◆−太陽と月と。−天野つばさ(9/22-15:24)No.2226


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2226太陽と月と。天野つばさ E-mail URL9/22-15:24


初めて投稿致します。
最近になってスレイヤーズにハマり、拙い小説もぼちぼちと書いております。
これはそんな中の1つで、まだ原作の小説を読む前に書いたものです。
一応、ガウリナ←ゼロスのつもりだったんですけど……できあがってみれば、ゼロス、マザコン?(苦笑)

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広がるのは闇。
純然たる闇。
光の届かぬ深淵に、一つの人影が浮かんでいる。
まるで漂うように。
人影。
否。
確かにそれは人を形作ってはいるが、人がこんな場所に居れるはずもない。
人の形をした、人でないもの。
恐怖・絶望・怒り・悲しみ。
そんな負の感情を好む、忌み嫌われた存在。
自らの、そして世界の破滅を望みし存在。
人にとって、あってはならぬもの。
──なくてはならぬもの。

ふと、何かに導かれるように彼は覚醒する。
開いた瞼のその奥に、闇よりもなお深き紫の瞳が現れた。
広がるのは闇。
広がるのは静寂。
広がるのは空虚。
彼の瞳が泳ぐ。
心地よい闇の中。
だが、彼の瞳に映るのはかの存在。
とある仕事で出会うべくして出会ったその者。
光を太陽を彷彿とさせる、嫌悪すべき存在。
自分と近しい力を持ちながら、自分と対極にある一人の少女。
生を求め。
未来を見つめ。
揺るがぬ強さを秘めた、華奢な少女。
何故……?
彼は自問する。
自分の最も苦手とする存在。それが彼女のはず。
なのに、何故……。
求める。
彼の目が、口が、手が、肌が、心が、魂が。
全身全霊で求めてやまない。
彼女を思うと、溢れくる遙かなる郷愁。
帰りたい。還りたい。
彼女の元へ。
彼女の内へ。
彼は自嘲の笑みをこぼす。
それは、いつも彼の顔にこびりついた笑顔とは似ても似つかぬもの。
何を馬鹿な。
たかが一人の人間に。
彼女の生気にあてられたのかもしれない。
まっすぐに見据えるあの紅い瞳に。
自分の正体を知っても変わらぬ、ただ一対の瞳…。
否。
そこでようやく、もう一対の瞳を思い出す。
彼女と同じく、変わらぬ碧眼。
金の糸を身に纏い、光の剣を振るう剣士の姿。
自分と対極にありながら、その実、自分に最も近しい魂を持ちし者。
内に心地よい暗黒を抱きし者。
彼もまた、彼女とは相容れぬ者のはず。
なのに彼女のそばにいることを許された存在。
彼女が太陽なら…。
彼は思う。
あの男は、太陽に照らされてのみ輝く、月。
二人に思いを馳せる。
闇の中の光。
光の中の闇。
黒の中の金色。
金色の中の黒。
最も近きもの。最も遠きもの。
表と裏。善と悪。生と死。誕生と滅亡。創造と破壊……。
なるほど。
彼は自答する。
溢れくる、胸を突く郷愁。
その答えを見つけ、彼の顔にはいつもの笑顔が浮かぶ。
「僕もまだまだ…といった所でしょうかねぇ、母上」
彼は再び瞼を閉じ、そして漂い始める。
少女のその奥に。
かの魔王の存在を感じながら──。