◆−ダウンタウン物語−ひな(10/15-21:28)No.2346
 ┣ダウンタウン物語(その2)−ひな(10/15-23:41)No.2351
 ┃┗ハイヒール♪(笑)−かたつむり(10/16-13:29)No.2353
 ┃ ┗足フェチっすよ−ひな(10/17-15:45)No.2358
 ┣ダウンタウン物語(その3)−ひな(10/17-15:22)No.2357
 ┗ダウンタウン物語(その4)−ひな(10/17-21:20)No.2360


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2346ダウンタウン物語ひな 10/15-21:28


こんにちは。ひなと申します。
なぜか最近ギャング映画ばっかり見てるので、とうとうこんなものを書いてしまいました。
タイトルはアラン・パーカー監督の同名映画からいただきました。
映画にあやかるかたちで、あんましシリアスじゃないおちゃらけギャング物語
を書きたいと思います。
わたしの書くものなので、けっこうガウリナ入ってます。
興味のある方は、読んでやってくださいませ。



***************************




1930年代、禁酒法下のアメリカ東部――。




紫色の煙がゆっくりと立ち上り、夜空に滲んで消えていく。
男は安葉巻を口の端にくわえながら、その様子をぼんやりと眺めていた。
足元には、いくつもの吸殻。眼前には、寝静まった暗い海。
深夜の空気は湿っていて、彼以外は誰もいない埠頭に重くたれこめている。
男はややうんざりしたような表情で、口にくわえていた葉巻を捨てた。
ぽとり、と葉巻が地面に落ちると同時に、闇の向こうで銃声が鳴り響いた。
男は振り向きもしない。
再び銃声が鳴る。つづいて、もう一度。
決して大きくはない、だが夜を切り裂くような鋭い音。
聞こえているのか、いないのか。男は気にもせずにコートのポケットを探って
葉巻を探している。が、どうやら吸い尽くしてしまったようで、ひとつも見つからない。
思わず舌打ちした男の耳に、こつ、こつ、という低い靴音が遠く聞こえてきた。
がらんとした静かな埠頭に、その音だけが妙に大きく響く。
やがて、薄霧の向こうから、一人の男が姿を現した。
仕立ての良いスーツ、きっちりと整えられたネクタイ、ぴかぴかの革靴、そして
目深に被ったつば広の帽子の色はすべて黒で統一されている。
その筋の者なら、一目で「同業者」だとぴんと来る、あのおなじみの服装だ。
男は足を止めた。そして言った。
「待たせたな、ゼルガディス」
年の頃なら24、5歳か。アイスブルーの瞳にブロンドの長髪、そして何より図抜けて
高い身長とがっしりした体つきの持ち主である。
「ああ、全くだ」
ゼルガディスと呼ばれた男は、待ちくたびれたと言わんばかりの表情で肩をすくめた。
こちらは同じようなダークスーツに身を包んでいるものの、痩せて眼光の鋭い、
銀色の髪の持ち主である。
「何人殺った?」
「3人」
「それはそれは。ご苦労なこった」
つまらなそうに答えた男に、ゼルガディスもさほど興味なさそうな様子で相槌を
打った。
腕時計をちらりと見て、男に声をかける。
「そろそろショウの始まる時間だ。行こうぜ、ガウリイ」
ゼルに促されて、ガウリイと呼ばれた男は車に乗り込んだ。
ういいいいんという派手な音とともにエンジンがかかり、黒ずくめの二人の男を乗せた
車は夜の街を走り出した。





「……おい、ゼル」
きょろきょろと車のなかを見回していたガウリイが、運転席のゼルガディスに声をかけた。
「何だ?」
「オレのアレは?」
「………」
しばしの沈黙の後、はぁぁぁぁ、と腹の底からため息をつくぜルガディス。
「………ほらよ」
言って、脇に置いてあったピンクのハイヒールを手渡す。
「お、良かった良かった。ちゃんとあったんだな♪」
浮かれた声でハイヒールを受け取るガウリイ。
ゼルガディスは心底うんざりしたような声で唸った。
「……俺は泣きたいよ」
「何でだよ?」
「あぁのぉなぁ、一体どこの世界に女の靴をお守り代わりに持ち歩いているヤクザが
いるんだ?」
「いいじゃねえか、別に」
やや憮然とした表情でガウリイは答える。
「そんなんだから変態だって陰口叩かれるんだぜ」
「まったくひどいよなあ、こんなに可愛い靴なのに」
訳のわからない文句をぶつぶつ言いながらハイヒールを弄ぶガウリイ。
ゼルガディスはなるべくガウリイのほうを見ないようにして運転をつづける。
まったく、この若くて一流のガンマンでまずまずハンサムなヤクザのルーキー、
ガウリイ=ガブリエフの唯一エキセントリックな点といえば、3ヶ月前に手に入れた
片方だけのハイヒールを後生大事に持ち歩いていることだった。
おかげで大抵の仲間からはひたすら不気味がられているが、本人は一向に気にしていない。
大体、そのハイヒールを手に入れてからというもの、暗殺者から襲撃を受けようがホテルの
部屋に銃弾を雨あられと浴びせられようが、ガウリイだけはかすり傷ひとつ負ったことがない。
事実を突きつけられては反論のしようもない。
おかげでゼルガディスもしぶしぶ「お守り」の効力を認めざるをえなかったが、しかし
もうちょっとマシなものを「お守り」にすることはできなかったのかという不満は残る。
「このハイヒールの持ち主なんだけどさ、ほら、あそこの34丁目の裏通りで男達に絡まれてて、
それを俺が助けてやろうとしたら……」
「そいつを顔面に投げつけられたんだろ?」
ガウリイの両手のなかの、小さなハイヒールをちらりと眺めながら、ゼルガディスは言葉を遮る。
「あれ? 知ってるのか?」
「お前から13回は聞いたんでね」
「あ、そう。……そんでさ、全員『あれ?』って固まってるすきにその女は逃げちゃって……」
「……だからってなんでその靴を持って帰る必要があったんだ?」
「さあなあ……」

ゼルガディスは頭をかきむしりたくなるのを我慢して、黙って夜の街に車を走らせつづけた。





*********************************

つづく。
(ホントか?)


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2351ダウンタウン物語(その2)ひな 10/15-23:41
記事番号2346へのコメント

ひなです。第2話です。




**********************************





その店は知るひとぞ知るもぐり酒場である。
この街で最も規模が大きく、豪奢で、料理も美味く、しかも酒が死ぬほど置いてある。
毎夜のごとく裏の世界の男たちが着飾った女達を連れて現れ、陽気な音楽とダンスと酒に酔う。
と同時に、裏の世界での情報交換を行い、ビジネスの話をする場所でもある。

ゼルガディスとガウリイが酒場に着いた頃には、ショウは既に始まっていた。
舞台の上で、きらびやかな衣装を身に着けた若い女のダンサーたちが陽気な歌を歌っている。
あちらこちらに見知った仲間の顔が見える。
ある者は美しい女と酒を酌み交わし、ある者は男同士でひそひそと商談をしている。
ゼルガディスは慣れたふうで、すれ違う仲間たちと適当に挨拶しながら、舞台の最前列の
テーブルへと歩いていった。
「お待たせしました、ボス」
ゼルガディスはテーブルの前に立つと、慇懃な調子で言った。
その声に、やや肥満気味の中年男が振り向いた。
「ガウリイ、それにゼルガディスか。まあ座れ」
ややイタリア訛りの残る口調で、男は鷹揚に顎をしゃくった。
男は血色のいいつやつやした顔の持ち主で、見るからに上等なスーツを着こみ、やや薄くなった
黒髪を丁寧に頭に撫でつけている。
名はキャスパー。イタリア系の目端のきく男で、裏からこの街を牛耳っているボスである。
ガウリイとゼルガディスが席に座ると、側にいたウェイターがグラスに琥珀色の液体を注いでくれた。
キャスパーがわずかに身をのりだし、尋ねてきた。
「何人だったか?」
「3人です」
ガウリイが答えると、キャスパーはゆっくり頷いた。
「……ふぅむ。あと何人かは残っているな。まあ、ご苦労だった。今夜はゆっくりしていけ」
「――では、お言葉に甘えて」
ガウリイはわずかにグラスをかかげると、一気に飲み干した。


ショウ・タイムが一息つき、ガウリイとゼルガディスがほろ酔い気分に浸っている時だった。
「ごめんなさい、遅れちゃって」
鈴を鳴らすような声がすぐ後ろで響いて、ガウリイは後ろを振り向いた。
そして絶句した。
立っていたのは、15、6歳くらいの小柄な少女だった。
「おお、リナ! やっと来たか! ほらほら、早くお座り」
キャスパーは一気に相好を崩した。とろけそうな笑顔を浮かべて少女を急かして自分の隣に座らせる。
「本当にごめんなさいね、来るときちょっと手間取っちゃって」
「なあに、全然構わんよ、さて、何が飲みたいかね?」
あろうことか、この街のボスがにこにこと少女の手を握り締めてご機嫌を伺っている。
いや、そのことよりも。
ガウリイはボスの体たらくよりも、その少女から目が離せなかった。
ごくあっさりした白いドレスと手袋を身につけただけの、この酒場には似つかわしくないほど
清楚な服装。化粧も薄く、かなり地味な装いである。
――それなのに。
隣のゼルガディスも、ぽかんとしてこの少女を眺めていた。
華奢な体つき、栗色のつややかな長い髪、愛らしい顔立ち。
何よりも、その瞳。
鋭く、生気と知性に満ちた、不思議な光彩を放つ瞳。
そして、そのオーラ。
否応なしに周りの人間の目を惹きつける、ほとんど動物的な磁力。
これまでキャスパーが愛人として囲っていた、何人ものパープリン女たちとは全く違うタイプの女だ。
視線に気付いたキャスパーが、慌てて振るまいを正して、リナを紹介した。
「失礼したな。紹介しよう。彼女はリナだ。2ヶ月前に知り合ったばかりなんだ。よろしく
頼むよ」
「はじめまして」
リナがにっこり笑って手を差し伸べるのを、ガウリイは、はあ、と相槌を打ちながら握り返した。
キャスパーはおざなりに紹介をすまさせると、リナの手を握りながら問いかけた。
「さあて、リナ、何か食べたいものはあるかい?」
「そおねえ……」
二人の会話が始まると同時に、ゼルガディスが急に金縛りから解けたように立ちあがった。
「あ、じゃあ、俺たちはこれで失礼します。ほら、ガウリイ、行くぞ」
「え、うぇ?」
まだぼんやりしているガウリイを急かして、引きずるように立ちあがらせる。
「ああ、今夜はゆっくり休め」
リナの肩を抱きながらほとんど上の空で返事をするキャスパー。
ガウリイはゼルガディスに引きずられるように店の外へ出た。


店の外はしんと静まり返っていて、暗かった。
二人はしばらく口も聞かなかった。
しばしの沈黙の後、ゼルガディスがつぶやいた。
「……ロリコンだ……」
「……ロリコンだな……」
ガウリイが深く頷く。
ゼルガディスはつづけた。
「酒と殺しはともかくとして、ありゃあ性犯罪だぞ……」
「……まあ、な」
「おい。何ぼーっとしてんだよ」
ゼルガディスがややきつい声音でガウリイに声をかけた。
「え?」
「え、じゃねえよ。あんたもロリコンか?」
ガウリイはあやふやに笑った。
「……さあ。そうなのかも」
「冗談でもやめろよ。仮にもボスの女だぞ」
「……そうだな」
ガウリイは頷き、コートのポケットから例の「お守り」を取り出して眺めた。
幅が小さく、ほっそりとしていて、まるで子供の靴のようだ。
あの少女の足に似合うだろうな、とふと思った。
「……何を考えてるかわかるぞ」
ゼルガディスの声が隣から水を差した。
ガウリイは振り返った。
ゼルガディスは呆れたような突き放すような声で言った。
「いい加減にしとけよ。命が惜しかったら、変な好奇心は出すな」

ガウリイは聞いてるんだか聞いてないんだかわからないような面持ちで、「お守り」を弄んでいた。






***********************************

つづく。

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2353ハイヒール♪(笑)かたつむり E-mail 10/16-13:29
記事番号2351へのコメント

こんにちわ、はじめましてっ!

いい・・・いいです〜。
早く続きが読みたいな。(催促?)

ガウリイがピンクのハイヒールを持って喜んでた時、
「ガっガウリイ!おまえさんっまさかっ!・・・女装趣味!?」
とか思ってしまいました・・・・(爆)
誤解でよかったぁ(笑)
でも、リナがああいうかたちで出てくるとは意外でした。
ボス・・・ロリっすか(笑)
あ、ガウリイも人のこと言えないか(笑)
ではでは、続き楽しみにしております!

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2358足フェチっすよひな 10/17-15:45
記事番号2353へのコメント

はじめまして、かたつむりさん。
ひなと申します。
感想ありがとうございました。

>ガウリイがピンクのハイヒールを持って喜んでた時、
>「ガっガウリイ!おまえさんっまさかっ!・・・女装趣味!?」
>とか思ってしまいました・・・・(爆)

30cm近いハイヒールですか(笑)
それもイヤだけど、持ち歩いているだけっていうのもけっこう変態度高いですよね。
自分て書いてて、こりゃあかなりフェチ入ってるよなあ、とか思ったりして。

>でも、リナがああいうかたちで出てくるとは意外でした。

何せ、ギャングの情婦ですからねぇ。
クールで色っぽいヤクザの愛人、みたいな感じで書いてみたいんですけど、
どうなることやら……。

またお暇でしたら感想ください。
それでは。

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2357ダウンタウン物語(その3)ひな 10/17-15:22
記事番号2346へのコメント

こんにちは。ひなです。
第3話です。
しかし、短い……。




**************************************





「おい、お前、俺にこんな真似させやがって、絶対に許さんからな。金輪際お前なんかといっしょに仕事をするのは
ごめんだぞ。聞いてんのか? ったく、あんなドジふみやがって……」
いつもの「仕事」を終えたあと。
深夜の安アパートの一室で、ゼルガディスは際限なく文句を言いつづけていた。
ガウリイは呆れたように言い返した。
「いい加減しつこいなあ、お前も。しつこい男はもてないぞ」
「何がしつこいだ、俺の背広を台無しにしやがって!」
ゼルガディスはパンツ一丁の姿で立ち上がって怒鳴った。
ちなみにガウリイも、下着だけを身に着けた格好で床に座りこみ、血まみれになった服をタライで洗っている。
「大体、お前が至近距離であの野郎の頭をフッ飛ばしたのがいけないんだろう? 見ろ、血のしみがとれやしない!」
ゼルガディスは憤懣やるかたないといった表情で、さっきまでしこしこ洗っていたシャツを広げてみせた。
「ったく、何が悲しくて夜中に野郎二人で洗濯をしなきゃいけないんだ。俺はこんなことがしたくてヤクザになったわけ
じゃないぞ」
なおもぶつぶつ文句を言うぜルガディスに、
「あー、はいはい。俺が悪うござんしたよ」
ガウリイがうんざりした調子で答える。
ゼルガディスは一見、落ちついて見えるがなかなか感情の起伏が激しい。
アイルランド系移民の息子なので、偏狭で頑固な一面も多分にある。
とはいえ、たしかにギャングが二人で肩を並べてタライで洗い物をしている光景は、あまりサマになるもの
ではない。
深く考えると情けなくなってしまうので、ガウリイは口に出さないが。


しばらくちゃぷちゃぷ洗濯をつづけた後、ガウリイが口を開いた。
「なあ、ゼル」
「あん?」
「リナはどうやってボスと知り合ったんだ?」
ゼルガディスはしらっとした目でガウリイを眺めた。
「……またそれか。いい加減そこから離れろよ」
「いいじゃないか。何か聞いてるんだろ?」
「まあ、噂はいろいろ聞いてるよ。彼女は歌手だったんだ」
「歌手?」
「ああ。ボスの経営してる酒場で歌っていたらしい。そこをボスが見初めたんだ」
「……ふうん。他には?」
「さあ。とにかくボスが首ったけってことぐらいしか知らんな」
ゼルガディスはそこですこし声をひそめて言った。
「お前、ボスがこれまで付き合ってた女たちを思い出せるか?」
「えーと。ミア、ファビアン、ジョアンナ。あとは忘れた」
「そう。それと、トゥルーディだ。お前にしちゃよく覚えてるな。あいつらの特徴は?」
「胸と尻がでかかった」
「リナはどうだ? グラマーだと思うか?」
「いいや。全然」
ゼルガディスは深く頷いた。
「問題はそこだ。ボスの好みの女ってのは、とにかく胸と尻がでかくて派手で頭がスッカラカンなタイプだったんだ。
少なくともここ5年はそうだった。それがいきなりあんな鉛筆みたいなお子様体型の女にはまっちまうってのは、
何かおかしいと思わんか?」
「……まあ、そりゃちょっとは驚いたけどよ。好みが変わったのかもしれないし、別にリナが黒魔術を使ってボスを
たぶらかしてるってわけでもないだろう?」
「さあ、どうだかな。ともかく、何か裏がありそうだぜ、あの女は。頭も悪くないし、ギャングの愛人におさまっている
ようなタイプには見えなかったな」
ガウリイは適当に相槌を打ちながら、半月前に会ったリナの顔を頭に思い浮かべた。
いつもは人の顔などすぐに忘れてしまうのに、彼女の顔を思い出す度に胸の奥が変に騒ぎ出す。
ゼルガディスは一通り洗い終わった衣服を絞りながら、ガウリイのほうをちろりと見た。
「しかし、何だってそんなにリナのことを気にするんだ?」
「ん? あ、いや。実は、今度彼女と会うことになっているんだ」
「へ。何で」
「ボスが2,3日出かけるらしいんだ。その間、リナの相手をしてほしいんだと。食事とか、芝居とかさ、彼女の好きな
ところに連れていってやれとさ」
ガウリイは、ゼルガディスがじとっとした目で彼を眺めているのに気がついた。
「……何だよ?」
「まさかとは思うが、役得とは思ってないだろうな」
思わず言葉につまるガウリイ。
ゼルガディスはひとつため息をつくと、言った。
「……この間ブッチがホテルの4階から突き落とされたのは知ってるか?」
「え?」
「ボスの手下にやられたんだ。リナにモーションをかけたらしい」
「……」
「この話の教訓はつまりこういうことだ。――馬に蹴られて死にたくなけりゃ、ボスの女に近づくな」






****************************************

つづく。
(うーん……)


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2360ダウンタウン物語(その4)ひな 10/17-21:20
記事番号2346へのコメント

ひなです。第四話。
「恋するヤクザ、ムダ話する」の章です。





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キャスパー邸の玄関ロビーで、ガウリイはそわそわしながらリナを待っていた。
鏡の前でネクタイを締め直し、つば広の黒い帽子をかぶり直し、ひとつ咳き払い。
これはデートじゃない、デートじゃないんだ、絶対にデートじゃない、と自分に言い聞かせながら、ばかみたいに
広いロビーを行ったり来たり。
自分があちらこちらをうろうろしているのにはたと気がついて、立ち止まり、再び独り言。
そう、もちろん、これはデートじゃない。
なぜなら、リナはボスの愛人で、オレはボスの部下で、しかもボスに忠誠を誓っているからだ。
つまり、オレはボディガードの役目を果たせばそれでいいわけだ。
リナを食事に連れていって、彼女の冗談に付き合って笑ってやる。どこか行きたいところがあったら連れて
行ってあげる。車で送ってやり、礼儀正しく「お休み」を言い、さっさと家に帰って寝る。
それで終わりだ。
簡単なことじゃないか。以前にだって、ファビアンのお守をやらされたことがある。
しかし、今からリナと出かけるのだと思うと、どうにも落ちつかない、おかしな感じになってしまうことは確かだった。
ああもう、しっかりしろ、こんなことは何でもないことなんだから。
「何がなんでもないって?」
「ぅわ!?」
後ろからかかった声に、思わずガウリイは飛び上がった。
振り向くと、すぐ後ろにリナが立っていた。
飾り気のない濃紺のドレスを着て、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
その笑顔を見たとき、なぜか心臓がどくんどくんと大きく波打った。
体温が2,3度くらい一気に上昇したような気がして、、ひょっとして自分の頬は真っ赤になっているんじゃないかと
ガウリイは思った。
「こんばんは。確か、ガウリイ、だったわね」
「……ああ。覚えてるのか?」
「こう見えても、物覚えはいい方なの。――さ、行きましょ」
「――って、どこへ?」
「いいからいいから」
リナに促されるようにして、ガウリイは外へ出た。


リナが指定した店は、キャスパーが経営するもぐり酒場やレストランではなく、小ぢんまりした
大衆レストランだった。
くねくねと曲がった道の奥にある店で、看板も小さく、目立たない。
エプロンをつけたウェイターがリナを見てかるく微笑みかけ、一番奥のテーブルに二人を案内した。
テーブルにつくと、リナはありとあらゆる料理を片っ端から注文した。
ガウリイは呆気にとられていたが、ウェイターは「こんなことは日常茶飯事だ」とでも言いたげな
クールな表情で注文をとると、厨房の奥に引っ込んでいった。
店内には仄かなオレンジ色の光が満ちていた。
ガウリイはテーブルの向かいに座ったリナをまじまじと見つめた。
至近距離でじっくり見つめると、彼女は実にあどけない顔立ちをしていた。
瞳はまん丸く、唇はあつらえたように小さく、頬は赤ん坊のようにふっくらしている。
体つきもいかにも華奢で小さく、何だか生まれたての子猫みたいだ、とガウリイは思った。
とてもかわいいなとも思ったが、どうしてキャスパーがこんな少女に夢中になっているのか、やはり
不思議だった。
ふいにリナが彼を見つめ返した。
「――何?」
「あ、いや。……この店にはよく来るのか?」
「ううん。ここは2ヶ月ぶりよ。キャスパーはこういう店が好きじゃないから」
「君はこういう店が好きなんだ?」
リナは肩をすくめた。
「あなた、目の前で若い女の子たちがフレンチカンカンを踊っているところで、落ちついて食事できる?」
「……かなり難しいな」
ウェイターが小海老のサラダとわかさぎのマリネを運んできたので、二人はしばらく黙ってそれを食べた。
「ひとつ質問していいかな?」
「どうぞ」
「ブッチって男のことは知ってるか?」
リナは頷いた。
「ええ、知ってるわ」
「じゃあ、あいつが4階から突き落とされたことは?」
リナはびっくりしたように目を見開いた。
「知らないわ。どうして?」
「オレも噂を聞いただけだからよく知らないんだが、それはどうやらボスが指図したことらしい。それでだ、
聞いた話によると、ブッチが君にモーションをかけたのが原因だとか……」
ふう、とリナはため息をついた。
「あなたたちヤクザって本当に噂話が好きねえ。いくらキャスパーが強引で頑固なところがあるからって、
そんな理由で部下を4階から突き落とすと思う? あなた、本気でそんなこと信じてたの?」
「そういうこともあるかも知れない、とは思ったな。君はキャスパーに大事にされてるからな」
「それとこれとは別問題よ、まったくもう。――それで、あとはどんな噂があるの?」
「え?」
「あたしの噂よ。いろいろあるんでしょう? どんなことを聞いてるの?」
ガウリイは困惑したように首をひねった。
「実を言うと、そんなに多くは聞いてない。君が歌手で、キャスパーが君にゾッコンだってことぐらいだ」
「元歌手よ」
リナがサラダをつつきながら答えた。
「元ってことは、引退したのか?」
「そーゆーこと。歌手になりたくて家を飛び出してきたんだけど、あんまり才能がなくてね」
「へえ。どこの出身なんだ?」
「――州よ。あなたは?」
「オレ? オレはこの街の生まれだよ」
「じゃあ、生まれたときからずっとここにいるの?」
「まあ、そういうことだな」
ふうん、とリナは呟いて、組み合わせた手の上にちょこんと顎をおいた。
ガウリイは吸い寄せられるように彼を見上げる大きな瞳に見入った。
その瞳を見ていると、どうしてキャスパーがこの少女に執心しているのかが分かるような気がした。
リナよりも美しい女はきっと沢山いるだろう。
でもこの少女には、人の心を鋭く刺すような強い何かがあるのだ。
「ギャングになったのはどうして?」
ガウリイはきょとんとしてリナを見つめた。
そんなことは今まで考えたこともなかった。彼は困ったような微笑みを浮かべた。
「さあ、どうしてかな。考えたこともなかった。親父がギャングだったから、物心ついたときには周りはそんなの
ばっかりだったんだ。だからごく自然にギャングになっただけだ」
「なるべくしてなった、というわけね。お父さんもギャング?」
「ああ。殺されたけどな」
「……どうして?」
「ギャンブル狂でさ、ヤバイところから金借りてギャンブルしまくって、そんで殺されたよ」
「お気の毒に」
ガウリイは肩をすくめた。
「そうでもないさ。自業自得だよ」
ウェイターが再びやってきて、じゅうじゅうと音のするステーキをテーブルの上に置いた。
ナイフでステーキを切り分けながら、リナがたずねた。
「ねえ、人を殺すときってどんな感じ?」
「うーん。普通だよ」
「普通って?」
「アイスピックで刺すわけじゃないからさ。本当に簡単なんだ。狙いを定める、引き金をひく、向こうが倒れる、
それで終わり。ずどん、ばたっ。それだけだよ」
「慣れたもんね」
「プロだからな」





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リナがギャングの情婦っぽくないっすねえ。
なんか「レオン」みたいになってしまった。ナタリー・ポートマンのようなリナちん。
あ、でもそれもいいかも……。