◆−ハンパ物在庫大棚ざらえ−山塚ユリ(9/25-00:35)No.2236
 ┣『ある一夜』−山塚ユリ(9/25-00:37)No.2237
 ┣『闇の手』−山塚ユリ(9/25-00:49)No.2238
 ┣『真実の未来』−山塚ユリ(9/25-00:51)No.2239
 ┣『生まれ出ずる一瞬』−山塚ユリ(9/25-01:20)No.2240
 ┃┗良かったですよう。−みのり(9/25-23:38)No.2247
 ┃ ┣ありがとうございます−山塚ユリ(9/27-00:57)No.2254
 ┃ ┗勝手に乱入御免!!−むつみ(9/28-10:11)No.2261
 ┃  ┗えーと、予告編…かな?−山塚ユリ(10/6-00:52)No.2288
 ┣『彼女の願い』−山塚ユリ(9/26-01:23)No.2250
 ┣『いつか来た道』−山塚ユリ(9/26-01:25)No.2251
 ┗『負の牢獄』−山塚ユリ(9/26-01:27)No.2252


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2236ハンパ物在庫大棚ざらえ山塚ユリ 9/25-00:35


書いてはみたものの、諸々の理由で物置に放り込んだ小説がたまってしまった。
理由ってのは、しょうもない、とか、ありふれてる、とかオチがない、とか、アブない(をい)、とかだったりするんだが。
ゴミ箱直行ってのも少々もったいないんで、なんとか使えそうな物だけ拾って来たりして。
まぁ暇してる方は暇つぶしにどーぞ。

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2237『ある一夜』山塚ユリ 9/25-00:37
記事番号2236へのコメント

ほのぼのガウリナ。でもなにが書きたいんだかようわからん。(汗)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ふと、眼がさめた。
宿の一室。しんと静まり返っている真夜中。
あたしはベットの端へにじり寄ると、ベッドの下に寝ているガウリイを見た。
…言っとくけど、変な想像しないよーに。相部屋を余儀なくされただけである。
村にただ一つしかない宿に泊まろうとしたら、この辺りのロードがお付の人二十人も連れてお忍びで来ているとかで、空いている部屋が一つしかなかったのだ。まったく、お付き二十人も連れてどこがお忍びなんだ。めーわくな。
つーわけであたしはとーぜんベッドに、ガウリイはその下の床に寝ているとゆーわけである。
それにしても、ガウリイの寝顔をこんなに近くでまじまじ見るのって初めてじゃないかな…
明かり採りの窓から差し込む月の光が、ガウリイの寝顔を照らしている。金色に輝く髪が数本、顔にかかっている。男のくせに…色、白いなあ…まつげ長いし、鼻すじ通ってるし…
顔、見てる分には頭の中がくらげとは思えない…
なんか、無性にたたき起こしてやりたい衝動にかられた。
そっと、ガウリイの髪に手を伸ばす。さらさらの髪が指の間を滑っていく。ガウリイは起きない。規則正しい寝息が聞こえる。
「人に触られて眼を覚まさないなんて、そんなんじゃあたしの保護者失格だよ」
ガウリイの髪を弄びながらつぶやく。
その時!
窓の外に殺気が膨れ上がった。
なに!?
「リナ!」
ガウリイがあたしの手を引っ張り、あたしをベッドの下に引きずり落したのと、窓ガラスが割れて人影が部屋に飛び込んできたのは同時だった。
ざく。大ぶりのナイフがたった今まであたしが寝ていたベッドを突き刺す。
獲物を逃がしたことに気がついて顔を上げる侵入者。
「ライティング!」
「ぐわっ」
強烈な光が、侵入者の眼を灼いた。

「さて、なんであたしを殺そうとしたのか、教えてもらいましょうか」
まだ眼がよく見えないのか、眼をこすっているそいつの喉元にちゃきっと短剣をつきつけるあたし。
「お…おんな?なんでガキがこんなところにいるんだ?」
むっ
「ここはロードの部屋じゃないのか」
……
「ロードの泊まっているのは南の角の一番いい部屋」
「…あ…そか」
沈黙。
「邪魔したな。じゃ」
邪魔した、ですむかあああっ!

「なあ、役人とかに届けなくっていいのか?」
地面でぴくぴくしている黒こげの侵入者を三階の窓から見下ろしながらガウリイが言った。
「いーのいーの。もうロードを襲う気もないだろーし。騒ぎに巻き込まれるのはまっぴらってね」
穴の開いたシーツを新品と取り替えると、あたしはベッドに横になった。ガウリイも再びあたしのベッドの下で毛布にもぐりこむ。
そうだ。寝る前に聞いておかなくちゃいけないことがあった。
「ねえ、ガウリイ。さっき起きてたの?」
「あん?」
「だからあいつが飛び込む寸前に飛び起きたでしょ。その前から眼を覚ましていたのか、って聞いてんの」
もしあれが狸寝入りだったりしたら…あたしがガウリイの髪で遊んでいたこととか、ひとりごと言ってたとか、知ってることになる。
「寝てたよ。しっかり。殺気で眼が覚めたんだ」
目覚めた一瞬で状況判断してあたしをベッドからひきずり降ろしたってわけ?野生動物かあんたわ。
「なにかあったらすぐ飛び起きるから。安心して寝ろよ」
起き上がったガウリイが手を伸ばしてあたしの髪に触れた。ガウリイの指があたしの髪の毛をゆっくりと梳いていく。
これって…あたしがさっきしたのと同じこと…
「…なんか…顔赤いぞ」
なんでこの暗い部屋で顔色まで見えんのよっ
「なんでもない!おやすみ!」
あたしは毛布を被って横になる。
「おやすみ」
ガウリイの声を背中に聞きながら、あたしは眼を閉じた。ガウリイが本当に寝てたのか、疑問に思いつつ。

えんど

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2238『闇の手』山塚ユリ 9/25-00:49
記事番号2236へのコメント

短いしぃ、尻切れトンボだしぃ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

その夜。リナとガウリイは草原に座って夜空を眺めていた。
「空なんか見てておもしろいか?星なんか出てないぞ」
「うーん、真っ暗よねえ。曇っているのかな。でもこういう空もいいじゃない」
「そうかぁ?」
「なんか、あったか味があるっていうか。ほら、星空って冷たい感じするでしょ。
こういう星も月もない空って、なんか触るとビロードみたいな手触りがしそうでさ」
「そうかな…」
ガウリイはぼんやり夜空を見上げた。
「昔…
昔、オレ、こういう暗い夜が怖かった」
「怖かったあ?あ、子供の頃の話とか」
「子供…ああ、そう、そうだ…ガキの頃の話だ…」
子供の頃の話であろうと、ガウリイが自分の昔について話すのは珍しい。リナは半分ひとりごとのようなつぶやきに耳をかたむけた。
「昔…こんな真っ暗な夜に外にいると、なんていうか…なんか闇の中に引きずり込まれそうな気がしてさ…
闇の中からどす黒い手が伸びて来て、気を抜くと自分が闇の一部になってしまいそうで…」
みんなも同じ気持ちだったのだろうか。だからみんなで火を焚き、酒を飲み、大騒ぎして夜を明かしたんだろうか…
「ね、今でも夜が怖い?」
顔をのぞき込むようにして尋ねるリナに、ガウリイは笑顔で答えた。
「怖がってるように見えるか?」
「全然。
ちぃいいいいっっ。今でもいい年して夜が怖いなんてぬかしたら、この臆病者〜〜って、さんざん馬鹿にしてやろうと思ったのにぃぃぃ」
「残念でしたあ」

闇の手は、もういない。





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2239『真実の未来』山塚ユリ 9/25-00:51
記事番号2236へのコメント

これもガウリナ。なんか話の展開に無理があるよな。あっはっは。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ヴァミルスの実を買いに立ち寄った店にそれはあった。
古ぼけた、曇りの浮いた鏡。ただの古い鏡を売ってるわけがないから、おそらくなにかのマジックアイテムなんだろうけど。
「なんなの?この鏡」
「ああ、それは『真実の未来』といって、なんでも未来が映る鏡だそうだ」
と、店のおっちゃん。
「未来〜?うそばっかり」
今その鏡に映っているのは、よく見慣れた顔、すなわちあたし、美少女天才魔導士リナ・インバースの顔だけである。これのどこが未来だとゆーのだ。
「いや、なにかをどうにかすると自分の見たい未来が見えるそうなんだが。どうやれば見えるのかわからんのだ」
「…そんなの売れるわけないでしょ。あ、ちょっとはおまけしてね♪」
ヴァミルスの実を計っているおっちゃんに声をかけてあたしはなんの気なしに鏡をのぞき…息をのんだ。
鏡には…風景が映っていた。
夜の森。木々を背景にして…ガウリイが立っていた。金髪の女の人を抱きしめて。
後ろ姿だから顔は分からない。藍色の長いスカートに映える金色のさらさらロングヘア。背はガウリイの肩くらいだからかなり高い。
ガウリイは抱擁を解くと、なんか言った。声は聞こえないが、そのまなざしの熱さがすべてを語っていた。何、なんなのこれ。
彼女の肩に手をかけ、ガウリイがそっと目を閉じた。二人の顔が近づいて…ちょっと、やだ。
と、いきなり映像がかき消えた。鏡に映っているのは慌てふためいたあたしの顔だけ。
「はいおまちどう…どうかしました?」
「……」
どうやって店を出たのか覚えていない。ヴァミルスの実を持ってるところを見ると、ちゃんとお金を払って品物を受け取ったようだが…

「どうしたんだ?ぼんやりして」
ガウリイの声に我に返る。ここは宿の食堂兼酒場。舞台では白いドレスの歌い手が歌い、人々が飲み、食べて騒いでいる。いつもと同じ光景。
「どっか具合でも悪いのか?」
「ううん、なんでもない、なんでもない」
あたしは目の前の晩御飯をぱくつく。ガウリイもまた料理を食べ始めた。
あたしはちらっとガウリイを盗み見る。あの鏡に映っていたガウリイは今と変わっていない。もしあれが本当に未来の光景だとしたら、おそらくそれほど遠い未来ではない、ということになる。
数ヶ月のうち…いや、数日のうちに、あの女性と恋に落ちたりするのだろうか。
そうしたら…あたしはどうしたらいいの?
やがて歌が終わり、歌い手がステージを降りた。あたしたちのテーブルのそばを通って行く金髪の、背の高い妖艶な感じの美女。
「あ」
「?どうした?リナ」
「あ、いや、なんでもない」
どきどき。
なにげないふりで食事を再開するが、ふと見ると、ガウリイの視線がカウンターへ引っ込むあの歌い手を追っていた。
ガウリイがあの人を気にしている。彼女なんだろうか。ガウリイの未来の相手は。

部屋に戻ってパジャマに着替えると、あたしはベッドに突っ伏した。
あの歌い手…きれいで、色気のある人だった。
ガウリイはああいう人が好みなのかな…
あたしは…顔はかわいいけど美人というにはちょっと無理がある。ガウリイとは歳も離れているし、ガウリイから見たら子供にしか見えないだろう。
残念ながら胸もないし、ガウリイがあたしも子供扱いするのも仕方ないのかもしれない…
ああいう大人の女性ってのにやっぱり男性は弱いのかなあ…
「あたしもあんなふうになれたら…」
「えへへ。何になりたいってえ?」
いきなり聞こえた声にあたしは飛び起きた。
「誰!?」
「ほいほい。ここですよん」
目の前に浮かぶ、羽根を生やした小さな人影。なにがおかしいのか、そのおじさん顔はへらへら笑っている。
「妖精?」
「へい、親切な妖精ですわ。あんたの願い、叶えてあげますわな」
妖精がそう言ったとたん、目の前が光に包まれた。
「きゃっ!」

「リナ、リナ、どうしたんだ」
あたしの悲鳴を聞いてか、ガウリイが部屋に飛び込んできたらしい。光があたしを取り巻いていてなんにも見えないけど。
「リナ…?」
光が急に薄れ、ガウリイの姿が見えた。あれ?なんか視点が高い。あたし床に立ってたはずなんだけど。
足元を見ると、パジャマから足がにゅっと伸びている。あれ?すそが縮んだ…いや。
あたしの背が伸びたんだ!!
腰に金色の糸がまとわりつく。なにこれ…金髪?
「…リナ…いったい…」
ぼーぜんとしているガウリイ。あたし、どうなっちゃったの?
壁の鏡を見るあたし。そこに映ったのは見知らぬ女性だった。
歳は二十歳ちょっと過ぎ。まっすぐな金髪を真ん中で分けて垂らしている。切れ長の目、高い鼻、赤い唇。
視線を下にやれば、パジャマを押し上げている胸と長くすらっとした足が目に入る。
「お気にめしましたかな。ではわしはこれで」
「ちょ、ちょっと待て」
あたしは、おそらくはこの変化の原因であるその妖精をつかまえようとした。が、伸ばした手をすり抜け、妖精はちかっと光ったかと思うとふっと消えてしまった。あとに残るはぼーぜんとしているあたしとガウリイ。
「ガウリイ…」
「…部屋に入ってみたら、リナが光の中にいて、背がどんどん伸びてって、髪の色が変わって…
どうなっているんだ?いったい」
「さっきの妖精のせいよ」
ガウリイはくるっと向きを変えるといきなり部屋を飛び出しかけた。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「今の妖精を捕まえてきてリナを元に戻させる」
「捕まえて…って、どこにいるかわかるの?」
「知らん」
はあああ。
「こんな夜に外に出たって見つかるわけないでしょう。明日明るくなってから探しましょう」

あたしは鏡に映った自分の顔をまじまじと見た。
自分で言うのもなんだが、掛け値なしに美人である。これホントにあたしか?
それにしても…これではいつもの服が着られなひ。
とんとん。
「リナ、入ってもいいか?」
「どうぞ」
ガウリイが入って来た。朝日の当たる窓際に立ってるあたしを見て、まぶしそうに目をそらす。そらしたまま、紙包みをあたしに渡した。
「なに?」
「その…服買ってきた。前の服じゃ着られないと思って。
好みとかわからないから適当に買っちまったから、気に入らなかったら朝飯の後また自分で買いに行ってくれ」
ガウリイにしては気がきくじゃん。
包みの中は青いワンピースだった。ちょっとサイズ大き目だけどまあいいか。
「着替えたら飯にしよう。下で待ってるからな」
そう言うとガウリイは部屋を出て行った。

宿の食堂はなんか様子が変だった。
各テーブル毎、ひそひそ話しをしている。いつもならもっと開けっぴろげなのに。
なんかあたしたちの方を見ているみたい。
ガウリイがなんかやったかな、と思ってガウリイを見てみれば、こちらもなんか変。
食事の手を休めて、あたりを見回して警戒している。
「どうしたの?」
そっとお魚の包み焼きをあたしの皿に移動させながら聞いてみた。
「いや、なんでもない。それより夕べの妖精を探さないといけないな」
なんか返事が上の空だぞガウリイ。

この街から一日歩いたところに妖精の森と言われる場所があり、昔はそこから何人かの妖精が街に来たのだが、最近は妖精の姿も見かけなくなってしまった―――
そんな話を耳にし、あたしたちはさっそくその森にやって来た。
着いてみればなんの変哲もないただの森である。妖精なんかどこにもいやしない。
「なんか妖精がいっぱい飛んでいるように思ってたんだけどな」
と、ガウリイが苦笑する。
「もう日も暮れるし、ここで野宿して明日探そうか」
あたしがそう言ったその時。
「おんや〜奇遇ですなぁこんなところでお会いするたぁ」
後ろから聞き覚えのある声がした。
はっと振り向くと、ゆうべのおっさん妖精がへーらへーら笑っていた。
ガウリイの手がすばやく動き、妖精を捕まえた。
「なにすんだいあんちゃん」
「リナを元に戻してもらおう」
「えー戻すんかいーべっぴんさんでいいやないかい。なにが不満ですかいあんさん。
それにわしはこのお嬢さんの願いを叶えてやっただけですわ」
「リナの…願い?」
「そ。もっときれいになりたいと願ってましたんで、その願いを叶えてあげましてね。いいことすると気分がいいですな。ではわしはこれで」
ガウリイの手の中で、妖精は光の粒に姿を変え、ふっと消えた。
「ああ〜逃げられちゃった」
「…お前の願いを叶えてやったって言ってたな。どういうことだ」
あれ?ガウリイ怒ってる?
「リナ、こうなることがお前の望みだったのか?」
「だからそれは…」
「いきなりこんな姿になって、まわりの男どもが色目使って寄って来るの牽制するのにオレがどんだけ苦労したか知ってるのか?!
なのにそれがお前が望んだことだと?きれいになって、他の男たちに注目でもされたかったのか?」
「違うわよ!あたしは、ガウリイが…」
「オレが?」
「ガウリイはいつだってあたしのこと子供扱いするじゃない。
あたしがもし、もっと大人っぽくって美人だったら、ガウリイも少しはあたしのこと見てくれるんじゃないかって…だから…」
うつむくあたしの頭に、ガウリイが手を乗せた。
「なに馬鹿なこと言ってんだよ」
「馬鹿とはなによ。どーせガウリイだって、あたしなんかより色っぽい大人の女性がいいんでしょ」
「いつオレがそんなこと言ったよ」
「だって、だってガウリイ、あの金髪の人見てたじゃない」
「…誰のこと?」
「昨日、宿の食堂で歌ってた人」
…覚えてないのか?
「ああ、ってお前が最初に見てたんだろうが。
オレはお前があの人を気にしてたから、なんだろうって思って見てただけだぞ」
へ…?
「…ガウリイはああいう色っぽい女性がいいのかと思ってた」
「だからそうなりたいと望んだのか」
ガウリイは怒ったようにそう言うと、いきなりあたしをきつく抱きしめた!
「ちょ、ちょっと」
「馬鹿だな…オレが他の女に目移りするような男だと思っていたのか?みくびるなよ…オレにはリナしか眼に入らないんだ」
ガウリイが耳もとで熱くささやく。
「お前が大人になるまで待つ覚悟はできてたのに…いきなりこんなふうになっちまいやがって…」
え…それって…ガウリイ、あたしのこと…
ガウリイの腕に力がこもり、あたしの思考を中断した。
「ガウリイ、ちょっと、腕が痛いんだけど」
「…すまん」
ガウリイが腕を緩め、あたしの顔をのぞき込んだ。
「…早くさっきの妖精捕まえて元に戻してもらわないとな…オレの理性が吹っ飛びそうだ」
「あんたにそんなものあったの?」
照れ隠しに冗談めかして言うあたし。
「…ないな。少なくとも今は」
いかん、冗談が通じる雰囲気じゃない。
ガウリイの視線があたしを熱く絡めとる。あたしの背が高くなってるから、ガウリイの顔との距離は危険なくらいに近くて…
そしてその距離はゼロになった。
閉じたまぶたに浮かぶ光景。森の中で金髪の女性を抱きしめ、くちづけを交わすガウリイ。女性の青いスカートは夜のとばりの中で藍色に見える。
そうか、真実の鏡に映し出されたのはあたし自身だったんだ。
あたし、自分自身に嫉妬していた…馬鹿みたいあたしって。本当に…

「あの、もうよろしいかしら」
声がしたのは、あたしたちがようやく離れた時だった。
「え、なに」
「なんかお取り込み中のようでしたので」
慌てふためいて声のした方を見ると、あたしたちの横に、翼のある小さな女性が浮かんでいた。
「うちの人がご迷惑をおかけしたようで。いえ、いつもはもう少し真面目なんですけどね。ここんとこ祭りの振舞い酒ですっかり酔っ払ってまして」
うちの人って…あの妖精のこと?
「かわりに私がこの方を元に戻してさしあげますわ」

ガウリイがあたしの頭をなでて栗色の髪をくしゃくしゃにする。
「うん、リナはやっぱりこの高さでないとな」
どーせあたしは手を載せやすい背の高さですよーだ。
「さっさと野宿のしたくするわよ」
歩き出すあたし。と、長いスカートをふんづけて思わずつんのめる!
「おっとっと」
とっさにガウリイが抱きとめてくれたんで、すっ転ぶのは避けられた。
「今のお前さんにはそのワンピースは長すぎるな」
ガウリイが微笑んだ。
「裾、切っちゃおうか」
「いいさ。すぐにそれが似合うようになるから」
「…それまで待っててくれる?」
あたしはガウリイの腕の中にいる。あたしの眼の前にガウリイの顔がある。それが徐々に近づいてきた。
「…あんまり待たすなよ…」
再度唇をふさがれて、あたしの思考は停止した…

…ガウリイのそばに、金髪の女性はもういない。
でもあたしはガウリイのそばにいる。
これからもずっと、ガウリイと共に生き抜いていく。
それがあたしが作り上げていく、たぶん真実の未来。


END


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2240『生まれ出ずる一瞬』山塚ユリ 9/25-01:20
記事番号2236へのコメント

読みゃわかるが、NEXT最終回をイメージしてたりする。わーははは。意味不明。
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真っ暗な空間に、あたしは浮いていた。
上下の感覚も、自分の体の感覚もない。ただ闇が続いているだけ。
「リナーっ」
誰かが呼んでいる…リナ…それがあたしの名前?
「ここは…どこ?あたしは…」
「ここは我が混沌の内。お前はかつてリナ・インバースと呼ばれていた存在」
あたしの中で声がした。
「誰?」
「我はすべてを司るもの。すべてを生み出すもの。すべての悪夢を統べるもの」
そうか…あたしは混沌に取り込まれて死んじゃったのか…
「なにか勘違いしてやしないか?」
あたしが…いや、あたしの中の声が言った。
「混沌は、死や滅びとは違う。我が滅びなら、お前はすでに存在していないはずだ。
もっとも、すでに肉体はないが…な」
だったらあんまり変わりはないんじゃないかな?
果てしない暗闇。でも居心地は悪くない。このまま闇に身を任せるのも悪くないかも…
「リナーーーッ」
誰かが呼んでいる。でも…もういいの…あたしは…
誰かがあたしの腕をつかんだ!!
なにか叫んでる。あたしにはわからなかったけど、あたしの中の存在にはその声が届いたらしい。
「おもしろいな」
声は言った。笑いを含んでいる、と感じたのはあたしの錯覚か?
「どうしてお前は腕をつかまれていると感じているのだ?」
あれ?そう言えばなんでだろ。他の感覚は全くないのに。
「あの男の純粋な想いが、お前の存在が無くなるのを妨げている」
ふっ、と、腕の感触が無くなった。
「あ…」
締めつけられるような喪失感。突き上げるような寂しさ。
「さて問う。お前は滅びを望むか」
この切なさを抱いたまま、永遠の闇に沈む!?そんなことできるわけがないじゃない。
もう振る首などないはずだけど、あたしは首を激しく横に振った。
帰りたい。あたしを呼んでいた、あの人の元へ。
あたしの腕をつかんだあの手の感触を、もう一度確かめたい。
「帰してやろう」
声は言った。
へ?
「まだ誤解しているようだな。我は滅びのみを司る存在ではない。生も司っている。お前には生が似合っているらしい」
声が、あたしの中から抜け出た。
「我は果てしなき闇。深遠なる光。生と死を与える存在。
混沌とは、生と死、闇と光、滅びと再生、すべてを含有し、すべての狭間にある。
すべてを含むということは、すべてないのと同義」
闇が凝縮していく。
「混沌とは虚無。虚無とは全くの無。何もない存在。果てしないゼロ。正と負の狭間。
正の生命と負の生命の境。
虚無とは死の一瞬の輝き。
混沌とは産まれ出ずる一瞬の暗闇」
光が溢れた。


体が、重さを取り戻して行く。
すべての感覚が戻って来る。
髪が、なびき出すのがわかる。
誰かが、重さを取り戻したあたしの体を支えている。
さっき、あたしの腕をつかんだ力強い手が。
見なくたってわかる。それが誰なのか。
あたしは目を開け、あたしを見つめる懐かしい顔に向けて微笑みかけた。
「ガウリイ…」


えんど。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
虚無に関する言及はあくまで私の考えなんで本気にしないよーに。(汗)




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2247良かったですよう。みのり E-mail 9/25-23:38
記事番号2240へのコメント

はじめまして。みのりといいます。
ごみ箱行きなんてもったいないですよ。どれも面白かったです。
特に嫉妬するリナちゃんが可愛くて可愛くて。
なんだか感想が短いですがですが・・(書き込みは初めてなんで)
これからも頑張ってください。

・・「バブリーズリターン」も出た事ですし、「スレイヤーズINソードワールド
2」も期待してます。

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2254ありがとうございます山塚ユリ 9/27-00:57
記事番号2247へのコメント

物置で埃かぶってた物、読んでくださってありがとうございます♪
私の書くリナってちょっち気弱かも…(汗)

スレinSWは…ネタがないんでご期待にはそえないかもしれないですぅ…(汗汗)
いっそバブリーズ単独パロ小説とか…(別のサイト行け、自分。)



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2261勝手に乱入御免!!むつみ E-mail 9/28-10:11
記事番号2247へのコメント

みのりさんはじめまして。むつみと申します。
ごめんね、ちょっと乱入します。(だって、同意見だったから)


>・・「バブリーズリターン」も出た事ですし、「スレイヤーズINソードワールド
>2」も期待してます。

私もみのりさんに同じ!!期待していますよ山塚さん!!
(^^)
バブリーズ単独パロも、おっけー!!どこまでも読みに行きます。
ではでは。

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2288えーと、予告編…かな?山塚ユリ 10/6-00:52
記事番号2261へのコメント

仲良し4人組とバブリーズがタッグ組んだら敵がいない…話になんない…
つーわけで、バブリーズ単体のパロ小説ならなんとかなりそうなメドついたんで、また書いてみようかと思います。
そん時は…ここに載っけていいのかなあ。

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2250『彼女の願い』山塚ユリ 9/26-01:23
記事番号2236へのコメント

これも一応ガウリナかな。かっこいいガウリイが書きたかっただけ。
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「抱いて、ガウリイ」
リナが、熱く、甘い言葉を吐く。
だがそのうつろな瞳には、眼の前にいるガウリイの姿は映っていなかった。

その日、盗賊退治で礼金をがっぽり手にしたリナは上機嫌だった。
「マジックアイテムも買ったし、美味しい食事もしたし。うーん満足満足」
機嫌がよくなったリナは、ふと思い出したように言い出した。
「そうだ♪ガウリイもよく働いたし、なにかごほうびあげなくちゃね。なにか欲しい物ある?なんだって買ってあげちゃう。くうううっっ、リナちゃん太っ腹ぁぁ」
「オレはいいよ」
「なによ、なんか欲しい物あるでしょ。遠慮しなくていいって」
「ほんとにいいんだって」

「なによ、せっかく人がガウリイになにかプレゼントあげようと思ったのに」
ぶちぶち。宿の一室でリナはぼやいていた。
「そういえばあいつ、食べ物や剣を別にすれば、物欲ってなさそうなのよねえ。なにか欲しい物ってないのかなあ」
「教えてあげましょうか」
いきなり空間を裂いて現れたのはゼロスである。
「どっからわいてくるのよこのウジ虫神官!」
「ウジって…せっかく人が親切に、ガウリイさんの欲しい物を教えてあげようと思ったのに」
「あんたは人じゃないでしょうが。それになんであんたにガウリイの欲しがっている物なんてわかるのよ」
「見てればわかりますよ」
「なによ」
「それはですね…」

誰かが部屋の戸をノックした。
「リナかぁ〜開いてるぞ〜」
ガウリイの返事に応えて、リナが部屋に入って来た。が、様子がおかしい。眼の焦点があってないし、歩き方もぎこちない。
「おい、リナ」
思わず腰掛けていた椅子から立ちあがったガウリイの前でリナは立ち止まると、言った。
「抱いて、ガウリイ」
だがそのうつろな瞳には、眼の前にいるガウリイの姿は映っていなかった。
「ゼロス!!リナに何をした!!」
怒気を含んだガウリイの叫びに、
「あ、わかっちゃいましたか」
ゼロスが空間から姿をあらわす。
「リナさんがですね、ガウリイさんの欲しい物を知りたがってたから教えてさしあげたんですよ。
リナさん自身ですってね」
「な…」
「でもリナさんには、ガウリイさんのところへ行く勇気がないようなのでちょっとお手伝いを」
「リナを操っているのか。すぐに元に戻せ!」
「リナさんの願いをかなえてあげれば元に戻りますよ」
平然として言うゼロス。
「せっかくリナさんが抱いてください、って言ってるんです。お抱きになってはいかがです?」
「何がリナの願いだ。お前が言わせているだけだろう」
「それは違いますね。魔族ってのは、人間の願いをかなえてやることも多いんですよ。特に野望を持ってる人の願いなんかを」
(人間の願いを曲解・過大解釈してかなえ、『こんなはずじゃなかった』っていう感情を食らうのもまた一興ですけどね)
ゼロスは心の中でつぶやいた。
「リナさん自身は気づいてないかもしれませんが、リナさんの中に、そういう気持ちがあるってことですよ。僕はそれを引き出してあげただけです」
「リナ自身が気づいていないなら、まだ時が来ていないってことだろ。
無理にそういう気持ちにさせるこたぁない。いいからリナを元に戻せ」
「ガウリイさんが抱けば戻してさしあげますよ」
「貴様…」
「さあどうします?ずっとリナさんをこのままにしておくつもりですか?あんまり長いこと魔力で縛っておくと、人格が崩壊しちゃいますよ」
「…人間をいじめて楽しいか」
「楽しいですねえ」
「…わかった」
ガウリイはリナの肩に手をかけた。
「リナを抱けばいいんだろう」
ガウリイは、リナを引き寄せると、その体を固く抱きしめた。
そのまま数秒。
「リナを抱いた。これでいいだろう。さっさとリナを元に戻せ」
「あのですねえ。僕が言ったのはそういう意味ではないんですが」
失望の色を浮かべながらゼロスがつぶやく。
「約束は約束だ。リナを元に戻せ。そしてここから立ち去れ!」
「ほほぉう」
ゼロスの目が開かれる。
「人間ふぜいが、僕に命令する気ですか。僕がその気になれば指一本動かすだけでリナさんを殺すこともできるんですよ。
やってみましょうか。ガウリイさん、あなたがリナさんを抱かなかったせいで、リナさんはあなたの腕の中で死ぬんです。あなたの感情はさぞかし美味しいでしょうね…」
ガウリイは無言でゼロスをにらみ付けた。が、やがて自嘲とも取れる笑みを浮かべる。
「?…」
不審気なゼロスに、ガウリイは言った。
「そうだよなあ。お前さんとまともにやりあってかなうわけないよな」
「じゃ」
「だからってな、人間がそうそう魔族の言うなりになるわけないだろうが」
「リナさんがどうなってもいいんですか?」
「リナを殺すってか。やれるもんならやってみろ」
ガウリイのセリフに面食らうゼロス。
「そのかわり、お前もただじゃおかないからな。地の果て、アストラルなんとかまでだって追いかけてお前を殺してやる!」
鬼気が宿の狭い部屋を満たした。
「おもしろいことを言いますねえ。僕にとってはガウリイさんを殺すのだって簡単なことなんですよ。ご自分が殺されたらリナさんの敵討ちどころじゃないと思いますがね」
「また生まれ変わったらお前さんを付け狙ってやるよ」
「また殺してさし上げましょうか」
「そしたらまた生まれ変わってお前さんを狙うさ。お前さんを倒すまで何度でも生まれ変わってやる。
魔族の一生がどのくらいだか知らんが、その一生をずっとオレの生まれ変わりに狙われ続けるんだ。おもしろいだろう」
ガウリイとゼロスはにらみ合った。

先に目をそらしたのはゼロスの方だった。
「そんなの、おもしろいわけないでしょう」
ふと、自分の足元に目をやる。
(僕はいつの間に一歩さがったんでしょうかねえ)
「どうあってもリナさんを抱く気はないと」
「だから抱いただろうが」
「この場合抱くってのは…じゃ、リナさんの純潔を奪え、とでも言いましょうか」
「オレはくらげだからな。そんな難しい言葉を言われてもわからん」
ガウリイが肩をすくめて言った。どこまで本気なのか、この男の場合はわからない。
「あらららら」
コケるゼロス。こちらの本心も謎である。
部屋の鬼気は薄らぎつつあった。
「しょうがない。今日はこの辺で帰りますか。ガウリイさんの複雑な感情も楽しめたし。なかなかの珍味でしたよ」
「そんな物食うためにわざわざちょっかいかけたのか、このゲテモノ食い!」
「さあてね。じゃ僕はこれで」
ゼロスの姿がかき消えた。
「待てぇ。リナを戻してから行け!!」
「耳元でやさしぃ〜く名前を呼べば戻りますよぉぉぉ…」
声だけがかすかに残った。

ガウリイは、腕の中のリナにささやいた。
「リナ」
リナの目に光が宿る。
「あれ?なんでガウリイがあたしの部屋にいるのよ」
「ここはオレの部屋だ」
「なんで…確かゼロスが来てわけわかんないことを…って…え?」
自分がガウリイの腕に抱かれていることにようやく気づいたらしい。
「んきゃああああっっ!!!」
リナの蹴りがガウリイを弾き飛ばした。
「な、な、なんで、あんたが、あたしを、え、
えええいっっ、あたしの体抱こうだなんて、五億年早いわあああっっっ」
「…たはは…やっぱリナはこうでなくっちゃな…」
壁にのめりこんだまま、一人つぶやくガウリイであった。


THE END

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2251『いつか来た道』山塚ユリ 9/26-01:25
記事番号2236へのコメント

結びがいまいちだなあ。(所詮私はこの程度)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ほう、お前さんがあの有名なリナ・インバースとは」
とある村の宿屋兼食堂で知り合ったコルチェさんというじいさんは、あたしが魔道士だと知ると、なんか親し気に声をかけてきた。
コルチェさんも魔道士で、マジックアイテムの研究をしているんだそうな。
「一人暮らしなんでここへ飯を食いにくるのだが、魔道士に会えたのもなにかの縁。わしの家に来ないかね。わしの長年の研究成果であるアイテムを見せてやろう」
「はあ…でもいいんですか?ご自分の研究を他人に見せちゃって…」
「なに、いろいろ意見も聞きたいし。この村の連中にゃ、わしの研究は理解できんでな」
つまり、自分の研究結果を自慢したいわけだ、このじいさん。
ま、今ンとこ暇だし、マジックアイテムの研究所なんて普通じゃ入れないし。つきあってみるか。

研究室らしき部屋の中には、机といわず棚といわず、さまざまな道具や器具やなにやらの像やらが無造作に置かれていた。
「ガラクタか、これ」
「みんなこれマジックアイテムよ。何に使うのかはよくわかんないけど」
あたりを見回すあたしとガウリイ。コルチェさんはなにやら奥の本棚の本を出したり入れたりしていたが、やがて本棚がゆっくりと動き出した。
「おおーっ」
素直に驚くガウリイ。本棚の影にはお約束通り、扉が一つ。
「見せたいものはこっちの第ニ研究室じゃ。さあ入ってくれ」

魔法陣の描かれた丸テーブル。テーブルの足につながれたパイプやら針金やらがそばに置かれたなにかの装置につながっている。
「なんです?これ」
「空間移動装置じゃ」
てぇ?このテーブルが?
「リナ、くうかんいどうそうちってなんだ?」
「ひらがなでしゃべるなああ!!!」
あたしは手にした置物でガウリイをはたき倒した。
「魔族でほら、いきなり空間を渡る奴がいるじゃない。あれを人間にもできるようにしようっていう装置よ」
「説明は合ってるが」
と、コルチェさんが、あたしの持ってる置物を指さす。
「それ、隣の部屋にあったわしのマジックアイテムじゃないか?」
う…
「あらあぁぁ?いつの間にあたしのふところに入っていたのかしらあ♪うふ」
コルチェさんがじと目であたしを見る。
「つーと、この装置で全然別のところに行けたりするのか?」
尋ねるガウリイ。よーーっしゃ、ないすふぉろー!!
「そうじゃ、この装置を使えばセイルーンでもディルズ王国でも、結界の外にだって行かれる」
自慢気に説明を始めるコルチェさん。あたしはそのすきに、ふたたび置物をしまい込んだ。お宝お宝♪
「へえ、そりゃすごいわねえ」
「…はずなんじゃが」
なんだそりゃ。
「理論は完璧なんじゃが、なぜか装置が動かないのだ。
エネルギーが足りないのか、空間への干渉力が弱いのか、それとも移動先の空間になにか障害があるのか…
これが設計図じゃ。見てくれるかね?」
いや、そんな物あたしに見せたってわかんないんですけど。
「なあんだ、動かないのか」
ガウリイがテーブルに寄りかかった。と、その時。
魔法陣が輝いた。
「な、なんだなんだ」
魔法陣から、緑色の光の柱が立ちあがっている。ガウリイの体が浮き上がり、ついっとその柱に吸い込まれた。緑色の淡い光に包まれ、その輪郭が消えていく。
「ガウリイ!」
駆け寄り、光の中へ手を伸ばすあたし。その手が届く瞬間、ガウリイは溶けるように光の中へ消えた。
「え…?」
茫然とするあたしも同様に緑の光に包まれて―――

気がつくと、あたしは林の中に立っていた。
ここ、どこだろ。さっきまでコルチェさんの研究室にいたはずなのに。
と、いうことは?空間移動が成功した?!
って、行き先不明で移動させられるんじゃ、実用にならないじゃないの。
それより、ガウリイは?
あの緑の光に包まれてあたしが移動したってことは、ガウリイもどこかに飛ばされたってことになる。しかし、近くにガウリイの気配はない。
もしかして、全然別の場所に飛ばされちゃったとか?
「ちょっとおおおっっ!!!コルチェじいさんってば、どうしてくれんのよおおお!!」
って、いない人に当たってもしょうがない。とりあえずここがどこだか確かめなくっちゃ。
あたしは林を抜けて街道に出た。ちょうどうまい具合に道しるべが立っているのが見えた。あたしはそこへ行こうとして…木の陰に隠れた。
なんで隠れたかって?いや、なんとなく人の気配が…でもなんであたし隠れているんだろ?
人の気配はどんどん近づき、あたしの前を通り過ぎた。その人を見て…あたしは声も出ないほど驚いた。
その人は…あたしだったのだ。

あたしはあたしなんだけど、でもちょっと違う。なんつーか…ガキっぽいっつーか…
そのあたしは道しるべのところへ行くと、ちょっと立ち止まった。
「このまま街道を行くとアトラス・シティーかあ。次の別れ道を右へ行くとジェスコ・シティー。どっちに行こうかな」
アトラス・シティー?ひょっとして、あのあたしは、ガウリイに出会う前のあたしぃ?!?!
てとこは今は三年前ってとこぉぉぉ!!空間移動だけじゃなくて、時間も移動してるじゃないあたしってばあああ!!!
木の陰で静かにあたしが盛り上がっていると、この時代のあたしはひとりでうなずいて言った。
「よし。ジェスコ・シティーに行こうっと」
行くなあああ!!!
アトラス・シティーに向って、途中で盗賊団壊滅させて、女神像奪うことになってんのよあんたはぁぁ!!!
そうでなきゃ、ガウリイに会えないんだからぁぁぁ!!!
だからって、あたしが出て行って、
「かくかくしかじかだからアトラス・シティーに行きなさい」
なんて言うわけには行かない。なにせ三年前、三年後のあたしに会った記憶なんぞ、あたしにはないんだから。
人に指示されてアトラス・シティーに向ってたわけじゃない…って、なんであたしはアトラス・シティーに向ってたんだろ。えーと、あの時は…えーと…
悩んでいるあたしを尻目に、もう一人のあたしはのん気に道端で弁当食ってたりする。
そうだ、こういう手だったら…
あたしは呪文を唱えた。かけるのは弱めにアレンジした――
「スリーピング!!!」
「ふあああ、ご飯食べたらなんか眠くなっちゃった」
弁当を食べ終わったあたしは、そのまま草むらに横になった。
無防備と言えば無防備だが、今のスリーピングは弱くしてあるから怪しい気配があればすぐ目覚めるだろう。あたしは気配を殺してこっそり近づくと、スカスカ寝ているあたしにささやいた。
「アトラス・シティーへ行こう、アトラス・シティーへ行こう、アトラス・シティーへ行こう、アトラス・シティーへ行こう、アトラス・シティーへ行こう…」
人が通ったら、きっと変な目で見て行ったことだろう。人気のない街道で助かったわ、ほんと。

あたしは目覚めた。
「やだ、寝ちゃってた。誰も見てなかったでしょうね」
しっかり見てたぞ。
「さて、行きますか、アトラス・シティーへ」
歩き出し、ふと立ち止まる。
「あたし、いつアトラス・シティーに行くことにしたんだろ?」
しばし熟考。
「ま、いっか」
あたしは街道をまっすぐ歩き出した。

これで、この時代のあたしはガウリイに会えるだろう。
でもあたしは?ガウリイに会えるだろうか。
この時代のガウリイではなく、あたしと同じ時代のガウリイに。
どの時代の、どこにいるのかわからないガウリイに。
「ガウリイ…」
「呼んだか?」
林の中から現れたのは、当のガウリイだった。
一瞬、とまどうあたし。このガウリイは…
「探したぜ、リナ」
――あたしのガウリイだ!
あたしはガウリイの胸に飛び込んで行った。

「へえ、ここは三年前なのか。どうりでなんとなく見覚えがあると思った」
「へえ、三年前のことなんてガウリイ覚えているの。えらいえらい」
「あのなあ…」
林の中。あたしたちは切り株に腰かけて話をしていた。
「ところで、これからどうするんだ?」
「うーん、とりあえずこの時代のあたしたちには会えないわね。反対方向へ行きましょうか。
あの村に行って、今のコルチェじいさんに会うって手もあるわね」
「だって、えーと、三年前じゃオレたちのこと知らないんじゃないのか?あのじいさん」
「そりゃそうだけど…あたしを飛ばしてくれたお礼をしなきゃ気が済まないわ。ふっふっふ」
「やーめろって。そういえば、あのじいさん、いまごろ慌てているだろうな。なあ、向こうからオレたちを呼び戻すってことはできないのか?」
「時間を超える装置を作ったつもりはないんでしょうねコルチェさんは。あの時代にいて、なおかつあたしたちに目印でもついていれば探知できるかもしれないけど」
「元の時代には戻れないってことか?」
「そう…なるのかな?」
「まあ、それでもいいさ」
明るく笑うガウリイ。この状態でどうして笑えるかな。
「ここがどこでも、どの時代でもかまわないさ。
お前さんといっしょにいられるのなら」
あうあうあう…
「と、とにかくっ。まずは路銀集めよっ」
「はいはい、盗賊いじめね。この時代のリナの分は残しておいてやれよ」
あたしたちが立ち上がったその時。
あたしたちの脇、数歩のところに、緑色の光の柱が沸き上がった。
え?これって…
光の柱はすぐに消え、そこに立っていたのはコルチェじいさんだった。
「お…うまくいったようじゃな。おお、二人一緒とはちょうどいい。
まあ、ほぼ同時に消えたから現れるのも同じような場所と時間だろうと踏んではいたが。計算通りじゃ」
「コルチェさん…ええと、コルチェさんですよね、三年後の」
自分でも変なこと言ってるな、と思いつつ、あたしは尋ねた。
「話は後じゃ。すぐに研究所の装置が、わしの持ってる宝珠の位置を探知して働き出す。そうセットしてきたからな。わしのそばに寄れ」
コルチェさんはあたしとガウリイの手をつかんだ。
「帰るぞ、元の時間軸へ」
あたしたちは再び、緑色の光に包まれた。

そこはコルチェさんの研究所の、テーブルの上だった。
「成功じゃ、よしよし」
…失敗する可能性もあったわけか。そういえば例の装置、煙ふいてるし。
「だいぶ負荷がかかったからな。もう動かんかもしれんな。
それにどこの時代に飛ぶかわからんし。もう一度考え直したほうがいいかな」
「あのぉ〜、どうしてあたしたちのいるとこがわかったんです?」
装置を前に、研究に没頭してしまったコルチェさんにあたしは尋ねた。
「ん?ああ、昔、時間軸を移動する研究をしていた時期があってな。それは結局失敗したのだが、装置は残っていたわけじゃ。
普通にお前さんを探知したのだが見つからなくてな。もしや、と思って時間を追って探知して、やっとつかまえた、というわけじゃよ。いやあ、苦労した苦労した。実はあれから四日もたっておる。お前さんたちはほんのわずか向こうにいただけじゃが」
恩着せがましく言わないでほしいものである。もとはといえばあんたの装置のせいなんだから。
「いやあ、苦労かけさせちまって、すまなかったな」
と、ガウリイ。素直な奴…
「こっちから操作して呼び戻す手もあったが、もし近くに人がいたりすると巻き込む心配がある。しかたないからわしが出向いたわけじゃ」
帰るのに失敗して、三人一緒に別の時間に飛ばされてたりしたら、笑い話じゃ済まなかったわな。
「しかし、どうやってあたしたちを探査したんです?」
コルチェさんがやったみたいに、宝珠かなにかの魔法波動を装置に覚え込ませれば、探査は可能だろう。しかしあたしたちに目印がついてるはずもないし。
「ちゃんと目印はあるじゃろ」
コルチェさんは笑って、あたしを指さした。
「お前さんのふところにある、わしのマジックアイテムじゃよ」


おしまい


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2252『負の牢獄』山塚ユリ 9/26-01:27
記事番号2236へのコメント

めずらしくしりあすもーど。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「きゃああああっっ」
「助けてえーーー」
「いやあああ!誰かああ」
女たちの悲鳴に、畑仕事をしていた男たちは顔を上げた。
「なんだ今のは」
「どこだ!」
「あそこだ」
一人が空を指さした。見上げた空には、翼のあるレッサーデーモンが十数匹舞っていた。それぞれの足に、泣き叫ぶ女性らしき人影をかかえて。

「川で洗濯をしていたんだ、あいつらは」
村の寄合所に集まった人々。リーダー格の男が、こぶしを握り締めてうめいた。
「そこへあいつらが襲って来たらしい。洗濯場に羽根が散らばっていた」
「で?さらわれたのは何人なの?」
リナが聞いた。村人が大騒ぎしていた時、ちょうどこの村を通りかかった仲良し四人組に、村人は女性たちの救出を依頼したのである。
「十一人だ」
「犯人の目星とか、ついているんですか?」
問うアメリアに、村人の一人が言った。
「最近、森の向こうに住み着いた魔道士だ。レッサーデーモンがあいつのアジトに入って行くのを見たからな」
「それで?」
そう言ったゼルの声は冷たかった。
「犯人も、さらわれて行った場所も分かっていて、お前たちは何をしている?」
「おれたちにやつらが退治できるもんか」
村人の一人が叫んだ。
「相手は魔道士だ。レッサーデーモンまでいる」
「じゃあ、たまたま俺達が通りかからなかったら、黙って女たちを見殺しにしたわけか」
「やめなさいよ、ゼル」
「さらわれた女の中には、俺の娘もいるんだ!!」
リーダーが叫んだ。
「オレの女房もだ」
別の一人がうめくように言葉を吐いた。
「この手で助けられるならお前たちの力など借りん!だがな、俺達はただの村人だ。奴のアジトにたどりつくことすらできない。わかるか?この気持ちが」
「たどりつけないって、どういうことです?」
アメリアの言葉に、男は自嘲的な笑みを浮かべた。
「行ってみればわかるさ」

「これは確かに…」
「魔道士じゃなきゃたどりつけんわな」
アジトは、豪勢な屋敷だった。そして…それは空に浮いていた。
「あの高さだ。弓も、投石器も届かない。おれたちはここで歯がみしているしかないんだ」
「魔道士であるお前たちに依頼するしかない。頼む、われらの娘を、妻を助け出してくれ」
リーダーの言葉に、リナはうなずいた。
「まかせて」
「待ってくれ、オレも連れてってくれ」
村人の一人が言った。
「オレの妻は…身ごもってるんだ。オレはこの手で、あいつと、子供を助けたい」
「わしも連れて行ってくれ。娘がさらわれているんだ」
「僕もお願いします。恋人があそこにいるんです」
ゼルはにべもなく言った。
「足手まといだ」
「あ…大丈夫ですっ、あたしたち四人だけで。絶対女の人たちを助け出してきますから」
懸命にフォローするアメリア。
「そうそう、どーんとまかせといて」
リナも後を続ける。
「さあ、行くわよ」

四人は屋敷の玄関に着いた。
「正面から行くのか?」
ガウリイの問にリナが答える。
「さらわれた人たちがどこにいるかわからないしね。遠回りしてるうちに殺されちゃったらなんにもならないし。正面突破すれば」
「案内人が向こうから来るってわけだな。あんなふうに」
ゼルが屋敷の奥を指差す。レッサーデーモンの群が、来訪者を迎えに現われたところであった。

「ラ・ティルト!!」
アメリアの術がレッサーデーモンを灰にする。が、奥からはまた新たな敵があふれ出して来る。
「エルメキア・ランス!」
リナの攻撃であっさりやられるデーモン。たいした相手ではないがなにせ数が多すぎる。
「これじゃキリがないわよっ」
「リナ!アメリア!先に行け」
ガウリイが剣をふるいながら言った。
「そうだな。俺達はここで遊んでいるから、女たちを助け出すのはまかせた」
と、ゼル
「あーもう。勝手言ってくれちゃって。行くわよ、アメリア!」
リナとアメリアは敵を振り切り、屋敷の奥へと走って行った。

迷路のような廊下を、リナとアメリアは進んでいた。
「敵、襲ってきませんね」
アメリアが警戒しながらつぶやいた。
「それに、この屋敷おかしいわ。いくつか部屋があるのが普通なのに、廊下と壁ばっかでドアもなんにもありゃしない」
「隠し扉でもあるんでしょうか…さらわれた人たち、どこにいるんでしょう。まさか…」
「うーん、敵の目的がいまいちわからないのよね…」
言いつつ、歩を進めるリナ。と、一瞬、感じる違和感。
「何、今の」
とまどうリナ。
「なんか…結界に侵入した感じに似てましたね…あ、あそこにドアが」
角を曲がった壁に両開きのドアがあった。
「行くわよ、アメリア」
「はいっ」
だむっ!とドアが開かれる。
中は、小さい家なら一軒すっぽり入ってしまいそうな部屋だった。そしてその部屋の隅に、寄り集まる女性たちがいた。
「助けに来たわよ!」
あたりを警戒しながら部屋に入るリナ。周囲に怪しい気配はない。
「これで全員ですね」
ちゃんと十一人いることを確認して近づいたアメリアが顔をしかめた。
「ひどい…」
女性たちは全員傷だらけだった。なにか小さい刃物に切り裂かれたように服がぼろぼろになっていて、血がにじんでいる。リナとアメリアはかたっぱしから回復魔法をかけた。
「男が、魔道士だって名乗って、あたしたちを攻撃して…
今に殺される、今に殺されるって、ずっと怖くて…」
怯えた女の一人が、切れ切れに言葉を吐く。
「そいつはどこへ行ったの?」
リナが聞く。
「進入者を見てくるってどこかへ行ってしまって…」
「どんな奴だったの?」
「そんなの、後でいいですから、一刻も早く逃げないと。その魔道士ってのが戻ってきたら大変です」
全員に術をかけ終わったアメリアが言った。
「それもそうね、みんな、歩ける?」
リナはそっと部屋の外をうかがった。怪しい気配はない。
「行くわよ」
部屋を出る十三人。とりあえず今来た廊下を、女性たちを先導して進むリナ。列のしんがりはアメリアである。
長い廊下をしばらく進む。と、
「あ…あうう」
女性の一人がうめき声をあげると、大きなおなかを抱えて座り込んでしまった。
「リナさん、この人妊婦ですう」
「まさか、こんなところで産気づいちゃったの!?
えーと、どうしよ、どうしよ、とにかく、なんとか外まで運ばないと」
リナがその女性にレビテーションをかける。
「みんな、急いで」
と、また妙な違和感が十三人を包み込んだ。

「ここは…」
リナたちはまたさっきの部屋にいた。そして、さっきはいなかった者がそこにいた。
「逃げられちゃ困りますからね。ちょっと空間を歪めさせてもらいましたよ」
魔道士のローブを着た、細面の、一見わりとハンサムな中年の男。
「なるほどね。今の違和感は、空間を越えた時のものってことか…」
リナは女たちをかばう形で前に出た。女たちが怯えきっているのは見なくてもわかる。そして、そのうちの一人は産気づいている。このまま逃げるのは不可能な状況だった。
「この人たちをさらったのはあんたね。目的はなにか、なんてことは聞かないわ」
リナはきっぱり言った。
「魔族になに聞いても無駄でしょうからね!!」
「わはははは。よく見破ったな」
「空間を歪めるなんて悪趣味なこと、魔族以外の誰がやるっていうのよ」
魔道士、いや、魔族はローブをはねのけた。現われた体は、ぶよぶよとふくれた紫のもろこしに手足が付いたもの、と言ったところか。顔だけが人間なのが不気味である。
「ひいいいっ!!」
女たちが怯えて悲鳴を上げる。
「そうだ、その声だ。その声が聞きたいのだよ」
魔族が狂喜の声をあげ、そして部屋が変化した。
見たことのない装置が壁や天井からせり出してくる。天井の装置から、いきなり細かい刃物のような物が女性たち目がけて無数に降りそそいだ。が、それは見えない壁にはじかれた。すでにリナが風の結界を、アメリアが防護結界を張っていたのである。
「あ…あれが…あたしたちを…」
彼女たちの傷はこれによってつけられたものか。おそらく魔族の狙いは彼女たちの苦痛、恐怖、といった負の感情であろう。
「結界内にいれば大丈夫です。それより誰か赤ちゃんを」
アメリアの声に一人が答えた。
「母が…産婆だったので…私、なんとか」
「お願い」
アメリアがそう言った瞬間、なにかが光った。
ジュババッッ!
結界の一部が音を立ててはじける。アメリアは慌てて結界を強化した。今度は壁から鋭い光が放たれたのだ。
「魔法攻撃も同時ってわけか。こういう攻撃で彼女たちを傷つけてくれたわけね」
リナは内心歯噛みした。こういう仕掛けがあるとわかっていれば、先にこの部屋をずたずたにしておいたのに。
無数の細かい刃同士がぶつかり合って耳障りな音を立てる。魔法の光が命中する寸前で蹴散らされ、目に残像を焼き付けて消える。
「大丈夫ですよね、大丈夫ですよね」
怯えた女が震えながら尋ねる。
「大丈夫!結界張ってんの、誰だと思ってんの!」
「でもこの結界が破られたら…」
別の女が涙声でつぶやく。
「あああああーっ」
臨月の女の苦鳴が、ささくれた神経を逆なでする。
「リナさん、気がついてますか?」
アメリアがこっそりささやいた。リナがうなずく。
結界にかかる重圧が増しているのだ。降り注ぐ鋭い刃、魔法光とは別のなにかが結界をむしばもうとしている。
「気がついたかね。この部屋の装置は負の感情を増幅しているのだよ。
その女たちの不安、怯えは増幅され、負の力となって女たち自身を攻撃しているのだ。
わはははは。絶望の、恐怖の、諦めの、なんと甘美なことよ。わはははは」
結界の中で震えている女たち。苦痛に喘ぎ、死の恐怖に怯え、焦り、混乱し、泣き叫んでいる。増幅された負の感情は部屋に満ち溢れていた。それは魔族と彼の装置に新たなエネルギーを与え続けている。
「あんたたちには指一本触れさしたりしないから!だから泣かないで」
とは言え、平和に暮らしてきた村人がいきなり魔族の攻撃にさらされているのだ。怯えるな、という方が無理であろう。
「せっかく逃げられると思ったのに。なんであたしたちがこんな目にあわなけりゃいけないのよぉ」
ヒステリー状態で泣きわめく女。それを楽しそうに見つめる魔族。
(なんてインケンな魔族なの)
風の結界を強化しつつ、リナは舌打ちした。そう、一度この部屋からの脱出を許し、またこの部屋に連れてきたのも、逃げられる、という淡い期待を抱かせてそれを打ち砕くためだったのだ。
「もう駄目よ。みんなここで殺されるんだわ」
「大丈夫ですっ!」
さすがのアメリアも語気が荒くなる。結界をむしばんでいるのは彼女たちなのだから。しかしそれを言っても仕方が無い。今や二人は、結界を持ちこたえるだけで精一杯だった。
「この攻撃に耐えられるとは、たいしたものだな」
魔族が言った。
「その魔力に免じて、あとから来た魔道士二人は逃がしてやってもいいぞ。
これだけいれば負の感情は充分だしな」
「おことわりしますっ!」
アメリアが叫んだ。アメリアが女たちを見捨てて逃げるわけが無い。だが女たちはアメリアの性格まで知るよしもない。
かくして、部屋を満たす負の感情に、不信という感情が加わった。

八方ふさがり。だが、リナには勝算があった。
「もうじき、あたしたちの連れが来るわ。それまでの辛抱よ」
リナは女たちに言った。それを聞いた魔族が嘲笑う。
「あの男たちか。どうせわたしの作った迷路で迷っているだろう。ここには来られまい」
つくづく人の希望を打ち砕くのが好きな奴ね。リナは心の中で毒ついた。

恐怖、苦痛、悲しみ、不安。感情は増幅され、重圧となって結界を押しつぶしていく。
そんな時だった。
「うぎゃあああ、おぎゃあああ」
産声が響き渡ったのは。
誰もが一瞬、恐怖を忘れた。
「産まれたの!?」
アメリアの声に、
「男の子です」
にわか産婆の女性が答えた。笑顔で。

空気が変わった。

喜び、安堵、満足感、母性愛、そして赤ん坊の生の讃歌。それは増幅され、負の感情を駆逐した。
魔法装置からの攻撃が止む。
リナが待っていたのはこの瞬間だった。リナは風の結界を解除すると、別の呪文を唱えつつ、防御結界を飛び出した。
「な、なにが起きたんだ」
現状を把握できず、慌てふためく魔族。
(魔族のあんたなんかには、一生理解できないわよ!)
リナの手に生れた黒い刃が、驚愕する魔族を両断した。

迷路を力技で押し通り、ゼルとガウリイが部屋に駆け込んだのは、ひっくり返したリナのショルダーガードで赤ん坊に産湯をつかわせている時だった。
「ちょっと月足らずだけど、元気な子ですね」
「あたり前よ、あたしのショルダーガード産湯に使ってんのよ。強い子になるに決まってんじゃない」
「なんかよくわからんが、終わったみたいだな」
ガウリイがリナの頭をぽんぽんと叩いた。
「どうでもいいが、この屋敷だいぶもろくなってるぞ。早く脱出したほうがいい」
ゼルが、ボロボロの衣服をまとっただけの女性たちから目をそらしつつ言った。

崩れ行く屋敷から、四人組と十一人の村の女性、そして天使が一人、男たちの待つ村へと舞い下りていった。


END
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最初は「生の讃歌」て題名だったが、妹に「それじゃ結末バレバレ」と言われて改題。