◆−桜の精の恋 前編−雫石彼方(12/22-04:54)No.5235 ┣桜の精の恋 後編−雫石彼方(12/22-05:02)No.5236 ┃┗アメリアがかわいいですぅ!−桐生あきや(12/22-06:07)No.5239 ┃ ┗ありがとうございます〜!−雫石彼方(12/23-00:45)No.5249 ┣桜の精の恋 ―番外編―−雫石彼方(12/23-01:02)No.5250 ┣桜の精の恋 ―番外編― 超おまけ−雫石彼方(12/23-01:19)No.5251 ┃┣得した気分−穂波(12/23-05:42)No.5253 ┃┃┗こんなんでよかったのでしょうか・・・?−雫石彼方(12/23-19:01)No.5259 ┃┗おひさですっ!v(^_^)v−キト(12/23-14:54)No.5258 ┃ ┗お久しぶりでーす(^^)−雫石彼方(12/23-19:49)No.5261 ┗桜の精の恋 ―クリスマス編―−雫石彼方(12/24-00:01)No.5265 ┗あああ現代版だす。−ねんねこ(12/24-23:57)No.5277 ┗現代版だすよ。−雫石彼方(12/25-02:50)No.5279
5235 | 桜の精の恋 前編 | 雫石彼方 E-mail | 12/22-04:54 |
この話は、以前ゼルアメMLで連載させていただいたものなんですが、ちょっと思うところがありまして、こちらにアップさせていただきます; 確か前に、これはML用に書いたものだから他のところにはアップしない、とか言ってた気がしますが・・・・まあ、その時はその時、今は今、ということで(爆)相変わらずアバウトだなぁ、私(汗) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 桜の精の恋 ある小さな小さな国に、大きな大きな森がありました。 その森には妖精たちが住み、桜の大木フィリオネルを王としてまとまった、とても平和な森でした。 フィリオネル王には、それはそれは可愛らしい、アメリアという娘がありました。彼女は桜の花の妖精で、素直で明るく、とても優しい森の人気者でした。 そんな彼女には、好きな男がおりました。しかし、男は妖精ではありません。毎年春になると森に咲く花々を撮りに来る、“カメラマン”という種類の人間でした。男は森の数ある花々の中でも、特に見事な花を咲かせる桜の大木がお気に入りらしく、桜を見ながら弁当を食べたり、昼寝をしたりしました。アメリアは、そんな男を眺めているのが好きでした。 今年もまた春が来て、男が“カメラ”を持って森へやって来ました。アメリアは嬉しくて嬉しくて仕方ありません。 「こんにちは、アメリアさん。今日はずいぶんとご機嫌ですね」 声を掛けてきたのは、この森によく木の実を食べに来る小鳥のゼロスです。 「はい!今年もまた、あの人が来たんです!!」 「あの人?――ああ、あの人間の男ですね。でもねアメリアさん、気を付けた方がいいですよ。人間はとても恐ろしい生き物です。それにあの男、ものすごく目付きが悪いじゃないですか。あまり関わり合いにならない方がいいですよ」 「そんなことありません!!人を外見で判断するなんて悪ですし、それにあの人は絶対悪い人なんかじゃありません!!」 「でも、しゃべったこともないんでしょう?」 「そ、それはそうですけど・・・でも、分かるんです!!」 ―――だって、自然を眺めている時のあの人の瞳は、とても優しい色に満ちているもの・・・・!! アメリアは叫ぶと、居ても立っても居られなくて、その場を飛び立ちました。 「やれやれ・・・。これからのアメリアさんのことを心配して、せっかく忠告して差し上げたのに・・・この森も寂しくなりますねえ・・・・。まあ、僕は木の実さえ食べられればそれで満足ですけど(はあと)」 徐々に小さくなっていくアメリアを見送っていたゼロスは、何やら意味深な言葉を呟くと、何事もなかったように木の実をつつき始めました。 アメリアは夢中で飛び続け、気が付くといつも人間の男がくつろいでいる、アメリアの父、フィリオネルのところに来ていました。そしてやはりその日も、男はそこで昼寝をしていました。 アメリアは男の傍に舞い降りると、そっと話し掛けました。 「こんにちは、今日もいい天気ですね」 「・・・・・・」 「いい“しゃしん”はとれましたか?」 「・・・・・・」 いくら話し掛けても、男が起きる気配はありません。――それもそのはず、普通の人間である彼には、妖精であるアメリアの声は聞こえないのです。それでもアメリアは泣きそうな顔で一生懸命話し掛けつづけました。 「ねえ、起きて下さい。起きて、こっちを見て下さい・・・」 すると、男はむくっと起き上がりました。 ―――通じた・・・!! アメリアは嬉しくなって、勢い込んで話し掛けました。 「こ、こんにちは!私、アメリアです!あ、あなたのお名前は何ていうんですか・・・?」 「・・・・・・」 しかし、男は何の反応も示しません。その代わり、ぶるっと身を震わせると、 「少し寒くなってきたな・・・そろそろ帰るか・・・」 と呟き、帰り支度を始めました。 「あ、待って下さい!!あの・・・・!!」 アメリアの必死の呼びかけも虚しく、男は帰っていってしまいました。 遠ざかっていくその姿をただ見ていることしかできず・・・彼女の頬に、涙が零れました。 男は毎日森へやって来ましたが、一度もアメリアの呼びかけに答えることもなく帰っていく日が何日も続きました。 ―――やっぱり、妖精と人間は結ばれない運命なのかな・・・・ けれど、想いは募っていくばかり。 そして、桜の花もずいぶん散って、そろそろ見納めになってきた頃。アメリアは、ついに決心しました。 ―――人間になりたい・・・!! ある夜、アメリアは想いを父親に打ち明けました。 「父さん、私、好きな人がいるんです・・・」 「あの、人間の男・・・じゃろう?」 「え・・・!?知ってたんですか・・・!?」 「お前を見ていればな・・・」 すべてお見通しだったことに、アメリアは真っ赤になって俯きました。けれど、彼女にはどうしても譲れない願いがあります。 「父さん・・・私、人間になりたいんです・・・!」 娘の言葉に、フィリオネルは深い深い溜息をつきました。 「いつかは、そう言い出すんじゃないかと思っておったよ・・・・」 アメリアは静かに、父の言葉の続きを待ちました。 「お前が幸せになることが、わしの何よりの幸せじゃ・・・。この森の東のはずれに、リナという人間の魔女が住んでおる。彼女なら、お前の望みを叶えてくれるであろう」 「父さん・・・・!!」 「行くがよい、アメリアよ・・・。ただし、誰よりも幸せになること・・・これだけは約束じゃ」 「はい・・・はい、父さん!!私、きっときっと、幸せになってみせます!!父さん・・・ありがとう・・・・」 アメリアは父親の大きな幹に抱き付きました。“ありがとう”の気持ちが伝わるように・・・小さな手を、一生懸命伸ばして・・・・ 夜が明けるのを待って、アメリアはリナという魔女のところへ向かいました。 残り少なくなった桜の花が、風もないのにはらはらと散っていました。まるで別れを惜しんで零れる、涙のように・・・・ アメリアは森の東のはずれへと向かいながら、リナさんってどんな人だろう、と考えました。フィリオネルの話によれば、彼女は人間でありながら、生まれ持った魔力が故に妖精たちの声を聞き、姿を見ることができるということでした。 ―――すぐに願いを叶えてくれるかな・・・?優しい人だといいけど・・・魔女っていうと、意地悪そう・・・いいえ!人をイメージだけで決め付けるのは良くないわ!!まずは会ってみなきゃ!! そんなことを考えていると、小さな家が見えてきました。 妖精であるアメリアが普通にドアを叩いたのでは小さすぎて聞こえない為、人間の拳ほどの大きさの石を抱え上げ、叩こうと振り下ろした瞬間―――ドアがすっと開き、中から出てきた女の頭に・・・・直撃しました。 『・・・・・・』 死のような沈黙がその場を包み込みます。そして・・・・ 「んっふっふっふっふっふっふ・・・・・(怒)」 「あ・・・・・あのぅ・・・・・(汗)」 「くぅおらああああああああっ!!このリナ=インバース様に出会い頭に一発かましてくれるとはいい度胸してんじゃないのよ!!たたっ斬ってくれる!!」 「んきゃああああああっ!!ごめんなさああい、わざとじゃないんですう〜〜〜(泣)」 いまやアメリアはリナの手に引っ掴まれ、ぶんぶんと振り回されています。 ―――このままじゃ人間になる前に殺される・・・・!! アメリアは本気で身の危険を感じました。 その時、振り回された拍子にアメリアの懐から何かがコトン、と落ちました。それに気付いて、リナの動きが止まります。 「ん・・・?ああーーーーっ!!これ、月の雫の結晶じゃない!!前から欲しかったのよねー!――ねえ、ちょうだい(はあと)」 「ええ!?でも、これは父さんから・・・」 「これでさっきのちゃらにしてあげるから。ね、ちょうだい(はあと)」 「・・・はい・・・・(涙)」 ずずいっと迫ってくる迫力に負け、アメリアはそれをリナに渡しました。何より命には代えられません。 ―――そういえば父さん、途中危なくなったらこれを使いなさいって言ってたっけ・・・ああ、父さん、そういうことだったんですね・・・・(涙) こうして、アメリアは何とかリナと会うことに成功したのでした。 「人間になりたい!?」 それぞれの自己紹介を済ませ、アメリアが用件を伝えると、リナは驚いたように聞き返しました。 「なんでまた?はっきし言って、人間なんてあんまりいいもんじゃないわよ?空は飛べないし、仕事持って働かなきゃなんないし、いろいろしがらみはあるし」 「――私・・・人間の男の人を好きになってしまったんです。でも、このままじゃお話することもできません。だから・・・」 「だから、人間になりたいって?でも、たとえ人間になったとしても、その人があんたのことを好きになるっていう保証はどこにもないのよ?」 「分かってます。それでも・・・あの人が、私の存在にすら気付かないで去っていってしまうのはもう嫌なんです。せめて、私がここに居るんだってことだけでも、知ってもらいたい・・・・」 「―――フィルさん・・・あんたの父さんは、何て言ってんの?」 「行って・・・幸せになりなさいって・・・」 「そう・・・」 短く呟くと、リナは何やら考え込み始めました。その様子に、アメリアはおずおずと尋ねます。 「あの・・・人間になる方法は、あるんですか?」 「ないことも・・・ないわ」 「本当ですか!?」 ぱっと顔を輝かせるアメリアとは対照的に、リナの表情は曇っています。 「一つ、確認したいことがあるの」 「え、何ですか?」 「アメリア、あんた、その為なら何もかも捨てられる?」 「え・・・?どういうことですか・・・?」 「古い文献にね・・・あんたと同じように、人間に恋して人間になった妖精の記録があるのよ。強大な魔力を持った者の手によって、魔術は成功したわ。でも・・・妖精から人間に・・・それは生半可な変化じゃない。何の代償もなしに、そんなことができると思う?」 「その妖精は・・・どうなったんですか・・・?」 アメリアの顔色が、心なしか青く見えます。それを見て、一瞬ためらった後、早口に告げました。 「自分の名前以外、それまでの記憶が全部なくなったのよ」 息を呑む気配がしました。 しばらくは、二人とも何も言えませんでした。 長い沈黙を先に破ったのは、アメリアでした。 「それまでの記憶って・・・今まで過ごしてきた時間、全部・・・?」 「そう、全部」 「楽しかったことも、悲しかったことも・・・人間の人を好きになったことも、人間になりたいって思った理由も、全部・・・!?」 「そうよ。何もかも」 「そんな・・・じゃあ、その妖精の恋はどうなったんですか・・・!?」 「自分が好きになった相手すら覚えてないんだもの・・・実らなかったそうよ」 「・・・・!!」 それを聞いて、アメリアがふらふらと窓辺の方へ飛んでいきました。 「アメリア・・・?」 「すみません・・・少し、外の空気を吸ってきます・・・。窓、開けてもらえますか・・・?」 リナが窓を開けてやると、アメリアは力なく外へ出て行きました。しばらくは戻ってこないだろうとは思いつつも、窓を開けっ放しにしたまま、リナは魔道書を読み始めました。 |
5236 | 桜の精の恋 後編 | 雫石彼方 E-mail | 12/22-05:02 |
記事番号5235へのコメント 外へ出たアメリアは、湖の辺へやって来ました。腰を下ろし、水の流れをただただ見つめます。 「こんにちは、アメリアさん」 不意に後ろから声を掛けられ振り向くと、それは水の妖精シルフィールでした。 「シルフィールさん・・・」 「どうしたんですか?何だか元気がないみたいですけど・・・」 アメリアは言うべきかどうか迷いましたが、理由を話すことにしました。 「そうですか・・・人間になるのと引き換えに記憶が・・・」 「はい・・・どうしたらいいのか分からなくて・・・」 しばらく二人とも黙って湖を眺めていましたが、やがてシルフィールが口を開きました。 「――でも、アメリアさんは強いですね」 「え?」 「人間になったら、今までとは全く違った暮らしになってしまうでしょう?何もかもが未知の世界・・・。しかも、その人が自分を好きになってくれる保証もない・・・。私だったら、記憶がどうこう以前に、人間になる勇気がないですもの・・・」 「え、そうですか?私は別に・・・そりゃ、父さんや森のみんなと会えなくなるのは寂しいですけど・・・」 「よっぽど好きなんですね、その人間の方が」 くすっと笑いながらシルフィールに言われて、アメリアは赤くなりました。 「――大丈夫ですよ、きっと」 そう言い切るシルフィールを、アメリアは不思議そうに見つめます。 「その方を想う、アメリアさんの強い心があれば・・・。だって、そうでしょう?例え記憶がなくなったとしても、アメリアさんの考え方が変わらなければ、きっとまた、同じところに惹かれ、同じ人を好きになるはず・・・」 「そっか、そうですよね・・・。ちゃんと自分を持っていれば、想いは変わらないですよね!」 「ええ。自分に自信を持って!」 「シルフィールさん、ありがとうございました!私、自分を信じてみます!!」 シルフィールにぺこりとおじぎをすると、アメリアは勢いよくもと来たリナの家の方へと飛び立っていきました。その姿を眩しそうに見つめ、シルフィールはぽつりと呟きました。 「――私にもあなたのような強さがあったなら、あの人と・・・」 少し悲しげに笑って、シルフィールは湖の中へ戻っていきました。 「リナさんっ、リナさんっ!!」 湖から戻ったアメリアは、リナの家に勢いよく飛び込みました。 「ア、アメリア!?どうしたのよ、そんなに急いで・・・」 さっきのことがショックでなかなか帰っては来ないだろうと思っていたので、リナは驚きました。しかも、アメリアの表情は希望で輝いているのです。 「リナさん、記憶が無くなっても構いません、だから私を人間にしてくださいっ!!」 「――どうしたのよ、突然!?さっきまであんなに沈んでたのに・・・」 「私、分かったんです!例え記憶が無くなっても、強い信念を持っていれば、想いは変わらないって!シルフィールさんに教えてもらいました!」 「シルフィール?」 「あ、この森の湖に住む、水の妖精さんです。――私、自分を信じてみることにしました。やってみる前から怖がっていたら、何も始まらないですもん!!」 そう断言するアメリアの、なんと活き活きとしたことでしょう。 それまで呆気に取られてアメリアを見つめていたリナでしたが、やがて軽く息を吐き出すと、ふっと笑いました。 「・・・分かったわ。協力する。日が暮れるまでに準備を終わらせて、夜には儀式を始めるわよ」 「はい!!」 元気よく返事をしてにっこり笑ったアメリアの笑顔は、とても眩しく見えました。 生き物達が寝静まり、静けさ漂う夜。 それは月明かりが綺麗な夜でした。 ここはフィリオネルの桜の大木の前です。アメリアが人間になり、目覚めた時にすぐあの人間の男に会えるように、儀式はここで行われることになりました。地面にはリナが描いた魔法陣があります。その魔法陣を背にし、アメリアは今、フィリオネルの前に佇んでいました。 「父さん・・・・」 「アメリア・・・これが最後の別れになるやもしれんな・・・・」 二人の間に、言い様もない切なさが流れます。アメリアは涙を堪え、最愛の父に語り掛けました。 「―――父さん、私は父さんの娘であることに誇りを持っています。記憶が無くなっても、私は一生、父さんの娘です。必ず・・・必ず、また会い、に・・・き・・・っ・・・・!」 最後の方は言葉になりませんでした。 樹の形態であるフィリオネルにはアメリアを抱きしめることはできませんでしたが、優しい空気が、フィリオネルの娘を想う気持ちが、彼女を包み込みました。 「待っておるよ・・・アメリア・・・・。さあ、顔を上げて・・・・」 フィリオネルに促され、アメリアは顔を上げました。 するとどうでしょう。ほとんど散ってしまっていたはずのフィリオネルの桜の樹が、零れんばかりにその花をつけていたのです。 「父さん・・・これ・・・・!?」 「わしからの餞別じゃ。受け取ってくれ」 「こんな、自然の流れに逆らうようなこと・・・父さん、相当力を使ったでしょう!?無理して・・・・!!」 「なーに、これくらい、わしの力を持ってすればなんてことはない。だから、わしのことは心配せんでいい。――ほら、リナ殿が待っておるぞ」 「はい・・・・」 アメリアは涙を拭き、リナの方に向き直りました。それを確認して、リナは魔道書を手にとりました。 「じゃあ、始めるわよ。アメリア、その魔法陣の上に仰向けに寝て」 リナの言った通り、仰向けになります。空には、柔らかな光を放つ月が見えました。 ―――綺麗・・・・。あの月が沈んで朝になったら、私は人間になっているんだろうか・・・・ アメリアがそんなことを考えているうちにも、リナは呪文を唱えていきます。それはまるで流れる歌のようで・・・・。 子守唄を聞きながら、アメリアの意識は暗い闇へと落ちていきました・・・・ いつものように、彼は森の中を歩いていました。向かうは桜の大木。しかし、昨日来た時には大分花は散っていました。 「もうそろそろ見納めだろうな・・・。今年は今日で最後にするか・・・・」 そう呟きながら歩を進めていると。 風に乗って、幾片もの桜の花びらが彼の前を舞っていきました。 幾片も、幾片も。 「・・・・?」 ほとんど残っていないはずの桜の花びらが、なぜこんなに舞っているのか。不思議に思って、彼は駆け出しました。 そして、彼が見たものは・・・・。 まるでその空間だけ時間が遡ったように咲き誇る、満開の桜の樹でした。 「こんな・・・ことが・・・・・」 そう呟いたきり、呆然とその光景を見つめ続けました。 どれくらいそうしていたでしょうか。 何か聞こえた気がして、我に返りました。 よく見ると、桜の樹の前で誰かがうずくまっています。近づいてみると、肩辺りで切り揃えた黒髪、色白な肌の、白いワンピースを着た女でした。顔は膝に埋めている為分かりません。彼女は泣いているようでした。 男は少し戸惑いましたが、声を掛けてみました。 「――おい・・・・?」 声を掛けられて初めて傍に誰かが居ることに気が付いたのか、彼女ははっと顔を上げました。 「・・・・・!」 男は息を呑みました。 彼女は女というより、まだ少し幼さを残した可愛らしい少女でした。けれど男が何より惹かれたのは―――涙で赤くなってはいるものの、とても澄んだ、大きな蒼い瞳でした。 「・・・あなたは・・・誰・・・・?」 「あ、俺の名はゼルガディスだ・・・。この森に写真を撮りに来たんだ。あんたは・・・・?」 「私・・・私は・・・・アメリア・・・・」 「アメリア・・・・。どうしてこんなところで泣いているんだ?」 「・・・・分かりません・・・・・」 「え?」 「分からないんです・・・。名前以外、何も思い出せないんです。それで、どうしていいか分からなくて・・・・」 そこまで話すと、また不安になったのか、涙が込み上げてきました。 「・・・っ・・・ふぇっ・・・・」 「お、おい、泣くな!泣くなって!!」 いきなり目の前で泣き出されて、ゼルガディスは焦りました。 ―――参ったな・・・どうすりゃいいんだ・・・・ 彼は途方に暮れました。こうしている間にも時間は過ぎていきます。 ―――記憶喪失状態の女をこんな森の中に一人、置いていくわけにもいかないし・・・だが、一人暮らしの俺の家に連れて行くってのもな・・・・いやしかし・・・・ 何やら真剣に悩み始めたゼルガディスを、アメリアは泣くことも忘れて不思議そうに見つめていました。 ふと視線を感じて、顔を上げた瞬間ぶつかりあう、瞳と瞳。飛び込んできたのは、蒼い―――― 「俺と一緒に、来るか?」 無意識に、言葉が口を突いて出ていました。少女はぽかんとこちらを見ています。 「あ、いや、無理にとかじゃなくて、別に嫌ならいいんだが、その・・・・」 「―――いいんですか・・・・?」 「あ?あ、ああ」 「私みたいな見ず知らずの人、迷惑なんじゃないですか?しかも、記憶喪失なんて・・・・」 「―――なんでだろうな・・・俺自身、警戒心は強い方で、あまり人は信用する方じゃないんだが・・・。あんたなら、なんとなくいいような気がしたんだ。――そう、何だか前に会ったことがあるような・・・・あ、これは別にナンパじゃないぞ!!あんたの方こそいいのか?俺なんかを信用して」 ゼルガディスの言葉に、アメリアはにっこりと微笑みました。 「大丈夫。あなたはいい人です。――だって、あなたの瞳はとても優しい色に満ちているもの・・・・」 それは、ゼロスにゼルガディスのことを悪く言われた時に、アメリアが言ったのと同じ言葉。例え記憶を失っても、彼女の心はちゃんと覚えていたのです。 それを聞いて、少し照れながらゼルガディスも優しく微笑みました。 「俺のことをそんな風に言った奴は初めてだ。変わったお嬢さんだな・・・・」 「お嬢さんじゃありません!私はアメリアです!!」 「分かったよ・・・アメリア」 ゼルガディスに名前を呼ばれて、アメリアはなぜかとても幸せを感じました。 ―――どうしてだろう・・・ただ、名前を呼ばれただけなのに・・・・ それは、妖精だった頃、どんなに話し掛けても気付いてもらえなかったことからきているのですが・・・記憶を失った今、彼女には知る由もないことでした。 「さ、行くぞ」 「はい・・・」 ぎこちなく手を差し出す青年、はにかみながら手を取る少女。先ほど出会ったばかりの二人は、傍から見れば、もう既に恋人同士のようでした。 去っていく二人を、桜の樹は静かに――ただ静かに、見守っていました。 「ゼルガディスさん、早くーー!」 「おい、ちょっと待てって!」 ここはあの森の中。色とりどりの花々が咲き乱れています。今年もまた、春がやってきたのでした。 真っ先に駆けて来るのはアメリア、少し遅れてゼルガディスの姿も見えます。 あれから数年が経ちました。 毎年、春になるとここへ二人で訪れるのが習慣になっていました。 一人から二人へ―――けれど、変化はそれだけではありません。アメリアに出会う前は、主に自然の風景を専門に撮っていたゼルガディスでしたが、彼の作品には、一人の少女が必ず入るようになりました。それは、見るものすべての心を和ませるような、優しい風景・・・・。 「こんにちは、桜さん!今年も来ましたよ!」 この森でも一番大きな桜の樹に抱きついて、アメリアが挨拶をします。ゼルガディスがカメラを組み立てている間、そうやってこの森の主に話し掛けるのが彼女の習慣でした。最初の頃、ゼルガディスが「何でそんなことをするんだ?」と聞いたことがありましたが、アメリアは笑って、「分かりません。でも、なんとなくこうしなきゃいけない気がするんです」と答えました。それ以来、ゼルガディスは何も言いません。ただ微かに笑って、そんなアメリアの行動を見つめるようになりました。 『あら、アメリアさん達・・・。今年もそんな時期になったんですね・・・ふふ、幸せそう・・・・』 『おや、騒がしいから誰かと思えば。アメリアさんが人間になって、この森も静かになると思ったんですが、案外そうでもないみたいですね・・・・』 『よく来たのう、アメリア、ゼルガディス殿・・・。元気そうで何よりじゃ。来年辺りには、孫の顔がみたいもんじゃな・・・・』 妖精や動物達が口々に囁きます。彼らの囁きは二人には聞こえませんが、温かな想いは、きっと届いていることでしょう。 今日も元気な声が森に響きます。 ―――ある小さな小さな国に、大きな大きな森がありました。 そこは妖精と動物と、そして少しの人間達にとっての、楽園の地――― END |
5239 | アメリアがかわいいですぅ! | 桐生あきや | 12/22-06:07 |
記事番号5236へのコメント メールどうもありがとうございましたっ。 桐生です。 アメリアが可愛すぎます〜〜! 桜色のほわほわしたイメージが頭のなかに自然と浮かんできて、 とってもカワイイです(><) ゼロスが小鳥さんというのも笑えます(笑)。 何の鳥だろう? メジロとかだったらさらに笑えるんだけど。 メジロって花食べますから、桜の花ついばむようなことしていたら みんなから怒られるだろうし……うーん。 ただのスズメってのもあんまなさそうですし。 ゼルの「ナンパじゃないぞ!!」も個人的に大ヒットでした。 実にゼルらしいセリフな気がします。軟派なゼルって想像つかないです(笑)。 なんとか実家に帰る前にiモードに機種変更して、ネットとメールができるようにならないか奮闘中です(^^; あと五日しかないですが(汗)。 それでは。 桐生あきや 拝 |
5249 | ありがとうございます〜! | 雫石彼方 E-mail | 12/23-00:45 |
記事番号5239へのコメント こんばんわっ!いつもレスありがとうございます! > メールどうもありがとうございましたっ。 > 桐生です。 うふ〜、また送っちゃいますからね〜v > アメリアが可愛すぎます〜〜! > 桜色のほわほわしたイメージが頭のなかに自然と浮かんできて、 > とってもカワイイです(><) ありがとうございます〜♪ ほわほわですか!嬉しいなあ。そういうほわほわとした感じの、おとぎ話みたいな話を目指して書いたので・・・。 > ゼロスが小鳥さんというのも笑えます(笑)。 > 何の鳥だろう? メジロとかだったらさらに笑えるんだけど。 > メジロって花食べますから、桜の花ついばむようなことしていたら > みんなから怒られるだろうし……うーん。 > ただのスズメってのもあんまなさそうですし。 特に決めてはいなかったんですけど、イメージ的にはメジロが一番近いかも・・・。でも、花食べるんですか(汗)そりゃまずいなあ。むー、どうしよう・・・。 > ゼルの「ナンパじゃないぞ!!」も個人的に大ヒットでした。 > 実にゼルらしいセリフな気がします。軟派なゼルって想像つかないです(笑)。 確かに軟派なゼルなんて想像つきませんよねー。なんてったってアメリア一筋!の超やきもち焼きさん、というのが私のゼルのイメージですし。でも、アメリアも結構やきもち焼きな気がする・・・・。結局、お互いにベタ惚れってことですね(^^) > なんとか実家に帰る前にiモードに機種変更して、ネットとメールができるようにならないか奮闘中です(^^; > あと五日しかないですが(汗)。 いいなぁ、私も携帯変えたいんですよね・・・。同じ機種持ってる人が周りに誰もいなくって、メールが誰ともできないという・・・(‐‐;) ではでは、ありがとうございました! |
5250 | 桜の精の恋 ―番外編― | 雫石彼方 E-mail | 12/23-01:02 |
記事番号5235へのコメント これも、ゼルアメMLのHPの方に載せていただいたものです。 この番外編は、本編でアメリアとゼルが出会った後、人間界に向かう途中の話になります。 ところでこの話、妖精とか魔女とか出てきますが、一応現代物なんです・・・それに気付いてもらえていたかしら・・・?カメラとか出てきたからわかるか・・・。 ではでは、短いですがご覧くださいませ♪ ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 桜の精の恋 ―番外編― 出逢うべくして出逢い、一緒に暮らすことになったゼルガディスとアメリア。 二人は大きな大きな森を抜け、人間界へと向かいました。 やがてアメリアの目に飛び込んできたもの――それは、固そうな箱の下に丸い黒いものが4つ付いた、妙なものでした。 「ゼルガディスさん、これ何ですか?」 「何って、車だが・・・・?」 「くるま・・・・」 ゼルガディスはアメリアの質問に少し首を傾げましたが、あまり気にしないことにして、トランクを開けながら声を掛けました。 「先に車に乗っててくれ」 「はあ・・・・」 そしてカメラ一式を積み込み、トランクを閉めたゼルガディスが顔を上げると――なんと、アメリアが車の屋根の上にちょこんと乗っていました。 「な・・・!何やってるんだ!?」 「え?え?――だって、くるまに乗れってゼルガディスさんが・・・・」 「あ、あのなあ、そんな体張ったボケはしなくていいから、“中に”乗ってくれ!」 「中・・・?」 ゼルガディスは訳が分からないといった感じのアメリアを見て深ーい溜息をつくと、助手席のドアを開け、彼女を座らせました。 ――普通分かるだろ・・・(疲)まさかこいつ、記憶と一緒に一般的な生活知識まで無くなっちまったんじゃないだろうな・・・!? 何やら嫌な予感を感じつつ、ゼルガディスは車を発車させました。 そしてその予感はばっちりぴったし、当たっていたのです・・・・。 車が動き出せば 「きゃあぁぁぁっ、何にもしてないのにどうして動いてるんですか!?」 とパニックし、街に入れば 「わあー、箱・・・じゃなくてくるま、いっぱいですねー・・・ああっ!!ぶつかっちゃいますっっ!!!」 と大騒ぎし、高層ビルを見れば 「すごーい、高ーい・・・!!ゼルガディスさん、あれ何ですか!?あれ!」 と、落ち着きないことこの上ありません。 ――もしかして、俺はとんでもないものを拾ってしまったのではないか・・・? と、ゼルガディスが後悔し始めたその時。 「わあぁ、綺麗・・・・!!」 感動したようなアメリアの声が聞こえました。 気付けば日はとっぷりと暮れ、辺りは暗くなっています。 ゼルガディスがアメリアの方を向くと、闇の中に様々な街の灯が浮かび上がり、とても幻想的な景色が目に飛び込んできました。そしてそれに見入っているアメリアの顔も・・・・。 「綺麗ですね、ゼルガディスさん!」 ふいにアメリアが嬉しそうにこちらを向きました。ゼルガディスが彼女の顔を見ていたのはほんの2、3秒のことでしたが、妙に照れくさくなって、彼女から顔をそらすように前に視線を移します。 「私、あんなに綺麗なもの見たの初めてです!――単に記憶がないから覚えてないだけかもしれませんけど・・・今度は忘れないように、ちゃんと覚えておかなくちゃ!!」 「――心配しなくても、また見せてやるさ・・・今度はもっとゆっくりな・・・・」 「はい・・・!!」 アメリアの顔を見ながら言うのは照れくさくて、前を見つめたままゼルガディスは言いました。緊張でハンドルを握る手に力が入っていたのは、アメリアには内緒です(笑) ゼルガディスの言葉を聞いて、アメリアはとても幸せそうに微笑みました。それを目の端でちらっと見たゼルガディスは―― ――確かにとんでもない拾いものだが・・・・・・・まあ・・いいか。 と、彼もまた、幸せそうに微笑むのでした。 おわり |
5251 | 桜の精の恋 ―番外編― 超おまけ | 雫石彼方 E-mail | 12/23-01:19 |
記事番号5235へのコメント え〜とですね。これは、ねんねこさんとのメールのやり取り中に即興で作った、番外編の続きです。ゼルの家に着いてからの一騒動、ということで。 あまりにも短い、どうでもいい話なので、『超おまけ』です。もはや本編の雰囲気の欠片も無い話になってますが、せっかくツリー作ったので載せてみました♪ ほんと、取るに足らない小話なので、お暇な方だけどうぞ〜(^^;) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 桜の精の恋 ―番外編― 超おまけ 「さて、腹減ったろう。何か簡単に作るから適当にくつろいでてくれ」 「はあい」 とりあえずパスタでも茹でるか、と支度を始めたゼルガディス。そこへ――― 「ねえねえゼルガディスさん、これ何ですか?」 「あ?・・・ああ、それはテレビだ」 (やっぱりテレビも知らないか・・・) 「てれび?」 「ああ、右下の丸いの押してみろ」 「はい」 ポチッ パッ(ニュースキャスターのアップ) 「わぁっ!?な、な、な、なんですかぁ、これ!?ひ、人が箱の中に〜〜〜!!!もしも〜し、大丈夫ですかぁ〜〜!?」 ばんばんばん(テレビを叩いてる) 「大丈夫か聞きたいのはこっちの方だ・・・(疲)」 「ゼルガディスさん、これは?」 「あれは?」 「それは?」 怒涛のような質問攻め。 ところがそれがぱったりと止まった。 「・・・・・・・・」 (なんだ、急に静かになったな・・・?) ―――が。 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」 「な、なんだ、どうしたっ!?」 「ゼルガディスさ〜んっ!!」 ひしっ(抱きつき) 「お化け〜〜〜っ(涙)」 「・・・お化け?」 ぶおぉぉぉぉぉっ 見るとそこにはスイッチの入った掃除機一つ。 「・・・・・アメリア、これは掃除機だ・・・・(汗)」 「そうじき?」 「ゴミを吸い取って部屋を綺麗にする道具だ」 そう言ってスイッチを切る。 「アメリア、もう大丈夫だから、その、離れ――」 「怖かったですぅ〜〜〜(うるうる)」 「――なくてもいいか・・・・(///)」 流されまくりながらも、幸せを感じてしまうゼルガディスなのでした。 ちゃんちゃん♪ ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― く、くだらない・・・・(汗)ごめんなさいぃぃ; |
5253 | 得した気分 | 穂波 E-mail | 12/23-05:42 |
記事番号5251へのコメント おはようございます、穂波です。 MLでも拝読していたのですが、なんとおまけまで・・・! というわけで、改めて読ませていただきました。 とぼけた姫と、ぢつはちゃっかりしているゼルが楽しかったです。 可愛いおまけまで読ませてもらえて、何だか得した気持ちでした。 |
5259 | こんなんでよかったのでしょうか・・・? | 雫石彼方 E-mail | 12/23-19:01 |
記事番号5253へのコメント 朝早くからありがとうございます! >MLでも拝読していたのですが、なんとおまけまで・・・! >というわけで、改めて読ませていただきました。 前に番外編を考えた時、ほんとはゼルの家に着いてからのことを書くつもりだったのに気付けば車の中での話になってたので、ちょこっと書いてみました☆ >とぼけた姫と、ぢつはちゃっかりしているゼルが楽しかったです。 >可愛いおまけまで読ませてもらえて、何だか得した気持ちでした。 どーにもしょーもないおまけですが、喜んでいただけたようでよかったですv 実はもう一つ付け足す予定ですので、よろしければまた見てやって下さいね; |
5258 | おひさですっ!v(^_^)v | キト | 12/23-14:54 |
記事番号5251へのコメント お久しぶりすぎですぅ(涙) さっそく感想を・・・ 最初はどうなる事かと思いましたが最終的にはハッピーエンドでよかったです♪ でも、アメリアが車とか知らないのが良かった〜ってゆーか 面白かった!あとゼルが大変だろーなぁと思いましたね♪ でも、最後はラブラブでしたね♪ 記憶が無くなってもアメリアの愛は変わらないんですよね!すごいです! あと、フィルさん最高!桜の大木とは・・・・いい役してるねぇ ・・・・・・・・・・・・・顔が見えないし(爆) さて、これぐらいで・・・キトでした♪ ぴぃえす・これからもガンバッ! |
5261 | お久しぶりでーす(^^) | 雫石彼方 E-mail | 12/23-19:49 |
記事番号5258へのコメント キトさん、お久しぶりです。 レスありがとうございます! >さっそく感想を・・・ >最初はどうなる事かと思いましたが最終的にはハッピーエンドでよかったです♪ >でも、アメリアが車とか知らないのが良かった〜ってゆーか >面白かった!あとゼルが大変だろーなぁと思いましたね♪ 元妖精さんですからねー、普通の人には信じられないくらいの無知な子です(^^)ゼルは大変でしょうけど、アメリアとのらぶらぶな生活の為!頑張ってもらいましょう(笑) >でも、最後はラブラブでしたね♪ >記憶が無くなってもアメリアの愛は変わらないんですよね!すごいです! 二人の愛は〜、永遠に〜♪(←こんな歌はありません/笑) >あと、フィルさん最高!桜の大木とは・・・・いい役してるねぇ >・・・・・・・・・・・・・顔が見えないし(爆) フィルさんの妖精姿は想像したくないですからね(笑)大木になっていただきました(^^) >ぴぃえす・これからもガンバッ! ありがとうございます!頑張りまーすv |
5265 | 桜の精の恋 ―クリスマス編― | 雫石彼方 E-mail | 12/24-00:01 |
記事番号5235へのコメント 今回一番書きたかった話です。 何かクリスマスネタないかと必死に考えて、やっとこさ思いついたのが『桜の精の恋』の設定での話。でもこれだけアップしたんじゃわけわからないだろう、ということで、過去の作品引っ張り出してきたわけです(^^;) えーと、内容はですね・・・・きっとまた甘いでしょう(笑) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 桜の精の恋 ―クリスマス編― 「じゃあ、ちょっと行ってくるけど、大丈夫だな?」 「――はい」 「何かあったら、連絡先を書いておいたからそこに連絡してくれ」 「はい、気を付けて行ってきて下さいね」 「ああ。じゃあ、行ってくる」 「行ってらっしゃい」 彼が軽く微笑んで、出かけていく。 ドアがばたん、と音を立てて閉まるのを見届けて、アメリアは心細そうに俯いた。 アメリアがここに来てから半年ちょっと。 彼女が居候している部屋の主であるゼルガディスは一介のカメラマンであったが、その実力が認められ、ここ最近急に忙しくなった。そして今日も、仕事の為に泊りがけで出かけていった。ゼルガディスの話では早くて三日、遅くて一週間ほどかかるとのこと。 ―――明後日は、“くりすますいぶ”とかいうお祝いの日なのに・・・・・。一人ぼっちじゃ、寂しいな・・・・・ 元妖精であるアメリアにとって、初めてのクリスマス。 いまいちそれがどういうものなのかはよくわからなかったが、テレビを見て、“恋人達が贈り物をし合ったりして愛を確かめ、高める日”と理解した。実際には、クリスマスはキリストの降誕祭、クリスマスイヴはその前夜祭であって、決して“恋人の日”などではないのだが、アメリアがそんなことを知る由もなく。“恋人の日”にゼルガディスがいない、ということが寂しくてしょうがなかった。 けれど、そんなことは彼には言えない。“寂しい”などと言って、活き活きとした表情で仕事に出かける彼を困らせるようなことは、絶対にできるはずがなかった。 彼女は彼のことが、大好きだったから。 「――よし、いつまでも寂しがっていてもしかたないです!お掃除を始めましょう!」 ぐっと握りこぶしを作って気合を入れ、掃除に取り掛かる。 数分後、コードに足を引っかけ、派手にすっ転ぶ大音響がその部屋に響き渡った。 クリスマスイヴ、当日。 アメリアが大好きな戦隊物の番組をゼルガディスにビデオ録画してもらったものをリビングで見ていると、突然電話が鳴りだした。未だに慣れないその音にびくっとしながらも、急いで受話器を取る。 「――はい、もしもし」 「あ、アメリアか?俺だ」 聞こえてきたのは、ここ二日間聞いていない、大好きな声。 嬉しさに声が震えるのを自覚しつつ、それでも叫ばずにはいられなかった。 「ゼルガディスさんっ!!」 「アメリア、元気にしてたか?」 「はい、元気です!ゼルガディスさんは?」 「ああ、大丈夫だ」 「そうですか!お仕事の方はどうですか?」 「それなんだがな。速攻で終わらせた。あと2,3時間で帰る」 「え・・・・・ええ!?ほ、ほんとですか!?」 「ああ。それで、出かける準備しておいてくれ」 「どこに行くんですか?」 「まあ、それは後でのお楽しみだ」 それから二言三言交わして、受話器を置く。 しばし喜びに浸って―――――― 「〜〜〜〜〜〜っわーーーい!!ゼルガディスさんと“恋人の日”ーーーーーーっ!!」 嬉しさのあまり、飛び跳ねる。―――が、突然彼女ははっと何かに気付いたように動きを止めた。 「・・・・そうだ、贈り物・・・・・!!―――どうしよう・・・・・・」 彼女の中では、あくまでクリスマスは“恋人達が贈り物をし合ったりして愛を確かめ、高める日”である。だから、ゼルガディスが今日帰ってこれるとなれば、何が何でも贈り物を用意しなければならない、と思い込んでいるのだ。 「う〜ん、贈り物、贈り物・・・・・・・う〜〜〜〜〜ん・・・・・・・」 数分後、部屋の中をぐるぐると歩き回りながら考えているうちにテーブルの脚に足の小指をぶつけ、痛みに転がっているアメリアの姿があった。 道の両脇に立つ街灯が、次々と近づいては遠のいていく。 ゼルガディスの運転する車の助手席でその光景をぼんやりと眺めながら、アメリアはこっそりと溜息をついた。 あれから随分と考えたけれど、いいものが思いつかないうちにゼルガディスが帰ってきてしまい、結局何も用意できなかった。 黙々と車を走らせるゼルガディスの横顔をじっと見つめる。 ―――ゼルガディスさん、どこに行くつもりなんだろう・・・・? ポーカーフェイスなその顔からは、何も読み取ることができない。 ―――私のこと嫌になっちゃって、これから私を捨てに行くんだったらどうしよう・・・・・ “ゼルガディスさんがそんなことするはずない”と思いながらも、さっきから一言も話さない彼の様子に、不安で押し潰されそうになる。 一時間ほど走り通しだった車が徐々にスピードを落として止まったのは、それから間もなくだった。 「・・・・・ここな。お前と来たかった場所なんだ」 そう言って、丘の上でエンジンを止める。 ずっと俯いていたアメリアは顔を上げて・・・・・息を呑んだ。 きらびやかな街の灯。 瞬いている星屑。 遠くには、客船の灯りが見える。 「―――綺麗・・・・・・」 心の底から、そう思った。 「お前と初めて会った日、約束しただろ?いつか、ゆっくりと夜景を見せてやるって」 「・・・・覚えててくれたんですか?」 「ああ」 優しく微笑むゼルガディスの顔が、ふいに滲んで見えた。 後から後から、とめどなく零れ落ちる涙。 そんなアメリアを愛おしげに見つめて、ゼルガディスは宥めるようにその大きな手で彼女の頭を撫でた。 「ゼルガディスさん・・・・」 「なんだ?」 「私ね・・・・・ほんとは毎日、すごく怖かった・・・・・・。自分の名前以外、何も覚えてなくて、不安で・・・・・。でも、ゼルガディスさんがいてくれたから・・・・ずっと支えていてくれたから、私は壊れずにいられたんです」 「アメリア・・・・・」 「でも私は、普通の人なら当たり前に持ってる一般知識さえなくて・・・・ゼルガディスさん、ほんとは呆れてるんじゃないかって。そのうち、私のことなんて嫌いになっちゃうんじゃないかって思ったら、何よりすごく怖かった・・・・・」 それに反論しようとして口を開いたゼルガディスを遮るように、アメリアが続ける。 「でもね。私、ゼルガディスさんのこと、大好きだから。どうしたって、それだけは変わらない。変えられないから。私、ゼルガディスさんに嫌われないように努力します。だから・・・・・だから、傍に居ても、いいですか?」 真摯な瞳で自分を見上げるアメリアを、ゼルガディスは抱き寄せた。 「バカ、余計な心配するな。そんなに心配しなくたって、お前の面倒は俺が見てやるよ。・・・・・一生な」 ゼルガディスの胸に頬を寄せていたアメリアが、その言葉に、弾かれたように顔を上げた。 「あ、あの、それって・・・・・それって、ぷ・・・・ぷ・・・ぷ・・ろ・・・?んーーーと、ぷー・・・・・・・」 言いたいことを表す言葉が出てこないのか、しきりに「ぷ」を連呼して考え込む。 「ぷ・・・・ぷろ・・ぱんガス?」 考えに考え抜いた結果、辿り着いたのは“プロパンガス”。さすがにその答えに脱力しながら、ゼルガディスは訂正した。 「・・・・あのな、それを言うなら“プロポーズ”だろ?」 「あ、そうでしたそうでした!ぷろぽーずです!!――で、さっきのって、ぷろぽーずですか!?」 「・・・・お前の好きなように取ってくれて構わん」 真っ赤になった自分の顔を見上げられないように彼女の頭を引き寄せて、ぶっきらぼうに答える。 ゼルガディスに抱き締められながら、アメリアはこの上もない幸福を感じていた。 ―――この人の腕の中は、なんて温かいんだろう・・・・・・ 初めてのクリスマスイヴ。 贈り物は何もなくても、誰かを愛する気持ちが贈り物なんだと、そう気付いた。 二人にとって、とてもとても大切な、日。 〜Merry Christmas〜 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 何か最近私が書く話って全部、アメリアが泣いてる気がします・・・・(汗)今度はアメリア泣かさないように気を付けよう(笑)久しぶりにギャグ書いてみようかな・・・。 |
5277 | あああ現代版だす。 | ねんねこ E-mail URL | 12/24-23:57 |
記事番号5265へのコメント ねんジーだすよ。 あああ現代版だす。思えば雫ちゃんの名前をはじめて知った作品がここまで広がってくれて嬉しいだすよ。 ……にしても、あなたに『ねんねこさん』言われるとなんだかすごく違和感を感じますな(笑)もうパソコン『ねんねこさん』打つと『ねんね古参』になります。意味不明です。気にしないでくれ。 ところで、クリスマス版だすぅぅぅぅぅっ! 恋人の日と勘違いするアメリアもナイスだったけど、即行で仕事を終わらすゼルもすごくよかった。というか、クリスマスを控えているのにアメリア置いて仕事に行くと言ったゼルを張り倒そうと思ったよ自分。 でも幸せでよかったよかったvv あうあ。もう後6分でクリスマスだすよ。 ……明日あたりに全部一気に続きをだそう。そしてその日のうちにHPに……手ああ、忙しいなあ。 ではまた! |
5279 | 現代版だすよ。 | 雫石彼方 E-mail | 12/25-02:50 |
記事番号5277へのコメント ねんジー、メリークリスマス〜♪ >あああ現代版だす。思えば雫ちゃんの名前をはじめて知った作品がここまで広がってくれて嬉しいだすよ。 そーか、ねんジーがおいらを最初に知ったのはこれだったのかー。旅立つヒナを見守る親鳥の気分?(←ちょっと違う) >……にしても、あなたに『ねんねこさん』言われるとなんだかすごく違和感を感じますな(笑)もうパソコン『ねんねこさん』打つと『ねんね古参』になります。意味不明です。気にしないでくれ。 だぁって、『ねんジー』言うのおいらだけだし。他の人にはわかんないかなー、と思ってさ。うちは『ねんねこさん』打つと『ねんねこ三』になった。ねんジーが三人。うわーい。・・・やっぱりおいらも意味不明。 >ところで、クリスマス版だすぅぅぅぅぅっ! >恋人の日と勘違いするアメリアもナイスだったけど、即行で仕事を終わらすゼルもすごくよかった。というか、クリスマスを控えているのにアメリア置いて仕事に行くと言ったゼルを張り倒そうと思ったよ自分。 >でも幸せでよかったよかったvv きっと仕事をこなすゼルは、半端じゃないほど気合入りまくりだったことでしょう。「早く終わらせんとアメリアとのクリスマスイヴがーーーーーっ!!」ってな風に(笑) >あうあ。もう後6分でクリスマスだすよ。 >……明日あたりに全部一気に続きをだそう。そしてその日のうちにHPに……手ああ、忙しいなあ。 お、続きだすね!待ってるわ〜v じゃ、レスどうもありがとうでした〜!! |