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3646 | 聖戦の旋律。〜第10章 | 雪畑 | 7/25-10:51 |
聖戦の旋律。〜第10章 父が死に母が死に師匠が死んで一人になった。 4ヶ月前、赤い瞳をもつ少女に会うまでは。 一人でいるのは楽な事だ。 気を使う必要もない。対人関係で悩む事もない。 ――寂しさを耐える事が出来れば。 例え寂しさに耐えうる事が出来たとしても。寂しさが消えるわけではない。 決して、消えない。 『でも寂しそう・・・・』 耳を掠める声。いつか、誰かから聞いた科白。 ロゼは闇の中へ手を伸ばした。 何も見えないが何かがある。代わりなど望むべくもない何かが。 ――その手が何かを掴んだ。 掴んで――意識が飛ぶ。 目の前を、流れる金色の筋が見えたような気がした。 ――眩しい光が目覚めを誘う。 ロゼは目を開いた。 朝焼けが東の空を紅く染めている。――朝焼け? (俺は・・・・) 洞窟の中にいたはずだ。 自分が何をしていたか思い出そうとする。だが記憶がひどく曖昧で―― 「な・・・・・・・」 周囲を見渡して、思わず声をあげる。 山の一部が消えていた。 破壊されたのでも崩されたのでもない。まるで最初からそこになかったかのように消えていた。 そして―― 「セイン?」 自分の足元には一人の少年。 死んだのかと思うほど全く動かないが、脈はある。 (一体・・・・) いきなり聖門が――いや闇が、爆発した。 その爆発の衝撃で気を失って――あれからどれだけ経ったのか。 岩に突き刺さった折れた自分の剣。手を掛けたが抜く気にはなれず立ち尽くす。 「リチェ・・・・・・・・っ!」 無意識に呟いた名前に全身の血が凍る。 いつも傍にいる少女の姿が見当たらない。 辺りに視線をめぐらせ気配を探る。 「リチェっ!いるのか?返事しろ!」 返事はなかった。が―― 「リチェ・・・・・・・」 物音に振り向く。少女はそこにいた。 金色の髪が朝焼けの光で朱金に染まっている。 無事な事に安堵するが、声を掛けないでと言わんばかりの少女の雰囲気に動けない。 「何があった?」 掠れた声で問い掛ける。 「吹っ飛ばしたの・・・全部。聖門とその中の闇を。 管理者を――殺したの。」 何も言えないまま、言葉は続いた。 「何か別の手があったのかも・・・・でもこれしか出来なかった。」 手を掛けたままの折れた剣。 呪文を呟きリチェが手を触れると刃こぼれもなく再生される。 「お前は・・・どうなる。」 「聖門は消えた。中の闇も。もうあたしは必要ない。 ただ――もう闇を管理するものはいない。人は自分のやることに責任を持たなくちゃいけない。」 戦争、飢餓によって闇が増えれば―― また聖門が必要になる。 怪物が増え、人は成す術も無く滅ぶだろう。 「それでいいんだ。」 リチェは震えていた。しかし涙は流さなかった。 手の中の剣を鞘にしまい、言葉を選ぶ。 「お前の判断は正しい、少なくとも俺はそう思う。」 リチェが自分の髪を撫でる。 彼女が迷っている時にするしぐさ。 沈黙は長かった。 -------------------------------------------------------------------------------- 「乾杯っ!」 場末の酒場はいつになくにぎやかだった。 ロゼは深く、息を肺から絞り出した。 酒場に渦巻くのは酒とタバコと香水のにおい。 下卑た笑いを見せる男共。 明らかに浮いているリチェを見て、連れて来なければ良かったと後悔の念が押し寄せる。 「乾杯はいいんだけどよ・・・なんでか頭が痛いんだが・・・」 頭をさすって言うセインに、 「気のせいだ。」 ロゼは簡単に答えを返した。 リチェが笑いを堪えているのが横目に見える。 何の事はない。 セインがなかなか起きないので剣の鞘で頭を殴っただけである。 もちろんそれを説明する気はさらさらない。 「聖門を壊し、尚且つ山を消滅させたくらいの力だ。 その余波を受けたんだろう。」 「余波でたんこぶか?まあいいけどよ・・・」 「朝三暮四。」 「・・・・どういう意味なんだ?」 「口先でうまく人を騙す事ってこと。」 セインとリチェの会話を聞き流しつつ、酒を飲む。 世界が救われて。リチェが無事で。 それが何故か当たり前の事のように思える。 「あ。」 「?どうした。」 「今日、あたしの誕生日だ・・・・」 一同の動きが止まる。 「あはは・・・すっかり忘れてた。」 「そういやリチェルさんって何歳なんだ?」 酒のつまみをかじりつつ笑って言うリチェにたずねるセイン。 そういえばセインと出会ってまだ1ヶ月もたっていない。 「今日で17。 そうそう誕生日のお祝いって事で、ここの支払いあんた達持ちね♪」 真夜中もとっくに過ぎた頃。 ガス灯の光に照らされているとはいえ夜道は暗い。 片手にリチェを抱え、ロゼはその中を歩いていた。 かなり強い酒を飲み、軽い少女とはいえ人間を担いでいると言うのにその歩調は乱れもしない。 財布も軽い。 「うえ・・・ちょっと飲みすぎちまったか・・・・」 隣をぶらぶら歩く少年をにらみつけて言う。 「殴るぞ。」 リチェを抱えている今の状態では殴る事は出来ないが。 「リチェに酒を飲ませるな、と言わなかったか?」 「俺は14の時にはもう飲んでたって。」 何を言っても無駄だと判断して溜息だけをつく。 腕の中の少女は酒に飲まれて爆睡していた。 17歳の少女にしては酒に強い方かもしれないがロゼたちと飲み交わすにはかなりの無理があったようだ。 「あんたはいつ酒の味覚えたんだ?」 「さあな。」 セインに適当な答えを返し、リチェを抱えなおす。 金色の髪が歩調に合わせて揺れていた。 「・・・・つまんねー奴・・・・なんでリチェルさんはあんたと旅してるんだ?」 「魔法の使用頻度を落とすためだろう。」 「それなら別に俺だって、他の誰かでもいいじゃねぇか。」 「リチェに聞け。」 実を言うとロゼにも何故かは分からないのだが。 護衛の代わりなどいくらでもいるし、その中にはリチェを恐れない物好きもいるだろう。 「ったく。てめぇなんかにゃリチェルさんはもったいねえよ。 やっぱ俺みたいな・・・・っておい聞いてんのか?」 「ああ。」 しばしの沈黙。 ぽつり、とセインが漏らす。 「無理、してるんじゃねえか?リチェルさん。」 「してるだろう。」 あっさりと答える。 セインには全て話したつもりである。 「犠牲が大きすぎた。」 「・・・・・管理者、か結局何だったんだ?」 意識せずリチェの顔に視線をやる。 閉じられたまぶたの中にあるはずの真紅の瞳。 「管理者は滅びを望んでいた、と。」 「リチェルさんがいったのか?」 「ああ。」 闇を背負って、これからも背負いつづけて。 尽きない絶望と終わらない辛苦。 ――我に滅びを与えてはくれまいか。 『これしか出来なかった。』 リチェの声が頭に響く。 否定したいはずなのに否定の言葉が出てこない。 「リチェルさんなら大丈夫、って思ってんのか?」 「違う。」 即答したこちらに少なからず驚いたのか。 こちらを向いたセインと視線が合った。 16、いや17歳。 そんな少女がこんな場面に立って、大丈夫なはずがない。 分かってはいる。けれども―― 「俺に、何が出来る?」 何かが足りない。 人間としてリチェにかける言葉が見付からない。 「・・・・なんか・・・すっきりしねぇよな。」 セインの言葉はロゼの心の葛藤を表していた。 ∇第11章へ |
3669 | 聖戦の旋律。〜最終章 | 雪畑 | 7/26-23:15 |
記事番号3646へのコメント 聖戦の旋律。〜最終章 49年の人生をこの小さな墓標は背負っている。 ――カヴァン=フィアドーレここに眠る。―― そしてもう一つ。 永遠にも近い時を背負った小さな墓標。 ――名も無き管理者ここに眠る―― 「終わった・・・けどちょっと後味悪いかな・・・・」 リチェが呟きが聞こえる。 ロゼとセインに背を向けて墓標に花を捧げる少女。 その背はいつもより小さく見えた、のはロゼの気のせいだったろうか。 誤魔化すため――何を誤魔化すのかは分からないまま、口を開く。 「これからどうするんだ?」 「行きたいとこがあんのよ。」 少女の顔は見えなかったが声は思ったよりはっきりしている。 ――その事に何故か安心、する。 「そりゃまたどこだ?」 と、セイン。 振り向いたリチェは何時もと同じ悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。 「王都レスタ。」 「王都ぉ?」 「そう、王都。」 声をあげるセインを予想して言ったのか、その目にはしてやったりと光が灯っていた。 王都レスタ。 政府本部――というか国会があり皇居を持つ都市。 人口ではリス=カラリア――通称リッカ――に劣るもののこの世界有数の大都市である。 政府直属の保安警察も常駐しており治安のよさでは世界一を誇っている。 「王都に何の用事がある?」 「りべんぢ。」 すっくと立って、背伸びしてこちらの顔を直視。 一言一言はっきり言ってくる。 「い〜い? あたしは政府の勝手で我儘で自己中心的で且つ自分本位な考え方のせいで 16年も命を狙われつづけてきたのよ。 許されると思う?許せないわね。つーわけで復讐よ。」 「例えば?」 「・・・・カラスの群れを召喚して皇居の前にたむろさせるとか。 なんか縁起悪くってやな感じ。」 「・・・・・・お前な。」 爆笑するセインと正反対に、ロゼは深いため息を――だんだんと癖になるつつある――ついた。 「ま、王都に行ってから考えるわよ。」 「適当だな。」 「臨機応変。」 風が吹き、ふわりと金色の髪がたなびいた。 肩越しに振り向いてリチェが言ってくる。 「あと、さ。ありがとね。」 「え?」 思わず間抜けな声をあげる。 「闇の中でさ。あんた手、掴んでくれなかったら迷うとこだった。 だからありがと。」 照れたのか、多少紅くなった顔を隠すように甲高い声があがる。 「文句ある!?」 「いや・・・・」 笑みが零れる。 心からの笑いを理性でとめられるはずもなかった。 彼女が立ち直れたのだ、と言う事実。 「ロゼが・・・・笑ってる? うわ〜珍し。ほらほらセイン。」 「おお、ほんとだ。はじめて見たなぁ。ロゼの笑顔。」 「俺は見世物か・・・・」 とりあえず、セインの頭に鞘を振り下ろす。 頭を抱えてうずくまるセインと爆笑するリチェと。 その向こうに続く道と青い空。 わだかまりはなくなっていた。リチェの笑顔に触れたからかもしれない。 セインも同じだろう。 リチェが声をあげる――― 「行くわよっ。」 王都レスタに向けて。 また新しい旅が始まる。 終幕 |
3689 | もう終わってしまうんですね・・。 | 蜂巻 | 7/29-00:33 |
記事番号3669へのコメント 雪畑さんこんばんは〜 蜂巻です。 『聖戦の旋律』完成おめでとうございます。 これで終わりかと思うと少しさびしいものを感じますが、ご苦労様でした。 とっても面白かったです。 第10章 むぅ〜思っていたよりあっさりと管理者さんは逝ってしまいましたね。 しかし、そのあっさりした終焉と、リチェの迷い(戸惑い・・というより、やり切れなさかな?)、そしてその後の祝杯に、こう・・・何といった物でしょうか、『リアル』で、容赦ないものを感じました。 世界の動向なんて関係なくお酒飲んでる人がいたり、ロゼとセインは漫才しているし、リチェは誕生日だし。 何があっても、そのあとに日常が来るってのはある意味辛いと思います。 そーですねぇ〜。例えば失恋して、大泣きして、涙はともかく鼻水まで出てきているのにどこにもティッシュが無いってとこですかね。 しかし、その日常のおかげで復活したりもしますからね。 ・・・う〜 言いたいことがまとまりません。 セインの言葉どうり、すっきりしなくて、なんだかそこが良かったです、蜂巻は。 そういえば、セインがたくさんしゃべっていて嬉しかったです! 14の時にはもう飲んでいたと言う事は、そのころには『酒の味』がわかる男になっていたってことですよね?! さすが男前! ロゼはリゼを抱えている・・・とう事はもしやアノ抱きかたしているんでしょうか? 役得だ。 最終章 『りべんぢ』・・・たのしそー! これからは王都に向けて、諸国漫遊りべんぢの旅ですね〜♪ それにしても、ロゼの笑顔・・いいですー! やっぱりハッピーエンドはいいですね♪ 彼らのたのしそうな旅路につられて旅行したくなってしまいました。 海・・は暑いし山にしようかなー、海外に行くには金が無いし(涙) カキ氷・・いいな〜。 蜂巻は夏祭りにも行ってません。 ああ、一日が40時間あったら・・・。 クーラーがあるので、蚊取り線香も使ってないし、スイカぐらいです。今の所夏を感じるものは・・・。 このまま暑さをうやむやにして秋を迎えていいものか、とも思うのですが、実際ク〜ラ〜つけとかないと暑くてやってられないし(パソコン使っていると特に)。 む!愚痴ってしまった。 失礼しました。 では!すごく面白かったです!! 雪畑さんの作品が読めて蜂巻は幸せです。 そして次回作に期待しておりますぅ〜〜〜〜(はぁと) 雪畑さんに感謝を込めて。 ありがとうございました。 |
3702 | 最後までありがとうございました | 雪畑 | 7/29-21:05 |
記事番号3689へのコメント >雪畑さんこんばんは〜 蜂巻です。 こんばんわ。歯が痛くて夜も眠れない雪畑です。(笑) > 『聖戦の旋律』完成おめでとうございます。 > これで終わりかと思うと少しさびしいものを感じますが、ご苦労様でした。 > とっても面白かったです。 ありがとうございますっ! ふぅ。よーやく終わったぜ。(笑) だらだら続けても意味無いんですがやっぱり終わっちゃうと寂しいですね。 > むぅ〜思っていたよりあっさりと管理者さんは逝ってしまいましたね。 管理者は一番書くのに気を使いました。 すっごい苦労してる人(?)ですから・・・ 簡単な言葉で表せない部分もあると思うんですよ。 > しかし、そのあっさりした終焉と、リチェの迷い(戸惑い・・というより、やり切れなさかな?)、そしてその後の祝杯に、こう・・・何といった物でしょうか、『リアル』で、容赦ないものを感じました。 悪者倒してはっぴーえんど。世界に平和が戻った。 ・・・・なんてのは無理ですよね。 みんな人間ですから。 管理者を殺すだけならリチェが最初管理者に会ったときに出来たんです。 もちろん自分は助かりたい。でも自分が生きることで誰かが死ぬのは嫌だ。 だからみんなを助ける方法を探す旅に出たんです。 結局はお父さんも管理人さんも死んでしまって・・・・複雑だと思いますよ。 > 世界の動向なんて関係なくお酒飲んでる人がいたり、ロゼとセインは漫才しているし、リチェは誕生日だし。 > 何があっても、そのあとに日常が来るってのはある意味辛いと思います。 そうっ。そうなんですっ! 世界がどうなってるのか知らない人が、知らないまま日常を暮らしてる。 世界と人が滅びない限り、それは永遠に続くんですよ。 > そーですねぇ〜。例えば失恋して、大泣きして、涙はともかく鼻水まで出てきているのにどこにもティッシュが無いってとこですかね。 > しかし、その日常のおかげで復活したりもしますからね。 > ・・・う〜 言いたいことがまとまりません。 > セインの言葉どうり、すっきりしなくて、なんだかそこが良かったです、蜂巻は。 すっきりかたずけようと思ったんですが・・・・そうしない方が良いかな、と。 というのは嘘で雪畑に文才が無かったのです。(笑) > そういえば、セインがたくさんしゃべっていて嬉しかったです! > 14の時にはもう飲んでいたと言う事は、そのころには『酒の味』がわかる男になっていたってことですよね?! さすが男前! ロゼとセインの会話って意外に少なかったり。 2人の語らいが書きたかったんです。(爆) セインにも色々過去がある、ってことで。男だねぇ。 > ロゼはリゼを抱えている・・・とう事はもしやアノ抱きかたしているんでしょうか? 役得だ。 くそ。うらやましいぞ。(笑) > 『りべんぢ』・・・たのしそー! > これからは王都に向けて、諸国漫遊りべんぢの旅ですね〜♪ こういう切り替えの出来る所がリチェの凄い所ですね♪ > それにしても、ロゼの笑顔・・いいですー! > やっぱりハッピーエンドはいいですね♪ > 彼らのたのしそうな旅路につられて旅行したくなってしまいました。 > 海・・は暑いし山にしようかなー、海外に行くには金が無いし(涙) そう思ってくれれば嬉しいです♪ 金が無いのは私も同じ。ついでにリチェ達にも金は有りません。(笑) > カキ氷・・いいな〜。 > 蜂巻は夏祭りにも行ってません。 > ああ、一日が40時間あったら・・・。 ゆっくり寝てゆっくりネットして・・・・うふふふふ・・・(壊) > クーラーがあるので、蚊取り線香も使ってないし、スイカぐらいです。今の所夏を感じるものは・・・。 > このまま暑さをうやむやにして秋を迎えていいものか、とも思うのですが、実際ク〜ラ〜つけとかないと暑くてやってられないし(パソコン使っていると特に)。 スイカは大好きです♪ あの水気たっぷりの瓜科の果実。(笑) 秋・・・食欲の秋。(待て) クーラーは現代文明の誇れるブツですよ。(笑) > では!すごく面白かったです!! > 雪畑さんの作品が読めて蜂巻は幸せです。 > そして次回作に期待しておりますぅ〜〜〜〜(はぁと) そこまで言ってくださるなんて・・・めっちゃ感激です! 次回作。。。はっはっは。(汗) > 雪畑さんに感謝を込めて。 > > ありがとうございました。 最後までお付き合いくださりありがとうございました。 小説書きの端くれとして、幸せです! であであっ。またどこかでお会いしましょう! |