◆−挿話4―或いは平謝りの極み。−魚の口(2/1-15:24)No.2689
 ┣巻末で妄想。その5。−魚の口(2/3-19:03)No.2697
 ┃┣Re:巻末で妄想。その5。−安芸(2/4-06:29)No.2699
 ┃┃┗はじめまして。−魚の口(2/7-07:25)No.2703
 ┃┗Re:待ってました〜♪−くが(2/5-18:47)No.2701
 ┃ ┗くがさん!ありがとうです!−魚の口(2/7-07:37)No.2704
 ┣巻末で妄想。その6。−魚の口(2/7-18:41)No.2705
 ┣巻末で妄想。その7。−魚の口(2/11-18:48)No.2720
 ┣巻末で妄想。その8。−魚の口(3/2-19:12)No.2754
 ┃┗Re:巻末で妄想。その8。−くが(3/5-23:12)No.2760
 ┃ ┗本当にいつも有り難うございます。−魚の口(3/10-11:13)No.2775
 ┗巻末で妄想。その9。−魚の口(3/10-18:58)No.2776


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2689挿話4―或いは平謝りの極み。魚の口 2/1-15:24


恥と知りながら、又こちらにお邪魔することとなりました。
魚の口です。
随分と間が空いてしまいましたが、又こちらに続きを投稿したくて参りました。
くが様、ばたもん様には又別所にてコメント差し上げますが、本当に遅くなって
申し訳有りませんでした。
今回は自分自身の復習も兼ねて、挿話4から始めようと思っております。
「巻末で妄想」にも、繋がるお話ではありますが、前回の続きではありません。
話の設定としてはモグリ神殿の事件解決直後・・・と思っていただけると、
嬉しく思います。

ちなみに、自分でも本当にゼルアメとして投稿していいのか分からないですが、
ゼルアメ者のつもりです(自爆)。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「はんみょう」

豊かな緑に覆われた道無き森をゆく一行があった。白ずくめの男を先頭に、
男が抜き身のブロード・ソードで足下を遮る下草を薙ぎながら進む。
その後ろには長く伸ばした黒髪の、紫色の神官服を着た女性が続く。
どうやら道に迷っているらしい。白ずくめの男は立ち止まると、その双眸を
辺りに漂わせ、溜息を吐いた。
「・・・ったく、親玉を倒したと思ったら、神殿の地下からいきなり
 こんな森の中に放り出されるとわな・・・ついてない。」
男のぼやきに答えるように、額にうっすらと浮かんだ汗を拭いながら、
細身の女性が男に提案する。
「そうですね・・・浮遊(レビテーション)で上空から見てきましょうか、
 この森を抜けるのに最短距離で行けそうな方角を。」
「そうだな・・・闇雲に進むよりもその方がいいだろう。最も出鱈目に進んできた
 つもりもないんだが、もしかしたら軸足の方向に曲がって進んでいるかも
 しれんしな。頼むぞ、シルフィール。」
そう言うと白ずくめの男はゆっくりと女性に振り向いた。
何故だかその姿に、細身の女性・シルフィールの表情から笑みがこぼれる。
笑い出すのを堪えながら、それでも目だけは笑いを残して浮遊(レビテーション)
の呪文を唱える。
「・・・笑うな。仕方がないだろう・・・」
心持ち僅かに覗かせた顔を朱に染めて、白ずくめの男は呻きながらシルフィールを
睨み付ける。シルフィールはそんな視線に怖がる素振りも見せずに、更に
顔を赤く染める男を見て、柔らかに目を細めた。
その女性の様子に文句を言おうと口を開いたとき、力ある言葉(カオスワーズ)は
完成し、シルフィールの身体はふうわりと浮き上がると、頭上を覆う
木々の間を抜け、上空へと姿を消してしまった。
己を笑う視線から、逃れられたというのに白ずくめの男は何やら居心地が悪そうに
その場をうろうろし始める。と、

「・・・ぅん・・・」
男の背後から、身じろぎがした。今まで規則正しく聞こえていた寝息が消え、
ゆっくりと息を吐き出す気配がする。ゆっくりと意識が戻り、今の自分の状況を
判断したのだろうか、接した背中から驚きの様子が伺えた。
「!?ぜっ、ぜるがでぃすさん!?!?・・・わ、私・・・なんで!?」
今の体制からでは、その表情を見ることは出来ないのに、自分の背中に
収まるほどの小さな少女がどんな顔をしているのかが手に取るように分かって、
男は少し可笑しくなった。
「起きたか。なら、下ろすぞ。」
「は、はいぃっ!?」
男はブロード・ソードを地面に突き刺すと、思わず反射的に返事をした少女を、
そっと地面に下ろすと後ろを振り返る。
艶やかな黒髪を肩の辺りで切り揃えた少女は、その大きな瞳一杯に疑問を浮かべて
合成獣の男・ゼルガディスを見つめていた。
「あ、あのゼルガディスさん。私、どうしてゼルガディスさんに・・・」
おぶわれていたのだろう?
少女の聞きたいことは分かっていたが、ゼルガディスはその疑問には答えず、
別の言葉を少女に向けた。
「・・・身体の方は大丈夫か、アメリア?暫く眠っていたから、体力は大分
 回復していると思うが、立ち眩みなんぞはしていないか?」
「???だ、大丈夫です。あの、え、えぇっと・・・あれ?私、
 ゼルガディスさんの後を追って・・・それで・・・」
ゼルガディスの言葉と、自分の中に微かに残る記憶とが符合し、アメリアはやや
混乱しながらも、今までのことを思い出そうとする。

頭の中に、閃光と供に幾つかの場面が浮かび上がり流れていくのだが、
なにかとても大切なことを忘れている気がして、アメリアはゼルガディスを見た。
「・・・私・・・ゼルガディスさんと・・・」
相変わらず顔の大半をフードとマスクで覆い、その青黒い肌を隠している男。
その出で立ち同様、自分の心をもプライドという布でひた隠しにしていた男。

―――――だけど・・・ゼルガディスさんは・・・
そのアメリアの様子に、ゼルガディスは苦笑して何かを言おうとしたとき、
頭上から位置確認のため、上空から森の様子を伺ってきたシルフィールが
舞い降りてきた。
「!良かった、気付かれたんですね!」
よほど心配していたのだろう。浮遊(レビテーション)の風の精霊の使役を
解くと同時に、シルフィールはアメリアに飛びつくように地面に降り立つ。
「お加減はどうですか?まだふらつくようでしたら治癒(リカバリィ)を
 かけますから、遠慮なく言って下さいね!」
「シルフィールさん・・・ご心配お掛けしたみたいで。へへっもう大丈夫です。
 眠ったお陰で元気になりました!」
いつものアメリアらしく、ガッツポーズをシルフィールに向けて見せた途端。

ぐるるるるるうぅ
ものの見事に腹の音を響かせて、アメリアは真っ赤になった。
「!?あ、あのあのあの(赤面)。せ、正義を行使した後はお腹が減るんです!
 だから・・・ゼ、ゼルガディスさん!そこで爆笑しないで下さい!!」
見れば白ずくめの男はしゃがみ込み、肩を震わせている。
「ふぇーん、ゼルガディスさんに笑われたぁ(恥)。」
尚も腹を抱えてしゃがみ込んでいるゼルガディスから視線を外したアメリアに、
シルフィールはちろりとゼルガディスに視線を落としてから意味深げウィンクを
してみせた。
「今でこそ笑っているゼルガディスさんですけど、あの神殿からこの森に
 飛ばされて、アメリアさんが意識を戻さない時の彼はそれはそれはもの凄い
 表情で心配されていたんですよ?」
「え?」
「な!?」
シルフィールの台詞が終わるのと同時に、アメリアは驚いて見せ、ゼルガディスは
勢い立ち上がった。
「眠ったままのアメリアさんを揺り動かして、『アメリア!アメリア!!』って
 必死で起こそうとしていたのを、今は睡眠を必要として居るんですよと
 説明してもとっても心配そうでしたもの。ゼルガディスさんたら(はぁと)。」
「〜〜〜〜〜いらん事を誇張して吹聴するな。」
シルフィールの言葉にゼルガディスが唸る。
怒気を孕んだ口調なのだが、それも赤面顔で言うので有れば効果は認められず、
シルフィールは一層楽しそうに、ゼルガディスに反論するのだ。
「あら、本当の事じゃないですか。」
「シルフィール。現在位置の確認はどうだったんだ!?おしゃべりは
 これくらいにして、さっさとこの森を抜けるぞ!!」
そう言って地面に刺したままの剣を引き抜くと、ゼルガディスはやや大仰に
音を立たせて土塊を振り落とし鞘に収める。
その様子に、仕方なく肩をすくめると、シルフィールはアメリアと視線を合わせて
小さく舌を出した。その仕草に、アメリアも苦笑で答える。
「・・・分かりました、この森を出るのに最短で済む方角は・・・」
白ずくめの男に答えようとして、シルフィールはふと、自分の目の前を横切った
小さな影に気を取られた。
森の木漏れ日に照らされて、金属光沢を放つ小さな光。
「・・・『みちしるべ』か。」
シルフィールの視線に気付いたゼルガディスが、その小さな光の軌跡を見て呟く。
「?なんですか、その『みちしるべ』って?」
ゼルガディスの言葉に、アメリアが反応する。
「虹色の光沢の羽を持つ昆虫の別名だ。旅人の行く手に止まっては逃げるので
 『みちおしえ』または『みちしるべ』と呼ばれて居る。斑猫(ハンミョウ)
 という名が本来の名前だ。」
「まぁ、面白い別名ですね。」
シルフィールがそのゼルガディスの説明に不思議そうに答え、小さな光の軌跡を
指差して言う。
「偶然にも、私が上空から見た最短の方角も、あの方向なんです。」
「わ!すごーい、本当に『みちしるべ』なんですね!行きましょう!
 『みちしるべ』さんが見えなくなっちゃいますよぉ!!」
アメリアが嬉しそうにそう言うと、その小さな光を追って走り出した。
「わ、莫迦。無理をするなアメリア!転ぶのが関の山だぞ!」
ゼルガディスが慌ててアメリアの後を追う。シルフィールもその後に続いた。
「大丈夫ですよぅ!」
そう言うアメリアだったが、ものの2・3歩進んだ処で、下草に足を取られ
見事顔から地べたと激突する。

どべしゃ!
「・・・いわんこっちゃない・・・」
アメリアから数歩遅れていたゼルガディスが、頭を抱えてアメリアの
背後に近寄る。
「ぅえーん、痛いですぅ。」
顔の痛みに耐えるようにうずくまっていたアメリアの身体が、ひょいっと
持ち上がった。ゼルガディスが後ろから抱え上げたのだ。
「全く、世話の焼ける『みちしるべ』だ。」
「す、すみませーぇん(恥)。」
ゼルガディスの軽い揶揄にしゅんとなるアメリアの耳に、少女にしか聞こえない
位の小声で、言葉が紡がれた。
「今回は助かったが一人で無茶はするな。たまには俺に格好つけさせてくれ。」
アメリアが返事をする暇を与えず、白ずくめの男は少女の横を過ぎゆき、
小さな光の軌跡を追うように足早に先を歩く。
「どうしました?転んだ処がまだ痛むんですか?」
追いついたシルフィールが、その場に佇むアメリアの顔を覗き込んだ。

記憶が蘇る。
自分が合成獣の男に、何を伝えたのかが。

男は今なんと言ったか。
なんと言ってくれたか。

「アメリアさん?」
シルフィールが反応を寄越さない少女を心配する。少女は震える身体を自分の
両腕で抱きしめて、顔を上げた。
「だいじょうぶ・・・大丈夫です!」
それは満面の笑顔だった。揺るぎない自信の芽生えつつある、会心の笑み。
「行きましょう!この森を抜ければ、セイルーンはもうすぐです!!」


柔らかい日差しを注ぐ豊かな緑に覆われた森。
その生命に溢れた地に、また一つ確かな生命力に溢れた緑が育ち始める。
少女が蒔いた小さな種は、青年の渇いた心に確かな息吹を芽吹き出させたのだ。

少女自身を『みちしるべ』として―――――

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

久しぶりに投稿したのに、前回の続きからでなくて申し訳ないです。
言い訳を書かせていただくなら、前回からの続きからだとちょっと暗めの
展開になっていくので、久しぶりに書くに当たって、それだと自分的に
ノリが悪くて、進まないんじゃないかと考えたからです。

この挿話4は最終話から書いたような物です(大反則)。
書き込みが遅い自分にペナルティの意味合いも含めて、今回は試みてみました。
次回からの「巻末で妄想」で、ちゃんと辻褄を合わせていきたいと思います。

くが様。
大変お待たせしまして申し訳有りませんでした。といっても
すでに見限られている確率の方が高いのですが(泣)。
懲りずに進めていきたいと思っておりますので、読んでいただければ
嬉しく思います。

ばたもん様。
初めまして、魚の口と申します。前回感想を頂いたのに、こんなにお礼が
遅くなしまして、ごめんなさいです。
下手の横好き手続けていたのに、思いも寄らぬお言葉を頂けて、本当に
嬉しかったです。ありがとうございました。

こんな自分ですが、またお付き合い願えると、嬉しく思います。
では、次回も頑張りますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

魚の口

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2697巻末で妄想。その5。魚の口 2/3-19:03
記事番号2689へのコメント

「ここだな。」
ゼルガディスは短く呟くと、一段高くなった祭壇跡に跪いた。
そこは先程放った光の波動とは異質の光を放った場所であった。おもむろに
懐から一握りほどの何かが詰まった袋を取り出す。無造作にその中の物を
取り出すと、躊躇うことなく自分の目の前の床に放り投げた。
「今度のこの白っぽい粉は何なんですか?」
男の跪いた一歩後ろから、アメリアが覗き込むように床にばらまかれた白い粉を
不思議そうに見つめる。ゼルガディスは視線を床に落としたまま答えた。
「・・・これは隠された魔法陣などの紋様を浮かび上がらせるために使う物だ。」
「へぇ・・・一見は只の白い粉なのに、そんなことが出来るんですか。」
「どう言った成分なんです?」
不思議な作用を引き起こす粉に、女性陣二人は興味深げに疑問を向けるのだが、
白ずくめの男は振り返ることもなく、ただ床を見つめ続けている。
「悪いがそれは企業秘密だ。」
にべもない返答が返ってきて、アメリアとシルフィールはお互いの視線を
合わせると肩をすくめる。この手の探索を始めたこの男に話しかけるのは、
無謀という事に気が付いたのだろう。

ひとしきり時間が過ぎた頃、粉をばらまいた床面に変化が現れ始めた。
まるで乾いた砂の上に水を注いだかのように、じわじわと白い粉が
水に濡れたように色を変え始めたのだ。
「わ、ゼルガディスさん何か出ましたよ!」
ゆっくりと目の前に現れ出てくる紋様に、アメリアが興奮して叫んだ。
「分かっている。気が散るから、少し静かにしてくれ。」
またしてもツレない言葉が返ってきて、アメリアはがっくりと項垂れるが、
気を取り直し、改めて現れた紋様に見入ってみた。              
二重に描かれた正確な大小二つの円の中に、魔法文字で六芒星が形作られている。
魔法文字事態はアメリアには読み取れなかったが、その六芒星の頂点に描かれた
一つの文字に意識が集中される。本来なら六芒星の頂点に描かれるべき存在は
赤の竜神(スィーフィード)が唯一であるはず。だが、床に描かれた魔法陣には
あろう事か、闇の王の名が記されているのだ。
「!?なんてこと!モグリ神殿と言うことでさえ許されざることなのに、
 この神殿では魔王を奉っていたというのですかっ!!!」
だむっ!!

正義の申し子、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。
少女の全ては正義である。その大前提の前には、いかな怪しげな神殿内の
魔法陣に描かれた紋様にさえ、「悪」という要素が有れば許されることではない。
許されることではないのだが・・・

「!?うぉお前はぁっ!!何て事をしてるんだっ!!!」
ゼルガディスがその金属質の髪を逆立て、アメリアを怒鳴りつけた。
「え゛?」
合成獣の男の余りもの剣幕に、「悪」の存在に逆上していたアメリアが
意識を戻す。だが、

う゛ぉおおおおおおおぉん!!!

アメリアの足下より、赤黒い光が生まれた。
「悪」の存在に逆上した余り、ゼルガディスより一歩足を踏み出していた
アメリアの足下から。
「・・・・・あ゛ぁぁあああっ!!!」
自分の足下と、ゼルガディスとシルフィールの二人へと視線を向けてから、
アメリアは自分がしたことに、今更ながら冷や汗を流し絶叫する。
「〜〜〜〜〜すみませぇええぇん(滝汗)。」
ろくに調べもしないうちに、発動してしまった魔法陣の効力を白紙に戻す術など
今のゼルガディスに、ましてやアメリアにもあるわけはない。
「・・・っ!アメリア!!」
拝殿の天井にまで届いた赤黒い光の中に向け、ゼルガディスは精一杯腕を伸ばし
アメリアの細い腕を掴もうとした。
「!ゼルガ・・・!!!」

おぉぉん・・・

「アメリア!!」
「アメリアさんっ!!」
蒼白な表情でアメリアの名を叫んだ二人の目の前で、小さな少女の姿は
大きく歪み、そして赤黒い光が消えると供にかき消えた。
差し伸ばした腕は空しく空を掴み、小刻みに震えている。
「そんな、アメリアさん・・・い、一体何処に・・・?」
余りに突然の出来事だけに、“慌てる”という状況を通り越し呆けてしまう
シルフィール。
そんな彼女の様子を余所に、ゼルガディスは口早に呪文を唱え始めた。
「振動弾!!(ダム・ブラス!!)」
ゼルガディスが唱えた力ある言葉(カオス・ワーズ)に呼応して、床に翳した
右手のうちより光が生まれ地面を揺るがす。
ごがぁららあぁん!
魔法陣が描かれた床の隣に、ゼルガディスによって加減をされて出来上がった
人が一人十分に通り抜けられる穴が開けられた。
「ゼルガディスさん、何を!?」
咄嗟のことにどうして良いのか分からず、シルフィールは混乱の表情で
白ずくめの男を見た。
「地下だ。この神殿の本殿は地下にあるらしい。あの魔法陣は恐らく
 その本殿へと転送させられる装置なのだろう。」
腰のブロード・ソードを抜き放ち、ゼルガディスはその身をぽっかりと開いた
闇の中に踊らせようと身を屈める。
「だ、だったら。アメリアさんの後を追って、魔法陣で・・・」
「そうしたいのは山々だが、どうやらこの魔法陣は入った者が出てこない限り
 発動しないように造られているようだ。先程ばらまいた白い粉が、
 青く色づいているだろう。あの色になると、その仕掛けは使用できない
 状態にあると分かるように作って有るんだ。だから、この魔法陣からは
 地下に侵入出来ない。」
言われて魔法陣へと視線を向けると、先程は濡れたように現れていた紋様が
くっきりと鮮やかな青色に変わっている。
「そう、ですか・・・だったら急いでアメリアさんの元に行かないと!
 たった一人で、こんな何が仕掛けられているか分からない処に放り出される
 なんて・・・!!」
「慌てるな。お前さんの言う通り、何が起こるかわからん。俺達まで
 迷子になる訳にはいかないんだ。」
白ずくめの男の淡々とした口調に、シルフィールは思わず叫んでしまう。
「そんな!確かにゼルガディスさんの仰る通りですけど!心配じゃないんですか?
 アメリアさんがたった一人でこんな処に・・・」
「心配だと!?あの莫迦が!ここに入る前に、俺がなんと言ったのか忘れたのか!
 決して俺の後ろから離れるなと!言っておいただろうがっ!!」

初めて、ゼルガディスはその顔を上げシルフィールを省みた。シルフィールは
合成獣の男の迫力に押され、息を呑む。
「っ!・・・すまん。あんたに怒鳴っても仕方がないんだ。行こう、今は
 時間が惜しい。」
我に返ったゼルガディスはバツが悪そうに、視線を暗闇が広がる足下の穴へと
落とした。シルフィールもその男の台詞に、首を振り後に続く。
「いえ、いいんです。私も慌てていました、すみません余計なことを・・・
 行きましょう。」
「・・・あぁ・・・明かりよ(ライティング)。」
肩越しに黒髪の女性を見てから、ゼルガディスは呪文を唱え闇へと右手を
差し出す。
現れた淡い魔法の明かりはゆっくりと足下を照らしながら、剥き出しにされた
岩肌を照らし出した。


闇の中に閉ざされていたモノ達が、十年の年月を経て日の元に這い出そうと
息を潜めて闇の中を蠢き始めた。

果たしてこの先には何が待ち構えているのだろうか。
そして、アメリアは・・・

闇は、その口を大きく開け、不気味に静まり返っているのだった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

こんばんわ、魚の口です。
「巻末で妄想」再開いたしました。
初めての方、初めまして。本人はゼルアメを目指して進めてきたのですが、
ちっとも甘々・ラブラブじゃなくて申し訳ないです(滝汗)。
もし宜しければ、過去の小説に遡って「幕間で妄想」「巻末で妄想」から
読んでいただけると、何を書いてきたのかが分かると思います。

ご無沙汰していた余り、こちらを伺うとゼルアメの方々が、たくさん
投稿されていて、早いし、とっても上手いし、面白いので、忘れられている
と思われる私なんかは、とっとと読み専門に戻ろうかとも思ったんですが、
続いたままで終わらせるのもちょっと悔しいので、頑張ってネタを
物色しておりました。面白いモノが書けるかどうかは分からないんですが
取りあえず、頑張って繋げていきたいと思っています。

それでは、取りあえずこの辺で、また次回にお会いできますよう
願いつつ、失礼いたします。でわでわ。

魚の口

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2699Re:巻末で妄想。その5。安芸 2/4-06:29
記事番号2697へのコメント

はじめまして。

>初めての方、初めまして。本人はゼルアメを目指して進めてきたのですが、
>ちっとも甘々・ラブラブじゃなくて申し訳ないです(滝汗)。

らぶらぶですがな(笑)。すくなくともわたしの目にはそう映りました。
前後しますが、

>「心配だと!?あの莫迦が!ここに入る前に、俺がなんと言ったのか忘れたのか!
> 決して俺の後ろから離れるなと!言っておいただろうがっ!!」

ゼル怒ってるし〜。アメリアのために怒ってるゼルは好きです。

ということで、続き楽しみにしてます。

それでは。

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2703はじめまして。魚の口 2/7-07:25
記事番号2699へのコメント

安芸様初めまして、魚の口と申します。
感想有り難うございます。らぶらぶになってますか、や、良かった(笑)。
そう言っていただけるのが一番嬉しいし、ほっとします。
ゼルやんも、自分の不甲斐なさにちょっとイライラしておりますが、
これからももうちょっとイライラして貰うつもりです。
ゼルやんイジメじゃないけど、彼の心に迫ってみたいなというのが
今回の狙いでもあったりします。もう少し時間は掛かってしまうかも
知れませんが、どうぞ、呆れずに読んでいただけるよう頑張るつもりです。
でわでわ、本当に感想有り難うございました。(ぺこり)。

魚の口

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2701Re:待ってました〜♪くが 2/5-18:47
記事番号2697へのコメント

わーーい、また魚の口さんのお話が読めるのかと思うと
このサイトに来る楽しみが1つ増えます。

アメリアは一体どこに飛ばされてしまったんでしょーか…。
まったく、しょうがない娘さんだわね。
しかし、正義を叫ばない彼女はありえないので、ゼルガディスさんには
心配しまっくって貰うしかありませんね。
そんな二人がたまらないっス。

続き楽しみに待ってます。

ところで、つまらない質問なんですが魚の口さんは「さかなのくちさん」ですか、
それとも「うおのくちさん」ですか??
もしかしてかなりアホな質問をしてるでしょーか…わたし。

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2704くがさん!ありがとうです!魚の口 2/7-07:37
記事番号2701へのコメント

くが様

>わーーい、また魚の口さんのお話が読めるのかと思うと
>このサイトに来る楽しみが1つ増えます。
くくく、嬉しいお言葉です、本当に有り難うございます。
間が空いてしまっていたのに、こうして続けて読んで頂けて、
ましてや感想も頂けるなんて、わたしゃあしあわせモンです(涙目)。

>アメリアは一体どこに飛ばされてしまったんでしょーか…。
>まったく、しょうがない娘さんだわね。
>しかし、正義を叫ばない彼女はありえないので、ゼルガディスさんには
>心配しまっくって貰うしかありませんね。
>そんな二人がたまらないっス。
お約束・・・と言われたらそれまでなんですが(苦笑)。姫様は
これからちゃんと活躍して貰う予定です。何処に飛ばされたんでしょうかね。
姫様を心配するゼルやんの姿は、最早定番なんでしょうか(笑)。

>続き楽しみに待ってます。
はい、頑張って続けたいと思います。

>ところで、つまらない質問なんですが魚の口さんは「さかなのくちさん」ですか、
>それとも「うおのくちさん」ですか??
>もしかしてかなりアホな質問をしてるでしょーか…わたし。
うーん、「ぎょのくち」というのもインパクト(どんなだ(汗))があって
面白いかな?とも思うのですが、一応「さかなのくち」と読んで下さい。
自分がキーボードに打ち込むときは「うおのくち」と打ってはいますが(笑)。
でわでわ、次回もお会いできますように願いつつ、失礼いたします。

魚の口

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2705巻末で妄想。その6。魚の口 2/7-18:41
記事番号2689へのコメント

ゼルガディスによって造られた縦穴は、正確に、地下に隠されて造られた
一本の通路へと貫通していた。
青白い魔法の明かりに晒された通路をよく見ると、自然に出来上がった洞窟と
考えるにしてはすべらかな岩肌をしている。大人の男でも楽に行き来できる程
この通路には十分な高さと広さがあった。
通路は真っ直ぐに奥へと続き、ゼルガディス達が入ってきた縦穴のすぐ側には、
先程上で見た物と同じ魔法陣が今度は隠されることなく描かれていて、
そこで行き止まりになっている。                      
どうやら行きは上の魔法陣から直接本殿に転送され、帰りはここの魔法陣から上に戻るのだろうか、勿論アメリアの姿はここにはない。

十年の月日を経て、人の目に晒されることになったこの通路は、耳が痛くなる位
しんと静まり返っていた。不気味な静けさだ。
「・・・神殿の外で感じた嫌な気配が、強くなりました。この・・・奥から。」
シルフィールが油断無く辺りを見渡しながら、白ずくめの男を振り返る。
「そうだな、俺にも感じるほどだ。締め切られた空間特有の陰鬱な空気だけ
 じゃない。明らかに違う、何かがこの先に居る。」
「・・・アメリアさん・・・」
ゼルガディスの言葉に、シルフィールが形の良い唇を歪め、俯いた。
「・・・行くぞ。何が居るのかは知らんが、あいつを放ってはおけない。」
右手のブロード・ソードを握り直し、ゼルガディスは左手に翳した魔法の明かりを
天井に向けて放つと歩き出した。明かりはアレンジを加えられているのか、
天井付近に止まってから、白ずくめの男の頭上を照らしながら移動し始めた。
シルフィールはその身に沸き起こる微かな震えを歯を食いしばることで治め、
口早に少女の無事を唯一神に祈ると、先を行く合成獣の男の背中を追うのだった。



かつん かつん かつん
通路に響く二人の足音だけが、こだまする。
一本道だと思われていたこの通路は途中から二手に分かれており、       
ゼルガディス達は左手に進んでみたのだが、そこは物置にでも使われていたのか、
いくつかの空っぽの小さな部屋が造られているだけであった。
「・・・何もないな・・・」
「そうですね。やはり右手だったんでしょうか?」
二人が仕方なく来た道を戻り始めたとき、それは起こった。

ずるり どちゃ

何とも嫌な音が背後でしたと思うと、ゼルガディスの背中にシルフィールの背中が
勢いよくぶつかってきた。
「な!?なんだ?」
「き、きききっ、きぃやぁあああああああああぁぁぁっ!!!!!!!!!」
咽も裂けよいわんばかりの悲鳴が、シルフィールの口から沸き起こる。
ゼルガディスは堪らず耳を押さえながら振り向くと、長い黒髪の女性の視線の先に
毒々しい緑色の蛍光色を光らせ蠢く物達が、たった今覗いていた空の部屋から
あふれ出てくる光景が広がっていた。

               ★作者・注★
(お食事中の方はすみません。これから先の描写が駄目そうだなーと言う方は
 少し読み飛ばしていただいた方がよいかと思われます。)

                 ☆
「!?な゛っ、なんじゃこりゃ!!」
ゼルガディスの口からも、悲鳴に似た言葉が滑り出る。
それ、は、ずるり、ずるりと通路を這いずりながら、後から後からあふれ出し、
不気味に震えながら、次第にこちらへと近付いてくる。
それだけでも十分気味が悪いのに、その物体には目玉のような小さな球体が
いくつもついており、それらが一斉にこちらを向いていたのだ。
こんな物を見て正気で居られる人間が居るのなら、お目に掛かりたい。
男の目から見ても、正直とても正視できる光景ではない。
それを女性が見たものならば・・・
「う、ぅ〜〜〜ん。」
小さな呻きを残して、シルフィールは器用にも直立不動の姿勢のまま、気絶した。
「無理もない・・・って、ぅおい!俺一人でどうしろってんだ!このなのを!!」
うごうごと、遅いながらも確実に自分達を目指して進んでくる粘着質生命体を前に
ゼルガディスは絶叫する。
「えぇえい儘よ!!炎の矢!!(フレア・アロー!!)」
アレンジを加え紡がれた力ある言葉(カオス・ワーズ)に導かれ、ゼルガディスが
翳した左手の先より、幾つもの炎が現れた。

きゅどどどどどどどっ!!!
熱き炎は緑色の粘着質生命体に襲いかかり、赤い炎の段幕を作り上げる。
熱気と共に白い蒸気が立ち上り、辺りに形容しがたい臭気が立ちこめた。
「始末が悪いな、こいつらは。」
顔をしかめて呟いたゼルガディスの視線の先に、ぶすぶすと泡を吹き出しながら
溶けゆく物体があった。
それでも、先程の炎の矢に効果があったのだろう。通路に溢れていた緑色の物体は
今は所々で燻りながら、小さく消えていくのであった。
                 ☆

「シルフィール、大丈夫か?おい。」
未だ青白い顔色のシルフィールの頬を軽く叩く。紫色の神官服を纏った女性は
小さく身じろぎをしてから、その長い睫毛を揺らし目を覚ました。
「・・・ゼルガ ディスさ ん?あ、いたた・・・」
倒れ込んだときに頭を打ち付けていたのか、シルフィールは頭を押さえながらも
上体を起こし、白ずくめの男を見上げた。
「す、すみません。私ったらさっさと気絶しちゃって・・・処で、さっきのは?」
まだあの不気味な姿が脳裏に焼き付いているのだろう、シルフィールは恐る恐る
辺りを伺う。
「あぁ、幸い炎が効くヤツだったらしい、蒸発して消えちまった。」
「そう・・・ですか。」
心底ほっとしたように、シルフィールは吐息を吐く。
「・・・ほっとしているところに悪いんだが、今度はあんたの出番のようだ。」
台詞を言い終わると、ゼルガディスは肩越しに自分の背後を振り返る。
合成獣の言葉に、シルフィールは気配を感じてのろのろと立ち上がった。
「・・・これは・・・」
「こいつらには、俺の剣は効くのかね?」
息を呑むシルフィールの隣で、ゼルガディスは口の端を上げて嗤う。
二人の視線の先には、地の底から聞こえてくるかのような地響きにも似た
声をあげる、無数の気配が生まれつつあった。

霧がその身を包んでいるようなモノ。
「亡霊(ゴースト)・・・」
シルフィールは苦しげにその名を告げた。



ゼルガディスとシルフィールが無数の怨霊と対峙している頃、アメリアは
夢の中にいた。

何かが自分を呼んでいる。
とても懐かしい何かが。

その声に導かれるように、少女はゆっくりと雲の上のような空間を歩いていた。

「私を呼ぶのは、誰ですか?」
少女は暖かい気配が感じられる空間に向かって、問うてみる。
 
『・・・――――――――――・・・』

何かを言われたような気がした。だが、それは少女に届く前に
かき消されてしまう。

「何ですか?今、なんと・・・」
少女はもう一度、その暖かい気配に向けて問うてみるが、突然沸き起こった
突風により、雲のような物は少女から遠ざかり、見えなくなってしまう。

「待って、待って下さい!」

がばっ


身体を跳ね起こし、右手を何もない空間に向け差し出している。
アメリアは、そこで初めて自分が見覚えのある魔法陣の上で横たわっていたことに
気が付いた。
「・・・わたし・・・?今のは・・・」
ふと、一筋の涙が頬をつたっていくのが分かった。
―――――・・・涙?
暖かい余韻の残る白昼夢。
だが、アメリアは自分が何の前で横たわっていたかに気付くことで、現実の
世界へと意識を向けることに成功した。
「・・・これは・・・」

少女が横たわっていた魔法陣の、すぐ前にあった物。
恭しく飾られた闇の王、シャブラニグドゥの像。
その本殿の直中であった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

時間が無くて、纏まりが無くなってしまいました。
次回は姫様の活動から始める予定です。

大変短いですけど、この辺で。でわでわ。

魚の口

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2720巻末で妄想。その7。魚の口 2/11-18:48
記事番号2689へのコメント

その部屋は陰湿は空気に包まれていた。少女はまだ知らなかったが、地下室特有の
じとっと湿気を含んだひんやりとした雰囲気は、この部屋に妙な気配を与え
誰もいないというのに、まとわりつくような何かを感じてしまう。
「明かりよ!(ライティング!)」
薄暗い室内の、無音の圧迫感に耐えられず、少女は翳した右手に魔法の明かりを
宿らさせた。現れた青白い光は、くっきりとした陰影を佇む像に与える。
「・・・赤眼の魔王(ルビーアイ)シャブラニグドゥ・・・」
目の前に、恭しく飾られた青銅製の像を見上げて、少女は思わず呟いた。

少女が神殿で学んだ魔王のその姿形は、信者達に恐ろしさを植え付けるため
古の神官達が想像し、創り上げた姿だという。
神話として伝えたれてきた神魔戦争の、一つの大いなる力と一つの滅びの力とが
ぶつかり合うその時の姿を想像した物だ。
この世界に存在するどの生き物にも、似ても似つかない異形の姿。
畏怖し、忌むべき物だが、決して屈することなくおのが神を信じ、崇拝すれば
畏れる存在ではないと教わってきた。ましてや、今、目の前にある物は、いわば
只の偶像に過ぎない。
「・・・愚かな邪教の、モグリ神殿の、只の虚像です。怖くなんかありません。
 怖くなんか・・・」
少女とほぼ同じくらいの高さの像を懸命に睨み付けてはいるのだが、その
こぼれそうな大きな瞳にはうっすらと滴が浮かびつつあった。
「・・・ひん・・・ぜるがでぃすさぁん・・・」
いつも元気な少女は何処に行ってしまったのか、たった一人になってしまった
少女は心細げに翳した明かりを頼りに、きょろきょろとこの部屋の出口を
探し始めた。
「出入り口は・・・・・・ない・・・?」
四方を見渡すのだが、小さな石が敷き詰められた壁には窓は勿論のこと、
出入り口として使っていそうな扉もそれらしい仕掛けも見当たらない。
「そんなぁ、きっと何処かに有るはずですぅ。」
更に涙目になって、少女は今までしゃがみ込んでいた魔法陣の上から立ち上がると
出入り口を見つけるために、石造りの壁に向かって一歩足を踏み出した。

・・・うぉん

耳障りな振動を感じ、少女は自分が今まで対峙していた虚像を振り返る。
「!?」
振り返った少女は自分の目を疑った。何故なら只の虚像でしかない筈の像が
禍々しい赤黒い光をその全身から放つ姿を見たからだ。
「そんな!」
目を見開き、狼狽える少女を余所に、赤黒い光を放つモノはゆっくりと
像より分離すると空間にたゆたった。
『・・・お前か、このワタシの封印を解いてくれたのは・・・』
赤黒い光を放つモノは、少女の目の前にまで漂うと、その霞のような姿を
拡散させ少女に襲いかかった。
『早速だがその力、有り難く貰い受けるぞ!』
「なっ!?」
抗う間など与えずに、それは少女を包み込んだかと思うと、禍々しい光を強め
少女の小さな身体を拘束した。だが、

ききいぃん

金属を振るわしたような音がしたかと思うと、少女を覆っていた赤黒い光が
一瞬のうちに千々に割かれ、吹き飛ばされた。
『!?ぅおぉおおっ!!!』
赤黒い光を放つモノは、それでもその霞のような姿を一瞬だけ消しただけで、
すぐに少女から少し離れた空間に収束しわだかまる。
『くぅ!貴様・・・貴様、そのアミュレットは・・・!』
「?・・・助かった?あ、アミュレットが・・・」
少女が、その身を庇うように翳していた両腕に二つ、そして首筋に一つ蒼く輝く
宝玉が淡く色づいていた。六芒星の頂点に赤の竜神(スィーフィード)の名を
示した神呪を配した物だ。
「これのせいで・・・?」
自分の目の前に漂うモノと、アミュレットとを交互に見やって、少女は呟く。
『ちぃ、忌々しい光など放つとは。折角このワタシの力の足しにしてやろうと
 いうのに・・・まぁいい。どうやら珍客は貴様だけじゃなさそうだしな、
 ならば貴様などには構ってはおれん。』
それ、はゆらゆらとたゆたっていた祭壇の前から、一瞬にして祭壇と対角線上の
壁際に移動すると、その壁の僅かな隙間に霞状の自身を滑り込ませる。
「あ!お待ちなさい!!貴方が「悪」と分かった以上、このアメリア=ウィル=
 テスラ=セイルーンが天に代わって成敗します!!」
正体不明だったモノが、少女の燃える正義と相対するモノと分かったことで、
今までの一人になってしまった心細さもあっという間に消え去り、アメリアは
本来の瞳の輝きを取り戻した。口早に呪文を唱え印を組む。
「逃がしません!烈閃槍!!(エルメキア・ランス!!)」

こぉっ!!

現れた烈光の槍は、真っ直ぐに赤黒い光を放つモノに向け放たれたのだが、
寸での処で逃げられ、しかも何かの力に阻まれるかのように弾かれてしまった。
「!?壁に弾かれた!そんな!?」
慌ててそれが消えた壁に駆け寄ってみると、この部屋中の壁に敷き詰められた
小さな石にはそれ一つ一つに何らかの魔法文字が施されていた。いわば
それらの魔法文字によって、この室内に結界と同じ様な効果をもたらしている
ようだ。
『ふん。その部屋の中にいる限り、貴様の力は使うことは出来まい。何のために
 この神殿に来たのかはしらんが、ワタシを再び外に出してくれたことは
 礼を言うぞ。有り難く、その魔王の前で朽ち果てるが良い。』
台詞と共に甲高い嘲笑がアメリアの頭に直接響いてきた。気配は壁の向こう側を
ゆっくりと移動し、この部屋の前から消えていってしまう。
「!そうはいきません!!こんな壁!」
悔しげに唇を噛み、少女は再び呪文を唱え始めた。力ある言葉(カオス・ワーズ)
に導かれるように、構えた右手に魔力が収束する。
「振動弾!!(ダム・ブラス!!)」

ごばぁっ どぉう!

「!?そんな、っきゃああぁあ!!」
あろう事か、壁を粉砕するはずの力は、そのまま右手を壁に押しつけた少女の掌を
逆に押し退け、小さな身体を吹き飛ばしてしまった。
「ぎゃう!?」
そのままアメリアの身体は祭壇の前まで跳ね飛ばされてしまい、背中を床に
したたか打ち付けることになる。
「!!」
目の前を小さな幾つもの星が飛び交い、一瞬息が出来ない。いかな超合金娘とて
生身の人間である。受け身を取ることが出来なければ、それは致命的な怪我に
結びついてしまうのだ。
「〜〜〜〜〜げほっ、えほっ・・・っつつつ、ぃったぁあああい。」
どの位の痛みが少女を襲っているのだろうか、アメリアの形の良い眉も唇も
苦痛に彩られている。だが、それでも少女はその身を起こすと、自分自身に
呪文を唱え始めた。
「・・・治癒(リカバリィ)・・・」
淡い光が仄かに少女の左手に宿ると、その光を背中に当てる。痛みに耐えていた
少女の表情はやがて、大きく息を吐けるほど穏やかになった。
「・・・良かった、自分には魔法が効いて・・・!そうだ、こんな事でゆっくり
 してられないんだ!早くここから出て、ゼルガディスさん達と合流しないと
 さっきのヤツが!」
弾かれたようにその場から立ち上がると、アメリアは先程自分が吹き飛ばされた
付近の壁に駆け寄る。どこかにこの部屋から出る仕掛けはないかと、探し始めた。
「早く、早くしないと!」
床の付近や赤黒い光を放つモノが消えた辺りを念入りに調べるのだが、僅かな
隙間が見られるだけで、ボタンもくぼみも見つけることが出来ない。
それでも、アメリアは諦めずに周囲の壁に張り付くのだが、同じ様な大きさの
石が敷き詰められているばかりだった。

涙目になりながらも、懸命に壁を調べるアメリアに先程、赤黒いモノに襲われた
時の悪寒が思い出された。アミュレットの力により少女は助かったのだが、
あの覆い被された瞬間に、少女は得も言われぬ嫌悪感に襲われていたのだ。
以前、対峙することとなった魔王の腹心の一人と戦った時の恐怖とはまた違う。
より、人間らしい感情であったが、それもまた負の気配には違いないモノだった。
―――あれは、一体・・・?
そして、この時少女の巫女としての力が発揮されてもいたのだ。神託とは違う
予知のような感覚。脳裏に浮かんだ断片的な映像と感情。

暗闇に浮かぶ合成獣の男。交わされる歪められた言葉。どうしようもない程の
悲しい消失感。

それらが重なり合い、少女の行動に焦りを伴わせていた。
―――ゼルガディスさん・・・
自分が慕う白ずくめの男が、あんな赤黒い霞如きに負ける筈はないのだが、
それでも少女の中に浮かぶ不安は拭いきれないのだ。
「・・・早く、ここから出なくちゃ・・・」
壁をまさぐる手に力が籠もる。少女が再び壁に向けて意識を集中し出したとき、
背後の祭壇から小さな声が聞こえてきた。
「・・・そこの誰か・・・もし・・頼む・・・」
「!?」
思わず身構えて振り返った少女の耳に、その声は再び聞こえてきた。
「・・・この像を・・・動かしてくれ・・・頼む・・・」
「・・・・・」
油断無く辺りを伺うが、あの赤黒いモノの気配は感じられない。像を見ても
最初に見たときと同じ、只の青銅製の虚像に戻っているのだ。
「頼む・・・コイツをどかしてくれ・・・儂をここから出してくれ・・・」

声は祭壇に設けられた像の、台座から聞こえてくるようだった。恐る恐る
近付いてみると、確かにその付近から声が聞こえてくる。
「儂ぁもう腹が減って腹が減って・・・死にそうじゃあ・・・」
「・・・???・・・」
とても人が入っているとは思えない小さな台座である。訝りながらもアメリアは
その切なそうな言葉に、思わず声をかけてしまった。
「・・・お腹が空いてらっしゃるんですか?」
「!おぅおぅ、空耳じゃなかったんだな。スマンがそこな方、この像をどかして
 くれんかいのう?」
声は反応があったことに心底嬉しそうに応えると、先程と同じように像をどかして
くれるように願い出た。少女は暫く考えてから、祭壇の上に上がるとずっしりと
重みのある像を動かし始めた。
「〜〜〜うーーーん、重いですぅ〜〜〜っ。」
「ほりゃ、頑張れ!頑張れ!」
おかしな事に、声はアメリアのことを応援しだしたのだった。
「う゛〜〜〜〜〜っ!」
「そりゃ、踏ん張れ!踏ん張れ!」
「い゛〜〜〜〜〜っ!!」
「うりゃ、あっぱれ!あっぱれ!」
「ぶぅあっはっはっ!!なんですか、それ!!・・・って、わわわわっ!!!」
妙なかけ声に、つい笑ってしまいアメリアはバランスを崩してしまった。

ずででーーん!

「おぉおぅ!光じゃ、光じゃ!やっと出られたぞぃ!!」
ぽんっという音と共に、台座の中より現れたのは見事な二等身の小さな影。
「お陰で助かった。ありがと・・・ありゃ?姿が見えんのぅ?」
それはきょろきょろと辺りを見渡すのだが、誰もいない。
「おかしいのぅ、何処に消えたんじゃ?」
ぴょこぴょこと動き出したそれは、やがて祭壇の下に像を抱えたまま床に落ち、
目を廻している少女の姿を見つけた。
「やや!?抱えたまま落っこちてしもうたか、スマン事をしたなぁ。」
それはぴょいっと祭壇の上から飛び降りると、ぴょこぴょこと目からお星様が
飛び出しているアメリアのそばに寄ってきた。
「よし、そりゃ!」
手にした小さな竹串ほどの長さの杖を一振り振り上げると、少女を下敷きに
していた像がひとりでに浮き上がった。
「ほっと!」
更なるかけ声と共に杖を振ると、青銅製の像は元の台座の上に静かに収まる。
「ふむ、こんなもんかの。さて、今度はこの嬢ちゃんを起こさないとな。」

謎の小さな影はアメリアの頭の側に近付くと、小さな杖を少女の顔に向け
振り上げるのだった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

時間切れー、本日はここまでとなりました。
又次回にお目にかかれるよう、頑張りますので次のお邪魔したときも
宜しくお願いいたします。でわでわ。

魚の口

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2754巻末で妄想。その8。魚の口 3/2-19:12
記事番号2689へのコメント

陰湿とした地下室に、華奢な身体の少女が目を廻して倒れている。
その傍らに蠢く小さな影が一つ。
それ、は手にしていた竹串ほどの長さの杖を振り上げると、迷うことなく
少女の愛らしい額に向け振り下ろした。

かっちーん!
実に乾いた音が室内に響き渡った。小さな影が振り下ろした杖は狙い違わず
少女の額に打ち付けられたのだ。打ち付けられた少女の額には赤い斑が浮かぶと
ぷくっと小降りのたんコブが現れる。だが、少女の瞳はそれでも閉じたままだ。
「おや、これで起きんとは・・・ならば。」
影は少女の顔を覗き込んで呟くと、手にした杖を構え直し何故か気合いを入れる。
「ちぇすとぉぉぉおっ!!」
叫ぶのと同時に飛び上がり、再び杖を少女の額に向け振り下ろした。

―――はっ!殺気!!

今の今まで目を閉じたままだった少女が、かっと目を見開き上半身を起こしかけて
動きを止める。自分に襲いかかる小さな影を大きな瞳が捕らえたからだ。
「!?なんのっ!」
自分に向け振り下ろされようとしていた小さな杖の軌道を見切り、左手の
人差し指と中指とで、はっしとつかみ取る。
その影は舌打ちひとつすると、ぼそりと呟いた。
「ぬっ・・・できるな。」
「いきなり襲うとは卑怯千万!折角出して差し上げたというのに、こんな事を
 する貴方は悪です!このアメリアが・・・!?」
彫像の重みに耐えかね目を廻して倒れた自分に向かって、いきなり襲い
かかってきた輩に正義の鉄槌を喰らわさんとした少女・・・アメリアが、
それに向かって名乗りの口上を叩き付けようとして絶句する。
自分の目の前に端然と佇んでいるモノを見てしまったからだ。
「なっななな・・・」
ぱくぱくと口を水面に浮かんで餌をねだる鯉のように開け、それを凝視する。
ぼろぼろのうす茶色のローブを纏い、その半ばまで伸びた白い髭、
やはり同じように白くなった頭髪を、ポニーテールのように結い上げている
老人の姿をしていた。
アメリアが目を見張ったのはそのサイズ故。それは見事に掌サイズの二等身を
していたのだ。
「ふむ、気が付いたのぅ。では、これで儂を台座から出して貰った借りは返した
 ということで、儂はこれで失礼するかの。」
未だ口をぱくぱくと開けている少女を余所に、その小さな老人は満足げに言うと
手にした杖をこんこんと床面に二度打ち付ける。

どろろん!
小さな白煙が突如現れ消えたかと思うと、床面にその老人が通れる位の小さな穴が
開けられていたのだ。
小さな老人は一度その穴の中を確認すると、アメリアの方を振り返って手を振る。
「では、さらばじゃ!」
「!?まっ!まま、待って下さい!!」
自分が魔法を使っても傷一つ付けられなかったこの部屋に、いとも容易く
穴を開けた小さな老人の姿が、その穴の中に消えようとするその直前。
アメリアは夢中で飛びつくと、両手でその小さな影を捕まえた。
「ば、馬鹿!何をするっ!!くるしい!くる・・・し!!!」
小さな老人はあっという間に少女の両手に捕まり、苦しげに顔を歪め少女の
両手の中で暴れた。そうとも知らずにアメリアは手の中の老人に向け、必死に
懇願する。
「お願いです!私をこの部屋から出して下さい!早くこの部屋からでないと、
 私の大切な人達が危ないんです。お願いです、おじいさん!!」
「&*@§☆★!?」
手の中の老人は赤くなったり蒼くなったりしてもがいている。その死にモノ狂いの
形相に、アメリアはやっと自分が力を込めて老人を掴んでいることに気が付いた。
「!ご、ごめんなさいぃ!!!」
慌てて力一杯掴んでいた老人をそっと床に離す。小さな老人は転がるように
掌から逃れると、肩で大きく揺らして息を吸い込んだ。
「ぜはっ、ぜはっ、おへっ!・・・このばっかモンが!少しは力の加減をせんか!
 もう少しで儂ぁ消滅するところだったぞぃ!?」
小さな顔を真っ赤にさせて、老人は少女に向かってぷいぷい怒り出す。
「ごめんなさい、すみませぇん!!大丈夫ですか!?私ったら慌てて・・(泣)」
この部屋から出るために藁にも縋る気持ちでいたアメリアは、目にうっすらと涙を
浮かべて必死に頭を下げる。今、この不思議な老人に見捨てられれば、このまま
一生この部屋から出られないかもしれないのだ。

「・・・ま、まぁ、そんなに言うなら許してやっても良いがの・・・」
少女の大きな瞳に浮かびつつある涙に毒気を殺がれたのか、怒りの勢いを治めつつ
老人はバツが悪そうにアメリアを見上げる。
「ほんとですか!?よかったぁ・・・」
老人のその台詞に少女は一気に喜びの表情になると、へなへなとその場に崩れた。
だが、すぐに真顔に戻ると、アメリアは改めて小さな老人に懇願する。
「私、どうしてもこの部屋から出なくちゃいけないんです。お願いです、
 おじいさん。見たところおじいさんの魔法はこの部屋に対して有効なようです。
 私の呪文だとどうしても弾かれてしまって・・・だから、私をこの部屋から
 出していただけるだけで構わないんです。私を助けてくれませんか!?」
少女の瞳は真剣味を帯びていた。こうしている間にも、あの赤黒いモノが    
合成獣の男達を探し出してしまうかもしれないのだ。相変わらずアメリアの
巫女の力は警鐘を鳴らし続けている。妙な胸騒ぎが収まってはくれないのだ。

自分に向け必死に願い出すアメリアの瞳を見据えて、老人は深く息を吐いた。
「・・・この部屋を出れば、自ずと危険が待ち構えているとしても
 お主はこの部屋から出るというのか?」
小さな老人の周りの気が、この一瞬だけ変わったことに少女は気が付かない。
「勿論です!」
迷うという感情を初めから持たぬかと思われるほどの即答で、アメリアは答えた。
「・・・あい分かった。嬢ちゃんの願いを聞き届けよう・・・」
「!ありがとうございます、おじいさん!」
老人の言葉にアメリアはぱっと頬を染めるが、小さな老人は更に続ける。
「願いには代償が付き纏う。嬢ちゃんはこの願いに何を差し出すのかいの?」
何故か寂しげに呟いた老人の台詞の意味が分からず、アメリアは首を傾げた。
「?差し出す・・・えっと確かおじいさん、お腹が空いてらしたんですよね。」
そう言うと、クリーム色の法衣のズボンのポケットの中をごそごそとかき回す。
「・・・いや、差し出すモノの意味が・・・」
少女の行動の意図を感じとって、老人は言葉を付け加えようとしたとき。
「あ、ありました!これ、とっても美味しいんですよ!リナさんに
 取られないように隠し持っていたんですが・・・はいっ!」
ぽん。
アメリアの掌に収まった小さなモノ。
「セイルーン王家御用達、丸聖印のチョコレートボンボン!!
 ストロベリー、ミント、ユーカリの三種類の味があって、私のお奨めは断然
 ストロベリーなんです!」
にっこりと微笑む少女の掌には、とりどりの包み紙に収まった可愛らしい菓子が
並んでいる。その屈託のない笑顔に小さな老人は苦笑すると、小さな手でその
可愛らしい菓子を受け取った。
「・・・まぁ、供物を貰ったということにしておくかの・・・」

かさかさと広げた包み紙の中につやつやの茶色い粒が現れる。小さな老人はやおら
それを持ち上げると、一息でその甘い菓子を口の中に収めた。
何とも言えない甘くほろ苦い味に次いで、甘酸っぱい香りが口の中に広がった。
「・・・この菓子の名はなんと言ったかの?」
「え?あ、丸聖印のチョコレートボンボンです。」
呟いた老人の問いに、アメリアは笑って答える。
「忘れられない味になりそうじゃ・・・」
「お気に召しましたか?まだまだありますから、召し上がって下さいね。」   
小さな老人が目を細め感慨深げに呟くので、アメリアはよっぽど気に入ったのかと
更に奨めるだが、老人は笑って首を振り少女の申し出を断った。
「いや、もう充分じゃよ。さて、ではこの部屋から出るとするか・・・」
小さな老人は表情を改めると、持っていた杖をふた振り振り動かす。と、

ぽぽん!
小気味いい音と共に、握り拳程度の雲が現れた。老人は軽い身のこなしでその雲に
飛び乗ると、雲は一気にあの赤黒いモノが消えた辺りの壁まで移動する。
「え!?あっ!」
慌ててアメリアはその後を追い掛けた。
小さな老人が乗った雲はふわふわと漂いながら、魔法文字を施した石造りの壁と 
対峙する。そして二、三度その手の杖を振り動かしたかと思うと、その杖の先端を
ちょいっと石造りの壁と接触させた。

「!?」
何の音もさせずに、少女の目の前の壁が扉一枚分だけ消失する。瓦礫も砂煙すら
起こさずにだ。
「いっ、一体・・・」
アメリアは驚愕の表情で改めて小さな老人を見据える。
貴方は何者なのか・・・そう問いただそうとしたとき、

どどぉおおぉん!!

地下をも揺るがす大音響が鳴り響いた。次いで地鳴りが辺りを打ち振るわせる。
「な!?今のは!?」
未だ続く振動に耐えながら、アメリアの脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。

―――ゼルガディスさん!?

老人により開け放たれた暗闇へと続く空間からは、先程の大音響の余波が未だに
鳴り響いている。それが闇の中に潜んでいる何者かの呻き声にも思えた。
「・・・さて、儂もヤツとの決着を付けねばなるまいな。」
小さな雲に乗って漂う老人が独り言を言うように呟いた。
「!?おじいさん・・・貴方は・・・?」
意味深な台詞を吐きだした老人を見据え、アメリアは問う。
「―――歩きながら話そう。嬢ちゃんにとっては昔話になるがの・・・」
振り向いた小さな老人の表情には、自嘲めいた笑みが張り付いていた。
「ほんの少し前・・・人間で言うならば十年前になる話じゃ・・・」



時間を少し前に戻す事にしよう。
少女が未だ祭壇の前で気を失っていたときのこと、ゼルガディスとシルフィールは
邪気を放つ無数の気配に取り囲まれていた。

「こいつらの気を俺が惹き付けておく、あんたはお得意の白魔法の方を頼むぜ。」
「分かりました。でも、ゼルガディスさん気をつけて下さい。この亡霊
 (ゴースト)達からの邪気だけではなく、他にも何か・・・」
自分の背後に薄紫色の神官服を着た女性を庇いながら、合成獣の男は手にした
ブロード・ソードを握り直した。黒髪の女性も辺りを伺いながら、白ずくめの男に
注意を呼び掛ける。
「あぁ、こいつらだけじゃない・・・何か他にもいるな・・・だが!」

ずばっ!!
襲いかかってきた靄のようなモノの攻撃に、牽制の素振りを浴びせかけて続ける。
「こいつらは、俺達を放って置いてはくれなさそうだな。」
合成獣の男、ゼルガディスは薄く嗤うと己の剣に魔力を込める呪文を唱え始めた。
「魔皇霊斬!(アストラル・ヴァイン!)」

ヴォン!
紅の光は低い唸りをあげてブロード・ソードにまとわりつく。

それが闘いの合図になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

皆様こんばんわ!またも時間切れとなってしまいました。
遅すぎる投稿で済みませんが、次も又頑張るつもりです(汗)。

次回はゼルやんに活躍して貰うつもりです。
短いですがこの辺で、又こちらにお邪魔する際は宜しくお願いいたします。
でわでわ。

魚の口

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2760Re:巻末で妄想。その8。くが 3/5-23:12
記事番号2754へのコメント

やはり、姫の笑顔には誰も逆らえない。
と、いう事ですね。

しかもおじいさんはタダならぬ人物(?)と言う事が
伺え知れますがそれをチョコレートで
動かしてしまう
っていうのが、もう、「やはり姫はすごい」と
頷かずにいられません。

次はゼルが活躍するんですねー。
アメリアと早く合流できると良いなぁ。
姫がいないのでさぞや心許ない事と思います。
それはアメリアにとっても同じことでしょうが。

次も頑張ってください。

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2775本当にいつも有り難うございます。魚の口 3/10-11:13
記事番号2760へのコメント

くが様

こんにちわ、またも感想を頂きまして、有り難うございます。

>やはり、姫の笑顔には誰も逆らえない。
>と、いう事ですね。

笑っている姫は良いですよね、本当に心から微笑んでくれる笑顔は
その笑顔を見ただけで、癒される時もありますし。

>しかもおじいさんはタダならぬ人物(?)と言う事が
>伺え知れますがそれをチョコレートで
>動かしてしまう
>っていうのが、もう、「やはり姫はすごい」と
>頷かずにいられません。

じーさんばかりオリジナル登場人物として登場させている
様な気がしますが(苦笑)、このおじーさんにも一役買って貰うつもりです。
無邪気な笑顔がある意味、最強の武器とも言える姫ですからね。
こういうことも、無意識のうちに自然に起こってしまうのかなーと思います。

>次はゼルが活躍するんですねー。
>アメリアと早く合流できると良いなぁ。
>姫がいないのでさぞや心許ない事と思います。
>それはアメリアにとっても同じことでしょうが。

嫌に長くなりつつありますが(冷や汗)、姫との合流はもう少し先に
なるかも知れません。その辺はご期待に添えないかなーという感じですが、
ちゃんと軌道修正はしていきたいので、頑張ってゼルアメ目指していきたいと
思っています。やっぱり二人揃ってこその「ゼルアメ」ですからね。

>次も頑張ってください。

律儀に感想を戴けて、本当に嬉しい限りです。やっぱり反応があるのと
無いのとでは、次に進む意欲が違ってくるモノなのですね。
現金な話、面白くないなら続ける必要ないよなーなんて考えていた
矢先のくがさんの感想だったので、読んでくれている人が居るのだから、
ちゃんと続きを繋げないとね、と思ったわけです(恥)。

長くなりました、頑張って続きを書きたいと思っていますので、どうぞ
こんな話で宜しければ、読んでいただけると嬉しく思います。
でわでわ。

魚の口

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2776巻末で妄想。その9。魚の口 3/10-18:58
記事番号2689へのコメント

大の大人が十分に行き来できるほどの広さとはいえ、ここは通路である。
合成獣の男が手にしたブロード・ソードで立ち回りをするのに、この通路では
狭すぎるということは目に見えて明らかだ。
まして、今度の敵の肉体はとうに朽ち果ており、この世に残した念の強さが
具現化した思念体なのである。闘い難さでは魔族と変わらない筈だ。
更にこの狭い通路では男の得意とする攻撃魔法も、肉体を持たないモノが相手では
自分達にその矛先が返ってくるのは容易に想像できる。
それでも、紅の光を纏わせた剣を携える白ずくめの男は、不敵な笑いをこぼして
いるのであった。

じりじりと包囲網を作りつつあった霞状の亡霊(ゴースト)達が、合成獣の男が
手にした剣に紅の光を纏わせたことで、一斉に狙いを男に集中させた。
その紅い光が、即座に自分達を滅ぼすことが出来るものだと判断したのか、
地鳴りとも唸りとも判断の付かない音を響かせ、合成獣の男に接近する。
「浄化炎!(メギド・フレア!)」
凛とした声を響かせて破邪の呪文を唱えたのは、合成獣の男の背に庇われていた
薄紫色の神官服を着た女性だった。
巫女の女性の祈りを織り交ぜた白銀の光は、浄化の光へと代わり亡霊(ゴースト)
達へと降り注ぐ。

おおぉおぉぉぉおぉん・・・

断末魔の悲鳴か、昇天できる歓喜の喜びか、浄化の光に照らされた彷徨える魂達は
己の還るべき途をゆっくりと昇る。
仲間達が霞と消える様子に我先にというつもりか、今度は神官服を着た女性へと
狙いを定めた亡霊(ゴースト)達が殺到した。
「甘い!」
短く呼気と共に鋭く叫ぶと白ずくめの男がひらりと反転し、女性と背中合わせに
なったと同時に右手のブロード・ソードを唸らせる。
霧状になった存在の半ばを紅い光に抉られ、問答無用にこの世に残る未練を
断ち切られた。
「頭数ばかり揃えやがって。とっととあの世とやらに送ってやるから、
 雁首揃えて掛かってこいっ!」
かなり乱暴な言葉を叩き付けて、合成獣の男は未だ通路内を漂う幾つもの
亡霊(ゴースト)に苛立げな双眸を向けた。
「先へ進みたい気持ちは分かりますがゼルガディスさん、言葉は最早
 通じないですけど、亡霊(ゴースト)相手に挑発してどうするんです。」
背中越しに苦笑混じりに女性が声をかける。
「ちっ・・・」
台詞の内に潜めた逸る思いを感じ取られてか、ゼルガディスは軽く舌打ちすると、
神官服を着た女性から一旦離れ、一気に片を付けるべく今度は自らが仕掛けた。

「せぃっ!」
霧状の蟠りを横薙ぎに一閃する。次いで背後より襲いかかってきたものを
振り向き様に袈裟切りにした。
再び神官服を着た女性に襲いかかろうとして出現した一体を、間髪入れずに
斬りつけるが、残滓のみを囮に残してそれはこちらに襲いかかってきた。
「!?くっ!!」
視界が霞みがかり、軽い冷気が伝わってきたかと思うと虚脱感が身を包む。
自分の身体を支える力が抜けるかと感じたとき、
「浄化炎!!(メギド・フレア!!)」

お゛ぉぉぉぉおおぉん!

神官服の女性が唱えていた浄化の呪文が完成し、彷徨える最後の魂は示された
天空への途を辿り始める。
息を付く気配と共に心配げな声がかけられた。
「大丈夫ですか!?ゼルガディスさん?」
「大丈夫だシルフィール、済まない油断した。」
不意に訪れた虚脱感も消え、駆け寄ってくる女性・シルフィールに心配を
掛けまいと顔を上げたゼルガディスの表情が一瞬で曇る。シルフィールその人の
顔色こそ、心配をしなくてはいけないほど青白くなっていたからだ。
「シルフィール!?あんたの方こそ、大丈夫なのか?」
「大丈夫です、只、ちょっとここにいた亡霊(ゴースト)達の“念”が強くて
 浄化しきれなかった邪気に中たっただけなんです。」
すぐに直りますと言う言葉に当然頷くことが出来ずにいると、シルフィールは
薄く笑って何やら唱え始めた。
「麗和浄(ディクリアリィ)」
あらゆる毒を中和するこの呪文は、詠唱したシルフィールの身体から淡い光を
放つと静かに消える。深く深呼吸をし顔を上げると、シルフィールの頬は
元の淡い桃色に彩られていた。
「さ、先を急ぎましょう。」
「・・・分かった・・・!?」
ほっと息を付いたゼルガディスの表情が、次の瞬間鋭く研ぎ澄まされた物になる。
突然現れた、先程の亡霊(ゴースト)とは比べ物にならない邪気を感じたからだ。
「ゼルガ・・・ディスさん。」
同じように只ならぬ気配を察したシルフィールが、辺りを伺いながら声を掛ける。
「あぁ・・・親玉自らお出ましになったようだな・・・」
前方の暗闇を見据えて、合成獣の男は再びシルフィールを自らの背中に庇うと、
右手のブロード・ソードを握り直す。紅い光は集中力が乱れたため消えているが、
再び唱え直せばいいだけのこと。詠唱を始めたゼルガディスの
力ある言葉(カオス・ワーズ)に導かれた魔力は幾重にも重なり、鋼の剣へと
纏わりつく。
「魔皇霊斬!(アストラル・ヴァイン!)」
呪文は完成し、魔力を封じ込められた剣は紅い残像を残して紅に染まる。

『ほぉ・・・魔力を剣に込めるとは、初めて見るな・・・』
闇の向こう。魔法の明かりの光量が届かぬ先で何かが呟く。
『貴様、力を持っていそうだ。その力も貰い受けるとするか。』
「フン。勝手なご託を並べる自信はありそうだな。」
闇を見据え、ゼルガディスは口の端だけで嗤った。
『そう言っていられるのも今の内だ。封じ込められていた間に力は有り余って
 いたからな。あの小娘には感謝するよ。』
くつくつと耳障りな笑い声を漏らして、闇の中の何かは可笑しそうに笑う。
探し求めている人物の手掛かりを耳にして、ゼルガディスの双眸が更に鋭くなる。
「・・・アメリアをどうした・・・」
唸り声にも似た、くぐもった声が合成獣の男の口から漏れる。闇に向けて放つ
眼孔も先程の倍の強さになった。
『くくく・・・貴様等は仲間か。この神殿の宝荒らしにでも来たのか?
 大した度胸だ。このワタシの神殿に入って生きて帰れると思うな。』
「アメリアをどうしたと聞いている!」
ゆるゆると侮蔑するように喋る、何モノかの言葉を遮るようにゼルガディスは
叫ぶ。言葉の駆け引きと言うことも忘れ、はぐれてしまった少女の安否を
聞き出そうとする。
『聞いてどうする!?貴様等もどうせ後を追うことになるのだからな!』
「!?・・・貴様ぁ・・・」

合成獣の男の口が苦しげに言葉を紡ぐ。その呪文の響きを聞いて背後に佇んでいた
シルフィールが驚いて男を止める。
「ゼルガディスさん!?ここでそんな呪文はっ!?」
だが、そんなシルフィールの言葉も、最早ゼルガディスには届いてはいない。
力ある言葉(カオス・ワーズ)に応えるように、魔力は合成獣の男へと集結した。

「冥壊屍!!!(ゴズ・ヴ・ロー!!!)」
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ごめんなさい!こんな処なんですが、続きとなります(滝汗)。
又、頑張って繋げるようにしますので、暫くお待ち下さいますように。
すみませんです(恥)。
でわでわ。

魚の口