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2396スレイヤーズ学園物語〜その1・前編E-mail URL10/31-04:54


おひさしぶりです、Mです。
ここには、結構長いことお邪魔させてもらっていたんですが。
投稿は、実は久しぶりです。
今回、実はずいぶん前に書いたんだけど。僕んち以外、他ではどこでも公開してないぞってものを持ってきました♪

基本設定は、これから本文でもちょこっと出ますけど。
「スレイヤーズ世界に、もしも学校があったら?」です。
ほら、魔道士協会はあるけれど。極ふつーの学校って、あの世界にはないでしょう?
そんなものが、もし種族も何も関係なくあったとしたら……どうなるか?
それを基本的コンセプトにしております。
ちなみに、続くかどうかはL様だって知ったこっちゃないんで。
請求が来たらかきまーす(^^;
本来は2つシリーズ分けてあるんですけど。多分、ここに限りごっちゃになるでしょう(^^ゞ

それでは、ごゆっくりお楽しみ下さい。
あ、基本は「ガウリナ」ですので。よろしく☆

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 その1、彼女の憂鬱・彼の機嫌

 その話が来たとき。正直なところを言えば、断った方がいいわよねとは思った。
 思ったけど、世の中にはあらがえない事情と言うものが存在してしまうのは確かだったけど、もし状況が許してくれるなら言いたいことはただ一つ。
「冗談じゃないわよね……」
「どーした? リナ」
 すぐ脇を通りかかった、のーてんきな顔をしたガウリイを見て。
 なんでだろう。すっごく腹が立つのは……。
「なんか……すごい顔してるぞ」
 言われなくてもわかってるけど、それをあえて指摘されると腹が立つ!
「いい加減なこと言わないで……ガウリイ………………せんせい」
 握り拳を固めて、吐く思いで先生をつける。
 ちょっと、苦しいかも知れない……。
「そうか? じゃあ、次の授業の用意をするから手伝ってくれ」
「えー? なんであたしが……」
 文句を言うあたしの耳元で、ガウリイがこっそりとささやいた。
 くすぐったいわね……。
「はあい、わかりました!」
 くっそ〜……なんだってあたしが、こんな目に……。

 その話が舞い込んできたのは、魔族だの神族だのの話なんて。遙か世界の裏側まで遠のいた、ある日の事である。
「えるふ?」
 アメリアの使いだと言うセイルーンから来た男は、確かにセイルーンで見た覚えのある顔である事は確かだったけど。なんだってわざわざ手紙なんかを託すのかわからなかったし、本音を言えば信じたくないと言うのもあった。
「はい。是非リナ様をお招きするようにと、アメリア姫からの伝言でございます」
「なんて書いてあるんだ?」
 たまたま、あたしとガウリイはセイルーンに向かって歩いてはいた。ただ、まだまだ距離があるけれど。
 なんで居場所がわかったのかと考えもしたけど、あたしは魔道士協会に出入りをする人間なのだから、ある程度の居場所くらいはわかるモンかも知れない。
 むろん、常に魔道士協会に立ち寄ったりするわけではないけど。偶然とか風の噂に頼るよりは、よっぽど信憑性くらいあるわよね……。
「手紙には、とても大切な用事があって。あたしも聞いたら参加したくなるものだって事と、依頼料がね……まあ。流石に破格は破格な値段だけど……」
 問題は、肝心の依頼内容がちゃんと書いてないと言うところだろう。それが、あたしの決心を鈍らせている。
「エルフ族の人間を守る事が本来の依頼みたいだけど、どーやら裏がありそうなのよね」
 アメリアが、あたし達に危害を加える為にやるとは思えないけど。もしかしたら、アメリアの知らないところで利用されていると言う可能性も捨てきれないし……。
「これが、そのお相手の似顔絵と特徴でございます。
 それでは、私は一足先に戻りますので。どうぞよしなに」
 使いの男は、それだけを言うと立ち去った。どうやら、他にも何かの仕事でもあるのだろう。
「どーしたもんかしらね」
「どうする気なんだ?」
 実際、難しい話なのだ。
 何しろ、本人はとてもいい子なのだが。いかんせん、彼女を取り巻く親類関係のまとまわりが悪いこと悪いこと……。
 何せ、王族なんてやっていると裏の裏まで汚れて行く事になるんだろーな……。
「どーしたらいいと思う?」
 ガウリイに聞いた時点で、あたしは懐に手を入れた。
 どーせ、ガウリイの答えなんて予測できているのだから。
「お前がいいと思う方でいいと思うけど?」

 すぱーん…………………………!

 ああ、良い音。
 今日も「必殺標準装備のリナちゃんスリッパ」が炸裂したわ(はあと)
「いきなり何するんだよ!」
「少しは考えなさいよねえ。あんまりあたしにばっかり頼られても、あたしにだって出来る事と出来ない事があるんだからね!」
 まったく……なんで、天はガウリイに顔と腕は与えて。頭の中身を与えなかったんだろ。
 ほんっきで悩みたくなるわよね。
「そうかなあ? リナに出来ない事は……そりゃあ、あるだろうけど。リナが本気なら、大抵出来るんじゃないのか?」
 ホメてるつもりなんだろーけど……あたしって一体。
「あたしがあんまり依頼を受けたくないのはね……どうも、この人をセイルーンまで送り届けたら。絶対にまたややこしい事に巻き込まれるだろうなって事を心配してるの!」
「ふーん」
 ガウリイが、あたしの手の中にある紙をのぞき込んだ。
 上等の紙で、一枚には文字が。もう一枚には絵がかかれてあり、紙の中でほほえむ性別不明の。エルフ族が、どうやら依頼の相手らしいのだ。
「名前はディーウ。この近くにある人間の医者の元で暮らしていたらしわ」
 どういう経緯かは知らないけど、アメリアのお父さん。フィリオネル殿下の知り合いらしいと書いてあった。
 考えてみたら、あのおっちゃんもなかなかに謎で不明だよな……。
 まあ、王族なんだから多少はおかしくても問題はないけど(偏見)
「ふーん」
「それで、ディーウをセイルーンまで連れてきて欲しいんですって。フツーの人間に護衛をさせても、エルフ族だから支障が出るかも知れないって」
「じゃあ、何が問題なんだ?」
 問題は……どうして、そんな理由ごときで。わざわざあたし達を使おうとするかと言うところにある。
 しかも、あたし達を探してまで。
 ゼルガディスは、こう言っては何だが滅多に姿を現すわけでも。魔道士協会への出入りが激しいわけでもない。かえって、逆の裏社会で聞いた方がよっぽど発見は早いだろうし。
間に合わなかっただろうと言うのは、とても自然な答えだけど。
 考えてもみて欲しい。
 あたしとガウリイは、この一ヶ月をかけて湾岸諸国連合を回っていたのである。これからは暖かくなる事もあって、少しは涼しいところに移動しようと言う事になったのだ。
 幾ら魔道士協会と密に連絡を取り合っていたとしても、そんな簡単にあたし達と会える訳がない。
「第一、このディーウとか言う人。信用出来るかわからないじゃない?」
「お気持ちは判りますけどね」
 あたしとガウリイが今いるのは、2階にあるあたしの部屋である。
 大した意味があるのではなく、単にセイルーンの使者が食堂で膝をつくと言う光景を。見せ物よろしくの状態で人に見せるのが恥ずかしかっただけである。
「あれ?」
「初めまして、リナ=インバースさん。ガウリイ=ガブリエフさん」
 窓枠に座っている、ちょっと小柄な人物。
 身長は、あたしとあんまり変わらないくらいか?
「ディーウと言います。どうぞよろしく」
 絵の中にあったのと同じ顔をした人物が、そこには座っていた。
 平然とした顔で。

 白魔術都市セイルーン。
 王宮を中心として、六亡星を描いた結界で囲まれた都市である。
「よかった。リナさんに連れてきてもらえるなんて、本当にラッキーです!」
「はは……まあ、ね」
 額に汗の流れるあたし。
 正直なところを言えば、状況的にはあんまりうれしくない。
 セイルーンが結界型の都市になったのは、初代の国王の側近だったと言う白魔術士の助言からなったと言われているのだが。どうやらこのディーウは、その白魔術士そのものの様なのだ。
 見た目は、あたしとあんまり変わらないんだけど。エルフ族と言うのは長命で頭がよくて、魔力も人間なんかとは比較にならないくらい強大で、なぜか男でも美人が多い。
 幾らあたしでも、そんな百戦錬磨のごろーたい(失礼かな)を相手に自分のペースなんて守れないし。何より、あたしの中の常識が許してくれない……。
「ディーウさんは、古代エルフ族ですから。父も心配していました」
「古代エルフ族?」
 当のディーウは挨拶もそこそこで、とっとと現王エルドラン。つまり、アメリアのお祖父ちゃんに会いにいかされた。
「はい。私も聞いただけなんですけど、エルフ族の始祖だそうです」
 その話なら、あたしも知っている。
 とはも言っても、魔道士協会の資料だけだから大したものではないけれど。
「それで? ディーウをセイルーンに呼びつけて、一体なにをするつもりなの?」
 聞かなくてはならない理由もないが、地域の諸国との力量によるバランスを。常に警戒しておかなくてはならないのが、大国セイルーンのはずである。
「それなんですが、是非ともリナさんとガウリイさんに協力をお願いしたいんです」
 ほら来た。
 あたしがいやがるのは、王族を相手に好き勝手な振る舞いができないからである。
 そりゃあ、アメリア一人だけとか言うなら話は別だけど。王宮と言う場で、兵士達に囲まれて。前にも来たけど、肩が凝るのは請け合いである。
 ちょっとくらい、のんびりしたいわ。
「当然あたしも手伝いますし、もうゼルガディスさんにも了承済みなんです」
 は? ゼル?
「へえ、ゼルも呼んだのかあ……」



続く

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2397スレイヤーズ学園物語〜その1・後編E-mail URL10/31-05:09
記事番号2396へのコメント
 その1、彼女の憂鬱・彼の機嫌(後編)

 古代エルフ族。
 よくは判らないけど、現存しているエルフ族の始祖と言うだけしか知られてはいない。
何しろ、やたらと出没率と現存率が低い存在で。当然、各国の王族が血眼になって探し求めてると言うもの。
「ほら、大丈夫か?」
 あたしが居るのは教師の準備室と言うもので。一人に一つずつ割り当てられている。
「ありがと……」
 あたしは、ガウリイの差し出したコップを受け取ると飲み干した。
 ああ、冷たいジュースがおいしい……。
「やっぱり、受けない方がよかったんじゃないか?」
「今更言っても遅いわよ」
 気分が悪くて、あたしは気だるい調子で返事を返す。本当は口も開きたくないけど、それは仕方のない状況だから。
「それに、あたしだって魔道士の端くれよ。一度決めた研究は、やり遂げてみせるわ」
 一ヶ月前。あたしとガウリイの二人は、沿岸諸国連合を旅していた。
 今はアメリアの頼みで、ある「学校」にいる。
 地理的に言えば、セイルーンから西に位置する所だろうか?
「学校かあ……」
 困った様な、不思議そうな顔をしたガウリイが。辺りを見回している。
 室内にあるのは、机が一つにイスが一つ。小さなリビングセットとついたて。そのむこうがわには、ガウリイの私物があるのだろう。あたしに座っている位置からは見る事が出来ないけど、ついたての脇から剣が見え隠れしたりしている。
 教員用とは言っても、かなり破格の扱いだろうとは思う。
「まあ……企画としては申し分ないかも知れないけど。状況的には危険度100%なのよね。別に、アメリアだけの話じゃないんだろーけど」
「そうだなあ、確かに大変そうだよなあ」
 あたしとガウリイが、珍しく同時にため息をつく。
 それだけで、今のところあたしのおかれている状況と言うのが。半端ではないものだと言うのが如実に語られてしまう現実が。
 やっぱりかなしいなあ……。
「それで、体の方は大丈夫なのか?」
「ある程度はね。でも、こんなのつけられる身にもなって欲しいわ!」
 言って、あたしは恨めしそうに胸元についたブローチを見る。
 血の様な真っ赤な色をしたものだが、現在は少し色が薄れて黄色みがかかっている。
「大丈夫ですか、リナさん!?」
 勢いよく扉を開けて入ってきたのは、あたしとよく似た。多少形と色の違う服を着たアメリアと、極フツーの服を着たゼルガディス。
「どうかしたのか? 二人とも」
 のほほんとした顔で答えるガウリイを、いつもなら「ツッコミスリッパ」が炸裂するのだが……。
「リナさんがおかしいって聞いたんで……。それで、大丈夫なんですか?」
「気持ち悪いだけよ。気にしないで、アメリア」
 アメリアも、あたしとよく似たブローチを着けているけど。これは黄色に輝いている。
 ゼルガディスも、格好からすると似合わないんだけど。やっぱりよく似た形の、これは青銀のブローチを着けている。
「ならいいが、あまり無茶をするな」
「判ってる。ありがと、ゼル」
 せっかく来たからと言う事で、珍しくガウリイが気を聞かせてお茶を入れている。
「そうですよ。今リナさんに倒れられたら、あたし達が困るんですよ?」
 別に何かをしたと言う訳でもないんだけど……。でも、アメリアを困らせているのは確かなので。素直に黙っている事にする。
「ディーウの方はどうなの?」
「大丈夫みたいですよ、今の所は」
 古代エルフ族だと言うディーウ。
 彼女は、これまで人里離れた所で人間の老医師と暮らしていた。ただのエルフ族でさえ目立つ存在なのだから、古代エルフ族だなんて言う希少価値の高い彼女の存在なんて。人間達の間に動揺ならまだしも災いの種になりかねない。
 その彼女の存在を人間社会に浸透させる為に、アメリア達はディーウの為に「学校」を作り。諸国には「よりよい人間社会を構築する為のテスト」として、教師から生徒からを募った。無論、何が起こるか判らない為に何人かの腕の立つ人間。フツーのエルフ族。ドラゴン族。そして、なぜか魔族までが集められた。
 どうして魔族が関係してくるのかは判らないけど、それなりの事情と言うものでもあるのだろう。今のところはおとなしくしているけど。
 だから、事情を知ってる存在は多くない。そのほとんどが何も知らない人達なので、それはそれでやっかいと言えばやっかいだったりする。
「困った話よね、こんなものつけられるなんて……」
「だが、女は化けるな」
 忌々しい目でブローチをにらみつけるあたしに、ゼルがそんな言葉を吐いた。
 何よ、それ?
「知っているやつ以外、誰もお前だと気付かないだろうが」
 みゅみゅみゅ……。まあ、そうだけど。
 あたしの格好は、白いエプロンドレスに青いワンピース。かかとの高い靴を履いて、髪は後ろで黄色いリボンをつけていると言うもの。
 以前、皆とはぐれたときに着ていた服に、よく似てる……。
 アメリアの服は、黄色のジャンパースカートと言ったものである。
「そうですね。あの破壊の申し子、生きとし生きる者の天敵。盗賊キラーと言われたリナさんだとは、全然思えませんよ!」
 無邪気に言うアメリアだが、この話が済んだら制裁を下す事を堅く心に誓う!
 く、くそ〜……!
「こんなもののせいで!!」
 怒りにかられるものの、体は動かない。
「仕方ないじゃないですか。リナさん達を押さえる為に必要なんですから」
 あたし達以外の声が、すぐそばから聞こえた。
「そのくせ、ここではやめてよね……」
 怒りが強すぎて、あたしはかえって力が抜けてしまった。
 この、脳天気な声は考えるまでもない。
「ゼロス先生」
 あたしの呼び声に、素直に出てくる白衣の魔族。ゼロス。
 彼は現在、非常勤養護教諭と言う役職で。この学校にいる。
「おや、ようやく先生と呼んでくれるんですね。うれしいですよ(はあと)」
「ふざけたもののおかげで、あたしは大変よ!」
「半分は僕じゃなくて、竜族の方々に言ってくださいよ。それに、そんな事を言ってもはずさないわけですから。案外、フツーの女の子もまんざらじゃないんじゃないですか?」
 このブローチ。なぜか竜族とゼロスが力を合わせて作った、世にも珍しい神魔混合魔法具である。
 つけた者の魔力と肉体を制御する事が出来ると言うもので。時間させあれば、すっごく研究したい品物であるが。どうやら、あたしのものだけ特別に作ったらしくて、しょっちゅう気持ちが悪くなる。
 おかげで、あたしは「体が弱い」と思われているから。まあ……「薄幸の美少女」を演じる事が。つまんないとは言わない。
 極フツーに暮らしている分には大した効力を発揮しないらしいが。ある程度以上の魔力の発動が認められると、ブローチの力は発揮されて気持ちが悪くなる。
「嬉しいわけないじゃないのよ……」
 最近では慣れたとは言え、状態的には結構ツライ。
「それもこれも、ディーウさんを世界に慣れさせる為なんですから。我慢していただきませんとね」
「判ってるわよ……」
 ディーウは、ここだけの話だけどとんでもない力を持っているらしい。しかも他人を疑うと言う事を知らない、よく言えば純粋。悪く言えば馬鹿な人なので、扱いを間違えば世界を破滅させる事だって不可能ではない。
 魔族であるゼロスが協力をするのは、「他者によってディーウさんが使われて世界を破滅させられるなんて。魔族としてのプライドが許さない」などと言う事らしいんだけど。
「さ、皆さん。次の授業が始まりますよ。あ、リナさんはもう少しガウリイさんの部屋でお休みになった方がいいですよ。幸い、ガウリイさんは次の授業もありませんしね」
 ゼロスの言葉に従う様に、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 この学校は、ディーウを世界に慣れさせる為だけに作られた学校。
 これまで、誰かと一緒に過ごすと言うものは。基本的に魔道士協会以外はなかった。だから、確かに集団行動と言うものに興味はある。何しろ、魔道士協会では完全に自分自身との戦いで。幸いと言うか不幸にと言うか、あたしと同レベルの存在がなかった事もあって、あたしは姉ちゃんに半分追い出される形で旅に出る事になった。
 救いと言えば、事情を知っている人達が。ほとんど顔見知りな所だろーなあ。
「リナ」
 振り向いた時、そこには緑の髪。青い瞳のディーウがいた。
「ディーウ……」
 にっこりとほほえんだ中に、心配する様子が伺える。
 あたしとディーウは同じクラスだから、大体の事情は知っていると言う事なのだろう。
「大丈夫?」
 格好としてはゼルと似たようなものだが、かなりゆったりとした形になっているので、一見するとスカートに見えなくもない。
「うん、全然」
 笑ってみるけど、あんまり効果はないかも知れない……。
「そう、ならよかった」
 なんか、……苦手だわ。
 別にディーウそのものは悪い子じゃないんだけど、べたべたとすり寄ってくる所とか。
「今日の授業は終わりなんだって。私は寮に戻るけど、リナはどうするの?」
 そっか。あたしがガウリイの所で休んでいる間に授業は終わってしまったのか。まあ、あたしは授業で聞くような事なんて必要ないけど。
「だったら、あたしはクラブに行くわよ」
「クラブって……あの『科学部』の事?」
 あたし達「結界の内側」でのみ発展したと言う、魔法。
 それに対して「結界の外側」の世界では魔法が大分すたれ、代わりに物理を応用した科学と呼ばれるものが発展していた。
 ちょっと前に「外側の世界」に出た関係で、科学と言うものに目覚めたゼルガディスは。この学校で科学部なるものを設立し、あたし達はその部員なのだ。因みに、顧問はゼロス。
「なんか胡散臭いと思うけど……」
 確かに、自然や精霊と言ったものに深く関わりを持つディーウにしてみたら。そういう意見が出るのは当然と言えば当然だろう。第一、ゼロスを顧問にしたのだって嫌味だし。
「結構楽しいわよ。ディーウも行かない?」
 言われて、ディーウが考え込んだ。いつもなら、あたしの後をひよこが追いかけるようについてくるディーウなのだが。
「ううん、やっぱり帰るわ。宿題もしたいし」
 なぜか科学部は嫌煙する節がある。
「リナ、魔法部に入るとばかり思っていたのにな……」
 結界の外側からも人員を募集していた関係からなのか、この学校で一番の人気は「魔法部」である。顧問は、正体を隠している黄金竜のミルガズィアさんとフィリア。
 でも、人気の原因の一つは。フィリアの弟として第一の部員であるヴァル・ガーブの存在だろうと。あたしは密かに思っている。
 人間、エルフ、竜族、魔族。
 この世界にある、あらゆる種族が募った「学校」なんて面白い見せ物。多少の抑制があったとしても、あたしが見逃すわけがない!
「そうだ、リナ」
「なに?」
「今度、リナの絵を書きたいんだけど駄目?」
「いいけど……。美術部だったっけ? ディーウ」
「ううん、そういうわけじゃないけど。いつもお世話になっているから、そのお礼なの」
「判った。楽しみにしてる」
 先に帰ると言うディーウと分かれて、あたしが部室兼保健室に向かうと。
「あんまりディーウさんと親しくなさらない事をおすすめしますよ、リナさん」
「ひゃあっ!!」
 扉に手をかけた瞬間に聞こえてきた声に、あたしは悲鳴を上げた。
「おや、驚かせてしまいました?」
「耳元でささやくんじゃないわよっ!」
 憤慨したあたしは、やたらと力を込めて扉を開けて。そして、閉めた。
「忠告だけはしましたからね(はあと)」
 聞こえていたけど、ゼロスの言葉の意味を。あたしは、聞かなかった事にした。
 でも、それを追求しなかったツケが後から来るなんて。
 思っていなかった。

その1 終わり

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2415スレイヤーズ学園物語〜その2E-mail URL11/3-02:31
記事番号2397へのコメント
 その2 竜のまどろみ

 新緑の清々しい時期だけど、「学校」の人達は苦労しているみたい。
 ま、あたしには全然関係ない事ではあるんだけど。
「なあぁ〜……リナぁ……」
「駄目なものは駄目だってば!」
 別の意味では苦労してる。
「そんなの、アメリアあたりに見つかったらどうするつもり?」
「そおかあ? そんなに問題かあ?」
「問題です。もっと、ガウリイ………………せんせいは、自分の立場をわきまえて下さい。
 そんなの、生徒に頼む事じゃないもの」
「そおかあ?」
「そーです!」
 きっぱりと言うあたしに、ガウリイが「捨てられた子犬」の様な顔をした。
 だから、駄目だってば……。そんな顔したって。
「騒がしいぞ、何やってんだ。お前ら」
 そんなに騒がしかったかと思ったけど、確かに騒がしかったかもしんない。
 幾ら放課後の廊下とは言え、残っている人くらいいるわよね……。
「あら、ヴァルじゃない」
「よお!」
 見ると、そこにはヴァルが立っていた。
 そう言えば、ここには竜族の部屋もあるんだっけ。
「……で、今度は何してるんだ?」
 なんで呆れた様に言うかな……?
「あちこちで有名だぜ。お前ら。
 リナ=インバースの影にガウリイ=ガブリエフありってな」
「なっ!?」
「へえ……そんなこと言われてるんだ」
 ちょっとちょっとぉ……誰よ、そんなこと言い出したのぉ。
「誰って……? さあ?」
「ぶちのめす」
 あたしの言葉に、ガウリイの顔色が変わったが。そんなのは気にしない。
「やめろ、リナ!」
「離してガウリイ! 絶対、そいつら見つけだしてドラグ・スレイブ……」
 がく。
「お、おい……」
 倒れ込んだあたしを見て、流石にヴァルも顔色を変えた。

「なるほど、道理で……。
 この「学校」でアンタに対する評判が違うと思った」
 評判って……。
 ここは、フィリアの部屋だけど。現在、フィリアはここにはいない。
 部屋の構図としてはガウリイのものと同じで、どうやら人間の姿の時のみの専用と言う事なのだろう。確か、竜族には地下に巨大な部屋が用意されている筈だし。
「外ではとんでもない事ばかり言われているのに、全然暴れないからおかしいとは思っていたんだが……。なるほどな」
 ヴァルが紅茶を入れながら、そんな事をつぶやいていた。
 ダークスターとの決戦の後。エンシェント・ドラゴンの幼生体となったヴァルが復活するのは、結構早かった。そして、ヴァルは全ての記憶を持っていた。
「どーゆー意味よ……」
「正しいことだと……いや、なんでもない」
 ガウリイが余計な事を言いそうになったが、あたしの一にらみで黙った。
 判ればよろしい。
「大分苦労している様だな」
 ヴァルの入れてくれた紅茶を受け取りながら、あたしは息を吹きかける。
「まーね。でも、それなりに楽しんではいるわよ」
 何のためらいもなく、それを一口。
「美味しい! やっぱり、これってフィリアの直伝?」
 紅茶と骨董と鈍器をこよなく愛するフィリアだから、紅茶に関しては相当苦労しているのかも知れない。
「あ……ああ……。そうだが……」
 何か、妙なものでも見る様な顔で。ヴァルがあたし達を見ている。
「どうかしたの?」
「よく、いきなり飲めるな。俺は、お前を殺そうとしたのに」
 一瞬だけ、あたしは言ってる意味が判らなかった。
 でも、すぐに理解出来た。
 多分だけど、怖がっているのだ。ヴァルは。
「毒を入れるとか、思わなかったのか?」
 言葉は、あたしにだけ向けられていた。ガウリイには向けられていなかった。だけど、その意味は判らなかった。
 確かに、ガーヴの敵として。最初からあたしの事を狙っていたのはヴァルだったけど。他には、あえて言うならフィリア以外には目にも入らなかった様だけど。
 ゼロスも、グラボスもジラスも。アルメイスも、ヴァルにとっては無意味だったのかも知れない。本当は。
「どうして、そう思うんだ?」
 ガウリイの言葉に、あたしはほっとした。
「そうだよね?」
 あたしだって、本当はそう思わなかったわけではない。
 幾ら全てをやり直したからと言って、ここで生き続ける存在の。心までは簡単に変える事は出来ない。心は、そんなに複雑に出来てはいない。
「俺は、ガーヴ様の敵である。リナ=インバース、お前を殺そうとした。
 世界を道連れにしようとしたんだぞ? 俺の身勝手で!」
 ヴァルの戸惑いを。不安を。あたしには感じられる。
 あたしにだけしか、おそらく判らないだろう。
 大げさに言えば「世界を変える力」を持つものだけが持つ苦しみ。
 あたしだって、たった一人の人間の為に。世界を道連れにしようとした。その為に、ヴァルにとって大事な存在を死なせてしまったし、そう言う意味ではヴァルも。あたしも、ガーヴも似ているのかも知れない。
 見たことも、一生聞かない筈の存在の掌で踊らされてる事も知らず。
 でも、知ってしまったから。
「それが、どうしたって言うの?」
 全てを話せばいいのかも知れない。話してしまっても、ヴァルなら。
 でも、あたしに言えたのはそれだけだった。
「どうしたって……!!」
「判ってないわねえ……、ヴァル=ガーヴ=コプト」
 紅茶のカップを置いて。あたしはイスの背もたれに寄りかかった。
 ガウリイも、同じように紅茶のカップを置いた。
「人間は、アンタ達と違って短い時しか生きられないの。
 アンタ達にとっては一瞬の事でしかない時間だけど、あたし達には『たかがそんな事』でいちいちかまっていられる時間はないわ。
 だから、その程度の事であたしの足を止めさせようなんて。そんな手には乗らないわよ。あたしだって忙しいんですからね!」
 ヴァルは、驚いた目であたしを見た。
 ガウリイは何も言わなかったけど、それはとてもありがたかった。
「あたし、もう行くわ。
 色々とやりたい事があるって言うのに、聞いてよ。ガウリイ……………………せんせいったら、試験問題を生徒であるあたしに作らせようとしてるのよ。そんな事、出来るわけないじゃない!
 だから、早々に逃げて。自分で作らせるの」
「おい……」
 情けない声を出したけど、それ以上は何も言わなかった。
「悩むのは、ヴァルの勝手よ。
 フィリアについて考える事もあるでしょうし、あたしやゼロス。仲間達が憎いと思うなら、それも仕方ないでしょうね。最悪でも、この「学校」を卒業した後でなら。再戦したいってなら受けて立つし」
 言った後から、「ちょっとヤバイかな?」とは思ったけど。勢いで言ってしまったものは仕方ない。
「ガーヴや、エンシェント・ドラゴンの事が忘れられないって言うなら。
 ……そうね、忘れなければいいのよ」
 横で、ガウリイが半眼になっている様な気はする。
 気はするけど……。まあ、いいか。
「なっ!」
「いいのよ。だって、覚えている事は生きてるのと同じくらいの意味があるんだから。
 いつか、ヴァルがガーヴの事を誰かに広めてあげれば。それは、ガーヴが生きているのと、同じくらい大切な意味になるんじゃない?」
 実際、半分とは言え人間だったわけだから。もしかしたら、ガーヴはもっと生きるべきだったのかも知れない。
 あたしのせいで死んだわけなのだから、ヴァルの怒りは当然だったのかも知れない。
 でも、あたしは生きてるし。ガーヴは死んでしまった。
 事実だけは、変わらない。
「じゃあね、ヴァル。
 美味しかったわ、紅茶」
 ガウリイがすごく言いたそうな顔をしている気がするが、とりあえず文句は後で聞く事にして。この場は退散するべきだろう。
 ここで暴れられても困るし。
「リナ=インバース」
「……なに?」
 部屋を出ようとしたあたしを、呼び止めた声に緊張しながら振り返った。
 当然と言うべきか、ガウリイにも緊張が走っている。
「お前の結界を、少し弱めてやる。どこでならいい?」
 思わず、面食らった。
 まさか、そんな台詞が聞けるとは思わなかった。
「えっと……」
 しまった。いきなり意外な台詞を聞いてしまったから、上手く思考がまとまらないや。
「じゃあ、俺の部屋にしてくれ。俺の教員室」
 えっ!?
 いきなり何を言い出すかなあっ!!
 あわてふためくあたしの上で、男ども二人の会話は続く。
「判った。だが、完全と言うわけには行かない」
「ああ、それで充分だ」
 ちょっと待てぇっ!!
 どうして当事者である、あたしを無視して話が進むっ!?
「じゃあな、ヴァル」
「ああ。人間の男」
「出来れば、今度からガウリイと呼んでくれ」
 感情に流されて、思考のまとまらないあたしを。ガウリイが促して外に押しやる。
「が、ガウリイ……!!」
「言いたい事はわかるって」
 廊下に出たものの、誰もいない。少しくらいは大声を出しても大丈夫だろうが、すぐそこはフィリアの部屋。当然、まだヴァルがいる。
 それに、声を出した方が倒れやすい。
「寮の部屋、そんなに近いわけじゃないし。教室で何かあったら困るだろうし。
 それに、俺の教員室ならしょっちゅう出入りしてるだろーが。かと言って、ゼロスの所だと問題だしな」
 いや、まあ……そうかも知れないけど。
 実際問題として。
 あたしのと言うか、生徒のあてがわれている部屋と言うのは、建物からして違う。
 片道としては大した距離ではないが、結局。学校に泊まり込む事もないわけではない。その為の宿泊施設だって用意されているし、まあ。科学室の方が多いけど。
「それより、本当に気にしないのか?」
「何……ああ、ヴァルの事ね。
 気にするだけ無駄よ。だって、あたしだって人の事を言えた義理じゃないもの」
 世界そのものに絶望して、世界とともに心中しようとしてしまったヴァルと。
 たった一人の人間の為だけに、世界を破壊する力を発動させたあたしと。
 どちらがどれだけ違うのかと問われれば、あたしには答えられない。
 いつか、その事で裁かれる日が来るのかも知れない。
「そっか……。
 そうだ。試験問題作るの手伝ってくれよ」
 あん?
 まだゆーか、この男は……。
「だーかーらー。
 生徒が試験問題を作るわけにはいかないんだって……!!」
 意識を失う直前。
 あたしは、見た様な気がした。
 眠りについたエンシェント・ドラゴン達の顔が。
 安らかにほほえんだ姿が。
 もしかしたら。

 後日。
 本当に、あたしはガウリイの教官室でだけ気持ちが悪くなくなる様になった訳だが。
 その理由は、当分アメリアやゼル達には内緒である。

終わり

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年間行事予定表編・vol.1 酔夢の夜

     0

 セイルーン聖王国の西外れ。
 前年の暮れ頃から突貫工事が進められ。翌年の春に開かれたもの。
 「学校」
 でも、そこに通う生徒のほとんどは知らない。教師の大半も知らない。
 秘密。
 胸にブローチを着ける生徒が、特別な事情で集められたのだと。
 体のいずこかに、学校の紋章をつけた教師職員が特別なのだと。

 この「学校」が、世界すらも揺るがす事の出来る存在が集う場である事も。

     1

 あたしは、珍しく忙しかった。
 あたしだけではなく、皆だって忙しい。
「それで、こちらの支度は出来ているんですね? ミルガズィア先生」
 あたしの目の前には、金の髪をした年若い。だけど貫禄のある先生がいる。
「ああ。だから、君たちには会場の方を押さえてもらいたいのだ」
「それはかまいませんが、その前にこの仕事の山を片づけないと……」
 書類の山に埋もれながら、せわしなく動いているのはアメリア。更に書類の山の中で身動きが取れないほど埋もれるのが、ゼルガディス。
「しかし、時間がないのだ! 今晩中に進めないと……」
「で、俺はどうする?」
 あたしは、あまりにも平和そうな声をかけられても無視する。
「ゼル、仕方ないからそれは『生徒会』の連中とフィリアに任して。
 アメリア、フィリアにそう伝えてきて。会場のセッティングは、あたし達とヴァルの方でやるからって」
「はい!」
 書類の山から這い出したアメリアが、慌てて廊下へと走り出す。
「なあ、リナ……」
 更に無視する。
「それで、ミルガズィア先生。場所はいいんですし、セッティングの方もなんとかなります。人員も確保出来ますが、それに伴う結界の補強の方なんですが……」
「うむ」
「それについては、ゼロスから助言だけ得ていますので。後は……」
「なあ、リナぁ……」
 …………………………ぷつん。
「な・ん・で・す・か! が・う・り・い………………先生!」
 気分は血反吐を吐く思いで紡ぎ出される言葉。
 うう……ストレスで胃に穴が開きそう。
「だから、俺も何かするよ。大変なんだろう?」
 気持ちは……判る。
 さして狭くもない部屋中に散らばった書類の山。それに埋もれつつ、なんとか這い出そうとしているゼルガディス。あたしと顔をつきあわせながら、書類を作成しているミルガズィアさん。他にも人員はいたが、その彼らのことごとくが部屋の隅に転がされているわけだが、流石に女の子はマットレスが与えられている。
 その側で彼らの治療をするゼロス。そして、何人かのエルフ族と魔道士達。
 この様子を見ていて、一人でぼけっと座り込んでいると言うのも。
 さぞかし居心地が悪いだろうなあ……。
「あ………………ああー……、ガウリイ………………先生は、いいから。外で会場の手伝いでもしてもらえますか?」
「それはそれとして、なんで俺と話をする時だけ。そんなに沈黙が長いんだ?」
 この学校は、ある特別な目的を持って作られた学校である。
 その為、本人の意志なんてほとんど無視した形で種族の中で実力を持つ者が集められているわけなんだけど。別に、全員がそうだと言うわけではない。
 そこで、神の側と魔の側が結託して、ある魔法具を作り上げた。
 生徒のしているブローチと、職員のつけている校章。
 それにはある一定以上の魔力を関知すると、持ち主の神経を低下させると言う機能があるのだ。そして、魔力の源は。術者の意志。
 これだけの条件がそろっていれば、大体わかるだろう。
 あと、事態が面倒な事にならない様にする為に。生徒と教師の垣根もきっちりと分けられる様になっていうる。つまり、相手が先生である以上。生徒であるあたしは、ガウリイを「先生」と呼ばなくてはならない。呼び捨てなんかにしようものなら、否応なく気持ちが悪くなるし、更に言わなければ言わないで。あたしのプライドが許さない。
 もちろん、暴れるのも御法度だし怒鳴るのも駄目。
 そう言う背景の為、あたしの事をよく知らない人達は。あたしの事を「薄幸の美少女」だと思っているくらいなのだ。
「だぁぁぁぁああああ! あんたはそんなにあたしを倒れさせた……」
 ぱた。
 ぷち切れても、当然ブローチの効力は発揮される。
「ああああっ! 大丈夫か、リナ!?」
「済まぬが……ガウリイ殿は会場の方を頼む」
 普通ならここまで過敏にブローチが反応する事などないらしいのだが、それだけあたしの魔力が大きいと言う事なのだろう。
「大丈夫ですか? リナさん」
「……ガウリイ先生にも、困った事ですね。本当に」
 気付けのお茶を持ってきたゼロスの横で、いつの間にか現れたフィリアがため息をつく。
 フィリアも一応教職にはついているけれど、助手と言う形で勉強中なので。フィリアには「先生」をつけなくてもいいのだ。ゼロスは保健の養護教諭だから、場合によって使い分けが出来る。
「ありがと……」
「リナ。続きをするぞ」
「判ってます、ミルガズィア先生」
 顔立ちだけなら、ミルガズィアさんだってガウリイと変わらないけど。
 ミルガズィアさんはフィリアとは別の種類の黄金竜だから全然かまわない。話だってちゃんと通じるし。ゼロスに至っては魔族だし。
「リナさ〜ん、伝えて来ましたあ……」
 すごく疲れた声のアメリアが、やっと戻ってきていた。
「ありがと、アメリア。ゼルを掘り起こして、少し休みなさい。
 じゃあ、ミルガズィア先生。続きですけど、会場はやっぱり正グランドの方でいいですか? 第二グランドだと全員が入るのは無理だと思うんです」
 あたし達は今、この春にミルガズィアさんの立てたと言う「年間行事予定表」
とやらの指示にしたがって、今月の行事を準備しているのだ。
 なんでも、今月は皆で花を愛でつつ宴会をするらしい。
 でもグランドには花なんてない。でも、そのあたりは人間とエルフと竜族の魔力で幻の花を生み出す事になっているからおっけー。本当は生の花の方がいいいらしいし、そう言うものを探しているらしいんだけど。十中八九は見つからないだろうと言う話だから、仕方がないのだ。
「それなんだが……第二の方は我々の対策本部にすると言う案も出ている」
「そんなのは無視してください。大体、こっちの方を任せっきりにしている方々
をもてなすなんて。そんな暇な事はしていられません!」
 一人の古代エルフを、人間社会になじませる為だけに作られた「学校」だが、
もしも計画がうまく行けば。実際に「学校」を設立したいと言う商人達が視察にくるらしいのだ。
 そんな奴らに関わっている時間が。一体どこにあるって言うわけっ!?
「リナの言う通りだ。勝手な言いぐさでうまいところだけを吸い上げようとしている奴らの言いなりになっている時間はない」
 あ、ゼルが復帰した。
「大体、ついさっき『年間行事予定表』が出来たって言いましたけど。どうして今月分だけでも教えてくれなかったんですか?」
 疲れているはずだが、アメリアがお茶を入れながら訪ねてきた。
「それは……ついさっき始めたからであり」
「一体、何を参考にしたんですか?」
 あたし達の世界の「学校」と言えば、魔道士協会くらいしかない。でも、年齢も性別も関係ないわけだから、こんな風に同年代の子供達を一同に集めて教育すると言うシステムはこれまでもなかった。
 何もかも一から作っていたはずなのに、そんな数時間で出来てしまうものだろうか?
「……異界黙示録だ」
 端正な顔に渋面を張り付けて。
 …………は?
 思わずあたし、一瞬。魂が体から抜けた。
「もしかして……?」
 フィリアもうなずいた。どうやら、聞かされていたらしい。
「ちょっと待…………うっ」
「あああああっっっっ!! リナさん!!」
 異界黙示録。
 説明が面倒なので端的に言えば「何でも書いてある本」である。
「リナの言いたいことも、充分に理解出来る。だが、この世界の文献には記されておらん。かと言って、すでに始まっているのに手探りと言うわけにも行かぬだろう。我々が正体を隠している以上は」
 それは……そうだけど。
 一般的に、ミルガズィアさんやフィリアの正体は隠されている。彼らの正体を公表すれば、もちろん各国を黙らせる事も出来るだろうけど。そうするとゼロスの正体も明かさなくてはならない。
 あたしだったらヤだぞ。魔族のいる学校なんて……。
 仕方がなく、緊急手段として異界黙示録が参考となったらしいのだが。
 人間の世界では、その写本だけで何人もの人間が血で血を洗う抗争の元となるのだが。
「いいの? ゼロス。竜族は異界黙示録を使わないから入り口の監視をしていても放って置いているわけでしょう?」
 竜族が集っている所には、大抵何かがあるらしい。でも、竜族も魔族も己の能力以上のものを。立場がどうあれ求める事はしないらしい。
「今回は仕方がないんですよ。何しろ、僕ら魔族にまで相談されてしまうとね」
 教育方針を魔族に相談……。
「とんでもないですね……」
「だな」
 アメリアとゼルの表情が、手に取る様にわかるわ。
「とにかく、準備の方を先に済ませてもらえるか?」
 悩むなってのは、無理な話だと思うんだけどな……。

     2

 ミルガズィアさんとフィリアが、アメリアとゼルに命じて走らせていた。
 外では、ガウリイが働いているのだろう。
「ご苦労様でした、リナさん」
「ありがとう。でも、まだこれからよ。
 皆だって働いているわけだしね。ゼロスだって、これから忙しいわけでしょ
う?」
 しかし、考えたら高位魔族が保健医をやっているわけだから。とんでもないよな。
「大丈夫ですよ。僕は何もしない方がいいわけですし、(竜族の)方々もいい顔はしませんしね。返って、こうやってリナさん達のお相手をしている方がよほど楽しいですよ」
 誉められているんだろーか……。
 いや、ここで深く物事を考えるのはやめよう。なんか悲しいものがあるし。
「なるほど、それでなのね」
「何がですか?」
「(竜族の)対応……とでも言えばいいのかしらね。
 どうも、あたしに対する竜族の感じがおかしいと思ったのよ。何しろ、ものすごく変なものでも見る様な目で見られた日には……。流石にわかるわ」
 一応、一部を除いて竜族は特別高等研修生なるものになっている。
 ガウリイもだが、本人に欠けている一般常識を勉強する為のものなのだ。何しろ、彼らも長い時を生きているとは言っても竜である。人間と同じ常識と言うわけにはいかない。立場的にはゼロスも同じなはずだが、ガウリイと同じでいい生徒ではないどころか。一度も授業に出ていないらしい。
 ただ、ゼロスは一度だけ出たらしいのだが……。
 何があったのかは、言わなくても判るものである。
 何しろ、その夜は突貫工事で全校舎の修復作業が行われたと言う。事実があったりする。
 あたしの睡眠時間を返せ……。
「尊敬と疑惑の入り交じった目で見られたから、何か変だなあ……って思っていたんだけど。考えたらバカバカしいくらい単純な事でもあったのよ」
 様々な種族が集ったとは言っても、個人的な恨みが解消されたのかと聞かれれば……。
 まあ、人間だって竜族だって……ねえ?
「いやあ。皆さん記憶力がよろしいですからね」
 そーゆー問題なのか? これ。
「僕達(魔族)だって、上司の命令に従っているだけですし。個人的な恨みつらみは……。
 あるでしょうけど。少なくとも、命令がない限りは動きませんしね」
 それって……「命令がある限りは動く」って言ってる様な気がするけど。仮に聞いてしまって、あっさり「そうですけど。それがどうかしました?」なんて聞かれた日にゃ……。
 やめよう。ゼロスの事で悩んだからって、事態が好転するわけでもないんだ
し。
「さて、リナさんはこれからどうするおつもりですか?」
「結構休ませてもらったから、そろそろ準備を始めるわよ。なんと言っても、もう時間がないんだもの」
「せっかくですから、もう少し休まれてはいかがです? 今からお茶でもお入れしますよ。
 もちろん、リナさんに害になるものは入れません」
 こいつ……。
 あたしが以前。お茶に誘われた時に「何か入っていそうだからヤダ」と言って逃げたフィリアの言う事を間に受けたのを。もしかしなくても根に持っているのかも知れない。
 だけど、実際問題としてあり得ない話ではないのが問題だったりする。
「そうは言うけど……」
「リナさん」
 きょとんとするあたしの側で、そっとゼロスがささやいた。
「外ではディーウさんが手ぐすね引いてお待ちですけど。それでもいいんです
か?」
 うっ……。
 嫌いじゃないし、悪い子でもないんだけど……。
 何か苦手なのよね。ディーウって。
「お茶を飲んでいただければ、僕がディーウさんに見つからない様にお送りしますけど。
 いかがですか?」
 あたしが、間髪入れずに了解したのは。言うまでもない。
「そうそう。人間、素直が一番ですよ」
「(魔族の)アンタが言うなっての!」
 ちょっと言葉遣いが悪いけど、この程度ではブローチも反応しない。
「リナさんが素直になっていただけたので。後でご褒美を差し上げますね」
「ご褒美?」
 思わず反応してしまう、あたしの耳。
 ああ……しょーばい人の血が……。
「ええ。とってもいいことです」
「いい事……ねえ?」
 って事は、ものではないわけだ。
「すっごく良いこと。と言うより、多分。普通の人間ではまずあり得ない体験をさせてあげますよ。
 何しろ、僕達(魔族)でも。そうそう出来る事ではありませんからね」
 ふむ……。
 ゼロスの言う事が話半分で、物をくれると言うわけでもなさそうだが。魔族ですら、そうそう出来る事ではないって言う事なんて……。
 好奇心の勝ち。
「判ったわ。楽しみにしてる」


続く

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2460スレイヤーズ学園物語〜その3−2E-mail URL11/11-00:37
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 酔夢の夜・後編

     3

 日が沈む。
 今日と言う日が終わる印。だけど、あたし達の戦争は。
 これからが本番だから。
「リナ」
 ゼロスがこっそりと転移してくれたから、確かにあたしはディーウに会う事はなかった。でも、まあ本当に保健室の外にディーウがいたって言う保証はないんだよね。考えてみたら。
「はい? ああ……ミルガズィア先生」
 扉を外のものにつなげてくれたと言うわけらしいけど、これまで保健室にいたのに。ドアを開けたらいきなり外って言うのも。
 まあ……人間の感性だし。
「ゼロスと一緒だったのか……」
 それは質問ではなかった。確認で、どこか。誰かに言い聞かせる様な響きではあったけれど。あたしに対してではなかった様な気がする。
「何かありましたか?」
「……ああ、うむ。準備が出来たのでな、生徒達をと思ってな」
「そうですね。他の皆はどうしたんですか?」
「生徒の誘導を始めている」
 相変わらず素っ気ない言い方だけど、これは生来のものらしい。
 もちろん、同じ敷地内に魔族であるゼロスがいるんだから。そうそう気を抜けって言う方がおかしいとは思うけど。
 気持ちは分からなくないけど、もうちょっと……。
 なんとかなんないかなあ。
「あまり渋い顔をしていると、その顔が張り付いてしまいますよ。ミルガズィアさん」
 突然、後ろから声が聞こえた。
 もちろん、こんな事をするのは一人でしかない。
「何するのよ! ……驚かさないでよ」
 あんまり派手に反応すると、ブローチが反応して倒れてしまう。
 そんな事になったら、しばらくは動けなくなるから。
 冗談なら……ただじゃ置けない。
「済みません。悪気はないんですけどね」
 魔族に悪気がないと言われて、信用出来たらスゴイと思うぞ……。
「あまり遊ぶな。ゼロス」
 ミルガズィアさんも同じ意見らしいけど、もうちょっと言い方ってものを。研究して欲しいなあ(はあと)と思うのは、壮大な野望だろーか……。
「判っています。別に、僕だってそんなつもりはありませんよ。
 ただ、リナさんが敏感なだけですから」
 …………それが遊んでいるって事。わかってやっているのは間違いないよなあ。
 ほら、ミルガズィアさんだって。呆れた顔してるし。
「特にガウリイさんと一緒の時のリナさんは、格別に敏感ですしね」
 …………………………何を基準にしているのか。すごく聞きたい気がするけど、聞かない方が幸せだろうなあ。どうせ、聞いたところでまともな返事が返ってくるなんて。アリの触覚ほども思ってないし。
「おや、反論なさらないんですか?」
「何を言っても、無駄でしょ。どーせ、アンタがまともな返事なんてしないでしょうし」
「よくご存じで」
 誰か……出来れば、アメリアか赤の竜神とかが。この極悪魔族に正義の鉄槌でも下してくれれば、すっごくありがたいよーな気がするんだけどなあ。
「でも、リナさん。最近はお倒れになる回数が減ったのではないですか?」
「そう言えば……そうだな」
 うみゅ……? そうかな。そうかもしんない。
 ブローチを着け始めた初日は、ほとんど寝込んでいるのと同じだったもんなあ。
「ミルガズィアせんせーい、リナさーん!」
 いっけない。あんまり遅いから、アメリアが呼びに来ちゃった。
「何やってるんですかっ! 皆もう待ってるんですよっ!!」
「ごめんごめん……。すぐに行くからさあ」
 遠目にも判るくらい、アメリアの怒り度合いは高かった。
 まあ……、大変だったのだろう。
「早く早く! 皆さんお待ちかねなんですよ!」
 お待ちかね? 誰が?
「あ、ミルガズィアさんも早く! ゼロスさんも!
 荷物なら、ぜーんぶ運んじゃいましたよ!」
 全部? あれだけあったのに?
「父さんが、手伝ってくれたんです」
 なるほど……。

     4

 グランドに出ると、一陣の風とともに視界が揺らめき。
 そして、そこには白い花を称えた樹木が群れをなしていた。
「もしかして、これ……。全部?」
「うむ」
「なかなか、やりますねえ」
 ゼロスでさえ感心してしまうのも、あたしだってうなずくのも当然と言えるだろう。
 おそらく、幻術を極大化しているんだろうと思うけど。
 地平線まで続くかと思われる、一面に広がる樹木が。あたりを淡い白で覆っていた。
 涙が出るのではないかと、勘違いするほどの樹木の下を。人々が、エルフ達が。竜族が、多分混じっているだろう魔族達が。一同に会している。
「夢みたい……」
 踏み出したあたしは、本当に泣くのではないかと思った。
 種族も、思想も。信じる物も、生きる目的すら違う存在。
 生きることを望むものと、滅亡を望むもの達が。
 例え、その水面化で確執や。目に見えない戦いが起きているのだとしても。
 こうやってみる限り、そんなものは欠片も感じられない。
「来たか」
「遅いぞ、リナ!」
 走り去ったアメリアの方角に、樹木の下で座っているガウリイと。ゼルガディスの姿があった。
 二人の周囲には、沢山の……女の子。
 なんだろう。どこか、痛いような気がするのは。
「では、僕はちょっとヤボ用がありますので」
「ゼロスっ!?」
 あたしの反応が遅かったのか、振り向いた先にゼロスはいなかった。
 何考えてるんだろう? まあ、今に始まった事じゃないけど。
「これも、お前がいたから出来た事なのだな。リナ=インバース」
 ミルガズィアさんは、その瞳に優しい光を宿したまま。あたしの見ているものと同じ光景を見ているらしかった。
「リナがいたから、これは現実となったのだな……」
 生きる事を望むのは、何もあたし達人間種族だけではない。
 竜族も、エルフ族だってそうだ。その為に、長い時を魔族と戦って来た。
 でも、今。
 ここに争いはない。戦いの兆しすらない。
「あたしは、何もしていません。ディーウと言う存在があったからこそ、これは実現したのだと。あたしは思います」
 今、あたし達は教師と生徒ではなかった。
 竜族の長老と、人間の魔道士として話をしていた。
「だが、リナがいなければ。実現しなかっただろうことは、確かだ」
 もしかしたら。ミルガズィアさんは、異界黙示録から何かを聞いたのかも知れない。とても、大切な何かを。でも、きっと教えては貰えないだろう。
「リナぁー! 早く来いよぉっ!」
 行ってもいいだろかと思ったあたしは、ふとミルガズィアさんの方を見た。
 でも、そこにはすでに教師の顔が宿っていた。
「行くが良い」
「……はい」
 あたしは、ガウリイの方に駆け出した。
「今行くから、あたしの分も残しておいてねっ!」
「早く来ないと、なくなるぞぉっ!」
 おにょれ! あたしの食べ物を先に食べるなんて。そんな事が許せるかっ!
 だけど、ふと思って振り向くと。すでにミルガズィアさんの姿はなかった。

 見た限り、誰がどの種族なのかは判らなかった。
「ガウリイ先生、これも美味しいですよ」
「あら、こっちの方が美味しいわよ!」
 エルフ族はもちろんだけど、魔族だって人間とまったく変わらないくらいの実力者をそろえていた。もちろん、そう言う種族に限っては。あたし達と同じような抑制や。種族の偉いさん達から充分に言い含められているだろうから、仮に何かが起きたとしても、大した事にはならないだろう。
 だけど、なんか面白くない。
「り……リナ……さ」
 どこか恐怖に引きつった表情をしたアメリアが、あたしに何かをいいたい様ではあったのだが。
「アメリア」
 ゼルガディスに止められ、首を横に振られた日にゃ。
 流石のアメリアも、あたしに話しかけるのは断念せざるを得なかった。
 なんっか。腹の底がムカムカしてくる様な気がして、たまんない……。
「リナぁ……」
 情けない顔をしたガウリイが、あたしに向かって何かを言いたそうな顔をしてはいるんだけど。あたしの一睨みで、どうやらそれも断念したらしい。
 あたしとしても、妙に怒りを浸透させて倒れたりしたらたまらないから。なんとか感情を抑制させようと努力はしているけど……。
「そんな顔しないで、まあいっぱい」
 堪えていたあたしの手に、いつの間にやら渡される。
 どう見ても……。杯、だよねえ?
 生徒は、ジュースしか飲まない筈だけど……?
「まあまあ、ぐいっと飲みなよ」
 そこにいたのは、褐色の肌をした美少女。掛け値無しの。
 あれ? どっかで見た事がある様な気がするんだけどなあ?
 流れる髪は腰まで届き、たおやかな手は苦労を知らない様に見えた。そして、何よりも特徴的な瞳。
 同じ様な杯を手にして、彼女がぐいっと飲み干した。
「うーん、やっぱり美味しいわ」
 誰だか判らない警戒心もあって、あたしはアメリアかゼルに聞こうと思った。
 生徒に関してなら、しょっちゅう倒れるあたしより。二人の方がよほど面識があるし、これだけの美少女なんだから。そうそう忘れるわけもないだろうし。
「ほら、あなたも」
「え? あ……はあ」
 本音を言ってしまえば、あたしは彼女の美貌に見ほれていた。
 あたしだって曲がりなりにも「剣士にして天才美少女魔道士」と呼ばれているんだから。それなりに目は肥えているけど。彼女の美しさと言ったら、それこそ芸術品の様だった。
 だから、飲んでしまったのだ。
「あ……あれ?」
 これ、お酒っ!? しかも、すっごく強い……。
「せかいが……まわるうぅ……」
 あたしの視界は、ぐるぐるとなっていた。
 まるで、水の上に油性のインキを垂らして。それを棒か何かでぐるぐるにした様だった。
 頭の中では熱がカッカとなっていて、それが全身に回る。
「わぁぁっ!! しっかりしろ、リナっ!」
「ふうぅ……あういー?」
 ろ、ろれつが……。体を地面に対して垂直に保てなひ。
 自然と、あたしはガウリイに支えてもらう形になる。
「ごっめーん……。本当に弱いのね、まさか。あの子が嘘をつくとは思っていなかったけど。ここまで弱いとは思わなかったわ」
 どんな酒だと言うのか、それは全然判らないけど。
 一口で世界が回るくらいの酒なんて。そんなのは見たことも聞いた事もない。
 普通、強い酒ってむせるものじゃないっけ?
「大丈夫かあ? 弱いの判ってて飲むから……」
「うー……らってぇ……」
 だけど、なんだか体の奥の方からくすぐったくなってきた。
 黙ってなんていられない。じっとしてなんて、していられない。
 幻だと判っていても、こんな綺麗に舞う花の下で。大人しくしているなんて、もったいないじゃない!
「無理するなって、リナ……」
「らって……たのひーれひょーおっ!」
 無意味にはしゃぎたかった。
 ただ、踊りたかった。歌いたかった。
 静かにしていられない、何かを感じてしまった。
「これだから酔っぱらいは……」
 酔っていると言われても、全然よかった。
「あーに言ってるかなあ。がうりーらんて、酔ったって覚えないくせにー!」
「わわわ、リナっ! 大人しくしろって……」
 焦るガウリイの声を聞いて、どんどん楽しくなった。
 あたしを押さえようと触れてくる、ガウリイの手から。どんどん、熱が高くなって行く。熱く、あたしを突き動かす。
「あー……じっおらんて、へいあいおぉ……」
 べろんべろんになっているのが判ったけど、それが心地よかった。気持ちよかった。
 それでもあたしを取り押さえようとするガウリイから、逃げようと動くのさえ楽しかったし。それを見ていたゼルとアメリアの顔も。お腹を抱えて笑う美少女の姿も、楽しくてたまらなかった。
 どこかでミルガズィアさんが見ているだろう事も、フィリアが口を開けて驚いているだろう事も、そんなのは。本当にどーでもよかった。
 ガウリイの周りを取り巻いていた女達も、当のガウリイがあたしを追いかけはじめてしまった為なのか。慌てて逃げていく様に見えた気がした。
 どこからか音楽でも聞こえないかと思ったけど、そんなものがなくても充分に楽しかった。それこそ、今なら姉ちゃんが怒っても平気だったかも知れない。
 そう思わせるくらい、楽しかった。
「なかなかいいセンスしてるじゃない、リナ=インバース!」
 すぐ側で、美少女がいる様な気がした。でも、すでにあたしの体は。ガウリイに支えられながら、ようやく大人しくなりかけている状態だった。
「んっふっふ……ほーえひょ?」
 でも、ろれつは戻ってなかったりして。
「リナぁ……」
 Vサインをするあたしを、ガウリイはなんとか取り落とさない様に苦労している様ではあったが。そんなのはどうでもよかった。
「面白いものを見せてもらったお礼に、いいものをあげるわ」
 彼女の笑顔の中に、あたし達が最も恐れる種類のものが含まれている様な気がしたかもしんないなあ……とぼんやり思った直後だった。
「ぬあっ!?」
 地面が揺れた。
 いや、冗談でも遊んでいるわけでも。ましてや、あたしが酔っぱらっているからだと言う理由でもない。
 本当に、地面が揺れていたのだ。
 その証拠に、グランドにいた全ての存在が地面に伏していた。
 起きあがっている事も出来ないのだ。
「リナっ!!」
 ガウリイの真剣な声を聞いて、ぼんやりとではあるけれど。何か大変な事が起きているんだろうなって事だけは判った。頭をガウリイの太い腕が抱えている様な気がしたけど、それさえもどこか。遠くで行われいている様な気がしていた。
 そして。
 それは、唐突に現れた。
 もしかしたら、全然唐突ではなかったのかも知れない。でも、あたしにとっては唐突以外の何ものでもなかった。

     5

 引き裂かれた大地。そこから割り出してくる、意志を持つ様なうにょろんとした物体。もしくは、そうとしか表現のしようのないもの。
 それが幾つも這い出してきて、次第に一本の巨木へと変わって行く。
 巨木の幹ができ。更に上空へとのばされた枝がどんどん別れ、それは伸びゆくとともに木の葉をつけ。白くて可愛らしい花を付けた。
 突風が吹き、少し。
 ちらほらと降りてくる花びらを見て、あたしは手をのばす。
 綺麗な、ただの花びら。
「大丈夫か?」
 ようやくおろして貰えたガウリイの手から、あたしは巨木によりかかった。
「きれーだよ、ガウリイ」
 子供の様な気持ちで。ただ、綺麗だと言う気持ちだけで。
「そうだな……」
 次第に、あたしは眠りに引きずり込まれた。
 何も感じなかった。どうでもよかった。
 ただ、心地良い感触に身をゆだねるだけだった。

 あたしは、頭痛だった。
「気持ち悪いぃ〜……。頭が、がんがんするうぅ〜……」
「そりゃあ、あんな所でお休みになれば疲れますよ。
 大丈夫ですか、皆さん?」
 普段から、あたし達以外が出入りをする事のないゼロスの保健室だが。今日も、あたし達以外はいなかった。
 他にもちゃんとした保健室がある為に、ここは通称を「第二保健室」と呼ばれているのだが、あまり他の生徒には知られていないし。ましてや竜族が出入りをすることもなければ。ディーウが入って来る事もない。
 今、ベッドにはあたしとアメリア。長椅子にはゼルガディスが寝ている。
 唯一寝込まなくて済んだのはガウリイだけど、そのガウリイはゼロスに治療を受けている真っ最中だったりする。
 あたし達は全員、昨夜の「お花見」とか言うのの後。そのままグランドで眠ってしまったのだ。その為、風邪を引いたり体を痛めたりする人が続出した。
 あたしは、なぜか二日酔いで。ガウリイの怪我は、野宿をしていたからではなく。
「ひどいぞ、リナ」
 まだぐちぐち言うガウリイの声を無視して、あたしは寝たふりをする。
 ガウリイの怪我は、今朝起きた時にあたしによって蹴り飛ばされたからだったりするわけだが……。
 い、言えない。誰にも言えない!
 朝になって目がさめて。あたしの目の前に何があったか、なんて……。
「ですが、楽しかったようですね。昨夜は」
 昨夜、謎の美少女がいきなり地面から木を生やしたと言うのは。夢ではなかった。
 樹木の群れは元々幻影だったのが判っているからいいが、巨木だけはそのまま。グランドの真正面に鎮座している。
「楽しかったって……言うんですか?」
「どーでもいいが、なんだったんだ。あれは……」
 なんとなーく、ゼロスは昨夜の全貌を全て承知している様な気がものすごくしたんだけど。聞き出すには、情報の倍以上のストレスを抱えそうな気がしてならない。
「おい、聞いてるのか。リナ?」
 とりあえず、あたしはどうやってガウリイの記憶から。今朝の出来事を削除しようかと言う事だけで。頭の中はいっぱいだった。

 終わり


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2465スレイヤーズ学園物語〜その4E-mail URL11/13-02:29
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May ill(五月病)


    0


 窓を開ける。
 ほど良い風が、外の空気を室内に運んでいる。
 いい気持ち……。
「やるぞ、リナ」
「うん」
 言って、あたしは振り返る。
 部屋は白で統一された、味気も素っ気もない。極単調なもの。
 まあ、ここは一応保健室なのだから飾り立てる必要はないだろうけど。
「いいの?」
「ああ」
 結構広い室内は、隅に机が一つ。そこには、ゼロスが座って何かをしている。
 近くには長椅子と、薬品の乗ったワゴンが乗っている。長椅子では、アメリアがお茶を飲みながらのんびりと座っている。
 薬品棚がずらっと並んでいるけれど、中には人間の知らない薬品もあるのだろう。どうせ、ゼロスの管轄なのだから放って置くに限る。
 アメリアとは反対の方角には大きなテーブルがある。いつもはカーテンで仕切られいてるわけだが、現在は様々な機材がのっかって。ゼルガディスがかちゃかちゃと準備をしている。その脇ではガウリイが、物珍しそうに作業を眺めている。
 ゼルガディスの脇には人体模型と骨格標本があり、その隣はカーテンで仕切られた向こうに。ベッドが二つほど並んでいる筈だ。
「じゃあ、始めましょうか」

     1

 その話が出たのは、極々いつもの様に。極々いつもの通り、あたし達「科学部」が部活にいそしんでいる時だった。まあ、部活と言っても大した事をやっているわけではない。
 たまたま、ゼルガディスが科学に目覚めたので。興味本位であたし達が邪魔……じゃない。手助けをしようと始めたのが、それだった。
 何しろ、「科学」なんて言っても「魔法」の方が簡単に。しかも、強力で早く出来てしまうのだから。手間がかかって仕方がないのだ。
 最初の時なんて、思わずぶっとばすかと思ったわよ……。
 最近では、「返って不便な事をあえてやる」と言う事に楽しみを感じてしまい。それを微笑ましく眺めるゼロスの言いたい事が。なんとなく判ってきた様な気がしたくらいだ。
「こんにちは」
 どういう訳なのか、訪れる者の滅多にないゼロスの「第二保健室」に。珍しくお客が訪れたのは、ゼルガディスが「拳銃」と言うものを自作始めた頃だった。
「いらっしゃい。お待ちしてましたよ、シルフィールさん」
 そこには、「学校」には来ていない筈のシルフィールがいた。
 格好としては、見習い巫女と言った感じの服装だけど。確か、彼女は現在セイルーンのおじさんの所でお世話になっているんだっけ。
「ゼロスが呼んだの?」
 あたし達は、やっていた作業を止めた。
 ガウリイとアメリアは、あたしとゼルが「あーでもない、こーでもない」と言い合っている所を見ているだけだったのだが。
「いいえ、そう言うわけではありません」
 だったら、シルフィールがゼロスに用事があるのだろーか?
「ミルガズィアさんと言う方に呼ばれて参りましたの。お久しぶりです」
 ミルガズィアさんに? じゃあ、どうしてここに?
「あまり人の多い所では会いたくなかったのでな。場を借りるぞ」
「お待ちしてましたよ、ミルガズィアさん」
 聞いてないけど……なんだろう? わざわざ。
「済まないが、お前達は席を外して貰えるか? 特にリナとガウリイ………………………………教諭は」
「なんで俺を呼ぶ時だけ、沈黙があるんだ? ミルガズィアさん」
 んな事も判んないの? あんたはぁっ!
 と。いつもなら、「ツッコミスリッパ」の一つも叩き付けてやるんだけど……。
「あら、リナさんがガウリイ様に乱暴を働かないなんて……。
 この目で見るまでは信じられませんでしたけど、本当だったのですねえ」
 そ……そんな事まで言ってあるのか!?
 思わず、ミルガズィアさんの方に見てみるあたし。所が、当の黄金竜の長老は。素知らぬ顔を明後日の方を向いている。
 汗をかいているって事は、知っててとぼけてるって事よねえ?
「ほら、行くぞ。リナ」
 ほへ?
 気がつくと、いつの間にやらガウリイに腕を取られているあたし……。
「ちょ、ちょっと!」
 あ……。少し、くらっと来た……。
 力が抜けたのを知ったのか、あたしは半分以上引きずられる様にして連れ出される。
「あ、リナさん……」
「いや、リナはガウリイ………………教諭に任せて置けばいいだろう。済まないが、お前達にも手伝って欲しい事がある。もうじき……」
 あたしが会話を聞く事が出来たのは、ここまでだった。


     2

 最近になるが、ガウリイの教員室にある応接セットは。他の物よりちょっぴり豪華でふかふかなものになった。代わりに、前に使っていたものは現在。ゼロスの部屋にある。
「まったく、なんなのかしらねー」
 ふかふかのソファに体を預けて、あたしがうなり声を上げた。
「まあまあ。そんなに怒るなよ」
 ちょっと前に、ヴァルが魔法を抑制する力をくれた関係で。地域限定であたしを制御する力は緩和されるようになっている。
 まあ、完全じゃないのが難点と言えば難点だけど。これまでに比べれば、ずっとマシだったりする。
「いつもと違うんだもの。ミルガズィアさん、なんでシルフィール呼んだのかしら? しかも、アメリアやゼルは残したくせに。ガウリイならまだしも、このあたしをのけ者にするなんて許せない! 誰のせいで、ここまで人が長期戦で苦労したと思ってるのかしらね!」
「誰のせいなんだ?」
 …………ガウリイが言うと、すっごく悲しくなるし。ガウリイに言われると、すっごく情けなくなる様な気がするのは。あたしの気のせい?
「あ、ほどけてるぞ。お前」
 あん?
 自分の机にいたガウリイが、言って。あたしに近寄ってくる。
 そして、おもむろに頭に触ってくる。
「ほら、頭」
 しゅる。
 音がして、ガウリイの手にあたしの頭にあった。黒いリボンが握られていた。
「ああ……それ。
 さっき、ディーウが『髪を触らせてくれ』て言うから。髪をとかしてリボンを結びなおしたの。それが、ほどけたんでしょ」
 ポケットから櫛を出したあたしは、言って頭をとかし始める。
「ガウリイ、リボンちょうだい」
 じっとリボンを見ていたガウリイに、あたしが言う。
「俺がやってやろうか?」
「は? アンタ、出来るの?」
「まあいいから」
 あたしから、半ば櫛を奪い取ったガウリイが。あたしの髪をとかし始める。
 ……まあ、いっか。
 どーせ暇なんだし。
「ちゃんと結んでやるからテストの採点。手伝ってくれよな。どうせ暇なんだろ?」
 むっ。
「そんな事ないわよ!」
「そーか? 試験も終わったし、やることなくて暇だから。ゼルの手伝いを始めたんじゃなかったっけ?」
 ガウリイに言われると、すっごく腹が立つ気がするわ……。
「んなことないって!!」
 むかっと来たけど、来たんだけど……。
 ふむ。
 珍しい事なんだけど、あたし。こんな風にガウリイと、落ち着いて一緒にいる事って。これまでにもあんまりなかった気がする。
 いつもは移動ばっかりの旅から旅だし、食事の時や就寝の時とか以外は一緒にいても。あーだこーだでゆっくりとなんてしたことなかった。
 頭皮に櫛があたって、ゆっくりとガウリイの手の中でとかれて行く髪。
「どうかしたのか?」
「んー? なんで?」
「あんまり大人しいからさ」
「そ? この間、フィリアの授業で聞いたのよね。飾りの授業だったんだけど。
 髪って、魔力の源とか色々言われてるのよ。それでね、髪には想いが宿るから。それを清める為に髪をとくんだって」
 フィリアの授業は家政だから、授業は統一されていない。種族が違えば判る事も違うと言う事なのだろう。普通の料理や裁縫とかも教えてくれるけど、そう言う所は巫女の知識なんだろうなって思う事もある。
「なんでだ? 想いが強ければ、それだけいいんじゃないのか?」
「だって、良い想いだけじゃないでしょ? 生きていれば、恨みだってあるもの」
「そっか……」
「そうよ」
 ソファの上に、あたしの櫛を置いたガウリイが。そのまま、少し髪を取ってリボンにくくりつけるのが判った。
 なぜか、あたしは郷里にいる姉ちゃんの顔が思い出された。
 昔。まだあたしが自分で髪を結わけない頃、髪をいじくってくれたのは姉ちゃんだった。
「ほら、終わったぞ。
 リナ? ……しょうがないな」
 すでにあたしは答えられなかった。
 もう、眠っていたから。

     3

 あたし、いつの間にか眠ってたんだ?
 気がつくと、そこには誰もいなかった。
 また、ガウリイの部屋で眠ってしまったのだろう。
 起きあがると、膝に大きめの布。よく見ると、ガウリイの上着が落ちる。
 かけてくれたのだろう。
「ま、ガウリイにいしては上出来ね……」
 折り畳み、あたりを見回す。
 テーブルの上にはメモが一枚。
『すぐ戻る』
 姉ちゃんばりに簡潔で、無骨な文字だけど……。
 側に採点待ちをしているプリントがあると言う事は、もしかして『やれ』と言う事なんだろーか?
「まあ……いっか」
 ため息を一つして、あたしはプリントの採点を始めた。
 行動パターン、バレてるかもしんない……。
 試験問題を作るよりは……大丈夫よね? アメリアも文句は言わないでしょう。多分……って、注釈がつく所が情けないけど。

 メモの文字に反して、ガウリイが戻ってきたのは。プリントの採点がとっくに終わって、すでに日がすっかり傾いた頃だった。
「遅かったわね?」
「起きてたのか。悪かったな」
「だって、こんなメモが書いてあったら待つしかないでしょう?」
 苦笑いをするガウリイを見て、それでも我ながら甘いと思ってしまう。
 こんな風に笑う事。旅をしている時は、なかったせいかなあ。
「リッナさん♪」
 おや?
 ガウリイの後ろから、アメリアと……ゼル?
 珍しいわね、あんた達がガウリイの部屋に来るなんて。
 どういうわけなのか、この二人。あんまりガウリイの部屋に近寄らない傾向がある。
 ゼロスの部屋には入り浸っているとかしているみたいだし、ゼルに至っては科学室で寝泊まりしてるし。アメリアは、立場上ちゃんとした部屋で寝泊まりしているみたいだけど。
 ちなみに、この「学校」の理事長は出資している立場上フィルさん。学校長はアメリアと言う事になっているので、校舎の学校長室には簡単に寝泊まり出来る様になっている。
 一人しか泊まれないのが難点だけど、それは仕方がない。
「今日はリナさんと一緒に帰ろうと思いまして。
 ゼルガディスさんも一緒なんですよ」
 そりゃあ……まあ。二人ともちゃんと寮に部屋があるんだから、帰らないといけないんだよな。あたしもだけど。
「それはそうと、ゼロスとミルガズィアさんとシルフィールの話ってなんだったの?」
 立ち上がったあたしは、服のホコリを払って居住まいを正す。
 この制服って、見た目が可愛いのはいいんだけど。ちゃんとしていないと、すぐに着崩れを起こすのよね。
「あの後、フィリアさんと…………もがもが」
 変だな。
 なんで、ゼルがアメリアの口を押さえる必要があるんだ? そんなにあたしに聞かせたくない話なわけ? どうして?
「お前にだけは絶対に知らせるなって言われているからだ。それに、お前に知らせる必要があるのなら、こんな事はしないし。させない」
 うーん…………。
 他の奴とかアメリアが言うのならまだしも、ゼルに言われると反論出来ない。
 お互いの考えている事が判るってのは、こういう時。ちょっと辛い。
「じゃあ、ガウリイはさっきどこに行ってたの?」
「俺?」
 そう。すぐに戻るとか書いてあったのに、遅かったものね。
「俺……はあ……? なんだっけ」
 聞いたあたしが、馬鹿だった。
 ガウリイの記憶力なんて、本当にミジンコ以下だよなあ……。
「あれ、ガウリイさんは……」
 ん? 何か知ってるの? アメリア。
「いえ、そう言うわけではないんですけど。あたし達とは別の部屋にいましたし。だけど……」
「だけど?」
 知らないのか、ゼルガディスも訝しげな顔をしている。
「確か……フィリアさんとヴァルさんと、いなくなったんですよね? 途中から」
「えー? そうだっけえ?」
「ふむ……確かにそうだったな」
 あたし達が部屋から追い出された後、フィリアとヴァルも入って来て。その後、ガウリイが入ってきた事でフィリアとヴァルと三人で出ていった。と言う事らしい。
 それなら、フィリアかヴァルに聞けば済む話よね?
 会ったら聞いてみる事にしよう。
「話を戻すけど、ゼルも寮に戻るの?」
「いえ、戻るのは寮じゃなくて。あたしの家です。
 ガウリイさんもご一緒でいいですよね?」
「ああ、いいぜ」
 アメリアの家と言えば、セイルーンの王宮なわけだが……。
 なんでいきなり? そりゃあ、王宮はこのあたりで一番近い国だけど。だからって、はいそうですかって行き来できる距離でもないし……。
「どうしたの? いきなり」
「やだなあ、リナさんてば。忘れたんですか?
 明日から3日間、春の試験休みじゃないですか!」
 あれ? そーだっけ?
 ………………うーん、思い出せないなあ。
「お前らしくないな。
 明日からの3日間、一切の授業は行われず。成績不良の者だけが追試をするわけだが……。お前、学校に残るつもりなのか?」
「ディーウさんの事もありますし、気晴らしにちょうどいいと思うんですけど」
 控えめに言っているけど、もしかしたら二人の所にもディーウの事は耳に入っているのかもしんない。
 結構キョーアクだからなあ……。
「それもそうか……」
「ね、いいですよね?」
 アメリア……目がマジだけど……。
 何かあったわけ?
「い、いえいえ。そう言うわけではないんです。特に意味はないんですよ!!」
 そんなに焦らなくてもいいと思うけど……。
 でも、アメリアの所ならお料理もすごいだろうし。豪華だろうし。
 第一、お休みなんてすっかり忘れてたし。予定もないし。
「まあ……いっか」
 あたしは、訳がわからないままではあったが。アメリアの招待にお呼ばれする事にした。


続く


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2491スレイヤーズ学園物語〜その4ー2E-mail URL11/23-02:39
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May ill(その2)

     4

 久しぶりだった。
 魔道士としてのあたし。リナ=インバースとしての、あたし。
 ここしばらくは忘れていたが、あたしは旅をする剣士にして天才美少女魔道士なのだ。
 「だった」のではなく。
「リナさあん、いいですか?」
 寮の部屋に戻るのも久しぶりだった。
 でも、入寮の時に何度か寝泊まりをしただけで。ほとんど戻ってはいなかった。
「いいわよ」
 旅をしていた時の服は、この部屋に仕舞いっぱなしだった。だから、袖を通すのも久しぶりだし。初めて着た時みたいな感触もあった。
「あー、それを着ちゃったんですかあ……」
 何を残念そうな顔してるのよ?
 あたしが、あたしの服を着て何か悪い事でもあるの?
「いえ……そういうわけじゃないんですけど。出来れば、制服のまま町までいらしていただけるとありがたかったかなあ……とか」
 制服……………………。
 正直、あんまり着たくないのよね。
 慣れたとは言っても、かかと高いし。女の子の服って、足下スースーするし。それに、何よりブローチの魔力があたしを縛り付ける……。
「いえ、ブローチはいいんですけど。たまには女の子らしい格好で町まで出てはどうかなって思いまして。それに、その服のままだと着替えの時に……」
「あんた、また何か企んでるんじゃないでしょうね……?」
 ジト目でにらむあたしに、流石にアメリアの表情に焦りが見える。
「いえいえいえいえ!! そ……、そんな事は。
 ただ、町まで行ったら必要な買い物とかもあるんじゃないかなーとか、思っただけでして……」
 この「学校」は、出入りがなかなかに厳しいだけあって。必要なものは全て学校の敷地内で入手出来る様になっている。衣料品なんかもそうだ。買い食いだって出来るし、寮でも学校でも食堂がある。
 酒に関しては、流石に教諭専用の所でしか飲めないらしいけど。
「町で校章を見せれば、なんと全品20%オフですし、制服を着ていると追加で10%オフになっているんですよ!」
 むむっ……。
 何となく、胡散臭いし罠っぽい所もあるんだけど……。
「全部合わせれば…………30%オフ?」
「え……ええ、そうですけど」

 この寮は、もちろん男子と女子に別れている。
 教諭と教師に関しては、校舎の中にそれぞれ部屋続き部屋があり。授業の準備室も兼ねているから、他には個人の部屋とかはまったくない。
 ちなみに、教諭って言うのはミルガズィアさんみたいな優秀なる先生の事で。教師は、教諭の助手なんかをやっている人の事なんだけど………………。
 フィリアが教師なのは判るとしてえ。なんでガウリイが教諭なのか、未だに不思議なのよね、あたし。
「でも、ガウリイさんは生徒からの人気も高いんですよ?」
 それは聞いたことがある。
 生徒が困っていると、何時間でも生徒の為に相談に乗ると言う事で。ほとんど教諭としての仕事をあたしに押しつけてるもんなあ。
 どーしてあたしが、ガウリイの授業の予習と復習の為の教科書を作ってあげないといけないわけ?
 それを使えば、どんな駄目教諭だってミルガズィアさんくらいの立派な授業が出来てしまうと言う。名付けて「リナ=インバース特性教科書・教諭用」なんか作っている事がアメリアにバレたら………………。
 正義の鉄槌クラッシュは覚悟だな。
「あれ、なんで制服着てるんだ? リナ」
「そう言えば……あんた達は制服じゃないのね?」
 まあ……アメリアはそう言うわけにも行かないんだろうけど。
 ゼルも……まあ。制服にはフードがないから、顔を隠せないって点でも納得出来ないわけじゃないけど。
 なんか……あたし、上手く乗せられた様な。納得出来ない様な……。
「ま……まあいいじゃないですか! 今から着替えるのも面倒でしょ?」
「そうだな。時間がかかるのもなあ」
 すでに、日はすっかり傾いている。
 これからセイルーンまでは、珍しく馬車で行く事になるわけだが。ぐずぐずしていたら、宮殿に入るまでに明日になってしまうのは判ってる。
 なんっか……釈然としない。
「お前らしくないなあ、そこで大人しく引き下がるなんて」
「ガウリイに言われるほど腹立つ事ってないわ」
 ほとんど無理矢理な形だったけど。時間の関係で馬車には乗り込むことにした。
「リナ、それは持ってきたのか?」
「ああ……うん。まあね」
 この格好では似合わないのは否めないんだけど。タリスマンくらいは持ってこないと。
 なにしろ、学校の敷地は全種族総動員で結界を張っている。
 もし、力尽くで結界を破壊するのであれば。それこそラグナ・ブレードでも持ってこないと無理だろう。
 当然の事ながら、魔族の力だけでも竜族の力だけでも結界を消し去る事は出来ない。
「この服、別に魔法具ってわけでもないから……」
 流石に剣を持ってくるわけにはいかなかったけど。まあ……大丈夫だろうし。
「あんな強力な結界の中で、どうして魔法具が必要なんですか?
第一、 リナさんの魔力はほとんど封じられているのと同じなのに」
 あの敷地内で魔法を使うと言えば、ゼロスを除けば「魔法部」くらいだから。たしかに、アメリアの言う通りと言えばそうだけど。
「仕方ないだろう。俺達は、これまで身の危険と隣り合わせに過ごしてきたんだ。どうこう言ったところで、それは生涯変わらない習性だろう」
 もっとも、その「魔力抑制ブローチ」も結界の役割をになっていると言う事実もあるわけなんだけど。迷惑を被る方が多いから、あたしとしては歓迎出来ない。
 ゼルガディスやアメリアだって、まだほとんど倒れた事ないのに……。
「ですけどぉ……」
「まあまあ。人間、慣れない事は簡単に慣れないって事だろ?」
 フォローになってるのか? それ。
 だけど、ガウリイの台詞でアメリアにも考える所があるみたいだった。
 しばらくの間、あたし達は無言になる。
「今日は」
 沈黙に耐えられなかったのだろう。アメリアが口を開いた。
「今日は遅くなりますから、宮殿に泊まっていただいて。明日はお買い物に行きましょうね、リナさん」

     5

 風が頬をなでる。
 草原が足下で走っている。
 マントを翻すほどの、強い風。
 新しいものへの憧れと。そして、不安。
 わき起こるのは、何者へのものだと言うのか。
「行きなさい、そして世界を見てくるのよ」
 世界。
 それまでの世界は、郷里だった。
 郷里で、姉ちゃんがいて。両親の雑貨店と、姉ちゃんのアルバイト先。
 本で読む魔道士の世界と、魔法の世界。
 村で起きる祭り。退屈な日常。
「世界?」
「そうよ。リナ」
 世界。
 それは憧れ。そして、恐怖の象徴。
 デーモンが怖いのではない。そんなもの、姉ちゃんに比べれば子供以下だ。
 強くて優しくて、怖くて頼れる姉ちゃん。
 絶対に勝てないから、勝ちたくてたまらない。
 でも、それにはここに居ては駄目だ。
 今のままでは駄目なのだ。
 それは、感じていた。
「世界を見てくるの。己の足で、世界を回って。
 リナの目と耳で、世界を知るのよ」
 姉ちゃんが、一体何をあたしに求めているのかは判らない。
 それが判るくらいなら、あたしはとっくに姉ちゃんに勝っているだろう。でも、判らないと言う事は。勝てないと言う事は。
 勝つ可能性があると言う事だ。
「リナ…………」
 とんでもなく無茶苦茶だったけど、姉ちゃんは間違った事は言わなかった。
 あたしが「出来ない」と思う事でも、姉ちゃんは「出来る」と言ってあたしにやらせた。
 その姉ちゃんが「世界を見てこい」と言うのなら、あたしは「世界を見る事が出来る」と言う事だ。それならば、姉ちゃんの命令に従うしかない。


 朝なんだと、あたしは思った。
 瞼に感じる日の光が、あたしを目覚めさせる。
「う………………ん」
 目に映ったのは、大きなもの。
 枕の様に大きいのに、それでいて堅い?
 ぽむぽむぽむ。
「うーん…………」
 はて?
 ぐーで軽くノックしてみると、上の方から人の声様な物音の様なものが聞こえてきた。
 ぼんやりと、何も思いつかないのだけど。つい反射的に顔を上へと向ける。
「ひゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!」
 全身がバネ仕掛けの人形の様に暴れて。そして、ベッドから転がりつつも。
「ボム・スプリットぉぉぉぉっっっっ!!」
 更に反射的にくりだしていた魔術。
 あ。
「うわぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
 炸裂する連爆が、部屋中を満たす。
 とんでもない音量と煙だが、頭のどこかでは「大した事にならない」のは知っていた。
 もっとも、それだって汚れないと言うわけではない。
 直撃とは言わなくても、何発かはあたったらしいその黒い塊は。
 黒こげとは言わないけど、かなり薄汚れた格好で出てくる。
「何すんだよ、いきなりっ!!」
 長い髪。長身の、がっしりとした体格の男。
「やかましいぃっ!! なんであんたがここにいるのよっ!!」
 それは、ガウリイだった。
 現在のあたしはブローチをはずしているからよかったものの、これが学校でならば。今頃、あたしは気を失っていただろう。
「なんでって……」
 はっと気がついたあたしは、思わず自分の体を触ってみる。
 おかしいところは……ないらしい。
 パジャマもちゃんと着ているし、どこかされた様子もない。様な気がする。
「なんだってあんたが、あたしのベッドに入っているのよっ!!」


続く

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2518スレイヤーズ学園物語〜その4ー3E-mail URL11/29-01:56
記事番号2491へのコメント

May ill(その3)

     5

 現状を把握してみる。
 あたしが、いる。ガウリイが、いる。
 ここはあたしの部屋で、部屋とガウリイがすこし黒こげになりかけているが。これは気にしないとして。
 何かされた感じはしない。パジャマもちゃんと着ているが、それはガウリイも同じだ。
 ちょっと黒こげだけど。
「リナさん、何かあったんですかっ!?」
 どんどんどんどんどん!!
 部屋の外で、物音がする。
 扉をたたく音。多分、あれはアメリアだろう。
 だとすれば、当然ゼルだって側にいるだろうけど……。
「何でもない! ちょっと、虫が出て……驚いただけだから!!」
 とりあえず、なんとか誤魔化す。
 こんな所を見られて、妙な勘ぐりをされるのはごめんだった。
「あんまり脅かさないで下さいね! まだ早いんですから」
 一言で立ち去ってくれたのはありがたいが……。
 アメリアが、あたしをどーゆう風に見ているのか。よく判った様な気がした。
 もちろん、悪意はないんだろーけど。
「い…………ててて。お前なあ」
 アメリアの足音が立ち去ったのを知って、ガウリイが呆れた様に口を開いた。
 流石に、目とかがおかしいらしい。
 しっかし、それでも平気なあたりがガウリイらしいとゆーか……。
「さあ。きりきり白状してもらいましょーか?
 なんだって、アンタがあたしの部屋の。あたしのベッドに潜り込んでいるのかをっ!!」
 たかが黒こげになったくらいで、あたしのガウリイへの怒りが収まるわけがない!
 乙女のベッド。いいえ、あたしのベッドに潜り込むなんて真似……。
 ふ…………ふふふふふ。
 きりきり白状させてやる。
「お前なあ……。本当に覚えてないのか?」
 怒り心頭のあたしが次に聞いたのは、想いもよらぬ言葉だった。
「お前が連れ込んだのに」
「んなわけないじゃないのよっ!!」
 反射的に返事をしたものの、あたしの頭の中ではそこまで考えが至っていなかった。
 あたしが、連れ込んだ?
 思わず、顔が赤いのを通り越して熱が引いていくのを感じる。
「えー? 本当だぜ?」
 ガウリイの話によれば。
 昨夜、中庭にいたガウリイがあたしを見つけたものの。寝ぼけたあたしは、「姉ちゃんがどうした」とかなんとか言っていたらしい。それで、部屋まで送り届けたガウリイは。あたしがパジャマの裾をつかんで離さなかったので。そのまま、眠ってしまったのだと言う事らしいのだが……。
 信じられるか? フツー……。
 でも、ガウリイの言う事だし……。
「おかしいなー、とか思わなかったわけ?」
 なんとか努力して、あたしはガウリイをジト目でにらみつける。
 本当は、今すぐパニックを起こして暴れてやりたい所なんだけど……。
 それをしない理由は、ちょっと判らない。
 パニックを通り越してしまったのかも知れないし。
「思ったけど、前にもあったからなあ……」
「前にも?」
 記憶にある限り、そんな覚えはない。
 少なくとも、一つ同じベッドで。朝を迎えた事なんて一度もないぞ?
 あったら、今頃旅なんてしてないし。
「ああ。ほら……えーと、なんて言ったっけ?
 この間、サイラーグがまたなくなった頃。あの頃も、お前さん。
 何度か夜中に起き出してうろうろしてたんだぜ?」
 この間ってアンタ……いつの話よ。
 まあ、覚えてたってだけでもガウリイにしては上出来だけど。
「覚えてないなあ……」
 冥王フィブリゾを倒したあの頃。
 何があったっけ?
 何もなかった様な気もするけど、ほっとしたのと同時に不安を感じたのも確かだった。
だけど、それを表に出す事はなかった。出す事なんてないって思ったから。
 ガウリイがさらわれて、助け出す事が出来て。でも、帰ってきたけど人間のままだって保証がなくて。それでも、しばらくは気がつかなかった。そんな考えに。
 気がついても、それでもガウリイだからいいんだって思って。
 いつしか、忘れていた。
「リナ……。おい、リナ!」
「え? うえっ!?」
 いつしか、あたしは考えこんでいたらしい。
 目の前にガウリイが来ている事も気づいていなかった。
「な、なにっ!?」
 しまった。
 思わず声が上擦っている。
「俺、そろそろ着替えてくるけど。いいか?」
「いいかって言われても……」
 これが、ガウリイがトチ狂ったとか言うのならマシだけど。狂ったのがあたしの方だなんて言われたら。
 もちろん、ガウリイが惚けているとか嘘をついているって考えも。ないわけではないんだけど。ガウリイにそこまでの配慮と言うか、知能があるとも思えないし……。
「そうは言うけど、流石にそろそろ起きないとアメリア達も変に思うんじゃないか?」
「わ……判ったわよ」
 あたし、どーすればいいんだろう……。

 朝食を終えたあたし達は、町に出る事にした。
 アメリア推薦のショッピングだ。
 最初は、ゼルが一人で行動しようとしたのでアメリアもついていくと言った訳だが。今朝あんな事があったばかりでは、とてもではないがガウリイとまともに顔を合わせたくなくて。ほとんど無理矢理、二人と一緒に行動させている。
 もっとも、当のガウリイはのほほーんとして。今朝あった事なんて、本当に覚えているんだかいないんだか判らないけど。
「このお店です」
 アメリアがまず行きたがったのは、フィリアに頼まれたと言うお店だった。
「ここ?」
 洋服屋さん……だよね?
 何を頼んだんだろう? フィリア……。
「俺達はどうするんだ?」
 流石に嫌そうな顔をして、ゼルが言う。
 無理矢理つきあわされたから、相当機嫌が悪いらしい。
「ゼルガディスさんも来て下さい。フィリアさん、ゼルガディスさんにもお願いしてましたから」
「俺にも……か?」
 フィリアとゼル……か。
 旅をしていた時、ゼロス以外ではゼルと気があってるんだかあってないんだか。わけの判らない事やってたっけ。そう言えば。
「じゃあ、あたしはゼルガディスさんの見立てをしますので。リナさんの方は、ガウリイさんにお願いしますね!」
 え? あ、ちょっとアメリアっ!!
「おう、判った」
 ガウリイは安直に答えてるしー!!
 何の話よ、何の!?
「さあ……?」
 …………判ってたけどさ、ガウリイがこーゆー奴なんだってのは。
 知ってたけどさ、思い切り。判るけど……。
 涙が止められないのは、なぜ?
「すみません、お客様。用意の方が出来ましたので、こちらへ」
 うう……。
 なんだか、人生こんなのばっかりな気がするけど。
 気を取り直して、あたしは店員さんの言う様に奥へと進む事にした。
 ここでガウリイとくっちゃべっていた所で。何か解決策があるわけでもないし。
「へえ……。
 似合うじゃないか」
 くるんと回ってみる。
 膝のあたりがくすぐったい。
「そ、そうかな……」
 鏡の前のあたしは、制服の青いワンピースに白いエプロンと言う。いわゆるエプロンドレスから。
 黄色の、こっちは上下のツーピース。今度はスカートだけではなくキュロットもあるみたいだけど、とりあえず今は膝までのスカート。クリーム色のエプロンで、これまた前と変わらない様に見えなくもないんだけど。前のエプロンに比べるとバックのリボンが倍以上の大きさになっている。
 髪の黒いリボンはそのままだけど、これは元々バンダナだったのだから仕方がない。
「よくお似合いですよ、お客様」
 店員さんが出してくれたから、あたしは靴を履いて遠くから自分の姿を見てみようと思ったわけなんだけど……。
「あの、これ……履くんですか?」
 可愛らしい靴は靴なんだけど。
 小降りで、色は黒。つま先のあたりも丸みを帯びていて、同色のリボンが。金色のバックルに通されている。
 かかとから同じ素材の紐が出ていて、スナップで止めるようになっているわけなのだが。
「はい。フィリア様と言う方から、その様にご指定を伺っております」
 恨むぞ、フィリア……。
「履いてみればいいじゃないか?」
 これだから男は、簡単に言ってくれる。
 困ったことが一つある。
 別に、好み云念はどうでもいいのだ。どうせ制服の付属品なわけだし。
 15cmのピンヒールなのだ。これが。
「う…………ん」
 春の制服の時、ヒールは5cmだった。別に、これだけならばまだいい。
 あたし自身はそんなに気にしなかったけど、それから数日後に支給されたヒールの高さが10cmだった。
 実を言えば。
 それだけの高さで、あたしは結構ふらついていた。
 それでも、意を決して足を踏み入れたあたしは……。
「なんだ」
 大してふらつかなかった。
「思ったよりも、平気……かな?」
 二、三歩下がったあたしは。もう一度、鏡が見えるところで回ってみる。
 うん、大丈夫みたい。
「馬子にも衣装だなあ」

 しゅっ。
 ばきっ!

「ぐぉっ!」
 ふっ。あたしを怒らせたのが運のツキ!
 けど、流石にとどめのエルボー・ドロップは受け止められたけど。
 ちっ。
「お前なあ……。
 もう少し大人しくしろよ。わざわざそんな格好……っ!」
「ひゃぁぁぁっっ!!」

 どたばたがん!

 きゅう〜〜〜〜〜。
 いったあぁーい。
「なにすんのよ!」
 思わず反射的に言って、立ち上がろうとしたあたしは……。
 あれ?
「いきなり、お前がソバットかましたからだろ? それに……
 リナ、お前。足……」
 げっ。
 力が入らなくて……立てない。
「大丈夫か、お前っ」
「痛いっ!! 触んないでよっ!!」

 ばき。

 あたしは、足を触ってきたガウリイを殴りつける。
 着地に失敗した関係で、どうやら足をひねってしまったらしい。
 うーわー……。
 腫れるぞ、こりは。
 まあ、いいや。この程度の怪我なら、あたしが……。

 ひょい。

 魔法でとっとと直そうとか思っていたあたしは、更に驚く状況に陥った。
 もちろん、店員さんも驚いている。
「リナ、今。医者の所に連れていくからなっ!!」
 へ? は? あ?
 あたしが何かを言おうとする前に、あたしの体は。
 ガウリイに持ち上げられていた。


続く