◆−holy or dark?−海ほおずき(3/30-03:57)No.2857
2857 | holy or dark? | 海ほおずき E-mail | 3/30-03:57 |
目眩を起こす程遠い、遙昔の事。 俺がまだ若くて、あいつらも若かった、本当に昔の話。 しかし目をつぶれば、鮮明に明確に的確に思い出せる刹那の日々。 無邪気に笑い、肩を叩きあい、無謀に戦った瞬間(とき)。 さんざんと光りに満ちて、俺たちが誰よりも輝いていたあの頃の全て。 今では懐かしく、記憶の片隅に埋もれてしまったが、確かに人生で 自分が何よりも”生きている”と言う事を感じさせられ、不思議な 感覚に襲われた、あの懐かしくも心地良い毎日。 今ではもう、何もかも、決して戻る事は出来ないのだ。 でも、確かにあの時間(とき)、俺達は誰よりも強く”生きて”いた。 あの頃、俺の心はひどく荒れ狂い、淀んだ海の底の様だった。 もしかして、狂っていたのかもしれない。 いや、もしかして、と言うより本当に狂っていたのだ。 殺しも強奪も、虫ケラを殺すより簡単に成し遂げてきた。 躊躇う事は、ただの1度も無かった。 あってはならなかった、と言うべきか。 その頃は自分のやる事が正しいと信じてたし、他の奴らと馴れ合いなんて 例え死んだってしないと決めていた。 そして何時の日か俺は、自分の心を暗く深い霧の中に閉ざし、人間(ひと) を受け付けなくなった。 その日から、俺は他人の存在すら否定し続けてきたのかもしれない。 その闇はひどく俺を追い詰め、傷付け、治ることのない痣を残した。 時々、何処かから声が聞こえるようになっていた。 その時には、既に狂っていたのかもしれない。 だが、ある日。 そんな俺の前に小さな一条の光が現れた。 時には明るく、そして優しく包み込み、光りは俺に霧の外の世界を教えてくれた。 そして俺を闇の中から救い出し、ずっと俺を照らし続けてやると言う。 初めて見た世界は立ち眩みをする程眩しく、言葉に出来ないくらいの美しさを醸し出していた。 その光に照らされている瞬間(とき)、俺はなにものにも変えがたい幸福の真ん中に居る様で、少しづつ自分の心の奥に潜む闇が消えいく、そんな気分を味わった。 しばらくすると、また別の光が見える様になった。 どうやら最初に現れた光の仲間らしく、光は俺の全てを受け入れてくれた。 あの暗闇の中に居れば知る事の出来なかった世界を、この美しい自然を、あの澄んだ青空を、沢山の色々な素晴らしいものを、俺に教えてくれたんだ。 荒んだ戦場、狂気に満ちた世界しか知らなかった俺には、あまりにも眩し過ぎる穏やかな光景。 永久(とわ)に俺を照らして、導いてくれる、そう信じていた。 だが、ある日。 俺の思考、知識、面識、すべてが変えられた。 周りの光は俺に自分の弱さ、生きていく事の辛さ、そして地球の回る速さ、時の流れる尊さを 全て曝け出した。 その瞬間(とき)、分かったのだ。 人間(ひと)はひとりじゃないと。 何時かは俺も無に帰し、再び生命は巡り、循環すると言うことを。 光は俺に昔の事を話してくれた。 昔、自分が闇に染まりそうになったと、光り続けることに疲れた時もあったと・・・・・。 しかし、俺はまだ暗闇の中に居るままだと話すと、光は一層輝きを増し、よく 自分を見つめなおせ、と。 もう昔の俺ではなく、優しく暖かい瞳をして、真っ白な光を放っている、と・・・・・・。 あの光にもらった、 暖かい心。信頼。絆。そして感情・・・。 前までの俺ならそんなもの皮肉に笑って馬鹿にするだろう。 だが、光は教えてくれたのだ。 既に以前の俺ではないのだと・・・・・・・・・。 そして俺の考えてた反対の世界を覗かせてくれたんだ。 ―俺は 空が黒いと思ってた。 痛みは快感だと思ってた。 海は熱いと思ってた。 無限はゼロだと思ってた。 全て変えられたんだ。 あの無邪気に笑い、肩を叩きあい、無謀に戦ったあいつらのおかげで。 希望と至福に溺れ、この中にまどろみ続けて、終わりなんか来なけりゃ良いと、 時なんか過ぎずに、永遠にこのままならと何度願ったことか。 しかし時間(とき)はそれを許さなかった。 俺達は別々の道を歩き、違う人生を進んでいる。 そして老いて、無に帰すだけだ。 あの頃の思い出は、それぞれの胸にしまっておくだけでいい。 こんな時期もあったと、あの頃はまだ若かったんだと。 ―それだけで、いい・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・それだけで充分― ゼルガディスはグラスにワインを告ぐと、一気に飲み干し、天を仰いだ。 まだ真新しい天井に掛かっているランプを見つめ微笑する。 再びあの頃の自分を少しだけ思い出し、苦笑した。 過去にしがみついたり、縛られたり、寄り掛かることは見苦しいと分かっている・・・ 無駄だと分かっている筈なのに・・・。 俺も年を取ったもんだと、寂しく笑うが、その笑いも空中ですっと消えていった。 残ったのは虚無と静寂・・・・・・・・そして老い・・・・・・・・・・・。 ゼルガディスはふうと溜息をつくと、テーブルを立ち、ドアに向かってそっと歩き出した。 幻覚でも良い、もう1度あの瞬間(とき)の夢を見たいと想像に駆られながら・・・・。 (ゼル―――!!早くしなきゃ、あんたの分も食べちゃうわよ―!!) ・・・・・・・・・・・・な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・に・・・・・・・? (そーですよ、早くしなきゃリナさんが全部食べちゃいますよ―) ・・・・・お・・・・れは・・・・夢を見ているのか・・・? (何やってんだよ?お前さん!) ・・・・何故だ・・・・?何故昔みたいに・・・・・・・また・・・・・・ 変わらない笑顔・・・。 変わることのない声・・・・。 そして変えることの出来ない、変えたくない記憶・・・・・。 「・・・リナ・・・アメリア・・・・・ガウリィ・・・・・・・何故・・・・・」 (もう、しょーがないわね!!・・・・ほら・・・・手ぇ出しなさいよ・・・・) 記憶のまま変わらない。少し赤くなった頬。照れた横顔。 何ひとつ変わらないまま・・・。 「・・・・・・・ああ、すまんな・・・・・・。 ・・なんだか長い間悪い夢でも見ていた気分だ・・・」 多少ふらつきながらも、足取りをしっかりしろと自分に言い聞かせ、手を差出しリナの小さな手を取ろうと、腕を伸ばし、お互いに堅く握り合う・・・・・・・・・筈だった。 リナの指先に自分の指が触れた・・・・・・・と思った瞬間、自分の少し老いた指は虚空を貫き、空しく手は振り落とされたのだった。 「・・・・・・・なん・・・だと・・・・・・・・・・・・・・・?」 だって、此処には、リナが居て、ガウリィが居て、アメリアが居て、そして俺が居て・・・・。 4人で楽しく笑って・・・・・・また明日、頑張ろうって・・・・・・・・・ 呆然とその場に立ち尽くすゼルガディスの背後から、聞き覚えのある声と、古びた足音が近付いてきた。 (・・・・・聞こえてるさ・・・・。少しは静かにしたらどうだ・・・・・) ――間違いない。、紛れもなく、昔の俺だ・・・・―― 背後から歩み寄った男はリナの手をぱしっと握り、2人して微笑むと、店の奥にある階段を談笑しながら駆け上っていった。 ・・・・・・・・・・・俺の体の中を透き通って・・・・・・・・・・・ 4人は此処に存在する筈のゼルガディスに気付きもせず、会話を続ける。 (まーったく・・・相変わらずね、あんたも・・・・・) (本当だな。特にリナに弱い所が) (な、な、俺は別に・・・・・・・・) (あれ〜〜〜ゼルガディスさん、顔が赤いですよぉ〜〜〜) (え、もしかして、あんた・・・・・・・・) (ち、ちが・・・俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・) 4人は尽きる事なく話しつづけ、そして笑う。 今では忘れてしまった表情。 遠い昔に置き去りにしたまま。 俺が二度とすることもないであろう笑顔。 「・・・・・おい・・・・・・何やってるんだ・・・・・・・? 俺は、俺は此処に居るんだ。 リナ、アメリア、ガウリィ・・・・・何処へ行くんだ・・・・・・」 ゼルガディスの呟きに答えることもせず、4人はそのまま階段を上っていく。 (よーし、今日は全メニュー制覇よ!!) (おう!!俺だって) 「・・・・待て・・・・・・・俺は此処だ・・・・・・・・」 (それにしても、随分古い店ですね) (そういえば、床もボロボロだな・・・・) 「・・ふる・・・・い・・・・・?」 ようやく現実に引き戻されたゼルガディスは、改めて床を見てみる。 「・・・古くなどない・・・・・最近改装したって・・・・・・・・・・・・・・・・」 床も壁も新しくされ、新鮮な木の香りがほんのりと漂っていた。 その時、後ろの人物に肩を叩かれ、ゼルガディスははっと振り返った。 居たのは、勿論リナでもガウリィでもアメリア・・・・でもない。 「あんた、さっきから何ひとり言言ってるんだい?他の客に迷惑だ。」 居たのはこの店の店長らしき人物で、迷惑だから出てけと言う。 その瞬間、ゼルガディスは全て分かったのだ。 先程見ていた4人は過去の記憶の中にあったもので、自分の生み出した幻覚だったと・・・・。 過去にしがみつかず、縛られず、寄り掛からず生きていくと決めたのは、誰でもなく自分ではないか。 ゼルガディスは店長に目も向けず、表情の失ったままの顔で店をあとにした。 外はもう既に月が昇り、近くの犬の遠吠えが聞こえてくる時間である。 夜風が体を吹き抜け、月光が髪を、瞳を、全身を照らし出す。 なんとも心地良く、小気味良い気分だ。 まるであいつらと居た頃の様な気分だ。 そう、昔はこんな感じを毎日味わっていたのだ。 こんなに悲しい気持ちになったのは久しぶりだと、改めて思う。 そして頬に伝う水滴は、懐かしい味がした。 俺があいつらと出会わなければ一生気付かずにいた、この曖昧な感覚。 出合って居なければ流すこともなかった、涙の跡。 昔は4人でひとつの存在だったのだ。 言葉に表したことなど無かったが、言葉にしなくてもお互い確かに信頼し合っていた。 ふと交わした視線にその想いが込められていた。 何もかもが光り輝き、目まぐるしく変わり、それだけが全てだったのだ。 俺の知らなかった世界観。 最初から分かっていた。 出合うと言う事は、何時か別れの時が来ると言う事と同じで、イコールで結ばれていたのだ。 だが俺は現実から目を逸らし、出来るだけ直視しないように、酒の力に身を任せてきた。 直視してしまえば、俺が俺でいられなくなってしまう。 だが、それもそろそろ限界に近付いてきたらしい。 俺が闇の中の世界で生きてきたか、光に包まれて生きてきたかは解らない が、少なくとも良い道を選べたと今なら思える。 しかし、自分の幸せが何だったか未だに見つけられずにいる。 あいつらはきっと、こんな俺を見て、笑うだろうか、同情するだろう か・・・・。 だが、もう、いい。 今はそんなことを考えるのも面倒臭くなった。 しばらくこの風と時の流れに身を任せ、ずっと揺らいでいたい。 何も考えたくない。 そうだ。俺は逃げているのだ。 現実からも過去からも。 逃げて、逃げて、逃げつづけ、この先にあるであろう超える事の出来やしない壁にぶつかるまで。 俺は現実過去未来全てから目を背け、直視せずにいよう。 そうすれば苦しむことも悲しむことみないだろう。 ああ、何もかも鬱陶しく、淀んで見える。 やはり俺の居場所は薄暗く荒んだ戦場のど真ん中にしかないのだろか。 ゼルガディスはその場に淡々と立ち、夜の冷たい闇夜の中に 滑り込む様に逃げ込んだ。 そう、あの頃は見るもの全てが輝きを放ち、目まぐるしく変わり続けた。 (生命は無に帰し巡り、循環する) 何故彼は急いで答えを出そうとしているのであろうか。 しかし、答えなんて誰も知らないし、何処にもないのだ。 ・・・・たった一つあるとすれば、黒にも白にも染まらずその中間。 つまり灰色、と呼ぶべき、狭間に留まれば良いのだ。 光り輝くことに疲れたなら、闇にその身を潜めれば良い。 闇に目が慣れてしまえば、光を浴びれば良い。 こうして生命は巡り、循環する。 ただ、彼は難しい問題にイコールを出そうと、少々時間を掛け過ぎているだけなのだから。 FIN ---------------------------------------------------------------------- どうも、海ほおずきことおずりんです〜。ぐ、ぐはぁ!!流石に疲れましたー。ヘボヘボで申し訳ないのです〜 何故かっつーと、このネタ30秒で考えたものだから・・・・・なんです・・・・(撃沈) その上、超長い!!(死)目ぇ疲れていてぇ!! 関係なっしんぐですが、今日、マイダーリン翼姫&ニノのポスター&写真買って来たのでハッピーハッピー ですぅ(はぁと) しかし、この小説すげー暗いっすねー。・・・では♪ ---------------------------------------------------------------------- |