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3274 | 眠り王子〜プロローグ | 羅紗 | 6/21-20:15 |
昔々、ある国に子供のいない王と妃がいました。 彼らはどうしても子供がほしかったので、毎日毎日神に祈りを捧げていました。 すると願いが天に届いたのでしょうか。まもなく、妃がそれはそれはかわいらしい子供を生んだのです。 王はもう大喜び。国を挙げてその子の誕生を祝いました。その子の名は─ゼルガディス。 =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= とうとう梅雨に入ってじめじめしてます……。 と、いうわけで(?)またまたやってきました羅紗です。 今回は全部書き終わっているので、全部載せちゃおうと思います! よければおつきあいくださいませ♪ |
3275 | 眠り王子1 | 羅紗 | 6/21-20:19 |
記事番号3274へのコメント 王太子殿下の誕生、おめでとうございます。」 「いやはや、何ともかわいらしい方で…。」 「しかしこのキリリとした眼差し、さすがですなぁ。」 口々に人々が王子を褒め称えるので、王はご満悦です。 やはりどんな人間も親ばかなんですね。王はこの子に幸せになってもらおうと、魔法使いを呼ぶことにしたのです。 しかしこの王、幸せぼけになってしまったのでしょう。招待状をひとつ出し忘れてしまったのです。そのうえ、そのことに誰も気がつきませんでした。 そして、その当日。 華やかなドレスが舞う荘厳な会場に、優雅な音楽が流れます。 みな、王や妃の幸せが移ったのか、とても楽しそうに踊ったりうたったりしています。 ほら、あそこでも…。 「もぐもぐ…ちょっとガウリイ!それあたしのエビよ!返しなさい!!」 「お前こそオレのステーキ返せ!!」 「あぁぁ、リナさん、ガウリイ様、やめてくださいぃ〜!(泣)」 ………。 人々はみな心から王子の誕生を祝っていました。 そしてパーティーも佳境に入った頃、魔法使い達が前に呼び出されました。王子に祝福を与えるためです。 人々は静かにその言葉を待ちます。 はじめに祝福を与えたのは、美しい女性でした。黒くまっすぐな髪を腰のあたりまで垂らした清楚なその姿に、人々はうっとりと見入りました。 「どうかかの子に幸あらんことを。かの子に美しい声を授けましょう。その声は甘く、聴くものを虜にしてしまうほど。」 王子の唇がほんのりと光りました。 次に祝福を与えたのは、若い男でした。金髪碧眼・容姿端麗、そこらの王子よりもかっこいいその姿に、若い娘達は溜息をつきます。 「どうかかの子に幸あらんことを。……えっと……なんだっけ、リナ?」 若い男は隣にいたもうひとりの女性にこっそりと尋ねました。 「だぁ、もう!あんたはこの子に『美貌』を授けるんでしょ!」 こちらもこっそりと答えました。 「そうそう、かの子に美貌を授けましょう。…えっと……。」 「『誰もがその美貌に魅了されるほど』!!」 「誰もがその美貌に魅了されるほど。」 王子の顔が一瞬鮮やかに光りました。 誰もがほっとし、最後の祝福を待ちます。 最後に祝福を与えるのはちょっぴし胸の小さな女性でした。栗色の髪は背中の半ばほどで、紅い瞳はその意志の強さを表しています。 一歩前にでて祝福を与えようとしたその瞬間、広間の扉が大きく開かれました。 「ほほう、みなさんお揃いで。」 扉の所に立っている男は、広間を見渡すと柔和な笑みを浮かべました。 「あ…あれ、赤法師レゾじゃないか?」 「あれが、いや、あのお方が?」 人々がざわめく中、レゾはゆっくりと前に進みました。そして、実に礼儀正しくお辞儀をしました。 「招かざる客ですが、ご容赦いただきたい。」 「なに?『招かざる客』というのはどういう…。」 レゾは深い深い、しかし柔和な笑みを浮かべていました。 「残念ながら私の所には今回の招待状が届かなかったので…。」 「いや…それは、その…すまないことを…。」 王は口ごもります。レゾはその笑みに何処か冷ややかさを加えました。しかしそのことに気づいたのはごくわずかでした。 「いえ、気になさらずに。それよりも私も王子に祝福を与えたいのですが…。」 「おお、それは願ってもないこと!ぜひお願いしたい!」 「ちょっと待って。」 王が喜んでいるところに水を差したのは、先程最後の祝福を与えようとした女性でした。 女性はレゾをにらんで言います。 「貴方はこの子にどんな祝福を与えるつもりですか?」 挑戦するかのようなその女性とは対照的にレゾは少し困った笑みを浮かべました。 「それを言ってしまうと、効力が少なくなるのは貴方もご存じでしょう?」 「承知しています。」 女性はきっぱりと答えました。レゾはより困った笑みを浮かべます。 「魔法使い殿!それはこの方に失礼ではないですか!」 突然群衆の中からそんな声が挙がりました。そしてそれは、次々と広がります。 「そうだ、そうだ!」 まるで煽動されたかのように、人々は叫びます。ついには「帰れ!」というようなことをいうものまで現れてしまいました。 王もこれを無視することは出来ません。さりげなーく女性を見ました。 女性も攻撃呪文をぶっ放して黙らせたい衝動をこらえて、仕方なく帰ることにしました。 お腹いっぱいご飯を食べたので、我慢できたのです。ただし、最後に振り返って言うことは言いましたが。 「あとで後悔しても知らないわよ。」 「なぁ、先に後悔することってあるのか?」 「うるさい!」 王は魔法使い達が素直に帰ってくれたので、ほっとしました。 レゾは王子を見て、にっこりと微笑みました。しかし、もしレゾの目が開いていたら、その瞳の奥にある狂気を見つけることが出来たでしょう。 レゾはあくまで静かに『祝福』を与えました。 「かの子に『幸』あらんことを。私かかの子に強いからだと強い魔力を与えましょう。どんな攻撃にも耐えうる体を。 そして……。」 レゾのからだから、廠気がにじみ出ました。 「かの子は美しいまま死ぬでしょう。20の誕生日に糸車の針にさされて為すすべもなく死ぬでしょう!!」 レゾのからだから黒い霧が出現し、消えたあとには誰もいませんでした。 人々は真っ青になりました。 人間、出来ているように見えても、結構根に持つようです。 見かけに見事にだまされた王達は慌てましたが、後の祭り。そこに妃が言いました。 「先程祝福を与え損ねた方にお願いしてみてはどうでしょう。」 結構厚かましいのですが、王達にはほかに方法はありません。急いで先程追い出した魔法使い達を呼び戻そうとしました。しかし、彼女らは何処にもいませんでした。 王は呆然として我が子を見ました。硬い岩の肌と銀の針金の髪を持つ、合成獣(キメラ)を。 |
3276 | 眠り王子2 | 羅紗 | 6/21-20:23 |
記事番号3274へのコメント 「王子。ゼルガディス王子、どちらへ…。」 「かまうな。ちょっと外にでるだけだ。」 追いすがる女官達を振り切るように、青年が馬に乗りました。 あの、王子です。 あれから19年。王子は立派に育ちました。剣の腕も魔力もすばらしい、優秀な王子様。 しかしその容姿に、王子は強いコンプレックスを抱いていました。すばらしい美貌もヒトならざるものでは意味がない、と。 ですから、外へ行くときは必ず白いフードで顔や体を隠していました。 「すぐに帰る。」 「お待ちください、ゼルガディス…。」 王子は勢いよく馬を走らせました。一刻も早く王宮からでたかったので。 「今日は何処に行こうか…。」 街道を走りながら王子は考えました。 ふと遠くを見ると、小さくこんもりと茂った森が見えました。この辺りを探索し尽くしたはずの王子でも見覚えのない森です。 「…よし、あそこに行くか。」 王子は馬を走らせました。 その森は不思議な森でした。木々は深く茂り日の光は全く差さないはずなのにほんのりと明るく、草や花は所狭しと咲き誇っています。動物達はみなのんびりと暮らしているようで、争いの気配など全くしません。みなが、幸せに暮らしている世界。理想の世界でしょうか。 「それにしても。」 王子はぐるりとあたりを見渡しました。 「ここはどこだ。」 どうやらあたりの風景に見とれて、森の奥まで入り込んでしまったようです。王子らしくない失敗です。 王子は慎重に歩き始めました。しかし、歩けば歩くほどわからなくなります。 王子はある木によりかかりました。そしてゆっくりと深呼吸をし、顔からしたたり落ちる汗を拭い…気がつきました。 森の外では、フードをかぶっていても少し肌寒く感じていました。それなのに、この森の中では、多少は歩きましたが、暑くすら感じるのです。自然にはこんなことはうまれません。 「…魔法…?」 王子の口からその言葉がこぼれ落ちました。 そして、その言葉に王子の心が弾みました。 (ここには魔法使いがいる!) 王子は再び歩き始めました。今度は魔法使いを捜すために。皮肉にもこの忌まわしいからだが役に立ちましたが。 どれほど探したのでしょう。行けども行けども同じ場所をまわっているようで、王子は焦りました。いつの間にか、森の動物達の数が少なくなっていることにも王子は気づかない程。 しかし、ある、大きな木の間を通ったとき、視界が不意に開けたのです。 そこには大きな湖が広がっていました。水面はさざ波ひとつ立ってなく、底は暗くて見えません。 静閑。そんな言葉が似合う場所です。 そのほとりには、一軒の小さな家が建っていました。壁の1/3が蔦で覆われた、でも煉瓦の赤い色が合う家。 あれこそ探していた魔法使いの家に違いありません。 王子は家の前に立ちました。そして、はやる気持ちを抑えつつ扉をたたきました。 家の中で、ぱたぱたと音がし……いきなりものすごい勢いで扉が開き、 ごめっ。 「今度はなに忘れたの!ガウリイっ!!……って、あれ?」 王子は扉で眉間をしたたかに打ち付け、その場にうずくまってしまいました。 「あ、ごめん。だいじょうぶ?」 「な…なんとか…。」 王子の目の前にいたのは、16,7歳ぐらいの女性でした。 栗色の長い髪を下ろし、紅い瞳が王子を眺めています。 「すまんが……ここの家の者か?」 「え?あ、まあ、そうだけど。」 「単刀直入に聞くが、この家に魔法使いはいるか?」 「魔法使い?」 女性の瞳が鋭くなり、探るかのように王子を見ます。 「あんた自分ですごい魔力を持ってるじゃない。誰かに何を頼む気?」 「確かに俺は魔力を持っている。が、それだけではダメなんだ。」 女性はじっと王子を見ていましたが、不意に笑って言いました。 「ま、こんな所で立ち話もなんだし。うちにあがったら?」 中はごく普通の家でした。 明るい色で統一された壁紙。ふかふかのクッション。少々床に散らばった小物。整頓された棚のしたにも紙が2,3枚落ちています。 とても暖かいモノで満ちあふれたその家が、王子にはうらやましく思えました。 「フードぐらいとってくれる?」 女性はソファーに王子を座らせ、自分も座ったあとに言いました。 王子はためらいます。 「あんたが普通の人とは少し違っているのはわかってるわ。 だからかくしてても一緒よ。 それに、人の家に上がったときは帽子を取るのは常識でしょ?」 王子は渋々フードをとりました。硬い岩の肌と銀色の針金の髪があらわになります。 「へー、結構男前じゃない。」 女性は感心したように言います。王子は自嘲しました。 「確かにそうかもしれん。だが、所詮人ならざる者。 ひとには受け入れられないものだ。」 女性は首を傾げました。 「あんた両親は?」 「いる。だが普通の人間だ。」 「じゃ、どうして……。」 「さあな。だが、両親は俺のことをあまり好いてはいない。 むしろ弟のほうを可愛がってな。まぁ、わかる気もする。こんな姿の奴を子として愛せという方が難しい。それに……。」 「それに?」 「俺は20歳に誕生日に死ぬらしい。」 女性は小さく息をのみました。 「ある魔法使いがそう俺に呪いをかけたらしい。しかも糸車の針にさされて。」 「あんた、それでいいの?」 「いいわけないだろ。」 王子はまっすぐ女性を見ました。 女性は納得したように頷きました。 「だから別の魔法使いに頼んでその呪いをといてもらおうと……。」 「ああ。」 「でも、別にこんな所でなくてもさ。 もっと…街とかそんなとこならいくらでも……。」 「あいつらはダメだ。何せこの呪いをかけたのはあの赤法師レゾらしいからな。 そこらの……。」 「レゾですって!?」 女性は驚いて立ち上がりました。王子もつられて驚きます。 「あんた…いったい……まさか、あんた…。」 「あ……俺の名はゼルガディス。一応この国の王子ということになっている。」 女性はぽすっとソファーに座り直しました。そして大きく溜息をつき、誰ともなく呟きました。 「だからあの時……。」 王子にはなんのことかわかりませんでしたが、とりあえず話を続けました。 「すまんが、そういうことで少々急いでいる。俺はもうすぐ20歳になってしまうもんでな。」 女性はしばらく頭を押さえていましたが、やがてゆっくりと王子に向き直りました。 「ま、いっか。別にこの子が悪いわけじゃないし。 いいわ、なんとかしたげれる。この美少女天才魔導士…もとい、魔法使いのリナ=インバースがね。」 「ちょ…ちょっと待て!もしかして嬢ちゃんが…。」 リナと名乗った魔法使いはカチンとしました。 「『嬢ちゃん』はないでしょ。これでもあたしは(この話の中では)あんたより年上なんだから。 とにかく見てあげるからじっとしてなさい。」 魔法使いはぽんぽんと王子の体を調べはじめます。 王子は何も出来ないので、おとなしくされるがままにされていました。 「ったく。レゾってばなんてことすんのかしら…。」 本当にその通り、と王子は心の中で呟きました。 女性はしばらくそうやっていましたが、やがて腕を投げ出しソファーに寝ころびました。 「あー、ダメ。これはすぐにはとけないわ。」」 「そうか…。じゃましたな……。」 沈んだ声で王子は言い、立ち上がりました。 「こらこらこら!あたしは、『すぐには』ダメだっていったの。」 「『すぐには』?ということは…。」 魔法使いの表情はしかし明るくありません。 「但しね…そのためには、今の王子の地位やそのほかいろいろなものを失うわ。それでも、いい?」 「かまわん。どうせ俺が持っているものなんてたかがしれている。」 即答する王子に、魔法使いの表情が少し動きましたが、そのことに関してはなにもいいませんでした。 「わかったわ。じゃ、ちょっと待っててね。」 |
3277 | 眠り王子3 | 羅紗 | 6/21-20:25 |
記事番号3274へのコメント 「ごめん、ごめん。これ探してて。」 しばらくして、魔法使いが帰ってきました。その手にはグラスが握られていました。 その中身は。 …その……何とも言えないものでした。 色は茶とも紫ともつかなく、なぜか焦げたような匂いがする液体がどろりとたゆたっています。 王子は知らず知らず、一歩、二歩と後ずさりします。 女性はにんまりと笑っていいました。 「これが、あんたの呪いをとくための第一歩よ。」 「も…もしかして、これを……?」 「そう、飲むの。」 「イヤだぞ、俺は!絶対イヤだぞ!そんな怪しいものを飲めるか!!」 「なーにいってるの!この薬作るのに、あたしが何年かかったと思ってるかな!?」 「それならお前がまず飲んで見ろ!!} 「う゛…。」 王子のじと目に魔法使いはちょっと視線を泳がせましたが、すぐに戻していいます。 「と、とにかく。これを飲まないとあんたを人間に戻せないの! どうすんの!?」 王子の視線に殺気がこもったように、魔法使いは感じました。 実際王子はなかなか複雑な表情です。しかし、背に腹は代えられません。 傍目から見て、ものすごく楽しそうに見える女性からひたすら怪しいその薬を受け取り、じぃっと見ます。ついに意を決したのか、王子はそれを一気に飲み干しました。 まったりと、且つごつごつとした感触が喉を通り、こみ上げてくる吐き気を必死でこらえます。しかし、その、あまりのまずさに王子の意識はどんどん薄くなっていきます。 と、王子は額に熱を感じました。それは額の上でくるくる回り、何かの文字を描いているようでもあります。 「あんたは直に迎える20歳の誕生日に針に突かれて倒れるわ。」 王子は消えゆく意識の中で、必死に聞き取ろうとします。 「だけど、それがもたらすのは『死』ではなく『眠り』。」 「眠り…。」 言葉になったかも怪しいその声に、彼女は頷きました。 「そして眠り続けるあんたの元に、必ず起こしに来る人が現れる。」 (そんな馬鹿な。) 王子はうっすらと笑いました。苦い笑いでしたが。 彼女は呆れたようにいいます。 「あのね。あたしのいうことを信じなさい。はなっからあきらめてたらダメでしょ。ダメ元って言葉もあるし。」 彼女は王子の額を軽くたたきました。 「じゃないと、いつも失ってばっかりの不幸な人生で終わっちゃうわよ!」 (…そうだな……。) 王子はぼんやりと考えました。 「でしょ? ……それじゃ、あたしから一ついいことしてあげる。元々このことにはあたしにもちょこっと責任があることだし。 まぁ、それがいいことになるかどうかはあんた次第だけどね。」 王子の目に映る風景はもうほとんどかすんでしまって、よくわかりません。 だから、最後に彼女が笑ったように思えたのも、王子の気のせいであったのでしょうか…。 そして気がつくと、王子は王宮の自室のベットの上にいました。 「…夢?」 王子はふっと息を吐き出すと、苦く笑い部屋の扉を開けました。 その額には、鮮やかな魔法陣が描かれていましたが、それも一瞬で消えてしまいました。 王子の20歳の誕生日を祝う舞踏会は、何処か空虚さを含むものでした。 何せ、王子の今日で命がつきてしまうかもしれないからでしょう。最後に心残りのないように、という配慮からかもしれませんが。 王子はそんな空気に耐えられません。そうそうに広間から抜け出してしまいました。 ふらふらと適当に歩いていると、知らない場所にでました。 ろうそくの明かりが少々頼りなく照らすそこには螺旋状の階段が延びていました。 王子の好奇心が頭をもたげます。 王子はその階段を上りはじめました。 長く長く永遠に続くかとも思える階段の先は真っ暗でした。王子は次第に慎重に一段一段のぼりはじめます。 しかし始まりがあれば終わりがあるもので、階段にも頂上が見えました。 そこには愛想のない扉が、ろうそくの光に照らされぼんやりと浮かび上がっていました。 王子はその扉を開けます。 中は小さな部屋でした。誰もいないその部屋のたった一つの天窓からは月の光が射し込んでいます。 その光の中に、糸車がからからと廻っていました。 王子は吸い寄せられるように、糸車に近づきます。そして。 「!」 伸ばした指の先。容易に木津突くはずのない岩の肌に、糸車の針が刺さっていたのです。 急速に体中から力が、そして意識も失われていきます。 「……。」 王子の唇が微かに動きました。しかし漏れたのは空気だけでした。 そして王子は瞼を閉じ、それきり動きませんでした。 |
3278 | 眠り王子4 | 羅紗 | 6/21-20:26 |
記事番号3274へのコメント 少女は気がつくと、ある場所にたたずんでいました。 行ったことのない場所。ですが、良く知っている場所。 (あぁ。) 少女は納得しました。 これは夢。 いつからか毎晩見るようになった夢です。 少女は駆け出しました。 何かの壁だったと思われるあとの間を通り抜け、今にも崩れ落ちそうな天井の一部の下をくぐり抜け、中庭と思われるところにでます。 (そして、こっちには噴水があって……。) 少女はどんどん駆けていきます。 床に倒れた柱を跳び越え、びっしりと生えた蔦をかき分け、ひたすら奥へと進むのです。 何処をどう走ったのか覚えてはいません。しかし、必ず少女は階段を見つけるのです。 それは先の見えない螺旋階段。それを一気に駆け上がります。そして少女は扉を開けるのです。 天窓から射し込む光の中で、誰かが眠っています。 少女は静かに近づきます。 硬い岩の肌に銀色の針金の髪を持つ美貌の青年が眠っているのです。 少女はうっとりとその青年を見つめます。 はじめは怖かったのです。その無表情で、人ならざる顔が。しかし、ある時気がつきました。その顔に、ほんの少し。注意していないとわからないほどの『寂しさ』を。少女の知らない『寂しさ』。それを知りたくて、そして埋めたくて。 少女は、しかし何も出来ないのです。 そっと伸ばされた手も、その体に触れることは出来ません。 何度試しても、少女の手は素通りしてしまいます。 少女はそっと溜息をつきます。 そして、今度はそっと青年の顔をなぞります。正確には、ふり、ですが。 「あなたは、何処にいるんですか?」 「アメリア様!」 少女が振り向きました。黒く艶やかな髪はおかっぱで、瞳は大きく、とても愛らしいお姫様です。 そう。彼女こそ、この「セイルーン国」の由緒正しいお姫様なのです。 「陛下がお呼びでございます。至急、お越しください。」 「父さんが?」 アメリアは首を傾げましたが、すぐに国王の執務室へ行きました。 そこには国王である父と、もう一人、知らない人がいました。 「何ですか?父さん。」 「おお、アメリアか。」 フィル国王はアメリアを側に招きました。 「実はアメリアの力を借りたいのだが…。」 「わたしの…ですか?」 フィル国王は、目でもう一人の男に合図を送ります。 男は頷きました。 「最近新しく領土になった国をご存じでしょうか?」 「ええ。何でも跡継ぎがなく、遠い親戚に当たる我が国の元にはいることを申し出た国ですね。」 「はい。実はその国にある、宮殿のことで…。」 「宮殿?それがどうかしたのですか?」 「ええ、実はですね…。 何でもその国には立派な宮殿があったのです。ですが100年ほど前。ある魔法使いによって呪いをかけられ、誰も入れなくなってしまったのです。」 「わかりました!!」 だんっとアメリアは机の上に足を上げました。その瞳にはなぜか炎が燃えています。 「つまりこのわたしにその悪の魔法使いを退治して欲しいと、そう言うわけですね!!」 「いえ…そーいうわけではなくて…。」 男は頬に一筋の汗を垂らしながらいいました。 「その呪いをかけた魔法使いは行方不明で、何処にいるのか、いえ、生死さえ不明なのです。ですが、この呪いを解く方法が見つかりまして…。」 男はこほんと咳払いをしました。 「それには『少女』の『何か』が必要らしいのです。」 「何かって…?」 「それが…よくは……。」 「そこでアメリアにいってもらいたいのだが…良いか?」 フィル国王は心配そうに尋ねます。 「もちろんです!!この、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが正義と根性と愛の名の下にこの呪いを解いて見せます!!」 「おお、やってくれるか!」 「もちろんです!正義は必ず勝つ!!」 盛り上がる親子を前に、男はちょっぴし後悔していたりしました。 |
3279 | 眠り王子5 | 羅紗 | 6/21-20:32 |
記事番号3274へのコメント 「ここね。」 アメリアは馬から下りると、あたりを見渡しました。 元は白かったであろうと思われる城壁は蔦とほこりで変色し、あちらこちらで崩れています。石畳もほとんどはがれて、代わりに蔦が覆っています。 アメリアはずんずん進んでいきます。 「お、お待ちください、アメリア様!」 従者達が慌てて後を追います。しかし、 「大丈夫です。お前達はここで待機していなさい。」 そう言うとアメリアは翔封界(れい・うぃんぐ)で奥の方へいってしまいました。 「とりあえずあのあたりに。」 アメリアは少し広い場所に降り立ちました。そして。 「!」 アメリアはもう一度目をつむり、目を開けました。しかし、アメリアの前にある風景は変わりませんでした。アメリアは立ちつくしてしまいました。 なぜならアメリアが夢で見たのと同じ噴水があったからです。 ぎこちなく後ろを見ると、いつも夢で通る天井が見えます。 アメリアはゆっくりと歩き始めます。 床に倒れた柱を乗り越えます。 次第に歩くスピードが速くなり、びっしりと生えた蔦をかき分け、走り出します。 見覚えのある風景が現れ、アメリアは心が弾むのを感じました。 そして、あの螺旋階段を見つけました。 アメリアは一気に駆け上がりました。 そして扉を開けようとし、手を引っ込めました。 アメリアはじっとノブを見ていましたが、やがて意を決したように手をかけました。 ─天窓から射し込む光の中で、誰かが眠っています。 アメリアはゆっくりと一歩ずつ近づきます。 ─硬い岩の肌に銀色の髪を持つ美貌の青年が眠っているのです。 「ここに…いたんですね…。」 アメリアはそっと青年の顔に触りました。 彼の肌はやはり堅いものでした。しかし暖かいものでもありました。 その手がすっと額に触れた瞬間、バチバチッと火花が散りました。 「なんですか!?」 空間が揺らめくと、栗色の髪の女性が青年の隣におぼろげですが現れました。 女性はアメリアを見るとにっこりと微笑み、自分の唇を触るとその指で青年の額の中央をさしました。 「…え?」 アメリアには何のことかさっぱりわかりません。アメリアが首を傾げていると、その女性はいらだったようにもう一度同じことをしました。しかし、やっぱりわからないものはわからないのです。 《だぁ!だ・か・ら、キスしろって言ってんのよ、あ・た・し・は!!》 いきなりアメリアの頭の中に大音量が響きました。 「うるさいですぅ……って、キスぅ!?」 アメリアの顔がどんどん赤く染まっていきます。 「そ、そんなことできませんよ!!」 《いいからやるの!!》 「で・き・ま・せ・ん!!」 《何でよ!!》 アメリアは少し押し黙りましたが、言い返しました。 「大体どうしてキスなんですか!!」 《眠っている王子様を起こすのがお姫様の仕事でしょ!!》 「…それって普通逆じゃぁ……。」 《い・い・か・ら! ともかく、あんたのキスがないとそこのゼル…王子様は永遠に眠り続けなきゃなんないのよ。それでもいい!?》 「良くないです!…ですけど……。」 《…あんたそんなにキスしたくないわけ?》 女性の問いに、アメリアはぶんぶんと首を横に振ります。 女性ははふっと溜息をつきました。 何となくわかるような気もしたのです。 いくら普段は元気120%で、お子さまで、誰かまわず抱きつける彼女も、やはり花も恥じらうお年頃。そう簡単にいくわけにも行かないのですが…。 《まぁ、いいわ。こっちも無理にとは言わない。だけどさ。もしこの子を少しでも助けてあげたいって気持ちがあるのなら、キスしてくれない? 陰気で無愛想で無口で目つき悪くて軽い自己嫌悪入ってるけど、根はいいのよ。》 「…それって…。」 《大丈夫だって。好きな人を噛むとかそーいう習性、ないから。》 女性はぱたぱたと手を振ります。アメリアはそのセリフに何処か納得しがたいものを感じましたが、一応決心しました。 「わかりました。私がキスをすれば、この人は目覚めるんですね。」 《そう言うこと。じゃ、頼んだわよ。あ、そうそう。ついでにこれ渡しといてね。それじゃ!》 女性はアメリアにリボンで結んだ手紙を押し付け、そのまま宙にかき消えました。 アメリアは手紙を脇に置くと大きく深呼吸し、顔を青年の顔に近づけました。 《一応確認しとくけど。それ、額の中央にしないとダメだから。》 「いきなりでてこないでください!!」 アメリアは絶叫しました。女性はすぐに消えましたが、アメリアの心臓はすごい勢いで打っています。「ほんとにリナさんってば…」とぶつぶつこぼし、もう一度深呼吸しました。 指で額にかかった髪をそっとわけ、アメリアは顔を近づけました。 軽くアメリアの唇が触れたそのとき、空気が静かに振動しました。 アメリアは急いで顔を上げ、青年の目が開くのを待ちました。 はたして、青年の目がゆっくりと開きます。 青年はしばらく状況がわからないようでしたが、意識がはっきりしたのか、いきなり飛び起きました。 「ここは!俺はいったい!?」 「おはようございます!」 アメリアは何の曇りのない、太陽のような笑顔を向けました。 青年はつかの間まぶしそうに眺めていましたが、誤魔化すように咳払いをして尋ねました。 「すまんが…。」 「はじめまして。わたしはアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンといいます。」 「いや、そうじゃなくて……『セイルーン』?」 青年は怪訝な顔をしました。 「確かそれは隣国の…。どうして隣国の王族がここに?」 「えっと…つい最近なんですが我が国にはいることになって…何でも世継ぎがいないとかで…。」 「何!?」 青年は驚きました。そして、不意に気づいたように尋ねます。 「教えてくれ。今は、いつ、だ?」 アメリアは慌てて今の王歴をいいます。 青年は愕然としました。 「俺は、百年も眠り続けていたのか……それに。」 青年は自分の岩の肌を見て、小さく「やぶ魔法使い」と呟きました。 「あ、あの人、魔法使いだったんですか。」 「どういう意味だ?」 「えっと、これを渡して欲しいって。栗色の長い髪の女の人だったんですけど…。」 青年は半ばひったくるように手紙を受け取り、開きました。アメリアも手紙をのぞきます。 そこには、青年が眠ってから今までの簡単な歴史とアメリアが彼の眠りを覚ましたことがかかれていました。そして最後に。 『もう一度あたしんちに来なさい。そのからだ、ちゃんと戻せると思うから。』 と。 青年は手紙を元に戻すと、立ち上がりました。アメリアが尋ねます。 「そのひとのところにいくんですか?」 「あぁ。」 「じゃぁ、わたしも一緒に行きます!」 「なにぃ!?」 「大丈夫です!足手まといにはなりません。これでも巫女頭をつとめてますし、直伝の平和主義者クラッシュがありますから!」 自信満々のアメリアを青年は慌てて止めます。 「そう言うわけにもいかんだろ。簡単に決めては…。」 「大丈夫です!従者達に父さんに伝えてもらえれば、万事解決です!」 「いや、しかし…。」 「止めても無駄ですよ。わたし、決めましたから!!」 はぁぁぁぁふぅぅぅぅぅ。 青年は特大の溜息をつき、アメリアを見ました。 アメリアはちょっと自信が揺らぎましたが、正義を愛する心でカバーします。 青年はしばらくそんなアメリアを見ていましたが、やがてぽんぽんとアメリアの頭をたたきました。 「勝手にしろ。」 少し口の端をあげて青年はそう言うと、部屋を出ていきました。 アメリアはぱっと笑い、彼の後を追いました。 「はい!!」 数日後。 あの不思議な森の魔法使いの元に、不思議な取り合わせの二人組が来ました。 あの栗色の髪の魔法使いが二人を見て、歓迎したか、青年の目覚めを喜んだか、開一口に彼らを冷やかしたか…は………とくに書く必要もないですね。 Fin =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= えっと、ゼルアメ苦手だった方。注意書きを忘れてしまいました。すみません。 私にしては珍しくとってもラブv というか、私に書けるラブラブはここまでです。 えへ♪ ではでは。 羅紗でした。 |
3283 | Re:すごいですぅっ! | 風和 E-mail URL | 6/22-18:03 |
記事番号3279へのコメント どぉも風和です。 読ませて頂きましたvv 素敵・・・素敵すぎでした・・・はぁぁっ・・・vvv ゼルおうぢ・・・王子さま最高デス。 白馬に乗って〜・・・vvv 発想すごいですねー。 呪いの所とか。魔法使いのところとか。 尊敬しちゃいますよ・・・vvv 起こしてあげるのはやっぱしアメリアなんですね。王族ですしv とにかくすっごかったですっ! 素敵なお話有り難う御座いましたっv 短くてワケわかんなくてごめんなさいでしたっ!風和でしたっ☆ |
3285 | Re:すごいですぅっ! | 羅紗 | 6/23-15:53 |
記事番号3283へのコメント > どぉも風和です。 どもです。羅紗です。 >読ませて頂きましたvv ありがとうございます〜v > 素敵・・・素敵すぎでした・・・はぁぁっ・・・vvv >ゼルおうぢ・・・王子さま最高デス。 > 白馬に乗って〜・・・vvv > 発想すごいですねー。 えへ。でもふりふりの服着てたらイヤだなぁ……。 >呪いの所とか。魔法使いのところとか。 > 尊敬しちゃいますよ・・・vvv そ、そんな……。 >起こしてあげるのはやっぱしアメリアなんですね。王族ですしv はい!おうぢが彼なら、お姫様は彼女でしょ! > とにかくすっごかったですっ! >素敵なお話有り難う御座いましたっv > 短くてワケわかんなくてごめんなさいでしたっ!風和でしたっ☆ いえ、感想をいただけるだけでもう感激なんです! 「素直なココロ」続き、楽しみにしてます♪ |