきたのはそれから間もなくのことだった。
「リナ・・・。」
ガウリイが止めるのも聞かずにリナは城壁のギリギリまでに白馬を駆り敵陣を眺める。
いくら何を話しかけても無論、リナは返答をしない。
仕方なしにガウリイもすぐ脇に黒い馬を進める。
リナのまとった紅の大マントが風にそよぐ。
敵陣を睨むその視線の先・・・・。
トルコ軍の総司令官でもなるスルタン(トルコ皇帝)が佇む。
紅の大マントをまとったリナを認めたのだろう。
こちらの軍団の射程距離ぎりぎりまで的の総大将はやってくる。
リナとの敵との間に生じる無言の対峙。
否が応でもわき起こる殺気。
そんな状況から少しでもリナを庇うようにガウリイはピッタリと彼女の脇による。
無論、その視線の先はリナと同じ人物を凝視する。
年の頃ならガウリイやシェーザレと同じくらいであろうか?
敵の総大将が挑みかかるような眼差しで此方を見つめている。
「ねえ・・・。ガウリイ・・。」
不意にリナが語りかけてくる。
「何だ?」
あえて彼女の表情、視線を意識しないで答えるガウリイ。
「トルコではね。パシャ(大臣)はスルタン(皇帝)の祝辞に呼ばれたら・・・。山ほどのお祝いの金貨を持って行かなくちゃいけないのよ・・・。」
いきなり発されたリナの一言。
「それが・・・・?」
彼女の言いたいことの意味を図りかねてガウリイは聞く。
「まあ・・・。続きを聞いて。今回の敵・・・。あのスルタンも祝辞に家臣を呼んだらしいのよ。無論、家臣は自分の財産である山ほどの金貨を持参して駆けつけていったらしいわ・・・。そうしたら・・・。あのスルタンはこういったのよ。『貴方の財産を私に献上する必要はない。私はもはやこの金貨以上に貴方に財産を与えることが出来るのだから』と・・・・。」
ここで一端リナは言葉を切る。
「それで・・・?」
続きが気になりリナに再度問いかけるガウリイ。
「さらに・・。スルタンはこう続けて言ったのよ・・・。言ったのよ・・・。『ただ私が望むことと言えば・・・。私はあの街が欲しい』と、ね・・・。」
あの街・・・。
すなわち此処・・・。
コンスタンチノープル・・・・。
淡々と敵について語るリナの表情をガウリイはあえて見ようとはしなかった。
ただ・・・。
敵であるスルタンが言った一言だけは確実に聞き逃しはしなかった・・。
『皇帝ともなればあのような白馬に跨るものなのか。』
と言う一言を・・・・・。


「私はこの都と運命を共にするつもりです!!」
トルコ軍に無条件降伏と帝都の撤退を勧める重臣達にリナはハッキリと言う。
「しかし・・・。」
なおもそのウチの一人が「皇帝代行」であるリナに反論しようとする。
「煩いぞ。貴様ら。」
まっさきにガウリイが言おうとした言葉。
が、実際に言葉を発したのは彼ではなかった。
「 ジャンバッティスタ=オルシーニ・・・・・。」
思わずガウリイはその人物の名を口にする・・・。
何時になく真剣な鋭い眼差しの彼にあのとき初めて会った「堕落」した騎士の面影はない。あいもかわらず公式な席というのに正装はせず、胸元を平気ではだけて着崩した制服。
「だらしない」と言う印象をあたえない程度に変造されたマント。
さらにはオルシーニ家の家紋が刻み込まれた剣が妙に眩しい。
肩のあたり切り揃えられた亜麻色の髪に光が注がれる。
「あれがアイツの本性だ。」
面白そうにシェーザレがガウリイの耳元で呟く。
「普段はまったくもって破天荒なヤツだが・・・。いざ戦いともなればその果敢さに右に出るモノは居ない・・・。ガウリイ・・・。オマエと良い勝負になりそうだな。」
シェーザレにそう言われ改めてガウリイはオルシーニを見やる。
が、彼は一向にガウリイには無関心と言った態度だった・・・。
面白いヤツだとは思うが・・・・。
「無性に頭に来るな・・・・。」
思わずホンネを小声で呟く。
リナの眼差しがガウリイの方に向けられたのはその時だった。
それに気がついたのだろうか?
初めてオルシーニの視線がガウリイの方に向けられる。
「君か?」
感情が読めない、とも皮肉とも思える声でガウリイに話かけてくるオルシーニ。
次の句は分かっている。
『皇帝代行のリナ殿に忠誠を誓ったとか言う戦士は』
だろう。
「ああ。」
それ以上言う必要はないと感じてガウリイは言葉を切る。
あるいは・・・。
こういったタイプの人間特有の『無言の眼差しのみによる詮索』を恐れたのかもしれない。嫌いではないが実際につきあうとなると何をさておき「用心」が必要なタイプの人間にオルシーニが属すことは疑いない。
「ガウリイ。別に気にすることは無いわ。オルシーニの日頃の品行と素行の悪さは有名なのよ?自分がしていることがしていることなだけに彼は人の事をとやかく言う趣味は持っていないと思うわ。」
日頃の腹いせだろうか・・・?
ここぞとばかりにリナが言う。
「まあ・・。良い。」
苦笑しながらオルシーニ。
彼の視線が未だにこちらを凝視しているためだろうか?
つられてガウリイも苦笑する。
これが・・。
ガウリイとジャンバッティスタ=オルシーニ。
本当の意味での出会いとなったのだった。

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2116或いは優美なる冷徹3CANARU 8/28-22:50
記事番号2114へのコメント

アタシは知っている。
「一つのこと」に溺れる恐ろしさを。
そして・・・。
ソレを消失したときの虚無感。絶望。さらには悲しさを・・・。
幸いにもアタシは「それ」を味わわずに済んだ。
けれども。
あの人は知らない。
アタシがあえて「一つのこと」に溺れようとしなかったことを。
勿論・・・。
それに伴う「恐れ」があることを知っていたからに過ぎないけれども。
そうでなければアタシはそんなストイックじゃない。
「あの人」は・・・・。
「溺れ」こそしないけれども「一つのこと」を思うアタシの真意を見透かしていた・・。アタシは・・・。
多分「一つのこと」を失うことは絶対にないだろうと今更ながら確信している・・・。
今となっては恐れはない。
けれども・・・。
遅かった・・・。
「あの人」は此処までは見透かしていなかった・・・。
「一つのこと」以外にもアタシにとっては大切なモノがあると言うことを・・・。
そして・・・。
「自分自身」がそれに含まれていると言うことを・・・・・。



「本当は優しい人なんです!!!」
殺気までの怒りはない。
もはや半分涙声・・・そして懇願しながらリナは言う。
「しかし・・・・。」
「皇帝代行」の意向ももはやこの事に関しては通用しない・・・・。
「リナさん・・・。」
宥めるようにアメリアがリナの方に手を置く。
訳も分からないと行った様子でリナの幼い弟のラアレが泣きじゃくり始める。
「ラアレ!!」
いけないと分かっていながらもそのキンキン声が頭に響きリナは大声で弟を叱責する。
無論・・・・。
八つ当たりと分かり切っているだけに虚しくただただ自己嫌悪がするばかり。
「済まなかった・・・・。リナ・・・・。」
体中に負傷したガウリイが申し訳なさそうにリナに言う。
「誰も責めるつもりは・・・毛頭ないわ・・・。ただ・・・・・。」
先ほどとはうって変わって落胆した口調でリナが続ける。
「ビーチェ。」
重苦しい雰囲気を一掃したのはオルシーニの一声だった・・・。
「ベアトリス・・・・。」
今まで大人しくオルシーニの脇に控えていた黒髪のギリシャ人美女・・・。
ベアトリス・・・。
「彼女に会う者、全てが祝福される」と言う意味の名前。
ベアトリスと言うくらいなのだから本来なら愛称も「ビーリス」と呼ぶべきだろう。
しかし、あくまでオルシーニは彼の故郷イタリア語の発音「ベアトリーチェ」で彼女の名を呼ぶ。
無論、必然的に愛称も「ビーチェ」となるわけである。
今では彼女自身もリナ達もそちらの方がしっくりときていると言うのが現状である。
「ラアレ殿と遊んできてやれ。姉上のご機嫌が斜めだ。ラアレ殿もこれ以上の被害は受けたくないだろうからな。」
皮肉っぽくリナの方を皆がら言う。
「悪かったわね・・・・・。」
無感情に言うリナ。
思わずそう言う場合ではないと自覚しながらも吹き出すガウリイ。
にっこりと微笑みながらラアレの手を引き去っていくビーチェ。
あまりにもの優しい雰囲気に思わずガウリイの姉、ルクレティヤをリナは思い出す。
最も彼女はリナ同様のストロベリーブロンド。
ガウリイ同様の深い蒼い瞳。
ビーチェのように大人の女性でありながら未だ少女のようにあどけない面立ちとふっくらとした瓜実顔、そして透けるように白い肌が印象的な女性だった。
しかし・・・。
この事実を聞いたらルクレティヤは絶対に哀しむ・・・・。
「シェーザレ兄上・・・・・・。」
つい三十分前まで隣にいた人物の名をリナは口にする。
ルクレティヤにとってもリナにとっても大切な人物・・・。
しかし・・・。
今ここに彼の姿はない。
「どうにか・・・。シェーザレ殿を救い出せないのか?」
苛立ったようにゼルが言う。
「無理です。軍備をその様なことに裂くわけには行きません。」
冷酷に重臣の一人が言い放った・・・。
分かっているのよ・・・・。
邪魔なシェーザレ兄上を見殺しにして自分が権力を握ろうとしていることは。
あえて口にこそはしながリナはそっとそう思った・・・。



一瞬の出来事だった。
ガウリイ、ゼル、オルシーニ・・・。
彼らに思考の余地は無かった。
ただ一人、シェーザレを除外して・・・・。



「リナさん・・・・。」
城壁の内部から外部にいるトルコ軍に臨戦態勢を整える軍団をリナは小高い塔の上から見やる。
「アメリア。」
返事とも何ともつかない言葉で答えるリナ。
その姿は何時もと同じ紅の大マントを靡かせ白馬に跨っている。
「いよいよ・・・。総攻撃をかけ来たみたいね・・・。」
敵と味方の攻防戦を眺めながらリナが言う。
「総攻撃って・・・・・・。」
一瞬ながら恐怖にかられた様子のアメリアの口調。
が、リナは素早くソレを遮る。
「完全にトルコ軍の誤算よ。人海戦をとったまではいいけれども・・・。一度に大勢の人数を城壁内に侵入させようとしたのが運の尽きね。」
みれば、一度にどっと押し寄せたため身動きがとれなくなった敵兵をコンスタンチノープル兵は効率よく倒していく。
「勝てるかもしれませんね!!リナさん!!」
「・・・・・・・・。」
一瞬のリナの無言・・・・・。
「変ね・・・・。」
リナが言うのと同時だった・・・・。
爆破される城壁の一部・・・。
「ガウリイ!!!」
その爆撃の巻き沿いを多少ながら食らったのだろう。
敵兵に刀を突きつけられているガウリイが見える・・・。
「馬鹿!!逃げなさいよね!!」
聞こえるわけがないと分かっていながらも大声を張り上げるリナ。
「ガウリイさん!!足けがしてます!!」
アメリアも絶叫する。
敵兵の刀がガウリイに突き立てられる寸前・・・・。
「オルシーニ・・・・・。」
突如駆けつけたオルシーニのソードがアッサリと敵を斬り捨てたのだった。


「行け!!ガウリイ!!オルシーニ!!」
負傷したガウリイに手を貸すオルシーニにシェーザレが言う。
一人の敵は倒したもののまだ新たな敵が居ると言う事実はかわらない。
ましてやガウリイは負傷している。
かすり傷程度とは言え重い鎧を身につけた戦うことはまず持って不可能だろう。
「シェーザレ!!」
ここで一人で敵をくい止めると言うのか・・・???
「行け!!オルシーニ!!ガウリイを頼むぞ・・・。ソイツに何かあれば・・・。」
「分かっている。」
こんな場面でありながらもいつもの皮肉っぽい声でオルシーニが答える。
そう。
実際に答えは分かっている。
『リナが哀しむ』
それだけだ。
それを見たくないが故にシェーザレは自分一人が犠牲になろうとしている事も・・・。
「オマエらしくもない・・・。」
オルシーニは皮肉っぽく言いガウリイを引きずって歩く。
「オルシーニ!!」
抗議の声をあげるガウリイにこう一言。
「なに。迎えに来れば済むことだ・・・。」
と・・・・・・・。


リナが兄、シェーザレがトルコ軍の捕虜となり連れ去られたのを見たのはそれからすぐのことだった・・・・。



「一体・・・。どうすれば良いのよ・・・・。」
頭を抱えながらリナ。
「そう言えばオマエ・・・。迎えに行けば済むことだとか言っていたよな・・・?」
ガウリイがオルシーニに言う。
「ああ。トルコ軍に従軍しているギリシャ人労働者になりすましてシェーザレを夜間に奪還する。」
あっさりと言ってのけるオルシーニ。
「・・・・・。ギリシャ人に化ける・・・。ですって・・・・????」
あまりにもの事態にリナもすっとんきょうな声をあげる。
「ああ。ガウリイ。オマエも行くだろう?」
それが当然とでも言うような口調でオルシーニ。
「行けと言われれば無論・・・・。喜んで行くが・・・・。」
しかし・・・・。
どうやって・・・・???
大抵のギリシャ人の肌は西欧の人間の日焼けしても血管が浮き出るような白い肌と質が違う。
さらに彼らの特長は鳶色っぽい黒髪と言うのがセオリーである。
マトモにラテン系の特徴を持つガウリイやオルシーニが紛れ込んでいたらあからさまに「怪しい」と言う事態になってしまうのである。
「なーに・・・。ちょっとばかし面白いモノを持っている。リナ殿・・・・。それをお目にかけるタメに一時間ほどガウリイ殿をお借りしたいのだが?」
慇懃無礼にオルシーニ。
「まあ・・・。そこまで言うなら宜しいでしょう。」
やはり慇懃無礼にリナ。
そんな二人をガウリイは面白そうに見つめた。


「そろそろ・・・。一時間だな。」
ゼルが外を見ながら言う。
「ところで・・・。誰です?あれ・・・・?」
此方に向かってくる二人の人物。
「ガウリイ!!オルシーニ!!」
リナが思わず言う。
亜麻色の髪を黒く染めたオルシーニ。
同様に金髪を鳶色に染めたガウリイ・・・・。何故か二人の肌も日差しにさらされたように浅黒い。
「これなら満足だろう?」
ギリシャ風の服を着こなしガウリイがリナに言う。
「・・・・・。脱帽ね。」
ここで始めてリナも笑みを零す。
「夜を待って結構に移す。」
そうとだけ告げるオルシーニ。
「アイツもアイツでシェーザレの事が心配なんだ。」
ガウリイがリナにそっと耳打ちする。
「ビーチェに・・・。心配かけないようにしなきゃね・・・。」
彼女に自分と同じ思いをさせたくない。
ふぃとそんな気持ちがリナの脳裏を過ぎったのだった。



大丈夫よね・・・。
眩しい星明かりの中。
リナは呟く・・・。
「ま・・・。シェーザレ兄上と言い・・・。ガウリイと言いオルシーニと言い・・・。殺しても死ぬようなタマじゃあないしね!!」
シェーザレはアタシの大切に思う「一つのこと」・・・。
ガウリイのタメに捕らえられた。
だから・・・。
アタシは絶対に、永久にあの人を・・・「一つのこと」を失わないようにする。
そして。
運命もそうさせてくれていると信じている。
永久に続くと・・・・・・・・・・・。
けれども・・・・。
「シェーザレ・・・・。」
貴方も。
アタシにとっては大切なモノなのだから。
絶対に失ってはならないと思っている・・・・・・。
祈るような思いでリナは空を見続けた。



救出作戦が成功したのはそれから間もなくの事だった。
「お帰りなさい!!シェーザレ兄上!!!」
帰ってくるなりシェーザレに飛びつき思う存分兄に甘えるリナのその姿に「皇帝代行」のイメージは微塵もない。
「やれやれ・・。俺はさてお気か?」
未だ鳶色な髪のままのガウリイが微苦笑しながらリナに言う。
「金髪にも戻ったら思いっきり飛びついてあげるわ。」
からかうようにリナが言う。
「心配をかけたな。」
いつものシェーザレの冷徹な口調。
端から見ればあれほど心配していた妹に対して少々そっけないような印象すら与えかねない声と口調。
だが・・・。
リナは知っている。
本当は優しい人物なのだと言うことを。
だから。普段は絶対にしない愛想わらいなんかを浮かべたりしてみる。



意気揚々と敵陣での出来事を語るオルシーニ。
まれで他人事でもあるかのように淡々とした口調。
時には笑い出しそうな声で。
必死で髪の塗料を落とそうとするガウリイと好対照な印象である。
「大丈夫よね・・・・。」
皇帝代行としてこの都と運命を共にする・・・。
そう思いながらリナはそっと金角湾を眺めるのだった。

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2117或いは優美なる冷徹4CANARU 8/28-22:52
記事番号2114へのコメント

いつもの事ながらこの「会議」と言うモノには辟易とさせられる。
「まったく・・・。」
保身しか考えていない重臣達の下らない意見。
いちいち耳を貸さなければならない方のみにもなって欲しい。
それに対抗するのはジェノヴァ、ヴェネツィアからの援軍の傭兵隊長たち。
無論。
会議は収集がつかない状態になっている。
「シェーザレ兄上・・・。ガウリイ・・・。」
ため息をつきながらリナ。
「ゼルガディスさん・・・。」
同様にアメリア。
「我慢しろ。」
そんな二人に尤もな答えを投げつけるシェーザレ。
処置無し、と言った様子でリナは壁の方に目をやる。
そこには今回の会議に参加している人々の豪華な剣が鞘に収められ立てかけてある。
こんなモノでも目の保養には成るし、意味乾燥、侃々諤々なこんな状態よりかは幾分ましである。
「流石・・・。イタリアの二大商業国家・・・・。」
とリナが意味不明なことを呟いたその時だった・・・・。
ぎい・・・・・・・・。
バッタン!!
ズゲラシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンン!!!
豪華な装飾の剣・・・正確に言えば鞘がみるみるうちに重なって床に薙ぎ倒される・・。そのすぐ脇には・・・・・。
「すまない。手元が狂った。」
亜麻色の髪・・・・。浅黒く日焼けしたとはいえ透けるように血管が見える肌。
いかにも態とらしく投げ出された長くすらりとした足・・・。
嫌みたらしく薙ぎ倒された剣の鞘を踏みつけているところが何とも言えない・・・。
そして。
もはや当然となってしまった事でもあるのだが、その男の正規騎士服のボタンは全開である。
マントは「身につける」と言うよりも「肩と腕に絡み付かせている 」と言ったところか・・・・。
それが妙に決まっている。
「そーゆーのの事を『ワザト』って言うこと・・・。知ってるか・・・?」
その男・・・。
オルシーニの「おふざけ」に同調するようにガウリイが言う。
「知らなかったかもしれん。俺は騎士のクズなんでな。」
悪びれることなくそう言って当然の権利かのようにガウリイとシェーザレの間の席に腰掛けるオルシーニ。
「45分の遅刻。」
日の傾く具合を見ながらリナ。
「その45分間・・・。俺は元よりもガウリイ、シェーザレ・・・。更に言えばリナ殿とて居る必要のある会議であったなら潔く謝ろう。」
「・・・・。じゃ・・。謝る必要ないな。」
リナを見ながらガウリイ。
「まーね。ゼルはご機嫌ななめのようだけれども。」
あっさりリナも言ってのける。
「ご存じの通り・・・。金角湾は敵の手に落ちたわ。」
ようやっとの事調子を取り戻してリナ。
先日のこと・・・。
内海、と言っても過言ではない金角湾にトルコ軍が進撃してきた。
それも戦わずしてで・・ある・・・。
「ああ。陸地に運河を造って船を潜入させたんだろ?」
オルシーニ。
「そう・・・。このままでは・・・。このコンスタンチノープルは陥落するのみ・・。」アメリアが言う。
「しかし・・。会議がこのザマでね。」
苦笑しながらシェーザレ。
「ならば・・・。簡単なことだ。」
いつの間にか彼に従って入室してきたビーチェの出すワインを飲みながらオルシーニ。
皮肉げに冷笑し足を組んで頬づえをつく。
「会議中だぞ!!」
ゼル。
「どこが?」
面白そうに言うオルシーニにさしものゼルも沈黙せざるおえない状態となった・・。
「なんか・・・。考えでもあるのか・・?」
隣のオルシーニを見習いガウリイも襟元の窮屈なボタンを外し、頭の後ろで腕を組んでノビをしながら聞く。
「夜中に奇襲攻撃をかければいい。さしあたり・・・ジェノヴァ船籍はヌキでヴェネツィア艦隊オンリーで行った方が統率がとりやすいな・・・。」
「ジェノヴァ人が黙ってないわよ?」
オルシーニの意見にリナが口を挟む。
「黙っていればいいでろ?」
ガウリイもあっさりとオルシーニの味方に付く。
「散文的だけど・・・。最も的確なお答えね・・・。ガウリイ・・・。」
ため息をつきながらリナ。
「誉められたのかな・・・???」
オルシーニにガウリイが聞く。
「誉められたんだろーな。別の意味で。まあ・・・。実際にジェノヴァ人には黙って結構するさな・・。今度の新月の夜がいい。指揮は俺が執る。」
「異存はないわ・・。」
リナ。
「じゃー・・。俺は??」
ガウリイ。
「オマエは無鉄砲な皇帝代行の姫君のお守りをしていてくれ。」
オルシーニがガウリイに言う。
つまりは・・。自分だけに任せろ・・・と言うことか・・・・。
そう思いガウリイは苦笑する。



奇襲攻撃決行まであと数日の頃・・・。
「ジェノヴァ人にヴェネツィア艦隊の奇襲攻撃がばれたんですか・・・??」
アメリアがリナに言う。
「ええ・・・。んでもって・・・。アタシに『我々も参加させろ』と迫ってきたわ。」
面倒くさそうにリナ。
「まあ・・。でも指揮官はオルシーニさんですし・・・。」
「どーだか・・・。確かに奴は有能だけど・・・・。ただでさえジェノヴァ人とヴェネツィア人は仲が悪いしねえ・・・。それに・・・。」
ここで一端リナは言葉を切る。
「それに・・・。何です・・???」
「『陰謀』と言うモノは決行が遅れたり・・・。加担者が増えたりするとロクな結果にならないわ・・・・。」
有る意味。
リナの心配はそこにあった・・・・・・。



「まったく・・・。不思議な奴だな・・。」
感心したようにゼルが言う。
「何がだ・・・??」
「ああ・・・。オルシーニだ・・・。」
宮殿の木陰に座り込んでいるオルシーニとビーチェを見ながらゼル。
木漏れ日がオルシーニの亜麻色の髪を鈍い金色に染める。
それに対して漆黒のビーチェの髪が対照的な印象を与える。
そして、ビーチェの髪にはオルシーニから贈られたのであろう、真っ青な絹素材のヴェネツィアレースのリボンが飾られている。
煩わしそうに蚊を追い払うオルシーニの指がその鈍い黄金色をさらに揺らす。
「そーかな・・・。」
確かに・・・。
(リナが嫌がるので)オルシーニとビーチェのように白昼堂々、ましてや宮殿の庭で肩で頭を支え合って座り人目もはばからないでいるのは・・・・。
(リナさえ嫌がらなければ)そうそう滅多に出来ることじゃ無い、とガウリイは思っている・・。
「まあ・・・。そーゆー見方も出来るな・・・。」
そんな事を考えているガウリイを見越してゼルがジト目を向けながら言う。
遅れて会議に出席した時・・・。
彼が踏みつけにした華美すぎる装飾の剣の鞘とは似てもにつかない洗練されてシンプルな構造の鞘を腰に付ているオルシーニ。
正規服を完全に着崩し、投げ出された足は靴すらも身につけていない。
唯一の装飾と言えば首から垂れ下がった古代ローマ風のデザインの金と石榴石で出来たペンダントが剥き出しの首筋から胸元に流れ出している。
同様にたくし上げられた袖口から見えるうでには銀のブレスレットがわずかに光る。
「まったく・・・。アイツほど考えの読めない奴はいない・・・。」
「そーか・・?自由で良いと思うけど・・・。」
リナは何と言うかわからないが・・・。
今度オルシーニに近い服装と気持ちで彼女の前に現れて見ようか・・?
そんな事をガウリイはふと思った。



「お気をつけて・・・。」
ビーチェがオルシーニを軽く抱擁する。
今日は剣を持っていない。武器は松明のみである。
「俺も行きたかったな。」
ガウリイが隣のリナに言う。
「アタシのお守りは不満?」
いたずらっぽくリナが問いかける。
「いーや!!俺も行けばビーチェがオルシーニにしたみたいにリナも俺にしてくれるだろ?」
「ばーか。」
どうとでもとれる一言。
仕方なしに苦笑するガウリイ。
いつもならばともかく、深紅の大マントを靡かせ、身にまとった皇族で有ることを現す黄金の装飾品に月のない夜の唯一の光源である蝋燭の淡く、赤とも金ともとれる色の光。
それらの反射光を浴びたリナの雰囲気に絡む気力は到底わいてこない。
「出発まであと数時間ね。」
おおかたの様子でリナは言う。
「大丈夫だとは思うがな。」
そっと脇に並んでガウリイ。
「なーに。スグに行ってスグに戻ってくる。」
奇襲の武器である松明を渡されたオルシーニがビーチェ、ガウリイ、リナに言う。
「王宮から見ていてくれ。」
そうとだけ言い、オルシーニの率いる艦隊は夜の闇に消えていった・・・。



「様子が・・・。ヘンね・・・。」
王宮のバルコニーから海を眺めながらリナ。
「火・・・??」
海の上に火柱が立っている・・・。
「燭台を消して!!」
室内に佇むアメリア、ゼル、ガウリイにリナは告げる。
「まずいな・・・。」
隣で同様に外を眺めていたシェーザレが声に焦りを込めながら呟く。
「ええ・・・・・・。まさかとは思うけれど・・・・。」
『奇襲』はあくまで「焼き討ち」作戦である・・・。
その意味では・・・。
この炎はもはや予測済みと言っても過言ではない。
しかし・・・・。
それはあくまでも「敵陣」すなわち「陸地」が焼かれていなければならない・・。
「海」が自然に炎を発するなどと言うことは・・・絶対にあり得ない・・・。
「船が・・・・・・・・・・・・・・。」
船が・・・・。
オルシーニの率いた艦隊が・・・・焼かれている・・・・・・・・・。



コンスタンチノープル内部に敵と内通したスパイが居ることの発覚したのは翌日の夕方だった・・・・。
奇襲をかけた艦隊のメンバーは捕虜になったか・・・。
運良く泳いでコンスタンチノープルに逃げ延びたか・・・。
あるいは・・・・・・・・・・・・・。



「リナ・・・・。」
後ろ姿にガウリイはそっと声をかける。
「オルシーニは・・・・・。」
その問いにガウリイは首を横に振る。
捕虜になったとも、泳いで無事にたどり着いたとも聞かない。
「そう・・・。」
リナは何かを手に握りしめている。
「それは・・・・。」
「海岸に・・打ち上げられていたの・・・。」
そう言ってリナはそれをガウリイに渡す・・・。
黄金とガーネットとで造られたオルシーニのペンダントである・・・。
「そう・・・か・・。」
所々が僅かに酸化しているが。
その繊細さと美しさは損なわれていない・・・。
「ビーチェに・・・。渡してくるわ・・・。」
「ああ・・・・。」
そう言って出掛けていくリナをガウリイは見送った・・・。



翌朝のことである・・・・。
海岸に真っ青なヴェネツィアレースのリボンが絡み付けられた剣が打ち上げられたのは・・・。
奇襲には持っていかなかったオルシーニの物であることは疑いなかった・・・。
そして。
その日を境にビーチェの姿は街から消えたのだった・・・・。


夏でもコンスタンチノープルの風は冷たい。
わりあい西欧ではエキゾチックな南国というイメージを持たれているかもしれないが・・・。
実際はそうではない。
ギリシャ風の薄着だっていわば「職業着」であることをリナは時々思い出す。
第一・・・。ここはロードス島じゃない。
それなのに・・・。
オルシーニはまるで此処が至上の楽園かのような格好をいつもしていた・・・。
ひとえに・・・。それは「ビーチェ」のお陰かもしれない・・・。
冷たい夏の風が容赦なくリナの頬と髪を打つ。
一人・・・。
海岸でリナは佇む。が、やおら自分の深紅のマントを脱ぎ捨て女性とは思えない優雅さの無い、かといって男性の粗野さの無い仕草でオルシーニの剣をそれに包み込んだ・・・。
有る意味。
それは軍隊の徳高い、勇敢な指揮官のそれににた動作だった。
リナの羽織っていた深紅のマントから真っ青な絹のレースのリボンがだらりと垂れ下がる。
塗れたそのレースはリナのマント、さらにはオルシーニの剣にぴったりと寄り添うようにくっついた・・・。


「リナ・・・・・。」
一人・・・・。
バルコニーからその様子を眺めるガウリイ。
その金色の髪にも容赦なく冷たい風が吹きつけてきた・・・。
コンスタンチノープルの落日の日が近い、とでも言わんばかりに・・・。

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2118或いは優美なる冷徹5CANARU 8/28-22:54
記事番号2114へのコメント
「放っておいてやれ。」
彼はそう言ってガウリイを止める。
「確かに・・・。リナさんを慰めたい気持ちは分かります・・・。」
「だったら・・・。行かせてくれ。アメリア。」
その一言にアメリアは再度首を横に振る。
「いいえ。こればかりは駄目です・・・・・・。
シェーザレさんは・・・。リナさんにとっては・・・・。きっと親友で相談相手で仲間だったんですよ。けれども・・・・。その仲間を自分のワガママで無くしてしまったら・・・。これは救われないでしょう・・・・?」
慰めても無駄・・・と言う意味ではないにしても・・・・・。
ガウリイはその言葉に従うしかないことを痛感するのだった・・・。
彼女はもう何も言わなかった。
「決して・・・・。彼自身も・・・・。」
天国などと言うモノを望まないだろう・・・・・。
行ったことは決して曲げないのだから・・・・・・・・・。
再び戻った此処ロードス島。
けれども。
もう一度出会えたなら。
言いたい。



「絶望的だな・・・・・。」
執務室にシェーザレの声が微かに響く。
此処、コンスタンチノープルの落日も、もうわずかと言うことだ・・・。
「前の総攻撃の時のような真似も・・・・。連中はやらかさないでしょうしね・・。」
兄の背中と窓から見える地中海を眺めながらリナは言う。
オルシーニとビーチェが前回の奇襲失敗により戦死、自害をそれぞれ遂げてからまだあまり日数は経たない。
「月だ・・・・。」
シェーザレが暗くなりかけた空を眺めながら呟く。
今夜は三日月が少し満ちてきた程度の月である。
「・・・・・。コンスタンティノープルは月が満ちている間は陥落しないと言う伝説があるわ・・・。最も・・・。初代の皇帝、コンスタンティヌスと同名の皇帝・・・。すなわちアタシと兄上との父上・・・・。コンスタンティヌスの時に滅びる・・・。って予言はあるけれども・・・?」
リナは苦笑しながら振り向きもしない兄に話しかける。
「迷信だな・・・。多分・・・。それとも・・・。絶望か・・・?」
静かにリナは首を振る。
「ワガママかもしれないけれども。希望しか知らない。」
「そうか・・・。」
なにやら感慨に耽ったようにシェーザレは言い、リナの頭に手を置き去っていく。
入れ替わるように入室してくるガウリイ。
「よ!!」
無意味に元気な声を出しリナは迎える。
「ああ・・・・・。オルシーニのこと・・・。まだ気にしてるのか・・・?」
見透かされている・・・か・・・。
「まあね・・・。」
再三、敵陣のトルコのスルタン(皇帝)からはコンスタンティノープルから立ち去れば住民の命は保証する・・・と言う勧告を受けている。
が、リナはそれを無視し続けることにしたのだった。
「ワガママ・・・。かしらね・・・。」
そのせいでオルシーニは戦死した。
そして、恋人のベアトリス・・・ビーチェも自害したのだ・・・。
「アタシが・・・・。希望しか知らないから・・・・・。」
「いや・・・・。だからこそ・・・・。この国の人間もリナについてきたんだろ・・。」言ってガウリイは外を示す。
気がつかなかった・・・・・・・・。
「あれは・・・??気がつかなかった・・・。」
「だろうな・・・。まあ・・・。今始まったばかりだし。」
あいかわらずのんきな口調で言うガウリイ。
外一面の蝋燭の炎の洪水・・・・・・・。
「祈って居るんだ・・・・。国中がな・・・・。」
陥落するのは確実的な国なのに・・・・・。
「うん。」
オルシーニが見たら何というだろう・・・・・。
あの男のことだ。
世界中の誰もが感動するような光景であっても皮肉の一つや二つ、平気でとばすに違いない・・・・。
「そーだな・・・。」
オルシーニとビーチェの事を考えていたのがガウリイにばれたらしい・・・・。
「アイツなら・・・。何しでかすとおもう・・・?」
興味津々にリナがガウリイに聞く。
「ビーチェを巻き込んで・・・。カンツォーネを歌い出すんじゃないか?」
う・・・・みゅ・・・・・・・。
カンツォーネとはイタリアの甘ったるい伝統的な歌である。
女声、男声の呼びかけあいのような旋律がとても美しい曲もある。
しかし・・・・・・・。
「オルシーニが・・・。あーんな甘ったるい歌うたったらへそが茶を沸かすわ!!」
思わず想像してリナは大笑いする・・・。
確かにヤツの声は美しいしビーチェのアルトは素晴らしい。
が・・・・・。
あーゆータイプのヤツが「AMOR」(アモーレ)を連発する歌を歌ったて「真実味」が無い。
「そーかあ・・・・・。」
妙なことに納得するガウリイ・・・・・。
まあ・・・。
分かってくれればそれでいいけれど。
「それなら『帰れ、ソレントへ』の方がいいわね。」
勝手に人に似合いそうな歌を選曲するリナ。
「まあな。じゃあ・・・。フラメンコでも踊らせるか?」
ぶ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「個人的には・・・。それ、シェーザレにやらせてみたい・・・。」
リナの一言に口に持っていったワインをまともに笑いながら戻すガウリイ・・・。
「きたないいい!!」
「オマエが笑わすからだろーが!!」
「そりゃあまあ・・・。笑えるけれど・・・。」
あのクールなシェーザレがフラメンコだなんてさあ・・・。
「人で遊ぶなよ!!」
「アンタこそ!!」
言い合って再度二人は笑う。
「じゃあさ!!アメリアにシャンソン歌わせるのはどう?」
「うーん・・・・・・・・・・。」
そーゆーイメージは確かにしない・・・。
またしても人で遊びながら笑い出すガウリイとリナ。
「ゼルに中世騎士物語のオルランドをやらせるとか?」
「それ・・。填りすぎ!!」
二人の人を使ったお遊びはまだまだ当分の間続くのだった・・・。
そのくせ自分たちをどこかの立派な英雄と女王に例えたりしているところがミソである・・・・。
まあ・・。悪意はないのでお許し戴きたいのだが。



今日は満月である。
「ヘンね・・・。」
満月の間はこの都市、コンスタンティノープルは陥落しない。
分かり切ったことなのだが・・・・???
「リナお姉様!!!」
唐突に開かれ駆け込んでくる幼い弟のラアレ・・・。
「どうしたの!!?」
ただでさえ信じられないほどの臆病なこの弟。
同年代の子供に一寸ひっかかれた位で大泣きしながらリナのもとに来るなんて日常茶飯事だ。
無論、リナはシェーザレ共々このままではイケナイと思って突き放しているのだが・・・・。
いかにせん 何時も側にいるガウリイがやたら滅多ら甘やかすのだ。
それに巻き込まれてリナ自身、この臆病な弟に構う形に自然となってしまう。
「どうしたんだ?ラアレ?」
いつものようにガウリイがリナの膝の上に乗ってきたラアレの頭をさわり甘やかす。
ガウリイが気付いているかどうかは知らないが今日の怯えは尋常じゃない。
「ラアレ・・・・?」
ドレスに顔を埋める弟をそっと仰向かせリナは聞いてみる。
「お・・・お空が・・・・。月が・・・・。」
何を言っているのだろう・・・・・???
「満月が・・・・。」
辛うじて言葉を紡ぐラアレ。
「空・・・。」
そう。
今日は満月・・・・・・・・・・・・。
「消えてく・・・・・・・。」
窓を見ながら茫然自失としながらリナが呟く。
「リナ・・・・?」
ラアレの顔からリナに目を移しガウリイ・・・・・。
その視線の先は・・・・。
「な・・・・・・????」
月が。消えていく。
煌々と光を放つ月が少し、また少しと闇に飲み込まれていく?
「月蝕よ。」
きっぱりとした声でリナは言い放つ。



コンスタンティノープルは月が満ちている間は決して陥落したりはしない。
消え去る月と共に城内に火の手が上がる。
「リナさん!!」
「アメリア!!ゼル!!無事だったの!!」
ラアレを抱きかかえ、象徴である皇帝の深紅のマントを纏ったリナ、それに付き従うガウリイを発見したアメリアとゼルは駆け寄ってくる。
「賢明ですね。」
「何が?」
「無闇に宮殿から外に出ず此処に避難していたと言うことがだ。」
ゼルがリナに言う。
「外は・・・。そんなに酷いのか?」
ガウリイが聞く。
「ああ。逃げまどう市民、兵士、そして敵でごったがえしている。」
ゼルが答える。
「避難していたわけじゃないわ・・・・。」
声を上げたのはリナだった。
「リナ・・・。さん・・・・・???」
アメリアがリナの顔を仰ぎ見る。
「ラアレをお願い。ガウリイ。アタシは此処に残るわ・・・。ジェノヴァかヴェネツィアの船に乗って逃げて。」
穏やかに言ってリナはアメリアにラアレを押しつける。
姉の膝から引き離されたことに抗議の声と鳴き声を弟はあげる。
「黙りなさい!!ラアレ!!」
何時になくキツイ口調でリナはラアレに言う。
「いい。アナタは正式にここ・・・。西ローマ帝国の血を引く者なのよ。誇りを忘れて泣き叫べばなんだって助けてもらえる訳なんて絶対に無いわ。それどころか・・・・。」
此処で一旦言葉を切る。
泣くことすら忘れた自分はただ単に泣き叫ぶことを簡単にし、それで済むと思っているこの弟がもしかしたら羨ましいだけなのかもしれない。
そう思った。
だが。
これだけは分かって欲しい。
「良い。絶望することは簡単よ・・・。もしかしたら・・・。絶望に期待が出来る方がもしかしたら賢明なのかもしれない。でもね。それに縋ったら・・・。強くなることは出来ないわ。ラアレ・・・・。」
此処で初めて弟は姉を凝視する。
まっすぐな黒い瞳。
シェーザレの青灰色、リナの紅色の瞳・・・。
色こそは違えでも同じ強さを持つ瞳。
ラアレ=ジョバンニ・・・・・・・・。
後に『黒騎士長ジョバンニ』と呼ばれる男が其処に誕生したと言うことをリナは知ったのだった・・・・。



「行かないのか・・・。なら。俺も行かないぜ。」
「・・・・。」
ラアレを連れてゼルとアメリアが去った後。
ただ残されたリナとガウリイ・・・・。
「残るわ。」
リナの一言・・・。
「絶望を知らないヤツが無責任な事を言うな。」
その一言を発したのはガウリイでは無かった。



「シェーザレ兄上・・・・。」
部屋の入り口に佇み兄は二人を凝視している。
あちこちから多少ながら出血し、剣には血がごびりついている。
「シェーザレ・・・・。」
言い終わるか終わらないかのうちだった。
ちかつかとシェーザレは妹に歩み寄り皇帝の象徴の深紅のマントと飾りを奪い取る。
「兄上・・・・。」
リナはただ兄をみやる。
「行け。俺が残る。すべては俺の責任だ・・・。」
シェーザレは此方をみていない。
「責任・・・・・・?」
リナが聞き返すよりも早く、ガウリイはリナの腕を取って部屋から港に向かって歩き出す。
「兄上!!兄上!!」
今ばかりはリナの絶叫にも耳を貸すわけにはいかない。
彼は覚悟している。
シェーザレと言う人間は希望も絶望も持ち合わせてはいない。
自分にとっての現実が全てなのだ。
彼は天国も地獄も望んではいない。
いや・・。
有る意味。彼にとっての天国に行く方法は地獄に行く道を熟知することなのかもしれない・・・・。
そんな恐ろしい男か・・・・・・・。
彼にとっての優しさとは全てに対してではない。
無条件な優しさなんて持ち合わせては居ないのがあの男、シェーザレ。
自分の意に添うモノのみに対する優しさ・・・・・・・・・。
それがこの形なのだ・・・・・・。
「ガウリイ!!!」
リナの抗議の声もそんなシェーザレの意志には逆らえないのだった・・・。



「遅くなったな。」
沈痛な面もちのリナの耳に知った声が届く。
港で脱出用の船を待つときの事だ・・・・・・。
「オル・・・・シーニ・・・・・???」
間違いない・・・・・。
小型のガレー船の先端にたつ男・・・・。
間違いなく死んだ筈のオルシーニ・・・・・???
「生きてたの・・・・・。」
「ああ。」
何時になく沈痛な面もちでオルシーニは答える。
「シェーザレだよ。ヤツが・・・。この時のために重傷を負ったオルシーニを密かにロードスに帰したんだ。いずれ滅びるこの都市から俺達を脱出させるために・・。な・・。」ガウリイが察していたことをリナに言う。
シェーザレはすべて自分の責任だと言っていた。
リナはオルシーニとビーチェが死んだと思いこみ・・・それは自分の判断のせいだと自己嫌悪に陥り・・・この都市に残ろうと思った。
シェーザレはその事に心を痛めたのだろう。
自分の策略のタメ妹を死なせることを・・・・。
もっともリナがそのような決意を見せなくともシェーザレは断固とこの陥落寸前の都市から逃げるような真似はしなかっただろう。
リナ達だけを逃がし・・・自分は居残る。
ヤツはそう言う人間なのだから・・・・・。
「ビーチェは?」
「無事だ。」
ガウリイの問いにそうとだけ答えるオルシーニ。
その面もちはやはり沈痛である・・・・・・・・。



ロードスに到着してどのくらいたつだろう・・・・・???
そして・・・・。
西ローマの名を持つコンスタンティノープルと言う 都市がこの世の中から消滅して・・。ガウリイはラアレの 剣術の相手を勤めながらそう思う。
リナは・・・・。
相変わらず庭園の隅に居る様子だ・・・・。
「ガウリイ。」
「ガウリイさん。」
唐突にかけられる声。
「ああ・・・・。オルシーニ。ビーチェ・・・。」
声の主の方を振り向きもしないでガウリイは言う。
地中海に巨大なガレー船が入港したところだった。
「ヴェネツィア船籍か・・・・。」
感想を述べる。
「リナ様を知りませんか・・・・??」
申し訳なさそうにビーチェが聞いてくる。
「いつもの場所に居ないのか・・・?」
感慨に耽りながらリナがボーっとしている花壇。
「ええ・・・・・・・・・・。」
・・・・・・・探しに行こうか・・・・・・・。
言いかけたその時だった。
唐突に聞こえてくるはしゃぎ声。
この側にある木の上からだ・・・・。
そう思ったその矢先・・・・・・・・・・。
「リナ!!???」
突如木から飛び降りたリナは疾風のような早さで丘を駆け下り、やがて見えなくなる。
「待て!!」
言いかけて走ろうとしたその時だった・・・・・。


「お帰りなさい!!シェーザレ兄上!!!」
リナの嬉しそうな声が耳に入った。
言葉までは分からないが良く知った甘く、低い声がそれに答える・・・・。
「ガウリイさん・・・??」
追ってきたビーチェ、オルシーニ・・・。それにゼルとアメリアが怪訝な顔でガウリイに訪ねる。
どうやら。
俺は人様よりも聴力、視力とも素晴らしいらしい・・・・。
そう思ってガウリイは苦笑する。
「なーに!!いい天気だなぁー・・・。こーゆー日は信じられないような良いことがあるはずだぜ!!」
言ってガウリイはリナとシェーザレが現れるであろう方向に目を見張る。

コンスタンティノープルの皇帝は紅い大マントを翻し、白馬を駆って何処へともなく消えてしまった。それでいいじゃないか・・・と思いながら・・・・。



(ジ・エンド!!)

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2121Re:或いは優美なる冷徹5一坪 8/28-23:30
記事番号2118へのコメント

一坪です。
いつも投稿して下さり本当にありがとうございます!!!

で、タイトル「:或いは優美なる冷徹5」と「:」が付いてたので修正しておきました。
良かったでしょうか?

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2125Re:或いは優美なる冷徹5CANARU 8/29-14:35
記事番号2121へのコメント


>
>一坪です。
>いつも投稿して下さり本当にありがとうございます!!!
いえいえー!!此方こそ有り難うございます!!
>で、タイトル「:或いは優美なる冷徹5」と「:」が付いてたので修正しておきました。
>良かったでしょうか?
有り難うございましたー!!
結構ドジなもので・・・(汗)

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2122兄上かっこいいです。P.I E-mail 8/29-02:38
記事番号2118へのコメント

CANARU様
こっちにもあったんですね(^^)
<或いは優美なる冷徹>読み応えがありました。
う〜ん塩野七生の世界だ〜。
シェーザレ兄上、いいとこ持っていきますね。
あんなお兄ちゃんを持ったら、リナがなかなか兄離れ
できなくてガウリイが困るのでは・・・(^^;)

ドイツ、デンマーク、イタリアときて、さて次は?
(個人的にはイギリス史モノがいいなぁ)

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2126Re:兄上かっこいいです。CANARU 8/29-14:38
記事番号2122へのコメント


>
>CANARU様
>こっちにもあったんですね(^^)
><或いは優美なる冷徹>読み応えがありました。
有り難うございますー!!
アタシもにーちゃん大好きなのでまた何かに登場させたいです!!
>う〜ん塩野七生の世界だ〜。
おお!!
やっぱり分かっていただけましたか!!(狂喜!!)
塩野七生様の本はアタシも愛読しております!!
>シェーザレ兄上、いいとこ持っていきますね。
>あんなお兄ちゃんを持ったら、リナがなかなか兄離れ
>できなくてガウリイが困るのでは・・・(^^;)
いえてます・・・。
アタシもあーんな兄ちゃん欲しいです・・・。
>ドイツ、デンマーク、イタリアときて、さて次は?
>(個人的にはイギリス史モノがいいなぁ)
はい!!
またかきますねー!!