◆−めぐる季節Z章:アントワーヌ4−UMI(4/1-14:09)No.2870
 ┣ ライアの花、それは・・・− 小野道風(4/3-17:08)No.2883
 ┃┗おや、感想が!−UMI(4/3-18:06)No.2885
 ┗めぐる季節[章:戦禍−UMI(4/5-13:39)No.2892
  ┗あたたかいっていいですね− 小野道風(4/8-05:26)No.2903
   ┗ふう、後半のスタートです−UMI(4/8-12:25)No.2905


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2870めぐる季節Z章:アントワーヌ4UMI 4/1-14:09




 あの丘でアントワーヌと別れてから二日後、レゾとゼルガディスはこの村を発つことになった。
 いつもより十日ほど早い。不思議に思い、ゼルガディスはレゾに尋ねた。
 「ずいぶんと急なんだな」
 「ええ、あなたが留守の時に研究所の方から使者が来ましてね。トラブルがあったそうです。残っている者たちでは手におえないらしいので」
 いつもと変わらない笑みを浮かべながらレゾが答えた。それから軽くレゾは唇の端を上げた。
 「おや、つまらなそうですね」
 「なっ!?」
 唐突にレゾに切り出されゼルガディスは思わず声を上げた。
 「あなただけここに残ってもよいのですよ」
 「帰るさ。俺だって実験がやりかけなんだ」
 ここに一人で残ってアントワーヌの相手をするなんて冗談ではない。
 「おや、そうですか」
 レゾはそう言って面白そう笑った。
 ゼルガディスは何か言い返したかったが、軽く受け流されてしまうのが目に見えていたので止めた。どんなトラブルが起きたのか聞く気力も無くなり、そのまま部屋に戻ることにした。
 (・・・何にせよ、アントワーヌから離れられる・・・)
 一年の期限付きではあるが。
 ゼルガディスは階段を登りながらそんなことを考えていた。

 「レゾ様、もうお帰りになるのですか?」
 「ええ、研究所の方でトラブルがあったので」
 「・・・そうですか・・・」
 村長は残念そうであった。年一度レゾがこの村に滞在しその世話を行なうことは、村長にとって大きな喜びであり誇りでもあった。
 「お世話になりました、パティストさん」
 「いえいえ、とんでもないです。また来年を楽しみにしております」
 村長はいまだ名残惜しそうにレゾと別れの挨拶をしていた。
 珍しくおとなしくしていたアントワーヌがゼルガディスの前に進み出た。
 「もう行くのか?」
 さびしそうにアントワーヌは言った。いつもの元気が無い。
 「ああ」
 だがゼルガディスはそれに気を止める様子も無く、そっけなく返した。
 「また来年だな」
 「そうだな」
 (・・・別にもう会えなくとも構わないがな)
 そうゼルガディスは思ったが、まず来年もこいつに会うことになるのだろう。厄介な話だが。
 「ゼルガディス」
 「何だ?」
 アントワーヌはゼルガディスの目の前に何かを差し出した。
 見てみると花束だった。青い小さな花々・・・
 (確かライアの花とか言っていたな・・・)
 「これが何なんだ?」
 いぶかしんでゼルガディスは尋ねた。
 (・・・まさか、俺に持っていけとか言うんじゃないだろうな・・・)
 「きれいだろ。持っていけよ」
 予想通りの答えが返ってきた。
 こいつは本物の馬鹿だ。男が男から花など貰って喜ぶとでも思っているのだろうか。
 (何を考えているんだ、こいつは・・・!)
 ゼルガディスはやれやれとため息を一つつくとアントワーヌに言った。
 「いらん。花など飾る趣味など無い」
 受け取るつもりは毛頭無かった。
 「・・・そうか・・・」
 アントワーヌはそう言うとうなだれて黙り込んだ。
 (・・・どうしたんだ?)
 ゼルガディスは奇妙に思った。いつものアントワーヌならどんなにこちらが拒んでも、むりやり花を押し付けるのに。
 ゼルガディスが何か声をかけようとすると、アントワーヌは頭を上げた。
 そこには見たことがないほど悲しそうな顔をしたアントワーヌがいた。
 「まあ、どこにでも咲く花だからな・・・」
 力なく微笑んでアントワーヌが言った。
 (・・・どうしたっていうんだ・・・?)
 まさかアントワーヌがこんなに意気消沈するなんて・・・
 ゼルガディスは狼狽するばかりだった。
 何か言った方がいいのだろうか。
 それとも・・・
 「お、おい、アントワーヌ・・・」
 その時だった。ゼルガディスの後ろから声がかかった。
 「ゼルガディス、行きますよ」
 レゾが出発を告げた。
 「ああ、今行く」
 ゼルガディスはあわてて振り向いて返事をした。そのままアントワーヌに背を向け馬車へと向かう。
 「ゼルガディス!」
 アントワーヌがゼルガディスの名を呼んだ。
 「何だ?」
 立ち止まりゼルガディスは頭だけアントワーヌの方へと向けた。
 「・・・元気でなゼルガディス」
 「・・・ああ、お前もな。アントワーヌ」
 ゼルガディスはそう言うと馬車へと乗り込んだ。ゆっくりと馬車が走り出す。
 アントワーヌは身じろぎもせずゼルガディスを見ていた。去年まではちぎれんばかりに手を振っていたのに。
 その時ばかりはゼルガディスも見えなくなるまでアントワーヌの姿から目をそらすことができなかった。
 そして・・・別れ際の『来年こそは・・・』の台詞は今年に限ってなかった。

 次の年、村を訪れるとアントワーヌの姿はなかった。
 なんでも隣国のフェルナンド公国に兵士として志願して行ってしまったという。
 「あの馬鹿息子が・・・騎士になるなど大それたことを」
 家族の大反対を押し切って飛び出したという。
 (・・・らしいな)
 ゼルガディスはそう思った。しかしその反面アントワーヌに意外な行動力に驚いてもいた。
 変わらない村・・・ 変わらない森・・・ 変わらないあいつ・・・
 そう思っていたのに・・・
 ゼルガディスは腰に剣を帯び、いつもアントワーヌと腕試をしていた丘に行った。
 何も変わってはいなかった。村も森も青く高い空も。
 ただ、アントワーヌだけがいなかった。
 妙にこの丘が広く感じられる。
 変わらないことをうとましく感じつつも、心どこかでは変わらないことを願っていた自分を知った。
 「・・・変わらないものなど何もありはしないのにな・・・」
 ゼルガディスは一人つぶやいた。
 例え自分が変わってもあいつは変わらないと信じていた。
 「馬鹿は俺の方だったか・・・」
 いつか自分も変わるのだろう。望む望まないに関わらず。
 ゼルガディスは剣を抜き軽く振った。そのまま前と突き出す。
 去年まではこの剣先にアントワーヌの剣があったのだ。そしてその先にはアントワーヌの挑戦的な瞳が存在した。しかし今はただ何も無い空間が広がっているだけだった。
 ふと足元を見ると青い花が咲いていた。
 ライアの花だ。
 去年と何も変わらない姿をしている。ゼルガディスはそれを一つ摘むと日の光にかざしてみた。
 「春の訪れを告げる花か・・・」
 確かに春は来ているのだろう。どこかしこにも。
 だが、ゼルガディスにはまだ「春」はどこか遠くにあるように感じられた。
 アントワーヌの悲しげな顔が思い出される。もしかしたらあの時すでに彼は決めていたのかもしれない。
 フェルナンド公国に行くことを。
 (なぜ、受け取ってやれなかったんだ・・・)
 気付いた時はいつも遅すぎる。
 世の中そのようなものだとは思っていても後悔せずにはいられなかった。
 空から風が舞い降り、ゼルガディスの手からライアの花を奪っていった。
 フライヒトの生い茂る森へと螺旋を描きながら落ちてゆく。
 ゼルガディスはそれを眩しげに見つめていた。

 To be continued・・・
 

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2883 ライアの花、それは・・・ 小野道風 4/3-17:08
記事番号2870へのコメント

UMIさま

 こんにちは。またまたおじゃまさせていただいてしまっています。
> さびしそうにアントワーヌは言った。いつもの元気が無い。
 ついにどうしようもない別れの予感が。でも1、2、3を読んでいると、
> (・・・別にもう会えなくとも構わないがな)
 肩の荷が下りてやれやれと頭でもふってそうなゼルガディスの姿が笑えたり、アントワーヌのとは違った彼の鈍さが腹立たしく思えたりして。
> アントワーヌはゼルガディスの目の前に何かを差し出した。
> 見てみると花束だった。青い小さな花々・・・
> 「きれいだろ。持っていけよ」
> こいつは本物の馬鹿だ。男が男から花など貰って喜ぶとでも思っているのだろうか。
 この場面だったのですね。あのとき、ゼルガディスがアメリアと重ねてしまったのは。この瞬間、どんな顔してたんでしょうねゼルガディス。あまりの展開に一瞬言葉をなくしてみたいで、なんだかいろいろ想像してしまいます(笑)。ゼルガディスの言い分もたしかによくわかりますけれど、いっぽうのアントワーヌは・・・
 花の影に心を隠して・・・変わらぬ友情のもと(アントワーヌ談)変わらぬ最後の春を過ごせた喜び、その春を思いのほか終えねばならない名残惜しさ、そしてどうやら夢を目指して旅立つ決意をひそかに固めている自分からの彼なりの心を込めた餞別の花束、だったのでしょうか。
> 変わらないことをうとましく感じつつも、心どこかでは変わらないことを願っていた自分を知った。
> 例え自分が変わってもあいつは変わらないと信じていた。
> 「馬鹿は俺の方だったか・・・」
> いつか自分も変わるのだろう。望む望まないに関わらず。
 変わりゆく心、変わりゆく人々、変わりゆく時代・・・人が死ぬまでかかえていくテーマの一つですね・・・ゼルガディスの場合は考えようによっては最も喜劇的な変化(もちろん悲劇なんですけれど)がその後に待ち受けていたわけですが・・・。
> 空から風が舞い降り、ゼルガディスの手からライアの花を奪っていった。
> ゼルガディスはそれを眩しげに見つめていた。
 ライアの花、それは「何も変わることのない」少年時代の象徴、かすかな胸の痛みとともによみがえる平凡すぎてきづけなかった幸せな日々の思い出、そして自分より先にそこから抜け出していった少年の影。
 そして今・・・二人はどう変わり、お互いをどう見つめるのでしょう・・・
ああ、なんだかまとまらないまま柄にもなく真面目なことを考えてしまいました。でもとても良くわかる気がしてしまって。
 続き、とても楽しみです!心からお待ちしています。またぜひ、読ませてくださいね。
 真面目で素敵なお話の後でなんだかほんとにはずかしいのですが、UMIさまから許可していただいた「禁句」の方の私の話も、今週中に投稿できそうです。良かったらぜひ、遊びに来てやってください。
では、また。
 

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2885おや、感想が!UMI 4/3-18:06
記事番号2883へのコメント


3のお返事を投稿してみたら小野さんの感想が4にも!
 ありがとうございます。確かこれで3回目ですね。

> アントワーヌのとは違った彼の鈍さが腹立たしく思えたりして。
 ゼルガディスは自分に向けられる感情(好意や愛情)といったものに鈍いような気がします。敵意などには敏感なんですけど。
> 花の影に心を隠して・・・変わらぬ友情のもと(アントワーヌ談)変わらぬ最後の春を過ごせた喜び、その春を思いのほか終えねばならない名残惜しさ、そしてどうやら夢を目指して旅立つ決意をひそかに固めている自分からの彼なりの心を込めた餞別の花束、だったのでしょうか。
> ライアの花、それは「何も変わることのない」少年時代の象徴、かすかな胸の痛みとともによみがえる平凡すぎてきづけなかった幸せな日々の思い出、そして自分より先にそこから抜け出していった少年の影。
> そして今・・・二人はどう変わり、お互いをどう見つめるのでしょう・・・
 うわああ〜〜(感歎の声)何だか感想というより一つの詩のようです。しっとりとした予告編みたいです・・・うっとり(勝手に予告編にするなよ・・・UMI)
> ああ、なんだかまとまらないまま柄にもなく真面目なことを考えてしまいました。でもとても良くわかる気がしてしまって。
 私の駄文に色々と考えてくださってもう感謝感激です。こんな美しい詩のような文章を感想にいただくなんてUMIにはもったいないです。
 ライアの花は単なる思い付きです・・・季節は春だと決めたのはいいんですが、何か春を象徴するものを出さないと読み手の方がわかりづらいと思って出したんです。春=花、というわけです。ああ、単純すぎる。話を作っていくうちにずいぶんと大事な役割を担うようになってしまいました。
> 続き、とても楽しみです!心からお待ちしています。またぜひ、読ませてくださいね。
 頑張ります。ようやく後半戦です。よろしかったら最後までゼルガディスの旅にお付き合いください。
> 真面目で素敵なお話の後でなんだかほんとにはずかしいのですが、UMIさまから許可していただいた「禁句」の方の私の話も、今週中に投稿できそうです。良かったらぜひ、遊びに来てやってください。
 本当ですか!わーいわーい!嬉しいです。楽しみです。(はしゃぎまくってます)必ず遊びに行かせていただきます!
 何か日本語が変な気がしますが、今日はこれで失礼します。素敵な感想ありがとうございました。 

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2892めぐる季節[章:戦禍UMI 4/5-13:39
記事番号2870へのコメント



 今なら素直に認められる。自分は羨ましかったのだ。
 あのアントワーヌの夢と希望に輝いていた瞳が。
 自分には無いあの輝きが眩しすぎていつも目をそらしていたのだ。

 ゼルガディスの脇を数え切れない人々が通り過ぎていく。
 普段ならフードを深くかぶった白づくめのゼルガディスをいぶかしげに見ていくものだが、この時ばかりは目をとめるものすらいない。
 皆自分のことで手一杯なのだ。戦禍から逃げ出してきたとはいえ、行く当てのある者は少ないに違いない。それでも少しでも安全な場所を求めて人々を住み慣れた土地から背を向け、歩み続けていた。
 ふとゼルガディスは足をとめた。町の城壁が見える。いつのまにかフェルナンド公国内に入っていたらしい。門を見ると門番らしい者もいない。人ごみにまぎれてあっさりと町の中に入ることができた。
不用心なものである。いちいち旅人をチェックする余裕など無いということだろうか。
 (・・・それとも、フェルナンドの君主はこの町を捨てる気なのか?)
 捨て石にするのはあり得ないことではない。こんな国の外れにある小さな町だ。
 まあ、自分には好都合ではあるがなとゼルガディスは思いながら町の中心部へと向かった。

 騒がしい通りに出た。少ないがテントが張ってあり店がちらほら目に入る。確かに騒々しいが活気ある賑やかさとは違う。どの人間も疲れきりやつれた顔をしている。恐怖で脅えた顔つきの人々。荷車に荷物をのせ引いている人達が目につく。焼け出されて逃げ出して来た人々だろうか。それともこれから逃げようとしているのだろうか。
 時間の問題かもしれない。この町が焼け野原になるのも。
 ゼルガディスはそんなことを考えながら人ごみの中を歩いて行った。
 喧騒にまぎれて、人々の話し声が耳に入ってくる。
 「ここも危ないかもねえ」
 「そうだな。俺達も明日にはこの町を出るつもりだ」
 「そうかい。気をつけてな」
 果物売りの中年の女と客らしい男が話をしている。何か情報が得られるかもしれないと思い、ゼルガディスはフードをかぶり直して二人に近づいた。
 「旅の者だが、フェルナンドのことで聞きたいんだ」
 「何だい?」
 女の方がゼルガディスに答えた。
 「戦況はどうなんだ?」
 「詳しくは知らんがよくないらしい」
 今度は男が答えた。
 「そうか・・・」
 予想していた通りの答えであったがあらためて聞くと何とも言えない気持ちになる。
 「それじゃ、俺は女房と子供が待っているんでな」
 「ああ、気をつけてな」
 男はそう言うと足早に立ち去って行った。
 「旅の人、悪いことは言わないから、あんたも早くここから離れた方がいいよ」
 女がゼルガディスに言った。
 「あんたはどうするんだ?」
 「私はこの町からは離れられない。娘夫婦の墓があるからね・・・」
 悲しげに微笑みながら女はゼルガディスの問いに答えた。
 「そうか・・・」
 ゼルガディスはそれ以上言うべき言葉が出なかった。
 戦争が人々にもたらすのは火の粉だけではない。突然人口過密になる町や都市。他の土地からやって来る兵士達がもたらす病。そのため時として疫病が蔓延する。当然のごとく治安は悪くなり、殺人や盗人の類は日常茶飯事になる。荒んでいく人間の心・・・
 「そうはいっても・・・」
 女が再び話をはじめた。
 「そろそろ、店じまいかもねえ」
 どこか遠い所を見るように女は言った。
 ゼルガディスの後ろをせわしなく人々が行き交う。だが、そんなざわめきも遠くに聞こえた。
 「ここは長いのかい?」
 「まあね」
 しばらく二人の間に沈黙が続いた。
 「あんたは一人旅なのかい?」
 今度は女がゼルガディスに尋ねた。
 「ああ、今はな」
 「今?」
 「ラムスドルフ王国で仲間と落ち合うことになっている」
 『仲間』その言葉が不思議なほど自然にゼルガディスの口から出た。
 「なら、早くみんなのもとへ行ってやんな」
 「そうだな・・・」
 「あんたがどうしてここにいるのか知らないけど、心配しているんじゃないかい」
 ゼルガディスの脳裏に別れ際のアメリアの不安げな顔が浮んだ。
 「・・・かもな」
 ゼルガディスはつぶやいた。
 「・・・商売の邪魔をして悪かった」
 そう言うとゼルガディスは背を向け立ち去ろうとした。
 「ちょっと待ちな」
 女が引きとめた。
 「何だ?」
 「これを持っていきな」
 女はゼルガディスに赤い果実を一つ手渡した。ゼルガディスが代金を払おうとすると、女は軽く首を振った。
 「あんたにやるよ。こっちこそ引き止めて悪かったね」
 「・・・すまん」
 女は軽く笑って言った。
 「旅が無事に終わるよう祈っているよ」
 ゼルガディスはもう一度礼を言うと、雑踏の中に戻って行った。
 
 「さて、どうするか・・・」
 フェルナンド公国内に来たはいいがそれ以上の手がかりが有るわけではない。
 町の一般人にいくら尋ねたところでたいした情報が得られるとは思えない。こんな外れの町でも役人ぐらいはいるだろうが、聞いたところで一介の旅人にほいほい話してはくれないだろう。下手をすれば怪しまれてひっとらえられてしまう。時勢が時勢だ。そんな危険は犯したくはない。
 やはり、公国の首都まで行ってみた方がよいのだろうか。
 ゼルガディスがため息をついた時、歌が聞こえた。
 (・・・こんな所で・・・!?)
 もうじき戦禍に見舞われるかもしれない町中で誰が歌っているというのだろうか。
 空耳かとも一瞬思ったが、確かに歌声が町の喧騒をかいくぐるかの様に聞こえてくる。
 とぎれとぎれに歌声と共に耳に入ってくる悲しげな旋律は竪琴の音色らしかった。
 知らず知らずその歌声に耳をすます。
 
     ・・・友は今何処・・・全ては遠き・・・
     ・・・夢も恋も・・・凍てつく風・・・
     ・・・ただ友の・・・響いている・・・

 どうやら別れた友を偲ぶ歌らしい。
 銀の糸を紡ぐかの様に歌声と琴の音色が聞こえてくる。
 普段なら気にも止めないゼルガディスだったが、この時は誰かに手を引かれるかのように歌声のする方に歩いて行った。
 開けた広場のようなところに出た。平和な時であれば町の人々の憩いの場として賑わっているのだろう。だが今は閑散として人の姿はまばらである。
 広場のほぼ中央に水は出ていなかったが、噴水があり、その石段に男が腰を下ろしている。
 男はフードを深くかぶり木製の竪琴をかき鳴らしながら歌を口ずさんでいる。
 ・・・人のいない町の広場  
 ・・・水の出ない噴水   
 ・・・客のいない吟遊詩人
 何もかもがアンバランスだ。不自然過ぎる奇妙な光景。
 しかし『戦』の名のもとではあまりにもぴったりと当てはまってしまう。
 (俺もそうなのだろうな・・・)
 いつもなら町の光景から異常なまでに浮いてしまう自分の姿も、こんなときなら不思議なほどしっくりと溶け込んでしまう。
 それなら自分が詩人の歌を聞いて行ったとしてもおかしいことがあるだろうか。
 自嘲ぎみに微笑んで、ゼルガディスはゆっくりと男の方に近づいた。

 To be continued・・・

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2903あたたかいっていいですね 小野道風 4/8-05:26
記事番号2892へのコメント

UMIさま

 こんにちは。いよいよ時は今へ・・・どきどきしながら読ませていただきました!
> 今なら素直に認められる。自分は羨ましかったのだ。
> あのアントワーヌの夢と希望に輝いていた瞳が。
> 自分には無いあの輝きが眩しすぎていつも目をそらしていたのだ。
 そう認められるようになったゼルガディスも、たしかに一歩一歩前へ進んでいるんですよね、きっと。その最初の一歩を踏み出させたのはたぶんアメリアの暖かさじゃないかな、と・・・
> 戦争が人々にもたらすのは火の粉だけではない。突然人口過密になる町や都市。他の土地からやって来る兵士達がもたらす病。そのため時として疫病が蔓延する。当然のごとく治安は悪くなり、殺人や盗人の類は日常茶飯事になる。荒んでいく人間の心・・・
 戦争の一番の残酷さはやはり人の心に残す傷、そしてその後も子から孫へと憎しみまで遺伝させてしまうところにあると思います。その辺りを経験として知っている今のゼルガディスにとって、こんな地にあのアントワーヌが居ると
いうのは、ただ心配というだけではない複雑な気持ちだったのでは、なんて思ってしまいました。
> 『仲間』その言葉が不思議なほど自然にゼルガディスの口から出た。
> 「なら、早くみんなのもとへ行ってやんな」
> 「そうだな・・・」
 でも彼らとの旅が再び始まるときは、この旅が終わったとき。彼とアントワーヌとは、たしかにもう道がわかれてしまっているけれど、その道が再び交差することはないのでしょうか・・・ううう。  
> 「旅が無事に終わるよう祈っているよ」
> ゼルガディスはもう一度礼を言うと、雑踏の中に戻って行った。
 こういう暖かさがあるから、人間ていいな、と思います。アメリアみたいに謳歌はさすが無理ですけれど(笑)。
> 何もかもがアンバランスだ。不自然過ぎる奇妙な光景。
> しかし『戦』の名のもとではあまりにもぴったりと当てはまってしまう。
> (俺もそうなのだろうな・・・)
 それは彼の哀しみでもあり誇りでもあると思うのは私に思い入れがあるからでしょうか(笑)。
> 自嘲ぎみに微笑んで、ゼルガディスはゆっくりと男の方に近づいた。
 戦場に響く友を偲ぶ詩、その先に見えるのは・・・私は弱虫なので、なんだか今のアントワーヌを知るのはこわい気がしてしまいます。ゼルガディスは今のアントワーヌを知ることで、何かを得て何かを失うのでしょうけれど・・・ああ、彼の還りつく先がほんとに暖かいものでよかったなと思います。
 続き、たのしみにお待ちしていますね!
 では、また。
 
 

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2905ふう、後半のスタートですUMI 4/8-12:25
記事番号2903へのコメント


 こんにちは小野さん、感想ありがとうございます。
 ようやく後半のスタートです。
 
>その最初の一歩を踏み出させたのはたぶんアメリアの暖かさじゃないかな、と・・・
 リナやガウリイにであって彼が変わったのは事実だと思いますが、それをはっきりと自覚するにあたったのはアメリアに会ってからではないのかなと思っています。
>戦争の一番の残酷さはやはり人の心に残す傷、そしてその後も子から孫へと憎しみまで遺伝させてしまうところにあると思います。その辺りを経験として知っている今のゼルガディスにとって、こんな地にあのアントワーヌが居ると
>いうのは、ただ心配というだけではない複雑な気持ちだったのでは、なんて思ってしまいました。
 「めぐる季節」の一つのテーマに実は戦争の悲惨さや悲しみというのがあります。どこまで書けるかはかなり自信がないのですが・・・
>アメリアみたいに謳歌はさすが無理ですけれど(笑)。
 そこまで行けば無敵かと(笑)
>それは彼の哀しみでもあり誇りでもあると思うのは私に思い入れがあるからでしょうか(笑)。
 その気持ちよくわかります(笑)
>ゼルガディスは今のアントワーヌを知ることで、何かを得て何かを失うのでしょうけれど・・・
 確かにその通りのラストになると思いますが、ただ寂しいだけで終わらせたくないと考えています。月並みな言い方ですがゼルガディスには失うものよりも得るものを大事にして欲しいなと思っています。
>ああ、彼の還りつく先がほんとに暖かいものでよかったなと思います。
 そうですね。アメリアと会わなかったら、アントワーヌを探しにいく決心はつかなかったかもしれないと小野さんのコメントを読んで思いました。
 小野さんの例のお話すっごく読みたいのですが今、時間がなくて・・・(涙)ごめんなさい。
 それにしても上下なんて嬉しすぎます!
 必ず感想を書きますので、本当にすみません。