◆−FEDER(挫折ゼルアメ)←苦笑。−水晶さな(2/21-10:35)No.2737


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2737FEDER(挫折ゼルアメ)←苦笑。水晶さな E-mail URL2/21-10:35


 
 ※舞台設定・・・「スレイヤーズTRY」第一話終了後辺り(笑・わかんねーよ)    新大陸へ向けて出航したばかりの場面です。

 タイトル又もドイツ語、意味は「羽」です・・・。

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 陽が、暮れ始める。
            
 遠方に霞んだ陸地を名残惜しそうに見つめながら、アメリアがふうと息をつく。
            
 既にこうなる事を予想していたのか、旅行鞄をずるずると引きずって船室の方へ行こうとする。
            
 後ろ姿が何とも哀れである。
            
 甲板の手摺りに背をもたせかけていたゼルガディスが、残り二人の方へ目をやる。
            
 船の先端で何か見える度にはしゃぐガウリィと、そのツッコミに忙しいリナ。
           
(食料その他は結構船に積んであったしな・・・まぁ俺はそれほど食料がいらんし、何とかもつだろう)
            
 あいつらががつがつ食わん限りはな、と思いつつ、既に先が予想されて頭が痛い。
           
「・・・・・・・・・」
           
 アメリアが消えた扉の向こうに目をやる。大方スネて部屋で早々休んでいるのだろう。
           
 気になる衝動が押さえ切れず、我ながら甘いなと苦笑しつつも扉まで足を進めた。
           
「おい、アメリア。起きてるか?」
            
 ノックをしても返事がないので、思わずドアを開ける。
           
「開けちゃダメですぅーーーっ!!!!」
            
 ばご。
       
「・・・・・・・・・っ」
            
 視界一杯に旅行鞄の底が広がり、次の瞬間星が飛んでいた。

           
「・・・・・・・・・」
            
 ベッドの上で目を覚ました瞬間、床で土下座しているアメリアが目に止まった。
           
「・・・何をしている」
           
「・・・申し訳ない気持ちを表してみました・・・」
           
「・・・もう、いいから・・・頭上げてくれ・・・」
           
 逆にこっちの方が悲しくなってくる。
           
 ゼルガディスがノックした時、丁度アメリアは普段の動きやすい服に着替え中で、背中のチャックが上げられずに悪戦苦闘していた真っ最中だったらしい。 
           
「ホントにホントに怒ってませんか?」
           
 手を組み合わせ、見上げられるともう怒りも出ない。
           
「見ればわかるだろ。不可抗力だったんなら仕方ない」
           
 その言葉を聞いた途端ぱっと笑顔になり、ゼルガディスの腕を引っ張って立たせる。
           
「水平線の向こうに沈む夕日がとってもキレーなんですよぅ!! ゼルガディスさんに見せたくて早く起きないかと思ってたんです!!」
           
 ゼルガディスが気絶した原因を作った張本人だというのに、お構いなしにアメリアがゼルガディスを引きずっていく。
           
 扉を勢い良く開けると、オレンジ色の光が広がった。
           
 まだうっすらと青さを残す空の間に、太陽の残り陽が差し込んでいる。
           
 何色にも形容しがたい色でまばらに浮かぶ雲を染め上げ、彼方に沈む太陽は自然の雄大さを見せつけていた。
           
「・・・・・・ほう」
           
「ねっ! キレーですよね!!」
           
 オレンジ色の光を照り返しながら、アメリアが最高の笑顔で微笑む。
           
 以前旅をしていた時と同じ、純粋さを失わない笑み。
           
 しばらく触れられなかった短いようで長かった期間、ずっとこの笑顔のままで過ごしていたのだろうか。
           
「旅は長いが、ゆっくり景色を楽しむいとまもなかったな」
           
「たまには息抜きしないと、疲れちゃいますよ」
           
 潮風が気持ちいいのか、アメリアが目を細める。
           
「リナ達は?」
           
「食料のチェックです。あと、騒動で船が痛んでないかどうか」
           
「チェックと言いつつ、食料を全て食い尽くしたりしてないだろうな」
            
 アメリアが吹き出した。
           
「・・・あり得ますね」
            
 しばし、沈黙。
           
「・・・あの」
           
「・・・おい」
            
 呼びかけが重なり、思わず顔を見合わせる。
           
「お先にどうぞ」                         
       
「いや、俺も別に大した用件じゃ・・・」
            
 口をつぐんだ後、アメリアが口を開いた。
           
「船・・・乗るつもりだったんですか?」
           
「・・・?」
           
「リナさんから聞きました。新大陸に行くつもりだったんですよね?」
           
「ああ、その事か・・・そのつもりだった。コネはないが、どうにかできるだろうと思ってな」
           
「セイルーンから一団が出る事を知っているなら、私に一言言って下されば一人分の手配はできましたのに」
            
 拗ねたような口調で言われ、ゼルガディスが答えに窮する。
           
「いや・・・その、公務で忙しい中お前の手を煩わせる事もないだろうと・・・」
           
「何も言わずにいなくなるつもりだったんですか? 私達の前から」
           
「・・・・・・・・・」 
           
(本当は、『私の前から』って言いたいのに)
           
 突然アメリアが笑ったのに、ゼルガディスが眉をひそめる。
           
「スミマセン。自分が情けなくなっただけです」
           
「???」
           
 ますます混乱した様子のゼルガディスから一歩離れ、船の影の部分に入る。
           
 そこだけ光を遮断した黒い影が顔にかかり、アメリアの表情が見えにくくなる。
           
「あーあ、私今頃ホントはお城に戻ってる筈だったのに」
           
 苦笑しているのは雰囲気から分かるが、表情が見えにくいのでそれ以上の感情が読めない。
           
「まぁ・・・リナとガウリィの旦那が一緒じゃ仕方ないだろ」
           
 はたと気が付き、手摺りに頬杖をついていた手を顎から離す。        
           
「・・・にしてはちゃんと着替え持ってきてたな」
           
 気が付いた事が嬉しかったのか、アメリアが少し顔を上げた。
           
 手を後ろに回し、上半身を少しこちらへ傾けて見上げる。
           
「・・・何となく、予想してたんです。こうなるんじゃないかって。こうなってくれないかなって」
           
 ゼルガディスが最後の台詞にこちらを見たのを確認してから、再び口を開く。
           
「ゼルガディスさんが居たからついてきたって言ったら、信じます?」
           
 短い言葉で言い終え、微笑む。
           
 あの時と同じ純粋な笑みだけではなかった。
           
 少し諦めと悲しさを含んだ、それでも笑おうとした憂いを帯びた笑み。
           
 泣き笑いとも少し違う、突き動かされるような、記憶に刻まれて離れない微笑。
           
(貴方がいなくて、公務に追われて、時々思い出して、悲しくて、泣きたくて)
           
 目を反らす事ができず、交錯する視線の中、痛みが流れ込んでくるような錯覚を覚える。
           
(待ってた、ずっと待ってた、会いたかった、すごくすごく会いたかった、苦しかった)
           
「・・・なんてね。やだ、私ったら何言ってるんでしょう」
           
 不意にアメリアが視線を外し、姿勢を戻して笑った。
           
 微笑みは、いつものものに戻っている。
           
「さ、そろそろ戻りましょうゼルガディスさん。潮風も気持ち良いけど、日が暮れた後は気温が下がりますからね」
           
 小走りに船室に戻っていくアメリアの背中を見送る。
           
 催眠術から解けたような、おぼろげな感情がはっきりとせずうろついている。
           
 殆ど初めて見た、感情の入り混じったアメリアの微笑。
           
(・・・俺が、させちまった、のか・・・?)
           
 前髪の辺りを掻くと、銀の髪がしゃらりと音を立てた。
           
(参ったな・・・こりゃ、俺も言わないとあの笑みが頭から消えてくれないな・・・)
            
『船に乗って新大陸へ行こうとした際、アメリアに会うと決心が鈍りそうで会えなかった』と。
           
 ふう、と息を吐くと、決心したようにアメリアの後を追って船室の扉へと歩いていった。
           
 羽みたいで、消えてしまいそうな儚げな微笑。
           
 そんな微笑みなど、もう見たくはないから。
           
 空に手を伸ばしていた夕日の光は、かすれて消えようとしていた。

                                END.
              
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