◆−獣と魔女の狂想曲 1 オリジナル−玉兎(6/11-15:37)No.3164
 ┣初めまして!−扇(6/11-15:45)No.3166
 ┃┗Re:初めまして!−玉兎(6/12-12:17)No.3174
 ┣はじめまして−一坪(6/12-06:34)No.3172
 ┃┗Re:はじめまして−玉兎(6/12-12:32)No.3175
 ┣獣と魔女の狂想曲 2 オリジナル−玉兎(6/12-14:58)No.3181
 ┗獣と魔女の狂想曲 3 オリジナル−玉兎(6/17-07:45)No.3218


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3164獣と魔女の狂想曲 1 オリジナル玉兎 E-mail 6/11-15:37

こんにちは、はじめまして。玉兎、と申します。いつもこちらのページを楽しく拝見させていただいてます。今回一大決心で…読むばかりではなく書いてみようと…オリジナル初挑戦です。勢いだけで書いているので、どういう方向に行くのか見当も付かないし、未熟なところもたくさんあるのですが、少しでも楽しんでいただけたならすごく嬉しいです。皆様の感想を心よりお待ちしています。

金貸しセラ君

「なぁ、セラフィメール。これの本当の価値ってヤツが分かるのはお前だけ、
 と見込んでのお願いなんだ。頼む!これを担保に金をかしてくれ!!」
 切羽詰まった表情で仕立ての良い上質な絹の衣装を纏った大柄な男(彼は地方の有力貴族イグリス侯爵である)は相対するセラフィメールという名の青年(彼の生業は金貸しである)の手に、小粒の青い宝石を握らせる。
 眼鏡の奥の冷たい漆黒の瞳はニコリともせずに目の前にその宝石をかざし、その価値を値踏みするかのように、傷が付いていないか丹念に調べる。
「傷モノを掴まされてはたまりませんから」
 近頃の不景気で結構この手の宝石や貴金属類、珍品等が彼の手元に渡ってくる。
 しかも、稀にとんでもないいわくありげなあやしいモノまで持ち込まれ、カンが鋭いこの青年は、奇妙な経験をしたりする。
 今回持ち込まれたこの宝石も…
「“女神の涙”と、いうそうさ。形は確かに小粒だが…最上級な青玉さ」
 イグリス侯爵の説明。
「“女神の涙”…ですか?」
 極上の青い輝きを放つ宝石。
 確かに人の心を引きつける“魔力”を持った上質の宝石だ。
『悪い感じは…しないんですけどね』
 何かが憑いていそうな気配は若干する、が…
 懐かしい誰かの面影、その宝石の放つ青い光はそれと同様の、いやそれ以上に眩い輝きを放っていた誰かを思い起こさせそうで…
 聞こえるはずのない声が聞こえる。
 彼の名を、呼ぶ。愛おしげに―
 セラフィメール、セラ―
 …エ、テ、ア、ゲ、ル。
 叶えてあげる。
 どんな望みでも
 それが貴方の望みなら―
 心に深く浸みる、清水のように清かで透明な甘い声。
 セラ―
 真白い霧の向こう側から彼を呼び、ゆらぎうつろう女の幻。
 女?
 彼女はさて、誰だったろうか?
 暫し白昼夢に惑う、表面上は変わらずに青い石を凝視している彼に
「セラフィメール?」
 太い男の声が彼を現実に呼び覚ます。
「あぁ、すみません。良いでしょう、この宝石をしばらく僕が預からせていただき ます。お貸しできる金額は…そうですね、このくらいが妥当でしょうか」
 ハッと気付いて、ぱちぱち算盤をはじいてみせる。
「いやいや、せめてこのくらい…」
 それを覗き込むイグリス侯爵は、さらに一桁上の金額を提示するが
「ご冗談を。僕と貴方とのお付き合いですから、この金額を提示するのであって。
 他のお店も回られたのでしょう、貴方のことだから。
 ですが、これ以上の金額を出す所はないはずですよ?」
 やんわりと、それでも最初に示した金額よりは少し色を付けて提示した。
「…わかった、それでいい」
 多少、納得していない上目遣いで、イグリス侯爵はセラフィメールを見やる。
 侯爵の頭も算盤をはじいていたのだが…この金額で折り合うのが得策かもしれぬと出した結論。
「期日までにお金を返していただけたなら、キチンとこの宝石はお返ししますから ね」
 ここで、はじめてセラフィメールはニッコリとする。
 老若男女問わず、見るもの全てを魅了する―勿論彼にしてみれば“営業用”の微笑だったりするが。
 彼は少しうるさくなってきた長い漆黒の前髪を軽くかき上げ、耳にかける。
 あらわになった耳を飾る極小さな深紅の紅玉のピアス。
 血のように紅い…何か凶々しい狂気を孕んだ妖しい美しさを放つ紅玉とその所有者を瞳を細めて見やるイグリス侯爵。
 肌にまとわりつくようなねっとりとした視線に、少々辟易しつつもそんな素振りはおくびにも出さずにセラフィメールはお金を金庫から用意すると、金額をキチンと確認させつつ手渡す。
 イグリス侯爵はそれを受け取ると、足早に彼の店をあとにした。
「またのご利用をお待ちしていますよ」
 遠くなる背に投げ掛ける言葉。
 彼は確かにその青い石に魅せられてはいた、が、長く自分の手元に置くべきモノではない、ということも分かっていた。
 恐らく、この宝石の主はイグリス侯爵でも、ましてや僕でもない。
 そんな風にこの石自体が決めているようだから…
 これは帰るべき所へ、主のもとへ戻るだろう。
 それはやはり、イグリス侯爵の手から返されるべきではないだろうか?
 まぁ、彼はそれほど悪い人間ではないから借りたお金も返すだろうけれど。
 期日を…守ってくれるかどうかは謎ではあるが。
 返済期限を過ぎて、契約上彼の所有物でなくなったとしても他の単純なもののようにすぐには売りに出さない方が良いだろう。
 出した途端に買い手がすぐにつきそうだけれど…
 コレの主に会ってみたいかもしれない。
 彼には何となく予感があった。
 この青い宝石の本当の主に会えそうな予感。
 そして会ってみたいと思ったのだ。
「しばらく、我が家で眠っていて下さいよ。おとなしく、ね?」
 セラフィメールは青玉に語りかける。
 青玉は青く燦々と輝きだす。
『ま、良いけどね。お腹いっぱい食べさせて、退屈でさえ…なければ』
 あの娘が迎えに来るまでね。
 石は、青く燦々と輝き続ける。
 おとなしく、とは限らないけど?
 何やら不吉な呟きをセラフィメールは聴いた気がした。
 その後に続く笑い声さえも…
 彼は少し考え込み、イグリス侯爵からの預かりものを少し古びた小箱に入れて金庫の奥にしまい込んだ。
 しっかりと鍵をかける。
 扉に“封印”の魔法円を描いて。
「これで、大丈夫ですよね?」
 念には念を―これまで、ずっと用心深く暮らしてきた。
 他人との付き合いもそうだが、未知のものとの付き合いも用心深くするに越したことはないのだ。
 そして人は―己の力で御し得ることの出来ぬものに関わるべきではない。
 それは、身の破滅を招くから。
 彼はよくそれを知っていた。



 続き、になります。タイトル自体仮、だし(笑)。きっちり話が終わる前にこれにピッタリな…タイトルが付けれたらいいな。

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3166初めまして!6/11-15:45
記事番号3164へのコメント


 はじめまして!
 扇ともうします☆
 小説1を主にしている変なヒトその1です(おいおい)

 楽しませていただきました〜☆
 オリジナル、わたしも書きたいですよぉ。
 まぁ、過去に書いた小説は、ほとんどオリジナル色が強いんですけど・・・(著者別リスト参照)
 ホント、初めてにしては上手ですね!!

 タイトル、なんだったら重要そうな『女神の涙』の名を入れてみたらどうですか?
 格好良くなると思いますけど・・・。
 続き、楽しみにしています!

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3174Re:初めまして!玉兎 E-mail 6/12-12:17
記事番号3166へのコメント


> はじめまして!
> 扇ともうします☆
> 小説1を主にしている変なヒトその1です(おいおい)

初めまして。早速の嬉しくなってしまう感想をどうも有り難うございます。
スレイヤーズのパロディーではなくオリジナルで感想をいただけるなんて…
本人、正直感想をいただけるかどうかドキドキ、だったので、ただ今とってもハイテンションです(笑)。
しかも扇様―たくさんのスレイヤーズパロディーを書かれているここのページの常連様!
大感激な玉兎です。

> 楽しませていただきました〜☆
> オリジナル、わたしも書きたいですよぉ。
> まぁ、過去に書いた小説は、ほとんどオリジナル色が強いんですけど・・・(著者別リスト参照)
> ホント、初めてにしては上手ですね!!

どうも有り難うございます。
「楽しませていただきました」の一言が何よりも嬉しいです。
はじめての作品でこんなに嬉しい手応えがあって…何だか照れ照れです。

> タイトル、なんだったら重要そうな『女神の涙』の名を入れてみたらどうですか?
> 格好良くなると思いますけど・・・。
> 続き、楽しみにしています!

タイトルまで参考意見をいただき、有り難うございます。
『女神の涙』…実はそれも考えたのですが、今回投稿して今現在書いてある続きを眺めつつ…私なりに考えますに『獣と魔女の狂想曲』にしようと、決めました。
というわけで、頑張って続きを書きます。
遅筆だったりするのですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

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3172はじめまして一坪 E-mail 6/12-06:34
記事番号3164へのコメント

投稿ありがとうございます!!

オリジナルですねー。
主人公の金貸しセラ君(笑)、いい個性持ってますね。
ガンバって続き書いて下さい。楽しみにしてます。


あ、タイトル決まったら『修正・削除 連絡伝言板』で教えてくださいね。
過去の記事に沈む前なら修正できるので。

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3175Re:はじめまして玉兎 E-mail 6/12-12:32
記事番号3172へのコメント

>投稿ありがとうございます!!
>
>オリジナルですねー。
>主人公の金貸しセラ君(笑)、いい個性持ってますね。
>ガンバって続き書いて下さい。楽しみにしてます。
>
>
>あ、タイトル決まったら『修正・削除 連絡伝言板』で教えてくださいね。
>過去の記事に沈む前なら修正できるので。

こんにちは、初めまして。玉兎です。
管理人様直々のコメントをいただき大変光栄です。
セラ君、いい個性持っていますか?
これからも彼が活躍(?)できるように、また彼に負けないような魅力的なキャラを登場させられるように、何より皆様に楽しんでいただけるような続きが書けるように頑張ります。
これからもどうぞよろしくお願いします。

タイトル、決まりましたので『修正・削除 連絡伝言板』の方に連絡いたします。
併せてよろしくお願いいたします。

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3181獣と魔女の狂想曲 2 オリジナル玉兎 E-mail 6/12-14:58
記事番号3164へのコメント

続き、になります。
昨日から今朝にかけて、必死で書きまくって…頭ハイテンション、なんですけど勢いでここまで、です。まだ、終わりは遠そうだし、やっぱりどこに行くのかちょっと不安(笑)。
とにかく、頑張るぞ、で…皆様に楽しんでいただけるものを…と思っております。「金貸しセラ君」改め「獣と魔女の狂想曲」続きをお届けします。
批判感想どうぞよろしくお願いします。


獣と魔女の狂想曲 2

ここは、王の匂いがする。
彼の姿はないけれど。
あぁ、そうだ、彼はその腕に女神を抱いて眠っているはずだ。
もうずぅっと昔に…
誰からも忘れ去られてしまった。
彼らが眠るのは
誰もがたどり着くのに困難な
遠い遠い北の山―
透き通った氷の棺に―

“封印”するなんて、ルール違反よ!
狭いところに閉じ込めて…誰の目にも触れさせないなんて。
あたしを見つめて
あたしの虜となって
そんな人間達の精気が、あたしの大好きなご馳走なのに!
近頃はあの娘が悲しむから、命を取らない程度だけつまんでいたのよ。
それでも十分に生きてこれたけど。
とにかく、おとなしくしていたんだから!
それなのにあの男ときたら!
あたしを人目にさらさずに、あんな所に閉じ込めて
おまけに、あの後一度もあたしを見ようともしなかったわ!!
もう、お腹は空くし、退屈だったらありゃしない!!
「あんな“封印”なんて。あたしにはなんてことないのよ」
そりゃ少しは、手間取ったけど…
ブツブツと文句を言いながら、夜の闇にとけ込んで金庫から抜け出し辺りを徘徊していたりする青玉の化身―アーシェレナである。
そして音も立てずにある一室に忍び込む。
ここにいるのは、本当は危険なのかもしれない。
彼女はぼんやりそう思う。
人畜無害そうな顔しているけれど、この男は間違いなく“悪魔憑き”であろう。
どんな悪魔と契約しているのかは知らないが。
大体あんなに物騒な石を身につけて、穏やかな日々を送れるような人間は普通の人間じゃぁ無理、というもの。
あたしみたいな獣を従える、なんてね。
あの娘みたいな“聖女”でもなければ、きよらかな“聖人”でもないでしょう?
“金貸し”なんかを生業とするヤツだものね。
目の前でスヤスヤと安らかな寝息をたてて眠る青年を見下ろしながら。
食べ物の恨みは恐ろしいのよ。
「それじゃぁ、サッサと殺してしまおうか?」
あたしのいるべき所はここじゃない。
あたしには、やらなければならないことがある。
そう、あの方を目覚めさせる。
そのためにあの娘の側にいて、あの娘を導いていかなくては。
その障害になるのではないか、彼は?
そんな予感が何故か頭を過ぎる。
危険のもとは早々に片付けるべきよね?
スーッと頸に手を伸ばす、あたしの力でも彼の頸を折ることは実は容易い。
手がまさに彼の頸に触れようとした瞬間に、その手に鋭い痛みが走る。
鋭い爪で抉ったような。
ほんの瞬きの時間に、あたしと彼との間に割り込んだ黒い疾風。
「ッ痛!」
伸ばした手に赤い鮮血が一筋。
音もなく忍び寄りあたしに傷をつけたものは、闇色のまだ幼い獣、暗い闇の中にあっても爛々と輝く紅い瞳。
『おやめなさいな、姉上。我が主に手をかけるのは』
冷ややかな声。じっとあたしを睨み据えて。
「あたしには、アンタみたいな妹はいなかったけど?」
きりりと痛む傷を押さえながら、幼い獣に叩きつけた言葉。
『姉上がわたしをご存知ないのは無理のないことかもしれません。わたしは、王に創られた最後の獣。王は眠ってしまわれたけれど…王は彼と契約を交わされました。彼を主とし、彼に仕えることが王の命。わたしは彼を護るもの。ですから、我が主に手をかけられることはたとえ姉上であっても許しません!』
しばらく睨み合いが続いているところへ、ウーンと大きく伸びをしてムクリと起き上がりボーっとした寝ぼけ眼で、あたし達を見つめる青年。
「…ラキシェーナ、折角の姉妹初対面で、そう殺気立ってはいけないですよ」
『ですが、セラフィメール様!姉上はセラフィメール様の命を狙いました!』
少し、興奮気味の口調。
「でも、ラキシェーナのおかげで僕は生きています。だから、もういいですよ」
と、それに対する応えはいたってのんびりとしていた。
そしてアーシェレナに視線を移す。
「獣のくせに、どうしてそんな姿をとるんですかね?」
 波打つ黄金の髪、白雪の肌に薄紅色の唇、そして何より目を引くのは極上の青玉瞳。
アーシェレナの姿は非の打ち所のない絶世の美女、だ。
そんな彼女を見つめる漆黒の瞳は何故かしら不機嫌な色。
深い闇のような瞳に見つめられて、何だか落ち着かない気持ちになる。
別に答えなんか言わなくても良いような気もするが…唇はその答えを紡ぎ出す。
「…あたしを創ったのは王だけど、あたしの主は王じゃないもの。あたしがこの姿をとるのは、それが必要な時が来るから、今から慣れておかなきゃならないのよ。ねぇ、あたしの妹を従えることの出来るあなたは、一体どういう人間なのかしら?」
こちらも負けじと、青玉瞳にありったけの魔力を込めて―
「僕は、ただの人間ですけど。少しばかりカンの鋭い、ね。…遠い昔に僕のご先祖様がある悪魔と契約しましてね。以来我が家の人間はずっとラキシェーナに護ってもらっていますよ」
彼女は全く有能な獣ですから。
闇色の獣の喉を撫でる。
「お戻り、ラキシェーナ」
彼は優しい声で獣に命じる。獣はそれに従ってスッと姿を消す。
紅玉のピアスに戻っていく。
「貴女を閉じ込めておくのは無理ということがわかりましたから…良いですよ。どうぞご自由になさって下さい」
それではおやすみなさい、と再びベットに潜り込もうとする彼の腕をグイと引っ張り
「だからあたし、退屈でお腹も空いているんだけど?」
あなた(の命)を食べても良い?
ペロリと唇をなめ、彼の顔を覗き込む。
「僕はあまり美味しくないと思うんですけれど。うーん、今日の所はこれで勘弁していただけませんか?」
「!」
スッとセラフィメールの手が伸び、おとがい捉えられ、アーシェレナはくちづけられた!
触れていたのはほんの一瞬。
「明日から、お望み通り貴女を出してあげますよ。お客様は結構いらっしゃるのでそれなりに貴女のお腹を満たしてくれるでしょう」
硬直してしまったアーシェレナから離れると、彼は何もなかったようにしれっと答え、後はくーすかと寝入ってしまった。
恐ろしく寝付きの良いヤツである。
『とんでもない奴!』
アーシェレナは耳まで赤くなる。胸の鼓動が早い。
そっと唇に触れて
「わかったわよ、今はおとなしくしてあげる。…ヴィーネ、早く迎えに来なさいよね」
『あたしが、この男に捕まる前に』
彼女は心の中で付け足し、ぱたんと扉を閉め部屋を出ていった。
とりあえず、明日までおとなしくすることに決めたのだ。



・・・まだまだ先が見えませんが、今回はここまでです。
それではまた近いうちに、チャッチャと続きを書けるように、頑張ります。


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3218獣と魔女の狂想曲 3 オリジナル玉兎 E-mail 6/17-07:45
記事番号3164へのコメント
続き、になります。

獣と魔女の狂想曲 3 オリジナル

翌日―セラフィメールは、金庫から青玉を取り出しガラスの陳列ケースに収める。
陽の光を浴びて、キラキラと輝く青い石。
セラフィメールの店にやってくる人々は皆、その前で足を止め、しばし魅入られ感嘆の溜め息をつき、彼に石の値段がいかほどか尋ねるが
「申し訳ございません、お客様。この石はさる御方からお預かり致しましたもので…」
例のごとく微笑を浮かべ、やんわりとあしらうと少し残念そうに納得し、そしてまた青玉にじっと魅入る。
そして長閑な昼下がり、セラフィメールがさてそろそろ遅い昼休みにでも入ろうか?と考えた頃
「御免下さい、こちらにセラフィメールという方はいらっしゃいますか?」
あの白昼夢の幻聴と同じ声が聞こえ、セラフィメールはハッとして声の方向を見やると質素な真白い麻の巫女装束に身を包んだ若い娘が静かにたたずんでいた。
艶やかな闇色の髪、白雪の肌に桜色の唇、彼をじっと見つめる双眸は、どこまでも透き通った青。あの獣と同じ見事な青玉瞳。
『天上の青、ですね』
冬の夜空のキンと凍った透明な青。
それが、彼女に対する第一印象、だった。
「僕がセラフィメールですけれど、貴女は?」
彼女は一瞬意外そうな顔をし
「女の方、ではなかったのですね?あの兄が足繁く通っていると聞いていたから、また…え?!貴方―」
改めてまじまじと彼を見つめていた青玉瞳、その色が深まり大きく見開かれた。
「あ、悪魔憑き!!」
きっと睨み叫んで
ばしゃん!!
彼に向かって聖水をぶちまける。
「え?!な、何です」
「闇に潜むもの、破滅に導くもの、全てに悪しきものを運ぶ呪われたもの、その正体をあらわしなさい!」
凛、と響いた声の後
しぃん・・・と、辺りは静まり返る。
…何も、起こらない。
「…おかしいわ、あの、苦しかったり、しませんか?」
おずおずとした声がかかる。
「…いえ、別に」
セラフィメールの声は氷点下。
濡れそぼった髪からぽたぽたと落ちる滴。
「水も滴る、って?ハハ、いきなりこんな御挨拶されるなんて思いもしませんでしたよ」
この人が、あれの主―
無茶苦茶、ですね。
冷たい視線で見やる。
『セラフィメール様…』
「ヴィーネっ♪」
獣達の声が響く。
ハッとしたように辺りを見回し、陳列ケースの青い石の側に駆け寄るヴィーネ。
ポォウっと姿を現す金髪の美女。
「アーシェレナ。あ、あの人って一体何者?!」
確かに悪魔憑き、のはずよ。それなのに…
少し怯えた表情で、彼女の獣に問い掛ける。
「得体の知れない“悪魔憑き”よ」
本人“ただの人間”とは、言っているけどね。
胡散くさげにセラフィメールを睨むアーシェレナ。
コソッとヴィーネに耳打ちする。
そんな二人を静かに見つめる、彼の声は変わらずに氷点下、である。
「“悪魔憑き”は僕のご先祖様、僕はその血と“獣”を受け継いだだけなただの人間ですよ。ところでお嬢さん、いきなりな無礼の詫びもなし、ですか?」
闇色の獣を従えた青年が、ゆっくりとヴィーネの側に近付いてくる。
「け、獣を従えるなんて普通の人間には無理、なんです!」
「貴女だって、そこの獣の主、なのでしょう?僕と同じじゃないですか?」
「私は“悪魔憑き”などではありません!それに、アーシェレナは聖獣です!」
「聖獣?」
つい、と瞳をアーシェレナに向けそれからまたヴィーネに向ける。
「…王から創られたものが?」
「王?」
ヴィーネは小首を傾げる。
セラフィメールの漆黒の瞳を見つめ問い掛ける。
それを受け答えるに
「…闇から生まれたもの、そこに潜むもの、破滅へ導くもの、全てのものを貪欲に望み―それを統べるもの」
まるで聖句を唱えるみたいに。
だけれど彼のさすものは
「魔王、のことですか?」
それが、答え、だ。
知らず声が、震えてしまった。
彼の瞳の中の光がスッと揺らぐ。
深い闇の中に―それを切り裂くかのように、烈しく燃える紅い炎。
黒と、紅。
均衡が崩れ、せめぎ合いどちらかに傾いた時、きっと何かが変わってしまう。
肌がざわめく感覚。
軽い既視感。以前誰かに抱いた印象。
ダメ、何ニモ気付カナイ、フリヲシテ。
頭に鳴り響く警鐘。
あぁ、でも…もう遅いのかもしれない。
私は彼に殺される!
ぎっちりと固く目を閉じる。
そんな彼女にふりかかってくる声は思いの外に優しい声だった。
「お嬢さん、これあげますからお帰りなさい」
「は?」
怖々目を開けると、ニュッと差し出されたぺろぺろキャンディー。
「・・・何です、これ?」
差し出されたキャンディーとセラフィメールとの間をいったり来たりするヴィーネの視線。
「貴女、甘いものお好きでしょ?あまりむやみやたらに、“聖水”など人にかけ浴びせない方が良いですよ。たとえその人が“悪魔憑き”であっても。見逃してくれそうなら、関わり合いにならない方が賢いです。失礼ですが、多分今の貴女の実力では、まだそれを一人で“落とす”ことなどできないでしょう?」
「な、そんなこと―」
カーッと顔が火照るヴィーネ。
そう、実は…彼の指摘通り今までに何度か“悪魔払い”の儀式に参加したことはあるのだが、彼女の実力でそれを“落とした”ことは一度もない。
彼女の仕事は“悪魔憑き”を見破る瞳。その瞳で見破って、“悪魔憑き”の正体をその場にあらわにすることまで。
それなりに危険の伴う仕事ではあるが、それでも何とか今まで無事でいられたのは、彼女の強運の故か、はたまたアーシェレナの守護のたまものか…といったところであった。
いざ、実際に憑いた悪魔を落とすことに関しては…彼女はまだ未熟で修行中の身、だったりする。
とはいえ…彼女の“悪魔憑き”を見破る目だけは確か、なので神殿内では重宝がられていたのだ。
先程の冷たい表情とはうって変わって(その原因を作ってしまったのは他ならぬ彼女自身ではあるが)今は穏やかな表情のセラフィメール。
「貴女の…そのたぐいまれな青玉瞳に免じて、僕に対する無礼は許してあげますよ」
「???」
きょとんとした瞳を彼に向ける。
「いつか貴女に叶えて欲しいことがあるから。それまでしっかり修行に励んで下さいね?」
「…でも、私、このままでは帰れませんわ!アーシェレナを返して!!」
悔しそうに俯いてからきっと顔を上げ睨み付ける瞳。
これは…頑固そうなお嬢さん。
「…一応、この宝石を担保に僕、お金をかしているんですよね。彼がいらしたのは昨日ですから、まだ返済期日は差し迫っているわけではないのですが」
「知っていますわ。私急いで兄を問い詰めてこちらに伺ったのですから。全くもう、小遣い程度のお金のやりくりに、勝手に母の形見を持ち出したりして…でも、すぐにお返しするつもりだったようで、兄からこれを預かってきました」
小遣い程度、とはね。そんな端金でもなかったんですけど。
これだから貴族の“お嬢さん”という人種は…というか、巫女さん(か?)という人種は…世間を知らないですよねぇ。
気付かれないほどの小さな溜め息ひとつ。
ほっそりとした手がセラフィメールに差し出す白い封筒。
イグリス侯爵の家紋を捺して封のしてある。
セラフィメールはそれを受け取ると、机の上にあったペーパーナイフできれいに封を切る。
薄い紙切れが一枚…
『親愛なるセラフィーメール殿
一昨日は、金参百万ギニーをお借りしたが、早速お返しする。
あの青玉と同様、いやそれ以上の、極上の(生きた)青玉を貴殿に進呈する。
これで、あの金のことはチャラな?
この青玉は、俺の十三番目の妹で名前はヴィーネという。
巫女なんざやっていて、ひじょーに清浄な環境にいたせいか世間擦れしていないきらいはあるが、俺に似て美形だし、良いカラダしてるから。
煮るなり、焼くなり好きなように食ってくれ。
じゃあ、あとはよろしく頼むぜ♪
                        イグリス・ファンディール』
「……」
セラフィメールは天を仰ぐ。
そんなセラフィメールの顔を不思議そうに見つめるヴィーネ。
「どうなさったの?それは、小切手、とかではないのですか?」
ヴィーネが脇から覗き込む、少し不作法かしら、とは思いはしたが。
…好奇心がそれに勝った。
「金参百万ギニー…極上の、(生きた)青玉??」
ツラツラと文面を目で追いつつ復唱する声が、徐々に高まり…それと共に先程にも増して顔が紅くなる。
「じゃぁ、あとはよろしく頼む、って…あのバカ兄は、一体何考えているのよ!」
感情のボルテージ、最高潮。
声のボリューム最大限、彼女の声の振動で窓ガラスにひびが入るのでは…
両耳を手できっちりと塞ぎながらセラフィメールは思う。
獣達は一歩間に合わず、マンドラゴラの断末魔の声にも似た殺戮音波の直撃を喰らってしまった。
くわらん、くわらん・・・・・
『セラフィメール様…この方、わたし達を“落とす”ことは出来ないかもしれないですが、わたし達の戦意を失わせることは十分に出来ますわ』
いまいち、焦点の定まらない瞳なラキシェーナの言葉。
「あったり前よ、ヴィーネは“聖女”なんだからね!」
キンと響いた耳をさすりながらアーシェレナは言う。
自分の主を誇らしげに。
やれやれ…溜め息ひとつ吐き出して
「…僕も命は惜しいですから。あぁ、貴女の獣も連れ帰っても良いですよ」
セラフィメールは答える。
「…兄の借りた参百万ギニーのお金のことは?」
軽く眼を見張り問い掛けるヴィーネ。
「最初から彼は踏み倒すつもり、だったのでしょうね…僕の見る目も鈍ったものです。ですが、それを貴女に肩代わりしろ、とは言いませんよ。何故ならそんなお金、貴女には作れないでしょう?巫女さんの収入だけでは…かといって、貴女の兄上の言うようにカラダで払っていただく、というのも…」
「!」
「…。」
顔にボッと火がついたようなヴィーネ、ジロリとセラフィメールを睨み付けるアーシェレナ。
「…神に祟られそうで恐い、ですね」
さほど、恐れていないような口調でセラフィメールは言った。
「“聖女”と“聖獣”か…そういう巡り合わせもあるものなんですね?返してあげますよ、貴女の獣を。そう、貴女の獣を返してあげるのは…“獣”は主の側にいるのが自然だから」
姉妹のように立ち並ぶ二人を何やら眩しそうに見つめて、ごく真面目に答える。
「本当に、返してくれるんですか?」
ポツリと小声で呟いて
「でも、借りたものをお返ししないなんて!それでは私の気持ちがおさまりません!すぐにはお返しできませんが、借りた金額はきっとお返しします!」
彼の瞳をじっと見つめる、深い深い青玉瞳。
借りっぱなしは、イヤなんです。
そんな思いを込めて。
『あぁ、生真面目で一途で可愛いまま…なんですね』
それと意識せずに…彼女はセラフィメールを魅了する。
青玉瞳の魔力、彼の心をからめとる。
そんな彼の心の動きと同時に、漆黒の闇の向こう側―心の琴線に触れてムクリと起き出す、紅い瞳の獣。
見ツケタ―
今度ハ、逃ガサナイ。願イヲ叶エテモライマス。
ソレハ貴女ノ義務ナノダカラ…
セラフィメールは一度瞑目し、ヴィーネの頬に唇を寄せる。
未だ赤く火照ったヴィーネの頬に、冷たくて優しい感触が―
「!!!」
「これで帳消し、です」
ニッコリ笑ってセラフィメールの言う。
「アンタって…キス魔?」
ボソリとアーシェレナの口から漏れた言葉に
「別に深い意味なんてないですよ。ただのスキンシップです♪」
「初対面の相手に随分と馴れ馴れしいこと!」
思い切り非難を込めてセラフィメールを睨むアーシェレナ。
ひょっとしてあたしに対するアレも、スキンシップの一言で済ませる気なのかしら?
何だか、それはそれで悔しい気がする。
セラフィメールは淡い笑みを浮かべ、ヴィーネに至ってはただもう、呆然と…呆然と立ちすくむばかり。



今回はここまで、です。少し間があいた分、私としてはちょびっとだけ長めかな?っていう感じなのですが。…先が見えない、どうしよう(笑)。それでも自分では楽しみながら書いているので、それが少しでも読んで下さる皆様にも伝わって下さると嬉しいです。さて、これからどーしよう?というところなのですが、よろしければこれからものんびりとお付き合い下さい。批判・感想お待ちしております。