◆−妖鳥王女(オリジナル) 序章−珠捕ヶ 九音(8/20-14:41)No.4005
 ┗妖鳥王女(オリジナル) 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の1−珠捕ヶ 九音(8/20-16:30)No.4006
  ┣妖鳥王女(オリジナル) 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の2−珠捕ヶ 九音(8/21-13:44)NEWNo.4030
  ┗妖鳥王女(オリジナル) 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の3−珠捕ヶ 九音(8/22-21:42)NEWNo.4066


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4005妖鳥王女(オリジナル) 序章珠捕ヶ 九音 E-mail 8/20-14:41

こんにちは、九音です。今回投稿させていただく作品はだいぶ昔のもの、になるのですが九音のオリジナル作品で、それまでも(今も)いろいろと書き散らしていたりするのですが、初めて完結させた思い出深い?お話です。そしてとっても長いので、調子を見ながら少しずつ投稿しようと思います。昔の作品なので今以上にあらも多いでしょうし、読んでいくうちに「をい、をい・・・」というところもありますので、加筆修正・検閲削除しながらと、思っております。
九音の原点といえる作品かもしれません、お楽しみいただければ幸いです。
それでは、本編へドウゾ。
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妖鳥王女 序章

金色の竜の国の初代王は聖竜王サーナリア、この国を永遠の光へ導きたもう。金色の光宿す者は、聖竜王の子供達、…なお、永久にこの国を讃えよ。太陽よ、この国を照らしたまえ!
銀色は闇、魔性の者ども、妖鳥王女ルーラミィ、その一族を統べる。東の方銀月華の国、いにしえの魔物の王国、…
サーナリアの年十二月、王、妖鳥王女を討ちて、ここに民のため善政をしき、新しい都を築く。なれど妖鳥王女の呪いの声は、幾千年の時を越えても、…そしてその御魂は月へ…
汝、月に魅せられることなかれ。月の光は汝を狂わす、また、銀色の光宿す者は容赦なく狩れ!そはこの国を滅ぼす元凶なり。
                      〜新世界創世記聖竜王の章〜


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4006妖鳥王女(オリジナル) 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の1珠捕ヶ 九音 E-mail 8/20-16:30
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妖鳥王女 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の1

サリュウラ・シャスティーヌ・ユクトゥール、金色の竜の国の大貴族アルヴァン・フォウ・ユクトゥール卿の愛娘、長く艶やかな山吹色の髪をなびかせ、淡い藤色の瞳に強い意志の光を宿す。世間には“炎竜の娘”とも称されるような、武芸に秀でたじゃじゃ馬。ただ今十六歳(ただし、あと一ヶ月ほどで十七歳)の彼女には恐いものなど何一つない、ただ一つの例外を除いては…それは
「サリュウラ、どちらにいらっしゃるのですか、サリュウラ?」
「うわー、どーしよう、こんなに早く見つかっちゃうなんて、どーしてなのよぅ、これじゃあ、あたしが折角苦労して屋敷を抜け出してきた意味が、あーん…どーしてぇ」
「あ、サリュウラ、こちらにいらしたのですか。捜しましたよ、さあ、帰りましょう。貴女のお父上と、御婚約者のラディーン殿がお待ちかねですよ、青竜の間で。どうしてこうもたびたびお屋敷を抜け出したりするのですか。あまり言いたくはありませんけれどもね、その都度呼ばれる私の身にもなって下さい。お屋敷に伺えば伺ったで、ラディーン殿にはすごい目で睨まれるし…私にだって仕事はあるのですよ、ね。サリュウラ、聞いていますか?」
きれいな空色の瞳が彼女の顔を覗き込む、まるでいたずらっ子のいたずらをさとす母親のように。彼女の瞳に映った人物は年の頃は二十歳そこそこ、長い蜂蜜色の髪、神秘的な雰囲気を辺りに漂わせ、かつ他者を圧倒するような風格の美青年。彼の名はシャナ・フィランゼア・ランシュア、そして、彼の本職は神官であるが、時々アルヴァン卿の仰せでこのようにサリュウラのお守りをするのだそーだ、本人曰く。
「…捜さなきゃいいのに」
「え?!」
「捜さなきゃいーのよ、シャナだって忙しいんでしょう!」
「何をそんなに怒っているんです?何か気に障ること言いましたか、私が」
シャナはキョトンとしている。
「何も言ってはいないわよ、ただねー、…やめた、どーせ俗世間から隔離されてるような神官サマにあたしの気持ちなんかわかりっこないわね」
可愛げのない言い方したな、そうは思ったが口から出てしまった言葉が今更引っ込めることが出来るわけでもなく…精一杯虚勢を張る。
「それは…貴女の本心は分かりませんね、昔も今も。行動パターンは読みやすいんですけれどもね。でも、察するに今回はおそらく…ラディーン殿ですか?」
「よくわかっているんじゃないの」
上目遣いに彼を睨み付ける。
「結構なお話だと思いますが…」
シャナはにっこりしながら言ったもんだ。
「ほんとーにそう思っているわけ、シャナ?」
「ええ、まぁ。考えてもごらんなさい、天下のじゃじゃ馬娘と名高い貴女を貰って下さるという奇特な方がまだ残っていらっしゃったなんて…これはもうボランティアですよ」
いたって真面目くさった表情で言う。
「ボランティアだろーがなんだろーが知らないけどねー、あたしは、あーいうやつってキライなのっ!あーいうお家自慢でノータリンの軟弱者がっ!」
あ…つい、思っていたこと全部言っちゃった。シャナってば目を白黒させ…てはいない。ニコニコしているだけ…コイツってばわかってんのかしら。
「聖竜王の子孫といわれる王家の流れを組むハルシャーン家。その若当主であるラディーン殿も“炎竜の娘”にかかっては“ノータリンの軟弱者”ですか。お気の毒なことですね」
「あたしはね、強い人が好き。武術だけじゃなくって、勿論精神的にも。ついでに顔も良ければいうことないんだけれど…」
「やれやれ…貴女の希望を満たす殿方なんて、神代の聖竜王サーナリアくらいなものじゃないのですか?あまり贅沢を言うといかず後家ですよ。お父上が悲しまれます」
「おーきなお世話よっ、その時はその時なのっ!なーにが婚約よ、結婚よ、じょーだんじゃないわっ、あたしはまだ十六歳なんだからーね!」
「やはりそれが本音だったのですね、サリュウラ?」
クスリと微笑んで空色の瞳の佳人は言う。結局のところ、あたしの行動パターン及び気持ちの奥底をお見通しなのだ、この神官サマは…さすがに生まれた時からの付き合いとでもいうべきなのだろうか?
とりあえずあたしは屋敷に帰ることにした。お目付役に見つかってはしょうがない。あのノータリンの顔を見るのは正直いってイヤだが、父様の立場ってものもあるからなー。
「サリュウラ、行きますよ」
「わかったわよ。でもねシャナ、あたし…本当にこの話って気が進まないの」
「でも、ラディーン殿にも、一つだけ貴女の希望を満たしているものがありますよ」
「なにが?」
「顔ですよ、カオ」
シャナが言うのもわかるような気がした、確かに。あたしの望んでもいない婚約者殿は、顔だけは良いのだ。シャナにも勝るとも劣らないほどに。
金色の髪、金色の瞳の整った顔立ちの美青年だが、このことは間違いもなく王家の血を引いていることを証明している。彼の家系をたどってみても、父は現国王の従兄で宰相であったハルシャーン卿、母にいたっては現国王の妹君メルディアナ王女、どこからみたってバリバリの王族なわけだ。
シャナから聞いたことがある。聖竜王の子孫はその聖なる金色の血を保つために近親婚を繰り返すとか。王の直系ともなると特に。そんなわけで、現国王ローファット王の奥方は、その姉君シェラザード妃。なんともフツーじゃあない家系だとは思う。大きな声ではとても言えるようなことではないが、シャナだって
「私もそう思いますよ。そもそも…」
ことさら、小声で言う。
「そもそも?」
「聖なる金色の血というのがね、私には気に入らない。その血を受け継いだ者達がはたして本当にサーナリアの遺志を継いでいるといえるのでしょうか?この国の先住民に対する残虐な仕打ちの数々…神職者として見過ごすことは出来ません。サーナリアが望んだ金色の竜の国は、少なくとも現在ある金色の竜の国とは別物であると…私には思えるのです」
神妙な面持ちで宣はった。
「神職者として…って、シャナ、国の第一位神官のあなたがそんなこと言っていいの?他の人に、ことに大司教様や国王府親衛隊にでも今の話を聞かれたりしたら神前裁判、神官位剥奪どころか、王家不敬罪で第一級犯罪人、良くて終身刑、下手をすれば火炙りの刑よ」
「アハハハハ…そうですね、はい。勿論私がこんな風に思っているなんて他人に知られたりしたらそれだけの罰は受けてしまいますよね。サリュウラは今の私の話を誰かに話す予定はありますか?」
澄んだ空色の瞳にじっと見据えられてあたしはすぐには返答できなかった。話の内容自体、一人の人間の一生を左右する深刻な意味を含んでいるものだというのにその左右されようかという当の本人は、いたって悠長に構えているのだ。
…話す予定はありますか、だってぇ?まったくもう、普段神殿の中というあまりに潔癖な空間の中にあって人と接する機会が少なすぎるからなのか、人を信じすぎよ、シャナ。世の中の人々なんて…あたしだって、でもあたしは…
「あたしは…自分の友人をたとえお金を積まれても売ったりなんかしないわよ、あたし自身が捕まって拷問を受けたりしたって口を割るもんですか!世界中の人々がみんなシャナの敵になったとしてもあたしだけは…うぅん、父様だってきっとあなたの味方をするからね!」
後半のセリフは我ながらかなり力説したものだと思う。…あたしだけは…のセリフだけだったらちょっと照れ臭いもので、…父様だって…と言ったのは、ほとんどオマケだったのだ。それでも言ってしまってから、顔がカアーッと火照っているのが分かってうつむいてしまった。その時彼がどんな表情をしていたのかなんてあたしには見えなかったから、分からなかったけれど一言「ありがとう」とだけ言ってそれっきり会話は途絶えてしまった。
もう、三百メートルほど先には父様とイヤなお客人が待っている我が家である。ここまで来たら、気持ちを切り換えねばならない。金色の竜の国の大貴族、アルヴァン・フォウ・ユクトゥールの娘として、そして“炎竜の娘”の異名にも恥じないように…


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4030妖鳥王女(オリジナル) 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の2珠捕ヶ 九音 E-mail 8/21-13:44
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妖鳥王女 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の2

ユクトゥール家、青竜の間。数多くの屋敷内の部屋でも、最も重要な賓客のみお通しするゲスト・ルームで、とにかく豪華絢爛、だだっ広い部屋である。
「姫様がお戻りになりました」
ばあやの声が響く。
「シャスティーヌ姫をお連れしました」
殊更に、感情のない声でシャナは父様に報告した。
シャスティーヌ、つまりあたしのセカンド・ネームであるが、公の場ではセカンド・ネームで相手の名を呼ぶのが作法なんである。
何故なら、このセカンド・ネームは統治者たる国王ローファット陛下が名付けて下さったモノであるから…。聖竜王はこの国の民すべての父であるから、その子孫である国王が国民に名前を与える、というわけね。
シャナの声に、父様は振り向き軽く礼を交わした後、退室を促した。
シャナも心得たもので、一礼をすると静かに部屋をあとにした。
「どうもお待たせして申し訳ありませんでしたわね、ラディーン卿。ちょっと、遠出をしていたものですから」
どうにも、上手い言い訳にはなっていないのだがまさか
「あんたのカオなんか、見たくもないから屋敷をこっそり抜け出したのに…」
とも言えないわなー。
「それはまた…どちらまで行かれたのかな、シャスティーヌ姫?」
「ニース・ファンまで」
殆ど義務的な口調で応えた。
「おひとりで?」
「勿論」
「フィランゼア神官は?」
「彼は私を迎えに来ただけです」
「それだけですね。彼が貴女に何らかの示唆をしてのことではないと…」
殊更確認するように尋ねた。目をスゥーッと細め、彼独特の冷気をともなって…である。
その気は確かに冷気ではあるのだが、肌にネットリとまとわりついてくるような感があり、あたしには思いっきり不快であった。
これもまた、あたしが彼を嫌っている原因でもあるのだが。
不快感を押さえ、これ以上こんなのと一緒にいたって何も得られるものもあるわけじゃないので、いい加減どうやってお帰り願おうかと考えつつ話を聞いていると
「ときにシャスティーヌ姫、私達の結婚式の日取りのことなのですが、来月の二十七日にいたしましょう。いやぁ、本当なら今すぐにでも貴女には当家に嫁いで欲しいのですが、お父上がですね、貴女が十六歳で花嫁修業もまだであるからとおっしゃられて、それでは姫の十七歳の誕生日に、ということで―」
「なんですってェ!」
あまりの突拍子もないセリフに、あたしは自分の耳を疑った。救いを求めるつもりで父様の顔を見つめても父様は苦り切った表情でうつむきかげん…
あたしは、父様にはもうどーしようにもない方向にこの話が進んでいるのだということを悟った。
それにしたって、なんで結婚まで話が進むのよ!あたしがこの望んでもいない婚約者の話を聞いたのは一週間前よ!あくまで婚約って話だったのよ!
それにいつあたしがあんたとの結婚に同意したっていうのよ、実際婚約って話にさえ首を縦に振った記憶はないわよ、あたしは!
「…お話はよく解りましたわ、ラディーン卿。ですがいつの間に結婚というお話にまでなっていたのでしょうか?私はつい一週間ほど前に貴方との婚約話が持ち上がったということを父から聞いただけで、これは失礼な言い方になりますが、貴方からプロポーズの言葉を聞いた覚えも、返事をした覚えもありませんわ」
相手を睨み付け、かなり挑戦的に言い放った。
相手は一瞬ポカンとしていたが、すぐに気を取り直した風に
「これは失礼いたしました。シャスティーヌ姫、私と結婚してくださ・・・」
「お断りいたします」
その言葉の終わらないうちにキッパリと言い切った。
別にあたしにとっては、初めから乗り気の話ではなかったのだし、その気もないものにニコニコお愛想を振りまいたって始まらないのだ。
暫しの沈黙…静寂の空気は重たく辺りに広がっていった。父様は沈痛な面持ちで頭を抱え、ラディーンにいたっては、頬をヒクヒクと引きつらせて口元には凍りついたような笑みを張り付けていた。
父様の様子を見て、ちょっとマズッたかな、とは思ったが父様の力でどうにもならないことならば、あたし自身が活路を開くっきゃないわけでこれはその第一段階。
「あの、シャスティーヌ姫、この話の一体どこが不満だというのです?こう申し上げるのもなんですが、私はこれでも王家の一員で将来的にみたらユクトゥール家にとってもプラスにこそなれマイナスの要素など一つもありませんよ。
フォウ卿は確かに大貴族ではありますが、先祖代々からの貴族ではありますまい。いわば、卿一代から巨額な財を築いて成り上がった新興貴族。それを快く思っていない者達を何人か知っていますよ、私は。
だが、そいつらでさえ王の権威にはてんで弱い。そして王に対抗でき得る存在などアレを除いてあるまいに…」
視線を何もない宙へ漂わせ、いきなりクックと笑い出した。
なんなのよ、こいつはー!
「結局、何をおっしゃりたいわけなんです?」
「いや、失礼。この縁談はですね、姫の意思は尊重されないのですよ。王命ですから。たとえどんなに姫にとっては不本意であろうともね」
「王命…」
あたしは絶句した。
父様にも回避できない申し出、ハルシャーン家だったから、だけではなかったのだ。国王直々の仰せだったから…でも、何だってあたしなんだろう?
「かなり、驚かれているようですね」
自分の言った言葉があたしに与えた効果に満足したらしい。
こいつの性格も、実際かなり歪んでいる。
「…正直驚きましたわ。ですが、どうして私なのですか?私でなくとも、結構王家に近い血筋の貴族の姫君がいらっしゃるじゃありませんか」
「貴女は、ご自分がどういう者なのかお分かりではないと見える。詳しいことは私からお話しするより、そこに居られるフォウ卿からお聞きなさるといい。なに、真実は至って単純なことですが…それで姫が納得されて、私の花嫁になられれば事は終わりです」
「貴方は何をご存知だというんです、ラディーン卿!」
ラディーンの思わせぶりな台詞に頭に来て、つい、語気を荒らげて問い返してしまった。そんなあたしを冷ややかな眼差しで見やるラディーンの態度は、尊大だった。
「王家とその当事者達しか知らないことです」
自分は選ばれた者だ、だから全てを知っている。
そうラディーンは言っている。
こいつからはもう何も聞き出せないだろう、ならば、いつまでもこいつに居座られたって不毛というものだ。
あたしはスゥーッと一呼吸すると
「お帰り願えますか、ラディーン卿。貴方の言うとおり父から話を聞いて色々と考える必要がありそうですから」
「そうですか、それでは…と私がすぐに帰ると思いますか。何回か足を運ぶ度に、しばらく待ち惚けを食わされてどうしたことかと思えば、いつも遠出だの、なんのという他愛のない理由で…割に合いませんよ」
言うなり、あたしをグイと引き寄せてキスをした。
あたしは、咄嗟のことに瞬きの時間ほど思考が止まってしまったが
「なんてことすんのよッ!」
平手ではなく、握り拳で相手の頬を思いっきり殴った。
ラディーンは少しよろめき、踏み止まると
「別にこれくらいいいじゃありませんか。減るものでもあるまいし…」
殴られた頬をさすりさすり言った。
「なんですってぇー、ちょっとアンタ、あたしをなんだと思ってるのよ!」
「私の未来の花嫁だと…」
何を今更というように、しれっと答えた。
「…帰ってよ。帰ってよ!あんたの顔なんかもう見ていたくないわ!五秒以内にあたしの前から消えちゃってよ!もしいるようだったら、あんたのその顔二目と見られないように修正してやるからね!」
敬語も何もあったもんじゃない、相手の顔を睨み付け
「1,2,3…」
「わ、わかりましたよ、今日はひとまず退散しますよ。退散すればよいのでしょう。ですがこの次にお会いする時には、もう少しその、女性らしくね…」
「よけいなお世話だっつーの!おととい来やがれ!」
あたしの物凄い剣幕に押されてか、ラディーンは慌ただしく青竜の間をあとにし、坂から転がり落ちるような勢いで帰っていった。
溜め息を一つつくと、うつむきかげんの父様に向き直り
「どういうことかお伺いいたしましょうか、父様?」
「…わかった。サリュウラ、シャナも連れておいで」
ポツリとそれだけ言った。
辺りの空気は何となく張りつめ、外は夜の帳が下りようとしている。
月は満月、ちょうど力が満ちているとき、神代には魔物が跳梁跋扈していたという。
今はそんな大層な魔物はいない、ちょっとした小悪魔程度であるし、ましてや
“銀色の光宿す者”は、あらかた狩られてしまっているか、息をひそめてじっとしているのだ。
彼らはずっと待っている。妖鳥王女の復活を…
でも、こんなコトを思ってしまうあたり―
「だいぶナーバスになってるわねぇ、ッたく…」
一人ブツブツ言いながらも、シャナの控えている部屋へと向かう。
それを見送る父様の瞳が、妖しい光を放っていたなんてことは夢にも思わなかった。
「サリュウラ、金色の血を引きながら、その内に銀色の闇の力を秘めてしまった呪われた娘、お前の中の闇の力が眠っている今この時を逃さずにしてお前を新たな聖竜王様に捧げるは不可能というもの。
月に魅せられた不肖の息子もまた然り。儂の今しようとしている事は人の道には反する事なれど、それが聖竜王様の御心なれば!」
父様の呟きはあたしの耳には届かない。
届いたところで、こんな呪文のような言葉すぐには理解できなかったろうけど…




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4066妖鳥王女(オリジナル) 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ  其の3珠捕ヶ 九音 E-mail 8/22-21:42
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妖鳥王女(オリジナル) 満月の章〜目醒め リュウ・ラ・メイ 其の3

光の間。その名の通り、朝には陽の光、夜には月明かりが煌々と照らす部屋。
まぁ、午前中はいいとして、午後に、それも満月の時この部屋にいられるヤツ
など、相当の変わり者ではある。
えてして、この国の者は月、もしくは月に関するものを嫌うものだがシャナは
違う。
彼は、自称“月の愛好家(あたし達親子の前以外そんな素振りを見せないが)”
である。
その昔、シャナに妖魔なのかと尋ねてみたら彼からの返答はといえば
「妖魔が神官職になど就けると思いますか?」
である。それもそうなのだが、でも…あたしの納得のいっていない顔を見ると
いきなりこんなことを言い出した。
「この国にはとおい昔に、それはそれは美しい王女様がいらっしゃったのですよ」
「?」
「その名をリュウ・ラ・メイといって、長い銀の髪に銀の瞳、背には翼があり
剣技に長けた方でした」
「銀色って、それってば妖魔じゃない?“銀色の光宿す者”でしょう?」
「“銀色の光宿す者”を妖魔と呼ぶのは、私達とその容姿が違うからであって、
彼らの立場にたてば私達こそ異形の者ですよ、サリュウラ」
「でも、ルーラミィとその一族は悪行の限りを尽くしたって聞いたわよ。人の
弱い心につけ込んで互いに殺し合いをさせたり、他国に乗り込んでは王侯貴族に
取り入って国内を混乱させて滅ぼしていっちゃったりとか。中でも一番極悪だなぁ
って思ったのは、自分の一族をよ、何が気にくわなかったのかはわからないけどね
毎日三人ずつは殺していたってやつよ。じゅーぶん“妖魔”って呼ばれるだけの
ことはしていると思うけどなー、あたしは」
「それはいわゆる“新世界創世記”に書かれてあることですよね」
「そうよ。あたしだってちゃんと歴史の勉強やっているんですからね。あ、でも
あたしリュウ・ラ・メイなんて王女がいたの知らなかったなぁ」
「全部が偽りとは言いませんが、アレも結構いい加減なものなんですよね」
「そーなの?」
「えぇ。ですから、全面的には信じない方が良いと思いますよ」
キッパリと言い切った。新世界創世記は、いってみれば聖竜王から三代目の賢聖王
(この人は女帝であったが)エルフィーネまでの統治、それ以前の銀月華の国の
有様を書いた歴史書であり、それを記したのはメイヤーヌ、エルフィーネお気に
入りの吟遊詩人兼占い師であったらしい。
それにしたって、今から七千年くらい昔の話だが。
「しっかしね、シャナも関係あるってことよね、連れてこいってことは。さて
どんな“真実”とやらが明らかにされるんだか…」
ま、たいした期待はしない方が良いな。
「シャナ、入るわよ?」
扉の前に立ち、一言断ってから入る。
シャナは月明かりの中目を閉じて瞑想しているみたいだった。まるで動かない
彫像のよう、それも物凄く出来の良い芸術品。
「あのォ、シャナ、瞑想中邪魔して悪いとは思うんだけど、一緒に父様の所まで
来てもらえる?」
それに応えたシャナの第一声はというと…
「よく拳の一発で抑えておきましたね。正直言ってはらはらしましたよ」
である。
「なっ、なんで知っているのよ!」
「貴女の瞳に映るものは何だって見えるのですよ、私にはね。ですから今まで
だって貴女のお屋敷出奔にも難なく対処できたのですよ。不思議に思いません
でしたか?」
「思ったわよ、でもどうしてそんなこと…あー、今はそれより父様が呼んで
いるわ」
「アルヴァン卿が?」
キョトンとした顔で問い返す。
「そう。あたしの正体だの、王家と関係者しか知らないことだの、もったいつけ
ちゃってさ。あ、これはあのノータリンの話なんだけど。それを父様の口から
話すにあたって、シャナも連れてくるように、って言われたの」
「ラディーン殿が貴女の正体について、と言っていたんですか?それから
王家と関係者しか知らないことと…それについてアルヴァン卿がお話しすると。
わかりました…。では、参りましょうか」
何故か神妙な面持ちであたしを促す。それを見て何だかよく解らないが、妙な
胸騒ぎがした。さっきまでは、別にたいしたことはなかろうと思っていたのに
だんだん不安になってくる。
あたしは、何かを、ナニカヲ失ッテシマイソウダ。デモ、一体ナニヲ?
「サリュウラ、どうしました?」
「シャナ、あたし、なんだか変。わけわかんないけど、何かがあたしを不安に
させる。一体どうしちゃったんだろう、あたし!」
らしくない、胸いっぱいに広がるこの不安は何?
「サリュウラ、貴女らしくありませんよ。落ち着いて。貴女が恐れなければ
ならないものなんて、ここには何もないのですから」
至極もっともなことを彼は口にしたが、それは今のあたしには何の気休めにも
ならない。
「そう。ものに対する恐怖心じゃない。何かをなくしてしまいそうなの。
あたしにとって、大切な何かを」
と、あたし達の前にユラリと人影が現れた。
「汝、月に魅せられることなかれ。月の光は汝を狂わす…か。儂がお前達を
斬ろうとするのもひょっとしたらこの月の光のせいで…狂ったせいやも
しれんな。だが、それが聖竜王様の御心にかなっているならば…聖竜王様の
復活に、新しい聖竜王様の御代に、国母となられるメルディアナ様に“金色の血”
を引く我が子達を贄に捧げましょう。覚悟はいいかね、シャナ、サリュウラ」
スラリと刀を抜き、構える。目が正気の者とは思えない。そして
「いやぁッ!」
気合いもろとも斬りかかってくる。じょ、冗談でしょう、父様?
「父様!」
「親父ッ!」
それぞれの口から呼び方は違えど同じ意味の言葉が飛び出た。
エッ、親父ですってぇ?
「ち、ちょっと!シャナ、どーゆーことよッ!」
何がどーなってんのやらさっぱり?の顔でシャナを見つめると、当然隙だらけに
なってしまう。まして自分の父親に向かっていくなんて…そんなことできるわけ
がない。そこを父様が見逃さず突っ込んできた。
「サリュウラっ、向かってくるヤツに隙をみせるんじゃねーよッ!」
と、シャナの声。
「え?」
刀が肌にくい込んだ。あたしではなく、シャナの肩に…
「し、シャナっ!大丈夫、生きてる?」
何とも間の抜けた問いを発してしまったが、それに応えて曰く
「こんくらいでオレを殺すんじゃねー!ラディーンの野郎、親父に何を吹き
込んだんだァ、全く。おい親父ッ、一体どうしたってんだよ!」
ちょっと、ちょっと、シャナってこんなヤツだったっけ?
「ほう、頭に来て地に戻りおったか。だがな、こうなったのも全てお前が
元凶よ。お前が、サリュウラに封印しておったのだろう?あの忌まわしい
“銀色の光宿す者”を。自分の実の妹に…何を血迷って魔性の者に
魅せられる?混血とはいえ半分は金色の血を引くお前が。儂は陛下に
申し訳がたたぬ。儂達親子の命を救って頂いたばかりかお前には神官位を、
サリュウラには…次期国王陛下たるラディーン殿の妻にと。その大事な
サリュウラの体に魔性の者を宿すとは何事だっ!サリュウラほど…
サリュウラほど濃い金色の血の妙齢な娘はこの国にいないのに。それを…
成る程今までよくも上手に儂の目を誤魔化してくれていたものだ。だが、儂は
見たのだ。満月時のサリュウラの髪、左の瞳、あれは間違いなく銀色だった。
右の瞳は…金色だったがな。瞬時のことだったが、間違いはない!」
殆ど憎悪を込めた瞳でシャナを睨み、それから忌まわしいものを見るように
あたしを一瞥して
「全く忌まわしい…魔性の者の分際で、最も尊い王家の末裔に宿るとは。
ラディーン殿の話では、お前も銀月華の国の一族の中では高貴な者で
あるそうだが…所詮は妖魔、世にあってはこの国を滅ぼす者だ!」
「じゃあなにか、親父はサリュウラの中に銀色の光宿す者が潜んでいるから、
オレがそれを手助けしていた張本人だったからという理由だけでオレ達を
斬るってことかよ。冗談じゃない。オレはともかくサリュウラは十六年間
手元で育ててきた愛娘じゃないかッ!あんたにゃ、我が子に対する愛情って
もんがないんかよっ!」
斬られた肩を押さえながら物凄い形相で父様を睨み付ける。あたしが今まで
見てきたシャナからは想像できないような表情。
あたしは一体今までにシャナの何を見てきていたのだろう。こんな激しい一面が
あったなんて。
うぅん、シャナだけじゃない。父様にしたって…
「愛娘であったさ、次代王妃となる唯一の娘であったからな。
とはいえ、その身が魔性の者に堕ちてしまっては嫁がせることなどできん。
だが、ラディーン殿は申したよ、サリュウラには魔性の者が宿ってしまったが
もともとはラディーン殿と同様最も血の濃い金色の竜の一族、ある術を施せば
魔性の者としての魂は永遠に眠り、清らかな金色の竜の一族の姫が甦る…と」
ここで、父様ははじめて笑みを浮かべた。
だが、それにあたし達も同調できるかといえばそんなわけなどなく、
むしろ背筋にゾクリとくるような空恐ろしさを感じた。
シャナは声を荒らげて言い募る。
「清らかな金色の竜の一族の姫だってぇ?そりゃあ、サリュウラ自身は確かに
金色の竜の一族の姫君だよな。でも、最も血の濃いっていうのは、言い換えれば
最も血のよどんだ…ってことなんだぜ?どうしてそこまで聖竜王の血にこだわり
続けなきゃなんないんだよ!」
「全ては聖竜王様の御心にかなうべく…永久の繁栄にこの国が導かれるために」
聖竜王様って…父様は彼に忠義を尽くしているというの?
遙か昔のこの国の祖に…
そんな、今はもう土塊のヒトに対する忠義心のためにあたし達が殺されなきゃ
ならないなんて理不尽よぉ〜。
それに何?サリュウラは金色の竜の一族の姫君ですって?でもってあたし自身が
本当は妖魔で、サリュウラの中に宿ったって?
今ならよくわかるわ、何もしていないのに妖魔ってだけで狩られてしまった
者達の気持ちが…そりゃ、中には悪心アリの妖魔もいることは否定はしないけど。
全部が全部この国を滅ぼそうなんてしようとするはずないじゃない、ただ、
ちょーっとばかり争いごとや悪ふざけが好きなだけなのよ、きっと。
「こいつは、この国を滅ぼす元凶なんかじゃない!確かに銀色の光宿す者では
あるけど。それどころか―ちょい、親父!人の話は最後まで聞けよッ!」
「問答無用!」
再び斬りかかってきた。電光石火の早業である。
これをまともにくらったら、今度こそ本当にシャナは死んでしまう。そんなのは、
ソンナ事ハサセナイ!コノ者ハ我ヲ今マデ守ッテクレテイタノダカラ。我ガ眠リ
カラ醒メルコノ時マデニ、我ガ狩ラレヌヨウニ。
ダガ、コノ者ヲ斬ロウトシテイル男モマタ…今マデ我ヲ慈シンデクレタ。ソノ
意図ガ、タトエ純粋ナ愛情カラハ、カケ離レタモノデアッタトシテモ。
これは、誰の感情?サリュウラの?いや、違う。
そもそも我は…サリュウラではない。サリュウラは我を起こした不思議な少女、
山吹色の髪に、淡い藤色の瞳の愛らしかったアルヴァン卿の愛娘。
大好きだった、天真爛漫な少女!
我は…この七年間、彼女に完全になりきるために我の意識を眠らせていた。
そうしなければ、我の意識が強すぎてすぐにも本当の姿を現していたに違いない。
そうなればきっと…我は狩られていたろうからな。もっとも今ならば…
そうむざむざとは狩られてはやらぬけれど。
そう、我は―我の真名はリュウ・ラ・メイ、銀月華の国の“満ちる月の姫”。
変わる、いや、本来の姿に返る。
山吹色の髪が、藤色の瞳が、闇にあってもくっきりと浮かび上がる―銀色に。
現在のこの国では忌まわしの、古の銀月華の国においては、稀なる貴き者の色。
「…化け物が」
低く呻くように、ポツリと呟くアルヴァン卿。
その顔色は蒼白で、表情は何もない。
能面のようにのっぺりとした、ただ瞳だけが何かに憑かれたようにギラギラと
しており先刻彼自身が言っていたように、月の光に魅せられて狂気に踊らされて
いるのかもしれない。
真っ直ぐに彼女に向かってくる。
閃光一線、彼女に向かって振り下ろされたはずの刀は空を斬った。
そしてほんの瞬きほどの時間に、彼女の手に握られていた刀が閃き、
彼は―体中に走る激痛に顔を歪め、身を屈める。
「?」
視界が揺らぎ、意識が遠退いていく。
「化け物で…悪かったな」
金と銀の瞳に、ごく僅かに哀しみの色を浮かべ、冷めた口調で素っ気なく言った
一言であったが、薄れゆく意識の中、彼は古のこの国の姫君の目にうっすらと、
光る雫が湛えられるのを見たような気がした。
そして、彼の魂は静かに天へ召されていく。
「リュウ・ラ・メイ…」
ややしばらくしてから、呟くように、しかし真実の名をシャナは言った。
月明かりの中に、明らかに彼とは異なった容姿の、現在のこの国の者どもの
大半は魔性の者と忌み嫌う我の姿を見て。
あとには静まり返った空気が…のハズはない。物音を聞きつけた屋敷中の者達が
こちらに向かってくる足音が聞こえてくる。
もはやここにも居られぬな。
「シャナ、我はおまえの父をこの手にかけてしまった。別に斬らずともおまえを
連れて逃げ出すだけもできたかもしれぬ。だが、あれは本気でおまえを殺そうと
していたし、その…我のことも本気で殺そうとしておったから、つい…」
「気になさらないで下さい。先程の父は私から見ても正気とは
思えませんでしたし、私達が黙って殺されてやる義務もありません。
こうなることも、ある程度は予測していたことですし…貴女を目覚めさせて、
ここで貴女にサリュウラとして生活していただいた時から」
床に倒れている、彼の父親であったものに視線を落とし、静かに瞑目し魂送りの
言を唱える。
「すまぬ」
素直に謝る。謝るだけ謝って、窓から外に翔び立とうとした時にちょうど屋敷の
者達が部屋に入ってきた。
「おいッ、銀色の光宿す者だ!」
「魔性の者だ!」
「だが、右の瞳は金色だぞ?」
「あれを見ろ!ご主人様がっ!」
「姫様がいない、喰われたのか?」
「シャナ神官、危険です。離れて下さい!」
言いたい放題である。実際彼らには我の姿はさぞ恐ろしかろう。
伝説の姿そのままの、銀色の髪に瞳、翼そして血のしたたる刃先…
「リュウ・ラ・メイ、何を躊躇しているのです?逃げますよ」
「逃げますよって、え?おまえが逃げ出す必要は―」
「何を言っているのです?どのみち、ラディーンとその一派は私をお尋ね者扱いに
するでしょう。何といっても私は“月に魅せられた者”なのですから。
どこまでもついていきますよ。貴女の行くところにね」
ニッコリと微笑んだ。これが彼の答えだったのだ。
サリュウラだった頃、この世の者達が皆彼の敵になったとしても自分だけは彼の
味方でいるといった時の。
「は、アッハハハ…そうか。わかった、では、ついてこい」
右手を差し出す。そしてシャナの左手をしっかりと握った。
―我はこの手を離すまい、彼自身が我から離れていく時が来るまできっと…
「くれぐれも気を失ったりせぬようにな」
悪戯っぽく笑った。恐れ遠巻きにしてこちらの様子をうかがう者達を後目に
外へ翔び立つ。
ひんやりとした空気、満月の光。そう、これが我の世界!
「月までも翔んでいけそうですね」
「いってみたいのか?」
「いいえ、そういうわけでは…」
「アハハハハ―」
天空高く、妖鳥王女の笑い声がこだまする。
そしてそれが闇に吸い込まれていった頃、二人の影も月の方へと消えていったのだった。