◆−灰色の空の下・1−R.オーナーシェフ(12/8-16:09)No.5118
 ┣灰色の空の下・2−R.オーナーシェフ(12/10-18:58)No.5139
 ┣灰色の空の下・3−R.オーナーシェフ(12/11-17:46)No.5151
 ┣灰色の空の下・4−R.オーナーシェフ(12/13-18:48)No.5184
 ┣灰色の空の下・5−R.オーナーシェフ(12/15-18:39)No.5202
 ┣灰色の空の下・6−R.オーナーシェフ(12/19-14:17)No.5226
 ┗灰色の空の下・7−R.オーナーシェフ(12/19-18:42)No.5227


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5118灰色の空の下・1R.オーナーシェフ 12/8-16:09


舞台―冷戦時代、サッチャー政権下のイギリス。
登場人物
・スコットランドヤード・スペシャルブランチ(ロンドン警視庁特別公安部):インバース警視正(おやぢ)、リナ・インバース刑事、
ガウリイ刑事、ゼルガディス刑事、アメリア刑事。
・MI5(内務省保安部):ラーヴァス副部長(ソ連KGBに寝返り)、工作員ルーク、ミリーナ。
・内務大臣:フィリオネル。
・陸軍SAS・CRW(特殊空挺部隊・対革命戦ウィング)少佐:ルナ・インバース。
・IRAの大物活動家:ゼロス。
・イギリスに潜入したソ連スペツナズ暗殺要員:ズーマ。

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ロンドン、ダウニング街。ヤードの巡査の立つ表玄関から、よく見知った顔のおばちゃんが出てきた。そのおばちゃんに、まっすぐ
銃口が向く。彼は冷めた目でスコープをのぞき、ライフルの引き金をゆっくりしぼる。

ズーン

「ひええええええええ。いきなり何するんですか!?リナさん?」
あたしのSIG P226拳銃からはなたれた弾丸が彼の頬をかすめた。
「『何するんですか』じゃないいいいいいいいっ!!よっくもまあ、この大警備網を潜り抜けてここまで来たわね?
ゼロス!!」
ビルからながめると、あたしの銃声でやっと気づいた護衛がサッチャー首相におおいかぶさってるのが見えた。
「さあゼロス、年貢の納め時よ。狙撃銃をおいて、両手は頭の上、ゆっくりその場にふせなさい!」
拳銃を構えながらあたしは言った。
すると、ゼロスはふところから無線機を取り出し、ボタンに指をかけた。
「さ。これで、どうしますか?リナさん?」
「こうする。」
ずだーん、ずだーん、ずだーん、ずだだだだーん。
「ひょええええええええええええええええっ!!ど、どうでもよろしいのですか?あの方のお命は!?」
「なんとかなるんじゃない?鉄の女ってくらいだし。ゼロス、そのまま動くんじゃないわよ。もし・・」
「もし動けば、後ろの離れたビルの上からねらってるあの方が僕の頭を撃ち抜く、ですか?」
「なっ!?」
そう。はなれの古いビルの上からは、ガウリイがPSG−1狙撃銃を構えている。
・・・・・・!!
「ガウリイ!!逃げて!!!!」
あたしは胸の上あたりに隠し付けた通信機に向かって叫んだ。
生け捕りにしたかったが・・・・しかたない。あたしは拳銃をゼロスの額に向け・・・
たかいなかのその瞬間!!
「では、リナさん、また会いましょう。」
ビルの上から飛び降りた!?
あたしはいそいでかけつける。
「いない!?」
刹那
ズドドドドドドドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・
ガウリイのいたビルの一階から爆破!!もうもうと煙りをあげて崩れ落ちて行く・・・・。
「ガウリイ、ガウリイ、ガウリイ、ガウリイィィィィィィィィ!!!!」
眼から、一瞬、何かあたたかいものが落ちるのが分かった。が・・、
「落ち着けリナ!俺は無事だって。おまえの声がびんびんひびくぞ。」
ガウリイの声が耳のイヤホンから聞こえてきた。
「それよりリナ。」
「分かってる。ゼル、アメリア!聞こえる?」
「ああ。お熱いやりとも全部な。」
「ゼロスさんは、途中の階のベランダから中に入りました。追いかけます。」
「頼むわ。あたしもすぐ行く。」
あたしは狭い階段を一気に駆け降り、一瞬とまり、拳銃を構え勢いよく出口から飛び出す。
その時、
「いだぞ!!」
ずだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだああん!!!
ゼルの声に続き、二人の持つサブマシンガンMP5A5の音が響く。
瞬間、音の方向、せまい通りの間からすさまじい光が発する!
『があっ!!』
しまった!二人の悲鳴が重なる。ライティン・・じゃない。フラッシュバンの光だ。
そんなもんまでゼロスが持ってるなんて。
あたしはいそいで駆けつけた。
「ゼル、アメリア!」
「だ、大丈夫です。それより・・、」
「やつはむこうだ。」
「分かったわ。」
ゼルの指差した、テムズ川の方向にあたしは向かった。

さがて、川の流れが聞こえてきたとき、ゼロスの姿が見えた。ゼロスはそのまま、土手を下り・・・、
刹那。
ひゅっ!
「うっ!!」
襲い掛かったのは・・・・・釣竿。
あたしはいそいで、その、火のついてない煙草をくわえた長髪で渋いおっちゃんのそばに
ついた。
「とうちゃん!なんでこんなとこに?」
「仕事中だ。インバース警視正って言わねえかい!それより、ゼロス!」
し、仕事中に・・・釣り?
「よろしいのですか?僕ばかり追跡して。ほかの事件の捜査、ちゃんとなさってます?」
「なんですって!?」
「いいんだ。俺達は今お前を追いかけてるんだ。」
「じゃ、追いかけてもらいましょうか?」
と、そのまま背を向けて、ジョギングするかのごとく走り出した。
っくー!バカにしおって!!
「まてーっ。ゼロスー!!」
そして、橋の下の暗闇まで来て彼の姿は消え、いつものようにまた逃げられた。
だが、ゼロスの言うほかの事件の捜査って・・・・・・。

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続きは、しばらく先かな。


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5139灰色の空の下・2R.オーナーシェフ E-mail 12/10-18:58
記事番号5118へのコメント

「うーん・・・・・・。」
窓の外には、ロンドンの古い街並みと、どんよりとした灰色の空がひろがる。
数百年以上の建物が珍しくない中、最近は新しいビルも少しずつ増えてきた。この、スコットランドヤードもその一つ。
ダウニング街の首相官邸は狭いままだが、大都市の治安をあずかるここはそうもいかないのだ。その中の、
出入りが一部の者に制限され、盗聴対策もとられた一角。スペシャルブランチ(特別公安部)。スパイやテロリストを
相手にする、ひたすら怪しい部署だ。一応エリート集団ってことになってはいるが、実際はどうだか・・。
ただ、あたしが気に入っているのは銃器を持たないヤードの警官の中にあって、ここだけは例外になっていることと、
普通の女刑事が動きやすさ重視で髪は短くズボン着用であるのに対し、ここは刑事と悟られぬ事が第一で格好は自由
であること。
その、大きめの部屋の端っこのデスクの上にあたしはスカートからのばした両足をのっけてうなっていた。
「何さっきっからうなってるんですか?リナさん?」
係長のデスクからアメリアが言った。ヤードに入ったばっかでいきなり警部になった、なまいきなお嬢ちゃん。
オックスフォード卒で弁護士の資格を持つ。キャリアってやつだ。
「うん、ゼロスのやつがね、あの古いビル爆破したでしょ?」
「事前に察知できなかったのが悔しかったと?」
「それもあるけど・・、ねえ?なぜあたしがあそこの屋上でガウリイにスナイパーとして配置させたと思う?」
「なかなか少ないロンドンの中で、どこに美味いレストランがあるか、良く見える場所だったからか?」
「んなわけあるか。」
ガウリイにゼルがつっこんだ。
「あそこの屋上はねえ、ちょっと方向変えると、内務省ビルの、ちょうど大臣室。フィルさんの部屋が真っ直ぐ
先へ見えるのよ。」
「父さんの部屋?」
アメリアが言った。
「そ。つまり、あそこに大口径狙撃銃や対戦車ミサイルでもセットされたら、簡単に内相暗殺できる危ない場所。
だから、あたしが前からチェックしてたところへ、MI5のルークや、ミリ―ナたちからゼロスが、サッチャーのおばちゃん
を狙うという情報が飛び込んできた。で、ガウリイ待機させるのにいいかなって思ったのよ。」
「それをゼロスさんが、あえて破壊した。IRAにとって自分の首をしめるようなもんですねえ。
・・あ!そうそう。インバース警視正の話じゃあ、MI5で今回、ちょっと混乱があったそうですよ。
ヤードに通報せずゼロスを泳がそうっていう意見が副部長からあったとか。」
アメリアが言った。
ラーヴァス副部長か。前、頼まれて護衛についたこともあるが、深く冷たい目つきの、近づきたくないような男だった。
「ま、どうせあそこは信頼できないもんね。あっちも信頼してないみたいだし。」

夕方5時。今日は何も無く、ひさしぶりに定時刻通りの仕事終了。
「なあ、リナ!今夜一緒に・・」
とガウリイの話をさえぎるがごとく。
バタン
突然課長室のドアが開き、インバース警視正―とうちゃんが入ってきた。
「ようリナ!ちょっくら空港までいくぞ。」
「へ?なんで?」
「ルナが帰ってくるらしい。派遣先のアフガンからな。迎えにいってやろう。」
「ね、姉ちゃんが!?」
あ、あ、あの女核兵器が帰ってくるのかあああああっ!?

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とりあえず思いつくとこまで書きました。執筆速度は遅くなると思います。

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5151灰色の空の下・3R.オーナーシェフ 12/11-17:46
記事番号5118へのコメント

意外と明るいオレンジ色の光が照らす地下から、突然景色が明るくなる。とうちゃんの運転する車の中。
「ねえ、とうちゃん。これてさあ、覆面パトカーじゃない?いいの私用に使っちゃって?」
「まあいいってことよ。それより、ほれ!」
「うん?」
と、助手席のあたしがわたされたのは、張り込み・尾行なんかで使う・・・
「通信機!?ねえ、もう仕事って終ったんじゃあ・・?」
「いいから交信の確認しろい!」
あたしはわけ分からぬまま、セットし・・、
『おーい!聞こえるかー?』
「って!?その声!!」
ガウリイじゃん。となりを見ると、すました顔のまま、火のついてないタバコをくわえ車を運転するとうちゃん。
「は、はかられた・・・・・。」
「俺はうそはついてねえぞ。ただ、迎えるやつは、ルナのほかにもいるからな。」
とうちゃんが言った。
「んじゃ、交信確認いくわよ。ミナよりララファへ。」
『ララファ。どうぞ。って・・、なあ、この俺の女みてーなコードネーム変えねえか?例えば
“スカーフェイス”とか、“ヤミマキ”とか。』
ガウリイが返してきた。
「じゃあ“ハミガキ”にでもする?とっとと次行くわよ。ミナよりメアリー。」
『はーい。メアリーでーす。どうぞー。』
アメリアが元気に返してきた。ちなみにアメリアは警部とはいっても新人なので、報告書は係長の彼女が書くが、
捜査の実質的な指揮はあたしがとっている。いわゆるデカ長ってやつである。
「ミナよりラビットちゃん。」
『ラビット。どうぞ。“ちゃん”はよせ。“ちゃん”は。・・ったく、あんな着ぐるみ着るんじゃなかったぜ・・。』
ゼルがかえしてきた。
「みんな、それぞれ空港に向かってるわけ?」
『ああそうだ。俺たちラブラブコンビはもう空港で配置についてる。それと交信確認は、こっちは終ってね―ぞ。』
『だれがラブラブだって?』
「あ、あんたたちも?」
いきなりのルーク、ミリーナの声にあたしは驚かされた。あたしはまた隣をみた。
「言ってなかったか?MI5との合同視察班組んでやるって。」
「・・・・・・・。」


やがて、ゲートからさっきついた便の乗客が降りてきた。
さてと、もうそろそろかな。姉ちゃんは。
と、あたしは空港内のソファーから身を乗り出した時、周囲より背の高い、ひときわグラマスな女性が歩いてきた。
「ほーっほっほっほっほっほっほっほっほ。だれかと思ったらリナじゃない。」
ずるずるるるるるるる・・・・・・・・・。
おもわずソファーから滑り落ちるあたし。
「な、な、ナーガ!?なんであんたがここに!?」
「なによ。せっかく赴任先から帰ってきたのに冷たいわね。」
「赴任先って?」
「モスクワ。MI6の仕事で。」
「MI6って、あんたが!?」
と、やりとりしてるところへ、その姿は見えた。ナーガの後ろから歩いてくる、背の高い、ショートカットの、
ナーガとタメをはるくらい胸のでかい女性。陸軍SASの少佐、通称、女核兵器。すなわち・・、
「姉ちゃん!!」
「ただいま。リナ、そして父ちゃん。あら、グレイシア、偶然ね。」
その時だった。イヤホンから声。
『来たぞ。もう一グループ。お客さんだ。』
その、ルークの声と同時に、男が三人、あたしたちの横を通り過ぎた。
『スカイウオーカーからミナ。』
ルークが言った。
「ミナ。どうぞ。」
『ええっと、こっちのMI5の情報じゃな、今歩いてったやつらが、前から、アンドレ・・』
「GRUのアンドレアノフ大佐。次がポガチョンコフ少佐。三人目は分からないわ。」
イヤホンの声をさえぎるようにナーガが言った。
『ええっと・・。そっちの長髪の姉ちゃんの通りだ。何者だ?そいつ。』
あたしの襟のしたの隠しマイクからナーガの声を拾ったのか、ルークが言った。
「MI6の、通称ナーガよ。」
『MI6だと?聞いてねーぞ!?』
「あたしも知らなかったもん。」
『ミランダからミナへ。三人目の男はこちらにも情報が入ってないわ。』
「ミナ、了解。」
あくまでクールなミリーナにあたしは答えた。
「あ、あいつ・・」
姉ちゃんが言った。
「知ってるの?姉ちゃん!」
「ズーマ。」
姉ちゃんの話はこうだった。
姉ちゃんはたちSASは、アフガニスタンに侵攻したソ連に対抗するため、アメリカCIAの依頼で
グリーンベレーなどと一緒にイスラムゲリラ支援のため派遣され、地対空ミサイル・スティンガーの使い方
などを教えていたと言う。そんな時、KGBの意をうけたスペツナズがゲリラ掃討を開始した・・・のだが、
姉ちゃん一人で襲ってきた一個大隊を全滅させてしまった。だが、一人だけ追跡を振り切ったやつがいた。
「それがあのズーマとかいうやつってわけね。」
「そ。」
その後、尾行を開始し、たどり着いたソ連大使館の、窓からよく見えるカフェで紅茶をすすりながら
姉ちゃんは言った。
「どうすんの?これからアイツ、何かしでかすつもりだろうし、姉ちゃん、顔知られてるじゃない。
姉ちゃんのこと恨んでるわよ。きっと。」
「もち!力でねじふせるまでよ。」

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登場人物、追加。
MI6(対外秘密情報部)諜報員グレイシア。コードネームはナーガ。
きっといつも同僚のジェー○ズ・ボンド
上司の“M”、秘書マ○ー・ペニーを困らせてるんでしょうなあ。
それと、アフガンの話のあたりはスレイヤーズと同じ富士見の某作品参照。
多分、姉ちゃんたちが支援したイスラムゲリラの中には“少年兵カシム”とか、スペツナズの中に“カリ―ニン大尉”
あるいは“ガウルン”なんてやつがいたりするかもしれません。




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5184灰色の空の下・4R.オーナーシェフ 12/13-18:48
記事番号5118へのコメント

灰色の空の下・3について。
GRU:ソ連軍情報部。
それと、最初の、オレンジ色の光から、突然視界が明るくなるところ、地下駐車場から、出るとこなんですが、
よー考えたら夕方5時の設定だったし、あそこ緯度高いし、真っ暗やな・・・(汗)。設定冬にすればなおさら。
ってなわけで、今、インバース姉妹が紅茶飲んでる店の外は夜です。
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「おう、マスター。ここに置いてくぜ。」
いつのまにか、カウンターにすわり、黒ビールのジョッキを空けていたルークが言った。
・・・・・・・・はて。あそこにおいたお金・・・・・?
あたしの視線の先に気づいたか、姉ちゃんがあたしにささやく。
「あたしが払っとくわ。」
「・・・・・・・・・・え!?えええええええええ!?ね、姉ちゃんが!?珍しい!!」
「仕事、あるんでしょ?利子は10%くらいに負けとくわ。」
・・やっぱし・・・・・。

からんからん、と、で入り口を開ければ、あたりまえのように夜の冷気が頬に突き刺さる。
「ねえ、ルーク?」
「あ?」
「ビール代、随分高かったみたいね。」
「関係ねーだろ。」
「大アリよ。何あんた、あたしらの情報屋横取りしてんのよ?このへんの店は全部あたしが
仕切ってんだから。」
「どこかの警官どもがしくじって俺らのセーフティ・ハウスがIRAの犬にふっとばされた
からだ。」
「せ、セーフティ・・・って、まさか、あの古いビル!?空き部屋ばかりで、怪しげな
企業一社しか入ってなかったけど。仕事で来てるやつなんていなかったし。」
「MI5のダミー会社だ。最近になってから、副部長の指示で作ったんだ。あん時だって
副部長、官邸によばれてたんだから・・」
「しゃべり過ぎよ!ルーク!」
別の通りから姿をみせたミリ―ナがわって入った。
ちい。もうちょっとだったのになあ。
「警察、信頼してないのね。ミリ―ナ。」
「仕事がら、仕方ないのよ。最近内部のチェックも厳しくてね。わかってちょうだい。」
「ま、それは分かるわ。似たような仕事してるしね。それより大使館に動きは?」
「無いわね。まるでからかってるみたい。」
「からかってる?」
「あの男、ルナ・インバース少佐の言うズーマってやつが気になるわ。」
「・・・あ、そうか・・。」
「そうかって、何が?」
ルークが聞いた。
「あのねえ、同業なんだから気づきなさいよ。堂々と空港から大使館に行けば一発で
あたしたちに分かるでしょ?二人の武官はいいとして。あのズーマがなにかしに来た
のなら、偽造パスポートかなにかで来て、とっとと仕事すませて、さっと出国するのが
普通でしょ?」
「・・そっか。喧嘩でも売りに来たかな。」
その時、
『ララファよりミナ。』
突然イヤホンからガウリイの声。
「何よ。どしたのガウリイ?」
何も気にせず本名で呼ぶあたし。一応決めてあるコードネームも、あたしたちはけっこう
いいかげんに使ってる。
「すぐ来てくれ。」

「何よガウリイ?」
「警視正からわたされたこいつで見たら、人が一人足りなくなってるんだ。」
あたしはわたされた、その双眼鏡で、大使館のほうをのぞく。
「へえ。赤外線か。」
微妙な温度の違いで、壁の向こうの人間が色の違いで示される。まる見えだ。
「で、つまり、人が一人消えたタイミングをみのがしてしまったと?」
「・・・り、リナ、目が恐い・・・。」

************************************************
セーフティ・ハウス:情報収集に使う秘密の拠点。
確かこの名前だったとおもふ。うるおぼえなんだけど。

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5202灰色の空の下・5R.オーナーシェフ 12/15-18:39
記事番号5118へのコメント

「ま、ちゃんと人の数覚えてたんだから、ガウリイにしちゃあ上出来か。」
白い息をはきながらあたしは言った。
「ふう。よかった。なあ、リナ。やっぱし消えたのは、あのズーマってやつなんだろうな。」
「そうね。他には考えにくいわね。」
「まわりは取り囲んでるし。人の出入りはないよな。」
「多分、地下からね。脱出口は考えればいくらでもあるわ。」
赤外線画像をみながら言った。多分、バスルームかキッチンか。その近くに入り口でも作られたら、こいつでは確認しようもない。
熱で画像が光ってしまう。
となればどこから出てくる?下水道か?だが、この時期はIRA対策の警備のためマンホールはヤードが封をしてある。
それくらい奴らもつかんでるだろう。そうすると・・、
「地下鉄か。」
「地下鉄!?おし!それならいますぐ駅に向かって・・」
「で?どこの駅!?」
「・・・・・・・・・・・・・」
この、世界最初に地下鉄の走ったロンドンに地下鉄駅などいくらでもある。ズーマの目的がわかれば場所も絞れるだろうが。
それに、私服警官やMI5エージェントを大量動員して警戒すればバレることまちがいなし。指名手配犯を追うのとは
違う。秘密裏に追跡できなければ意味はない。
「まかれたか・・・。」
あたしはえりのあたりに隠しつけたマイクにささやいた。
『ミナより各々。MI5に引き継いでスペシャル・ブランチは引き上げるわよ。」

「リナ!」
「ん・・・・もう食べられないわ。ガウリイ・・・むにゃ・・・。」
「なーに寝ぼけてんのよ。イスに座ったままねるんじゃないの。はい紅茶。」
となりの席の姉ちゃんが言った。ひさびさに一家そろったインバース家の朝食だ。
ああ、それにしても慣れたとはいえ・・やっぱ眠い。この仕事は女にゃつらいわ。
肌が荒れちゃう。
「で、どう?仕事のほうは?」
「うーん・・・・」
ゼロスが爆破した、ビルにMI5のセーフティ・ハウスがあったのは偶然か?ズーマのやつが武官と一緒に堂々と
空港からまっすぐ大使館に行き、いきなり消えたのはなぜ?IRAにソ連に・・・あああああっ!もういやっ!!!
「ねえ。姉ちゃん、ズーマってどういう奴?」
「暗殺得意なスぺツナズだけど。」
「それだけ?」
「うん。後はよく知らない。まあ、あたしにかなわないと分かった後の行動は早かったわ。諦めのいいやつね。」
「何しにこのロンドンに来たんだろう?」
「だれか殺しに来たんでしょ。それが仕事だし。」
あっさり言うな・・。
やがて、とうちゃんがネクタイ直しながら立ち上がった。
「じゃ、リナ、先行くぞ。」
「うん。」
やはり火のついてないタバコをくわえたまま。喫煙はかあちゃんからなかなか許してもらえないらしい。
・・ん?
あたしはとうちゃんの読んでた新聞をひろげた。目に付いたのは二面のはしっこのほう。
「『サッチャー首相、MI5部長を再任。異例の定年延長。フィリオネル内相の助言。』か。」
「へえー。ラーヴァスの奴、さぞや悔しいでしょうねえ。」
「あ、そっか。順調に行けば次の部長だもんねえ。」
「やっぱ・・。こいつかな。怪しいのは。」
「へ?何が?」
あたしは、姉ちゃんに間の抜けた受け答えをした。
「あれ?とうちゃんから聞いてない?MI6のグレイシアから、MI5内部からKGBに情報が流れてるらしいって報告があったって。」
「えええええええええええ!?聞いてないよ!?」
「あたしも、グレイシアも、とうちゃん、ヤードのインバース警視正の要請で呼び戻されたのよ?」



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5226灰色の空の下・6R.オーナーシェフ 12/19-14:17
記事番号5118へのコメント

姉ちゃんの話でなんとなく見えてきた。と、なると・・・やっぱ危険なのはあの人か。
「分かりました。リナさん。」
「こっちは引き受けた。」
そう言ってアメリア、ゼルは大臣の護衛の交代チームとともにヤードを飛び出していった。向かった先は、フィル内相のもと。
フライングスコード(特別機動隊)も同行させたかったが、やつに警戒していることが気づかれる。あの2人が頼りだ。
姉ちゃんが手を回してSAS・対テロチームも待機に入った。いつでもヘリで飛びたてるという。
「んじゃ、あたしたちも行くわよ。ガウリイ。」
「行くってどこへだよ?」
「いいから。ついてきて。」

てきとうにぶらぶらしながら、やがて公衆電話が見えてくる。
「うーん、やっぱし、これしかないか。」


「なんだよ。いきなりこんな店に呼び出して。」
ルークが言った。
「美味しいのよ。結構。」
「そうじゃねえだろ?何のようだ?」
「ねえ、ルーク。地下鉄にさあ、いろいろ怪しい施設ってつながってたりしてるでしょ?MI5が管理してるとこ。案内してくんない?」
「断る。」
まあ、予想はしてました。あたしもうわさでちょっと聞いただけだし。
「じゃあ、今まで握り潰してあげてたMI5の超法規行動、立件するわよ。」
「って、お前らだってやってるだろ!?」
その時、沈黙していたミリーナがルークを制した。
「リナさん。それはスコットランドヤードの正式な要請と受け取っていいかしら?」
「ううん。あたしの個人的な、お・ね・が・い♪」
「・・・・・いいわ。」
「ミリーナ!?」
「このままだと大変なことになる。そうね?リナさん。」
驚いたルークのセリフを流しつつミリーナはそう答えた。
「変だなとは思っていたわ。最近、MI5上層部が情報を下に降ろしてくれなくってね。ただ利用されてるって感じ。」
突然、ガウリイが立ち上がった。
「話はまとまったようだな。そろそろ動いた方がいい。」
「え? ・・・・・・・・・・・あ!」
意外と早かったな。もうちょっと余裕はあるかなと思ったのだが。
「どういうことだよ?」
やはり気づいたか、ルークが言った。そう。今、この店は監視されてる。中も外も。かなりの人数動員しおったな。
「だってぇ、あんたら直接呼び出すのに公衆電話しか思い付かなかったんだもん。
一般回線だからGCHQ(政府通信本部)には筒抜けでしょうね。MI5内の誰かさんにも連絡が行ったんじゃないかしら。」

「じゃあ、おばちゃーん!つけといてね。」
「あいよ。」
そして、あたしたちはゆっくり、平然と店を出た。やはり、いくつか視線を感じる。んっもう、かわいいって罪ね。
・・・・・違うか。
すこし歩いてから、ショーウインドウの前を通りかかった。そこに、反対側の建物の窓の中の影が映る。
刹那。
一瞬、ガウリイの腕が動いたかのように見えた。同時に、その窓にヒビが入ったのがショーウインドウに映る。
やがて。ゆっくりと。その影はライフルを床に落とし崩れ落ちた。
ひえー。相変わらず人間技じゃねえでやんの。今の一瞬でガウリイはふところからサイレンサー付き拳銃を抜き
ビルの中の影を狙撃したのだ。もちろん常識では拳銃で届く距離ではない。
「今!」
あたしの合図で一気に走り出した。

********************************************************
GCHQ:イギリスの電波や通信を傍受する機関。アメリカNSAなどと一緒に最近話題になったエシュロンなんてのをやってるとこです。

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5227灰色の空の下・7R.オーナーシェフ 12/19-18:42
記事番号5118へのコメント

路上の地下鉄入り口。階段を降り、通路に出ると、職員、障害者用のエレベーターにつきあたった。あたしたち四人は、
それにのりこみ、ルークが緊急連絡用のボックスをあける。その中の、緊急ボタンと電話の脇のすみっこのほうの黒い部分に
人差し指をふれる。一瞬、かすかに光ったかと思うとエレベーターはいきなり下の階へと動き出した。指紋識別か。
「ずいぶん税金使ってるわね。」
「まあな。ヤードにゃわけてやらねえぞ。」
ルークがぶっきらぼうに答えた。

一番下の階に到着し、入り口が開いて、ルークとミリーナの二人がでていこうとした時・・。
あ!この男・・・。
入れ違いにその男がエレベーターに入ってきた。20代と言っても通じる。当然もっと年上だろうが。
冷たい美形。人を見下したような視線。
「おはようございます。ラーヴァス副部長。」
「ああ。おはよう。」
表情ひとつ変えず、ミリ−ナがあいさつをかわした。
・・って!やば。エレベーターが上に上がっちゃう!
あたしはガウリイに目で合図し、一緒に、側の壁に飛び移り、鉄骨にぶら下がった。
降りる途中、あたし達はだいたいの施設の構造を聞き、別れ、エレベーターの上の部分に飛び出した。
まさか外部の人間が堂々と中へ入ってくわけには行かないもんね。変装もここでは使えないだろう・・・
・・・・・・・・・・・あ、あったかい・・じゃなくて!!!
「ガウリイちょっとくっつきすぎよ!」
「仕方ないだろ?この鉄骨、そんなに長くないんだから。リナ、顔、赤いぞ?」
あたしの肩に腕をまわすようにしてしがみついているガウリイが言った。
「う、うっさいわね。それより・・・あ!あそこがいいわ。ガウリイ、左の四角い金網はずせる?」
「これか?おし!」
かき がちがち が ぐわしゃああああん!
「しーっ!もっと静かに!さ、中へ入ってくわよ。あ、そうそう。ガウリイ!」
「ん?」
「前、見ないでね。」
「なんでだ?」
「・・は、はずかしいし・・。」
「そんな狭くて暗いとこ、前見ないと進めないぞ?」
「・・・・・・そっか。うーん・・・・・仕方ない!と、とにかく行くわよ!」
「お、おう。」

やがて、下の部屋から薄明かりが射し込んでる部分が見えてきた。そろそろ、この辺だな。
そこへ、到達し、下をのぞくと打ち合わせ通り、二人がまっていた。

かち
しゅっ  すたっ!
「ここね。施設の構造図が全部分かる部屋は。」
「ああ。」
答えたルークは、近くのキーボードに歩み寄り、モニターにそいつを映し出した。