◆−復讐者たちの鎮魂歌−駒谷まや(10/15-21:40)No.4610
 ┗よかったです。−雫石彼方(10/16-04:15)No.4615
  ┗ありがとうございます(^^)−駒谷まや(10/18-21:28)No.4642


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4610復讐者たちの鎮魂歌駒谷まや E-mail 10/15-21:40


 どうも、こんばんは。書き手としては初めまして。
 駒谷まやともうします。

 いつもいつもこちらをROMさせてもらっていたのですが、今回とうとう
自分の小説をUPするという暴挙に出てしまいました。
 マイナーコンビの上、何だか古すぎるネタですが、楽しんでいただければ
幸いです。

 それでは、どうぞ。

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 復讐者たちの鎮魂歌

  

 黒髪の女性が、香茶をのせた盆を運んでいる。盆の上には、カップが2つ。甘い香りが人気のない廊下に漂っている。 
 白い神官衣をまとったその女性は、半開きの扉の中を覗き込んだ。
テーブルの上には、無造作に積み上げられた本が十数冊。ひかれたままの椅子の上には一冊だけ開かれたままの本が置いてあった。窓から差し込む午後の日差しが、それらを明るく照らし出している。だが、そこに人の気配はない。
 盆を手に、女性はその隣の部屋の前に移動する。
 その部屋の中からは、本のページを繰る音がやすみなく聞こえてくる。
 彼女はちいさく、穏やかに笑って、部屋の扉を開けた。


 その部屋は、大きな書斎だった。彼女がかつて愛した人との思い出の場所。高い天井、壁一面の書棚、大きな窓、高い位置にある本を取るための脚立、何も変わってはいない。
 しかしそこにいる人間は、彼女が愛した男性ではなかった。窓際の棚の上の方を見ていたのか、その男は脚立の上段にこしかけ、本を手に取り、ぱらぱらとめくっては床に本を落としている。落とした本が散らばって、床も見えないありさまだった。

 女性の方からは逆光になっていて、男の顔は良く見えなかったが、それが誰かは簡単にわかった。一度も忘れたことがない、そして、忘れられない人物だったから。
 男のほうも、気配に気付いたのか、扉のほうに顔を向けた。
 神官衣の女性は、男に一年ぶりに声をかけた。
「久しぶりね、ゼルガディス」
「……エリス!?」
 名前を呼んだきり絶句している弟(おとうと)弟子に向かって、彼女はくすくすと笑って見せた。


「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「……なんで……あんたがここにいるんだ、エリス?」
 神官衣の女性――エリスは、手近のテーブルに盆を置いた。
「この街は死者の残留思念をもとにして造られたのよ。私も、この街で死んだ者の一人……」
 いまだ驚きの色を隠せないゼルガディスに、エリスはあっけらかんと言葉を続けた。
「そんなことより、お茶でもどう?」
「………」
「何よ、その不審そうな顔は?私の入れたお茶が飲めないって言うの?」
「ああ」
 きっぱりと言い放たれて、エリスが渋い顔をする。
「あのね……私があなたと事を構えるつもりなら、屋敷に忍び込まれたことに気がついた時点で戦いを挑んでるし、あなたのお仲間も、見かけた時に攻撃してるわ」「見かけたって……?」
「ついさっきよ。向こうは私に気付いてなかったみたいだったけど。なんていったかしら……黒髪のお姫様」
「アメリアか」
「そう、その子。面白かったわよ。ゼルのことを探してるみたいでね、街の人たちに『白ずくめで顔を隠した怪しい男の人を見かけませんでしたか』って聞いてたの」 くすくす笑いながら言うエリスとは対照的に、今度はゼルが渋い顔になった。「納得してくれた?ならこっちに来てよ。お茶が冷めちゃうでしょ」


「それにしても、えらい心境の変化だな」
 結局、エリスの押しに負けてカップを傾けつつ、ゼルはエリスに話し掛けた。「まあね、またこんな風に一緒にお茶を飲むことがあるなんて思ってもいなかったわ。でも、それはお互い様じゃない?」

 ゼルガディスがレゾとエリスを憎んでいたのは、レゾの配下のうち裏仕事に関わる者のなかでは公然の秘密だった。レゾが健在だった頃は、言葉を交わすどころか、会うこともほとんど無かった。
 また、レゾが倒されてからはエリスの方でもゼルを憎むようになり……。最後に出会ったのは戦いのさなか。本来なら、その戦いで死んでいったエリスとは、もう二度と会うことは無いはずだった。
「……それもそうだな」
 苦笑を含んで、ゼルがつぶやく。

「ねえ、ここの本の中身、みんな確かめたの?」
 エリスが本棚を仰いで言う。
「棚に置いてあるのはまだだ」
「どうせどれも同じよ。何も書いてないわ」
「それでも、確かめておきたいんだよ」
 手近にあった本をぺらりとめくってゼルが言う。
 革張りの表紙、金属で補強された装丁、金文字で書かれた題名。見た目だけなら完璧なその本には、文字通り何も書かれていなかった。200ページほどの中身は全て真っ白である。床に落ちているどの本も、開いた窓からの風に白いページを見せている。
 冥王の作り上げた街は見た目だけなら完璧だったが、さすがに本の一冊一冊までを再現することは……出来なかったのか、しなかったのか。
 だが、エリスにはそれはかえってありがたかった。
 ゼルガディスにとっては残念な事なのだろうが……。
 エリスはゆっくりとカップを傾けた。

「……エリス、聞いておきたいことがある」
「人の体に戻る方法なら、私にはわからないわ」
「……そうか」
 ゼルガディスは頷く。
「私が嘘をついているとは思わないの?」
 あまりにもあっさりと納得したゼルに、エリスのほうが驚いた。
 ゼルはその問いには黙して答えない。だが、笑ったその表情が返事をものがたっていた。


 夕焼けの光が、二つの空のカップを満たしている。
 ゼルガディスが、椅子を立った。脚立に登って、また本をめくり始める。
 その横顔はとても静かだ。まるで、裏の仕事に手を染めていたのが嘘のように。エリスやレゾへの憎しみを忘れたかのように。

 小さな疑問がエリスの胸に湧いた。
 エリスはレゾが死んだと知って、ゼルとリナ、それにガウリイを憎んだ。だが、湧きあがった憎しみでは埋まらない大きな穴が彼女の胸にあいた。レゾの敵を討てば、それが埋まるかと思われた。策略を練り、研究所を探索し、戦っている最中は胸の穴を忘れていられた。
 しかし、穴はだんだん大きくなっていた。
 いまもエリスの胸には穴がある。

 では、復讐を成し遂げたゼルガディスは?
 彼は、復讐で胸の穴を埋めたのか、それとも元々胸に穴などあいていなかったのか。だが、それをゼルに聞くのはためらわれた。
 どちらの答えにせよ、それを肯定されてしまうのが怖かった。
 しばらくの間、ゼルがページを繰る音と本が床に落ちる音だけが部屋に響いた。

 エリスは、部屋を眺めて、散らばった本を片付けだした。ゼルが中身をざっと見ては、どんどん落とす本を、一冊一冊、本棚に戻していく。
 しばらくして、ゼルがあきれたように声をかけた。
「いちいち片付けるつもりなのか?」
「このままにしておくわけにもいかないじゃない」
 わきめもふらずに本を戻しながら、エリスが答える。
「どうせこの街は遅かれ早かれ消えるんだ。俺たちが勝てば、冥王が倒れ、この街も存在できなくなる。もしも……」
 書棚に残った最後の本のページを繰りながら、ゼルは続ける。
「もしも、俺たちが負ければ、世界自体が消える」
「なんだか諦めてるような感じに聞こえるわよ」
 ゼルは本を床に落とそうとして、思い直したのかそれを書棚に戻した。

「もう、戦う前から諦めるようなまねはしないさ」

 その決意にみちた顔を見て、エリスは今さらながらに気がついた。
 合成獣になってレゾのもとで荒事をしていた頃は、ゼルガディスは笑うことも、こんな表情をすることも無かった。

 ゼルガディスが脚立を降りて、散らばった本を拾い始めた。
 二人は黙々と本を片付ける。最後の一冊を書棚に戻したのは、日暮れを知らせる鐘がなってからずいぶん経った頃だった。


「そろそろ行くよ」
 ゼルガディスは一つ伸びをして、扉にむかった。
「……ゼル、ひとつだけ言わせて」
「なんだ?」
「……やっぱり、私はあなたが嫌いよ。レゾ様を殺して、一人で生き延びて……」 あいてしまった胸の穴は、憎しみでも復讐でもない物によって埋まっている。「エリス……」
「もう二度と、会いたくないわ。……まあ、二度とって言うのは無理だろうから……。なるべく、次に会うのが遅くなるようにしなさいよ」
「……覚えておくよ」
 振り返らずに、ゼルは片手をあげた。

 以前と何一つ変わらないように見える書斎の中で、エリスは一人微笑んだ。

                           完

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 …いかがでしたか?
 とりあえずマイナーコンビであることだけは自信が持てます(笑)
 (やな自信だ…)

 こんな駄文に最後までつきあってくださってありがとうございました。

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4615よかったです。雫石彼方 E-mail 10/16-04:15
記事番号4610へのコメント

こんにちは、雫石です。
駒谷さんがこちらに作品を投稿されるのは初めてですね。どんなお話かな?と思っていたら、ゼルとエリスのお話だったので、ちょっとびっくりでした(^^)

でも、二人の静かで大人な雰囲気がすごく素敵でした。憎みあっていた二人があんな風にゆっくりと一緒にお茶を飲んだりできるようになったのは、前より少し成長して、客観的に過去を振り返れるようになったからなのかなー、とちょっと真面目に思ってみたり・・・・どうしよう、これで全然違ってたら(汗)
あと、何気にアメリアがちょこっと出てたのが嬉しかったです(笑)

例のお話、3日以内に投稿すると思いますので、続き、よろしくお願いしますねー。

では、短いですがこの辺で。

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4642ありがとうございます(^^)駒谷まや E-mail 10/18-21:28
記事番号4615へのコメント


こんばんは、駒谷です。

 感想ありがとうございます〜(喜)


>駒谷さんがこちらに作品を投稿されるのは初めてですね。どんなお話かな?と思っていたら、ゼルとエリスのお話だったので、ちょっとびっくりでした(^^)

  実は、構想自体は一番古かったりします(笑)
 なんてったってNEXT最終話の話ですし(古すぎ・・・)
 某MLに流すのは遠慮してたんですよ。ゼル&エリスですしね(^^;)

>でも、二人の静かで大人な雰囲気がすごく素敵でした。憎みあっていた二人があんな風にゆっくりと一緒にお茶を飲んだりできるようになったのは、前より少し成長して、客観的に過去を振り返れるようになったからなのかなー、とちょっと真面目に思ってみたり・・・・どうしよう、これで全然違ってたら(汗)

 大当たりですよ〜!!賞品として駄文一作差し上げます
 (うそです〜〜^^;というか↑は迷惑)
 死んだ後まで憎みあってたら(?)悲しいですしね…。

>あと、何気にアメリアがちょこっと出てたのが嬉しかったです(笑)

 実は伏線だったり…するかもしれません(でも更にマイナーなコンビに…)

>例のお話、3日以内に投稿すると思いますので、続き、よろしくお願いしますねー。
 はーい。(笑)

 それでは、読んでくださってありがとうございました〜〜。