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5243灰色の空の下・8R.オーナーシェフ 12/22-17:34


「で、でけえ・・・・・・・・・。」
モニターに映し出されたそれをみてあたしはつぶやいた。
現在地が赤い点で示され、そこから迷路のように通路がつながっている。
「昔な、第二次大戦中、チャーチルがナチスのロンドン空爆の時に地下から指揮を執り、ラジオで国民に呼びかけた
のが最初だ。その後、色々改造して、核戦争に備えたり、施設を追加していった。」
ルークが言った。「ねえルーク、地上のロンドンの街の地図、それに重ねられる?」
「ああ。」
そう言って、ルークはキーボードを軽く、2,3回たたく。
「ほら、出たぜ。」
ふーん。なるほど。これなら・・・・、
「ねえ、ここの場所まで、案内してくんない?」
あたしはモニターを指差しながら言った。
「ここって、ソ連大使館の真下かよ!?」
「そ。」
「無理ね。」
ミリーナが言った。
「入れる区間は限られてるわ。」
「それは好都合ね。」
『なんで?』
ルーク、ミリーナ、ガウリイがはもった。
「誰もいないんだから、堂々と行けるじゃない。」
「そりゃあ、そうだが・・・途中、監視カメラやら、微妙な振動に反応するやつとか、めいいっぱいあるぞ。」
ルークが言った。
「・・あ。でも、それなら、コントロールしているのは本部で、部長直属だし、すぐにはエージェントもこないと思うわ。」
そうミリーナは言って、あたしたちは行動に移った。

「・・・・・・・・い、行き止まりね・・。」
「ああ。こっから先はMI5の幹部のカードと番号と指紋じゃないと開かない。副部長クラス以上のな。」
やたらに頑丈そうな、閉まった入り口らしき壁の前でルークが言った・・
・・・やいなやのその瞬間!!

ずどごばどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん

「ぐ、げふっ、げふっ、な、何よ!?いきなり!?」
もうもうと上がる煙の中、やがて、一つの影が現れた。
「リナ、あたしよ。あたし。」
「そ、その声は!!」
姿をあらわしたのは、すらりと背の高く胸のでかいショートカットの女性。着ているのは、ケブラー繊維で織り込んだ
らしい、夜よりも深き黒の戦闘服。SASが突入に着るやつだ。
「る、ルナ・インバース少佐!?」
ガウリイが言った。
「姉ちゃん、なんで!?どうしてここに?」
「あんた達とは別口から忍び込んで、行き止まりにつきあたったから、プラスチック爆弾で吹き飛ばしたんじゃない。」
「別口って?」
「ソ連大使館。」
『・・・・・・・・・・・・』
あっけにとられる一同。
「いったい、どうやって!?外交問題になっちゃうじゃない?」
「どうやってバレずに忍び込んだかは秘密。たまーにやってるのよ。CCDやら集音マイクやらをつけるのにね。
大使館の、あたしが抜けてきたとこ、作りは雑で、新しかったわ。つい最近急いで作ったみたいにね。」
ま、まさか・・・あの時、大使館の中の人の熱源か一人消えたからって、直接確かめに行くとは・・・。
さすがは姉ちゃん。
「そっか・・・。これでだいたい証拠はそろったかしら。ソ連側とMI5内部の一勢力が大使館からのルートを
つくり、暗殺要員ズーマを誘導した。そいつは・・、」
「この爆破しちゃった入り口を開けられる人物。めったにここを通る人はいないし、多分、メモリーをみれば
特定できたんだけど・・爆破しちゃったから、」
「この瓦礫のなかから、地道に髪の毛かなにかの証拠探すしかないわね。」
ミリーナに続きあたしは言った。
「と、いうわけよ。ガウリイ。がんばってね。」
「がんばってって・・・この瓦礫のなかから!?俺一人!?」
「だってー、あたしめんどくさいこと、いやだし。」



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5260灰色の空の下・9R.オーナーシェフ 12/23-19:40
記事番号5243へのコメント

とは言ったものの、さすがにこれは時間もかかるし。一応鑑識技術も持ってはいるが。
「な、なあ。」
ルークが言った。
「ズーマのやつがここのルートを通ったとして、どうやってバレずに通ったんだ?
だれかと出会えば知らない顔は気づくぞ。」
「・・あ。ってことは・・・・・・・・急ぐわよ!!!!」
「どこへ!?」
「フィルさんのもとよ!!」

途中、出会ったMI5要員何人かが驚き、さえぎろうとしたがガウリイが気絶させ、地上へ這い出した。
「よし。こっからなら電波がとどくわね。」
そう言って、姉ちゃんは通信機を頭にセットした。
「こちらCRW少佐。今どこにいる?・・・え?リナ、来るわよ!」
そう姉ちゃんが言った時、
「え?来るって?何が?」
「あそこ。」
姉ちゃんが指差したのはロンドン名物時計塔・・・・の向こう!!
ババババババババババ
そいつは、表れたかと思った次の瞬間、あっというまに頭上に静止し、ロープをたらした。
ロイヤル・エア・フォースのSAS隊員を乗せた特殊作戦ヘリだ。
「・・・・・・・。なーんて驚いてる場合じゃないか。行くわよ!!」

乗ってすぐついたのは内務省ビル。姉ちゃん達に続き、前にちょっと訓練しただけの慣れない高速ロープ降下で屋上におりたった。
「あんたたちは合図したら窓から入って。」
姉ちゃんが部下の黒ずくめ集団の指示し、あたしたちは階段を駆け下りた。
「り、リナさん!?」
ついたのは、大きな扉の前。そこにいたアメリアが驚く。
「あんたら、何やってんのよ!?」
「MI5ラーヴァス副部長が来てフィル内相と秘密の会議だからって外に出されたのだが・・・ってまさか!?あいつが!?」
ゼルが言った。
「おそらくね。姉ちゃん、頼むわ。」
あたしたちは物音たてずに、さっと扉のそばにかけよった。両脇に身を隠し自動拳銃構える。姉ちゃんが、爆薬をセット。
ずだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん
同時。姉ちゃんが通信機に叫ぶ!
「突入!内相確保して!!」
なだれこむあたしたち。同時に向こうの窓が割れ黒ずくめが飛び込んでくる。
刹那
ひげ生やしたでかい顔の内相とソファーで向かい合ってた男の目が変わる。謀略めぐらす頭脳派の冷たい目から、
人の命で糧を得る獣の鋭い目へと。
スペツナズ暗殺要員、ズーマ。
かすかにそいつの腕が動き、光が走る。
「がああああああああああああっ」
内相を確保しようとした、ヤードの護衛官、SAS隊員数人が首から血を吹き出してその場に倒れた。
「きさまあああああっ!!」
ずだだだだだだだだん!!
叫んだゼルそしてアメリアが一気に発砲する。
だが、流れるようにズーマのナイフが走る。ゼルの腕を。
「くっ!!」
なおもナイフが首へせまろうとした時。
「はあっ!!」
一瞬。ガウリイが、そのナイフを持った手をひねり、ズーマを投げ飛ばすが、体をひねり着地。その時だった。やつの目が止まる。
姉ちゃんのほうに。
「お前か。」
「MI5の技術で変装したのかしら。でもその目つきは変わらないわね。アフガンの決着、ここでつけてみる?」
ズーマは、無言で窓から飛び降りた。
「まちなさい!!」
「リナ、深追いするな!!」
ガウリイが叫ぶが、あたしはSAS隊員の使ったロープをつたい追いかける。
地上に降り、やがて、やつが振りかえった。
あたしは腰から伸び縮み式の特殊警棒を取り出した。
「逃がさないわよ。」
一時、静寂が支配する。

ズーン
「・・が、がはっ・・・・・」
腹部に熱い衝撃がはしる。ゆっくりと。力が抜け、路上に倒れこむ。熱く赤い液体が広がってくる。
「甘いな。ヤードの娘よ。我が銃器を持ってないと判断するとはな。」
見ると、それは空港のチェックを通りぬける特殊なプラスチック製の銃だった。
視界がゆらぎ、かすんでくる。思ったよりもダメージが大きい。
ロープで降り追いかけてきたみんなが駆けつける。だが、銃をつきつけられた姿を見せられたか、動きか止まる。
ガウリイが、何度も叫ぶのがわかった・・・・・・・・。
あたしは、なんとか顔をみんなの方に向け、彼と目が合った。


「終りだ。娘よ。」
顔の人造の皮膚を強引にはがし、本来の素顔を見せたズーマが、銃をあたしの額に向ける。その時!
「ズーマ!!」
ガウリイが走る!!
「ちっ!」
ズーマがガウリイの方を見ようとした。

ダァァァン


頭を撃ち抜かれ、ドサッと倒れこんだ。
そのまま。闇に生きた男―ズーマは動かなくなった。
「ふっ。」
隠し持っていた小型拳銃、ワルサー/PPKの銃口から出る煙を息でふく。
「り、リナさん!?・・・・・・お化け!?」
「んなわけあるかい!!」
アメリアに言った。
「あんたの姉ちゃん、ナーガ、もといMI6エージェント・グレイシアから借りてたのよ。この、スパイの秘密兵器、
血袋入り防弾チョッキをね。でも、さすがにガウリイだったわ。目の合図だけで動いてくれたもんね。」

「リナ!後ろ!!」
ミリ―ナが叫び、振り返った時、即死したはずのやつが起きあがりナイフをつか・・・・・もうとした時!!!!
一瞬影が走る!!
「ぐはっ!!」
それはいつのまにか動いてた姉ちゃんの回し蹴りだった。姉ちゃんは、ズーマの頭を起こし、腕をまわした。そして、
力を入れる!
ボキ
「こいつ、チタンかセラミックか何かを入れてたわね。通りでアフガンで逃げられたわけだ。」

「終ったようじゃの。」
SAS隊員に守られるようにフィルさんが降りてきた。
「父さん!大丈夫?ケガは?」
「もちろん大丈夫じゃ。スペなんとかが怖くて政治家はやってられんでの。」
内相暗殺は、これで阻止できた。後は、あいつか。
「リナ!」
ガウリイが言った。
「お前が倒れた時、本気で目の前がまっくらになったぜ。こういうやり方は、俺は二度とごめんだからな。」
「・・・・・あ。そうか・・・。ごめん。ガウリイ・・・・・・。」








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5262灰色の空の下・10R.オーナーシェフ 12/23-20:53
記事番号5243へのコメント

その後、とうちゃんが裁判所から取ってきた逮捕令状を持って、MI5本部で平然としていた本物のラーヴァスをあたしとガウリイは連行した。
やがて、車両の反対側から、一台の大型トラックが近づいてきた。フロントガラスが日の光りを反射していたが、
だんだん中が見えるようになってきた。
刹那
トラックがいきなりスピードを上げる!まっすぐこちらに向かって。
「よけられない!!」
運転手の制服警官がさけぶ!
トラックを運転しているのは・・・・・・・ゼロス!!
何考えてんだあいつ!?
その時、あたしは、ルークから、ゼロスが表れたあの日、首相官邸にラーヴァスも来ていたこと、爆破されたビルにMI5の
セーフティ・ハウスがあったことを思い出した。
「・・・・・あ。そういうことか・・・・。これですべての点と線がつながったわ。」
「何落ち着いてんだよリナ!!脱出するぞ!!」
ガウリイが叫んだと同時に、車からラーヴァスを引きずり飛び出し、路上に転がる。
「リナ!走るぞ!」
振り返った時、トラックの中のゼロスは笑みを浮かべながら、ドアを開き飛び出した。ダメ。間に合わない。

ずどおおおおおおおおおおおおおおおん

あたり一面が炎につつまれる。
「っくう。トラックの中全部爆薬か。めちゃくちゃやるわね。IRA。」
ずだだだだだだだだん
「なんだ!?」
ガウリイが言ったその時、すこし離れたところにいた。ラーヴァスはゆっくりと倒れた。
その向こう。
銃口から煙を流すウージーを持ったゼロス。
あたしは急ぎ拳銃を構え、炎の中で対峙した。
「ゼロス、殺人の現行犯よ!動かないで。」
「何かいけませんか?仲間が昔、MI5の副部長さんにやられたからやりかえしただけですが。」
「たわごと言ってないで。ここで終わりにしましょ。あんたを逮捕するわ。」
「そうですね。・・もう・・・・このへんにしますか・・・・・。」
ゼロスがそう言った時、燃え盛るトラックが彼の上に崩れてきた。まるで予想してたかのように。よけようともせず。
その後、ゼロスの死体は発見されず、それから、彼は姿をあらわさなくなった。

じつはインバース警視正、とうちゃんは前からラーヴァスをマークしてたという。
スパイ捜査で彼とかかわった時、違和感を感じたらしい。
長年の刑事の直感ってやつだ。
その後、姉ちゃんの言った通り、ナーガがモスクワから、MI5内部からKGBに情報が流れてると報告した。
同時に姉ちゃんからズーマのことも聞き、イギリスに潜入してくることもつかんでいた。ねらいは、ラーヴァスをMI5
部長につけることに反対しているフィルさんであり、ソ連がMI5を意のままにあやつることを狙ってると直感したとうちゃんは、
ラーヴァスが首相官邸に来る日、セーフティ・ハウスの位置をIRAに流した。狙撃ポイントとなりやすいビルを爆破
させて、別の方法を取るため、ラーヴァスとズーマが接触せざるをえなくしたという。
「なんで、下に情報下ろしてくれなかったのよ。」
「そりゃあ、おめえ、敵をだますにはまず味方からっていうじゃねーか。」
「あの時、ガウリイが、ガウリイが死ぬとこだったんだから!!」
「おめーだって、グレイシアから、変な防弾チョッキ借りて危険なことやって、そのガウリイ心配させたんだろ。」
「うっ。」
「ま、だませるくらいに信頼してるってことだな。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「あ。そうだ。ガウリイのやつ、おめー探してたぞ。今日は早めに帰っていいから、行ってやれよ。なんか考えてるぞあいつ。
今日はクリスマスだしな。・・・そうだ、リナ。朝帰りはダメだぞ。」


しずかだった。さすがに冷えこむ。やがて、ロンドンの灰色の空から、白いものがゆっくりと降りてきた。
そのなか、彼は立っていた。
・・・・・・ん?
は、花束なんかもってやんの。何考えてんだ?あいつ。
「よう。リナ。前に、ゼロスが現れて狙撃位置についてて、街を眺めていた時、うまそうな店みつけてな。もう、予約してあるんだ。
一緒にいってくれねーか。忙しかったし、たまにはいいだろ?」
「・・・・・う、うん。」

とうちゃんの、いいつけは・・・・・守らなかった。

やがて時代は変わっていった。ベルリンの壁がくずれ、ソ連が崩壊。冷戦は終った。
だが、それは必ずしも平和を意味せず、湾岸戦争、ユーゴ内戦、次々と紛争が多発した。
そのたびに、当然のごとくイギリスも派兵し、もちろんSASも派遣された。
だが、姉ちゃんがCRWの対テロ教官として大切に育てた隊員のうち、何人かは帰ってこなかった・・・・・・・・・。


あたしのほうはどうなったかというと・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・警察官・・、やめちゃった・・・・・・・・。
・・・だってぇ、・・子供、できちゃったし・・・・・。
結婚してからも婦人警察官続ける人はいたが、あたしは子育てを考え、家庭をささえることにした。

世紀末。イギリスでは政権交代が起こり、労働党ブレア政権のもとで、北アイルランド和平が達成された。
あたしたち一家は、テレビでその式典をみていた。その中の、人だかりのすみっこのほう。やつはいた。
「・・あ!あああああああああああ!!」
「どうしたんだよリナ、いきなり大声だして。」
夫のガウリイが言った。
「ほら、あいつよ!!この画面のすみっこにいる、おかっぱ頭の男!!」
「ああああ!!こ、こいつ!?・・・・・だれだっけ?」
「あほかあああああああああああああっ!!!!」

そして。21世紀がやってくる。



灰色の空の下・おしまい。