◆−めぐる季節 最終章:姫君の口付け−UMI(6/12-13:34)No.3177
 ┗めぐる季節 エピローグ−UMI(6/12-13:38)No.3178
  ┣ お待ちしてました!− 小野道風(6/14-17:42)No.3192
  ┃┗お付き合いありがとうございました−UMI(6/16-17:00)No.3210
  ┗ライアの花−わかば(6/18-16:24)No.3233
   ┗お久しぶりです−UMI(6/19-15:24)No.3245


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3177めぐる季節 最終章:姫君の口付けUMI 6/12-13:34




 漆黒の沈黙が耳に突き刺さる。
 薄い月が湖畔に浮んでいた。
 ゼルガディスは独り、湖のほとりにぼんやりと座り込んでいた。
 (皮肉な話だ・・・)
 生きる喜びにあふれていたアントワーヌが死に、そいつを見下していた自分が生き残っている。
 「道標の花」こいつのおかげだったのだろうか。アントワーヌに会えたのは。
 あいつに会えて俺は良かったんだろうか。いや会えて良かった。少なくとも別れの言葉をお互い言えたのだから。
 ただひたすらにゼルガディスは自問自答していた。
 「・・・ゼルガディスさん」
 ふいに自分を呼ぶ声がして彼は振り向いた。
 案の定そこにはアメリアが立っていた。
 「・・・どうしたんだ?」
 「話がしたくて・・・」
 「俺とか?」
 「はい。あの、隣に座ってもいいですか」
 「・・・構わんが」
 ゼルガディスは何故かアメリアの願いを断り切れなかった。独りになりたくてここに来たはずなのに。
 アメリアは少し恥ずかしそうにゼルガディスの隣に腰掛けた。
 (皮肉な話だ・・・)
 あの夢と希望を追いかけていたアントワーヌが無残に死に、それを馬鹿にし笑っていた俺がこうして聖王都の王女と時と場所を同じくしている。
 考えてみれば自分はは本気でアントワーヌの話を聞いてやったことがなかった。気付いた時はいつも手遅れだ。
 「すまん、アメリア・・・」
 「何がです?」
 唐突な謝罪の言葉に、きょとんとした顔をしてアメリアが尋ねた。
 「あの押し花だが・・・人にやっちまった・・・」
 「いいんですよ。また、作ればいいんです」
 そう言うとアメリアはにっこりと笑った。
 生き生きと輝く瞳。
 (どこかで見た事があったと思っていたが、アントワーヌの瞳に似ていたんだな)
 アントワーヌが夢見ていた姫君はきっとアメリアのような少女だったにちがいない。
 本当は自分では無かったはずだ。彼女の隣にいるのは。
 その資格があったのはアントワーヌのはずだった。
 ゼルガディスはそう感じてアメリアに尋ねた。
 「アメリア、なぜお前は俺の側にいるんだ?」
 アメリアは少し不思議そうな顔をすると微笑んで答えた。
 「ゼルガディスさんの側にいたいから。それだけです」
 ゼルガディスは苦笑して言った。
 「本当に馬鹿な奴だな、お前は」
 「どういう意味ですか」
 「そのままの意味さ」
 「もう・・・」
 アメリアは唇を軽く尖らせた。
 しばらくの間二人に沈黙が流れた。
 水面に月が寂しげに揺れていた。
 その沈黙を破ったのはゼルガディスの方だった。
 「・・・アメリア・・・」
 「はい」
 名を呼ばれてアメリアは振り向いた。真直ぐに自分を見るゼルガディスの視線とぶつかり、わずかに心臓が跳ね上がった。
 「頼みがあるんだが・・・」
 「はい、なんでしょう?」
 ゼルガディスは腰に差していた短剣をアメリアに差し出した。
 柄に黒くこびりついているのは血だろうか。
 「この短剣に口付けしてやってくれ・・・」
 あまりにも突拍子もない頼みにアメリアは思わず面食らう。だがあまりにも真剣なゼルガディスの瞳に聞き返すことはできなかった。『何故・・・?』と。 
 アメリアはその短剣を受け取ると何も言わずにそっと口付けた。
 「すまん・・・ありがとう」
 ゼルガディスはアメリアに礼を言うと短剣を受け取った。
 立ち上がり、強く短剣を握り締めると、そのまま湖へと投げ込んだ。
 その瞬間、水面に浮んだ月は砕け散った。
 小さな姫の口付けを受けて、血のこびりついた短剣は湖底へと沈んでいく。
 そこを中心に水面にゆっくりと、いくつもの輪が描かれていった。
 二人はただ黙ってその輪が広がる様子を眺めていた。
 月が再び形を取り戻した頃、アメリアは肌寒さを感じてゼルガディスに声をかけた。
 「・・・ゼルガディスさん」
 『そろそろ戻りませんか』
 そう言いかけて、ゼルガディスの顔を覗き込んだ。だがアメリアはその言葉を口にすることはできなかった。
 ゼルガディスは泣いていた。微動だにせず。
 (・・・こんなことで、なぜ泣いているんだ俺は。珍しくもない、よくある話じゃないか)
 昔馴染みが戦争で死んだ。それだけのこと。
 馬鹿な夢想家が一人死んだ。それ以上のこともそれ以下のこともない。
 一人の愚か者が自分の夢に死んだ。ただ、それだけの・・・。
 「・・・ゼルガディスさん・・・」
 アメリアはゼルガディスに近寄るとその背中にそっと腕をまわした。
 ゼルガディスは振り払わなかった。涙を拭うこともしなかった。
 涙がアメリアの頬にこぼれ落ちた。
 「・・・ゼルガディスさん・・・」
 アメリアは彼の名をもう一度呼ぶとその胸に顔をうずめた。

 ゼルガディスはアメリアのぬくもりと鼓動を感じながら、アントワーヌが眠る大地を思い描いていた。
 (季節がめぐれば・・・)
 季節がめぐれば、あの焼けただれた大地にもライアの花は咲き誇るのだろうか。
 柔らかな風が吹きぬけることもあるのだろうか。
 赤く染まったあの地も緑に変わるのだろうか。
 
 アントワーヌのあの言葉が鮮烈によみがえる。
 「夢が在るんだ!いつか騎士になって、そして・・・・・・」
 
 
 Go to epilogue・・・

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3178めぐる季節 エピローグUMI 6/12-13:38
記事番号3177へのコメント



 話をしようと思う
 つまらない昔話なんだが
 良かったら聞いて欲しいんだ
 長くはならないから

 暖炉の上では小さなケトルが湯気を出していた。
 ゼルガディスは紅茶の葉をポットに入れ、テーブルに二人分のカップを並べた。
 ゼルガディスは椅子に座ると暖炉の火をぼんやりと見つめた。
 彼女は聞いてくれるだろうか。
 こんな自分勝手な男の話を。
 それでも君には話したいんだ。
 迷惑なだけかもしれないが。
 夢に生きた一人の友人の話を・・・

 コンコンと軽くドアがノックされた。
 ゼルガディスは椅子から立ち上がりドアを開けた。
 彼の目の前にはアメリアがちょこんと立っていた。
 「・・・呼び出したりして悪かったな」
 「いえ、あの、お話って・・・」
 「まあ、入ってくれ」
 ゼルガディスはアメリアを促すとゆっくりとドアを閉めた。
 紅茶を入れアメリアの前に置く。
 カップから暖かい湯気が出ている。
 甘い香が部屋中に広がった。
 「・・・話っていうのはな・・・」
 ゼルガディスはゆっくりと語り始めた。

 
 The end


==================================
 終わりました・・・
 といってもまだ番外編があるんですけどね(笑)
 予定よりも長くなってしまいましたが、無事?完結しました。
 いかがでしたでしょうか?UMIの初の連載ということで頑張ってみたつもりです。
 思ったよりも大変でしたが(計画性無いもので・・・)とても楽しかったです。
 またやりたいなと思っていますので、見かけたら遊びに来て下さい。お暇でしたら・・・
 では、最後までお付き合い下さり本当にありがとうございました。

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3192 お待ちしてました! 小野道風 6/14-17:42
記事番号3178へのコメント

UMIさま

 こんにちは。ああもう、とても続きが読みたかったので、うれしくてうまく言葉にならないくらいです(笑)お話の方は、優しく、悲しく、過ぎていくのですけれど・・・

 アメリアの口付けを受けて、ゼルガディスの手から離れた短剣。今はきっと、澄んでいながら光りも差し込まぬほどに深く、青く、静かなあの湖底にそっと横たわっているのでしょう。
 言葉にならぬ二人の祈りとともに。
 やっぱり、アントワーヌは幸せ者です。
 ゼルガディスより先に姫の唇も奪ってしまったことだし・・・(笑)してやったりといたずらっぽく笑ってるかもしれませんね、アントワーヌなら。彼は姫と同じくらい笑顔の似合う人ですから。
> 彼女は聞いてくれるだろうか。
> こんな自分勝手な男の話を。
> それでも君には話したいんだ。
> 迷惑なだけかもしれないが。
> 夢に生きた一人の友人の話を・・・
 もちろんですよ。とアメリアの代りに読みながら返事をしました(笑)アメリアはむしろ感謝してるんじゃないかな、とか思ったりしました。そんな話相手に自分を選んでくれた彼に。
 今度こそ話せるといいですね。カップの紅茶がそっと冷めたくなってしまう前に・・・。

> またやりたいなと思っていますので、見かけたら遊びに来て下さい。お暇でしたら・・・
 お願いします、ぜひ!
 こちらこそ、良かったら、また遊びに来させて下さい。ていうか、きっとまたこちらから押しかけているんじゃないかと思うのですけれど・・・(笑)←すみません、うれしさのあまりちょっとテンション高い小野です
 番外編、楽しみにお待ちしていますね。
 素敵なお話を、本当にありがとうございました。
 ・・・そしてアントワーヌにも。ありがとう。と伝えたいです。
 では、また。
 


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3210お付き合いありがとうございましたUMI 6/16-17:00
記事番号3192へのコメント

 こんにちは、小野さん。
 最後までお付き合いありがとうございました。
 そして・・・最終話遅れまくってすみません。もう、UMI大嘘つきです。
> こんにちは。ああもう、とても続きが読みたかったので、うれしくてうまく言葉にならないくらいです(笑)お話の方は、優しく、悲しく、過ぎていくのですけれど・・・
 ここまで言って頂けると書き手冥利に尽きるというものです。それにしても、お待たせして申し訳ないです。
> ゼルガディスより先に姫の唇も奪ってしまったことだし・・・(笑)
 書いている当人は全然気づかなかったけど、言われてみればそうかも。太っ腹だねゼルガディス(笑)
> 今度こそ話せるといいですね。カップの紅茶がそっと冷めたくなってしまう前に・・・。
 一話のラストはエピローグの伏線だったんですけど、気づいて下さって嬉しいです。ゆっくりと話をする風景には湯気の昇るカップがすごくしっくりくると思うんですよ、私は。
> こちらこそ、良かったら、また遊びに来させて下さい。ていうか、きっとまたこちらから押しかけているんじゃないかと思うのですけれど・・・(笑)
 押しかけてくださーい(喜)私も小野さんの方に押しかけるつもりなので(笑)
> 番外編、楽しみにお待ちしていますね。
 なるべく早くお届けできるように頑張ります。(もう、誰も信じないって・・・)
> 素敵なお話を、本当にありがとうございました。
 こちらこそ、計画性の全くない私の連載にコメントを全て付けてくださりありがとうございました。
> ・・・そしてアントワーヌにも。ありがとう。と伝えたいです。
 伝えておきます。くう、幸せ者だねアントワーヌ。しかし、パロディにおいてここまでオリキャラがでばって良かったんでしょうか。
 それでは、また。小野さんのお話の続きを楽しみにしています。
 

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3233ライアの花わかば E-mail 6/18-16:24
記事番号3178へのコメント

お久しぶりです、わかばです。
連載お疲れ様でした。とても、楽しませて頂きました。
姫が一生懸命に見つけたライアの花が印象的で、またお話の最後にあった、アントワーヌの眠る大地にライアの花が、一面の花を開くところを想像して、せつなくなりました。
大切な友人を失ったやるせなさは消えないけれど、姫だけには知っていてもらいたいと話しをする魔剣士さんと姫様の絆を感じました。
素敵なお話を読ませて頂きありがとうございました。

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3245お久しぶりですUMI 6/19-15:24
記事番号3233へのコメント

 こんにちは、わかばさん。お久しぶりです。
 計画性のないUMIの連載にお付き合いくださって本当にありがとうございました。少しでも楽しんでいただけて嬉しいです。
 あのライアの花なのですが最初は春をイメージさせるものとして思いつきで出したものなのですが、話を作っていくうちに重要な役割を担うようになってしまいました。春がテーマの話だから夏がくる前に終了させようと思っていたのですが・・・すっかり梅雨に入ってしまいました(笑)
 また、書く予定ですのでよろしかったら立ち寄ってみてください。
 ではコメントありがとうございました。