◆−光の扉(オープン・ザ・ゲート) 0−桐生あきや(6/20-15:53)No.6789 ┣光の扉(オープン・ザ・ゲート) 1−桐生あきや(6/20-15:57)No.6790 ┃┗はじめまして−雅(6/21-00:41)No.6792 ┃ ┗はじめましてです(><)−桐生あきや(6/22-01:47)No.6794 ┣光の扉(オープン・ザ・ゲート) 2−桐生あきや(6/22-23:58)No.6802 ┣光の扉(オープン・ザ・ゲート) 3−桐生あきや(6/27-23:09)No.6819 ┃┣拝啓、キンキン様。(笑)−雫石彼方(6/28-21:58)No.6826 ┃┃┗拝啓、かなた様。(笑)−桐生あきや(6/29-21:34)No.6834 ┃┗はじめまして。−龍崎星海(6/28-23:14)No.6829 ┃ ┗はじめましてです〜♪−桐生あきや(6/29-21:55)No.6835 ┣光の扉(オープン・ザ・ゲート) 4−桐生あきや(6/29-22:51)No.6836 ┣光の扉(オープン・ザ・ゲート) 5−桐生あきや(7/7-17:13)No.6852 ┗光の扉(オープン・ザ・ゲート) 終−桐生あきや(7/7-17:16)No.6853 ┣読み終えました。−龍崎星海(7/7-17:40)No.6854 ┃┗これから続き投稿します〜(笑)−桐生あきや(7/9-21:56)No.6862 ┗はぅ・・−こずえ(7/7-21:53)No.6857 ┗あう………(対抗すな・汗)−桐生あきや(7/9-22:07)No.6863
6789 | 光の扉(オープン・ザ・ゲート) 0 | 桐生あきや URL | 6/20-15:53 |
こんにちわ。桐生です。 いつもは*後書き代わりのたわごと*でやっているタイトル解説ですが、今回は出張バージョンで、いきなりここまでやってまいりました(笑)。 をよ? と思われた方もいるかもしれません。カタカナタイトルである(オープン・ザ・ゲート)はここ【書き殴り】に投稿なさっているねんねこ様のHPの名前からお借りいたしました。もちろん本当は英字ですよ(笑)。とても好きな言葉です。使用を快諾してくれて、本当にありがとうございます。前にも御礼は言ったんですが、やはりここは何度でも言わせてもらいます。めっちゃ嬉しいのです(><) 今回はアメリア王宮編ではありません(笑)。アメリア王宮編は前回で終わってしまったので。ユズハも出てきません。でも間違いなくユズハシリーズです。 と、ゆーわけでっ、前作でオリキャラたちより出演率の低かった(汗)原キャラ二人が主役です!(何故いきなりテンションがあがるのだおのれは・爆) ************************************* *** 光の扉(オープン・ザ・ゲート)第0話 *** その日、リナはゼフィールシティの魔道士協会本部で個人の研究室をもらっている数少ない人物のうち一人を尋ねるところだった。 そこまで行く途中の廊下で見覚えのある職員に出逢って、思いっきりガンを飛ばす。 だれが忘れようか、あの忌まわしいローブを手渡した魔道士の顔を。 しばらくにっこり笑って睨みつけていたリナの背後から、冷ややかな女性の声がした。 「やめたまえ、リナ。その表情と発汗の量からして彼は非常に怯えている」 リナは溜め息と共に視線を外すと、背後の人物をふり返った。 くすんだ金褐色の髪をうなじのところで、棒のようにきっちりとまとめ、飾り気も何もない魔道士の標準ローブにその細身の体を包んでいる。 濃い紫色の瞳がきまじめな表情でリナを見返していた。 「おひさしぶり。イフェル」 「ああ、実にひさしぶりだ。逢えて嬉しく思っている」 皮肉でも何でもなく、これは本音である。こういう人物なのだ。 クローラー=イフェル=シオン。いったいどれが姓でどれが名前なのかさっぱりわからない名前を持った、リナとは同期の友人である。一応クローラーが名前なのだが、名前がいちばん姓らしく聞こえる。 魔道士協会の建物内に個人の研究室をもらっている、数少ない魔道士の一人だった。 「あたし、あなたに逢いにきたんだけど?」 「わかっている。約束の物を取りにきたのだろう?」 リナと並んで本部の廊下を歩きながら、クローラーは左眼にはめた片眼鏡を直した。 「しかし、意外だ」 「何が?」 「全てがだ。君が結婚して既に娘もいるという事実も、優秀な魔道士たる君が他人の研究の成果に興味を示すことも、さらにはその研究が、全く君が興味を持っていなかった分野であることも」 さらりと無表情に告げると、クローラーはさっさと自分の研究室のドアを開けて入っていく。 くどいようだが、こういう人物なのである。もちろん悪い人物ではないし、リナの数少ない同期の友人なのだが。 「だから、それは前にも言ったでしょう?」 「知っている。君がこの冊子を――――」 そう言って、クローラーは机の上に置いてあった薄い本を取り上げた。 「私の未発表の論文を取りに来た理由に関してはすでに聞いた。もちろんそれについては私も了解している。むしろ、全面的に協力を惜しまないつもりだ」 「だったら―――」 片眼鏡の奥で、濃紫色の瞳がキラリと光った。 もしかして、おもしろがっているのかもしれない。 「だから、意外であるという点と私の個人的な興味は、君のハートを射止めた男性と君の娘の魔道的資質に関してだリナ=インバース。聞くところによると君の配偶者は非常に美形なのだとか?」 「イフェルっ!!」 「しかし私が君という個人を判断考察した結果によれば、君が最終的に人の内面より見た目に重きをおく傾向があるという事実はあまり見られない。よって、その美形であるという属性は後から付随してきたものなのだろう。真実を知りたいと切に願うのだが?」 ようするにガウリイのどこに惹かれて結婚したのかと聞いているのである。くそややこしい言い回しを省けば。 野次馬根性が理論武装しているようなものだ。 (だから、あんたの手は借りたくなかったのよーーーーーーーっ!!) 心の中でリナは絶叫した。 内心絶叫しつつも、羊皮紙を薄い板ではさんで紐で綴じてある冊子を受け取ってパラリとめくる。 「これでいいのか?」 クローラーの問いに、リナはうなずいた。 「ありがとう、充分だわ。もしかして、また何かわかんないことがあったら聞くかもしれないけど、そのときはよろしく」 最悪の場合―――いや最悪などと言ってはいけないこの分野に関してこの同年の女性は第一人者なのだから、まず間違いなく彼女の手を借りることになるだろう。 「遠慮なくきいてくれ。私も話を聞く限り、彼には非常に学術的興味をそそられる。ぜひ一度逢ってみたい」 「………その場で解剖したりとかしないでしょうね?」 クローラーは胸に手をあてて心外だという表情をしてみせた。 「おおリナ、君は私をそのように見ていたのかね」 「うん、すっごく」 ためらいもなくリナは頷いた。普通の人物ならここで絶句して会話が途切れる。 だが、リナの反撃にいっこうに痛痒を感じないのが、この彼女の彼女たるゆえんなのである。 「それは心外だ。その場でだなどと不用意なことがどうしてできよう。きちんと設備の整った私の研究室に連れてきてから、ゆっくり―――」 「解剖すなッ!」 「………いったい何の会話をしているんだ、君たちは」 「おお、ユーリス。いつからそこに」 クローラーの声にリナがふり返ると、入り口のところに頭痛をこらえるような表情で茶色の髪をした青年が立っていた。 「さっきからだ。話が終わるまで待ってるつもりだったんだが、どうしてこう君たちの会話は際限なくズレていくんだ?」 「きっと愛だろう」 「………相変わらず彼女の冗談のセンスは向上していないみたいね、ユリシス」 ユリシス=ログラント。 こちらもリナの同期の魔道士だった。リナとは友人と知人の微妙な位置にいる青年である。天才肌の神経質な性格で、リナとは常に魔道の才能争いをしていた。二人の間にクローラーがいなければ、とっくに対立していただろうことは否めない。 ユリシスが眉間にしわを寄せて、こめかみを指で揉んだ。 「向上をはかるとしたら、クローラーの思考形態を一度無に帰す必要性がある。それは彼女の魔道士としての実績を考えるだに、あまり得策とは思えなくてね」 「何やらひどい言われようだが………」 クローラーが無表情にそう呟いて、かくんと首を傾げた。 「ところで何の用だ、ユーリス?」 「いや、次の学会での発表案に関してなんだが………」 あっという間に専門的な話に突入した二人を眺めながら、リナはわずかに顔をしかめた。 個人プレーが激しい魔道の研究世界において、この二人は非常に珍しい共同研究者なのである。リナとユリシスは親友ではないが、クローラーと彼は間違いなく親友だろう。 リナが顔をしかめたのは、いつまで『親友』なのかということである。現在、クローラーの名前を呼ぶことが許されているのはユリシスただ一人である。特別なのは間違いない。 だがしかし、それはリナにはいまのところ関係のないことだ。 やっかいごとに首を突っこむのは好きだが、ここ数年は妹分にあたる女性の恋愛だけで手一杯である。 つい先日は、その妹分から素晴らしい贈り物を届けてもらった。 そのおかげで私事が片付きそうなので、そろそろ向こうの恋愛も本腰を入れて助けてやらねばならない。 辞去の挨拶をして研究室を出ていこうとしたリナの背中に、クローラーの声がかかった。 「ああ、いずれまた遊びにきてくれ。そのときはぜひ、君の配偶者と娘をつれてきてくれると嬉しい」 「冗談じゃないわよおおおおっ!」 絶叫して、リナは研究室のドアを閉めた。 「ったく………」 大きく息を吐き出して、リナは手元の冊子に視線を落とす。 無意識のうちに口元に苦笑が浮かんだ。 「やれやれ………これは、どうやったら役に立てることができるのかしらね」 早くクローラーとユリシスがこの成果を公に発表してくれればいいのだが。 彼女に送るのがいちばん確実に彼の手元に届くだろうか。先日、リナのところからセイルーンに戻って行った彼女の使いに渡せれば良かったのだが、あいにくと間に合わなかった。 「おみやげ買ってから帰んなきゃね………」 帰りを待ってる娘の顔を思い出して、リナはくすりと笑った。 |
6790 | 光の扉(オープン・ザ・ゲート) 1 | 桐生あきや URL | 6/20-15:57 |
記事番号6789へのコメント 森の小道の真ん中に、子どもが座っていた。 「あなた、だーれ?」 「………………………………」 小首を傾げて訊ねられて、ゼルガディスはその場に突っ立った。 頭上でさわさわと常緑樹の梢が風に揺れて鳴っている。足下では落葉樹の落ち葉がくるくると巻きあげられていた。 森の中の、踏み分け道に近い、小さな間道である。森の中に用があったゼルガディスは、ちょうどよいとばかりにこの道を利用していた最中だったのだが、その道の真ん中に子どもがちょこんと座って通せんぼをしているのである。 いったいこの状況をどうしろというのだ。 しかも、この子どもはゼルガディスが『知り合ってしまった』存在に似ていた。 金髪に赤目。 現在はアメリアと共にいるはずの、炎の精霊と邪妖精の合成精神体であるユズハを彷彿とさせるような組み合わせである。 元は炎の精霊であるユズハも、クリームブロンドとオレンジレッドの瞳の持ち主だった。 年の頃も、出逢った当時のユズハと同じくらいに見える。 ものの見事におちょくられていた過去も同時に思い出して、ゼルガディスは反射的に顔をしかめた。 一応、理論的には何にでも化けられる存在ではあるだが、現在ユズハはアメリアに引き取られて王宮で暮らしているはずである。いくらなんでも、目の前の子どもがユズハであるはずがない。 風の噂ではアメリアに持ち込まれた縁談の数々をぶち壊しているという。ゼルガディスが頼んだ記憶はない。 そのユズハに似た赤い目でジッと見上げられて、ゼルガディスは憮然として少女を見おろした。 まだ四、五歳ぐらいだろうか、一人でほったらかしておいていい年齢では決してない。季節的にも、ほったらかしておいていい時期ではなかった。そろそろ秋も終わりである。 だが、あたりに保護者らしい人物の気配はない。 「………迷子か?」 ようやくゼルガディスはそう言った。 子どもは、ぶんぶんと首を横にふったあと、縦にふった。 「おい、どっちだ」 「かーさんとはぐれたの」 「なら迷子だろう」 会話が微妙に噛み合っていない。 ぺたんと地面に座りこんだ子どもが、上目遣いにゼルガディスを見た。 「でもかーさんはリアのところすぐくるから、リアはまいごじゃないよ」 年の割には驚くほどしっかりした喋り方だが、所詮子どもである。話はブツ切れて飛躍しまくり、わけがわからない。 だがそれとは別に、ゼルガディスは思わず眉間を押さえた。 「本当にこいつはユズハじゃないんだろうな………?」 『リア』とは自分の名前なのだろうが、ユズハがアメリアのことを『りあ』と呼ぶのである。 ますます目の前の子どもがユズハとダブって見える。 「あなた、だーれ?」 肩のあたりで切りそろえられた見事な金髪を揺らして、子どもが逆に聞き返してきた。 「俺はゼルだ」 嘆息混じりにゼルガディスは子どもに名乗った。フルネームはきっと発音しきれないだろう。 「どうしてこんなところで座りこんでいる」 「つかれたの」 何となく放っておく気にもなれず(ユズハを思い出したせいかもしれない)、ゼルガディスは大まじめにリアと名乗る子どもに尋ねていた。 「村の子どもか? 森の出口まで送っていってやってもいい」 来た道を引き返すことになるが、それはまあしょうがない。 きょとんとゼルガディスを見上げて、子どもは地面から立ち上がった。 「ちがうよ。おうち、もりのなか」 「………家庭環境の理解に苦しむ子どもだな」 ゼルガディスは呟いた。 普通、人間は街か村に集落をつくって暮らしているものだ。森は人の立ち入る領域ではない。 「つれてってくれるの?」 「家がわからないんだろう? どうやってお前を連れていく?」 「あっち」 子どもが左の森を指さした。 「だけど、わかんない」 「それじゃあ俺にもさっぱりわからんぞ」 どうやら本格的に迷子のようである。 母親はすぐに来ると言ったが、子どもの言うことである。普通、迷ったのなら真っ直ぐここに来るどころか、あちこち探しているはずである。 「………これはいったん村まで連れていくしかないな」 出逢ってしまったのが運の尽きである。 「村までなら連れていける」 「ん、いく」 言った子どもが当然のように子どもが両手を広げるのを見て、彼はいささか頬をひきつらせた。 「………自分で歩け」 「ヤ」 「なんでこんなところまでユズハに似ているんだ………」 文句を言いつつ抱き上げて、歩いてきた間道を引き返していく。 ゼルガディスの腕の中で、子どもは服の中から首にかけた紐を引っぱり出して、もてあそんでいた。 何気なくその紐の先にあるモノを見て、ゼルガディスは思わず子どもを取り落としそうになった。 深い脱力感のもと、ゼルガディスはやっとのことで子どもに尋ねた。 否、突っこんだ。 「おい…………………………なんだそれは」 「んとね、おふだー」 「どう見ても違う物に見えるが」 「でも、なんとかふだだってかーさんいったもん」 思わず空を仰ぐ。 青かった。 「家庭環境の特異性がこれ以上はないほど良く理解できるぞ………」 拾ってしまったのはある意味幸運なのか災難なのか。 どちらにせよ、ものすごい確率なのは間違いがなかった。 そうこうしているうちに、すぐ近くからドォンと音がして黒煙が上がり、ぎゃあぎゃあと鳥たちが逃げていった。 「あ」 子どもが声を上げる。 ゼルガディスは道をそれて、そちらのほうに歩いていった。 近づくにつれ、腕に抱えた子どもの名前が聞き覚えのある声で連呼されているのがわかる。 「………相変わらずのようだな」 腕の中の子どもが嬉しそうに声を上げた。 子どもを抱きかかえて、空いた手で灌木をかきわけると、栗色の髪を結い上げたかつての仲間が、魔族もたじろぎそうな目つきで辺りを見回している。 「おい、リナ」 「何よ!? いま取りこんで………ってリアっ」 すっ飛んできたリナがゼルガディスの腕から子どもをひったくった。 「どこ行ったのかと思ったじゃないの。だめよ、一人で遠くに行ったら。レッサーデーモンとか出てきたらどうすんの………ってそこでふつーに帰ろうとしないでくれる、ゼル?」 「かえるダメぇ」 リナの代わりに腕の中の子どもがゼルガディスのマントをぎゅむうっと引っ張っていた。 「子どもも届けたことだし、もういいだろう?」 「んなわけないでしょ。何年ぶりだと思ってんのよ」 娘を抱いたリナが眉をつりあげた。 「ここであったが百年目ってやつだわ。絶対うち寄ってもらうわよ。話したいことも渡したいものもあるんだから」 「なんだ?」 眉をひそめたゼルガディスの問いに、リナは娘を抱き直しながら意地悪く笑った。 「色々と。ユズハいわく『りあ』のこととかね」 「…………」 ゼルガディスが黙っていると、リナの腕の中から声がした。 「かーさん、リアよんだ?」 「いまのはリアとは違う人よ」 リアが母親譲りの真紅の瞳を輝かせた。 「リアとおんなじなまえ?」 「違うわよ。半分だけ同じ」 完全に一緒ではないと知って、リアは興味の対象を「りあ」から目の前の人物へと移したようだった。リナに似て癖のある髪がふわりと揺れた。 「つれてきてくれてありがとー」 リナが怪訝な表情で首を傾げた。 「そういえば、よくうちの子だってわかったわね」 ゼルガディスは黙って子どもの胸元を指差した。 「首から魔血玉の呪符(デモンブラッド・タリスマン)をひっさげて遊び回るような非常識な子どもは、お前のところのだけだ」 「…………」 「お前の子どもだとわかったとき思わず天を仰いで祈りを捧げそうになったぞ」 「どういう意味よソレはっ!?」 「言葉通りの意味だ」 「………あんた、ケンカ売ってんの?」 「安心しろ、冗談だ」 どう見ても本心である。 「真顔で表情ひとつ変えずに言われても、全っ然説得力ないわよ、んっふっふっ………」 微妙にこめかみを痙攣させながら、リナが引きつった笑みを浮かべた。 「それともゼルー? あんたも子どもを産むと魔力が落ちるなんてヨタ話信じてるクチ? 実際に試してみようか?」 「いや辞退しておく」 リナが面白くなさそうに鼻をならすが、すぐにその表情も数年ぶりに顔を合わせるという事実の前に長くは続かない。 「んじゃ、改めて紹介しとく。リアよ」 「リア、です。こんにちわ」 金色の頭髪を揺らして、リアがぺこりと頭を下げる。 それを見たゼルガディスが、困ったように頬をかいた。 「………ひとつ言ってもいいか?」 リナが眉をひそめてゼルガディスを見た。 「なに?」 「語呂合わせか?」 リナの額に青スジが浮いた。 「韻よ、韻っ。こういうのは韻を踏んでいるって言うの! だいたい、あたしが名付けたんなら、こんなあたしとこの子のどっちを呼んでるのかわかんないよーな名前になんかしないわよッ」 納得がいったようにゼルガディスがうなずいた。 「ならガウリイか。まさかとは思ったが、子どもの名前を覚えられなくて似たヤツにしたのか?」 「違ううううっ! 勝手に決めるなああぁッ。名付け親は郷里のねーちゃん! 女の子だってわかった途端に問答無用で“まさか私に名付け親になってほしくないなんて言わないわよね(はぁと)”とか言って命名権もってかれたの!」 終いにリナは娘を抱いたまま地面にしゃがみこんで、何やらぶつぶつ言い始めた。 「あたしととーちゃんが涙だくだく流して止めてなければ、あの人自分がバイトしてるレストランの名前付けるとこだったわよ。冗談だって言ってたけどあれ絶対本気だった。きっとペットの名付け親になるのと同じ感覚になんだわ。どーせあたしの娘なんかスポットと一緒なのよぅぅぅ」 「スポット?」 「ディ………じゃない。ねーちゃんが飼っている『イヌ』。あれはイヌ多分イヌ絶対イヌ間違いなくイヌだから! ええそうよ、あの人がそう言うんだからイヌ以外の何ものでもあり得ないっ!」 「………事情がよくわからないんだが………いい、止めておこう」 これ以上踏みこむのは非常にマズイような気がして、ゼルガディスは呟いた。 リナの腕に抱えられたままのリアが、体勢がきついのかバタバタと手足を動かす。 「かーさん、おろしてえ」 「あ、ゴメン」 苦笑しながらリアを降ろしたリナが、娘の首のタリスマンを手のひらでぽんぽんと弾ませた。 「言っとくけどこれ、本物じゃないわよ。ただの宝石護符(ジュエルズアミュレット)。まあ、あたしのお手製だからちょいとばかし強力だけど、〈探索〉の目印にするためにつけさせてるだけよ。ただの迷子札。いくらなんでも本物を、しかも一個だけ、誰がつけさせとくっていうのよ」 怪訝な顔でゼルガディスはリナを見た。 以前よりやや頬の描く輪郭が柔らかくなったような気がするが、細身なところも目の光も全然変わっていない。 稀代の魔道士リナ=インバース。 「なんでわざわざイミテーションを作る必要がある?」 「イミテーションってわけでもないのよ。台座は本物だから。魔血玉(デモンブラッド)は―――砕けたわ」 ゼルガディスは無言で表情だけを変えた。 リナが後を続ける。 「そして、つい最近、その代わりが手に入ったのよ」 同じ烈火の瞳の色を受け継いだ娘の手をひきながら、リナがゼルガディスを手招きをする。 「そのことについてもゼルに話しておきたいのよ。家に、来て―――」 ************************************* い、いつになくノリが「破烈の人形」に近いですな、今回(^^;) というわけで、前回の「翼の舞姫」で名前の出てこなかったリナの娘、無事名前が判明いたしました。リアちゃんでございますv |
6792 | はじめまして | 雅 E-mail URL | 6/21-00:41 |
記事番号6790へのコメント はじめまして。雅と言います。 ユズハシリーズ毎回読んでました。 それで、今回はガウリィとリナと更にその娘のリアちゃんが出てるということでガウリナファンの雅としはぜひレスを書かねばと思いレスに来ました。あ、もちろんゼルアメも大好きですよ。あとユズハも好き。特にあの独特の名前のつけ方。アメリアは「アメ」じゃなくて「りあ」で良かったなとホント思いますよ。(笑)でも、ガウリナの娘リアはどう呼ぶんでしょうね。やっぱり「りあ」かな? 雅はリアって名前は絶対にガウリィがつけたと思ったんですけど・・・姉ちゃんとは。それじゃ逆らえないですよね。ちなみにリアの名前の由来っての某レストランの・・・・。(汗)リナと父ちゃんが涙流して止めた気持ちがなんとなく伝わりますよ。 では続きをお待ちしてます。これってもちろんユズハ出てきますよね?あのカタコトのしゃべりが聞きた〜い。 では、雅でした。 |
6794 | はじめましてです(><) | 桐生あきや | 6/22-01:47 |
記事番号6792へのコメント >はじめまして。雅と言います。 こちらこそ初めましてです。桐生ともうしますっ(><) >ユズハシリーズ毎回読んでました。 ああああっ、ありがとうございます。 ずっと読んでてくださったなんて、本当に嬉しいです。 >それで、今回はガウリィとリナと更にその娘のリアちゃんが出てるということでガウリナファンの雅としはぜひレスを書かねばと思いレスに来ました。あ、もちろんゼルアメも大好きですよ。あとユズハも好き。特にあの独特の名前のつけ方。アメリアは「アメ」じゃなくて「りあ」で良かったなとホント思いますよ。(笑)でも、ガウリナの娘リアはどう呼ぶんでしょうね。やっぱり「りあ」かな? これは裏ネタというか、表には出てこない設定で、名前を呼ばれるややこしさにブチ切れたリナがリアに愛称をつけるという話があります(笑) でないと、絶対ユズハは「りあ」を二種類呼ぶことと思われます(笑) ユズハはちゃんと呼び分けているつもりですが、本人たちは大混乱ですね。リナは「りな」アメリアは「りあ」リアも「りあ」………(笑) >雅はリアって名前は絶対にガウリィがつけたと思ったんですけど・・・姉ちゃんとは。それじゃ逆らえないですよね。ちなみにリアの名前の由来っての某レストランの・・・・。(汗)リナと父ちゃんが涙流して止めた気持ちがなんとなく伝わりますよ。 まさにその通りです(笑) リナの親父殿も初孫に某レストランの名前付けられたらそれは泣くでしょう(笑)。ましてや女の子に。 半分は冗談のような命名ですが、いちおうちゃんと意味があってつけたと………思いたいです(笑) >では続きをお待ちしてます。これってもちろんユズハ出てきますよね?あのカタコトのしゃべりが聞きた〜い。 ………すいません。実は今回、ユズハはでてこなかったりします(滝汗) すいませんすいませんっ。アメリアサイドは前回で完全に書ききってしまったんで、今回は本当にゼルとリナしかでてきません(汗) 次でガウリイは出てきますが(笑) >では、雅でした。 はいです。よろしければまたレスしてやってくださいませ。桐生が泣いて喜びます。 では、またですv 桐生あきや 拝 |
6802 | 光の扉(オープン・ザ・ゲート) 2 | 桐生あきや URL | 6/22-23:58 |
記事番号6789へのコメント 「ところでガウリイはどうした。剣は見つかったのか?」 下生えをざかざか踏み分けながら歩いていくリナの後に続きながらそう尋ねると、答えは娘のリアのほうから返ってきた。フードをとったゼルガディスを見ても、泣き出すどころかユズハと一緒で髪の毛を触りたがるのだから、さすがリナとガウリイの娘と言うべきか。 「とーさんはおしごと」 「んー、なんか近くで賞金首が出たから捕まえに行かせた」 「仕事か、それは………?」 ゼルガディスが思わず突っこむと、リナが笑い出した。 「ホントは落ち着く気なかったんだもの。リアがもう少し大きくなったらまた旅に出るつもりだから、それまで適当に食べてってるわ。それで剣はね、見つかったわよー。聞いて驚け斬妖剣(ブラスト・ソード)」 「………お前、実はバックに何かついてるだろう」 ゼルガディスのうめきに、リナが勢い良くふり返った。 「ちょっとそれどういう意味よっ!?」 「言葉通りだ! 光の剣の次は斬妖剣だと!? いったいどうやったらそんなもんをほいほい手に入れられる!?」 「しょうがないじゃないの。そうなんだから!」 たしかに、いつだって騒ぎの渦中にいた二人だが、同時に何か憑いているとしか思えない運の良さを持ち合わせていた二人だった。 ゼルガディスは懐かしい会話の感覚に、少し苦笑した。 「しかし、どうやって見つけたんだ?」 「ま、それもゆっくり話しましょ」 気を取り直したリナが再び先を歩き始めた。 「他にも、アメリアとかアメリアとかユズハとかユズハとかのこともね」 ゼルガディスは慌てることなく落ち着いて冷静にリナに反撃した。 「しかし、子どもまでいるとは思わなかったぞ」 撃沈。 「………言うな。頼むから」 見れば首筋まで真っ赤だった。 こういうところはアメリアもリナも変わらない。それどころかアメリアよりもリナの方が、そういう反応は顕著だった記憶がある。 それが娘までいるのだから、世の中というものはわからない。 「リアはいくつなんだ」 「あのねー、もうすぐごさいになるのー」 「素質の方はどうなんだ?」 「やっぱ気になる? あ、そうだこの子の前で迂闊に魔法を唱えないでね。簡単なやつだと一発で暗記しちゃうから」 「おい、ちょっと待て………」 「さすがあたしの娘よね」 「もはやそういう問題か………? 頼むから、竜破斬だけは当分教えないでおいてくれよ」 頬に汗を浮かべて、ゼルガディスはそう呟いた。 *** 光の扉(オープン・ザ・ゲート)第2話 *** 案内されたのは、森の中あるという点以外はごく普通の家だった。 「どうしてこんなところに住んでいる?」 床の上にリアを降ろして、リナはゼルガディスをふり返った。 「研究はね、さすがに街中だとやりにくいし。かといってあまり辺鄙だと不便だし」 たしかに最初ゼルガディスが歩いていた間道を抜けて街道へ出れば、魔道士協会のある比較的大きな街へと行くことができるし、村も森を抜けたすぐのところに存在する。 「何の研究をしているんだ?」 興味本位から尋ねたゼルガディスの問いに、リナはクスッと笑った。 「ま、それは後のお楽しみということで。あんたずっと旅の空だったんでしょ? 一晩ぐらいはゆっくりしてきなさい。たぶんガウリイも帰ってくるから」 「おい、俺はそんな悠長な―――」 「わかってるわよ」 そのセリフを遮って、リナはイタズラっぽくゼルガディスを覗きこんだ。 「アメリアも待たせてるしね?」 「アメリアってひとは、リアにおはなししてくれるおひめさま?」 リアが二人の間に割って入ってきた。 母親の服の裾にまとわりつくように、ちょろちょろと危なっかしく動き回っている。 「そうよ、セイルーンのお姫さま。はいはい、危ないから向こう行っててくれる? あ、外出ちゃダメだかんね」 言いながらリナは手早くお茶の用意をする。 しばらくするといい匂いのするカップがゼルガディスの前に置かれた。 「ねー、かーさん」 「何? どーしたの」 ゼルガディスの正面で、香茶のカップを片手にリナが娘を見やる。 その光景を眺めながら、ゼルガディスは香茶のカップに手を伸ばした。 リアは母親の袖をとらえて訊いてくる。 「アメリアってひとは、セイルーンのおひめさまなんでしょ?」 「そうよ」 リアの小さな指が、ぴっとゼルガディスを指差した。 「じゃゼルはおーじさま?」 ぶほっ。 ゼルガディスが飲みかけていた香茶を吹き出した。気管に入ったらしく、盛大にむせかえる。 リナが爆笑した。 「あっはっはっはっはっ、リア最高!」 ゼルガディスがものすごい目つきで睨むと、リナはよじれて痛いお腹を押さえて必死に彼から視線をそらした。 「そ、そーね、ある意味そうかもね………くふふっ……」 「かーさんどーしてわらってるの?」 無邪気なリアが追い打ちをかける。 非常に形容しがたい表情をしているゼルガディスを尻目に、リナはまだ肩をふるわせている。 と、そこにガウリイの声が加わった。 「なに笑ってるんだ、リナ」 「あ、とーさん!」 とてとてっとリアが戸口の方へと走っていく。 目尻の涙を拭いながら、切れ切れにリナが言った。 「あ、おかえり。それが聞いてよリアがさー」 「言わんでいいッ!!」 顔を紫色にしたゼルガディスが、力いっぱい怒鳴った。 「早いもんね」 夜も更けて、ライティングの明かりにその横顔を照らされながら、リナが笑った。 「ゼルと出逢ってから、もう十年か」 「そんなになるか?」 リナがガウリイを睨んで一言、言葉を撃ちだした。 「くらげ」 「お前ら、相変わらずだな」 ゼルガディスが苦笑した。 静かに持っていたカップをテーブルに置く。 「でもまあ、そんなになるか。あんたと逃げ回っていたとき、あんたは十五だと言ってたからな」 「そうね」 リナが目を細めた。 「もう十年経つわね」 「元に戻る方法を探し始めてから、それだけ経っちまったってわけだ」 リナがテーブルの上で組んだ両手に顎をのせてゼルを見た。 「何か、見つかった?」 小さくゼルガディスが首を横にふる。 「あまり有力な情報はない。いまは基本にかえっているところだ」 「というと?」 「レゾの隠れ家を探し歩いている。あいつがどんな方法で俺をこんな体にしたのか良くは知らないんでな。知ればそれが最大の手がかりになるだろう」 ガウリイが横目でちらりとリナを見たあと、静かに訊ねてきた。 「それで、この近くにそれがあるのか?」 「ああ。このあたりにもひとつあったらしい」 リナが怪訝な表情をする。 「どういうこと?」 「何せ全国を渡り歩いていた流浪の賢者さまだ。いったい幾つの根拠地を持っていたのか、下で動いていた俺にも見当がつかない」 その口調には以前ほど毒も棘もない。鬱屈したレゾへの感情が、ゼルガディスの中でどういうふうに変化しているのか、リナは知らない。 少し、知りたいと思った。 「もしかして、数年前にあたしたちと別れてから、ずっとレゾの隠れ家をしらみつぶしに探してた?」 「ああ。ときおり遺跡に行ったり独自の調査もしたがな。もっとも、九年もかけているから、レゾの足跡を調べていない残りの国はここエルメキアとゼフィーリアだけだ」 ガウリイは話にちゃんとついてきてるのか、それとも聞き流しているのかわからなかったが、とにかく静かではあった。 リナがぴっと指をたてる。 「んで、こんなゼフィーリアとの国境近くまで来たところを見ると、エルメキアはあらかた調べ終わったってことね?」 「ああ」 「ゼフィーリアなら、何とかあたしのコネがきくと思うけど………どうする?」 「頼む」 「オッケー。何かやたらと殊勝じゃないの」 リナがクスッと笑った。昼間とは違って、結い上げていたその栗色の髪を降ろして背に流している。そうやっていると、本当にあの頃と何も変わっていないように見えた。 「で、このあたりの隠れ家とやらにはもう行ったの?」 「いや、まだだ。行こうとしたらリアが道の真ん中に座りこんでいたんでな」 それを聞いたガウリイが、じとりとリナを見た。 「お前、また目を離しただろ」 「いや、その………」 リナが、あらぬ方向へ視線を逸らす。 その様子を、ゼルガディスが笑いを噛み殺しながら見ていることに気がついて、リナはそっちの方を軽く睨んだ。 「なに笑ってんのよ」 「気にするな。何でもない」 「ふーん」 面白くなさそうにリナが唸って、続けた。 「じゃ、あたしも一緒に行かせてもらうから」 ゼルガディスは一瞬何を言われたのかわからず、軽くまばたきした。 「何だと?」 「あたしも一緒に行った方がいいでしょ。目的が魔道のノウハウなんだから」 「それはそうだが………お前、リアはどうするんだ? まさか連れてくとか言い出すんじゃないだろうな!?」 リナがひらひら手をふる。 「ンなワケないでしょーが。ここ置いてくわよ。ガウリイと一緒に」 「おい………」 今度はガウリイが抗議の声をあげた。 「だって、二人揃ってゼルに同行したらリア連れてくしかないでしょーが。久々にあたしが外に出るわ。最近研究ばっかしで体なまってきてるし。だから、ガウリイはリアといてちょうだい。あのコ、最近あんたに遊んでもらってないって、スネてんのよ?」 最後の一言が、ガウリイを黙らせた。 呆気にとられているゼルガディスに、リナが軽く片目をつぶってみせる。 「そーいうわけで、明日一緒にそこに行きましょ」 「………いいのか?」 どちらかというとリナよりはその隣の保護者に向かって発せられた問いだった。 ガウリイは軽く肩をすくめる。 「一人で盗賊のアジトに行かれるよりは、お前さん付きのほうが何倍もマシだな」 「………子ども産んでもまだンなことやってたのかあんたは………」 呆れ返ったゼルガディスの言葉に、リナはあっさり頷いた。 「当たり前でしょーが。でなきゃゼフィーリアの実家の方で暮らしてるって。あの辺りはもうあらかた潰しちゃってて、だーれもいないのよねー」 「………愚問だった、忘れてくれ」 結婚しようが子どもを産もうが、リナ=インバースはリナ=インバースだった。 「………それで? 俺に話したいこととは何なんだ?」 その言葉に、リナの表情がスッと変わった。 迷いはないが、痛みは残っているその目の光に、ガウリイが気づいて名前を呼ぶ。 「リナ………?」 「うん、あのこと。タリスマンを砕いたワケを話すには、どうしても言っておかないといけないしね………」 二人のそのやり取りから、自分と別れた後も騒動に巻きこまれていたことが容易に想像がついた。 リナが、肩にかかるその髪を背中のほうへ、さらりと流す。 「ゼルに聞いてほしい話があるのよ。あんたたちと別れた後、剣を探してたあたしたちにはね、新しい仲間ができたの………。ルークとミリーナって言ったわ―――」 それは、過去形だった。 |
6819 | 光の扉(オープン・ザ・ゲート) 3 | 桐生あきや URL | 6/27-23:09 |
記事番号6789へのコメント 久しぶりにスレベストを借りて聞いて、懐かしくて涙ぐんでた危ない桐生です(爆)。ちなみにただいま乙女の祈り………(笑) そんなことはどうでもいいですね、すいません。 というわけで、生殺しな切り方だと言われた(笑)「光の扉」の続きです。 ************************************* 「―――だから、あたしはタリスマンの力を借りてルークを倒したの」 リナがそう締めくくる頃には、香茶はすっかり冷たくなっていた。 「ゼルと別れてから、タリスマンが砕けるまでの経緯はこれで全部よ」 リナはゆっくりと椅子から立ち上がった。 「リナ?」 ライティングの魔力が途切れ、徐々に部屋を照らす光が弱く淡くなっていく。 訪れる闇の中で、リナの声が静かに響いた。 「あの二人のことはいまでも痛みを伴うわ。あたしたちや、ゼル―――あんたとアメリアがああならない保証なんかどこにもないんだから。だからこそ、この痛みは忘れられていくような………癒されて、薄れていくべき痛みじゃない。あたしはそう思ってる。墓の中までこの気持ちを持ってくつもりよ」 完全に光が消え、部屋は闇に閉ざされる。 「それはともかく」 リナの声がして、フッと明かりがともった。 手の中のライティングの皓い光に照らされる、その強い表情。 輝く真紅の瞳に、ゼルガディスは、きっとガウリイはリナのこういうところに惚れたのだろうなと、ぼんやりと思った。 「魔王の欠片は滅びたけれど、魔族がおとなしくなったわけでもないわ。タリスマンを失ったということは、魔族への対抗手段を封じられたのと一緒。あたしはいままでずっとその打開策を探してた。でもね―――」 そのリナがフッと笑う。 「タリスマンの代わりが、つい最近手に入ったの。アメリアのおかげでね」 「あいつの?」 「そう。あたし自身にはもう何の懸念もないわ。だから………」 リナの視線が、寝室とは別のドアへと向けられる。 「一緒に来てちょうだい。あたしは、ちょうどあんたを探していたところだったのよ」 リナがライティングを片手に、ゼルガディスをいざなった。 「ガウリイ。あたし、ゼルと地下に行くから先に休んでて。一緒にきてもいいけど、たぶん専門的な話になると思うから」 「わかった。あんまし遅くなるなよ。明日出かけるんだろ?」 「わかってる。 ―――こっちよ、ゼル」 リナが、ドアを開けた。 その後に続きながら、ゼルガディスはガウリイに軽く片手をあげる。 「―――悪いな。明日借りてくぞ」 「別にいいさ。お前さん、借り逃げなんか絶対しそうにないからな」 「あたりまえだ。んな恐ろしいことできるか」 「ちょっとー、何話してんのー? さっさと来なさいってば」 リナの声がする。 ちょっと笑って、ゼルガディスはリナの後を追った。 *** 光の扉(オープン・ザ・ゲート)第3話 *** 「………何だって地下室に井戸があるんだ」 それがゼルガディスの第一声だった。 リナに案内された、土がむき出しの地下室の真ん中には、石を積んで造った井戸が鎮座していた。 「まさかと思うが掘ったのか?」 「はあ? なんで井戸なんかわざわざ掘んなきゃいけないのよ。んなもんアクア・クリエイトでどーにかしてるに決まってるでしょーが」 「………それはそれでなかなか乱暴な方法だと思うが。だいだいそれだと魔法が使えないときはどうしてる」 かなり突っ込んだゼルガディスの質問に、リナはやや顔を赤らめつつもパタパタ手をふった。 「一週間分溜めておく。あ、でも最近はリアが代わりに唱えてくれるようになったから♪」 「…………俺はあんたの娘の将来が切実に心配になってきたよ」 「そんで、この井戸だけど、何かこの家買ったときについてた。そのとき、もうすでに涸れてたわ」 だから、中を降りていった先の水が溜まっていた空間を呪文で拡張して、魔道の研究室に使っているのだという。 「浮遊でもそこのハシゴでもいいから、とにかく下に降りてくれる? あたしは浮遊使うけど」 そう言って、ゼルガディスの返答を待たずに、さっさとリナは井戸の底へと降りていった。ヒカリゴケでもあるのか、底の方から光が漏れている。 ふわふわと降りていく最中に、ゼルガディスはふとリナに声をかけた。 「そういえば、いつユズハと逢ったんだ?」 「五年とちょっと前かしら。王宮でね。たしかそんときにお腹にリアがいるってユズハにバレちゃったのよ」 ならばゼルガディスが、アメリアとユズハと別れてすぐの後のことだ。 井戸の底は、思ったよりも広かった。 そこかしこでヒカリゴケが発光していて、ぼんやりと置かれたものの輪郭を浮かび上がらせる。 リナが置かれた二つの燭台にライティングをかけた。 とりあえず、やたらと本が多い部屋だった。代わりと言ってはなんだが実験器具のたぐいはあまり見当たらず、魔道士の研究室というよりは学者の書斎のようだった。 どれもきちんと整理されて、片づいている。 「いつもはもっと散らかってるんだけどね。ちょうど研究が必要なくなったときだったから。ほんっといいタイミングで来てくれたわ、アンタ」 「必要がなくなった?」 リナは戸棚から革袋を取り出すと、ゼルガディスに向かって放り投げた。 受け止めて、中を見るように促されて、ゼルガディスは無言で表情を動かした。 「そういうこと。アメリアのおかげで代わりが手に入ったから、魔力増幅の研究をする必要がなくなったってわけ」 「これはどうした?」 「セイルーンの宝物庫に眠っていたのをアメリアが横流ししてくれたのよ」 実に彼女らしかぬ話を聞いたと思った。 「………正義か、それは?」 「さあ?」 リナは知らぬとばかりに小さく肩をすくめる。 「秋口にセイルーンに賊が入ったって知ってる?」 「いや………それで?」 話の先をゼルガディスが促した。 「盗まれたのは、国璽とコレ。まあ国璽は国璽で別にちゃんと片づいたみたいだけど、これはね、セイルーンに置いとくと危険だからって理由もあって、あたしのところにまわってきたってわけ」 リナがちょっとだけ気遣うように笑ってみせた。 「がんばってるわよ、あの子」 「…………」 ゼルガディスがわずかに目を細めた。 ライティングとヒカリゴケが混じり合った部屋の光は、少しばかり明るすぎる。 「ま、それはそれとして」 リナは椅子を引っ張ってきてゼルに座るように指さすと、机の棚に置かれた薄い冊子を取りあげた。 椅子に腰掛けたゼルガディスの前で行儀悪く机に座って足を組むと、リナは膝の上に冊子をトンと立ててみせる。 「クローラー=イフェル=シオンって魔道士、聞いたことある? あと、彼女の研究のパートナーであるユリシス=ログラント」 ゼルガディスの氷蒼の瞳が、鋭い光を帯びた。 「―――ある。たしか、数年前に『生命の水』の改良版を作り出して有名になった魔道士だろう?」 「そんな顔しないでくれる? 確かに彼女たちは合成獣を研究している魔道士だけど」 リナは軽く肩をすくめる。 「彼女たちはあたしの同期なの。去年、彼女たちはある実験を成功させた。それはまだ公には発表されてない」 膝の上に肘を乗せ、その手のひらに顎をのせると言った恰好のリナが、冊子をゼルガディスに目で示す。 「あの二人は、去年、邪妖精とウサギの合成体からウサギだけを取り出すことに成功したわ。そして今年は、その逆―――邪妖精だけを取り出すことにも成功してる………わかるわね?」 放り投げられた冊子をゼルガディスは引ったくるようにして受けとった。 食い入るようにページをめくっているゼルガディスに、リナは静かに続ける。 「もちろん、完全な技術じゃないわ。ウサギを取り出したときは、邪妖精は原型を留めてないし、邪妖精を取り出したときは、ウサギもウサギじゃなくなってる。三つ以上の合成に関してはほとんどノータッチよ。でもね………」 「言わなくていい」 ゼルガディスはほとんどうめくようにして目を閉じた。 「言わせてちょうだい、ゼル。あたしがそのことを聞いたとき、どんなに嬉しかったと思う………?」 分離などという、おおよそ誰も目をとめない分野を研究していてくれたあの二人に、どれほどの感謝と祈りを捧げたか。 二回以上の成功は、その技術が確立されたということだ。 分離成功の話を聞いたとき、リナはゼルガディスのことを二人に話して協力を求めた。ただの興味から始まった研究に、明確な目的を提示した。 もちろん問題は堆積している。合成獣に多用されている邪妖精とは違い、もうひとつの石人形の方に関しては、何もわからないに等しい。 それでも。 「本当にタイミング良く来てくれたわ、あんた」 「…………俺もそう思う」 ゼルガディスは立ち上がってリナのところまで歩いてくると、冊子をリナに返した。 「明日の遺跡探索には持っていけん。しばらく置いてといてくれ」 「わかったわ」 冊子を棚に戻して、リナは机の上から降りた。 「そろそろ上に戻りましょ」 「ああ」 浮遊で上にあがる途中、リナが不意に口を開いた。 「これからはこまめに連絡をよこしてちょうだい。何かあったら、知らせるから」 「………アメリアには」 「言わないわ。アメリアは五年間、ずっと変わらずにあんたを信じてる。いまさら余計なことを言う必要はないわ。それこそ、本当に戻ったときに知らせるべきよ。ま、これはあたしの独断だけど」 だいじょうぶよ、と言って、リナは不意に笑った。 「やっぱり、気になるのね」 「悪いか」 「逆よかマシよ。だいじょうぶよ。味方も増えたみたいだし」 「味方?」 「王宮内でのね。あれは珍品よ」 くすくす笑って、リナはゼルガディスを見た。 「だから、やれることからやんなきゃね。まずは明日の探索からよ」 「そうだな」 穏やかな感情に満たされていく胸のうちを自覚しながら、ゼルガディスはそう答えた。 |
6826 | 拝啓、キンキン様。(笑) | 雫石彼方 E-mail | 6/28-21:58 |
記事番号6819へのコメント いつか使うと言いながら、これまで一回も使っていなかった、桐ちゃんのニックネーム候補だった『キンキン』。ついに使ってみました(笑) ・・・・・やっぱり呼ばれる方としては恥ずかしいっすか?(笑) それにしても、随分とご無沙汰でした。ごめんね、レスもつけずに。ちゃんと読んではいたんだけど、しばらくレスつけしてないと、私の生活サイクルの中から『レスをつける』という行為が欠落してしまって;ひたすら読み手にまわってました。 蛍姫の話とか、幻想的でちょっぴり切なくてでもあったかくて、超ーーーーーー好きだったわv(感想書くの遅すぎ) んで、今回はゼルサイドなのですね。 ゼル、いよいよ元に戻れるか!?ってな感じで、ちょっとドキドキ☆ リナ、頼むよ〜!!と、パソの前で拳を握ってみたりなんかして。リナは本当、アメリアの良きお姉さんですねvアセルスおねーさんとか、リナとか、アメリアにはいいお姉さんがいっぱいだね♪ぶっ飛んでるグレイシアおねーさんも、きっとアメリアにはとっても甘いお姉さんなんじゃないかなー、と思うし。・・・っていうかそれ希望。 でもアメリアに甘いんだったらいつまでもふらふらしてないで城に戻って来るはずだ、って気もするけど(汗) いいのよ、願望に矛盾はつきものさっ!!(意味不明) とにかく、続き楽しみにしてるでし。 果たしてこれは感想になっているのか、という不安を抱きつつ、この辺で〜。 |
6834 | 拝啓、かなた様。(笑) | 桐生あきや URL | 6/29-21:34 |
記事番号6826へのコメント わーい。彼方ちゃん、おひさしぶりだす〜♪ >いつか使うと言いながら、これまで一回も使っていなかった、桐ちゃんのニックネーム候補だった『キンキン』。ついに使ってみました(笑) >・・・・・やっぱり呼ばれる方としては恥ずかしいっすか?(笑) 一瞬、キンキキッズを思い浮かべたわ、私(爆) しかもレス見ていたねこちゃんに、同じくキンキン呼ばわりされました(笑) でもやっぱりキンキキッズを思い浮かべる私(汗) 対抗して私も何か彼方ちゃんに呼び名をと考えたけど、結局おもいつけなくて、いつもどおりに彼方ちゃん(笑) >それにしても、随分とご無沙汰でした。ごめんね、レスもつけずに。ちゃんと読んではいたんだけど、しばらくレスつけしてないと、私の生活サイクルの中から『レスをつける』という行為が欠落してしまって;ひたすら読み手にまわってました。 こちらこそ、音信不通もいいところ………ごめん。ゆるして(滝汗) というか、私も彼方ちゃんの『樹の上のお星様』にレスつけなきゃとか思ってるうちにずるずると……うわーん。ごめんっ。彼方ちゃんのアメリア、やはりめちゃ可愛くて大好きなのを再確認いたしましたvv >蛍姫の話とか、幻想的でちょっぴり切なくてでもあったかくて、超ーーーーーー好きだったわv(感想書くの遅すぎ) ………最初、アルアメで行こうと思ったのよ、あの話(笑) ところがフタを開けてみれば、いまいちそんな感じはせず、微妙にゼルアメなんだか違うんだかもさっぱりわからない話となりました。 愛に時間は関係ありません(待て)ので、蛍姫の感想ありがとうvv >んで、今回はゼルサイドなのですね。 >ゼル、いよいよ元に戻れるか!?ってな感じで、ちょっとドキドキ☆ ゼルサイドです(笑) しかし、この話限り(汗) アメリア王宮編はあんなに話数かかったくせに。桐生がアメリアびいきなのは一目瞭然だすな(^^; ゼル、元に戻せるか!? って心境だったりいま………どうやって元に戻そうかな………(待て) >リナ、頼むよ〜!!と、パソの前で拳を握ってみたりなんかして。リナは本当、アメリアの良きお姉さんですねvアセルスおねーさんとか、リナとか、アメリアにはいいお姉さんがいっぱいだね♪ぶっ飛んでるグレイシアおねーさんも、きっとアメリアにはとっても甘いお姉さんなんじゃないかなー、と思うし。・・・っていうかそれ希望。 >でもアメリアに甘いんだったらいつまでもふらふらしてないで城に戻って来るはずだ、って気もするけど(汗) >いいのよ、願望に矛盾はつきものさっ!!(意味不明) アメリア、お姉さんいっぱいです(笑)。もしかして私の願望なのか?(笑)←お姉さんほしい人。 グレイシアお姉さんは……ごめん、ノータッチ(汗)。というか、アメリアが結婚するんだったら結婚式にくらい顔は出しそうだよな、でもヤだな登場させるの………とか真剣に悩んでいたりする最中です(爆) >とにかく、続き楽しみにしてるでし。 >果たしてこれは感想になっているのか、という不安を抱きつつ、この辺で〜。 そういう私はレス返しになっているのか不安だったり(笑) がんばってアメリアを幸せにしますので!(笑) ではでは。彼方ちゃん、またです〜vv |
6829 | はじめまして。 | 龍崎星海 | 6/28-23:14 |
記事番号6819へのコメント 初めまして、龍崎ともうします。 桐生さんの話は、ちょくちょく読んでます。 レスはこれが始めてですけど。 実は、なにげにこの話を読んで‥同じ事、考えてるなー、と思って、思わずレスしちゃいました。 今現在、私が構想ねってる、話とよく似てるんですよ。 っても、まだ書いてないんですけどね。 さて、これからどーなるか。 それによって、私が今考えてる話を書くかどーかが決まりますので、これから注目して読ませてもらいますね。 って、どーゆーレスなんだか。 あ、別に文句言ってる訳じゃなので、ご安心を。 これからどーなるのか、気になる、という点では間違いないので。 では、これにて。 なんだかよく分からないレスですみませんでした。 |
6835 | はじめましてです〜♪ | 桐生あきや URL | 6/29-21:55 |
記事番号6829へのコメント >初めまして、龍崎ともうします。 はじめましてです。 お名前を、セフィルちゃんのおうち(笑)でよくお見かけしていたので、初めましてと言われて、ようやく初めましてなことに気が付きました(オイ) >桐生さんの話は、ちょくちょく読んでます。 >レスはこれが始めてですけど。 >実は、なにげにこの話を読んで‥同じ事、考えてるなー、と思って、思わずレスしちゃいました。 >今現在、私が構想ねってる、話とよく似てるんですよ。 >っても、まだ書いてないんですけどね。 >さて、これからどーなるか。 >それによって、私が今考えてる話を書くかどーかが決まりますので、これから注目して読ませてもらいますね。 >って、どーゆーレスなんだか。 >あ、別に文句言ってる訳じゃなので、ご安心を。 >これからどーなるのか、気になる、という点では間違いないので。 あああっ、もしかして龍崎さんとはご親戚ですかっ!?(考えることが似ている人のことを勝手にそう呼んでいます・笑) 私の話になんかかまわずどうか投稿なさってください! と言いたいんですが、やっぱりどうやっても気になるものなんですよね(経験アリ) すいません。気を引き締めて続き投稿させていただきます(ぺこり) いつまで話を引っ張る気だ自分、ということですので、このレス返しを書き終わったら続きを投稿しようと思います。 ではでは。 桐生あきや 拝 |
6836 | 光の扉(オープン・ザ・ゲート) 4 | 桐生あきや URL | 6/29-22:51 |
記事番号6789へのコメント この季節の早朝の大気は、もはや肌寒い通り越して完璧に寒い。 リナとゼルガディスは朝早く、リアが起きてごねだす前に家を出た。 白く煙る呼気を吐き出しながら、リナがしきりと首をひねっている。 「でも、この森の中にそんな施設があったんなら、あたしはもとより村の人が気づかないわけないと思うんだけど?」 どうやら自分の近所にお宝が眠っていたのに全く気づかなかったのが納得いかないらしい。 「それはしかたがないだろうな。俺がつかんだ話では地下だ」 「それでもどっかに入り口があるはずでしょう?」 「ないぞ」 あっさりそう言われて、リナは目が点になった。 「は?」 「ないと言ったんだ」 律儀にくり返すあたりがなんとも彼らしい。 「じゃ、どこから入るのよ?」 「どうやら、空間をおかしなふうにねじまげて離れたところに入り口を作っていたらしくてな。ここにはない」 「じゃどうすんの」 「あんたらしくもないセリフだな」 逆に言い返されてリナは目をしばたたいたが、すぐにニヤリと笑った。 「ふぅん、場所はここでいいのね?」 「おそらくな」 「じゃ、さくさくいきましょうか。リアにおみやげ持ってかえんないとスネられるしね」 「いったい研究施設跡から何をみやげに持ってかえる気だお前は………」 「いろいろ」 もはやそれには答えず、ゼルガディスは呪文を唱えだした。 合成獣にされる前。もはや記憶はおぼろだが、それでも自分の魔力容量はいまの半分ほどしかなかったはずだ。 この魔力容量は邪妖精のもの。 欲しかったはずなのに、失ってもいいと思えるものは、確かにこの世に存在するのだ。 そして、その逆も。 「ベフィス・ブリング」 リナとゼルガディスの声が唱和した。 *** 光の扉(オープン・ザ・ゲート)第4話 *** 「ちょっと待てえええええぇぇぇっ!」 水をまき散らしながらリナが絶叫した。 「地下水脈だなんて聞いてないわよッ!」 「俺に言うな!」 「だってゼルがこのあたりだって言ったんじゃない!」 「間違ってはいないだろうがッ」 「水没してるなんて思うわけないでしょおおおおおおっ。寒いいいいっ」 レビテーションで降りたため、当然のごとく水流に呑まれかけて水浸しになって地上に戻ってきた二人は、気を取り直して風の結界をはって再び地下へと降りた。 「ったく、うちの井戸は枯れてたくせに何だってここは水没してるのよ」 ぶちぶちとリナが文句を言いながら結界を操った。 リナが操作。ゼルガディスが維持。結界のなかでは事前に唱えておいたライティングが浮いている。 「おそらく水脈の流れが変わってしまったんだろうな」 「さっさと乾いた場所へ出るわよ。あんたと窒息なんて死んでもごめんよ」 「俺もごめんだ」 水脈の流れに添うようにして部屋や通路とおぼしき空間を移動していった二人は、上へと続いてる階段を見つけて、ようやっと水のない場所へと降り立った。 「うああああっ、寒いっ。こんなことなら来るんじゃなかった」 ぶちぶち言いながらリナがマントから水を絞っていると、あたりを調べていたゼルガディスが戻ってきた。 「上にあがってきたのはまずかったか」 「そりゃ地下施設はたいてい一番深いところに一番重要なものがあるってのがお約束だけど、下に行けば行くほど水圧が高くなるわよ? あんたは良くてもあたしはイヤよ」 濡れた髪の感触に顔をしかめて、リナはゼルガディスに問いかけた。 「何? 何もないの、このフロア?」 「まだ詳しくは調べていない」 「じゃあ、行きましょうか」 ライティングを小剣の先に唱えなおすと、リナは不意に苦笑した。 「リア連れてこなくて正解だわ。風邪ひいちゃう」 何やら珍妙な目つきでゼルガディスが見ていることに気がついて、リナは片眉を上げた。 「何よ?」 「いや。何というか、子持ちなんだなと思っただけだ」 「はぁ?」 「聞き流せ。言ってる俺にもよくわからん」 笑いを噛み殺しながら、ゼルガディスは通路の奥を指で示した。 「行くぞ」 「ここはどういう場所だったの?」 「わからん。一度も来たことはないし、話に聞いたこともない」 ゼルガディスは自分の歩いてきた通路をふり返った。 靴が埋もれてしまうほどに堆積した細かい土埃にくっきりと刻みこまれた自分たちの足跡。 リナもうなずく。 「少なくとも、かなりの年月使われてないわね」 埃というのは放っておくと、日常生活の中においても、あまり空気の動きがない窓枠などにかなり厚く積もるものだ。 ましてやここは地下。 「でも、ここってかなり利用されてた場所だったんじゃないの?」 しばらく歩いたあと、リナがそう言った。 「だろうな」 ここまで歩いて部屋を見てきてわかったが、居住区とおぼしき空間の取り方がかなり大きかった。居着いていた証拠である。 「それなのに、どうしてゼルが知らなかったわけ?」 「無茶言うな。もっぱら俺はライゼール方面にいたんだ」 「そーいや、あんたと出逢ったのもアトラスだったっけ」 「それにだ」 ゼルガディスは足下の埃を靴で寄せた。 「この土の量と、どの部屋にも何もなかったことからして、ここは破棄されたんだろう。もしそれが俺がこんな体になる前だったとしたら、知っていたとしても忘れている」 リナがわずかに眉をひそめた 「………どういうこと?」 「精神面に邪妖精が合成されたおかげでな。それ以前と直後の記憶は曖昧なんだ。一応、おぼろげに覚えてはいるがな」 小さく肩をすくめて、ゼルガディスはそっけなく答えた。 沈黙したリナの視線を顔に感じたが無視していると、軽い嘆息の音が聞こえた。 「そう。良かったわね」 「…………」 ゼルガディスは笑った。 「よくわかるな」 「多分そう思ってるんだろうなってのはね。だからって同意してないし、気休めただけよ。だいたいあたしが気休めなんか言う時点でかなりマズイんだから」 今度はゼルガディスのほうが眉をひそめた。 「なんだ、それは」 「なんだって言われても、そのまんまの意味よ。あたしは突き放すもの。あんたがどうなろうと傷口が広がろうと手を差し伸べたりなんかしないわ。その代わり、あんたがどうなろうとつきあってくつもり。 手の差し伸べて、どうなろうとあんたと寄り添ってくのは、あたしじゃない」 黙って二人とも歩いた。 「―――焦ってんじゃないわよ」 「……………できると思うか」 「思わない。けれど焦ったって良いことなんかひとつもないのよ」 「それはそうだが………本音でもない正論を吐くな。腹が立つ」 リナが小さく笑って、通路の先にあるものを指さした。さっき来たところとは別の、今度はきちんと乾いた下りの階段。 「本音が自然と正論になるのは、アメリアだけよ」 「…………」 ゼルガディスがしばらく考え込んだあとで、ようやく口を開いた。 「それもそうだな。お前は本音を吐いても正論だった試しがないからな」 「をい………」 笑いながら、ゼルガディスは先に階段を下っていった。 「良く笑うようになったわね、あんた―――って急に止まらないでよ!」 危うくゼルガディスの背中にぶつかりそうになったリナは文句を言いながら、前方を覗きこんだ。 「…………何よ、このあからさまに不自然な壁は」 「俺に聞くな」 言いながらゼルガディスは、階段を下りて数歩もしないうちにぶつかった行き止まりの壁に手を這わせた。 「何かある?」 同じく右手の手袋を脱いで、リナが壁を触る。 これでは階段をつくる意味がない。疑ってくださいとばかりに立ちふさがっている壁だった。 「急いで、何かを封じた………? この先にあるものを」 「砕くぞ」 簡潔にゼルガディスが結論を下し、呪文を唱えて岩の壁に向かって放った。 そうして二人は絶句する。 「やだ、傷ひとつ付いてないじゃない」 「何なんだこれは」 見た目はごく普通の岩である。 二人は目配せしあったあと、おもむろにライティングを唱えだした。 無数のライティングが狭い空間を隅々まで照らし出してから、二人は壁を調べ始めた。 場所を変えてリナが呪文を放ってみたが、やはりダメ。試しにとばかりに精神系の魔法も撃ってみたが、これもやはり効果はない。 スイッチや動かす装置がどこかにあるのかと思い、手分けして探すも、それらしいものは全く見つからない。 理不尽の塊のような壁だった。 リナが癇癪を起こして階段に座りこむ。 「何よこれは! 何だって魔法が聞かないわけ!? ねえ、これの横の壁を砕いていって、この壁を迂回して向こう側に出るってことできないかしら」 「………砕いた先が地下水脈だったらどーしてくれる」 「あう………」 リナは頭を抱えた。 「いったん戻って今度はガウリイと来てみるか」 「斬れるかしらねぇ、これ………」 しばらく唸ったあとで、リナはおもむろにぽん、と手を打った。 「そうだ。ためしてみたいこと思いついたんだけど、いい?」 「やってみろ。俺にとばっちりはくれるなよ」 「何も聞かずに了承してくれるのはいいんだけど、わざわざ釘ささないでほしいわね」 リナの口からカオスワーズ紡がれる。 呪文を聞いたゼルガディスは、なるほどと思い階段のところまで後退した。 「石霊呪(ヴ=ヴライマ)!」 すぐに目の前の壁が魔力に反応してゴーレムとしての形をとろうと動き出す。 数分後。 「いいのか、こんなしょーもない方法で攻略して………」 目の前でぽっかりゴーレム形に開いた入り口に、ゼルガディスが頭痛をこらえるような表情で呟いた。 ************************************ 暑くて暑くてたまらん季節になってきてるのに、それを完全に無視した話の「光の扉」です(^^; 前回の「舞姫」が秋の話だったんで、自動的に冬始めの話になるんですよ、コレ(苦笑) 「翼の舞姫」でゼフィーリアとエルメキアとセイルーン国境あたりをうろついていたゼルは、どーやらエルメキアのほうに下ってリナと出会ったらしいです(笑) 設定病の人間としては、アメリアに羽根送ってるからには沿岸諸国からエルメキア入ってセイルーンとの国境沿いに北上して、ちょっとセイルーンに足踏み入れたらイルニーフェとリーデットに出逢ったのかしらなどと思っているのですが、はっきし言ってンなこた話の本筋にまったく関係ありません(笑) というわけで、みなさん暑くなってきました。体調などには気を付けてくださいね♪ |
6852 | 光の扉(オープン・ザ・ゲート) 5 | 桐生あきや URL | 7/7-17:13 |
記事番号6789へのコメント 壁の向こうは、たったひとつの部屋と、通路の行き止まりに設けられた両開きの大きな扉とで構成されていた。 同じように埃の溜まった通路を進み、リナとゼルガディスは部屋の中を覗き込む。 「………ここは、ちゃんとしてるわね」 リナが眉をひそめて呟いた。 これまで通過してきた、がらんとして何もない部屋たちと違って、この部屋には家具が置いてあり、生活の匂いが残っていた。 テーブルの上に置かれた、いまは埃の入っているカップをゼルガディスが手に取る。 「この場所が封印されたのと、この施設を破棄した時期とが、完全に同じではないんだろうな」 「でしょうね」 テーブルの他に、書き物机や椅子、棚などが配されている狭い部屋だった。 その部屋の中を見回したリナは、書き物机の上に置かれた小さな箱のようなものに気がついた。 近寄って、指で一部分の埃を拭いとる。どうやら魔法装置のようだった。 平べったい箱のような形をして、その中央が円形にくぼんでいる。 「それは?」 「さあ………」 気づいて近寄ってきたゼルガディスに、リナは首を横にふる。 二人してあちこちいじってみたが、どうにも起動しそうになかった。 「あきらめて、奥の扉に行かない?」 リナの言葉に、ゼルガディスはうなずいた。 しかし、扉はうんともすんともいわなかったのである。 『開けること赦されず』 そう扉の表面にひっかき傷のように刻まれた文字の後ろに付け足された名前に、二人とも覚えがあった。 記憶の棚から引き出されて、鮮やかに甦る光景や名前がある。 この扉、何人たりとも開けること赦されず―――エリシエル=ヴルムグン。 ゼルガディスもリナも、無意識のうちに深い溜め息をついていた。 「そう言われると開けたくなるのが人情ってもんよ」 リナがこつん、と扉を叩いてそっと呟いた。 なぜ、エリシエルがここを封印しなければならなかったのか。 なぜ、ここを破棄しなければならなかったのか。 それはつまり。 なぜ、赤法師レゾはここを封印し、破棄させたのか? リナが扉の取っ手を縛(いまし)めている鎖をがちゃつかせた。 例によって魔法でも切断できなかったのである。今度はゴーレムを作ることもできなかった。 「新しい増幅器が使える状態なら、お前に神滅斬でぶった斬ってもらうんだが」 ゼルガディスがとんでもないことをぼそりと言った。 やはり、彼もこの奥がどうしても気になるようである。 リナが嘆息して、天井を仰いだ。 「しゃーない。いったん戻って、今度はあたしの代わりにガウリイを連れてまた来るしかないわ」 ガウリイの斬妖剣でも斬れるかどうかはわからないが、ためさないよりよほどいい。 ゼルガディスは無言で天井まで届くほどの大扉を眺めていたが、やがてリナの言葉に従って来た通路を戻り始めた。 「ちょい待ち」 リナがさっき平べったい魔法装置の置いてあった部屋の入り口を指さす。 「リアのおみやげ、物色してってもいい?」 「あの埃まみれの部屋から何を持ち出す気だお前は…………」 ゼルガディスがうめいて、それでも律儀にリナにつきあう。 さっきは扉のことも気になり、ざっと見ただけだったが、今度は念入りに部屋の中を見て回る。 「うーん。この変なの持って帰って何かマズイ装置だったら困るし………」 「…………やめとけ」 なかば真剣に忠告しながら、ゼルガディスは机の引き出しを開けようとした。 「………?」 開かない。 二段目を引いてみたが、これはあっさり開いた。埃しかなかったが。 三段目もあっさり開いた。 どうやら一段目のみ鍵がかかっているようである。魔法のものか本物の鍵かはともかく。 「リナ。お前、アンロック使えたな?」 「何? 鍵かかってんの?」 リナが手早く呪文を唱える。 唱え終わったのを確認してゼルガディスが再び引っ張る。 今度は手応えが違ったが、やはり開かなかった。 さっきまでぴくりとも動かなかったのだが、今度はガチリと錠が中でぶつかる音がする。 リナが眉をひそめた。 「もしかして、アンロックと本来の鍵の二重掛けなんじゃないの?」 「念が入ってるな」 ゼルガディスが、有無を言わさず鍵の部分にどこからともなく取り出した針金を突っ込んだ。 そうしてあっさりリナに場所を譲る。 「お前の得意分野だろう?」 「………………あんたねぇ」 半眼でじとりと睨みながらも、リナは引き出しの前にしゃがみこんで針金をいじりはじめた。 しばらくそうしていたが、リナは渋面で言い放った。 「錆びてる。ここはぱあっと景気良く壊さない?」 「中味の無事は保証できんぞ、それじゃ」 「うーん。ぱぱぱっと鍵だけ斬ってくれると、とっても助かるんだけど」 「お前の旦那と俺を一緒にするなッ。できるか、ンな非常識な真似が!!」 「やーねー、言ってみただけじゃない。ここは腰を据えましょ。油ある?」 リナは必要な道具を取り出し、ゼルガディスからも足りないものを借りると、マントの上に座りこんで本格的に開錠作業に没頭し始めた。 手の空いたゼルガディスは、部屋の他の部分を物色しはじめる。 しばらくそうしたあとで不意に、リナがゼルガディスを呼んだ。 「ねー、ゼル」 「何だ」 「あんたさー。セイルーンに帰ってくるってアメリアと約束したんだって?」 思いっきり背後で埃が舞う気配がした。 「ちょっと、あんまり埃たてないでっ」 「いきなりお前が妙なことを言うからだ!」 「いや、ちょっと暇だから」 針金から伝わる微妙な手応えに集中しながら、声だけをリナは放って寄越す。 「ちょっと意外だったから、嬉しかったわ」 「…………?」 ゼルガディスがわずかに眉をひそめた。 「あんた、煩わしいの大嫌いでしょう? 表向きの権力も、地位も、肩書きも」 ゼルガディスの返事を待たずにリナは続ける。 「そういうのどうでもいいくらいにアメリアのこと大事に想ってくれてるんだなーって思って、ちょっと嬉しかったのよ」 お互い、相手の表情は見えないままだ。 ゼルガディスは返事をせず、リナの声だけが淡々と響く。 「あたしね、人が幸せかどうかって、その本人がその状況の負の面なんか問題じゃないくらいに満足してるかってことが大事だと思うのよ。どんなことにだって、正と負の両面がついてまわるものだから。あたしにしたってそう。あたしはリアを産んだことでたしかに弱点を増やしたかもしんないけど、それでもいいって心から思えてるの。もちろん、その判断する基準は人それぞれだけどね。 ―――あんたもそうなんでしょう?」 (そう思ったからこそ、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンと約束したんでしょう?) 「………………………意外だったのか?」 それは心外、と言外に言われてリナは小さく笑う。 「全然信用してなくて、ごめん。でもあんたならアメリア置いてどっか行きかねないと思ったわ。どうにも読めなかったのよねぇ、あんたの思考回路」 「読まれてたまるか」 声をあげて笑うと、リナは針金を引き抜いた。 「やっと開いたわ」 引き開けた中には、すっかり表面が曇ってしまったオーブがひとつ転がっていた。 それを見た瞬間、リナの思考がめまぐるしく動き出した。ほとんど無意識のうちに、彼女はテーブルに置き直しておいた、あの魔法装置をふり返っていた。 中央の、円形の、くぼみ。 「―――再生装置なんだわ!」 ゼルガディスがすぐさま装置を持ってくる。 綺麗に埃を落とし、オーブの汚れも拭き取ってから、リナは慎重に台座にオーブを収めた。 微かな起動音がして、オーブが淡く発光する。 「やっぱり―――」 「シッ。待て、何か喋ってるぞ」 ゼルガディスが小声でリナを制した。 (レゾさま………) ほのかな女の声に、リナもゼルガディスも聞き覚えがあった。 「………エリシエル」 それは、もうこの世には存在しない女の声だった。 (レゾさま。あえて命を破ってこの声を残した私をどうかお赦しください) 声だけが暗い部屋に流れ続けた。 画像はなかった。 当然だった。 これを聞くだろう、聞いてほしかっただろう相手には、エリシエルの姿を見ることはできなかったから。 (私には………このヴルムグンには、どうしてもレゾさまのお部屋を破壊することができませんでした。あれほど親しんでらしたお部屋と書庫を崩せなど、レゾさまの命は理不尽なものに思えます………) オーブが声の抑揚に合わせてかすかに明滅を繰り返す。 (封印するにとどめた私の独断はいかようにも罰してくださって結構です。ただ、御体をおいといになってください。あれほど可愛がっていらしたお血筋の方を合成獣になさるなど、レゾさまのなさることとは思えません) リナは小さく息を呑んだ。 隣りにいるゼルガディスの表情を見ようとは思わなかった。 それができるほどの、無邪気な無神経さを持ち合わせてはいない。 合成獣にされる前の記憶を良く覚えていなくて幸いだと、ついさっき聞いたばかりなのだ。 覚えていない方が―――記憶を失う前、レゾが自分にどう接していたのか覚えていない方が、傷が浅くすむ。痛みと葛藤に無縁でいられる。 溜め息混じりに「よかったわね」と同意した。間違っていたとしても、確かにそれはひとつの真実だ。 何とも居心地の悪い、気詰まりな空気のなか、エリシエルの声は流れ続ける。 (この声をお聞きになっているということは、多少なりとも落ち着かれ、私に下した命が誤りだったとレゾさまが考えておられる証拠なのだと、思ってもよろしいのですよね………?) ここにはいない―――おそらく彼女の心の中にしかいないレゾに向かって、言葉は切々と紡がれている。 それを聞いているのは、レゾではない。 リナは顔を歪めた。聞いていて気持ちのいいものではない。 なまじレゾを知っているだけに。 このオーブの中でエリシエルが案じていたレゾの様子のおかしさは、魔王に精神を蝕まれていくその課程での出来事なのだろう。 崩れていく精神の均衡のなか、レゾは彼女にここの破壊を命じた。 そして、その次にはおそらく拠点そのものの破棄を命じた。 どうして? (レゾさまがあれほど熱心に研究してらした様々な分野のその成果を、瓦礫の下にすることなど私にはできません。書庫を埋めてしまうと、いつの日かお血筋の方の体を元に戻したいと思われたとしても、それすらもできなくなってしまいます。このヴルムグンの短慮を笑ってくださってかまいません。書庫を開けるキーワードをこのオーブに残すことをお赦しください。キーワー…………) 「…………ッ!」 リナはオーブを装置ごとつかんで部屋の外に飛び出した。 目の前の扉、鎖の絡まる取っ手にオーブをかざしたその瞬間、エリシエルの声がキーワードを紡ぎだす。 泣いているような声だった。 もしかしたら彼女は予感していたのかもしれない。 崩壊してゆくレゾの精神が、元には戻らないことを。 それでも、レゾに仕えることが彼女の幸せだったのだろう。 負の面すべてを飲みこんでしまえるほど、幸せだと思っていたのかもしれない。 けれど、そんなことはもうわからない。 レゾは魔王と共に滅び、エリシエルは死に、ゼルガディスはリナたちと出逢い、アメリアと出逢い、そしていまだ合成獣のままでいる。 (開いて………) 吐息のようにリナは囁いた。 決してゼルガディスのために残された部屋ではない。エリシエルのエゴが、レゾのために自分のために壊さず封印した部屋だ。 彼女にとってはレゾが全てだった。 だが、そんなことはどうでもいいのだ。 本当に、どうでもいいのだ。 リナとゼルガディスがこうしてここにいる、そのことこそが重要なのだ。 (開いて………!) エリシエルの声が途切れた。 鎖がひとりでにほどけて、落ちた。 |
6853 | 光の扉(オープン・ザ・ゲート) 終 | 桐生あきや URL | 7/7-17:16 |
記事番号6789へのコメント リナは両手に持っていたオーブと再生装置を静かに床に置いた。 慎重に置いたつもりだったが、それでも振動でオーブが台座から落ち、ころころと床を転がる。 足下に転がってきただろうそれを、おそらく拾い上げたに違いない人物に、リナはふり向くことなく謝った。 「ごめん………」 ゼルガディスがゼルガディスの論理で行動しているのなら、リナもリナなりの考えで動いている。それでも。 「勝手なことして、ごめん」 リナがするべきことではなかったのだ。していいことでもなかった。 オーブの砕ける乾いた音がした。 リナは黙って脇に退いた。歩いてきたゼルガディスが、扉に手をかける。 「………いまさら、全てをシャブラニグドゥのせいにして赦すことなんか、到底できるわけがないんだ」 「…………」 ゼルガディスは、少し憮然とした口調で付け足した。 「………怒ってはいないぞ」 「…………」 「少しばかり呆気にとられたが」 リナは微かに笑った。 少しだけ、扉が動く。 「………リナ、礼を言う。いてくれ、ここに。あいつの代わりに―――」 ゼルガディスが、扉を開けた―――――― *** 光の扉(オープン・ザ・ゲート)終話 *** リナは扉の横の壁にもたれて、苦笑混じりに小さく呟いた。 「………ごめんね、アメリア」 とてつもなく大事な瞬間に、立ち会っている自覚くらいはあるのだ。それこそアメリアにはっ倒されても文句は言えないくらいに。 帰ったら、クローラーとユリシスに連絡をとらなければ。こうなったら何が何でも協力してもらう。リナとゼルガディスだけではおそらく手に余る作業が、これから待ちかまえているはずだ。 「ごめん、リア。おみやげ無理だわ」 それどころではなくなってしまった。 (代わりに、そう遠くないうちにセイルーンに連れていってあげる) リナはそう呟いて、目を閉じた。 どれくらい待っただろう。 扉が開いて、ゼルガディスがリナを呼んだ。 「来てみろ。お前や俺にとっては宝の山だぞ」 「―――もちろんよ」 リナは笑って、部屋の中に足を踏み入れた。 そうして目を見張る。 扉のある壁を除いた三方に、天井まである棚が置かれ、そこにひとつずつ丁寧にオーブが収めてあった。 目の見えなかったレゾの魔道書。 狂ったレゾがどうしてここの破壊を命じたのか、もはやいまとなってはだれにもわからない。そのとき生きていたエリシエルにすらわからなかった。ましてや、今のリナたちにわかるはずがない。 再生装置の置かれてある机には、埃一つなかった。見れば、傍らの床に埃まみれの布の塊が捨てられている。 御丁寧に埃よけの布までかぶせてあったのだ。 「………どれ?」 リナの言わんとすることを理解したゼルガディスが無言で、机の上に置かれた三つのオーブを指さした。棚にそのオーブの数だけ、空白ができている。 「もしかして、全部再生したの?」 道理でかなりの時間、外で待たされたわけだ。 「残りはどうするの?」 「あとは関係なかった。必要になったらまた取りに来る。お前の好きにしろ」 「いいの? いまのは冗談ってのなしよ?」 赤法師レゾの研究の成果の全てがここには収められているはずである。なかには既存の常識をくつがえすような技術も含まれているはずだ。 「俺はこれさえあればいい」 ゼルガディスが丁寧な手つきでオーブを布にくるんでいく。 手伝おうかとも思ったが、やめておいた。 触ってほしくなさそうだと、何となく思えたからだ。 「本当にいいのね? もらうわよ」 「かまわん。礼だ」 リナは首を傾げた。 「いったい何の御礼………?」 まさかここにつきあったことでは断じてあるまい。さっきの勝手な行動に対してではさらにあるまい。 「そうだな………」 ゼルガディスが考え込んで、それからおかしそうに笑った。 「なら、十年前、お前が賢者の石を横からかっさらっていったことにしておく」 リナは目を丸くして、次の瞬間笑い出した。 しばらく笑って、ようやく笑いを収めると、リナはわざとらしくゼルガディスを見た。 「感謝しなさい。あたしのおかげよ」 ゼルガディスも笑っている。 「だから、礼だと言っただろう」 到底、寄り添うはずのなかった奇縁の仲介者に。 部屋をぐるっと見回したあと、リナはゼルガディスに視線を戻した。 「帰ろっか。リアとガウリイが待ってる」 (あたしにはね) もうすぐ雪が降るだろう。 それを過ぎれば、溶けて芽吹いて、花が咲く春。 緑が萌えだす、光散る夏。 透ける薄青の空の秋。 いつの季節かわからない。 まだそれはわからない。 けれど、確実にくる未来へ。 (あんたには―――) 「―――アメリアが、待ってるわ」 光の扉が開く音を、確かに聞いたと思った。 To be continued. *** うわごとのような独り言 *** というわけで、もはや完全なる続き物(開き直った・爆)。柚葉シリーズのゼルサイドをお送りいたしました(笑) 柚葉シリーズのコンセプトは実は、ゼルを原作世界で人間に戻す、でした(笑)。なにせ前に書いた『時の旋律』では別世界パロでの転生という反則技を使った人間ですので。思ったことは、棚ぼた的な方法では戻したくないなということでした。が …………………石投げないでぷりーず(滝汗) わかってます。どこが棚ぼたじゃなくて正攻法なんだっ!?と思いっきし自分で突っ込みをいれましたとも。めちゃ棚ぼた(汗)。しかも肝心なところぼかしてるし(爆)。所詮、私にはこれが限界です。しかも、今回は『見つけただけ』です。結局戻ってません(笑)。もはや完全に次の話に続きます。次はオールキャラで行くかと………(書きかけを見てみる)いかん、ガウリイだけが出てきてない(爆)。 それはともかく、この話のみでのコンセプトは『ゼル&リナ』でした。ユズハシリーズ書きだす前からこの話の原型があったんですから、恐ろしいことです。そこまでしてゼルとリナの会話を書きたかったのか、私(笑)。この二人に関しては語らせると長いので、またあとで(笑) 念のために断っておきますが、私が好きなのはあくまでガウリナ・ゼルアメな上でのゼルとリナの組み合わせですので(笑) というわけで、次は早いうちにお会いできるかと。夏休みはいる前には完結します、おそらく。 ではでは、よろしければまたお会いしましょう♪ |
6854 | 読み終えました。 | 龍崎星海 | 7/7-17:40 |
記事番号6853へのコメント どうも、こんにちは。龍崎です。 光の扉、読み終えました。 感想は‥‥書きようがない‥‥だってだって、お話、途中なんだもん! プロローグだけで終わるなんて、そんな殺生な! ‥あえて言えば、これが感想、かな。 プロローグ、ですよね?これ。 これから一悶着もふた悶着もあるんですよね? 夏休み前には完結させる、とのこと。 がんばって、完結させてくださいね? でも‥あれ?夏休みって7月20日くらいからだったと思うけど‥‥ (学校出てからかなりたつので、日にち忘れてる) ‥まあ、いいや。とりあえず、続きまってますので、がんばってくださいね。 では、これにて。毎日、暑いですが身体には気をつけてくださいね。 |
6862 | これから続き投稿します〜(笑) | 桐生あきや URL | 7/9-21:56 |
記事番号6854へのコメント >どうも、こんにちは。龍崎です。 >光の扉、読み終えました。 >感想は‥‥書きようがない‥‥だってだって、お話、途中なんだもん! >プロローグだけで終わるなんて、そんな殺生な! まったくもってその通りです(^^;) 言われて、そういえばひどい終わり方だよなぁと思い直しました。 というわけで、これから続きを投稿します。すいません(汗) >夏休み前には完結させる、とのこと。 >がんばって、完結させてくださいね? >でも‥あれ?夏休みって7月20日くらいからだったと思うけど‥‥ >(学校出てからかなりたつので、日にち忘れてる) はい。少なくとも私の大学は20日からです。 課題とレポートとテストの存在を忘れていた人間がここにおります(爆) 言ったことなので頑張りたいとは思いますが。 >‥まあ、いいや。とりあえず、続きまってますので、がんばってくださいね。 >では、これにて。毎日、暑いですが身体には気をつけてくださいね。 ありがとうございます(><) 龍崎さんも体調には気を付けてくださいね。 桐生あきや 拝 |
6857 | はぅ・・ | こずえ | 7/7-21:53 |
記事番号6853へのコメント (レス2度目のこずえというものです) 終わりましたね。ご苦労様です。 このメタメタな暑さの中、読んでる私も暑さで、ボーとしがちなのに書かれてる桐生さまはもっと大変でしょうに・・・。ふぅ。 わたしも、この話しでもう、ゼルが元に戻ると思ってたんですが、早々簡単に戻れないみたいで、次回オールキャラとの事で、楽しみが増しました。 今回のお話で一番私的ヒットだったのは”5”の 「あんたさー。セイルーンに帰ってくるってアメリアと約束したんだって?」 思いっきり背後で埃が舞う気配がした。 のとこのくだりです。うっふっふ。と人知れず、笑ってました。 リナちゃんが、イフェルやゼルに、結婚して子供のいるとこをつっこまれ、オタオタしてるのも可愛かったです。 (イフェル、サイコー。あの、もってまわった言い回しがツボです。) 次の作品も楽しみにしてます。 |
6863 | あう………(対抗すな・汗) | 桐生あきや URL | 7/9-22:07 |
記事番号6857へのコメント >終わりましたね。ご苦労様です。 >このメタメタな暑さの中、読んでる私も暑さで、ボーとしがちなのに書かれてる桐生さまはもっと大変でしょうに・・・。ふぅ。 そんな暑さの中、読んでくださってありがとうございますっ(恐縮) 私はわりと暑がりなんですが、暑がりゆえに暑さには強いというか何というか(わけがわからん) それはともかく、季節柄まったく現実感を伴わなってない話となりましたが、涼しくは………ないでしょうな、この話(^^;) >わたしも、この話しでもう、ゼルが元に戻ると思ってたんですが、早々簡単に戻れないみたいで、次回オールキャラとの事で、楽しみが増しました。 段階を踏むだろうな、というのが、私なりの結論です。 オールキャラになるように、ガウリイをがんばって出したいと思います(待て) >今回のお話で一番私的ヒットだったのは”5”の > 「あんたさー。セイルーンに帰ってくるってアメリアと約束したんだって?」 > 思いっきり背後で埃が舞う気配がした。 >のとこのくだりです。うっふっふ。と人知れず、笑ってました。 実はゼル、わりとおたおたしているのはここまでで、次回からかなり開き直ってたりします(笑) やはり強気になったのか(笑) >リナちゃんが、イフェルやゼルに、結婚して子供のいるとこをつっこまれ、オタオタしてるのも可愛かったです。 リナはいつまでたってもこうだろうなぁと思ってます。いつまでたっても、ガウリイ見ながら「どうして結婚したんだろう」みたいなことを考えてそうです。もちろん変な意味じゃなくて(笑)、当たり前に隣にいる存在だから逆に「結婚」という形式事態が不思議なんだろうなぁと(笑) >(イフェル、サイコー。あの、もってまわった言い回しがツボです。) イフェルは次回でも出てきますので、どうか楽しみにしていてください♪ >次の作品も楽しみにしてます。 早々と投稿することにしました。こずえさんのレス書き終わったら投稿します(笑) 次の話も楽しんでもらえると嬉しいです。 ではでは。 |