◆−めぐる季節V章:道標(みちしるべ)−UMI(3/14-14:19)No.2789
 ┣Re:めぐる季節V章:道標(みちしるべ)−雫石彼方(3/14-22:40)No.2791
 ┃┗コメントありがとうございます−UMI(3/15-14:23)No.2796
 ┃ ┗ごめんなさい、お名前間違えてました−UMI(3/15-14:28)No.2797
 ┣彼に言いたい一言−小野道風(3/15-11:57)No.2795
 ┃┗お疲れ様でした−UMI(3/15-14:51)No.2798
 ┗めぐる季節W章:アントワーヌ1−UMI(3/15-14:56)No.2799
  ┗ 悪ガキが好きなので・・・−小野道風(3/17-10:55)No.2805
   ┗でしゃばりそうです(笑)−UMI(3/17-11:53)No.2807


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2789めぐる季節V章:道標(みちしるべ)UMI 3/14-14:19




 うららかな陽気である。
 春とはいえまだ肌寒いが風もなく陽射しは暖かい。
 四人の頭上には雲一つない青空が広がっている。
 だが、これからゼルガディスが行こうとしている国では戦火の煙が昇っているのだろう。
 リナ、ガウリイ、ゼルガディス、アメリアの四人は街道を歩いていた。
 もう少し行けば別れ道に出る。
 そこでゼルガディスはフェルナンド公国に向かうのだ。
 ガタ、ガタタ
 前方から馬が荷台を引いてやって来た。彼らの脇を通り過ぎて行く。
 どうやら家族連れのようだ。荷台には様々な家財道具らしき物がめいいっぱい積んである。
 その後ろには小さな女の子がちょこんと座っている。ふと目をやるとその服は薄汚れている。
 女の子の家族の服も同じように汚れており、その顔つきは疲れきっている。
 向こうからやって来るのは彼らだけではない。せわしなく様々な人々が歩いて来る。
 共通していることはそのやつれきった顔である。
 「戦争か・・・」
 リナはポツリと言った。
 「本当におっぱじめているようだな・・・」
 ガウリイも戦火に焼け出されて来た人々を見ながらつぶやいた。
 「そうみたいですね・・・」
 アメリアもやり切れないといった口調で言う。
 ゼルガディスは無言のままである。
 どのくらいの虚ろな顔の人々とすれ違っただろうか。
 立て札が見えた。
 札は二方向を指し示している。
 その札の一方は『フェルナンド公国』と書かれていた。
 「・・・ここまでだな」
 ゼルガディスは口を開いた。
 「気をつけてな、ゼル」
 ガウリイはいつもと変わらぬ明るい口調で言った。
 「あ、あの、ゼルガディスさん」
 宿屋からゼルガディスの後ろをずっと歩いていたアメリアが呼びかけた。
 「・・・なんだ?」
 フェルナンド公国に向かう道に進もうとした足を止めゼルガディスは振り向いた。
 「あの、これ」
 アメリアは小さな一枚の紙をゼルガディスに差し出した。
 それを見たゼルガディスは驚いて目を見開いた。
 (これは・・・!)
 その紙には青い小さな花が張ってあった。 
 押し花だった。
 「これは?」
 ゼルガディスは内心の驚きを隠しアメリアに尋ねた。
 「・・・ライアの花です」
 予想通りの答えが帰ってきた。
 ライアの花。
 春の訪れを告げる花。
 まだ凍てつく大地から力強く芽を出す花。
 小さいが鮮やかな青い花を咲かす。
 彼はこの花のことなら知っていた。なぜなら・・・
 「あの、魔法で押し花にしたんです・・・」
 (こいつの目の隈はこのためか・・・?)
 アメリアの目の下は真っ黒であった。ゼルガディスはそれに気付いていたがあえて何も聞かなかった


 そして彼女の白い手にあるいくつものかき傷についても・・・
 「・・・お前が作ったのか?」
 「・・・はい。魔法で、子供の頃よくこうして作ったんです・・・」
 「しかし、一体何だって・・・?」
 彼にはアメリアが大あわてでこの花を夜のうちに摘み、魔法まで使って押し花にした理由がわからな

かった。
 そしてそれをなぜ自分に渡すのだろうか。
 「・・・お守りにと・・・」
 「お守り?」
 「・・・この花は別名『道標』(みちしるべ)の花と呼ばれているんです」
 「道標の花・・・」
 ゼルガディスはライアの花にそんな呼び名があったことは初耳だった。
 「進むべき道がわからなくなった時や迷った時、その人にとって正しい道を示してくれるんだそうで

す」
 アメリアは呼び名の意味を説明した。
 「お知り合いの方が見つかるようにと・・・」
 (そういうことか・・・)
 ゼルガディスはなぜ彼女が自分にこの花の押し花を渡そうとしているのか理解した。
 ・・・彼女があのことについて知っているはずはないのだ。これはただの偶然だろう。
 「あの、その、ですから・・・よかったら」
 アメリアは押し花をゼルガディスに差し出したまま赤くなっている。
 「・・・別に」
 『いらん』そう、言いかけて彼はその言葉を飲み込んだ。
 ゼルガディスはいつものようにそっけなく彼女の申し出を断わるつもりであった。
 だがある人物の悲しげな横顔がふいに頭をよぎり、ゼルガディスを押しとどめた。
 もしここでこの贈り物を拒否すれば、彼女も同じように悲しげな顔を自分に見せるのだろうか。
 (俺は同じことを繰り返すつもりなのか・・・)
 彼はゆっくりと手を伸ばすとアメリアの手から押し花を受け取った。
 「・・・もらっておこう」
 アメリアはぽかんとした顔でゼルガディスを眺めている。
 「どうした?」
 ゼルガディスは不審がってアメリアに尋ねた。
 「い、いえ別に・・・」
 彼女はまさかこうもあっさりとゼルガディスが受け取ってくれるとは思ってもみなかったのだ。
 (柄でも無い、とか言って断られるかと思っていたのに・・・)
 「をを!めずらしー!」
 アメリアの後ろから見ていたリナが素っ頓狂な声を上げた。 
 「・・・何がだ?」
 「いつものあんたなら『別にいらん。柄でも無い』とかなんとか言って受け取らないじゃないの」
 リナもアメリアと同意見だった。しかし例えゼルガディスが何と言おうともリナは押し花を受け取ら

せるつもりであった。
 (・・・どういう心境の変化かしら?)
 「まあ、ゼルも成長したってことだよな」 
 どういう意味で言ったのかは不明であるがそう言ったガウリイに、
 「だんなに言われたくはない・・・」
 とゼルガディスは自分以外には聞こえないような声で呟いた、その時。
 「ゼルガディスさん、ありがとうございます」
 アメリアはゼルガディスに礼を述べた。それを聞きゼルガディスは面食らう。
 「何で渡したお前が礼を言うんだ?」
 「いえ、受け取って下さって・・・」
 アメリアは恥ずかしそうに、だが嬉しそうに微笑んだ。
 「・・・もらって困るもんでもない」
 ゼルガディスはふいと横を向いて答えた。
 「たく、素直に礼の一つも言えないの?」
 リナが苛ついたように声を上げた。
 「そうだぞ、せっかくアメリアが作ってくれたんじゃないか」
 ガウリイもそれに同意する。
 しかしゼルガディスは何も答えず押し花を懐にしまうと、
 「・・・じゃあな」
 一言そう言うと三人に背を向けた。
 「あ!ゼルガディスさん」
 アメリアがその背中に声をかける。
 「・・・まだ何かあるのか?」
 ゼルガディスは振り向いて尋ねた。
 「いえ、気をつけて下さい」
 アメリアのその言葉にゼルガディスはやはり何も答えず、再び背を向けるとさっさと歩き始めてしま

った。
 振り返りもせず。
 「ほんと可愛くない奴」
 リナは唇を尖らせた。
 アメリアはフェルナンド公国に向かうゼルガディスの背をいつまでも見ていた。

To be continued・・・


===============================
おわび
今回のお話ですが魚の口さんと雫下彼方さんのネタと少し重なってしまいました。お二人のお話を読

んだときに、あちゃーと思ったのですがどうしても使いたかったのでそのまま強行突破してしまいまし

た。お気を悪くされたらごめんなさい。「道標」は話の都合上変えるのが難しく、ライアの花はオオイ

ヌノフグリのイメージがあったのです。(ライアの花はオオイヌノフグリを少し大きくしたような花だ

と思ってください。)どうも申し訳ありませんでした。

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2791Re:めぐる季節V章:道標(みちしるべ)雫石彼方 3/14-22:40
記事番号2789へのコメント

こんにちは。
最後のところに私の名前があったので、びっくりしちゃいました。ネタ、かぶってますか?全然大丈夫ですよ!それにあの話は、私の方が「UMIさんの話とかぶっちゃったかなあ」と思ってたものですから、全然気にする必要ないです!!

内容の方ですが、寂しい内容になるとのことなので、続きがすごく気になります。ゼルとアメリア、ラブラブにならないんですか?ハッピーエンド主義な私としてはなんだかとても複雑なのですが、UMIさんのお話はとても好きなので、続きを楽しみにしてます。頑張ってくださいね。

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2796コメントありがとうございますUMI 3/15-14:23
記事番号2791へのコメント

雫下彼方さん、 こんにちはコメント嬉しいです。
ご本人からいただけるとは思っていなかったもので・・・
>全然気にする必要ないです!!
そう言っていただけてほっとしています。
>ゼルとアメリア、ラブラブにならないんですか?
最後はしっかりラブラブさせていただきます(笑)
>ハッピーエンド主義な私としてはなんだかとても複雑なのですが
う〜ん、ハッピーエンドといえるのかはちょっと微妙かもしれません。でも私もハッピーエンドが好きなのでゼルとアメリアに関してハッピーにしたいなあと思っています。
>UMIさんのお話はとても好きなので、続きを楽しみにしてます。頑張ってくださいね。
ありがとうございます!頑張ります。マイペース投稿ですがときどき覗いてみてくださいね。
コメントありがとうございました。

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2797ごめんなさい、お名前間違えてましたUMI 3/15-14:28
記事番号2796へのコメント

ごめんなさい、お名前間違えて投稿していました。
「雫石彼方」さんですよね。「雫下彼方」と書いてました。
非礼をお詫びします。大変申し訳ありませんでした。

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2795彼に言いたい一言小野道風 3/15-11:57
記事番号2789へのコメント

UMIさま
 
 こんにちは。
 試験が一段落し、やっとこちらのお話を心ゆくまで読めるようになりました(そして早速うろうろしている私・・・)。お話の続き、読ませていただけてうれしいです。
 ついにわかれる旅路。アメリアが作っていたのはお守りだったんですね。精一杯の祈りを込めて、正しい道が見つかるようにと。
 でもお守りを見つめるゼルガディスの目には、アメリアに重なる別の人の影がはっきり映っていて・・・。
 そこまでわからなくても、彼の旅が決して久濶を叙すなんてのどかなものでないのは感じているでしょうに、アメリアが何もゼルガディスに聞かなかったのは、彼のことを、
------優しいのに、優しくない振りをする。 
 そう言ってあげられる彼女の「女性」としての優しさ、強さなのでしょう。ゼルガディスがあえて何も聞かなかったのも、単に気遣ったというだけではなく、・・・彼が意識せずとも今の自分には還る場所があることを知っているから、と思いたいです・・・(小野妄想モード)
 だって、どんな答えが出てしまったとしても、彼の道標はお守りだけではないんですから。ね。
 とゼルガディスに言ってやりたい気分になった小野でした。
 そう、どんな旅になるとしても・・・。
 続き、ほんとうに楽しみです。心からお待ちしていますね。
 では、また。

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2798お疲れ様でしたUMI 3/15-14:51
記事番号2795へのコメント

 こんにちは、小野さん試験お疲れ様でした。
> でもお守りを見つめるゼルガディスの目には、アメリアに重なる別の人の影がはっきり映っていて・・・。
 今回からその人物が中心である、ゼルガディスの回想編が始まります。 
> 彼が意識せずとも今の自分には還る場所があることを知っているから、と思いたいです・・・(小野妄想モード)
> だって、どんな答えが出てしまったとしても、彼の道標はお守りだけではないんですから。ね。
 私もアメリアはゼルガディスにとって前へ進むための道標であり、還る場所であるなのだと考えています。
> とゼルガディスに言ってやりたい気分になった小野でした。
 全く言ってやりたいものです(笑)でも、フンとか鼻で笑われるでしょうか。それとも真っ赤になってフイと横を向くか、どっちかでしょうね。
> 続き、ほんとうに楽しみです。心からお待ちしていますね。
 ありがとうございます、頑張ります。小野さんも続き頑張ってくださいね。楽しみです。
 あと、あの「禁句」がもとになっているお話も・・・わくわくしながら待ってます。
 それでは、コメントありがとうございました。

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2799めぐる季節W章:アントワーヌ1UMI 3/15-14:56
記事番号2789へのコメント



 ゼルガディスは春の陽光を避けるかの様にフードを目深にかぶりなおした。
 フェルナンド公国へと続く道をただひたすらに歩き続ける。
 (元気でやっているだろうか・・・)
 先へ進むにつれてすれ違う人々の数が増えて来る。
 どの人間もその顔に恐怖の色を浮かべている。
 ゼルガディスはその中に知らず知らず彼の顔を探していた。
 (そう上手く見つかるわけがない・・・)  
 そのことをよくわかってはいるが。
 第一、運よく見つかったとしてもこの身体で会えるわけがない。
 ゼルガディスは彼が元気でやっているか、それだけを確かめたかった。
 ただ一目その姿を見ておきたかった。
 そこまで考えてふとあることを思い出し、懐からアメリアがくれた押し花を取り出した。
 (あいつもこの花が好きだったな・・・)
 早春の陽射しに透かして見るその花はガラス細工の様だった。
 (もう、この花の咲く季節になったのか・・・)
 何年か前まではこの季節になるとゼルガディスは毎年彼に会っていた。
 (アントワーヌ・・・)
 『アントワーヌ』それが彼の名前だった。


 「三日後に発ちます。準備をなさい、ゼルガディス」
 夕食後レゾがゼルガディスに旅の出発を知らせた。 
 (・・・もうそんな季節か)
 「聞いているのですか、ゼルガディス」
 「・・・ああ、三日後だな」
 レゾは返事のないゼルガディスに再度呼びかけ、彼はそれに無愛想に答えた。
 (・・・また、あいつに会わなきゃならんのか)
 席を立ち私室に戻ろうとするレゾの背中を見ながらゼルガディスはため息をついた。

 ガタ、ゴトン、ガタタ
 レゾとゼルガディスの二人を乗せた小さな馬車が街道を走っていた。
 向かう先はとある小国の農村だった。
 レゾは毎年この時期になるとその村を訪ねるのだ。
 理由はそこでしか、しかもこの季節でしか採れない薬草を得るため。
 なぜだかはわからないがこの薬草(フライヒトと言う)は他の場所では育たない。何人もの学者や魔道士が栽培を試みたが成功した者はいない。
 しかしフライヒトは様々な魔法薬を作るのに必要不可欠なものなのである。そのためレゾはこうしてこの季節にその村に向かうのだ。
 ゼルガディスはぼんやりと馬車の窓の外を流れる景色を見ていた。のどかな田園風景が続く。
 (去年と全く変わっていないな・・・)
 そして、この風景同様にあいつも変わっていないのだろう。そう考え、ゼルガディスは小さくため息をついた。
 「・・・どうしましたか?」
 それに気付いたレゾがゼルガディスに声をかけた。
 「なんでもない」
 「しかし、先程からあなたはため息をついているばかりですが」
 「・・・別に」
 ゼルガディスは適当にはぐらかそうとした。
 「あなたは村に行く時はいつも憂鬱そうですね。嫌いですかあの村が?」
 レゾの台詞にゼルガディスは眉をしかめた。レゾはゼルガディスのため息のわけを知ってて言っているのだ。
 「そういうわけじゃない」
 「では、アントワーヌですか」
 「うるさい」
 レゾはゼルガディスがアントワーヌを苦手としている事を知っていた。もっとも知っているのはレゾだけではなく、それは周知の事実だった。知らないのは当のアントワーヌぐらいのものであろう。
 (たく、今更聞くまでもないだろうに・・・)
 レゾはゼルガディスの反応を面白がってつついているのだ。その証拠にレゾは今にも吹き出しそうな様子で唇の端を上げている。
 「悪い子ではありませんよ・・・ただ少しばかり元気がよすぎるようですが」
 (それが問題なんだ)
 無視することを決め込んだゼルガディスにレゾはなおも続ける。 
 「アントワーヌはあなたのことを気に入っているようじゃありませんか」
 (迷惑なだけだ)
 「そういうあなただって悪い気はしていないのでは」
 『誰がだ!』
 たまらずゼルガディスがそうレゾに怒鳴りつけようとした時、御者が二人に声をかけた。
 「村が見えましたよ」
 その声にゼルガディスは窓から身を乗り出した。小さな村が見える。その側には巨大な森があった。この森が国の面積の半分を占める。巨大な森が国の中心にありそれを囲んで村や都市が存在する。森を切り開くことは絶対に禁止である。
 なぜならこの森でしかフライヒトは育たない。多くの者が森を研究したが結果はごく普通の森とういことだけだった。
 変わらない村、変わらない森、そしてアントワーヌ・・・
 ゼルガディスは再びため息をついた。
 
 御者は村に入ると馬車の速度を落とし、トコトコと馬を歩かせた。しばらくは果樹園が続いている。次第に村の中心に近づいてきたのがまばらであった家々が増えてきたことで解った。農村といっても決して小さい村ではない。フライヒトのおかげで村は比較的豊かである。
 豊なのはこの村だけではない。この国は小国ではあるがフライヒトの取り引きによって財政は潤っているのだ。言ってみればフライヒトはこの国の生命線である。売買は国の監視のもとひどく制限されている。国外で出回っているフライヒトの価格は当然高く、おまけに質もあまり良くないものが多い。面倒でも質の良いフライヒトを大量に手にしようとするならば、国にまで出向かなければならないというわけだ。
 小さいが造りのしっかりした小奇麗な家が並んでいる。その中でも最も大きいだろうと一目で解る家の前で馬車が止まった。
 この村の村長の家である。二人が馬車から降りると、ギイイという音を立てて家の扉が開いた。
 「お待ちしておりました。レゾ様」
 中年の男性、つまり村長が現れ歓迎の言葉を述べた。彼は温和な笑みを浮かべている。その後ろから村長の妻である女性が顔を出した。
 「ようこそいらっしゃいました」
 やはり優しげな微笑みをたたえている。
 「お待ちしていました」
 十二か十三くらいの少年が元気よく二人に挨拶をした。利発そうな少年である。ゼルガディスは彼のことは気に入っていた。
 「元気そうだな、アンリ」
 「はい!ゼルガディスさんもお元気そうで」
 「前にも言ったが、ゼルガディスでかまわない」
 ゼルガディスがそう言うとアンリは心底困ったような顔をした。
 「・・・でも、目上の方にはきちんとすべきですから」
 「・・・まあ好きにしろ」
 ゼルガディスはその答えにくすりと笑った。
 (少し生真面目過ぎるのが問題だな・・・)
 「アイツの姿が見えないが・・・」
 アントワーヌのことである。いつもなら真っ先に駆け出して来るのだ。アントワーヌの性格からして家の中で待っているということはまずない。
 「兄さんは今出かけています。でもすぐに戻って来ると思います」
 「・・・そうか」
 ゼルガディスは内心、すぐ戻って来なくてもいいと考えていた。
 「いつも暖かい出迎え感謝いたします」
 ふと気がつくとレゾが村長と挨拶を交わしている。
 「いえいえ、こちらこそ少しでもレゾ様のお役に立てるだけで、礼などとんでもありません」
 「今年もお世話になります」
 レゾはこの村の外れに小さな別荘を持っている。この季節に滞在する間にしか使わないため、管理を村長にゆだねているのだ。
 「さあ、長旅でお疲れでしょう。母がお茶の準備をしていますので、休んでいって下さい」
 「恐れ入ります」
 村長の妻が話をしているゼルガディスとアンリの方を向き声をかけた。
 「アンリ、少し静かになさい。ゼルガディスさんお疲れでしょう。たいしたものはありませんが、こちらでお茶でも」
 「・・・ありがとうございます」
 ゼルガディスはそう言いながらもお茶などどうでも良かった。それよりも早く別荘の方に行きたかった。アントワーヌが帰って来る前にここを立ち去りたかった。
 (申し出はありがたいんだがな・・・)
 だが断るわけにもいかず、ゼルガディスはレゾに続いて家の中に入ろうとした。その時、
 「よく来たな!ゼルガディス!さあ、勝負だ!」
 これでもかというほどの元気な声が後ろからかかった。振り向かずとも誰かは解っている。
 ゼルガディスが一つため息をつき、振り向くとそこにアントワーヌが立っていた。


 To be continued・・・

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2805 悪ガキが好きなので・・・小野道風 3/17-10:55
記事番号2799へのコメント

UMIさま

 こんにちは。
 ゼルガディスがかたくなに口を閉ざしている彼の過去の記憶に「少しばかり元気がよすぎる」アントワーヌ君登場。ゼルガディスにため息ばかりつかせるなんてなかなかの強者ぶりですね。フフフ。でも今のゼルガディスには彼のまた違う面が押し花と重なっているみたいで・・・うーん。どうなるんでしょう。
> 「よく来たな!ゼルガディス!さあ、勝負だ!」
 こういう無鉄砲な悪ガキが私は結構好きなので、これから先の彼が楽しみなような不安なような、ちょっと変な感じです(笑)。
 またぜひ、続きを読ませてくださいね。
 楽しみに待っています!
 
 それと、「禁句」の方の私のお話、待っていて下さってるなんて・・・お言葉だけでうれしいです(涙)。近いうちにこちらへ投稿させていただくつもりでいるのですけれど、なんとなくはずかしくて。もし見かけられましたら、どうか暖かく見守ってやってください(汗)。
 では、また。 

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2807でしゃばりそうです(笑)UMI 3/17-11:53
記事番号2805へのコメント

 こんにちは、小野さん。
 アントワーヌ君ですが思った以上にでしゃばってくれそうです。回想編も予定していたよりも長くなります。自分で自分の首をしめてどうする・・・
 アントワーヌ君がどんな人物なのかゼルガディス氏とはどんな関係だったのかは次回以降明らかにしていきます。でも、悪ガキには違いないですよ(笑)
 それと小野さんの「祈り」のコメントからめぐる季節の番外編を思いつきました。もし、お許しいただけるなら本編完結後に書きたいと考えています。お返事おきかせください。
 それでは、また。コメントありがとうございました。
 小野さんのお話楽しみにしています。