◆−『kiss the Girl』1−おーはし(9/25-20:11)No.2243
 ┣『kiss the Girl』2−おーはし(9/25-20:13)No.2244
 ┗『kiss the Girl』3−おーはし(9/25-20:14)No.2245
  ┣キスの効果−わかば(9/25-21:19)No.2246
  ┃┗お久しぶりです&ありがとうございます−おーはし(9/27-22:12)No.2258
  ┣いいなぁ・・・うっとり−さいとうぐみ(9/27-16:15)No.2255
  ┃┗『初チュー』…(笑)−おーはし(9/29-22:19)No.2262
  ┗Re:『kiss the Girl』3−うさびん(9/27-23:13)No.2259
   ┗Re:『kiss the Girl』3−おーはし(9/29-22:20)No.2263


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2243『kiss the Girl』1おーはし 9/25-20:11


何か、本当に久しぶりにお話出す気がしますです。(緊張)
またまたゼルガディスとアメリアのお話です。
元気で強気な姫、それを目指して書いたお騒ぎ話なのですが、
実は、書き始めてから『しまっ・たー!!(汗)』と、思った事があるのです。
けれど『ここで止めたら勿体無い』と貧乏人根性丸出しで、何とかかんとか最後まで書き上げました。
できれば、気付かれることなく最後まで読んで頂けたら嬉しいのですけど……(大汗)
と・とりあえず、上に書いたことは忘れて頂いて、(すりすり)
どうぞ、読んでやってください。です。

==========================================

ぺらぺらぺら、ぱたん
「ぐー」
ぺらぺらぺら、ぱたん
「くかー」
ぺらぺらぺら、ぱたん
「んごー」
「りっなさーん」
「あ、アメリア、ゼル。何か収穫あった?」
閉じた本をまた一冊、横の山に積み上げながら、リナはアメリアの呼びかけに答えた。

ここは比較的大きな国にある国立図書館の中。
いつものごとく、自分の身体を戻す方法を求めて資料あさりにやってきたゼルガディスに、
アメリアはもちろんのことだが、今回は珍しくリナとガウリイも着いてきたのだ。

なんでか?

理由は簡単。単に、暇だったのだ。
「さっぱりだな。で…旦那はずっとこれか?」
本をめくるリナの横で場所をわきまえない大いびき。ガウリイのこの状態からしてそれを語っている。
まあいつもと同じだ、とも言えるのだが。
「そ。早かったわよー座った途端に熟睡。」
「一種の芸だな、ここまでくると。」
で、一方、リナの方は、
「で、リナさんはこんなに本積み上げて、何調べてるんですか?」
「んー。ちょっと気になることがあってねー。」
リナの座っている机の上には、何やら本が山積みになっている。
アメリアはその一冊を手に取るとぱらぱらとめくってみた。
「どれどれ?あ、これ知ってる!昔父さんが読んでくれたんです。
 波乱万丈の冒険もので、竜に変えられた亡国の王子様が元の姿に戻るため、
 いろんな国へ旅をするんですよね。
 最後は悪い魔法使いに捕まってたお姫様のキスで、元に戻ってめでたしめでたしって…
 なつかしーな。すんごく好きだったんです!」
どうやらこれは子供向けの英雄譚らしい。
嬉しそうに言うと、続けてその下の本に手を伸ばす。
「んー?これは、ディルス王国の伝説かぁ。魔族に魔物に変えられた王様がお姫様のキスで
 もとの姿を取り戻すって終わり方でしたよね」
これは伝承らしい。
さてその次は、
「そんでこれは、魔女にカエルにされた少年がお姫様を助けて
 お礼にそのキスで人間に戻してもらうって話」
これは童話。
その次、
「………これは近頃女の子に人気の作家さんの恋愛もの
 悪の魔道士の呪いで人の心を無くした青年がお姫様のキスで(以下略)」
これはコバ○ト文………じゃなくて、最近人気の恋愛もの。
ぱらぱら
ぱたん
ぱらぱら
ぱたん
つぎつぎに本を取っては斜め読みしたあと、
「………うに?」
首をかしげるアメリア。
『これって?』
問いかけるような視線の先には、やはり訝しげな表情を浮かべるゼルガディスの顔があった。
顔を見合わせた二人は、互いの疑問を口にする。
こそっ
「なんか……ずいぶん偏ってますね、内容。」
ぼそ
「…何だこのラインナップは?一体どういう趣味で本を選んでるんだ?」
二人が怪訝に思うのも仕方ない。
リナが山積みにしている本は、みーんな同じ傾向で、同じ記述があるのだ。
すなわち

―主人公がお姫様に出会いらぶらぶな関係になった後、キスをして云々―という記述。

『…これって…』
も一度見合わせる顔と顔。そして、
くる
再びリナの方に向き直った二人の考えは、ほぼ同じものだった。
「…リナさん…」
「リナ……お前…」
「なによ?」

『そこまで飢えてたのか?(んですか?)』

どがったん
「ちっがあああああああああああうっ!!」
気の毒そうな視線を向けて同時に言った二人に、
リナはここが図書館だということも忘れて大声をあげた。
「はへっ?!なんだっ?どしたっ?」
それにかき消され殆ど聞こえてないが、これは寝ていた筈のガウリイの台詞。
横で突然発生した大音量に、すわ災害か!と思わず飛び起きたらしい。
「このどたわけがっ!!あたしわっ!!んな……んぶ…………むぐむぐもご」
真っ赤になって叫ぶりナの剣幕に、思わず飛びのいたゼルガディスとアメリア。
が、この場所でこの大声は大変まずい、と瞬時に思い至ったのか、
すかさずリナの口を塞ぎにかかる。
「解った!解ったから、大声をだすな」
「そうです!そんな大声だしたら追い出されちゃいますよリナさん」
そして、羽交い締めにされても、なお暴れるリナにぼそぼそと小声で警告。
「〜〜!……」
ぴた
『追い出される』の一言が効いたらしい。
思いっきり不満そうな顔ではあるが、
なんとか気を取り直したリナは、叫んだ勢いで蹴り飛ばした椅子に渋々座りなおした。
「はー、ったく失礼しちゃうわもう!人のこと欲求不満の色キチ○イみたいに」
「だってぇ、普通そう思いますよ」
「右に同じ」
「違うっつーてるでしょうが!あたしはゼルの身体を元に戻す方法について、
 ある可能性に気付いたからっ、それを確かめてただけよっ!」
『可能性?』
見事なユニゾンで答えた二人に、リナはしごく真面目な顔で話し始めた。
「そう、可能性。アメリアあんたさっき見た本の内容大体知ってるわね。」
「はい。」
「も一度言ってみて、最後の共通した部分だけ。」
「はぁ…。えーっと、最初が竜にされた王子様がお姫様のキスで元に戻る。
 次が魔物に変えられた王様がお姫様のキスで元に戻る。
 その次がカエルに変えられた少年がお姫様のキスで元に戻る。
 最後が人の心を無くした青年がお姫様のキスで…………………あのぉ、もしかして…」
「………。」
「そう、何かをもとの姿に戻す時、必ず出てくるのが」
「お姫様のキスですかぁ?」
こっくり
満足げに頷くリナに、呆れたような顔でゼルガディスが言った。
「馬鹿馬鹿しい!んなこたぁ御伽噺のお約束だろう?!話にならん!大体な」
ずい
「あんた前に言わなかった?御伽噺や昔話には時に真実が含まれているもんだって。」
じり
「う…。だがな所詮、御伽噺は作り物で」
ずずいっ
「御伽噺だけじゃない、伝承にだって多いわ。伝承は…真実度が高いわよねぇ。」
じりじり
「っ〜〜〜〜〜だが!」
びっ!
「試しもしないで否定してたんじゃ、見つかるもんも見つかんないわよ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜。」
畳みかけるように自説を展開するリナに徐々に押されてるゼルガディス。
傍目にも、かなり強引で頭傾げる論証なのだが、
リナにかかるとみょーに納得させられてしまうのは、やはり持って生まれた才能故だろうか?

もちろんペテンの。

「なー、でもお姫様のキスなんて、どうやって試すんだ?
 どっか適当な国の城に殴りこんで脅迫でもするのか?
 『国ごと城を竜斬破で消し飛ばされたくなかったら、この男にキスをしろ!』とか言って」

ごきべちゃ

考え深げな顔でガウリイが言った言葉に、
リナとゼルガディスは頭を机に強打しながらコケ倒れた。
「っあほかっ!んなことするわけないでしょ、この脳味噌スライム!」
耳元で怒鳴ると拳でこめかみをぐりぐりと圧迫する。
「いていていて」
「まぁ…リナらしいやり方だとは思うがな」
「あんたもやられたい?」
「……遠慮する」
「…でも、じゃ、どうするんです?お姫様なんてそこらに転がってるってもんじゃないし…」
リナにお仕置きされているガウリイの方を怯えた目で見ながら、おずおずとアメリアが言う。

がたごとぐしゃ

その言葉に、今度こそ頭が割れるんじゃないかという勢いでコケ倒れるリナとゼルガディス。
「あ、あんたねぇ…」
「お前っ!自分を何だとおもっとんだ!」
「うにゃ?」
「……あんたの家は?名前は?言ってんさいっ!」
「は?家ですか?セイルーンの王宮で、名前は……あ!!そーでした!」
「…本気で言ってるところが恐ろしい」
「…そーね」

そう、彼女の家は『セイルーン王城』。
名前はアメリア=ウィル=テスラ=『セイルーン』。
名にし負う大国の、れっきとした、真実、本当の、『お姫様』なのだ。
正義の名のもと拳を振るう、いつもの破天荒な姿のせいで、
一見、まったく、そうは見えないけど。

「おお、そーだった!忘れてたけどお姫様だったんだよなぁ、アメリアって」
「こいつも本気で言ってるようだな」
「解っちゃいるけど……いい加減悲しくなってきたわ、あたし」
「あはははは、そっかぁ、じゃ別に探さなくてもいいんだぁ…って」
心配が消えて晴れやかに笑うアメリアだが、
はた
不意に『それ』に気付き笑顔が固まる。
視線の先には赤い顔したゼルガディスの姿。
目が合うと無言でそっぽを向いてしまったが『それ』はそんなことじゃあ消えはしない。
リナの指摘する通り、御伽噺や童話等々で定番のこの方法に、必須なのはお姫様。
お姫様はいたのだし、すぐにでも試すことは出来るだろう。
口と口をくっつけるだけという(それだけじゃダメ(笑)という向きもあるでしょうが一応)
『それ』は至極簡単な行為だから。
ただ
「あの、その、えっと、その」
「………」
そう、試すには『それ』をしなきゃならないのだ。
ゼルガディスと。
みるみるうちに茹でダコになったアメリアに、リナがそっと耳打ちする。
「まぁ訊かなくても解ってるけど、あんた達…………まだでしょ?」
「はひっ?!あのあのあの…まままままだって?!?!」
アメリアの血圧、脈拍、更に上昇。頭からは沸騰したヤカンのように湯気が出始めている。
どん!
「ええぃ!往生際の悪い!証拠は上がってんのよっ白状しなさい!」
びくう
「ひぃぃぃぃぃ!!はっはいっ!まだですぅぅ!!お奉行(?)様っ!」
まるで犯罪者への尋問の様な口調で問い詰めるリナに、アメリアは思わず真実を口にしてしまった。
それを聞き、我が意を得たりとばかりにゼルガディスに向き直るリナ。
「ふふん、ってことは、試す価値はありってことね?ね。ゼル?」
「………」
返事は無し。
でもそっぽを向いた顔は耳まで真っ赤になっていて、聞いてるのはちゃーんと解る。
材料はそろった。後は試すだけ。
にっこり笑顔のリナは、元気に宣言した。
「よし!んじゃ決まりね、さあ!一発やってみよう!」
「またんかいこら!何だその一発ってのはっ!」
「解ってるくせにぃ。嫌だよ旦那、テレちゃって(笑)」
つん
「誰が旦那じゃ!!」
「別に嫌ってんじゃないんでしょ?ん?」
「そ・それわ……」ごにょごにょ
痛いところを突かれ口篭もってしまうゼルガディス。
ここで嘘でも『嫌だ』と言えないとこが、リナに便利なアイテムにされている所以である。
「なぁらいーじゃん♪」
「ちょ、ちょっと待てといっとるだろが!
 お前はそうやって俺にばっか言ってるが!アメリアの意思を無視してないか?!
 いきなりんなこと言われて、アメリアだって困るだろう!」
「ふーん?そう?」
苦し紛れのゼルガディスの言葉に従い、リナはもう片方へと矛先を変えた。
くる
「んふ♪あーめーりーあっ?」
「いっ?!」
「あんただって………ヤじゃないわよねー?」
「は、はひっ?!そ、その、えっと……」ぐにぐにぐに
指の先をつつき合わせながら、やはり口篭もるアメリア。
が、
「……………………ヤじゃないです……」
小さな声でぽしょぽしょと答える。
「〜〜〜〜〜〜〜〜。」
喜びと羞恥と困惑と欲望(笑)ぜーんぶ放りこんで混ぜたらこんなんでは、という顔のゼルガディス。
可哀相(かな?)に、彼の逃げ道はもう残されていないようだ。
陥落は目前!リナは勝利を確信した!

……………にしても…、
ゼルガディスを元に戻す。これはそれを目的としていた筈だった、のだが…。
リナは多分、もうそのことを忘れているだろう、きっと。完全に手段が目的化している。

つんつん
「なぁ」
「なによガウリイ、今取り込み中なんだからじゃましないの」
くいくい
「なぁってば」
「んもう、黙っててくんない大詰めなんだから」
とんとん
「るっさいっていってんでしょ!」
「…こほん」
振りかえりざま叫んだリナの背後から聞こえる、ガウリイのものではない控えめな咳払い。
「あにゃ?」
我に返り周囲を見まわした、ガウリイを除くリナ達3人の目に入ったのは、
4人のことを遠巻きにして、興味深げに騒ぎの行方を見ている一般の入館者の群。
それと、
怒りに顔を引きつらせている館員の顔だった。
「…図書館の中では静粛に、それを守れない方は退出願います」
「えっとぉ、その」
へどもどと言い訳しようとするリナに断固とした声で館員は告げた。
「退出願います」


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2244『kiss the Girl』2おーはし 9/25-20:13
記事番号2243へのコメント

「なぁによあのいぢわる館員!すこーし大きな声で話してただけじゃないっ
取っ組み合いの喧嘩してたってんじゃないんだから、別に追ん出さなくったっていいじゃないのよ!」
「…すこーしかぁ?あれ」
職務に忠実な館員により、丁重に図書館から追い出されたリナ達は、
他に行く所も無く、お腹も空いてきたし、ということで、
結局、今日はもう宿に帰ろうということに全員一致で決定した。
『お姫様〜』の実証の方は、どさくさ紛れ、棚上げ状態になっている。
結果的に窮地を館員に助けられた形になるゼルガディスは、こっそり彼に感謝を奉げていた。
がしかし、運命と言う名の神様は、そう簡単には彼を見逃してはくれなかったようだ。
ぴた
宿への道の途中、考え込むように黙っていたアメリアが突然立ち止まった。
「ゼルガディスさん」
「う。……な、何だ、アメリア」
嫌な予感を感じながらも、振りかえるゼルガディス。
「さっきの事ですが」
……やっぱり……忘れてくれてたら良かったのに…
口には出さず、心の中でそう思う。
出せばどうなるか、絶対もっとややこしいことになるに決まってる。
そんなゼルガディスの心中など、推し量れよう筈も無いアメリアは、真剣そのものといった表情で口を開いた。
「道々考えてみたんですけど…」
いかん…リナの口車に乗せられてるんじゃないか、こいつ…
「少しでも可能性のあることなら、試してみたほうが良いと思うんです、私!」
……乗せられてるな…
揶揄い半分のリナと違って、アメリアは本気でゼルガディスのことを思って言っている。
それは解るんだが……
「……だからなアメリア、もう一度よーく考え」
「偉いっ!!アメリアよく言ったわ!!」
もう一度冷静に諭そうとするゼルガディスの台詞に、すかさずリナの声が割って入った。
「リナ!お前は黙っ」
「大事な仲間の為に我が身を奉げる…美しいじゃない!これぞ正義!これぞ友情!」
「うそつけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
恐ろしくいかがわしい台詞だが、正義・友情、これはアメリアには最高の煽り文句だ。
「!そっか!そうですよねっ!リナさんっ!!」
ほら、もう完全にその気になっている。
「ゼルガディスさんっ!私、愛と正義と友情の名のもと、全力で協力しますっ!さあいざっ!」
「『いざっ!』じゃないわぁぁぁ!!」
アメリアは使命感に燃えるあまり、ここが天下の往来であるということも忘れているらしい。そこに、
すぱっ
「のわ?!」
事態に動揺し、油断した隙を狙ってのリナの足払いが見事に決まる!
堪らず転倒するゼルガディス!
「よし!今だ!アメリア行けっ!」
「はいっ!!」
そこにアメリアが飛びかかる!!
「まてこらぁああああ!!!」
ゼルガディス絶体絶命!!!って……ああ、もう、何が何だか…(笑)
ちなみにガウリイは展開の早さと異常さについていけず呆然と立ち尽くしている。

と、そこへ
てとてとてと
くんずほぐれつの大騒ぎなど気にもかけず、
何だか高そうな服に身を包んだ小さな女の子が、争う三人の横を通り過ぎようとした。
のだが、

どて。

何も無いとこでいきなりこけた。
「…………」
『…………』
倒れたまま凍りついたように動かない女の子。
…これはもしかして……
争うのも忘れ、息を呑み見守る4人の前で、
「……………………みぎゃああああああああ!!!!」
やっぱり。
耳が壊れるかという程の高周波で泣き始めた。
「ひぃぃぃぃぃ誰かこの超音波を止めてぇぇぇぇぇ」
「すんごい声ですぅぅぅぅぅぅ」
泣き声に目をまわした二人が耳を押さえて仰け反った隙に、
抑え込みから抜け出たゼルガディスは、助かったとばかりに女の子を抱き起こす。
「おい、大丈夫か。ああ、ほら擦りむいたとこ見せてみろ」
「ひっく……ここ」
「『治癒』。そら、もう痛くないだろう」
「ん」
頷いた女の子は、にぱっと笑うとゼルガディスにしがみついた。
「ありゃ、ゼル好かれたな」
「はっ!何てこと!」
ガウリイの台詞で我に返ったアメリアが、ジト目で女の子を見ている。
相手は御歳4・5才といった所のほんの子供なのだが、女の嫉妬に年齢は無い。
「うー。これって迷子かしら?」
まだ調子が悪いらしい、ぐりぐりと指を耳に突っ込みながらリナが言った。
「こんな子供が一人でうろうろしてるんだからそうだろう」
ゼルガディスはしがみついた女の子をそのまま抱き上げると、ぐるりとまわりを見まわした。
お昼時とあって道を行く人は殆ど無い。
その中にそれらしい人間も見当たらない。
「みんな昼飯だろうしなぁ。あーはらへった」
暢気な調子でガウリイが言ったその時、傍の曲がり角から数人の男の声が聞こえてきた。
「姫様ぁぁぁ!!どこにおいでですかぁ!!」
「姫様ぁぁぁお返事をぉぉぉ!!!」
「ああ!!こんなことが殿様に知れたら………姫様ぁぁぁぁ!!」

姫?

全員の視線が腕の中の女の子に注がれる。
「ね、ねぇ。お嬢ちゃん……お家、どこかなぁ?」
「んー?あそこ!!」
リナの問いに女の子は、元気に高台にある建物を指差した。
そこに聳え立つのはこの国を治める王の住む、おっきなお城。
ばっ!
「お探しの方ぁぁぁぁぁ!だぁいじなお姫様はこちらにおいでですよぉぉぉ!!」
「……今あいつが何考えているか、手に取るように解るな」
「ん」
「そうですね」
溜め息をつく3人の視線を集め、満面の笑顔で叫ぶリナの背中には、
燦然と輝く『礼金』の二文字があった。

リナの声を聞きつけ走り寄ってきたのは、予想通りお城の侍従と御付きの騎士数名。
「姫様っ!ご無事でいらっしゃいましたか!」
「あぁ助かりました。どなたかは存じませんが、ありがとうございます」
深々と頭を下げる侍従に向かってリナは笑顔で答えた。
「いーぃえーぇぇぇ、私達は偶然通りかかっただけですからぁ。
お礼なんか!ぜぇんぜぇん!まぁったく!入りませんからっ!!」
「……………これを、少ないですが」
「んまぁああああそぉんなぁぁ!催促したみたいで悪いですぅぅ!
え?そうですかぁ…そんじゃ、頂いちゃおうかなぁ。うふ」
この侍従は中々に優秀な人物らしい、相手がどんな人間か瞬時に見ぬき的確な対応をしている。
「あの侍従さん、出来ますね」
「ああ、リナの人間性を一瞬で見ぬいている」
「うんうん」
「あんたたち、聞こえてるわよ」
貰った金袋をそそくさとしまいながら、リナはこそこそと話している3人にじろりと睨みを効かせた。
「さ、姫様こちらへ。お城に帰りましょう」
これ以上この連中(主にリナ)に大事な姫君を預けているのは不安だと判断したのか、
ゼルガディスに抱かれている姫君に、侍従が手を伸ばして急かす。
「ん」
短く答えた小さな姫君は、くりっとゼルガディスの方に向くと
「ありがとーおにーちゃん」
ひとこと言って

ちゅ

助けてくれた魔剣士さんにかあいらしいキスをプレゼント。

「あああああっ!!」(byアメリア)

「ばいばーい♪」
侍従の腕に抱かれ手を振りながら城へと、帰っていった。

「うっひゃぁ…最近の子供ってマセてるなぁ」
「頬っぺたなら解るけど、口!……確かにマセてるわ。うん。」
「……が、これでお前の言った『可能性』はゼロになったな」
「は?」
にやりと笑って言うゼルガディスに、『?』という顔のリナ。
「今の子は形こそ小さいがれっきとしたお姫様だった。そのキスで俺は元に戻ったか?」
「うっ!!!そ、それは……」
「戻らなかった。ということはこの方法はダメだと証明されたわけだ」
さっきの劣勢から一転してのゼルガディスの逆襲。
「あ、そっかぁ」
証明されたからには、もうリナには何も言えない。
「…そうなんだけど…なんだけどぉ………なんか……くやしいぃぃぃぃぃぃっ!!!」
じたばたじたばた
ぽんと手を打ち納得顔のガウリイの横で、リナは地団太踏んで悔しがった。

してやったり。

偶然とはいえリナの企みを無に帰す事が出来たゼルガディスは、ほっと胸をなでおろした。
「やれやれ、これでこの騒ぎは終わりだな?アメリア……………………いっ?!!!」
「………」
機嫌良くアメリアの方へ向き直ったゼルガディスの目に入ったのは、
魔王もかくやという程の、世にも恐ろしい怒り顔。
「……あ・アメリア?」
「先に、帰ってます」

お・怒ってる?

恐る恐る声をかけたゼルガディスに向かって、怒気を漲らせた低い声で静かに告げると、
どすどすどす
アメリアは宿への道を、足音も荒く帰っていった。
後には、それを呆然と見送るゼルガディスと、
『こ・怖ぁぁぁぁ…』
見てはいけない物を見てしまい、抱き合って震えるリナとガウリイが残された。


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2245『kiss the Girl』3おーはし 9/25-20:14
記事番号2243へのコメント

とんとん
「アメリア」
しーん
どんどん
「アメリア?」
『留守です』
「誰もいない部屋が返事するか!入るぞ」
がちゃ
「………何だそのカッコは……」
「………」
部屋に入ってすぐ目に入ったのは、ベッドの上にころがる中華まん。中身はもちろんアメリア。
すっぽり布団をかぶり、戸口の方にお尻を向けて、どうやら拗ねているらしい。
無言で不満を訴える小さな子供のような行動に、“かなり溜め息、少し苦笑”のゼルガディスは、
すたすたとベッドに歩み寄ると、拗ね姫入り中華まんの隣に腰掛けた。
「ったく、あれくらいのことで拗ねるんじゃない」
がば!
「あれくらいじゃないです!!」
くるん
一声叫んでまた丸まる。
「あのな…相手は4・5才の子供だぞ、言うだけ馬鹿馬鹿しいと思」
べこ
「ぶっ!!」
今度は枕で顔面を殴られた。
「ゼルガディスさんには馬鹿馬鹿しいことかもしれないですけどっ!でも私には」
「目閉じろ」
「は?」
「そのでっかい目を瞑れって言ってんだ」
「????何ですか、いきなりもう!(ぶつぶつ)………これで良いで………!ん?!」
ぶつぶつと文句を言いながら、それでも言われた通り瞼を閉じたアメリアは、いきなり口を塞がれた。
………口で………
「むぐ?!ん?!!〜〜〜〜〜〜!!!!」
瞬き3つ程の間重なっていた唇は、触れた時と同じくふいに離れて行った。
「〜〜〜〜〜!!!」
目を見開いて真っ直ぐ前を見つめたまま硬直しているアメリア。
ちょびっと赤面気味のゼルガディスは、その視線を避けるように明後日の方を向くと、ぼそっと言った。
「…戻らないか。やっぱりこの方法はダメだな」
「????」
完璧な不意打ちに口も訊けず、真っ赤な顔でじたばたしながらも、
アメリアは自分の意思を伝えるべく必死の行動を起こした。
ぶんぶん、びっ!ぐるぐる、ぱ、びし!!
「せ・つ・め・い・し・て?」
こくこくこく
……………………………ボディランゲージ?
「(汗)……それくらい口で言え。……………『俺は『可能性』を試しただけだ』説明終わり」
「?!?!?!?」
恐ろしく素っ気無い、簡略な説明。これで納得できる筈が無い。
「そんなんじゃ解りません!!だってだって!もうあの子でダメだって証明されてるじゃないですか!
 それなのに、何でまた私で試すんです!!」
やっとでサイレス(byFF)が解けたアメリアは雪崩れのように疑問符を浴びせかけた。
必死に言い訳して、あんなに逃げてたくせに!何で今頃になって?!
ばかばか、鈍感!!納得させてくれなきゃ、また枕攻撃なんだから!!
まだ頬に赤みの残る、膨れっ面での訴えは、愛らしく、また、微笑ましく、
一生懸命自分の怒りを伝えようとしているアメリアには悪いが、全然脅迫味を感じない。
むしろ、
真っ直ぐに自分へと向けられる想いがその原因かと思うと、くすぐったくてしょうがない。
嬉しくて。
笑みに崩れそうな顔を引き締めて、ゼルガディスは真面目に答えて言った。
「お前じゃなきゃ、条件が揃わないからだ」
「??あの子もれっきとしたお姫様だって…」
「リナの選んだ本の話には、それ以外にも共通点があっただろう」
「え?…共通点って…、んーと、主人公が、お姫様とー…………あ!」
ゼルガディスの言わんとする事にやっとで気付いたアメリアは、また真っ赤に茹であがることになる。
―主人公とお姫様は出会い、そして恋をする―
そうお姫様は恋をしてなければならない。
主人公に。
魔法を解くのは想い。
お姫様とか、キスとか、そんなもの、本当は関係ないのかもしれない。
元の姿に戻してあげたい、戻って欲しい。
そんな、たまたま姫という身分にあっただけの、何の力も持たない少女達の、切ないほどの願い。
その願いが、彼らを魔法から解き放ち、もとの姿へと戻す力となったのだろう。
伝説や昔話はそれを、ごく簡単な表現で伝えていた。

『お姫様がキスをすると、たちまち彼はもとの姿をとりもどしたのでした』と、

だから…
「だから、お前じゃなきゃダメなんだ。」
「でも、ゼルガディスさん戻ってません。私の願いはゼルガディスさんを元に戻してはくれませんでした」
さっきとは打って変わった、悲しげな顔で言うアメリア。
私の願いはお話の姫君達に及ばなかったのだろうか、こんなに強く願っているのに。
こんなに、戻って欲しいと思ってるのに。
「まあな」
「………」
「だが、お前の願いは俺に諦めないという力をくれる。諦めない限り、いつか俺は元に戻れるだろう。
 なら、それはお前の願いで戻った、そういう事に……ならないか?」
「……はい………はいっ!」
一瞬のうちに元に戻らなかったからと言って、願いが足りないとは思わない。
別の形でだけど、願いは確かに力となり、彼にかけられた魔法を解く。
いつかきっと。
少し時間はかかるかもしれないけれども。でも、きっといつの日か。
「ゼルガディスさんが元に戻れるまで、私力いっぱい願います!」
「ああ」
「協力だって!できることなら何だってしちゃいますから!!」
「…………そっちはそこそこで良いからな」


伝承や昔話には真実が含まれる。
それに残された僅かな真実の正体は願いの力。
恋するお姫様たちの想いの力。

なら
ずっと後の時代、
もし二人のことがお話に残ったとしたら、やはりこう書かれるのだろうか。

『悪い魔道士の魔法で合成獣に変えられた魔剣士は、聖なる都のお姫様のキスで
 元の姿に戻ったのでした』

そんな風に。



en…

つんつん

……?

「…あの……ゼルガディスさん。あと一つだけ、訊いていいですか?」
「……まだ何かあるのか」
もじもじ
「あの、えっと、リナさんやガウリイさんが傍にいなくって、
 図書館や路上や、衆人環視のオープンな場所でなかったら………そしたら、
 嫌がったり逃げたりしないで………試してましたか?私と、………………………きす」
「……昼飯が待ってるぞ」
くる、すたすたすた
「ああっ!誤魔化したっ!!答えてください!答えてくんなきゃ離しませんからねっ!!」
がし
「ええいっ!!離せっ!離さんかいっ!!」
ぎぎぎぎっ

―最後の最後に何てこと聞きやがるこの娘!
 役得含み、喜んで頂いてました。
 ………とか。
 思ってても言えるか!!んなこと!(赤面)
 ………………………ちらっと………思ったけど。―


「答えてくださいったら答えてください!!」
「離せったら離せ!!!」
どたばたじたばた


……あーあ


end


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これでほんとに終わりです。
精一杯、楽しいものにしようと頑張ったんですけど…どでしたでしょう。(汗)
さて、
このお話の題に使わせて頂いた『kiss the Girl』というのは、
ディズニー版人魚姫、『リトルマーメイド』の中で歌われる曲の題名だったりします。
声と引き換えに足を貰って、王子様に会いに行った人魚のお姫様。
そのお姫様が本当の人間になるためには、王子様にキスをして貰わなければならない。
だから、『彼女にキスをして』と、そういう歌です。
で、これが何に繋がるかと言うと私の『しまっ・たー!!』と思ったこと、それに繋がるんですね。
そう、私の記憶にある限り、魔法を解くのは『王子様のキス』で魔法を解かれるのは『お姫様』
御伽噺ではこっちのが有名で優勢なんですよね。あう(涙)
人魚姫しかり、白雪姫しかり、眠りの森の美女しかり、
多分、『お姫様のキス』もあるとは思うんですが、一般に有名なのはぜーんぶこっち。
がしかし、それだと、アメリアでなく、フィルさん(!)にお願いしなきゃならなくなり
考えるだに恐ろしいお話になってしまう(怖)ので、無理やり当初の路線で押し通すことにしました。
お陰で、例に出す話が思いつかず、苦し紛れ、自分でてきとーに創る羽目に………(再涙)

ああ………ほんとにお馬鹿さんですね。私(はぁぁぁぁ)

で・では、
言い訳まで含めて、ここまで長々とお付き合い頂き、ほんとにありがとうございました。(ぺこ)


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2246キスの効果わかば E-mail 9/25-21:19
記事番号2245へのコメント

おーはし様

またまた素敵な作品を拝見する事が出来ました。
キスの効果・・・
思わず考えてしまいました。
形にならなくてもありますよね、絶対に。
そして、リナが良いですっ。
アメリアをけしかけている所を想像して笑ってしまいました。
そして、何と言っても魔剣士さんの最後の言葉!
思わず「正直者!」と突っ込みをしてしまいました。
ありがとうございました。

わかば

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2258お久しぶりです&ありがとうございますおーはし 9/27-22:12
記事番号2246へのコメント

わあ、お久しぶりです。
ご感想ありがとうございます。
前に書いてくださった方が、ちょっと間を置いてまた書いて下さってると
「あぁ、まだ読んでくださってる。ありがたや(合掌)」
と、嬉しくなってしまいます。
どういうふうに感想を表現したら良いか解らないという文章力の欠如と
(小学校から作文苦手な私ですけど、あれって感想文が主でしたよね(涙))
投稿するときは毎回腹痛状態でという気の小ささの二重苦持ちで
自分ではちーとも感想書けないくせに、
貰ってばかりで、何て悪い女でしょう。(涙)

でもでも、わかばさんの小説ときどきこそっと読ませて頂いてます。
んで、二人のどきどきらぶらぶぶりにこっちまでどきどきさせて頂いてます。
(って、ああ…やっぱりこんな感想しか書けない…ぐしぐし)

今回のお話、ぼんやりとしか最後の方を決めずに書き始めたので、
どうまとめようかと一時は途方にくれたのですけど、
どうしてアメリアじゃなきゃならないのかという、
「理由」がぽろっと降りてきて後はとんとんと進みました。
それが『願いの力想いの力〜』なわけなのですけど……
気に入っていただけてとっても嬉しいです(喜!)
あ、あとリナちゃん気に入って頂いたのとゼルの言葉に突っ込み入れて
もらったことも!
あれはほんとーに、最後の最後に、ひょっと付け足したのです。
付け足して良かった。(喜)

何か色々いっぱい書いてしまいましたが、(汗)
今回も読んで頂いて、ほんとにありがとうございました。(礼)

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2255いいなぁ・・・うっとりさいとうぐみ 9/27-16:15
記事番号2245へのコメント

いいなぁ…アメリア…
こんにちは。おーはしさんの作品だぁ!
嬉しいナァ…
ゼル×アメ物が、めっきり減ってきたようなきがする今日この頃・…
ホームページつくりたくても、スキャナー無いしナァ・…
文章が下手な分、絵をたくさん入れて…・絵も下手ですけどね…
でもいつか、出来たら良いな…
おーはしさんは、ホームページ作らないんですか?
もし出来たら、私、毎日行くのにナァ・…

ゼルにキスされたアメリア。
おーはしさんの作品で初チュ―…・・じゃないですね…
それにしても、羨ましい・…
アメリアが、リナの事に賛成していたのは、もしかして・…『したかった』から??
好きな人と、そう言う事をするのは、当たり前ですしねぇ・…
では、変な感想ですが、これにて!

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2262『初チュー』…(笑)おーはし 9/29-22:19
記事番号2255へのコメント

毎回書いて頂いてありがとうございます。
今回のも気に入ってただけて、ほんとに良かったです。
にしても、
『初ちゅー』…(笑)
『ちゅー』ってとこがまた…読んで思わずテレ笑いしちゃいました。(てれてれ)
確かに私の書くものには少ない…ですかね。
何しろ!なるだけそういう場面を書かずに済むよーに済むよーに、
日夜努力してますからっ!って……色恋沙汰を書いてるのに
こんなことに力を注いでどうするんでしょーね。ほんとに(笑)。


で、ホームページなのですが、
ううーむ。私の知識と甲斐性と根性を考えると……無理ですよぅ(あうあう)
ぽっつりぽっつり、日常生活の空いた時間にお話書くのが精一杯
それ以上はとてもとても………という状態です。(涙)
望んでいただけたのは嬉しいのですけど、すみませんです。はい。


最後にちょろっと、私プリンター持って無いくせに何故かスキャナーは持ってます。
その理由は!
『図書館にあったスレイヤーズイラスト集で見た
 ゼル&アメリアの絵を取り込んで壁紙にしたいという欲望に負けたため』
(買う時には「色んな絵をとっておきたいからぁ♪」とぼかして言いました)
こんなことだから貧乏なんですね。(笑)

それでは、失礼いたしました。(ぺこ)


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2259Re:『kiss the Girl』3うさびん 9/27-23:13
記事番号2245へのコメント

くううう・・やきもち妬くアメリアもかわいーし、たじたじのゼルもかわいーです。
ほんと、不器用な二人って見ていて幸せです。

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2263Re:『kiss the Girl』3おーはし 9/29-22:20
記事番号2259へのコメント

またのご感想ありがとうございます。
幸せ気分になって頂けましたか(喜)
不器用なカップルって、書いてて楽しいんですよね。
自分で書いたお話のアメリアが、毎回ちびっと大人しすぎるかなぁと思ってたので
TVのミワンさんの回みたいにがしがしやきもち焼いたり
ゼルに飛びかかったりぶん殴ったりするような(うわぉ)、
元気ありすぎなアメリア、書きたかったんです。
お陰でゼルガディス、今回ずーっと災難でしたけど、
彼には災難が似合うから……おっけーですよね。てへ。(笑)

それでは。