◆−挿話―或いは駄文の極み。−魚の口(11/9-18:47)No.2452
 ┣幕間で妄想。その5。−魚の口(11/10-13:25)No.2455
 ┃┣Re:幕間で妄想。その5。−くが(11/10-16:31)No.2456
 ┃┃┗ありがとうございます!−魚の口(11/10-17:25)No.2457
 ┃┗Re:幕間で妄想。その5。−きの(11/11-01:01)No.2461
 ┃ ┗はぅ、お二人も・・・(歓喜)−魚の口(11/11-12:11)No.2462
 ┣幕間で妄想。その6。−魚の口(11/11-19:28)No.2463
 ┣挿話2―或いは言い訳の極み。−魚の口(11/15-21:21)No.2473
 ┗幕間で妄想。その7。前。−魚の口(11/16-00:47)No.2477
  ┣Re:幕間で妄想。その7。前。−くが(11/18-23:03)No.2481
  ┃┗あぁ、少しの差で・・・−魚の口(11/19-00:14)No.2483
  ┗幕間で妄想。その7。中。−魚の口(11/18-23:58)No.2482
   ┗幕間で妄想。その7。後。−魚の口(11/20-14:41)No.2486
    ┗Re:幕間で妄想。その7。後。−くが(11/22-22:27)No.2489
     ┗毎度本当に有り難うございます。−魚の口(11/23-00:21)No.2490


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2452挿話―或いは駄文の極み。魚の口 11/9-18:47


「あれは遠い昔話 それとも昨日見た夢」


暖かい腕の中で、瞬きすら出来ぬ身で、約束されたはずの、永久の安らぎ。
蘇るのは、ただ暖かさのみ、その温もりの中で、ただ守られたくて。


気が付けば無意識に求めている。
理性でなのか、欲望でなのか。

己の中の枯渇したモノは、
堰を切るように、体中を駆け巡る。

目が、耳が、意識が、心が、夢までが、
たったひとりを、捉えて止まない。

孤独を供にと、己のみを住まわせたその身に、
何時しか誰かを、留めて止まない。


暖かい腕の中に、瞬きすら許さぬ瞳で、約束などない、一縷の安らぎ。
蘇るのは、ただ暖かさのみ、その温もりの中で、ただ安らいでいたくて。


夢かうつつか、過去か未来か、
何時からが始まりなのか、故に終わりなど分からぬのに。

こみ上げる、底知れぬ思いは募り、されど、
吐き出す術を知らぬ思いは、再び己を巡り、繰り返す。


声にならない心の叫びは、いつしか己に嘘を付く。



―――――ワタシノナカノ、アナタガシンジツ



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

タイトル通りに極めてしまいましたが、何だか書きたくなって
出来上がってしまった駄文であります。
お目汚しですみませんが、目を通して頂けたら幸いです。
でわでわ。この辺で閑話休題ですね。

魚の口

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2455幕間で妄想。その5。魚の口 11/10-13:25
記事番号2452へのコメント

がばっ

目を見開き、跳ね起きる。
辺りを見渡すと、小さな小屋に仲間が雑魚寝をしている。
交代で見張りをしていたガウリィが、こちらに顔を向けた。
「どうした?ゼル。」
未だ寝息を立てている女性陣を起こさぬよう、小声で合成獣の男に呼びかけた。
「・・・いや、何でもない。目が覚めただけだ。」
「そうか、でも交代にはまだ早いぞ?眠れないんなら、これでも飲むか?」
そう言って自分が手にしていた小さな水筒を掲げる。
大方強い酒でも飲んでいたのだろう、その頬はうっすらとだけ桃色をしていた。
「ん、あぁ。だが、寝起きにはきついから、お湯割りで貰おうか。」
その言葉に薄く笑うと、ガウリィは目の前の炭焼き窯の上に置いておいた
ケトルを取ると、カップに湯を注ぐ。
「一体何時までこんな処で待たされるのか・・・異界黙示録(おたから)は
 目の前にまで来ているんだがな。」
珍しくため息混じりにこぼしたゼルガディスに、ガウリィは湯気を上げる
カップを差し出すと、少し躊躇いがちに口を開いた。
「・・・そんなに元に戻りたいか、やっぱり。」
一瞬だけガウリィの目を見て、ゼルガディスはカップを受け取ると、一口
中身に口を付ける。
「聞いて、どうする。そんなこと。」
少しぶっきらぼうに言うが、その目は笑っていた。
「ん〜〜、お前さんには悪いが、純粋に好奇心だな。もし、元に戻れたら
 一体どうするのかと・・・」
「・・・・・・」
ガウリィの口から出た台詞に、ゼルガディスは口を噤んだ。考えているのだ。
「ゼル?」
自分の言葉に気を悪くしたのかと、ガウリィは仲間の顔色を伺う。
だが、その気兼ねに気付いたか、ゼルガディスは顔を上げた。
「いや、そうだな、考えてなかった。」
「え?」
「今まで散々、元の姿に戻る方法を探しあぐねてきたんだが、そういえば
 いざ元に戻った後のことなぞ、考えてもみなかった。」

自分をこの姿に変えたレゾの研究所や、縁の地、それからキメラの研究が
盛んと言われたある町の魔道士協会や神殿、古の遺跡や発掘品。
様々な人や文献、ありとあらゆる物を見てきたが、そのどれもが
己の身体を元に戻すことは出来なかった。
躍起になってその方法を探す余り、自分が何故、元の姿に戻りたいのか
そんな根本的なことすら頭になかったのだ。
そのことにしばし呆然とするゼルガディスに、ガウリィはにやりと笑った。
「この山が片づいたら、今の話の続きでもしよう。」

この世界の魔王が造り出した、五人の内の高位魔族が絡む事件である。
その腹心が造り出した一神官でしかないゼロスにすら、敵わない身の上で、
ガウリィはそれでも『片づいたら』等という。
明日の命も知れぬ身なのに、約束を交わそうとするガウリィに目を向けると、
ゼルガディスは、やはりにやりと笑うのだ。
「あぁ、それまでには考えておくさ。」

男達の密かな決意の中、竜たちの峰(ドラゴンズ・ピーク)に朝湯気を伴い、
うっすらと東の空が白んできた。
静寂を守っていた峰に、竜たちの息づかいが聞こえ始める。

ゼルガディスはまだ知らなかった。己の中に密かに住まう誰かに。
この先に起こる出来事に、胸の内に注ぐ何かが、音を立てて己を揺さぶることに。

今は、まだ、知らなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

こんにちわ、短めに終わりましたが、幕間で妄想その5でした。
この前に投稿させていただいた、挿話からの続きと思って頂くと、
冒頭の「がばっ」の見当が付けられるかと思います。

う〜〜ん、自分で書いていて何ですが、本当にこれ「ゼルアメ」
として投稿してていいのだろうか?と悩むくらいらぶらぶなしですね(苦笑)。
なんか、くらーいし。う〜ん、おかしいな、あんなに読むのは好きなのに、
いざ自分で考えると、こうなってしまう・・・(自答自問中)。

あ、分かった自分のその技量がないからですね!(即決)。
うう、自分で言っておいてなんですが、もう少しどうにかして「ゼルアメ」!
と言い切れるようになりたいと思いますので、しばしお付き合い願います。
次の予定は、例のあの場面からです。(うーん、なんて不躾な(苦笑))
でわでわ。

魚の口

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2456Re:幕間で妄想。その5。くが 11/10-16:31
記事番号2455へのコメント

何時も楽しんで読ませて頂いてます。

今回はアメリアが出てきてませんが、わたしの妄想力は
かなりのものなのでかなりにやりとしました。

片付く頃にはゼルさんは色々と気づく事になるんでしょうね。
「例のあの場面から」を楽しみにしています。

では、感想らしいものすらかけなくてすいません。

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2457ありがとうございます!魚の口 11/10-17:25
記事番号2456へのコメント

>何時も楽しんで読ませて頂いてます。
初めまして、魚の口と申します。よかった、こんな私のツリーでも
読んで頂いている方が居たのですね(感涙)。

>今回はアメリアが出てきてませんが、わたしの妄想力は
>かなりのものなのでかなりにやりとしました。
や、申し訳ない(ひやひや)、ゼルアメのつもりなのに
姫が登場しないとはどういうことなんでしょうね(汗)。
でもでも、そうですか妄想は駆り立てられましたか(笑)。

>片付く頃にはゼルさんは色々と気づく事になるんでしょうね。
>「例のあの場面から」を楽しみにしています。
はい、くがさんのように読んで頂いている方のためにも、
何とか頑張って続けていきたいと、改めて
思う次第であります!

>では、感想らしいものすらかけなくてすいません。
いえいえ、ほんっとうに!有り難うございました。
でわでわ。その6。で、お会いいたしましょう!(ぺこり)

魚の口

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2461Re:幕間で妄想。その5。きの E-mail 11/11-01:01
記事番号2455へのコメント

はじめまして。
いつも魚の口さんのSS、楽しく拝見させて戴いてます。

原作を読んでいて、どうにかして読んでみたいと思っていた幕間の
ゼルアメのお話に出会えて、とっても嬉しかったです。

魚の口さんの描かれる、さりげないゼルアメがとても好きなんです。
もう毎回萌えさせて戴いてます。
少しずつ少しずつお互いの存在が大きくなっていく様が、
何ともたまりません。

次回は「例の場面」からとのこと、とっても楽しみです。
待ち遠しいです。

それでは短いですが、これにて失礼致します。

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2462はぅ、お二人も・・・(歓喜)魚の口 11/11-12:11
記事番号2461へのコメント

>はじめまして。
>いつも魚の口さんのSS、楽しく拝見させて戴いてます。
初めまして、魚の口と申します。あぁ、本当に
こんな私のツリーを見ていただいて、有り難うございます(うっうっ)。

>原作を読んでいて、どうにかして読んでみたいと思っていた幕間の
>ゼルアメのお話に出会えて、とっても嬉しかったです。
ご同胞ですね(笑)、私の妄想のきっかけもそうだったんです。
んで、自分で偽造を始めてしまった次第であります(苦笑)。

>魚の口さんの描かれる、さりげないゼルアメがとても好きなんです。
>もう毎回萌えさせて戴いてます。
>少しずつ少しずつお互いの存在が大きくなっていく様が、
>何ともたまりません。
はぅ、『さりげないゼルアメ』・・・そう取っていただいてますか(笑)、
甘々の二人を読むのが好きで、上のような動機からよぅし自分も!
と思って始めたんですけど、蓋を開けたら何?ってな話ばかりで・・・
でも、そんな話でも見ていただいているわけですから、嬉しい限りです(感涙)。

> 次回は「例の場面」からとのこと、とっても楽しみです。
>待ち遠しいです。
は、何とかこれから頑張ってこじつけてみたいと思っております(苦笑)。
何分都合のいいように解釈しちゃったりするかもしれませんが、
呆れずに読んで頂けたらなぁ・・・と、今からちょっと心配かも。

>それでは短いですが、これにて失礼致します。
いえいえ、このコメントにどれだけ勇気づけられていることか!
本当に、暖かいお言葉有り難うございました。
それでは、その6でお会いいたしましょう(ぺこり)。
でわでわ。

魚の口

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2463幕間で妄想。その6。魚の口 11/11-19:28
記事番号2452へのコメント

ちりちりとした痛みが胸を焦がす。
決して不快ではない痛みが。

胸の内に空いた小さな、小さな穴に、
何かがさらさらと落ちていく。

その何かが溜まる度に、胸は小さく疼いてゆく。

ゆっくりと、ゆっくりと・・・・・・


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岩肌がむき出しになった峰、この竜たちの峰(ドラゴンズ・ピーク)には、今や
近寄りがたい緊迫とした空気が、強固な結界のように張りつめていた。
竜王(ドラゴン・ロード)の名を冠する黄金竜(ゴールデン・ドラゴン)や
強大な力の象徴でもある黒竜(ブラック・ドラゴン)ですら、この戦況を
息を潜めて固唾を呑んで見守っている。
精神世界面(アストラル・サイド)と物理世界とで繰り広げられている戦いは、
今、混沌の直中にあるのであった。

「みんな!狙うならレッドの方よ!」
「おうっ!」
振り翳した光の剣を朱色の球体に向け、ガウリィは突き進む。
その行く手に灰色の球体が追いすがり、朱色の球体の前面に出た。
怪しく煌めく光の矢が、その後方の朱色より繰り出される。
ガウリィはその光の筋の着弾点を読み取り、更に灰色をかわして朱色に迫った。
跳ね上がるように慌てて真上へと逃げる朱色。しかし、
ガウリィの操る光の刃が、上空で静止した朱色へと襲いかかる。
だが、その瞬間、光の刃は灰色と化した球体へと飲み込まれた。
―――入れ替わった!?
そう思ったときには、いつの間にかガウリィの背後に迫っていた朱色の球体から
数条の光の矢が、ガウリィの背に向け打ち出された後だった。
その気配に咄嗟に振り返るガウリィ、だが、光の矢は目前に迫っていく。
「魔竜烈火咆!(ガーヴ・フレア!)」
アメリアの放った業火の帯が、ガウリィの背後を狙う光の矢を飲み込む。
攻撃用に唱えていた呪文で、かわりに迎え撃ったのだ。
「すまん、助かった!」
短く礼を言い、ガウリィは球体との間合いを取る。

二体とばかり思っていたこのおかしな形の魔族は、実は互いで攻撃と防御を
行う一体のものであるらしい。
朱色と灰色の二つは互いに引き寄ると、ガウリィを飛び越えリナへと迫った。
「どうやらこいつら、二体を同時に攻撃するしかないようねっ!」
迫りくる魔族に視線を向けたまま、アメリアは言う。
「いいだろう。俺がもう片方をやる。」
応えてゼルガディスは、二体の魔族の横手へと回り込んだ。
その間にもスピードを上げ、リナへと迫る二体は次の瞬間、雷撃を放つ!
慌ててリナとアメリアはその場から大きく飛び退き、避ける。だが、
尚も電撃を放ちつつ、二体の魔族はリナへと突き進んだ。
横手に回り込んだゼルガディスを省みると、合成獣の男もこちらを見て頷く。
リナはそれに応えて頷くと、右手を空へ突き出し唱えておいた
力ある言葉(カオス・ワーズ)を解き放つ。
「「烈閃槍!(エルメキア・ランス!)」」
声が重なり、横手に回り込んでいたゼルガディスからも同じく、二体の魔族に向け
二条の光の槍は突き進む。
ばぢっ!
しかし、その光の槍が二体に届くより前に、不可視の何かによって四散した。
何事もなかったかのように、二つの球体は更に速度を上げ、
執拗にリナへと迫りくる。
―――おし潰す気かっ!?
諦めずに呪文を紡ぐリナだったが、朱色の球体がその眼前へと押し迫っていた。

「霊王結魔弾!(ヴィスファランク!)」
自分の拳に魔力を集結させ、アメリアはリナへとその身を躍らせようとしていた
朱色に向け、懇親の一撃を喰らわす。
鈍い音がして、朱色はその軌道を狂わせながら吹っ飛ぶ、尚もアメリアは
その球体に追いすがり、力の限りに拳を叩き込む。
ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいん!
金属が震えるような音が二体の魔族から上がった、恐らくこれがこの魔族の
声なのかもしれない。
それでも構わず、アメリアは尚もトドメを刺さんとばかりに、朱色を打ち付ける。
堪らず、朱色を攻撃し続けるアメリアの背に向け、灰色が突っ込んでいき、
ざぞんっ!
させじと駆け寄ったゼルガディスの、魔力を込めたブロード・ソードの一撃が、
灰色の球体を二つに断ち割った!





不思議な感覚だった。
否、『感覚』等と言えるのかも分からないのだが。
まず、音がない。
廻りの風景は見えているのに、音声だけが全く聞こえてこなかった。
     
もうもうとした砂煙が晴れたかと思うと、荒涼とした岩だらけの峰に、
視界が広がる。
視下に見えるのが、近付いてくる金髪の若い男性と、同じく金髪の中年男性。
その金髪の若い男性の視線の先にいた、栗毛の女性が起き上がる。
金髪の若い男性は少しだけ表情が軟らかくなった。しかし、
今度はその栗毛の女性が煤けた頬に、緊張の色を張り付かせ、
何かを口にしたかと思うと、こちらに向けて走り寄る。
同じように金髪の中年男性と、若い男性もこちらに歩み寄ってきた。
何かを囲むように屈むと、不意に中年男性の両手の平から青白い光が漏れる。

どくん。

その様子に栗毛の女性の顔から、少しだけ安堵の色が浮かんだ。何故だか
彼女にはこんな暗い表情が似合わないように思われた。と、
その女性の視線が、今度はこちらとは反対側の岩肌を省みる。
つられてそちらを視界に捉えると、そちらにも人影が佇んでいた。
むき出しの岩に寄り掛かるようにして、その人影はこちらを見ている。
左手で胸の辺りを押さえ、苦しそうに息をしているのに、
顔だけはこちらを向けて、視線は一点へと集中したまま。

どくん。

何処かがちりちりと音を立て始める。
視界が不意にその人影に向けて収束し始める。

どくん どくん。





意識が白濁してきた。
小さな光の一点に向けて、それでも意識を集中する。
次第に白いもやのようなモノが、視界を占領した。知覚も働かない。

それでも意識が何かを探している。

まずは視界が回復を始めた。薄ぼんやりとしているが、白と青が現れる。
次いで聴覚が戻り始める。未だ鼓膜の裏で何かが反響し続けてはいるが、
それでも誰かが叫んでいるのが分かった。
ゆっくりと吸い込んでいた物を吐き出そうとして、鋭い痛みが奔る。
突然のことに咳き込むが、それが又痛みを呼ぶ。

それでも視線で何かを探している。

ひとしきり咳き込んだ後、ふらつく頭を押さえ上体を起こして背後の物に預ける。
痛みはずきずきと続いているが、今度はゆっくりと息をすることが出来た。
同時に自分がどうしてこのような状態になったかが、思い出される。
吹き飛ばされてこの岩と身体がぶつかり、背中を強打したため、
身体のあちこちを痛め、息をするのも苦しかったのだ。
自然と口に出たのが、治療(リカバリィ)の呪文。
何かの視線を感じて顔を上げると、栗毛の女魔道士の心配そうな視線と
ぶつかった。その気遣いに何とか頷いて応えて、そして、止まる。

意識が、視線が、無意識内で求めていたモノを探し当てたからだ。

体内の血圧が急速に下がっていくような気がした。
唱えた呪文の力を翳した左手が、微かに震えている。
それでも離せられない視線の先にあるモノは、人の形を取った黄金竜の長から
何やら薄青い光を翳し当てられ、横たわっているのだ。
治療を受けているのは一目で分かる。しかし、その治療を受けているモノは
ぴくりとも動いていないではないか。

どくん。

耳元で、嫌に耳障りな鼓動が鳴り響いた。
胸の奥で、違う種類の痛みがちりちりとし始めた。

どくん。

頭が冷静に状況を把握しようとする。
自分はこの己の嫌う身体のお陰で、自分で治療を掛けられる程度に済んでいるが、
この同じように岩肌に叩き付けられたのが、いかに丈夫なあの少女であれ、
生身の人間で有れば、無事に済むわけがない。
その証拠に、あの少女を治療をしているのが仲間の女魔道士ではなく、
黄金竜の長自らが手を貸している。
何故、長、自らが手を貸してくれるのかは分からないが、女魔道士の術では
とても間に合わないほどの傷を、少女は負ってしまったのだ。

どくん。

人は必ずいつかは死ぬ。天寿を全うするか、運命の悪戯かによって。
そう、あの少女であっても―――――
だが、少女は今、治療を受けている。人間の数倍の魔力を容する黄金竜の長に
よって。恐らく、難しいところであっただろうが、少女は助かるだろう。

どくん。

不意に、少女の微笑みが脳裏を横切った。何の屈託もなく、自分に向けて
会心の笑みを見せる少女の姿が。
しかし、少女は何時かは自分の前から居なくなる、例えそれが今でなくとも。
少女は聖王都の王女、自分は卑しい合成獣。
少女には帰る場所がある、自分には探し求める物がある。

どくん・・・

そう、少女は自分の前から居なくなる。

何かの呪文のようにそれを繰り返しながらも、男は視線を外すことなく前を向く。
胸の奥の小さな穴は、さらさらと音を立てて、男の心に何かを注いだ。
小さな小さな、『嘘』という砂を―――――





目の前にいる男はこちらを凝視していた。正確にはこちらにあるモノにだったが。
・・・その男の姿は、普通の人間の姿とは言えなかった。
硬質の岩のような青黒い肌、エルフのようにとがった耳、金属質の光を放つ
銀色の髪。そのどれもが人間とは異彩を放ち、この男を人外と告げている。
視線は鋭く、その堅く結ばれた口から漏れ出す台詞にも、容赦はない。
腰に下げた剣を操る技量もさることながら、その年齢からすれば豊富すぎる
知識を元に繰り出される、魔術を行使することにも長けている。
その姿故、同じ人間に畏れられながらも―――――

それでもこの男は、己の姿を忌み嫌い、人外にされたことを隠しながら旅をし、
その姿を元に戻す方法を探し続けてきた。
でも、その途中で出会った仲間達とともに旅をするにつれ、姿とは別に
男は人間としての感情を露わにしてゆく。
主に怒りで、恨みで、悩みで、苦しみでだったが、それから徐々に、
呆れたり、困ったり、冷やかしたり、そしてぶっきらぼうだったり、と。

どくん どくん。

それが何故だか嬉しかった。
この頑なな男が、少しずつ少しずつ変わってゆく様が堪らずに。
自分を役割でなく、一つの存在として扱ってくれることに。
自分という存在が、この男の何かに少しでも役立てばと。
この不器用な男に、少しでも笑っていて欲しくて。

どくん どくん どくん どくん。

その側でずっと笑っていたくて。

どくん どくん どくん どくん どくん どくん!

―――――ワタシハ、コノヒトノ、ソバニ、イタイ。

闇の中、白銀の光、白くわだかまるもの、途切れる・・・
否、覚醒する意識。

―――――ぜるがでぃす さん!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


予断を許さぬ戦いの最中、一つの意識が確かな確信とともにこの世に蘇る。
その輝きは生来の物に、更に磨きを掛け息づき始めた。
それと同時期に、もう一つの意識は己の中に生まれつつある確かな物を、
自らの意志で押さえ、眠りにつかせた。

二つの意識は互いを求めながらも、片方によってその手を離してしまう。
―――――しかし、物語はそこから始まるのであった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

はい、試行錯誤の幕間で妄想その6。いかがでしたでしょうか!(どきどき)
う〜〜ん、すみません!会話が無くて!(平謝り)
幕間だからどうしようもないと、開き直ってみた物の、こっこれは・・・(汗)。

前半、例の場面を何処から始めるかで、少々悩みました。
いきなり始める方法も考えたんですが、これでは本当に会話シーンがないので、
やむなく(?)小説のシーンを自分なりに換えて出してしまったんですが、
これは不味いことなんでしょうかね・・・(滝汗)。???。(汗汗)。

後半は後半で、これが又こじつけてしょうがないんですけど、
う〜〜〜ん、暗いぞー、ゼル。後ろ向きな思考になってしまった彼ですが、
あの頑固者ですから、自分の感情(しかも気付いてない)を押し殺すなんて、
簡単にやってしまいそうかなぁ・・・と。

もうこれ以上の偽造はないぞー、と言うくらいこじつけて、
本編の8へ、この幕間で妄想は続いてしまいます。
最後まで、呆れないで読んで頂けたら本当に有り難いのですが、
もう少しいじくってもみたいなぁなんて、恐ろしい妄想もちらほら・・・

宜しければ、それまでお付き合い下さると嬉しく思います。
長くなりましたが、ここまで読んで下さって本当に有り難うございました。
では、その7でお会いできますように・・・
でわでわ。

魚の口

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2473挿話2―或いは言い訳の極み。魚の口 11/15-21:21
記事番号2452へのコメント

「生まれた時に 知っていたはずの答えを」


産みの親から教わるモノでもない。
何かの手引きで学ぶモノでもない。
生まれた時から、極々自然に培われてゆくモノ。

誰かの空真似をするモノでもない。
必ず成功するというモノでもない。
生まれた時から、極々身近に育まれてゆくモノ。


それを知らない者はいない。それを嫌いな者はいない。
只、それを苦手な者はいる。
億劫という理由だけで。

それが上手な者もいる。それが不器用な者もいる。
只、それが出来ない者もいる。
臆病という理由だけで。





少女は初めてだった。家族へ注ぐモノと違った感情には。
青年は初めてだった。他人へ抱く己の感情には。

どれが正解で、どれが間違いだとか、そんな線引きは誰にも出来ない。
誰しも間違いながら、迷いながら、進んでいくモノだと思うから。

だから、少女が未だ幼かったのは仕方がない。
だから、青年が未だ気付かなかったのは仕方がない。

それでも、お互いが出会ったのは決して偶然ではないのだから、
運命という言葉で決めつけるモノでもないのだから・・・


少女は初めてだった。離れたくないと感じたモノには。
青年は初めてだった。失いたくないと願ったモノには。

だからこそ正直に、素直に感じて欲しい。

生まれた時に、知っているはずの答えを―――――


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

こんばんわ、又苦し紛れにこんな駄文を投稿してしまいました。
ちょっと、幕間が苦しくて、息抜き(?)に書いたモノです。

こじつけすぎて、自分でもちょっと辟易していますが、
何とかゼルアメに向けて、頑張っている次第です。

とても短いですが、この辺で。
でわでわ。

魚の口

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2477幕間で妄想。その7。前。魚の口 11/16-00:47
記事番号2452へのコメント

ガウリィが連れ去られてしまった。
この世界の魔王が造り出した高位魔族、冥王フェブリゾによって。

自称リナの保護者、光の剣の持ち主、類い希なスゴ腕の剣士。
そして、この一行の潤滑油的存在でもあった。

金髪碧眼、容姿端麗、剣の腕は国士無双、その性格は天衣無縫、やや付和雷同。
行動に裏のないキャラクターで、ともすれば衝突しがちなリナとゼルガディスを
持ち合わせた天然の包容力でいなし、奔りがちなリナとアメリアの手綱を取る。
唯一の欠点はその記憶力の悪さで、しばしばリナの激高に触れるが、
それも時には緊迫しがちなこの一行の雰囲気を和らげたりもした。

そして何より、本人は気付かないウチに、自分の行動を決める一翼も担った存在。
大いなる敵、冥王を前にして、心の片翼を奪われたリナは動揺する。

その二人の関係を知るアメリアとゼルガディスも又、彼の安否とともに、
リナの内心の失意を想い、うなだれる。

残された三人の仲間の雰囲気は、気遣いこそあれ揺らいでいるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「つまりは―――止めても無駄、ということか。」
「そういうことです。」
ゼルガディスの問いに、さらりと伸ばした黒髪の、薄紫の神官衣に身を包んだ女性
シルフィールはきっぱりと言い切った。

ガウリィが連れ去られたサイラーグを擁する、ライゼール帝国。
その領内に入って数日が経過したとある町の宿屋の食堂で、一行はこの
一見は楚々とした印象を持たせる女性と再会する。とはいっても、
アメリアにとっては初対面の相手ではあったが。
「ゼルガディスさん。皆さんはあのシルフィールさんと、面識があったんですね。
 どういった経緯だったんですか?」

食堂を後にして、それぞれの自室の戻ろうとしたときのことだった。
二階に続く階段を上りながら、アメリアは隣を歩く合成獣の男に問い掛ける。
少女としては、只単純にゼルガディスとシルフィールがどうして知り合いに
なったのか、聞きたかっただけだったのだが・・・
「・・・あぁ、さっきの話だったな。シルフィールはそうだな、リナ達と最初に
 出会ったときの事件の、余波で起こったような山に巻き込まれた人さ。」
「余波って・・・サイラーグの町が原因不明の壊滅をしたのには、
 あの魔王復活の事件が絡んでいたんですか?」
少し驚いたように目を見開いて、アメリアはゼルガディスを見た。
そのアメリアの視線を感じてはいたが、ゼルガディスは視線を合わすことなく、
淡々と言葉を吐き出していた。                       
「赤法師は自分の目を治すために、自分のコピーホムンクルスを造り出していた。
 そのコピーの目はいとも容易く光を見出したが、しかし、
 同じ方法を採ったのにも関わらず、肝心の赤法師の目は開かない。
 まぁ無理もない、眼にあんなモノが封じられていたんだからな・・・」
「・・・魔王、赤眼の魔王(ルビーアイ)シャブラニグドゥ・・・」
リナより聞き及んでいた、簡単な話の顛末を思い出し、アメリアは思わず呟く。
その言葉にゼルガディスは一瞬肩を震わせたが、アメリアは気付かなかった。
「―――逆上した赤法師は、ヤツの手足として仕えていたある魔道士とともに、
 コピーホムンクルスにとある外法を施した。」
ゼルガディスは一旦言葉を切る。アメリアは次の言葉に息を呑んだ。
「赤法師は自分のコピーの見開いた眼を核に、魔族を合成させた。」
「!?魔族を・・・何のために?」
理解できないと言いたげに、アメリアは形のいい眉を寄せ、呻いた。
ゼルガディスは又、淡々と言葉を紡ぎ出す。
「只、己の中に渦巻いた不倶戴天の念にのみ、コピーを魔に染め上げたんだろう。
 コピーホムンクルスは本来『自我』を持たない。容姿・能力はオリジナルと
 全く同じモノを造り出しはするが、経験・思考といったモノまではコピー
 出来ないんだ。そう意図して造り出さない限りはな・・・」
「・・・・・・」

自分で聞き出した話のこととはいえ、アメリアは些か息苦しさを感じた。
ゼルガディスを見つめはするのだが、男は先程から一度もこちらを省みない。
何かの作業のように、感情の籠もらぬ声で只語るのみ。
「そのコピーに何時しか『自我』が芽生え始めた。・・・ゆっくりとゆっくりと
 己の姿を魔と変えた、オリジナルに向けて憎悪が募り、やがて報復を
 考えるようになるまでに至るが、その矢先、当のオリジナルがリナ達によって
 倒されたことを知る。
 憎悪を受けるべき相手はすでに敗れたが、膨れ上がった憎悪を治める術はなく
 丁度、赤法師の敵を取るべく動き出していた魔道士に利用されるフリをして
 赤法師になりすまし、サイラーグの神官長を勤めていたシルフィールの
 親父さんの処に厄介になっていた。」
「シルフィールさんの処に・・・」
当初の質問の内容に話が戻ったので、アメリアは少しだけほっとした表情となる。
だが、それはこの話の序の口に過ぎなかった。
ゼルガディスの部屋の戸口の前、二人は立ち止まり、だが視線は相変わらず
合わせぬまま男は続ける。

「それがシルフィールの・・・サイラーグの町の悲劇の始まりだった。
 コピーは神官長に取り入り、俺とリナとこの町の英雄的存在だったガウリィ
 の旦那を手配に掛けたんだ。」
「ガウリィさん、何をされたんですか?」
ゼルガディスの話の内容に反応して、アメリアは横道に逸れようとする。
少しでも男の気を引こうとするのだが、その反応は冷ややかだった。
「そればっかりは俺も知らん。シルフィールの話だと、町に起こった重要な事件を
 解決するのに、旦那が活躍したらしいと言うことだけ分かっている。」
横道をしようにも、ゼルガディスが知らなければお話にならず、
アメリアはうなだれるような表情になった。
先程から急に、頭の中に警鐘が鳴りだしていたのだ。
―――なんだろう、この話を全部聞いちゃいけないような、そんな気がする。
アメリアの内心に不安をよそに、ゼルガディスは尚も話し続ける。
「その手配を掛けたのが赤法師と知り、俺はリナ達より早くにサイラーグへと
 来ていた。その時シルフィールと知り合うことになったんだ。
 しかし、その時にはすでにシルフィールの親父さん、神官長は傀儡と化して
 手配を解くことは出来ずに、そして町にいることすら出来ない状況になった。
 コピーらの放った追っ手をまきながら、打つ手を考えているときに、
 リナ達と再会する。それこそ、コピーの思う壺だったんだがな。」
「コピーホムンクルスの?」
こちらを省みないゼルガディスの、反応を気にしながらもアメリアは何とか
話の意図を見出そうとし始める。何時になく饒舌になりつつあるこの男は
何が言いたいのだろうか。
「そうだ。ヤツは己の存在理由を赤法師オリジナルを越えることに見出していた。
 オリジナルが倒れたのならば、倒した者を己が倒すことで、オリジナルを
 越えるのだと。」
「!?そんな、そんなことをしなくたって・・・!」
赤法師を越える方法は他にもあったはず・・・アメリアはそう言おうと
していたのだが、ゼルガディスがこちらをゆっくりと振り向いたので、
言葉を失ってしまった。
何とも言えぬ表情で、ゼルガディスはアメリアを見る。
怒っているような、蔑んでいるような・・・泣いているような・・・

「馬鹿げているだろう。ヤツはそんなモノのために・・・更には
 ヤツと戦うことで町への損傷を気にしていた俺達が全力で戦えるためにと、
 サイラーグの町そのものを吹き飛ばしやがったんだ。」
「―――それ で・・・」
これ以上ないというほど、その瞳を大きく見開かせて、アメリアは唸った。
「それで、サイラーグの町は一瞬にして・・・」
「神聖樹(フラグーン)を遺して壊滅、そのヤツも神聖樹に
 祝福の剣(ブレス・ブレード)で縫い止められ、ヤツのしょう気を
 神聖樹に吸い取られ、消滅していった・・・―――――」
ゼルガディスは又アメリアから視線を外し、小さく呻くように呟く。
「神聖樹はいわばヤツの墓標。それが今のサイラーグには跡形もないときた。
 赤法師に造られたモノには、ゆっくりと眠る場所も与えられないのか・・・」
同情ではない。何の罪もない町の人間を、一瞬にして無へと帰したのだ。
哀れむ気持ちは浮かばないが、やるせないではないか。

「ゼルガディス さん・・・」
吐き捨てるように呟くゼルガディスに掛ける言葉を見失い、アメリアは呻くばかり
それでも何とか声を掛けようと、ゼルガディスの左腕に向け腕を伸ばす。
「ゼルガディスさん、でも・・・」
「でも、なんだ!?俺とヤツと何が違う!?ヤツの末路は俺が踏んだかもしれない
 もう一つの結果の末なんだ。」
そう言い放つゼルガディスの言葉に、アメリアは思わず叫んでいた。
「でも!でも!!ゼルガディスさんは違います!ゼルガディスさんは何が大切か
 見失う人じゃありません!」
真っ直ぐと男を見据え、必至にその腕を揺さぶる。言いたいことの半分も
旨く言葉に出来ずに、歯がゆい想いだけが空回りする。
「違うんです・・・!」
今にも泣きそうなそのアメリアの顔を見て、ゼルガディスは一瞬バツの悪そうな
表情になる。捕まれた左腕に絡んだアメリアの腕を、右手でそっと外して、
少女に声を掛けた。
「・・・すまん。お前さんにこんな話をしても仕方がないのにな、悪かった。
 今の話は忘れてくれ、今はガウリィの旦那を助けるのが先決なんだ。」
自分に言い聞かせるかのように、ゼルガディスは言い、自室のドアを開ける。
「明日も早い。ゆっくり休んで置かないと、例の襲撃に耐えられないからな。」
そう言って、アメリアにも早く休むように促す。
それでもアメリアは動けずに、只ゼルガディスを見つめるばかり。
「・・・おやすみ・・・」
「―――・・・おやすみ なさい。ゼルガディスさん・・・」

パタン・・・
絞り出すように紡がれたアメリアの台詞が終わると、扉は静かに閉じられた。
アメリアの目の前で。

何故か傷ついたような表情で、閉じられた扉を凝視するアメリア。
数秒の後、俯きながら自分の自室へと翻ると、ゼルガディスの隣の部屋の扉が
静かに開き、部屋の中から黒髪の女性・シルフィールが現れた。
「・・・シルフィールさん、これからどちらへ?」
自分の内心の気持ちを押し殺すように、アメリアは笑顔を作りその女性を見た。 
シルフィールはにっこりと微笑むと、自分の背後を指差す。
「えぇ、リナさんの部屋へ、ちょっとお話をしに参ろうかと。」
「そうですか。じゃ私はこれで・・・」
逃げるようにシルフィールを追い越そうとした。アメリアは自分が今、
どんな表情をしているか鏡で見るより明らかに分かっていたからだ。

「・・・負けないで下さいね、女は愛嬌と度胸ですよ・・・」
通り抜きざまに聞こえた小さな言葉。アメリアは思わず振り向いた。     
黒髪の女性は綺麗にウィンクをすると、唖然としたままのアメリアの脇を
すり抜け、リナの部屋へと向かう。
勝ち目のない戦いをしているというのに、黒髪の女性は背筋を伸ばして
本人は自覚をしていない恋敵の待つ部屋へと赴く。
その背中を見届けて、ふと我に返ったアメリアは自然と口に笑みが生まれていた。
―――そうです、負けてられません!これ位のことじゃあ!

自分のらしさを思い出して、アメリアは心の中に活を入れる。
ノックもしないで諦めるのは自分らしくない。扉を開けてくれるまで、
何度でもノックを繰り返し、心を開いて聞いてみるのだ。男の叫びを。
例え自分を受け入れて貰えなくても、何もしないで諦めるよりマシだ。
あの凍えた心を持つ男の話をもっと聞きたい。それが諸刃の刃であっても、
男の心が少しでも軽くなるのなら、自分が傷ついても構わない気持ちだった。

あの男のために何かがしたい。

その想いはアメリアの心を次第に占めていった。
今は、連れ去られたガウリィを救出することが最優先なのだが、その想いを
止める術をアメリアは持ち合わせていないのであった。


戦いは続く。それぞれの心にそれぞれの想いを乗せて―――――

【幕間で妄想。その7。中。へ】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

はー、幕間で妄想。その7。始まりました。
取りあえず学習済みなので、3部作にするつもりですが、
きちんと終わらせられるかな・・・
でも、何とか本編の8の終了まで、繋げていくつもりです。

途中、ゼルやんが綿々と語る下りが詰まって仕方がなかったです。
うーん、こんな後ろ暗いこと考えさせてしまってすみません。
ちょっと話が暗いですよね(苦笑)。

取りあえず、めげずに頑張って続けてゆきますので、
どうぞ最後までお付き合い願います。
それでは、幕間で妄想。その7。中。で、
お会いいたしましょう。でわでわ。

魚の口

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2481Re:幕間で妄想。その7。前。くが 11/18-23:03
記事番号2477へのコメント

ああ、ゼル。暗い・・・・。
アメリア頑張れ〜〜と思わず叫びたくなります。
シルフィールもイイ女ですよね。何だか女の子の方が男前な様な気がします。
いやいや、これが女の強さってものなのでしょう。
続き楽しみに待ってます。

どうでもいい事ですが、「おやすみ」を交わす男女ってなんだか
ドキドキとときめいてしまいます。そんな私はアホでしょうか。(アホ、アホ)

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2483あぁ、少しの差で・・・魚の口 11/19-00:14
記事番号2481へのコメント

くがさん、すみません(汗)
私がもたもたしていたばっかりにすれ違いに。
でも、再びの感想有り難うございます〜〜〜!!

>ああ、ゼル。暗い・・・・。
>アメリア頑張れ〜〜と思わず叫びたくなります。

う、「前」に比べて「中」は更に暗くなっているかも知れません(滝汗)。
姫に辛い思いをさせてしまって、ごめんなさいです。

>シルフィールもイイ女ですよね。何だか女の子の方が男前な様な気がします。
>いやいや、これが女の強さってものなのでしょう。
>続き楽しみに待ってます。

たとえ叶わぬ恋でも、去り際のかっこいい女性って尊敬しちゃいます。
そうしてその女性は綺麗になって行くんでしょうかね?私にはとても・・・(笑)
彼女には最後にもう少し、手伝って貰うつもりでいます。
気に入っていただけると、とても嬉しいんですけれど(苦笑)。

>どうでもいい事ですが、「おやすみ」を交わす男女ってなんだか
>ドキドキとときめいてしまいます。そんな私はアホでしょうか。(アホ、アホ)

にやり。この辺も何だか同類ですね(笑)。
さて、頑張って最後まで繋げますので、もう少しお待ち下さいませ。
でわでわ。(ぺこり)

魚の口

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2482幕間で妄想。その7。中。魚の口 11/18-23:58
記事番号2477へのコメント

「本当に一人で大丈夫なんだな?」                     
「でもやっぱり、策があるからと言って、たった一人じゃ危険ですよぉ。」
白ずくめの男と、巫女の略装を纏った少女が、一人の女魔道士を囲んで、
街道沿いの小さな村の入り口で、問答している。

日はまだ高く、燦々と地上に暖かい光を降り注いでいた。しかし、どうやら
この女魔道士は、一人この村に早々に宿を取るつもりらしい。
少女は尚も不満の色をその可愛らしい唇をすぼめて表し、訴えていた。
「ガウリィさんが居なくなってしまったからといって、無理はしないで下さい。
 リナさんにもしものことがあったら、私達ガウリィさんに合わせる顔が
 ないじゃないですかぁ。」
その言葉に、リナと呼ばれた女魔道士は少女の鼻の頭を、人差し指で軽く小突く。
「アメリアってば、以外に心配性ねぇ。でもねぇ、一体誰に向かって言ってんの?
 天才美少女魔道士、リナ=インバース様が大丈夫だって言ってるのよ!?
 このあたしが言ってんだから、信用しなさい!だ・い・じょ・う・ぶ!!」
妹のようなこの少女の気持ちは嬉しいのだが、リナは勝ち気に言い放つ。
先の襲撃の際、確信した事を確認しない手はなかった。その為には
何かと一人で居た方が、やりやすいのだ。悪いとは思いつつも、リナは
ゼルガディスとアメリアの二人に、先にサイラーグへと進んで欲しいと言った。
勿論その理由と、確たる根拠は先程この二人に説明はしてある。
「でもぉ・・・」
それでもこの少女、アメリアは心配の念を消せないのだろう、踏ん切りが付かず
リナと別れることを渋っていた。その様子に、ゼルガディスは小さく溜息を吐き、
リナの方を見て諦めたように言う。
「分かった、お前さんがそこまで言うのなら、その通りにしよう。」
「悪いわね、ゼル。じゃあ又サイラーグで落ち合いましょう。」
ゼルガディスの言葉に、軽く手を挙げてリナは答える。
「―――行くぞ、アメリア。」
短く告げると、ゼルガディスはきびすを返し、街道へと続く道を歩き出した。
「え、あっゼルガディスさん!待って下さいよぅ!あぅリナさ〜〜ん(汗)」
背を向けたゼルガディスとリナとを交互に見ながら、アメリアは慌てる。
「あたしより、先に一人で行っちゃったシルフィールの方が心配よ、
 彼女が無茶しそうだって言ったの、アメリアでしょ?ね、ほら、
 早く行かないと、ゼルに置いて行かれちゃうわよ?」
視線で先をゆくゼルガディスを示しながら、リナは片目を瞑ってアメリアを見る。
「―――分かりました、行きます。でも、絶対に無事に来て下さいよ!?」
「あったり前よ!すぐに片づけて、追いついてみせるから。」
自信たっぷりに頷いたリナを見て、アメリアは決心が付いたように後ろを向いた。
「ゼルガディスさん!待ってくださーーーい!!」

すでに合成獣の男は街道へと歩を進めている。アメリアは小走りに、男の
後を追いかけていくのだった。
「・・・さて、あたしは美味しい物でも食べながら、ゆっくり休ませて
 貰おうかな、どうせ奴さん方が現れるのはもう少し先なんだし?」
ゼルガディスとその後を追うアメリアの姿が見えなくなると、リナはくるりと
翻って村へと歩き出した。のんびりとした台詞とは裏腹に、その紅い瞳には
不敵な光を皎々と宿しているのだった―――――
 


リナと二手に別れた村から、半日ほど進んだやはり街道沿いの町で、二人は
今夜の宿を取ることにした。宿屋に入る前に、シルフィールの特徴を町人に
話してみるが、どうやら彼女はこの町には立ち寄らずに先に進んだらしい。
めぼしい情報は得られずに、二人はともに夕食を摂ることにした。

「シルフィールさんは、私達からどのくらい先行しているんでしょうね?」
宿の食堂のおすすめディナーセット、鴨のローストパイ包みをぱくつきながら、
アメリアは目の前に座る、ゼルガディスに話しかけた。いつものように
マスクだけを外した状態で、ゼルガディスは平目のムニエルを口に運んでいる。
視線を自分の皿に向けたまま、ゼルガディスは答えた。
「さぁな。しかし、女性の脚だ。そう離れてもいないだろう。」        
「そうかもしれないですけど・・・シルフィールさんてゼルガディスさんから
 見て、無茶しそうなタイプだと思います?」
「・・・思い詰めるとそうなりそうな感じだな、特に今回はガウリィの旦那が
 絡んでいるし・・・」
フォークを持つ手を止め、店内の方へ視線を向けながら、ゼルガディスは
考えるように答えた。アメリアもその言葉に頷く。
「ゼルガディスさんもそう思います?やっぱり想い人が危険な目にあっている
 と考えると、居ても立っても居られなくなっちゃいますよね。」
「・・・さぁな。俺にはわからん感情だ。」
かしゃん
言って湯気の立つ紅茶を一息に飲み干すと、ゼルガディスは少し乱暴にカップを
ソーサーに置く。皿にはまだ料理が残っていたが、ゼルガディスは席を立った。
「ゼルガディスさん?まだ、お料理残ってますよ?」
フォークを握り締めたまま、アメリアはゼルガディスを見上げた。
「あぁ悪いが、先に部屋に戻らさせて貰う。・・・少し疲れたようだ。」
「そう・・・ですか。」
そう言われれば何も言えなくなって、アメリアは少し寂しそうに呟く。
ゼルガディスはちらりとアメリアに視線を向けるが、すぐに外すとその場を
離れた。
「・・・お先に・・・」
「あ、お休みなさい、ゼルガディスさん。」
慌てて笑顔を向けるのだが、合成獣の男はすでに背中を向けた後だった。

階段を上がってゆく男の姿を見送って、アメリアは自分の皿の残りを口に運ぶ。
食堂には、他の宿の客や町人と思われる人達が、笑談しながら食事を続けている。
まだ、温かい料理を凝視して、アメリアは心の中で思うのだった。
―――折角のお料理も一人で食べるのは、味気ないものですね・・・



次の日、天気は快晴。旅を続ける者にとっても、申し分のない天候だ。
小鳥はさえずりながら木々の間を飛び廻り、草原の清々しい香りを乗せ、
風は街道を行き過ぎる。こんな日はつい陽気な気分になるものなのだが、
この二人は朝から殆ど会話らしい会話をしないまま、黙々と歩いていた。
そのせいか道中の行程は、思いの外早く進む結果となっている。

街道を只黙々と歩いていると、その街道を横切る小さな小川にぶつかった。
「ゼルガディスさん、小川ですよ!」
「そのようだな。」
「綺麗なお水ですね、冷たくて気持ちよさそう。」
「咽が渇いたのか?」
「あ、いえ、そう言う訳じゃないんですけど・・・」
「そうか。」
アメリアが疲れているわけではないと分かると、ゼルガディスは再び歩き出す。
「・・・・・・」

朝からこの調子だった。アメリアがやれ綺麗な花が咲いている、だの、
ここからの景色がすばらしい、だの言ってみたところで、会話が続かないのだ。
この男が無口なのは分かっていたつもりだった、だから昨日の道中は
さして気にすることはなかったのだが、こう一日中ともなると訳が違う。
四人で旅を続けていた頃は、ここまで素っ気ない返答を返すほどではなかった筈。
アメリアは次第に、この前を歩く男が自分を避けているのでは?
という疑念を抱いていった。


この日の夕刻。このまま歩いていくと次の町に着く頃には日も、とっぷりと
暮れてしまうということもあって、早々に宿を決め泊まることにしていた。
夕食を食堂で摂っているときのこと、ゼルガディスはこの日もやはり、
疲れているからと食事もそこそこに、そそくさと自室へと引き込んでしまう。
その後ろ姿を見送りながら、アメリアは昼間の考えを確認する為に
とある決心をするのだった。



こんこん
分厚い魔道書に目を通していると、自室の扉をノックする者がいた。
今、自分の部屋を訪れてくる人物には限りがある。ゼルガディスは溜息を吐いた。
こんこん
再びノックの音が、静まり返った廊下から響いてくる。仕方なく、魔道書を閉じ
ゼルガディスは重い腰を上げた。
「・・・誰だ。」
扉の向こうにいる人物の、大体の想像は着きながらも問い掛ける。
「私です。」
返事をする声の主は、ゼルガディスが思い描いた人のものであった。
がちゃり
細く開けた扉の間から、肩で切り揃えた黒髪の大きな瞳をした少女が見て取れる。
「こんな時間にどうした、アメリア。」
「お話があります。宜しいですか、ゼルガディスさん。」
珊瑚色の唇を真一文字に結んで、アメリアはゼルガディスを見据えた。
「・・・夕食の時にも言ったが、疲れている。悪いが休ませてくれないか。」
「そんなにお疲れが取れないようでしたら、私が治療しましょうか?」
「いや、それには及ばない。横になっていれば済む程度のものだ。」
「・・・・・・」
アメリアの真一文字に結ばれた唇が、いっそう深く歪んだ。
「・・・ゼルガディスさん、どうしてそんなに、私のことを避けるんです?」
「―――何の話だ?」
「惚けないで下さい!昨日からずっと・・・私何かお気に障るようなことでも
 言いましたか?」
「だから、何の話だと聞いているだろう。」
苛立た気な声がゼルガディスから吐いて出た。だが、その目は少女を見ていない。
「違うと言うなら、私の目を見て言って下さい!ゼルガディスさん!!」
畳みかけるように問い詰めるアメリアだったが、大きな音がしたと思うと
少し離れた部屋の扉から、他の泊まり客が怒鳴りつけてきた。

「うるっせーな!痴話喧嘩なら余所でやってくれよ!!」
「わ、すみません!」
反射的にそちらを向いて謝ったアメリアの隙をついて、ゼルガディスは
その扉を閉じてしまう。
「あぁっゼルガディスさん!お話はまだっ・・・!」
「他の客に迷惑だろう、今日はもう寝ろ。明日も早いんだ。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜・・・分かり ました。」
扉の外から唸るような返事が返ってくると、やおやどすどすという足音とともに
アメリアが扉の前から遠ざかってゆくのが分かった。

扉の内側で、ゼルガディスは深い深い溜息を吐く。何故か胸が酷く痛む。
それはリナと別れたときから、否、ゼルガディスには分かっていた。
そう、あの時から―――――

今でも夢に見る。竜たちの峰(ドラゴンズ・ピーク)での出来事を。
力無く横たわった少女の白すぎる肌。
血の気の引いた唇の色。
ぴくりとも動かぬ細い指先・・・
今、その光景を思い浮かべただけでも目眩がするくらいだ。
「・・・くそっ!!」
鈍い痛みを繰り返す己の胸を、拳で打ち付ける。今まで経験をしたことのない
痛みだった。肉体を斬りつけられたわけでもないのに、えぐられるような感覚。
―――どうしろというんだ!?あいつはいずれ俺の前から居なくなるというのに!
どうしようもない事実を目の前に、ゼルガディスは痛む胸を掻きむしる。
生きて動いて話をしているアメリアを目の当たりにしていてこの痛み。
この激しい消失感をどうすればいいのか分からずに、ゼルガディスは悶え苦しむ。

サイラーグへの道のりは、二人の若い男女にとって思いの外、長い道のりに
感じられていた。
お互いの、すれ違ってしまった心の距離と同じくらいに・・・

暗く冷たい夜は続く、だが、それでも日は又昇る。
そう、明けない夜はないのだから―――――

【幕間で妄想。その7。後。へ】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

こんばんわ、お目汚しの魚の口でございます。
・・・らぶらぶどころか、争わせてどうする自分(泣き)。
てな感じですが、幕間で妄想その7中、いかがでしたでしょうか?

考えている本人も心苦しい状況なんですが、(だったらやるなってねぇ)
次回は今までの分も上乗せで、軌道修正です。

宜しければ最後まで、お付き合い下さいますように・・・(願)
それでは、幕間で妄想その7後、でお会いできますように。
でわでわ。

魚の口

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2486幕間で妄想。その7。後。魚の口 11/20-14:41
記事番号2482へのコメント

翌朝、夕べは殆ど眠れないまま起き出したゼルガディスは、身支度を整えると
下階へと下りていった。言い争いの理由はどうあれ、自分達が今しなくては
いけないことは、サイラーグへと辿り着くことなのだ。

胸は未だ、痛み続けるのだが、ゼルガディスはそれでも頭を切り換えると、
食堂を見回した。他の客もこれから起き出してくる時間だからか、数人がいるのみ
問題の少女は下りてきていない。
まだ部屋にいるのだろうと簡単に考え、空いている席に着こうとする。

「あ、お客さん。あんたに伝言だよ。」
朝食セットを運んでいた宿の主人が、ゼルガディスの姿を見ると声を掛けてきた。
「・・・伝言?」
一瞬、頭が働かずに動きが止まるが、何やらメモを携えた主人が自分に向かって
近付いてくるので、もう一度問い掛けてみる。
「確かに俺宛なのか?」
「えぇ、お連れのお嬢さんが『白ずくめの格好の男性に渡してくれ』って。」
宿の備え付けサービスの簡素な封筒をゼルガディスに手渡すと、
主人はそのまま他のテーブルへ給仕に向かってしまう。
白ずくめの格好の男、は、確かに自分だろう。
自分で言うのもなんだが、普通の人間で有ればこんな格好などしないのだから。
―――・・・一体、誰から・・・!
・・・睡眠不足が明らかな原因である。ゼルガディスは主人が口にした
『連れのお嬢さん』が誰を意味することなのか、ここに至ってやっと把握する。
がさがさっ
慌てて封のされていない封筒から、一枚の便せんを取り出す。と、
宿の名前が印刷された便せんには、丁寧だがやや小さめの文字が並んでいた。

『ゼルガディスさんへ。
 私が一緒にいるとご迷惑そうなので、一人で先にサイラーグへ向かいます。
 ゼルガディスさんは後から、ごゆっくりどうぞ。
                              アメリア。』

「〜〜〜〜〜〜〜〜あんの、莫迦・・・っ!」
一声唸るとゼルガディスは顔を上げ、カウンターへと戻ろうとしていた
宿の主人に詰め寄り、凄まじい勢いで問い掛けた。
「ちょっとすまんが!これを渡した子は何刻前に出立したか覚えてないか!?」
「!?お客さん乱暴はっ・・・と、あ、いや、あの女の子かい?それなら
 明け方だったかな?食堂の準備を始めてすぐからだったから、一、二刻前だよ
 うん、確かにそうだ。」
ゼルガディスの剣幕に、殴られるのかと勘違いした主人だったが、男の台詞を
理解すると、妙に愛想良くしゃべりだした。
「あんな可愛い子が、朝早く一人で出発したから覚えてるよ、何だい喧嘩かい?
 駄目じゃないか、早く追いかけて追いつかないと、追い剥ぎとかに・・・」
「分かった、邪魔したな!」
主人の言葉も終わらないうちに、ゼルガディスは荷物を掴むと戸口へと歩き出す。
一陣の風が通り抜けた後のような顔で、主人はゼルガディスを見送ると、
小さく漏らすのであった。
「・・・何だい、近頃の若いモンはまったく・・・」



サイラーグへと続く街道には、早朝ということも手伝ってか、人通りはなかった。
巫女の略装を纏った、少女一人を除いては。
山と山の間を縫うように続く街道は、ひっそりとした空気を漂わせていた。

アメリアは、朝のまだ少し冷たい空気を伸びとともに大きく吸い込むと、
ゆっくりと吐き出した。
「はぁー、気持ちのいい朝です!」
見上げる空は、朝焼けが終わろうとしていた。東の空から陽炎を揺らめかせて、
大いなる太陽が顔を覗かせるのだ。ふと、自分が今歩いてきた街道を振り向く
アメリア。心なしか、その大きな瞳がうっすらと潤んでくる。だが、
「ふぅ!今日も一日、誠心誠意、質実剛健、勇猛果敢に正義を貫くのです!!」
昇りつつあるお日様に、びしぃっと指さしアメリアは宣言する。
「!さぁ、行きましょう!!」
ぶんぶんと首を左右に振ると、自らの気持ちを奮い立たせるかのように言い、
赤い目をしたアメリアは、誰の目にも留まらない、朝の街道を歩き出すのだった。

それから程なく、左手に豊かな森林を抱えた小高い山が見え始めた。と、
青々とした茂みが、がさがさ揺れている。小動物でも出てくるのかと思ったが、
街道に姿を現したのは、数人の夜盗どもであった。              
どうやら仕事帰りのようで、手に手に少しだけ膨らんだズタ袋をぶら下げている。
「たくよー、このご時世だからっつって、しけてやがるよなぁ。」
「ほんとだぜ、金持ってると見込んで踏み込んだのに、借金ばかりだとよ!」
これからねぐらに帰るのだろうか、男達は昨夜の収穫が振るわなかったようで、
口々に愚痴をこぼしながら歩いていた。そこに、
「お待ちなさい!!」
何処からともなく、声が上がる。
「ぬ、誰だ!!」
「おい!あそこだっ!!」
男の内の一人が、街道をこちらに向かって走りくる影を指差した。
影はすぐに一人の少女だということが分かった。少女は近付きながら
辺りをきょろきょろと見渡すと、手近に手頃な木がなかったので、仕方なく(?)
男達との間合いまでに、くるくると側転を始めた。
「な、なんだぁ!?」
側転側転、側転からの後方宙返り、そして大技、後方抱え込み二回転宙返り!
ずべでどばん!!

「・・・・・・(汗)」
「・・・・・・(呆)」
「―――・・・あなた達!夜盗ですね!!」
「あ、復活した。」
頭から地面に激突していた少女がぴょこんと起き上がる。その登場の仕方に度肝を
抜かれていた男達も、その台詞に我に返った。
「ふ、ふん。不躾に何言いやがる。この俺達の何処が夜盗だってんだ。」
「そーだそーだ、俺たちゃあ健全な商売をやってんだよ!」
「シラを切るつもりですね!?でも、私の耳は誤魔化せませんよ!
 人の物を奪っておきながら、何たる言い種!その行い、私が改めて差し上げます
 覚悟なさい!!」
びしぃ!っと男達に向けて、アメリアは言い放った。
「だとぉ、ナメた口利きやがって、このアマ!」
「構うこたねぇ、誰もいやしないんだ!やっちまえ!!」
怒号が上がると、化けの皮を剥ぐのも素早く、
男達は次々に隠し持っていた小型のククリを鞘奔しらせる。
上段から、腹部に向け、背後から、様々な方向から、硬質の光がアメリアに向け
躍りかかってきた。それを予想していたかのように、アメリアは呪文を
完成させる。
「炸弾陣!(ディル・ブランド!)」
「何!?」
力ある言葉(カオス・ワーズ)に導かれ、アメリアの足下より土砂を巻き上げた
力の奔流が、ドーナツ状に巻き起こる。
「ぶっふわあ!」
情けない声を上げ、男達は放射状に吹き飛ばされた。威力は弱めてあるのか、
地面に叩き付けられながらも、何とかその身を起こす。
「・・・っきしょ、魔術か!」
リーダーらしき男が唸ると、懐から何かを取り出し、口に含んだ。

ぴりぃぃぃ!
甲高い音が男の口元から発せられる。笛か何かのようだ。
「へっ、俺らの庭に踏み込んだのが運の尽きだぜ。これだけじゃねーんだな、
 今に仲間が駆けつけてくる。只で済むと思うなよ!!」
「いくら人数が増えたとて同じ事!悪事を働く輩ならば、立ち向かうのみ!!」
問答無用とばかりに、アメリアは次の呪文を唱え出す。その背に向けて、
いつの間にか忍び寄っていた二人の男が襲いかかった。
「させるか!」
鋭い声が後ろから響いたと思うと、二本の短剣が、アメリアに襲いかかる
二人の男の影を地面に縫いつける。殆ど同時に、二人の男の動きが封じられた。
「なにぃ!」
リーダーが動揺の声を上げる。アメリアが振り向いたその先に、
「!ゼルガディスさん!?」

荒い息をあげ、白ずくめの男は茂みの間から姿を現した。そして、止まることなく
腰からブロード・ソードを抜き放つと、リーダーの笛によって何処からともなく
召集し、襲いかかってきた仲間の男達を薙ぎ払う。
「どうして!?こんなに早く追いついてこられるなんて・・・」
いくら男の脚とはいえ、山一つ分の距離は離れていたはずなのだ。
アメリアは驚かずにはいられない。
「・・・どうして、だと?この道はなぁ、一度通ったことがあって近道を
 知っていたからだ。だから良かったようなものを、お前というヤツはぁ!」
更に襲いかかってきた夜盗の仲間をうち倒して、ゼルガディスは
アメリアへとにじり寄る。
「な、なな、なんですか!えーい、風裂球!(エアロ・ボム!)」
きゅどっ
その迫力に気圧されるように、アメリアの足は自然と後ずさる。ついでに、
唱えっぱなしにしていた呪文を、夜盗のリーダーに向けて解き放つ。
リーダーを含め、助太刀に来た二名の男達が圧縮された空気に弾き飛ばされた。
「何で、一人で出発などしたんだ!アメリア!」
ぼすっ がきぃぃん!
起き上がってきた男を、踏みつけて黙らせ、ゼルガディスは剣を振るう。
背後から斬りつけてきた男の、ショート・ソードが叩き落とされた。
「だって、だって!ゼルガディスさん、私の事避けてたじゃないですか!
 私が話があると言っても、聞いてくれなかったし!」
がずっ!
自分を羽交い締めにしようとした男の顔面に、後ろ向きのままアメリアは
拳を繰り出す。男は鼻血を吹き出して仰け反った。
「避けて等いない!話だって聞いていただろうが!・・・ちっ!
 爆風弾!(ブラム・ガッシュ!)」
きゅかかかかっ!!
凝縮された風の矢が、重い分銅の付いたネットをゼルガディスに向け放とうと
していた男に、ネットごと襲いかかる。細く編まれた捕捉用の投網を切り刻まれ
自分の足下に無数の風穴を開けられた男は動けなくなった。
「嘘です!避けてました!だって私の目を見てくれてなかったです!」
どごほぉん!
アメリアの放った右ストレートが、前方にいた夜盗の鳩尾にきれいに決まった。
男は口から泡を吹きながら倒れ、白目を剥いてそのまま動かなくなる。
「目を見て話さないからと言って、どうして一人で行ってしまうんだ!
 女の一人歩きはこんな風に襲ってくれと言っているようなモンだろうが!第一、
 お前は自分の立場を考えていないのか!?大国の姫さんが一人歩きなどするな!
 ・・・えぇい、こいつらはさっきっからうざったい!!
 風魔咆裂弾!!(ボム・ディ・ウィン!!)」
ごばぁぶわぁぁあっ!!!
ゼルガディスが振り向き様に放った高圧力の強風が、尚も二人に襲いかかろうと
していた男どもを、累々と倒れた者ともども吹き飛ばしてしまう。
「お前ら!痴話喧嘩したまま、戦うんじゃねぇええぇえ・・・」
夜盗のリーダーの叫び声だけが、空しく過ぎ去っていくのだった。

溜息とともに剣を鞘に収めると、ゼルガディスはアメリアに向き直る。
再びアメリアを詰問しようとして、ゼルガディスは息を呑んだ。
アメリアはゼルガディスを見据えていた、その大きな瞳一杯に涙を湛えて。
「あ、アメ・・・?」
「・・・・・・・・か。」
慌てるゼルガディスに、アメリアは声にならない言葉をぶつける。
「何?」
「―――・・・私の 立場なんて、今は・・・関係ないじゃないですかぁ!」
苦しげに絞り出した台詞を放つと、アメリアはゼルガディスに背を向け
走り出した。
「アメリア!?何処に行く!街道はそっちじゃ・・・くそっ!」
がむしゃらに走り出したアメリアは、樹木の生い茂る木立へと突っ込んでいく。
ゼルガディスは空しい台詞を吐き捨て、少女を追い掛けるしかないのであった。



がさざざざざざっ
足下に生い茂る下草を薙ぎ払いながら、アメリアは傾斜した山裾を走る。
涙は先に流れる滴を追うように、途切れることなく溢れ出す。
涙によってぼやける視界に構わず、アメリアは走り続けるしかなかった。
悔しさが、悲しさが溢れて仕方がない。
堰を切ってしまった感情を操る術をアメリアは知らない。
例え知っていたとしても、今はそれを実行する気など到底思いつかないだろう。
―――ゼルガディスさんの、莫迦!
アメリアは走りながら、只それだけを心の中で繰り返していた。

ずざささざささっ
先をゆく少女に追いつけるようスピードを上げ走りながら、ゼルガディスは何やら
嫌な予感がしていた。鬱蒼とした緑が辺りを覆い尽くす。少女は滅茶苦茶に
走りながらも、やや傾斜のきつい山肌を昇っていた。何かの意図があって
進んでいるとはとても思えない。
―――この先には何が?・・・否、このままで追いつくけば済むことか。
冷静で有れば、ゼルガディスにはこの先にある物に気が付いただろう。
そして何としてでもアメリアを止めていたはずだ。だが、早朝から続く
この珍道中に、ゼルガディスの精神回路はショート寸前であったのだ。

突然、前をゆく少女の身体が光に包まれた。
否、正確に言えば青色に吸い込まれたと言おうか。そして、
ゼルガディスは重要なことに気が付いた。これは、この先にあるのは―――――
「駄目だ!!アメリア、止まれ!止まってくれっ!!!」
悲鳴にも似た叫びが男の口から発せられた。その必死の様相にアメリアは
思わず振り向いてしまう。その足を止めぬまま・・・
「!?きゃあぁあああぁっ!!!」
がざばぎぃどざぁああっ!!
凄まじい音ともに、アメリアの姿がゼルガディスの視界からかき消える。
その瞬間、男の頭の中は真っ白となった。
「アメリアぁあああああぁっ!!!!」
もがくように手足をがむしゃらに動かし、這いつくばるかのように斜面を走る。
低い木立が己の皮膚を掠めるのも構わずに、ゼルガディスは光の先へと目指す。
ぽっかりと空いた青空へと続く光の中に辿り着くと、唱えてきた呪文を解き放つ。
「浮遊!!(レビティション!!)」
力ある言葉(カオス・ワーズ)に使役された風の精霊が、男の身体を取り巻く。
風の干渉力が身体に伝わらない内に、男は切り立った崖へとその身を躍らせた。
「アメリア!」
重力を無視して訪れた浮遊感を操り、ゼルガディスは視下に広がる断崖絶壁を
滑るようにして移動する。だが、男の探す少女の姿は見当たらない。
「アメリア!何処だっ、返事をしろぉっ!!」
声の限りに叫ぶ男に焦燥感が襲う。そして、あの悪夢までもが男に蘇ってきた。

―――――ショウジョハ、ジブンノマエカラ、イナクナル。

白すぎる肌。血の気の引いた唇。動かない細い指先。
その光景が頭の中をぐるぐると渦巻いてゆく。己の胸を締め付ける痛みは
今が最高潮を迎えていた。
―――・・・イヤダ・・・イやだ。だめだ。・・・駄目だ、居なくなるな!
「アメリア!!」
魂の叫びがゼルガディスの唇から放たれた。胸の内に降り積もった何かが
乾いた音を立てて砕け散る。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
男の頭上に何かの気配がした。振り仰いでみると、飛び降りてきた崖のすぐ下に
しがみつくかのように生えた一本の枯れ松。
その細い枝に両手を絡ませた少女の姿。

・・・どくん

鼓動が生まれた。一度は途絶えた脈打つ鼓動が。
ゼルガディスは意識をコントロールすると、少女がぶら下がる松の木へと近付く。
肩で切り揃えられた黒い髪。薄紅色の頬。珊瑚色の唇。こぼれそうな大きな瞳。
髪には枯れ枝が巻き付き、所々擦り切れてはいるが、少女は生きている。

どくん。

「―――この、莫迦。何故返事をしない。」
「〜〜〜〜〜ぜ がぃす んが、 めだ んてい から。」
しゃっくりをあげて、少女は合成獣の男を見据えた。
「何だって?」
「ゼルガ ディスさんが、今更 姫 んて、言うからっ うぅ・・・」
ぼろぼろぼろぼろぼろ。
ガラス玉かと思えるほどの、透き通った丸い滴が少女の瞳からこぼれ落ちる。
「お前さんは、セイルーンの王女だろう。・・・それは変わるまい。」
「だって・・・だって!言ったじゃな ですか、性別なんてただ 器だって。
 そう言ってく れたの、ゼルガディスさんじゃ ないですかっ・・・!」
真っ直ぐに男の視線を捉えて、アメリアは真摯に訴える。
「性別が 器なら、王女なん て只の飾りで す。小さ な器に乗った 飾り。
 ・・・ゼルガディ スさんは、そんなの気に する方じゃないと 思ってたのに
 違うんで すか?・・・だから、私のこ と、避けてたん ですか?」

どくん。

所々をしゃっくりが途切れさすが、アメリアはそれでも構わず続けた。
ゼルガディスは目から鱗が落ちる思いだった。
自分を、瞬きさえ許さぬ瞳で見据える少女を、ゼルガディスは見つめる。 
「・・・お前さんは、俺に避けらていたと思って頭に来て、今朝、
 あんな置き手紙をして、一人で宿を飛び出したのか?」
こくり
少女が黙って頷いた。
「・・・さっきは今更お姫様と言われて頭に来て、頭に血が上って走り出して、
 前に気付かずに、この崖から落っこちたというのか?」
こくり
少女は、又黙って頷いた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ゼルガディスはがっくりとうなだれる。
「だ、だって。ひっく。ゼルガディスさ んが悪いんですぅぅううぅっ。」
泣いているのか、訴えているのか分からない様子で、アメリアは
ゼルガディスを見つめる。男の様子に、呆れられていると感じたのか、
その頬は、うっすらと紅潮してきた。
「私だって うぅ。好きで一人に ひっく。なったんじゃ ないですぅ・・・
 ゼ ルガディスさ んが私のこと ぐすっ。避けるから・・・」
涙は後から後から、少女の瞳からこぼれ落ちる。
「私は ゼルガ ディスさんと うっく。一緒に 旅をしたかったん で
 すぅ・・・」

ガウリィの救出、リナとの別行動、シルフィールへの煩い。その
焦りと、不安と、心配の中。
一人で食べた味気ない食事。目の前で閉じられてしまった扉。そして何より、
自分を見てくれなかった合成獣の男。
ほんの数日の間の出来事が、アメリアの心に小さな影を生んでいた。
「ほんとは ゼルガ ディスさんと、離れたくなんか ないんです・・・」
ぽつりと、少女の唇から言葉が紡ぎ出される。
「・・・ゼルガディスさんの 側に 居たいんです・・・」
ふわり
松の枝にぶら下がっていたアメリアの身体が、重力を無視して宙に浮いた。
目の前の男が、少女を抱えたからだ。
「―――お前さんは・・・どこまでお人好しなんだ・・・」
「?ゼルガディスさん・・・?」
合成獣の男の腕の中で、少女は男の顔を見上げた。
その表情は髪の毛に隠れて、伺い知ることは出来ない。
「こんな、合成獣の姿をした男の側に、誰が居たいと、思うんだ・・・」
本来のこの男の言葉にしては、弱々しいものだった。何かを諦めるような
そんな響きがあった。だから、アメリアは声を上げずにはいれらない。
「そんなの!そんなの関係ないじゃないですか。他の人がどう思おうと、
 どんな姿をしていようと、ゼルガディスさんはゼルガディスさんです!
 強くて、何でも知っていて、ちょっと無愛想なところもあるけど、
 私の知っているゼルガディスさんに、変わりはありません!
 だからこそ・・・!」
アメリアは夢中で叫んでいた。少女の両手は男の胸倉を掴んで離さない。
「だから・・・私は・・・」
「アメリア・・・」

どくん どくん。

少女と男の目が合う。只真っ直ぐに、瞬きをするのも忘れるくらいに。
「私はそんなゼルガディスさんの側に居たいんです。」
「・・・お前さんというヤツは・・・」
ゼルガディスの左手がアメリアの黒い髪に触れる。大事なものでも扱うように
男の腕は、少女の頭を己の胸にそっと押しつけた。
「―――お前さんには敵わない・・・」

優しげな男の言葉が、頭上から響いた。その途端に少女の瞳から、
又暖かな滴が溢れ出した。先程までの悲しい気持ちからではない。
たった少しの素っ気ない言葉なのに、何故か胸が熱くなった。
「・・・もう泣くな。瞳が溶けてなくなるぞ。」
再び頭上から声が届く。今度は軽い揶揄が混じっている。いつもの男の物だった。
少女は涙で頬を濡らしながらも、満面の笑顔で男の顔を見上げる。
「そしたら それはゼルガディスさんのせいです。私の瞳が無くなったら、
 ゼルガディスさんの責任なんですから・・・!」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

日は未だ高い。今日も天気は良好。そして、サイラーグへの旅路は続く。

「よし、街道はこっちだ。行くぞ。」
森を抜け、再びサイラーグへの街道に辿り着くと、ゼルガディスは後ろを
振り返る。男の口数は相変わらず少ないが、その視界には必ず少女を捉えていた。
アメリアはその男の言葉に、これ以上ない笑顔で応える。
「はい!」
二人の旅の状況は変わらないが、互いの何かが変わろうとしていた。

この道の先には、人ざるモノが巨大な罠を張り巡らし、待ち構えている。
それでも、仲間の身を思う二人の歩みは止まらない。
波瀾万丈の結末を迎えるために、二人の旅は続く―――――



少女は初めてだった。離れたくないと感じた想いには。
青年は初めてだった。失いたくないと願った想いには。

けれど、人と人が出逢うと必ず別れが訪れる。別れるために人は出逢う。

天真爛漫な少女と、天涯孤独の青年がどういった結論を出すのか・・・
―――――今は只、見守っていたい。

【了】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

皆様、こんにちわ。お目汚しの魚の口です。
・・・くはぁーーー、終わりました。
お尻でっかちを直すことは学習出来ていませんでしたが(苦笑)、
いかがでしたでしょうか?(どきどき ひやひや)

考えなしの幕間で妄想も、取りあえずこれでお終いです。
ここまで読んで下さいまして、有り難うございました。
試行錯誤の繰り返しでしたが、ここまで繋げられて
自分としては、自己満足しております。アラは沢山ありますけどね(笑)。

最後に、残りのエピソードを少々考えております。
題して『巻末で妄想』・・・進歩はないですね(自爆)。

それでは、懲りずにこちらにお邪魔するときには、また
お付き合い願えますように。
でわでわ。

魚の口






 

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2489Re:幕間で妄想。その7。後。くが 11/22-22:27
記事番号2486へのコメント

今までシリアス街道まっしぐらのゼルが、手紙を受け取ってからの
壊れ方が(?)なんとも言えません。

良いぞ、ゼル(笑)

痴話喧嘩しながら夜盗と戦う二人に、もうドキドキ。
さすがのゼルもアメリアと一緒ではクールにきめる事は出来ないみたいですね。
夜盗にも突っ込まれてるし。良いぞ、ゼル(笑)

やっと2人向かい合う事が出来て良かったです。
もうゼルは避ける事なんて出来ないと思いますけど。
アメリアの瞳がなくなったら大変ですしね。
大告白もしてもらえた事ですし、男冥利につきるってもんだ。

「馬鹿」じゃなくて「莫迦」っていうのがいいですね。
「ったく、しょうがないなぁ」っていう風な「でも、好き」みたいな
意味合いに取れて、魚の口さんの言葉のこだわりを感じました。

次の「巻末で妄想」も楽しみにしてます。
妄想バンザイ!!

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2490毎度本当に有り難うございます。魚の口 11/23-00:21
記事番号2489へのコメント

くがさんこんばんわ、またまた感想を頂きまして、有り難うございます!

>今までシリアス街道まっしぐらのゼルが、手紙を受け取ってからの
>壊れ方が(?)なんとも言えません。
>良いぞ、ゼル(笑)

両極端で申し訳なかったですけど、なんかこうゼルやんって
クールに決めようとしているか、ギャグになっているかどちらかの
様な気がしまして(笑)。あぁなってしまいました。

>痴話喧嘩しながら夜盗と戦う二人に、もうドキドキ。
>さすがのゼルもアメリアと一緒ではクールにきめる事は出来ないみたいですね。
>夜盗にも突っ込まれてるし。良いぞ、ゼル(笑)

甘々も好きなんですけど、この二人の喧嘩にならない喧嘩も
又好きなんですよね。言い争いが痴話喧嘩にしか見えないところが(笑)。

>やっと2人向かい合う事が出来て良かったです。
>もうゼルは避ける事なんて出来ないと思いますけど。
>アメリアの瞳がなくなったら大変ですしね。
>大告白もしてもらえた事ですし、男冥利につきるってもんだ。

そう感じて頂けて、ほっとしております。これからがスタート地点
という意味も有るんですけどもね。『大告白』・・・いいですね(ぽっ)。
責任取って貰いたいのが本音かも知れません(苦笑)。

>「馬鹿」じゃなくて「莫迦」っていうのがいいですね。
>「ったく、しょうがないなぁ」っていう風な「でも、好き」みたいな
>意味合いに取れて、魚の口さんの言葉のこだわりを感じました。

「莫迦」の同類で、「阿呆(あほう)」というものあります(笑)。
昔々の某コ○ルト○庫のご本が元ネタですね(年がばれる)。
ニュアンスはくがさんが言われている通りです、漢字一つで感じが違って
見えるのって、面白いですよね。

>次の「巻末で妄想」も楽しみにしてます。
>妄想バンザイ!!

うぅ、そう言って頂けるのが、ほんっとうに嬉しいです。
内容としては、セイルーンへのご帰還までのつもりです。
もう少し、お待ち願えますように。頑張りますです!
でわでわ。

魚の口