◆−星光のクリスタル−CANARU(7/4-18:37)No.6844


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6844星光のクリスタルCANARU URL7/4-18:37



憧れていた・・・・・。
「ヒト」ならない存在・・・・・そして・・その力・・その蒼に・・・・・。
今となっては遠い事かも知れない・・・・。
実際自分自身の記憶すら存在していないかも知れないのだがら・・・・・・。


一面黄金色とも見間違う夜明けの光に照らされた大地・・・。
しかし、それはほんの一瞬の事。
やがてその地は紅蓮の色に染め上げられる・・・・・・・・・。
レンズ越にながめる・・・とは言いながらも夜明けのその風景は神秘的ですらあり。
生まれてこの方ずっと眺めている情景とは言え。
一種の『畏敬』すら感じられるものだった。
「・・・朝ね・・・・・・・・・・・」
照りつけるような太陽光が『空一面』に覆われたレンズに反射してこの地上に降り注
ぐ。
すでに・・優しくこの地を照らす月の姿は薄くなりつつあった。
必要以上に眩しい太陽光にリナは目を細めながら空中を仰ぐ。
しかし・・・それも一瞬の事。
やがて偽りの光が地上に届かなくなり・・・辺りは単に視力に不便の無い程度の薄明
かり・・灰色だけの世界に変貌する。
あの紅蓮に輝く時間は・・夕方までお預けだろう。
辺りは一面砂漠・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
どうせ今日も何も無い。
このまま家から・・このガラス張りの部屋から出たくない気分がしてならなかったが
・・・・。
「リナ!起きなさい!!!」
如何せん人類とはどんな状況に陥ろうとも『強か』な生物である。
こんな一人感情で『日常』・・・例えそれがどんなものであっても・・・を放棄させ
てくれるような甘い姉では無かった・・・。
「はいはい。姉ちゃん今起きます・・・・」
起き上がるのすら億劫な・・という思いを噛み殺してリナは部屋を出るのだった・・
・。


原因不明・・としか言いようの無い環境の変化。
それによって人類の文明社会なんかがあっけなく崩壊してどのくらいの年月が経つだ
ろう。
ある日、この無限に続くと思われる砂漠を見ながらルナはリナにこう言った事があ
る。
「この砂漠も・・この町も・・昔は海の底だったの」と。
「海・・・??????」
「そう。真っ青な水が一面に続く世界・・・・・・・・・・・」
「・・・蒼・・・????」
幼いリナには全然理解できない単語ばかりである。
「そうねェ・・。あの少年の瞳の色・・・・」
今ではすっかり珍しくなった『蒼』を宿した見知らぬ少年。その瞳をそっと指差しな
がらルナはリナに今ではすっかり全滅した・と言っても過言ではない色の事を教えて
る。
「・・・綺麗な色・・・そんな色の水が・・ずっと・・一面に続いていたの?」
足元の灰色の砂に目をやりつつリナは何気なく口にしてみる。
「ええ。水だけじゃないわ・・空も・・・空気も・・この星はもともと蒼だったのよ
・・・」
「・・・・・なんでこんなになっちゃたの・・・・???」
「・・・それは・・私にも分からないわ・・・・」
そんな姉妹の会話にはまるで無関係というように・・・・。
朝焼けの砂漠色の髪と青い瞳の少年は・・・・微笑んでいた。
それが、幼いリナの思い出だった。
この荒れた地、消え去った星・・・そして・・消え去った色彩の中で。


人々は告げるであろう・・その時を・・・。
望むべき滅び・・終末・・・そして・・・再生と崩壊と・・・・・・。
舞い降りるべくして・・黄金の創始者の使いは・・・舞い降りる・・・・・。
「古くから伝わる歌・・と言うけど・・何時頃のものなんでしょう?」
学校に行く、と言いながらも今日はアメリアと二人、文明崩壊以前の遺跡を散策しな
がら感慨にリナはふける。
そして・・これはそこで発見した詩・・・・。
「下らない末法思想や終末思想。それは何処にでもどんな時代にもあったことよ?」
「そりゃあまあ・・そうですけど・・・・何だか切なくありません?」
「・・・まあ、少なくとも今より悪い世の中が来ると言う事は考えられないけどね」
肩を竦めて苦笑しつつリナ。が、すぐに思い直したように・・・。
「風の流れが変わる。ゼルが来るわ。心配してるでしょうし・・アンタは先に戻って
て、アメリア。アタシはもう少し散策して帰るわ・・・」
「でも・・・・・・・・」
「いいから!!」
嫌がるアメリアを強引にガラスで覆われたシティの方向に押しやりながら・・・。
リナは只一人『風』にふかれてみる・・・・・・・。
何だろう・・?こんな風に『風』にあたるのは初めてでは無い気がしてたまらなかっ
た。どうして・・・?一体・・・・・・????
ひたすらリナが頭に疑問を抱いていたその時であった。
・・・・・・忘れたのか・・・・・・・・??????
「忘れた?ですって・・?そもそも・・『知らない』のよ?文句を言われる筋合いは
無いわ!!」
ずっと・・・リナを見守るように・・付き従っていてくれた気配に軽い抗議の言葉を
投げかけてみる。
「夢を・・見なかったか・・・・??」
今度は声だけではなかった。
何時しか姉に教えてもらった『蒼』を宿す・・夜明けの砂漠の色の髪・・いいや。
黄金の髪の人物だった。
しかし、もはやその姿は少年などではない。少なくともリナよりも外見上は5〜8歳
くらいは年上に見える・・年長の男だった。
「見たわ・・・あの不思議な透明な色・・けど。朝の深紅の陽光にかき消され。
記憶も思いも全て消えるのよ・・・・・・」
思い出したら・・全てが壊れてしまいそうな気がする。
あの『蒼い』色の大昔の夢を。


純白の大理石が巨大な島中を埋め尽くす。
行き交う人々、物珍しげにリナは陽光よりも尚明るいルビーを・・・まるで燃え尽き
る寸前の光を放つ太陽のような・・・・・その宝石を守るかのように取り囲む黄金の
彫刻を眺めた。
「・・・・綺麗な宝石・・。世界の何処にもこんな色は無いんじゃないかしら・・
?」
そっとリナは行商人が大事に抱えるその宝物を遠巻きに眺めた。
「・・・そうかな・・・・???」
ふっと・・大理石の柱越に・・・風に靡いた黄金の髪の後姿が見える。

サアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・・・・・・・・・・・。

蒼い風が紺碧の海に更に漣を起こさせるかの如く通り過ぎていく。
プリズムの反射・・赤・橙・黄・緑・青・藍・紫・・・・・・。
空気そのものもまるで色彩の洪水だった。
その中に・・更にひときわ青さを湛える・・その目・・・・・・・。
「あんな色・・。自然の中では見えないわ。黄金に纏わりついた灰色の色彩も見事
だっったわ・・もっとも・・欲しいとは思わないけどね。あの宝石・・・」
そっとため息をつきながらリナは言う。
「ああ。確かに『自然』の中では見当たらないな・・・あんな色は・・・」
そっとガウリイは・・・これもこの世界では滅多に見当たらない・・・紅蓮の髪と瞳
を撫ぜつけてやるのだった・・・・。
望んでいる事は・・・唯ひとつ・・・・・・・。


「これは・・・???」
砂漠の中、キラリと光る、一つの金細工の宝石を見つけた。
何千年、何万年の年を経たかのように・・朽ち果てかけたその金の細工。
まるで灰色の大地そのものだった。
かすかに残った黄金の輝きが・・唯一この世界に色彩をもたらす朝焼けと夕焼けに似
ているように思われた・・・。
そして・・このルビーもまるで・・恐ろしく深紅の色を湛える太陽・・そのものだっ
た。「朽ち果てた古代の細工。まるでこの世界ね・・・・」
クスリっと微笑んでリナはそっと髪に細工を飾ってみた。
こうしていると・・古代の者たちの声が聞こえてくるように思えたからだった。
「そうだな・・今と・・あの時とはまるで逆だ・・・・」
そう言うと・・・・その声と・・黄金の髪と紺碧の瞳を持つその人物は消えた。
「ごめんなさい。今はまだ・・思い出したくないの・・・」
これ以上・・この世界が悪くなる事は決してない。分かってはいる。
しかし、全てを賭ける事は・・今のリナにはまだ出来ないことだった・・・。


「猶予はあと三日。そう言ったはずだよ?彼女に思い出させる事は不可能じゃ無いの
かな?」
不機嫌そうな声で言ってくれればまだ性質は良いかも知れないが。
その『声』はいとも楽しげにガウリイにそう語りかける。
周囲は・・これでもかと言うほど青く・・色彩に満ちて美しい。
今まで彼が居た・・リナの住むべきレンズに囲まれた地獄のモノトーンとは似ても似
つかない美しい世界である。
だが・・・・・・・・・・・・・。
「こんな牢獄にヒトを閉じ込めやがって・・・。何が面白い?」
手元にあった銀色の剣を抜き放ちながらガウリイは不機嫌に言った。
「如何にも・・ココは君にとっては牢獄かもね。けど・・もともとは君やあの娘の生
まれた世界だよ?そして・・こうなる事を望んだのは・・君たち自身・・・違う?」
「・・・彼女は・・関係ない!!!」
長い年月を経て・・・・。
既に純白の大理石の建物は朽ち果てていた・・・・・。
それでも尚・・・蒼の中・・・透き通るような白い美しい景色は変わりない。
あの時は・・糸柳が鬱蒼と茂っていたこの街道は・・・・。
いまや波の絶え間ない浸食によって海草の温床となっていた。
それ以外は・・まるで時を止めてしまったかのような世界。
「数万年かかったけど・・君たちの願いは叶えたよ?」
「ソレまでの間・・この場に捉えられていた俺の身にもなってみろ・・・。確かに・
・・」
一度だけ少年の姿を借りて彼女に会う事は許された。
が・・・この気の遠くなる年月・・・・・・。
海の底に沈んだこの沈黙の土地に・・・一人で閉じ込められて・・・・。
思い続けたリナは・・・・・あの地獄のような地上で何を思って生きているのだろう

「彼女が思い出さない限り・・消える事は無いよ・・・このラグナ・レク(終末の叫
び)は・・・・・・」
己のしたこととは言え・・・・・。
なぜこんな思い違いをしてしまったのだろうか・・・?
『終わり』を齎す者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
よりにもよって『冥府の王』・・・ヘルマスターに『永遠』を願ってしまうとは・・
・。


「あの愚かな子・・・あのものの願う世界など・・誰も欲したりはしない・・。時は
近い・・分かっているわね・・・??」
「御意のままに・・・お母様・・・・・・・・」
金色の髪の女の声に・・その娘たる黒髪の女はそっと答えを呟いたのだった。
「リナ・・・全てを思い出しなさい・・。全てを・・あるべき世界へと返すために・
・」
黄金の光・・夕闇の光が再び大地を照らし始める。
燃えるように暑い深紅の光が・・クリスタルのレンズに覆われた世界を音も無く照ら
し出す。
巨大な月が現れる前の・・闇が世界を覆い尽くすまでの刹那の輝き。
何を思うのだろうか?????この世界は・・・・・・・・。
思い出さなくてはならない。そんな気分に苛まれつつ、リナは今日遺跡で手にした朽
ち果てかけた髪飾りをぐっと両手で握り締める。
「消え去る文明・・・崩れ落ちるビルの群れ・・・・それに・・・・・・・・荒れ狂
う森に・・・森林が消えていく・・・泉は太陽に焼き尽くされて・・・海は・・・全
てを飲み込んでいく・・・・・・・・」
見えるような気がしてならなかった・・・・・・・・。


「ガウリイ!!!ガウリイ!!!!」
荒れ狂う海に何もかも飲み込まれていく!!!
蒼は・・次第に深みを増していき・・全てを漆黒に覆うまでに至っている。
風はそんな海に呼応するかのように荒れ狂い・・・・。
「リナ!!!!!!!」
これさえ・・・・これさえ破壊すれば・・・・・・・・・・・・!!!!
そんな現実的に可能なことを一瞬でも思ってしまった自分が悪かった・・・。
「きゃああああああああああああああ!!!!!!!!」
今まで必死に掴んでいたリナの手が濁流の為にするり・・とガウリイからもぎ取られ
てしまい・・・。
やがてその紅い髪と瞳は・・・・・・。
もはや漆黒と化した色彩の中にまるで無抵抗かのように消え去っていった。
無論、それはリナだけではない。
リナが綺麗ね・・と言った光のプリズムも・・・・・・。
宝石も、空の蒼も・・太陽の光も・・純白の大理石も・・・・・・。
そして・・・・人々も笑い声さえも・・・・・・・・。
何もかもが・・この終末の中に流されて行ってしまうというのか・・・・????
「リナ!!!!!!!!!!!!」
大声で絶叫しガウリイも自ら漆黒の闇の中に飛び込んでいく!!
が・・・しかし・・・・・・・・・・・。
彼には一瞬の苦しみも・・永遠の安息すら与えられなかった。
手にした『誓約』のもと・・永遠の『蒼』の中に捕らえられてしまったのだった。
『期限はあと二日・・・彼女が君の事を思い出さなかったら・・・・』
この牢獄の蒼は・・・あの地獄のような世界すらも飲み込むというのか・・?
その結末は・・後に残るのは『無』のみとなってしまうのか・・?
無論、ガウリイにはその『無』すらも与えられる事は許されず・・・・。


「・・・・・リナ・・・・・・????」
暗黒の月すら昇らない夜が去った後・・・・・。
その場にリナは立ちすくんでいた・・・・・・・・・・・。
頬と・・その紅蓮の瞳に僅かな涙を湛えて・・・・・・・・。
「リナ・・・泣くな・・おい・・リナ!!!」
砂漠の中に佇んで・・その手には呪いの証の深紅の朽ち果てかけた髪飾りが握り締め
られている。
今のガウリイはその場に行く事も・・涙を拭ってやる事も出来なかった。
「消えた・・故郷・・ムー・・・・アタシの・・大陸・・ムー・・・・・。
そして・・・ガウリイ・・・・・・・・」
とめどなく・・容赦なく突きつけられる朝日の陽光に照らされて・・・。
リナはただただ涙を流し・・今や砂漠の色となった近代の遺跡にそっと指を触れるの
だった。
『・・・破壊しろ!!その・・オーブを・・・破壊・・・・・・』
その声は朝日が完全に昇りきったときにリナの頭に響き渡った!!!!


『ずっと・・この世界よりも・・二人で居れます様に・・』
エゴ・・だったのかもしれない。しかし・・思いは純粋だった。
願いの篭った・・朽ち果てたオーブを宿した髪飾り。
『・・・カナエテアゲルヨ・・・ソレガ・・ドンナカタチデモイイノナラ・・・ネ』
悪魔の囁き・・それに騙された自分たち。
「ガウリイ・・・・・・・」
もう一度その名前を口にして・・リナは更に激しく涙を両目に湛える。
『・・今の俺には・・拭う事も出来ない・・・・・・・・』
そんなガウリイの声が届いたような気がした。
力いっぱい・・・黄金と紅の宝石をリナは大地に叩き付けた。
数千・・・数万年の思い・・・・・・・・・。
振り切ることの出来ないその感情をまるでぶつけるかのように・・・・・・・・・。

『己の身分を思い知るが良い・・・。全てを破壊したお前の罪は・・重い・・』


封印が解けたのか・・・・???
色彩の消え去った砂漠の中に何時の間にか佇んでいたガウリイははっとして周囲を見
回す。
ヘルマスターの気配は・・完全に消え去った・・?いいや。
正式に言えば完全に『消滅した』と言うべきなのかもしれない。
「・・・・・リナ・・・・・・・・・・・・」
目の前でガウリイの顔を見た途端、恐らく安心したのだろう。
倒れこんで眠りに落ちたリナの瞳にたまった涙をガウリイはそっと拭い去ってやるの
だった。
「歪はすべて私が消し去ろう・・帰りなさい・・本来のあるべき所へ・・・」
ふっと微笑みながら強い黄金の光がクリスタルに覆われた色彩の無い世界にそう告げ
るのだった。


「いやだな・・・・アタシ・・・・・・」
目が醒めたら・・見知った『蒼』の世界だった。
眩しすぎない程度のオレンジ色の朝日が眩しい・・・・。いや・・・・??
「おっはよ〜♪リナ・・・・」
「・・・・おはようじゃないわよ!!!!何時の間にヒトの部屋に侵入したのよ!
ガウリイ!!」
あのオレンジ・・・あの朝日のような光・・・。
どうやら眠っていたリナの顔を覗き込んでいたらしいガウリイの金髪・・だったよう
である。
「ん?ルナさんが快く通してくれたぞ?リナが何か泣き寝入りしてるからって・・心
配して・・・・」
「・・・・泣き寝入りってって・・・あ・・・・・・」
やっぱりおかしいとは思ったが泣きながら眠ってしまっていたらしい。
「ええ。一寸ね・・怖い夢をみたのよ・・・・・・」
決まり悪そうに言いながらリナはさっと起き上がり出窓に腰掛ける。
今日も海と・・風の蒼が眩しかった。
「どんな・・・???」
「・・・忘れたわ・・けど・・・・・・・・・」
もう二度とあんな真っ赤な太陽と・・蒼の無い世界はごめんだ・・・・・。
「けど・・・?」
「何者にも頼らないで・・絶対に・・・・・・・・・・・・・・・」
あの世界にはもう行きたくない・・・。
そしてガウリイと一緒に居たい。それだけだった・・・・・・・。
今日も明日も・・これからもずっと・・・。


(お終い)
ちなみにこの話・・・。
『レンズ越』の巨大な太陽、静寂の砂漠・・・・。海底、蒼エトセトラ・・。
全部何時しかの己の夢からきていたりします〜〜♪