◆−そして海の四人組(上)−小野道風(4/8-05:35)No.2904
 ┗再びゼルガディスの受難の予感が・・・−UMI(4/10-12:33)No.2917
  ┗ 押し付けてしまったうえにお久しぶりに・・・(汗)− 小野道風(4/17-10:55)No.2934


トップに戻る
2904そして海の四人組(上)小野道風 4/8-05:35


 こんにちは。
 このお話はUMIさまがこちらのHPでお書きになっていたお話「禁句」から小野が妄想したゼルアメものです。
 禁句はとても楽しいゼルガディスの受難なお話です(笑)。 
 良かったら、楽しんでいってください。
 そしてこれを書くことを快く許してくださり、さらには待っていてくださったUMIさまに、このお話をささげます。

=======================================================================================

 いい天気だった。
 果てしなく澄み渡る空、かすかに弧を描いて青々ときらめく海・・・
 その狭間を波を蹴立てて進む大型帆船の上甲板で、ゼルガディスは晴天なみに真っ青な顔を不機嫌そうにしかめたまま、無言で潮風になぶられている。
 風こそ強いが良い日和とあって、甲板にいるのは彼だけではなかった。家族連れや恋人とおぼしき人の群れがそこここに固まり、遠くの島影を指差したり上空を舞う海鳥を目で追ったりしながら、各々の会話に楽しげに身を委ねている。平和そのものの光景である。
 見た限り、今のところは。
「何しけた面して気取ってんのよゼル」
「寒いからですよね、ゼルガディスさん。あっちの方が陽当たりいいですよ。景色もとってもきれいですし、一緒にお茶でもいただきませんか?ガウリイさんも・・・て、リナさんリナさん、ガウリイさん風邪ひいちゃいますよ」
 船の振動に引き込まれてしまったらしい。ゼルガディスの隣ではガウリイが剣を大事そうに抱えたまま、見るからに幸せな寝顔でゆらゆら状態を揺らせている。
「だいじょぶだいじょぶ。あいつなら一週間冷や水に浸けてたってひきやしないんだから」
 ゼルガディスは目だけを声の方に向けた。ある意味彼が「唯二」畏れる女性陣、リナとアメリアがにこにこと立っている。アメリアがにこにこ元気なのは・・・まあいつものことだ。リナがにこにこ上機嫌なのは・・・
「様子を見ているだけだ。敵さんがいつ出るかわからんからな」
「やだ、まさか本気にしてんじゃないでしょーね、宿屋のおっちゃんの話」 
 この航路をとる船から頻繁に若い女ばかりが姿を消すという謎めいた話を四人組が耳にしたのはつい先日のことだ。たまたま泊まった宿屋の主が茶受け話に持ち出したのである。船乗りの間ではちょっとした怪談として広まりつつあるうえ、噂が噂を呼んで客足まで遠のき、船会社が頭を抱えているらしい。これにリナが儲け話の匂いを嗅ぎつけないはずがなく、かくて四人組は原因究明のために話題の「怪談航路」を船旅の真っ最中、というわけである。
「怪談話を信じてるわけじゃないぞ、言っておくが」
 ゼルガディスは憮然と視線を前方に戻して、
「どうせ船員を何人か抱きこんだ海賊どもの仕業だろうからな。それはいい。しかし、そうなるとそいつらは当然俺たちがこの船に乗ってることを知っているはずだ。今日で五日目、そろそろ動きがあってもいいんじゃないか?」
「動きがあったら叩くだけの話でしょ。それで金貨100枚、ま、解決できたらの後払いだけと、こんないい船で海の旅ができておまけにタダ、なんてそれだけでもめっけもんよ。しかも割のいいアルバイトまでできそうだしね。ウフフ(はあと)」
 どうやら襲ってきた海賊を襲うつもりであるらしい。リナはうっとりと微笑んだ。愛らしい笑顔だが、いかんせんその瞳を輝かせているのは海賊のお宝の妄想である。
「そーです!」
 この声は頭上から降ってきた。
 ゼルガディスが見上げると、いつの間に登ったのかマストのてっぺんに片足立ちしたアメリアが、マントを颯爽となびかせながら天空彼方に向かって叫んでいる。もともと大きなその瞳をいっそう輝かせているのは・・・まごうことなき正義の星だ。
「若い女性をかどわかして連れ去るなんて、なんと卑劣かつ非道な行為でしょう!卑劣で非道、それすなわち悪!!天に代ってこのアメリアが正義の鉄槌を下してみせるわ!!とうっ」
 例の効果音とともにアメリアが顔から着地したのは言うまでもない。周囲の人々の呆気にとられた視線を全身に浴びつつ、ゼルガディスはひっそりとため息をついた。今さら何も言う気はないが、この娘のこの癖、なんとかならないものだろうか。もっとも彼女のそういうところを、ゼルガディスは決して嫌いではないのだが。

 泳ぐ以前に浮くことが他できないゼルガディスにとって海は想像以上危険な領域だが、と言って海を避けて通るほど、彼は良い意味でも悪い意味でも繊細にできていない。だからこそこの船旅にもさほどためらうことなく加わったわけだが、気掛かりがないわけではなかった。この場合の気掛かりとは言うまでもなく「泳げないからいざというときに命が心配」ではなく「泳げないからいざというときに実力を出し切って闘えるかどうか心配」の意である。
「実際どうにかせねばならないんだがな」
 思わず口にしてから、ゼルガディスははっと口を押さえた。慌てて左舷を見る。その先ではリナとアメリアが、手すり越しに水面を眺めながら何やら小声で言葉を交しては忍び笑いをしていた。彼の声は届かなかったらしい。
「・・・まったく・・・」
 ゼルガディスは額の冷や汗を拭った。自分の不注意な発言がもとで起きてしまったいつかの悪夢が彼の脳裏にまざまざと蘇る。
 特訓。
 そう銘打たれ、海に投げ込まれるわ、イカタコだかタコイカだかに襲われるわ、さらには竜破斬までかまされるわしたあの時も、たしか今日のようにうんざりするほどいい天気だった--------------
「特訓がどうかしたんですか?」
「っ!!!!」
 腰が抜けるとはまさにこのことだ。抜けはしなかったが、それはゼルガディスが辛うじて両足を踏ん張ったからである。気付くとアメリアが大きな瞳をいっぱいに開いて不思議そうにこちらを見上げていた。
「や・・・その・・・なんだ・・・・、なんでもない。気にするな」
 無意識のうちに言葉にしていたようだ。体へ直接刻まれた恐怖とはえてしてそういうものである。動員できる限りの気力でもって平静を装おうとしたゼルガディスの企みは、しかしリナの一言であっさりと潰え去った。
「水臭いわねー、ゼルったら。気にしてるなら気にしてるっていえばいいじゃないの」
「え、ゼルガディスさん何か悩みごとでもあるんですか?」
「忘れたの?ゼルって泳げないじゃない。今ここで海賊か何かが襲ってきたりしたら色々不利なのよ、ゼルにしてみれば。あたしはそんなに気にすることないと思うけど、まあ本人がどーしてもすごーく気になるっていうんだからしょうがないわよねー」
 ゼルガディスはいくぶん顔を赤らめつつリナをにらみつけた。リナはにやにや笑っている。自分の言葉がどういう結果をもたらすかわかり切ったうえで面白がっているのだ。その面白みには事の成り行きにゼルガディスが決して逆らえない事まで含まれているに違いない。
「余計なことを・・・」
「ホッホッホ」
「そうなんですか?そんな、ゼルガディスさんっ」
 案の定、アメリアの瞳に本日二度目の正義の星が舞い下りた。
「リナさんの言うとーりですよっ。そんな些細なこと全然気にすることなんてありません。だってゼルガディスさんの強さはほんものなんですから。でもどうしても克服したいというのなら、このアメリアが今すぐに特訓メニュー第二弾を・・・」
 その時だった。風に乗った音の断片がリナの耳をかすめたのは。
 ヒュルルルルルル・・・
「ひゅるるる?」
 何気なく口真似して後ろを振り返ったリナは、あんぐりと口を開けた。
「どうしたリナ」
「二人とも聞いて下さいよう」
「ゼルっ頼むわっっ!!」
 アメリアを自分の後ろに突き飛ばすと、リナはゼルガディスの肩を力任せに自分の真正面へねじ込んだ。
「おいっ!?」

トップに戻る
2917再びゼルガディスの受難の予感が・・・UMI 4/10-12:33
記事番号2904へのコメント


 こんにちは、小野さん。先日は大変失礼しました。
 それにしても。いいんですか?いただいてしまっても?
 まさか私にささげていただけるなんて・・・ううう涙が出るほど嬉しいです。
 遠慮なくいただきます。本当にありがとうございます。
 おまけに「禁句」のCMまで。では、感想に入らせていただきます。
 
 >平和そのものの光景である。見た限り、今のところは。
 この辺りからすでにゼルガディスの受難の予感がひしひと感じられますね。
 船から若い女性がさらわれるという事件の真相解明のための「怪談航路」・・・
 ゼルガディスにとってはこれでもかもという不吉なシチュエーションだと思うのは私だけでしょうか?今回の冒険は水難に加えて女難の相も出ているような気がします。でも。考えてみれば「禁句」もそうだった気が・・・ゼルガディス、頑張れ(笑)
 >「怪談話を信じてるわけじゃないぞ、言っておくが」
 怪談よりも海賊よりも恐ろしいものが目の前にいますからね。誰とはあえて言いませんが。
 にしても、可愛い女の子を二人も連れた船旅だというのに色気のいの字も無いところが・・・
 >「泳げないからいざというときに実力を出し切って闘えるかどうか心配」の意である。
 つまりこれはアメリアに何かあった時に助けることができるかという心配なんですよね。UMI妄想暴走中です。でも溺れて逆にアメリアに助けられたら立場がないですよね、確かに。
 >ゼルガディスは額の冷や汗を拭った。自分の不注意な発言がもとで起きてしまったいつかの悪夢が彼の脳裏にまざまざと蘇る。
 トラウマになってしまったようですね(笑)ゼルガディスごめん。苦情文句等はすべてUMIへどうぞ。「口は禍のもと」という格言が彼の人生哲学になってしまったのは想像に難くないです。
>このアメリアが今すぐに特訓メニュー第二弾を・・・
 第二弾どころか三、四と間違いなく彼女にはありますね。おそらく軽くレパートリーは百を越えるのではないでしょうか?特訓メニューノートとか常備してそう・・・
 初っ端から暗雲立ち込める(ゼルガディスにとっては)怪談航路。一体何が起きるのでしょうか?
 ただの海賊が誘拐犯の筈が無い!
 そして、ゼルガディスがこのまま無事で済むはずも!(笑)
 つらつらとまとまりなく書いてしまってすみません。下をとても楽しみにしています。
 それでは、また。

トップに戻る
2934 押し付けてしまったうえにお久しぶりに・・・(汗) 小野道風 4/17-10:55
記事番号2917へのコメント

UMIさま

 こんにちは。せっかくコメントを入れていただいていたのにとても間があいてしまいました。時間のとれない状態が続いていまして・・・ほんとうにすみませんでした。しかも不躾にもUMIさまに押し付けてしまってるし(汗)。でもでも、受け取っていただけてとてもうれしいです。こちらこそ、ありがとうございました。
 UMIさまの御指摘のように、このお話はゼルガディスの新たなる受難がテーマ?になっております。フフフ。 
> ゼルガディスにとってはこれでもかもという不吉なシチュエーションだと思うのは私だけでしょうか?今回の冒険は水難に加えて女難の相も出ているような気がします。でも。考えてみれば「禁句」もそうだった気が・・・ゼルガディス、頑張れ(笑)
 そう、この後に彼を襲い来るのはまともな敵ではないわけでして・・・なんといっても受難ですし(笑)。
> でも溺れて逆にアメリアに助けられたら立場がないですよね、確かに。
 そんな事態になったらゼルガディスはものすごく気にしちゃいそうですね。アメリアは気にしなさそうですけれど。実は今もってNEXTでナメクジ水路にはまったこととかも気にしてたりして。あれはやはりアメリアが救けてあげたのでしょうか・・・
> 第二弾どころか三、四と間違いなく彼女にはありますね。おそらく軽くレパートリーは百を越えるのではないでしょうか?特訓メニューノートとか常備してそう・・・
 私も思ってしまってました。種類もやたら豊富なんだろーな、なんて。鉄ゲタなどのパターンものからセイルーン王家秘伝メニューまで、ゼルガディスの体力と頑丈さをもってしても完全マスターは難しいのでは(笑)。
> ただの海賊が誘拐犯の筈が無い!
> そして、ゼルガディスがこのまま無事で済むはずも!(笑)
 女性陣に振り回されたあげく必ずといっていいほど無事では済まないゼルガディス(おちゃめバージョン)も、愛と正義のもと周囲(たいていゼルガディス)を混乱と後悔の渦にうっかり巻き込んでしまうアメリア(暴走バージョン)も、私はとても好きなので、そんな私好みの結末になっております・・・愛ゆえです、ほんとうに。ははは。
 今週中には続きを送らせていただけると思います。良かったら、またぜひ遊びに来てやってくださいね。
 読んでいただいて、しかも受け取っていただいて、ほんとうにありがとうございました。