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2505 | 挿話3―或いは屁理屈の極み。 | 魚の口 | 11/25-16:30 |
「ただ旅すること 全てはその中に」 穏やかな時間が流れる。 今まで、忘れていた。 降り注ぐ、暖かい光。 草の香りのする、風。 愛して止まない、安息の日々。 「ねぇ、ガウリィ。さっきあんた、ゼルと何話してたの?」 麗らかな日和の中を、二人の若い男女がゆく。 「んあ?・・・あぁ、前にな俺、あいつに聞いたことがあったんだ。」 「?へー、なにを?」 「あいつ、自分の身体を元に戻す方法、探してるだろ?」 「あぁ、そりゃあ必死にね。」 寄り添うのでもなく、馴れ馴れしくもなく。 「で、だ。元に戻ったら、一体どうすんだ?って聞いたんだよ。」 「ふーん、簡単にはいかないような気もするけど。そんで? ゼル、なんて言ったの?」 「そん時はな、『考えてもなかった』って言ったよ。」 つかず、けれど離れず、肩を並べて。 「考えてないぃ?・・・って、無理もないのか、今までは、考える暇もないし。」 「まーな、リナと一緒に居ちゃあ、そんな暇も・・・」 「なぁんか言った?ガウリィ?」 「・・・何でもないっス。」 この若い男女は、一体何処まで行くのだろうか。 「んで?さっきはその答えでも言ったって言うの?」 「あぁ、具体的には言わなかったが、少しだけ話してくれた。」 「ゼルのヤツも、あれで結構秘密主義よねぇ、だから根暗って言われんのよ。」 「ハハ、それだけ真剣だって事じゃねーの?」 一体、何時になったら素直になるのか。 「んーまあ、それがゼルのイイ処っちゃいいところなんだけど、もすこしねー。」 「もう少ししゃべんないと、アメリアが可愛そうってか?」 「をう!?ガウリィが色恋沙汰に気が付いてるなんてっ!?天変地異の 前触れかしら!」 敵に向かえば、一心同体。 「・・・お前さんは俺のことをどう・・・いや、いい。俺だってシルフィールに 聞いたんだしな。」 「シルフィールに?ふーん、彼女にねぇ。」 「なんだよ、リナ。急にそっぽ向いて・・・おーい、リーナー?」 絶妙なコンビネーションを発揮するというのに。 「そんで?シルフィールはあんたに何て教えたのよ、あの二人のこと。」 「お、こっち向いた。『誰かさん達みたいに、歯痒いから手を貸してしまう』 だって。・・・その誰かさん達って誰のことなんだろうな?」 「・・・さあて、だーれの事かしらねー?」 事、互いの思いとなるとはぐらかしてしまう。 「何だ、知ってんのか?一体誰のことなんだ?」 「知らない。・・・そっか、だからシルフィール、無理矢理ゼルのこと セイルーンまでの護衛だっつって、連れて行ったのね。」 「?ま、いっか。・・・ゼルのヤツも、満更じゃなかったんじゃないか。案外。」 どっちもどっちというか、何というか。 「女二人に囲まれてるから?そういや、両手に華よね、今のあいつ。」 「両手・・・イヤ、そうじゃなくてさ。」 「何よ。男の夢じゃないの、カワイコちゃんはべらかして。」 「何だそりゃ?最初の話だよ。『元に戻ったらどうすんだ?』の話。」 色気より、食い気のこの二人。 「あー、はいはい。あんたが妙なところに脱線するから・・・長い前振りね。」 「誰のせいだか・・・あ、イヤ。怒るなって、だから、ゼルはな この旅で見つけるって言ったんだよ。」 「この旅?元の身体に戻す方法を探す旅?それともセイルーンへの旅で?」 その道の行く手には、何が待ち構えているのか。 「さー、そこまでは言わなかったからな。只『この旅でハッキリさせる』って。」 「・・・ふーん、はっきりねぇ・・・見付かるとイイけど。」 「だな!元の姿に、戻れればいいな。」 「見つけると言えば・・・」 どんな困難が、二人を阻むのか。 「ん?」 「あたし達だって、見つけなきゃなんないのよ!?あんたの剣。忘れたの?」 「俺は別に何だっていいんだけど・・・」 「そーもいかないわよ!ちゃんとした魔力剣じゃないと、この先困るじゃない。」 どんな結末が、二人に訪れるのか。 「・・・そーいうもんかぁ?」 「そーいうもんなの!ほら、立ち止まらないで、行くわよ!」 「はいはい、お前さんの言う通りにしますよ。」 「返事は一つでいいの、分かった?ガウリィ!?」 それは、神のみぞ知る処・・・ 「分かった、行こうリナ!」 「宜しい!行くわよガウリィ!!」 愛して止まない、安息の日々。 心地よい、水の流れ。 何処までも続く、空。 今は、只ゆっくりと。 戦士達の、休息。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こんにちわ、魚の口です。またまたこちらにお邪魔致します。 えー、作中リナちゃんが言っていた通り、長い前振りですが、 「巻末で妄想」の導入部として、書きました。 二人とはこれから別れてしまうので、折角だし・・・と、 二人だけの会話形式です。分かりずらかっただすみませんね。 「巻末」の方のネタは、まだまだ浮かばないんですけど、 今度は自分の妄想の赴くまま、書いてみようかなーなんて(苦笑)。 本編の最終巻で、姫とゼルやんがどういう扱いなのか、気になる処なんですがね。 (最後の最後まで出てこないのかなー?ちらりとも・・・) 姫の番外編はすぺしゃるに収録されたのに、ゼルやんの方ってどうなったんでしょ 有りましたよね、確か・・・?私の気のせいだったのかな。 神坂先生が考えては有る。という、ゼルやんの元に戻れる方法も気になる処です。 エー、長くなりました。取りあえず、頑張って考えている最中です。 又、懲りずにこちらにお邪魔できますよう祈りつつ。 でわでわ。 魚の口 |
2515 | Re:挿話3―或いは屁理屈の極み。 | うさびん | 11/27-00:43 |
記事番号2505へのコメント こんにちはー。読ませていただきましたー。 リナとガウリイの日常会話ですね。ガウリイの剣探しにいこーっていうのも 「一緒に」っていうのが前提だし二人はまさに一心同体ですよね。 それとリナってゼルとアメリアのことに関してはいろいろお節介なのに、自分のこととなると まだまだ・・・ってかんじしました。 ところで私も小説の方、気になります。ゼルについてちゃんと結末を書いてくれるのか不安。 あとがきだったかな、「考えてあります」みたいなこと書いてあったような・・・。 でも、ゼルファンの私としては、殺すのだけはやめてほしいなあ(あと、ちょっと触れただけで終わり。とか) ・・・なんて思っている今日この頃です。 変に長くなりましたが、これからも楽しみにしているのでがんばってください。では。 |
2516 | お久しぶりです(わーい) | 魚の口 | 11/27-11:51 |
記事番号2515へのコメント うさぴんさんこんにちわ、コメント頂きまして、有り難うございます。 長々と続けていたのを、読んで頂いたようでして、 本当に有り難うございます。 えー、「巻末」の内容としましては、後ろ暗いモノには するつもりはないので、ご安心(?)下さいませ。 自分、やっぱりハッピーエンドが基本的に好きなモノですから、 ゼルやんには(勿論姫にも)幸せになってもらいたいと、考えてます。 でも、それにはちょっと簡単にはいかないような、そんな気もしますので、 その辺が悩み所になっております。 もうちょっと、まとめさせて下さいね。うさぴんさんのお気に召すような モノに仕上がればいいのですが、頑張って考えていますので・・・ でわでわ、「巻末で妄想」で、又お会いできますように。(ぺこり) 魚の口 |
2521 | 巻末で妄想。その1。 | 魚の口 | 11/29-23:55 |
記事番号2505へのコメント 「お前さんの考え、出たのか?」 「・・・いや、まだだ。だが、手掛かりは見つけた気がする。」 「そうか。・・・見付かるといいな。」 「あぁ、見つけるさ。この旅でハッキリさせたい。」 そう言い残して男は背を向けると、宛てのない旅へと歩き出した。 己の中の答えを求めて――――― ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 宛てのない旅。哀愁の後ろ姿。男の浪漫。 思わず「XXXX!カンバーック!!」と、叫んでみたくなるようなシーンだ。 自分の後ろ姿を悲しげに見送る仲間の顔を想像して、男は思わず己に酔う。だが、 「ゼルガディスさん!」 「逃がしませんよ!」 自分の背後から、ステレオ効果で己を止める声がした。 わしっ! 次いで、左右同時の方向から、華奢な腕が伸び男の腕を拘束する。 「な、何をする!?」 「格好付けて退場して誤魔化そうとしても、ダメですよ!!」 右腕を掴む少女が、その小さな身体には不釣り合いの力で、男の歩みを止めた。 「そうそう、セイルーンまでの護衛、お願いしますよ?」 左腕を掴む女性が、何やら面白そうに男に問い掛ける。 その台詞の内容を聞いて、男は慌てて女性を見た。 「ちょ、ちょっと待て。それは断っただろうが!俺にはやることが・・・」 「セイルーンには、ゼルガディスさんが探し求めているモノが有るかも知れません とも、言いましたよね、私。」 少女がにっこりと微笑んで、その男、ゼルガディスを見上げた。 「だから、セイルーンには真っ先に当たって、駄目だったと言ったろうが。」 「聞きました。だから、城の蔵書を調べてみましょうと、言ったんです。」 少女は諦めずに、ゼルガディスの顔を覗き込んだ。 その台詞に、男は少々引きつりながら答える。 「そ、それには及ばん。第一突然来た部外者に、おいそれと見せられる訳が ないだろう、うん、そうだ。な?だから、セイルーンへは二人で・・・」 何故か一人で納得し、ゼルガディスは逆に少女を諭すように話し出した。 その男の様子に、少女は最後の切り札を差し向ける。 「・・・ゼルガディスさん。私、見たんです。セイルーンの城の大奥にある、 王族の者しか入れない筈の蔵書室で・・・」 ざっと、血の気の引く音が聞こえた気がした。ゼルガディスは何故か慌てる。 「〜〜〜お まえ、お前アメリア・・・!?」 「へへー、ミルガズィアさんに治療されていた時、何だか思い出しちゃいました。 お話しませんでしたっけ♪」 てへっと笑って、少女、アメリアは答えた。 だくだくだくだく 「き、きき聞きぃ・・・(滝汗)」 大量の冷や汗を流しながら、ゼルガディスは硬直する。 「一緒にセイルーンまで来てくれないんでしたら、お城の不法侵入者として 人相画の手配掛けちゃおうかな♪ね?ゼルガディスさん(はあと)」 少女が右側から、あどけない笑顔を向ける。 「そういうことですので、セイルーンまでの護衛、お願い致しますね?」 左側からは、長く真っ直ぐな黒髪の女性が、やっぱり楽しそうに問い掛けた。 「し、シルフィール・・・お前アメリアとつるんだな・・・」 ゼルガディスが苦しげにそう言うと、シルフィールはにっこりと微笑んだ。 「勿論、報酬はお払いしますし、ご自分のお身体を元に戻す方法が、 見付かるかもしれないし、で一石二鳥!・・・良かったですね、 ゼルガディスさん。」 「〜〜〜〜〜」 最早返す言葉も失って、ゼルガディスはがっくりと肩を落とす。 「いいお天気ですね!ゼルガディスさん!!」 セイルーンへと向かう街道の道すがら、アメリアは嬉しそうに合成獣の男に 声を掛けた。 「・・・そうだな。」 ゼルガディスはちらりとだけアメリアを見て、ぼそりと呟く。 ―――眠りでも掛けて、トンズラするかな。 等と物騒なことが、頭を掠めると。 「あ、スリーピングを私達に掛けて姿を消したりしたら、即『手配』ですからね」 ぎくり 白ずくめで、更に顔の半ばをマスクで隠しているゼルガディスの、どの辺から 察するのか、アメリアは男の考えていることを見事に言い当てた。 「・・・分かった。」 ややげんなりとした返答をした男の背後から、シルフィールの声が掛かる。 「まさか、こんな街道にか弱い女性二人を残して、遁走しようなんて事、 お考えになりませんよね?ゼルガディスさん。」 ぴた ゼルガディスの歩みが止まる。くるぅりとシルフィールへと振り返ると、 ゼルガディスは正統派美女を、ひたと挑戦的に睨み据えた。 「一つだけ言いたいことがある。」 「あら、何でしょう?」 にっこりと微笑んで、シルフィールは受けて立った。 「・・・この世界の何処に、魔族を拳でド突き倒したり、花嫁修業として 竜破斬(ドラグ・スレイブ)修得する『か弱い』女性が居るんだ!? それなのに護衛が必要だなんて、聞いて呆れるわっ!」 「呪文を唱えられなければ、希代の女魔道士だろうと、誰であろうと 『か弱い』女性です。違いますか?」 ゼルガディスとしては、精一杯の嫌味のつもりだったのだが、正論を ぶつけられてはバツが悪く、黙るしかなかった。 「〜〜〜〜〜・・・悪かった、行こう。」 短くそう言うと、ゼルガディスは女性二人に背を向け再び歩き出す。 だから、知らなかった。 自分が背を向けたすぐ後ろで、アメリアとシルフィールが 揃って小さく舌を出していたことに。 そう、女性はしたたかなのである。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こんばんわ、お目汚しの魚の口です。 とうとう「巻末で妄想」始めてしまいました。 十分にネタは集まってないんですが、 このままだと折角芽生えた意欲が萎えてしまいそうだったので、 見切り発車同然だったりなんかして(苦笑)。 暫くは、短いですがこそこそと進めてみようかなーと。 シルフィールのキャラが全然違うのが、心苦しい処なんですが、 姫とゼルやんのお節介役として、活躍して貰おうかと思っております。 それでは、又こちらにお邪魔するときには、こんな物しか書けませんが、 読んで頂けますよう、祈りつつ。 でわでわ。 魚の口 |
2525 | 巻末で妄想。その2。 | 魚の口 | 11/30-20:10 |
記事番号2505へのコメント ライゼール帝国領。 国境に程近い森を通過中に、一行は霧に見回れてしまっていた。 森の中を漂う白い靄は、幻想的な雰囲気を醸し出すのだが、旅人には嫌われ物だ。 そのまま歩いていれば、やがて着ている物がじっとりと湿ってしまうし、 同じ様な木々が続く森の中では、迷うことさえ有るのだ。 「仕方ない、この辺で霧が晴れるのを待とう。」 白ずくめの男、ゼルガディスが少し森の中へ入り込み、手頃な大木の下に 自分の手荷物を置いた。二人の女性陣もそれに従う。 「昨夜の雨のせいで、一層霧が深くなってしまいましたね。」 長い黒髪の女性、シルフィールが男に話しかける。 ゼルガディスも頷きながら、自分の荷物を紐解き始めた。 「そうだな。しかし、ここで少し様子を見ていれば、午後にはこの霧も晴れて 幾らかマシになるだろう。」 「じゃあ、お昼はこの森で済ませるんですか?」 肩で切り揃えた黒髪の大きな瞳の少女が、同じように男に話しかけてきた。 「なんだ、腹減ったのか?アメリア。」 「え、へへ。はいぃ(赤面)。」 呆れたように聞かれ、少女はちょっとだけ恥ずかしくなった。 「朝飯はしっかり過ぎるほど食べていたのに、もう腹が減ったとは。 胃袋の大きさが、誰かさん達に似てきたんじゃないのか?」 今は別れてしまったが、大食漢の仲間二人の顔が浮かんで、アメリアは慌てた。 「そ、育ち盛りなんですってば。それに一日のスタートには朝食をしっかり 摂るのが基本なんです!そうでなくては正義を貫けません!」 言い返す勢いとは裏腹に、自分でも気が付くと食事量が以前からすれば 格段に増えていると感じているので、自然と最もらしい理由付けを口走る。 「・・・そうかそうか。」 思っていることがすっかり顔に出ているとも知らずに、強気に言い返す 少女の姿が可笑しくて、ゼルガディスは笑いを堪えて返事をした。 「あ!ゼルガディスさん、笑ってますね!?信じてませんね!?」 思わずムキになってゼルガディスに食ってかかったアメリアだが、 男が笑いながら差し出した携帯用の水入れに阻まれてしまう。 「分かった分かった。昼飯の用意もするから、お前さんは水を出してくれ。」 尚も笑いを堪えている男の様子に、納得がいかないアメリアだったが、自分の 役割をこなす為に、浄結水(アクア・クリエイト)の呪文を唱えるのだった。 ◇ ぱちぱち 昼食の準備のため起こした火が、時折はぜて乾いた音を立てる。 ゼルガディスが起こした火だ。 キャンプを張った付近に倒れていた倒木から、適当な大きさに木を切り出してきて 炎の矢(フレア・アロー)で、いきなり炭化させてしまう。 昨夜の雨で湿っていた木も、炭にしてしまえば使えるのである。 その炭を地面も濡れているので、その辺に転がっていた適当な岩を乾かし、 その上で火を起こしたのだ。 同じように人数分の岩も乾かし、三人は腰を据えていた。 ゼルガディスは更に荷物の中から取り出した粉に、アメリアが用意した真水を少し 加えてこね始めた。適度な粘りけが出てきたところで、予め洗って置いた木の棒を 取り出す。練り上げた種を幾等分かにして、その等分した種を更に棒状に伸ばし、 用意した木の棒にくるくると巻き付ける。出来上がったものを火を起こした 石の周りに突き刺した。 一連の作業を一巡すると、木の棒と等分した種を女性陣に差し出す。 「手伝ってくれ、今と同じ要領で巻き付けて、そこに突き刺せばいい。」 「あ、はーい。」 ゼルガディスのすることを、今までじぃーっと見ていたアメリアが受け取り、 シルフィールも手伝って種を巻き付け始めた。 「・・・ゼルガディスさんて、本当に何でも出来るんですね。凄いなぁ。」 手を動かしながら、又別の作業を始めた男を見つめて、アメリアは素直に 感嘆の声を上げた。 「そうですね、湿った木を焚き付ける方法をご存知でしたし、お料理の 手際も女の私よりもいいしで、何だか申し訳ないですね。」 隣に座ったシルフィールまで、すまなそうにゼルガディスを見た。 女性陣の褒めちぎりに、ゼルガディスの顔色が心持ち赤くなる。 「そ、そう言ってくれるのは嬉しいが、俺のは単に慣れだ。根無し草だと きちんとした宿に泊まれない時だって有る。必要に迫られての苦肉の策だ。」 そう言ってくるりと背を向け、洗った拳大の石に先程のように魔法の火を当てる。 熱を纏った石を携帯用の水入れに放り込むと、中の真水は一瞬の内に湯となった。 「・・・でも、やっぱり凄いなぁ。」 アメリアは、改めて感心の眼差しでゼルガディスを見つめるのであった。 ぱちぱち 一行の前にした火からは、香ばしい匂いが立ち上り始めていた。 火に当てていた粉を練った物が、きつね色に焼き上がっているのだ。 「好い匂いですねー、おいしそー。」 その香りに食欲を更に刺激されるのか、アメリアは鼻を近づける。 「もうそろそろいいだろう、普通に焼いたパンと違うから暖かい内に食べてくれ。 じゃないと堅くなってしまうんだ。」 携帯用カップに注いだハーブティを差し出して、ゼルガディスは二人に注意する。 「わーい、早速頂きまぁす(はあと)。」 「私も、頂きます。」 女性陣が焼き上がった簡易パンを口にする。ほこほこと暖かい、素朴な味わいが 口の中に広がった。 「「美味しいです(ですぅ)」」 殆ど同時に、アメリアとシルフィールは感嘆の声を上げた。 「そうか、こんなモンで悪いな。」 ほっとした表情で、ゼルガディスは自分も出来上がった簡易パンを口に放り込む。 「こんなモンだなんて、十分ですよ!それに干し肉とチーズがあるんだし、 これだけあれば立派なご飯です。」 大国の王女という肩書きがこの少女にはあるのだというのに、本人すら 忘れているのではと思うほど、アメリアは質素な食事に文句を言うどころか 有り難く食べているのだ。 「そんなに感心するモンでもないと思うがな。」 嫌味ではなく、苦笑いを浮かべながら、ゼルガディスはアメリアを見た。 「いえ!美味しいものを作って頂いたんですから、感謝して食べなくては 作った方に、ゼルガディスさんに失礼です。私はそう思うんです!」 だからどうして力説になるのか、お姫様らしくないお姫様は立ち上がると、 あさっての方向をびしっと指差す。 その様子に面食らいながらも、ゼルガディスとシルフィールは目が合うと、 微笑まずにはいられなかった。 そんなアメリアの、良い処が堪らずに可笑しくて。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こんばんわ、魚の口でございます。 またまた、短いですが巻末で妄想如何でしたでしょうか? ゼルやんのアウトドアクッキングは、書きたかったネタの一つです。 合成獣の姿を忌み嫌う彼は、四人で旅するまではさぞかし町とかにも 泊まるのは極力避けていたのでは?等、へんに勘繰ったりなんかして(笑)。 んで、野宿慣れした彼は次第に、簡単な調理なら事もなくやり遂げたりする・・・ そんな妄想から出来上がったのが、今回のお話であります。 私的な意見ですが、料理できる男の人って格好いいなと思っているものでして。 サバイバル生活もモノともしない、ワイルドな男の人って頼りがいがありそう。 でも、だからといって何日もお風呂に入らなくても気にしない男の人とは 訳が違うんですけどね(笑)。おっと、変なことを書きました。 それでは又こちらにお邪魔するときには、読んで頂けますよう祈りつつ。 でわでわ。 魚の口 |
2528 | 巻末で妄想。その3。 | 魚の口 | 12/2-00:00 |
記事番号2505へのコメント オレンジ色に輝く夕日が、西の地平線へ押し迫ろうとしていた夕暮れ。 これ以上進むと次の宿場町に着く頃には真夜中になってしまう為、一行は 街道から少し外れた、小さな村の小さな宿に泊まることにした。 村にたった一軒のこの宿は、初老の夫婦だけで切り盛りしている簡素な宿だった。 「こんな田舎の宿に、ようこそいらした。狭いとこですが、ゆっくりしていって 下され。」 受付に佇んだこの宿の主人は、綺麗に染まった白髪に同じ様な白い口ひげを蓄え、 暖かに一行を迎える。だが、ふと主人が顔を上げた時、その表情が一瞬 固まったのを白ずくめの男、ゼルガディスは見逃さなかった。違和感があったのは それが自分に向けられた視線ではなく、旅の連れ、アメリアとシルフィールに 向けられたものだったからだ。 ―――何だ?訝られるのは、俺の方だろうに・・・ すでに主人は女性陣を案内するために、何喰わぬ顔で二人の手荷物を受け取り 歩き出している。合成獣の男は取りあえず、その後について歩き出した。 丁度夕食の下ごしらえを始めた頃なのだろうか、食堂とおぼしきフロアの 少し奥まったキッチンからは、鼻腔を擽る好い匂いが漂っている。 一行が主人の案内によって、二階のそれぞれの部屋へと移動しようとした時、 そのキッチンの中から、ものすごい音が響いてきた。 がたぁんごわららららんっ! 「「何(だ)!?」」 「厨房の方から・・・」 ゼルガディスとアメリアが慌ててそちらに振り向き、シルフィールが キッチンの方を向きながら答える。 その言葉に一行の先頭にいた主人が、上り掛けていた階段を下り始めた。 「・・・失礼、家内がどうかしたようだ・・・ちょっと様子を見てきますんで。」 ゆっくりと、しかしその表情は少し心配そうに、主人は一行に断るとキッチンへと 足を向けた。その後ろ姿を見送って、一行も互いに頷くと後に続く。 「おまえ、どうした?凄い音がしたようだが・・・」 カウンターの跳ね上げ板を上げて主人が厨房へと入ると、鍋やら蓋やら粉の入った 袋などが散乱したその下に、やはり白く染まった髪を丁寧に編み上げ、その髪に スカーフを巻き付けた老婦人が横たわっていた。 「!大丈夫か?怪我は・・・」 「あ、あなた・・・だい、だいじょう・・・!!」 駆けつけた夫に気付いた女将が、身体を起こそうとしてその身を強ばらせる。 そろそろと左手で腰を押さえる妻を見て、主人は狼狽する。 「腰をやったか、困ったな今日は村医者が・・・」 「手を貸そう。取りあえず隣の食堂へ。アメリア、治癒(リカバリィ)を・・・」 背後でした気配に主人が振り向くと、白ずくめの男が女将の打ち付けた腰を 庇うように自分の背に乗せ、側にいた少女に指示を出すと慎重に歩き出した。 「あっ、お客さんにそんな・・・」 困惑した表情で主人は代わろうとするのだが、さらりと伸ばした黒髪の女性が、 にこやかに主人を止める。 「お気になさらずに、ご主人。困ったときはお互い様と言いますでしょ?」 「あ、あんた達は・・・」 何故だか苦しげに声を紡ぎだし、主人はシルフィールの姿を凝視する。 シルフィールはその視線に気付いて、にこやかに自己紹介をした。 「今は旅をしておりますが、私は神に仕える者です。奥様のお怪我でしたら ご心配せずに、私どもが治療いたしますので。」 主人はその視線をシルフィールからおぶわれた妻へと向きなおす。と、丁度 食堂の椅子に座らせられるところだった。一行の内、巫女の略装を纏った少女が 祈りとともに、女将の回復を願う。 「治癒(リカバリィ)」 珊瑚色の唇から力ある言葉(カオス・ワーズ)が紡ぎ出されると、 老婦人の腰へと差し出した両手に光が集まり、やがてその光は収束して一点へと 消えた。集中していた意識を戻し、少女は女将の顔を覗き込むように問い掛けた。 「・・・どうでしょう?痛みは取れましたか?」 「えぇ、えぇ大丈夫。大分治まりましたわ。」 女将はにっこりと微笑んで、少女の手を取る。 「こんな田舎で巫女様に怪我を直して貰えるなんて、有り難いことです。」 「困った方が居たときは手を差し伸べるのが正義の勤め、当然のことです。」 アメリアは女将に握られた手に、更に自分の手を重ねて笑った。 その様子にほっとしながらも、主人が躊躇いがちに申し出る。 「お客の神官様に治療をして頂いたなんて、診察料はおいくらになりますか? それから、先程頂いた宿賃は後ほどお返ししますんで・・・」 「まぁ、何を言いますか。そんなつもりじゃないのですから、お気になさらずにと 言ったじゃありませんか。」 シルフィールが慌てて主人に向き直った。 「神官様の手に掛かるのは、普通の医者に診て貰うより、手間賃が掛かると 聞いとります。それなのに、更に宿の宿泊費を取ろうだなんて、 儂の気が治まらんのですわ。」 「そんな、ご主人・・・」 尚も主人の申し出を拒むシルフィールに、アメリアも同調する 「そうです、先程も言ったように困った人を助けるのは私達の仕事、お金なんて 頂けません!」 「・・・・・・そんな・・・」 きっぱりと言い切ったアメリアの顔を、穴が空くかと思うほど見つめて、 主人は深い、深い溜息を吐いた。 「―――あん時に、あんた達に出会えていればもしかしたら・・・」 「あなた・・・」 腰の痛みが引いた女将が立ち上がり、夫に近付きながら躊躇いがちに声を掛ける。 その妻の様子に気付いて、主人は顔を上げた。 「あぁ、そうだ。もう昔の話だったな。どれ、儂は風呂を焚き付ける薪の 用意でもするかい。」 主人は早口でそう言うと、その場から逃げるように勝手口へと消えた。 後に残された一行の視線が、自然と女将へと集まる。一連のやりとりを 今まで無言で見つめていたゼルガディスが、口を開いた。 「・・・ご主人は、神官や巫女に何か苦い思い出でもあるのか?」 「え?」 合成獣の男の台詞に、アメリアが物問いた気な視線を向ける。男がそのまま女将を 見据えているので、仕方なく自分もそれに習った。 やがて、女将が静かに口を開く。 「・・・昔、今から十年前に私達の一人息子が、この宿の屋根を修理していた時 前の日に降った雨のため湿っていた屋根に、足を滑らせて落ちてしまいました。 この村の医者にすぐに見せましたが、折れたあばら骨が・・・ 内臓にまで達していたそうで・・・・・・自分の手には負えないと、この村から 少し離れた神殿の神官に頼むように言われたんです。私は宿の留守を任され、 主人が息子を荷馬車に乗せ、神殿に向かったのですが・・・」 「助けられなかったんですか!?」 目を伏せた女将の様子に堪りかねて、アメリアは声を上げていた。 「何処のモグリ神殿ですかっ!?復活(リザレクション)が扱えない神官しか いない神殿だなんて!?」 「詳しくは主人が話してくれなくて・・・いえ、話したくないのかもしれません」 女将は息子の面影を思い出してしまったのか、そっと目頭を押さえた。 ゼルガディスがすまなそうに女将を見る。 「済まない、辛いことを思い出させてしまったな。」 「いえ、いいんですのよ。昔の・・・話ですから。」 言いながら女将は微かに首を振った。そして、やおらぱっと顔を上げた。 「―――さっ、御夕食の支度をしなくちゃね。ごめんなさいね、お腹がすいて いるのでしょうに、変なお話を聞かせたりして。」 この沈んでしまった空気を変える為に、女将は気持ちを切り替えてキッチンへと 向かおうとする。その健気な姿に、アメリアは大きな瞳をうるうるさせて、 女将の前に立ちふさがった。 「お手伝いします!いいえ、させて下さい!女将さん!!」 「私も、手伝いますわ。手が多ければ、それだけ早く用意が出来ますしね?」 シルフィールも女将の側に近付いて、にっこりと微笑んだ。 「まぁ、そんな!?治療をして頂いた上に、そんな事までして頂くわけには・・・ 主人に叱られてしまいます!!」 慌てる女将に、女性陣二人はいいからいいからと、厨房へ押し入ってしまう。 その様子に薄笑いを浮かべ、ゼルガディスはゆっくりと背を向けると 勝手口の方向へと歩き出していた。 ◇ がっ がららん 宿の裏手ではランタンの明かりの下、主人が薪を割る姿があった。ゼルガディスは ランタンの光が差し掛かる付近で立ち止まると、主人に声を掛けた。 「・・・先程は失礼なことをしたかな。」 「!?あぁ、あんたですかい。何、もう済んだ事です、気にせんといて下さい。」 ゼルガディスの気配に気付き、主人は薪を割る手を止め、額に浮かんだ汗を 拭き取った。合成獣の男はその背に向けて、更に言葉を掛ける。 「女将が話してくれた。昔の話を蒸し返すようで悪いんだが、その神殿とは この村からどの位行ったところにあるのか、教えて貰えないだろうか?」 「聞いて、どうします?今は、もうその神殿なんか、ありゃしませんよ!」 がっ どがらん 再び斧を振るう腕に力を込めると、薪はまっぷたつに割れて転がった。 「・・・元からおかしな神殿だったんです、そんなところに駆け込んだ 儂らもいけなかったんだ。」 思い出したのか、吐き捨てるかのように主人は言い募る。 「おかしい?」 「とても神様を崇めている処とは思えませんでしたね。」 主人の言葉にゼルガディスは眉を寄せる。どんな場所だったというのだろうか。 「神殿が『神』を崇めないとは、確かにおかしいだろうな。」 「えぇ、本当に。・・・その神殿は儂らが訪ねた半月後くらいに、ぱったりと 居なくなっちまったんですわ。まぁ、今となっては、生々しますがね!」 がつっ ごがららん 渾身の力を込めてかち割った薪が、ゼルガディスの足下にまで転がる。 合成獣の男はそれを拾い上げて言った。 「手伝おう。まとめればいいんだな?」 「あぁ!いけません。これは儂等の仕事ですから・・・!?」 ひやり ゼルガディスが拾い上げた薪を、主人は慌てて受け取ろうとして、手が触れる。 その人肌とは思えない冷たさに、主人は息を呑んだ。次いで思わず顔を上げ、 合成獣の男の、僅かに晒された肌の色を見てしまう。 同じように、ゼルガディスの身体も一瞬強ばる。 ―――迂闊だった。くそっ! 「邪魔をしたっ!」 慌てて身を翻すゼルガディスの背に、声が掛かった。 「―――化け物とは血の通わん奴らに言う言葉ですわい・・・瀕死の息子を見て 『助けたかったら有り金残らず持ってこい』と言うような輩に・・・ 決して、倒れた赤の他人を咄嗟に助け起こしちまう男に言う言葉じゃない。 儂は、そう思おとります・・・」 ゆっくりと、ゼルガディスは振り返ってしまった。罵りではない言葉を自分に向け 発してくれた老齢の男性に・・・ 「手伝って・・・くれますかいな?」 人の好い笑みを見せ、主人はゼルガディスを見やる。合成獣の男はゆっくりと 息を吐き出した。 「あぁ・・・手伝おう・・・」 ◇ 好い匂いの漂う厨房内に、悲鳴に近い叫びが上がった。 「あれぇーー!?パイ生地に穴が空いて焼き上がってますぅぅ!」 「あらあら、生地を伸ばし過ぎちゃったのね?でも、次に挑戦するときには 力加減を均等にすれば、きっと上手くいくわよ?」 出来上がった惨めな代物に、アメリアは泣きそうになるのだが、女将は 現物を見ると、ステップアップのアドバイスを施した。 「・・・何の騒ぎだ?」 勝手口から姿を現したゼルガディスが、カウンター越しにキッチンを覗き込む。 「きゃーーっ!ゼルガディスさんは見ちゃ駄目です!席について 待っていて下さいぃ!!」 手近にあったテーブルクロスの替えを広げ厨房内を見せずに、アメリアは叫んだ。 「なんだなんだ。おまえ、お客さん方に手伝わせてるのか!?」 ゼルガディスに続いて食堂に入ってきた主人が、カウンターの跳ね板を上げ 女将に向かって言う。だが、女将も負けては居なかった。 「だって、急に娘が二人も出来たようで、楽しかったんだもの・・・あなただって 薪割りを手伝って貰ったんじゃなくて?」 「うっ。し、しかしなぁ・・・」 「もうすぐに出来上がるんですよ?それに、私達も楽しかったし、 いいじゃありませんか、ね?ご主人。」 言い淀む主人にシルフィールが宥める。アメリアもそれに同調した。 「今日のお客は私達だけだって言うじゃありませんか!?折角ですし、 皆さんで一緒に御夕飯にしましょうよ!!」 アメリアの純真な笑顔には勝てずに、結局主人も折れて、本日のお客と 宿の主夫婦は一緒のテーブルに付くのだった。 「・・・これは何かの顔にでもなっているのか?」 一人分に焼かれたキドニーパイを前に、ゼルガディスは考え込む。 穴が空いたまま焼き上がってしまったパイは、虚ろな目にぽっかりと 口を開けたかのような顔の形になっているのだ。 「う゛っ(大汗)、そんなつもりはなかったんですが・・・」 アメリアが胸の前で人差し指を合わせて、いじけている。 その様子にゼルガディスは、さもありなんと頷いた。 「お前さんが作ったのか、道理で・・・」 「道理で何なんですかっ(赤面)!・・・おかしいなーパイなら上手く作れると 思ったのにぃ。ぐすん。」 更にいじけだしたアメリアの前に、料理を盛ったプレートを差し出して、 女将が励ます。 「大丈夫。誰だって初めから上手く出来るとは限らないのよ?あなただって 練習すれば、すぐに綺麗に作れるわ。」 プレートにはチキンとトマトを数種のハーブを加え煮込んだものに、温野菜、 付け合わせのフェトチーネが美味しそうに湯気を上げている。テーブルの中央には 女将お手製のパンプディングが、デザートとして待機しているのだ。 「そうですよね、きっと上手く焼けますよね。」 美味しそうなものを前に、アメリアは一瞬のうちに幸せな気持ちになってしまう。 「やれやれ、現金なモノだ。」 更に茶々を入れるゼルガディスに、アメリアは負けじとこう言うのだ。 「いいんです!絶対上手くなって、何時かはゼルガディスさんの舌を 唸らせてやるんですからぁ!!」 暖かい食卓に、暖かい笑い声は何時までも続いているのだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こんばんわ、魚の口です。 今回は少し長めの妄想第三弾。如何でしたでしょうか? ちょっとだけ、今回には次のネタが絡んでおります。 バレバレですが、上手く続けられたらいいんですがね(笑)。 取りあえず、セイルーンまでのご帰還もそろそろ折り返し地点です。 もう少しこのまま、お付き合い下さいますように祈りつつ、 次の妄想でお会い致しましょう。 でわでわ。 魚の口 |
2529 | 巻末で妄想。その4。 | 魚の口 | 12/3-12:29 |
記事番号2505へのコメント 森に光が射し込んでいた。 放置されたトーテムポール、びっしりと蔦に覆われたこじんまりとした造りの 白亜の神殿。うわべだけを見れば、森の中に置き去りにされた神秘の神殿の ようだが、ここは夕べ泊まった宿で、話を聞いた例の神殿跡。 何故か気になるからと、旅の連れ、白ずくめの男は出立時に宿の主人に 場所を確認してきていたのだ。 「ゼルガディスさん、ここで何を探すんですか?」 男の隣に並んでいた少女が、顔に疑問符をぶら下げてゼルガディスを見上げた。 許すまじきモグリ神殿だということは分かっているモノの、糾弾すべき神官等は すでに居なく、目の前の神殿は荒廃しきっていたからだ。 「あぁ、ちょっと気になることがあってな。すまんが少し探索させてくれ。」 薄笑いを浮かべてゼルガディスはアメリアを見た。 「・・・ですがゼルガディスさん、何だかここ・・嫌な波動を感じますが・・・」 もう一人の旅の連れ、少女より少し年上のシルフィールが、整った眉を寄せ、 辺りを伺う。この女性の巫女たる何かが、この神殿が神を崇めていなかった事を 告げるのだろうか。 「え?そうなんですか??私は何も感じないのですけど?」 同じ巫女として、アメリアがシルフィールを省みた。 「えぇ、とても微弱なんですけど、確かにこの神殿から・・・」 シルフィールが半分以上蔦で覆われた神殿を見上げる。アメリアもそれにつられ 視線を背後の建物へと向ける。 「十年ほど前に放置されたらしい。お前さんは陽の気が強いから、この神殿の 陰気さを跳ね返すのだろう。」 気にするなと言うように、ゼルガディスは少女の頭に一瞬手を置くと、神殿へと 近付いてゆく。腰のブロード・ソードを抜き放つと一閃させ、入り口を阻んでいた 蔓を切り落とした。 「今は何もいないというが、まかりなりにも神殿と名の付く代物だ。 何があるかわからん。そこで待っていてくれ。」 そう言い残して、一人神殿の奥へと進もうとしたのだが、 「駄目です!私達も行きます!ゼルガディスさん一人を怪しい神殿の中になんか 送り込めません!ね、シルフィールさん!!」 自分の頭を左手で押さえていたアメリアが、元気に反論してシルフィールを見た。 シルフィールの方もアメリアに頷き、合成獣の男を見据える。 「そうです。悪霊でも住み着いていたら、貴方の方が危険じゃないですか。それに 何があるか分からないなら、仲間が二手に分かれる方が、よっぽど危険です。」 一理ある正論をぶつけられ、ゼルガディスは返す言葉に詰まるが、 何とか女性陣を止まらせようと振り返えり、 「ゼルガディスさん!!」 アメリアと目が合ってしまった。その瞬間がこの男の敗因と言っても 過言ではない。 「〜〜〜〜〜・・・分かった。二人とも俺の後ろから離れるなよ・・・」 「はいっ!!」 少女の真っ直ぐな視線は、ある意味最高の武器なのかもしれないと、 合成獣の男は思わずにはいられないのであった。 ◇ ゼルガディスを先頭に、一行は朽ち果てて久しい神殿の奥へと慎重に歩を進める。 正面の扉は鍵が壊されており、簡単に開けることが出来た。 扉を開けると、最初に広がった部屋は拝殿であった。普通の神殿の拝殿と 違う処は、ただがらんとしていることだ。本来あるべき参拝者用の長椅子は 全て取り払われ、部屋の奥の一段高くなった場所に、何かを奉っていたと 思われる出っ張りが、唯一この部屋の元の役割を物語るのみ。 視線を転じて左右の壁に向けると、丁度この部屋の半分あたりの左右対称の位置に 片開きの扉があるのだが、特に魔法が掛けられている様子もない、極普通の扉だ。 開けて中の様子を見ても、何もない。うっすらと埃が積もり、閉め切られていた 部屋の、独特の臭いがするだけ。 「扉はこの二つだけか。」 もう一度拝殿の中を見渡して、ゼルガディスは一人ごちる。 「向かいの部屋も同じように何もないですけど・・・何か足りないような?」 「そうですね、外見も小さな教会風でしたけど、なにか・・・」 アメリアとシルフィールが互いに視線を交わして、にわかに表情が変わった。 「そうだ!」 「本殿がありません!!」 互いを人差し指で指差し合い、そして二人同時にゼルガディスを見た。 「どんなに小さな神殿や教会でも、必ず神官や巫女にしか入れないような本殿が 用意されている筈なんです。それがここにはありません!」 シルフィールが拝殿を左手で示しながら、説明する。 「赤の竜神(スィーフィード)様や、四体の竜王様の寺院にしろ、本尊として 彫像や、縁ある物を奉るのが普通なんです。ですけど、ここにはそれらしい 痕も、それらしい部屋も見当たらない・・・十分、怪しいですね!」 後を引き継いだアメリアが、拳を握りその大きな瞳に力強い光を宿した。 「・・・隠し扉か、移動用の魔法陣でもあったかだが・・・」 二人の説明を聞き、ゼルガディスは顎に左手をやるが、しばし瞑目すると アメリアやシルフィールが、聞いたことのない呪文を唱えだした。 そのままゆっくりと跪き、剣を握っていた為左手を拝殿の床に押しつける。 「大地の力を司る地精よ 汝の姿を今此処に 我の声を聞き 我の声に応えよ」 ゼルガディスが宛った左手に光が生まれると、やがてその光は波紋状に床や壁を 這い伝うと天井の一点に収束し消える。その光が這い伝った軌跡あとに、 別の光が生まれる場所があった。一段高くなった祭壇のあっただろう場所だ。 「ゼルガディスさん、あそこ!」 アメリアが見逃さずに指を指す。シルフィールは合成獣の男を不思議そうに見た。 「今のはどういった魔法を・・・?」 「この神殿を構成する元の材質に呼び掛けたんだ。見た処隠し扉があるとも 思えん。魔法陣の方かと踏んだんだが、どういった波動なのか分からんからな、 “探索”を掛けようもない。」 ゼルガディスは一旦言葉を切ると、右手に握っていた剣の剣先で床を指し示し、 更に続ける。 「だが幸い、この神殿そのものの材質の方は知っていたんで、ある種の波動を 送りそれに反応させるようにしたんだ。それがさっきの光さ。 そして、その反応の中に違う反応を見つけだすことも出来るという訳だ。」 ゼルガディスの解説に、シルフィールが頷いた。 「それで先程、地精の光の波動とは明らかに違う、魔法陣の波動に反応があった んですね・・・こんな探索方法もあったなんて。」 「・・・聞いたことがない呪文だと思ってましたが、そんな作用がある呪文 だったんだ。よく知っていましたね、流石、博識ゼルガディスさん!」 アメリアが褒め称えるのだが、合成獣の男は複雑な表情になった。 「元は抗夫達がオリハリコンなどの特殊な鉱物を見つけるために、編み出された 呪文らしい。今は特殊鉱物などは稀少な為、使われることもない埋もれた呪文だ ・・・俺は自分の身体を元に戻す方法を探している時に、偶然見つけただけに 過ぎないのさ。」 自嘲めいた笑みを浮かべ、ゼルガディスはアメリアから視線を外す。 いつも、自分の身のことを語るときにする表情だ。 「・・・それでも、その埋もれた呪文を掘り出して、実用性を見つけだしたのは ゼルガディスさんなんですから、もっと誇ってもいいんじゃありませんか?」 ゼルガディスの言葉を聞いて、アメリアは思わずにはいられない。 「ゼルガディスさんはもっと、もっとこう・・・」 思いは胸に溢れるのに、上手く言葉に載せられなくて、言葉に詰まる。 ゼルガディスは薄く笑うと、アメリアの台詞を遮り言うのだ。 「・・・行こう。反応があった位置を忘れてしまう。」 何かを言いたげなアメリアの視線を一瞬だけ受け止めて、ゼルガディスは 拝殿の奥へと歩き出す。その男の背中にアメリアは俯いてしまうが、 自分の両肩を暖かく包む手があった。 「行きましょう?・・・ゼルガディスさんだって、きっと分かってくれます。」 シルフィールはにっこりと微笑んで、アメリアの顔を覗き込んだ。 「いつか、きっと。」 「―――えぇ、行きましょう!」 合成獣の身体にその身を変えられた為、その姿の嫌悪をする余り自分では知らずに 己の意志で、己の生き方までを変えてしまった男の後を、アメリアは追う。 この小さな身に溢れる、想いを伝えたくて。 いつかきっと、この不器用な男に、伝えなくてはならなくて。 供に、歩んでいける道を探すために。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こんにちわ、魚の口でございます。 中途半端な続き方にしてしまいましたが、 「巻末で妄想」第四弾目でございます。 いよいよ本題に入っていく訳なのですが、 いまいちまとまっていません。難しいですね。 ぶっつけ本番的な展開なのが、お恥ずかしい限りですが、 呆れずに読んで頂けたらな、と思っております。 それでは、次の妄想でお会いできますように、祈りつつ。 でわでわ。 魚の口 |
2538 | Re:巻末で妄想。その4。 | くが | 12/13-21:54 |
記事番号2529へのコメント 今回はコミカルな(?)出だしですね。 博識供覧なゼルに感心しているアメリアが可愛いです。 素直ですよね〜。 次の話の絡みは「パイ」の事だと思いこんでしまいました。 そしてラブラブに突入するのね〜とほくそえんでたりして…。 普通は神殿の事だと思いますよね。 妄想を妄想してしまいました(笑) ああ、相変わらず感想文にならない…。 続き頑張ってくださーい。 |
2584 | 沈んでしまう前に・・・ | 魚の口 | 12/23-17:26 |
記事番号2538へのコメント くが様 今回も感想を頂きまして、有り難うございます。 続きなのですが、年が明けてからになってしまいそうなのですが、 それでも待って頂けるのでしょうか?(駄目だろうなー(滝汗)) 随分ご無沙汰してしまっていますが、続きを書きたい気持ちは 有りますので、忘れた頃にやってくるかも知れませんが、 頑張るつもりで居ます。 取りあえず、沈んでしまう前にお断りを・・・と思ったのですが そんなことする前に、ちゃんと続きを投稿するのが筋ですよね(泣)。 ごめんなさいです。 充電期間が長引いて、このままにならないようにネタを物色中です。 ちゃんとラブラブになるように、したいなーとは思っているんですけど、 他の投稿者の皆さんの方が、上手いし早いし笑えるし、私なんか とっとと読み専門に戻った方がいいのかも知れませんが、このまんまは あまりにも・・・なので、続けられたらと思っております。 こんないい加減なヤツですが、この次にお邪魔する際にも 読んで頂けたらいいのですが・・・ それでは言い訳を書き連ねても、自分の首を絞めるだけなので、 この辺で失礼いたします。本当に済みませんです。 でわでわ。 魚の口 |
2585 | Re:待ってます | くが | 12/23-19:54 |
記事番号2584へのコメント 来年になるまで旅行から帰ってこないんで ちょうどいいっスよ!(わたしは) ゆーーーっくり書いてください。毎回楽しみにしてるので 読み専に戻るなんて言わないで下さいよーーう。 読めなくなったら泣いてしまいます。 魚の口さんのゼルアメわたしは好きですから。 |
2596 | 私も魚の口さんのゼルアメ好きですっっ!! | ぱたもん | 12/29-21:17 |
記事番号2584へのコメント はじめまして、ぱたもんと申します。 私は感想をぜんぜん書きませんが、 毎回必ず魚の口さんの小説読ませていただいてます。 魚の口さんの小説は本物の作家さんのみたいですばらしいです!! だから私もくがさんと同様に復帰されるのお待ちしてます (*^^*) これからも応援してますのでがんばってくださいっっ!! P.S 感想書きたいのですが、うまく表現できないので結局書けません (T-T) ごめんなさい(T-T) |