◆−めぐる季節\章:吟遊詩人−UMI(4/12-12:50)No.2928 ┣アントワーヌのさがす友は−小野道風(4/17-11:59)No.2935 ┃┗あのフレーズは痒かったです−UMI(4/19-12:29)No.2936 ┗めぐる季節]章:戦いの女神−UMI(4/21-16:23)No.2938 ┗交差する時間軸−小野道風(4/29-05:27)No.2951 ┗遅くなって申し訳ありません−UMI(5/6-14:16)No.2962
2928 | めぐる季節\章:吟遊詩人 | UMI | 4/12-12:50 |
友は今何処 薄紅色の花舞う中で夢を語った友は何処 友は今何処 白き粉雪舞う中で少女を賭して剣を交えた友は何処 全ては遠き過去のこと 夢も恋も 何もかも 凍てつく風にまぎれて消えた ただ友の 我が名を呼ぶ声のみが 旋律となって響いている 歌い終わると男は顔を上げずうつむいたままゼルガディスに言った。 「旅の人かい?」 「ああ」 「他の曲も聞いていくかい?」 「いや、いい。それよりもあんたは逃げないのか」 男は軽く笑った。 「歌い終わったら逃げるさ」 ゼルガディスにそう言うと琴の弦を一本弾いた。見ると何本かの弦は切れてしまっている。 「変わった奴だな。こんな時に歌っているなんて」 ゼルガディスは男に言った。 「変わっているのはあんただろ。、旅の人。こんな戦争の起きている国に立ち寄るなんて」 男は愛おしげに薄汚れた布のまかれた指で竪琴をなでながら言った。 「・・・人を探しているんだ」 ゼルガディスはぽつりと答えた。 「人探しかい。難しいだろうねえ、こんな時だからな」 「駄目もとのつもりで来た。そう長居もできん」 「なんて奴だい?」 男はちょっとした好奇心で聞いたのだろう。ゼルガディスは男がアントワーヌのことを知っているとは思えなかったが、知られたところで困ることもない。 「アントワーヌというんだ」 「アントワーヌ・・・そいつの本名はアントワーヌ・ジュリ・パティストかい」 「知っているのか!」 あまりに意外な答えにゼルガディスは声を上げた。 「ああ、結構この辺りじゃ有名だよ。数年前この国で兵士を募った時やって来たらしい」 間違いない。アントワーヌだ。しかし、有名とはどういうことだろうか。 「それはどういうことなんだ?」 「兵士になった後、順調に出世してな。一軍を任されるようになったんだ。つまり隊長だな」 「隊長・・・」 まさかあのアントワーヌにそんな才があるとはゼルガディスは思ってもみなかった。 「それで、今どこにいるか知っているのか?」 「詳しくは解らんが・・・前線にやられたと聞いた」 「前線に・・・」 (まずいな・・・) ゼルガディスは唇を噛んだ。前線の部隊などただでさえ危険極まりないというのに、今はフェルナンド公国の戦況は良くない。こんな時に前線にやられて無事にすむわけがない。 「兵士や町の人々には人気はあったが、それが公には気に入らなかったらしいからな」 「狭量な奴だな」 ふんと吐き捨てるかの様にゼルガディスは言った。 「ああ、だから公は嫌われていた・・・」 「道理だな」 「町の奴らだけではなく、親衛隊の兵士達にまで嫌われていたようだからな」 「・・・なるほど・・・」 ゼルガディスはこの国の支配者の運命が見えたような気がした。フェルナンド公はそう遅くないうちに思い知るだろう。自国の兵士達、特に親衛隊からうとまれた君主がどのような末路をたどることになるかを。 「変わった奴だったな・・・」 ふふ、とさも可笑しそうに男は笑った。 「会ったことがあるのか?」 「ああ、よく俺の歌を聞きに来ていた。今の歌もあいつが好きでよく頼まれたものさ」 楽しそうに男は話した。目の前の人間はアントワーヌのことが好きだったのだろう。 「ロマンチストなあいつらしいな」 そう言うと、ゼルガディスも男につられて笑った。 「育ちの良さそうな奴だったな。騎士になるのが夢で村を飛び出したといっていた。後悔はしていないが気がかりなことが一つだけあると言っていた」 「気がかりなこと・・・?」 家族の必死の制止を振り払ってまで村を飛び出したアントアーヌが何を気にするというのか。 「友人のことだそうだ」 「?!」 驚きで声が出ない。まさかその友人というのは・・・ 「その友人の名が、確かゼルガディスとか言っていたな」 「・・・・・・」 (アントワーヌ・・・お前は・・・!) 彼の夢を馬鹿にし、別れ際の花さえ受け取らなかった自分を友人としてそこまで想ってくれたアントワーヌ・・・ゼルガディスは胸の痛みを覚えた。 「あいつには自分以外は友達はいないだろうから寂しがっているだろうってさ」 「らしいな・・・」 男の言葉にゼルガディスは苦笑した。 (その辺りは変わっていないな・・・) アントワーヌはどこまで行ってもアントワーヌということらしい。 「にしても、無事でいるかね・・・」 ゼルガディスはハッと我に返って男に問いただした。 「彼がどこにいるか知っているか!」 「詳しくは解らんが、前線はここから北西の草原らしい。馬で一日半というところか」 「確かなのか?」 解らないと言いつつかなり正確に答えた男を不審に思い、ゼルガディスは尋ねた。 「馬鹿にするなよ。俺らのようなものには情報だけが頼りだからな。命綱さ。疎いことは命取りになる」 「なるほど」 確かにこの男の様に町から町へと旅をして生活している者にとって、できるだけ正確な情報を常に得ていかなければ生きていくことすら難しいに違いない。 ゼルガディスとてこの吟遊詩人と似たような身の上だが、リナ達と旅をしているうちに少し緊張感が薄らいでしまっていたらしい。 「他に聞きたいことはあるかい?」 男が問いた。 「いや、もう充分だ。助かった」 ゼルガディスはそう言うと男に先ほどもらった果実を手渡した。 「くれるのかい?」 「ああ、歌と情報の礼だ。もらいもので悪いがな」 「とんでもない。こいつは大好物だよ」 男は心底嬉しそうに言って、赤い果実を顔の前にかかげた。 「それじゃあな」 ゼルガディスが広場から立ち去ろうとすると、男が呼び止めた。 「なあ、旅の人」 「何だ?」 「アントワーヌの言っていた友人っていうのはもしかして・・・あんたのことかい」 ゼルガディスは一瞬押し黙った後、こう言った。 「そう思いたければそう思えばいい」 「ははは、なるほど」 男は愉快そうに笑った。男のフードがわずかにめくれて地肌が見えた。赤い肉が奇妙に歪んでいた。形容するならヒルの巣のようだった。火傷の痕か皮膚病のようなものか・・・はっきりとは解らないがおそらくどちらかだろう。 「何が可笑しいんだ」 ゼルガディスは変わらぬ口調で言った。 「いや、なにね。あいつの話からするとゼルガディスって奴はやたらしっかりしていて生意気な奴だってことだったが・・・あんたは暗闇に脅える子供の様だなって思ったのさ」 「ふん、つまり俺はゼルガディスとやらではないってことだろう」 そう言うとゼルガディスは男に背を向け歩き始めた。 「・・・そうか、人違いか・・・」 男はくすりと笑って言った。そして再び竪琴をかき鳴らし始めた。 悲しげな旋律が男を中心として春の広場に静かに流れる。 次第にゼルガディスから吟遊詩人の歌が遠ざかっていく。 ・・・友は今何処・・・何もかも・・・ ・・・まぎれて消えた・・・ただ友の・・・ ・・・名を呼ぶ声が・・・響いている・・・ ・・・・・・響いている・・・・・・ To be continued・・・ |
2935 | アントワーヌのさがす友は | 小野道風 | 4/17-11:59 |
記事番号2928へのコメント UMIさま こんにちは。お話の続き、読ませていただけてとてもうれしいです。でも反面、一人の読み手として読み進めるのがつらいです。ついにあのアントワーヌの今がわかってしまったから・・・ > 友は今何処 薄紅色の花舞う中で夢を語った友は何処 > 友は今何処 白き粉雪舞う中で少女を賭して剣を交えた友は何処 > 全ては遠き過去のこと > 夢も恋も > 何もかも > 凍てつく風にまぎれて消えた > ただ友の > 我が名を呼ぶ声のみが > 旋律となって響いている 「少女を賭して剣を交え」・・・いかにもアントワーヌの好みそうなフレーズですね(笑)。しかし「全ては遠き過去のこと」、アントワーヌはどんな気持ちをこのフレーズに込めて聞いていたのでしょう・・・ > 「知っているのか!」 > あまりに意外な答えにゼルガディスは声を上げた。 > 「ああ、結構この辺りじゃ有名だよ。数年前この国で兵士を募った時やって来たらしい」 > 「兵士になった後、順調に出世してな。一軍を任されるようになったんだ。つまり隊長だな」 ここが戦場でなければ、ここがフェルナンドでなければ、危なっかしく思う反面ともかくも喜べる便りだったはずのアントワーヌの成功。 > 「兵士や町の人々には人気はあったが、それが公には気に入らなかったらしいからな」 アントワーヌは幼くみえるほどにまっすぐでおおらかで一生懸命で、そういうところが返って戦場の空気に合っていたのでしょうか。アントワーヌには暖かさがあるから、「この人のもとでなら死ねる」と兵士に思わせるそんな戦場独特の絆が強く彼に結ばれていったのは良くわかる気がします。でも、危ない。 君主が君主だけに、読んでいてどきどきするほど、アントワーヌが立っているこういう立場は、危険窮まりない・・・ > 「変わった奴だったな・・・」 > ふふ、とさも可笑しそうに男は笑った。 なのに噂話からゼルガディスや私の目の前に浮かぶアントワーヌは、お人好しでロマンチストで世間知らずで無鉄砲な昔の面影のまま、しかも気になると人に洩していることといえば、 > 「あいつには自分以外は友達はいないだろうから寂しがっているだろうってさ」 > アントワーヌはどこまで行ってもアントワーヌということらしい。 まさに、という感じでした(笑)。 > 「ああ、歌と情報の礼だ。もらいもので悪いがな」 > 「とんでもない。こいつは大好物だよ」 > 男は心底嬉しそうに言って、赤い果実を顔の前にかかげた。 変わっていく時代、変わっていく心、そんな中で優しさは確かに何らかの形で人から人へと伝えられていく。さりげなく渡された赤い果実には、かつてのアントワーヌから、先のこれをくれた女性から、そしてアメリアたちから、ゼルガディスが感じた優しさがそっと込められている気がします・・・ > 「いや、なにね。あいつの話からするとゼルガディスって奴はやたらしっかりしていて生意気な奴だってことだったが・・・あんたは暗闇に脅える子供の様だなって思ったのさ」 > 「ふん、つまり俺はゼルガディスとやらではないってことだろう」 > そう言うとゼルガディスは男に背を向け歩き始めた。 > 「・・・そうか、人違いか・・・」 > 男はくすりと笑って言った。そして再び竪琴をかき鳴らし始めた。 ゼルガディスの背後で響く歌。時間が流れゼルガディスは変わり、かつての彼ではないのだという意味では、アントワーヌの探す友はもういないのですね。私たちの身近にもあることですけれど、それを知り、かつ認めることは下手な悲しみより心がとても揺らぐことだと思います。 ゼルガディスはどんな思いでアントワーヌを追おうとしているのでしょうか・・・ そして私も読み手として二人の過去に携わってしまったので、ほんとうにこれからの二人を知るのがなんだかつらいんです。でもでも、続き、またぜひ読ませてくださいね。 楽しみにお待ちしています。 では、また。 |
2936 | あのフレーズは痒かったです | UMI | 4/19-12:29 |
記事番号2935へのコメント こんにちは、小野さん。 いつも丁寧な感想をありがとうございます。 > 「少女を賭して剣を交え」・・・いかにもアントワーヌの好みそうなフレーズですね(笑)。 このフレーズは書いててかなり痒かったです。思わず背中がむずむずと。でも、確かにアントワーヌは好きそうですよね。ロマンチックなシチュエーションに弱いんですよ、彼は。 > アントワーヌは幼くみえるほどにまっすぐでおおらかで一生懸命で、そういうところが返って戦場の空気に合っていたのでしょうか。アントワーヌには暖かさがあるから、「この人のもとでなら死ねる」と兵士に思わせるそんな戦場独特の絆が強く彼に結ばれていったのは良くわかる気がします。 この辺は小野さんのお考えどうりだと思います。君主がトホホなだけにアントワーヌは町の人や兵士からの人気が高かったのでしょう。 > ゼルガディスの背後で響く歌。時間が流れゼルガディスは変わり、かつての彼ではないのだという意味では、アントワーヌの探す友はもういないのですね。私たちの身近にもあることですけれど、それを知り、かつ認めることは下手な悲しみより心がとても揺らぐことだと思います。 > ゼルガディスはどんな思いでアントワーヌを追おうとしているのでしょうか・・・ うーん、相変わらず深い考えですね。私はそこまで考えませんでした。時間が流れ時も人も変わっていくという点では探し人というのは永遠に探し続けるものであり、、永遠に見つからないものなのかもしれません。 > そして私も読み手として二人の過去に携わってしまったので、ほんとうにこれからの二人を知るのがなんだかつらいんです。でもでも、続き、またぜひ読ませてくださいね。 ううう。つらい思いをさせてしまってすみません。春なのにぃ。でも、最後まで頑張りたいと思います。 小野さんのお話もとても楽しみにしていますので頑張ってください。 ゼルガディスにどんな試練が待っているのでしょうか(笑) それでは。 |
2938 | めぐる季節]章:戦いの女神 | UMI | 4/21-16:23 |
記事番号2928へのコメント うふふ くすくす あーはっはっは きゃーはっはははは! 戦いの女神が駆け抜けた後だ。 いまだ彼女の狂気の笑い声がこだましている。 血を思う存分浴び恍惚とした表情でこちらを見ているにちがいない。 虚ろな目の亡霊達を自分の配下に歓声で迎えている。 そして彼らを従え、また別のところで破壊と殺戮の剣を振り降ろすのだろうか? 女神の髪が黒い炎となってあらゆるものをなめ尽くし屠り尽くした。 全てを食らい尽くしてもなおも飽きることを知らない貪欲な彼女。 誰の中にも彼女は住みついて放たれる時を待っている・・・ そう、間違いなく自分の中にも・・・ ゼルガディスはそう考えながら焼け野原となった春の大地に立っていた。 吟遊詩人に教えられた草原に彼はいた。だが、全てが終わった後だった。 「遅かったか・・・」 ゼルガディスはつぶやいた。 春特有の強い突風が吹き荒れ、焼け焦げた旗がばたばたと耳障りな音をたてる。 風と共に血や死臭、焼けた肉の匂いが混じりあって容赦なくゼルガディスに襲いかかった。 ゼルガディスのフードが外れ異形の姿があらわになる。しかし、亡霊達以外は見る者とていない。 彼は女神の置き土産にただその身をさらしていた。 「この中にお前はいるのか・・・?」 むろんアントワーヌのことである。 飛行の術を駆使して半日でここにたどり着いたが、この目の前の光景にゼルガディスは動くことができなかった。 アントワーヌも女神の残酷な遊びの餌食となったのだろうか。思わずゼルガディスはアメリアからもらった押し花を握り締めた。彼女の言葉が脳裏で繰り返される。 『進むべき道がわからなくなった時や迷った時、その人にとって正しい道を示してくれるんだそうです』 (まだ、死んだと決まったわけじゃない・・・) 上手く逃げ出せた可能性だって否定はできない。 (あいつはそう簡単に死ぬようなたまじゃない・・・) 腹立たしいまでの能天気なアントワーヌの笑顔を思い出す。 (あいつなら死に神の方から裸足で逃げ出すさ) ゼルガディスは自分自身に言い聞かせた。 (悪運だけは強い奴だった・・・) アントワーヌならこの死体の山の中で自分だけ気絶でもして生きていたっておかしくはない。 恐ろしい不安を振り払うかの様に彼は軽く頭を振りゆっくりと歩き始めた。 歩きながらゼルガディスはあることに気がついた。 自分が「戦争」というものの中で戦ったことがないということに。 数え切れない人間を殺してはきた。魔族達とも戦ってはきた。 だが国同士の人間の戦争に加わったことはゼルガディスはなかった。 レゾのもとで散々悪事を働いてはきたが傭兵をやったことはない。 そういえば、アメリアが昔こんなことを言っていた。 『戦争は嫌いです・・・』 その時は何を当たり前のことをと思う反面、殺し合いをしなくてもやってこれた幸せな人間の台詞だと思ったものだ。 けれど今なら彼女が何故そのようなことを言ったのか解る。 おそらくアメリアは見たのだ。今自分が見ているこの光景を。 別に不思議なことではない。彼女は聖王都セイルーンという大国の王女なのだ。 セイルーンが直接戦禍に見舞われることは無くとも、隣国や同盟国が戦争を起こしそれに巻き込まれたことはあるだろう。いや、無い方がおかしい。彼女自身がフィリオネル皇太子の名代として調停の使者になることもあるに違いない。交渉が上手くいけばいいが決裂した時・・・ 彼女のことだ。その時は安全な場所にいることを善しとはしまい。責任を感じて先陣を切るだろう。巫女とはいえ王族だ。幼い頃から指揮官としての訓練も受けていてもおかしくは無い。 (そういえば、戦い慣れしていたな・・・) あまりにもどたばたしていた旅だったので疑問に思うことも暇も無かったが、魔族との戦いに明け暮れるこの旅に彼女は付いて来たのだ。魔法も体術も単に習得しただけではあそこまでのレベルにはいかない。そうとう実践をつんできたのだ。 自分が生身の身体で彼女と同じ年齢だったら負かされるのはこっちの方かもしれないとゼルガディスは思った。 (何故、彼女はいつも笑っていられる・・・?) それがゼルガディスにとっては不思議だった。 立て続けに起こる身内の謀反に裏切り。最も信頼できない相手は自分の血のつながった者達。 『お前は幸せそうだな』 ゼルガディスは皮肉混じりにアメリアに言ったことがある。 『ええ、幸せですよ』 アメリアはいつもと同じように笑ってこう言っただけだった。 (俺には解らん・・・) ゼルガディスは息苦しさを覚えて、立ち止まりわずかに上を向いた。 目に痛いくらいの青空だった。アントワーヌと剣を交えたあの春の日々と変わらない空だった。 空の上で風が唸っている。凄まじい勢いで雲が流れていくのが目に見える。 ゼルガディスは空の眩しさに耐えきれず、目の前の赤黒い光景に目を戻した。 戦火がもたらすものはいつも同じ。 死体と腐臭と怨嗟の声。 勝敗が問題になるのは支配階級達だけ。 勝っても負けてもピラミッドの下にいるものには関係ない。 支配者の首がそのままかすげ変わるかのことでしかない。 早春の大地。 まだ春が訪れたとは言いがたい。 まだ、煙があちらこちらから上がっており血の匂いがたち込める。 女の姿もある。連れて来られたか金目当てで兵士に付いて来たのかはわからないが娼婦だろう。 少年の死体もある。若いゼルガディスからみても幼いといえる顔に苦悶の表情を浮かべている。 ゼルガディスはそれを見て顔をしかめた。 この惨状を見続けていくうちに、だんだん彼は絶望的な気持ちになってきていた。 (これ以上、ここにいても無意味かもしれん・・・) 生きているならとっくにここを離れているだろう。そう考えるのが普通だ。 この草原の一番近い村か町にいるに違いない。 もしそうでなければ、アントワーヌは・・・! (よせ、止めるんだ・・・!) この可能性を考えることはさっき自分自身に禁じたばかりだった。 (この俺ですら生きているんだから・・・) 幾度死地に赴いただろうか。幾度死にかけただろうか。 こうして生き延びているのが自分だって信じられないくらいである。ゼルガディスは自分に言い聞かせた。 「あいつは、アントワーヌは生きている。信じるんだ・・・」 そう言うと、ゼルガディスは再び歩み始めた。 戦いの女神が焼き払った大地を・・・ どのくらいさまよっていただろうか。ゼルガディスは風の冷たさを感じた。 (やはり、もうここには・・・) 必死でアントワーヌを探したが、それらしき人間は見つからなかった。 ゼルガディスは限界を感じていた。 「別の所を探した方がいいかもしれんな・・・」 風の冷たさは日が暮れかかっているためなのか、それともさまよい続けている亡霊達のためなのか。 彼にはそれすらも解らなくなっていた。 ここを離れ近くの村か町へ行こうと決めた時、凍える風の中から何かが聞こえた。 「・・・うう、う・・・」 (人の声!?) 一瞬空耳かと思ったが、ゼルガディスの聴力は常人のそれをしのいでいる。空耳なんかではあるはずがない。 あわてて彼は声のする方に走り寄った。 「おい、大丈夫か?」 声の主は一人の青年だった。ゼルガディスは彼を抱き起こし、声をかけた。 青年の顔は血と泥にまみれていた。 「しっかりしろ」 そう言うと、ゼルガディスは布で青年の顔を拭ってやった。 しかし、突然ゼルガディスの手が止まった。 (・・・そんな、馬鹿な・・・) だが、見紛う筈が無い。 血と泥が混じり合った汚れの中から現れたのは・・・ 「アントワーヌ!」 To be continued・・・ |
2951 | 交差する時間軸 | 小野道風 | 4/29-05:27 |
記事番号2938へのコメント UMIさま こんにちは。続き、読ませていただけてとてもうれしくて・・・寂しいです。二人が出会ってしまいました。こうなるのは覚悟していたけれど、つらいです。 アントワーヌへ向かう旅、それはアメリアに還る旅だということは、このお話の最初からずっと流れ続けてきた基本のメロディーの一つだったと思うのですけれど、この回は特にそれを感じた気がします。 > 歩きながらゼルガディスはあることに気がついた。 > 自分が「戦争」というものの中で戦ったことがないということに。 > そういえば、アメリアが昔こんなことを言っていた。 > 『戦争は嫌いです・・・』 > その時は何を当たり前のことをと思う反面、殺し合いをしなくてもやってこれた幸せな人間の台詞だと思ったものだ。 > けれど今なら彼女が何故そのようなことを言ったのか解る。 > おそらくアメリアは見たのだ。今自分が見ているこの光景を。 アメリアには世間知らずなお姫様然としたところもあるけれど、それだけじゃない強さがあって、UMIさまのこのお話でそれがよくわかる気がしました。 > 全てを食らい尽くしてもなおも飽きることを知らない貪欲な彼女。 > 誰の中にも彼女は住みついて放たれる時を待っている・・・ > そう、間違いなく自分の中にも・・・ ゼルガディスが感じたこの雰囲気を、アメリアはきっともっと大きな重みの中で感じていたにちがいなく、にもかかわらず彼女は逃げることなくそれを受け入れることが出来たのだと思いました。戦争は嫌いだと言い切れる強さをもって。 > 『お前は幸せそうだな』 > 『ええ、幸せですよ』 > アメリアはいつもと同じように笑ってこう言っただけだった。 そのアメリアの道標の中に、今はきっとゼルガディスの姿もあると思うのです。ゼルガディスが気付いてあげられれば・・・ しかし今の彼に映ったものは、 > だが、見紛う筈が無い。 > 血と泥が混じり合った汚れの中から現れたのは・・・ > 「アントワーヌ!」 アメリアへの旅の裏側、彼が辿らなければならなかったもう一つの旅路。目に痛いくらいの、アントワーヌと剣を交えたあの春の日々と変わらない空の下で。なんて静謐そのものの現実なんでしょうか。そして旅の目的地にたどり着いてしまったことで、ゼルガディスはどうなるのでしょう・・・。 続き、心からお待ちしていますね。 では、また。 しっかりお約束しておきながら、私の方の「そして海の・・・」がまるまる一週間以上も遅れてしまいました。数日うちに今度こそ投稿させていただけると思います。良かったらまたぜひ遊びに来てやってください。本当にすみません・・・(涙)。 |
2962 | 遅くなって申し訳ありません | UMI | 5/6-14:16 |
記事番号2951へのコメント 小野さんこんにちは、感想をありがとうございます。 お返事が遅れに遅れてしまい申し訳無いです。 この章はめぐる季節の中では異色の章となったと思います。私自身戦争を知らない人間なので、思いきった書き方をしたほうがリアリティがでるかなと考えて「戦いの女神」というので表現してみたのですが、いかがでしたでしょうか。 >アントワーヌへ向かう旅、それはアメリアに還る旅だということは、このお話の最初からずっと流れ続けてきた基本のメロディーの一つだったと思うのですけれど、この回は特にそれを感じた気がします。 ラストまであと少しですが最終章ではちゃんとアメリアの元に還るはずです。今回は伏線かな。 >アメリアには世間知らずなお姫様然としたところもあるけれど、それだけじゃない強さがあって、UMIさまのこのお話でそれがよくわかる気がしました。 >ゼルガディスが感じたこの雰囲気を、アメリアはきっともっと大きな重みの中で感じていたにちがいなく、にもかかわらず彼女は逃げることなくそれを受け入れることが出来たのだと思いました。戦争は嫌いだと言い切れる強さをもって。 私はアメリアに対してはすごく思い入れがあるんです。自分でアメリアの年表を作ってしまったくらいです(笑)アメリアの誕生からリナ達に出会うまでのものなのですが、それでお話が一つ書けてしまいます。でも、あまりにも長くなりすぎるのでとても書けません・・・私がゼルアメを書く時にアメリアサイドよりもゼルガディスサイドの方が書きやすいのはアメリアに入れ込み過ぎているためなのだと思います。 >アメリアへの旅の裏側、彼が辿らなければならなかったもう一つの旅路。目に痛いくらいの、アントワーヌと剣を交えたあの春の日々と変わらない空の下で。なんて静謐そのものの現実なんでしょうか。そして旅の目的地にたどり着いてしまったことで、ゼルガディスはどうなるのでしょう・・・。 「今」を生きるためには「過去」を避けては通れませんね。人生において突然過去を突きつけられる時があります。けれどそれは嬉しいことは少なくつらく苦しいことの方が圧倒的に多いのかなと、小野さんの感想を読んで思いました。 予定よりも長引いてしまっていますが、頑張って完結させますのでよろしかったらまた遊びに来て下さい。コメント本当にありがとうございます。 これから、「そして海の四人組 下」に行きたいと思います。うふふ楽しみです。 それでは、また。 |