◆−Beauty and the Beast 楽屋裏−水晶さな(7/22-00:44)No.6941
6941 | Beauty and the Beast 楽屋裏 | 水晶さな E-mail URL | 7/22-00:44 |
「カット! OKです!!」 その一言に、ぴんと張り詰めていた空気が緩(ゆる)む。 「終わったぁあーっ!!」 リナの言葉に皆々が安堵(あんど)の息をついた。 「お疲れ様ですー!」 スタッフが用意しておいた濡れタオルを、アメリアが二つ持ってリナの元へ走ってきた。 「サンキュー、アメリア」 顔をぬぐって、リナがぷふぅと息を吐く。 「やっぱりドーランって慣れないわねー、顔がかゆくってもう」 髪を一つに束ねてから、リナが周囲を見回した。 「ガウリイとゼルは?」 アメリアが後方を指差した。 「ガウリイさんは後片付けのお手伝いしてます。ゼルガディスさんはクレンジング中ですので、お手伝いしてきます♪」 それだけ言うと、アメリアがくるりと身をひるがえした。 舞台から少し離れた所で、ゼルガディスが椅子に腰かけて顔をぬぐっている。 以前もやった特殊メイク。 彼の後ろでは、特別に手伝いに来てもらったメイクアーティストのアイニィが髪の色を元に戻していた。 勿論ゼルガディスの髪で怪我をしないように、手には軍手を装備している。 「今日のお風呂でよく流して下さいね、特に毛根の辺り落ちにくいですから」 「プロなら今完全に落としてもいいだろう」 「いいですけどこのまま3時間我慢してもらいますよ?」 「・・・・・・」 「ゼルガディスさんお疲れ様ですっ、アイニィさんも!」 ゼルガディスが苦渋の表情で押し黙ったところに、アメリアが走ってきた。 「アメリア、お疲れ様」 トゥインクル・スターズの専属メイク係、アイニィがにこりと微笑んだ。 「お忙しい中お手伝いに来て頂いてすみません」 「いいのよ、たまには違う人をメイクすると新鮮な気持ちになるし。あ、ちょっとそこのタオル取ってくれる?」 「あ、ハイどうぞ」 ゼルガディスはかなりしっかりと塗られたドーラン(肌色)を落とすのに苦労している。 「ゼルガディスさんそんなに強くこするとよくないですよ〜」 「・・・・・・岩の隙間に・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 アメリアがさらりと話相手を変えた。 「メンバーの皆さんは?」 アイニィが目線で反対側を示した。 「あんよがお上手ですね〜v」 「イーダちゃんこっちにもおいで〜vv」 「あら、笑ったわv」 「・・・足取りは覚束ないが、武術の素質は見られるな」 四人組の娘が黄色い声を上げながら(一人を除く)、共演者の子供を囲んでいた。 その母親は少し離れた所で、椅子に腰掛けてひやひやしながら見守っている。 「声かけてきたら? 久しぶりでしょ会うの」 アイニィの言葉に甘えさせてもらい、アメリアが今度は舞踏武術「舞柳」のメンバーの所に走った。 銀髪に赤い双眸(そうぼう)の、すらりと背の高い少女がこちらを振り返る。 「おや、アメリア」 一人だけ立っていた為すぐ気付いたのか、アズリーが計算しつくされた動作で片手を上げた。 「アズリーさんお久しぶりです!」 声をかけると、他のメンバーも気付いて顔を上げる。 「アメリアちゃん、お疲れ様v」 リーダーのベルベットが笑みを浮かべた。 「皆さんもお疲れ様です。素敵な歌をありがとうございました!」 「いーのよ、どうせ今次の公演場所探し中だしー」 セリィが腰に手を当ててのびをした。 「アメリア結構演技うまいじゃなーい。メルびっくりしちゃったわよ」 自分と同じ顔と対面しているというのもなかなか奇妙な感覚だが、アメリアは既に慣れていた。 「いーえ、まだまだです」 「謙遜(けんそん)しちゃってぇ。ところで【黒鶴(こくつる)の舞】はマスターできた?」 この問いにはアメリアも肩を落とす。 「【宵鶴(よいづる)】は実戦でも使えるようになったんですが、さすがにそっちの大技は・・・」 「素質はあるのだから、練習さえすれば身に付ける事は可能であろう。何なら私の【疾風(はやて)の舞】も教授しようか?」 「さすがにやめておきます」 アズリーの言葉に、アメリアがきっぱりと首を横に振った。 彼女の武術は精密機械の如く俊敏(しゅんびん)で正確。こればかりは素質の違いで断念せざるをえない。 遊んでくれる相手が全員立ち上がってしまったせいか、イーダが皆の足元をすり抜けて母親の元へもたついた足取りで走った。 「うん? イーダ、アメリアに挨拶はしなくていいのか?」 そう言ってイーダを膝の上に抱き上げたところで、 「イシュカさんいらっしゃいますか?」 不意に部屋の中を通り抜けた呼び声に、何となく全員の視線が扉の方へ向く。 スタッフの一人が扉を半開きにしていた。 「はい?」 イーダに気を取られていたイシュカが、やっと気付いたように振り返る。 「ご主人がお迎えに・・・」 「やはーv 」 スタッフの言葉が終わらない内に、にょっと猫目のひょろ長い男が顔を出した。 「貴様神殿を無人にしてどぉするぅうっっ!!!!」 イシュカの行動は素早かった―― アメリアがまばたきした後見たものは、イシュカのかかとがジャッカルの顔にめり込んでいる場面だった。 「――はごぁっ!!!?」 意味不明な声をあげながら、ジャッカルが真後ろに転倒した。 「・・・だから、神殿にはスタッフが二人、代わりに留守番をしておりますので・・・」 「・・・・・・・・・・・・申し訳ありません」 冷汗をぬぐっているスタッフに、イシュカが平謝りした。 ジャッカルはいまだ長椅子の上でのびている。 「めぇー」 椅子の上に取り残されていたイーダが、アメリアに気付くと両手を上げた。 「イーダちゃんお元気でしたか?」 あどけないその様子に笑みをこぼしつつ、アメリアがイーダを抱き上げた。 「にゅー」 アメリアのマントを握りつつどこか満足気に答えるイーダ。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「あの、ゼルガディスさん。タオルねじ切らないでくれます? それ洗って再利用するんですから」 アイニィがあきれ顔でイーダを睨むゼルガディスに告げた。 「エトルは?」 「お仕事があるので先に帰りました」 「ナーガは・・・あたしが本気でぶっ飛ばしたから行方不明か・・・あれ、じゃあゼロスは?」 ゆったりとモカ・ラテを飲むリナが辺りを見回した。 「イガ栗の着ぐるみごと行方不明だそーです」 席に戻ってきたアメリアが、自分のコップにピーチティーをついだ。 「嫌なら出演拒否すればいーのにね」 「それができたら苦労はしてないと思います」 「そーね・・・あ、このチョコ美味しいじゃない。どこで買ったの?」 「それはアトラス・シティ産で、こっちがセイルーン産です。ちょっとリナさん、1度に2個ずつ食べるのやめて下さい」 「ケチ・・・」 リナが頬をふくらませたところで、横から大きな手が伸びてチョコレートをつかんだ。 『あああーっ!!!!』 皿の上からごっそりと消えたチョコレートに、リナとアメリアが同時に悲鳴をあげる。 「んむ?」 大量のチョコレートを頬張ったガウリイがきょとんと首をかしげた。 「このバカタレぇーっ!!!!」 激怒したリナの暴行が始まり、アメリアが早々にその場を逃げ出した。 「しっつれいしまーす!」 ノックとほぼ同時にアメリアが扉を開け放つ。 ゼルガディスはきっちり30分かかったクレンジングに疲れ果て、控え室のソファーで横になっていた。 「・・・・・・元気だなお前は」 「久しぶりに皆に会ったらもう嬉しくて楽しくてv」 しゃきっとよくわからないポーズを取りながらアメリアがはつらつと答える。 「ちょっとしか確保できなかったんですけど、疲れた時には甘い物がいいんです!」 ゼルガディスの頭側に来て空いたスペースに座ると、小皿に取り分けたチョコレートを差し出した。 「甘さ控え目のビターチョコですから、ゼルガディスさんも気に入りますよ」 「・・・・・・・・・」 力ない動作でチョコレートをつまみながら、ゼルガディスがふと思い出したように告げた。 「他の奴らは? 帰ったのか?」 「ええ、共演者の皆さんならもうお別れの挨拶もしてきました」 「・・・そうか」 「ゼルガディスさん、こんな所で寝ると風邪ひいちゃいますよ?」 うとうとしかけた様子を悟られて、アメリアが先回りして言うが、 「・・・・・・少しぐらいいいだろう」 そう言って――疲れのせいだろうか、頭の位置をずらしてアメリアの膝の上に落ち着いた。 「・・・・・・・・・明日からまた、旅ですからね。ちょっとだけですよ?」 珍しく甘えてくるの彼が嬉しいのか、アメリアがにこにこと銀色の髪を撫ぜた。 「・・・うっわ、ゼルもアメリアと二人きりだとあんなに気ぃ抜くんだー」 「ちょっとメル、もっとしゃがんでよ見えないじゃない」 扉の隙間から出刃亀している輩(やから)の人数は、もはや数える気にもならない。 この後不意に起き上がったゼルガディスによって、スタジオが半壊されるまでそう時間はかからなかった。 「おや、まだカメラを回しているのか?」 人もまばらになったスタジオにて、銀髪赤眼の少女が足を止めた。 「ええ、テープを使い切るまでは・・・アズリーさんはメンバーの皆さんと一緒にお帰りにはならないんですか?」 「私はこれから従兄(いとこ)の見舞いに行くので、皆とは別行動だ。次の公演まで日があいているからな」 しばし黙ってから、別の方向に向かって口を開いた。 「平たく言うと、次の主役は私という事らしい。では又会おう」 去り際に片手を上げて、アズリーが優雅に身をひるがえした。 照明が落とされ、丁度よくテープが切れた。 END. ================================ お疲れ様でした・・・(^^ゞ |