◆−RED AND BLACK−ひな(9/26-13:25)No.2253
 ┗Re:RED AND BLACK−北上沙菜(10/8-04:05)No.2293
  ┗つまらないものですが−ひな(10/15-10:12)No.2344


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2253RED AND BLACKひな 9/26-13:25


こんにちは、ひなです。
前回落ちたツリーの「イン・ザ・スープ」が未完のままなんですが、
また短編のっけちゃいます。
うーん。うーん。何が言いたいんでしょうね、これは。





***********************************






「降り止まないわね」
窓の外を眺めながら、リナがぽつりと言った。
雨の音はいまだに勢いを衰えずに鳴り響いている。
「明日か、明後日には天気は良くなるさ」
「山を越えるのはもう少し後にしたほうがいいわね。それまでここでじっとしていましょ」
とはいえ、俺たちはもう4日もここの宿屋で足止めをくらっている。
こういう種類の退屈さはたちが悪い。
部屋でじいっと雨の音を聞いていると、いやでもアンニュイな気分になってしまう。
ガウリイとアメリアは体力がありあまっているらしく、部屋で飽きもせず筋力トレーニングだの
何だのをして暴れているが(体育会系、とはまさにこの2人のためにある言葉だ)、俺はとても
そんな気になれず、毎日毎時ぼんやりと物思いにふけって過ごしている。
リナも俺と同じらしく、さすがに暇で暇で死にそうな顔をしている。
一人でいると気分が後ろ向きになってしまう、かといってガウリイやアメリアの執拗で果てしない
筋力トレーニングに付き合う体力もない、というわけで俺とリナは2人で意味もなく会話しながら
ぼーっとしている。
時々、どすんどすんどすんばたばたばたという音が隣のアメリアの部屋から聞こえてくる。
一体何をやっているのか、想像もつかない。あまり想像したくないような気もするが。
彼女に言わせると、俺やリナのように部屋でじーっとしているのは不健康で大変よろしくない、
腕立て伏せをしろ、こういうときこそ体を鍛えるべし、ということなのだが。
リナがうんざりしたように言った。
「あのさ、リスとかハムスターとかが中に入ってカラカラ回る車輪みたいなのあるわよね、あれを
あの2人に与えたほうがいいんじゃないのかしら」
「俺もそう思う」
とはいえ、この退屈さには閉口していた。
ただ穏やかなだけの退屈さならまだしも、何かをするべきなのに、何をしていいのかわからず、
じっとしていると胃の奥からちりちりと焦りと苛立ちが生まれてくるような、そんな種類の退屈さ
なのだ。
「ねえ、ゼル」
「ん?」
「チェスでもやらない?」



というわけで、宿屋の主人にチェス盤と駒を借りて、俺たちは暇さえあればゲームをしていた。
無為といえば無為だが、何もしないよりはよっぽどいい。
レベルが同じくらいというせいもあろうが、リナとのゲームは楽しい。
スリリングで、刺激的だ。
俺が駒を動かすと、リナの眉がぴくりと動く。
彼女は真剣な面持ちでチェス盤を睨みつける。
俺はひたとその顔を見据えている。
やがて彼女はおもむろに手を伸ばし、駒を動かす。
そして、「どうだ」といわんばかりに俺を見つめる。
その、子供っぽい真剣さを、闘争的で野心的な攻め方を、俺は好んだ。
雨音に囲まれた、心地よい沈黙。好戦的なまなざし。軽い緊張。完璧なコミュニケーション。




時々俺は、この世でリナと2人きりになったような錯覚を覚えた。
俺とリナは、それほど仲良しというわけではなかった(かといって、ガウリイやアメリアと仲良くもなかったが)。
2人とも我が強いので、よく意見が対立した。喧嘩なんかしょっちゅうだった。
それでも、俺たちの間には、共通の体験によって培われた第二の天性とでもいうべき何かが存在していた。
俺たちの間には共通の言葉があり、共通の欠陥があり、共鳴するものが確かにあったのだ。




「あんたがいてくれて良かったわ」
ふいにリナが微笑みながら言った。
俺は真剣に次の手を考えていたところだったので、我に返って「は?」と聞き返した。
「ガウリイにチェスのルールなんか覚えられそうにないものね」
ああ、そのことか、と俺も笑った。
「あいつにルールの説明をするくらいだったら、スクワット500回やるほうが簡単そうだからな」
「ガウリイだったら1,000回は出来るわよ」
「さすがだな。古代に生まれていたら英雄だ」
「生まれてくる時代を間違ったわね。今だったらサーカスの見世物よ」
「俺たちでサーカス団でも作るか。怪力男と超合金娘とキメラ人間とドラまたで」
「チェスでもしてるほうがいいわ」
「同感だ」
しばし沈黙が流れた。リナが言った。
「チェスっていいわね。盤があって、ちゃんとルールがあって、勝ち負けがある。血も出ない。死人も
出ない」
「キメラもいない」
「……そうね。赤と黒のどちらかしかない。ファジイなものは何一つない。人生とは違うわ」
俺はリナを見つめた。リナの口から「人生」という言葉を聞いたのは初めてだった。
俺はよっぽど驚いた顔をしていたのだろう、リナは居心地悪そうに肩をすくめた。
「昔の話なんだけど、あたし数学者を夢見てたことがあったのよ。すべてを数字に還元できるような
世界が好きだったの。美しいシンプルな法則や秩序があって、ものごとはそれに従って動いていて、
すべてが合理的で、無駄なものが何一つない。何らかの公式にあてはめて、論理立てて考えれば、
必ずひとつの答えにたどり着く。完結した、揺るぎ無い世界。自然界ってそういうふうにできてんのよね。
それと比べたら、人生って、ほんと非合理的で、無茶苦茶で、法則も秩序もあったもんじゃないでしょ。
だから、ときどきこのチェス盤みたいなものが恋しくなるのよ。赤と黒、それ以外には何もない、シンプルで
美しい世界。自分が泥まみれになればなるほど、ね」
リナはそこまで言って、かすかに吐息をついた。
「……ごめん、愚痴言っちゃって」
俺は首を振って、謝る必要はない、あんたの言うことはよくわかる、と言った。
人生は、糞溜めのなかで一粒の真珠を探すことに似ている、糞溜めのなかを泳ぎ回って、それでも石ころの
ひとつだって見つけられないことだってある、俺だって時々嫌になるさ、でもチェスはいい、始まりがあって、
終わりがある、勝ち負けがはっきりしている、戦いに勝って、人生に負けるなんてことにはならない、それに、
あんたはいい対戦相手だ、チェスのライバルがいると人生はちょっとだけ明るくなる。
俺は早口にそう言って、目をそらした。
全然色気のある話はしてないのに、自分がリナを口説いているような気がして、何となくどぎまぎしていた。
顔を上げてリナを見つめると、彼女はすこしだけ微笑んだ。
その笑顔を見たとき、俺がこのろくでなしと旅をしている理由がすこしわかったような気がした。
こんな笑い方をする人間を、放っておくことはできない。




その数十年後、俺は人間に戻って、以前には想像もできなかったようなまともな生活を営むようになった。
たぶん、俺は糞溜めのなかで真珠を見つけたんだろう。
なんてことのない小粒ではあるが、俺の真珠には違いない。
俺は人並みに所帯を持ち、平穏な人生を歩んでいる。
リナの噂はとうに途絶えていて、彼女がどうなったのか知る術はない。
落ち込んだときや感傷的になったとき、俺はよく物置からチェス盤を引っ張り出し、一人でチェスをやる。
薄暗い部屋のなか、小さなテーブルにチェス盤を置き、コニャックを飲みながらああでもないこうでもないと
一人で駒を動かす。
そうして、ふと目の前を見ると、テーブルの向かい側にリナの伏せた睫毛や眉間に皺を寄せた真剣な表情や
顎に手を当てるしぐさが見えるような気がする。
駒を動かした後、俺を見上げるあの瞳が見えるような気がする。
あの雨の音やゆったりした沈黙や湿った空気がよみがえり、俺はもう一度若返って彼女たちと旅をしている
ような気分になる。
彼女のような笑顔を見せる人間に、あれから一度も会っていない。






終わり。

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2293Re:RED AND BLACK北上沙菜 E-mail 10/8-04:05
記事番号2253へのコメント

>ひな様
はじめまして。北上沙菜という者です。
タイトルを見たらゼロリナと思ったけど、ゼルリナなんですね。
知的な大人という雰囲気がたまらないですね。
ゼルガディスとリナだからできる会話ですよね。
もう、私ツボにはまってしまってどうしよう、って感じです。

>「あのさ、リスとかハムスターとかが中に入ってカラカラ回る車輪みたいなのあるわよね、あれを
>あの2人に与えたほうがいいんじゃないのかしら」
>「俺もそう思う」
大爆笑してしまいました。
ガウリィは延々とカラカラ回り、疲れて倒れたらそのままの状態で回ってそう・・・。
私の中でガウリィはギャグキャラだから。

>レベルが同じくらいというせいもあろうが、リナとのゲームは楽しい。
>スリリングで、刺激的だ。
>俺が駒を動かすと、リナの眉がぴくりと動く。
>彼女は真剣な面持ちでチェス盤を睨みつける。
>俺はひたとその顔を見据えている。
>やがて彼女はおもむろに手を伸ばし、駒を動かす。
>そして、「どうだ」といわんばかりに俺を見つめる。
>その、子供っぽい真剣さを、闘争的で野心的な攻め方を、俺は好んだ。
リナの性格が良くでてる。
実際にリナならこういうことやりそうだもの。

>雨音に囲まれた、心地よい沈黙。好戦的なまなざし。軽い緊張。完璧なコミュニケーション。
言葉の必要のないコミュニケーション。
チェスという行為の中に言葉があるっていうのが、またいい。

>2人とも我が強いので、よく意見が対立した。喧嘩なんかしょっちゅうだった。
>それでも、俺たちの間には、共通の体験によって培われた第二の天性とでもいうべき何かが存在していた。
>俺たちの間には共通の言葉があり、共通の欠陥があり、共鳴するものが確かにあったのだ。
だからこそ、チェスでコミュニケーションが成り立ち、言葉が必要ないと思いました。
言葉なんてなくても通じ合える関係の二人が羨ましい。

>>「あんたがいてくれて良かったわ」
>ふいにリナが微笑みながら言った。
>俺は真剣に次の手を考えていたところだったので、我に返って「は?」と聞き返した。
>「ガウリイにチェスのルールなんか覚えられそうにないものね」
>ああ、そのことか、と俺も笑った。
>「あいつにルールの説明をするくらいだったら、スクワット500回やるほうが簡単そうだからな」
>「ガウリイだったら1,000回は出来るわよ」
>「さすがだな。古代に生まれていたら英雄だ」
>「生まれてくる時代を間違ったわね。今だったらサーカスの見世物よ」
>「俺たちでサーカス団でも作るか。怪力男と超合金娘とキメラ人間とドラまたで」
>「チェスでもしてるほうがいいわ」
>「同感だ」
>しばし沈黙が流れた。リナが言った。
>「チェスっていいわね。盤があって、ちゃんとルールがあって、勝ち負けがある。血も出ない。死人も
>出ない」
>「キメラもいない」
>「……そうね。赤と黒のどちらかしかない。ファジイなものは何一つない。人生とは違うわ」
>俺はリナを見つめた。リナの口から「人生」という言葉を聞いたのは初めてだった。
>俺はよっぽど驚いた顔をしていたのだろう、リナは居心地悪そうに肩をすくめた。
>「昔の話なんだけど、あたし数学者を夢見てたことがあったのよ。すべてを数字に還元できるような
>世界が好きだったの。美しいシンプルな法則や秩序があって、ものごとはそれに従って動いていて、
>すべてが合理的で、無駄なものが何一つない。何らかの公式にあてはめて、論理立てて考えれば、
>必ずひとつの答えにたどり着く。完結した、揺るぎ無い世界。自然界ってそういうふうにできてんのよね。
>それと比べたら、人生って、ほんと非合理的で、無茶苦茶で、法則も秩序もあったもんじゃないでしょ。
>だから、ときどきこのチェス盤みたいなものが恋しくなるのよ。赤と黒、それ以外には何もない、シンプルで
>美しい世界。自分が泥まみれになればなるほど、ね」
>リナはそこまで言って、かすかに吐息をついた。
>「……ごめん、愚痴言っちゃって」
>俺は首を振って、謝る必要はない、あんたの言うことはよくわかる、と言った。
リナって白黒きっちりつけて、物事を何でも理論付けて考えてるから、もし魔道士でなかったら数学者ってのは頷ける。
ま、魔法おたくって設定があるから、とことんつきつめなけれぱ気が済まないって感じだし。
理系の研究者ってイメージがある。
それも、博士号をたっっっくさん持っていそう。

>人生は、糞溜めのなかで一粒の真珠を探すことに似ている、糞溜めのなかを泳ぎ回って、それでも石ころの
>ひとつだって見つけられないことだってある、俺だって時々嫌になるさ、でもチェスはいい、始まりがあって、
>終わりがある、勝ち負けがはっきりしている、戦いに勝って、人生に負けるなんてことにはならない、それに、
>あんたはいい対戦相手だ、チェスのライバルがいると人生はちょっとだけ明るくなる。
糞溜めの中の真珠なんて、なんてゼルらしい表現かしら。
私も2X年生きてきて、人生とは何ぞやと幾度となく考えてきたけど、私の場合は大切な物が幾つ手に入ったかが人生の価値なんじゃないかな、と思っています。自分を理解してくれる友人とか、自分の考えを変えた本とか、自分を癒してくれるねいぐるみとかね。
また、考えは変ると思うけどね。


>俺は早口にそう言って、目をそらした。
>全然色気のある話はしてないのに、自分がリナを口説いているような気がして、何となくどぎまぎしていた。
>顔を上げてリナを見つめると、彼女はすこしだけ微笑んだ。
>その笑顔を見たとき、俺がこのろくでなしと旅をしている理由がすこしわかったような気がした。
>こんな笑い方をする人間を、放っておくことはできない。
いや、充分口説き文句に聞こえるよ、ゼル(笑)
雨の降る中部屋で二人きりでチェスをするという雰囲気だけで、口説けると思うよ。
私なら、コロっといっちゃう(大笑い)

>落ち込んだときや感傷的になったとき、俺はよく物置からチェス盤を引っ張り出し、一人でチェスをやる。
>薄暗い部屋のなか、小さなテーブルにチェス盤を置き、コニャックを飲みながらああでもないこうでもないと
コニャック!!いいよコニャック!!もうツボ!!
優雅にブランデーを飲んでそうなイメージだもん。
私のイメージのゼルがいるーー!!!

>一人で駒を動かす。
>そうして、ふと目の前を見ると、テーブルの向かい側にリナの伏せた睫毛や眉間に皺を寄せた真剣な表情や
>顎に手を当てるしぐさが見えるような気がする。
>駒を動かした後、俺を見上げるあの瞳が見えるような気がする。
>あの雨の音やゆったりした沈黙や湿った空気がよみがえり、俺はもう一度若返って彼女たちと旅をしている
>ような気分になる。
>彼女のような笑顔を見せる人間に、あれから一度も会っていない。
リナみたいなキャラにはそうそう会えないと思うよー。
100年に1度の人材って感じだし。
それにしても、コニャック片手に一人チェスをするゼルって絵になる。
ゼルって本当に知的なキャラよね。
アニメでは見事なギャグキャラだったけど。
私、ゼロリナ派なんですけど、この作品を読んでゼルリナも良いと思いました。

ころからも、素敵な作品を書いて下さい♪

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2344つまらないものですがひな 10/15-10:12
記事番号2293へのコメント

はじめまして、北上沙菜さま。
ひなと申します。
ご丁寧な感想ありがとうございました。

わたしはゼルリナが変に気に入っておりまして、ついつい色々書いてしまうのですが
興味を持っていただけたとのこと、うれしく思います。
恋愛関係にはなりにくいですが、なかなか微妙で危うくてスリリングな関係だと(勝手に)
推測しています。
わたしのイメージでは、ゼルとリナがお互いに抱く感情は「限りなく恋に近いけれども
決して恋にはなり得ない」種類の感情です。
おそらく恋愛によって満たされるなんてことはないんじゃないかなー、と思います。この2人は。


>リナって白黒きっちりつけて、物事を何でも理論付けて考えてるから、もし魔道士でなかったら数学者ってのは頷ける。
>ま、魔法おたくって設定があるから、とことんつきつめなけれぱ気が済まないって感じだし。
>理系の研究者ってイメージがある。
>それも、博士号をたっっっくさん持っていそう。

あ、やっぱりそう思われます?
わたしはリナって絶対理数系の脳味噌の持ち主だと思うんです。
大体においてプラクティカルな考え方をしますし、なるだけ感情と論理を区別しようとしていますし。
とりあえず文系の脳味噌ではないということはいえると思います。


>コニャック!!いいよコニャック!!もうツボ!!
>優雅にブランデーを飲んでそうなイメージだもん。
>私のイメージのゼルがいるーー!!!

一人酒が似合う、珍しいキャラです。ちょっと、決まりすぎで気恥ずかしいですね。


>それにしても、コニャック片手に一人チェスをするゼルって絵になる。
>ゼルって本当に知的なキャラよね。
>アニメでは見事なギャグキャラだったけど。
>私、ゼロリナ派なんですけど、この作品を読んでゼルリナも良いと思いました。

ありがとうございます。
これからも、ちょこちょこいろんなものを書いていくと思いますので、
気が向いたら読んでやってくださいませ。


それでは。