◆−深淵に眠る罪の欠片 1−水晶さな(3/10-22:15)No.5961
 ┣深淵に眠る罪の欠片 2−水晶さな(3/10-22:25)No.5962
 ┃┣こんばんわ。−みてい(3/11-00:11)No.5965
 ┃┃┗こんばんわ〜♪−水晶さな(3/11-22:38)No.5987
 ┃┗おひさしぶりです(大汗)−ねんねこ(3/11-16:44)No.5985
 ┃ ┗お久しぶりです〜v−水晶さな(3/11-22:55)No.5988
 ┣深淵に眠る罪の欠片 3−水晶さな(3/12-00:31)No.5990
 ┃┗フェルベチカ♪−あごん(3/12-04:32)No.5991
 ┃ ┗いらっしゃい、ませv(フェルベチカ調←爆)−水晶さな(3/12-21:15)No.5998
 ┣深淵に眠る罪の欠片 4−水晶さな(3/14-22:21)No.6039
 ┃┗どもども。−みてい(3/14-23:45)No.6044
 ┃ ┗やは、どもども。−水晶さな(3/15-23:24)No.6063
 ┗深淵に眠る罪の欠片 5−水晶さな(3/22-00:34)NEWNo.6129


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5961深淵に眠る罪の欠片 1水晶さな E-mail 3/10-22:15



 今回ちょっとシリアス&重目かもしれません(^_^;)
 珍しくゼルガディスが主体です。


===================================

 「シンエンニネムルツミノカケラ」


【我らが神 我らを産み育(はぐく)みし母神(ははがみ)は 偉大なる土の化身】
【全てのいのちは土より生まれ 土へと還(かえ)る】
【それ即(すなわ)ち 土神(つちがみ)ガイア様の魂の一部なりや】
【崇(あが)めよ土を 称(たた)えよ大地を 火吹く時 地割れる時は 母神の怒りし時】
【己(おのれ)れが罪を恥じよ 己(おのれ)が責(せき)を償(つぐな)え】
【母神の怒りに触(ふ)れる事無きや 全てのいのちは土の御子(みこ)】
【いのち汚(けが)す時あれば 母神は必ずや天罰を下す】

 ―ガイア教聖典『ラ・ヴァルパトワ』前文より抜粋(ばっすい)


 彼からの手紙というか伝言は、大抵用件を簡潔に述べたものか必要物資を箇条書きにしたものか、
 ―つまりは何の面白味もないものがほとんどなのだが、今回は違った。
 急な王宮大使代理を務めた為、ゼルガディスに一日遅れて宿に着いた彼女は、宿の店主からその手紙を受け取った。
 宿から伝書バトを借りて行ったあたり、一旦宿に戻ったとは考えにくい。
『携帯食料2〜3日分。水・・・はある。ランプに使う油(多目に)。ハタキ2本。地面に刺して使う植物栄養剤・・・それと』
「?」
 一旦書くのをためらったのだろう、インクの色が目に見えて濃くなっている。
『それと・・・女物の適当な服。ただし上からかぶるワンピースであること。以上の品を持って早急に<化け木の館>へ来られたし』
 末尾にゼルガディス=グレイワーズと達筆に書いてある。
 手紙を一通り読み終えた後、アメリアは思わず店主に見間違えではないかと手紙の文字を見せて確かめた。
「ワンピース、だねぇ」
 それが何か?という風に首を傾(かし)げる中年店主に「別に」と言い、すぐさま必要物資の買い出しに出かけたアメリアだった。


 <化け木の館>―いつの間にそのような呼称がついたのか覚えている者はいない。
 ただ気が付いたらそのように呼ばれていたに過ぎない。
 ベゴールの町から山林に入った先にある、古びた洋館。
 遠い昔貴族の末裔(まつえい)が建てたらしいが、主人がいなくなった後木々が生い茂り中に入る事がかなわないという。
 遺産を狙った盗賊あるいは物好きな学者が何度か侵入を試(こころ)みたそうだが、成功を収めた者はいない。
『木が邪魔をする、あれは化物だ』
 ―という目撃証言から<化け木の館>とい呼ばれるようになり、付近の住民は近付く事すら恐れていた。
 そんな洋館の古い書物に興味を覚え、ゼルガディスが単身赴(おもむ)いたわけだが―
(必要物資を求めて、早く来いと言っているからには中に入れたって事ですよねぇ・・・)
 荷物を詰めたリュックサックを背中に背負い、ざくざくと斜面を登る。
「・・・・・・わぁ」
 そこだけすっぽりと空いた木々の空間の中、古びてはいるが豪壮な装飾の館が姿を現す。
 壁が低いので館の二階部分が見えるのだ。
 ただし他の貴族と違い、とりとめもない華美な装飾のオンパレードではない。
 神聖なものを敬(うやま)うような気持ちの表れ―とでもいうのだろうか、宗教的なレリーフが数多く目に付いた。
「何かの宗教の信者だったんですかねぇ・・・」
 蔦(つた)の絡(から)む重々しい鉄の門の前に立ち、痛いような静寂(せいじゃく)に少々不安になる。
「本当にゼルガディスさん、中にいるんですか・・・?」
 両手を当てて、力いっぱい門を押し開ける。
「んっぐっ・・・んんんんん!」
 鉄錆(さ)びが擦(こす)れる音と、絡(から)まった蔦(つた)が引き千切れる音。
 中に入った時には息が切れていた。
 門から館の玄関までは少しだが道がある。
 アメリアがふと辺りを見回して―思わず後ずさり門に痛いほど背中をぶつけた。
「・・・・・・な、何だ・・・像・・・」
 門の内側のすぐ脇、アメリアよりも少し高い等身大の女性の像が立っていたのである。
「木像・・・珍しいですねぇ・・・」
 直立不動で目を閉じた女性像は、頭髪が観葉植物の葉のように平べったく垂れ下がっている。
 しかも頭髪だけ緑色に塗られており、本物の葉のように見える。
「マンドラゴラ・・・じゃなくって・・・樹木の精霊ドリアードを模(も)したものかな?」
 それならばわざわざ材質に木材を用いたのも頷(うなず)ける。
 門の内側の脇などという辺鄙(へんぴ)な場所に設置するのも、金持ちの趣味はわからないものだと一人納得して館に足を向けた。
「ゼルガディスさーん!」
 分厚い黒塗りの扉を押しながら、中に向かって呼びかける。
 埃(ほこり)の臭(にお)いが鼻をついた。
 少し風の匂いが混じっているのは恐らく中のゼルガディスが窓を開けたのだろうが、それでも長年培(つちか)った埃臭さは早々消えはしない。
 ぎし、と奥から床の軋(きし)む音が聞こえた。
「ゼルガディスさん! アメリアですっ!!」
 足音が聞こえてきて―
「・・・のわっ!!」
 床板を踏み抜く音が聞こえた。
「・・・・・・・・・・・・」
 何事もなかったように、再び足音。
 薄暗い廊下の奥から見慣れた姿が見えて―
 その顔を目で確かめた途端、アメリアが確かに一瞬身を竦(すく)ませた。
「無事に来れたかアメリア・・・ん? どうした俺の顔に蜘蛛(くも)の巣でもついてるか?」
 ゼルガディスが軽く顔を叩(はた)いた。
「いえ・・・何でも・・・ないです・・・」
 左右に強く首を振り、目を瞬(しばたた)かせてもう一度ゼルガディスの顔を確認する。
 見紛(まご)う事のない彼の顔。
 一瞬だけ、薄闇の向こうから顔を上げた彼の顔は、
 ・・・・・・長い間牢獄に閉じ込められている老人の顔に見えた。
 妙に顔を凝視(ぎょうし)してくるアメリアに、ゼルガディスが訝(いぶか)しげに首を傾(かたむ)けたがすぐに気を取り直す。
「ああ、早速で悪いがその・・・ワンピースは持って来てくれたか?」
「え? あ、ハイ。何に使うんですかコレ?」
 下ろしたリュックからシンプルな白のワンピースを抜き出す。
「『そいつ』に着せるんだよ。何だまだ聞いてなかったのか?」
「はい?」
 ゼルガディスが自分とは少しずれた後方を指差したので、アメリアが疑問符を口にしながら振り返る。
 アメリアの斜(なな)め後方には、先程(さきほど)門の脇で見た木像のドリアードがもじもじしながらこちらを見つめていた。
「っきゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
「あ・・・もしかして・・・気付いてなかったか・・・」
 直立姿勢のまま倒れたアメリアを咄嗟(とっさ)に受けとめながら、ゼルガディスが冷汗(ひやあせ)をかきながら呟(つぶや)いた。

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5962深淵に眠る罪の欠片 2水晶さな E-mail 3/10-22:25
記事番号5961へのコメント


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おはよう、ござい、ます」
 挨拶(あいさつ)の前の数秒の沈黙は、恐らく妥当(だとう)な文句を考えるのに頭を悩ませたのだろう。
 埃の臭いの残るベッドシーツに顔を顰(しか)めながら、アメリアが首だけを声のした方に向けた。
 そしてそのまま数秒間硬直する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おはようございます」
 返答に更に時間を要したのは、相手の姿を判別し叫びたい衝動を何とか堪(こら)えていた為である。
 アメリアが必死に思考を働かせた。
 いくら度肝を抜かれるようなモノが相手でも、二度目はいくらか考えなければならない。
 とりあえず、門の脇で見たドリアード像。
 アメリアが昔文官(もんかん)から教えられた生物学の記憶をさらった。
 ドリアード―樹木の精霊の事。構成物質は樹木と魔力で、人間の女性に近い容貌(ようぼう)をしている。
 人間に姿を見る事は可能だが、もっぱら彼女達は人前に姿をさらす事を好まない。というか避けようとする。加えてその姿を偶然垣間(かいま)見る事が出来たとしても、目の錯覚かと思う程(ほど)薄く、すぐに風景に溶け込んでしまう。
 自然崇拝(すうはい)の宗教などが崇(あが)めたりする事が多いので、もっぱら木の女神だの樹霊様だの本人の意志にお構いなく祭り上げられていたりする。
「だったら何でこんなに生々しいんですか?」
 最後の疑問は頭の中にとどめておくことが出来なかったのか、アメリアがドリアードを直視したまま口に出してしまった。
「・・・・・・・・・ナマナマ、しい?」
 ドリアードが疑問符を浮かべながら困ったように後ろを振り返った。
 何故だか頭を抱(かか)えている魔剣士が一人、古びた椅子に腰かけている。
「・・・・・・・・・・・・お前が、ドリアードらしくないって事だろ・・・」
 アメリアの苦悩の表情から思考が読みとれたのか、ゼルガディスが答えを返した。
「って、ゼルガディスさん!!!!」
 アメリアがゼルガディスの姿を見とめた途端、ベッドから跳(は)ね起きる。
 ドリアードが驚いたように両手を組み合わせて身を竦(すく)めた。
「・・・お嬢さん、元気に、なりました?」
 首を傾(かし)げて微笑みながら尋(たず)ねてくる。精密な人形でも、この自然な笑顔を表現する事は無理だろう。
 双眸(そうぼう)は印象的な紅玉石(ルビー)色。宝石をそのままはめこんだような鮮やかな色合い。
「あのなアメリア。わかりやすーく一言で言うと、そいつはドリアードもどきだ」
 ゼルガディスが散々悩んだ後にアメリアに向かって言う。
「・・・・・・もどき?」
「わたし、フェルベチカ、ていいます」
 フェルベチカがにこにこしながら手を差し出した。。
 どうやら握手がしたいらしい。
 アメリアが恐る恐るその手を握る。手触りは木の表皮の感覚がした。けれども体温があるようで、ほんのりと温かい。
「以後、御見知りおきを、どうぞ」
 人間顔負けの丁寧なお辞儀をされ、つられてアメリアが頭を下げる。
「・・・あ、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンです・・・」
「アメリア、素敵な名前、キレイ」
 少し訛(なま)りのある発音で言い返してくる。
 この地方の方言なのだろうかとアメリアが考えていると、ゼルガディスが口を挟んだ。
「フェルベチカ、お前が話してると日が暮れる。ちょっと説明させてくれ」
 フェルベチカが首を傾(かし)げた後、ぽんと手を打った。
 ただし人間がやるような音は出なかったが。
「わかりました、恋人達の、語らいですね」
 ゼルガディスががくっと肩を落とし、疲れたようにアメリアを手招きした。
 アメリアが苦笑いを浮かべながらテーブルを挟んでゼルガディスの向かいの席に座る。
 空いたベッドの縁(ふち)に腰かけたフェルベチカが、にこにこと二人を見ていた。
 あくまでマイペースなおっとり娘。
 ドリアードであるという事を除けば、ゼルガディスの典型的に苦手なタイプだった。

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5965こんばんわ。みてい 3/11-00:11
記事番号5962へのコメント

こんばんは、みていと申します。

>【我らが神 我らを産み育(はぐく)みし母神(ははがみ)は 偉大なる土の化身】
>【全てのいのちは土より生まれ 土へと還(かえ)る】
>【それ即(すなわ)ち 土神(つちがみ)ガイア様の魂の一部なりや】
>【崇(あが)めよ土を 称(たた)えよ大地を 火吹く時 地割れる時は 母神の怒りし時】
>【己(おのれ)れが罪を恥じよ 己(おのれ)が責(せき)を償(つぐな)え】
>【母神の怒りに触(ふ)れる事無きや 全てのいのちは土の御子(みこ)】
>【いのち汚(けが)す時あれば 母神は必ずや天罰を下す】

よく知らないんですが。ガイア教って実在しているんでしょうか。
もしかしてさなさんの創作ですか?だとしたら凄いです。こんな文章とても思いつかない(己の小説で毎回首しめてる奴がここに/汗)

もぢもぢするドリアードですか。見てみたいような、見てみたくないような。リビングアーマーの彼女を一瞬思い出しました。
「ワンピース一枚」をアメリアはどんな気持ちで持っていったんでしょう。ついに味をしめてしまったか(何をだ)と思ったのでしょうか。

ではでは、続き楽しみにしてます。
また寄らせてください。みていでしたv



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5987こんばんわ〜♪水晶さな E-mail 3/11-22:38
記事番号5965へのコメント


 こんばんわ〜さなです。
 HAPPY DREAMSに続いてのレス有り難うございますv
 

>よく知らないんですが。ガイア教って実在しているんでしょうか。
>もしかしてさなさんの創作ですか?だとしたら凄いです。こんな文章とても思いつかない(己の小説で毎回首しめてる奴がここに/汗)

 ガイア教は多分実在してないんじゃないかなぁ・・・世界は広いから探せばあるかもしれませんが。
 小説でよく云々長々と説明たれてるのはほぼ作者の創作です(笑)。てへ(爆)。
 似たようなのを探すのが面倒だからついある事ない事並べ立ててしまうんですが・・・少しでも本物っぽく思って頂ければこれ幸い(笑)。
 何かそれっぽい言葉を考えるのが好きでして。


>もぢもぢするドリアードですか。見てみたいような、見てみたくないような。リビングアーマーの彼女を一瞬思い出しました。
>「ワンピース一枚」をアメリアはどんな気持ちで持っていったんでしょう。ついに味をしめてしまったか(何をだ)と思ったのでしょうか。

 不思議半分恐怖半分ってところですか(爆)。
 ワンピースはこの後フェルベチカの衣装になります(^_^)
 

>ではでは、続き楽しみにしてます。
>また寄らせてください。みていでしたv

 又いくらでも寄って下さいv
 続き頑張り・・・たいです、気合だけはv(爆)

 水晶さな.

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5985おひさしぶりです(大汗)ねんねこ E-mail URL3/11-16:44
記事番号5962へのコメント

さなさぁぁぁん、お久しぶりですぅぅぅぅ(><)
もう前作の方のレス全然つけられなくてごめんなさいです。
つけようと思ったときにはもう既に過去の記事の方に沈んでまして……のーん(泣)
今回はこまめにつけていきたいと思ってます。どうか許してやってください(汗)

そしてまた新作……Vv
執筆ペースの速さには驚かされるばかりです。
今回はゼル主体ということで……ゼル好きなねんねこさんには悩殺ものかも……(うふふふふふふ)
いや、アメリアも大好きなんですが。

もう続きを楽しみにしております。
これからいったい何が起こるのか……ううみゅ。楽しみだ。
それではねんねこでした〜☆



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5988お久しぶりです〜v水晶さな E-mail 3/11-22:55
記事番号5985へのコメント


 こちらこそおひさしぶりいいぃぃぃぃぃ(真似してみた←爆)。
 レスありがとうございますv
 自分の小説の執筆もあって忙しいのにホントすいません。
 前のは何だかやたら落ちるの早かったですが(笑)。
 そんなこまめにって、ホント気使わなくていいですからね?
 一言頂けるだけでも作者としてはもーホントに嬉しいんですから。
 (自分も最近人のレスを書く時間がなくて焦っている奴←爆)

 アメリアしか見ていない(爆)私にしては珍しーゼル主体です。
 何が起こる事やら(爆)。
 今回は前の話を書いている時から設定がふつふつ沸いてきまして、珍しくすぐにUPしてしまいました。
 さてどこでつまづくかな(爆)。
 ボンクラな作者はおいといて、宜しければ最後までお付き合い下さいv

 水晶さな.

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5990深淵に眠る罪の欠片 3水晶さな E-mail 3/12-00:31
記事番号5961へのコメント


 ゼルガディスがこの館に入ったのは三日前―
 アメリアと同じように、奇妙な程に人なつっこいドリアードにしこたま驚かされた。
 驚いてあとずさった瞬間、壁に後頭部を強打した事だけは説明から省(はぶ)いておいたが。
「わたし、フェルベチカ、ていいます」
 にこにこしながら自分の名前を告げるドリアード。
 それから自己紹介に入るかと思ったら―
「わたしの名、それしか、知りません」
 拍子抜けして思わずかくっと肩を落としたゼルガディス。
「・・・お前はドリアードじゃないのか?」
「ドリアード? 知ってます、それ、樹木の精霊!」
 フェルベチカが人差し指を立てながらクイズにでも答えるかのように言った。
 そしてゼルガディスが返答を考えるよりも早く付け足す。
「・・・わたし、ドリアード、なんですか?」
 きょとんと尋ね返してくるフェルベチカに、ゼルガディスが心底疲れたようにテーブルに頭を落とした。
「・・・・・・聞いているのは俺だっ!!!!」
「・・・すみません、わからないです、わたし」
 急にしゅんとなり、フェルベチカが俯(うつむ)いた。
 その後いくつか問答をくり返して見たが、ある程度の用語は知っているくせに自分の事に対してはとかく何も知らない。
 いつからここにいるのか、生まれた地は何処(どこ)なのか、他に仲間はいないのか。
「精霊なんてのは上位種でない限り単独行動を好まない筈(はず)だ。しかもお前は何だか妙に人間臭いしな」
「ゼル、わたし、臭いですか?」
 『ゼルガディス』の名が発音しづらいらしく、名前を聞いてからはずっと略称で呼び続けている。
「人間っぽいって言ってんだよ」
 ゼルガディスががりがりと頭を掻(か)いた。
「・・・で、お前は一日何をしてるんだ?」
「一日? えと、一日」
 フェルベチカが何やら考え込むように眉間にシワを寄せた。
 ―もっとも、本当にシワは寄らないが。
「庭を、歩いてます、お墓参り」
「墓参り? 誰の?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 言葉が思い付かなかったのか、フェルベチカがしばらく宙で指先を遊ばせてから窓を開けて中庭を指差した。
「あります、あそこ、見えますか?」
 ゼルガディスが目をこらした。
 視力は悪くない。むしろ良い方である。
 にも関わらず、石碑(せきひ)も十字架すらも見えなかった。
「あの、大きいのです、灰色の」
 フェルベチカが精一杯腕を伸ばして示した。
「・・・岩じゃないか。あれのどこが墓だ?」
「行くと、わかります、行きますか?」


 中庭の、水の枯れた噴水の後ろ側。
 少し隠れるような位置に、無造作に結構な大きさの岩が置かれていた。
 ただの庭園飾りの一種と見紛(まご)うその岩の下の方には、古びてはいるが文字が刻(きざ)まれていた。
『御魂(みたま)は眠りし   ヴィオグニール=コルセスカ』
「コルセスカ・・・」
 ゼルガディスがふっと黒塗りの扉を振り返った。
 扉の上に貴族の系統の証(あかし)である紋章が掛(か)けられている。
 擦(かす)れてはいるが鷹(たか)を模(も)した図柄の下に、コルセスカと確かに表記してあった。
「ここの館の主(あるじ)か・・・」
「わたし、ここ、見てます」
 フェルベチカがそっと、苔(こけ)の生えた墓石に指先で触(ふ)れた。
「いつも―あそこから」
 彼女の目線に促(うなが)され、ゼルガディスが見たものは―
「・・・・・・・・・・・・まさか」
 庭園の端―頑強(がんきょう)な壁を成長の為に崩して伸び上がる、巨大な広葉樹だった。


「まさか―」
 ゼルガディスと全く同じ言葉を口にして、アメリアが呆然と『それ』を見上げた。
 背丈が低いので周囲の木々と混じってしまっていたが、幹の太さは何百年もの間生きてきた生命を感じさせる。
「そのまさかだ。神話や伝承歌(サーガ)では耳にしたが、実物を見るのは俺も初めて―」
 幹に触れながら、ゼルガディスが呟(つぶや)いた。
「・・・凝魔樹(ぎょうまじゅ)マナ・ディーパ。魔力で構成された魔法の樹木」
「そんな、それが本当に・・・」
 アメリアが半信半疑で幹に両手をあてた。
「・・・・・・!」
 手の平から伝わってくる、熱いとも冷たいとも判別しがたい脈動。
 間違いない、この樹木には魔力が流れている。
「神聖樹フラグーンは邪気を糧(かて)に成長するが、これは違う。木の構成そのものが魔力から成り立ってるんだ。小枝だけでも下手なマジックアイテムより許容量(キャパシティ)が高い」
「そんなすごいものが、どうしてここに・・・」
 振り返るとゼルガディスが木の上部を指差した。
 その指の動きを追ってアメリアも目線を移す。
「・・・何ですか? あのおっきなこぶみたいなものは」
 枝が分かれ始める少し下、腫瘍(しゅよう)のようにやけに膨(ふく)れ上がった一部分があった。
 一部分といっても、かなりの大きさである。
「何かによって傷ついたんだろう。抉(えぐ)れた傷を埋める為に回復機能が働いて、それが異常に動いたせいで修復どころかこぶのようになったらしい。こぶの部分だけ表皮が新しいだろう?」
「・・・本当だ、つやつやしてますね」
 二人の後をのろのろとついてきたフェルベチカが、やっとアメリアの隣に並んだ。
 彼女の足は二股に分かれておらず、下半身から下は樹木と同じように細かい根が絡(から)み合っている。
 故に移動をする時は根をのたくらせながら進むのだが、これがまた亀の歩み。
「これ、わたしの、おうちです」
「おうち?」
 アメリアがおうむ返しに聞き返すと、フェルベチカが幹に手を当てた。
 音をたてる事なく、その手が幹に溶け込む。
「ひゃっ!?」
 アメリアが驚いたのかゼルガディスの袖にしがみついた。
「忘れたのかアメリア、こいつはドリアード―樹木の精霊だぞ」
 ゼルガディスが諭(さと)すように言った。
 フェルベチカが幹から手を離す。その手は幹に触れる前と同じ形。
「樹木の精霊は一本の木から生まれる。どうやって生まれるかは俺も知らんが、こいつはどうやらマナ・ディーパから生まれた精霊のようだ」
「みたいです、ゼル、物知りですね」
 あくまでにこやかに、フェルベチカ。
「でも、こんな木が生えてたなんて・・・町の人々は気付かなかったんでしょうか?」
「古代神話や伝説が相当好きな奴じゃない限り、見た目で判別はつかん。大体高さは他の木々と同じだしな。魔力は―」
 ひたり、とゼルが幹に手をあてる。
「魔法を扱う者でないと感じないしな」
 アメリアが感慨深げに頷(うなず)いた。
 一瞬の静寂の後、フェルベチカがおずおずと尋ねる。
「ゼル、お話、終わりですか?」
「ん? ああ・・・」
 ゼルガディスが思い出したように一歩下がる。
 フェルベチカがアメリアの前に歩み出て、ふっと真面目な顔でアメリアを見つめた。
「アメリア、ゼル、二人にお願いあります」
「はい?」
 手をとられて、アメリアが驚いたように聞き返す。
「ヴィオ様、この館の主人、探して下さい」
「探す・・・? でも彼は、ゼルガディスさんの話じゃお墓が・・・」
「墓石だけ、あそこに、ヴィオ様はいません」
 フェルベチカが沈痛な面(おも)持ちで告げた。
「館の何処かに、埋葬されずに、眠ってらっしゃいます」
 風が、三人の間をすり抜けていった。

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5991フェルベチカ♪あごん E-mail 3/12-04:32
記事番号5990へのコメント

こんばんは〜、しつこいレスで有名なあごんです(嫌だな、それ)。
心待ちにしておりました水晶様の新作がっ!
ヤッタネ☆
とゆーわけでレスですぅ。

フェルベチカが可愛いですよぅ!
早くワンピースを着てみせて下さいぃ(笑)。
さぞかし可愛いでしょうねぇ(妄想中)。

なまり、というよりも片言っぽい印象を受けました。
片言・・・いいですねぇ!
ツボですよ!間違いなく!

しかし、特別な木の精霊なんですよね?
他にも謎がありそうな予感が。

色々と感激したり感動したり、勘当されたり(えっ!?)のあごんでした!
ではでは!
続きを楽しみにしておりまする。
あごんでした!

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5998いらっしゃい、ませv(フェルベチカ調←爆)水晶さな E-mail 3/12-21:15
記事番号5991へのコメント


 心待ちされてました水晶さなです(ワケわからん)。
 

>フェルベチカが可愛いですよぅ!
>早くワンピースを着てみせて下さいぃ(笑)。
>さぞかし可愛いでしょうねぇ(妄想中)。

 次あたりでやっと装着です。
 持ってきたにも関わらずまだ着ていないし(爆)。
 おっとり系娘にはフレアスカートがよく似合うというのは私のドリー夢でしょうか(核爆)。


>なまり、というよりも片言っぽい印象を受けました。
>片言・・・いいですねぇ!
>ツボですよ!間違いなく!

 イントネーションやアクセントの違いだと文章では伝わらないので、句点のやたら多い喋り方にしてみました。
 本当はカタカナ混ぜようかなーとも思ったんですが、それはユズハ嬢の特権ですので(笑)。(←げふぅあきやサン勝手にゴメンナサイ。)
 あごんサンのツボ突けたようで、してやったり(爆)。
>色々と感激したり感動したり、勘当されたり(えっ!?)のあごんでした!
>ではでは!
>続きを楽しみにしておりまする。

>しかし、特別な木の精霊なんですよね?
>他にも謎がありそうな予感が。
>


 今回主要キャラが少ない代わりにフェルベチカにかなり要素詰め込んでます(いいのかここで言って)。
 ではでは宜しければ最後までお付き合い下さい(^^)
 レス有り難うございました♪

 水晶さな.




 ・・・勘当!? 誰に!?(汗)

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6039深淵に眠る罪の欠片 4水晶さな E-mail 3/14-22:21
記事番号5961へのコメント


「ご自分の記憶がないんでしたよね。ご主人・・・ヴィオグニールさんの事は覚えてないんですか?」
 着替えを手伝いながら、アメリア。
 ゼルガディスが持って来いと言ったワンピースは、フェルベチカに着せる為のものだった。
 用途がわからなかった為無難な白を選んでいたが、茶褐色の肌のフェルベチカにはよく映(は)えた。
 何故だかわからないが実体のある彼女には人間の衣服が着れた。
 足の代わりの根を除いて、人間の女性とほぼ変わらない体型をしている彼女は、確かに周りから見ていてちょっと。
 例(たと)えば美術品として飾られている裸体の女神像に誰も服を着せようとは思わないが、
 ・・・それが動いて話をするとなれば別である。
「ヴィオ様、優しい人、すごく素敵」
 服が嬉しいのか、フェルベチカがにこにこしながらワンピースの先をつまんだ。
「あ、引っ張っちゃダメです。肌が木だから、下手に引っ掛かると破れちゃう・・・よっと」
 アメリアが慎重に衣服のシワを伸ばす。
 ふわりと広がったフレアスカートの裾(すそ)は、丁度良くフェルベチカの根を隠した。
「うわぁ、よく似合ってます。良かったこれにして」
 真正面に回ったアメリアが、両手をぽんと合わせた。
「白い色、素敵、好き」
 嬉しそうにスカートの裾をはためかせていたフェルベチカが、ふとその動きを止めた。
「好き・・・昔・・・から?」
「昔から?」
 ぽつりと呟(つぶや)いたフェルベチカの言葉を、アメリアが聞き返す。
「昔からって、フェルベチカさん、前にも服を着た覚えがあるんですか?」
「服・・・ドレス・・・白の・・・」
 考えを巡らせるように虚空(こくう)を見つめていたフェルベチカが、やがて諦めたように頭(かぶり)を振った。
「だめ、わからない、アメリア」
 泣きそうな顔になったフェルベチカの草の髪を、アメリアがそっと撫(な)でる。
「・・・急ぎすぎちゃいましたね。本当はゆっくり時間をかけて思い出すべき事なのに」
「アメリア、わたし、ヴィオ様大事、けど、何の為に探したいのか、わからない、それすら、わからない」
 子供のようにたどたどしい口調で告げるフェルベチカ。
「大丈夫・・・無理しても、何にもならないですよ?」
 ふっと、自分が姉のような気分になり、アメリアが優しく微笑(ほほえ)んだ。
「きっと、ヴィオグニールさんを見付けたら思い出しますよ・・・」


 アメリアとフェルベチカを着替えの為に館内に戻し、ゼルガディスは一人マナ・ディーパの前に佇(たたず)んでいた。
 何故だかこの木が妙に気にかかる。
(・・・何だ? 昔見た覚えがあるような・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか、な)
「・・・だとしても、今考えるべき問題は別だ」
 ゼルガディスが場所を移動し、アメリアが閉めた鉄製の門まで歩く。
 蔦(つた)の絡(から)まった門を押し開けるのは苦労しただろう、枯れた蔦の残骸(ざんがい)が地面に散らばっている。
(アメリアは、この門を開けた・・・・・・・・・)
 確かめるように喉(のど)の奥で呟(つぶや)いて、ゼルガディスがそっと手を伸ばす。
 その指先が鉄製の門に触(ふ)れた瞬間、雷撃(らいげき)が走るような衝撃を受けた。
「っ!」
 反射的に手を引くゼルガディス。
 ちりちりと痛む指を反対の手で押さえ、顔を歪(ゆが)めて舌打ちする。
(どうしても、か・・・この館は俺を出すつもりはないみたいだな)
 らしくなく毒づき、館の方に向き直った。
 古びた、しかし今だ威厳の衰(おとろ)えないその洋館が、
 何故だか、今は墓場のように見える。


 アメリアにはまだ話していないが、自分はこの門をくぐってなどいない。
 正直に言えば、どうやって入ったのか覚えてないのだ。
 館を発見して、外壁に触れて―それから、気付いたら中庭に倒れていた。
 出ようと試(こころ)みても、敷地内から指先でも露出すると先程(さきほど)のように衝撃が走る。
 念の為と宿から伝書バトを借りていったのが幸(さいわ)いした。ハトは全く拒絶される事なく町に飛び立った。
 そんな危ない所にアメリアを呼んだのは―彼女の巫女の力を信じたからである。
 外観から見て明らかに何かの呪いなら、アメリアはすぐに気付く筈(はず)。
 しかしアメリアはちゃんと門から入ってきた。
 明らかに、何者かに好まぬ招待を受けた自分とは違う。
 この戒(いまし)めは、自分にだけ与えられたものだと、彼は確信していた。
(―しかし、誰が? わからん・・・)
 館内に戻る気があまりせず、中庭をうろつきながらゼルガディスが思考を巡らす。
(フェルベチカ・・・違うな。あんな頭の回りがトロイ奴にこんな芸当が出来る筈がない)
 何とはなしにマナ・ディーパを振り返り・・・ゼルガディスが硬直した。
 低いとはいえ、自分の頭をゆうに越える高さの外壁の向こう側が透(す)けて見える。
 しかし、壁の向こう側はフィルターを通したようにセピア色に染まっていた。
 痩(や)せた土、ひょろ長いだけの木々。
 炎がその隙間を舐(な)めるように埋め尽くしていく。
 ゼルガディスはその光景を直視したまま動く事が出来なかった。
 見覚えがある。
 この光景はどこかで見た事がある。
 そして記憶が正しければ、この後―
 炎の奥に、黒い影が見えた。
 段々と、近付いてくる。
 歩むごとに露(あらわ)になるその姿。
 ベージュ色の簡素な衣服。右手には抜き身の剣(つるぎ)。
 その刃(やいば)は朱色に染まって。
 針金の銀髪に、青黒い岩肌、全体的に細身の体。
 その眼(まなこ)は、狂気の如(ごと)く朱(あけ)に染められ―
「やめろおおおおおおおおおおおおぉぉぉっっ!!!!!!!」
 金縛りを振り解(ほど)くように、ゼルガディスが全身全霊を込めて絶叫した。
 ぜえはあと、肩で息をし、今しがた自分が叫んだ言葉は本当に空気を振動させた事を実感して、
 彼は膝をついた。
 風景は元に戻っている。
 異質なものは何もない。何も―何もない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 頬に冷たい汗が一滴(ひとしずく)流れた。
 嫌に不快感を感じる汗。
「俺は、ここに来た」
 自分自身に理解させる為に口に出す。
「ここに来た事があるんだ・・・」
 だが、思い出せない。
 言いようのないもどかしさが胸を駆け登る。
 思わず首を押さえて、彼は深い息を吐き出した。

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6044どもども。みてい 3/14-23:45
記事番号6039へのコメント

こんばんは、みていでございます。
ちょっと頭がアイドリング中(謎)。飲み会の翌日(といっても缶チューハイ1つで沈没した)はどーも身体の調子よくないですね。
なので支離滅裂なレスになりますが…

フレアスカートをまとったフェルベチカ。その言動が愛らしいですv
ゼル、何やらこの館で一悶着あったんでしょうか。アメリアはどうかかわってくるんでしょう。わくわくどきどき。

あれ、…支離滅裂どころか内容が無いぞ…。
今日はさっさとおいとまします。また寄らせてくださいね。

ではでは、みていでございました。

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6063やは、どもども。水晶さな E-mail 3/15-23:24
記事番号6044へのコメント


 アイドリング中ですか。地球には優しそうですね(爆)。
 こんばんわ地球に優しくないナマモノ水晶さなです。


>フレアスカートをまとったフェルベチカ。その言動が愛らしいですv
>ゼル、何やらこの館で一悶着あったんでしょうか。アメリアはどうかかわってくるんでしょう。わくわくどきどき。

 HAPPY DREAMSの後遺症か娘が少なくて何だかサミシイ今日この頃です(爆)。
 今回やっぱり主体がゼルガディスなので、彼が根底に関わってきます。
 アメリアの影が薄れないようにするのが大変です(汗)。


>あれ、…支離滅裂どころか内容が無いぞ…。
>今日はさっさとおいとまします。また寄らせてくださいね。

 アルコールを抜いてから又おいで下さい(笑)。
 明日から又家をあけてしまうので少し間があきますが、戻ってきたら続きUPしますねv

 ではでは。

 水晶さな.

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6129深淵に眠る罪の欠片 5水晶さな E-mail URL3/22-00:34
記事番号5961へのコメント


 ちょっと間が空いてしまいました・・・(^_^;)
 とりあえず、又挿絵なんぞ付けてみたり。
 フェルベチカだけ描いてみました。ラフ画なんで、思いっきり色が・・・な状態ですが(汗)。
 上のURLから行けます(^_^;)

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 風が冷たくなって、やっと館に戻ってきたゼルガディスは何だか青い顔をしていた。
「ゼルガディス・・・さん、どうしたんですか? 顔色が優(すぐ)れませんよ?」
 すぐに気付いたアメリアが、覗(のぞ)き込むようにして尋(たず)ねる。
「いや、大丈夫だ。ちょっと風に当たり過ぎた」
 努(つと)めて平然を装(よそお)い、ゼルガディスが軽く手を振る。
「それはそうと・・・早速なんだがちょっと書斎に付き合ってくれんか」
「え? あ・・・ハイ」
 フェルベチカは客人の為に屋敷内の掃除をすると言って去って行った。
 2階の廊下の一番端、日光が差し込まない本の貯蔵にはうってつけの部屋。
「何せ蔵書が多くてな、何がヒントになるかわからん」
 ゼルガディスがまず窓を開けてから、アメリアが持ってきたハタキで本棚の埃(ほこり)を落とし始めた。
「・・・・・・・・・」
「・・・何だ? アメリア」
 やけに自分を見つめてくるアメリアに、ゼルガディスが聞き返す。
「何だかゼルガディスさん、今回やけに協力的じゃないですか?」
「・・・そうか?」
「だって、フェルベチカさんのお願い聞いてから、一言も愚痴をこぼしてないじゃないですか」
 いつもなら他人の頼み事には不平不満。それでも仕事はやり遂げるのだが難癖(なんくせ)が出なかった試(ため)しはない。
「・・・・・・俺って、そんなに性格ヒネてるか?」
 思わず踏み台の上から尋(たず)ねる
「ええ」
 どきっぱり頷(うなず)きながら言われ、少なからず傷ついた。
 ハタキのスピードが落ちたのを見てさすがにアメリアも気が付いたのか、不意に話題を転換する。
「あの扉の内側にかかってるシンボルって、クリスチ教ですよね」
 アメリアが指差した方向には、縦と横の長さが同じ白塗りの十字架。
「ああ、この辺りじゃメジャーな宗教だな」
 実際ふもとの町でも同じようなシンボルを多々目にした。
「天に住まう気高き天使を崇(あが)め、魂は天の一部であるという考え方をするんですよね」
「・・・詳しいな」
 ゼルガディスが驚いたのか、ハタキの手を止めてアメリアを見やった。
「こー見えても知識欲は旺盛(おうせい)ですから、他宗教も興味があって個人的に調べてるんです」
 だから自分とは違う宗教の町などを見ると、つい嬉しくて歩き回ってしまう。
 いつぞや海神エンファジールの加護を受ける街に立ち寄った後など、ついガイドブックまで買ってしまった。
 あの時は本人の娘女神からプレゼントを貰(もら)うなどと、類稀(たぐいまれ)な経験などもしたが―
 閑話休題。
「ほう、お前を連れてきて正解だったな」
 誉められた事が嬉しいのか、アメリアがいつにも増して饒舌(じょうぜつ)になった。
「だから―さっき中庭で見たあの墓石。確かに刻(きざ)む文字がおかしいんですよね」
「うん?」
「『御魂(みたま)は眠りし』ってあったでしょう? クリスチ教の考えでは、人は死んだ後『御魂は天に還る』という言葉を使うんです」
「御魂が眠っては、転生が出来ないという事か?」
「多分・・・。あの文句は、誰かに自分はここにいないというメッセージを伝えたかったんじゃないでしょうか」
「ふむ・・・」
 ゼルガディスが顎(あご)に手をあてて考え込む。
「ここにはいない・・・御魂は天に還らない・・・その意図は何だ?」
「はい?」
 ゼルガディスの思考が読めなかったのか、アメリアが首を傾(かし)げる。
「信者ってのは、その教えに従って殉教するのを望むんだろう?」
「宗教と一口に言ってもそれぞれありますから何とも言えませんが・・・大抵はそうじゃないかと思います」
「シンボルを飾る程の敬虔(けいけん)な信者だったここの主(あるじ)は、何故天に還る事を拒(こば)むんだ?」
 妥当な答えが見つからず、不意に空気が静まり返った。
「そう・・・ですよね。遺体を隠して・・・一体・・・何がしたいんでしょう?」
「・・・わからんな。遺体隠し、庭にある伝説の樹木マナ・ディーパ、記憶の無いやけに人間臭いドリアード」
「やっぱり、わたし、臭いですか?」
「どうわっ!?」
 唐突(とうとつ)に響いたのほほんとした声に、ゼルガディスが踏み台から転落した。
「ゼルガディスさんっ!?」
 その音の方に驚いたアメリアが慌てて駆け寄る。
「あつつ・・・」
 頭を押さえるゼルガディスを、フェルベチカが廊下から不思議そうに見つめる。
 ―が、気を取り直して後を続けた。
「台所、お掃除、できました。お食事、なさいます、お二方?」