◆−初めまして、ゼルアメ(予定)です(笑)。−魚の口(10/23-01:13)No.2370
 ┗幕間で妄想。その1。−魚の口(10/24-00:39)No.2373
  ┣Re:幕間で妄想。その1。−うさびん(10/26-00:10)No.2376
  ┃┗ひゃ〜〜〜〜(滝汗)。−魚の口(10/26-14:43)No.2377
  ┗幕間で妄想。その2。前。(すみません)−魚の口(10/27-00:56)No.2380
   ┣幕間で妄想。その2。中。(あれ?)−魚の口(10/28-02:17)No.2387
   ┃┗幕間で妄想。その2。後。(完結)−魚の口(10/29-21:26)No.2390
   ┗幕間で妄想。その3。−魚の口(11/2-03:01)No.2411
    ┗幕間で妄想。その4。前。(懲りずに)−魚の口(11/3-20:13)No.2421
     ┗幕間で妄想。その4。中。(…学習能力↓)−魚の口(11/5-03:25)No.2423
      ┗幕間で妄想。その4。後。(やっと完結)−魚の口(11/7-00:34)No.2441


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2370初めまして、ゼルアメ(予定)です(笑)。魚の口 10/23-01:13


初めまして、こちらを覗いてゼルアメに填ってしまった者です。
皆さんのすばらしい作品を読んでいるウチに、自分もちょっと
投稿してみたくなってこうして書いています。
なにぶん自分的趣味がかなり入ってますので、「こんなのゼルアメと違う!」
と思われた方には申し訳ないですが、しばしお付き合い願えたらと思います。

ちなみに細かな所でスレイヤーズ設定と違う!・・・等という所が、
ぞろぞろ出てるかと思いますが、ご了承願えますように(笑)。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

聖王都。白魔術都市(セイルーン)と呼んだ方が馴染みがあるだろうか。
赤の竜神(スィーフィード)を奉る神殿を抱えた白魔術の本拠地。
街並みを六芒星に形取り、都そのものを礎とし幾代にも栄えた王都。
この隔てられた大陸の中でも、歴史の古い国である。ましてや
白魔術の本拠地などと称されるだけあって、さぞかし古の文献の探求や
術の研究なども盛んなのであろう。
だが、しかし。

「残るはここだけか。」
夜の闇に紛れて、一人の男がつぶやいた。
街のほぼ中心部に近い屋根の上に男はいた。昼間ならばこの付近もにぎわう喧噪のただ中だが、今は夜の静寂に包まれている。屋根の上にいる怪しい男に気付く
者もいない。それに、月の光は今日は地上には届かない。
新月を利用して、男はこの日を選んだのである。
男はそれまでに、この国にある魔術に関係のあるほとんどの施設に、闇に紛れて
忍び込んでいた。男は決して盗賊ではなかったが、施設の関係者や研究者から
すれば、男の行為は盗人以外の何者でもなかったであろう。

男はあるものを探していた。その為にわざわざこの聖王都にまでやってきたのだ。
だが、この白魔術都市のめぼしい施設を虱潰しに当たったが、男の目指すものは
見付からないのである。
「そう簡単に見付かるもんでもないと思っていたが、かすりもしやがらないとは  な。」
苛立た気に見上げた男の視線の先には、聖王都の中心にそびえ立つ
巨大な王宮が広がっていたのだった。





男はまず上空から王宮の敷地を眺めることにした。力ある言葉(カオスワーズ)に
使役された風の精霊が男を取り巻く。
「浮遊(レビティション)」
解放された呪文と同時に男の体は宙に浮いた。意識をコントロールし、滑るように
夜の闇を漂う。眼前に白輝石造りの王宮が近づき、迫る。
男は王宮で一番高い建物の上に降り立った。身を屈め、様子を伺う。
見廻りの兵士が松明を持ち、2人組で巡回しているのが見えた。
「さて、何処が本命だろうか・・・」
広大な敷地を前にしばし途方に暮れるが、建物の造りと見張りの兵士が何処に
重点的に配置されているかを見出し、素早く頭を巡らせる。
潜入出来そうな場所を数カ所絞り込むと、男は再び闇に紛れ夜を渡るのだった。

そこは丁度王宮の中心付近にあたる一角の建物だった。その屋上に面した窓からは
中を伺い知ることは出来ないが、男が覗き込んでいる窓のガラスに迫るまで
積み重ねられているのは書籍だと分かった。暫く中の気配を伺い、無人と悟ると
男は今まで覗き込んでいた窓に右の手のひらをかざし、呪文を唱えた。
力ある言葉(カオスワーズ)に答え、男の手のひらより淡い光が現れ、
窓を覆うくらいの光の円を描くと静かに消える。それを見届けると腰に
くくりつけていた袋からいくつかの器具を取り出し、窓枠へと宛う。
幾通りかの作業を終え、最後に突き刺さっていた器具を引き抜きながら腕に
力を込める・・・と。
音も立てずに窓枠が外れ持ち上がるのだった。

そこは沢山の書籍や巻物が所狭しと保存された蔵書室のようであった。
あまりよく手入れはされていないようで、よくよく見ると
綿埃が積もっている書物もある。
男はざっと室内を見渡すと、先程と同じく呪文を唱え右手をかざした。
淡い光は、今度は室内を覆い尽くすほど広がり、静かに消える。
男はひとつ息を付くと、立ち並ぶ本の山を見上げて言うのだった。
「頼むから次の手掛かりくらいは見つけさせてくれよな。」





「・・・っふぁ〜〜〜〜あふ。」
豪華な、しかし嫌味を感じさせない絨毯を引き詰めた廊下に、眠気も露わな
欠伸が響いた。ぽてぽてと歩む歩調がいかにも力無く、下手をするとこのまま
倒れてしまいそうなほどだ。
「うぅ〜、早くこれを返して寝るですぅ。」
分厚い本を抱えて再び欠伸をしたのは、年の頃は14,5歳の少女であった。
肩で切り揃えられた黒い髪、大きな瞳、小柄な体をナイトガウンが包んでいる。
よく見れば、そのガウンは一般市民には手に入らない上質の素材で出来ていた。
更に、少女が両手で抱えている本も美しい意匠を施された
装丁であることが分かる。
と、少女の足が廊下の突き当たりにある、樫の木で作られた大きな両開きの
扉の前で止まった。

・・・ギィィ
明かりが点在に置かれていた廊下と違い、その部屋の中は闇に閉ざされていた。
それが分かっていたので、少女は口の中で何かをつぶやきながら扉を開けていた。
と、今まで眠気に圧され半眼だった少女の瞳が、瞬時に見開き力強さを宿す。
同時に手のひらに灯すはずで唱えていたものを、室内に向け解き放った。
「明かりよ!(ライティング!)」
少女は部屋の中に本来ならばあるはずのない気配を探り、ついで急ぎ言葉を紡ぐ。
「そこにいるのは分かっています!何処の間者か!?
 ここは王家の者しか入れない場所!
 セイルーンの大奥と分かっていての狼藉ですか!」
力強い誰何の声が響き渡る。きっ、と少女は気配を察した箇所へ翻り、
唱えておいた力ある言葉(カオスワーズ)を気配に向け解き放つ!

が、それより一瞬早く少女の背後から伸びてきた二の腕が、少女の頭を抱え込み
顎を押さえつける形に拘束した。尚も少女は抱えていた本を放り投げ、
抵抗を試みる。しかし、両腕も背面で押さえつけられてしまった。
「う、ぐっ。」
「手荒い真似をしてすまないが、動かないで貰おう。」
勝手に忍び込んでおいて妙な物言いをしたもんだ、と男は思ったがここで
騒いで貰っても困るので、力は緩めずにいる。だが、少々意表を突かれてもいた。
見廻りの兵士にでも見付かったと思ったのだが、
現れたのは小さな少女だったからだ。

気を緩めたのはほんの一瞬だったのだが、この少女にはそれで十分だったようだ。
「ふっ!」
鋭い呼気が吐き出されたかと思うと、拘束されていた後ろ手を振りほどき、
男のむこう臑目掛けて、踵を繰り出した。
「!!!」
衝撃を受けもんどりうって倒れたのは、しかし、少女の方だった。
「っきゅ〜〜〜〜〜〜〜!!??」
「・・・すまんな、その撃退法は俺には効かんからな。」
同情の台詞を吐きつつ、男は懐から小さな袋を取り出した。
踵を押さえ未だうずくまったままの少女の頭上でその袋を微かに振り動かす。
と、何やら複雑な香りを漂わせながら、微量の粉末が少女へと降り注いだ。

「・・・名前は何という。」
油断無く少女の様子を伺いながら、男は袋を懐に戻し、問いかける。
踵に起こった想像以上の激痛に顔を歪めていた少女の表情が、
男に問いかけられた途端、力が抜けたようになった。
「・・・あめりあ・・・」
感情の籠もらない言葉が少女の唇から漏れた。男が振り掛けた粉には
催眠状態を引き起こす作用があったようだ。
「では、アメリア、起き上がるんだ。起き上がって俺の質問に答えろ。」
「・・・はい・・・」
少女はゆっくりと起き上がると、男の前に佇んだ。
「よし、お前さんはこの部屋にはよく来るのか?」
「・・・はい・・・」
「この部屋には何が置いてあるんだ?」
「・・・せいるーんの・・・ぞうしょです・・・」
この答えに男は内心でほくそ笑んだ。

―――白魔術都市(セイルーン)の蔵書か!頼むぜ聖王都さんよ!
一国が抱える蔵書室である。ましてやここは生半可な国ではない。
くどいようだがこの王都は白魔術の本拠地でもある。男の期待は大きく膨らんだ。
「よしよし!じゃあこの中に―――」
男にとって肝心な質問を浴びせようとして、ふと先程の少女の言葉が浮かんだ。
『ここは王家の者しか入れない場所!
 セイルーンの大奥と分かっていての狼藉ですか!』

―――セイルーンの王家の者しか入れないというこの部屋に、入ってきた少女。
では、この「アメリア」と名乗る少女は一体・・・?
ある呼称が脳裏に浮かぶ寸前に、男は扉の向こうから再び何者かの気配が
この部屋に向かって近づいてくるのに気が付いた。
「ちっ!」
舌打ちひとつするが、躊躇することなく少女が放り投げた書籍をつかみ取り、
少女に持たせる。更に、虚ろな瞳のまま立ちつくしていた少女の眼前に、
小さなコインがぶら下がる鎖を振り動かし始める。
少女にだけ聞こえる位の小声で、男は催眠の最後の仕上げを仕掛けるのだった。
「お前さんはこの部屋に入ってから、誰の声も聞かなかった。
 誰の姿も見なかった。誰にも会わなかった。
 この部屋の扉が開くとき、お前さんはこの部屋であったことを
 忘れてしまうんだ。いいな。」
「・・・はい・・・」





「アメリア様、アメリア様?」
コンコンと、樫材で出来た扉からノックとともに、少女を呼ぶ声がする。
だが、少女は返事をすることはない。虚ろな瞳のまま、書籍を抱え
扉を凝視している。
「アメリア様!?」

ガチャ!
声とともに扉が開かれ、初老の男が顔を出した。
「クロフェル?どうかしたの?」
そこには大きな黒い瞳をぱちくりとさせた少女が、初老の男を見つめていた。
室内にはこの少女しかおらず、少女もまた特に変わった様子もない。
「いえ、こちらの部屋にアメリア様が向かわれていたのをお見受けしたあと、
 私が用事を済ませて戻る際に、女中頭がアメリア様を見かけなかったかと
 申しましたので、私が呼んでくるとこちらに伺ったわけですが・・・」
「そう、すぐに戻るわ。この本を戻しに来たのよ。」
「そうですか。・・・はて?何やら話声が聞こえたのは気のせいですかの?」
小首を傾げて少女に問いかけると、少女は満面の笑みを浮かべて答えたのだ。
「やぁね、じいったら!まだ惚けるには早いんじゃないの?」





闇に紛れるように素早く、白魔術都市の王宮から遠ざかる影があった。
男の表情は顔を覆うマスクによって伺い知ることは出来ない。
だが、深く被った外套から覗く髪は、金属質な光を放ち、ぐっと握られた拳は
あろうことかあろう事か青黒い色をしている。
「今回は失敗したが、何、又忍び込めばいいだけのこと。
 ―――次こそは、必ず!」

男は知らなかった。次にこの聖王都を訪れるのは暫く先になることを。
そして、肩で切り揃えられた黒髪の、大きな瞳の少女と再会することに
なるということを―――――

それは、また別の機会に語られることになる・・・

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ここまで、私の下手の横好きにお付き合い下さり有り難うございます。
どのへんがゼルアメ?と突っ込まれるかと思いますが(いやホントに・・・)
取りあえず、勝手にでっち上げた2人の出会い編でありました。
読み苦しいところは多々ありと思いますが、いかがでしたでしょうか?

小説を読み返していて、この2人の出会い方は大きな事件の合間で、
慌ただしい中の出来事なので、致し方ないかとも思ったんですが、
なんか、「あっさり〜」な印象だったものでして(笑)。

かたや合成獣、かたや大国の姫巫女様なんだけど、お互いに
驚くことなし!というか、語られていないだけなんですけどね(苦笑)。
そんじゃあー、勝手に・・・とばかりに偽造(つく)ってしまいました。

もうすこし、らぶらぶ(笑)している2人も考えてみたいので、
またこちらにお邪魔するかもしれませんが、その時は
また読んでやっていただければと思っております。でわでわ。

魚の口

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2373幕間で妄想。その1。魚の口 10/24-00:39
記事番号2370へのコメント

「崩魔陣!(フロウ・ブレイク!)」
辺りをつんざく声が、更に奥の通路から響いた。
男は次の瞬間訪れたまばゆい閃光にも怯まず、目標に向かい突き進み、
右手で握り締めたブロード・ソードを閃かせる!
黒渦蛇と人を合成させた獣人も、グレート・ソードを男目掛けて一閃させた!
どっ!
男が飛び込んできた勢いまでは殺せずに、獣人は男とまともにぶつかり合い、
砂煙を上げ倒れ込んだ。
やがて、舞い上がる砂煙が晴れた頃、立ち上がる人影がひとつ。
「助かった。礼を言う。」
奥の通路から現れた気配に向け、簡単な言葉を掛ける。

その巫女の略装を纏った少女と目があったとき、この男、
ゼルガディスは軽い目眩を覚えずにはいられなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


とある宗教集団を、正確には異世界黙示録(クレアバイブル)の『写本』を
持って逃げた宗教集団を追い、マインを出てから二日。
夕暮れが迫るとある村の、ごく普通の宿でのこと。

「ゼルディガスさん!」
男は些かしかめ面で、下階からやってきて自分の名を誤って呼び、
そうと気付かずやたら元気に手を振って近づいてきた少女を睨み付けた。
「・・・ゼルガディスだ!」
「あ、またやっちゃった、そうそう!ゼルガディスさん。」
大して気にしたようでもなく、軽く訂正だけして男の側に立ち止まる。
肩で切り揃えられた黒い髪、大きな瞳。
淡いクリーム色の法衣を着た少女、アメリアはにっこりと男に向かって微笑んだ。
「下で皆さんが待ってますよ?夕飯、食べないんですか?」
「・・・悪いが、俺は調べ物がある。出掛けるからと
 リナにでも言っといてくれ。」
「あ、はい・・・って。えーー、ご飯も食べずにですか!?
 夕飯を食べてからにしましょうよ、私もお手伝いしますし。」
歩きだそうとするゼルガディスの左腕を慌てて掴み、引き留めようとする。
「いや、一人の方が捗るから結構。」
「え、でも・・・ゼルガディスさ・・・」
「離してくれないか、お姫さんよ。」
尚も止めようとするアメリアに、ゼルガディスは冷めた視線を投げつけた。
「数刻で戻る。」
短くそう告げ、自分の腕を掴んでいたアメリアの手をやや乱暴に離すと、
ゼルガディスは少女の脇をすり抜けた。
慌ててアメリアが振り向いたときにはすでに男の姿はなく、
宿の裏口へと続く階段から足音が遠ざかってゆくだけであった。



虫の鳴く声が静かに鳴り響く森の中、廻りの木々よりも大きく成長した
一角があった。村からは半刻も離れていない場所であったが、
もちろん人影はない。一人の男を除いては。
昼間、村人に行方を追っている集団の聞き込みをしているときに、
この村の近くに古の国の遺跡があると聞き、男はやってきていた。
「この辺か・・・」
鬱蒼と下草が生い茂る地面には、ところどころに石柱が崩れ転がっている。
男は腰からブロード・ソードを鞘ごと抜き取り、口の中で呪文を呟く。
「明かりよ(ライティング)」
力ある言葉(カオスワーズ)が静まり返った森に響くと同時に、
掲げ持った剣の鞘の先端に淡い光が灯る。
淡い光に現れた男の姿は、とがった耳、金属質の髪、青黒い肌。
人とは異質な物と同化させられた姿・・・ゼルガディスであった。

灯した光によりはっきりしてきたこの一帯は、遙か昔にうち捨てられた
祠か何かのようであった。ゼルガディスは手早く辺りを伺うが、
特に目を引くような物は見あたらない。辛うじて形を伺える祭壇の
様な石碑に近付いてみた。
「お、っと。」
バランスを崩して思わずよろめく、下草に覆われた地面に隠れていた
岩でも踏んだようだ。
転倒を防ごうと空いている左腕で、まだ形の残っていた石柱に寄り掛かる。
ガラララッ
男の見た目以上の重さに石柱が耐えかね、幾らかが崩れ落ちた。
その己の左腕を見て、ゼルガディスは先程の宿のことを思い出した。

この、温もりをなくした腕にからみついた白くて細い暖かな腕。
この、人ではなくなった男に何の躊躇いもなく微笑み掛けた少女。

あの日、この身を元に戻す方法を探しに忍び込んだ、聖王都の王女。
アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。
少女の身分はあの日の翌日、聖王都を抜け出た付近の村で王女の容貌を
詳しく知り、ゼルガディスは確信するに至った。

幸いなことに、ゼルガディスが仕掛けた催眠術は今も効果が続いていて、
アメリアはセイルーンの蔵書室で、ゼルガディスに会っていることを
覚えてはいない。勿論思い出させるつもりもないのだが。
ゼルガディス自身意識はしていないが、ついつい少女との接触を極力
避けようとしている節がある。この姿のためもあるが、先の出来事を
何らかの瞬間に思い出しはしないかという思いもある。
「しかし、あんな度胸の据わったお姫さんだとわな。」
王都に忍び込んだ賊に対して、悲鳴を上げるどころか向かってこようとし、
しかも、今は護衛も付けず、あのリナとともに旅をしているときたもんだ。
この忌まわしい姿を初めて(本当は二度目でも)見ても、喧しく騒ぐことなく、
(手早くこの姿にされた経緯をリナが捲し立ててはいたが)
「宜しく」と握手までしようとした。

知らず知らず口の端に笑みが張り付いていた。
「・・・馬鹿なこと考えずに、さっさとこいつを片づけるか。」
目の前にしたまま、解読することなく照らし続けていた石碑に意識を集中しつつ、
しかし、ゼルガディスは言わずにはいられなかった。
「変わったお姫さんだ。」



大した収穫を得ることもなく、早々に宿屋戻ってきたゼルガディス。
自室に戻ろうと裏口から階段をあがり、静まり返った廊下を渡っていると、
反対側から人の気配がしてきた。素早くフードを目深に被りマスクを引き上げる。
「・・・あ、お帰りなさい、用事は済んだんですか?」
ぱたぱたと近寄ってきたのは、変わったお姫様・アメリアだった。
「あぁ。リナともう一人は?」
やって来たのがアメリアだったからか、引き上げたマスクを戻しながら
ゼルガディスは問い掛けた。
「リナさんとゼロスさんは下の酒場で、リナさんが買い取ったっていう
 呪符(タリスマン)のことで、討論会しながら飲んでましたよ?」
「ふん。あのくそ坊主から何を買ったんだか。」
台詞にも表情にも含みを持たせてゼルガディスは毒づく。
男の言葉にアメリアは苦笑を漏らした。
「そんなに怪しい方なんですか?ゼロスさんて?」
その言葉に「怪しさ大爆発」と言いかけて、少女が今まで手に持っていた盆から
香しい香りが立ちこめていたのに気付く。
ゼルガディスの視線にアメリアが気付いて、少女は思い出したように
盆を覆っていた白い布巾を外した。
「これ、宿の女将さんに頼んで、軽く作って貰ったんです。
 タイミング良くゼルガディスさんが帰ってきて良かった、
 お腹空いてません?まだ、暖かいですよ?」

盆に載せらていたのは、きのこのシチューと小さめのミートパイだった。
食欲をそそる香ばしい匂いと、暖かさを感じる白い湯気。
その向こうで少女はにっこりと微笑む。
面食らって、ゼルガディスはぽかんと口を開いていた。
「?ゼルガディスさん?」
「!・・ああ。」
戴こう、と続けようとして。
ぐぐぅぅぅう。

腹の虫の方が正直にネをあげていた。自然、顔面が赤くなる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(滝汗)」
「・・・もう少し貰ってきましょうか?」
漏れ出る笑いを隠そうともせず、アメリアはゼルガディスの顔を伺う。
からかわれたと、少女からの視線を感じながらもそっぽを向いて、
わなわなと肩が震えながらも、ゼルガディスは何とか
これだけは少女に伝えることが出来た。
「こっこれだけでいい!」

わしっとアメリアから盆を奪い取るように受け取ると、ゼルガディスは
礼の言葉も忘れて逃げるように足早にその場から立ち去る。
自室の扉を乱暴に開けると勢いよく閉めた。
その様子に廊下に取り残されたアメリアは、忍び笑いを
漏らせずにはいられないのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

この後、一行はこの世界に再び現れた魔獣と死闘を繰り広げることになるのだが、
この時はまだ知る由もないのである。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

またまた、つらつらと書き連ねて参りましたが、
ここまで読んで戴きまして、有り難うございます。
今回は、本編の幕間を設定省みず考えてしまいましたが、
いかがでしたでしょうか?

後で、本編と比べて粗など探してみて下さい・・・(開き直り?)
でも、こういう幕間を想像(妄想?)するのも楽しいんですよね。
勝手に願望だけが先回りするので、辻褄を合わせるのは難しいんですが(苦笑)。

まだ、もう少し妄想ネタが残っているので、懲りずに
こちらにお邪魔するかもしれませんが、また
お付き合い願えればと思います。でわでわ。

魚の口









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2376Re:幕間で妄想。その1。うさびん 10/26-00:10
記事番号2373へのコメント

こんにちは〜。はじめまして、うさびんともうします。
ゼルアメの匂いをかぎつけて、やってきました。

はじめ、原作っぽいゼルがかっこいい〜と思ったら、いきなり腹の音させちゃったり
して、ちゃんとお茶目な部分があって思わず笑ってしまいました。それとゼルの帰りを待っていた
アメリアがすでに新妻のようで微笑まし〜ですね。
 それから、設定なんてそんな気にしなくていいと思いますよ?原作とアニメだってけっこう違うことですし。
私もアニメの設定とかって制作者の人が勝手につくるものだから、「私ならこうするのに」っていうのが
けっこうあってストレスが溜まることがあります。制作者に喧嘩売るつもりはないですが。
とにかく書いてて気持ちよければいいんですよ、たぶん。無責任ですが。
小説書いたこと無いくせに(妄想はよくしますが)偉そうなことを言ってしまいました。聞き流して下さい。

今後どんな妄想が展開されるのかとても楽しみにしていますので、がんばって下さい!
では。

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2377ひゃ〜〜〜〜(滝汗)。魚の口 10/26-14:43
記事番号2376へのコメント


>こんにちは〜。はじめまして、うさびんともうします。
>ゼルアメの匂いをかぎつけて、やってきました。

初めまして、魚の口と言います。うう、感想を戴けるなんてっ!
ありがとうございますぅ〜〜〜〜(感涙)

>はじめ、原作っぽいゼルがかっこいい〜と思ったら、いきなり腹の音させちゃったり
>して、ちゃんとお茶目な部分があって思わず笑ってしまいました。それとゼルの帰りを待っていた
>アメリアがすでに新妻のようで微笑まし〜ですね。

アニメも一通り見た口なんですけど、最初はやっぱり「かっこつけ」の
ゼルやんかなー?と、思ってましてあのような登場になりました。
これからはどんどん崩れる一方ですかね(笑)。
アメリアが新妻(笑)なのは、すでに願望が全面に出ている為でしょうか?

> それから、設定なんてそんな気にしなくていいと思いますよ?原作とアニメだってけっこう違うことですし。
>私もアニメの設定とかって制作者の人が勝手につくるものだから、「私ならこうするのに」っていうのが
>けっこうあってストレスが溜まることがあります。制作者に喧嘩売るつもりはないですが。
>とにかく書いてて気持ちよければいいんですよ、たぶん。無責任ですが。
>小説書いたこと無いくせに(妄想はよくしますが)偉そうなことを言ってしまいました。聞き流して下さい。

そう言って頂けるとほっとします。小説とアニメの良いところ(好きなところ?)
を足して2で割ったような、そんな曖昧なところもありますが、
出来れば、そんな感じで続けていきたいと考えてもいます。(←希望的観測?)

>今後どんな妄想が展開されるのかとても楽しみにしていますので、がんばって下さい!
>では。

うさぴん様、本当に有り難うございました。少しでも楽しんで頂けるモノを
目指しますので、どうかこちらそこ宜しくお願い致します。
でわでわ。

魚の口

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2380幕間で妄想。その2。前。(すみません)魚の口 10/27-00:56
記事番号2373へのコメント

カルマート公国の北、この国の各領主が治める主要の城下町を繋ぐあるひとつの
街道を四名の若い男女が、特に急ぐふうでもなくのんびりと歩いていた。
うち、男二名は剣士のようで、両名ともに腰に剣を帯びている。
女のうち一方は魔道士のようで、地面にまで届きそうな闇色のマントを
纏っていた。もう一方は、淡いクリーム色の略装であるが法衣を
着ていることから巫女とみえる。

「なー、リナぁ次の町か村まで、後どれくらいだー?」
男のうち、金色の長髪を靡かせた方が男よりももっと幼そうな女魔道士に
声を掛けた。リナと呼ばれた女魔道士が面倒くさそうに金髪の男の方を
振り向きながら、栗毛の髪を掻き上げ苛立た気な口調で答える。
「あーもうっ!何回言わせれば分かるのよあんたはぁ!!
 後半刻で次の町だから、もう少し我慢しろって言ってるでしょう!?
 あんたが腹減った腹減ったっていうから、あたしまでお腹空いて
 きちゃったじゃないのよ!」
「だぁってよー・・・」
右手で腹の辺りを押さえながら、金髪の男はせつなさそうにぼやく。
「でも、リナさん。もうすぐお昼だから仕方がないですよ、私も
 ガウリィさんじゃないけど、お腹空いて来ちゃいました。」
リナの隣を歩いていた、黒い髪を肩で切り揃えた、こちらもリナ同様
まだ幼さの残る少女が金髪の男、ガウリィに同調する。
と、それまで三人の会話に加わるわけでもなく、ただ、黙々と歩を進めていた
もう一人の男が、口を開いた。
「アメリアはともかく、リナやガウリィの旦那は途中の茶屋で、
 その店の名物つかいう草だんごをたらふく食ってるだろう。
 それでいて、また腹が減ったっていうのか?」
軽い揶揄を呆れた口調でリナへと向ける。
この男、白とも見える淡い渋紙色のマントにローブ、同じ色のフードを目深に
被り、ご丁寧に顔の半ばまでをマスクで覆っている。
「う、うっさいなぁゼルはぁ!あの草だんごはおやつだから良いの!
 それに、あの茶屋からどんだけ歩いたと思ってるのよ!」
「大してきていないと思うがな。」
思わずムキになって食って掛かったリナと、白づくめの男、ゼルガディスとを
交互に見ながら、ふと、ガウリィがのんびりと声を上げた。
「おっ、あれはなんだぁ?」
前方に視線を向けたガウリィにつられるように、四人はかなり離れた街道を
先ゆく集団に気が付くのだった。

先をゆく集団は、二頭の騎馬に先導された一台の幌馬車、その後ろを付いてゆく
数名の人間とで、構成されていた。
二頭の騎馬と後ろをゆく幌馬車には、同じ意匠を施された旗が翻っている。
その意匠に誰よりも先に気付いた者がいた。
「!あれはもしかしたら・・・!」
「アメリア!?」
言う也り駆け出したアメリアに、他の三人も驚きを隠せずに後を追った。
近付いて行くにつれ、次第にはっきりと目に映るようになる豪華な造りの御旗。
幌馬車の後ろを歩く者達が、先を走るアメリアに気が付いたようで振り向く。
皆、同じ様な長い丈の法衣を着ている。うち、その中でも最も小柄な老人が
驚きの表情で、近付いてきた少女を見つめた。
「・・・おぉっ!これは、意外なところにおいでになったのぉ、姫様!」
「やっぱり!布教巡業はこんな所まで来ていたんですね!
 久しぶりに会えて嬉しいー、元気そうでよかった! ゼル爺!」

久しぶりの再会を、アメリアと小柄な老人はお互いに喜んでいるようである。
その後ろでようやく追いついてきていたリナ達は、おもわず最後に辿り着いた
白づくめの男を振り返ってしまった。
「ゼル・・・爺ぃ・・・?」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「いやぁ、悪いですねぇこんなにご馳走になっちゃってぇ(はあと)」
テーブルの上に乗り切れないほどの料理の数々を前に、リナはご満悦であった。
その隣ではガウリィが鶏モモ肉の香草焼きにかぶりつきながら、頷いている。
「なに、姫様がお世話になっているとのこと。宿屋の食堂ですまなんだが、
 たんと食べてくんなされ。」
ひょひょひょと、妙な笑い声だが人の好い笑みを見せ、ゼル爺こと、
リカルド=ゼルゴートは満足そうに頷いた。
「リナ達の食べっぷりを見て、まだ笑っていられる御仁を見るのは初めてだ。」
フードは被ったままだが、マスクを外してスモークサーモンのサンドイッチを
口に運んでいたゼルガディスが呟く。
「ああ見えて、昔は凄い大食漢だったらしいんですよ。」
隣に座るゼルゴートに視線を投げつつ、アメリアはゼルガディスの疑問に
答えて見せた。
今は小柄なこの老人からは想像も出来なかったが、ゼルガディスは視線を
リナに向け、ちょっとだけ納得の表情になった。

一行は先程の街道から程なくの、カリテの町に来ていた。
この付近の町の規模ならば中堅処といった町である。これといった観光名所
があるわけではないが、この町には赤の竜神(スィーフィード)の神殿があった。
地方の町にしてはそこそこ大きな神殿で、ちょっとした祭りなどを
執り行ったりして見物客を招きつつ発展してきたので、この神殿が名所と
いえるかもしれない。
「この町は白魔術都市(セイルーン・シティ)と姉妹都市の提携をしていて、
 国と国の親睦を深めるのにも、大きな役割を果たしているんです。」
オレンジジュースを口に含んでから、アメリアはにこやかに語りだした。
「セイルーンでは年に一回、赤の竜神(スィーフィード)を讃えたお祭りが
 開かれます。十年に一度は国を挙げてのお祭りなので、王都で
 開催するんですが、それ以外の年はいくつかの町や村が協賛して持ち回りで
 行っていたりするんです。」
「ふーん、そう言えばなんか聞いたことがあるような気がするわ。」
アメリアの話を受けて、リナが右手に帆立のクリームスパゲティを
巻き付けたフォークを持ちつつ、口を挟む。
「十年ごとのは、大がかりな祭りで有名だからな。」
ゼルガディスの言葉に大きく頷きつつ、アメリアは更に続けた。
「それでですね、そのお祭りをこうした近隣の姉妹都市でも開催しようと
 セイルーンの大神殿の神官を派遣して、こちらの神殿の神官や巫女達と
 協力してお祭りを開いて歩いているのが、ゼル爺の役割なんです。」
「へー、ゼルゴートさんて、偉い神官さんなんだな。」
ポテトフライをぱくつきながら、ガウリィが素直に感嘆の声を上げる。
「なに、旅から旅の、放浪神官じゃよ。」
目を細めつつ少しだけ控えめにゼルゴートは答えた。
なぜかアメリアまでがこの時、ほんの一瞬小さく俯く。
目ざとくゼルガディスがそれに気付くが、リナが突然大きな声を上げた。
「じゃあさ、じゃあさ、この町にゼルゴートさん一行が来たって事は・・・!」
いつになく瞳をきらきらとさせたリナが、ゼルゴートに向かって
身を乗り出すように立ち上がった。老人もリナの期待を裏切ることなく続ける。
「おぉ、このカリテの町で明日から赤の竜神(スィフィード)様の祭りを
 開くんじゃよ。」
「ぃやあったね!この前まですっきりしない事件でストレス溜まってたのよ!
 赤の竜神(スィーフィード)のお祭りってんじゃあ、結構賑やかなんでしょ?」
「はい!最初は式典用の聖歌などを歌ったりしますが、その後は伝説の
 神魔戦争を模した演舞が行われるんですよ。」
リナの嬉しそうな表情につられたのか、アメリアはにっこり笑って頷いた。
「露店もたくさん出るのか?アメリア!」
山積みになった沢山の皿を前にして、ガウリィが食欲魔人の二つ名に相応しい
台詞を叫んだ。どっとその場がわき上がったが、ゼルガディスだけは
ただ、じっと腕組みをしたまま座っていたのだった。 



その夜、カリテの町の中心部に建設されている演舞場では明日の祭りのための
準備と同時に、前夜祭が町の主催で行われていた。
町の所々に松明が焚かれ、薄暗い町並みにはいつもの夜とは違う雰囲気が訪れる。
町の人間もこの祭りを楽しみにしている者が多いのか、カップルや家族連れで
会場へと移動している。
演舞場へと続く主な道路には、土産物や飲み物、食べ物などを売る露店が
立ち並んでおり、大いに人を集めている。
リナ達と、ゼルゴート一行が泊まるこの宿にも、この祭り目当ての客が多いのか、
廊下にはひっきりなしに歩く足音が響いていた。
コンコン

短いノックの音が、賑やかな町の様子を二階の自室の窓から眺めていた、
ゼルガディスの耳に届いた。
「ゼルガディスさん?」
続いて、扉の向こうからアメリアの声が聞こえてきた。
ゆっくりと扉の前まで来ると、ゼルガディスは鍵を開け少しだけその扉を開く。
「なんだ?」
「あの、前夜祭見に行きませんか?リナ達さんも一緒に行くんですけど。」
いつものようににっこりと微笑んで、アメリアはゼルガディスの返事を待った。
「いや、俺は遠慮しておこう。こういう賑やかなのは何かとまずいしな。」
「でも!前夜祭なら夜ですし、廻りも薄暗いから目立つことはないですよ!
 明日の本祭は神殿側の主催ですが、この前夜祭は町の側の出し物なので
 私も何が行われるのかは知らなくて!見応えのある出し物が
 予定されてるそうなんですよ!!」
大きな瞳で『一緒に行きましょうよ!』と訴えている。その姿が
まるで散歩に出掛けようと主人を誘っている子犬を連想させた。
「折角だが・・・」
「アメリアー!?急がないと始まっちゃうみたいよー!
 付き合いの悪いヤツなんかほっといて、早く行こうよー!!」
誘いの言葉を再度断ろうとしたゼルガディスの台詞を奪い取って、
痺れを切らしたのであろうリナが、下階から叫んでいるのが聞こえた。
「あーん、今行きます!もうちょっと待ってくださーい!!」
「待たさないで良いから、お姫さんも行ったらどうだ?始まるぞ。」
少しだけ、意地悪な要素を含んだ台詞をアメリアに向かってぶつける。
すると、ぷくぅっと頬を膨らませ、ちょっとだけ悔しそうな口調で
アメリアが訂正した。
「『お姫さん』じゃなく、『アメリア』です!もう、いいです!」
最後の台詞が効いたのか、ぷいっとこちらに背を向けて扉の前から姿を消した。
どすどすと、階段を降りてゆく足音を見送り一息つくと、ゼルガディスは
扉を閉めようとした。
「つれないのぉ。ぬしは我らが姫の誘いを断るほど、おなごには
 不自由していないのかの?」
声はゼルゴートだった。
ゼルガディスは閉じかけた扉の隙間から、小柄の老人がこちらに向かって
手のひらをひらひらと振っているのを見る。
少々うんざりとした気持ちがよぎるが、ふと思い当たることもあって
老人の思わぬ訪問にゼルガディスは思い切って扉を開いた。
「セイルーンの老神官殿のような方が、俺のような胡散臭い男に
 どういったご入り用でしょうか?」
「そう苛めなさんな。ほれ、こいつを町のお役人から贈られての、
 他のモンは明日の準備で忙しいようじゃし。ぬしは出掛けんのじゃろ?
 ならば、老い先短い老人のささやかな楽しみに付きおうてもらえんかいの?」 この国の銘酒とおぼしき酒瓶を振りつつ、ゼルゴートは飄々とゼルガディスの
放った言葉の牽制球を打ち返す。

―――食えない爺さんだ。伊達に年をくってないと言うことか。 

窓の外からは微かに打楽器が打ち鳴らされる音が、夜の闇を渡って鳴り響いた。
十四夜の月明かりが町並みを照らし、前夜祭を盛り上げる一役を担う。
ゼルガディスは、部屋にひとつしかない飾り気のない椅子を老人に勧め、
自分はベットへと腰を下ろす。

備え付けのグラスを杯として、合成獣の男と白魔術都市の老神官は
奇妙な酒盛りを始めるのだった。


【幕間で妄想。その2。後。へ】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うう、すみません。ここでちょっと力尽きましたので、続かせて下さい。(滝汗)
後半は2人のゼルやん(笑)のかけあいと、本祭の様子を書く予定です。

リナとガウリィももう少し『らしく』書きたいのですが、
なかなかうまくいかないですね。(反省)

出来るだけ、すぐに繋げますので少しお待ち頂けたら嬉しいです。
うう、眠いよう。でわでわ。

魚の口

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2387幕間で妄想。その2。中。(あれ?)魚の口 10/28-02:17
記事番号2380へのコメント

コポポポポ

しんと静まり返った室内に、空の杯に薄紅色の液体が満たされる音が響いた。
開いた窓からは定期的に、躍動的なリズムで奏でられた演奏がこだまする。
時折すっかり夜の帳が降りた闇をぬって、人々の歓声が聞こえたりもした。

ゼルガディスはこの室内を支配する沈黙に次第に苛立ち、自らの口火でもって
薄紅色の液体を満たしたグラスを揺らす小柄な老人、ゼルゴートに切り出した。
「それで、この俺に一体何の用なんだ。」
先程までの余裕な態度は薄れ、部屋に入ってから瞑目したままの
老人を睨み付ける。その言葉にゼルゴートは閉じた瞳をうっすらと開くと、
又、すぐに何事もなかったかのように目を閉じた。
ゼルガディスは今、肌の色、とがった耳、金属質の髪を隠してはいない。
自室に居たわけだし、特にこの老神官が驚いたところで構うものかと
開き直った意味合いもあったのだが、この年老いた男は驚くわけでもなく
ただ黙ってこの部屋に入ってきた。
捕らえどころのない老人の態度に、ゼルガディスは全身からぴりぴりとした
空気を発しながら唸った。
「―――言いたいことがあるならはっきりと言え。
 初めに聞いておくが、あんたはまさかこの合成獣(おれ)に、
 あんた達の国のお姫さんに『これ以上近寄るな』等と
 馬鹿なことを言うつもりじゃないだろうな!?」
「・・・それはどういうことかの?」
「生憎と俺が連中と旅しているのは、あの女魔道士の方に付いて廻っていた方が
 俺の探し求めている物に近付く可能性が高いから、只それだけだ。
 あんた達のお姫さんに付き纏っているわけじゃない。信用がないなら
 とっととあのお姫さんを連れて、国に帰ってくれればいい!」

一気に捲し立てたゼルガディスのかなり乱暴な台詞を聞いて、ゼルゴートは
ここに至ってやっとまともな反応を寄越した。
「やれやれ。一体ぬしはさっきから何をごちゃごちゃと・・・
 折角のカルマート公国の誉れ高き美酒の味を不味うしてくれおって。」
「な・・・!?」
「わしは美味い酒が手に入ったが一緒に飲む相手がおらなんだで、
 付きおうてくれんか、そう言ったはずじゃがの?」
面食らったままのゼルガディスに、例によってひょっひょっひょと
妙な笑い声を浴びせて、ゼルゴートは酒瓶を傾けゼルガディスの方に勧めた。
少しだけ冷静さを取り戻した表情で、ゼルガディスは勧められるがままに任せる。

「・・・ぬしは何故に、自分で自分を貶めるようなことをしておるのじゃ?」
口調には取り立て責めるような声音が含まれていたわけではないが、
ゼルガディスは老人の台詞に、ぴくりとだけ肩を揺らした。
「・・・ぬしの容貌に気が付いている者はわしくらいなもんじゃ、
 他の者はこの町に着いてから、明日の本祭の準備に追われていて
 姫様にだって簡単な挨拶くらいしか交わしておらん。」
「・・・・・・」
「フィリオネル殿下の時代から、王族の方々のお忍びの旅には
 わしら神殿の者達も慣れておるからの。
 ま、王族の方々に『諸国を旅して廻り世の中の理を見て歩け。』
 と提唱申し上げたのは何を隠そう、このわしなんじゃ。」
ふと、その小柄な胸を反らして少し誇らしげに片目を瞑ってみせるゼルゴート。
黙って老神官の話を聞きつつ、薄紅色の液体を味わっていたゼルガディスは、
しわしわの年老いた男にウィンクされても嬉しくもないので、
口の端だけをあげ皮肉な笑みで返す。まぁ、相槌ととれなくもない。
小馬鹿にされたとしてもおかしくない態度だったが、老神官はとりたて
気にするわけでもなく、しかし、今度は自嘲めいた笑みを張り付け続ける。
「じゃが、それがある日、フィル殿下の御子であり、姫様・・・アメリア様の
 姉上でもある、グレイシア様が行方の分からぬ放浪の旅に出てしもうての。
 ・・・無責任な発言をしたとして、責任を取りこうして近郊の国々を
 布教して廻りつつ、グレイシア様を捜す任を任されたというわけじゃよ。」

昼間、その手の話題が出たときにこの老人とともに、アメリアが俯いたのには
そんな事情があったのかと、ゼルガディスは口には出さずに思い浮かべた。
「・・・早い話、『国々を廻って布教活動』というのは、体の良い
 左遷って事か。」
「口の減らないヤツじゃのぅ、ぬしは。ま、そんなことじゃな。」
敢えて口に出さなかった言葉を選んだゼルガディスに、別に怒り出すわけでもなく
ゼルゴートは又、酒瓶を傾けた。
「それにしても、ぬしは自分から敵を作ってゆくタイプのようじゃのう、
 なにをそう尖って生きておるのじゃ。もっと、こう面白可笑しく
 楽にすればいいものを。」
「簡単に言ってくれるな。俺のこの姿で、何処をどうすれば面白可笑しく
 過ごせると言うんだ。」
老神官の台詞に、鼻で笑ってゼルガディスは手にした杯を一息に飲み干した。
「気の持ちようじゃて、そんなひねくれた負の感情ばかりを
 ばらまいているようじゃ、自然、何事にも裏側ばかり見るようになる。
 そりゃ、ぬしが並の生き方をしてきたとは思わんが、しかしじゃ!
 うちの姫様を見てみい、何事にも前向きに生きておられるじゃろ?」
「前向きも前向き。正義とやらに心酔しすぎで、自分の危険も省みずに
 悪事を働くごろつきどもに突っ込んで行く、命知らずのお姫さんだがな。」
即答してきたゼルガディスの台詞に、流石に鼻白むゼルゴート。
「・・・ぬしは全く・・・姫様とは正反対の性格じゃのぅ。」
ぶつぶつ呟きながら、自分の杯に酒瓶を傾ける。ふと、その手が止まり
多少なりとも言い負かした気分でいたゼルガディスの顔を、
まじまじと眺め出した。

「・・・ふむ。もしかすると、ぬしが姫様の側にいることになったのは
 良い傾向かもしれんのう。」
「?なんの話だ。」
突然の話題の転向についてゆけず、思わず眉根を寄せたゼルガディス。
「ぬしはあの栗毛の魔道士殿と、金髪の剣士殿の二人をどう思う?」
本当に突然話題を変えだした老神官の、話の意図が読めずに少々戸惑う。
「リナとガウリィの旦那を?・・・別に、見た目はあれほどでこぼこなのに、
 敵に回したらこれほど恐ろしく厄介なコンビはいないだろうと・・・
 それがどうした。」
訳が分からずも答えたゼルガディスの言葉に、満足そうにゼルゴートは頷く。
「んむ。わしはあの二人の実力を目の当たりにしてはおらなんだが、
 あの二人がお互いを補おうて余りある間柄なのは、見て取れる。」
リナがこの場にいたならば、恐らく炸弾陣(ディル・ブランド)あたりを
ぶちかますであろう台詞をさらりと言ってのける老神官。
ゼルガディスは何となく、嫌な予感がしてきた。
「互いの弱点を知り尚且つ、それを補いつつも互いの有効な力を大いに伸ばす。
 何も戦いの中だけに言えることではない。己の器を磨き合う、
 そんなことにも置き換えられるとは思わんかいの?」 
「・・・酔っぱらい爺さんの戯言はこれくらいに・・・」
なんとかこの場を治めようと立ち上がったゼルガディスの左腕を押さえて、
老神官は小首を傾げつつゼルガディスへ視線を向けた。
「ぬしだって、姫様のことをまんざらでもないと思ってはおらなんだか?」
「!誰がっ!!」

ばぁぁーーん!
乱暴に扉が開いて、三人の男女が室内に転がり込んできた。
「やっほう、ぜぇるぅ!?あんたがこないうちに前夜祭終わっちったわよぅ!」
「面白かったんだぞぉ、なんにもないハンカチとか帽子から、鳩とかウサギとか
 出てきたり・・・そういやぁ、あの串焼き、んまかったなぁ。」
「ぜるがでぃすさーん、これお土産ですぅ。これ、中を覗くとすぃーふぃーど
 様の紋章がくるくるまわって、すっごいきれいなんですよぉ!」

合成獣の男と、セイルーンの老神官の奇妙な酒盛りに
終演の知らせを告げに来たのは、程良いアルコールによってテンションの
上がったまま帰途についたリナ、ガウリィ、そして今話題に上りつつあった
アメリアであった。この様子からすると、前夜祭に行く行かないと
ゼルガディスと押し問答していたことなど、忘れているようだ。
形はどうあれ、これでこの妙なことを吹き込もうとしていた老神官から
解放されると、ほっと息を付くゼルガディスだった。
まだまだ、興奮覚めやらぬ三人と一緒に、老神官を部屋から押し出し扉を閉める。
「ったく、好き放題言ってくれやがって!」

扉に背を預け、邪険に言い放つのだが、あの時、男の顔に朱が浮かんだのを
老神官が見逃すはずがないのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

赤の竜神(スィーフィード)の降誕を祝って行う年に一度の祭りは、
昨夜の前夜祭とはうって変わって厳かに準備が進められていた。

本祭は正午の鐘の音とともに、演舞場から程近い位置にある神殿より
数十名の神官・巫女達が幾つもの小さな鈴の付いた錫杖を手に、
町を練り歩きながら演舞場へ向かうところから始まる。
正午の鐘が鳴るまで、後二刻ほど時間があるのだが、演舞場までの
あらかじめ定められたルートには、早くも沿道に人垣が生まれつつあった。
神殿の建物の窓から、そんな町の様子を伺っていたゼルガディスは、
自分を呼ぶ声に振り向いた。声の主はリナであった。
「もうあの娘の準備は出来たみたいよ。ガウリィも臨時に手伝うことになったけど
 あのクラゲが覚えられるのかしらね。」

神殿の一室を宛われて、泊まっていた宿からリナ達四名は移動してきていた。
今朝、朝食を食べに下りてきた食堂で、待っていたのは例により
ゼルゴートであった。他の神官達はすでに神殿の方へ移動しているという。
全員の注文を取り終えた、宿の主人がカウンターへ引き込んだのを見送ると、
やおらゼルゴートがアメリアの方を向いて、すまなそうに申し出る。
「姫様、突然で誠に申し訳なんだが、ひとつ頼まれてはくれませんかの?」
「?どうしたの、ゼル爺。」
目を丸くしたアメリア同様、他の三名もゼルゴートに注目する。
「いや、今日の本祭での聖典朗唱で、ソロを勤めるはずだったこちら側の巫女の
 実家で物忌みが起きてしまったそうでの、急遽代わりが必要になったのじゃが
 ・・・姫様にその代わりを勤めてもらえんかと・・・」
「えぇ!?それはお気の毒でしたね・・・でも!勿論、困っている人がいれば
 助けるのが正義の勤め、私で良ければお手伝い致します!」
正義の鉄拳を振り上げ、思わぬ処で降って沸いた善行に胸震わせるアメリア。
それを後目に、今度はガウリィの方に視線を移し、ゼルゴートは続けた。
「ひいては、これはあくまで予防策なんじゃが、ガウリィ殿。」
「ん、俺がどうかしたか?」
突然名前を呼ばれて、思わずきょろきょろと首を巡らしたガウリィ。
「ぬしに、姫様の護衛を兼ねて、一緒に式典に参加して欲しいのじゃ。」
「ちょっと、そんな大事な役、脳味噌クラゲなガウリィで大丈夫なの!?」
頼まれた本人よりも、むしろリナの方が驚いてゼルゴートを見る。
そんな様子に老神官は、手をぱたぱたさせて笑顔になった。
「何、ガウリィ殿に頼みたい役割はただ錫杖を打ち鳴らしつつ、
 姫様の後を付いて町中を練り歩てもらうだけじゃ、簡単じゃろ?」
「ま、まぁ、そうだけど・・・」
「いいぜ、只アメリアの後ろについて歩いてればいいんだろ?」
今ひとつ心配気なリナをよそに、ガウリィは満面の笑みで引き受ける。
「残ったリナ殿達には、演舞場の特等席で待っていて貰おうかの、
 特等席は演舞場を見渡せて、いい席じゃ。そうそう、演舞場では
 観客にはカリテの町の名物料理が振る舞われるそうじゃよ。」
「え!ほんと!?らぁっきぃ、美味しいもの食べられて、演舞までみれるんじゃ
 こりゃあ、行くしかないじゃない!ね、ゼル?」
名物料理と聞いた途端、目の色を変えて喜ぶリナ。
「・・・いや、俺はこの宿に・・・」
「えぇっ!!見に来てくれないんですかゼルガディスさん!」
みなまで言わせずに、アメリアはゼルガディスの方を向いて叫ぶ。
先程の元気は何処に消し飛んだか、すでに頬はぷぅっと膨れており、
心なしか瞳まで潤んでいる。
夕べの押し問答を思い出して、ゼルガディスはうんざりとした表情になり、
たまらず動かした視線の先にいたゼルゴートと目があってしまった。
「賢い御仁は、同じ過ちを二度も繰り返さないことですぞ。」

そう言って、にやりと笑った老神官の今朝の顔を思い出して、ゼルガディスは
憮然とした表情になる。
結局その言葉がトドメとなって、しぶしぶと行動をともにしているが、
内心は面白くないので、ついそんな顔になってしまう。
別にその瞬間を選んだ訳ではなかったのだが、そこに、式典用の華やかな
法衣を着た、アメリアとガウリィの二人がやってきてしまった。
「・・・そんなにお祭り見るの嫌でしたか、ゼルガディスさん・・・」
白を主体としたゆったりとした法衣には、天色(あまいろ)・・・澄み渡った
天空を表す空色をした肩帯をさげ、その肩帯には金糸で細かな刺繍が
施されている。両腕と両足首に小さな鈴を幾つもの付けた金の輪を、同じく
金で出来た額飾りをつけていた。
折角の巫女の正装姿を見せたくて、ここまで笑顔でやって来ていたアメリア
だったが、ゼルガディスの仏頂面に、みるみる笑顔が萎んでゆく。
「い、いや。ぉ俺は別に!」
慌てて取り繕うとしたゼルガディスだが、ノックとともに扉の外から
聞こえてきた声に弁解は遮られてしまうのだった。
「アメリア様?そろそろお時間ですので、お連れの方とともに正面門まで
 おいで下さいますか?」

ゼルゴートと一緒にセイルーンより派遣された他の神官なのであろう、
部屋の中に聞こえるくらいの声で、二人を促す。
「・・・・・(汗)」
「・・・・・(汗)」
「あ、アメリア・・・(滝汗)」
「私、行きますね。ガウリィさん、行きましょうか・・・」
気まずくて、少女の名前を思わず口にしたが、アメリアはゼルガディスに
精一杯微笑んで、しかし視線を交わすことなくガウリィへと向き直る。
「あぁ、ええっと、行って来るからよ!リナ!!
 俺達が戻るまで、名物料理とやら残しておいてくれよな!」
「さぁーねぇ、せいぜい公衆の面前でこけないようにしなさいよ!ガウリィ!!」
「だから、料理!俺の分まで喰うなよっ!」
「あ、そだ!しっかり代わり勤めるのよ二人とも!頑張って!」
なんとか白けた場の雰囲気を取り戻すかのように、リナとガウリィは
ついつい大きな声になる。
「じゃ、リナさん。」
扉を開け、廊下に出てからこちらに向けガッツポーズをするアメリア。
扉が閉まる瞬間に、少女が身につけていた鈴の輪達がしゃらんと鳴った。
「・・・・・」
「・・・甲斐性なし!なんで『綺麗だな』とか、『しっかりやれよ』とか言って
 あの雰囲気をかわせないかな、あんたってば!!」
「悪かったな!・・・」
言いたいことは山ほどあったのだが、先程の無理矢理作ったであろうアメリアの
微笑みが目について、リナの罵詈雑言に甘んじてしまうゼルガディスであった。



カラーン カラーン・・・
カリテの町並みに正午の鐘が鳴り響いた。その鐘の音とともに神殿正面の
聖木で作られた門戸が、数十羽の白い鳩が飛び立つ中、開け放たれる。
赤の竜神(スィーフィード)の紋章を施した深紅の御旗を、数人の神官が
厳かに翻すと同時に歩き始めた。
沿道を取り巻く観衆からは、歓声とともにとりどりの色をした紙吹雪が
巻き起こる。

赤の竜神(スィーフィード)の降誕祭は、こうして幕を開けた。

しゃらん しゃりん
続いて、揃いの衣装に身を包んだ巫女達が、手に手に十数個程の釣り鐘草の
花を模した鈴を鳴らしつつ現れる。巫女達の最後には、金色の豪奢な冠を
頭上に冠したアメリアが続いた。右手に巫女達と同じ鈴を、左手には
金色の細かな細工で仕上げられた香炉を胸の前で捧げている。
艶やかな黒髪に、やや伏せ目がちな長い睫毛、白い肌に映えた珊瑚色の口紅。
まだ幼さの名残を残す少女特有の清楚さが、廻りの観衆の目を惹き付けた。
そのすぐ後ろを、同じ衣装で、鈴を錫杖にかえた神官達が錫杖を路上に
打ち付けつつ進む。勿論、アメリアのすぐ後ろにはガウリィが控えていた。
金色の長髪を靡かせて、他の神官達と同じタイミングで錫杖を鳴らしつつ歩く。
神官にしてはイヤに体格の良い、しかも見目麗しい男に女性の観客からは
ため息が漏れていた。

やがて、程なく町中を練り歩いた行列は、町の中心部の演舞場へと辿り着いた。
この演舞場はすり鉢状になっており、底部で演舞を行うようになっている。
廻りを階段状の客席が続き、最上部は幾つかの特等席が設けてあった。
その特等席のひとつに、リナとゼルガディスは座っていた。ひとつの特等席に
ゆうに十人は並んで座れる広さがあった。緋色のテーブルクロスが敷かれた
テーブルには、食欲をそそる香ばしい匂いを上げた、幾つかの皿が置かれている。
「くぅぅ!たまんないわね!こうして連日、美味しいものが食べれるなんて、
 なんて幸せなのかしら!しかも、無料(ただ)でよ!?
 これ以上の至福はないわねっ!」
これもこの町名産の酒という、杏酒を満たしたグラスを持ちつつ
リナは本当に嬉しそうだ。
「現金なヤツだな。」
同じように杏酒を口に運びつつ、ゼルガディスは隣にいるリナに
聞こえるか聞こえないかくらいの小声で呟く。勿論、声はリナの耳に届いて、
不敵な光を灯した瞳で、ゼルガディスを捕らえた。
「ぜぇるぅ?なんか言った!?」
「いや、なんでもない。」
身の危険を感じて、(ならば言わなければいいのだが)
ゼルガディスはしらを切ろうとする。
「まぁ、いいわ。あたしは今すごぶる機嫌がいいから、許す!」
ぐいっと、一気にグラスの中身を煽って、テーブルに杯を置く。
たん!という小気味いい音とともに、リナは又不敵な目をゼルガディスに向けた。
「次はないけどね(はあと)」
そんなやりとりが交わされた後、やおら演舞場全体を揺さぶるような
大音響が鳴り響いた。

どおぉぉん! どおぉぉん!!
「・・・これを合図に、まずは巫女達による聖典朗唱が始まるんじゃ・・・」
演舞場最上階の廊下と、特等席とを遮っている緋色のカーテン越しに声がした。
見知った気配に二人は後ろを振り返る。
現れたのは、正装の神官服を身に纏った小柄な老人。
「ゼルゴートさん。こちらに来たりして、お祭りの指揮とかは取らなくても
 大丈夫なんですか?」
「んむ、細かな指示を出すのは別の者がするからの。始まってしまえば、
 わしゃ只無事に終了させられるよう、祈るのみなんじゃよ。」
そう言って、空いている席にゼルガディスを真ん中にするように座った。
視線を眼下の演舞台に注ぎ、テーブルに置いた両手を静かに組み合わせる。
つられて二人が視線を演舞台に向けると、しずしずと巫女装束に身を包んだ
巫女達が、階段状に作られた演舞台を登ってゆく。最上天から一人ずつ
扇状に落ち着くと、その真ん中をアメリアがゆっくりとした歩調で、
上り詰めてゆく。最上天迄辿り着き、少しの間を置いてくるりと振り返ると、
右手と、両手足に着けていた幾つもの鈴が、しゃなり と鳴って静まる。

―――祭りは、心地よい緊張感とともに、観衆の目を虜にしつつあった。

【幕間で妄想。その2。(今度こそ)後。へ】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

うわーん、終われませんでしたっ!
ついつい、余計なものまで詰め込んでしまうようです。

無理に続けるとお尻でっかちになるので、
ここで区切らせて下さい。(涙目)

うう、すみませんです。でわでわ。

魚の口

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2390幕間で妄想。その2。後。(完結)魚の口 10/29-21:26
記事番号2387へのコメント

しゃん しゃん しゃん しゃん・・・

階段状になった演舞台に整然と、扇形に広がった巫女達が、皆
一斉に右手に掲げた鈴を鳴らし始めた。
同じような間隔で、今度は演舞台を囲むように並んでいた神官達(勿論、
ガウリィもその中にいる)が小さな鈴の付いた錫杖を震わせる。
その清らかな鈴の音の合唱を合図に、客席の観衆からわっと拍手が巻き起こった。
場の雰囲気に飲まれ、リナとゼルガディスもやや控えめながら、
つい同様に諸手を打つ。
「なんか、凄い盛り上がりね・・・」
「・・・あぁ・・・」
言葉を交わしながらも、自然と視線は演舞台に注がれたまま。
観衆の打ち鳴らす拍手と、鈴の音の合唱が演舞場を支配したとき、
その大音響の中から、高くそれでいて朗々とした澄んだ歌声が響いた。

”此の尊き世界に 此の尊き大地に 此の常しなえに続く日々に
 全ての慈しみに感謝もて
 其は尊き世界に 其は尊き大地に 其は常しなえに続く日々に
 全ては愛しき存在(もの)に帰す“

長い睫毛を微かに震えさせ、ありったけの感謝の気持ちを言葉に換える。
珊瑚色の唇から紡ぎ出されるその透き通った讃歌に、観客からは感嘆の
ざわめきが、静かに、砂浜に打ち寄せる波の如く起こった。
「・・・―――――アメリア、すごい・・・」
リナがテーブルの上の料理のことも忘れ、椅子から立ち上がりながら唸る。
演舞台の最上天に立ち、清らかな鈴の音のもと赤の竜神(スィーフィード)を
讃える少女は、悪党どもに高らかに名乗りを上げ、正義の鉄槌を喰らわさんとする
伝承歌(ヒロィック・サーガ)おたくの少女でも、聖王都(セイルーン)の
第一王子フィリオネルの第二息女の顔でもなく、
赤の竜神(スィーフィード)の降誕を祝う一人の巫女であった。
アメリアの、辺りを震わせる歌声になぞるように、廻りの巫女達も又
この世界の神を讃え始める。
カリテの町の演舞場の隅々に、清らかな讃歌が響き渡っていた。

ごくり
知らず、その光景に息を呑むゼルガディス。
うなじの辺りにぞわぞわとした感覚を覚えた。その肌が岩のようでさえなければ、
鳥肌を立てていたかもしれない。
その二人の驚きの様子に、セイルーンの老神官、ゼルゴートは満足そうに
目を細めた。
「流石、我らが姫巫女様じゃ。じゃが・・・いまひとつ
 お気持ちが揺れてるようにお見受けするのぅ・・・」
「え、あの声で!?」
ゼルゴートの言葉に速攻で突っ込みを入れるリナ。
「ん〜〜実に微妙な処でなんじゃがの。」
しわが刻まれた右手を顎の下に持ってゆきつつ、何故かちらりと思わせぶりに
ゼルガディスを盗み見る。その仕草にリナは訝るが、すぐに老神官と
同じような表情になった。
「・・・はぁ〜ん、なるほど『微妙』よねぇ?」

自分の両側から、意味深な台詞とともに視線を感じる。
何とも言えぬ感覚に晒されて、ゼルガディスは苛立ちを押さえられず声を上げた。
「何なんだ!二人して!!言いたいことがあるならさっさと言え!!
 夕べからどいつもこいつも・・・」
言って、椅子から立ち上がったゼルガディスの中で、鬱積していたものが
この時はっきりと現れ出た。

夕べ突然部屋を訪れ、酒盛りと称して妙なことを吹き込もうとする老神官。
人の賑わう場所を避けたくて、宿にいると言っているのに、祭りを見に行こうと
再三誘うお姫様。そのお姫様の様子が少しばかり落ち込んだだけで、
甲斐性なし呼ばわりする女魔道士。
「何故俺のすることにいちいち構う。放っておいてくれればいいものを・・・!」
吐き捨てるように自分の中で渦巻く感情を吐露するゼルガディス。
その言葉に、黙って聞いていたリナが、呆れたようにゼルガディスを見た。
「あぁーもうっ!だぁからあんたは根暗だって言われんのよ!
 何後ろ向きなこと言ってるかなぁ、あんたがそんなんだから
 アメリアはほっとけなくなるんでしょう!?」
「はっ!慈悲深いお姫様の同情ってヤツだろう!?
 俺は生憎と同情(そんなもの)を買うほど、堕ちたつもりはないぜ!」
「!かぁ〜〜〜〜っ!!ちっがうわよ、この石頭!
 なんでそーとことん偏屈な発想になんのよ!」
「悪かったな、どうせ正真正銘の石頭だよ、俺は!」
「えぇーい、この鈍感!偏屈男!!見栄っ張り!!!」
「なんだと!?このXXXX(悪口雑言)!!!」
「なによっ!あんたなんかXXXXXX(放送禁止用語)!!!!」

だんだん子供じみた言い争いになろうとしていたとき、
(リナが呪文を唱え出す一歩手前であった)
今まで黙って二人のやりとりを見ていたゼルゴートが、静かに呟いた。
「・・・姫様はお優しい方じゃ、分け隔てることなく誰とでも
 接そうとなさる。」
「ふん、お優しいことで。俺のような者にははた迷惑だ・・・」
「あんたは、まだ・・・!」
尚も言い募ろうとする二人に、目を細めて笑う老神官。
「ふぉふぉ、確かにそうしたところで、城や神殿に仕える者には
 先程のぬし達のように、姫様と対等に応えられる者は少ない。
 相手はあくまで自分が仕える国の、
 ・・・セイルーンの姫巫女様に変わりはなかったのじゃ。」
 
しゃらん しゃらん しゃん

再び演舞台の巫女達が、今度は一人ずつ下段から順番に手にした鈴を上下に
ゆっくりと動かしながら、二部朗唱を始める。

”其は尊き世界のために“  ”美しきもの 此の世に生まれ“
”其は尊き大地のために“  ”愛しきもの 此の地を育み“
”其は常しなえに続く日々に“  ”聖なるかな 命の灯火よ“

命の讃歌が演舞場にこだまする。客席に座る観衆の誰の心をも
洗い清めるかのようだ。その讃歌の中、一人の老人の声がただ静かに流れる。
「・・・わしはかつて自らの失言により、姫様の大事なご家族を一人
 旅への魅惑に駆り立たせ、姫様から奪おうてしまっての、そのことは
 今も痛く後悔しておる。じゃが・・・」
そこで言葉を切り、老神官はその優しげな眼差しを目の前の若者二人に向ける。
「ぬし達と旅を始めた姫様を見て、わしは心の荷がひとつ消えた思いじゃよ・・・
 姫様はぬし達とともに旅を続けるうち、色々な経験をするじゃろう。
 泣き、怒り、そして笑うじゃろう。
 悩んで、迷って、そして、見つけて欲しいんじゃ。何が大切なのか。
 一人の『アメリア』という少女として、ぬし達を旅の友として・・・」

緩やかなハーモニーが心地よい響きとともに流れる中を、ゆっくりとした足取りで
アメリアは演舞台の中心へと移動してゆく。
深紅の紋様が描かれた中心で立ち止まり、両手を天に向け差し伸ばす。
その華奢な身を天に捧げるかのように、静かにゆっくりと。
瞑られていたその瞳が、長い睫毛を揺らし徐々に開かれる。
そのこぼれそうな、大きな瞳に映る人影があった。
演舞場の最上階にある特等席に、柔らかに揺れる栗毛を持つ女魔道士の姿と、
そして、その隣に白いローブで全身を覆い隠した合成獣の男の姿とを。

朝湯気にけぶる森に光が射し、一輪の花がその光に導かれ大輪を開かせるが如く、
珊瑚色の唇にこれ以上はないという笑みを載せ、少女は可憐に微笑んだ。
その、あまりにも無邪気な微笑みに、ゼルガディスの中で燻っていた
わだかまりは嘘のように氷解する。
毒を抜かれるとはこういった感覚なのだろうな、と、ゼルガディスは
思わずにはいられなかった。
一人の男の意固地な思いを、その微笑みひとつでうち砕いた少女は
命の讃歌をその全身全霊にかけ、高々と謳い上げる。

「・・・やっと、本来の姫様に戻りましたの・・・どれっ。」
小さく呟き、ゼルゴートはゆっくりと椅子から立ち上がった。
「巫女達の聖典朗唱も後もう少しで終わる、その後は神官達が
 古えの神魔戦争を模した演舞を始めるんじゃよ、巫女達はこれで
 退場なので、ガウリィ殿も一緒に姫様をこちらへ呼んでくるとしよう。」
そう言うと、緋色のカーテンをひょいと摘み、布地の奥へ身を動かそうとする。
ふと、その動作をやめ、思い出したように二人に振り返った。
「そうそう、姫様は父上譲りの正義感故、ぬし達に面倒を運ぶやもしれんが、
 この老いぼれに免じて、仲良くやってくださらんかの?」
「あ〜のフィルさんに比べれば、アメリアは可愛いもんよ!それに、
 改めて頼まれなくたって、アメリアはあたし達の欠かせない仲間よ。
 ね、そうでしょ、ゼル?」     ´´´´
「ちっ、なんとでもいってくれ!」
暗にあんたも仲間なのよ!とリナに言われ、つい
投げやりに応えるゼルガディス。図らずも赤らむ顔色を隠すように、
緋色のカーテンの半ばに身体を埋めていたゼルゴートを押し退けると、
廊下へと躍り出た。

「何処へ行きなさるかの?」
「あいつらを呼んでくるんだろう?俺が代わりに行ってきてやる。
 わざわざご老体に足を運んで貰うこともないだろうからな。」
背中を向けたまま、ゼルガディスは老神官に向けて言う。
「ほ、どういう風の吹き回しか、嵐の前触れかのぅ。」
「そうね、石頭にしては気が利くじゃない。」
背中に後ろの二人の揶揄が跳ね返る。
「やかまし!悪いか、人並みのことをしちゃあ!」
「ふっ、やぁね、照れちゃってゼルちゃんてばぁ(はあと)」
「ちゃんはやめろ。気色悪い!」
思わず振り返って指摘したゼルガディスに、ゼルゴートは笑い、
そして、片目を瞑って言うのだった。
「・・・そう、ぬしは容貌は変わってしもうていても、れっきとした
 人間じゃよ。あっつい血潮の流れるのぅ。」
目をみはり、ゼルガディスは小柄な老神官を凝視する。

わあぁぁぁぁぁ!!!
拍手が絶え間なく鳴り響いた。巫女達による聖典朗唱が、今終わったのである。
演舞場には割れんばかりの拍手と歓声が、途切れることなく沸き起こる。
「・・・あいつらを、呼んでくる。」
言って、くるりと踵を返すゼルガディス。その口元は笑みが結ばれていた。



「よぉ、ゼル!やっぱりお前さんも来てたのか!」
何人もの神官と、巫女達とでごった返す演舞場の舞台裏を、
のんびりとした声が響いた。声がした方に振り向くと、長身で金髪の男が、
右往左往している人垣の上からぶんぶんと手を振っている。
「よぉ、結構注目を集めてたじゃないか、ガウリィさんよ。
 よくやるな、あんたも。」
「そぉか?俺はみんなとタイミングあわせんので、必死だったんだが・・・」
言いながら人混みをかき分け、ゼルガディスへと近付く。
「結構面白かったぜ?アメリアの晴れ姿も近くで見れたしな!」
すっと視線を下ろした先に、少女はいた。
「ガウリィさんには急なお願いだったのに、評判良かったんですよ!
 沿道を歩いていたときだって、黄色い歓声が上がっていたんですから!」
金の冠と、釣り鐘草の花を模した鈴、香炉は少女の身体から外れていた。
赤の竜神(スィーフィード)の巫女は、今は小さな少女に戻っている。
「・・・お前さんだって、大役をよく務めただろうが。」
「そうだよなぁ、あんだけの観衆の前で、よくやったよ!」
男二人に誉められて、アメリアは見る見る顔が赤くなった。
「え?そうですか??えへへへ、嬉しいな。でも、本当は凄く緊張してたんですよ
 聖歌を歌うのも、国を出て以来だったものですから。」
そう言って、又てへへと笑う。
「・・・上で、リナ達が待っている。疲れただろう、行こうか。」
「あぁっ!!そうだ、この町の名物料理!
 リナのヤツちゃんと残していたか?ゼル?」
突然叫び出したかと思うと、ゼルガディスの肩を掴んでわしわし揺する。
「のわっ、ま 待て 落ち着け!ガウリィ!!」
「あぁ、スマン!」
くらくらと目を回すゼルガディスをぱっと離す。まだ少し、ふらつきながら
ゼルガディスは思い出していた。
「料理・・・そういえば、もうあんまり残ってなかったかも・・・」
「ぅおぉぉぉぉお!りぃぃなあぁぁあっ、俺の分も残しておけえぇぇ!!!」
一陣の突風が走り抜けて、ガウリィの絶叫だけがこだまする。

「ってお前!場所知って・・・―――いや、あいつなら嗅覚だけででも
 十分探し当てそうだな(大汗)」
「ははは・・・(汗)」
思わず互いの顔を見合わせて、苦笑する。
ふと、アメリアが先に笑いを解いて、ゼルガディスを改めて見やる。
「あの、ゼルガディスさん、今日は見に来てくれたんですね。」
「・・・お前さんやリナがうるさかったからな・・・」
「うぅっ(汗汗)、お、お節介でしたか?」
恐る恐る上目使いで、ゼルガディスの顔色を伺う。その姿も、やはり
主人に叱られ、ご機嫌を伺っている子犬を連想させた。
つい、想像した姿に吹き出しそうになって、ゼルガディスは
そっぽを向くしかなかった。
「お節介だった。でも、良い物を見せて貰った。」
「お節介でしたか・・・でも良かった、喜んで貰えたみたいで・・・
 ・・・って、なんか笑ってません?ゼルガディスさん??」
訝るアメリアをよそに、ゼルガディスは相変わらず肩をぷるぷるさせている。
「???」
「いや、なんでもないんだ。行こうか、アメリア。」
何とか笑いが修まって、真顔に戻ったゼルガディスはアメリアを見た。
一瞬だけ、目をぱちくりさせたが、アメリアは微笑んで元気に頷いた。
「はい!」



どおぉぉん! どおぉぉん!!
演舞場に大音響が鳴り響いた。大神スィーフィードが永い永い戦いの末、
魔王シャブラニグドゥの身体を七つに分かち封印する。
しかし、同時に自身も力尽き、四体の分身を残したところで、
祭りは終わりを告げる。
神の残したこの世界で、人間は如何にすれば神の残した意志を貫けるか・・・?
そんな教示を示して・・・

人々の感嘆と名残を残して、演舞場は客席から放たれた無数の紙吹雪と、
鳴り止まない拍手でもって、幕を閉じた―――――

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

翌朝、早々に宿を引き空けた一行は、再びカルマート公国を連なる
ひとつの街道へと来ていた。

ゼルゴート老神官らセイルーンの神官一行とは、宿を出るときに
別れの挨拶を交わしている。

「次は十年に一度の、聖王都での大祭じゃ。その時、ぬし達の旅の目的が
 決まっておらなんだら、セイルーンへおいで下されよ。」
人の好い笑みを浮かべて、ゼルゴートは言う。
「そうか、もう次はセイルーンでなんでしたね・・・
 リナさん、セイルーンへ行く気、あります?」
「ん〜〜〜、あたしはその時の気分かなぁ・・・って、
 アメリア、あんた自分の立場忘れてるんじゃない?」
まるで人事のようにリナに問い掛けたアメリアに、思わず突っ込む。
廻りにいたガウリィ、ゼルガディス、そしてゼルゴートも冷や汗をかいていた。
「うっ、だって、私まだ見届けてないですもん、リナさん達・・いえ、
 この世界の行く末を!」
びっと、人差し指をあさっての方向に向かって突き出す。
冷や汗はまだ浮かべたままだったが、そのアメリアの言葉にゼルゴートは、
優しく目を細めて言うのだった。
「・・・リナ殿、ガウリィ殿、ゼルガディス殿。そして姫様。
 皆様の旅路に赤の竜神(スィーフィード)様のご加護がありますよう、
 この老いぼれ、僭越ながらお祈り申し上げまする。
 ・・・フィル殿下を心配させぬ程度に、元気なお姿でセイルーンに
 戻って下されよ?よいですな、姫様・・・」
「ありがとう!ゼル爺も身体に気を付けて!」
互いの手を取り、握手を交わすアメリアとゼルゴート。
そして、視線をリナ、ガウリィ、そしてゼルガディスに移して、
深くその頭を垂れた。
「姫様を頼みまする・・・」
「まっかせといて!」
「ゼルゴートさんも元気でな!」
短くとても簡単だが、力強く暖かい言葉で、二人は別れを告げた。
「・・・・・」
「・・・ぬしが元の姿に戻れる日が来ることを、胸に祈うておこう。」
全身を白いローブで覆った男にだけ聞こえるように、老神官は呟く。
「―――息災で。」
短く一言だけを残して、ゼルガディスは老神官に背を向けた。
街道へと続く町の出口へ、四人はゆっくりと進む。

その後ろ姿が町並みに消えるまで、老神官はいつまでもそこに佇んでいた。

【了】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

はぁ、やあぁっと終了させることが出来ました。
初めはこんなに長くなるつもりじゃなかったのに・・・(遠い目)

この話を思い浮かべた妄想のきっかけはひとつ、
『アメリアの巫女の仕事ってどんなだろ?』でした(笑)。
でも、日本の神社の巫女さんの仕事も、キリスト教のシスターの
仕事も良く知らなかったので、手持ちにあった幾つかの
まんがのシーンを流用して、でっちあげてみました(滝汗)。
この辺はちょっと苦しい仕事でしたが、いかがでしたでしょうか?

後は二人のゼルやんを絡ませて、ゼルガディスの視線を
なんとかアメリアに向けさせてみたのですが、この辺が
大誤算でして・・・(涙)。
なんか若い方のゼルやんがみょおーに、気が短くなるし、
爺さんゼルやんは必要以上に口出ししてくるし・・・
オリジナルで登場させた人物が出張ってしまって、
リナや特にガウリィfanの方には、さぞや
物足りないものになったのでは?すみませんです(涙目)。

個人的趣味に走ってばかりいましたが、こんなものでも
読んで下さった皆様に感謝しつつ、この辺でおいとまいたします。
又、妄想ネタが浮かんだら、こちらにお邪魔したいなと
思っておりますので、その時はどうぞ宜しく。でわでわ。

魚の口 

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2411幕間で妄想。その3。魚の口 11/2-03:01
記事番号2380へのコメント

青黒い闇が辺りを支配する。
何の光も届かない、音さえも聞こえない。
しんとした、静寂だけがこの空間にわだかまる。

暗闇に押しつぶされるような、
そんな恐怖は不思議と感じていない。
時折、冷えた空気が露わになった肌を貫くような、
鋭い痛みのような感覚はある。
それが何故か胸の奥をちりちりと焦がしてゆく。

ふと、視界の隅に何かが映る。
視線を上げると、青黒い闇にぼんやりとしたものが
宛もなく彷徨うように、闇を滑っている。

何故だか自分でも分からない。
でも、考えるより先にそのぼんやりとしたものに向け、
いつの間にか手を伸ばしていた。
もう少し、あとほんの少し。

触れたという感覚は、指先からは伝わってこなかった。
しかし、伸ばした手の先にわだかまる何か。
わだかまるものが何か、確かめようとして、それを引き寄せる。

青黒い闇に白銀の光が生まれた。
意識が白濁したのはこの瞬間だった。いや、
覚醒が近いのかもしれない。

「・・・りあ・・・」
柔らかいものに包まれた感覚とともに、
何かの音・・・声が聞こえる。
「・・・あめりあ・・・」
「・・・ん・・・」
自分の名前を呼んでいるようだ。
意識を集中しようとした、その瞬間。

「アメリア!いい加減に起きろ、もう出発するぞ!」
「はいぃっ!」
頭の上から叱咤され、思わず返事をして飛び起きる。
「ぜ、ぜるがでぃすさん・・・私、眠ってたんですね・・・」
きょろきょろと、辺りを見回して萌え出る草原の中に
自分たちがいることを確認する。
目の前にはゼルガディスが、その少し離れたところにリナとガウリィがいた。
「あぁ、よく寝てたぞ?あっちにころころこっちにころころ、
 初めはリナの方に行ったと思ったら、今度は俺の足下の方に。
 寝返りなのか転がってるのかよくわからんがな。」
「はぅ(赤面)、寝しなは寝相悪いんです私・・・」
「おまけに昼飯を食べてからこの場所に移動して、皆で休もうと横になった途端
 速攻で眠ってたし。そのうち、お前さん白黒模様になるんじゃないか?」
「うぅっ!ね、寝る子は育つんです(汗汗)!!」
満腹だったのと、この陽気だったせいとはいえ、
アメリアは顔を真っ赤にさせつつ、つい言い訳する。
「なるほど、それで・・・・―――!(自爆)」
「な、なんですか!?まだ何か・・・」
言われるのかと思って、思わず身構えるアメリアだったが、
合成獣の男は何故か急に顔を背けるのだった。
「うぉあ、いや!なんでもないんだっ!!(滝汗)」
「??はい・・・?」
ゼルガディスの様子に訝るアメリアだったが、リナが声を掛けてきた。
「アメリアー、起きた?起きたんならそろそろ出発するわよー!?」
「あ、はーい。」
「ゼルも良いかぁ?」
リナの隣にいたガウリィもこちらに向けてぶんぶか手を振る。
「あぁ!行こう!!」
天の助けにゼルガディスは立ち上がってそう言うと、さっさと行こうとする。
(一体何を言おうとしたのやら)
「あ、待って下さいよう!」
慌てて立ち上がると、ゼルガディスの後を追うように走り出すアメリア。
先程見ていた夢のことは、すっかり覚えていないようである。

麗らかな晴天の中、まだ日も高いこともあって次の村を目指し、街道をゆく一行。
まだこの時には一行に、旅の目的地は決まってはいなかったのである。



その日の夕刻、街道から程近い小さな村に一行は宿を取った。
この村に宿は一軒しかなかったが、宿の受付兼食堂に漂う何とも言えぬ
好い匂いと、人なつこい笑みで切り盛りする女将に好印象を持った。
「こんな小さな村にようこそ!珍しいものなんか一つもないんだけど、
 素材の良さだけは折り紙付きだよ。腕によりをかけてあるから
 いろいろ食べておくれ!」
そう言って差し出したメニューには、なるほど目新しい食材はないが、
レパートリーは豊富に用意されていた。
「へぇ〜いろいろあるのねー、どぉれにしよっかなぁ♪」
沢山書かれたメニューを見渡して、目移りをしているリナ。
同じようにメニューに釘付けになっているガウリィも、ぶつぶつ言っている。
「ゆで豚の香味だれってのも気になるけど、魚カレーも好いなぁ・・・
 あ、このわかさぎのエスカベッシュってなんだ?」
「わかさぎのマリネですよ、かりっと揚げたわかさぎを酸味の利いたマリネ液に
 他の香味野菜と一緒に浸して冷やすと、すっきりして美味しいんです。」
「へぇー、美味そうだなぁ。よし、それも喰うぞぉ!」
アメリアが調理法を説明すると、疑問を浮かべていた表情をぱぁっと輝かせ、
ガウリィは嬉しそうに又メニューに視線を移した。
「女将さん、私はえびとアボガドのホットソースサラダと帆立のムニエルに
 小さなキッシュパイとホットレモネードを下さい!」
ガウリィに説明した後、アメリアは側に立っていた女将に注文する。
「俺はオムレツの温野菜添えリヨネーズソースとチキンライス、それに
 紅茶を貰おう。」
例によってフードは目深に被ったままだが、声色に胡散臭さはない。
ゼルガディスは口早に女将に告げた。
「はいよ!こちら二人は決まったかい?」
全身白づくめの男に別に奇異の目を向けることなく、女将は注文をメモし、
リナとガウリィへと向き直る。
「えーっとね、俺はゆで豚の香味だれと魚カレーとわかさぎのエスカベ何とかと
 ジャガイモのグラタンとナスのトマトソーススパゲティとミートボールパイ
 それぞれ二人前ね!あ、それから取りあえずビール!!」
「・・・み、ミートボールパイは10インチあるからそれだけで二、三人前だよ?
 四分の一カットでも食べでのある・・・」
ガウリィの注文の品数に怯みながらも、なんとか補足説明をする女将。
しかし、その説明の中の意図を読みとることなく、ガウリィは笑顔で言うのだ。
「あ、ほんと?じゃあそれはひとつだけにして、かわりにエビピラフ山盛りね。」
「・・・・こ、こっちのお姉ちゃんは?」
気を取り直して女将はリナの方を見る。その頬には大量の冷や汗が流れていた。
「ん〜〜っとね、前菜風ミニパイとコンソメスープとベーコンサラダ・・・」
リナの言葉にほっとした表情をする女将、その小柄な身体に騙されているようだ。

「それから、鮭のムニエルきのこ添えに牛肉と旬の野菜の串焼きでしょ、
 地鶏の網焼きフレッシュトマトソースに卵と生クリームのペンネ、
 白身魚の変わり衣揚げ三色ソースに山盛りきのこのマリネ。
 その中の串焼きと地鶏とペンネは二人前でお願いね! あ、そだ
 デザートにリンゴのコンポートと、クレープとバナナフランベのチョコソース、
 レシスジュースと、最後に紅茶を頂戴。」
注文を言い終えて顔を上げたリナは見た、背景に燃える炎を背負った女将を。
「・・・お、女将さん?」
「―――ふふふ、あたしと主人だけじゃ手が足りないわね、これは・・・」
何かを呟く女将、オーダーを取っていた右手がぶるぶると震えている。
「な、なんか熱く燃えてますよ?女将さん・・・(汗)」
「無理もないと思うが・・・」
近寄り難いオーラに圧され、思わずゼルガディスの方に身をよじるアメリア。
そんなアメリアの台詞に、ゼルガディスは同情の念で答える。  
「宿の向かいに、娘夫婦が住んでいるから今から呼んで手伝わせるわ・・・
 そのかわり、このあたしの料理を残したら承知しないよ!いいね!!」
何故か高らかに宣言して、びしっとリナとガウリィにオーダー表を突きつける。
「そうこなくっちゃ!がんがん食べるから、じゃんじゃん作って頂戴よ!」
「おぉ!!頼むぜおばちゃん!」
それぞれの台詞を口にし、リナとガウリィはファイティングポーズを取る。
それを嬉しそうに見やって、女将はカウンターへと消えた。

一家総動員の末、全ての注文を作り上げ、テーブル一杯に並べる。
さあ、どうだ!と言わんばかりの表情で、女将は豪快に笑った。
「はっはー!久々に作りがいのあるお客だよ!さぁ約束通り、
 残さず食べておくれ!!まだまだあるからね!」
「うはぁあ好い匂い!!んじゃ、いっただっきまーす!!」
リナの号令一家、皆一斉に食べ始める。その、早いこと早いこと。
「!んぐ、ちょっとこのトマトソース絶妙!あぐ、じっくり煮詰めてあるわね!
 まぐまぐ、このフライもナッツとコーンフレーク砕いて使ってるんだ!
 んっくん、あ、このソースなんだろ?サワークリーム?酸味が利いててナイス!
 ぐむぐむ、ん〜〜!!素材が好いから塩胡椒だけでお肉も旨い!
 おばちゃん!言うだけ有っていい仕事してる!!」
「・・・誉めるのはいいが、喰ってるものがあるときは口閉じろ。」
自分も料理を口に運びつつ、ジト目でリナを睨め付けるゼルガディス。
「っごくん!美味しくて思わず口に出しちゃうのよ、しょうがないでしょ!」
「でも、ほんとですぅ〜どれもみんなおいしぃ〜。ゼルガディスさん、
 これ半分どうですか?そんなにしつこくないし、お野菜もたっぷり!」
言ってアメリアはさくさくとキッシュを半分に切り分け、差し出す。
「・・・俺の皿のどれが食べてみたいんだ?」
「はは、ばれました?オムレツがとても美味しそうでして。」
てへへと笑って、ふわふわのオムレツに物欲しげな視線を向ける。
「皿の空いているところを出せ、こぼさないようにな。」
一国のお姫様がよくもまぁ、と思ったが口には出さずに取り分けてやる。
「ん!じゃあ俺もリナの串焼きとこうかーん!」
それを見ていたガウリィが、交換と言いつつも何とも差し替えずに
リナの串焼きに手を伸ばし頬張る。
「何すんのよ!おにょよれ!!んじゃあこれとこうかーん!」
負けじとリナがミートボールパイの一切れに、フォークを突き刺す。
「!!ならば!」
「こなくそ!」

例によっていつもの食事バトルが始まったようだ。
「・・・ほとんど二人前ずつ有るんだから、素直に交換すりゃいいじゃないか。」
次の皿を抱えて持ってきた女将が、思わず突っ込む。
「これが二人の食事作法のようなものなんです。」
フォローのようでそうでない事を言うアメリア。隣で頷くゼルガディス。
「ふーん、素直じゃないんだねぇ。」
分かったような分からないような、首を傾げつつ女将は皿をテーブルに置く。
もはやリナとガウリィにこれらの会話は届いてないのか、バトルは
更に加熱しつつあるのだった。
「あぁ!俺の最後のゆで豚ちゃんを!だったらこれでどうだ!」
「!あとで食べようと思ったミニパイを!ゆるさん、がうりぃ〜!」



嵐のような怒濤の食事も終わり、やっと人心地の付いたリナ達。
約束通り、注文した料理の数々は全て胃の中に収まっている。
その二人の食べっぷりに惚れた女将から、おまけで出してくれた
レモンシャーベットを堪能して、各々の部屋へ散っていった。

小さな村に泊まる者は少ないのか、懐具合も良かったので、四部屋を取っている。
装備を外し、ハーブを浮かべた風呂にも入り、ほこほこになった身体を
お日様の匂いのするふかふかの布団に預ける。
「ん〜〜、やっぱりお布団で眠るのはいいですねー・・・ふぁあふ・・・」
さすがは寝付きの良いアメリア、枕に頭を押しつけた途端に、眠気が襲う。
「おやすみ・・なさ い・・・」

浮かぶは白魔術都市(セイルーン)にいる父親の姿。
元気な様子で政務に当たる姿が、アメリアを安心させた。
セイルーンでの日々、毎日毎日政務の補助的な仕事と、神殿での祈りの日々、
単調で刺激のない毎日だったが、平和が一番だと思っていた。
でも、その日は来てしまった。

見せつけられた人間の欲望、妬み、怒り、そして悲しみ。
アメリアは思った。平和が一番と何よりも思っていたが、自国にも
災いの種はあるのだ。それも極身近に、自分はその渦中に居ると言って良い。
そして、事件の最中リナ達に出会った。

何か胸騒ぎがした。祈りも又、世界の相が揺れ動いていることを告げる。
希代の女魔道士、伝説の光の剣を持つ剣士。二人がそれに関わることは必至だ。
自分は世間を知らないし、足出纏いになるかもしれない。でも、
弱気なのは自分らしくないし、何より自分は知りたかった。何が起こるのかを。

人伝てに教わるのではなく、この目で耳で確かめたい。案の定、二人には
伝説級の事件が立ち塞がる。伝説の魔獣。伝説の書、異界黙示録。その写本。
そう、その伝説の書を求めて歩く男も仲間になった。曰く、
現代の五大賢者と謳われた赤法師に合成獣とされ、元に戻る方法を探していると。

しかも、この男とリナ達は、赤法師の眼に封じられていた、
あの赤眼の魔王の一片を、よりによって禁呪で辛うじて倒したとさえ言う。
冗談ではなかったが、男の姿は本物の合成獣であったし、
リナですら、この辺は余り多くを語りたがらない。それが真実味を更に増す。

それに、疑うにはこの合成獣の男は、己の姿を元に戻すことに余りにも真摯だ。
何より岩に覆われた肌を、とがった耳を、その姿を嫌悪していた。
初めてその姿を見たときは、流石に目を瞠ったが、不思議と違和感を感じない。
本人が聞いたら怒ると思うが、むしろ、美しいとすら思ったのだが。

―――夢の中でふと、何かがわだかまる。

闇の中、白銀の光、白くわだかまるもの、途切れる意識。

もう一度、それらに意識を集中しようとして、見事にそれは破られた。
一つの爆音によって。



「何事だ!?」
読みかけていた魔道書を放り投げて、ゼルガディスはテラスへ駆け寄る。
寝間着には着替えてはおらず、マントを外しただけの姿であった。
同じように鎧のたぐいを外していただけの姿で、ガウリィが左隣のテラスにいた。
「ここからじゃわからん!ただ煙だけが見える。」
言って指差す先、宿から八百メートルほど離れたところに、一筋の白煙が
上がっていた。
「何ですか!?今の音は!」
宿に常備されていたパジャマ姿で、アメリアがゼルガディスの部屋の
右隣のテラスに現れる。
「わからん。だが、村の入り口付近から煙が上がっている。」
視線で指し示された方を見ると、アメリアの眼でも闇夜に上がる白煙が
見て取れた。
「あれは?」
何か?問い掛けようとしたとき、テラスの下、宿屋の入り口から声が上がる。
「行くわよ!何か事件かもしれない!」
何故か完全武装の姿で、リナが他の三人を促した。
「・・・お前盗賊いじめに行くつもりだったろう・・・」
テラスの手すりに両腕を寄り掛からせて、ガウリィは呆れたように言う。
「それに何か事件だったら、解決してやって村から礼金貰おうと考えてるな。」
続けてゼルガディスが追い打ちを掛ける。
「う、うっさいなぁ!何よ、行くの?行かないの?どっちよ!?」
秘技、開き直りを利用して、リナは苛立た気に叫んだ。
「人々が寝静まった小さな村に、突然鳴り響く無慈悲な爆音!
 健全なる至福な睡眠を妨げるとは、すなわち、悪!ならば成敗有るのみ!
 行きましょうリナさん! とうっ!!」
いつの間にかアメリアがパジャマの上にマントを羽織り、ブーツを履いた姿で
高々と口上する。要は、
『人が寝てるのを爆音なんぞでたたき起こしやがって、その面
 拝みに行くぞ固羅!』である。(お下品)
勢いよくテラスより躍り出るが、着地はご多分に漏れず・・・
「ふぎゃ!?」
「おーい、生きてるかぁ?」
「昼間でも失敗するのに、夜なんぞに飛び降りるから・・・」
「ちょっと、アメリア!ほらしっかりして!行くわよ!!」
「・・ふえーん、皆さん冷たいですぅ。」
地面に顔から突っ込んだアメリアが、小さく呻いていた。



「消化弾!(エクストボール!)」
リナの唱えた消火の呪文が、起こりつつあった家屋の火災を綺麗に消す。
四人が駆けつけたとき、村の入り口に近い家屋が炎に包まれようとしていた。
例の白煙が上がっていたのはこの家で、爆音の後、何らかの力によって火がつき、
燻っていたのが見えていたようだ。
「なんだ!?どうした!」
四人の他にも、騒ぎを聞きつけた数人の村人が駆けつけてくる。その時、
「た、たすけてくれぇっ!!!」
消火をしたはずの家の中から、両腕の肘までを炎に包まれた男が転がり出てきた。
「誰か!?主人を!!火を消してっ!」
続いて金切り声を上げ、髪を振り乱した女性が助けを求めた。
「!くっ!!」
咄嗟に近くにいたアメリアがマントを外し、男に近付こうとする。
「だめだ!燃え移る!!」
「エーイ、二度目の消化弾!(エクストボール!)」
ゼルガディスの叱責に続いて、リナが威力を弱めた呪文を放つ。
炎は消えたが、今度はその両腕に沸き起こった痛みに男性は悲鳴を上げる。
「う゛あぁああああっ!!!!」
「しっかりして!今、復活(リザレクション)を掛けますから!
 ガウリィさん!すみません、この方を押さえて下さい!!」
皮膚を焼いた強烈な痛みに、のたうち回る男性を見かねて、
アメリアがガウリィを振り向く。
「分かった!」
とてつもなく難しい要求に、だが、ガウリィは返事一つで返すと、
やおら転がり廻る男性へと近付く。
「こんなに暴れちゃ、治療もできないよな?」
誰に問うわけでもなく言うと、タイミングよく、転がる男性を背後から捕らえ、
暴れようとする隙さえ与えずに、軽く右手を男性の首筋に宛う。
「少しの間気を失う経穴を押した、暫くは気付かないよ。」
そう言うと、男性ごと自分も腰を下ろして、アメリアが治療しやすいように
背後から男性の両腕を差し出した。

「め、面幼なヤツ・・・何を仕掛けたの?」
「正しい処置の一つさ。暴れ回られちゃ、治療に集中できない。
 ガウリィの旦那にしちゃ上出来だ、誉めてやれよ。」
二人のやりとりを、後ろで見ていたリナとゼルガディスが各々の感想を漏らす。
その間にもアメリアは男性の焼け爛れた手を躊躇せず取り、祈りを続ける。
「よかった、ありがとうございます!!」
夫の手を取り祈っているのが巫女と知ると、婦人は地面にしゃがみ込み、
安堵の声を上げる。しかし、
「どうやら、この火災の原因が来たようだ、リナ!ゼルガディス!」
男性を抱えたまま鋭い視線を前方に向け、ガウリィは仲間に向かって叫ぶ。
「分かってるわよ!!」
ガウリィが叫ぶのと同時に、二人も動いていた。
だが、薄暗い闇の中、二つの影から村に向かって炎の渦が放たれる。
レッサー・デーモン!!
早口のリナでさえ呪文が間に合わず、二匹のレッサー・デーモンは
すでに村の入り口に向け、炎の矢を打っている。
「うぅわあああああ!!!!」
突然自分たちに向け放てられた炎の矢に、村人は驚き逃げ惑った。
「炎裂壁!!(バルス・ウォール!!)」
火線がアメリア達を飲み込もうとした時、紡がれた力ある言葉(カオス・ワーズ)
により生まれ出た炎の壁が、レッサー・デーモンの放った炎の矢を打ち消す。
「アメリア!よっしゃ!!覇王雷撃陣!(ダイナスト・ブラス!)」
「崩霊裂!!(ラ・ティルト!!)」
咄嗟に復活の呪文を中断し、耐火の呪文で迫りくる炎の矢を四散させたアメリア。
その瞬間を見届けて、リナとゼルガディスは同時に呪文を解き放つ。
現れた五芒星の頂点に着弾する稲妻と、青白い炎の同時攻撃により、
実にあっさりと二匹のレッサー・デーモンは塵と消えるのだった。

「ありがとうございました!」
今度こそちゃんと唱えたアメリアの復活(リザレクション)により、
重度の火傷を負っていた男性の両腕は、見事に完治した。
「突然、爆音と同時に家に火がついて、あわてて消そうとしたところ、
 寝間着の袖に火がついてしまって・・・あっと言うまでした。」
「主人を助けていただいて、本当に有り難うございます!」
婦人と並び、二人は深々と頭を下げる。
騒ぎを聞いたこの村の村長も駆けつけ、四人に礼を述べた。
「ありがとうございます!あなた方が今夜この村に滞在されていなければ、
 どうなっていたことか・・・考えただけでぞっとします。
 本当に、有り難うございました。どんなお礼をしたらいいのやら・・・」
突然の出来事に、未だ顔を青ざめたまま俯く村長。
「いやー、野良デーモンの一匹や二匹、あたし達には大した敵じゃないですよ!
 怪我の治療だって、あたし達は当然のことをしたまでですからぁ。(はあと)
 でも、良かったですねぇ偶然あたし達がこの村にいて!
 魔道の心得がある者でも、野良デーモン一匹に手を焼くのが普通ですから!」

はたはたと手を振るリナだが、眼はどの程度の礼金をこの村長から絞り出すか、
油断無く鬼のように算段している。
「お前なぁ、何気なく脅してどうする。」
「やかまし!ガウリィは黙ってて!!」
ぴしりと言ってのけガウリィを黙らせると、再び村長に向き直る。
「それでですねぇ〜〜〜」

もみ手を始めたリナをジト目で見て、ゼルガディスは呟いた。
「あれは長くなるぞ、自分の言い値を村長が言い出すまで、
 寝ずに交渉するだろうな。」
「ははは、リナさんならやりそうですよね・・・(汗)
 ・・・あふ、事件が無事に解決したら、眠くなっちゃいました。」
「リナのセーブ役は悪いがガウリィの旦那に任せて、俺達は先に
 宿屋に戻らせて貰おうか。」
大きな欠伸を漏らしたアメリアを見て、苦笑しつつゼルガディスは言う。
「そうですね。・・・?あれ、ゼルガディスさん、服のここんところ、
 大きく煤けてますよ?」
自分の右肘を折り曲げて、外側を指差してみせる。
「?どれ・・・!?」
言われた通り己の右肘を省みようとして、ゼルガディスの表情が強ばった。
「ど、どうしました!?・・・ちょっと失礼します!!!」
右腕を伸ばしたまま、脂汗を流すゼルガディス。アメリアはふと、不安がよぎり、
ゼルガディスの白い上着の黒く煤けた右腕の部分を、強引に捲り上げた。

「!・・・これは。」
ごくりと喉を鳴らすアメリア。そこには、先程の男性と同じ様な火傷あとが
未だ赤々と熱を持ちながら、肌を焦がしていた。
「・・・さっきのレッサー・デーモンの炎の矢を直前で避けたのが
 不味かったようだな。」
アメリアがすかさず、復活(リザレクション)の祈りを捧げる。
「俺の肌は岩で出来ているから、少しばかり熱いのも耐えられる。
 それで今まで気が付かなかったんだろう・・・こんな肌でも、時には
 役に立つものなのか・・・」
常人だったら立っていることさえ出来ないであろうその痛みに、この合成獣の
身体は皮肉にも多少なら我慢が出来る。改めてこの身体が人外であることを
知り、ゼルガディスは皮肉に笑った。
「・・・復活(リザレクション)」
アメリアの解き放った力ある言葉(カオス・ワーズ)により、赤々としていた
熱は消え去り、煤焦げた肌はもとの青黒い色に戻る。
「・・・すまない、これで元に戻った。」
まじまじと傷と痛みの消えた右肘を見やる。その青黒い色を。
「ゼルガディスさん・・・」
「それにしても、やっぱり流石は巫女だな、痛みもすっかりない。
 だるくもないし、傷跡すらない。」
放っておくと自分の代わりに沈んでいきそうなアメリアに、ゼルガディスは
いつになく語りかけていた。
「前にリナに治癒(リカバリィ)を掛けて貰ったことが有るんだが、
 あの時は傷が消える代わりに気力を削られていくようだった。」
「えぇ、治癒は自分の治癒力を最大に働かせ自分の余力を源に、
 復活は廻りのエネルギーを少しずつ分けて貰うことで、威力を発揮します。
 求める力の源が違うんです。」
求められるまま、治癒と復活の違いを述べて、アメリアは少しだけ笑った。
「俺は実は治癒(リカバリィ)の原理を知らないんだ。折角本職の先生が
 いることだし、ご教授願おうかな。」
「あ、そうなんですか?私なんかで良ければ教えますよ!」
自分が知っていることをこのゼルガディスに教えられることに、アメリアは
単純に嬉しくなった。アメリアの関心を別なものに向けたことに成功した
ゼルガディスは、目を細める。
「あぁ、頼むよ。」

実際問題として、事態は結構逼迫している。
今までは己の肉体を切り裂くだけの力量の者が現れなかったので、
必要としなかった。今回は油断であったが、リナ達と旅する限り、
今後とも何が現れるか分からないだろう。
「伝説の魔獣なんかまで出て気やがったしな、おちおち怪我もしてられん。
 そういった奴らに対抗できる手段も、用意しておきたい処なんだが。」
「そうなんですよね〜、精霊魔法最大の呪文だって、弾かれちゃうと
 お終いだし・・・とにかく意表を突いて!とか、他に何か有効な
 呪文でも開発できれば・・・って、そう簡単にはいかないか。」
「おーい、なんだぁ待っててくれたのかぁ?」
アメリアの台詞に、ストックがないわけでもない。そう言おうとしたのだが、
後ろからリナとガウリィが戻ってきていたのだ。
「やっほー!!臨時収入よ〜(はあと)あの村長さん案外気前がよくってさ、
 これだけ出してくれたのよぉ!」
手にした革袋を掲げて、得意満面に話すリナ。
「金一封としては金貨50枚だけだったんだけど、村長さん自身のお宝って言う
 結構上玉のルビー貰っちゃってさ、儲けたわぁ(はあと)」
「脅し取ったの間違いじゃないのか?」
「よく分かったなぜるぅ、こいつってばよぉ・・・」
呆れた顔でリナがいかなる手段で、村長から家宝のルビーまでせしめたか
語ろうとして、
「あんたはやっかましぃっての!」
すっぱーん!!!

何処からともなく取り出したスリッパの一撃で、ガウリィは程なく撃沈する。
大量の冷や汗を張り付かせて、ゼルガディスは聞かずにいられなかった。
「闇から召還でもしたのか、そのスリッパは。」
「乙女の必需品よ!なんか文句ある!?」
「いや、ない。・・・ん?」
即答で答えて、ふと背後に暖かい重みを感じた。
「あら、アメリアまで沈没ね。」
「え!お、おい!?」
慌てて後ろを振り返ろうとして、背中からずり落ちそうになるアメリアを慌てて
後ろ手に受け止める。背中からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
「・・こんな短時間で熟睡かよ。」
「無理ないわよ、結構遅い時間になっちゃったんだし、元々寝付き好いし。」
自分もそろそろ眠くなってきたのか、金一封の入った革袋を手に、
大きく伸びをする。
「ガウリィ、ほらくらげー、宿に戻るわよ。こんなとこで寝るな!」
ぐいぐいとガウリィの耳を引っ張り、有無を言わさず引きずろうとする。
たまらずガウリィが起き上がって呻いた。
「いててて、こぉら!何するんだよ、リナ。もう起きたから離せって!」
「いーやー、悔しかったらとっとと歩くのねぇ。」
「!にゃろ、ならばこれでどうだっ!」
「わ、ちょ!やめてったらくすぐったいでしょ!ガウリィ!!」

じゃれながら二人は小走りで宿へ向かう。置いていきぼりを喰らった
ゼルガディスは、仕方なく眠るアメリアをそっと傾けると背中に背負った。
「白魔術の講釈は、明日ゆっくり聞くとするか・・・」
ため息一つついて、そっと歩き出す。
その表情は優しい気であったことを、背中のアメリアは勿論、そして、
ゼルガディス本人ですら気付かないのであった。



その夜、アメリアは再び不思議な夢を見た。
青黒い闇が支配する夢を。

もう、それは怖いものではなかった。
もう、肌を刺す冷たさもなかった。   

それは日が昇る前の夜空に似ていた。
凛とした空気の漂う、心地よい感覚。

そう、その気配はあの男を連想させた。
そう、もうすぐ地平線から日は昇るのだ。

明けない夜はない。その時を信じて。

アメリアは揺れる背中のうえ、幸せそうに眠っていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

どうも〜、又懲りずに妄想ネタでお邪魔してしまいました。
今回はちょっと長めになったけれど、一話の中に収めてみました。
事件らしい事件も起こらず、四人の旅の様子を書いてみたかったんです。

そのお陰でだらだら、締まりなく続けてしまったんですが、
余り削れずに、そのままにしてしまいました。
アメリアがゼルガディスを意識し始める頃・・・を目指した筈なんですが、
う〜む、現役を遙か昔に退いている女には、無理だったのでしょうか・・・(笑)

又、もう少し妄想ネタが浮かんだので、まとまり次第
こちらにお邪魔したいと思っています。
その時は、又こんなものですが読んで下さると嬉しいです。
でわでわ。

魚の口 

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2421幕間で妄想。その4。前。(懲りずに)魚の口 11/3-20:13
記事番号2411へのコメント

リナは頭を抱えていた。
成り行きとはいえ、旅の連れが増えてしまっていたからだ。
相手は人のなりをしているが、闇の側にいるものである。
しかし、今のところのおかっぱ頭の男(?)の正体を知っているのは自分だけ。
他の仲間には悪いが、このえせ神官の正体を告げてはいなかった。
とはいえ、そのことでリナが頭を抱えていたわけではない。

街道近くの安い宿屋に泊まることにし、料金を前払いした時のことである。
懐から取り出した財布の中身を見て、リナは愕然とした。
「こっ、このままだと、路銀が底を付くのも時間の問題ね・・・(汗)」
えせ神官は人間のフリをしているので、皆が食事をすれば一緒に食事をするし、
宿の部屋にしてもこの男の分まで用意しなくてはならない。
当然、人数が増えればそれだけ食い扶持が増えるので、路銀が大量に必要となる。

「なんか納得いかないわぁ・・・ヤツには食べ物だって睡眠だって
 そんなのぜんっぜん必要じゃないでしょうにぃ〜〜〜・・・」
ずいぶんと軽くなってしまった愛用の財布を握り締め、血の涙を流すリナ。
この希代の女魔道士にとって、無用の出費とは断腸の思いのようである。
がっくりとお会計の前でうなだれていたリナの背後から、突然声がした。

「どうしました?リナさん。」
人の気も知らないで、のんびりとしたトーンで話し掛けてくる。
気配をさせずに背後取った人物に、リナは怒りの眼差しで振り返った。
「ゼ〜ロ〜ス〜!あんたが増えたお陰で路銀が減ってく一方なのよ!
 責任取って、なんか換金出来そうなアイテムよこしなさいよねっ!!」
怒りをぶつける一方で、ドサマギにとんでも無いことを言うリナ。
人畜無害そうなニコ目で、ゼロスと呼ばれた黒い法衣に身を包んだ男は、
少しだけ困ったようにリナを見た。
「えー藪から棒にそれはないじゃないですか、リナさん。
 それに冷たいなぁ、僕と貴女の仲じゃないですかぁ。」
「ペペペペぃ!だぁれが『僕と貴女の仲』じゃ!!慣れ慣れしいわね!
 必要経費よ、必要経費!そうだ、あんたの上司とやらから又、
 異界の魔王の何だの珍しい魔道具だの、引き出したらどうなのよっ!」
男の台詞を邪険に扱って、リナは尚もゼロスに詰め寄る。かなり本気のようだ。
「む、無茶言わないで下さいよ!今は別口だって言ったじゃないですか・・・
 ・・・もー、しょうがないなぁ。」
尚もぎらぎらした、いかにも『何かよこせ!』と目で力説しているリナを見て、
根負けしたのか、ゼロスは渋々と肩口から下げていた袋に手を伸ばす。
中から出てきたのは、男の手のひら大の銀の小箱だった。
「・・・何これ?」
「ま、立ち話もなんですし。」
言って、ゼロスは視線を宿の一階に設けられている食堂に向けた。
その食堂の一角に、他の仲間が夕食を取るためにテーブルを囲んでいる。
「・・・そうね、お腹もすいたし、食事の後でも説明して貰いましょうか。」
リナはそう言うと仲間が座っているテーブルへと足を向けるのだった。



いつものように、空になった大量の皿がテーブルの上に積み上げられている。
ガウリィと競い合うように食べ物を次々と胃の中へ収め、やっと人心地に
なったリナは満足そうに紅茶をすするのだ。
この食事量を人並みに減らせば、手持ちの路銀だけでも五人がふた月は楽に
旅を続けられるというのに、その考えは全く頭に上らないようである。
「さて、それじゃさっきのアイテムの説明して貰いましょうか、ゼロス?」
カップを片手に持ちつつ、視線をおかっぱ頭に向けて、話を促す。
他の三人もリナの台詞に、食後のお茶何ぞを呑みつつ、ゼロスに注目した。
「はいはい、これのことですね?」
ゼロスは懐から先程の小箱を取り出し、かたりと蓋を外してみせる。
「?カード?」
「これはアルカナカードですね?」
中から取り出しテーブルの上に広げだしたものを覗き込んで、リナとアメリアが
それぞれその名称を口にした。
「えぇ、見ての通りです。」
相変わらずのニコ目で、ゼロスは大して関心もせずに頷いた。
「ちょっと、これが値打ちのものだって言うの!?」
ゼロスの態度にリナは疑いの眼差しを向ける。だが、その質問にゼロスが
答える前に、ガウリィが不思議そうに問い掛けた。
「なぁリナ。これって何に使うもんなんだ?」
「見たことないの!?ガウリィ・・・って、男の人は大体興味がないもんか。
 占いの媒体として使うのよ、見たことない?町の片隅にいる占い師なんかが
 このカード使って占ってるの。」
そう言うリナの言葉に、ガウリィは腕を組んで唸ってしまう。
「占いねぇ・・・興味ないからなぁ。」
「捜し物とか、将来の運勢とか、相性占いなどが主体の占いですから、
 男の人には縁が余りないかもしれませんね。」
ガウリィの様子に、アメリアが苦笑する。そう言ってテーブルに広がっている
カードの一枚に手を伸ばそうとして、例によってフードを目深に被ったまま
今まで黙っていたゼルガディスの手に止められた。
「?ゼルガディスさん?」
「・・・このカードを、描いた魔法陣の上に配置し、力場を更に強めるという
 使い方もある。占い師でもないこの男が持っていたものだ、
 只の占いカードじゃあるまい。迂闊に触らん方が身のためだぞ。」
抜け目なくゼロスを見ながら、ゼルガディスは警戒の色を濃くする。
「まぁ、もともと呪術的要素の強い占いだし、何かの儀式とかの前に吉凶を
 占ったりして、宗教色も強く持っているわよね。使い方によっちゃあだけど。」

かちゃり
飲んでいた紅茶のカップをソーサーに戻して、リナはゼロスを改めて見据えた。
「で、あんたの出したこのカード、何なの?一体。」
リナとゼルガディスの二人から強い視線を投げかけられているのに、
いっこうに気にする様子もなく、ゼロスはカードを掻き混ぜながら言う。
「やだなぁ、お二人ともそんなにつんつんしないで下さいよぉ、そりゃ確かに
 このカードは前に僕がクロツさん達のアジトから失敬してきたものですけど。」
などとしゃーしゃーと言いのけるゼロスに、
「・・・クロツって、まさかあの魔王を崇拝してた!?」
「ゼロスさん!何だってそんなところから!」
リナとアメリアが同時に立ち上がり、ゼロスへと身を乗り出す。ゼルガディスも
イヤなことまで思い出したのか、更にジト目でゼロスを睨み付けた。ただ一人、
ガウリィだけが今の話題についてゆけず、リナのマントの端をつんつんして問う。
「なぁリナ。クロツって・・・」
「だぁあ!このくらげはっ!前に戦ったでしょ!?ザナッファー!
 あれを造り出した集団にいた男のことよ!
 あんた、そんなところから持ってきた怪しいカードなんか
 売れるわけないじゃない危なくて!・・・あ、黙ってればいいのか。」
台詞の前半はガウリィに向け、後半はゼロスに向け言うリナ。まだこのカードを
換金するつもりでいたのか、最後に危ない一言を残す。
「リナさ〜ん、そう言う問題じゃあ・・・(汗)」
最後の台詞を聞き逃さなかったアメリアが、額に汗を浮かべる。

「皆さんのご明察通り、このカードは怪しい儀式に使われていたのか
 結構な気を放っていましたけど、今はもう時間も経ちましたし、
 僕が清めておきましたから、これはもう普通の占いカードですよ。」
このカードが纏っていた変わった負のエネルギーは僕が戴きました、とは言わずに
ゼロスはもっともそうなことを言うと、やおら掻き混ぜていたカードの中から
一枚のカードをリナに差し出す。
くるりと表へ返すと、それは『月』のカードであった。
「月(ムーン)の正位置。・・・信じる信じないはあなた達次第ですけど。」
言ってにっこりと微笑むゼロス。
このカードの持つ意味は嘘、不安、など慎重さを要求するもの。
「リナ!」
カードの意味を読み取ってか、ゼルガディスがリナを制する。だが、
リナはその差し出されたカードをじっと見た後、ゼロスに視線を向ける。
「・・・まどろっこしいわね、このカードでどうしろって言うのよ!」
挑戦的に言い放つと、リナは躊躇わずにそのカードを勢いよく奪った。

「・・・いえね、リナさんが減ってゆくばかりの路銀に嘆いていたので、
 僭越ながらお手伝いをしようかと。」
一つの緊張感を漂わせていた雰囲気をぶちこわすのんびりモードで、
ゼロスはのほほんと言うのだ。
「は?手伝い??」
返ってきた意外な台詞に脱力しつつ、リナはオウム替えしに聞き返す。
「はい、このカードを使って占いをして路銀を稼ぐんです。」
「馬鹿か、突然そんなことを始めたところで、客が入るわけがない。」
ゼロスの提案をにべもなく否定するゼルガディス、リナも同じ様な
反応を返そうとして、不意に宿の店員が空になった食器を片しに現れた。
「食事は終わったかい?そろそろこの食器を片づけさせて貰うよ。」
山になった食器を担ぎ上げようとした店員が、テーブルに散らばった
カードに目を留める。
「お客さん達、明日ののみの市に参加するのかい?」
「のみの市ですか?」
アメリアが店員の台詞に反応し、物問いた気な視線を向ける。
つぶらな瞳を向けられてか、店員はちょっと照れたように答えた。
「あ あぁ、この町じゃあふた月に一回開かれるんだ。文字通り古着や骨董品
 なんかから、武器、防具、日用品まで、近辺の町や村からも参加するのさ。
 ちょっとした祭りみたいに露店や、さっきも言ったように占いの店も出るよ。」
「そういや、ホットドック売ってた店の店頭にポスターが貼ってあったなぁ、
 当店も出店しますとかって・・・」
ガウリィが先程通った町並みを思い出したのか、右頬をぽりぽりと掻きながら
呟く。
「その日は町のメインストリートに軒先を借りて露店が並ぶんだよ。
 銀貨一枚、町役場の専用受付に払って登録すれば参加できるから、
 小遣い貯めた子供も、友達何人かと使わなくなったおもちゃを売ってるよ。
 それだけ誰でも参加できるって事さ。」
そこまで言うと店員は一抱えもある皿を持ち上げて、カウンターへ向かった。

「・・・ね?微々たる物かもしれませんが、なくなり続けてるものに
 どうしようと嘆くより、建設的じゃあありませんか?」
男の正体を知っている者が見れば、耳を疑いたくなるような言葉を吐くゼロス。
「・・・だが、誰がやると言うんだ、そんな役。まさかお前か?」
軽い揶揄を込めてゼルガディスはゼロスを見やる、しかし、ゼロスは
思いも掛けないことを言い出した。
「僕が見たところカードの使い方を知っているのは、リナさんと
 ゼルガディスさんのようですね。でも、皆さんの財布の紐を管理しているのは
 リナさんですから、彼女にこの役をやらせるのはお門違い。そうすると
 ゼルガディスさん、貴方がこの役に適任なんです。」
「は!?ちょっと待て、何で俺がそんなことを!いや、それよりも何で
 お前が仕切るんだ!?」
突然話が飛んでもない方向へ行こうとして、ゼルガディスは慌てて立ち上がる。
「いやぁ、ゼルガディスさんはカードを扱えるという特技をお持ちですが、
 他に路銀を稼ぐ方法を僕は持っていませんので、僕は小道具の提供と
 進行などを勤めようかとぉ。」
まさにしゃーしゃーと言ってのけて、ゼロスはにっこりと笑う。
「ふざけるな!貴様はよくもぬけぬけと!第一この俺がどうやって
 人前に出られると言うんだ!」
怒りの余り浮かんだ青筋がふたつみっつ、徐々に近寄ってでっかいものになる。
「なぁに、心配には及びません。占い師という者は対外顔を隠していますよ?
 ゼルガディスさん、今の貴方のようにね。」
「!貴様ぁ!!」
「あぁ、ゼルガディスさん落ち着いて!!」
「待って!!」
ゼルガディスの怒号に続きアメリアが慌てて、剣の柄を取ろうとした男を止める。
その最後にリナの制止の声が響いた。
「く、離せアメリア!リナも止めるな!」
剣の鞘を握った左腕ごとアメリアに抱え込まれ、もがくゼルガディス。
その様子にガウリィも見てはいられなくなった。
「おい、ゼル!落ち付けって、アメリアが危ないだろう!リナも
 何とか言って・・・り、リナ?」
振り仰いだ先にいるリナは、顔を下に向け肩を小刻みに揺らしている。
「おい、リナ。泣いてるのか?」
ガウリィのその言葉に、組み合っていたアメリアとゼルガディスも、そして
ゼロスもリナを見た。

「・・・ふ、ふふふふふ。ゼロス、あんた面白いこと言うじゃない。」
「リナ?」
まだ顔を上げずにリナは、テーブルに押しつていた両手をぎゅっと握る。
「・・・おい?」
「リナさん?」
アメリアとゼルガディスの心配そうなその声に、リナはぱっと顔を上げ
ゼロスをびっと指差した。
「好い!ゼロス、それ採用!!そうよ、『芸は身を助ける』っていうじゃない!
 ゼル!あんた占い師やってよ!占い師の格好はあたしがコーディネイトするわ
 要はあんたの姿が普段とわかんなきゃいいんでしょ!?そんなの簡単よ、
 『占い師らしく』仕立てちゃえばいいんだから。店の雰囲気もそれっぽく
 飾り立てればいいし・・・それっぽいもんなんか、あたしの持ち物の中に
 たくさんあるし・・・」
そう言ってぶつぶつと作戦を練り始めるリナ。
「・・・お い、ちょぉっと待て!勝手に話を進めるな、こら!!
 リナ!えぇーい、俺は占いなんぞやらんからな!」
顔を真っ赤にさせてわめくゼルガディス、その隣でアメリアが、
「何だか面白そうです!」
と、リナの側に行き、一緒に占い師の格好をどうするか?など話し始める。
そこに言い出しっぺのゼロスが混じり、三人(?)は円陣を組み始めた。
「ぉお前ら!ちったあ人の話を聞けぇ!」
「だぁいじょうぶよゼル!初めはあたしらが交代でお客のサクラやったげるから、
 あんたは安心して占いの方に専念してよ!このあたしが計画するからには
 ずぇったい!長蛇の列になるくらいお客を呼んでやるんだから!
 そんでもってじゃんじゃん稼いで、路銀の足しにするのよ!」
ゼルガディスの話など、ハナから耳に入っていないリナは、その身に染みた
商売人のノウハウを素に、綿密に計画を練る。
「だから人の話を聞けと・・・」
「あぁなったリナは、もう止められないぞ?それとも、ゼル
 竜破斬(ドラグ・スレイブ)喰らう覚悟で止めてみるか?」
「・・・・・・・(呆然)」
自称、リナの保護者ガウリィの、おも〜い言葉に、ゼルガディスは
がっくりと椅子に座ることしかできないのであった。

【幕間で妄想。その4。後。へ】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

どうも〜、またまたやってきてしまいました。魚の口です。
でも、今回も続き物になってしまいました(汗)。
今回で私としては初めてゼロスを登場させることになったんですが、
いかがでしたでしょう?「彼らしく」感じられたでしょうか?(どきどき)

登場人物が増えた分、台詞回しも増えて、まとめにくいのなんの。
ゼルアメのつもりが、この回では二人ともあまり絡んでないし・・・
リナとゼロスのやりとりが長いんですが、けずれませんでした(苦笑)。

えー、次はちゃんとゼルガディスとアメリアを絡めてみたいと
考えておりますので、また読んでやっていただければ嬉しいです。
でわでわ。

魚の口

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2423幕間で妄想。その4。中。(…学習能力↓)魚の口 11/5-03:25
記事番号2421へのコメント

次の日の朝。
いつもより早めに朝食を済ませたリナ、ガウリィ、アメリアが、町役場の受付へ
のみの市参加料を払いにいそいそと出掛けていった。
帰りには占い屋を開くのに必要な物を揃えるので、ガウリィは荷物持ちの為に
連れ出されたのである。

「ご苦労なこった。」
宿屋の自室の窓から、遠ざかってゆく三人の後ろ姿を眺めて、ため息を吐く。
ゼルガディスは備え付けのテーブルに、夕べリナから受け取ったアルカナカードを
広げ始めた。
「とうとう観念なさったんですか?ゼルガディスさん。」
背後の戸口あたりから、のんびりした口調の声がする。ゼルガディスは
肩口から視線だけを向けると、うんざりとした声を出した。
「・・・どうせ、大方リナにでも瞠ってろと言われたんだろう?ゼロス。」
おかっぱ頭の男、ゼロスに一瞥だけ繰れると、ゼルガディスはまた、
テーブルに広げたカードに視線を戻した。
「はっはっは。いやぁ、その通りなんですよゼルガディスさん。
 リナさんってば人使いが荒くて、貴方を瞠りながら宿のご主人に頼んで、
 テーブルと椅子を二脚、それになんでか物干し竿を三本借りておけ・・・
 なんて言うんですよ?一体物干し竿なんて何に使うんでしょうかねぇ?」
わざとらしく物問いた気に話はするが、表情は特に不思議がるのでもなく、
単に言葉を口に載せている印象を受ける。
「ふん、知りたきゃリナ達の後でも追ったらどうだ。俺は止めんぞ。」
背を向けたまま、興味なさそうにゼルガディスは答えた。
手は相変わらず、カードを一枚ずつ丁寧に並べている。
「名案ですが、僕の今の仕事は貴方を瞠っていることです。
 この場を離れたりしたら、リナさんに何を言われる事やら。」
「しごと・・・か。貴様の仕事はそれだけじゃ有るまい?」
そこで言葉を切ると、ゼルガディスはゆっくりと振り返った。

「異界黙示録(クレアバイブル)の『写本』を追っていたお前が、何故
 リナとともに旅をする?前に聞いたときははぐらかされたが、
 今はいい機会だ、俺は逃げたりせん。今度こそ話して貰おうか。」
「・・・・・」
油断無く自分を睨め付けるゼルガディスに、ゼロスは表情は改めたものの、
口を噤み沈黙で答えた。
「・・・今度はだんまりか、まぁいい。
 しかし、前の事件の貴様の行動は、甚だおかしかった。 
 『レッサー・デーモンのしっぽにはたかれて、気を失っていた』だと?
 あの時は頷きもしたが、どんな手を使ってか、簡単に人間の首を撥ねられる
 お前が『気を失っていた』なぞ、有り得るものか?」
「・・・・・」
尚もゼロスは黙ったまま、静かにゼルガディスを見つめていた。そんな
ゼロスの様子に、ゼルガディスは唇の端だけをつりあげ、嗤う。
「貴様のその行動を占ってみよう・・・その動きにはどんな裏が有るんだ?」
左手に、テーブルに並べていたカードの残りの山をのせ、意味ありげに
一枚のカードに手を掛ける、だが、ゼロスは表情も変えず沈黙を守り続ける。
ゼルガディスの青黒い指が、くるりとカードをかえした。
「ほぅ・・・剣(ソード)のXII(セブン)・・・お誂え向きに正位置だ。」
露わになったカードを摘んで、ゼロスへと向ける。
「このカードが出たときのキーワードは『裏切り、偽善』・・・さて、
 一体この意味はどう解釈すればいい?お前の行動そのものか?
 それとも・・・まだ、他に何かあるのか?」
言い逃れは許さないと、ゼルガディスの突き刺すような視線は雄弁に語る。
その台詞に、ようやっと反応を示し、ゼロスは薄く嗤った。
「・・・カードの意味は表裏一体・・・とだけ、お答えしましょう。
 それにしても、ゼルガディスさん。貴方は一体どちらでカードの扱いを
 覚えたんです?まさか、占いで生計を立てていらしたとでも?」
「―――――・・・このカードの使い方は占うだけではない、魔術的な要素も
 絡んでくる。俺のはそのうちの一部を知っているに過ぎない。貴様の方こそ
 何故、カードの意味を知っている。」
摘んでいたカードを、ついと離して、ゼルガディスは言う。
「僕は占い方は知りません。占いには興味がないですからね。でも、カードの
 伝える言葉には興味があります、絵柄の正しい位置か逆の位置かだけで、
 全く正反対の言葉になっちゃったりすんですよね。近親感沸くなぁ、僕。」
答えているようで、殆ど答えになっていない台詞をゼロスは漏らす。
その時、扉の向こうから元気な声が聞こえてきた。
「ゼルガディスさん、ゼロスさん、ただ今戻りましたぁ!!」

ばぁあん
勢いよく扉が開いて、両手で紙袋を抱えたアメリアが現れた。
「はぁー、お二人ともいましたね?えーっと、早速準備に取りかかるので、
 ゼルガディスさんは用意した衣装に着替えて下さいね、私がお手伝いします。
 で、ゼロスさんはリナさんから頼まれていた物の準備、終わってます?」
部屋の中に充満していた重い雰囲気を、一切感じずにしかも吹き飛ばしてくれて、
アメリアはうきうきと部屋の中にいた男達に指示を出し始める。
「お、おい。リナとガウリィはどうした?」
少々面食らって、ゼルガディスはアメリアを見た。
「リナさんは先にお店を開く場所を見に行ってます。ガウリィさんは宿の下で
 ゼロスさんの準備しているはずのテーブルとかを運ぶために待機してますよ?」
そう言ってにっこり笑う。
「あー、はいはい。テーブルに椅子二脚に物干し竿三本でしたね。
 食堂の隅の方に寄せて置いてくれてるはずですよ。僕が行って、ガウリィさんに
 運んで貰えばいいんですね?」
ゼロスはそう言うと、アメリアが開け放ったドアへと身を躍らせる。
「ゼロス!まだ質問には!!」
答えてないぞ、と続けようとするが、ゼロスの台詞に遮られてしまった。
「いやー、ゼルガディスさんたら、カードの扱いも慣れてらっしゃるけど、
 いかさまをするのも様になってますねぇ?お見逸れしました。」
ゼロスはその言葉だけを残して、するりと扉から消える。
ふと、足下に落ちたカードに気付いて、アメリアはそれを拾い上げると、
ゼルガディスへと近付いた。
「ゼルガディスさん、これ、落ちてましたよ?」
側へ寄ると、ゼルガディスの後ろにあるテーブルには、綺麗に並べられたカードが
剣(ソード)のXI(シックス)で止まっているのだった―――――

「・・・あぁ、ありがとう。」
ため息ひとつすると、ゼルガディスはアメリアからカードを受け取る。
アメリアはそんなゼルガディスの様子に小首を傾げるが、手にした紙袋を
男の前に掲げた。
「はい、これ。ゼルガディスさんの衣装!リナさんと二人で選んでみたんです。
 ゼルガディスさんに似合うと思いますよ!」
嬉しそうに言うと、紙袋の中身を部屋備え付けのベットに並べ始める。
「・・・あ、アメリア、何だこの服は・・・(大汗)」
「へへっ、綺麗な色でしょう!?これって絶対ゼルガディスさんに映えると
 思うんです!ゼルガディスさん細身ですし、サイズは合うと思いますよ?」
「いや、サイズの心配をしているんじゃなくてな・・・(滝汗)」
目の前に掲げられた衣装に、辟易するゼルガディス。だが、アメリアは
一向に構わず、
「着てみて下さい!絶対似合いますって!!」
「・・・(がっくり)・・・」
ささやかな抵抗を試みようとするが、アメリアの天真爛漫な笑顔を向けられると、
抵抗は難しくなってしまう。
―――く、『レゾの狂戦士』などと畏れられたこの俺が、仮装の真似事など・・・
ぶつぶつ心の中でごちりながら、もそもそと用意された物を被る。
その衣装、釣り鐘草の花の色・・・うっすらと灰色がかった青紫色の上衣は、
皮肉だが、青黒く換えられたゼルガディスの肌の色に、旨く映えていた。
立ち襟と、袖と裾の処に紫紺の糸で刺繍が施されていて、それがやや長めの全体を
引き締めている。アメリアが思った以上に、ゼルガディスにそれは似合っていた。

「わぁ・・・やっぱり・・・お似合いです。それに
 良かった!サイズもぴったりですね!!」
しばしの放心からすぐに満面の笑顔に戻ると、アメリアは次々と装身具を
紙袋から取り出した。もはや、抵抗する気も起こらずになすがままの
ゼルガディス。                              
「で、ですねこの鳩羽色のストールで髪の毛を覆いつつ、肩口にドレープを寄せて
 止めてっと、それからその上にこの編み目の大きな黒のショールを袈裟懸けに
 巻き付けて、リナさん特製の宝石の護符(ジュエルズ・アミュレット)で
 右肩に止め、・・・で、この少し透ける黒いスカーフで、イヤリングを使って
 お顔を隠す・・・と、あとは、銀色の細いブレスレットを数本まとめて付けて
 貰って出来上がり!!」
てきぱきと一連の作業をこなし、最後に笑顔で万歳を上げるアメリア。
その視線がゼルガディスの全身を捉えると、心なしか頬が朱に染まった。 
「・・・男の方にこういうのは失礼かもしれませんが、お綺麗ですぅ。
 ゼルガディスさんて・・こう、気高さが顕れてますよね・・・」
ほぅ・・っとため息を漏らしながら、アメリアは感心するのだが、
当の本人が嬉しいはずもなく、にべもない言葉が返ってくるのだ。
「あほう。男が綺麗と言われて、のぼせられるか。俺から見れば
 こんなのは仮装だ、仮装!ったく。」
くるりとアメリアに背を向けると、ゼルガディスはテーブルの上に広げていた
カードを順番に戻し始める。
その背に向けてアメリアは小さく舌を出すが、尚も嬉しそうに言うのだ。
「だって、私初めてゼルガディスさんにお会いしたときから、そう思って
 いたんですもん。」
カードをまとめていた手が一瞬だけ止まる。本当に初めて会ったときに
自分はお前さんちの城に忍び込んで、お前さんを脅していたんだぞ。とも言えず、
ゼルガディスは黙ったままカードをまとめ終えると、銀の小箱に戻す。

「・・・着せ替えは終わったんだろう?早いとこ、リナ達の処に集合しなくて
 いいのか。」
ぶっきらぼうにそう言うと、振り返ってアメリアを見る。
その顔にまたもや満面の笑みがこぼれた。
「!やってくれるんですね!?ゼルガディスさん!!」
「こんな衣装まで買って寄越して、本気じゃなかったとでも言うのか!?
 止めるんなら、俺は喜んで辞退させて貰うぞ!」
「あぁ!?そんな、本気も本気!大乗り気です!!ゼルガディスさぁん!!」
慌てて甘えるように、アメリアはゼルガディスの右腕に絡み付いた。
「ば!?ばか、こらっ!」
―――胸が腕に当たるだろう!?
声にならない叫びを上げて、ゼルガディスは途端に真っ赤に染まった。
右腕にはっきりと伝わる、アメリアの暖かく柔らかな胸の感触。
「さっ!ゼルガディスさんの気が変わらないウチに、ささ、行きましょう!!」
ゼルガディスの様子を知ってか知らずか、アメリアは合成獣の男の腕を
掴んだまま歩き出す。半ば、引きずられるように、宿を出てゆくゼルガディス。

人通りが多くなり出したメインストリートを、とりどりの露店が並び
あちこちから威勢のいい客引きの声が上がっていた。
ふた月に一回ののみの市は、間もなく、一番の賑わいをもたらす
正午を迎えようとしているのだった。

【幕間で妄想。その4。(又やっちゃった)後。へ】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

・・・その2。で、やったことを又繰り返してしまいました。
うう、すみません。又続いてしまいます(自爆)。

・・・初めは町役場に参加料払いにゆく三人の姿から考え始めていて、
半分まで続けて、あんまりにも長くなるから・・・と、丸々削除したのに
又長くなっちゃいました。

さらっとした文にしたいのに、気が付くと、ぼてぼてと厚ぼったく
なってゆくのは私の悪い癖のようです(嘆息)。

アメリアとゼルやんの「絡み」も、ただ腕に絡み付くという
オチのような代物だし、お恥ずかしい(滝汗)。
このまま終わらせるか?とも思ったんですが、
あんまり・・・なので、続かせて下さい(大恥)。

後半はゼルやんの占いの様子と、ちょっとした
出来事を織り交ぜてみようと思っております。
こんな物しか書けませんが、又読んで下さると
とても嬉しく思います。でわでわ。

魚の口

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2441幕間で妄想。その4。後。(やっと完結)魚の口 11/7-00:34
記事番号2423へのコメント

通りには、時折人の波が出来るほどの賑わいが訪れていた。
香ばしい匂いをさせて、小えびや白身の魚を揚げている店。
数種類の果物を店頭に並べて、フレッシュジュースを売っている店。
見るからに手作りと思われる、ショールや膝掛け、パッチワーク製品を売る店。
元々商売をしていて更に参加をしているのか、品揃いのいい金物品を扱う店。

とりどりの露店が並び、精一杯自己主張をしていて、通りを歩く人々の
目を楽しませてくれる。
「何だか参加してる皆さん、生き生きと楽しまれているのがわかりますね♪」
そう言う自分もうきうきと、楽しんでいるのがまるわかりなアメリア。
女性という生き物は得てして、ウィンドウションピングなるものが好きな質だが
アメリアもその例外ではないようだ。
通りに並ぶその一つ一つの店頭を覗き、感嘆の声を上げている。その隣を
右腕をアメリアに固定されたままのゼルガディスが、ただ黙って付き従う。
振り解いても良かったのだが、自分は店を開く場所を知らないし、
通りにもそこそこの人が集まり出してきている。今、この腕を振りほどけば、
二人してはぐれてしまうかもしれない。そして、何より
自分の腕に伝わってくるアメリアの体温が、酷く心地よかった。

気恥ずかしさと、心地よさと、胸の奥底に広がる充足感とで溢れてくる。
少し前、眠りについてしまった少女を背に担ぎ帰った時と同じ気持ち。
凍り付いていた自分の心の一部に、何かが注ぎ込まれようとしていた。

その不思議な感覚が何か、確かめようとする前に、二人の背後から
下卑た台詞が投げかけられるのだった。
「よーよー、お二人さん見せつけてくれるじゃない。」
「ひらひらしたナリして、女連れか?イイご身分じゃねぇかよぉ。」
振り向くと、よくその辺にごろごろといるごろつきが二人。どうやら
ゼルガディスの格好からして優男と勘繰ったか、からかってやろうとする
思惑が表情にありありと浮かんでいた。
「何の用です、あなた方は。」
男達の態度からしてよからぬ思惑で近付いてきているのが、アメリアにも
分かるのだろう。その少女の口から漏れた声には、先程までの浮かれた
声音は微塵も感じなく、凛としていた。
「構うなアメリア。この程度の輩など、相手にするもんじゃない。」
ごろつき二人に一瞥だけ繰れて、用件次第では相手をしようとしている
アメリアを牽制する。だが、その音量は明らかに男達にも届くものだ。
「この程度だとぉ!?女の前だからってデカイ事ぬかしてんじゃねぇぜ!」
男のうち、いかにも気の短そうな方が早速ゼルガディスに食ってかかろうとする。
「あの程度の事でガタガタぬかすから、程度が知れていると言ったんだ。
 案の定、自分の方から認めているじゃないか。」
口元はスカーフに隠れて分からないが、薄笑いを浮かべているのは見て取れる。
ゼルガディスは男達の視線を受け止め、余裕の態度で構えた。
「・・・てんめぇ、後悔すんなよなぁ。」
「随分余裕ぶっこいてんじゃねぇか、俺達二人なんか相手になんねぇってか?」
もう一人の方の男も、油断無くゼルガディスを睨み付けるが、こちらはまだ
冷静に状況を見ようとしていた。

「そう言うことだ。ほい!お二人さん、お帰りはこちらっと!!」
突然、自分達のすぐ後ろで声がしたと思ったら、ひょいっと視線が高くなる。
「な!?なんだ!!」
「うぉ!?な、なにしやがる!!」
筋肉隆々とは言わぬものの、大の男二人を軽々と首根っこを押さえ、担ぎ上げる。
そのままくるりと後ろを振り返ると、反動を付け道路に放り投げた。
「のわわわぁっ!!!」
情けない声を上げ、手足をばたばたと振り回した後、ごろつき二人は仲良く
地面と激突した。廻りの露店から、わっと歓声が上がる。
「ガウリィさん!」
「よっ!遅いから迎えにきたんだよ、リナが待ちくたびれてるぞ?」
「ったく、ほんとよ。何もたもたしてるのかと思ったら、何遊んでるかなぁ?」
アメリアの声に陽気にガウリィが返事をしたと思ったら、今度はゼルガディス達の
背後からリナの呆れたような声が聞こえてきた。
「リナ・・・好きで遊んでいたわけじゃない、あいつらが誘ってきたのさ。」
リナの姿を認めてから、ゼルガディスは未だ地面とご挨拶している男達を見た。
「そうみたいね。ま、そんなのほっといて、行きましょ!ゼロスも待ってるわ。」
さして興味も示さず、リナはそれだけ言うとさっさと身を翻し、歩き出す。
「くそ!お、おぼえてろっ!」
リナが身を翻したのと同時に、ごろつき二人はその場から逃げ出した。
やられたときのおなじみ常套句だったが、ゼルガディスはもはや聞いてはおらず
ガウリィから視線をはずせない。
ガウリィはガウリィで、ゼルガディスの格好を改めて見る。
「・・・ゼルってさぁ、そういう格好、様になるよなぁ。」
「そう言う旦那の格好は、なんなんだ!?(汗)」
妙に感心しているガウリィの姿を、ゼルガディスはまじまじと見やる。
先程は男達の後ろにいて分かりづらかったが、ガウリィは薄い板二枚に紐を
通した物を自分の全面と背面にぶら下げていたのだ。
「あ、これか?リナのヤツがあんたはこれ付けてろって。なんだっけ
 えーと、ツナサンドじゃなくて・・・」
「さ、サンドイッチマン・・・ですね(汗)。」
どでっかく「占いの店」と書かれた宣伝文句。アメリアが声を漏らした。
そう、ガウリィは文字通り歩く広告塔にさせられているのだった。



メインストリートの端のほう。リナ達が宛われた場所は、賑わいからは少しだけ
外れたところに位置していた。リナはこの場所を見た途端に、こんな僻地に
配置した役場の人間を呪ったが、すぐに挽回の方法を考えついたのだ。
それすなわち、宣伝。

「わ、私もやるんですかぁ!?」
アメリアが思わず、素っ頓狂な声を上げた。リナから手渡されたのは宣伝小道具。
安っぽい小さなクラウン、背負う形の小さな白い羽、偽物のワンド。
「そうよ!こんな場所なんだから、お客呼ばなきゃ不利でしょ!?
 サクラだけじゃこんなとこ、おっつかないもの!大丈夫よ
 さっきのこともあるし、アメリア、あんたは店の前でやんなさい!」
有無を言わさぬ勢いで、リナは同じようにゼロスにまで、黒い矢印のような
二本の角が付いたヘアバンドと、さっきぽがやはり矢印になった黒いしっぽ付き
ベルトを手渡す。
「ほほぅ、僕はこれですか。で?これを付けて何をすればいいんです?」
さして反応を示さずに、かぽっとヘアバンドを頭に装着しリナの方を向くゼロス。
「ま、真顔でそれ付けられるとちょっと・・・いや、そうじゃなくて、
 えー、あんたにはこのストリートを、宣伝しながら歩いて貰おうかな。
 『よく当たる占いの店、このストリートの東端、食器屋さんのすぐ隣!』
 とか言いながらね!」
「ふむふむ。でわ、早速僕は宣伝とやらに行って参るとしましょう。」
そう言うと、ゼロスはベルトまで忘れずに装備して、人混みへと消えた。
「・・・見たところ楽しんでいるようにも見えるところが、底がしれんなよな、
 あいつの場合は・・・」
「う、う〜〜ん、いやがんないからいいんだけどさ。こっちが疲れるけど。」
鍵しっぽをふりふり、宣伝に向かったゼロスを見送りつつ、リナとゼルガディスは
げっそりとそれぞれの感想を漏らした。
「ま、気を取り直して。ゼル、頼んだわよ!?あんたの腕にかかってんだし?
 さて、あたしはお昼に摘む物でも物色してこよっかな!あんた達は
 何か食べたいモンでもある?」
自分は高みの見物を決め込むのか、リナは楽しそうに笑うとアメリアと
ゼルガディスに交互に視線を向けた。
「いや、今ので胸がいっぱいだ。俺には何か飲み物だけ見繕ってきてくれ。」
ややうんざり気味にゼルガディスはリナを見た。
「あ、私この近くにあった、クレープが食べたいです!いちごとクリームと
 チョコチップののっかった!!」
右手をはいはいとあげて、アメリアがリクエストする。
「クレープね、分かった。すぐに戻ってくるから頑張るのよぉ♪」
ご機嫌で手を振ると、リナは通りを歩き出した。
「俺の分も頼んだぞぉ!」
ガウリィがリナの背中に向けて念を押す。リナは人混みに紛れて、
ひらひらと手を振って答えた。
「・・・さて、仕方ない、始めるか。」
すっかりあきらめ気分で、ゼルガディスはアメリアとガウリィに
店を開く宣言をするのだった。

四方二メートルくらいの小さな間取りである。宿屋の主人から借り受けた、
物干し竿三本を上部一点できちんとロープで縛り、固定する。
残りの三本の足を、地面にブロックを置いて重りとし、三角錐の形に止める。
役場からレンタルで借りてきた黒い天幕を、その三角錐に被せ、
一面だけを覗かせ、そこにやはり宿から借りたテーブルと椅子を対面式に置き、
テーブルの上にはリナがもっている簡易魔法陣を描いた敷物を敷く。
物干し竿で拵えた簡易テントの天井に、持続力の長い『明かり』を灯し、
ゼルガディスが座るテント内の椅子の下に、香でも焚けば、あら不思議、
何となくそれっぽい雰囲気が流れるのだ。

おまけに占い師に化けたゼルガディスは、これ又そつがなく。
「・・・最後に最終結果だが、ふむ、棒(ワンド)の王(キング)が出た。
 自分と仲間の意見の中葛藤するが、理想に向かって進めるということだな。
 結果的には自分の考え通りに動けそうだが、それには強い指導力が必要となる。
 心して進めること。以上だ。」
「あ、ありがとうございます、このまま続ける勇気が出ました。貴方のお陰です
 俺、頑張ります。」
ひらひらした格好なのだが、隙間から覗かせている眼光は鋭く、また口調も
とてもお世辞には丁寧といえないのに、てきぱきと短く質問をしてゆき、
出てきたカードが伝えるメッセージを分かりやすく伝える。さらに
結果が思わしくなかったお客に対しても、アフターメッセージとして、
これはあくまで占いの結果なので、自分で何とか出来ることは占いに頼らず、
自分の思うように進め・・・など、ご丁寧に言って聞かせたりするのだ。
そんなゼルガディスの占いに、お客も小気味よく聞き入った。

普段のゼルガディスからすれば、全く別人のような接客能力に、
アメリアは正直舌を巻いた。
「ゼルガディスさんたら、占い師の素質もお持ちのようですねぇ、凄いなー。」
店の前、通りを歩く人達に誘いの言葉を掛けながら、アメリアはゼルガディスを
盗み見て感心する。リナ名案の宣伝のお陰もあろうが、店の前には確かに
口伝てに聞いたゼルガディスの占いの評判に、かなりの列が繋がりつつ
あるのだった。



小休止を挟みながら数刻、日はすでに西に傾きオレンジの色を濃くしていた。
通りは日中ほどではないにしろ、相変わらず人が行き交っている。
ゼルガディスの占いの店の前にも、まだまだ数人ずつではあるが連続して
列は繋がっているのだった。
「んっふふぅ♪これなら月が昇る前にもかなりの儲けになりそうね(はあと)。」
店に続く列を見ながら、リナは笑いが止まらないようである。無理もない、
いつもならストレス発散も兼ねているとはいえ、自分一人で盗賊いぢめに
精を出し、この一行の路銀を稼いでいたのだから。
それが、今回は自分はほんの少し準備をしただけで、あとは大枚が勝手に
転がり込んでこようとしているのだ、これが笑わずにいられようか!?
「確かに、宣伝の効果も有るんですけど、ゼルガディスさんの処理能力といったら
 目を瞠る物がありますよね!占いって一人の人に時間が掛かる物なのに、
 的確に質問の内容を汲み取って、お客様の納得のゆく結論に繋げるんですもの、
 これって、やっぱり才能なんでしょうか?」
しきりに感心して、アメリアはやや紅潮した顔でゼルガディスを見るのだ。
リナも又、アメリアの言葉に頷く。
「まーねー、正直びっくりしたのは事実よね。ゼルに愛想は求めてないから
 その辺はいいんだけど、あれだけ客と対応できるなんて、思わないもの。」
「んー、元々人に対して一線置くタイプだし、客観的に物事見れるのが、
 今回は活きたんじゃないかぁ?」
「のぉおお!?ガウリィにしてはまともな意見!どしたの!?」
まともに顔色を変え驚くリナ、アメリアも両手を口に当て目を大きく見開く。
「・・・何だよ二人して驚くなよぁ、ゼルとは同じ部屋になるのも多いんだ、
 それくらい見えてきて当然だろぉ。」
二人の様子に少々拗ねた口調になるガウリィ、アメリアは慌てて話題を
変えることにした。

「ま、まぁガウリィさんのご意見はもっともとして。処で、ゼロスさんは
 何処まで宣伝に行かれたのでしょう?」
アメリアの言葉に、リナは片眉を上げて答える。」
「ゼロス。そういえばそうね、昼過ぎから見てないわ。・・・あいつのことだ、
 何処かでさぼってるんでしょうけど!?ちょっと行って、探してくるか!」
「あ、俺も行こう。ついでになんか摘めるモンでも買ってこようぜ?
 ゼルもいい加減腹減っただろうし、俺も腹減っちゃった。」
最後の台詞がガウリィの行動を表していたが、自分も小腹が減ってきたので、
リナは何も言わずに頷いた。
「んじゃ、アメリア。その辺り探したらすぐ戻るからさ、待っててくれる?」
「はい、分かりました♪」
笑顔で答え小さく手を振るアメリアを見て、リナとガウリィは又通りへと出た。

「さて、お月様が出るまで後少し。もうひと頑張りしますか!」
「そうかい、んじゃあそれまで、俺らの相手をしてもらおうか。」
弾かれたようにアメリアは背後を振り返った。そこには昼前に自分達に
絡んできたごろつき二人に加え、もう一人更に体格のいい男がニヤついていた。
「ほぉ、こりゃまた、昼見たときより可愛らしい格好してるじゃねーか、
 俺達にももっと可愛らしい姿で、楽しませてくれよなぁ。」
気の短そうな男がこれ又イヤらしい顔つきをして、アメリアを言葉で辱める。
男達の間に下卑た笑い声が上がった。
「お黙りなさい!あなた方のような性根の腐った輩は、放っておくと
 ろくな事をしません!一度は見逃しましたが二度目はない、
 このアメリアがその性根を叩き直して差し上げます!!」
高らかに宣言をして、手にしたワンドをびしっと差し向ける。そのアメリアの
様子に、男達は更に笑い声をあげた。
「聞いたかよ!『叩き直して差し上げます』だとよ! ふっざけんなこのアマ!
 てめぇのほうこそ、その口きけねーように・・・」
「・・・何だと言うんだ・・・」
怒気を含んだ台詞がアメリアの後ろからした。男はそのプレッシャーに
喉まで出かかっていた卑猥な言葉を飲み込む。
「ゼルガディスさん・・・お、お店・・・」
振り向いたアメリアまで、その迫力に押され言葉が続かない。
「店先で騒がれて続けられるか。お前は後ろに下がってろ、俺一人で十分だ。」
アメリアには視線を向けずに、左手で少女の腕を掴むと自分の背後に押しやる。
ゼルガディスの台詞を聞いた、今まで無言でいた体格のいい男がゆっくりと
歩み出てきた。
「ほぉ、話には聞いていたが、大した自信だな。だが思い上がるなよ。」    
「誰に向かって口を利いている、目の前の者の実力すら計れない無能な筋肉馬鹿に
 とやかく言われる筋合いはない。」
合図など、ゼルガディスのこの台詞で十分だった。怒号すらあげずに
逆上した男はその上背を利用して、ゼルガディスの頭上へ上腕を振り落とした。
廻りから悲鳴が上がる。突然始まった立ち回りに、通りは騒然となった。

男としては会心の一撃だった。タイミングも、パワーも。しかし、
その生意気な優男を捕らえるはずだった拳は、ただ空しく空を切る。
「なに!?」
残像だけを残して、ゼルガディスは素早く移動していた。アメリアを言葉で
辱めていたごろつきの男へと。
「!ひっ!?」
獲物の一匹を標的に捕らえた獣の目が、音もなく近付く。あっという間に迫る影は
男の喉笛を捕らえた。
「貴様か?よくさえずる鳥は。だが、少々五月蠅すぎようだな?
 『すぎたるは及ばざるが如し』ということを、知らんのか?」
獲物を捕らえた獣の目が、小刻みに震える男を見据えた。
「くそっ!!」
仲間の危機に、もう一人のごろつきが慌てて空いた椅子を掴み揚げ、
ゼルガディスへと振り下ろした。
「ゼルガディスさん!!」
「やめろ!周りの連中に当たるだろうが!」                 
合成獣の男の危機に、アメリアは『炎の矢』の「力ある言葉」(カオス・ワーズ)
を解放しようとするが、気配を察した当の男に止められる。
乾いた音が鳴り響いて、男が振り下ろした木製の椅子は粉々に叩き壊れた。
掲げたゼルガディスの左腕によって、うち砕かれた椅子の背もたれ部分を
驚愕の表情で眺める男に、ゼルガディスはもう一人の男の喉笛を押さえたまま、
顎に向けて蹴りを喰らわす。
「ごばぁっ!!」
数本の歯まで打ち砕かれながら、男はもんどり打って倒れた。
それを見た、己の拳をかわされ放心していた大男がゼルガディスに突進する。
「うぉぉおおおぉっ!!!」

「電撃!!(モノ・ヴォルトォォ!!)」
問答無用の雷撃が大男を直撃し、こんがりとまんべんなく全身を焦がした。
悲鳴すらあげられずに大男は倒れると、その後ろから怒り心頭のリナが現れた。
「なにやってんのよ!?お店がぐちゃぐちゃじゃない!!」
見ればテーブルは倒れ、カードはばらまかれ、テントも天幕がはげている。
「リナさん・・・」
「あ、あぁ、又こいつらが因縁付けてきてな・・・」
リナの迫力に圧倒され、ゼルガディスは掴んだままのもう一人のごろつきを
指差すと、哀れ男は失禁したままの状態で、気を失っているのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

結局、その騒ぎのお陰で日はすっかりと沈み、空には明けの明星が
輝き始めていた。月明かりと町の魔道士協会が灯す魔法の明かりによって、
ふた月に一回ののみの市は終わりを告げる。

リナはその後、騒ぎの間入るはずだったという見込み収入に加え、椅子を壊した
弁償代と、迷惑料を上乗せし男達に叩き付け、その鬱憤を晴らす。
そこそこの収入を満たしはしたたものの、最後の幕引きが散々になって
しまったため、何となく後味悪く一行は宿へと戻るのであった。

「ゼルガディスさん。」
「アメリア、どうかしたか?」
宿の戸口で、ゼルガディスは後ろにいたアメリアに呼び止められる。
辺りはすっかりと闇に染まり、宿の玄関に灯された明かりのみが輝いている。
「・・・さっきは、有り難うございました。私の代わりに
 あの人達をとっちめてくれて・・・」
ちょっとだけ恥ずかしそうに、アメリアは俯く。
「あぁ、気にするな。あんな輩の言葉を聞いていたら、誰だって
 腹が立ってくるもんだ。」
お互いの視線が合い、何となく二人して苦笑する。
「でも、あのくらいの人達でしたら、私だってやっつけられたんですよ?」
言って、しゅしゅっと拳をふるう真似をする。
「そうか?又、どっか高いところから口上を始めて、着地に失敗して
 地面に激突するんじゃないのか?」
「あぁ!ゼルガディスさん酷い!私だって三回に一回は成功するんですよ!?」
あまり成功しているといえない確率だが、アメリアはゼルガディスに向かって
力説する。その表情がふと改まると、ちょっとだけ悔しそうになった。
「・・・私が、『女』だからあんな風に蔑まれたりするんですよね。
 気にしないのが一番なんですけど、あんな風に言われたりすると、
 時々、自分が『女』なのが悔しくなります・・・」
思い出したのか、アメリアはきゅっと唇をかんだ。
「世の中には男性と女性と、たった二種類のひとしかいないのに、
 男だから、女だからなんて『差別』するのも可笑しいのにな。」
「―――――・・・たった二種類しかないから、複雑で難しいのかもな。」
ゼルガディスは、沈みがちなアメリアの頭をぽんぽんと二度軽く叩いた。
「偉そうなこと言うかもしれんが、俺は性別なんてモノはようは『器』だと思う。
 確かに女性男性と根底に流れるモノは違うかも知れないが、中身は
 それこそ個人個人が磨いていくもんだろう?
 正直に話すが、こういう考えになったのも、初めてリナと出会ったとき、
 あんな小柄な女がよくもあれほどの魔法容量(キャパシティ)を抱えている
 ものだと悔しく思ってからなんだ。」

珍しく自分の考えを話すゼルガディスの言葉を、アメリアは熱心に聞いた。
「俺は、ならば剣の技量ならば負けないと、考えるんだが、これまたガウリィの
 旦那がいやがるんだ。それに、考えてみると俺は知らないだけで、俺以上の
 剣の使い手の女性がいる可能性だってある。考えれば考えるだけ、落ち込んで
 ゆく一方さ、自分が『男だから』と思っているうちはな。
 ―――剣術だろうと、魔術だろうと、凄いヤツは男でも女でもいるんだ。」
「・・・そうか、男性だから女性だからと考えているうちは、自分の中で
 差別していることなんですね・・・」
ゼルガディスの話に、思いつくものがあったのか、アメリアは小さく呟いた。
「・・・言いたいヤツには言わしておけ、お前さんが気に病むことなんか無い。
 男が女性に絡むことなんか単純だ、本能の成せる病気みたいなものだ。」
その言い方が可笑しかったのか、アメリアは思わず笑ってしまった。

「お取り込み中すみませんがぁ。」
「きゃあっ!?」
「ゼ、ゼロス!?」
突然アメリアの背後から、おかっぱ頭のゼロスが現れた。突然の出来事に、
アメリアは思わずゼルガディスにしがみつく。
「な、何だ貴様!今頃のこのこと現れて!リナのヤツが探していたんだぞ!」
「いやぁ、近くでやってたチェス勝負に見入ってしまいましてね、慌てて
 戻ってみるとすでに皆さんはいらっしゃらなくて、遅くなってしまいました。」
「それで今頃のご帰還か。いいな、貴様は何事も気楽で。」
悪びれもないゼロスの態度に、ゼルガディスは思わず嫌味で返した。だが、
「いえいえ、ゼルガディスさんの方こそ隅に置けないようですね。お邪魔の
 ようですから、僕はこの辺で。」
「ば!?」
「や!?ゼロスさん、これはちが・・・!」
アメリアが相変わらずゼルガディスに縋り付いていたせいか、ゼロスは
わざとらしくその場からそそくさと立ち去ろうとする。と、何かを懐から
取り出すと、ゼルガディスへと差し出す。
「あ、そうそう、こちらのカードがあの場所に落ちていたので、拾っておきました
 ゼルガディスさん、何やら意味ありげなカードじゃないですか?」
「だから、貴様は何を!!」

ゼロスが差し出したカードは、魔術師(マジシャン)のカードであった。
そのカードが示す意味は、正位置だと「物事の始まり」。逆位置だと「消極的」。

「〜〜〜〜〜〜〜(爆発寸前)。」
「では、続きをごゆっくりー。」
文字通り、その言葉を残してゼロスの姿はかき消えた。だが、カードを
凝視したままのゼルガディスと、ゼルガディスに遮られていたアメリアは、
そのことに気付かない。
「ぜ、ゼルガディスさん?」
「ゼ〜ロ〜スぅ〜、貴様!これはどういう意味だぁぁああああああああっ!!!」

「それは秘密です(はあと)。」
おなじみの台詞を宿の屋根の上で言うゼロス。ゼルガディスの絶叫は、
闇夜にただただ、鳴り響くのであった。

【了】
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はぁ〜、お尻でっかちに終わらせてしまいました。
うーん、長くなった割に終わりに締まりがないですね。(苦笑)。

これの妄想ネタは、単に女装でない格好をゼルやんにさせてみたくて
書いてみたモノです。何だと人前に出てこれそうかな?
と考えて、占い師なら顔隠している人多いし、後の話にも
ネタとして続けられそうだなーと思って出来上がりました。
ひらひらした格好は女装と変わらないカモ知れませんが、(笑)
いかがでしたでしょうか?

これで二人が少し、互いのことを意識し始めた様子を描きたかったのですが
何となく伝わったでしょうか?安直ですかね(冷や汗)。
そして、怒濤の本編7へ続いていく、つもりです。
もう少しだけ、この幕間で妄想を読んで下さる貴方に、
妄想全快で、お付き合い下さると大変嬉しく思います。

でわでわ。

魚の口