◆−聖ルーン学院物語<まえがき−Lizard taiL(11/5-18:48)No.2427
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>1−Lizard taiL(11/5-18:56)No.2428
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>2−Lizard taiL(11/5-19:01)No.2429
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>3−Lizard taiL(11/5-19:05)No.2430
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>4−Lizard taiL(11/5-19:08)No.2431
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>5−Lizard taiL(11/5-19:12)No.2432
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>6−Lizard taiL(11/5-19:29)No.2433
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>7−Lizard taiL(11/5-19:35)No.2434
 ┣聖ルーン学院物語<暁の転校生>8−Lizard taiL(11/5-19:39)No.2435
 ┗聖ルーン学院物語<暁の転校生>9−Lizard taiL(11/5-19:43)No.2436
  ┣Re:聖ルーン学院物語<暁の転校生>9−玲亜(11/13-00:38)No.2464
  ┃┗Re:ありがとうございます。−Lizard taiL(11/15-23:32)No.2476
  ┗初めまして☆−毬藻(11/14-18:57)No.2470
   ┗Re:お返事いただきました。−Lizard taiL(11/15-23:24)No.2475


トップに戻る
2427聖ルーン学院物語<まえがきLizard taiL E-mail 11/5-18:48


初めまして、こんにちは。Lizard taiLです。
 このお話は『ぜろりな』です。ちょっぴり『がうりな』っぽいのが入る予定ですけど、それは私がリナ至上主義者で、彼女に惹かれない者はいないと思い込んでいる所為です。
 現代風の学園物ですので、勿論ゼロスは人間として登場します。「ゼロスは魔族」という認識は、取り合えず横に置いといて下さい。
 自分でも楽しんで書いたので、楽しんでもらえると幸いです。
 乱筆乱文ご容赦下さい。かしこ

トップに戻る
2428聖ルーン学院物語<暁の転校生>1Lizard taiL E-mail 11/5-18:56
記事番号2427へのコメント

聖ルーン学院物語<暁の転校生>1 

 すでに予鈴は鳴り終わっていた。朝のホームルームも始まり校門付近に生徒の影は見えない。喧騒の絶えない登校時ととはうって変わって、深閑とした静けさが残る。
 聖ルーン学院。
 小等部、中等部、高等部からなるこの学院は「忠恕」、思いやりを基本理念に、慈悲と慈愛、奉仕の精神、世界平和を掲げている。有名な進学校ではあるが、予鈴も鳴り終わったというのに教科書を広げる生徒は一人もいない。姿勢良く着席し、目を閉じて、黙祷を始めている。
 未来を担う生徒達のために設けられた、己自身をみつめるための穏やかな時間。
 一日の始まり。
 人通りのない通学路。スクールゾ−ンとペイントされた道路標識を故意に踏みしめて、リナは同行者を怒鳴り付けた。
「ちょっと、初日そうそう遅刻させて、何考えてんのよ!」
 栗毛の髪が陽光に煌めいて、隣に並んで走るガウリイの目を射る。眩しそうに、それでも視線をはずそうとはしない彼は、脇目も振らず一目散に駈けて行くリナのその横で、息も切らさず、てへへと笑う。
「いやぁ、リナらしいなぁって思って…いてっ」
 超高速ダッシュのぺ−スを保ったまま、振り向きざまに拳が飛んで来た。目測を誤らず、見事に命中し軽い音が響く。
「登校時間すら忘れるあんたはいいわよね!遅刻常習者!あたしは初日なのよ!編入生の不安と期待に満ちた乙女心、少しは思いやってよね!」
 雲ひとつない透きとおった秋空に吠え立てる。
 小等部五年生の終わりに転校してから、三年近く。少年少女達の時間は速い。少女の身体つきはふっくらとした丸みを帯び始め、娘へと成長してゆく。無邪気な笑顔と振る舞いはそのままに、だがそのままではいられない危うさを秘めている。ただ、一緒にいれば楽しかった淡い想いが、今では違う何かに変貌しつつあるのを、ガウリイは感じ取っていた。互いに、離れてしまう前のあの時には戻れないらしい。
 らしくもなくため息を付いて、ガウリイは一気にリナを追い越した。
 前だけを見詰めているリナの視界に滑り込んできた、膝まで届くかという薄金の髪。風になびくそれを知らず緋色の瞳は追う。柔らかな光を孕んだその一房にリナは、手を伸ばした。
「いってぇぇ〜」
「あんたは私の後!前を行くんじゃない」
 とたんのぼった非難の声に、平然と言い返す。
 視界に映る聖ルーンの校門。重々しく赤レンガ壁に囲まれた校舎。言い合いをしながら駆けて来た道程は短かったが、それでもリナの息を乱すには充分過ぎるほどだった。対してガウリイは微笑みすら浮かべている。
「到着ぅ〜」
 軽く汗をかいた額を抑えて、リナは校門をくぐった。一呼吸遅れてガウリイも続く。
 静まり返った校舎は端然としていて、どこか人を拒絶した雰囲気を醸し出していた。否応なくも疎外感を与えてくる。
「あーあ。結局遅刻しちゃった」
「いつもの事だったろう?」
「あんただけには言われたくないわね」
 肩を上下させ荒い呼吸を整えていたリナは、上背のあるガウリイを見上げて笑みを浮かべた。アイスブルー。春の海のような柔らかい色合いの瞳を緋が射貫く。
 変わっていて変わっていない、それでも幼かった頃にはもう戻れない。どちらともなく吹き出して、声を出し笑いあった。
 哄笑は教室で黙祷していた生徒達の耳にも届いたらしい。幾人かが好奇心に負けて、窓から階下を見下ろしている。彼らの目には笑い合いながら昇降口へと向かう二人の姿があった。



トップに戻る
2429聖ルーン学院物語<暁の転校生>2Lizard taiL E-mail 11/5-19:01
記事番号2427へのコメント

聖ルーン学院物語<暁の転校生>2

 事務室で事務手続きを済ませた後、リナは職員室に駆け込んだ。だが、すでに職員の姿はなく、広い部屋に整然と並べられた机だけが少女を迎える。
「う、そ」
 思わず驚きのポ−ズを極めてしまったが、誰もいない今、一人芝居にしかならない。取った行動に空しさを覚えながらも、すぐさま方向転換をする。本来ならば編入という変化への不安、期待、傷付き易い乙女心をアピールし、担任の先生とほのぼの語りながら歩むはずだった廊下。現実には、足音も荒々しく教室へと駆けて行く羽目になった。
 ようやく目的の教室に着き、中へ入ろうとドアノブに手を延ばした瞬間、触れてもいないそれはくるりと廻った。不審に思う間もなく目の前のドアが開く。それも勢いよくリナに向かって。
「うぎゃ!」
 普通ならば余裕で避ける事が出来ただろうが、全速力で走り続けた結果、機敏な判断力と反応速度も鈍ったようだ。問答無用で木製のドアと嬉しくない顔面Kissをしてしまう。顔を抑えて立ち竦む被害者に、加害者は抑揚のない声で話しかけた。
「遅かったな、編入生。私が担任のミルガズィアだ。早く教室へ入れ。新しいクラスメートを紹介する」
 最後のくだりは、他の生徒に向けて放ったものだった。
 栗毛の髪は風で乱れ、気合を込めてブローした跡は見る影も無い。荒い息を繰り返し、今の衝撃で赤く染まった顔を手で抑え俯いている。そんな乙女心の恥じらいをまったく理解していない担任の指し示す先は、教壇。
 深呼吸をひとつ。リナはまっすぐに顔を上げた。居並ぶ生徒達の視線を真っ向から受け止める。可愛い顔立ちも然る事ながら、何よりもその眼差しが印象的だった。
 炎のように煌めく、緋色の瞳。
 華奢な外見から受ける印象を裏切り、リナの双眸は強気な意思の輝きを宿していた。
 背筋をピンと伸ばし落ち着いた足取りで教壇に向かう。治まらない呼吸の乱れを押し込めるように、胸一杯に息を吸い込む。
 喧嘩は初っ端が肝心。
 いまや、教室にいるすべての生徒の注目を集めたリナは、教壇に立つと晴れやかに微笑んだ。
「本日、編入して来たリナ=インバースです。よろしく」
 途端、教室内がざわめいた。担任のミルガズィアが黒板に大きくリナ=インバースと書き出す頃には、あちこちでひそひそと話す声まで聞こえ出す始末。
 をい、さっそくそれかい。
 まだまだ未熟な笑顔の仮面が、ぴくっと引き攣る。
 生徒たちの内緒話が収まらないうちに、ミルガズィアはリナの席を指し示す。
「それから、廊下を走らないように。もっともその足音のお陰で君がここまで来ているのがわかったのだがな」
 ははは、と愉快そうに笑う担任に、心の中ではべろべろべーと舌を出しながらも、殊勝に頷いたリナは、与えられた自分の席へと向かう。途中、笑みをたたえた懐かしい友人に眼で挨拶を返した。
 着席と同時に出て行った担任に、眼を向けることなく、リナは鞄を机の上に置いた。周囲を気にせず黙々と教科書を取り出し、机の中に片付けてゆく。
 ふっと翳った視界に見上げてみると、そこには小等部の時の旧友が立っていた。
「お久しぶりです、リナさん。いきなりでびっくりしましたよ」
「おっひさし〜アメリア。元気だった?」
 およそ三年振りの再会。今回も急な引越し、編入になったが、あの時もそうだった。満足にお別れを言えなかった友人達。幾通かの手紙は届いたが、筆不精のリナはお世辞にも返事をちゃんと出したとは言い難い。
「このとおり、元気ですよ。ところで、きょうガウリイさんと遅刻しながら登校して来たでしょ」
 悪戯を見咎めた子供のようにアメリアは笑った。
「御覧の通りよ。しかもあいつ事務室がどこに在るかも知らないって言うし。お陰様で、鼻を打つ羽目になっちゃった」
 まだひりひりと痛む自慢の鼻を擦りながら、遅刻の原因(とリナは思い込んでいる)となった青年の事をぼやく。
「足音で、だんだんと近付いて来るのが判って、この教室の前で止まったかなっというときに、先生がドアを開けたんですよ」
 酷いですよね、と手を腰に当てて、アメリアは憤慨しているポーズを取る。
「痛かったわ〜、見てなさい、後で何十倍にして返してやる」
 ふふふ、とにんまり笑って復讐を誓うリナに、こういうトコは変わってないんだなぁと、ちょっと引きつつ妙な感想を抱いたアメリアだった。
「ねぇ、アメリア。何であたしの名前を聞いて教室中がざわざわしちゃうわけ?」
 リナの最もといえる質問に、戸惑ったような表情を浮かべた。
「あれ、リナさんは知らないんですか?ほら、リナさんのお姉さん、ルナ・インバースといえば、中等部で知らない人はいないというほどの、超伝説的な生徒会長だったんですよ」
 どっひ〜。
 まさかここでその名が出てくるとは思わなかったリナは、ショックで声にならず、口をパクパクと開閉した。こんな所で、姉のしでかした事のとばっちりを受ける羽目になるのかと思うと、今更ながら戻って来た事を後悔してしまいたくなる。 蒼白なリナの顔色に気付かず、アメリアは嬉しそうにさらに続けて話し出す。
「ほら、リナさんたちって三学期の初めに転校していきましたよね、だから、ルナさんが生徒会長だったのは実際三ヶ月くらいなんですけど、そのたった三ヶ月間に行ったことといえば、まず、制服の自由化でしょう、それからクラブ選択の自由化、それから・・・」
 しかし姉の性格をよく知るリナは判る。そう、何の事はない、すべてルナ本人がしたくなかった事柄を変更してしまっただけ・・・なのだ。それを、皆のためにやったように騙すその手腕こそが、真に恐るべき事だと思わずにはいられない。実際、『伝説の生徒会長』などという、実にいかがわしい称号が罷り通っているあたり・・・なかなかいや〜んな感じかもしれない。
「も、もう、いいわ、ありがとアメリア」
 これ以上聞きたくなくて、リナがアメリアの話を遮るのと同時に、予鈴が鳴り始めた。
「あ、1時間目は英語なんですケド。英語のフィブリゾ先生って、めちゃヤな先生なんですよ」
 こっそりと耳打ちして去って行ったアメリアの言葉は、授業が始まってすぐによぉくわかった。編入初日の栄えある最初の授業では、当てられた問題を答えられなかったばかりに、授業が終わるまで立たされていたリナであった。


トップに戻る
2430聖ルーン学院物語<暁の転校生>3Lizard taiL E-mail 11/5-19:05
記事番号2427へのコメント

聖ルーン学院物語<暁の転校生>3

 仄かに香るエタノール。乳白色の色彩に満ちた部屋には、よくよく注意してみると赤いモノが転々と散っていたりする。
 ここ聖ルーン学院中等部の保健室では、白衣を着た妙齢の女性が編入生の資料を一人の生徒に読ませていた。服装が自由化されたにもかかわらず、隙なくそつなく制服を着た生徒は、アルカイックスマイルを浮かべ、手にした資料をぱらぱらと捲りながら、要点をかいつまんで話す。
「『リナ・インバース』聖ルーン学院小等部を一度五年生の時に転校し、今回中等部二年に編入していますね」
「リナ・インバース・・・間違いない、あのルナ・インバースの妹」
 組み合わせた美しい手に力がこもり、パールホワイトにマニキュアされた爪が僅かに皮膚へと沈む。憎しみを描く表情は、しかし壮絶なほど美しく艶やかに彼女を彩る。
「えーっとですね、今回ルナ・インバースの方は編入してないようですね。転校先のところで全寮制の高校に入っているみたいです。おや・・・」
 そんな彼女を横目で見ながら読みあげていた生徒は、ふと資料を見て首を傾げる。
「どうした?何か変なところでもあるのか」
 一応、全生徒の保健面を預かる者として、間違ったデータは困る。必要とあらば取り直しをする必要があると思い、彼女は信頼する有能な前保健委員長に問い掛けた。が、彼はにっこり笑うと、
「彼女、驚異的に胸が小さいんですね〜」
 どげし!
 目にも止まらぬ速さで、飛んできたのは保健室を彩る解剖標本の頭部であった。
「つまらんとこに目をつけるな、愚か者!」
 避ける暇もなく、見事クリーンヒットした頭部に顔面を強打された生徒は、一言「・・・Kissされちゃいました(はぁと)」と、頬を染めた。単に打ち身で赤くなっただけかもしれない。
「・・・やめい、気色悪い」
 こめかみをぴくぴくさせながらも、冷静を装いつつ豪奢な金の髪をかきあげる。
「ともかくだ、私はルナ・インバースが憎いのだ、アイツの所為でっ・・・私の野望は妨げられたのだからな。ふふふ、せっかく編入してきた妹には気の毒だが、代わりに私の憂さ晴らしに付き合ってもらおうか」
 ギリシャ神話の復讐の女神もかくやと思わせるその美貌では、邪悪な表情もまた麗しい。楽しい玩具を手に入れた猫のような雰囲気を漂わせ、くすりと笑う。
「それって、単なる逆恨みなのでは・・・」
 とりあえず言ってみた突っ込みも完璧無視された。
「私は退屈なのだよ、とても」
 そう言って、彼女は椅子から立ち上がり、窓の傍らに佇む。窓の外にちらりと目を向けると、視線の先では大樹の下で件の女生徒が友人達と共に昼食を広げている。
「さて、まずはご招待といこうか。放課後に、自主的にここを訪れるよう手配をしなさい。手段は問わない、お前の好きなように」
 手にした資料をぱさりと閉じた生徒は、心持ち首を傾げる。やがて、その顔に笑みが浮かんだ。今までとは打って変わったその笑みは、人が悪いとしか言いようのない邪悪な雰囲気を醸し出す。が、すぐに元の掴み所のない笑顔に戻ると、こくりと頷く。
「仰せのままに、ゼラス様」

トップに戻る
2431聖ルーン学院物語<暁の転校生>4Lizard taiL E-mail 11/5-19:08
記事番号2427へのコメント

聖ルーン学院物語<暁の転校生>4

「あの・・・リナ=インバースさん、保健のメタリオム先生が放課後に保健室まで来てほしいと言ってたそうです」
 クラスに一人しかいない聖ルーン学院の正式な制服を着た、保健委員の生徒はそう言うと、意味ありげにリナをちろりと一瞥する。その視線になにやら不穏なものを感じて、アメリアは眉を顰めた。用件は伝えたとばかりに席に戻ろうとする生徒を、後ろからぐわしっと掴む。
「待って、メタリオム先生はリナさんに一体何の用事なんですか?」
 まさか、アメリアのほうから引き止められるとは思ってなかったのだろう。意外そうな顔をして振り返った保健委員は、僕も頼まれただけなんでちょっと・・・と口を濁す。
「・・・つまり貴方は別の人から、保健の先生があたしを呼んでるから行くように伝えてほしいと頼まれた訳で、本当に先生があたしを呼んでるかはわからない訳ね」
 腕を組んで、そう呟いたリナに、えっと小さく叫んでアメリアが目を瞬かせる。
「違います、ゼロス先輩から頼まれたんだから、本当に呼んでるはずです。ただ、何の用事なのかは・・・言ってくれなかったんですよ」
 心外だと言わんばかりに、保健委員は答える。アメリアは掴んでいた手を離し、保健委員に詫びを言った。黒い学生服が教室から出て行ったのを確認した後、ちょっとよろしいですかと、リナを自分の席に引っ張っていく。
「どえらい人にあたっちゃいましたね。リナさんは知らないでしょうけど、メタリオム先生と言ったら、この学院でも確実に五指に入る変な人ですよ」
 実も蓋も無いようなことを言って、アメリアは苦笑する。アメリアがきっぱり言い切るほどの変人・・・リナはげっそりする。なるべく・・・いや、一生お近付きになりたくない人のように思える。
「あ、でもリナさんとは気が合うかもしれません」
 ずごごっ
「待てい!言う事言って、それかい!」
 リナの剣幕に、何気なく言ったつもりだったアメリアは引きつった笑みを浮かべ、慌てて、次の話に移る。
「ええとっ、ゼロス先輩と言うのは、前年度の保健委員長です。ここだけの話ですね、前年度の生徒会を陰で操っていたっていう噂があります。とにかく、噂には事欠かない人で、ぢつはどこかのおうぢ様だ、とかいう話もあるくらいで・・・。謎を秘めた人なんです」
 ちょっぴりミーハー入った口調で、次から次へと『ゼロス先輩』の話題を喋り続けてゆく。膨大なエピソードは尽きることを知らないらしい。
いい加減うんざりしてきたリナは、話の切れ目を見計らって、続きを話そうとするアメリアを制止した。
「そんなに話題あんのに、何で謎の人なの?」
 尤もだと言えば尤もな事を、尋ねてみる。うーんと考え込んだアメリアは、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「そうですね。先輩を追いかけている子も大勢いますし、そんな感じのクラブもあります。結構オープンな方だと思います。けど…」
 何と言って良いのかわからないという風な顔をしてい俯いた。
「謎めいた、そんな感じのする方なんです。会ってみれば判りますよ」
 どうせ放課後保健室に行くんでしょう?と首を傾げて聞いてくる。
 いやぁぁぁぁぁ、行きたくなぁいぃぃぃ〜
 そんな、一癖も二癖も有る人達とはお近付きになりたくない、というリナの心の絶叫も知らず、アメリアはにっこりと笑う。
「どちらも、すっごく目の保養になりますよ。あ、予鈴ですね。次の社会、担任のミルガズィア先生なんですけど、時々冗談飛ばしますから、気をつけた方がいいですよ」
 五時間目を告げる予鈴の音が、恐慌状態のリナの心に鳴り響く。何故、冗談に気を付けなければいけないのか。気付いた時には時遅く、教室に放たれた静寂は、リナの心までも支配した。


トップに戻る
2432聖ルーン学院物語<暁の転校生>5Lizard taiL E-mail 11/5-19:12
記事番号2427へのコメント
聖ルーン学院物語<暁の転校生>5

 数々の困難をくぐり抜け、やっとの思いで放課後を向かえた。転校初日、繊細で余りにも無防備過ぎた乙女心は、破綻寸前にまで追い込まれている…。夕日に赤く染まり、物憂げに窓の外を眺める侘しい転校生をリナは演じていた。
 他人に与える印象は良い方が好いとは、姉の教えである。所詮人間は見かけに惑わされるのだと彼女は常々言っていた。
 まっ、損はしないわよね。
 何しろ今後クラスメートには、ノートを見せてもらったり、ノートを貸してもらったり、ノートをコピーさせてもらったりと、いろいろお世話になる予定がある。 宿題は自分でするが、ノートは他人のを、それがリナのポリシーだった。
 初めから馴れ馴れしい素振りは見せない。物事はゆっくりと丁寧に進めてゆく。一日目はこの程度で十分だった。
「お腹空いたんですか、リナさん」
 だが、昔を知っている旧友には通用しない。しかも、あながち的外れでないことを付いてくる。自らも頬を赤く染めながら、がうっと唸った。
「違うわよ。今日は終わったんだなぁと思って」
 昇降口も校門も、帰宅する生徒たちで溢れていた。皆私服を着ていて、制服姿の者は見当たらない。
「保健室は?」
「ア〜メ〜リ〜ア〜。せっかく人が忘れていたんだから思い出させないで」
 置き勉主義のリナの鞄は軽い。軽く振り回されたそれを、アメリアは自分の鞄でブロックした。恨みがましい視線には笑顔で応対する。
「あたしは、これ以上厄介な人達にかかわる気はないの。判った?」
「逃げ延びるのは至難の技と思いますけど」
 隙無く次の攻撃に構えながら、アメリアは呟く。
「本当は行かせるべきでしょうけど、私も気が進みませんしね。よかったら少し付き合いませんか?」
「いいけど、どこへ?」
「隣の校舎です」
 へっとした表情のリナの腕を取り、アメリアは三年の教室の方へと歩み出した。渡り廊下で結ばれた、何とはなく雰囲気の違うように感じる上級生の校舎。アメリアは、躊躇いもなく進んでゆく。
 すでに人が疎らなのに、それでもあちらこちらから視線が突き刺さるのにリナは気が付いた。悪意を伴ったそれはアメリアに集中している。気付かない事はないだろうに、気丈にもアメリアは笑顔を湛えていた。一人リナだけが憮然となる。
「ゼルガディスさん!」
 笑ってはいたものの無言だったアメリアが、いきなり懐かしい名前を呼んだ。向こうからゆっくり近付いて来る影に、リナも笑みを零す。
 一つ年上の素っ気無い友人。ゼルガディスの方もリナに気付いたのか、驚いたように目を見開いた。が、すぐに苦笑したような笑みに変わる。
「待たせたな、アメリア。それに、久しぶりだな、リナ。帰ってきたのか」
 さり気無くアメリアの肩に手を置きながら、中庭の方へ促してゆく。確かに、好奇と嫌悪の視線には嫌気が差していたので、二人とも大人しくそれに従った。
「なんなのよ。あれは」
 人目に付き難い場所へ移動するなり、避難する羽目になった訳を、リナは問い質した。
 廊下でアメリアに視線を送っていたのは、女生徒達だった。なかには、リナにまで刺すような視線を向けてくるものもいた。
 困ったように顔を見合わせるゼルガディスとアメリアを見て、額に手を当て、大仰に溜息を付く。
「まぁ、判るけどね。でもアメリア、平気なの?」
「私は、大丈夫です!」
 きっぱりとアメリアは断言する。
「他人の眼を気にするような、そんな付き合なら、私はここにはいません。そうでしょう?リナさん」
 一言一言を、自分自身に言い聞かせるように言い放つ。挑むような光を湛えた瞳が微かに潤んでいることを、リナは見て取った。
 辛そうな表情を浮かべたゼルガディスが、アメリアの癖っ毛の髪を撫でる。
「すまない、アメリア」
「ゼルガディスさんが、謝る事じゃないです」
 アメリアは、はにかんだ微笑を浮かべた。
 完璧に二人の世界に突入した友人達の傍で、リナはぽりぽりと頭を書く。蚊帳の外だと分かっていても、気恥ずかしい。話題を変えたくても、とても口が挿める状態ではないことは、一目瞭然だった。
 どうしたものかなぁ…。
 やぶ蛇だったと今頃になって気付く。微笑ましい二人を見て、リナは心から苦笑した。
「ほんと、判るわ…」
 その呟きが耳に届いたのか、ゼルガディスがリナのほうを振り向く。
「ガウリイには、会ったのか?」
「遅刻する羽目になったわよ!…ところでガイリイは?」
 リナはこの場の雰囲気を一掃するつもりで力一杯叫んだ後、姿の見当たらない旧友を思い出す。心なしか頬を染めたアメリアが、ようやくリナの方に顔を向けた。
「彼はスポーツ特待生ですから、クラブに行っているんじゃないんですか?」
「ああ、シルフィールが引っ張って連れてったぞ」
「なるほど。頭はくらげでも、体力と運動神経だけは超人級だもんね。だから…」
 この学院に通えているのか、というリナの相槌は、突然のアメリアの叫びに欠き消された。
「しまった!私も、生徒会室に行かないと。ゼルガディスさん、いつも通り図書室で良いですか?」
 頷くゼルガディスの隣で、鸚鵡返しにリナが尋ねる。
「せいとかいしつ?」
「あれっ?私言いませんでしたっけ、生徒会長してるって」
「うんにゃ」
 顔をぶんぶんと左右に振るリナに、アメリアは更なる爆弾発言をかます。
「リナさんのお姉さんに憧れて、立候補したんですよ」
 真実を知らないって恐ろしい。
 思わず、ざざざっと後ずさってしまったリナをアメリアはどうかしたんですかと、不思議そうに見やる。
 親友が姉を尊敬しているという事実は、かなりの衝撃だったらしい。彫像に成果てたリナの額を、ゼルガディスが気の進まなそうな表情で軽く小突く。
 一拍。
「はっ、どうしたのだろう。私」
 現実逃避から我に返ったリナは、ただ荒い息を繰り返す。一人、理由がわかんないと喚くアメリアをあやしながら、ゼルガディスはリナの逆鱗に触れそうにない話題を探した。
「これからどうするんだリナ。帰るのか?」
「保健室!」
 今だ立ち直りきっていないリナを、頬を膨らませたアメリアが再び奈落へと突き落とす。先程、爪弾きされた事への意趣返しらしい。
「ア〜メ〜リ〜ア〜。また余計なことを〜」
 アメリアの首根っこを持ち、前後に揺さぶるリナの横で、ゼルガディスは今の台詞に顔を顰める。尚も、どつきあいを続ける二人を宥めて『保健室』が出るにいたった経過を尋ねた。
 そして、昼休みに『保健室』の御使いが来たと言う激白は、少なからずゼルガディスを驚かせた。
 元来目付きの悪い彼は、僅かに眉を細めても、不機嫌に睨みつける印象をまわりに与えてしまう。級友を怯えさせないためにも、ポ−カーフェイスを保つ努力をしているが、ゼロスの名前が出た瞬間、その努力を放棄した。
 低く、呻くようにリナに忠告する。
「ゼロスか…。関わらない方が身のためだぞ」
「何故です?」
 きょとんとした表情でアメリアが聞いてくる。
「何故って…それは…。いや、聞かない方がいい。噂をすれば奴は現れ・・・うっ」
 おそらく人が持てる表情の中で、一番嫌なものを見たときに使うであろう表情を浮かべたゼルガディスが、そこにいた。

トップに戻る
2433聖ルーン学院物語<暁の転校生>6Lizard taiL E-mail 11/5-19:29
記事番号2427へのコメント
聖ルーン学院物語<暁の転校生>6

 突然言葉に詰まったゼルガディスの視線の先を追って、アメリアが振り返る。リナは・・・といえば、非常にヤな視線が背中に刺さっているような錯覚をひしひしと覚え、振り返りたくはなかったが、かといって、今ここでダッシュで逃げるのも余りにもかっこ悪く、何よりプライドが許さない。
 仕方なく、というかしぶしぶリナが振り返ると、まるでそれを待っていたとばかりに、
「おや、ゼルガディスさんとアメリアさんじゃないですか。これはちょっとデバガメでしたね」
 いけしゃあしゃと言いながら近づいてくるのは、噂をすればやってくるといわれる悪魔、もといゼロスだった。形骸化しつつある、聖ルーン学院の制服をきっちりと着込み、それがまたよく似合っている。
 アメリアが言っていたように、確かに何と言うか、独特の気配を持つ人だと言える。にこやかな笑みを浮かべて、一見人畜無害そうだが、姉によって培われた感覚が、リナに警告を発している。なるほど、謎めいた人である。
「そう思ってるなら、すぐにでもUターンして構わないんだが」
 ぼそぼそと呟いたゼルガディスは、しかし当のゼロスにそのつもりが欠片もない事に嘆息すると、視線を得体の知れないゼロスの笑顔から、引きつった笑みを浮かべているリナへと移す。
「ところで、こちらのかたは?」
 どなたでしょうと、ゼルガディスの視線につられてリナの方を見たゼロスが、満開の笑顔を浮かべて尋ねてくる。言おうとしたゼルガディスを視線で止めると、リナは腕を組んで、キッとゼロスを睨みつけた。先手必勝である。
「あたしの名前を知りたいのなら、そっちから名乗るのが道理でしょう、一年遅く生まれたからって畏まるつもり、こっちにはないんだからね」
 一瞬、驚いたように目を見開いたゼロスの深遠の瞳に射貫かれ、リナはどきりとする。何となく彼の違和感の正体がつかめたような気がする。顔はにこやかな笑みを浮かべているにもかかわらず、目が笑ってないのだ。
「これはこれは、申し訳ないことを、僕はゼロスと申します。・・・そんなに睨まないで下さいよ」
 先ほどの瞳の光が嘘のように、情けない声で拗ねるゼロスに、リナはジト目を送って、
「リナ=インバースよ。あたしの事なんか、とっくに知ってると思ったんだけど、ね。前保健委員長のゼロス、先輩。あんたが伝言を頼んだんでしょ」
 リナを見るゼロスの笑みは崩れてはいない、ただ微妙に変化しただけだ。ゼルガディスがぴくりと眉を上げる。いきなりの展開におろおろしていたアメリアは、喧嘩腰のリナの方に気を取られその変化には気付いていない。
「アメリア、そろそろ時間だろう?生徒会長が遅れては、他に示しがつかないぞ」
 アメリアの顔の正面に顔を寄せて、言い換えればゼロスの視線を遮るようにして、ゼルガディスが言った。はっと、我に返ったように、アメリアは腕時計を見る。
「そうでした、ごめんなさい、リナさん。私もう行かなくちゃ」
 心配そうな顔をして言うアメリアに、リナはウインクを返す。
「行ってらっしゃいな、あたしは大丈夫」
 急いで走っていくアメリアを見送って、リナは再びゼロスの方に向き直った。
「さて、例の件についてのお話を聞かせてもらいましょうか」
 緋色の瞳に強い光を浮かべて、リナは問い質す。ゼロスはあいかわらず掴み所のない笑顔を浮かべている。
「例の件・・・と言われましても。僕も呼んでこいと言われただけですし。用事なんて、行ってみれば判る事でしょう?」
 どうしてそんなにこだわるんです?と首を傾げるゼロスに、胡散臭そうな視線を投げかけつつ、リナは厳かに告げた。
「女の第六感!・・・て言うのは、まぁ冗談として、姉ちゃんから忠告を受けたのよ。この学院で『変』と言われてる人には近づくなってね」
 言われた時には、なんじゃそりゃと思ったが、実際一日目にしてぶち当たるとは思わなかった。
 なんとも言えず絶句しているゼルガディスと、ややあっけに取られた表情のゼロスを前にして、リナはきっぱりと言い放つ。
「あのアメリアが『変』って言い切る人なんて、絶対にヤダ!」
 いきなり笑い出したのはゼロス。心底おかしそうに、笑い始める。
「な、何がおかしいのよ」
「いえ、さすがは『伝説の生徒会長』だと思いましてね。しかし、リナさんがそう云われるのなら、仕方がありません。ねぇ、ゼルガディスさん」
 にっこり笑ったままの顔で、いきなり話をゼルガディスに振る。
「こうなったら、アメリアさんに前言を撤回してくれるように、頼んだ方がいいでしょうか?それとも・・・」
 ゼルガディスの顔色がサッと変わった。とぼけた笑顔のゼロスを睨みつける。
「貴様・・・」
 ゼルガディスの豹変に、リナは驚きを隠せない。もしかして・・・何か弱みでも握られているのだろうか、この男に。
 チッと舌打ちをしたゼルガディスは、深く溜息を吐いた。
「リナ、・・・すまん。アメリアのためにも、ゼロスの言うとおりにしてくれないか。必ず償いはするから」
「へっ、どういうこと?」
 無理矢理絞り出した、唸るような声音。思わず息を飲んだリナが振り返ったゼルガディスは、嫌悪も露にゼロスを睨みつけていた。
 鋭過ぎる眼光の先で、相変わらず飄々とした態度のゼロス。リナの怪訝そうな表情は、驚愕へ、すぐに怒りへと変わる。
「ちょっと、脅迫する気なの。アメリアを盾に取るなんて卑怯よ!」
「僕は、何もしてませんよ」
 制服に身を包んだ『保健室』の手先は、実に楽しげに瞳を輝かせている。
「それとも、リナさんは僕に何かして欲しいのですか?」
「…っ!」
 からかいを含んだ笑みに、リナは色をなして絶句する。緋色の瞳が、その心情を語るように、炎の如く揺らめいた。
「それを脅迫って世間一般に言うのよ。この悪党っ!」
 今にも噛み付きそうな剣幕のリナに、少しも動じずゼロスは、手を差し出した。
「ゼルガディスさんは図書室で待ち合わせですよね。では僕がリナさんをご案内しましょう」
 場所を知らないと突っぱねそうなリナの機先を塞ぐ。
 差し出された手のひらを、唇を噛み締めたリナが叩き落とした。答えはすでに決まってはいるが、素直には頷けない。憤りに身を震わせている。
「あたし、行きたくないっ」
「行かないのですか?」
 未練がましいリナに、ゼロスは淡く微笑んだ。首を傾げて覗き込む。
 リナは、ゼルガディスの憤激を背に感じながらも、振り向きはしなかった。顔を見れなかった。もともと巻き込んだ張本人はリナの方で、彼は巻き添えを食ったほう。これ以上困らせる気はない。
 逃げ延びるのは至難の業。
 この『ゼロス』を知らないアメリアでさえ言わしめた、その意味が今頃になってようやく判る。
「…行くわ」
 言得たり。誰の眼からもお人好しにしか見えない笑みを浮かべて、ゼロスはリナを促した。
 それに逆らい、リナは意を決してゼルガディスを見やる。悔しさに顔を歪めた友人に大丈夫だよっと、極上の笑みを浮かべて囁いた。顔に似合わず心優しい彼が罪悪感に駆られないように。
 ゼロスがリナを連れ去ってゆく、その姿が見えなくなるまで、ゼルガディスはそこに立っていた。


トップに戻る
2434聖ルーン学院物語<暁の転校生>7Lizard taiL E-mail 11/5-19:35
記事番号2427へのコメント
聖ルーン学院物語<暁の転校生>7

 コツコツと、ゼロスが扉をノックする。逃げるなら今が最後のチャンスだったが、リナはもう逃げようとは思わなかった。こうなったら、その『変』なメタリオム先生とやらを拝んでやろうではないか。
「失礼します。リナ=インバースをお連れしました」
 開かれたドアの向こうには、リナの知る前校の保健室よりも、数段優美な空間が広がっていた。そしてその中央に佇んでいるのは。
 豪奢な金の髪はゆるいウェーブを描きつつ背中へと流れている。煌めく瞳は不思議な色彩、金と緑の斑。さながら有翼獅子のような印象を与えた。無造作に白衣を羽織った姿は、他人を冷然と拒絶し、無言の威圧感を加えている。リナの知る、暖かい包容力を持つ保健室の先生とは、正反対でさえあった。
「ようこそ、聖ルーン学院中等部保健室へ。私が当保健室を預かる、ゼラス=メタリオムだ」
 ゼラス・・・ゼラス=メタリオム。ふとリナは何かを思い出しかけたが、次に続いた言葉に唖然とする。
「跪いて靴をお舐め」
「はい?」
 途方もない物言いに、思わず我が耳を疑ってしまった。これは『変』というより『非常識』の部類に含まれる危ない人なのでは、と『保健室』へ来たことを今更ながらに後悔する。
 内心慄然としているリナに対し、ゼラスは、思惟すらも奪い尽くしてしまう妖艶な笑みを湛えた。
「聞こえなかったのか、リナ=インバース」
 冷やかな声には他人を威圧し、己に意思に従わせずにはおかない強烈な力があった。だが、余りの不条理さにリナはそれを撥ねつける。
「いっ、いきなりっ。初対面の人に向かって言うせりふかぁぁっ。それに、こいつはなんなのよっ」
 びしっ、と後ろに立つ人物を指差す。にこにこ笑顔が、驚きの表情に変わった。わざとらしいといえばわざとらしいが、とても演技しているようには見えない、役者である。
「ゼロス=メタリオム、前保健委員長だ」
「…メタリオム…?」
「悲しいかな、従弟でもある」
 あの姉と、姉妹ですかと言われた衝撃にも似た戦慄がリナの身体を走る。同類かとは思っていたが、まさか血が繋がっていようとは…!
「てへっ(はあと)」
「照れるなっ!まあ、不運な運命の巡り合わせというものは、何処にでも転がっているものだ」
 一人納得したように頷くゼラスと、照れ笑いを続けるゼロス。
「転がっていても、あたしの方には来ないで欲しいわね。…そうじゃなくてっ、脅迫までしてあたしをここまで呼び寄せたのは何なのっ。あんたのピンヒールを舐めさせるためなんて言ったら…」
 握った拳をぶるぶると震わせながら、リナは宣言を下す。
「暴れてやる」
 もしこの台詞をガウリイ、セルガディスとアメリアが聞いたならば、彼らは蒼白になってリナを宥めただろう。だがゼラスは、相手の反駁に眉一つ動かさず聞き入った後、素っ気無く言った。
「脅迫したのか?ゼロス」
「いいえ。しかし人の意見は千差万別。被害妄想の強い方は、こちらの善意を別の意味に取るかもしれませんね」
 困りものです、そう答えてゼロスは薄く笑う。一瞬の内に怒髪天をついたリナは、凄まじい形相でその笑顔に掴みかかった。
「善意っ?あれがっ?」
「そうです」
 自分の襟元を握り締めるリナの手をほどきながら、しれっと言う。
「もし仮に、あれが脅迫だったとしても、貴方にそれが実証出来ますか?」
 子供をあやすような、優しく物静かな口調。しかし逃げ道を閉ざしてゆく、追い込んでゆく響きが篭っている。怒りに顔面を紅潮させたリナは、ゼロスの言葉にぐっと詰まった。
 端正な彼の口元に浮かんでいる微笑。それは少しも、見る人の心をなごませるものではない。
「実証出来ない以上、貴方は自主的にこの保健室を訪れたことになります。そこで何が起ころうとも僕の関知したことではありません」
「卑怯者っ!」
「まったくだ」
 間髪入れず飛んで来た痛烈な非難を、ゼロスは物柔らかに返した。
「ありがとうごさいます(はあと)」
「誰が誉めていると言った。…リナ=インバース、ルナ=インバースと言う名を聞いたことはないか?」
 話を振ってきたゼラスの、唐突な話題の飛躍に面食らう。しかもそれを理解する前に、含まれていた言葉に対して反応してしまった。
「げっ!」
 過去幾度となくその被害に合ってきたリナは、その名前が意味するものすべてを理解していた。
 恨み骨髄ルナ=インバース、と復讐に燃える人達にも会った事がある。大抵良くて万返しという仕打ちに合って本願果たせず脱落していったが。
 勿論妹のリナに矛先を向けた輩もいたが、彼らがどうなったかは、今だ己の胸一つにしまっていた。
 ほら、あたしってぇ、か弱い女の子だしぃ(はあと)。
 半ば強引に自分を正当化した後、リナはふと、先程思い出しかけた何かに思い当たった。姉への確執と、ゼラスという名が呼び起こす輪郭は、忘れてはいけなかった姉との約束を浮かび上がらせる。
 胸中の乙女心の動揺をひた隠しにして、威厳たっぷりにゼラス、もとい姉の被害者を挑戦的に睨みつけた。
「知っているわよ。それが何か?」
「彼女は余計なことをしてくれてね。御礼を言いたいのだが、伝言を頼まれてくれないか」
 相手の問いに対しリナは薄い唇の端を曲げ、会心の笑みを浮かべて答えた。
「伝言?自分で言えば?電話番号教えてあげるわよ」
 ゼラスは、軽く肩を竦めた。互いに一歩も引かず冷たい応酬を交わし合う。
「残念だが、電話では話せない用件なのだよ」
「じゃあ、会いに行けばいい。住所も教えてあげるわ。なーんてリナちゃん太っ腹っ!」
「なるほど。お腹が出ているから、胸がないのですね」
 泣く子も黙るような緊迫した雰囲気に水を差したのは、楽しそうに笑いを漏らすゼロスだった。
 瞬間走った背景の雷鳴。のんびりと驚くゼロスに対し、リナは手近にあった『生物学〜人体の不思議〜』を掴み取るなり投げつけた。十分過ぎる凶器をあっさりと受け止める相手に、すぐさま第二波を放つ。
 膝上までのアコーディオンスカートがめくれ、白い太腿が露になる。はっとそちらに眼を奪われてしまったゼロスは、対応を誤った。
 女性の力とは思えない程の蹴りが、彼を襲う。バランスを崩したゼロスの胸元をリナは掴み、一気に押し倒した。
 横倒しになると同時にリナがゼロスの上に乗っかって来る。そのまま柔道の絞めと同じ要領で首を締め上げた。
「前言を撤回しなさいぃぃっ」
「や、です」
「まぢで、気絶させるわよっ。その後でゆっくりペイントしてやるっ」
「女装なら任せて下さい。僕、綺麗ですよ〜」
「だぁれが女装なんて言ったかぁぁっ。ペイントよ、ペイントっ!油性ペンで顔面真っ黒に書き込んでやるっ!」
「それは困りましたね」
「笑いながら言うなぁぁっ!」
「撤回も何も、図星でしょう?」
「…っ!」
「くすっ、みたまんま」
「…このっ。痴漢、変態、むっつり助平。何処に眼ぇつけてんのよっ、冷血漢!」
「それこそ、男子本懐というものです」
「威張りながら言うことかぁぁっ!」
「ゼロスっ!口出しをするな!リナ=インバースもそんな奴放って置いて、こちらの話を聞け!」
 不毛すぎる会話を遮ったのは、額に青筋を浮かべるゼラスだった。リナはゼロスに乗っかった体勢のまま、すっかり忘れていた元凶の女性を振り向く。
 ゼラスは、じゃれあう二人を見下ろして、震える声を押し殺し言葉を紡いでゆく。
「会いに行くほど私も酔狂ではない、と言う訳だ。リナ=インバース。靴を舐めなさい」
 結局堂々巡りになった話題に、リナは猛然と反発する。
「何であんたに伝言頼まれると、そのピンヒ−ルを舐めなきゃいけないのよっ!あたしだって他人の靴を舐めるほど酔狂じゃないわ。第一、姉ちゃんになんて伝えるのよ、そんなことっ!」
「彼女に靴を舐めてもらえばいい」
 即座に帰ってきた解決案に、言葉を失う。自失呆然となったリナは、我知らず呟いていた。
「なんつーおそろしいことをっ」
 唖然とするリナの下で、何かに気付いたようにゼロスが薄く笑う。ゼラスに眼で合図した後ドアの方を顎で指した。
 間を置かず、軽いノックの音が聞こえる。かちゃりと音を立ててドアを開き現れたのは、長い黒髪の女子生徒だった。
 反応が遅れたリナは、慌ててドアの方を向く。そうして驚愕に身を強張らせた乱入者の姿を認めた。
 女子生徒は、いきなり目を丸くして室内を見回すと、顔をゆでだこになるほど真っ赤にする。
「こんにちは、シルフィールさん♪」
 茶々を含んだゼロスの言葉に、シルフィールは身を竦ませた。リナも今の名前に聞き覚えがあり、必死で記憶を洗う。
 シルフィールが引っ張って連れてったぞ。
 すぐさま、ゼルガディスの言葉が脳裏に浮かんだ。
「確か、ガウリイの…」
「すっ、すいませんっ。失礼しました」
「へっ」
 声をかけようとした矢先、シルフィールは滑るようにドアの向こうに姿を消した。いささか乱暴に閉められた音が、リナの耳に届く。壁一枚を隔てて伝わってくる廊下のざわめきに、理由がわからず呆然としていた。
「リナさん。そろそろ退いてくれないでしょうか?」
 リナはおもむろに声をかけてきたゼロスを見下ろした。とても、とてもとても嬉しそうに笑うゼロスは片目でウィンクする。
「あ…あ…っ!」
 押し倒された男子生徒、その上に乗っかり掴みかかっている女子生徒、困惑したように額を抑えた、先生。逃げるように出て行った彼女は何を思ったか…。
「ごっ、誤解よぉぉっ!」
 叫んだのとゼロスから離れたのはほぼ同時だった。頭を抱えてしゃがみ込むリナを横目で見ながら、ゼロスはこれ見よがしにゆっくりと立ち上がる。パンパンと手のひらで埃を払った。
「災難だったな、ゼロス」
 込み上げるものを噛み殺しながら、ゼラスは従弟をねぎる。
「役得ですよ」
 にっこりと微笑んだその顔に、邪気は欠片とも見えなかった。

トップに戻る
2435聖ルーン学院物語<暁の転校生>8Lizard taiL E-mail 11/5-19:39
記事番号2427へのコメント

聖ルーン学院物語<暁の転校生>8

 時間は少し前に遡る。
 リナとゼロスが完全に視界から消えたのを確認すると、ゼルガディスはわざわざ遠回りをして剣道部の部室に向かう。万が一にも見咎められると、ゼロスは予防線を張る。それを避けたため予想以上に時間がかかってしまった。
 気合の篭った掛け声。五十人もの生徒が在籍する剣道部。勝手知ったる何たらとはいうが、私服姿は異様に目立つ。
 ガウリイを探すゼルガディスに案の定シルフィーヌが声をかけてきた。
「ガウリイは何処にいる!」
 怒鳴りつけるような物言いにシルフィールはおろおろと試合中の一組を指す。振り被り確認すると、確かにそこにガウリイがいた。頭二つ分周りより背の高いガウリイは、ゼルガディスが駆け寄ってくる前に相手の面を竹刀で叩く。
 勝負は付いたが、試合は終わってはいない。礼をしようと中央に近寄ったところで、ガウリイはゼルガディスに捕まった。
「ガウリイ、面を取れ!」
 異常とも取れる親友の剣幕に、ガウリイは怪訝そうに眉を顰める。対戦者もシルフィールも、遠巻きに眺めているだけだった。
 捲し立てるゼルガディスを宥めるためにも、仕方なく防具を脱いだ。
「何があったんだ?」
 いつもマイペースのガウリイは、のほほんとしている。頼りがいはあるが、こういうときは逆に腹立たしく感じるのは否めない。
「リナが、ゼロスに連れていかれた」
「なにっ!」
 ゼロスという名前がもたらす衝撃は、ガウリイの表情を一変させた。そのままゼルガディスを押し退けて走り出そうとする。
「落ち着けっ!闇雲に走っても辿り着かんぞっ!」
 鋭い制止に、普段とはまったく違う、違い過ぎる雰囲気を纏った男はたたらを踏んだ。リナが春の海と評した瞳は、今は凍てついた氷海のような光を放っている。
「いいか、落ち着け。リナを救い出す。協力するか?」
 元来目付きの鋭いゼルガディスに負けず劣らずの剣呑さをその眼に宿すガウリイは、さも当然だと言うように頷く。
「…ぶっっ!」
 鈍い音と共に、ガウリイは宙を舞う。
 一発KO。
 ゼルガディスは情け容赦無く、何かをいいかけたガウリイの頬を殴り飛ばした。そのまま床の上に弾け飛ぶ親友に向かって、すまんと一言詫びる。
 余りの展開の早さに周囲はただ呆然と見守る。ただシルフィールだけが悲鳴をあげた。
「何をするんですっ!ゼルガディスさん」
 驚愕に身を震わせたシルフィールは、ヒステリックに喚く。もっともな非難に対し、ゼルガディスは、不機嫌さも隠さずに怒鳴りつけた。
「うるさいっ。早く保健室へ連れて行け!」
「勿論です。貴方に言われるまでも無い。私が聞きたいのは、何故殴ったか、です」
「苦情は後で聞く。そいつの行為を無駄にしたくなかったら、早く保健室へ連れて行ってやれ」
 ゼルガディスはそう言い捨てると、そのままくるりと方向転換し、様々な視線が入り混じる中、部室を出て行った。
「タンカを持ってきて下さい。ガウリイ様を運びます」
 シルフィールは、ゼルガディスの背中をしばし睨みつけていたが、気絶したガウリイを手当てするため、呆けていた部活の仲間にきびきびと指示を出した。
 シルフィールを先頭に、七人でガウリイを保健室へと運び出す。
「先に受付してきます。貴方達は、ゆっくり運んできて下さい」
 気だけが急く自分を叱咤しながら、早足で保健室へと向かう。早くガウリイをちゃんとしたベットに寝かせてやりたかった。殴られて赤くなった頬も冷やしてあげたい。いきなりに乱暴を振るったゼルガディスに対して、ふつふつと憎しみが増してゆく。
 思考だけが空回りして、保健室の前に着いた時も条件反射でノックをしていた。返事は返ってこなかったが、頓着せずドアを開ける。
 開いた視界に飛び込んできたのは寝転んだゼロスとその上に馬乗りになっている栗色の髪の女子生徒だった。
 何をしているのか…と、たった一つの仮定に辿り着いたとき、シルフィールは、自分の頬に赤みが指すのがわかった。
「こんにちは、シルフィールさん♪」
 こんなときでも、いつもどうり変わらないゼロスに、なんと答えて良いのかわからず、呆然と立ち竦む。
 その視線の先で、女子生徒が動く。スローモーションのように見えてしまう中に赤い煌めきが走った。
「確か、ガウリイの…」
 限界だった。シルフィールはその声に弾かれたようにその場を逃げ出す。
「すっ、すいませんっ。失礼しました」
 やや乱暴にドアを閉め、肩で息をついた。心音がやけに大きく聞こえるのは、気のせいだとシルフィールは自分に言い聞かせ、落ち着こうと努力する。
 そこへガウリイを運んできた六人の生徒が到着した。
 中に入らないんですかと言う問いに、曖昧に受け答えを返す。
 困惑するシルフィールに救いの手を差し伸べたのは、他でもない保健の先生のゼラス=メタリオムだった。
「急患だろう、入っていいぞ」
 気まずさが先にたったが、背に腹は返られない。ガウリイを治療してもらうためにも、シルフィールは勇気を込めて一歩を踏み出した。


トップに戻る
2436聖ルーン学院物語<暁の転校生>9Lizard taiL E-mail 11/5-19:43
記事番号2427へのコメント

聖ルーン学院物語<暁の転校生>9

 リナは入室してきたシルフィーヌと、居心地の悪い二度目の対面を果たした。目を合わせないためにも、きょろきょろとあたりを見回す。 
「ガウリイっ!」
 突然見咎めた金髪の旧友にリナは叫んでしまった。シルフィールが、ちらりと横目で視線を送る。
「気絶しているだけです。リナさん、行きましょう」
 この場は離れた方が身のためです、とのゼロスの忠告に戸惑うリナは、他の部員に阻まれて、ガウリイの傍には寄ることも出来ない。それでもこのままにしては置けないと、瞳でゼロスに語る。
「犯人はわかっています」
 はっとなった緋色の瞳に強い意思が現れる。
 促すゼロスに、こくんと頷いた。そして後ろ向きのまま元凶のゼラスに話しかける。
「ゼラス=メタリオム先生。姉ちゃんからの伝言があるの、聞いてくれないかしら」
「何だ?」
 ぶっきらぼうに答えながらも、ゼラスは手当てする手を休めなかった。金属同士が触れ合う音を聞きながら、リナは真剣そのもので言う。
「制服を自由化して、ごめんなさい。貴方の楽しみを奪ってしまったことに、謝罪します…」
 少し低めの声音。淡々と朗読するような感じで、心なしか沈んだ雰囲気を醸し出す。あくまでも『ルナ』の伝言なのだから、決して『リナ』が、謝ってはいけない。
「…、そうか…」
 すべては、姉の指示通り。リナは一呼吸を置く。後は間に気をつけて、タイミングを見計らいながら…。
「なーんちゃって、頭下げるのはタダだもんね(はあと)」
「おのれっ、ルナ=インバースっ!」
 天地を揺るがす喚きを背に、脱兎の如くリナは逃げ出した。後ろから遅れじと何故かゼロスも駆けて来る。
「先生っ。急患はっ?」
「んなもん、放っときゃ治る。こらっ、ゼロスっ。お前まで何処へ行くっ!」」
 生徒達の悲鳴が、聞こえなくなるまで走り去った後、リナはようやく一息をついた。ぴったりとつけてきたゼロスを振り向き、好戦的に見やる。
「何であんたまで逃げてくるのよ」
 きょとんと小首を傾げて、ゼロスはゆったりとした笑みを浮かべた。
「何故わかったのです。ゼラス様が制服に拘っていらしたことが…」
 最初はその笑みの意味がわからなかった。でもたった数十分の付き合いで、油断ならないものだと思い知った。警戒しながらもリナはゼロスの十八番にも似た薄い笑みを口元に置く。
「姉ちゃんからゼラスっていう人宛に、伝言を受け取っていたから。まさか、保健の先生とは思ってなかったし、私もすっかり忘れていたけどね」
 これを姉が聞いたら、お仕置きのフルコースが待っているだろう事を、軽い口調で語る。肌に纏わり付く重い空気をひしひしと感じながら。
「それと、あんたが制服を着てたからよ。姉ちゃんが制服改正して以来、生徒会長のアメリアだって私服を着ていた。その中で、制服は目立つわ。つまりは保健委員だけが、ね」
「さすがですね、リナさん」
 ふっと思いついたように、リナは疑問を口にする。
「あんたがその気になれば、また制服を施行出来るんじゃないの?その外見の面の厚さと、口先三寸で」
 軽く目を見開いて、驚いた表情をゼロスは苦も無く造り出した。笑顔のポ−カーフェイス、すでにそれは彼の性質となっている。
「買い被ってくれるんですか?」
「人を見る目には自信があるの、あたし」
 意図せず、ゼロスの紫の目は虚空へと移ろう。それは過去か未来か、少なくとも今を見てないことをリナは見取った。光が瞼によって閉ざされる。見開いた時にはいつもの飄々とした彼に戻っていた。
「難しいでしょうけど、無理ではないですね。確かに。でも彼女はそれを求めていない」
「求めているじゃない。保健委員になった人たちは良い迷惑だわ」
「ゼラス様は、自ら追い求める方です。他人に叶えてもらう夢など、持ち合わせてはいません」
 きっぱりと断定する。それはゼラスの意思というよりも、ゼロスの彼女への願いのように取れた。
「へぇぇ、結構本気なんだ?」
 何かを含んだようなリナの物言いに、ゼロス微笑み見返すことで答えた。
「ガウリイさんを殴ったのはゼルガディスさんですよ」
 途端、暁の瞳が燃え上がる。煌めく視線に炙られると何故か心地良い。ゼロスはなんともなしに灯火に焼け落ちた羽虫を想った。
「ゼルが…、何で?」
 ゼロスの暗い光と相対する鮮やかな赤。それは陰りを知らない。
「ゼラス様と、僕と、リナさんを三人だけにしときたくなかったのでしょう。だから…」
「ガウリイを殴って、連れ込んだわけか」
 納得したようにリナがゼロスの言葉を引き継ぐ。
「甲斐あって、ゼラス様も貴方を解放しましたし…。行って下さい。探していると思いますよ、ゼルガディスさん。」
 ようやくゼロスは、裏表の無い微笑を見せる。はじめて見るその笑顔に、リナも打算無く笑い返した。
「そうね、今日のところは見逃してあげるわ」
「そう。今日は…、ね」
 穏やかな笑顔に物騒な響きを込めるゼロスを、リナは少しも動じず見詰めた。
「今度会ったら、百八十度反転してやる」
「逃げるんですか?」
「逃げる?まさかっ!健全な学校生活のためよっ!」
 きっぱりと言いきった少女は、勢い良く走り出す。
 その後姿を、ゼロスは眩しげに眺めていた。
 力強く生気の溢れた、その輝きに目が眩む。理路整然と物事を分析、情報として処理してしまう性癖を持つゼロスは、激しく揺らめく素の感情を疎ましく感じてしまう。それはリナに対しても、例外ではなかった。
 強烈な印象を自分に与えた少女も、所詮は手のひらで踊る駒でしかない。自分とはまったく違う生き方を体現しているからこそ、操り易く、楽しませてくれる。『ゼロス』を知ったところで、抗う術は持たない。持たせない。
 だが、臆しもせず、清雅な微笑を見せた。その煌めきは…。
 胸が痛い。
 不意に、己のなかに衝動が沸き起こり、軽く眉を顰める。むしょうにいらただしく、しかも、自分でその理由がわからない。
 笑顔のポーカーフェイスなど、子供騙しだ。
 同じ策士家のゼラスは、冷然と腕組みをして言ってのけた。非常に冷徹な人格を持つというのに、保健室にいるときは学ランフリークのちょっぴり変態おばさん化している。誰にも気取られはしない、まったく違う仮面を使いこなす敬愛する従姉。
 当惑から苦笑いに変えたゼロスは、もう一度リナの駆けて行った方向を見やった。
 気丈な彼女は、振り向きもせず友人達のところへ向かうだろう。
 緋色に燃える瞳で、前だけを見詰めて。

トップに戻る
2464Re:聖ルーン学院物語<暁の転校生>9玲亜 11/13-00:38
記事番号2436へのコメント

こんにちは はじめまして玲亜といいます。
聖ルーン学院物語<暁の転校生> 読ませていただきました。
すごくよかったです!!!! 私は ゼロリナが大好きなんで
この先の展開が とても楽しみです♪ がんばってくださいね!!!

簡潔ながら 終わらしてもらいます・・・・・

それでは また

トップに戻る
2476Re:ありがとうございます。Lizard taiL E-mail 11/15-23:32
記事番号2464へのコメント

>こんにちは はじめまして玲亜といいます。
 こんにちは、Lizard taiLです。初めまして。
>聖ルーン学院物語<暁の転校生> 読ませていただきました。
>すごくよかったです!!!! 私は ゼロリナが大好きなんで
>この先の展開が とても楽しみです♪ がんばってくださいね!!!
 頑張ります。一応「ぜろりな」恋愛物として書いていきます。
 執筆が、異常に遅いですが、よろしくお願いします。
>それでは また
 また、お会いしましょうね。

トップに戻る
2470初めまして☆毬藻 11/14-18:57
記事番号2436へのコメント

 初めまして、毬藻と申します☆
 『聖ルーン学園物語』、とっても良かったです〜
 一気に読ませて頂きましたよ!!ホントに凄いです!!
 学園物って何か凄い難しそうなのに、こんなにきっちり話をまとめていらして、本当に尊敬いたします・・・!
 学園物苦手な毬藻としては、何かこう・・・目標としてガンバって行きたい限りです。(迷惑すぎ)
 それに、文章力が凄くおありなんですね・・・うらやましいですぅ・・・
 短いですがこのヘンで失礼いたします。
 次の投稿、心待ちにしております。お疲れさまでした!!
 毬藻でした〜☆
 

トップに戻る
2475Re:お返事いただきました。Lizard taiL E-mail 11/15-23:24
記事番号2470へのコメント

こんにちは、読んで頂いてとても嬉しいです。
> 初めまして、毬藻と申します☆
 某チャットに、よく出没してます…。
> 『聖ルーン学園物語』、とっても良かったです〜
 ありがとうございます。私は「ぜろりな」はゼロスが人間じゃないと成り立たってくれないんで、学園物というのに押し込んじゃいました。
 なんだか伏線ばっかりで長くなってしまいましたし、まだまだ勉強中ですね。
 書店に取り寄せてもらった(なんと、一ヶ月もかかった!)辞書本も届いたし、構想を練り直してきます。
 学園物は変わらないけど、ゼロスの魔族バージョンを設定しないといけないので!
> 次の投稿、心待ちにしております。お疲れさまでした!!
 読んで頂き、お疲れ様でした!!
> 毬藻でした〜☆
 Lizard taiLでした〜☆ 
 またお話しましょうね。