◆−嵐が過ぎるまで:前編−UMI(2/3-13:45)No.2692 ┣嵐が過ぎるまで:中編−UMI(2/3-13:47)No.2693 ┗嵐が過ぎるまで:後編−UMI(2/3-13:53)No.2694 ┣プチなおはなし−わかば(2/4-00:52)No.2698 ┃┗お恥ずかしい限りです−UMI(2/5-14:27)No.2700 ┗うれしいです!−小野道風(2/9-14:09)No.2716 ┗こちらこそ、うれしいです−UMI(2/9-15:20)No.2717
2692 | 嵐が過ぎるまで:前編 | UMI | 2/3-13:45 |
こんにちはUMIです。 今回はですね、なんとゼルアメなんですよ(笑) でもどっちか一方だけじゃないんです(爆笑) ギャグでもないんです(大爆笑) しかも登場人物はゼルアメおんりー!(大大爆笑) 投稿4回目にしてようやく・・・ こういう奴もめずらしいですね、あはは(乾いた笑い) 考えていたよりも長くなってしまいましたがよろしかったら 最後までお付き合い下さい。 ==================================== ポツ、ポツン・・・ポツン・・・ (降ってきやがったか・・・) ゼルガディス心の中でぼやいた。 山の天気は変わりやすい。これはどうしようもないことだ。しかし、よりによってこんな時に・・・! 「参ったな・・・」 天気のことをいっているのではない。 「降ってきちゃいましたねー」 事の重大さをわかっているのか、いないのか(おそらく後者だろう)。のんびりとした口調でゼルガディスの隣の少女は答える。 この連れの小さな少女、アメリアが彼には問題だった。 どんな天気であろうとも自分一人ならどうとでもなる。だが、この連れは自分とは違う。この季節の雨に打たれ続けようものなら、風邪ぐらいではすまないだろう。いくら丈夫とはいっても少女は普通の人間なのだ。 (入館許可をもらった時点でリナ達の所へ行かせればよかった・・・) 今更そんなことを考えても仕方がないが、ゼルガディスは後悔せざる得なかった。 リナとガウリイはすでに、この山を越えた所にある町にたどり着いているはずだ。地方領主が治めている小さな町である。その町で依頼主、つまり領主に会うことになっている。なんでもどこかの魔道士が召喚しっぱなしにしたデーモンが暴れているという話なのだ。そんな小さな町にデーモンに抵抗できる魔道士がいるわけもない。そこで使者を隣国に派遣したところ、たまたま自分達がいたというわけである。リナ達にとってデーモン退治など仕事のうちにも入らない。町までは歩いて半日程の距離で、依頼料も悪くない。二つ返事で引き受けることとなった。 しかし、ゼルガディスには行きたい所があった。神殿付属の図書館である。その図書館にどうしても見たい魔道書があったのだ。もちろん自分だけが行ったのでは怪しまれて、入館許可がもらえない可能性が高い。そこでアメリアに同伴を頼むことにした。彼女のことであるから頼まなくとも一緒に来たではあろうが。 けれど、そんな理由で依頼主を待たせるわけにもいかない。依頼の内容が暴れるデーモン退治である。向こう側としては一刻も早く片付けて欲しいところだろう。時間が経てば経つほど被害は大きくなる。そこで、リナとガウリイには先に行ってもらうことにしたのだ。たいして手間のかかる仕事ではない。二人なら十分過ぎるくらいのはずだ。自分達は後で落ち会えばいいだけの話だ。そう判断してゼルガディスとアメリアはリナ達とは別行動をとることにした。 何も問題はないはずだった。そう、この雨さえ降り出さなければ・・・ 「参ったな・・・」 彼はもう一度つぶやいた。だんだんと雨は激しさを増してくる。 「すぐやみますよね?」 軽い調子でアメリアは尋ねてくる。 「そうであってくれればいいんだがな・・・」 「どういうことですか?」 彼女は小首をかしげた。 空の様子で旅慣れたゼルガディスにはわかっていた。 荒れると。 「おそらく、そう簡単には降りやまないだろう」 「えええ!困ります」 (ようやく、今の状況が理解できたらしいな・・・) 彼がそう思った時。 「新しいマント、買ったばかりなんですよー」 すでにかなりの水を吸って重たくなったマントをつまみながら彼女は言った。 ゼルガディスはアメリアの言葉に頭が痛くなった。 「そういう問題じゃないだろう!」 「でも、せっかく新調したのに」 これ以上言い合っても無駄だ。そう判断してゼルガディスは話題を変えることにした。 「なんにせよ、雨を防げるような所を見つけないと」 「そうですね、これ以上濡れるのは嫌です」 「とはいっても、上手く見つかるか・・・」 雨は次第に強さを増してくる一方である。のんびりと探している暇などない。 二人はずぶねれに近い状態にあった。 「大丈夫です!」 アメリアはきっぱりと言った。 「?」 「正義を持って探せばすぐ見つかります!」 今度こそ本当に頭痛を感じて、ゼルガディスは額に手をやった。 (こ、こいつは・・・) 「ゼルガディスさん!ゼルガディスさーん!」 (今度は何だ!) いいかげん嫌になるが、無視するわけにもいかず彼は声のする方に目を向けた。 いつのまにかアメリアは彼から離れてしまっている。 「おい!どこだ!」 ここではぐれようものなら。あわてて声の方に駆け寄る。 「こっちですよー!」 アメリアは手招きしてゼルガディスを呼んでいた。 「一体何なんだ!?勝手に行動するなと言っているだろうが!」 「あれです。あれ!」 ゼルガディスの怒り声を全く気にせず、アメリアは指差しながら答えた。 (何があるというんだ) 心の中でぶつぶつ言いながらも彼女の指差す方向に目をやる。 そこには小さな山小屋があった。 ゼルガディスは唖然として少女に目をやった。 「ね、言ったとおりでしょう!正義をもってすれば見つかるって!」 「正義うんぬんはともかく、運はいいらしいな。お前は」 ゼルガディスは正直に答えた。 「さあ、早くいきましょう!」 アメリアはゼルガディスの袖を引っ張った。 「あ、ああ」 ゼルガディスは何だか目の前の光景に嘘臭いものを感じて、すぐに動けなかった。 トン、トン、トン。 「あのう、旅の者なのですが!」 アメリアがノックをするが、予想どうり返事はなかった。 激しい雨のせいもあって遠目には見えなかったが、粗末な小屋の周りにはいくつも丸太が積み上げられていた。人が生活している雰囲気はない。おそらく木こりか何かの仕事小屋なのだろう。 「誰もいないみたいです」 「そのようだな」 「どうしましょうか?」 「選択の余地はないだろう。今夜はここに泊まるしかあるまい」 ゼルガディスの言葉にアメリアはやや戸惑った。いくら誰もいなくとも断りもなく勝手に他人の小屋を使ってもいいのだろうか。 (でも、他に方法はないし・・・) 雨はゼルガディスの言うとおり止む気配はない。確かに選択の余地はなかった。 「そうですね。ここの人に少し悪いですけど」 「持ち主に迷惑をかけるわけじゃない。何が悪いというんだ」 言って、ゼルガディスはドアを開けた。鍵はかかっていなかった。 「それはそうなんですけど・・・」 煮えきらない態度でアメリアはつぶやいた。 アメリアがそれを言う前に、ゼルガディスはすたすたと先に入ってしまった。 そろそろとアメリアもそれに続き、ドアを閉めた。 「光よ(ライティング)」 ゼルガディスが魔法の光をともす。とたんに、部屋の中が明るくなる。 部屋の中にあるのは暖炉と小さなランプ、そして積み上げられたまきと藁ぐらいなものだった。 「普段は使われていないみたいだな」 「そうですね」 ゼルガディスはまきの方へと近寄って幾つか手に取った。簡素な小屋ではあるが作りはしっかりしているのだろう。雨漏りもしておらず、まきは全く濡れていなかった。 アメリアは暖炉の上にあったランプを持ち上げて使えるか確かめていた。 「油が入っていませんね・・・」 ゼルガディスは火を起こしながらそれに答える。 「火事を恐れて、普段は入れておかないんだろう」 火がついたのを確かめるとゼルガディスは立ち上がった。 「まきは十分あるんだし、問題はない」 言って、アメリアの方へ目をやる。 「それよりも、お前はいつまでそんなずぶぬれのマントを着ている気だ」 「えっ?」 彼を見てみると、すでにマントを脱いでいた。 「そういえば・・・」 アメリアはあわてて、マントを脱ぎはじめる。冷たい雨に打たれていたおかげでじっとりと重い。 「それから、その服も脱いで藁の中へ入れ」 「ほええ?!」 ゼルガディスの言葉に思わず声を上げる。 「そのままじゃ、風邪を引く。俺は向こうを向いているから」 「えと、その、あの」 もたもたしているアメリアに向かって彼は一喝した。 「肺炎にでもなりたいのか!早くしろ!」 「は、はい!」 有無を言わせないゼルガディスの言葉にアメリアは飛び上がって返事をした。 のろのろと服を脱ぎ藁の中にもぐり込む。 「あのう・・・」 アメリアは藁の中から頭だけひょこんと出し、暖炉の傍に座っているゼルガディスに話しかけた。 「なんだ?」 アメリアの方へ顔を向けずそっけなく彼は返事をした。 「ゼルガディスさんは・・・?」 「ここで火の番をしている」 ゼルガディスは暖炉の中にまきを入れながら答えた。 「そんな!」 「それがどうしたというんだ?」 「そんな、いけません!」 アメリアの言葉にゼルガディスは振り向いた。彼にはアメリアが何を言っているのかわからなかったのだ。 「ゼルガディスさんに火の番をさせ、私だけのうのうと藁の中に入っているなんて!」 (そういうことか・・・) ゼルガディスはようやく彼女の意味するところがわかった。アメリアは更に言葉を続けた。 「ゼルガディスさんも藁の中に入りましょう」 「なっ・・・!」 アメリアの言葉に思わず驚愕の声を小さく上げる。 (自分が何を言っているのかわかっているのか?) とっさに暖炉に目を戻し返答する。 「俺はこれくらいじゃ、風邪など引かん」 「でも・・・」 (自分だけこうしているなんて・・・やっぱりそんなのは正義じゃないです) アメリアはそう結論を出した。 「それなら、私も火の番をします」 「お前はそこでおとなしくしていろ」 「嫌です。ゼルガディスさん一人に火の番をさせられません」 ゼルガディスは大きくため息をついた。彼女が言い出したら何をいっても聞くわけがない。 さて、どうやって彼女を説得すべきか・・・彼は頭に手をやりながら再びアメリアの方を向いた。 「おい!何をしている!?」 アメリアは濡れた服に手を伸ばしていた。 「ゼルガディスさんは藁の中に入ってて下さい。私が火の番をしますから」 (どうしてこいつは、いつも・・・) 再度ゼルガディスはため息をついた。もう説得は無理だろう。これ以上言い争いを続ければ彼女は正義とやらについて語り始めるのは目に見えている。そうなったら、夜が明けるまでえんえんと彼女は熱く「正義」を語ってくれるに違いない。 「・・・藁の中に入ればいいんだな?」 ゼルガディスは説得をあきらめた。 「わかってくれたんですね!」 嬉しそうにアメリアは言った。 (ああ、わかったよ。お前には何をいっても無駄だってことがな・・・) 彼は心の中でぼやきながら濡れた上衣を脱いで藁の中にもぐり込んだ。 雨が屋根を叩きつける音が聞こえる。風も出てきたらしい。 (とんだ雨宿りになっちまったな・・・) ゼルガディスは心の中でつぶやいた。 |
2693 | 嵐が過ぎるまで:中編 | UMI | 2/3-13:47 |
記事番号2692へのコメント ガタッ!ガタタ! バラララッ・・・! 雨が屋根を激しく打ち付ける音と強風で小屋がきしむ音が聞こえる。 光(ライティング)の効果が切れかかっている事もあり部屋の中は薄暗い。 二人ともあれから黙ったままである。 パチッパチッと暖炉の中で火がはじける音がする。 (・・・怒っているのかなあ・・・ゼルガディスさん・・・) 今の状況は自分のせいではあるのだが、この沈黙にアメリアは耐えきれなくなっていた。 (なにか、話した方がいいのかな・・・) ゼルガディスの背中におずおずと話しかける。 「・・・あのう・・・」 「なんだ」 思ったとおり彼の返事はそっけない。だが、あの沈黙に戻るよりはと思いアメリアは続けた。 「藁の中って暖かいですね」 「まあな」 「知っていたんですか?」 「でなければ、入れなんて言わん」 「藁の中で寝るのは初めてです。ゼルガディスさんは?」 「・・・俺は、昔はよくこうして寝ていた」 「昔?」 ゼルガディスが自分の過去を話すなんて滅多にないことだ。思わずアメリアは問い返した。 「子供の頃さ。屋敷の庭に使われなくなった馬小屋があって、納屋になってたんだ」 「そこで寝てたんですか?」 「ああ」 「でも、どうして?」 ゼルガディスは色々と自分の事を聞かれるのを嫌う。そのことはアメリアもよく知ってはいたが、聞かずにはいられなかった。 ゼルガディス自身も不思議だった。今まで子供の頃のことなど誰にも話したことなどない。 (どうしてこんなことを話してしまったんだ・・・?) 激しく降り続ける雨と風の音がやたらと耳障りに感じる。 (このいまいましい雨のせいだ) 彼は自分らしからぬ昔話をこの嵐のためだと考えることにした。 「さあな」 ゼルガディスはアメリアの質問を終わらせたかった。 (聞かれたくないんだ・・・) そうはわかっていても、ゼルガディスが子供の頃のことを話している。こんなことは二度とないかもしれない。そう考えると、アメリアはつい問い続けてしまった。 「あの、屋敷って・・・?」 「レゾの屋敷さ」 吐き棄てるようにゼルガディスは言った。 「!?」 さすがにこれ以上は聞けない。アメリアは黙り込んだ。 気まずい沈黙が流れる。それを破ったのはアメリアだった。 「・・・ごめんなさい・・・」 自分のくだらない好奇心のせいで彼を傷つけた。人には誰にも触れて欲しくない部分がある。アメリアは謝るしかなかった。 アメリアの詫びの言葉にゼルガディスは振り向いた。彼女はすっぽりと頭から藁をかぶってしまっている。おそらく自分を責めているのだろう。 (・・・お前は悪くない・・・) なぜあんな事を言ってしまったのだろうか。彼女の質問に答える気がなかったとしても、もっと他に言いようがあっただろうに。彼女の好奇心を刺激するようなことを言ったのは自分だ。アメリアは悪気があって聞いたわけじゃない。 (悪いのは俺だ・・・) しかし、その言葉がなぜか出てこなかった。仕方なしにゼルガディスは別のことを話しはじめた。 「・・・研究所を兼ねてたレゾの屋敷はやたら広くてな。自分の部屋も同じようにだだっ広かった・・・」 アメリアがゆっくりと藁から頭を出してきた。 彼はそれを確かめると、話を続けた。 「今思うと、その広さに息がつまりそうだったんだろう・・・」 ゼルガディスは謝罪の言葉を言えない代わりに、できるだけアメリアの問いに答えてやろうと考えていた。 「・・・まあ、小さかったからな。余計広く感じていたのかもな」 「・・・・・・」 アメリアはそれをただ黙って聞いていた。 「それだけの話だ。さあ、もう寝ろ」 「・・・はい・・・」 アメリアは藁の中に顔を埋めながら考えていた。彼女には不思議だった。 (『広さに息がつまりそうだった』ってどういうことなんだろう・・・?) アメリアは王宮育ちである。その広さは半端なものではない。いくらレゾの屋敷が広かったとはいえ 一個人の家である。セイルーンの王宮に及ぶわけがない。 だが、アメリアはその広さを息苦しいなどと感じたことはなかった。それどころかいつも暖かい何かに包まれているように感じていた。 (それに納屋の方が良かったなんて・・・確かに私もよく屋根裏で遊んでいたけど・・・) 一度そのまま屋根裏に上がったまま眠ってしまったことがあった。いつのまにか真夜中になってしまい、あの時はえらい騒ぎになったものだ。目を覚まして屋根裏から降りてきた自分を見て、駆け付けてきた者たちの顔をアメリアは思い出した。 メイド達や母、姉そして忙しい父までが自分を探してくれていたのだ。 『心配させて、この子は!』 そう言って母は抱きしめてくれた。 (絶対叱られると思っていたのに・・・) 『アメリア、どこへ行っていたんだ!?』 『アメリア様、お転婆もほどほどになさって下さいね』 姉さんにははたかれたけど、そのうるんだ目は本気で自分を心配していた。 「広さに息がつまりそうだった」 ゼルガディスのその言葉をアメリアはもう一度心の中で繰り返した。 ゼルガディスはさっきから動かないアメリアを眠ったのだと考えた。 (レゾの屋敷か・・・) アメリアに話したおかげで幼い頃の思い出がよみがえってくる。 (・・・広い広いあの「場所」で俺はいつも独りだった・・・) 広いあの部屋を抜け出し、納屋代わりの馬小屋でどれだけの夜を過ごしただろうか。 どんなに夜が更けてもレゾはもちろん、他の誰かも自分のことなど探しには来なかった。 パチ、パチチ。 魔法の明りはいつのまにか消えていた。暖炉の火は先程より小さくなってはいたがまだ十分な熱量を保っている。静かに燃える火が部屋を赤く照らし出す。その赤さが部屋の隅の闇と溶け合って不安定に揺れている。それがあの男の赤い法衣のように見えて、ゼルガディスは目を背けた。 その瞬間アメリアと目があった。アメリアの瞳は大きく開かれじっとこっちを見ていた。 「ア、アメリア・・・!」 (眠ってなかったのか・・・) アメリアはゼルガディスの横顔を見ながらさびしさを感じていた。 彼と自分との距離が無限とも思えるほど離れているような気がしたのだ。 手を伸ばせば届くほど近くにいるのに。 ゼルガディスと自分の間の距離を少しでも埋める方法はないだろうか。 (どうしてあなたはいつもそんなに遠くにいるのでしょうか・・・?) アメリアは不安げに揺れる炎に照らし出されているゼルガディスの横顔を、身じろぎもせず眺めていた。 「起きていたのか・・・?」 「あっ、はい」 驚いたのはアメリアも同じだった。 「早く、寝ろ」 そう言うと、ゼルガディスは再び背中を向けようとする。アメリアは不安に駆られてそれを押しとどめた。 「あ、あの!」 「なんだ?」 (ほんの少しでもこの距離を縮めたい・・・) 「・・・もう少しだけ、側に行ってもいいですか?」 「!?」 一体彼女は何を考えているのだろう。 (まだ、気にしているのか・・・?) 自分が彼女に対してさっきのことを怒っているのかどうか確かめようとしているのかもしれない。 ゼルガディスはそう考えて、極力平静を装って答えた。 「別にかまわんが・・・」 その言葉に、のそのそとアメリアはゼルガディスの側に近寄った。 近寄ったといってもせいぜい身じろぎをした程度にすぎない。 実際にはたいして彼との距離は変わっていなかった。 それでもアメリアにはさっきよりもずっとゼルガディスの側にいるような気がしていた。 おそらくゼルガディスから許可を得られたためだろう。 正直言ってアメリアは期待していなかった。 (『おとなしく寝ろ』とでも言われると思っていたのに・・・) あいかわらず彼の態度はそっけないものだった。けれどアメリアは少しづつさびしさが消えていくのを感じていた。 痛いくらいに感じていたさびしさが。 ほっとしたためだろうか、睡魔がアメリアに訪れてきた。 その心地好い睡魔に身をゆだねながら彼女は風雨の音を遠くに聞いていた。 (・・・そういえば、こんな嵐の夜は姉さんのところに行ったなあ・・・) 嵐の夜の激しい風と雨の音は幼心にやはり恐ろしかった。 父と母はいつも国務で夜は遅かった。そのため、眠れない夜は姉のところに行ったのだ。 『まだ、一人で寝られないの?』 そう言いながらも姉はいつも自分を側で寝かせてくれた。 (・・・どうしているのかなあ・・・) 旅の空のもとにいるであろう姉のことを思い出しながらふとアメリアは小さな疑問を口にした。 「・・・ねえ、ゼルガディスさん・・・」 (今度は何を言い出すつもりだ?) やれやれと思いつつ、横目でアメリアの方を見る。 「・・・一人で眠れましたか・・・?」 「!?」 ゼルガディスの目が驚愕で大きく開かれる。 もし、昼間であったなら誰の目にも明らかだっただろう。彼の驚きと困惑の表情が。 「当たり前だ。お前と一緒にするな」 できるだけ声を押さえてゼルガディスは答えた。内心の驚きを気付かれないように。 「・・・えへへ、そうですよね・・・」 馬鹿な質問だったと思いながら彼女は強烈な睡魔に最後の抵抗をした。 「・・・おやすみなさい・・・ゼルガディスさん・・・」 それを最後に彼女はピクリとも動かなくなる。 「・・・おい、アメリア・・・」 だが彼女からは何の返事もなく、動く気配もなかった。 小さな寝息が風の音に混じって聞こえる。 どうやら彼女は本当に眠ったらしい。 (ようやく、眠ってくれたか・・・) アメリアの眠りを確認して、ゼルガディスは小さく安堵の息をついた。 ジジ・・・パチ・・・ジジジ・・・ 暖炉の火は消えかかっていた。 夜の闇の中ゼルガディスの目にアメリアの寝顔がうつる。 風雨の音はあいかわらず激しいままだったが、彼の耳には入って来なかった。 |
2694 | 嵐が過ぎるまで:後編 | UMI | 2/3-13:53 |
記事番号2692へのコメント あれほど赤く染まっていた部屋が夜の闇に沈んでいる。 それに気がついて、ゼルガディスは暖炉の火に目をやった。 ジジ・・・ジジジ・・・ 火は今にも消えそうであった。 (まきを足さないと・・・) そう思いアメリアを起こさないようにそっと藁の中から抜け出た。 アメリアは身じろぐ気配すらない。 ゼルガディスはまきを足しながら先ほどのアメリアの言葉を思い返していた。 『・・・一人で眠れましたか・・・?』 (見透かされている・・・!) 聞かれた瞬間とっさに彼はそう思った。 なぜそう思ったのかゼルガディス本人にもわからなかった。 パチ・・・パチチ・・・ 暖炉の中で火がはじける。 再び部屋の中が赤く染まっていく。 次第に大きくなっていく炎をゼルガディスはじっと眺めていた。 「・・・ゼルガディスさん・・・」 アメリアに名前を呼ばれ反射的に後ろを振り向く。 (起こしてしまったか・・・?) だが、彼女からはそれ以上の言葉はなかった。動き出す気配もない。 どうやら寝言らしい。 (夢でも見ているらしいな・・・) アメリアを起こさなかったことに安心して、再度暖炉に向き直る。 そしてもう一本まきをつぎ足した。 (もう、いいか・・・) これぐらいまきを入れておけば朝まで十分火は持つだろう。 いいかげん自分も眠ろうとゼルガディスは思った。 今ここであれこれ考えてもらちがあかない。なにより考えたところで答えはでないだろう。 無駄なことをするよりも少しでも眠って疲れを癒した方がよい。 ゼルガディスはそう結論を出し、眠ることに決めた。 火の様子をもう一度確かめると立ち上がり、暖炉から離れた。 藁の中に入ろうとすると再びアメリアがつぶやいた。 「・・・ゼルガディスさん・・・」 今度も寝言らしい。 (どんな夢を見ているのやら・・・) 「・・・ムニャ・・・正義は・・・です・・・」 (はあ?) どうやら彼女は夢の中で、自分相手に正義のなんたるかについて講義でもしているようだ。 彼女の夢の中での自分の役割は現実と何ら変わりはないらしい。当たり前だが。 ゼルガディスはそこまで考えてあることに気が付く。 (・・・それじゃあ、俺は夢の中では現実と違うことを期待していたとでもいうのか?) もしそうなら自分はどんなことを期待していたのだろうか? 考えれば考えるほど混乱してくる。ゼルガディスは軽く頭をふってアメリアに目をうつした。 (幸せそうな顔しやがって・・・) アメリアは微笑みを浮かべながら安らかな寝息をたてていた。 相手の夢の中で自分がどう扱われているかを気にするなんて自分らしからぬことだ。 今夜の自分はどうかしている。 いつもの自分に戻らなければ。 さもなければますます混乱する一方だ。 早く眠ってしまおう。 (朝、目が覚めれば何もかもいつもどうりだ) ゼルガディスはそう決め付けるとアメリアを起こさないように藁の中にすべり込んだ。 彼は目を閉じようとしてふと思い直す。 自分ですら聞き取れないほど小さな声でつぶやいた。 「・・・おやすみ・・・アメリア・・・」 ゼルガディスはゆっくりと目を閉じた。 閉じられたまぶたを通して静かに燃える炎を感じる。 強く叩きつける雨と風の音が次第に遠ざかっていく。 隣で眠るアメリアの規則正しい寝息に誘われるかのように、ゼルガディスは眠りの中に落ちていった。 ・・・・・・シャラン・・・・・・ どこかであの錫杖の音が聞こえた。 あれはいつのことだったか・・・ 小さな頃・・・ 今みたいにこうして納屋の中で横になっていた。 ・・・一人で・・・ そうやっていつのまにか、眠ってしまったんだ・・・ そうだ。その時、錫杖の音を聞いたんだ。 それからふわりと身体が中に浮いたような気がして。 朝、目が覚めると自分の部屋のベッドの上だった。 あれは夢だったのだろうか? ただ、自分の願望が夢になっただけだったのだろうか・・・ アイツに探しに来て欲しいという願望が。 そうだ。俺は探しに来て欲しかったのだ。 心の中ではどこかでそう願っていた・・・ 夢だったのだろうか? 遠くで聞いたあの錫杖の音は。 「・・・さん・・・ディスさん・・・ゼルガディスさんってば!!!」 「うわっ!」 大声で名前を呼ばれ、ゼルガディスは飛び起きた。 「朝ですよ!起きて下さい!」 「・・・わかったから、耳もとででかい声出すな」 「はい、これ上衣です」 にこにこ笑いながらアメリアはゼルガディスに乾いたマントと上衣を手渡した。 (あいかわらず人の話を聞いとらんな) ゼルガディスはマントと上衣を受け取り、袖を通しながら頭の奥に何か引っ掛かるものを感じていた。 (・・・変な夢を見たような気がする・・・) 何か夢を見た事は覚えているのだが、それがどんな夢だったのか思い出せない。 ゼルガディスは首をひねった。しかし、どうしても思い出すことができない。 バン!! 突然ドアが開かれ、その大きな音に彼は顔を上げた。 強烈な朝日が差し込み、ゼルガディスは片手で目を覆った。 「すごくいいお天気ですよ!!」 アメリアの元気一杯としか言いようのない声が聞こえる。 次第に目が慣れて、ゼルガディスはうっすらとまぶたを開いた。 だがそこにアメリアの姿はなかった。彼女はすでに外に出てしまったらしい。 「おい、アメリア」 小屋の外に出てアメリアの名を呼ぶ。案の定、彼女は外に出ていた。 「昨日の嵐が嘘みたいですね!」 アメリアはそう言いながら朝日を浴びて、くるくると飛び跳ねている。 ゼルガディスは眩しそうにそれを見ていた。 (・・・あの元気はどこから来るのやら・・・) なかばあきれつつも思わず顔がほころぶ。 「昨夜の強風が雲を持って行ってしまったらしいな」 「そうみたいですね!」 何がそんなに嬉しいのか彼女は踊るかのように跳ね回っている。 全身に朝の光の恵みを受けて輝く少女、アメリア。 いまだ昨晩自分が見た夢の事は気にはなっていた。けれど目の前のアメリアの姿を見ていると、無理に思い出す必要もない気がしてくる。 (・・・まあ、そのうち思い出すかもな) 今は一刻も早く出発して町に行かなければならない。リナ達が心配しているだろう。 「おい!アメリア、行くぞ!」 ゼルガディスはアメリアに呼びかけ歩き出す。 こうでもしないと彼女はいつまででも水たまりの上でステップを踏んでいるに違いない。 「あっ!待って下さいよー!」 アメリアはゼルガディスを追いかけた。 昨夜の雨に洗われて森の木々や葉はきらきらと光を反射させていた。 昨日はあんなにもみすぼらしく見えていた山小屋ですら輝いてみえる。 「置いていかないでくださーい!」 アメリアはゼルガディスの背中に呼びかける。 ゼルガディスは彼女の声に立ち止まった。 そしてゆっくりとアメリアの方を振り向くと、彼は優しく微笑んだ。 END ==================================== お疲れ様でした。本当にお疲れ様でした。長くとも前後ぐらいで終わると思っていたんですが・・・甘かったです。最後まで読んで下さった方(いらっしゃるでしょうか・・・)本当にありがとうございました。 この話は無印とNEXTの間ぐらいだと思って下さい。二人の様子からみて多分そうだと・・・(おいおい)。テーマは「雨宿り」だったんですけど・・・雨じゃないですね。それにしても私は一体何が書きたかったんでしょうか…この内容・・・顔の洗いが足りなかったのか洗い方がまずかったのか・・・きっと両方だろうなあ。 |
2698 | プチなおはなし | わかば E-mail URL | 2/4-00:52 |
記事番号2694へのコメント こんばんは。UMIさま。 旅の途中の小さな出来事。 私は、こんな微妙な二人も大好きです。 彼の心に踏み込めたのは、アメリアも同じ物を抱えているからでしょうか? 素敵なお話しを読ませて頂きありがとうございました。 次回も楽しみにしています。 |
2700 | お恥ずかしい限りです | UMI | 2/5-14:27 |
記事番号2698へのコメント わかばさん、こんにちは。 感想ありがとうございました。 いやはや、まったくこっぱずかしい話で・・・ シチュエーションだけで突っ走ったという感じです。 わかばさんのおっしゃるとうり、ゼルとアメリアは素直になれないというような微妙さがある気がします。自分の気持ちに気づかない振りをするというか・・・ああ、何を書いているんでしょうか。日本語変ですね、ごめんなさい。 それでも少しでも楽しんで頂けて幸いです。 いつも感想を下さって本当にありがとうございます。 では、また見かけたら遊んでやって下さい。 |
2716 | うれしいです! | 小野道風 | 2/9-14:09 |
記事番号2694へのコメント UMIさま こんにちは。 新作読ませていただけて、とてもうれしいです! 心はちゃんと触れ合ってるのに、どこかでそれに自信が持てないでいる二人。ああ、読んでいてもどかしい・・・ アメリアは素直すぎて。純粋に彼の気持ちを想いすぎて。 ゼルガディスは不器用すぎて。思い出を背負いすぎて。 藁のなかで色々とひとり狼狽(?)してるゼルガディスが妙にリアルで、思わず笑ってしまいました。 一緒に眠れる(いや、文字そのままの意味で、ですよ)、一緒にいて優しい気持ちになれる、っていうの、何気ないことだけど一番大切なことなんですよね。たとえ寂しさがちょっびり残っているとしても。 アメリアの、彼の心に静かにごく自然に共鳴できる優しさが、ゼルガディスの彼女を大切に思う気持ちが、ぽかぽかと伝わってきました。 アメリアは、お話の最後のゼルガディスの「微笑」に気付いたでしょうか・・・。 ああ、でも気付いても気付かなくても一緒でしょうか。彼女は彼の心の優しさをちゃんと知ってるのだもの。でも好きな人の顔に微笑が浮かんでいて、それを見てアメリアもとてもうれしい気持ちになったんじゃないかなって想像してしまうんですけれど、どうでしょう(笑)。 またたらたら書いてしまいました。ごめんなさい。素敵なお話、本当にありがとうございました! ・・・そしてまたぜひ読ませていただきたいな、なんて・・・(汗) UMIさまのご迷惑にならない範囲で、次のお話、心から楽しみに待っていますね。 では、また。 |
2717 | こちらこそ、うれしいです | UMI | 2/9-15:20 |
記事番号2716へのコメント 小野さんこんにちは。 コメントありがとうございます。いつも丁寧な感想で感激です(涙)小野さんの考察は、はっとさせられることが多くとても刺激になっています。 自分で書いておきながら自分では気づかないことというのは多いですね(特に私は)。なるほどそうだったのか!とか(笑)。私があまりにも何も考えていないだけかもしれませんけど・・・ あの謎の対談ですが喜んでいただけて嬉しいです。言われてみれば合作ですね。合作・・・何か嬉しい響きです。またやりたいなあ・・・いいですか?(笑) それと、あの「禁句」から考えたお話があるそうで!ぜひ投稿してください!ぜひ読みたいです。やっぱりゼルガディスは不幸なのでしょうか(笑) では、試験頑張ってください。(嫌なことを思い出させるなあ私って)三月にまた小野さんのお話が読めるのを楽しみにしています。 私の方はマイペースに投稿していこうと思っています。見かけたら覗いてみてくださいね。では、これで。 |