◆−硝子と鉄と赤と・・・・−amy(5/27-19:50)No.3063
3063 | 硝子と鉄と赤と・・・・ | amy E-mail | 5/27-19:50 |
お久しぶりです。amyです。 今年、受験生なので更新(?)がずっと滞ってました。 すみません。 また、『白紙の存在意義』はちょっとお休みします。 楽しみにしてくれていた方(いないと思いますが)、 本当に申し訳ありません。 また、この小説は『硝子の都』の、ゼルの子供の頃のものです。 『著者別〜』や『過去〜』の方を先に読んで下さい。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「ゼル、今日も?」 「・・・・ん」 姉の質問に、ゼルは素っ気無く答えた。 手には一振りの剣が携えられている。 「ケガしないようにね」 「・・・ん・・・」 いつも通りに答えて、ゼルは家を出た。 今日は村での剣の公式試合の日だった。 年令制限も性別制限もない試合である。 例えあったとしても、ゼルはどの試合にも出場することは出来た。 この村で一番の剣の使い手はまだ幼い彼だったのだから。 かあんっっ! 鉄と鉄のぶつかった高い音。 それと同時に、空高く一本の剣が舞う。 それは弧を描きながら地面に落ち、ニ、三度跳ねてから止まる。 その剣の持ち主は利き腕を抑え、蹲っていた。 顔には一見して分かる程の屈辱。 「勝負あったな」 冷ややかな視線とともに、ゼルは小さく呟いた。 その言葉に反応し、蹲っていた男は顔をあげる。 やや強面の、屈強な男性である。 年は30そこそこといった所か。 その男の顔からは、ひたすら『屈辱』が表現されている。 ゼルはふっと笑う。 男の気持ちが少し分かったからだ。 こんな自分の半分も生きていないような年端もゆかぬ子供に負けたのだ。 そのうえ相手は息一つ乱していない。 冷静な物言いや、華奢な身体が余計に相手の誇りを傷つけていた。 「次」 たった一言、ゼルは呟いた。 それに審判が反応し、 「勝者、ゼルガディス=グレイワーズ!」 と、片手をあげて宣告した。 結局、結果はいつもの通り。 優勝者はゼルガディス。 回りの大人達が、みえみえの賛辞をそれぞれ述べた。 「流石だ」 「やはりこの村で一番・・・・・」 「剣は右に出る者が・・・・・」 「末恐ろしいこと・・・・・」 これまたいつも通りの言葉ばかり。 その中でも、さらにポピュラーなセリフ。 「流石レゾ様の直系だ」 必ずどこからか出てくるその賛辞。 その名前は聞いたことはあるけれど、知らない。 会ったこともないのだ。 第一、父母も祖父母もそんな名前じゃなかった。 なお続く美辞麗句。 それにゼルは反応を示さずに、帰路についた。 いつも通りの美辞麗句 裏に妬みを隠して 心にもないことを・・・・ 「また優勝?凄いじゃない。おめでとう」 「・・・ん・・・」 姉の賛辞に、ゼルはほんの少しだけ嬉しそうな顔をする。 彼は、母と姉には素直だった。 「じゃあ、御馳走作らなきゃね」 いつも通りのセリフ。 それにゼルもいつも通り言った。 「いや、別にいい」 「そんなこと言わないの。 誉めて貰えるのは今だけよ?」 年月が経ったら誰もが『当たり前』と思って相手にしてくれないから、 と、姉は言う。 腰にまで届く銀髪が、風に舞って光っていた。 同じ銀髪のゼルの頭を撫で、姉は優しく微笑む。 ゼルは照れたように頬を染めて俯いた。 「ねえ兄さん、ローズ、ゼルがまた優勝したのよ」 穏やかな声で、姉は家族に告げる。 それに反応して、『へえ凄いじゃないか、やったなゼル』とか、『お兄ちゃ んすごーい』とか、いつも通りの言葉を発する。 「さあ、母さんにも教えてあげなきゃ、喜ぶから」 姉の言葉に、ゼルは俯いたまま頷いた。 誰にどう誉められても 満足なんか出来っこない だってどれも嘘っぱち ただの機嫌取りの為の 真っ赤な嘘 「なあ、ゼル」 夜、食事も終わって一段落付いた頃、兄は呟いた。 「お前さあ、どうして魔法はやらない?」 「別に」 小さくつぶやいたゼルが可笑しくて、兄はひっそりと笑う。 「別に、いいけどさ」 言ってゴロリと床に寝そべる。 それにゼルもならった。 「あんまし気を張るなよ、ただでさえ生真面目なんだから、お前は」 呟くそれには答えずに、ゼルは目を閉じた。 すると、兄はゼルの髪を撫ぜながら起き上がる。 そして囁いた。 「たまには、甘えろよ」 その顔はやっぱりまだまだ幼くて まだ子供なのだと伝えてくる 柔らかい白い肌や長い睫 華奢な身体が訴えてくる それでもその孤高の魂はつれなくて 心をなかなか許さない 「もう一度だ」 言って剣を差し出してくる。 それは昨日の、あの男だった。 強面の顔。屈強な身体。 屈辱がありありと浮かんでいた表情。 「もう一度・・・・?」 男の言う意味が分からず、ゼルは眉を顰めた。 「もう一度、勝負しろ」 有無を言わさぬその口調に、ゼルは深い溜め息を一つ吐く。 そしてその剣を受け取った。 「これで最後だぞ」 それに男は頷いた。 互いに剣を構え、間合いに入る。 ザッという音とともに、ゼルの左袖が裂け、赤が跳んだ。 「!」 顔色を少し変えて、ゼルは剣を構えなおす。 「・・・・成る程、今度は本気、というわけか」 言って左腕をぺロリと嘗める。 血は止まりそうにない。 「ならば、こちらも手加減はしない」 「っ!」 昨日よりも濃い屈辱に顔を染め、男はこちらに一歩踏み出した。 高揚する 気分 血の色 匂い 痛み 熱 まるでかつてのそれで ぞくりとする その感覚 「ゼル!どうしたのっ!?」 家に付くなり、母の悲鳴が家中に響いた。 ばたばたと足音をたてながら、他の家族もやってくる。 来ないのは父だけ。 「ケガしてるじゃないっ!」 「きゅっ、救急箱持ってくるっ!」 「うわあっ!ちょっと待てローズッ!」 どたばたと慌てふためく一同。 ゼルは呆れた顔で見つめる。 「これくらい、放っておけば治る」 「傷が残るでしょう!」 言って姉は兄と妹の持ってきた救急箱から消毒液を取り出した。 母はただただ不安げにこちらを見ている。 姉よりも子供っぽさのある母はこういう時に役立たない。 「ほら、じっとして、ああ力入れないで! 止血出来ないでしょうっ!?」 焦った声。 なんとはなしにゼルは含み笑いをしてしまう。 それに兄はじろりっと睨んできた。 その目には『人が心配してるのにっ!』と如実に語っている。 やっと包帯を巻き終わり、グレイワーズ家の騒ぎは修まった。 「貴方が死ぬようなことがあったら、 私達は一体どうすればいいって言うの?」 騒動の後、姉は呟くように言った。 「まさか」 そんなことあるはずがないだろうと、ゼルは笑う。 だが姉の視線は真剣そのものだ。 「ケガもしないで」 「じゃあ・・・その時は」 姉の発言を完璧に無視して、ゼルは言う。 「姉さんの、その護身用の短剣で」 くすりっとゼルは笑う。 「敵より先に、俺を殺せよ」 この右胸に剣を立てて、貫いて。 そんなことがあるはずはないと。 ありえるはずがないのだと、ゼルの瞳は語っている。 そこにあるのは満ちあふれた自信。 あるはずがないと、どこかでの過信。 そう 思ったこともなかった 自分が『何か』に負けるなど そして 自分のせいで誰かが死ぬなんてことも 考えたこともなかったんだ・・・・ あんな赤を見ることになるなんて・・・・ To Be Continued |