◆−翼の設計図(ゼルオンリーの話です)≪導入編≫−ねんねこ(8/15-12:29)No.3923 ┗翼の設計図≪本編≫−ねんねこ(8/15-12:32)No.3924 ┗翼の設計図≪言い訳編≫−ねんねこ(8/15-12:34)No.3925 ┗遅くなりました〜(汗)−ゆっちぃ(8/15-23:53)No.3931 ┗遅くないです。大丈夫です。−ねんねこ(8/16-10:45)No.3934
3923 | 翼の設計図(ゼルオンリーの話です)≪導入編≫ | ねんねこ | 8/15-12:29 |
こんにちは、ねんねこです。(いい加減新しいはじめの言葉を考えないと…何時まで経ってもこの出だしのような気が…汗) 今回は完全なるゼルの話です。話の流れとしては、先に投稿されている『秘密の約束』との連携なのですが、『ゼルは好き。でもゼルアメなんぞ読みたかない』という方も中にはいらっしゃると思うのであえて独立させていただきました。この話は、ねんねこが数年前に書いたお話を駄文フロッピーなるものに収めたまま、そのフロッピーが紛失し、最近になって見つかったので書き直した、という涙ぐましい経過がありまして(涙ぐましい?)個人的には気に入っています。題名にもなっている『翼の設計図』は知っている人もいらっしゃるかもしれませんが、藤井フミヤさん作詞の歌です。最近発売された、V6のアルバム『HAPPY』に収録されたとてもいい曲なので、お金に余裕のある方は、レンタルして聞いてみてはいかがでしょうか。 ところで、話を読めば分かると思いますが、作中に出てくるクラヴィスという人物は、ねんねこのオリジナル・キャラクターです。『秘密の約束』に詳しい説明がされていますが、前述したとおり、ゼルアメなんぞ死んでも読まん、という方がいらっしゃるかもしれないので、ここで簡単な説明をさせて頂きます。クラヴィス=ヴァレンタインは、世界でも名高い(という事にしておいてください)神官の家ヴァレンタイン家の三男坊です。裏の世界のレゾのことを知り、ゼルガディスと共に仕えていました。レゾは色々な部門に部下を分け、それぞれ自分の長所を生かせるようにしましたが、クラヴィスは、情報集めの仕事にまわされていました。このことを頭の隅っこにおいて頂いてから、読んでいただけると話が少しはわかりやすくなるかもしれません。わけがわからないのは、私のボキャブラリー不足のせいです。作中には、原作、アニメ、どちらに照らし合わせても当てはまらない矛盾点が多々あるとは思いますが、そんなときは『ああ、ねんねこも大変なんだなぁ』と思っていただけると、嬉しい限りであります。 それではお付き合いくださいませ。(ぺこり) |
3924 | 翼の設計図≪本編≫ | ねんねこ | 8/15-12:32 |
記事番号3923へのコメント 『翼の設計図』 彼らが再会した遺跡と、ゼルガディスの仲間が先に向かった村の間にある土手に、ゼルガディスとクラヴィスは何を言うわけでもなく、ただ座っていた。日はもう傾いて、空をほんのり茜色に染めている。 二人の視線は、手に紙飛行機を持った男の子二人に注がれている。 時間を忘れて無邪気に走り回っていた。それを見つめて、ふと、クラヴィスは何かを思い出したように口を開いた。 「そういや、初めて会った時、お前泣いてたっけ」 一人でびーび―泣いていた幼いゼルガディスを思い出して、クラヴィスは笑った。ゼルガディスが恥ずかしそうに苦笑いする。 「あの時は仕方なかったんだ。父さんにもらった模型飛行機、どうやっても飛ばせなかったんだから」 One day 蒼い模型飛行機 あの日の君を乗せてる 「馬鹿だな、そうじゃなくってここをこうするのだよ。いいか、ほらっ!」 ゆっくりとクラヴィスの手を離れ、模型飛行機が空を舞い上がった。泣いていたゼルがディスは、笑顔になって、クラヴィスを見る。クラヴィスも笑顔でブイサインをした。 二人は、ゆっくりと地面に引き寄せられていく飛行機に目をやり、同時にそれを追いかけた。 その少し離れたところで、クラヴィスを連れてきた赤い法衣の男が優しい笑みを浮かべていた。 「帰る時、どうしてももっと遠くに飛ばしたいって駄々こねてたお前は今でも忘れられないよ」 「どうがんばっても紙飛行機と同じくらいの距離しか飛ばなかったろ? せっかくの模型飛行機だったのに」 言い訳するようにゼルガディスは視線の先の紙飛行機を指差した。 紙飛行機を飛ばしては、すぐに落ちてくるそれを追いかける、そんな動作を繰り返す子供たち。 クラヴィスは、苦笑した。 「でも、『物理を勉強すれば、もっとよく飛ばせるかもな』てオレが別れ際に言った冗談を真に受けて、二年で物理学を学びきったお前にゃ正直驚いたよ」 One night 星と星をつないで 翼の設計図 書いた 翼の部分の改造をし終わって、二人はそのまま敷地の庭に飛び出した。そこそこに広い庭の端っこで、模型飛行機を飛ばす。 飛行機の飛距離は飛躍的に伸びた。 大空に高く飛び上がり、ずっと遠くまで風に乗って飛んでいく。そのうち、敷地を囲んだ壁を通り越していってしまったのを呆然の見送って、ゼルガディスもクラヴィスもただ顔を見合わせた。 「成功しすぎちゃったみたいだね」 どちらからともなく、そう呟いた。 「広い野原を探しに行こう 夢を風に乗せて 遠くへ飛ばせてみよう」 敷地の周りに広がるうっそうとした森。赤法師レゾの力によって『迷いの森』となった森は、付近の住民には怖がられていたが、二人にとっては格好の遊び場所だった。その森をある規則で進んでいくと、急にぽかんと広がった空間があった。 何の変哲もない、ただの野原。 誰も知らない、二人だけの秘密の場所。 プロペラを追いかけて 君と走りつづけた 同じ空を見つめて 君と大地を蹴った 「あの時は……幸せだった。何も知らなかったから。何も分かってなかったから。ただ、毎日を繰り返して過ごしていたから」 自分の膝を抱え込んで、静かにゼルガディスが言った。 子供だった。 何も知らない子供だった。 レゾの思惑も。周りにいた大人たちの思惑も。『大切な用事があって旅をしている』両親の事も。自分の立場も。 何も知らず、何も分からず、ただ毎日を過ごしていた、あの日々。 クラヴィスの顔がわずかに曇った。何かを言おうとして、口を開きかけ…… 「あああああっ!」 子供たちの落胆の声にそちらを見れば、視線の先には、川に落ちる紙飛行機の姿。水に濡れた紙飛行機は無力にただ流されていくだけだった。 One day 壊れた模型飛行機 君は翼を拾った 「どういうことだよっ! これはっ!」 廊下に響いたクラヴィスの声に思わずゼルガディスは目を丸くした。 (あいつ……帰ってたのか?) クラヴィスは、通っていた学校を卒業してから、正式に『レゾの弟子』としてここに住み込みで『修行』することになった。とはいえ、この屋敷にいるということは、裏の顔のレゾに仕えている、ということと同値だった。彼は情報収集能力を買われて、この屋敷にいた。その彼が、ゼルガディスに『エルメキアの方に行く』と伝えてから、まだ数日しか経っていない。聞いた話じゃあ、あと二週間は戻ってこないと思っていたのに。 クラヴィスは仲間と話しているようだった。いろいろな所に入り込み、情報を集めてくる仕事をしているのは、彼だけではない。多くもなかったが。 今まで剣の稽古していたため、少し頬を上気させたまま、ゼルガディスは少し開いたドアの隙間から彼らがいる部屋を覗き込んだ。 堂々と部屋に入らなかったのは、単に仕事の邪魔をしてはいけないという小さな心配りだったのだが…… もしかしたら、これが始まりだったのかもしれない。 ゼルガディスが歩むことになる、辛く苦しい道のりの。 「落ち着けよ、クラヴィス」 「落ち着けだと!? 落ち着いていられるかっ!? これを知って!!」 何を知ったのかは分からなかったが、彼はひどく怒っているようだった。こんなに激怒する姿をみたのは、長年共にいたゼルガディスも初めてだった。 「あいつが何回外に出た!? 何でここが『迷いの森』になっているのかもよく分かったよっ! ずっと閉じ込めてたんだ、逃げないようにっ! 十年も!!」 だんっ! クラヴィスが、乱暴に足を床に叩きつける。 「何が『レゾの後継者』だ!! ふざけるなっ!」 (……レゾの後継者……何の話だ……?) 話から考えれば、自分のことだった。ここに来てから、十年経つ。外には……彼の祖父に連れられて、セイルーンに行ったことがあるだけで、あとはずっとここの屋敷にいたような気がする。 「あいつは何だっ!? ここの連中の人形かっ!? ただの普通の子供だろ!? みんなと同じように普通に生まれて、普通に育てられて……血なんか関係ない、そうだろ!?」 「クラヴィス……やめろ。自分と重ねるな。『私情を交えず、感情的にもならない』それが俺達の仕事の……」 「黙れっ!!」 クラヴィスの一喝で、彼より一回りは年上の男が゛びくんと大きく身体を震わせ、黙り込んだ。 クラヴィスはそのまま、男の胸倉を掴んで、うつむいた。 彼が立っているところの床に何かが数滴こぼれる。 嗚咽をもらしながら、クラヴィスは呟いた。 「オレなんかまだマシな方じゃねぇか……ゼルに比べたら…… 両親が殺されたことも知らずに十年も待ちつづけているんだよ、あいつは…… オレ……あいつにどんな顔すればいいかわかんないよ……」 その言葉にゼルガディスは一瞬目を見開いた。 頭を鈍器で殴られたような感覚に襲われる。 (ころ……され…た……?) 父さんと母さん。あまりよくは覚えていないけど、優しかった。 怒っている姿は見たことがなかった気がする。 頭をいろんなことが駆け巡る。 忘れかけた両親との思い出。 皆が優しくしてくれた、この屋敷の思い出。 少し辛かった剣の稽古と魔術の勉強。 いろんな学問に行った事もない国の世界情勢の把握。 そして……彼の尊敬する祖父、赤法師レゾ。 (じいちゃん……) 彼はゆっくりとその場を離れ、よろよろとした歩きで目的の場所に向かった。 全てを聞くために。 赤法師レゾの元へ。 部屋の中では、ついに堰を切ったように泣き出したクラヴィスの鳴き声だけが響いていた。 強くなりたい。 その日から、彼はあまり笑わなくなった。 自分の周りの人間のことをあまり信じなくなった。 強くなりたい。 ただひたすら、そのことだけが頭を占領し、毎日の大半を剣と魔術の修行に明け暮れた。 自分が強かったら。自分が守られなければならないほど弱くなかったなら。 両親は自分を守って死ななかったかもしれないのに。 あの日、あの後、レゾに問い詰め、ゼルガディスは全てを聞いた。 十年前、ここに連れてこられた日。 両親は、自分を『レゾの後継者』としようとしたレゾを崇めていた人間から自分を守り……殺された。 『強くなりたい』 レゾの腕の中で大泣きしたゼルガディスが絶えず言っていたその言葉に、彼はただうつむいただけだった。 それから数ヶ月の後。 レゾがたった一言、ゼルガディスに告げた。 『強くなりたいですか?』 その言葉に彼は迷うことなく頷き………異形の身体を手に入れた。 キメラとなったゼルガディスを待っていたのは、彼を見て『化け物だ』という仲間たちの姿だった。 彼は、次々と屋敷の人間を殺していった。 怒りに任せて、外に出た。 見知らぬ街でやはり人を惨殺した。 ただ、人を殺し、一人になった時、彼はひどく苦しんでいた。 後悔と心の痛みに耐えていた。 久しぶりに屋敷に戻りレゾに全てを報告した後、気がついてみれば、幼いころ馬鹿みたいに駆けずり回った野原にいた。 後ろに気配を感じ、振り向きもせずゼルガディスは口を開いた。 振り向かなくても誰だか分かっている。 ここは彼との秘密の場所。 「……何しに来たんだ? オレを化け物扱いするためか? クラヴィス」 クラヴィス=ヴァレンタイン。 彼が持った唯一の友達だった。 クラヴィスと最後に会ったのは、『エルメキアに行く』といったあの日である。その数日後のあの告白のあとすぐにクラヴィスは解雇処分となって、屋敷を出ざるを得なかった。この屋敷のことをしているにも関わらず、殺されずに追い出されただけ、というほとんど特例になったのは、レゾの言葉があったからだと屋敷の者は噂をしていた。 クラヴィスは、ゼルガディスの言葉をはっ、と鼻で笑った。 「化け物? 誰が? オレの前にいるお前がか? 冗談だろ。 オレにはお前が人間にしか見えないね。 ゼルガディス=グレイワーズという名前の親友<ダチ>にしか見えないよっ!」 「………」 初めての反応にゼルガディスは少々戸惑った。 仲間は誰もそんなことを言ってはくれなかった。 「……泣いていいんだよ、ゼル」 先程とは打って変わって優しく言うクラヴィス。ゼルガディスの身体が微かに震えた。 「辛かったんだろ? 両親の事を聞いて。 怖かったんだろ? 自分を怖がる人間どもが。 でも後悔できなかった。騙されたとはいえ、自分で選んだ道だったから。 泣けなかった。泣いたら、自分のしてきた事が全部涙で流れてしまうかもしれなかったから。忘れてしまいそうだったから。 でも、死んだ人間は生き返らない。選んだ道を最初に戻してやり直すことはできない」 「だから!?」 ゼルガディスは勢いよく振り返り、両腕を広げた。 「だから泣いていいのかっ!? 『死んでしまったのはしょうがない』『間違った道を選んだのはしょうがない』って言えばそれでいいのか!?」 静かにクラヴィスは頭を振った。 「『後ろを向くな』って事だよ。 お前は生きてる。死んでない。何時までも『あの時こうすれば』なんて過去にとらわれてても何も変わりゃしないんだよ。 『前を見ろ』。何が見える? 何を見えないんだろ? 『後ろを向いている』から。『前』には、希望と未来しかないんだよ」 「俺には希望なんかない」 即答するゼルガディスにクラヴィスは呆れた顔をして見せた。 「お前、『希望』がなんだか分かって言ってんのか? 将来に良い事を期待する気持ちも確かに希望だけど、『あることを成就させようと願い望むこと』……『望み』もまた『希望』なんだよ」 クラヴィスは真正面からゼルガディスを見据えた。 「ゼルガディス。お前の『希望』はなんだ? 『死にたい』なんぞ野暮なこというなよ。そんなのは最高に馬鹿馬鹿しい事だからな」 「俺は……」 先程のレゾとの会話を思い出す。 心まで凍てつきそうな冷たい気配。 昔の彼はあんなではなかった。 昔と変わった自分の祖父。 自分をこんな姿にしたレゾ。 自分の必要といってくれていた…祖父。 彼の『希望』は決まった。 「俺はレゾを止めたい。そして……元の姿に戻りたい」 「……それでいいんだ。探し回った甲斐があったよ」 クラヴィスは満足げに頷いた。 二人は顔を見合わせて、数年ぶりに笑った。 昔ほど、純粋無垢な笑いではなかったけれど。 「……で、ゼル」 「あん?」 「泣いていいんだぜ?」 どうぞ、オレの胸でよかったら、と両腕を広げるクラヴィスに、ゼルガディスは『馬鹿』と即答して、空を見上げた。 優しい夕焼けの色。キメラにされてから、この色は嫌悪の色でしかなかった。 あの男の法衣と同じ……赤い色。 「……なぁ、クラヴィス」 「何だ?」 「悪いけど……ほんのちょっと、肩貸してくれ」 クラヴィスは微笑んで了承した。 そして――ゼルガディスは少しだけ肩を震わせた。 「遠い未来へ約束しよう きっとまた逢えるよ さあ行こう それぞれの空」 「まったく素直じゃないんだから。『泣きたい』なら『泣きたい』って言やぁいいのに」 「……泣いてない……ただ涙が流れただけだ」 「はは、良い言い訳だ」 クラヴィスは笑った。ゼルガディスもつられて口元に笑みを浮かべる。 「あの時から……」 ゼルガディスは空を見上げた。あの時と同じ、夕焼け色。 「あの時から、この色がまた好きになったよ。子供のころに思ってた暖かい、って気持ちがなんとなく思い出せる気がする」 「……そうだな」 土手に旅装束を着た男女が現れる。 片方の黒髪の少年の方がわずかに顔を曇らせた。もう一人の茶髪の子供が黒髪の子供の顔を不思議そうに覗き込む。 黒髪の方が何かを言っている。茶髪が落胆したような表情を浮かべるが、やはり何かを言っている。 最後に小指を絡ませると、黒髪の方が男女に近づいていった。きっと彼らがあの少年の両親なのだろう。 母親が残った茶髪の子にぺこり、とお辞儀をした。 「また逢おうね!!」 口々にそう叫んで、二人の子供は手を振り合った。 「ちなみにだな、オレの『希望』はお前の手助けをすることさ。今決めたよ」 「……今?」 クラヴィスの言葉に、目を真っ赤にしたゼルガディスが尋ねた。が、ゼルガディスは問いには答えず、クラヴィスは続ける。 「うむ。オレはオレができる最大限の力を使って、お前を助ける。 元の身体に戻るための情報が必要だろう? オレはお前にその情報を提供してやる。クビにされたとはいえ、一応情報収集能力はぴか一だ。 だが、そのためにはお前のそばにはいてやれない。苦しいことや辛いことを分かち合うことはできない。同じ未来は歩けない」 ゼルガディスが無言でクラヴィスを見る。 「お前は先にレゾを止めろ。その間にオレは情報を集める。約束しよう。また逢うんだ、オレたちは」 「あいつは……レゾは強い。もしかしたら殺されるかもしれない」 「死なないよ」 「何で言い切れんだ? もしかして、『オレは予知能力があるんだ』とか言うんだったら、迷わず指差して笑うぞ」 きっぱりと言ってくるゼルガディスを半眼で睨みつける。 「……お前、律儀に約束守るだろ。だから、『オレと逢う』約束を果たすまで、お前は死なない。いや、死ねないんだ、絶対に」 クラヴィスが小指を差し出す。 それは小さいころから約束するたびに行われる儀式。 ゼルガディスは苦笑した。 自分の小指をクラヴィスの小指に絡ませながら、答える。 「分かった、死なない。だからお前も約束しろよ。あんまり無茶はしないで元の体に戻るための方法を先に探しててくれ」 「当たり前」 いたずらっぽく笑って、クラヴィスが言った。 どちらからともなく絡ませていた小指を離し、 ふとゼルガディスは尋ねた。 「なあ、何で俺のこと全部分かったんだ?」 その問いに、何かを思い出すようにクラヴィスは苦笑し、答えた。 「同じだったからさ、オレも」 プロペラを止めた時 僕は少し笑った 沈む夕日の中で 僕はひとりになった クラヴィスと別れた時、外はもう暗くなりつつあった。 彼は、もういない。 『自分の希望』をかなえるために、未来へ歩いていった。 屋敷に戻ってゼルガディスは、とある部屋の前に立った。そこは、レゾによって集められた人間たちの部屋。以前の自分の暴走で、その数は、三、四人程度しか残ってはいなかったが。 ノックして、入る。 いたのは二人の男たち。一人は魔道士風の、もう一人は槍斧を持った中年剣士風の男。二人とも最近ここに来たらしい。らしい、というのは、ゼルガディスがあまり興味を持たず紹介を受けても彼らを一瞥するだけだったからだ。 記憶の片隅にある名前を引っ張り出して、口にする。 「ゾルフに、ロディマス、だったな」 二人の男、ゾルフとロディマスは席を立って緊張した面持ちで頷いた。ゼルガディスは二人に座るより手振りをして、手近な椅子を引っ張り出し自らも腰をかける。 「お前たちにちょっとした昔話を聞いてもらいたい。それから頼みがある。受けるかどうかは、まぁ自分たちで決めてくれ。強制はしないから」 「同じ?」 ゼルガディスの問いに、クラヴィスは首の後ろに手をまわし、鎖をはずした。鎖の輪の中に、さらに小さな輪があった。 「指輪?」 「好きな女ができてさ。結婚したんだ」 言葉が過去形なのにゼルガディスは気がついた。が、クラヴィスは先を続ける。 「駆け落ちでもして、静かに暮らそうてことになって、ライゼールの田舎に引っ込んでたんだけどさ。殺されたんだ、彼女」 ほんの少しの時間だった。 買い物を頼まれ、近くの店から戻ってくる時に、聞こえてきた彼女の悲鳴。 持っていた袋を投げ出し、慌てて戻ってみれば、数人の男たちが窓から逃げるところだった。目の前には、大量の血の池。その真ん中に愛する妻の姿。 彼女の名前を呼びながら、彼女に駆け寄った。 治療呪文は……間に合いそうにもなかった。それでも呪を紡ぐ彼の口を彼女は手で抑える。血の気の失せた真っ白な腕と顔。 彼女は薄れ行く視界と意識の中、何かを言うため唇を動かし―― 腕が、力なくたれた。 『こんな私を愛してくれてありがとう。幸せになってね』 (幸せになんかなれるもんか) 彼の頭に響く彼女の遺言にクラヴィスは一人ごちた。 「彼女を殺すように指示したのが自分の爺さんだって事はすぐ分かったよ。家に連れ戻されたオレに一言『死んだ娘のことなど忘れてしまえ』なんてのたまりやがったから。彼女のことを一言もオレは言ってなかったのに。 オレは迷わず爺さんを殺したよ。誰にも気付かれないような毒で」 クラヴィスの祖父は何より自分の家柄を尊重する人間だった。由緒正しき神官家の末裔には、それなりの家柄でないと駄目だ、といつも口にしていた。 だから殺したのだ。孤児だった彼女を。 クラヴィスは他人事のように淡々と話す。ゼルガディスには、そんな彼の姿が痛々しかったが。 「その後、爺さんの遺品を整理するフリをして、あの男どもの事を調べたよ。どこに住んでいるか、どんな家族がいるのか、全て」 はじめは家族を殺した。 自分の気持ちを、大切なものを失う気持ちを味あわせるために。 それから、一人ずつ殺してやった。 でも……残ったのは何もなかった。 『彼女は死んだ』という事実だけ。 それを認めた途端、後悔が押し寄せてきた。今更何をしたって、彼女や殺した人間たちは戻ってこないのに。 殺した男の家族たちの中に、彼女と同い年くらいの若い女の子もいた。 もしかしたら、その子にも自分と同じような男がいたかもしれないのに。 こんな思いをするのはとても辛いと自分がよく知っているのに。 クラヴィスは自嘲して、指輪を握り締めた。 「どうすればいいのか分からなくなって、初めて彼女の言葉を理解したよ。 『愛してくれて、ありがとう。幸せになって』 『幸せになって』っていうのは『前に進め』てことだった。彼女の最後の希望だったんだ。オレに託したんだ。『自分にとらわれず、前を向いて歩いてけ』って言う自分の希望を」 クラヴィスは微笑んだ。吹っ切れたように。 「とはいっても、何時までも彼女の『希望』に従って、生きていくのも気が引けるし。忘れて新しい『希望』を持つことにした。だから、『今』決めた」 先程無視された問いの答えなのだろう。ゼルガディスが苦笑した。 「死んだ人間の希望を背負って生きるより、生きている人間と一緒に希望背負った方が幸せだろ」 言って、クラヴィスは自分の手の中のものを遠く高く放り投げた。 「いいのか?」 「いいのさ。オレはもう『幸せ』だから」 指輪は広い野原のどこかに埋もれた。 「広い野原を探しに行こう 夢を風に乗せて 遠くへ飛ばせてみよう」 「レゾは……死んだ。倒すことでしか、あいつを止められなかった」 ゼルガディスは立ち上がった。地面に接していた部分を手で払う。 「ゾルフとロディマスも死んだ。悲しかったけど、涙は出なかった。 『俺の為に死ねるのなら、それでいい』って言ってくれていたから、彼らを哀れんで泣くのは、あいつらに対してひどい侮辱のような気がしてさ」 「そうだな」 クラヴィスも立ち上がる。やはり、接していたところを手で払い。 いきなり目の前で拳を向けられてギョッとする。ゼルガディスが軽く手を開き、そしてまた閉じる。 ゼルガディスの中指からたれているそれを見て、さらに目を見開いて、手で額を抑えた。 ゼルガディスが笑う。意地悪そうな、いだずらをした子供がするようなそんな笑み。 「ま、俺の意見を言わせてもらうとな。 『過去』はなにしたって変えられない。いくら『前』を見ても。でも、変えられないからって忘れちゃ駄目だ。未来で同じ間違いをしてしまうかもしれないから。 振り向いちゃいけない。『前』を見ることができないから。でも、思い出すことくらいはしなきゃいけないんだ。嫌な過去ばかりじゃない。たまには思い出してやんないと、いくらなんでもかわいそうだ。彼女の存在否定して、消しちまうようでさ」 言われて苦笑した。彼の手から、それをひったくると首に手を回す。 数年前の定位置に戻ったそれを改めて見つめる。 忘れようとして捨てたはずの彼女との結婚指輪。 「一応仕返しのつもりだ。あの時は散々言い散らかしてくれたからな」 ひねくれた親友の言葉にクラヴィスは負けじと呆れ顔をしてみせた。 「よくもまぁ、あそこで見つけられたもんだ」 「目はいい方なんでね。思ったよりも早く見つけられたよ」 ははと可笑しそうに笑いながら、ゼルガディスは言った。 プロペラを追いかけて 僕は走りつづけた 同じ空を見つめて 僕は大地を蹴った 「んじゃ、そろそろ行くわ、オレ」 「家に帰るのか?」 クラヴィスは肩をすくめた。 「さぁ、どうしようかな。兄貴どもは後継ぎ争いに夢中だし…ってまぁ爺さんを殺ったのはオレだから原因はオレにあんだけど…… まあ、彼女の墓参りでも行きながら考えるさ。彼女の墓も彼女入れたっきり行ってない気がするし」 「本っ気で忘れようとしたんか…己は…」 呆れたようにゼルガディスが言って――なにやらもの欲しそうな顔をするクラヴィスと目が合う。 「……なんだ? その目は」 「別に……」 「あのなぁ……別にもう約束しなきゃ会わないなんて仲じゃないだろ? 気が向いたら逢いに行くって」 「お前、前もそう言ったろ。『気が向いたら』を待ってたら一年半経ってたぞ」 「をうっ!?」 ジト目でみられて、ゼルガディスは思わず明後日の方を向いた。 頬を掻きながら、ゼルガディスは言う。 「ま……まぁ、約束するんだったら、『今度は一緒に旅しよう』ってところか? 考えてみたら、遊んだ記憶はあるけど、旅した記憶がないし。とはいえ、いい年こいた男と二人旅、つーのもなんか気が引けるが…」 はは、そりゃそーだ、とクラヴィスが笑う。 「んだば、次に逢う時までにお互い女引っ掛けて、楽しく四人旅といこうや」 「そーだな」 ゼルガディスが笑って同意した。 二人はいつもの通り小指を絡ます。子供の時からやってきた約束を交わした後の儀式。 端から見ればとてつもなく子供くさい馬鹿みたいな光景だったが、二人にはそんな気持ちはなかった。 クラヴィスはくるり、と背を向けて歩き出した。 「じゃーな」 振り返らず、肩越しに手を振る。 あくまで後ろを振り返らない。『あいつらしいな』とゼルがディスは苦笑しながら見送った。 土手にいた少年に目をやると、友達(と呼んでもいいだろう)と別れた後、ずっと川に石を投げ込んでいたが、すっくと立ち上がって村の方に歩いていくのが見える。きっと家路についたのだろう。 ゼルガディスは一度だけ軽く伸びをすると、やはり村に向かって歩き出す。 彼の歩むべき道を進むために。 静かに、だがしっかりと大地を蹴った。 今はもう誰もいない『迷いの森』の中の古い大きな屋敷。 二階の隅にあるこの屋敷で十年を過ごした少年の部屋。 時が流れ、全てが遠い過去の遺物となった。 だが、棚の上に大事そうにおいてある蒼い模型飛行機だけは、今でもなお色鮮やかに残っている。 またいつか、広い野原を風に乗って駆け抜けるために。 ≪終わり≫ |
3925 | 翼の設計図≪言い訳編≫ | ねんねこ | 8/15-12:34 |
記事番号3924へのコメント いかがだったでしょうか(どきどき)。前述した駄文フロッピーに入っていた話を編集、加筆して、歌の歌詞にあわせてみました。 いきなり唐突ではありますが、皆さんはガウリイとゼルの関係をどう思われているでしょうか。リナとアメリアと違って歳の離れた彼らは、どうも仲間、とか良きライバルというイメージがあっても、どうしても親友というイメージは考えられませんでした。(あくまでねんねこの意見です。) そして、なぜゼルガディスがゾルフとロディマスという部下を引き連れていたか。それは、ロディマスとゾルフが『自分のことを話してくれた』という台詞で分かりましたが、なぜ人嫌いで人間不信に陥ったゼルが二人に過去を話そうとしたか。 この話を思いついたのは、その二点が大きな理由です。ゼルに何らかの接触があって、初めてそれに心を開いた。だから、思い出したくもない自分の過去を話した。では誰が心を開かせたか。彼をよく知りもしない人間が言ったところで気休めにもならないと思い、親友と呼べる人間がいるのではないか、と思いつきました。その時点で、もうすでに何点か原作、アニメとの矛盾が生じてくるわけですが…(汗)まあ、許してください。なお、ゼルがいつもと口調が若干違っているのは、キャラが違うわけではなくて、自分のことを知っているクラヴィスに強がったり、自分を隠したりしてもまったく無意味であることをゼルが意識していたからです。ゼルには子供の時のような口調で喋ってもらいました。こんなのゼルじゃない、と思われた方はどうもすみません(ぺこり)。 初めてクラヴィスとゼルが会ったのは、クラヴィス七歳、ゼル五歳の時です。屋敷に閉じ込められるであろうゼルのためにレゾが連れてきました。でもクラヴィスは学校に通っていたのでまとまった休みの間しかいられず、一年に何度か会える程度のものでした。 ゼルが両親の話を聞いたのは、その十年後、十五歳の時です。レゾは彼に全てのことを話しました。裏設定として、ゼルの両親を殺した人間たちは、レゾによって殺されました。ゼルの母親はレゾのとって娘に相当します。そして、レゾが魔王に意識を食われたのもこのころ、ゼルの両親が死んだときです。娘を殺されたことで生まれた憎悪にまぎれて魔王がレゾを侵食していって、十年後。ゼルに全てを話した後で完全に意識をのっとられた、とねんねこは考えています。 ところで、途中で入っている歌詞の『模型飛行機』は、『ゼルとクラヴィスの友情の証』。『翼』は『友情』。『野原』は『自由』、『プロペラ』は『二人の時間』と考えて書いてみました。そこのところを考えて読み直してみると……自分にしてはこった作りだ(笑)と感じてしまいます。ちょっとそこのところはがんばってみました(汗)とはいえ、この世界に模型飛行機があるのかというツッコミは……自分でしたので勘弁してください(汗) 最後にクラヴィスについて。クラヴィスが結婚した彼女とは、クラヴィスがクビにされてからすぐに出会っています。最初は男たちに絡まれているのを助けたのですが、話を聞いているうちにとある人と重ねた。ずっと待っていた両親が殺され、一人ぼっちで生活している……そう、ゼルと彼女の境遇がほとんど一緒だった。明るく振舞う彼女に『悲しくないのかっ!?』と彼は怒るんですけど、彼女は笑って『何時までも泣いてくよくよしたってしょうがないわよ』と答えた。自分にない意見と考え方を持ったクラヴィスは、彼女と過ごすうちにだんだんと惹かれていって……結末はお話にあった通りです。ちなみに、クラヴィスがなぜクビにされた時殺されなかったかというのは、レゾが自分がいなくなったら、ゼルを止めることができるのはクラヴィスしかいないと判断したからです。 長い様で短い話でしたが、ねんねこにとっては思い入れのある話です。ただの自己満足で書いてみましたが、この話の感想やクラヴィスについてなど、思っていただけたことを書き込んでいただければ幸いです。 それでは、ねんねこでした。どうもお付き合いいただき、ありがとうございました(ぺこり) |
3931 | 遅くなりました〜(汗) | ゆっちぃ E-mail | 8/15-23:53 |
記事番号3925へのコメント 感想遅くなりましてすみませんι『秘密の約束』に感想つけた後 すぐにこちらにもレスしたかったんですが、時間なくって……… 結局あとまわしになっちゃいましたιごめんなさい(土下座) 言い訳からスタートしちゃいましたが、感想いきますね☆ 『翼の設計図』、読んでて胸が痛みました。 ゼルやクラヴィスさんが見てて凄く切なくって…………… それと同時に、辛い事いっぱい経験してきてるのに、それでもなお前を向いて未来にむかっていくゼルとクラヴィスさんは 泣きたいくらいかっこいいでした。 しつこいくらい言ってますが、ねんねこさんはやっぱり凄い方です。 どうしたらこんな風なゼルがかけるんでしょう?いや、ただ私に文才がないだけと言うのも あると思いますが…………ι それでは。いつも感想「もどき」になっててすみませんιゆっちぃでした☆ 追伸(?):ゼルとガウリイさん、普段は「仲間」ってかんじがします。 だって普段のガウリイさん、ぼけぼけですものv(←失礼ι) でも時折ガウリイさんは「頼れるお兄さん」みたいになる時があります(とゆっちぃは思います) ゼルとガウリイさんを「親友」と思ったことはあんましないですねι ガウリイさん、どこか大人びた所ありますし、ゼルは以外と子供っぽいところが あるように私には思えますから………… なんか、どーでもいい私の意見なんを長々と書いちゃいましたιごめんなさいです(ぺこり) |
3934 | 遅くないです。大丈夫です。 | ねんねこ | 8/16-10:45 |
記事番号3931へのコメント ゆっちぃさんは No.3931「遅くなりました〜(汗)」で書きました。 > > >感想遅くなりましてすみませんι『秘密の約束』に感想つけた後 >すぐにこちらにもレスしたかったんですが、時間なくって……… >結局あとまわしになっちゃいましたιごめんなさい(土下座) >言い訳からスタートしちゃいましたが、感想いきますね☆ > > >『翼の設計図』、読んでて胸が痛みました。 >ゼルやクラヴィスさんが見てて凄く切なくって…………… >それと同時に、辛い事いっぱい経験してきてるのに、それでもなお前を向いて未来にむかっていくゼルとクラヴィスさんは >泣きたいくらいかっこいいでした。 そう言って頂けると、とても嬉しいです^−^ 個人的には、クラヴィスとゼル、お互い持ってないものを持っていると思います。というか、そう思って書きました。ゼルは後ろしか見れなくて、前を向けなかった。クラヴィスは前を向きっぱなしで振り向けなかった。人は一人では生きていけないというけれど、確かにその通りだと思います。この二人も、普段は会うことはないけれど、いつも互いに互いを補い合っている……そんな関係にしたかったのですが……上手く伝わったでしょうか(汗) >しつこいくらい言ってますが、ねんねこさんはやっぱり凄い方です。 ……す……すごいって……(汗) いや、その……嬉しいです。ありがとうございます……(汗) いいのだろうか……こんなお褒めの言葉を頂いて…… >どうしたらこんな風なゼルがかけるんでしょう?いや、ただ私に文才がないだけと言うのも >あると思いますが…………ι > >それでは。いつも感想「もどき」になっててすみませんιゆっちぃでした☆ > >追伸(?):ゼルとガウリイさん、普段は「仲間」ってかんじがします。 > だって普段のガウリイさん、ぼけぼけですものv(←失礼ι) > でも時折ガウリイさんは「頼れるお兄さん」みたいになる時があります(とゆっちぃは思います) > ゼルとガウリイさんを「親友」と思ったことはあんましないですねι > ガウリイさん、どこか大人びた所ありますし、ゼルは以外と子供っぽいところが > あるように私には思えますから………… そうですね。ガウリイはあのパーティーの中では(ゼロス抜きで)とりあえず年長さんなので、何かあると、やんわりとみんなをまとめる。リナたちがケンカしてると、『ほらほら』と言いながらケンカ止めてそうだし…… > なんか、どーでもいい私の意見なんを長々と書いちゃいましたιごめんなさいです(ぺこり) いえいえ、感想を書いてくださってありがとうございます。それではまた。 ただいま、学園ものと普通もの(普通ものってなんじゃい……)の両方を勉強しながら進めていますんで、見つけたら読んでみてください。では。 |