◆−双頭の鷲、白銀の血−CANARU(11/29-23:24)No.2519 ┣お待ちしてましたぁ〜!−P.I(11/30-01:40)No.2522 ┃┗本当に有難うです!!−CANARU(11/30-17:31)No.2523 ┗うわああい!−まりや(11/30-19:57)No.2524 ┗嬉しいでっす!!−CANARU(12/1-18:54)No.2527
2519 | 双頭の鷲、白銀の血 | CANARU | 11/29-23:24 |
ウィーン・・・・。 其処に聳え立つ今は静まり返った宮殿。 シェーンブルン・・・。ホーフブルン・・・・・・・・・。 其処に微かに聞こえるヴァイオリンの音色。 ドナウ河流域の静かな古都。今はただ朝日の中を静かに歩むには少し早いように思え る闇が残った寒い時期。 「ここは・・・・・・・・・?」 思わず足を向けたこのひんやりとした場所に気付かず佇んでいたリナは辺りを見渡し 呟く。 「Guten Morgen!Fuaulein!」(おはよう、お嬢さん!) 不意に聞こえる声。スイス訛りの判別しにくいドイツ語の挨拶に思わず呆気にとられ るリナ。 「あ・・。」 「真坂あたし以外にこんな場所にこんな時間に人が来るとは思わなかったなあ・ ・。」 年の頃ならリナよりも一つか二つくらい上。」 黒っぽい瞳に黒っぽい髪。 「こんな所って。ココは何処なの?」 自分で歩いてきたというのにリナはその・・・。大理石の冷たい床に座っている人物 に聞いてみる。 「霊廟。ハプスブルク家の。」 冴え渡った声が答える。 「霊廟・・・・・・・???」 「そう。本当はアタシみたいな身分の者が入っちゃいけないんだけど。運悪く事情を 知ったもので暇なのがアタシだけだったから。ああ、アタシはミュンヘンの短大生で ブレスって言うんだ。で、冬期休暇を利用してウィーンでガイドのバイトをしてた の。今日はソレを終了してバイエルン州に帰るんだけど。後任のバイトのにーちゃん にコレを渡さなくちゃならないんだけど。早く着すぎたみたいで座り込んでるの。」 なんだ・・・・。 単なる変わり者の学生アルバイトか・・・・・。 そう思ってリナは少々・・自分でも訳がわからないけれども妙に安心する。 見ればブレスと名乗った人物は片手に純銀製品であろう、双頭の鷲のレリーフ、ペン ダントを弄んでいる。 どーやら。後任のガイドのにーちゃんとやらに渡さなくてはならない備品だろう。 「まだまだ結構時間あるなあ・・。」 言ってブレスは時代錯誤の懐中時計を何処からともなく取り出す。 「ハプスブルク600年の栄枯盛衰。黄昏時の大帝国。」 思わずリナは呟く。 「そうだね・・・・。事は1800年代後半から始まった。一人の少女の暗殺事件から・ ・・。」 「暗殺・・・・・・・・???」 「この霊廟・・・・。其処に彼女は居るのか居ないのか・・・。まだ時間はあるなあ ・・・。聞きます?ハプスブルク600年・・・。終焉の歴史を・・・・・・。」 朝の冷たい冷気がさす。 得も知れない眠気がする。ハプスブルク家の終焉か・・・・。 シェーンブルン宮殿へ向かう途中、連馬車に沿ってドナウ河をリナは眺める。 もともとバイエルン王家分家で育てられたハプスブルク家分家の皇女、リナの帰還で あった。 掲げられた双頭の鷲の旗が重々しい。 何処行く?春の旅。 ただただそう思うだけ。 長年育てられた場所を離れて生まれ故郷に戻る。広大なる老帝国。 ハプスブルク家のお膝元の帝都へ・・・・・・・・・・。 「ブレス・・・・・??」 先程まで付き従っていた馴染みの侍女が居ないことにリナは気がついた。 と・・・・。 その時だった・・・。 「ハンガリーに自由を!!」 「ハプスブルクを滅ぼせ!!中央ヨーロッパに自由と開放を!!」 突如、聞こえる数名の男の声。 「何が!!??」 条件反射的にリナは馬車の窓から首を出す。 「あいつだ!!」 「待て!!」 重なる二つの声!!と同時に首筋に走る冷たい感触・・・・。 その物が地に突き刺さり、軽い金属音が耳につく。わずかにリナの首筋から流れる血 ・・・・。 「仕損じたか・・・・・。」 やおら一人の男が振り返り、僅かに瞳に唖然とした思いのみを残している事意外、無 感情なリナを見やる。 一瞬、いや。それ以上の時間、二人の赤と青の視線が絡まる・・・。 「・・・・・・・。」 僅かに、男・・強いて言うのならばリナを暗殺・・・しようとした人物が震えたよう な様子を見せる。 無論、リナにそんな事を理解できる訳は無かったのだが・・・・・・・・・。 「ガウリイ!!」 その男の仲間の一人だろうか? 名前を呼ばれ、男は大慌てでその場を離れた。最後にもう一度リナを一瞥して・・。 「ハンガリア・・(ハンガリー)の名門貴族。バジャーニ一門のテロリスト・・。う んん・・。この場合は独立支援派の人物・・・・。」 何時の間にやら再びリナの隣に馬を進めている侍女、ブレス。 思わず怒ることすら忘れてリナはその声に安堵する。 「まあ・・。コレだけの警備が居るのなら未遂で終わって当然でしょうけど。この 物々しさがかえって現皇帝、フランツ=ヨーゼフ帝の行列と間違われたんでしょ。」 事も無げに言ってのけるブレス。 「あの・・。ハンガリー人は・・。アタシじゃなくて皇帝を暗殺しようとしたってい うの?」 当時。 ハンガリーは大帝国、オーストリア・ハプスブルク家による支配下に置かれていた。 一部の過激はな貴族達は支配者を倒し、独立を勝ち取ろうとしていたのである。 「おそらく。」 ブレスは簡潔に答える。 傍迷惑なと一笑にふす事は可能だろうか・・・・?? しかし・・・・・・・。 あのガウリイと呼ばれた人物・・・・・・・。 リナは何かを思わずに居られなかった。 ホーフブク宮殿。 1200年代に要塞として建築されて以来ハプスブルク家の正宮殿として使用されてい る。 無機質な、だが確実に人々を威圧する黄金の一つの王冠を頂いた双頭の鷲。 そして、その「双頭の鷲」を乗せた淡いライト・グリーンの宮殿の屋根と純白な宮殿 の壁。 しかし、やはりそれらの優美だが清楚なつくりの色合いは『クラウン』を抱いた双頭 の鷲の睨みには敵う筈も無かった。 「古来よりのハプスブルク家・・・神聖ローマがナポレオンによって潰滅させられて からも今なお続いているのが双頭の鷲です。」 「アメリア!!」 「お久しぶりです!!リナさん!!」 思わぬ人物の登場に狂喜するリナ。 リナ同様、ハプスブルク家分家の皇女である。 「バイエルン・・。ウィッテルスバッハ家からのご帰還、おめでとうです!!」 嬉しそうに言うアメリア。 「とは言ってもね・・・。所詮ミュンヘンの宮廷にはいないで・・。 ポッセンフォーフェンの田舎の別荘で暮らしていたわ。乗馬は毎日の日課。野山を駆 け巡ったり屋敷にサーカスを呼んだり・・・・。詩を書いたりして、ね。」 「そんな事してたんですかぁ・・・・・・???」 アメリアは怪訝な顔をしながらいった。 「そんなことって・・・・・・・・。」 「ああああああ!!リナさん!!」 言いかけたリナを唐突に遮り絶叫するアメリア。 「何よ・・・アメリア・・・・。」 「そ・・その傷!!!!!!ど〜したんですかあああああああああああ!!!!? ?」 はへ・・・・・・・・???????????????????????? 「ああ。この傷ですか。先程、皇帝陛下と間違えられて、恐らくハンガリーの無法・ ・・うぐう!?」 言いかけたブレスの口をやおら塞ぎ,リナは大慌てで手をパタパタしながら・・ 「あはははははははは!!一寸擦っちゃって〜〜〜!!」 と取り繕う・・・・・・。 「あのお・・・。ど〜して・・・・。」 困り果てたような声を出しながらリナを振る向くブレス。 「・・・・・・。そんな事言うと・・・。『あの方』に突き出すわよ・・・・。」 ぢと目でブレスを見やりながら呟くリナ・・・・。 「う・・・・・・・・・・・・。それは・・。ちょっと・・・・・。」 額にうっすらと汗を浮かべながらブレスはパタパタと手を振る・・・。 「わかればよろしい!!」 勝ち誇ったように言うリナ。 なんでだろ・・・。 皇帝と間違われたとは言え、自分を暗殺しようとさえした人物。 何かが絡まり合うような予感がした。 鏡の間。 ハプスブルクの美しい牢獄。 遠くへ、もっと遠くへ行きたい。 「帰った場所は牢獄だった。」ソレだけのこと。 バイエルンの自然豊かな土地に育ち、すべてに自由だったリナにはこのウィーンの宮 廷はすべてを捕らえる場所でしかなかったのだ・・・・・。 「おい!!ブレスよ!!」 「あ・・・・・・・・。アスクード兄ちゃん。」 落ち込んで壁一面に豪華な金の装飾が張り巡らされた部屋に佇むリナを見守っていた ブレスに唐突に話し掛けてきたのはもともとハプスブルク家に遣えていた兄、アス クード。 「何であのお方はあんなに落ち込んでんだ?」 「窮屈なんでよ。大昔のスペン式のお作法。歩き方からお辞儀の仕方まで制約されて いるこんな宮廷じゃ・・・。バイエルンで自由に育ったあのお方にはきつい筈だ よ。」 妹の言葉に少し考えたようにアスクード。 「よし。市内におしのびでお散歩させて差し上げたらいかがだ・・・?」 「ええええええええ!!そんな事やったらアタシがあのオバハン・・もとい!!ゾ フィー陛下に怒られるじゃないのよ!!」 やおら泣き出しそうな声で絶叫するブレス。 「なくんじゃね〜よ!!それしきの事で!!いいか・・。言うこと聞かなくちゃさも なければお前を・・・。」「な・・・。何だよ・・・・。」 兄妹の間に僅かな緊張が走る。 「ヒョウ殿下に差し出すぞ・・・・・・・・・・・・・・・。」 「ぎえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!? ?」 やおら泣き声を上げリナのところにかけ込むブレス。 「まったく・・。リナ殿と言い・・。愚妹といい・・。世話が焼けるやな・・・。」 ぶつぶつと独り言を言いながら立ち去るアスクード。 かくして。 リナは五月蝿い宮廷を一時の間逃れ、ウィーン市内へと逃避行することになったの だった。 「へえ・・・。ココがウィーン市内。」 あいもかわらず双頭の鷲がそれそれの頭に王冠をかぶり、背には一つの巨大なクラウ ンを頂ながら市内に睨みを聞かせている。 繊細なつくりのホーフブルクイ宮殿の柱が微かに判別できる。 「ブレス・・・・。」 その名前を呼ぶが、返事は無い。 「あいつ!!何処行ったのよ!!」 右も左も分からない私を置き去りにして一人で逃走決め込むとは!! 「許さない!!今度発見し次第ヒョウ陛下に差し出してやるんだから!!」 半分憤りながらも市内を散策するリナ。 と・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「ちょっと・・・・。どう言うつもりよ・・・。」 リナの細身の腕程度の力であえて動きを止めたのだから技と捕まったことは明々白々 だろう。 が、どのような魂胆があろうと無かろうとこ〜ゆ〜奴を見逃してやる謂れは何処にも 無い。 「必要なのか・・・?こんなもの・・・?」 「要らない。けど。アタシは自分を殺そうとした奴を許してやる上に物を盗ませるほ ど生憎と出来た人間jじゃないのよ。」 言ってその人物の手から盗まれた双頭の鷲のペンダントを奪い返す。 そして。 あらぬ方向へぽいと投げ捨てる。 「黄金かと思った。」 「ゴールドよりもシルバーの方が好きなのよ。まあ、今となっちゃどうでも良い事だ けど。真坂金製よりも銀製品の方が安値だから返す気になった・・なんて下らない事 言うんじゃないでしょうね?」 その一言にガウリイは苦笑する。 「いいや・・・・。」 「じゃあ何?またアタシを暗殺しようと思ったの?ハンガリーの無政府主義者様。」 皮肉とも冗談ともつかない台詞を思わずリナは抜かす。 「いいや・・・・・。そうじゃない。一言謝りたかったんだ。ごめんな・・・。」 以外。 何かにつけてハプスブルク家のものに反逆するハンガリー貴族のバジャーニ一門の男 が自分に謝るんだなんて・・・。 「許すとおもう・・・?」 「『自分を殺そうとした奴を許してやる上に』と言ったぞ。」 う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 国文学科の学生か…?こいつは・・・・・・・? 「文法の授業はだいっきらいなの!!」 プイとフテ腐ったように言ってガウリイの腕から手を離すリナ。 「そうだな。俺も苦手だぜ。」 威張って言うなよ・・。そんな事・・・。 「じゃ、またな!!」 言ってあっさりと駆け出していくガウリイ。 「何なのよ・・。って!!そう!!ブレス!!あんのドアホあたしを置いてどっかに 行っちゃいやがったあいつを・・・。」 言いかけたリナの視界に見慣れた影が入ってくる。 「ブ〜〜〜〜〜レ〜〜〜〜〜スウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!! !!!!!!」 声にならない恨みの声を発する。 「あ・・・・・?」 「あ!!じゃないわよ!!たく!!何処ほっつき歩いてたの!!アンタは!!」 「すみませんんん!!其処でザッハトルテ、安売りしてたんで・・・・。あ、お一つ 如何です?」 「ったく・・・・・・。」 とか何とか言いつつ歩き出すリナ。 ちゃっかりザッハトルテの三分の一は貰っていたりする。 「明日。あのお方がウィーンに来るわ。」 「へ・・・・・・・・・・・・・?」 「差し出すから・・・。」 「え・・・???ええええええええええええええええええええええええええ!!!! ??」 ブレスの絶叫を背にちゃっかり全部のザッハトルテを強奪して歩み出すリナだった。 「ぶれすうううううううううううううううううううううううううううううううううう うううううう!!!!!」 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!??」 広い鏡の間に響く絶叫・・・。 「ほぇえ・・。リナ様の言ったとおり。愚妹、捕獲されちゃいましたネエ・・。」 銀髪、緑眼の淡い肌の色の一見すれば美青年。 こ〜見えても二刀流剣の使い手の公爵ヒョウ。 バイエルン、ウィッテルスバッハ家の大使でもある。 「まあね。けど、実態は単なる変態おにーさん。」 そんなヒョウに付き纏われるブレスを眺めるアスクードにリナが答える。 「でも・・。何であの馬鹿妹があんな方に好かれるように・・・。」 「馬鹿げた話よ。ルードビッヒ様・・。バイエルン国王様にあのヒョウ殿下が拝謁し た時のこと・・・。 ブレスが躓いてビールをあの方にぶちまけちゃったのよ・・・・。で、ヒョウ様・・ ・。最初は『この僕にこんな大恥をかかせるなんて・・・。この馬鹿〜〜〜〜』なん て仰ってたんだけど・・。」 「だけど・・・・・・・・・・???」 「こんな素敵な恥辱は大歓迎さ〜〜〜〜!!忘れるなよ!!大好きだ〜〜!!と仰っ て・・。 以来・・・。ブレスに付き纏ってる・・・。」 「なるほど・・・・。ま、あいつは放っておいて。どうです。ウィーンのカフェに足 を運ばれてみては?」 アスクードの唐突な提案。 「だめですよ!!そんな事!!」 アメリアがその提案を退ける。 「とはいえ…。アメリア様。其処に行けば貴方の求める『正義』を知れるかもしれま せんよ?」 「う・・・・。」 意味はわからなくともその一言には弱いアメリア。 かくして。 「ウィーン・カフェ夜話。」 アスクードに紹介された店にお忍びで向かうリナとアメリア。 「ねえ、リナさん。何で宮廷の行事とかにあんまり出席しないんですか?ドレスも折 角あるのにめったに着ようともしないし・・・。」 席についた途端にアメリアが切り出す。 「好かないのよ。そう言う虚栄地味た事。」 「オペラ座で・・。誰もがグラスを通してバイエルンから来た美貌の皇女を垣間見よ うと思うのに・・・。」 「ハッキリ良いって迷惑千万。まるで監視されているみたい。そういった物見高い連 中がグラス諸共粉々に砕け散ってくれれば良いと思うわ。」 「大帝国の主の血を引きながらも・・・?」 「ボルジア家のカンタレラ・・・。黄金の血よりも性質が悪いわね。」 淡々と問答に答えるリナを丸い目をして見つめるアメリア。 「リナさん・・・・。誰です?その人・・・・?」 問答を中断させるのを悪いな・・とは思いながらも隣のテーブルからリナに問いかけ をしてくる人物をアメリアは指差す。 「アナキストのガウリイ君よ。心配しないで。多分単なるあわてんぼうのおさっさ。 皇帝と一介の親族の区別もつかないお間抜けさん。」 「根に持ってるのか・・・?お前・・・。」 アッサリと言ってのけるリナに寂しそうにジト目を向けて答えるガウリイ。 「あの時間違えたお姫様か・・・?」 「ああ。ゼル。ついでに言えば謝っといたから心配は要らないぜ。」 「危険物か・・・。アタシは・・。」 ガウリイと仲間のゼルと呼ばれた人物に突っ込みを入れるリナ。 「あのお・・・。話が見えてこないんですけど・・・。」 ただ一人困惑したアメリア・・・・・。 「どーやら。ココは反ハプスブルクの人間が集まるカフェみたいだよ。アメリア。」 完全に真っ白になっているアメリアをからかうようにリナは言ったのだった・・・。 この頃のオーストリア・・・。 ハプスブルク家の老台帝国は幾つもの民族、国家の寄せ集めの国家だった。 それぞれ、特にハンガリーはその支配に反発し、オーストリア皇帝一家、ハプスブル ク家を倒し独立を勝ち取ろうとしていた。 「名目上はオーストリア=ハンガリー二十帝国。実態は支配者はハプスブルク家」 という現状に我慢なら無いもの達は常に蜂起することを考えていたのだった。 「自由になりたいの。それだけ。」 コレで宮殿から密かに抜け出しガウリイと会うのは何度目だろう。 「で・・。自分の生まれたハプスブルク家を裏切って。俺達アナキストの仲間入りっ て訳か?お姫様。」 悪戯っぽくガウリイがたずねる。 何時ものカフェの何時もの窓際の席。 注文に答えた支給がバームクーヘンをリナのところに持ってくる。 「ビール。」 ついでに飲み物を注文する。 「真昼間っからかあ・・・・・・・・??」 「バイエルンじゃ何時もそうよ。真昼間っから人を暗殺するような人に言われたくな いわ。」 「こいつぁ・・。手厳しいな・・。」 言われてガウリイは苦笑する。 「何を書いてるの?」 「青新聞。興味あるか?」 政治のお話ね・・・・。 「何を求めるの?」 「そうだなあ・・・。独立も良いけど。こうしてリナと話してたいなあ・・。」 「馬鹿。けれども。こんな大変なご時世。何とも言えないわね。あたしは自由がほし いだけ。」 「自由か・・・・。窮屈なのは嫌いなのか・・・?」 「太陽、私のアキレウス。 お前なしではもう私は生きては行けない。 薄い氷の上 で私は翼を休めるわ。お前の槍で・・・・・・・・・・・。」 「止めろ。太陽のさす氷の上で翼を休めたりなんかしたら・・・。氷の槍で刺し貫か れたって・・・。本当の自由は得られないだろ・・・?」 運ばれてきたビールを飲みながらリナは沈黙する。 「分かってはいる。けれども。遠くへ。遠くへ行きたい。」 「そうっか・・・・・・・。」 そうとだけガウリイは言う。 自分達を支配するだけと思っていたハプスブルク家の人物。 それが今ではどうだろう。 苦しみを分かち合うどころか今ではリナに魅せられている自分にガウリイは気付く。 「エーヤン・・・・。リナ・・・。」 無邪気にバームクーヘンを頬張るリナの耳元にそっと語り掛ける。 「へ・・・・・・・????」 「エーヤン。リナ。『万歳、リナ』って意味だよ。ハンガリー語で。」 笑いながらリナは言う。 「何?それ!?アタシは女帝じゃないんだよ?」 「けど!!俺にしてみればそれくらいの価値あるんだぜ!!」 つられて笑いながらガウリイが言う。 「っふ!!あんたが何考えてるかしらないけど!!」 ビシっとフォークをガウリイの鼻先を指しながら・・・。 「それ!!アタシのだからね!!」 その一言に寂しそうな眼差しをしながらバームクーヘンをリナのさらに返すガウリイ だった。 『逮捕状』………。 いや?そんなものは無く逮捕されたんだろう。 それか、秘密警察の手によってアタシは今ココにいる。 「ドナウ連邦」 そんなものが許されるはずは無かった。 オーストリア帝国を崩壊し、小国家同士が助け合いその上にハプスブルク家が立つと いう理想。 「そんなものを計画してるの?」 青新聞を書いているガウリイにリナが問い掛ける。 「ああ。良いか、リナ。そうすればお前は何の被害も無く自由になれるんだ。そして ・・。俺はハンガリーの理想をかなえることが出来る!!」 嬉しそうにガウリイがはしゃぎながらリナの肩に手を乗せながら言う。 「自由に・・・?」 「ああ!!自由にだ!!大昔のスペインの作法。陰謀に満ちた権謀術。下らない虚栄 とは一切合財お別れだ!!お前は自由に何処にでも行けるんだぜ?」 「じゃあ・・・?ハンガリーにも?」 意味が・・分かるかどうか不安だが・・・。 「リナ!!」 嬉しそうにガウリイ。 周囲のテーブルでクロス・ワードクイズや新聞や雑誌の朗読で時間をつぶしていた連 中に視線なんか気にもしない。 「リナ・・・・・?」 「シ!!」 不意に外で音がした。 「衛兵よ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 恐らく。謀反ものの巣窟であるこの場をハプスブルク家の皇帝が突き止めたのだろ う。 「リナ・・・・・・?」 やおら席を立って出口に向かうリナ。 扉に括り付けられた陶磁器製品のベルが子気味の良い音をカラン、カランと二,三回 鳴る。 「リナ様・・・・・・・・???」 衛兵の声が微かに聞こえる。 「謀反者ドモの首謀者は私です。」 「何を・・・。仰られるのです・・・。」 慌てたような衛兵の声。 「何故そう言いきれるの?」 蔑むようなリナの声。 「ハプスブルク家の人間がそのようなことを・・・・」 「かのヴァレンティーノ公爵は己の野心の為に実弟を抹殺しました。」 「何を・・・・・。」 さらに続くリナの声。 「歴史には致し方ない事もあるのよ。公(ヴァレンティーノ)のした事は悪行とは言 え結果的には仕方が無かったことだし・・・。アタシのしようとした謀反は・・・ ・。」 ココで一寸言葉が詰まる。 ガウリイのため・・。それだけ・・・・・。分かってはいる。 けれども、嘘すらもはや厭いはしない。 「このままのナショナリズムが横行する中、この老帝国は持ちこたえられない。帝国 の分裂を虎視眈々とロシアやプロイセン(ドイツ)が狙っているのに、黙って見てい られる訳無いでしょう・・。」 嘘。 すべてガウリイのためだけ。 独房の中でリナは一人そう思った・・・・・。 寒い・・・?うんう・・・・。寒くは無い・・・・。 訳がわからない思いを持ちながらリナは一つ大きくため息をつく。 ガタリ・・・・・・・・。 不意に開放不可能な小窓が外側から突き破られる。 「なに・・・・・・???」 そのままゴンっと窓ごと外れて室内に落とされる。 「リナ!!」 「ガウリイ!!!??」 信じられない・・・。この宮殿の牢獄まで忍び込んで来るなんて!! 「逃げるぞ!!長居は無用だ!!」 手には長剣が握られている。 「どうやって・・・。」 「ま・・。時代錯誤名モンだと思われたって仕方無いよな。コイツで桟をぶった切っ て進入したんだぜ。」 悪戯っぽく言ってガウリイはあっさりとリナを抱きかかえて窓のあった所によじ登り 外に脱走する。 「信じられない。」 思わずリナは笑う。 「かもな。無茶だとわかっちゃ居るさ。」 苦笑。やさしげに。 「逃げおおせると思う?」 「その時はその時さ!!」 リナを抱き上げたままガウリイは言う。 「ブレス・・・・・・・??」 「お待ちしておりました。」 恭しく・・・それとも技とらしくか・・・。 古式ゆかしいスペイン風の宮廷敬礼をしながらブレスが二人に言う。 「馬車・・・・?」 「はい。アスクード兄様が運転いたします。」 見ればアスクードが笑いながら座っている。 「何処に逃がしてくれるのよ?」 事態を察したリナがブレスに問い掛ける。 「運命の地といいましょうか・・・・・・・?マイヤーリングへ・・・。」 マイヤーリング。 湖畔の美しい冷たい雪のちらつく道を馬車はかけていく。 「ココで・・。俺達は心中したって事になるわけか〜〜。」 満更でもなさそうな口調でガウリイ。 「そうね。実際は生きてるんだけれども。」 面白そうにリナ。 「ねえ、しばらくは別荘でいろいろ手伝ってくれるんでしょう?」 「ソレはゼルガディスさん・・。ガウリイさんの同士の方とアメリア様にお伝えして おきした。」 一寸考えたようにブレスが答える。 「そうなの・・・・???」 「ええ。アタシと兄様は・・・。スイスのジュネーブ・・。レマン湖畔に行かなく ちゃならないので・・。」 素っ気無い様だがどことなく考えたようにブレス。 「そっか・・・・。大変だなあ・・。」 仕事か何かと勘違いしたのか・・・。 コクコクと納得したようにガウリイが頷く。 「そ!!じゃ、ヒョウ様に差し出すひま、無いわねえ。」 「う・・・・。そ・・それはちょっとおおおおお・・・。」 ブツブツ言うブレスを引き連れ、アスクードは馬車を降りリナとガウリイを拾った辻 馬車に任せる。 「自由・・だな・・。」 「自由・・よね。」 笑いながら二人を乗せた馬車は雪の道を駆け抜けていった・・・。 「リナさん!!」 「ガウリイ!!」 どれくらいの日数が経っただろう? マイヤーリングの別荘に滞在したリナとガウリイの元にゼルガディスとアメリアが現 れた。 「ゼル!!」 「アメリア!!」 感動の再開・・・?の筈なのだが・・・・・。 「生きてます・・・よね・・・・・?」 「は・・・・・・・・・・????」 意味不明なアメリアの質問に硬直するリナ・・。 「なあ。ゼル。どーゆー事だ・・・・・・??」 「いや・・。ウィッテルスバッハ家に遣えていたという女から・・・。今日スイスの ジュネーブ・・。」 「レマン湖周辺でハプスブルク家の女性が暗殺されたって電報が入ったんです。で・ ・・。もともとリナさんが行方不明になってたから・・。もしかしたらって・・。思 いまして・・・。」 ハプスブルク家の追っ手から自分を隠蔽するための旅・・・だったのだろうか・・・ ・・? 「死体は・・・・・・?」 「無いって言ってました・・・・。」 なおさらそういである・・・。 「そうだな・・。確かに俺達は死んだかもしられないぜ。」 「法律的には、ね。」 言ってリナとガウリイは大笑いする。 これで、反逆者として心中したとでも暗殺されたとでもリナは言われるだろう。 が、実際はガウリイとともに生きている。 黄昏行く、崩壊寸前の大帝国とは正反対に。 「結局。君の筋書き通りになっちゃたね〜〜。」 ふて腐れたようなヒョウの声。 「ま。あの帝国は・・。ハプスブルクは滅びるって言ったとおりになっただろ?けど ・・・。あのリナ様とガウリイは・・・。生き長らえさせたかった。それだけさ。」 アスクードは面白そうに言う。 「そ〜ゆ〜もの・・。ま、僕には関係無いけどね。」 「だろうな。ま、とにかく。次のガイドはあんただろ?」 言ってアスクードは双頭の鷲のペンダントをヒョウに差し出す。 「帝国が無くなるんじゃそんなものは無意味だよ。ソレ、ブレスにあげてくんない ?」 「・・・・。仰せのままに・・・。」 リナのガイドはブレスじゃない・・・・。 ヒョウの代役のガイドのにーちゃんに渡されるが落ちだろうけど・・・・・・・。 「おい!!リナ!!リナ!!こんな所で寝ちゃだめだろ!!」 不意に聞こえる見知った声。 「ん・・ん・・・。ガウリイ・・・・・????」 「ったく!!探したぜ。そしたらこんな旧時代の霊廟で寝てるんだモンなぁ・・。 まったく。冷や冷やさせるなよ!!」 怒ったような安心したような声。 そういえば。 「ガイドのブレスは!!?」 「は・・・・・・・・????????」 「今ココで。ブレスって子の話し聞いてたのよ。で・・。寝ちゃって・・。アレ・・ ?居ない・・・?」 さっきまで居たのに・・・・。 「俺もついさっきココに入ってきたけど。誰ともすれ違わなかったぜ?」 「・・・・・・・・・・・・。」 手に絡みついた双頭の鷲のペンダント・・・。 ブレスが「後任のガイド」とやらに渡すはずの・・・・・・・・。 「へえ・・。すっげ綺麗な・・・。頭二個あるカラスだなあ・・・・。ティアラのっけてるぞ!!」 ずべ・・・・・・・。 銀製のペンダントを見て言ったガウリイの第一声・・。 「馬鹿くらげえええ!!コレはカラスじゃなくって双頭の鷲よ!!そ・れ・に!! ティアラじゃなくってクラウン!!王冠!!」 「へえ・・。そうなのかあ・・・。」 「欲しければあげる。もともとアタシのだし。」 それで・・・。良いような気がした。 「お!!らっき〜〜〜!!」 無邪気に強奪するガウリイ・・・。 これが・・。自由なのかもしれない・・・。 そう思ってリナは微笑した。 そう。 世紀末のこのウィーンで・・・・・・・・・・・。 (おしまい) |
2522 | お待ちしてましたぁ〜! | P.I E-mail | 11/30-01:40 |
記事番号2519へのコメント わぁ〜い!CANARUさん、お待ちしてました〜!! シシイ=リナ&アナキスト・ガウリイ、いつもながらどらまちっくですね〜!! でもこの二人より謎めいていたのがブレスとその兄ちゃん、そして! ヒョウ殿下!!(大爆笑!!)なんかカリオストロのように時空を超えて歴史の 裏で暗躍していそーだわ(^^;)こんな人に差し出されたら・・・ ああブレスちゃん、無事に逃げ切れたでしょーか・・・(合掌) 時を超えて再び出会ったリナとガウリイ。今の二人の関係がちょっと気になる所 です。(じつはウィーンで新婚旅行の途中だったとか・・・? ^^) ところでCANARUさんにお願いとお聞きしたいことがあるのです。 CANARUさんの小説をプリントアウトさせていただきたいのですがよろしい でしょうか?もちろん、印刷したものは個人的に楽しむだけで、コピーして他へ 配布等はしません。パソを立ち上げなくてもいつでも小説が読めるようになると 嬉しいので、ぜひお願いします。 それから、以前CANARUさんがお書きになったブランデンブルクの選帝侯の お話をこの「書き殴り」以外のHPで読んだことがあるのですが、久しぶりに 読み返そうとしたらHP名を忘れてしまって・・・。申し訳ありませんがなんと いうHPだったか教えていただけないでしょうか? いつもいつも素晴らしいお話をありがとうございます。 学校の方もお忙しいとは思いますが、どうか無理はなさらないで頑張ってください。 それではまた! |
2523 | 本当に有難うです!! | CANARU | 11/30-17:31 |
記事番号2522へのコメント >わぁ〜い!CANARUさん、お待ちしてました〜!! >シシイ=リナ&アナキスト・ガウリイ、いつもながらどらまちっくですね〜!! はい〜〜!! 実はガウリイ皇帝も考えたんですが・・・・.。 どーもフランツィは好きじゃないんですよね、個人的に・・(涙) で、こーなりました!! >でもこの二人より謎めいていたのがブレスとその兄ちゃん、そして! はい〜〜!! 最初に思いついたのがブレスで、次はにーちゃんでした!! ちなみに「ブレス」を日本語訳すれば実は林原さんと同じ名前だったりします☆ >ヒョウ殿下!!(大爆笑!!)なんかカリオストロのように時空を超えて歴史の >裏で暗躍していそーだわ(^^;)こんな人に差し出されたら・・・ >ああブレスちゃん、無事に逃げ切れたでしょーか・・・(合掌) ヒョウ殿下・・・・。 とってもしつこそう・・・。 もう逃げきる方法無し・・・ですね・・(合掌) >時を超えて再び出会ったリナとガウリイ。今の二人の関係がちょっと気になる所 >です。(じつはウィーンで新婚旅行の途中だったとか・・・? ^^) ははは〜〜!! それ、いいでっす!!いっそのことそ〜しちゃいます!! >ところでCANARUさんにお願いとお聞きしたいことがあるのです。 >CANARUさんの小説をプリントアウトさせていただきたいのですがよろしい >でしょうか?もちろん、印刷したものは個人的に楽しむだけで、コピーして他へ >配布等はしません。パソを立ち上げなくてもいつでも小説が読めるようになると >嬉しいので、ぜひお願いします。 あ〜〜!!嬉しいです!! アタシの小説でよろしかったら是非プリントアウトしてください!! 楽しんでいただければ嬉しいです!! >それから、以前CANARUさんがお書きになったブランデンブルクの選帝侯の >お話をこの「書き殴り」以外のHPで読んだことがあるのですが、久しぶりに >読み返そうとしたらHP名を忘れてしまって・・・。申し訳ありませんがなんと >いうHPだったか教えていただけないでしょうか? えーっと・・・。 たしか「摩訶不思議」というサイトでした。 多分此方にリンクがあったとおもいます!! >いつもいつも素晴らしいお話をありがとうございます。 >学校の方もお忙しいとは思いますが、どうか無理はなさらないで頑張ってください。 >それではまた! いえいえ〜〜!! ありがとうございました〜〜!! |
2524 | うわああい! | まりや E-mail | 11/30-19:57 |
記事番号2519へのコメント CANALUさんだ! 楽しみに待ってましたー! もう歴史物が素晴らしくて素晴らしくて・・・ しかもハプスブルク! 私の好きなやつだし! やってくれます、CANALUさん! また新作楽しみにしてます!! |
2527 | 嬉しいでっす!! | CANARU | 12/1-18:54 |
記事番号2524へのコメント >CANALUさんだ! >楽しみに待ってましたー! ありがとうですう!! この所レポートが忙しくって(汗) >もう歴史物が素晴らしくて素晴らしくて・・・ >しかもハプスブルク! >私の好きなやつだし! あたしもハプスブルク関連は大好きです!! 気に入っていただけたようで何よりです〜〜!! >やってくれます、CANALUさん! >また新作楽しみにしてます!! はい!! 期待に添えるようにがんばりますね〜〜!! |