◆−丘の上の家−むくぅ(5/29-19:02)No.6613
 ┣丘の上の家 2−むくぅ(5/30-18:35)No.6621
 ┣丘の上の家 3−むくぅ(6/4-17:49)NEWNo.6689
 ┗丘の上の家 終わり−むくぅ(6/5-21:47)NEWNo.6699


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6613丘の上の家むくぅ 5/29-19:02


勢いで書いた代物であるため、気にしないで欲しいのですV っていうか続きものだぁぁあっ! なに考えてるのですっ! 自分ッ!
……これは妄想です。返す返す、駄文ですので気にしないでくださいなのですV てへV

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 それは幼子だった。
 夢だとはすぐにわかった。現実味に欠けるし、奇妙な浮遊感が自分を包んでいて、辺りの空気に決定的な違和感がある。
 ……いつもこうだ。
 夢とわかってしまっては、面白くも何ともないのに。
 なら……目の前に立つ見知らぬ子供はなんなのだろう?
 ――いや。
 絶えず歪み、ともすれば消えそうになるその空間――暗闇に浮かぶその幼子――男の子だった――を、彼はじっと見つめた。
 白い顔。閉じられた――瞳。黒い髪。
 そして……赤い法衣。
 ――ドウシテ自分ダケ目ガ見エナイノカ。
 閉じられた眼から、涙が一筋流れた。
 幼い頃の祖父――
 肺が縮む気持ちで、彼は幼子を見つめた。
 赤法師レゾ。その目に魔王を封じていた、自分の祖父……
 ――ドウシテ。ドウシテ私ダケ。
 声は彼の知るレゾのそれだった。
 しかし、それは幼子だった。
 『どうして自分だけこんな目に遭うのか』
 幼い頃、レゾはそう思っていたのだろう。
 ……だったら?
 心の痛みが解るのなら、なぜ俺をこんな姿にした!
 奥歯を噛み締めるような思いで、彼は幼子を睨みつけた。
 けれど。
 目の見えないレゾには、自分は見えない――解らない。幼子は――自分がいることなど知らないのだ。
 問いは、独り言だった。
 ならばこれは、幼き日のレゾが誰にも知られずに泣いた日の記憶なのか?
 ――ドウシテ……私ガ!
 幾度となく繰り返されるその問い――しかし彼には答える術がなかった。
 ……これは、夢だから。
 閉じられた眼から、涙がこぼれていた。開かれることのなかったその瞳から……涙が。
 自分に答えられるはずがない。 
 ……彼もそんな問いを独りで漏らしたことがあった。なぜ自分だけ、なぜ自分が、と。
 自分はその答えを、レゾに求めていたのではないかと思う。
 レゾは……その答えを求める相手も、憎む相手もいなかった。
 自分より、はるかに辛かったのではなかったか。
 ……けど、だからと言って俺にあんな仕打ちをしていってわけじゃあない。
 夢だからだろうか。自分の考え、相手の考え――すべてがあやふやだった。
 幾度と泣く繰り返される問い。それに答えられないでいる内に――やがて、赤き闇が幼き日のレゾを包む。
 ……赤眼の、魔王。
 レゾの、――その恨んだだろう瞳に封じられていた。
 ――世界を、見たいか?
 それは魔王の問い。鮮明に響く、記憶の奥底にうずくまっていた魔王の記憶――声。
 幼子は、こくんっ、と頷いた。
 なにも知らずに。
 赤き闇が、人を惑わす赤き闇が……かすかに震え、笑ったような気がした。
 ――ならば、我にその身と心を委ねるがいい。
 駄目だ。
 自分の声は届かなかった。
 なにも知らずに。
 魔王の言葉がなにを意味するのか知らずに――レゾは赤い闇に触れた。
 ――開いた!目が開いたぞ!
 邪悪に満ちた声が、耳に届く。聞いたことの在る声……祖父の声――魔王の――声……
 開かれたその瞳は……ただ一対の赤い瞳。
 それは、祖父の望まなかった、結末か。
 それとも、レゾは望んでいたのだろうか。その身を混沌の海に帰すことを。
 ――解らない。解らないが……
 魔王に立ち向かおうとして、ふと、自分の手が妙に小さいことに気づいた。
 彼もまた、幼い頃に戻っていたのか。
 しかし……皮膚は、青黒い岩と化していた。
 彼自身、忌み嫌う――異形の姿……
「――違うッ!」
 叫んで身を起こすと、宿のベッドの上だった。
 ――夢、か。
 いや、解っていたはずである。あれは夢――在らざるものだと。
 なのに、途中から曖昧になっていた。
 ちらりっ、と横を見ると、ガウリイが眠っていた。二つ目の魔王の欠片を滅ぼした場に居合わせたという、あのリナ=インバースの保護者。完全に眠っている。
 彼は嘆息すると、窓の外を見た。
 ……夜空に浮かぶ月は、満月だった。

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 ……はい。というわけで無謀にも続いてますのです。
 と、ゆーわけで、これからよろしくお願いします――オリキャラも出る予定だったりします……あはははは(死罪)

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6621丘の上の家 2むくぅ 5/30-18:35
記事番号6613へのコメント


 第二話です。結局オリキャラでないし…… 
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 珍しいこともあるものだった。
 『あの』寝起き時の機嫌の悪いことにかけては腹をすかしたときの自分と張り合うほどに悪い――と彼女の相棒に言われた(もちろんその時点で殴り飛ばしたが)、寝起きも悪すぎるしはっきり言って起きるのが一番遅いゼルガディスが、寝起きは悪いが四人の中で一番早く起きる彼女――リナの次に起きてきたのである。
「――おはよう」
「あ、おはよー……って、ちょっとゼル。珍しいじゃない。あんたがこんなに早く起きてくるなんて」
 言ってゼルガディスを見ると、彼女は訝しげな顔をした。
「顔色――は、いつも悪いけど……どっか気分でも悪いわけ?」
「……ああ。変な夢見て夜中に起きてな……あまり眠れなかったんだ」
 彼はかすかに笑った。無理に笑っているというか――苦笑いに見えたが。
「で、どんな夢だったの?」
「……いや……」
 問いに、ゼルガディスは言葉を濁した。
「……やな夢だったみたいね。ま、いーわ。夢は夢だしね。
 ほらほら、テーブルについたら? ――もうすぐあの子も起きてくるだろーし」
 最後の言葉だけ妙に意味ありげに言い、彼女は相も変わらず白ずくめの、顔まで隠してしまっているゼルガディスに席をすすめた。彼は素直に座るとテーブルに肘を突いてその上に顎を乗せ、ふぅっ、とため息をついた。
 こういう動作をされると気になっていることがあからさまにわかる。意地でも聞き出したくなるのが心情だが……
「おはようございます。ゼルガディスさん。
 おはよう。リナ」
 彼女がいざ口を開いたその瞬間に、割り込んできた少女の声。視線を転ずれば、黒い髪の愛らしい少女が一人。――アメリアである。
 自分よりゼルガディスの方を先に呼ぶあたり、彼女の心中はまる解りだった。
 ――自分も含め、彼女の自称保護者――ガウリイを除けば、今ここにいるメンバー全員が、自分の心を隠すのが苦手なのだ。
「おはよう、アメリア」
 笑顔でリナは応じた。ちらりと横を見ると、ゼルガディスは挨拶もせず、メニューを目で追っている。本当は挨拶をしたいのは山々なのだろうが、多分――照れ臭いのだ。リナに対しては気安く挨拶をするくせに、このアメリアに対してはどうも心中を察せられまいとしている節がある。
「おはようございます。ゼルガディスさん!」
 ゼルガディスの耳元で、大声でアメリアは、もう一度『朝の挨拶』をした。彼はテーブルに突っ伏すと、
「……おはよう」
 とだけ呟いた。アメリアはなにを満足したか、ひとつこくんっ、と頷くと、
「そうです。ゼルガディスさん。その調子ですよ! まず一日の始まりに朝の挨拶っ! これこそ正義の味方の心得ですっ!」
「……俺は正義の味方なんぞじゃあない」
 アメリアの力強い言葉とは対照的に、彼は不機嫌そうに呟いた。
「大丈夫ですゼルガディスさん。たとえ過去になにがあろうとも、正義は常に一つですからっ!」
 なにが大丈夫なのやら。
 セイルーン王女の言葉に、リナはため息をつく。彼女が席につくのを待って、
「――ま、いいわ。ガウリイが来たら、町をてきとーにぶらついて出発しましょ。
 まずは……」
 リナはぴっ、と一つ指を立てる。それを他の二人は反射的に、視線を同時にリナの指の先に移した。
「おばちゃーんっ! モーニングセット三人前、急いでねーっ!」
 その言葉に、王女は思わずすっこけて、合成獣の男はため息をついた。


 街道は、これ以上ないほど晴れていた。雲ひとつない青空。
 リナ、ガウリイ両名が魔王のかけら――ルーク=シャブラニグドゥを滅ぼしてからちょうど一年。四人は偶然巡り合い、また旅をすることになったのだった。
 ――リナは、魔血玉(デモン・ブラッド)に変わる魔力増幅器を求めて。
 ――ガウリイは、リナの保護者として。
 ――ゼルガディスは、自分の体を元に戻す為に。
 ――アメリアは、王宮から抜け出してお忍びの旅を。
 四人それぞれ旅に出た理由も、旅をする目的も違うけれど。
 懐かしさか、それとも別の何かか、またともに、旅をすることになっていた。
 ゼルガディスは、最近少し不安を感じていた。もちろん自分の身体のことについてだ。
 身体を戻す方法があまりにも見つからないのに絶望したわけではない。ただ単に、自分が前ほど、切実に元の身体に戻ることに執着しなくなっていることだ。
 ……その悩みを紛らわせるために、またこの三人と旅をすることになっていた。
 青空を見上げる。
 唐突に思い出して、彼は立ち止まった。
「なぁ」
 旅の道中彼が自分から話題を振るのは珍しい。三人は立ち止まって、一斉にゼルガディスを見た。
「ちょっと。この近くに寄りたいところがあるんだが」
「よりたいところ? 知り合いの家とか?」
「知り合い? もしかして恋人とか?」
「ちょっと待ってくださいガウリイさんっ! このゼルガディスさんに、トモダチはおろか、ましてや恋人なんてっ!
 ……できるわけないじゃあないですかっ!」
 ゼルガディスの言葉に、口々に三人は勝手な台詞を発した。
「ちょっと待たんかい。アメリア、おまえの言葉はなんか引っかかるぞ」
「……じゃ、恋人なんですか? これから会いに行くひとって」
「……………う゛」
 ツッコミに切り返されて、彼は思わず苦い顔をした。そんなはずはない。そもそもこれから会いに行く人間は男だし、かなりの偏屈で、おまけに変人である。大体彼に――アメリアの言ったとおり、友人どころか恋人ができるはずはない。なにせこの異形の身体である。こんな風に旅の仲間ができた方が不思議なほどなのだ。
 こほんっ。
 答えられないのを、咳払いをしてごまかすと(いまいちごまかせていない気はしたが)、彼は三人を見回すと、
「……一緒に行ってくれないか?」
 この言葉に初めに驚いたのはリナだった。
「珍しいじゃんゼル! あんたいつもなら『悪いが、単独行動をとらせてもらう』とか何とか言っちゃって、勝手にどっかぶらりっと行っちゃうじゃないっ!
 どーゆー風の吹きまわしなわけっ!?」
「リナの言うとおりよっ! ゼルガディスさん、大丈夫ですか! 熱ありませんかっ!?」
「珍しいなぁ。ゼルー」
「あのなぁ……」
 三人のいかにもわざとらしい台詞に、彼はさすがにあきれた声を出した。
「と――まぁ冗談はこれくらいにして。
 にしても、なんだってまた――」
「一人じゃちょっと心もとなくてな……」
「はぁ?」
 リナは、さすがにおかしな顔をした。


 その『家』というのは、町から外れた、小高い丘の上に存在していた。
 青い屋根、白い壁。どうといったことのない、普通の家である。
「……聞きそびれていたけど、そのあんたの知り合い、どんな奴なわけ?」
「合成獣に関する研究をしている男なんだが、今の今まで忘れていた……いや、記憶の奥底に封印してしまいたかったんだな。
 奴はおかしくなっちまう前のレゾと妙に気が合っていた。そいつがもしかして、何か知っているんじゃないかと思ってな」
「ふぅん……」
 リナはよく解らない答えに曖昧に頷いて、ドアをノックした。
 ――返事がない。
「留守か?」
「そんなはずは……あいつは徹底的に屋内(インドア)派なんだ。地下にこもっているのかもしれんな……」
 ゼルガディスががちゃりっ、と用心深くドアを開けた。
 ひゅひゅひゅんっ!
 風を切る音と共に、赤く光る発光体が見えた。反射的に、ばんっ! とドアを閉めた。
「どうした?ゼル?」
 ガウリイの声のすぐ後に……
 かかっ!
 なにかがドアに突き刺さる音が耳に届いた。
「えッ? な……なんなんですっ!? ゼルガディスさん!?」
 アメリアの声を無視して、ゼルガディスはもう一度ドアを開ける。
 ――今度は、何も飛んでこなかった。
 彼は安堵の息をつき、ドアを開けはなって裏側――内側を、仲間に見せた。ドアには赤く光る鉄の針が三本、刺さっている。
「これ……って」
「武器強化の呪文がかかった針さ。
 用心深い奴でな……実際、研究を盗みにくる命知らずな奴もいるらしい。そういう奴の相手をするのは面倒だってんで、こういう罠(トラップ)を仕掛けるわけだ。」
「赤法師レゾの友人……なるほど。本人も変人なら、友人も変人だったってわけね」
 リナが納得口調で言う。彼女はゼルガディスが知るような『以前のレゾ』――つまり魔王に精神を乗っ取られる前のレゾに、直に会ったことはない。が、ゼルガディスの口から、レゾは変人である。とは聞かされていた。
「類は友を呼ぶって感じですね」
「アメリア……もしかして俺のこともひと括りしてるんじゃないだろうな……」
「にしても、随分と凶悪な罠よね。リナもそう思わない?」
 さらっと無視してリナに話を振るアメリア。
(……やっぱりか)
 彼はうんざりしてため息をついた。『あれ』が死んだあとでも、自分がその血を引いているなど断固信じたくない。
 が、この件についてツッコんでも、うまく煙に巻かれるのは明白である。
「……この程度でビビッているようじゃ、この先とても生き残れないぞ。
 あれは非常識の塊だ。五年ほど――俺が合成獣になってからは一度も会っていないが、この五年で非常識度が上昇していそうだからな。
 それに罠を作るのはレゾも嬉々として手伝っていた。あの二人が組んじゃあ、どんなことが待っているか……」
「どんな人なんです……赤法師レゾの友人って……」
「悪いが思い出したくもない。会って自分で確かめたら嫌でも理由がわかるさ……」
 彼はアメリアの問いに、徹底して友人を化け物扱いした台詞を吐いた。
「とにかくさっさと会って、そのあかぼうし……だっけ? のトモダチに会って来ようぜ。ここでこうしていても埒があかないし」
「そうね。とりあえず……行きましょうか」
 ガウリイの言葉に、リナはこくんっ、と頷いて、未知の家に一歩足を踏み入れた。
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 次こそはきっとオリキャラを……決意を固めつつ撤収っ! ――って言うか次に出ますですっ! でわ。

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6689丘の上の家 3むくぅ 6/4-17:49
記事番号6613へのコメント

 ……えぇぇっと……はい。すいません。最初はオリキャラ二人の予定だったんです。でも多分増えます。
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 地下に入ってから、どの程度の時間が経過したのか……恐らく、まだあまり経過していない。それは分かる。
 だが……地下の異様な雰囲気は、時間間隔を狂わせ、一日たったのか、まだ数秒もたっていないのか……それすらも分からなくなりそうだった。
 そして罠の山のせいもあった。第一、住んでいるものが罠に引っかかったりしないのか、と疑問に思うほど罠、罠、罠……の、オンパレードである。いちいち発動させていては……と、解除を試みたりもしたのだが、解除しようにもその手順を少しでもしくじるとまた罠、である。この迷宮の主は、きっと人間不信に違いない。
 ともあれ、リナは要するに疲れていた。
「っだぁぁぁぁぁっ! どーしてこう罠ばっかりなわけっ!?」
 ……と、思いっきり叫びたかった。だが、そう叫ぼうものならばまた罠が発動する。ストレスは溜まるばかりだ。
 もうほぼ限界だった。それほど時間は経っていない――ここで音をあげたら馬鹿みたいだ……そうも思う。
 しかし……
 かち。どぉおぉおおぉぉおっ!
「あああああっ! ガウリイ、あんたねぇっ! 不用意に物に触るなっていったでしょっ!?」
「そんなこといわれてもぉぉおっ!」
 そうなのである。
 リナ、ゼルガディス、アメリア。
 この三人は、罠に引っかかってはいない。むしろ罠のある場所を敏感に察知し、罠をはずす技術さえ持っている。
 だがこのガウリイは、お得意の野生のカンも人工物には太刀打ちできないのか、さっきから罠に引っかかりまくっていた。
 転がってくる巨大な岩――から逃げるべく全力疾走しながら、彼女は口の中で小さく呪文を唱える。
「炎の槍(フレア・ランス)っ!」
 きゅどっ!
 大岩に炎の矢が突き刺さり、
「氷の槍(アイシクル・ランス)っ!」
 ついでゼルガディスの魔法が突き刺さる。寒暖の差、というような生易しいレベルではない温度差に、大岩は破砕した。いつかも使った手だが、一度ゼルガディスに使ったらどうなるだろう、と気になったことがあった。本人にそのことを話したらものすごく激怒されたが……
「……また階段ね……さぁ、とっとと降りるわよ」
 いいかげんうんざりとした声音で、リナは言った。
 全速力で階段を駆け下りる――というのも、階段に罠が仕掛けられていることもあるからだ。
 ぜぇっ、ぜぇっ……
「さぁ……次の階段っ……探すわよ……」
 息をつきながら、リナは顔を上げた。
「……どうやらその必要はないみたいね」
 リナは呟いた。後から下りてきた三人も、ここが最深部であることを察して、ほぉっ、と安堵の息をつく。
 そこは、書斎になっていた。さらにその奥に扉がいくつもあり、明り(ライティング)の光もないのに一定の明るさを保っている。
 彼女からちょうど正面に当たる本棚に、彼は背伸びするようにして本を取ろうとしていた。
 灰色――というよりも、色褪せた、と言った方がしっくりくるだろう。色褪せた黒い髪、瞳。そして白すぎる肌。女性とも見まごうばかりに端整な顔は、少し眠そうだったが。いかにも『研究者』と言った出で立ちをしていて、背は少し低いが、ひょろりとしていた。かなり痩せている。
「……テノール……」
 ゼルガディスが呟いた。ふと白い顔がこちらを向く。
 ――レゾに――少し似ている?
 顔が、ではない。捕らえどころのない雰囲気が、リナにそう思わせたのだろう。
「ゼル……が……ゼルガディス?」
 目を見開いて、彼は背伸びするのをやめた。体もこちらを向く。歳は見た目二十歳前後だが、レゾの友人である。もしかしたら百歳とっくに越えてました、なんて話もありうるかもしれない。
「久しぶりじゃないかっ! ゼルガディスッ! 
 ――そういえばあの阿保は元気か?」
 阿呆、と言うのは恐らくレゾのことだろう。――なるほど。見た目どおりの性格ではないらしい。
「あいつは死んだ――二年前に」
「そうか。残念だな……今度会ったら殴ったろうと兄妹で決意を固めてたのに」
 固めるなよ。ンなもん。
 心中で冷めた目でリナはツッコミをいれて――
「って……きょーだい? あんた、弟だか妹だか姉だか兄だか知んないけど、そんなもんいるわけ?」
「? なんだ? ゼル。この子は――」
「旅の仲間だ。リナと――そこのがガウリイ――そしてそっちのがアメリアだ」
 テノールに、ゼルガディスは仲間を順々に指さした。
「――俺は――ゼルガディスから聞いているかもしれんが、テノールと言う。
 にしても……人間変われば変わるもんだな。五年でひ弱だったおまえがこんなになんかよくわからん姿に……」
「レゾから聞いていないのか? 俺は合成獣――キメラになったんだぞ」
 その台詞にテノールの瞳から、すっと光が失せたような気がした。
「聞いたさ。殴り飛ばしてやったよ。ふざけるなってな。
 たしかにちょっとお茶目で暴走しやすい奴だとは思っていたが、まさか実の孫を合成獣にしちまうたぁ思わなかった――」
「おちゃめ……」
 なんだか不思議な気持ちになりつつ、アメリアはテノールの言葉をなぞった。
「そういえば、さっきの質問に答えてもらってないわね」
「兄弟? いるよ。妹が一人」
「ゼルガディスさん隠してましたね?」
 アメリアがジト目で言った。ゼルガディスが慌てる。
「違うッ! 別に隠してたわけじゃない、知らなかったんだっ!」
「そんな事言ってごまかそうッたってむだよっ! ゼルッ!」
「いや。三年程前までは妹じゃなく弟だったから……」
「えぇっ!?」
 その言葉に、全員の間に衝撃が走る。
「じゃあおかまさんなんですかっ!?」
「――違う。弟が嫁とって去年死んだ。それだけだ」
「あぁ、なるほど」
 単純明快な答えに、ガウリイがぽんっ、と手のひらを打った。テノールはその話は終わりだ、とでも言うようにちらりっ、と視線を移す。
「もうそろそろ帰ってくる頃なんだが……」
「出かけてるんですか?」
 アメリアの問いに答えたのは、テノールではなくゼルガディスだった。嘆息して、
「……どうせ買い物にでも行かせているんだろう。こいつは面倒くさがりやだからな。義妹に買い物に行かせる体たらく。まさに究極の屋内(インドア)派」
「誉めているんだか貶しているんだか明白だが、まぁ多めに見てやろう」
「――なんだか良く解んないけど……妹さんがもうすぐ帰ってくるわけ?」
「まぁな。妹だか弟だかよくわからん顔立ちをしているがまぁ大目に見てくれ」
「人の陰口を叩くたぁいい度胸じゃないか……テノール」
 声が聞こえたのは、背後からだった。
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 ――あぁ。早くかけ。自分。思いつつ撤収なのですぅっ! にげろぉぉっ!

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6699丘の上の家 終わりむくぅ 6/5-21:47
記事番号6613へのコメント

 とりあえずこれで終わり、です……
 一体なにがしたかったって『魔力増幅器なし』のリナが、人間形態取れる魔族に対しての対抗手段を見つけたかった。という……ってことはゼルの夢って……?
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 立っていたのは、いまいち女性だか男性だか掴みかねる雰囲気をもった人だった。――恐らく女性だろう。テノールの言っていた『妹』……なるほど、たしかにこれなら彼の言葉も頷ける。
 黒い髪に黒い瞳。白い顔はたしかにテノールとは似ていない。テノールとはまた違う美人である。どこから出てきたのかは解らない――まさかあの罠の数々を潜り抜けてきたわけではないだろうが。
「――お客さん?」
 言いながら彼女が視線を向けたのはなぜかリナのほうだった。テノールは頷くと、
「ああ。ほら。前話してた知り合いの孫だ。ゼルガディスと――そのコはリナ=インバースだそうだ」
「あんたが?」
 少し驚いたような表情で、彼女はリナを見る。全くの無表情だが――驚いているのだ。多分。彼女は順々にガウリイ、アメリアを見る。アメリアのところできょとんっ、と彼女は目を留めた。
「……アメリアさん?」
 問われてアメリアは、こくんっ、と頷いた。
「ナーさんに聞いてたのと同じだね――なるほど。そっくりだ」
 顔を近づけて彼女は笑った。リナが背筋に悪寒を感じたのはまた別の話である。アメリアが何か言おうとするのを手で止めて、彼女は頭をテノールの方に向けた。
「ああ、そうそう――こっちも悪いが客だよ」
 それがリナたちのような『客』でないことは口調で知れた。
「それもとびっきりの」
 『の』のあとには恐らく『嫌な客が』等と続くだろう。テノールは驚きもせず――ただし果てしなく嫌そうな顔をした。
「で、奴さん諦めてくれないってか?」
「今度は御大直々に私たちを混沌の海に沈めたいそうで」
 理由は大体察することが出来た。リナはとりあえずテノールに向かって、
「あんたたち誰かに狙われる覚えでもあるわけ……?」
「山ほど」
 即答されて、一瞬リナは軽い頭痛を覚えたが、それは当然のことなのだった。彼らはそもそも合成獣の研究をしているのだ。その研究を狙ってやってくる輩がいることは、あの人間不信になった人間が仕掛けるような罠を見れば明白である。
「なぁ? どういうことだ?」
 いまいち話の筋を掴むことの出来ないガウリイが、不思議そうにリナに問うた。
「あぁぁぁぁぁあこの頭ン中骨だけ男が――つまり、このテノールさんたちは、誰だか知んないけど、研究を狙う輩に命を狙われてるらしいの。解る?」
「狙われているってことは解った」
「――そう? 珍しく察しがいいわね。いつもならここで何となく、とか――」
 言いかけて、リナはようやく気配に気づく。
 心の中の闇が、自分のことを突然不安にしにかかるような――そんな気配。異質な感覚――
 つまり――魔族の瘴気。
「やぁこんにちは――確かカロンとか言ったっけ? 俺の研究がそんなに邪魔らしいなぁ?」
 テノールがどこへとも知れずに呟く。――無論独り言ではない。
 どこぞにいる、魔族に向かって喋っているのだ。
「そう――邪魔なんだよ。お前は」
 テノールの視線の先に、それはいた。
 人間の姿を取っている――かなり高位の魔族、ということか。
 黒いローブ、黒いフード。典型的な魔道士スタイル――蒼白い顔。黒いにごった瞳は、そこだけは人間ではないことを主張するように、不自然に充血していた。
「――ちょうどいい。リナ=インバース、お前も始末してくれる」
「う゛」
 リナはあからさまに嫌そうな顔をした。
 二つ目の魔王の欠片を滅ぼしてからと言うものの、魔族たちは毎日毎日自分たちを狙ってきた。もちろん、敵討ち、などというナンセンスなことではない。
 魔族も――.一部のものは、だが――リナたちが自分たちにとって『危険な』存在であると判断したのだ。腹心クラスになると歯牙にもかけていないようだが、それはむしろ幸いだった。
「霊王結魔弾(ヴィスファ・ランク)っ!」
 アメリアはお得意の呪文で、両手に魔力を込める。ゼルガディスの方も既に剣を抜き、口の中で小さく呪文を唱えていた。ガウリイは斬妖剣を構え、リナは覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)を唱えた。
「はぁぁぁあっ!」
 どんっ!
 アメリアが魔族に殴りかかる。まともに顔面にヒットしたが、たいして顔色も変えずにアメリアの手を掴み、ぶぅんっ! と投げ飛ばした。
「アメリアッ!」
 ゼルガディスが叫ぶ。幸いアメリアは身を捻り、案外上手に着地した。
「うーんさすが――これくらいの術じゃびくともしない……」
 ソプラノはあきれたような感心したような口調でそう言うと、ちょうどリナの手と同じぐらいの長さの針を構えた。
「魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)」
 ゼルガディスの呪文が完成したのと、ソプラノの呪文が完成したのはほぼ同時だった。――ただし、ソプラノのは何を言っているのか聞こえなかったが――なにを唱えたのかはすぐにわかった。
 ゼルガディスのブロード・ソードと、ソプラノの針が、同時に赤く染まった。
 カロンがちらりと一瞬そちらを向いた瞬間に、ガウリイが斬りかかる。カロンはそれを軽々とよけると、ぶぅんっ! と何かガウリイに向かって投げた。
「――っ!」
 ガウリイは反射的に身を捻ってよける。かんっ! と『それ』は床にぶち当たり――
 ぐむむっ!
「うっ……」
 アメリアがあからさまに嫌悪の表情を浮かべた――その気持ちは、リナにはわからないでもなかった。
 カロンが投げたのは、黒い小箱だった。
 『それ』は床に当たった瞬間大きく膨らみ、黒い魔族を生み出した。
 人に近いフォルム。ただその顔に当たる部分には大きい目しかなく、身体は黒いぼろきれを纏っていた。その手は異様に長く、その手だけが人間のようで、ただし血管のようなものが浮き出ていた。
「――雑魚か」
 ソプラノは呟くと、針を投げた。
 がっ!
 正確に針は魔族に突き刺さっていた。――目の中心を確実に貫いて。
 無論、そこが急所なわけでもないだろうが、魔族としてはダメージは受けるだろう。針には魔皇霊斬がかかっているのだ。魔族がのけぞった瞬間に、
「覇王氷河烈っ!」
 リナの呪文が炸裂し、魔族はあっさりと滅んだ。
「――これくらいの小物じゃあ私たちを倒せないことは宣告承知のはずだけど……まだ学習してなかったわけ?」
 小ばかにしたような口調で、ソプラノが言う。カロンは――
 笑みを――浮かべたように見えた。ソプラノがぴくんっ、と眉を跳ね上げる。
「――うわやばっ!」
 テノールが頬に汗をたらして短く叫んだ。リナもその気配を察して――
 どんっ!
 爆発が、あたりを揺るがした。


「間に合った……か」
 呟いたのは、ソプラノだった。
 カロンは、こともあろうに部屋の中で火炎球――か、少なくとも炎を爆裂させた、それを察したソプラノがすぐに呪文を唱えて、防御結界を張ったのだ。
 アメリアはほぅっと息をついてへたり込み、ガウリイはなにがあったのか解らずきょとんっとする。ゼルガディスもふぅっと、息をついた。 
「あぁぁぁあっ! 俺の本っ! 俺の本がぁぁぁあっ!」
 テノールだけがわめいている。リナはぽんっ、と肩に手を置くと、
「ま、命が助かったと思えば本ぐらいどうでもいいでしょ」
「そぉいうわけにもいかんっ! あの本類全部うっぱらったら、捨て値でもレムタイトの原石が両手いっぱいは買えたんだぞっ!」
「うそっ! そんなにっ!?」
 間違いなく人生十回は遊んで暮らせる額である。
「――そういうことをいってる場合じゃないでしょがあんたらは」
 あきれた口調でソプラノが言う。
 目に見える景色は一変していた。
 ひんやりとした空気を漂わせていた地下室は、いまや瓦礫の山で、むしむしとした空気になっていた。
「ふんっ……しとめ損ねたか……」
『崩霊裂(ラ・ティルト)』
 こぉうっ!
 問答無用でテノールとアメリアの呪文が炸裂する。それなりに答えたようで、カロンはかすかに顔をしかめた――だけだった。
「うぁ結構強ぇ。さすがにさっきの雑魚とは違うな」
 テノールが眉を寄せた。
「そう言えばあんた、聞いた話だと魔王を二回も倒したんだよな?」
 唐突に話をふられ、リナは顔を上げた。
「え? 何で知って……」
「医者と博士と探偵は、秘密が多いものと決まっている」
 頭痛。
 リナは頭を押さえた。
「まぁそれは冗談としても、だ。
 あんた、なんかすごい闇の刃を使えるそうじゃないか」
「――ええ。まぁね」
「それの呪文詠唱を教えてくれ。とりあえず何とかして見せるから」
「見せるからって――」
 ――神滅斬(ラグナ・ブレード)。
 あれは増幅器なき今、リナには使えない。テノールの魔力容量の程は知らないが、恐らくは彼でも無理。崩霊裂でもそんなに効かない――となれば、ガウリイの斬妖剣しかない、とリナは考えていたのだが……
「――あんたのキャパで発動できるとは思えないわ」
「教えるだけ教えてくれ。俺のキャパは凡人並だが、とりあえずは――大丈夫だと思う」
「ま、教えるだけで気が済むってンなら――」
 リナは呪文をテノールに伝えた。テノールが最初の節を聞いたところでかすかにうめき声をあげたが、この際無視する。
「……とんでもない呪文らしいな。ま、やるだけやってみる」
 言い放って、テノールはさっさと魔族の後ろに回る。たいした意味はないのだろうが。
「はぁっ!」
 ガウリイの剣が再度よけられた。どうやらガウリイの剣を受けるつもりはさらさらないらしい。
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)で倒せるような相手でもないだろうし……くっ……」
「もう打つ手なしか――?」
 嘲るように、魔族は言った。
「崩霊裂っ!」
 ゼルガディスの呪文がまた見事に決まるが、あまり効果は示さないようである。
 テノールは――一体なにをやろうというのだろう。
 魔族はただ薄ら笑いを浮かべ――
「神滅斬(ラグナ・ブレード)」
 テノールの、ほとんど呟きとも思える声が、リナの耳に届いた。


「なッ――」 
 それが。
 魔族のあまりにも短い、最期の声だった。
 ざんっ!
 黒い刃は、魔族を貫いて――すぐに消えた。
 テノールの灰色の髪は、もう真っ白になっている。
「――っ――」
 どっ。
 テノールがその場に膝をついた。
「――今の――は」
 自分でも声がかすれているのがわかる。リナは慌ててテノールに駆け寄った。襟首を掴みあげ、
「ちょっとぉぉぉおぉぉっ!? 今どぉやったってぇのぉぉおっ!? 教えなさぁぁぁあぁぁいっっ!」
「やめ……ちょ……今疲れてる――つぅのに……」
「どうやったの!? ねぇどうやったのっ!」
「――んだよ」
「は?」
 リナは思わず手を止めた。
「にんじんだよ。ニンジン」
「ニンジン?」
 変な顔で呟いたのはアメリアだった。テノールは頷くと、
「ほら。呪文詠唱トチるとバカバカしいくらい威力落ちたりするだろ? あれを逆手にとってみた」
「取ってみたって……つまり、わざと詠唱間違えた、ってこと?」
「ああ。そうやると結構キャパのいる呪文でも発動できるんだ。もっとも、今回のはつらすぎだ――二度とやらない」
 テノールははたはたと手を振った。
「最近はそー言う馬鹿なことばっか暇つぶしに考えてて、本業のキメラ研究さっぱりやんないんだ。この馬鹿は」
 ソプラノが補足説明をした。ゼルガディスが額に手を当てる。
「無駄足かよ……」
「いやあたしにとってはそうでもないわよ。それだったら、今のあたしのキャパでも魔族に対抗できる手段がばっちりじゃないっ!
 それだったらあんまし疲れないだろうし、一石二鳥よっ!」
 リナは一人喜んでいた。


 ――と言うわけで、そういう収穫があったリナも、自分の身体を戻すのには役立たないと解ったゼルガディスも、もともとつきあいだったアメリアやガウリイも、早々にその場を去った。
 別に簡単に通れる抜け道があると知って、リナがこの後妙に荒れたことだけは明記しておく。
 終わり。
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 書き終わってみて思う。
 ……あのゼルの夢ってなんだったんだろ? と(おい)。
 いや。何となく思わせぶりだったから入れてみよ♪ ぐらいのきもちでやったら、そうなりました。すいません。
 ていうわけで逃げます。逃げてばっかりです。また逃げながら書こうと思いますのです。