◆−クラゲの恩返し−kobanzame(1/17-03:00)No.5456


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5456クラゲの恩返しkobanzame E-mail URL1/17-03:00


 時は夏――暑い、あつい、熱い!!
「風魔咆裂弾(ボム・ディ・ウィン)!」
「ぐゎぁっ!」
 全身黒ずくめの男が木の繁みから落ちてきた。
「ほーっほほほほっ! このわたしを付け狙うとは、身のほど知らずね。
 さあ、答えてもらいましょ! 何が目的なの?」
 男の襟首をがっちり掴んで問い詰める。
「くっ、気づかれていたか。さすがにうわさの白蛇の(サーペント)ナーガ!
 このわしの隠遁の術を見破るとは……」
「別に、見破ったわけじゃないわよ」
「へっ?」
「暑さのストレスを呪文で発散させたら、あんたが落ちてきたの」
「それで、なんでこんなことを……」
「悪人面してたから、とりあえず締め上げてみただけ!
 さぁ、ネタは上がってんのよ白状しなさい!」
「そのようなことで、わしが口を割ると思っているのか。
 次は、逆さ吊りにムチか、それとも三角木馬に滑車か?
 石に座らせそろばんを膝に置き、石を抱かせる石責めか?
 そんなものには屈せぬぞっ!」
「あんた詳しいわね」
「こう見えても組織では拷問愛好会の会長を務めておるっ!」
「胸を張るなぁ〜 結破冷断(ライプリム)!」
「白蛇のナーガっ! おぬしの面妖な姿形(なり)を見ていると拷問マニアの血が騒ぐっ」
「言うなぁ〜 礫波動破(ヴィーガスガイア)!」
「その程度では、わしの向学心は打ち負かされぬ」
「まだいうかぁ〜」
 麗しき母なる大地よ
 豊かなる恵みの大地よ
「げぇっ、その呪文はっ――蓮獄火炎陣(ヴレイヴ・ハウル)」
 熱砂の波が来ようとも
 氷の嵐が吹こうとも
 汝の心に永久の……
「わっわかった。白状するから、やっやめてくれぇ〜」
 変態拷問男のたっての願いを受け入れて、呪文を中断した。
 そ、始めから言うことを聞けば痛い目にあわずにすんだのよ!
 男はわりと素直に話し始めた。
「白蛇のナーガがサウス・コーストに向かっているという知らせを受けたので、てっきり宝を狙っているものと……」
 お宝っ――!
 避暑ばかりではなく、お宝付きとは――行かずばなるまい、サウス・コーストっ!

 ザザぁ〜ん、ザザザザザぁ〜ん
 いい男性(おとこ)はいないわね〜
 青い空とどこまでも続く砂浜
 遠くに白帆を上げた船が行き交い。近くは人波がイモを洗うように――どこでにもある、変わりばえのしない海水浴場
 しかし、沖に見えるは島一つ
 これが、サウス・コースト名物シヴァ・アイランド
 昔から、シヴァ・アイランドには海の守り神がいて、長期の航海の前には必ず海難除けの祈願をしたという。
 確かにお宝が隠されていてもおかしくない。
 ところがこの島は六芒星(ヘキサグラム)の形をしていて、近くでは呪文が使えない。だから、浮遊(レピテーション)などでは近づけない。
 おまけに海流が入り組んでいて、地元の人間でも船で近づくことは難しい。
 うーん、手強いわね。
 それだけに、上物が隠されている可能性が高い。
 さて、どうしましょうか?
 でも変態男はこの状況を分かっていて、シヴァ・アイランドへ向かっているのよね。何か方法があるに違いないわね!
 眠り(スリーピング)をかけて、その辺の枝に吊るしといたけど、今ごろは逃げ出してるでしょうし……
「や、これなにー」
「気持ちわるーい!」
 浜辺で子供たちが数人集まって歓声を上げている。
 ふっ、ガキ単純ね!――でも何してんのかしら?
「ぶにょぶにょだぁ〜」
 子供たちははしゃぎながら、砂の上に転がったクラゲを突っついている。
 両手で持ちきれないくらい大きなミズクラゲ
 クラゲも生あるものならば……
「ほーほほほっほほっ!
 そこな子供たち、わたしの話を聞きなさい。
 生き物をいじめるもんじゃないっ!
 それに、昔からクラゲは祟るっていうんだから」
 子供たちがこちらを向いて、目を点にする。
 憧憬の眼差し――このファッションセンスに感激ねっ!
「悪の女王様だっ!」
「虐められるぞっ」
「快感から抜け出せなくなるぞ」
「変態の世界よね!」
 えーい。ガキどもがぁ〜
「氷砕弾(フリーズ・ブリッド)ぅ」
 ちゅどぉ〜ん!
 海岸に氷の花が咲き――子供たちはまとめて氷づけになった。
「ほーっほほほほっ、わたしに逆らうとみぃんなこうなるのよっ!」
 後には、海岸に横たわる一匹のクラゲ……
「あーあ、砂まみれになっちゃってぇ、生きてる?」
 ぴくっ!ぴぴぴぴぴっ!ぴっ!
「どうやら気がついたみたいね。どうしてこんなことになったの?」
 ぴっ!ぴっぴぴっっ!
「ふーん、潮に流されてここに打ち上げられたの」
 ぴっぴっぴ
「まだ、なにかあるの? ふんふん、クラゲは……祟らない!」
 ぴぴーっ!
 ニードロップがクラゲの頭を直撃する。
「わかってるわよ、そんなこと。助かったんだからいいじゃない」
 こくこくこくこく

 なんとか海に戻してやると、クラゲらしく波間に漂い始めた。
 ぴーぴぴっぴっ!
「えっ、なーにクラちゃん」
 ぴっぴぴぴぴぴっ!
「助けてもらったから、恩返ししてくれるって」
 こくこくこく
「でも、何かあるかなぁー クラゲの酢物は好きだけど」
 ぷるぷるぷるっ!
「そうだ、クラちゃん! あんたもこの辺の海に住んでんでしょ。
 シヴァ・アイランドへ行く方法知らない?」
 ぴぴぴぴぴっ!
「えっ、シヴァ・アイランドは潮の流れが速くって、簡単には行けない」
 ぴっぴぴっぴっぴ
「でも、明日の夜は年に一度の潮が止る日だって!」
 ははーん、あの変態男はこの日を狙ってたわけね。
 ぴっ、ぴぴぴぴぴっ
「ふんふん、この辺のクラゲには顔が利くから……運んでくれるって」
 ぴっ!
「何で胸はってんのよ!
 ふーん、三代前からこの辺のクラゲを取り仕切っているって?
 へー、結構知られてるんだ」
 ぴぴっ!
「名門だってことは分かったわ! 頼りにしてるわよ」
 ぴーっ!

 夏は夜、月の頃は更なり――と言うけどねぇ〜
 指定された場所は、シヴァ・アイランドに一番近い砂浜
 そこから見る、満月に照らされたシヴァ・アイランドはあまり気味のいいものではなかった。
 しかし、確かに潮の流れが治まっていた。聞くところ、これも二時間くらいのもんらしい。帰りは潮に乗って一気に島を離れることになりそうだ。
 危険は承知よ!お宝、おたからぁっ!!
 待つことしばし、波間から白いものが顔を出す。
 ぴっ!
「クラちゃん!」
 ぴーぴぴっ
「待ってたわよ、よろしく運んでね!」
 ぴぴぴぴぴっ!
 クラちゃんの号令に合わせ、波打ち際に、うぞうぞとクラゲの塊ができる。
「だいじょうぶなのかなぁ〜」
 なんとか乗っかると、わさわさと動き始めた。
 不安定なことこの上ないが、シヴァ・アイランドまで五百メートルくらい。
 なんとか潮が治まっている間に着くでしょう。
 足場は悪いわ、揺れるわでかなり難儀したが、それでも、だんだん島に近づき、小さな砂浜に降ろしてくれた。
「ありがと、ここまででいいわ!帰りは何とかするから」
 ぴっ!ぴぴっ
「クラちゃんね、世話になったわ。ここでいいわよ」
 ぴーっぴぴぴぴーっ!
「えっ、付いて来るってぇ」
 ぴきぴきぴっ!
「男は最後まで責任を持つもんだ?」
 ぴぴっ!
「分かったわ、でも干しクラゲになっても知らないわよ!」

 ぴこっ!
「静かに、クラちゃん」
 ぴっ?
「どうやら、先客がいるみたいよ」
 ここは島の真ん中あたりの丘、草の間からそっと覗くと黒ずくめの男たちがいた。
「やっぱり、変態拷問男たちだわ!」
 このままほっぽっておいて、先にお宝を失敬するのも手なのだが――後ろが気になる。呪文が使えれば簡単なのだが、ここでは全く駄目!
 不意打ちでやっつけてしまうのが、いちばん良さそうだ。
「クラちゃん、静かにしていてね」
 ぴ
 ぢわっと近づく。
 どうやら三人みたい!組織も愛好会もたいした人数ではなさそうね。
 男たちは小声で何か話して、草の間を探り始めた。
 多分、何処かへの入口を捜しているのね。好機(ちゃぁんす)!
「クラちゃん、じっとしとくのよ」
 こくこくこく
「なぁーがすとらぁぁしゅ!」
「ぐっ」「ぐぇっ」
 得意のパンチが男たちの後頭部に炸裂する。
 ふたりはやったけど、あとひとりは?
 振り向いた瞬間、男がショート・ボウの矢を放つ。
 しまった!
 ぴーっ!
「クラちゃん!」
 矢は飛び出してきたクラちゃんのど真ん中を貫く。
「なぁーがすとらぁぁしゅとるにぃぃどすぺしゃあぁる!!」
 怒りのコークスクリュー・パンチが狙い違わず男の顎に炸裂する。
「うぉっ」
「きゃぁあぁ〜」
 足元に――何も無かった。

「うーむ、はっ!」
 ここは?
 薄明るいヒカリゴケがドーム状の岩を仄かに照らす。
 どうやら洞窟か何かに落ちた見たいね。
 何か柔らかいものの上にいることに気づいて思わず起き上がる。
「クラちゃん! えっ、なに庇ってくれたの?
 こんなおっきな穴があいちゃって!まさか……」
 ぴぴぴぴっ!
「クラちゃん! 大丈夫だった?」
 ぴぃっぴっ
「え、クラゲだから穴ぐらいは平気だって?心配させてぇ……」
 人のうめき声に気づいて調べてみると、全身黒ずくめの男がひとり
「こいつは拷問変態男、さっきので一緒に落ちてきたわけか」
「うーん! む、おぬしは白蛇のナーガっ!
 やはり、ここはひとつ拷問で・・・」
「言うなぁ〜。振動弾(ダム・ブラス)!」
 どっがぁ〜んっ!
「あら?発動するわね」

「明り(ライティング)!」
 天井に向けて打ち上げた魔法の光が洞窟の中を照らし出す。
「明りの下で改めて見ると、白蛇のナーガ!
 おぬしは拷問に最適じゃ」
「うるさいわね、眠り(スリーピング)」
 こてっ、くーくーくー
 余計なのはさておき、ふーん……
 あらためて洞窟を見渡してみると、上はドーム状になっていて高さもかなりある。落ちてきた所に穴が空いているのだろうが確認できない。
 周囲は全て岩でかなり広い空間である。出口などは見つからない。
 下側は明らかに人の手の入った床で中央にはプールのように水が溜まっている。
「地精道(ベフイス・ブリング)!」
 壁に向かって、トンネルを掘る呪文を使ってみたが何も反応がない。
「やはり、この空間だけは呪文が発動するけど、回りは全く受付けないようねぇ〜。念入りなものを造ったわね」
 見渡してみると、洞窟の一角に段のようなものがあった。
 近づくとだいぶ崩れているが祭壇の跡
「きっとここで祈願祭をやったのね。儀式のときに呪文が使えないのは不便だからこんな仕掛けを造ったわけか……」
 中央の水は波が立っていて、潮が入って来ているようだ。
 明かりの下で覗き込んでみると、下は結構浅くて砂になっている。
 そして――確かにあるある、波の下にキラキラ光るもの。
「水気術(アクア・ブリーズ)」
 水中呼吸の術を使って、飛び込む。
 海底まで潜って、手近なものを持って来る。
「間違いないわ、オリハルコンのブレスレット!
 ほーほほほほっ、ほほほほほっ――おたからよっ、おったっかっらっ!
 ほーほほほほほほほほほほほほっほほっほほほほほほ
 クラちゃん! 金銀財宝どっさどさよ!
 ほほほほほほほほほほほっほほほほほほっほっほっほっほほほほーっ
 ほほほほほっほーっほほほっほほほほっほほほほ」
 ぴーっ!
「はっ、思わず我を忘れていたわ。外に出られきゃ何もならないのよね!」

 うーん、潮は流れてくるけど人が通れるようなところはない。
 内側では呪文が使えるけれど一歩外にでると全く発動しない。
 一筋縄ではいかないわね・・・
 !――ふっふっふっ、閃いたわ
「ようは、中から力でぶっ壊せばいいわけね」
 両手で印を切りながら、呪文を唱える。
「雷竜降(ガイ・ラ・ドゥーガ)」
 力ある言葉で召喚する。
 しゃぎゃおぉぉぉぉぉん!
 叫び声とともに現れたのは、雷撃竜(プラズマ・ドラゴン)
 海に住む水竜(サーペント)の一種でその破壊力は絶大!
「さあ、適当にその辺に穴開けてっ、というか言うこと聞かないわね」
 狭いところに閉じ込められたせいか、雷撃竜は暴れ始めた。
 ぴきぴきぴきっ!
「いいのよっ、穴さえ開けばいいんだから!」
 どどどぉぉーん!
「ひぇー」
 洞窟全体が激しく振動し、天井から石が降ってくる。
 どどっどどっがぁぁーん!!
 期待に違わず景気良く穴が開いて、激しく潮が流れ込んできた。
「あぁっ、お宝がっ!」
 潮に乗って外へ出て行く雷撃竜に続いて、沈んでいたお宝群が流されていく。
「あぁぁあぁぁあぁぁ!おたから〜」
 ぴぴぴぴぴっ!
「分かったわよ、クラちゃん。流れてしまったものはしかたないわ。明日に期待しましょ!」
 ぴっぴっ
「変態拷問男、いや拷問変態男だったかしら――どちらでもいいけど、眼覚ましたら頑張って逃げ出してねっ!」
 義理とはいえ、一応挨拶しておかなきゃ気になる。
「さぁ、クラちゃん!脱出よ」
 ぴぴーっ!
 水気術(アクア・ブリーズ)の呪文を唱え、クラちゃんの脚に掴まって飛び込む。あとは潮まかせ、何とかなるでしょ!
 ザザザザァー、はっ速い!
 一気に薄暗い洞窟の中に吸い込まれ、水の流れに翻弄される。
 クラちゃんがカサを開いたり閉じたりして、体勢を立て直す!
 やがて明るい海面が見えてきた。
「ぷぁーっ!」
 水面から顔を出すと、遠くにシヴァ・アイランドが見えた。
「やったー!クラちゃん、脱出成功よっ!」
 ぴぴーっ!

 ビーチの側でプールなんか贅沢よね〜
 サウス・ビーチのはずれにある豪華ホテル
 花柄の水着で優雅にチェアに横たわる。
 結局、ブレスレットを叩き売ったお金で優雅な夏休みを過ごすことにした。
 ふっ、ビキニなんてスタイルの悪い人の着るものよ!
 わたしのこの美しいプロポーションはちょっと地味なワンピースこそ相応しいのよね。
 それにしてもいい気持ち!
 冷たいトロピカル・カクテルを飲みながら、蒼い空を見上げる。
 ぴぴぃっ!
「クラちゃん、どうしたの?そんなころころ太っちゃってー」
 ぴっぴぴっぴっ
「プールで泳いでいたって、そりゃあ、あんたの皮膚は浸透膜だから真水に浸ってたらふにゃふにゃになるわな。溶けてしまっても知らないよ!」
 ぴぴぴっ!
「それでもわたしの側に居たいって?」
 こくこくこく!
「まっ、いい男いないから好きにしたら」
 ぴっ!
「まずは甲羅干して少し痩せなさい!」

                       (クラゲの恩返し:おしまい)
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あとがき
 この作品を造ったときは「夏」でした。
「季節にあわん!」などのご感想は受け付けられません。
「クラゲは鳴かない!」との突っ込みもご遠慮ください。この辺りは創るほーも苦労が多いのです。
 じゃぁ、なぜ「ぴ」なのかって? はっはっは…気分です!
「蓮獄火炎陣(ヴレイヴ・ハウル)の呪文については原作にはでてきません。取り扱いに注意してくださいね。

                     2001/01/17 mamoru☆isurugi
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