◆−聖戦の旋律。〜第9章−雪畑(7/17-19:56)No.3585
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3585聖戦の旋律。〜第9章雪畑 7/17-19:56


聖戦の旋律。〜第9章


聖門の奥には闇。
ただの闇。それ以上でもそれ以下でもない真の闇。
その闇に恐怖を感じたわけではない。
だが体の震えは止まらなかった。
「リチェ・・・・」
動かない、少女の体。
目を閉じれば思い出すことができる。
リチェの笑った顔。怒った顔。呆れた顔と。寂しげな顔。
だが腕の中の少女の体は動かない。
死んだわけではない。ただ動かない。
冷静になろうとする意思とは裏腹に、体は熱い。
「死んだのか・・・・?」
セインの問いに首を振る。
「分からない。」
『魂を奪った。身体は惰性で生きているだけだ。』
頭の中に響く声。
顔を上げないまま、ロゼは言った。
「リチェはお前達を助けようとした。」
『人の器では出来る事とできない事がある。それを見極めるのが賢さだ。』
「リチェを助ける方法は?」
『存在せぬ。』
簡単な答え。
涙が出そうなほど、胸の奥から熱い塊がこみ上げる。
「ふざけるな。」
『汝の言う事は理解できない。』
落ち着いた声。
苛立ちをつのらせて、それを隠そうともせず言う。
「セイン。リチェを助けるぞ。
 あいつがこんな事で死ぬなんて俺は許さん。」
「・・・・・俺もだよ。」
後ろから聞こえてくるのはいつもどおりのセインの声。
一つ頷いて、ロゼは剣を抜き放った。



――全ての民よ。
魔女の声を聞いてはならぬ。それは滅びの旋律。破壊の音色。
魔女よ。
民に声を聞かせてはならぬ。
汝は光より出でし者。即ち女神。
秩序より生まれし混沌の孤児。
汝が声は世界を滅ぼし、世界を造り、世界を救う為にあり。
「・・・・死にたかったの?」
声が出る。
そのことに驚きつつもリチェは聖門に語りかけた。
「ずっと――闇の中で生きてきて・・・・」
手に溢れる魔力。
闇の中、強い光が見えた気がした。
そして。――ゆっくりと。言葉は紡がれた。
「水と炎。土と風。夜と昼。鉄と錆。光と闇――
 世界を織り成す全ての存在を。
 闇と光とその境界を―― 」
詩を吟じるかの如く。
美しい呪文が放たれる。
「『神よ裁け。女神よ審判を。』っ!」  
その破壊力ゆえ今まで一度も使った事のない魔法。
――世界を滅ぼす為の魔法。
世界に――亀裂が入った。



『何が出来るというのだ。汝のその小さな身で。』
はっきり言ってこれという手段は何も浮かばなかった。
銃身を持つ手が滑る。
冷や汗が体から止まらなかった。
「黙りやがれ。」
誤魔化すように、セインは言った。
「てめえらの都合でリチェルさんを見殺しにしろって言うのかよ。」
――反応したのは管理者ではなかった。
目の前に立つロゼが動く。
きぃんっ。
息吹も足音も踏み込みの音も聞こえない。
ただ鋭い音が耳へと入る。
剣の折れる音。
聖門を断ち切らんとはなたれた一撃。
だが――
『無駄だ。』
聖門には傷一つついていない。
『金属の塊で我を傷つける事は叶わぬ。』
「魔法、か?」
いつもにも増して冷酷な、冷徹なロゼの声。
折れた剣を片手に提げ、これ以上ないほど楽な姿勢で立っている。
その姿にセインは言い知れぬ寒気を覚えた。
ロゼ=ストゥル。
彼は一体、何者なのか。
人間にしては強すぎる。
剣の腕。身体能力。
人間には限界というものがある。
いくら体を鍛えても。人間である以上超えられない壁はある。
しかしロゼはその壁を越えている。
(くそったれ・・・・)
考えても答えは出ない。
ならば考える意味はない。
『無駄だ・・・・』
「無駄って誰が決めたんだよ。
 リチェルさんが今までどれだけ辛い思いしてきたか知ってんのか?
 それもこれも全部てめえを助けるためじゃねぇか!」
言葉を吐き捨てる。
「行けよロゼ。リチェルさんに惚れてんだろ!?
 ならかっこいいとこ見せてやれよ。」
自分は何を言ったのか。
言いながら自分の言葉に納得する。
ロゼの強さ。非情さ。冷徹さ。
全てはリチェルを護る為。
護りたい者があるが故の強さ。
誰にも真似は出来ない信念。
セインが、聖門が見据えるなか。言葉はなく、ロゼが歩き出す。
聖門へと。
『何を・・・・!?正気か!?』
「・・・・さあな。」
言い残し。ロゼが闇の中へと消えていく。
リチェを助ける為。
聖門という殻に包まれた嘲りの闇へと。
一歩足を踏み入れ――そして唐突に。
闇が、弾けた。
 


世界を破滅させるに値する力は何の抵抗もなく放たれた。
しかし体力の消費も激しい。
(ヤバイ・・・・力が・・・・)
体に力が入らない。
力の渦の中でリチェは焦りを覚えた。
自分を保っていられなくなる。
強すぎた力の代償。
忘我の境で思考だけが回る。
管理者は世界に平穏を与えた。
管理者が世界から得るものは?
(何もない・・・・・・・・)
人間は誰かを犠牲にしなければ生きていけない。
世界は生贄を喰わなければ生きていけない。
「――ふざけないで。」
混乱していると分かりつつも言葉は止まらない。
「世界も人間も光も闇も――
 みんな生きようとしてるだけじゃない。
 それだけなのにどうして人から文句つけられなきゃいけないっていうの!?
 世界の為に死ねだとか。
 闇を抑えて生き続けろとか。
 納得できるわけないじゃない・・・」
暖かいものが身を包む。
それに気付かない振りをしてリチェは言葉を続けた。
「あたしは死にたくない。だから生きる。
 父さんの命を犠牲にして生きる。絶対・・・」
身を包むのは純粋な力。
おそらくは父がこの空間に残していったのであろう力。
「・・・・父さんはこうなる事が分かってたの?」
問い掛けてももちろん答えは返ってこない。
ただ、尽きかけていた体力が確実に回復していく。
頬に冷たいものを感じながら、リチェは言葉を搾り出した。
「ありがと・・・父さん。・・・・・・・・・・バイバイ。」
そして――闇が、砕けた。



∇第10章へ


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3616今年はまだ一度もカキ氷食べてないです。蜂巻 7/21-05:46
記事番号3585へのコメント

雪畑さんは No.3585「聖戦の旋律。〜第9章」で書きました。
>
>聖戦の旋律。〜第9章

 リチェ〜死んじゃ嫌だー!!
 管理者さんあっさりと酷いこと言ってますね。
 ロゼがキレるのむりないっす。
 冷静に怒っているセイン、ナイスです!

 ロゼ〜ホントに一体何者なんだー!!
 そんなとこ入っちゃって大丈夫なんでしょうか?
 しかし、ここでかっこよくリチェを助けて欲しいものですな♪

 おとうさーーーん!!
 最後にやっぱりお父さん!
 かわいい娘のためにやってくれました!
 お父さんありがとうですね!

 いや〜一気に読んでしまいました。
 今回特にスピード感がありましたね。
 もしや一気に書ききってしまわれたのでは?
 とっても面白かったです!!
 いよいよ二ケタ台に突入ですね!
 では! すごく面白かったです。
 
 そういえば、試験3時間前だったそうで・・・お疲れ様でした。
 影ながら良い結果が出るよう祈っています。
 だから続きを書いてくださ・・・ゲフッ!←天誅。
 
 ・・・失礼しました。 

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3628お祭り行って食べました♪雪畑 7/22-13:20
記事番号3616へのコメント

> リチェ〜死んじゃ嫌だー!!
> 管理者さんあっさりと酷いこと言ってますね。
結構気に入ってるんですけどね、管理者。
彼(?)も迷ってるんだと思います。リチェのことを殺したくないから迷うんですよ。

> ロゼがキレるのむりないっす。
> 冷静に怒っているセイン、ナイスです!
怒った男の人あんまし見たことないので想像で書きました。(笑)
自分で書いて「ロゼもセインもかっこいい・・・」とか思ってた私は・・・・(爆)

> ロゼ〜ホントに一体何者なんだー!!
> そんなとこ入っちゃって大丈夫なんでしょうか?
> しかし、ここでかっこよくリチェを助けて欲しいものですな♪
ロゼはただの人間です。いやまぢで。(笑)
リチェを護りたいが故の強さ、ですから♪

> おとうさーーーん!!
> 最後にやっぱりお父さん!
> かわいい娘のためにやってくれました!
> お父さんありがとうですね!
親子愛。父と娘の組み合わせが自分的に好きっす。

> いや〜一気に読んでしまいました。
> 今回特にスピード感がありましたね。
> もしや一気に書ききってしまわれたのでは?
雪畑はいつも一気です。(爆)
後で見直ししたりはしますけど・・・章一つ書くのに1時間くらいかな?

> とっても面白かったです!!
> いよいよ二ケタ台に突入ですね!
> では! すごく面白かったです。
いやあ。(照)
あと3話くらいで終わる予定です。
最後までお付き合いしてくださいっ!
 
> そういえば、試験3時間前だったそうで・・・お疲れ様でした。
> 影ながら良い結果が出るよう祈っています。
落ちましたね。(爆)
英語は苦手なんだぁっっ!!

> だから続きを書いてくださ・・・ゲフッ!←天誅。
ごほごほごほごほっっ!! 

> ・・・失礼しました。
ごほごほ・・・いえいえ。
で、何の話でしたっけ?(笑)
あ、終わりですか。
であであ〜♪雪畑でした♪