◆−聖戦の旋律。〜第7章(オリジナル)−雪畑(7/10-20:58)No.3503 ┗聖戦の旋律。〜第8章(オリジナル)−雪畑(7/12-12:50)No.3514 ┗暑いですね日本の夏。スイカがおいしいですね日本の夏。−蜂巻(7/15-15:18)No.3550 ┗同感です♪−雪畑(7/16-10:40)No.3560
3503 | 聖戦の旋律。〜第7章(オリジナル) | 雪畑 | 7/10-20:58 |
聖戦の旋律。〜第7章 「あの小娘の命と世界の命と。 どちらが重いかは分かるであろう?」 「わかんねえな!俺は頭悪いもんでね!」 ぱんっ。 人の命を奪う事のできる力を持った弾丸は。 しかし目の前の男には効いていない。 (なんかあるはずだ・・・魔法や弾丸くらっても平気なわけが・・・) 必死で頭を働かせるセイン。 拳銃を剣に持ち代える。弾丸を無駄にするわけにはいかない。 「貴様はもう少し利口かと思ったが。」 「ざけんじゃねぇ・・・」 暗殺者として生きてきたが。 殺しても死なない奴ははじめて見た。 (魔法?まさか・・・・) 魔法を使えるのはリチェル=フィアドーレただ一人。 リチェルだって頭に弾丸を打ち込まれて生きてはいられまい。 「政府に反した罪を贖え。」 男が言う。 拳銃をまっすぐとこちらに向けて。 ――セインは心臓に衝撃を感じた。 ばぁんっ!! 扉が派手な音を立てて開いた。 中には男女が数人。 セイン曰く『政府のお偉方』である。 「聖門はどこにあるの?」 前置きもなしにリチェが問う。いつか聞いた冷たい声で。 「世界が滅べば・・・・その男も死ぬんだぞっ・・・」 ロゼを指差して言う男。 明らかに声が震えている。 怯えている。目の前の年端もいかぬ少女に。 魔女の声を聞いてはならぬ。それは滅びの旋律。破壊の音色。 聖献の一節が頭に浮かぶ。 「死なないわ。」 リチェが言う。その声に決意を秘めて。 「世界は滅びない。」 気圧される。たった一人の少女の言葉に。 部屋が沈黙に包まれた。 そして――ロゼが短剣を抜いた。 セインの体が倒れる。 ゆっくりと。 それを見た男が呟く。 「所詮この程度か・・・・」 それはさながらリチェとセインとの出会いの場面―― 男は知らない。 リチェとセインが出会ったとき。一体何が起こったのかを。 ――男の胸を剣が貫いた。 「な・・・・?」 「なるほど・・・な・・・」 聞こえるのはセインの声。 苦しそうだが、十分生きている。 「何故・・・?」 「弾は・・・当たってなかったんだな。」 男の問には答えずただ淡々と言葉を紡ぐ。 「昔の経験ってやつだ・・・・幻覚で惑わされて・・・・」 男の懐にある子袋を地面に叩きつける。 黒い粉が、舞い散ることなく地面に積もる。 「麻薬・・・か・・・幻覚作用を持った・・・」 幻覚とは即ち対象のない知覚。 知らぬ間に薬をかがされ微妙に狙いを逸らされていた。 「てめえだけは無事って訳かよ・・・どんな訓練を受けたんだか・・・」 「く・・・お・・・」 「死にやがれ。」 勢いをつけて剣を引き抜く。 紅く染まった刀身はただ奇妙な光沢を放っていた。 男の体が崩れ落ちる。 それを見て、セインもまた膝をついた。 「よしっ!セインを回収しに行くわよっ!」 政府の人間から脅し取った地図を引っ掴み、リチェが声を上げる。 「了解。」 壁に埋まった短剣を引き抜いて答える。 短剣の横には男の頭。 本気で殺そうかとも思ったが何とか思い止まった。 泡を吹いている男には構わず踵を返す。 「『踊れ鉄』っ!」 どご。 鈍い音を立てて崩れる天井。 その上には満天の星空。――ここは最上階である。 「リチェ。」 「なによ。」 振り向いてくる少女に、自分でもどうして声をかけたのか分からぬまま口を開く。 考えた上で言った言葉ではなかった。 ただ――口から言葉が出てきただけだ。 「死ぬな。」 「・・・・・死なないわよ。」 紅い瞳がこちらを向く。 曇りもなく、陰りもない。 活気に満ちた少女の目。 「絶対に、あたしは死なない。」 それは多分。 自分の欲しがっていた答えなのだろう。 「『包め空』。」 視界が高く、暗い夜空を映し出す。 冷たい風が体温を奪う。 リチェと目が合い、一つ頷く。 時間は少ない。急がなければならない。 夜の森は言うまでもなくとことん不気味だった。 「痛え・・・」 聞く者のいない不満を漏らす。 「生きてるってあんま素晴らしくねぇな。」 実際危なかった。 あの男が心臓ではなく頭を狙っていたとしたら―― 間違いなく自分は死んでいた。 ――弾は防具で止まっている。 無論ただの皮鎧に弾を止める力などあろう筈がない。 リチェルの施した防御魔法。 威力は大分落ちているが、弾を止めるには十分だった。 骨にひびが入ったかもしれないが、死ぬよりかはまだマシだろう。 「あいつらはうまくやったかねぇ・・・」 おそらくは問題ないだろう。 彼らは強い。 -------------------------------------------------------------------------------- 暗い森に光が、灯った。 「洞窟?」 「ここのすぐ近くにあるらしいのよ。」 セインの傷を癒しつつ、リチェ。 「歩いて――20分。その洞窟の奥に聖門がある。」 地図を読みながらロゼが言う。 擬似電球に照らし出された黒い瞳が微かに翳る。 「問題は――」 「この騒ぎでその洞窟の周りにも兵が配置されたかも。 ――ん、終わり。」 治癒を終わらせたリチェが言葉を続ける。 「あたしを殺せば自動的に魂は聖門の元へと引き寄せられる。 魔力が磁石の役割をしてるみたい。」 「リチェの護衛と、敵戦力の制圧。――」 「んで世界を救う、か。難しいな。」 セインの科白にロゼが頷く。 こっちの切り札はリチェの存在と、戦闘能力。 ただそれだけである。 リチェの魔力も、ロゼの体力も、セインの弾丸も底なしではない。 ――方法はあるのだ。あまりにも簡単すぎる方法が。 ここでリチェを殺せばいい。 ただそれだけで。世界は生きられる。 それができたらどんなに楽だろう。 ――自分は――生きたいと願ってしまったから。 「適材適所。」 唐突に声を上げた少女に一同の視線が集まる。 心底楽しそうな顔でリチェが言った。 「働いてもらうわよ。あんた達。」 ∇第8章へ |
3514 | 聖戦の旋律。〜第8章(オリジナル) | 雪畑 | 7/12-12:50 |
記事番号3503へのコメント 聖戦の旋律。〜第8章 「怪物だぁぁっっっ!!!」 誰かの上げた悲鳴にその場の空気がどよめいた。 洞窟を死守せよ。 それが上からの命令。 その為に今ここに、政府直属の騎士部隊が配置されている。 確かに皆屈強な戦士だが、怪物と戦えるほどの戦闘能力は有していない。 どんっっ!! どこからか響いた爆音に。 人間ではありえない森の中の蠢く気配に。 騎士部隊隊長は迷わず指示を出した。 「撤退しろっっ!!」 ――怪物の異常繁殖。 それによって最近滅ぼされている町や村が増えたと聞く。 命令は絶対だし、処罰は怖い。 だが――自分の命を失うよりかはマシである。 皆は隊長命令に従った。 -------------------------------------------------------------------------------- 「怪物だぁっ!わぁっ!!死ぬっ!!痛いっ!!助けてっっ!!」 「もう十分だ。」 セインの声――というか絶叫――を淡々とした声が止める。 見れば洞窟の前から兵が撤収していっている。 みんな命は惜しいらしい。 作戦は成功、と言う事だろう。 ――嘘は言ってない。 怪物はいる。リチェの呼び出した怪物が数匹ほど。 『適当に驚かす。』 と言っていたが・・・・ 「もっと追い詰めるのよっっ!!」 横で怪物たちを操るリチェが楽しそうに見えるのはロゼの気のせいだろうか。 溜息をついて、言う。 「そのくらいにしておけ。」 「了解っ!!突入するわよっ!!」 草葉の陰に身を潜めていた3人が立ち上がった。 「我ながらいい作戦だったわね〜」 呟くリチェ。 ロゼも同感だったが口には出さずに言う。 「荒っぽい。」 「結果よければ全て良しっ。」 洞窟の入り口はこちらを飲み込まんがごとく黒く、深い。 その前に立ち、リチェが呟く。 「『導け魂』・・・・」 音もなく、生まれた光。 洞窟に一歩、足を踏み入れる。 「やってくれ。」 ロゼの科白に頷いて―― 「『築け砦』っ!」 ごごっ。 音を立てて洞窟の入り口を岩が塞いだ。 ――誰にも邪魔されるわけにはいかない。 湿っぽい空気が絡みつく。 明かりに照らし出されてみれば洞窟はさほど深くはなかった。 ふと――リチェが足を止める。 つられたわけではないがロゼもセインも足を止めていた。 洞窟の奥から感じるのは純粋な威圧感―― 何百、何千年もその身に闇を封じてきた、管理者たるものの絶望。 さほど大きくはない、しかし強大な――堅牢な聖門―― 「来たわよ。」 リチェの声が響いて―― 『魔女よ。我は汝を喰うことができぬ。』 その響きが消える間もなく新しい声が響く。 頭の中に。 ――違和感を感じる。 「喰われに来たんじゃない。方法を見つけに来たの。」 『方法など――存在せぬ。』 「そんなのてめえの思い込みじゃねえか。」 リチェと、セインと、管理者と。 3人の会話を聞きながらロゼは違和感を感じていた。 (どこかで――聞いた。) 何かを聞いたはずなのに思い出せない。 いつ――?あれは・・・・確か・・・・ ・・・・強き・・・・力を・・・・ 「・・・・リチェが・・・・私を・・・・喰う・・・・」 「ロゼ?」 セインの声も耳に入らない。 確かにあの時、カヴァンは、リチェの父親は言った。 「リチェは・・・・生贄とは違う?」 『そのとおりだ、聡き者。』 「どういうこと?」 リチェの問いかけはこちらに向けられたものだった。 だが答えたのは管理者。 『我が寿命―― 我が身体は生贄を持ってしても治せないほど闇に蝕まれてしまった。 もはや管理者としての責を全うする事はできぬ。』 誰も、何も言わない。 ただ管理者の声だけが響く。 『魔法の力とは本来目印に過ぎぬ。 炎を熾し、水を宿し、風を操り、地を守る程度の力。 魔女よ。汝の力は強すぎる。その力は魔法ではない。』 「じゃあ・・・なんだって言うのよ。」 半ば呆然としながらリチェが言う。 『汝が力は秩序と混沌の力。 我に代わり、新たなる管理者としての力。』 無慈悲にも。 声は留まらなかった。 『赤紅き魔女よ、我を受け入れよ! 汝が新たなるこの世の管理者となる。』 「リチェっ!」 崩れ落ちる少女の体。 その身体は魂が入ってないかのように軽い。 「リチェ!リチェっ!」 「おいロゼ・・・」 ぞっとしたようなセインの声。 今、目の前で。 音もなく、静かに聖門が開いていった。 暗い闇。 初めもなく終わりもない闇。 (ここは聖門の中?あたしは・・・・・) リチェは彷徨う。 体の重みすら感じない開放感の中、意識だけが溶け出していく。 (ロゼ?セイン?2人ともどこに・・・・?) ――リチェっ! 声が聞こえた。 記憶の奔流に押し流されそうになりながらも耳を澄ます。 壊れた玩具。世界。生贄。部品。道具。世界の管理者。 ――死ぬな。 単語と言葉と文法と。 頭を駆け巡る激しい情報にリチェは心が冷えるのを感じた。 (あたしが・・・あたしじゃなくなっていく・・・・・?) 喪失が、リチェを襲った。 「ごめん・・・・何か・・・取り乱しちゃって。」 世界は狂ってる、そう言った男は珍しく迷いを見せながら言った。 「大丈夫か?」 間の抜けた科白ではある。 それに気付くほどの余裕もなかったが。 「うん。弱気になるなんてあたしらしくな・・・・」 「お前はただの女だ。」 少女の科白を遮って、言う。 「ただの女だ。だから・・・我慢しなくていい。」 「我慢なんて・・・そんな・・・」 「泣きたいなら泣け。」 それはいつもどおり、簡潔な言葉だった。 だが暖かく心地よい。 いつの間にか、涙を流してることにも気付かなかった。 「世界の都合に惑わされるな。」 いつもとは違う、優しい声。 彼なりに心配していてくれたのに、それに気付かなかった。 「お前はお前でいい。」 「ロゼ・・・」 「だから・・・・死ぬなリチェ・・・・」 ――死ぬな。 (あたしは・・・・生きるために生まれてきたのよ・・・・) 彼女は魔法を――いや、秩序と混沌の力を使おうとした。 何故かと聞かれたら、分からない、と答えるしかない。 ただ――今、この時のために魔法は存在する。 そんな気がした。 唱えるのはその破壊力ゆえ今まで一度も使った事のない魔法。 リチェはゆっくりと、目を閉じた。 ∇第9章へ |
3550 | 暑いですね日本の夏。スイカがおいしいですね日本の夏。 | 蜂巻 | 7/15-15:18 |
記事番号3514へのコメント 雪畑さんは No.3514「聖戦の旋律。〜第8章(オリジナル)」で書きました。 > ボケッとしていたらば、第7章と、8章が・・・・遅くなってすみませんです。 第7章。 おお!やっぱりセインオットコマエですね! なんだか、だんだんセインファンに傾いていくような・・・。 セインの戦闘シーンかっこいいです。 リチェみたいに特技(魔法)があるわけでなく、ロゼみたいに問答無用に強いわけでもない、そこで、頭を使って隙をつく・・・う〜んしぶい。 なんてかっこいいんだ、セイン! 第8章 個人的にはセインがあんまり活躍してないのでちょっと残念です(涙) しかし、ロゼとリチェの密室でのやり取り(笑)がわかったりと、とってもおいしかったです♪ ロゼが素敵でした。しかし、「お前はただの女だ。」というセリフには、ちょっとビックリしてしまいました。 ところでリチェは生贄ではなく、新しい管理者(内定)だったんですね。 生贄になって喰われるのも悲しいですが、管理者になってロゼとのコンビ解消もかなり悲しいです。 そんなことになったら、ロゼが大荒れになるのでは? ←願望 ロゼの、「だから・・・・死ぬなリチェ・・・・」っていうとこ。 お願いだから死なないでくれって言っているように聞こえました。 なんかせつないですな〜。 ああ、リチェはどうなってしまうんでしょう? ちゃんと生還できるのか気になります。 では!とっても面白かったです。こんなに早く続きありがとうございました〜 いよいよ第9章突入ですね!楽しみにしています。 |
3560 | 同感です♪ | 雪畑 | 7/16-10:40 |
記事番号3550へのコメント > ボケッとしていたらば、第7章と、8章が・・・・遅くなってすみませんです。 私は最近夏ボケ(?)ぎみ・・・ うう・・・話が進まん。 > セインの戦闘シーンかっこいいです。 > リチェみたいに特技(魔法)があるわけでなく、ロゼみたいに問答無用に強いわけでもない、そこで、頭を使って隙をつく・・・う〜んしぶい。 > なんてかっこいいんだ、セイン! 自分でもお気に入りのシーンです。 セインは戦闘能力とかを別にして精神的に凄く強いと思うんですよ。 リチェもロゼももちろん強いんですけど。 リチェは脆いとこあるし。ロゼは人間っぽくないですし。(爆) > しかし、ロゼとリチェの密室でのやり取り(笑)がわかったりと、とってもおいしかったです♪ > ロゼが素敵でした。しかし、「お前はただの女だ。」というセリフには、ちょっとビックリしてしまいました。 かっこいいロゼを演出してみました。(笑) リチェのこと誰より分かってるのがロゼなんですね。 でも言葉が少ない為に伝わらないとゆー(笑) > 生贄になって喰われるのも悲しいですが、管理者になってロゼとのコンビ解消もかなり悲しいです。 私には悲劇はかけません。(きっぱり) どうしてもギャグにかたむいてしまふ。 > そんなことになったら、ロゼが大荒れになるのでは? ←願望 あ。いいかも。(爆) でもロゼが大荒れするとロゼっぽくない・・・でも荒れて欲しいな・・・ > ロゼの、「だから・・・・死ぬなリチェ・・・・」っていうとこ。 > お願いだから死なないでくれって言っているように聞こえました。 > なんかせつないですな〜。 ロゼはこれまで何人も人を殺してきて、命、とかそういうことに関してが麻痺しちゃってたんですね。 一生懸命生きようとするリチェにあって命の素晴らしさ(笑)を知ったと言うか。 ・・・分かりにくいな。(笑) > では!とっても面白かったです。こんなに早く続きありがとうございました〜 > いよいよ第9章突入ですね!楽しみにしています。 感想ありがとうございました! 英検2次試験3時間前の雪畑でしたっ!(勉強しろよ) |