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4972Mission 0;1  Revolutionary determinationねんねこ 11/22-15:40


ねんねこです。自分の記事を載せたと同時にツリーが過去の記事に沈みました(笑)と言うわけで新たに載せます。
長い長いプロローグはまだまだ続く。しばしお付き合い下さいませ。



 誰が言ったか――世の中にはこんな言葉がある。
『人生は出会いと別れの繰り返し』
 結局、人というものは人と接しなければ、生きていけないのである。たとえ、孤独を望んだとしても。


 キメラという形でしかゼルガディスの精神は救えなかった。
 一般的な生成方法とは違った特殊な方法でゼルガディスの身体はキメラにされた。
 生まれて間もない頃から――少なくとも自分の記憶がはっきりしている頃からいつも側にいた祖父に裏切られ、彼は現実を拒絶した。
 本来ならば、キメラにした時に彼にその理由を説明をすべきだった。だが、祖父――赤法師レゾにはそれが出来なかった。
 レゾ当人の言葉を借りれば実に『運の悪い』ことだった。レゾの中にいた≪赤眼の魔王≫が、彼の心を完全に蝕んだのだ。意識を魔王にのっとられ、人が変わったように行動するようになってレゾを見て、ゼルガディスは祖父を拒絶した。
 とは言っても、ゼルガディスは全てを拒絶したわけではない。困った時に泣きつく相手は今も昔もそう変わらなかった。
 ゼルガディスは何度かクラヴィスと連絡を取り合っていた。
 頼れるのは彼だけだった。
 ほんの一時期だけレゾの元で働いてクラヴィスは情報収集能力でその実力を発揮した――といえば聞こえは良いが、単に噂好きだったりもするのだが。とにかく、クラヴィスの得た情報を頼りに、ゼルガディスはレゾに仕えているフリをしながら自分の身体を元に戻す方法を探した。
 途中、何度もウィルフレッドがクラヴィスにゼルガディスと話がしたいと懇願したが、ゼルガディスはそれを拒絶した。別にウィルフレッドのことが嫌いだったわけではないが――なんとなく会いづらかったのだ。
 何の手がかりも見つからないまま時を浪費し、彼はレゾを巣食った≪赤眼の魔王≫を2人の仲間と共に倒した。身体も意識もほとんど乗っ取られていたとはいえ、自分の祖父を手にかけたゼルガディスは自分まで拒絶し始めていた。
 そんな頃のことである。
 彼の人生を大きく変えることになる少女と出会ったのは。



「……なんか馬鹿みたいですね」
 目の前ではぜるたき火を見ながら少女は小さな声で、だがはっきりとそう言った。
 その言葉に何も言えず、ゼルガディスはその少女の方を見やった。
 少女はアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンと言った。ほんの数日前、問答無用に巻き込まれた事件で偶然出会ったあのセイルーンの王女さまである。
 まだ14歳。
 17歳である自分が『大人』の部類に入るのかは疑問だったが、それでもゼルガディスにとって14歳の彼女はどう見ても『小娘』の部類に入った。
 彼女の台詞からしばしの沈黙の後、ゼルガディスは掠れたような声で言った。
「……なんて言った? 今」
 ゼルガディスの問いに今度はきっぱりと大きな声で即答してくる。
「なんか馬鹿みたいです。ていうか馬鹿そのもの?」
 先程は理解できなかったその言葉も、今度はすぐに理解することが出来た。ゼルガディスは青筋を立てながら立ち上がり、自分を見上げてくるアメリアを思い切り睨みつけた。
「お前なぁっ! 自分から『ゼルガディスさんの昔話聞きたいですぅ』とか言ってきて開口一番にその台詞か!?」
「いけませんか?」
「悪いに決まってんだろ!?」
 激昂するゼルガディスにアメリアは小さく嘆息した。
 確かにゼルガディスが怒るのは当然のことだった。
 サイラーグの街半分以上が戦いで焦土と化し、唯一残っていた丸太小屋にとりあえず避難することに決めた彼ら。それぞれ別行動ということになり、共にこれから戦うことになる3人は小屋の外に出ていったのだが、ゼルガディスとアメリアは別段なにもすることがなく、小屋の中に残っていた。
 沈黙が続く中、何度かアメリアがゼルガディスに話しかけたものの無類の人間嫌いである彼がその言葉に答えるはずはなく、業を煮やした彼女が彼に『今までどんな生活をしてきたのだ?』と尋ねたのだ。
 最初は答えることを渋っていたゼルガディスだったが、あまりにもしつこいアメリアにしぶしぶ話し始めた。
 信用していた人間に裏切られて身体を変えられてしまったこと。
 その腹いせに罪無き人を殺し、指名手配をされていること。
 そのことにひどく後悔の念を抱いていること。
 今までの愚痴を吐き出すように、ゼルガディスはアメリアに過去のことを話した。
 それに対してのアメリアの素直な感想が、あの言葉である。
 ゼルガディスにしてみれば、自分が今まで生きてきたことを否定されたようなものだった。
 それもたった14歳の小娘に。
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんですか? 馬鹿って自覚も無い馬鹿のくせに……」
「何度も馬鹿馬鹿連呼するなっ! 世間のことを何も知らない小娘のくせに!」
 小娘、と言われてアメリアもかちんと来た。
 敵意むき出しで睨みつけてくるゼルガディスを真っ向から睨み返し、アメリアも立ち上がった。
「だってゼルガディスさんって馬鹿じゃないですかっ! いつまでも過去のことにこだわっていてっ!
 どうして前を向こうとしないんですかっ!? 今のゼルガディスさん、ただ単に現実から逃げているだけじゃないですかっ!」
「――っ!」
 図星をつかれてゼルガディスは足を床に叩きつけた。
 確かに自分は現実から逃げている。
 自分の身体のことを認めるのが恐くて。レゾに裏切られたことを認めるのが嫌で。レゾを倒せば見ることも無くなるだろうと思っていた悪夢は彼を倒しても見続けていた。しかも、彼を倒した人間たちの中に自分も含まれているということを自覚すれば、殺してやりたいくらいに自らを嫌悪した。
 追い討ちをかけるように見る悪夢。
 気がつくと変わっていた自分の身体。それを微笑んで見ているレゾの姿。
 吐き気が込み上げてくる。
 ゼルガディスはうめくように言葉を吐き出した。
「……あんたなんかに何がわかる……」
「その言葉、わたしには馬鹿の遠吠えにしか聞こえませんっ!」
 その言葉にゼルガディスは何も答えず、近くにあった薪の山を思い切り蹴飛ばした。
 彼女を斬り殺さなかっただけマシであっただろう。



 はっきり言って。
 お互いの第一印象はこれ以上ないと言うくらい最悪だった。
 いつも前向きで物事をはっきり言うアメリア。
 いつも前を向けずに後ろばかり眺めて全てを自分の中に押し込めてしまうゼルガディス。
 全てが正反対である2人。
 彼らは気づいていただろうか。
 実はお互い似たような性格であるということを。



 最初に相手に対するイメージが間違っていたことに気づいたのはアメリアだった。
 いつも自己中心的で、自分さえ良ければ他はどうでもいい――彼女のゼルガディスに対する最初のイメージはそんなものだった。平気な顔をして他人の心を傷つけ、仲間の心配などせずにただひたすら自分のことだけを考えている。そう思っていたし、実際彼はそんな行動をとっていた。
 だが。
 彼が忌み嫌っていた祖父の研究所の中、罠にかかった仲間のことを心配せずに魔道書を読み漁っていた彼が、不覚にも別の罠にかかった自分を必死に助けようとしてくれた。礼を言うと、そっぽを向いてしまったが、アメリアはしっかり見ていた。照れて真っ赤になっている彼の顔を。
 ゼルガディスもまた第一印象とは別のイメージを彼女に対して持ち始めていた。
 ただ、いつでもがむしゃらに前に突き進んでいるわけではない。
 14歳の子供ながら、戦いの中で自分がいったい何をすればいいのかがわかっているようだった。
 時には仲間をサポートし、時には共に協力し合い、時には――やはり結局勝手に1人で暴走したが。
 それでも、まだ戦いの経験の浅い彼女が何度かあった戦いを潜り抜けたことは、彼女の実力として認めなければならないだろう。ただの小娘ではない、ということだ。
 短い時間の中で死闘とも言うべき戦いをしながら2人はお互いのことを理解しようと努めた。
 そして――


 ザナッファーから放たれた赤い光は真っ直ぐゼルガディスに向かってきた。
 防御できない。
 そう直感して、死を覚悟する。
 その時ゼルガディスの視線に割って入ったのは、小さな少女だった。
 生み出した防御壁で懸命に自分を守ろうとした。
 光の威力に耐え切れず、自分のところに吹っ飛んできたアメリアをゼルガディスは咎めた。
「他人のことより自分の身を守れ!」
 なんとなく嬉しかった。自分を守ろうとしてくれたことが。
 ゼルガディスは初めて彼女に微笑んだ。
 彼女も初めて彼に笑いかけた。
 一時撤退する中、アメリアはゼルガディスにこっそりと言った。
「馬鹿って言って……ごめんなさい」

 

 恋愛などというものは実に不可思議なものである。
 どんなに第一印象が最悪でも、相手のことを見ていくうちに気づけば――などということも少なくはない。恋愛経験のほとんど無いゼルガディスとアメリアもその中の1人だった。
 お互い自分の気持ちを言葉にすることはなかったが、それでも相手が自分をどう思っているのかくらいはわかった。
 別に言葉で想いを確認する必要はない。
 ただ、お互いを想っていればそれで十分だった。
 だが。


『人生は出会いと別れの繰り返し』
 人間出会っても、必ずどこかで別れを告げなければならないのだ。たとえ、愛し合ったもの同士でも。 



 闇を撒くもの(ダーク・スター)をこの世界から退けてから、3ヶ月が過ぎようとしていた。
 理由はどうあれ、結果的には世界を救ったことになる英雄とも言うべき4人の人間たちは外の世界から結界内の半島にまで戻ってきて、それぞれ別の道を歩むことになった。
 リナ=インバースとガウリイ=ガブリエフは光の剣に変わる新しい魔法剣を探しに、ゼルガディス=グレイワーズは、相も変わらず自分の身体を元に戻す方法を探しに、そしてアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンは自分の国へ外の世界のことを報告しに。
 人は出会いと別れを繰り返す。どんなことがあっても、必ず出会えば別れが来るのだ。
 ほぼ一年ぶりに戻ってきたセイルーン・シティの小高い丘でアメリアはゼルガディスと共に立っていた。
「わかってます。わたし」
 彼女は開口一番にそう告げた。
 アメリアの表情はゼルガディスからは見えなかった。彼女は、背中を向けていた。見られたくなかったのだろう。自分の泣き顔を。
 彼女が辛い顔を彼に見せれば、彼の決心が揺らいでしまうと彼女はわかっていた。
 ダーク・スターとの戦いのさなか、彼女は彼に戦いが終わったら自分と共にセイルーンに来るように言った。圧倒的な力を持つ敵を目の前にして、生きて帰れると言う保証が持ちたいがために言った言葉だったのだろう。が、その言葉はゼルガディスを真剣に悩ませた。
 確かに彼女の言葉に従って、彼女と共に城へ行けば、彼女は喜ぶだろう。だが、それは一時凌ぎに過ぎない。ゼルガディスのキメラと言う呪われた身体――これを元に戻さない限り、彼はいつまでも彼女を幸せには出来ない。
 無論、彼女は彼の身体のことを関係なしに彼を想ってくれるだろう。
 だが、周りの人間はそうはいかない。アメリアは、大国の王女なのだ。王女ともあろうものが彼のような容姿の人間と関わりを持っていると言うだけでも由々しき事なのに、共に行って、アメリアが辛い立場になるのは必至だった。
 そしてゼルガディスは決断した。
『今は彼女と別れ、元の姿に戻ってから彼女のところに行く』と。
 そんな彼の思いを面と向かっては聞いていなかったが、彼女は彼の気持ちをちゃんと察していた。
 アメリアは自分のことより彼の意見を尊重したかった。
 彼もまたそんな彼女の思いを知っていた。
 ゼルガディスがぽつりと言う。
「……待ってて欲しいんだ。すぐ戻る。絶対に」
「やだな、いつまでも待ってるに決まってるじゃないですか……わたし、いつまでもゼルガディスさんのこと……好きですか……ら……」
 泣いてはいけない。そう自分に言い聞かせても、彼女は涙を止められなかった。小さな肩を震わせるアメリアをゼルガディスは後ろから強く抱きしめた。
「俺もだ。ずっといつまでもお前のことを愛してる」
「ゼルガ……ディスさん……」
 初めて聞いた彼の想いに、アメリアがついに堰を切ったように泣き出した。ゼルガディスは自分の胸でしゃくりあげるアメリアをさらにしっかり抱きしめた。



『悪いが……頼みがあるんだ』
 故郷セイルーン・シティの街を歩きながらアメリアの脳裏に先程のゼルガディスの別れ際の台詞が蘇っていた。
『手紙を渡して欲しいんだ』
『……手紙? 女の人?』
『……お前実は俺のこと全っ然信用してないだろ……女じゃない。ただの女好きの男さ』
『……自分で届ければいいじゃないですか』
『そうしたいのはやまやまなんだが……いろいろあってな。いいか? どこに行ったか、なんて訊かれても絶対言うなよ? 死にもの狂いで追いかけてくるからな』
『……どんな相手ですか……それ……』
『言うな。思い出しただけで鳥肌が立つ』
 そう言いながらどこか遠くを見つめるゼルガディスの顔を思い出し、アメリアは思わず思い出し笑いをする。彼にそう言わせる相手がどんな人なのか、少しばかり興味もあったのだが――
 セイルーン・シティの中心に程近い屋敷。こんな一等地に屋敷を構える人間とゼルガディスが知り合いなのに少しばかり驚きながらアメリアはゼルガディスに渡された地図を頼りに――と言ってもかなりアバウトなものなのでほとんど役には立たないが――通りを歩いていく。
 やがて彼女の足がひときわ大きい屋敷の前に止まる。
「…………」
 アメリアは屋敷と地図を交互に見つめた。
「……間違いかしら?」
 ぽつりと呟く。
 どうしたらこんな家に住む人間と(理由があったとは言え)凶悪犯罪者が知り合いになれるのか。
 しかも――
 アメリアは預かった手紙の宛名を見た。彼の丁寧な字でたった一言こう書いてある。
『馬鹿たれへ』
「……渡した途端、殴り掛かる仕組みになってたりしないですよね……」
 彼を疑う気は毛頭無かったが、この宛名を見ればそう思いたくなるのは当然のことだった。
 しばしの無言の後、アメリアは勝手に自己完結をした。
「ま、違ったら違ったで謝れば良いことですし」
 いつも行き当たりばったりな彼女らしい意見ではあった。門をくぐり、扉を叩く。
「すみませぇぇぇぇんっ!」
 声をあげながら扉を叩き続けるが一切返事はなかった。
「聞こえないのかしら……?」
 こんなに大きな屋敷だ。もしかしたら聞こえていないのかもしれない。
 アメリアは大きく息を吸った。
 絶叫しながら同時に右足で壊れない程度に扉を蹴りつける。
「す・み・ま・せぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
 がすごすどすがす。
 何度も扉を蹴りつけると、そのうち家の中から足を踏み鳴らす音が聞こえてくる。アメリアは蹴るのを止めた。
 一瞬の間を置いて、勢いよく扉が開いた。出てきたのは、二十歳前後の男。腰まである長い黒髪、翠色の目。さぞや異性にモテるであろう端正な顔立ちだが、今はこめかみを引きつらせていた。
 彼女の顔を見ずにその男は叫ぶ。
「じゃかぁしいわこのボケっ! そう何度もドア蹴り入れなくても……わか……る」
 視線の先に誰もいないので、そのまま叫びながら視線を下げる。やっとアメリアと目があったところで、彼はパタン、と扉を閉めた。そのまま間をおかず開くと彼はこれ以上ないというほど優しい笑みを浮かべていた。
「こんにちは、麗しのお嬢さん。今日は何のご用かな? もし良かったら中に入らないかい? なんならボクの部屋にでも――」
 そこまで言いかけて、不意に男は地面に転がった――後ろから蹴りを入れられたのだ。彼に蹴りを入れた男がふん、と鼻を鳴らして目を吊り上げていた。
「まったく……人を見て客の対応を変えるのは止めなさいっていつも言ってるでしょ!? 女の子見たらすぐ口説く癖もっ! 聞いてるのっ!? クラヴィスくんっ!」
「っててて……ただの冗談じゃねぇか……なにも蹴りを入れることはないだろ蹴りを入れることは」
 蹴られた腰を押さえうめきながらクラヴィスは立ち上がった。その様子を横目で見ながらウィルフレッドは呆然と事の成り行きを見ていたアメリアに向かって微笑みかける。
「ごめんね。馬鹿息子で」
「あ、いえ……あの……クラヴィス=ヴァレンタインさんっていうのは……」
 アメリアは言って恐る恐る視線を転がった男に向ける。年の割には人懐っこい顔のクラヴィスがにっこりと笑った。
「オレだけど?」
「…………………そう、ですよね」
 曖昧な返事をしながらアメリアは心の中でゼルガディスを呪う。
(……ゼルガディスさんは、いったいわたしにどうしろと!?)
「……どったの?」
 無意識のうちに顔が強張っていたのだろう。アメリアの顔をクラヴィスが覗き込んだ。真っ赤になったアメリアは小さく後ろに飛び退くと、手にしていた手紙を彼に差し出した。
「ゼ、ゼルガディスさんからの預かりものですっ!」
 アメリアの言葉にクラヴィスの顔つきが変わった。少し真剣な顔になって、手紙の封を素早く開ける。
『悪いが、この手紙を持ってきた女の子の面倒を見てやってくれ。ただし手を出したら速やかに抹殺する。以上定期報告終わり』
 あまりに質素な手紙の内容にクラヴィスは顔をしかめながらアメリアに尋ねた。
「ゼルとはいつ?」
「ついさっきまで一緒にいましたけれど……?」
「あ・の・く・そ・が・き・はぁぁぁぁっ!」
 こめかみを引きつらせて、クラヴィスはゼルの手紙をくしゃりと丸めた。
「どうしてそこまで来たのにこないんだっ!? 来たくないわけだなっ!? くそっ、力ずくで連れてきてやるっ!」
 クラヴィスはアメリアを見た。
 アメリアはその視線の意味を即座に理解し、彼の行き先を正直に答える。
「ラルティーグの方に行くって言ってました」
「ご協力どうもっ!」
 言って駆け出すクラヴィスを呆然と見送りながら残されたアメリアとウィルフレッドは思わず顔を見合わせた。
 首を傾げて、アメリアが尋ねる。
「……あのゼルガディスさんとあの方ってどういうご関係なんですか?」
 彼女の問いにウィルフレッドはあっさりと答える。
「血の繋がった兄弟だよ」
「へ?」
 突拍子もない答えにアメリアは間の抜けた声をあげる。ウィルフレッドはにっこりと笑った。
「本人たちは知らないけどね」
「はあ……」
 曖昧な返事でアメリアはクラヴィスが駆けていった方を眺めた。
 あの2人が兄弟とはとても思えない……とはいえ、自分も人のことが言えないのでなんとも言えないが。
 ぼんやりと想像の海を漂っていると、ウィルフレッドが言ってくる。
「アメリアちゃん」
「はい?」
 突然呼ばれて、アメリアは慌ててウィルフレッドの方を見た。自分の視線に合わせて、屈みながらウィルフレッドが優しく微笑んだ。
「今ね、クラヴィスくんがおいしいケーキを焼いてくれてたんだけど……良かったら食べていかない?」
 その言葉にアメリアは少しだけ視線を宙に泳がせた。
 ついさっき知り合ったばかりの人の家の中に堂々と上がり込むことに少し抵抗を覚えたのだ。とはいえ、ゼルガディスの知り合いなのだ。悪い人たちではないのだろう。おいしいケーキというのにも惹かれるので、アメリアはにっこりと笑ってその言葉に甘えた。
「そう言えば……」
 ふと気づいたようにアメリアが尋ねた。
「わたし、名前言いましたっけ?」
 彼女の問いにウィルフレッドは笑ってその場を誤魔化した。



   黒い翼を持つ天使たち
   Mission 0;1  Revolutionary determination



 彼女の口からゼルガディスの名前が出た時、ウィルフレッドは内心冷や汗をかいていた。
 これは偶然なのか、それとも必然なのか。
 全てのものに対して絶対的な力を持つ≪混沌の姫≫を内包した少女と、幾つもの偶然が重なって神と魔の両方を内包した青年の出会い。
 平気で何年も連絡を寄越さなかったゼルガディスが突然1人の少女をここに行くよう言った理由は彼がクラヴィス宛てに書いた手紙の内容を読まなくとも、なんとなく想像がつく。
 ウィルフレッドは今に続く廊下を歩きながらアメリアに尋ねた。
「ゼルガディスくんは……元気だった?」
 彼の問いにアメリアは力強く頷いた。
「ええ、とても元気でした……ずっと元気でいてくれると嬉しいんですけど」
 アメリアが寂しく微笑みながら答えた。その答えにウィルフレッドは少し安堵の息を吐く。
「そう……」
 彼の身体のキメラ化はどうやら2つの意識の覚醒を防ぐことが出来ているらしい。そのことに少し安心する。せめて、彼が内包するものが対立などしなかったならば――
 そこまで考えて、ウィルフレッドははたととあることに気づいた。後ろからついてくるアメリアをちらりと見る。
 なぜ今まで気づかなかったのか。
「ゼルガディスくんの身体はね――」
 急に立ち止まって、ウィルフレッドはぽつりと言った。アメリアは遅れて立ち止まりながら、ウィルフレッドの顔を見上げる。きょとんとした顔で自分を見てくるアメリアの頭を撫でながらウィルフレッドは提案した。
「……少し寄り道をしようか」



 連れてこられたのは、書庫だった。
 書庫独特のほこり臭い匂いが辺りに充満している。
 部屋はかなり広く、置いてある本の数も半端ではなかった。
 きょろきょろと周りを見渡しながら歩いてくるアメリアをよそにウィルフレッドは真っ直ぐと目的のものがしまってある場所に向かっていく。
「そう言えば自己紹介がまだだったね。僕はウィルフレッド――ウィルフレッド=ヴァレンタイン。
 とりあえずこう見えてもクラヴィスくんとゼルガディスくんのパパりんなんだ♪」
「……年、いくつなんですか……」
「? 今年で39だけど?」
「……そ、そおですか……」
 きょとんとした顔で答えてくるウィルフレッドにアメリアは疲れたような声をあげた。
 この男といい、クラヴィスといい、なんとなくゼルガディスが会うことを嫌がるのもわかるような気がした。嘆息してくるアメリアを訝しげに見ながらウィルフレッドは話を切り出した。
「君にはね、全てのことを知っておいてもらいたいんだ。ゼルガディスくんのこと、君自身のこと、全て」
「……わたしの……こと?」
 ウィルフレッドの真剣な瞳を真っ直ぐ見つめながらアメリアは怪訝な顔をした。
 自分のことは自分が一番よく知っている。出会ったばかりの男に教えられなければならない『自分』などない。
 彼女の思いを見透かしたようにウィルフレッドは頭を振った。
「……今から12年前、この街でちょっと変わった出来事があった――突然ね、光が出現したんだよ。
 天まで伸びた光は目撃者たちに『光の翼』と呼ばれたんだ」
「その話なら父さんからききました。
 わたしの部屋から光が溢れていた、って。
 わたしを助けてくれた人は名前も名乗らずに立ち去ってしまった、とそう聞きました」
「覚えていないの?」
 ウィルフレッドの問いにアメリアは首を横に振った。
「その時わたし、ベッドで眠っていたんです」
 アメリアの返答にウィルフレッドは彼女に背を向けた。
 予想通りの彼女の答え。
 ウィルフレッドはぽつりと呟いた。
「眠っていたんじゃない……乗っ取られていたんだ」
「え?」
 あまりに小さな声で呟くウィルフレッドの言葉を聞き逃してアメリアはきょとんとした顔で問い返した。それには答えず、近くの本棚から一冊の魔道書を取り出してくる。魔道書は、革の表紙に金の縁取りがされ、表紙の中央に五芳星のような図形が描かれていたが、一目見てかなり古いものだということがわかる。
 本にかぶったほこりをぽんぽんとはらって、ウィルフレッドは全神経を集中させた。
 表紙に描かれた模様をなぞる。目を閉じて、同時に呪のようなものを紡ぐ。

『未来を紡ぐ聖なる紋章<ペンタクル>を司りし混沌の姫ルシファー』

 なぞられた模様が輝き、光を放ち始める。

『今こそ我に汝の歩んだ道を示したまえ』

 ウィルフレッドを中心に床に光が走ったと思うと、光は表紙と同じ模様を描き出す。
 光に包まれて、ウィルフレッドは静かに目を開けた。
 最後の呪文を紡ぐ。

『世界の狭間へ我らを誘え(オープン・ザ・ゲート)』

 その瞬間。
 部屋は光に包まれた。



 光が収まり、反射的に閉じていた目を開けたアメリアの視界に入ってきたのは一面の『白』だった。床も天井も周りにあるはずの壁も。全てが真っ白だった。目の前にいたはずのウィルフレッドの姿も見えない。
「……ここは?」
 呆然と呟く。
 明らかに先程までいた場所とは違っていた。どこまでも続く一点の濁りもない白。気を抜けば平衡感覚を失いそうになるが、彼女はその場所に不安を感じなかった。むしろ、安心していた。優しいような暖かいようなそんな感じ。
「なんでも良いから想像してごらん。今、君はどこにいる?」
 どこからか聞こえてくるウィルフレッドの声。アメリアは静かに目を閉じた。
 なんとなく思いついたのは神殿だった。
 床には真っ赤なじゅうたんが敷かれてあった。窓には何枚のステンドグラスがあって、天井はひたすら高い。
 そこまで想像して、アメリアはうっすらと目を開いた。目の前に立つウィルフレッドの姿を認めて、アメリアはしっかりと目を開き、周りを見渡した。
 壁にはめ込まれた何枚ものステンドグラス、床に敷かれた真っ赤なじゅうたん。天井はひたすら高い。
 自分の思い描いた通りに変わっていた。彼女はさすがに小さく声をあげる。
「なっ……!?」
 答えを求めるようにウィルフレッドの方を見る。彼は慌てず騒がず、彼女を落ち着かせようとにっこりと笑った。
「ここは世界の狭間。有と無が同時に存在する場所。君が想像した通りにこの世界は形作られる」
「……世界の……狭間?」
 アメリアの問いには答えずウィルフレッドは彼女に手を差し出した。
「……少し歩こうか」
 彼の言葉にアメリアは頷いて差し出された手に自分の手を絡ませた。



「――この世界が大きく2つに分けられることは知っているね?」
 ウィルフレッドの問いにアメリアが頷き、答えてくる。
「精神世界面――アストラル・サイドと物質世界ですね」
 2人は手を繋ぎながら神殿と化した世界の奥へと歩いていく。
 どう見ても20代後半にしか見えないウィルフレッドだったが、アメリアと手を繋いで歩く姿はほのぼのとした親子の散歩を連想させた。
 アメリアの言葉にウィルフレッドは満足そうに頷いた。 
「そう。でも実はもう1つ別の世界があるんだ」
「……別の世界?」
 怪訝な顔をして尋ねてくるアメリアに彼は大きく頷いた。
「魔族が存在する精神世界面(アストラル・サイド)と神と人間が存在するこの物質世界。その間に魔族でも神族でもないものが存在する空間がある。
 それが――≪混沌の姫が眠る場所≫と呼ばれるもう一つの世界さ」 
 聞いたことのない単語が出てきて、彼女は眉をひそめた。沈黙を保って先を促す。ウィルフレッドは続けた。
「≪混沌の姫が眠る場所≫というのは――まあ、僕たちが勝手につけたんだけど。
 魔でも神でもない中立の立場を取る金色の魔王の神聖なる場所」
 そこで言葉を切ってウィルフレッドは立ち止まった。アメリアも止まって、前方を見つめた。
 ちょうど神殿の最奥部。眩いほどの金色の光が両手に収まるくらいの球を形作っていた。
「世界を生み出した≪金色の魔王≫は、神と魔、どちらの仲間になることも許されなかった。僕たちがいる世界だけでなく――きっとどこかに存在しているはずの異界でも。
 だから、ここは生まれたんだ。
 神と魔の力、有と無、どちらも兼ね揃えたこの世界――最初来た時真っ白だったのに、君が想像したらその通りになったでしょ?」
 ウィルフレッドの言葉にアメリアが静かに頷く。
「あれは、無だったものが君の力で有に変えられたんだ。君が別のものを想像すれば、ここはまた形を変える」
 いったんそこで大きく息を吐き、彼は視線の先の金色の光を指差した。
「あれがなんだかわかるかい?」
「なんですか?」
「≪失われし真実の文書≫と呼ばれてるもの。金色の魔王が世界を生み出してから全てのことがあれに刻まれているんだよ。
 僕がここに来る前に持っていた魔道書――あれは、この光の球が僕たちの世界に具現した時の仮の姿なんだ。金色の魔王が生まれ変わるたび、その世界のありふれたものを形作って≪守護者≫と呼ばれる人間の近くに転送される」
「生まれ変わる……? 金色の魔王が?」
「金色の魔王だけじゃない。神も魔も人間も存在している以上必ず『終わり』の時は来る。人間は『死』として、神や魔族は『滅び』として。
 だけど、『終わり』があればまた『始まり』もある。『終わり』を迎えた者は、身体と呼んでいた器を原子レベルにまで分解されて世界をさ迷い、また時がきたら再び形作る。
 魂も一緒さ。『終わり』を迎えてもまた『始まり』がやってくる。『終わり』を迎えた魂は世界をさ迷い、そして『始まり』を迎える。新しく形作られたものの中に入り、新しい存在としてまた世界を存在する――それが輪廻転生の理さ。
 ただ、金色の魔王や各世界で『神』や『魔』と呼ばれている者、それに準ずる力を持つ者たちはその魂の強さゆえ、せかいをさ迷わずに『終わり』を迎えた直後、『始まり』を迎える身体に入り込むんだけどね」
「……つまり、世界のどこかに『金色の魔王』や『赤の竜神』の魂を持つ人がいるって言うんですか?」
 納得がいかないという顔で言ってくるアメリアにウィルフレッドは苦笑いした。
 彼女の手を離し、彼女の頭を優しく撫でながら言う。
「そんなにおかしなことじゃないと思うよ? 実際、『赤眼の魔王』は何度か現れただろう? 伝承じゃあ降魔戦争時に稀代の魔道士が『赤眼の魔王』の欠片を持っていた、と言われているし、ゼルガディスくんの話じゃあ、赤法師レゾもそのうちに魔王の欠片を持っていたらしいじゃないか。
 まあ、『赤眼の魔王』は特別なんだ。『終わり』を迎える前に『赤の竜神』によって魂を7つに分断された。それが人間の身体に宿るたびに彼は人の意識を乗っ取って自らの目標を達成しようとしているんだろうね」
 頭に思いついた疑問点を彼はいともあっさりと説明していった。アメリアはなんとなく悔しそうに頬を膨らませた。最後に一番始めに感じた疑問を口にしてみる。
「どうしてウィルフレッドさんはそんなに詳しいんですか? 世界のことなんてそんなに解明されてない――むしろ、全てが謎だらけじゃないですか……」
「それに答えるには初っ端に戻る必要があるね」
 ウィルフレッドは、彼女から離れて金色の光――『失われし真実の文書』の方に向かう。彼が光に手を触れると、眩い光を放って、それは見覚えのある一冊の魔道書に変化する。
 それを手にしながらウィルフレッドは真っ直ぐアメリアを見つめた。
「12年前、セイルーンの王宮の君の部屋から金色の翼のような光が現れた。
 君はそれを覚えていないと言ったね。
 でも覚えていないんじゃない。ただ、身体を乗っ取られていて、意識がなかったんだ」
「……乗っ取られ……?」
 怪訝な顔で呟くアメリアにウィルフレッドは静かに頷いた。
「『神』でもなく『魔』でもなくその中間として存在することを決意した『金色の魔王』。
 『彼女』は、自らと同じ立場で存在する『人間』に目をつけ、何度も転生を繰り返した。
 何千回と繰り返された転生の中で『彼女』の意識が覚醒したのは、『彼女』の≪守護者≫である僕が知りうる限りたった2回。
 千年前の降魔戦争の時、そして、12年前――君の部屋で」 
 
 
「わたしが……金色の魔王の依り代……?」
 呆然と呟くアメリアにウィルフレッドは天井を見上げた。
「……クラヴィスくんがね、情報を集めるのが結構得意なんだ……僕も得意なんだけど」
 いきなり話題を変えてウィルフレッドが話し始めた。
「いつまで経っても戻ってこないゼルガディスくんの行方をね、僕たち一生懸命捜したんだ。
 おかげで彼の行動はほとんどすべて把握してる」
 視線を天井から彼女に戻す。
「レゾが残したコピーとザナッファーとの戦い、高位魔族との死闘とも言うべき戦い、そして異界の魔王との戦い――どれも常人では乗り越えていけないような戦いばかりのなかで、どうしていつも君たち4人が生き延びてこられたと思う?」
「それは――」
 正義のおかげ、とはいえなかった。コピーレゾとの戦いの時はともかく、魔竜王や異界の魔王に手を貸したヴァルガーヴは、決して一概に悪と呼べる存在ではなかった。
 ではなぜ自分たちは生き延びてこられたのか――特に何の経験も持たなかった自分が。
「君たちには特別な力があった、と言うしかないかもね。人を差別しているみたいでこういう言葉は好きじゃあないけれど」
 ウィルフレッドは言って肩をすくめた。
「≪金色の魔王≫を君から切り取り、召喚できるほどの魔力を持つリナさん。
 異界の武器を自由に使いこなすことの出来るガウリイさん。
 そして、アメリアちゃんとゼルガディスくん」
「……ゼルガディスさんは? やっぱりあの……キメラのおかげで?」
「あれははっきり言って『足枷』だよ。あれがなくって自分の意識をちゃんとコントロールできてたら、彼は多分『金色の魔王』と同等の力を持つことが出来る。
 ゼルガディスくんの中にはね、ゼルガディスくんの魂の他に余計なものが2つも入り込んじゃったんだ。『神』と呼ばれる≪赤の竜神≫と『魔』と呼ばれる≪赤眼の魔王≫、相反する魂が」
 至極あっさりと言ってくるウィルフレッドにさすがのアメリアも目眩を覚える。
「……冗談なら今すぐ殴り倒しますよ」
 アメリアの言葉にウィルフレッドは顔をしかめた。
「本当だって。ただ、『赤の竜神』が昔『赤眼の魔王』をはっ倒すのに夢中になって、限度も考えず自分の力を使いまくった挙げ句、魔王に反撃食らって魂の一部をどこかにおいてきちゃったせいで、力と目的だけがゼルガディスくんの中に入り込んじゃって――ゼルガディスくんが精神崩壊する寸前まで魔王と張り合うんだよ。まったく、どうして一番大事な『記憶』の部分を置いてきちゃうのか……」
 赤の竜神の『記憶』がちゃんとあれば、自分たちがなぜ存在しているのかがわかるはずなのに。そうしたら、無意味に魔王と戦わなくなるはずなのに。
「――で、何とかゼルガディスくんを助ける方法はないかーということで、彼の精神がちゃんと安定するまで、彼の魔力を封じて2人の力を押さえようとしたんだけど……良い方法がなくて、仕方なくキメラにしたら肝心なところでレゾがボケるし、慌てて元に戻そうとゼルガディスくんに『会って』て言っても『ヤダ』とか二つ返事で拒否されるしぃぃぃぃぃ」
「……元に戻せるんですか……?」
「元に戻せなかったら絶対そんなことしてないにょ」
 即答してくるウィルフレッドにアメリアが思わず怒鳴る。
「ちゃんとはじめっから説明してあげれば良いじゃないですかっ!」
「言った。説明した。元に戻せるって言ったら『気休めはよしてくれ。出来ないのはわかってるから』とか言われて、それから会ってもくれなくなったにょ」
(どっちもどっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?)
 まあ、ゼルガディスとしても下手な同情をしてもらいたくなかったのだろう。とはいえ――
(もう少し話し聞いてあげても良いと思うんですけどね……ゼルガディスさん)
 深くため息を吐きながらアメリアは独りごちる。灯台下暗し、というのはきっとこの時のために存在した言葉だろう。呆れきったアメリアの様子にウィルフレッドがまじめな顔をして口を開いた。
「――頼みがあるんだ」
「……?」
 怪訝な顔をして自分を見るアメリアにウィルフレッドは静かに目を向けた。
「君の中で眠っている≪金色の魔王≫を目覚めさせて、一つやってもらいたいことがあるんだ」
「……なん、ですか……?」
 戸惑いを隠せないアメリアに彼はきっぱりと言った。
「この世界の『神』と『魔族』の存在意義を全て抹消し、新しい存在意義を設立すること」
「どういうことですか?」
「≪金色の魔王≫が生み出したのは、4人の『神』と呼ばれるヒトだった。4人のヒトは≪金色の魔王≫と同様の力を持っていて――ヒトを作り出す能力があった。『神』はそれぞれ自分の対となるヒトを生み出した。生み出したヒトに力の半分を渡してね。
 結果、物理的魔術を主とする『神』と精神的魔術を主とする『対となるヒト』が生まれた。ただ、問題があったんだ」
「……問題?」
「相反する力を持つあまり、『神』と『対となるヒト』は考えまで相反するようになってしまった。『対となるヒト』は『神』から離れ、自らを『魔』となのり、『神』と対抗するようになった――つまり、離反したんだ」
「それが今の神と魔族の戦いに繋がっているんですか?」
 アメリアの言葉にウィルフレッドは頷いた。
「長い戦いの末、残ったのは2つの間にわだかまる憎悪と戦意だけだった。すっかり本来の存在意義を忘れ、ただ相手を滅ぼすことのみに執着するようになった。
 君に願いたいのは、彼らが戦う理由をなくして、共に存在するよう意義をつくること――そうすれば……」
 ウィルフレッドは呪文を唱えた。周りの情景が急に歪み出し、元の白い空間に戻った。アメリアは一瞬慌てたが、今度は最初からウィルフレッドの姿がはっきりと見えたので、少し安堵する。
 彼は床を見つめていた。怪訝な顔をしてアメリアも彼に近づき下を見て――思わず目を見開いた。
 一部分だけ透き通った床の下。
 そこには、自分の身体を抱えるように丸まっている人間の姿があった。その姿はさながら母親のお腹の中にいた時の姿にも見える。
 年の頃から17くらいだろうか。黒い艶やかな黒髪はウィルフレッドに似た髪型で、肌も白い。
「……人……?」
「ゼルガディスくんだよ」
「――っ!?」
 アメリアは顔を上げてウィルフレッドを凝視した。
 ウィルフレッドがじっと床を見つめながら呟いた。
「ゼルガディスくんと共に旅をしてきたなら、君は彼と共にいくつもの研究所をまわったね」
「……はい」
「研究員たちはこう言ってなかったかい?
『いったんキメラにしたものを元に戻すのは不可能だ』と」
 アメリアは頷いた。
「言われました。『作ったミックスジュースからオレンジジュースだけを取り出すことは出来ない』と」
「そう。その通りなんだよ。キメラにしてしまったものは元に戻らない。
 だから、僕とレゾはゼルガディスくんのコピーを作ってコピーをキメラにした。そして、その身体にゼルガディスくんの魂を入れ替えた」
 魂を分化することは出来なくても、その魂を別の容器に入れ替えることくらいは何とかできる。ウィルフレッドの言葉にレゾが出した策はこれしかなかった。
 キメラにすることで、ある程度の魔力を封じることができる。ゼルガディスの魔力を借りて発露する『赤の竜神』と『赤眼の魔王』に簡単に身動き取れないようにするためだ。
「キメラにすることはあくまで応急処置に過ぎなかった。キメラにしたって、ゼルガディスくんが気を抜けばその隙を突いて発露する可能性は少なからずあったから。
 だけど、もし彼らが戦う理由を失えば、ゼルガディスくんは精神を乗っ取られないで済むかもしれない」
「……対立する理由を失えば、2つの意識も大人しくなる、ということですか……」
 アメリアの言葉にウィルフレッドは首を縦に振った。
 彼女はいつか自分の魂を取り込むために眠り続けるゼルガディスの身体を見る。
(……わたしは彼の役に立てないと思っていたけれど……)
 側にいてやれることしか出来なかった。
 方法が見つからず落胆する彼に『今度は見つかりますよ』と明るく振る舞ってやることしか出来なかった。
 ――実に偽善的行為を繰り返していた。
(それで彼が救われるのだったら――)
「ウィルフレッドさん。わたし……」
 アメリアはしっかりと真正面からウィルフレッドを見た。
「やります」

    
        【 Go To Mission 0;2 】 


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4974すごすぎ。雫石彼方 E-mail 11/22-23:00
記事番号4972へのコメント

下に引き続き雫石だす。

なんかもうすごすぎよ、ねんジー(^^;)難しい展開に、頭を常にフル回転させながら読まなきゃおいらはついていけません(汗)

今までアメリアと旅してきたゼルが実はコピーだったなんて、超衝撃的っすよ!これからどういう展開になっていくのかまったく予測不能。いいなー、伏線張るの上手くて・・・・(まだ言うか)
クラヴィスがアメリアと知り合いじゃないってことになってて、今までと違くなってるから、何か変な感じ。でも、客によって態度を変える彼、とても好きでした(笑)後ろから蹴りいれるパパりんもいい感じ(笑)

下の作品共々、楽しみにしてますv
ではでは。

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4982自分の世界に没頭中(笑)ねんねこ E-mail URL11/23-17:43
記事番号4974へのコメント

雫石彼方さんは No.4974「すごすぎ。」で書きました。
>下に引き続き雫石だす。
どうもだす。ねんジーだすよ。

>なんかもうすごすぎよ、ねんジー(^^;)難しい展開に、頭を常にフル回転させながら読まなきゃおいらはついていけません(汗)

はっはっはっ、序の口さ(汗)
このあとの展開はちょっとねんジーでも理解不能だ(死)

>今までアメリアと旅してきたゼルが実はコピーだったなんて、超衝撃的っすよ!これからどういう展開になっていくのかまったく予測不能。いいなー、伏線張るの上手くて・・・・(まだ言うか)

あのね……それ思いつきなんだ(汗)
ただ、何人ものキメラの専門家が治らないって言ってるのにあっさり元に戻っちゃったら立場ないよなーとか思って急きょ考えてみました。
でも、コピー言っても元はゼルから出来てるし、中の心もゼルの魂を入れているという設定だから(多分あまり)変わりはないでしょ。

>クラヴィスがアメリアと知り合いじゃないってことになってて、今までと違くなってるから、何か変な感じ。でも、客によって態度を変える彼、とても好きでした(笑)後ろから蹴りいれるパパりんもいい感じ(笑)
ちょっと性格が変わってるね、パパりん。今度は元に戻ると思うが。
クーちゃんとアメリアはゼルがいない間に仲良くなってる(はず)
いつの間にかいつもの二人になってるはずだにょ。

>下の作品共々、楽しみにしてますv
>ではでは。

ではではしーゆーあげいんっ!

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4977もはや絶句です。桐生あきや 11/23-01:57
記事番号4972へのコメント


 こんばんわ。
 雫石さんに習うようですが、すごすぎです。それぐらいしか感想が言えない自分がうらめしいです。
 練りこまれた設定と、伏線と、すばらしい文章にもはや絶句するしかないです。
 あう。ほんと面白いですぅぅぅ。
 こんな話がかけるようになりたいです。
 ねんねこさんのお話はほんとにキャラが生き生きしてますよね。
 続きを楽しみにしています。受験がんばってください。

 桐生あきや 拝。

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4983あきやさんの設定にも絶句っすよvvねんねこ E-mail URL11/23-17:53
記事番号4977へのコメント

桐生あきやさんは No.4977「もはや絶句です。」で書きました。

> こんばんわ。
> 雫石さんに習うようですが、すごすぎです。それぐらいしか感想が言えない自分がうらめしいです。

どもvv
毎回感想ありがとうございますvv
ねんねこの話を読んで何かしら感じるものがあるだけで書いてるものは嬉しい限りですね。

> 練りこまれた設定と、伏線と、すばらしい文章にもはや絶句するしかないです。
> あう。ほんと面白いですぅぅぅ。
> こんな話がかけるようになりたいです。

ははは(^^;)
大学受験控えた小娘が書いたものをそこまで誉めてくださるとは……
いやいやありがとうございます。
実はこの設定、最初に考えたの中2の時で、それから4年半経ってやっと文章化したものなんですね。いろいろ文章の中にねんねこが普段の生活で感じたこと、メッセージなどを盛り込んでいくつもりなので読んだ後、『こー言うことだったのか』などと感じてもらえると嬉しいです(><)

> ねんねこさんのお話はほんとにキャラが生き生きしてますよね。

うーん……とりあえず、ねんねこのキャラはねんねこの中で実際に動いたり話したりして生きているからじゃないですかね。こういうとなんか始終頭でこんなこと考えていると思われそうですが(汗)
でも、ただ1ついえるのはキャラたちがただの話の中のいち登場人物ではなく、1人の人格を持った人間としてみている、ということでしょうか(^^)というわけで感情移入しやすいんですが。

> 続きを楽しみにしています。受験がんばってください。
> 桐生あきや 拝。

ありがとうございます(><)
今はのろい更新ですが、そのうち今よりは早くなると思うので、これからもよろしくお願いいたします(ぺこり)
ではでは、ねんねこでした。