◆−それいけ新婚ガウリナ!−R.オーナーシェフ(7/17-17:09)No.6911
 ┣砂漠の遺跡・1−R.オーナーシェフ(7/17-17:16)No.6912
 ┣砂漠の遺跡・2−R.オーナーシェフ(7/17-17:20)No.6913
 ┣砂漠の遺跡・3−R.オーナーシェフ(7/17-17:25)No.6914
 ┗砂漠の遺跡・4−R.オーナーシェフ(7/17-17:36)No.6915
  ┗はじめましてです−山塚ユリ(8/11-01:13)No.7093


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6911それいけ新婚ガウリナ!R.オーナーシェフ 7/17-17:09


魔を滅するもの その後 という小説を前に投稿したことがあるんですが、
調子にのって身の程わきまえず、シリーズ化してしまったんですね。
めったに続き書かないんですが。
今回は、過去の小説の中にある、
・魔を滅するもの その後(後で修正版も投稿しました)
・ダイハード・ベビー
・沿岸危機(失敗作っぽいかもしんない・・・)
に続く四作目という形をとっております。
まあ、あんまりストーリー上の関連は少ないし、これらを読んいただいても、いただかなくてもよーするに結婚した後のガウリナが活躍するという小説です。
今回のタイトルは
「砂漠の遺跡」
砂漠という単語ですでにバレバレですが舞台はエルメキア帝国・滅びの砂漠。
それではいってみよ。

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6912砂漠の遺跡・1R.オーナーシェフ 7/17-17:16
記事番号6911へのコメント
日の光が熱い。乾燥地帯にある街のはずれ。市街地を出て砂漠を少し歩いたところにその遺跡はあった。
その遺跡の周囲には見回りのハゲ頭、ヒゲ顔が数人。
やがてそいつらがこちらに気づき立ち上がった。
「なんだ貴様!?」
相変わらず月並みなセリフである。かまわずあたしは歩を進める。
「おい!てめー、俺達を誰だと思ってあぐっ。」
この伝説にまでなった絶世の美女(あたし)の肩を汚した手をひねりあげた。
遺跡の崩れかけた入り口をくぐる。空気が乾いているため日の入らない中に入ると急にひんやりとする。
大勢でとりかこみ「てめー」とか「なめやがって」とか騒いでる者どもを無視しあたりをゆっくりと見まわした。
「ほほう。あるじゃないあるじゃない!いっぱいお宝ため込んでるわね♪」
「かかれー!!」
おやびんらしき太ったハゲ頭が号令をかけ、むさい男達がいっせいに飛びかかる。
「風魔咆裂弾(ボム・ディ・ウィン)!!」
悲鳴すら強風にかき消され古い壁のあちらこちらに衝突する男達。もうもうとほこりが舞い上がる。
「さてと。ひさしぶりにハデなのいきますか。」
黄昏よりも昏きもの
血の流れよりも紅きもの
時の流れにうずもれし
偉大な汝の名において
我、闇に誓わん
我らが前に立ち塞がりし
すべての愚かなる者に
我と汝が力もて
等しく滅びを与えんことを

「ドラグスレイィィィィィィィィィィィィィブ!!!!」

ズゥゥゥゥゥゥゥゥン

「ふっふっふっふっふふわっはっはっはっはっはっは!!!!これよ!!この感覚なのよぉぉぉぉっ!!
血が!!!血が騒ぐ『盗賊殺し(ロバーズ・キラー)のドラまたリナ』の血が騒ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!
ああんっもう!ほんとに久しぶりよねぇ。最近育児で忙しかったしぃ。あーすっきりした。」
「気がすんだか?」
少し離れた、ラクダやウシ、ロバなどが少ない草をたべていたわきの方で見ていたガウリイが、
わきゃわきゃ面白がって暴れる赤ちゃんを抱えつつ呆れながら言った。
もちろん、あたしとガウリイの子だ。
頭にうっすらと金髪のはえた男の子なので、ガウリイJr.とつけた。普段はガウちゃんと呼んでいる。
「まーね♪」
「その名、とうとう自分で認めたな。」
「もう開き直ったわよ。『魔を滅する者(デモンスレイヤー)』なんて偉そうな言われ方よりも、
生きとし生ける者の天敵のほうが気楽でいいわ。」
その隣のおっちゃんは、ただぼーぜんとするばかり。今回の依頼主である地元魔道士協会の、所属の魔道士である。

やがて一頭のラクダが面白い歩き方で近づいてきた。その上にまたがっているのは見なれない姿をした
1人の、赤い瞳が印象的な少女。15、6歳くらいだろうか。ガウリイと旅をしてたころのあたしくらいか・・。
「盗賊鎮圧もいいけど、あまりこの子たちを驚かせちゃ困るわよ。」
まわりの家畜をみながら彼女は言った。
「ああ、こりゃどうもすいません・・って・・・、お前!アナーヒターか!?」
ガウリイが驚いた。知り合いか。
「久しぶりね。ガウリイ。あなたが光の剣を持って旅に出て以来かしら。」
「ああ。そうだな。ベックウィズじいさんは元気か?」
「ううん。今は、あたし一人。」
「そうか・・。」
ガウリイが少し寂しげな表情をした。抱きかかえたガウちゃんに不思議そうに顔をのぞかれながら。
「この地にもいろいろ話は伝わってきてるわ。あなたが『あの有名な』リナさんね。後で家よってってくださいな。
砂漠の中のオアシスの周りにこの子達がいてテントがあれば、それがあたしの家ですから。」
「ええ。」
そして彼女の乗ったラクダは方向を変え、ぽっかぽっかと歩いていった。
刹那、協会の魔道士に鋭い視線を送りつつ、何か、寂しさを表情の下に隠しながら・・。
あたしにはそう見えた。こりゃ今度の仕事、何かあるな・・・・


エルメキア帝国。そのすぐ向こうは「滅びの砂漠」というステップ気候の国である。
この国は、いくつかの『選帝侯』が治める小国があつまってできている。『選帝候』というのは読んで字のごとし、皇帝を選ぶ諸侯のこと。
その中から選ばれる皇帝の直轄領、つまり首都シュメール・シティにあるシュメール・シティ魔道士協会が
今回の依頼主である。サイラーグやセイルーン、ゼフィーリアなどと並ぶ、かなり大きな協会だ。
「そうそう。その、かなり昔からいる、ゆうなんとかみん、なんだ。彼女は。」
ガウリイが言った。
「遊牧民でしょ。ったく。でもそーいうのがいるとはねえ。降魔戦争よりずっと以前からの
血筋を持つ少数民族か。その最後に残った少女なのね。」
昼間、盗賊から没収したお宝の品定めをしながらあたしは言った。
地元に住む協会の魔道士の話では、彼らは、とは言っても今は一人だが、近くの一般民衆とは
乳製品や肉類の売買を通して交流があるが、貴族や騎士などの支配階級、帝国そのものからは敬遠
されているという。何故かというと、帝国の統治に従おうとしないのだ。彼らは。
帝国の民の一部だと思ってない。帝国成立よりもはるか以前から自分達は存在しているから。
また彼らは古より受け継ぐ独自の魔道技術を持つという。一部伝わるところでは、あたしが冥王フィブリゾ
を滅ぼす以前のその瘴気で閉ざされた砂漠でも、なんと彼らだけは通ることができたという。
秘伝の魔道だから部外者には秘密。協会が興味を示し共同研究を持ちかけても拒否。
あやしいイメージを持たれ誤解を生み、帝国から迫害された歴史も持つ。
協会魔道士のおっちゃんが話を続ける。
「そのような中,突然瘴気が消え砂漠が通れるようになりました。あなたがたの活躍によって。
我々協会と帝国は滅びの砂漠の調査に乗り出しました。帝国は砂漠の交流ルートを開くため。
我々は降魔戦争以来閉ざされていた砂漠の学術的調査のため。」
その調査の過程で一つのおかしな遺跡が発見された。そうとう規模が大きいことが推測されたが
中には一歩も入れない。何かの魔法で結界が張られているらしいのだ。一般に魔道士の間では知られていない魔法で。
「分かったわ。その結界をなんとかしてほしいのね。」
「いいえ。調査はもういいんです。あきらめました。恐ろしくて。」
「へ?なんで?」
「すでに帝国と合同の本格的調査隊を派遣したんです。1000年以上閉ざされた場所ですし、未知の魔法
の結界もある。何が出るかわからないということで魔道戦能力も持つ精鋭の聖槍騎士団(ダングニルナイツ)も出動し、
調査を強行したんです。少数遊牧民族の強い反対を押し切ってね。」
「・・民族って、あのアナーヒターの?」
「はい。『民族の聖地』らしいんです。絶対ふれてはいけないと。そして彼女の予感は的中し、
調査隊は戻らなかった・・・・・。」
「なんだか知らんがその調査隊を助けてくればいいわけだな。」
ガウリイが言った。
「はい。調査隊が健在ならば、の話ですが・・。」 

 静かな夜。神秘的な月の光に照らされて、あたし達夫婦は砂漠を行く。
ガウちゃんは協会に預けてきた。いやー、驚いた。あそこの協会はなんと、託児施設完備だったのだ。
万が一のことも考えて、無事じゃなかったらマルゴトツブス、と誠意を込めてお願いしてきたから大丈夫だろう。
やがてオアシスが見えてくる。闇と静寂の中に光が灯る。ラクダさんもウシさんも眠るわきを通りぬけて、
その大きな丸いテントの入り口を、ガウリイが、すっと開き、光とアルコールの匂いが漏れてくる。
・・・・・・アルコール?
「はぁーい、ガウリイ。待ってたわよ。」
「ほーれ、リナも早くはいってこーい!」
昼間出会ったアナーヒターのテントから聞こえるのは、彼女の他にもう一人。よく知ってる声だ。
「え?え?」
あたしはあわてて入り口をくぐり、凍りついた。
「ね、姉ちゃんも来てるんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「来てちゃ悪いか?」
「ううん、んなことないわよ。そ、それで、姉ちゃんはなんでここに・・?」
「アナーヒターから依頼を受けてね。カレシを助けて欲しいんだってさ。」
「か、彼氏!?」
アナーヒターは昼間見たのと同じように寂しさを隠したような表情のまま無言で、深い赤色の酒の入ったグラスをゆらしていた。
やがて、彼女はゆっくりと口をひらく。
「リナさんに頼むことも考えたんですが、やはり魔道士だと、協会がからんできそうだったので・・。それで
フィリアさんという方に紹介してもらったんです。赤の竜神の騎士(スイーフィードナイト)をね。
驚きましたよ。姉妹だったなんて。」
あ、あたしも驚いた・・・。フィリアがからんでいたとは・・。
「で、彼氏ってーのは?」

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6913砂漠の遺跡・2R.オーナーシェフ 7/17-17:20
記事番号6911へのコメント

 冥王の瘴気が消え、帝国が滅びの砂漠の巡回、調査をするようになり、そのメンバーの中に一人の若き騎士がいた。
名はテュリーテル。あたし達の知る世界の中では、エルメキア帝国は砂漠戦になれているほうだ。だが、降魔戦争後の1000年間
深入りしたことはない。これからの経験で腕をあげていくしかない。当然調査は困難を極める。方角を見失い、部隊が孤立
したこともあった。そんな時、助けてくれたのは古より砂漠を生活の場としてきた遊牧民。
「そして若き騎士と遊牧民の少女は恋に落ちたのでした・・・ってとこかしら?」
「いいえ。」
ロマンチックなムードにひきこみながら、彼女は自ら水を差す。
「テュリーテルから求愛は受けました。でも、あたしにはよく分からなくって・・・。ただ彼とはよく会ったし、
あたしの知ってるところによくつれていったし、冒険もした。一緒にいてすごく楽しかったわ。でも、恋愛関係
とは違う・・、とあたしは思ってました。友達というか、友情というか、よくわかんないけど。
そんな時に、あの遺跡の調査の話が持ち上がりました。」
「あんたたちの民族の聖地ってことらしいわね。」
「表向きは、です。」
「表向き!?」
「聖地には違いはないんですが・・、あなたがたですから話します。あたし達の先祖が遠い昔、
降魔戦争よりも前、魔王が封印され竜神が眠りについてから少し過ぎたある時、ドラゴンやエルフと共に
危険だからと封印した場所なんです。それ以来、その地を守ることがあたしたちの代々の使命でした。
でも、今となってはあたし一人。大きな集団が行くと決めれば止める力はありません。
そしてテュリーテルの聖槍騎士団調査隊は帰ってこなかった。」
そこで彼女は言葉が詰まった。
刹那の沈黙。そして、ゆっくり彼女は言葉を搾り出す。
「会えなくなってから分かったんです。あたしも彼が好きなんだと・・・・。」
うつむいて、表情を隠しながら、涙が一筋流れる。ガウリイがそっと彼女の肩に手をかけた。
彼女はふっと力が抜け、倒れるようにガウリイに顔をうずめる・・。
あたしは・・複雑な思いがした。ガウリイ、誰にもやさしいしな。
おそらくは神魔戦争の影響によって出現したのだろう。ドラゴン、エルフが恐れるほどの脅威。
古の未知の魔法の封印になにかが起きた。調査に入った彼らはその後・・・・・・・・・・・・・
男は心に傷を負い、女は気持ちを伝えられぬまま・・永遠に・・。アナーヒターが、彼女を含め皆が一番考えたくない可能性だ。
「分かったわ。行きましょ。助けに。」
沈んだムードを気にしないかのように姉ちゃんが言った。いつもの調子で力強く。
そして振り向きざまあたしにウインク一つ。
こ、断れねえし。
「うん。そうね。」


アナーヒターから借りた白いゆったりとした服をまとい、らくだに揺られていく時か。
「ここです。」
アナーヒターが言った。
オアシスの木々の中、巨大な正方形が段々に重なり、崩れかけてる。当然、目的地はその地下なのだろう。
封印して、その上にアナーヒターの先祖が築いたというところか。
「・・・・・・あれ?ここ・・・」
いやな感覚。熱い砂漠の中、なんともいえない重く冷たいものがこのあたりにだけただよっている。
前にもこういうことはあった。
あたしはガウリイの方を振り向いた。
「同じだ。『瘴気の森』と。」
ガウリイが言った。
「前にサイラーグにあったやつですね。聞いたことはあります。」
アナーヒターが言った。さらに続ける。
「古代魔法の封印が、降魔戦争の影響を受けたらしいんです。その後、数十年周期で封印の魔力が
強くなったり弱くなったりするようになりました。このあたりの植物の成長も
その周期と一致しているようなんです。」
ってことは、数十年でこの大きさか。成長が早いな。遺跡と同じ位の高さがある。
「つまり、内部に瘴気を出す何かがあるわけだ。」
あたしは言った。

遺跡の入り口の前。石柱の奥の、多分入り口のはずなのだが、しっかりと閉じられてる。
「まだ本当の封印ってわけじゃないんですが、ここも一応魔法がかかっています。リナさん、どうです?
開けられますか?攻撃呪文の力押しじゃなくて。」
15、6の少女がいたずらっぽい目であたしを見た。
ほう。このあたしを試すか。
「ま、やってみるわ。」
扉に近づいた。
「んーと、これは・・・・・・・ド、ドラゴン語!?」
あたしは竜の言葉を話すことができる。だがあれはかなり難しい。一字違い、ちょっと発音間違えただけで意味が
通じなかったり、逆の意味になったりすることもあるのだ。
まあ、なんとか読んでみるか・・。
「ええっと・・・・、人間語に訳すと・・・・・・・・・・・・(汗)」
「どうしたー?リナ。言ってみろよ。」
ガウリイが言った。知らんぞ。どーなっても。
「『隣の囲いに塀ができたってねー』『へぇー』」

その時。世界が、凍りついた。
事前に知っていたであろうアナーヒターを除いて。

刹那の後。
ギギギィィィ・・・・・・・・・
ゆっくりと扉がひとりでに開いていく。
あたしたちはしばらく動けなかった・・・。

間違いない。この遺跡の封印にかかわっていたドラゴンってミルガズィアさんだ・・。
あのぢぢい、いったい本当は何歳だ!?
アナーヒター、『試した』んじゃなくて、『押し付けた』な。このアマ。
聖槍騎士団の連中にも竜語わかるやつがいたのだろう。大変だったろーなー。いろんな意味で。

あたしたち四人はゆっくり中に入っていった。
ギギギィィィ・・・・・・・・・
扉が閉まり、闇に包まれる。
一瞬、何かがきらめく!あたしを鋭くにらむ二つの目。
「な、何?」
「動くな。」
低い、落ち着いた声―ガウリイは言った。
次の瞬間、闇を切り裂き光が走る!!

ズッ、と斬妖剣は突き刺さった。あたしの首のそばの何ミリか。
ぱさっと、何かが二つ落ちた。その後をあたしの髪の毛が二、三本ひらひらと舞い落ちる。
「ら、ライティング!」
目を凝らして足元を照らす。
「毒蜘蛛(タランチュラ)ね。なーんかもぞもぞ黒いのが蠢いてるなーっと思ってたんだけど。さすがガウリイね。」
姉ちゃんが言った。
といい終わるや否やのその瞬間。
スパーン!!!!
「ってーなー。何すんだよ。」
あたしは必殺スリッパでガウリイをどついた。
「もー。心臓止まるかと思ったわよ。姉ちゃんも知ってたら教えてよー。」
「わりーわりー。面白いやつだったら持ち帰ってペットにしよっかなーなんて、観察してたから、つい。」
ったく。
「さ、行きましょ。」
そう言ってあたしは振り向き、前へ・・・
・・・!?

ゾクっと寒気が走る。この感覚は・・、よく経験している。
「来る!」
アナーヒターが言った。
同時。
前方の暗闇が一瞬光り・・・攻撃が降り注ぐ!!
「はああああああっ!!」
姉ちゃんが気合一発、衝撃波で光の矢の雨のあらぬ方へとはじき返す。
「走れ!」
ガウリイの叫びに答えて一同が低い姿勢で鋭く前方へ走り出した。唱えた呪文で援護する。
「獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)!!」
光の帯が、蠢く大きくて黒いもの数匹をまとめて貫き、虚空に塵と消し去る。
あたしはライティングをコントロールし、暗闇の通路の奥へ放り投げ、戦いの場を照らした。
「何よ・・。これ・・・・」
その姿形は始めてみた。が、間違いない。レッサーデーモン化した毒蜘蛛(タランチュラ)だ。
その数は・・・闇の奥まで埋め尽くしている。
「アナーヒター、こういう事ってよくあるの?」
「いいえ。初めてです。」
「ってことは・・」
「はい。古の封印が消滅している証拠だと思います。そこから溢れてくるんです。きっと。
一気にいきます。みなさん下がって!!」
アナーヒターは呪文を唱え始めた。あたしの知らない、だが、どこかで聞いたような呪文。よく聞けば
それはドラゴンの言葉。フィリアやミルガズィアさんが唱えていたやつだ。普通、人間には困難なのだが、
すらすらとアナーヒターは唱えている。
「天竜雷撃圏(バールウィン・ブラス)!」
遺跡の天井に魔法陣の一部が出現した。おそらく、あたり一帯の上空を覆い尽くす巨大な魔法陣の一部だ。
遺跡に入りきらなかったらしい。もちろんはじめて見る形。そこからすさまじい雷撃が、ものすごい数の
デーモンたちを同時に襲う。それらは一瞬ですべて虚空に消え去った。
「す、すげえ・・。」
ガウリイが言った。
これで彼女の遊牧民族が古代より受け継いできた魔道技術の正体がわかった。
そう。神の力を借りる神聖呪文。
降魔戦争より以前に生きていた民ならば使ったであろう魔法だ。
その技術もそうとうなものだが、これの呪文は多分キャパシティをかなり必要とする。
「まだよ。」
姉ちゃんが言った。
確かに、奥にまだ蠢くもの。だが、姉ちゃんの視線は違う。
デーモンが消え去った空間の、ライティングのあたらない影の部分が、一瞬、揺らぐ。
やがて、どこからともなく現れたたくさんの小さく黒いものが、自分の殻を破るように盛り上がり、
急激に大きく成長した。
「ふ、復活した?」
刹那
目の前にいた一匹が突進する。が、あっさりと姉ちゃんが片方の素手で受け止めた。
ふっ、と少し息を吐く。ウエイトレスが大皿を一気に何枚も持つように手に力を入れる。その瞬間、
「ギュオアアアア」
デーモンは爆散し、消えた。
「に、握りつぶした!?」
アナーヒターが驚いた。
でも、これくらいならフィルさんもやるし・・。
ふと、姉ちゃんが、その自分の手をながめた。
「どしたの?姉ちゃん?」
「ううん・・・」
だが、迷いを打ち消すかのように集中し、手に力を込めた。
赤い光が出現する。それは変化し、剣の形をとった。スイーフィードナイトの『赤竜の剣』。
「とにかく!今はこいつらをなんとかしないと。行くわよリナ!手加減一発!」
「岩をも砕く!所詮最後は力押しってね。黒妖陣(ブラスト・アッシュ)!」
あたしの呪文で2匹まとめて消したのを合図に一同が一気に突っ込んでいった。先頭を行くのが姉ちゃんとガウリイ。
二人とも凄いスピードで剣をふるいまくり、デーモンの黒い海の中に道を作っていく。
その二人の隙間を狙い、アナーヒターが呪文を放つ。
「火竜烈火砲(ブラバザード・フレア)!」

「を、っとっと、あれ?」
デーモンの大群の中を一気に走りぬけてきたのだが、突然消え去ったのだ。
姉ちゃんの赤竜の剣が手の中で小さく赤い光となって消える。その手を、また、じっと見つめる。
「おかしいわね・・・・。」
「さっきも言ってたけど、どうしたんだ?義姉さん。」
「お!ガウリイがちゃんと覚えてる!」
「り、リナ・・、それくらい・・」
姉ちゃんは手を握ったり開いたりしてみせた。
「さっきはね、あたしの力が、なんかすっきりとうまくふるえなかったのよね。でも今は
血流がよくなってバイトの疲れもとれちゃったみたい。」
あたしはその言葉にある可能性が浮かんだ。
「まさか、それって・・・」
姉ちゃんも同じ事を考えたか、あたしに答える。
「あたしの中にある神の欠片に影響を及ぼすものがこの遺跡のなかにあるってことになるわね。」
姉ちゃんは再び赤竜の剣を出現させた。その赤い光をすぐ近くの壁にかざして見せる。
すると、その赤の竜神の分身に共鳴するように、壁の中に、点々と赤い光が現れた。
「ス、スイーフィードの欠片!?」
この遺跡を守ってきた民族の末裔が驚いた。
おそらく、姉ちゃんの中にあるものほど、まとまったものではない。かすかに混じっているという感じ。
「多分、それだけじゃないわよ。」
姉ちゃんは剣をかざしたままゆっくりと奥へ歩いていった。あたしたちもついていく。
やがて、壁の中に点々とまじる赤い光の色が変わったかと思った瞬間!
バチッ
剣との間に火花が飛び散り、反発した。
その色は、同じ赤の光なのだが、違う。わだかまる赤い闇。
「しゃ、シャブラニグドゥの欠片だ・・・・。」
あたしは言った。
その時!
バシャ
天井が崩れてデーモンが落ちてくる。が、ガウリイがすぐに剣で受け止め切り裂いた。
あたしたちは急いでその場を離れる。

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6914砂漠の遺跡・3R.オーナーシェフ 7/17-17:25
記事番号6911へのコメント

レッサーデーモンの自然発生か。シャブラニグドゥの欠片がそうさせているようだ。だがそれだけではない。
前はこんなことはなかったとアナーヒターは言う。「古の封印」の奥に何がある?
あたしたちはデーモンをはらいながら遺跡の奥へと進んでいった。石畳がなくなり、湿った岩や
巨大なつららがあたりに見えるようになる。かなり地中深く来ているようだ。
魔道は本来なにかの探求が目的である。その中の数ある分野の一つに地質に
関するものがある。
あたしもその知識は多少持っている。
見た目の、大雑把な推定だが、この辺の地層は・・・・・・
4、5千年くらい前にできたものか〜?
「やはり、ちょうど神魔戦争あたりと一致するかしらね。」
「あ。分かります?リナさん。あたしたちも昔から調べています。世界を覆う巨大な衝撃波の跡も
みつかっているんですよ。さて、そろそろ,この辺です。ここから先はあたしも知りません。
『封印』の中に入っていくことになります。」
アナーヒターが言った。
やがて、大きく開けた場所に出た。足元のすぐ前は崖。広大な空間の闇の中・・・
「何か、あるな。」
目とカンが異常にいいガウリイが言った。
あたしも何かが見える。闇の奥。かすかに、光がゆらいでいるような気がする。
「なんだか、渦巻きみたいなのが見える気がするんだが。」
ガウリイが言う。もちろん他の奴に見えるわけないが、間違いないのだろう。
姉ちゃんがめずらしく汗を流している。姉ちゃんは、その持ってる力のせいか、アストラルの動きが
『解かる』ことがあったりするのだが・・・
「多分、空間がねじ曲がってるわ。ここから先は危ない。」
あたしは、もう少し周りを見ようとライティングをコントロールしようとした。が・・、
「あれ?」
あたしが前へ移動させると、その光の形がおかしくなり、あたしの意思よりも早く、移動していってしまう。
その動きはだんだん速くなり、やがて闇の奥に見えなくなってしまう。
「何?いまの!?」
アナーヒターが言った。
「何って、多分姉ちゃんが言ったように空間が曲がってるからライティングが変な動きをしたんでしょ。
何の障害なく奥に消えたから、やっぱ封印が消滅してるってことじゃ・・」
「そうじゃないんです。今、光が消えていく前に下の方の地形が一瞬照らし出されたんです。」
あたしは再びライティングを唱えた。
また、少しの間だけ、あたりが照らされ・・・あ。
「だ、断層!?」
大地に巨大な亀裂が走っている。最近新しくできたもののようだ。その走っている方向をたどると・・・
・・・ま、まさか・・・・・・・
「この方向って、多分砂漠をこえて海へ出て・・、古代に神と魔が激突した世界の中心へ行くんじゃないかしら。」
「いや。」
姉ちゃんが言った。
「もっと先へたどると、多分・・、古代竜(エンシェントドラゴン)の墓場に行くんじゃないかな。」
って、ことは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「が、ガウリイ・・・、封印が消滅した理由って、多分あたしたちの責任だわ。」
「俺達の?なんで?」
「ちょうど、あたしがダークスター、ヴォルフィードと融合したヴァルガーヴへ神魔融合呪文を放った跡を
なぞるように走っているわ。この大地の亀裂。」
「あ、あの時の!?」

刹那
何かが聞こえた。
静寂の中、かすかに、ガサガサと音がする。
・・・・なっ!
「また出たわね!タランチュラ・デーモン!」
曲がった空間の中から、深い崖を口から吐き出す強力な糸と八本足で這い上がってきたのだ。
崖の奥の見えないところまで、黒く蠢くもので覆い尽くされている。
「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)!」
あたしが放った闇がデーモン3匹をつつみ・・
バシュゥゥゥゥゥゥッ
「うそ!?」
このあたしの呪文を跳ね返した。
「こいつら、強くなってるわ。」
その時!
「リナ!危ない!!」
一瞬であたしは姉ちゃんに横から強烈なタックルをかけられた。
し、死ぬかと思った。
その跡を光の帯が通りすぎ、パワーアップしたデーモン、一ダースほどを消し去る。
向こうでは、ほぼ同時にガウリイがアナーヒターをかばっていた。同じように突き飛ばしたのだろう。
地面に横たわり、ガウリイが上の態勢。大丈夫か、などと声をかけてる。
「ガウリイ・・・、またアナーヒターを・・・」
「見るのはそっちじゃないだろ。リナ。」
姉ちゃんに言われ、振りかえりながらあたしは立ち上がった。現れた、赤い闇をまとうそいつに視線を送る。
人知を超えた怪物を想像したが、それは人間の形をとっていた。
聖槍騎士団の制服を着て。
必然的にいやな可能性が思い浮かぶ。
「う、うそ。テュ、テュリーテルなの?」
アナーヒターが言った。
「違うわ。あなたにもわかるでしょ。今の攻撃、人間にはできない。気配が完全に無かったから、
いきなり空間からでてきたのよ。呪文の詠唱も無かった。」
あたしは言った。
「多分、以前はテュリーテルであったもの、ってとこかしら。ごめんアナーヒター。もう彼は助けられないわ。」
姉ちゃんが、心を押し殺し、言った。
彼女の頬から流れ落ちたものが、ぽたり、と地面に落ちた。
「スイーフィード・・・・・・カ?」
『彼』が姉ちゃんを見ながら口を開いた。何処から声を出してるのか分からない、周囲の空間をふるわせるような声で。
姉ちゃんが不思議な顔をする。
「あたしはスイーフィードじゃないわよ。スイーフィード・ナイトっていうの。
あんたは・・・・・・まさか、この感覚・・・・・・シャブラニグドゥ!?
・・いや。欠片、か?」
「滅ぼス。」
彼は言った。
姉ちゃんが赤竜の剣を腰の左脇あたりにかまえ、右手をかけた。必殺の居合抜きの態勢。
姉ちゃんと神の欠片が共鳴してその力と意思が高まっていき、赤いオーラが周囲の空間を支配する。
「その言葉、そのまま返す。」
そう言った瞬間、ドンとあたりに衝撃破が走った。
赤い光をおびた剣はすでに彼を横に薙ぎ、強く踏み込んだ左足は地面を割り土ぼこりを舞い上がらせた。
「まだだ!」
ガウリイが言った。
胴を真っ二つにされたはずの彼の姿が虚空に消える。残像だ。
姉ちゃんは、左足を軸に勢いそのまま回転した。さらに二撃目を踏み込む!!
真上の虚空に向かって。
赤い剣はその空間に姿を現しつつあった影を完全にとらえた。
それは騎士テュリーテルの形を一瞬取りかけ、やがて悲鳴すらあげられず虚空に塵と消えていった。

あたしとガウリイとアナーヒターは姉ちゃんを援護し、タランチュラ・デーモンの大群と必死に格闘していた。
謎のパワーアップをとげたデーモン相手に黒魔術の大技を連打し、少し疲れてきたその時、
「アナーヒター逃げて!!」
彼を倒した姉ちゃんが叫んだ!!
「え?」
一瞬意味がわからなかった彼女のすぐ前の空間に闇が現れる。
ゆっくり人の形を取りながら、その闇はしゃべり始めた。
「アナーヒター・・・・アイシテル・・・・・ダカラ・・・」
姿を現した彼の手に、先程は無かった聖槍騎士団正式の長剣が握られていた。
それを彼女に向かって振りかぶる。
彼女は、ただ、見つめるだけしかできなかった。

「竜破斬!!」
あたしは唱えておいたドラグスレイブを急いでデーモンに向かって放った。その光に、見えている
あたしの視界の中の三分のニほどのデーモンが飲みこまれた。その光も、曲がった空間に引きずられ
形が変化し闇の奥へと落ちていく。
ゆっくり暗くなっていく光に包まれ、あたしがデーモンの海の中に作った地中の荒野の中、
あたしとガウリイは全力で走った。

―悪夢の王の一片よ
 世界のいましめ解き放たれし
 凍れる黒き虚ろの刃よ
 我が身 我が力となって
 ともに滅びのみちを歩まん
 神々の魂すらも打ち砕き―

カオスワーズ゛を唱え、イメージを組み立て混沌の力を導こうとするあたしの中に不思議なヴィジョンが
浮かんだ。何かに呼ばれるような感覚が襲う。それは・・魔法で力を借りる、その源。
思わず振りかえる。広大な闇の広がる、曲がった空間の奥でかすかにゆらぐ光。よく見えないが、
あたしの中に浮かんだヴィジョンが自然にそれと重なる。

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
鋭く、斬妖剣を突き出してガウリイがアナーヒターと彼の間に割って入ろうとする。だが、
間に合わない!?
アナーヒターが今斬られようとしているその時、
ドクン
彼の剣の動きが止まる。いや、何かに止められた。
あたりの空間が震えた。
その瞬間に、かすかに光を放って反応したのは、周囲の岩石の中に含まれているシャブラニグドゥ
の欠片と彼自身だった。
「はあっ!!」
ガウリイが彼の剣を打ち払った。すぐ、アナーヒターをかかえ横に飛ぶ。
あたしは呪文を発動した。
「神滅斬(ラグナ・ブレード)!!」
何か、違和感を覚えた。闇があたしの中に流れこんでくる。だが迷っている暇は無い。
こちらに気がつき、受け止めようとした剣ごと、彼をあっさり両断した。
すぐにあたしは姉ちゃんのほうを見た。
「一度退くわよ。」
あたしはガウリイとアナーヒターに言った。

前に古の封印があったというあたりからもう少し離れた所で、あたしたちは岩場に腰を下ろしていた。
「あたしが赤竜の剣で彼を斬った時,アストラルで彼が、すごく重たく冷たい負の感情かかえたまま
滅び、消滅していこうとしてるとこへ何かが流れこんでくるのが『視えた』わ。そしたら復活しちゃって、
アナーヒターの前に出現しようとしていた。
このあたしもさすがに、アストラルサイドへ飛び込んで追いかける、なんてマネはできないしね。焦ったわよ。
ほんと。助かったわ。リナ、ガウリイ。まだあれは滅びてないだろうけど。」
姉ちゃんが言った。
「何かが流れこむって、何が?」
ガウリイが緊張感ゼロの口調で聞いた。
「それは・・リナのほうが詳しいかもね。」
姉ちゃんが言った。

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6915砂漠の遺跡・4R.オーナーシェフ 7/17-17:36
記事番号6911へのコメント

あたしが神滅斬(ラグナ・ブレード)を唱えた時みえたヴィジョン。それは・・・

時間・空間が極限まで曲がり密度が無限大となっている領域。世界の果て。この世界に、
ぽっかりと開いた、光すら飲みこむ時空の穴。
それが周囲にあるものすべてを激しい重力で引きずりこむ。
ひきずられ、吸いこまれていくものは、そのあまりの勢いのために具現している物質をひきちぎられ、
アストラルの塊まで分解され、吸いこまれる直前に悲鳴のような激しいエネルギーを開放する・・・

「それが多分、この遺跡の中にかすかに存在しているスイ―フィードやシャブラニグドゥにエネルギーを
与えているのね。
これが長い年月がたっても活力失わずにシャブラニグドゥの欠片がタランチュラからレッサーデーモン
作り出したり出来る理由よ。」
あたしは言った。
「なあリナ、その『穴』が吸いこんだものって、どこいっちまうんだ?」
ガウリイが言った。
「この世界に開いた穴がどこへつながってるのか。考えられるとすれば一つだけ。『全ての源 混沌の海』ね。
アナーヒターの先祖やドラゴン、エルフが恐れ、封印したものの正体がこれ。
神魔戦争のあまりに膨大な量のエネルギーが衝突した衝撃でできたのね。」
「それじゃあ、ルナさんが言った、彼に流れ込んできてるものって・・」
しばらく黙っていたアナーヒターが言った。
「直接的なものではないだろうけど、まさに混沌の力。」
あれを倒すにはテュリーテルと、己だけでは意思を持ち自立したものとして存在できないであろう
シャブラニグドゥの欠片を分離するか、または『時空の穴』を『閉じる』しかない。
そんなことができるのか・・・・・・。
あるいは、重破斬(ギガスイレイブ)は・・・。
いや。あの領域はかなり異世界に近いのかもしれない。例えるなら、
かつてシャブラニグドゥ化したルークが作り出した空間のような。だから
神滅斬程度の呪文でも不思議なヴィジョンが見えたのだろう。
重破斬は危険ということになるか。
だが、あれならば、完全に消滅させ倒すことができるだろう。
でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「できれば、やっぱりテュリーテルさんは助けてあげたいわね。」
「できるんですか!?そんなことが?」
あたしの言葉にアナーヒターは驚いて言った。
「ま、賭けになるけど、やってみるわ。」
バリ、バリバリ
「逃げろ!」
ガウリイに答え一同があわてて走った。ふりかえると、地面や岩の壁にヒビが入ってる。そして・・、
バシュー
あたりを構成していたものがいっせいに崩れ、奥の闇へとすいこまれていく。
「そうか。封印が消滅してからだんだん周囲が蝕まれているんだわ。」
あたしは言った。
やがて、湾曲した空間の闇が、変化する。
「来たわよ。」
静に。姉ちゃんが言った。
変化した闇が人の形を取り始める。あたしはゆっくり歩き出した。
「あたしが相手になるわ。」
目の前の存在に言う。
「ジャマヲスルナ。」
彼が両手を前にかざして光球を出現させる。かなり大きい。いきなり本気で来るようだ。
だが、それはこちらも同じだ。
あたしは攻撃を受け止め援護しようとした姉ちゃんを手で制した。
呪文を唱える

―闇よりもなお昏きもの
夜よりもなお深きもの

彼の完成した巨大な光球があたしを襲う。だがあたしは避けない。
それは重破斬の強力な魔力結界に阻まれ、手前で消滅した。

―混沌の海よ
たゆたいしもの
金色なりし闇の王―

こころに。闇がひろがる。まさに、目の前にある世界の果て、時空の穴からあたしの中に混沌が流れこんでくる。
やがて、あたしの髪が金色にそまってゆく。

すべての存在は混沌の海から生まれ、やがて混沌へ、ありし日の姿へと帰っていく。世界は永遠ではない。
それでは金色の王は何を望む・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なぜ世界を創造したのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

かつて、異世界の神、魔、それと一体となったある古代竜の男が発した問い
があった。
なぜ、神と魔は戦いつづける・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その答え、今あたしが示そう。
あたしは今までとはイメージを変え、カオスワーズの続きを唱えた。

―我、汝に誓う
我、汝に願う
我が前にて苦しみし
一人の哀れなる者に
我と汝が力もて
あるべき姿へ帰さんことを―

あたしが己の中に召喚した主があたしに語り始めた。世界をあるべき姿にするために。
そして、あたしとの深層意識のなかでのやりとりを『視ていた』姉ちゃんにも伝えた。
―スイーフィードの力を持つ者よ・・・・・・・・・

「な、なんですって・・・・」
姉ちゃんが驚愕した。
「どうしたんだ?義姉さん?」
その表情に驚くガウリイ。
「金色の王の意思に従い、目の前にある時空の穴が閉じられる。その時、この世界でそれは
激しい蒸発の形で現れる。このあたり一帯がふっとぶわよ。リナの重破斬クラスの爆発になるわ。
市街地もまきこむわね。」
「どうするんだよ!?」
答えず、姉ちゃんは歩き出した。
「曲がった空間の中心から放出する激しい蒸発をあたしの力でガードし、勢いを滅びの砂漠へ流すわ。
実は楽しみだったりするのよね。赤の竜神の騎士のフルパワーってあたし自身も知らないし。
後、がんばってね。リナ。」
そう言って姉ちゃんはあたしの横を通り過ぎ、曲がった空間の中心―特異点へ向かった。
闇の奥にある光が強くなりつつあった。ガウリイの見た吸いこまれようとする物の渦巻きが消滅する。

あたしは彼を見た。テュリーテルの、深い負の感情を抱いた魂と、それに磁石にまとわりつくように
ついているシャブラニグドゥの小さな、たくさんの欠片が・・・
・・『あたし』の存在に恐れていた。『あたし』は彼に触手を伸ばす。
―怖がることは無い。
『あたし』は人間の魂と、自分の創造した存在が撒き散らしたものを分離した。

その時、あたし―リナ・インバースは、テュリーテルの魂に触れたとき、彼の記憶をたどることができた。
失恋による深い絶望と、同時に騎士団本部からの召集。これからの生への希望の持てないままの、
危険地への潜入。エリート意識による仲間の油断。倒せるはずの敵。だが、予想外の数と能力を持つデーモン。
世界の果て。闇の奥への落下。
やがて負の感情の塊となったそれは、魔王の欠片の力を得て再生し、かつての自分の同僚に対し、
理由なき殺戮を行う・・・・・・・・・・・・・・・

―まだ、我が内へ帰ることは許さん。

あたしと融合している金色の王が彼に語った。テュリーテルの幽霊に。
「さ、もう一回だけ、あたって砕けてきなさいって。」
そう、金色の王に続いて言いつつ、あたしは呪文を解除した。
この世に生を受けたからには理由がある。それぞれの価値観に従い、
魔族は世界に滅びを、神は存続、発展をもたらし、役目を果たす。
人は・・・懸命に生きる。
もっとも、彼の場合もう死んでるが。でも、中途半端ではなく、純粋なる意思でなければすべての母
の元へ来ることは許されない。
それが答えだ。

曲がった空間の奥にはすでに闇はなかった。中心から発する光がどんどん強くなっていく。
その光の圧力に屈し岩岩が崩れ蒸発していく。
広大な光に包まれた奥に見える赤い光。赤の竜神の騎士がはなつオーラだ。
「くあああああああああああああああっ。」
悲鳴にも似た気合に共鳴し、オーラがバチッと火花を散らした。

ガウリイがアナーヒターを促した。彼の元に駆け寄る。
「テュリーテル。あたし・・・あたしも・・・・・、あなたが好き。」
霊体がだんだん薄れてきている彼が、かすかに口をひらいた・・。
「君と・・、出会えてよかった。」
二人が唇を重ねあった。
ゆっくりと。テュリーテルの姿は薄れてゆく。やがて、
まぶしい光にさらされながら、彼は、輪廻転生の輪へと戻っていった・・・・・・・・・・・・。


「ここから逃げるぞ!」
ガウリイが叫んだ。
「でも、姉ちゃんがまだ!」
「いいから早く!」
姉ちゃんを置いてあたしたち三人は地中の遺跡から脱出した。
そして。
滅びの砂漠が凄まじい閃光につつまれた。時刻はもう夕方なのに、その瞬間エルメキアや周辺諸国
は昼間のように明るくなった。

「魔を滅する者(デモンスレイヤー)さまあああああっ。」
振り向くと、あたしに今回依頼した魔道士協会のおっちゃんだった。つれているのは一人の見習い魔道士風
の少女と、抱いているのは・・
「ガウちゃん!!」
「大変だったんですよー。託児所の他の赤ちゃん泣かすし、暴れるし、あたしの毛引っ張るし。」
「あうー、まー、まー。」
「ごめんね。ほんと。押せわになっちゃったわ。」
そう言ってあたしは自分の子を受け取った。
「まー、まー、」
ちっちゃな手であたしの胸をぺたぺたはたく。
「なによ。おっぱい?しょーがない子ね・・・・・・・・・・・・・・・
なーんてやってる場合じゃねえええええええええええええええええっ。
みんな、姉ちゃんさがしてよ!
姉ちゃん。多分砂の中に埋まってるわ。」
「ばー、ばー、」
「え?なに?」
振り向き、ガウちゃんの視線の先をたどると、
「ね、姉ちゃん!?か、髪の毛が白くなってる!!」
服が砂で汚れ、なんとか立っていたが、髪の毛が真っ白に脱色していた。ちょうどあたしが
昔、レゾ=シャブラニグドゥに不完全版の重破斬を使った時のように。
神の『意志と力』の一部だから、
魔力の使いすぎと理論的には同じことか・・・・・・。
「リィィィィナァァァァァッ、このあたしをほっといて何をしてるのかな・・」
その時だった。あたしと姉ちゃんのちょうど間。砂の中から、ざばーっと黒いものが現れる。
「た、タランチュラ・デーモン!!まだ残ってたの!?」
どうする?今のあたしたちはほとんど力を使い果たしている。
そう、考えているとき、ガウちゃんが何かしゃべっているのに気がついた。
「なに?どしたの?」
「じょ・・、じょ・・」
『じょ!?』
あたしとガウリイがハモり、のぞきこんだ。
「じょ、じょらぐ・・、しゅれいぶ。」
かすかに線香花火みたいな光線が出たかと思うと、ポンっとファイヤーボールよりも一回りくらい小さな
光球が出現しデーモンに炸裂した。
ひっくりかえり、悶えるデーモン。その後ろから姉ちゃんがとどめを刺した。
「ガウちゃん・・すごい!!けど・・・・まてよ。」
この年で、んな魔法使われたら・・・。今後の子育て考えると頭が痛いかも。
「やっぱまずいわね。
「リナがやたらに目の前で攻撃呪文やるからだぞ。」
「とにかく、今は・・。」
「うん。しっかり教育しといたほうがよさそうだな。」
あたしたち夫婦はガウちゃんの顔をのぞきこんだ。
『めっ!!』
「あう?」
・・通じてないようだった・・・。


別れのとき。
「ほんとうに。おせわになりました。」
そう言ったアナーヒターの顔には、何か、ふっきれたような笑顔があった。
「元気でな。」
ガウリイが言った。
「はい。みなさんも。」
「あ。そうそう。ねえアナーヒター、あそこのさあ、遺跡のまわりに生えていた木なんだけど・・・。」
あたしは姉ちゃんが激しい蒸発を押さえてくれたおかげで、ほんの少し残っていた木々を見た。
「ひょっとしてさあ、あたしのカンなんだけど、あなたのご先祖様って、あれの苗木をゆずったことない!?
例えば・・・・光の剣の勇者とかに。」
「ええ。どうぞ。サイラーグの方たちも喜ぶかもしれませんね。」
彼女は明るくそう答えた。

やがて、彼女はラクダたちとともに沈む太陽が赤く照らす砂漠の中を歩いていった。

しばらくして、姉ちゃんが口を開いた。
「リナ、気づいた?」
「ん?彼女のこと?」
「そう。あの時・・・・、あの彼が剣を彼女に振り下ろそうとしたとき、一瞬攻撃が止まったわ。」
「うん。それはあたしも気がついた。その瞬間、周りの空間と、多分彼と周囲の岩の中の
魔王の欠片が反応した。多分アナーヒターが神聖魔法か何かでしかけたのかなって思ったんだけど。」
「いいえ。魔王の欠片が攻撃を止めさせたのよ。己の仲間というか、本体に対してね。」
「そ、それじゃあ!?」
「入ってるわよ。アナーヒターの中に、七分の一シャブラニグドゥの四番目が。」
そう言われれば、彼女の瞳は赤だ。魔力キャパシティもかなり大きい。あたしはあまりの衝撃に
言葉も出なかった。
でも・・・。
今の彼女ならば、もう平気だろう。
アナーヒター、元気でね・・。元気でさえいれば大丈夫だから・・・・・・。

「おーい、リナー。待てよ。待てって。」
ゼフィーリアへの帰り道。あたしはすやすや眠る自分の子を抱きかかえながら、なぜかガウリイの
少し先を早めにあるっていた。
「お前、俺がアナーヒターと少しくっついたりしてたの、怒ってるだろう。」
「そうよ。」
「リナ、お前勘違いしてるぞー。」
「勘違いなんかしてないもん。」
「リナ、待てよ。待てったら。リナ!」
追いついたガウリイが後ろからあたしに腕をまわし、抱きしめた。
「俺が本当に愛してるのはおまえだけだからさ。リナ。」
「もう。なによむぐっ。」
あごを後ろから引き寄せられ、あたしの肩からのりだしたガウリイが強引に唇を重ねた。
一瞬、力が抜けそうになる。
もう。ずるいよ。ガウリイ。あたしが怒れないじゃない。
「星が綺麗ねー。」
しばらく前のほうを歩いていた姉ちゃんが両手を頭の後ろにくみ、気がつかないふりをしつつ
上をみて言った。
それを確認したあたしはしずかに目を閉じ・・・・・・・・・・ん?
見ると、寝ていたとばかり思っていたガウちゃんが親指しゃぶりながら、こちらを不思議そうに見ていた。
片手で、やさしく、その目をかくす。
子供は見ちゃだめ。

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7093はじめましてです山塚ユリ 8/11-01:13
記事番号6915へのコメント

山塚ユリと申します。
膨大な小説がある「書き殴り」において、私にとってオーナーシェフ様は
「あ、○○さんの新作がある。読もうっと」
と思う小説書き様の一人です。その割に今まで感想書いていなかったんですけどね。(^^;)
ツリー名からしてラブラブかと思ったらそうでもなかったですね。
つーか、唐突にラブラブのシーンになって唐突に終わってるというか(笑)