◆−めぐる季節]T章:夢の眠る土地−UMI(5/13-14:06)No.2987 ┗旅の終わり− 小野道風(5/15-14:22)No.2996 ┗お返事がおそくなってすみません−UMI(5/23-11:22)No.3037
2987 | めぐる季節]T章:夢の眠る土地 | UMI | 5/13-14:06 |
「アントワーヌ!しっかりしろ!」 ゼルガディスは苦痛に顔を歪めるアントワーヌの肩を強く抱きながら彼の名を叫んだ。 この時彼は今の自分の姿をアントワーヌに知られてしまう危険を忘れていた。いや、そんなことはもうどうだってよかった。 「・・・その声は・・・ゼルガディスか・・・?」 アントワーヌはゼルガディスの呼びかけに力なく答えた。 ゼルガディスはぬるりとした嫌な感触を手に感じた。 (・・・これは!?) アントワーヌの腹部は血で真っ赤に染まっていた。出血があまりにもひどい。 「しゃべるな。今、傷の手当てをする」 だがゼルガディスはアントワーヌのぼろぼろになった服を剥ぎ取ると言葉を失った。 (・・・こいつは・・・!) 深々と腹部は切り裂かれており、そこから内臓が見て取れるほどだった。 (アメリアがいてくれたら!) もしここに復活(リザレクション)が使えるアメリアがいたらば、アントワーヌを救うことができるかもしれない。 だが、今ここには自分しかいない。これが現実だった。 「・・・どこにいるんだ?」 かすれた声でアントワーヌが言った。 「ここにいるじゃないか、どうしたんだ?」 アントワーヌの奇妙な質問にゼルガディスはとまどった。 「目がよく見えないんだ・・・」 極度の出血のためか熱と煙で目がつぶれているのだろう。 「心配するな、一時的なものだ。すぐ元に戻る」 気休めにしかならないと解っていてもこう言うしかなかった。確かに「目」はたいしたことは無いだろう。しかし、この深手では・・・ 「ゼルガディスなんだな?」 アントワーヌがもう一度問いた。 「ああ、そうだ・・・」 ゼルガディスは静かにそれに答えた。 「何故ここに・・・?」 「お前を探しに来たんだ」 「お前がか・・・くはっ、ごほ」 アントワーヌは咳き込み多量の血を吐き出した。 「しゃべるな!アントワーヌ!」 しゃべるのを止めさせたとしても、それはわずかに命をつなぐ程度でしかないことは解っていた。だが、ゼルガディスはこれ以上アントワーヌの苦しむ姿を見たくなかった。 「いいんだ・・・俺でも解るさ・・・」 「アントワーヌ・・・」 再びアントワーヌは咳き込むとまた話し始めた。 「どうしても聞きたいことがあるんだ・・・がはっ」 「アントワーヌ!頼むからもう話さないでくれ!」 (一体何が言いたいんだ!?) たまらずゼルガディスは叫んだが、アントワーヌは話すのを止めようとしなかった。 「・・・なあ・・・ゼルガディス・・・」 「なんだ?」 「・・・お前に今、夢はあるか・・・?」 ゼルガディスはわずかに目を見開くと一呼吸置き、ゆっくりと、だがはっきりこう言った。 「ある」 (そうだ。今は確かに俺には・・・) 脳裏にアメリアの笑みが浮かび上がった。 「よかった・・・それだけが気がかりだったんだ・・・」 そう言うとアントワーヌは嬉しそうに笑った。 (アントワーヌ・・・お前って奴は・・・) ゼルガディスはアントワーヌを抱いた腕に力を込めた。 「・・・よかったら聞かせてくれないか・・・お前の夢を・・・」 ゼルガディスは微かに微笑んでこう言った。 「お前と同じ夢さ」 「お前がか・・・?」 アントワーヌは絞り出すように返した。 「お前の馬鹿が俺に移っちまったらしい」 「・・・言ってくれるぜ・・・」 ともすれば、かすれそうになる声を抑えながらゼルガディスは話した。 「・・・アントワーヌ・・・お前のせいだぜ」 「・・・そう言われてもな・・・」 アントワーヌの身体から力が消えていくのが感じられた。 「・・・どうしてくれるんだ・・・」 「・・・頑張れよ・・・ゼルガディス・・・」 アントワーヌは幸せそうに微笑むとそれきり動かなくなった。 「アントワーヌ!?おい!アントワーヌ!」 だが何度呼びかけても答えは無かった。力なく、アントワーヌの腕がだらりと垂れた。 「・・・アントワーヌ・・・」 ほんの少し前までアントワーヌであったものは肉の塊と化していた。 もはやアントワーヌからは夢も希望も感じられなかった。 空っぽの抜け殻でしかなかった。 しかしゼルガディスはあきらめきれぬかの様にその塊を抱きしめ離さなかった。 そう、その肉塊が己の身体と同じくらい冷たくなるまで・・・ さらさらと乾いた音が辺りに広がる。ゼルガディスの手から砂がこぼれ落ちていった。 砂はゆっくりとアントワーヌの姿を埋めていった。 一体いつアントワーヌの亡骸のための穴を掘ったのか自分でも解らなかった。 ただただ静かに、砂がこぼれ落ちる音だけがゼルガディスの耳に聞こえていた。 (・・・お前は最後の最後のまで大馬鹿者だ・・・) 『よかった・・・それだけが気がかりだったんだ・・・』 『・・・頑張れよ・・・ゼルガディス・・・』 砂の音に混じってアントワーヌの先ほどの言葉が頭の中に再びよみがえった。 (最後まで人のことを・・・俺の心配なんか!) ゼルガディスは思わず手の中の砂ごと強く握り締めた。 いつのまにかアントワーヌは彼の視界から消えていた。 いつまでもこうしていても仕方が無い。そう思うのだがゼルガディスの足は動かなかった。 未練を断ち切るかの様に首を振ると彼は立ち去ろうとした。その時あることを思い出し、ゼルガディスは懐からアメリアがくれた押し花を取り出した。 (お前には必要ないものかもしれんがな・・・) そう、前を見据え自分の進む道を歩んでいたアントワーヌには・・・ ゼルガディスはしゃがみこむと押し花を埋めた。 せめて彼が無事に光あるところへ行けるように・・・ この花が迷わないように道を指し示してくれるように・・・ その祈りは無意味なことだとは知ってはいたが、彼は祈らずにはいられなかった。 ゼルガディスは立ち上がると同時に血のこびりついた剣を振り上げた。アントワーヌの剣だ。それを力一杯突き立てた。 (あばよ・・・アントワーヌ) ゼルガディスは心の中でアントワーヌに別れを告げるとマントをひるがえした。 振り返ることは無かった。 墓標代わりに立てたアントワーヌの剣は、今まさに沈もうとする最後の陽の光を浴びて鈍く輝いていた。 ゼルガディスはその光を背に受けながら希望にあふれた青年とその夢が眠る土地を後にした。 Go to last episode・・・ |
2996 | 旅の終わり | 小野道風 | 5/15-14:22 |
記事番号2987へのコメント UMIさま こんにちは。さっそく遊びに来てしまいました。そこに確かに一つの別れが待っていると感じつつ・・・ そして、やはり待っていたのは、静かで、暖かくて、でも絶対的としかいいようのない訣別でした。アントワーヌが噂に違わず昔のままなのが、そして彼の目が閉ざされているがゆえにゼルガディスもまた昔のままの彼でいられたことが、なんだか切なくて。 > ゼルガディスは微かに微笑んでこう言った。 > 「お前と同じ夢さ」 > 「お前がか・・・?」 > アントワーヌは絞り出すように返した。 > 「お前の馬鹿が俺に移っちまったらしい」 > 「・・・言ってくれるぜ・・・」 > ともすれば、かすれそうになる声を抑えながらゼルガディスは話した。 > 「・・・アントワーヌ・・・お前のせいだぜ」 相変わらず、考えも感情も表現の仕方が素直でないゼルガディス。でもそこにはほんとに言葉に出来ぬほどの彼の気持ちが表われている気がします。心からの感謝と、心からの悲しみ・・・ アントワーヌは夢の半ばで倒れた、とも言えるけれど、また彼に心残りがまったくないとも思えないけれど、それでも私はアントワーヌは自分の一生に満足して息を引き取ったのではないかと思います。だってあんなに一生懸命に生きて、夢に向かって進んでいたのだから。それに、自分の心が暖かくなければ、自分に夢がなければ、他人に優しくなんて出来はしないんじゃないかと思うんです・・・今のゼルガディスのように。 アントワーヌがゼルガディスに灯した小さな火は、ゼルガディスの心の中で今も燃え続けているんだな、なんて・・・今は彼自身の強さと、一人の少女の暖かさに包まれて・・・。 > ゼルガディスはしゃがみこむと押し花を埋めた。 > せめて彼が無事に光あるところへ行けるように・・・ > この花が迷わないように道を指し示してくれるように・・・ まるで手紙のようですね。今度はゼルガディスの未来から過去へ、ゼルガディスを見守り続けている、でもお互い顔どころか存在も知らないアメリアからアントワーヌへ。思いやる気持ちを込めて・・・ > 墓標代わりに立てたアントワーヌの剣は、今まさに沈もうとする最後の陽の光を浴びて鈍く輝いていた。 墓碑銘なんかなくていい。祈りも言葉になんてしなくていい。ここは戦場で、どんなに「大馬鹿者」でも「お気楽野郎」でも、アントワーヌは戦士として剣に生き、剣に死んだのだから・・・そしてそれこそ、彼の望んだ生き方だったから。それこそが「現実」で「今」で、何より大切なことだと知っているから、ゼルガディスも振り返らなかったのではないでしょうか。 今度は彼の今へ、夢へ向かって。 ・・・たらたら書いてしまってすいません。最終話、楽しみです。楽しみにお待ちしていますね。 では、また。 |
3037 | お返事がおそくなってすみません | UMI | 5/23-11:22 |
記事番号2996へのコメント こんにちは、小野さん。お返事が遅れに遅れまくって申し訳がないです。 > アントワーヌは夢の半ばで倒れた、とも言えるけれど、また彼に心残りがまったくないとも思えないけれど、それでも私はアントワーヌは自分の一生に満足して息を引き取ったのではないかと思います。だってあんなに一生懸命に生きて、夢に向かって進んでいたのだから。それに、自分の心が暖かくなければ、自分に夢がなければ、他人に優しくなんて出来はしないんじゃないかと思うんです・・・今のゼルガディスのように。 そのとおりだと思います。傍から見ればアントワーヌの人生は哀れなものだったのかもしれませんが、ある意味、彼はとても幸せな人間だったといえると思います。自分の夢に迷うことなくその青春を燃やしたのですから。 > 墓碑銘なんかなくていい。祈りも言葉になんてしなくていい。ここは戦場で、どんなに「大馬鹿者」でも「お気楽野郎」でも、アントワーヌは戦士として剣に生き、剣に死んだのだから・・・そしてそれこそ、彼の望んだ生き方だったから。それこそが「現実」で「今」で、何より大切なことだと知っているから、ゼルガディスも振り返らなかったのではないでしょうか。 墓よりも祈りよりもただ一人の友が心にその名を刻んでいればいい・・・なんてことを考えながらこのシーンを書いたものです。 いつも感想をありがとうございます。最終話は来週には持ってこれると思います。最近忙しくて忙しくてふらふらしています。(ああ、言い訳) と、とにかく、次回最終話です!その後しっかり番外編がついちゃいますけど・・・(笑) どうぞ、最後まで見ていってくださいね。ようやくアメリアが出てきますし(笑) では、今日はこれで。ありがとうございました。 |