◆−助教授とリナ1−Merry(9/6-00:16)No.2171
 ┣助教授とリナ2−Merry(9/6-23:19)No.2176
 ┃┗ツボにはまりました。−ゆきみ(9/10-23:08)No.2189
 ┃ ┗Re:ツボにはまりました。−Merry(9/11-23:05)No.2192
 ┣助教授とリナ3−Merry(9/11-23:06)No.2193
 ┗助教授とリナ4−Merry(10/2-23:19)No.2273


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2171助教授とリナ1Merry E-mail URL9/6-00:16


助教授とリナ1



夏休みが開けて、気がついてみれば文化祭の季節だった。某国立大学もその恒例に習っているようで、9月の下旬に学園祭を行う予定だ。学生達はいつになくお祭り騒ぎで、授業にもほとんど身にはいっていない。ある日の昼休みになったばかりの時間、一人の女学生がさっそうと校舎内を歩いている。学食で並ぶために早足になっているわけではない。会いたい人に一秒でも早く会いたいから早くなってしまうのだ。
目当ての教室は一階にある。建築学科の研究室に足を向けているのだ。そこには当然助教授がいて、彼女はその人物と一緒にお昼を食べるのが楽しみなのである。
目当ての教室の前で立ち止まり、ドアをノックするとよくとおるテノールの声で返答があった。
「こんにちは 先生 一緒にお昼食べにいかない?」
机に向かってパソコンのキーボードをたたいている後ろ姿に向かっていった。手を止めて振り返り、教授はいった。
「もう…そんな時間でしたか 今からでは学食は大混雑ですね 近くのファミリーレストランにでもいきましょうか?」
黒い縁取りのめがねを外しながら、彼は立ち上がった。漆黒の闇の色をした髪が肩まで切り揃えられていて、肌の色は処女雪のように真っ白で滑らかである。若干33歳にして助教授の座に就いたいわゆる天才という部類に入る人間だろう。
30代とは言えど童顔なのか十分20代で通じる。容姿も整っていて女学生には圧倒的に支持されている。しかし、そういう事に疎いというか鈍いのか女性とはあまり縁のない生活をしてきたせいで、現在も一人身である。
唯一多少の縁をもって接しているのが、お昼の誘いにきた女性徒で彼女の事は彼女自身が小学生のころから知っていた。
なんてことはない、彼女の父親がこの大学の総長で建築学部の教授だったのだ。そして恩師というわけである。たまに家に遊びにいくと、彼女と話を交わした。
「リナさん、それでいいですか?」
「じゃ、あたしの車でいこう その方が早いわよ ゼロス先生」
リナ=インバースは、美人である。ゼロス自身は彼女の外見をうまく言葉で説明する事ができなかったが、彼女が周りからどう思われているのかは分かる。振り返るのだ。
紅茶を薄く入れたような髪はストレートに伸びていて、くりくりとよく動くぱっちりとしたひとみ。ルビーの中で炎が踊るような不思議な色合いの瞳。小柄だが、健康そうな肢体は雌鹿のようだ。
今日はTシャツに、ジーパン姿である。彼女が最後にスカートをはいた姿を見たのは何年も前だ。昔は物静かで、きている服もワンピースや、ロングスカートが多かった。清楚な女の子という感じをゼロスは受けたものだ。
しかし近頃、インバース夫妻の物静かな性格とは違う性格を形成しつつあるようだ。それが、両親の死亡事故に関係しているとゼロスは知っている。
たばこをくわえて火をつけながらゼロスはいった。
「リナさん、安全運転でいってくださいね」
二人は並んで研究室から出ていった。


駐車場には真っ赤なスポーツカーが停めてあり、その運転席にリナが乗り込んだ。助手席にゼロスが座るとすぐに発車した。
ゼロスにとってリナは特別な存在である。何が特別かというとリナの存在が曖昧だからである。こういう事はゼロスにとって珍しい事である。だからリナは特別なのであった。
「ね、先生 学生会からのはなしきいた?」
「今日発表した学園祭についての企画の話ですか?」
「そう、その時説明していた…人 ちょっと恐かったな」
ゼロスは珍しそうに、リナの横顔を見ていった。
「リナさんがそういう事をおっしゃるのは…」
でもね、とリナが赤信号のためにブレーキを踏みながら言葉を続けた。
「完璧主義者って言うのかな あれは恐かった…次に説明していたルークが言葉につまっちゃうのもわかる気がした」
ルークは同じ建築学部の生徒で、リナもゼロスも彼の事を知っていた。
「ルーク君は…あがり症ですから しどろもどろになってしまうのでしょう 人前で発表すると」
本当に対照的だったのだ、ルークが何を話しているのか分からないぐらいしどろもどろに話していたのだ。
車を車庫に入れた。入り口で、リナが何を食べるの?ときいた。
ゼロスは苦笑を浮かべて答えた。
「そういう風になんでも知りたがるという事はまるで、リナさんはまるで金魚みたいですね」
「は…?それどういう意味?」
ゼロスは椅子に座りながら笑っていった。
「ジョークって言うのは意味のないのが最高なんですよ」



「さすがね アメリア」
学園祭で行う劇の衣装あわせをリナは見にいった。リナは演劇サークルに入っていて今回の演目はロクサーヌだ。主役のロクサーヌはアメリアといってリナの友人がやる事になっている。煌びやかなドレスを着て、お化粧をしたアメリアはとにかく映えていた。案外舞台栄えをする顔なのかもしれない。
「リナさん このドレス本当にもらっていいんですか?」
アメリアが今着ているドレスを摘み上げながらいった。
「いいの たくさんあるしもうそれきないから」
リナの家は、ここらへん一帯には名の知れた財閥のお嬢様である。 リナの両親はともに研究者で、それなりに優秀な論文を残した人たちで、叔父は、県警の本部長である。両親がなくなった後リナは莫大な遺産を受け継いだ。そして、駅前の一等地にある高級マンションの最上階に住んでいて、家には執事が待っているというのがリナの私生活だ。
もちろんマンションはリナの持ち物である。
「でも本当に助かりました 衣装が手に入らなかったらつまらないでしょう」
二人の会話に、もう一人はいってきた。中心人物ともいえるフィリアだ。彼女は両親がともに演劇界の人物で、彼女もまた演劇一筋で生きていくようである。
しかし今回はどういうわけか脇役に徹していた。
「フィリアが脇役の乳母やの役なんてファンが納得しないんじゃないの?」
リナが揶揄するようにいった。
「そんな大袈裟なファンはいないわ 役の幅が広がると喜んでるところよ」
リナは笑いながら振り返り、腕組しながら三人の様子を見ていたゼロスに声をかけた。
「先生、見にきてくれるでしょ?」
「……時間があればいきましょう」
その後2時間ぐらい練習した後、アメリアとリナとゼロスは研究室に戻ってきた。
「そう言えば、アメリア あなたドーランおとしてないわよ」
「あ、すっかり忘れてました」
頬に手を置いてなでると手にべったりとドーランがついた。
理奈はあきれたようにその様子を見ると、懐からドーラン落しを出した。
「わあ、さすがリナさん 借りてきてくれてたんですか?」
「当然ね」
二人の会話を聞いてゼロスがくすくすと笑った。
「先生、コーヒーのむ?」
「いれてください」
たばこに火をつけながらゼロスが答えた。リナはコーヒーメーカのスイッチを入れて、戸棚から3つカップを出した。
「リナさん、これ変なにおいがしませんか?」
ドーラン落しのにおいをかみながらアメリアがいった。どれどれとリナが手に取ると、強い刺激臭がする。黙ってそれをゼロスに渡すと同じようにゼロスもにおいをかんだ。
「アメリアさん 化粧品にしては刺激臭ですし他のに変えてもらったらどうですか?」
やんわりとした口調で、ゼロスは言った。
「そうしてきます」
「帰ってくるころにはコーヒーが入ってるよ」
部屋から出ていくアメリアの足音が遠ざかった後リナはコーヒーメーカーを見ながらいった。
「先生、あのにおいって…」
「気づいてましたか? 農薬のにおいですね …顔につけたら劇薬になります どうなるかおわかりですね」
「アメリアが、狙われているの…?」
すがるようなリナの視線に、ゼロスは答える事ができなかった。できた事は話を逸らす事だけだった。
「コーヒーには不純物を入れないでくださいね」
ゼロスもリナもコーヒーはブラックだった。

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2176助教授とリナ2Merry E-mail URL9/6-23:19
記事番号2171へのコメント

助教授とリナ2



リナとゼロスがコーヒーを飲んでいると、ドアをノックする音がした。ゼロスがそれに答えると、ルークが入ってきた。
「リナきてたのか」
「いちゃ悪い?」
いつものように憎まれ口をリナはたたいたが、ルークの姿を見て二の句が次げなかった。無残なほどにきり傷やら擦り傷が体中についていて、頭はぼさぼさ、服もぼろぼろというひどいありさまだ。
「どうしましたか、ルーク君?」
コーヒーカップを置きながらゼロスがたずねた。
「文化祭の準備で玄関にいったら誰かに階段を突き落とされたんだ 先生かっとばん持ってる?」
さらっととんでもないことを言うと、あいていた椅子に座った。
「ここは保健管じゃないんですけどね…」
そう言いながらも、散らかった机の引き出しを開けてかっとばんを探す。かっとばんの紙の部分が幾分か変色したものが見つかりとりあえず差し出した。
「これしかありませんけど」
「サンキュー先生」
ルークは一番擦り傷の中でもひどい腕の部分にかっとばんを貼り付けた。
「ね、ルーク こういう事って最近よくあるの?」
ルークの分のカップを出してコーヒーを注ぎながらいった。
「さあね、でも俺自身はよくあるよ 他にも植木鉢落ちてきたり、上から水かけられたり」
「ミリーナに付きまといすぎ何じゃないの?」
「最近は押しても何の反応もないから引いてるんだ」
あそう、とリナは適当に返事を返した。どうやらルークも誰かに知らず知らずのうちに狙われているようだ。アメリアと同一犯だろうか…?
コーヒーカップをルークに渡すと、ルークはフレッシュ取っ手といってコーヒーメーカーの隣においてある籠をさした。
「コーヒーに不純物をいれるのね…」
「ブラックなんて苦くてのめるかよ」
ミルクを取ってリナはルークに渡した。それをいれて、かき回しもしないでルークは呑んだ。まだ湯気が出ているのに、熱さを感じないのかがぶ飲みしていた。



「ゼロス先生 後夜祭でますか?」
「何で僕が出なければいけないのですか?」
あれから二日後、特に変わった事はない。けれど着実に学園祭は迫っていていつもより大学には人が多い。そして、研究室ではリナが今日発表された後夜祭についての企画を話の種にしていた。
「仮面舞踏会なんて面白そうじゃない でよう、先生」
「あのですね、僕なんかが出ても面白くありませんし 第一社交ダンスなんて僕にはできませんよ」
ゼロス自身が喫煙家なために、研究室でもたばこが据えるように灰皿が置いてある。真っ赤な色で塗られていて縁を白地の英語で文章が書かれている灰皿に、ゼロスは灰を落とした。
「一生のお願い」
「内容を先にいってください…大体簡単に命を懸けていては駄目ですよ」
「後夜祭いこう」
無邪気なリナの笑顔を見て、ゼロスは深いため息を吐いた。たばこを深く吸い、煙を吐き出した。
リナはゼロスに対して恋愛感情を抱いているというわけではない。どちらかというと近所のお兄さんという感じだ。父親が存命のころは良く遊びにきて話し相手になってくれたし、両親が事故でなくなったとき一番近くにいてくれたのはゼロスだ。
そんなわけで彼女は他にもうかった有名私立大学を蹴り飛ばして、ゼロスが助教授をやっているこの大学に決めたのだ。父親もこの大学の卒業生で、助教授を経て教授になった。ゼロスと同じ学科だ。そして、リナも同じ学科を選んだ。
「大変よリナ!」
突然研究室のドアが開いて、違う学部で同じサークルのナーガが血相を変えてたっていた。
「アメリアが、落ちたわ」
「え?どこで」
「講堂のステージから とにかく来なさい!」
「僕もいきましょう 人手が必要だろうし」
ゼロスはたばこを灰皿に押し付けてたちあがった。


幸いな事に、アメリアはたいした怪我ではなかった。学園祭に向けての稽古中に、大道具で作ったバルコニーから見下ろして下にいる人物と話をするシーンで、バルコニーを押さえていたちょうつがいが外れて落下したのだ。悪運の持ち主らしく、下にいた人をマット代わりにして助かったのだ。まったくアメリアにマットが割にされた奴は、腰を痛めてステージの上でうなっている、いい面の皮だ。
「やっぱりこういう事があると、公演中止とかになるの?」
アメリアの無事が分かって、リナはとなりにいるゼロスに向かって聞いた。
「さあ、一回ぐらいならいいんじゃないかな そうそう何回も事故があるとまずいだろうけど…僕には関係ない事ですけどね」
最後の一言は告げ口しないぞという意味らしい。
リナは笑いながら答えた。
「先生にかかれば地球滅亡の事件でさえ、つまらない事になってしまいそう」



リナはゼロスと別れた後、あてもなく校舎内をさ迷い歩いていた。サークルの手伝いをするべきだろうが、どうも今日はそういう気分じゃない。ただ、偶然起きた事故が、誰かの手によって導き出されたものではないかとリナは考えていた。
誰かがやったとしたら、おそらくメイク落しに農薬を入れた人物だろう。そこまでは同一犯としても言い、しかしルークとアメリアはどう関連付けるのだろう。まったく二人には共通点はない。あるとしても学部が同じというだけだ。そうすると理奈も同じ学部になる。
これではだめだ。
まるでパズルを解いていくような感覚である。リナはその心地よい刺激が好きになれそうだった。


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2189ツボにはまりました。ゆきみ E-mail 9/10-23:08
記事番号2176へのコメント

こんばんは。はじめまして「ゆきみ」です。

いままで、いろいろなゼロス君を読んできましたが
「助教授」姿を想像して(って助教授自体イメージなんだけど・・・)
しまいツボにはまってしまったようです。
これからの展開が大いに気になります。

続き楽しみにしていますね。

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2192Re:ツボにはまりました。Merry E-mail URL9/11-23:05
記事番号2189へのコメント

ゆきみさんは No.2189「ツボにはまりました。」で書きました。
>
>こんばんは。はじめまして「ゆきみ」です。
>
はじめまして、Merryです。
>いままで、いろいろなゼロス君を読んできましたが
>「助教授」姿を想像して(って助教授自体イメージなんだけど・・・)
>しまいツボにはまってしまったようです。
ゼロスって、知的なイメージがあったのでこういうのもいいかな
と思って書いてみました。
つぼにはまってくれてうれしいです。
>これからの展開が大いに気になります。
>
>続き楽しみにしていますね。
ありがとうございます。
期待にこたえられうようがんばりたいと思います。

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2193助教授とリナ3Merry E-mail URL9/11-23:06
記事番号2171へのコメント

助教授とリナ3

朝は偶然、アメリアとナーガとフィリアと一緒になった。リナは四人で一緒に大学まで行った。荷物をサークルで使っている教室に置きに行くと、アメリアが盛大なため息を吐いていった。
「こういうの困るんですよね」
アメリア専用のロッカーの中に入った、小高い丘を築いているいている手紙の山だった。いわゆるラブレターという奴だ。
「私にはもう心に決まった方がいるのに…」
アメリアが両手を組んでいった。心に決まった人というのは、同じ学部で院生のゼルガディスの事だ。ゼルガディス自身も悪い気はしていないみたいで、端から見るとなにとろい事やっているんだとやきもきしてしまうような関係だった。
「どうせ捨ててしまうのなら、私が破り捨ててやってよ」
アメリアから手紙の山を受け取ると、盛大にナーガは破き出した。いきなりナーガは手を止めると、いたい、といった。とっさに自分の手のひらを広げる。白磁のような手から鮮血が滴り落ちた。ナーガが目を回して床に倒れるのと同時にリナがかけよってナーガを抱き起こしながら傷の具合を見た。手紙にかみそりが仕掛けられていたようだ。
フィリアがかばんからカットバンを出してナーガの手に貼り付けた。
リナは心配そうなアメリアに、大丈夫だとだけ告げるとあさいちの講義をサボる事を告げて、ナーガをフィリアに押し付けるとどこかに足早に去っていった。


「ということがあったの」
朝っぱらから、研究室に押しかけてゼロスに事の次第をリナは説明した。たばこを吸いながらゼロスは黙って話を聞いている。
「アメリアさんは人から何か怨まれるような事してましたか?」
「全然 でも、あのこすっご異もてるから逆恨みとかあるかもしれない」
ゼロスは黙ってたばこの煙を吐き出した。
「何か思い付いた?」
「何をですか?」
「犯人」
ゼロスは、今度は煙ではなくため息を吐き出した。
「リナさん、コーヒーいれてください」
「アメリカン?」
「もう少し苦い奴をください」
リナは立ち上がりコーヒーメイカーのスイッチを入れた。カップを二つ出して、コーヒーメイカーの近くに置いた。
「リナさんは誰か思い当たる人手も要るのですか?」
「いない だから聞いてるのよ」
「情報が少なすぎますよ もうちょっと何か分かれば答えの出しようもあると思いますが」
「じゃ、しらべてみようっと」
ちょうどコーヒーが沸いた。リナはスイッチを切り、コーヒーをカップに注いだ。湯気が出るコーヒーをそっと持ち運び、ゼロスの机の上に置いた。
ゼロスもリナもコーヒーには何も入れない。
ゼロスはコーヒーを飲み干して、時計を見る。そろそろ次の講義の始まる時間だ。
「リナさん、僕は次に講義が入っていますから あんまり無理しないようにしておいてくださいね」
そういってゼロスは部屋から出ていった。


リナはとりあえずうわさのたぐいなどからアメリアの身辺を洗った。たくさんの人物がアメリアに関わってはいたがこれといって逆恨みまでするような関係は見当たらなかった。そういう風にリナが校舎内をさまよっていると、フィリアを見かけた。フィリアは女の子二人組から質問攻めにあっているようだった。
「え〜 どうして今度の学園祭の公演 フィリアさんが主役じゃないの〜?」
「主役じゃないなんておかしいです」
二人のいきり立った台詞に、フィリアが苦笑しながら答えた。
「主役に抜擢されたアメリアさんは本当に演技がお上手です それに、役の幅が広がると内心喜んでいるの お気持ちはうれしいけれど」
軽く会釈してフィリアは去っていった。例の二人組はその応対に感動しているようだ。
「心の大きい人ね」
「あの上品さが素敵ね」
リナはきくとは無しに立ち聞きしてしまい、フィリアに声をかけづらかった。
いろいろ大変なんだなと、リナは思った。


「ゼロス先生」
また研究室に戻ってきたリナは、お昼ご飯を一緒に食べようときたのだ。ちょうどアメリアもきていて、どうせだから3人で食べに行こうとしたときだ、アメリアが窓辺に立ち、何かリナをからかった。それに反応したリナがヘッドタックルをかました瞬間、窓ガラスが砕け散った。
その破片で、リナは顔と手を切った。リナから背後から抱えられるような格好だったアメリアは無傷である。
「リナさん!!」
頬に、リナの顔から流れる血を受けて、アメリアが蒼白になりながら叫んだ。
「悪運だけはいいみたいね あたしは大丈夫」
無理して笑おうとするが傷が痛くて表情が引きつった。
ゼロスが投げ込まれた大きな石を拾い上げた。明らかにアメリアを狙って投げ込まれたものだ。こんなのが後頭部に当たったら即死もいいところだ。しかしそれをしない。どうやらアメリアには怪我をしてほしいようだ。
「アメリアさん、とりあえずリナさんを保健管理センターに ここは僕が片づけますから」
荷物の山に埋もれた箒を引っ張り出してゼロスは掃き出した。


7時を過ぎても、リナは包帯を両手に巻いて、顔にはガーゼを張られた状態で研究室にいた。ゼロスに苦手な力学を教えてもらっていたのだ。
きりのいいところで、ゼロスが散歩に行こうかといった。リナはうなずく。
並木道を二人で並んで歩きながら、リナはアメリアの話をした。
「どう思う? 先生」
「アメリアさんは、小さいころ劇団にいたんですよね」
「よく知ってるわね あ、もしかして犯人が分かったの?」
「リナさんもすぐに分かりますよ」
黙って二人で大学の中庭を歩いた。数分後リナが立ち止まり、つぶやいた。
「先生どうしよう」
目が合わせられなくて、リナはうつむいていた。
「犯人わかっちゃった」
リナの瞳から大粒の涙が片方だけ零れた。
たばこに火をつけてゼロスはいった。
「大人になりましたね、リナさん」
たばこを指の間でまわしながら、ゼロスは続けた。
「以前は犯人が分かっただけでおおはしゃぎだったのに」
「物語と現実は違うもの」
「大人になったお祝いにいいものをあげましょうか?」
ゼロスは唇の端をきゅっとあげていったが、それをリナは見ていない
「目をつむってくださいリナさん」
訳も分からず、リナ名は顔を上げて目をつぶった。
ゼロスがリナに近づいていく。二人の距離は数字の11より近くなった。そっとゼロスのてがリナの顔に近づいていった。
そのまま指をちょいと動かし、リナの唇にたばこを押し付けた。リナはそのままおとなしくたばこをくわえた後、吸った。数分間そうやっておとなしくたばこを吸った後、目を開けて、たばこを唇からはなしていった。顔はひどく真っ赤になっている。
「ゼロス先生何するの! あんなに…」
リナは怒りのあまり言葉が続けられない。
きょとんとした顔でゼロスは返答した。
「え?リナさんは以前からたばこが吸いたいとおっしゃってたでしょう だから今日は特別です」
「そんなのもうとっくに吸い始めてるわ!!」
リナは怒鳴ると、ぷいっと顔をそらして歩き出した。その後ろをゼロスがついていった。
「もう、ひどい 本当にドキドキしたんだから それをゼロス先生ったら 乙女の心を踏みにじるような事をして…」
実際には独り言なのだが、ゼロスに聞こえるようにいっているために声がかなり大きい。
ゼロスは損なリナの後ろ姿をまぶしそうに見ていた。



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2273助教授とリナ4Merry E-mail URL10/2-23:19
記事番号2171へのコメント

助教授とリナ

「で、どうするのですかリナさん アメリアさんに犯人を教えますか?」
「…教えたほうがいいと思うの…その後どうするかはアメリアに任せてもいいだろうし」
リナはハンドルを握りながらいった。大学の帰り道、リナは自分の車を運転しながら助手席にはゼロスを乗せて車を走らせている。
「早いほうがいいですよ 日にちも…迫ってますから」
「今日帰ったら電話する …ね 先生」
「何ですか?リナさん」
「先生の家に泊まっていってもいい?」
「駄目です かえりなさい」
ゼロスの答えにリナが一気にアクセルを踏み込んで、すぐに減速した。
「どうして…?」
「どうしても、なにも…君は家があるのだから帰りなさい うちにきても何もないのだから」
「一生のお願い」
「早々簡単に命を懸けるものじゃありませんよ」
ちぇっとリナは軽く舌打ちすると、ゼロスの住んでいるマンションの前で車を止めた。おやすみ、といいながらゼロスは車から出ると後ろも振りかえらずにマンションの玄関に入っていった。
「おやすみなさい」
リナの声がゼロスの後ろ姿に注がれたが、反応はない。
いつもそう。
リナはため息をつくと自分のすんでいるマンションに向かって車を発車させた。


リナは次の日、アメリアを助手席に乗せてある家に向かった。
アメリアがどうしても本人と直接話がしたいといったのだ。まだ授業が始まる前だ。きっと家にいるに違いない。
「どうして…そんなことをしたのでしょうか?」
リナはアメリアに事の次第を告げると、思った通り動機について聞いてきた。リナはさまざまな推察が来る中で一番しっくり来るものを言葉に出した。
「多分…嫉妬」
「嫉妬…?私に?」
アメリアが信じられないという顔をする。無理もない。リナでさえ文化祭の準備の事がなければ気がつかなかったかもしれない。
「動機なんて些細なものよ アメリア 人間が後から付けるもの、きっとやってる最中の本人はそれがいい事だとか悪い事だとか思ってない やらなかったら生きていけないからやるだけ 後からこういう事だったん打って付け足すから動機って、頼りにしない」
「でも、信じられません あのひとが…」
アメリアが目を伏せた。
その後、問題の家に着くまで二人は言葉を交わさなかった。


「私に…何のよう?」
玄関先で、フィリアが不信そうにリナたちを見た。
「フィリア 貴方がアメリアを狙っていたのはわかってるの」
リナがまず切り出した。
「なにいってるの?私知らないわそんな事」
「メイク落しに劇薬をいれる事も、ラブレターにかみそりをリナを忍ばせる事も、研究室の窓ガラスを割る事も貴方ならできる出所?」
「そんなのだれだってできるじゃない!」
フィリアが真っ赤になって激昂した。
「そう?メイク落しは新品だった あのメイク落しあたしが演劇部の部員に借りたんだけどその日と渡すときにこう言ってた“部長がアメリアさん専用にしていいですよ”って
他の部員に被害を出さないために部員以外のアメリア専用にする事で、回避した 部外者の人にはメイク落しを別個に渡す習慣があったのを逆に利用したってわけ それに中に入ってきた農薬 あれ農学部の院生に調べてもらったけど やっぱり普通にはてに入らない物だって言ってた 農学部であるフィリアなら可能よね」
フィリアは沈黙したままリナをにらんでいる。
「ラブレターだけど かみそりの入っている手紙を調べたんだけど、高級品だったわ それに紙の端にわずかにドーランがついていて、香水のにおいが付着していた 香水は貴方が使っているものと同じ物 かみそりにしたって化粧品売り場で売っている女性用のものだから、男の人が買ったとは考えにくい 最後の研究室の窓ガラスだけど」
ここでリナは一息ついた。
「視力のいい貴方なら窓ガラスを割る事は対した事じゃないわ 遠くから見ていてアメリアが窓際に立った瞬間に割る 昨日中庭を散歩して思ったんだけど、ちょうど並木道のところから研究室ってい直線に何の障害もないみたい 狙いやすい場所だった 以上の事から言えるのは、殺意を抱いていないって事 殺したいのならもっと直接的にやるはず出し、窓ガラスが割れたぐらいじゃ人は死なない 目は見えなくなるだろうけど そういえば、フィリアは小さいころから役者だった両親の影響でその道に入るようにいわれてたんでしょ?それがあたりまえで 自分が演じるはずだった主役をアメリアに取られたときは悔しかったでしょうね」
リナが悪魔のような微笑みを見せた。決してゼロスの前では見せる事のない表情。
「アメリアさんは本当にすばらしい演技力よ! それにあたしがどうして研究室に石を投げ込まなきゃいけないの!」
リナがかかったとばかりに唇の端をあげて笑った。その表情は何処となくゼロスに似ている。
「あたし、研究室の窓ガラスが割れたといっただけで 石が投げ込まれたとは一言も言ってないけど」
「…き…きいたの」
「だれに?」
「……ゼロス先生に」
「いつ?」
「昨日の…夜…7時ごろ」
リナが大笑いし出した。
「その時間はあたしと一緒にゼロス先生はいたのよ 誰にも会わなかったし、誰からの電話もなかった!!」
その時にたばこを押し付けられたんだから。と訳の分からない一言をリナがつぶやく。
「おわりね!フィリア」
糸が切れた人形のようにフィリアはその場に崩れ落ちた。半分泣きながらフィリアは自暴自棄にしゃべり出した。
「そうよ、あたしがぜんぶやったの だってあたしがやるはずだったの ロクサーヌ!台詞も全部覚えてた それなのに、先生はアメリアさんを指名した ちいさいころ劇団にいたって言うだけで あたしは血の吐くような努力をして演技の練習をしているのに、この人は……何の努力も無しで…あたしの居場所を………すべてを…横から奪っていったのよ!……」
フィリアは涙をぬぐった。
「 あたしは舞台に立つたびの栄光を影では人の倍以上の練習で手に入れてた あたしは天才じゃない 両親からは演劇の才能を何にも受け継がなかった 容姿だけは…舞台向きの顔だった それだけを支えにしてここまできたのに…!」
フィリアはリナを正面から見つめていった
「貴方みたいな苦労知らずにはわからないでしょうけど」
いったとたんフィリアは寒気を感じた。リナの目が深い闇の光をたたえて光ったのだ。まるで、人が見てはいけない闇を見てしまったかのように。奈落の底まで落ちた事のある物しかできないその瞳の光。アメリアは気がついていないみたいだ。
リナと正面になっているフィリアだけがわかった真実。
「苦労知らず…?わたしが? 貴方は人を本気で殺そうと思った事なんかないでしょ?」
リナの声は何処となく冷たい。 絶対零度の声。
フィリアは息を呑んだ。
「あたしは…ある」
リナは背後に呆然とたっているアメリアに振り返った。
「さて、アメリアこの人どうする? 事実は認めたし好きにしていいよ」
さっきとは打って変わった明るい声。否、これが普段の声だ。
アメリアは何か一言いいたげな表情をしながらフィリアに近づいた。座り込んでいるフィリアの胸座をつかむと、頬を思いっきり平手打した。
「これ、私の分」
もう一度たたいた。
「これ、ナーガさんの分」
さらにもう一度たたく。
「これ、リナさんの分」
思いっきりたたいている所為でフィリアの頬は痛々しいぐらいに張れている。リナは口の端を引きつらせて見守っている。
「痛いでしょう? みんなもっと痛かったと私思います」
その台詞にフィリアは泣きそうな顔をした。
「さ、いきましょうか」
アメリアが笑顔でフィリアに手を差し伸べた。
「どこに…?」
「やですわ 学校です もうすぐ本番ですものね、“乳母や”さん」
フィリアはその笑顔につられるようにして立ち上がった。



「へえ、それで事件は解決ですか」
放課後の研究室、やはりリナはゼロスに会いにきていた。
「そう、フィリアあれからすっかり変わって乳母やの役に打ち込んでるって…明日見に行こうかな」
「そういえば、明日から文化祭でしたね リナさんは前夜祭どうするのですか?」
「講堂でパーティーか… 先生もいくのならいこうかな」
「自主性がないですね」
リナの耳に廊下でこちらに近づいてくる足音が届いた。
「アメリアだわ きっと…ね、ゼロス先生 悪戯思い付いたの」
「どんなのです?」
「一生のお願い 先生何にもしなくて言いから」
「僕は何にもしていなくても一生のお願いをしたい事なんかあるのですか?」
そういっているゼロスのひざの上にリナは腰をおろすと首に抱き着いた。
「アメリア、なんていうかな?きっと、あら、まあ!リナさんたら…て」
「あのう…リナさん? 僕これじゃちっとも楽しくないのですけど」
ゼロスが珍しく慌てたような口調で言った。それと同時に研究室の扉が開いてアメリアが入ってきた。
「あら、まあ!リナさんたら…なにをなさっているのです それにゼロス先生まで そりゃ若いって事はどんな事でもできるという事です でも、私に対する礼儀がないじゃないですか!」
リナは何事もなかったかのように立ち上がるとアメリアに向かっていった。
「今日はアメリア あまり興奮すると血圧が上がるわ」
「リナさん!昼まっからなんてことしてるのですか 私に対する礼儀を忘れたのですか!足音で来るのがわかったでしょう…?」
「落ち着いて、アメリア これ悪戯なの」
「悪戯…?」
「そうです アメリアきている服似合っているわね」
「話を逸らさないでください…そうですか、リナさんはもしかしたら悪戯とかいう口実を設けないと、ゼロス先生に抱きつけないのですか…? こんな年にもなって?それは寒い事ですね」
「アメリア 何てこといってるの!」
「違うのですか? なら許しますからここでゼロス先生を抱き合ってみてください」
「ほっといて!」
「ほっときます ゼロス先生も大変ですね リナさんに付き合って」
「さっき付き合いましたから」
ゼロスは落ち着いてたばこの煙を吐いている。
「そうだ、リナさんこれからリハーサルなんです 見に来ませんか?」
「本番を見に行くから」
「その後すぐに前夜祭が始まります」
「ゼロス先生見に行こう」
ゼロスが肯くのを確認した後リナは前夜祭のために着替えにいった。
今日も変わらずこの学校は活気に包まれていた。


おわり